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2002年9月20日(金)

◆来週の予定表を改めて見る。ううむ大阪二往復で週末ROMコン?こりゃあ修羅場だなあ。まず更新が滞る事でしょう。
◆古本は駅のワゴンを冷やかしただけにとどめ、新刊1冊。
「ジャーロ 9号」(光文社)1500円
創刊2周年特大号。EQの延長で捉えているので、改めて2周年といわれても作り手側が感じているほどには心に響かない。で、どのあたりが「特大」なのか?いつもより薄いぐらいに感じてしまうのだが。
遅れ馳せながらの「スレッサー追悼」作品の数ではHMMに遅れをとったが、木村仁良解説で引き締まった。さすがである。
他の収録作ではリンゼイ・デイヴィスの現代ものが珍しいところ。へえ、ファルコってもう15作も書かれてるんだ。サム・ホーソンのルーブリックに「事件簿3」の予告があってニンマリ。
巻末の保存版<密室大全>はストラングル・成田氏入魂の力作。創元推理に続いて堂々の商業誌活動。労作です。頭下がります。森さんの未訳紹介も嬉しい。4冊中1冊だけ持ってました。読んでません。ヴードゥーものは大鴎さんから借りる予定。あ、おーかわ師匠までバイトやってら。狂人館のダイイングメッセージってどんなだっけ?再読してみるのかなあ。
クォータリー3では、殊能氏が20日付けのネット日記で触れているアルテ叩きに少々むかつく。 個人的には、長いばかりでさしたるトリックもないままに色と欲の構図をみっしり描いた「神学校の死」よりも、「第四の扉」の軽やかなノリの良さと手品の切れ味を評価するぞ。まあ、このあたりは個人の趣味の問題なので、言論の自由はあっていいと思うが、「イギリスでは絶対生まれない小説」という佐神発言の根拠は何なんだろう?あたしゃ、ドハティーのカーへののめり込み方(特にアセルスタン・シリーズのそれ)って絶対アルテと同質だと思うんだけどなあ。と、ネットの片隅で吠えてみる。わんわん。
◆そういえば「吠える男」のエドワード・マーストンって、原書ではどの程度買えるのかAmazonを叩いてみたら、結構な人気作家ではありませんか。ううむ、早川が「1作きりでもう訳しません」と宣言してくれれば、ドハティーの傍ら、この人も追いかけてみたいぞ。
◆もう一度、ジャーロに戻って読者欄。ROMの宣伝が一巻前の号なんだ、これが。この情報時代になんだかなあ。

◆「僧正の積木唄」山田正紀(文藝春秋)読了
引き続き、山田正紀の新作長編に突入。実は、好きな作家を聞かれると一番目に横溝正史とカー、そして二番目に山田正紀とホックと答える私にとって、この作品は「夢のコラボレーション」である。あの山田正紀が、黄金期本格を代表する「僧正殺人事件」を題材に、アメリカ時代の金田一耕助の活躍を描く!!、というのだから堪らない。アメリカ時代の金田一と黄金期の名探偵の競演というプロットは芦辺短篇に先例があり、それはそれで見事な成功を収めているが、この作品はさすがに長編だけあって、時代背景や小道具の織り込みが深い。そして、それが本格探偵小説の要素として過不足なく昇華されているところが実に素晴らしい。新作なので梗概は不要なところだが、こんな話。
僧正の入城<キャスリング>。紐育に再び死を告げるマザーグースの調べが響く。あの「僧正殺人事件」の関係者にしてノーベル賞科学者アーネッソン教授は、因縁のディラード邸で無惨な骸を晒す。焼け爛れ欠損する死体、その傍らで欠損する数式。そして送られる積木唄。ファイロ・ヴァンスが退場し、日本人使用人が生け贄の山羊と捧げられるや、一人のJAPが西から呼ばれる。その名を金田一耕助。「JAPが建てた」比奈の屋敷で僧侶が僧正に屠られる時、役者は揃った。カリガリ博士の影、目撃されるモンスター。英語教則本の罠。指紋のアクロバット。空っぽの棺。戦争と弾圧。抵抗と平和。歪んだ天才を矯すのは神の代理人。今、鳩は救いを目指し舞いあがる。
帰ってきた名探偵小説、そして名犯人小説。NYの街を袴姿で疾駆する金田一耕助の勇姿を見よ!梵字とマザーグースが縺れ、日本の血が新しい地獄を覗く。それは原色の恐怖映画。憎悪の連鎖。ダイイングメッセージ、首なし死体、見立て殺人、と懐かしい推理小説のガジェットが溢れ、なにより黄金期への愛に満ちている。「僧正殺人事件」へのオマージュにしてアンチテーゼ。真相を暴く金田一耕助は、後年の防御率の悪さを感じさせず、若々しくも颯爽たる姿は思わず正史マニアの涙を誘う。クイーン警視やダシール・ハメットなどが名前を伏せつつ、チョイ役でゲスト出演するお遊びにもミステリ小僧の血が騒ぐ。だが、この作品はそれだけにとどまらない。社会情勢や民族感情を活写し、時代を写す鏡の役目も果たしている。ああ、探偵小説だ。どうして背表紙に「ハテナおじさん」マークがないんだろう?


2002年9月19日(木)

◆本の雑誌に撮影用の本を送るのを忘れていてパニック。朝一旦、別宅に寄って本を回収し、会社からバイク便で送る、という荒業になるか!と思いきや「もう1日、撮影日がありますので大丈夫です」とのこと。いやあ、何事にも締切の後ろには、本当の締切がいるのだなあ。
◆神保町タッチ&ゴー。坊主を引く。せめて「ジャーロ」を買っておけばよかった。@ワンダーで、個人的にゴミ扱いしていた雄鶏社の本に3000円近い古書価格がついていて驚く。どうもテキスト派には、こういう値付けは理解できない。とかいいながらその横に並んでいたハヤカワブックの「雪は汚れていた」フォトカバー付き4000円也を手にとって生唾飲みながら真剣に悩んでいるところが、この「テキスト派」のいい加減なところなのではあるが。

◆「渋谷一夜物語」山田正紀(集英社)読了
「京都蜂供養」以来8年ぶりの短篇集。埋れた過去作の拾遺集である日下三蔵編集本を除き、その時点での新しい作品で編まれた短篇集となると10年以上前まで溯らざるを得ない。「山田正紀級の大作家にして、これか?」と思うとこの世界の大変さが身に染み、この作品集の「後書き」での悲痛な叫びにも深く首肯してしまったりして。小説NONや小説すばるに単発的に掲載されたミステリや恐怖譚を中心に編まれた作品集。大森望の帯の揚句が素晴らしい。「守備範囲360度、高性能疑似シャヘラザード」に「世界は山田正紀で出来ている」だもんね。まさにいい得て妙。しかしこれをやられたからには田中啓文に「千日前夜物語」を書いて欲しいぞ。「守備範囲451度F。高性能疑似波動砲充填120%」「新世界は田中啓文で出来あがっている」。どうよ、どうよ。以下、ミニコメ。
「指輪」夫の浮気相手に剥いた牙。嫉妬心の前に脆くも崩れていく<計画>。愛の在処を指輪に求めた妄念の物語。これはこれで「愛」のカタチか。
「経理課心中」暗鬼に駆られ睨み合う二つの卑しい心。「処分」へのカウントダウンが美しい誤解を呼ぶ。シチュエーション・コメディの世界が現代社会では斯くも哀しいすれ違いの悲劇を招く。巧いなあ。
「ホームドラマ」独身である事を正当化してきた女が、家に復讐される「ストーカー譚」ラストシーンの怖さが凄い。筒井康隆の「走る取的」を彷彿とさせる。
「青い骨」再読。不覚にも骨壷を取り違えた男が遭遇する美しい未亡人の誘い。その底で光る骨、招く修羅。起承転結、申し分のないサスペンス。うっふんシーンまでオマケにつけた、これが短篇小説だ。
「環状死号線」日曜日は稼ぎ時。タクシー運転手の都市伝説は環になって送る。滅びの前には無力な人間の意思。尊厳などなにもない。奇妙な死のファンタジー。ネクロフィリアな描写に些か辟易とするが、安易に再生のドラマに仕立てないところがプロなのか?純文学なのか?
「魔王」醜く生まれた者が辿る人生という名の修羅。その果てで出会う魔王の正体とは。父への叫びを聞け。小品ながら鮮やかな転回が楽しめる一人語り小説。
「明日どこかで」その研究に関わった者たちは、ありうべからざるものによって死すら優しいと思える恐怖を見る。援助交際女高生はもうどこにも逃げられない。キングの「霧」やクトゥルー譚を思わせるシャープな現代ホラー。日常が異界に浸蝕される様が見事。
「わがデビューの頃」一見エッセイ風の題名が騙る小説家の公園デビュー顛末記。受け入れない異端の苦しみが辿り着いた結論に笑え。これは一本とられました。想像だにしないオチである。実話だったら凄いのだけど。
「天使の暴走」外人の悪意と卑屈なる魂の叫び。美的コンプレックスを操る作者の悪意が光る一編。
「死体は逆流する」折角の休暇で釣り上げてしまったもの。悪循環に嵌まっていく男の悲鳴が哀愁と狂気を誘う。巧いのだが、これはサラリーマンとして出口なしな話だなあ。
「屍蝋」家族の思い出は、暗闇の先で冷たく固まっている。昔そのままの姿で。捉えどころのない幻想譚。死小説・純文学系につき趣味に合いません。
「さなぎ」逐電夫が見た粗忽長屋のミイラ男。ここにいる俺は誰なんだ?さなぎが象徴する曖昧なアイデンティティー。自分探しの煉獄はまだ始まったばかりだ。過負荷です。
「オクトーバーソング」水疱瘡がぶり返し、過去の記憶がぶり返す。ああここは永遠の秋だ。人生の冬はすぐそこだ。ようこそ、そこへ。熱にうなされる幻想譚。やや粘着質の展開が冗長。
「バーバーバーバー」なぜ赤ん坊が最初に喋ることばはバーバーなのか?床屋でわしも考えた。さっくりさくさく考えた。ざっくりざくさく考えた。ああコワ。
「渇いた犬の街」「デッドソルジャーアライブ」を思わせる生と死のドラマ。最もSF的道具立てを用いたモノクロのノアール世界。映像的な感性の鋭さが光る昇天の物語。なるほど、このオチには驚いた。この長さで長編の風格を備えた雄編。SFって凄い。
「序章」「幕間」「終幕」<渋谷一夜物語>の顛末を描いた哀れな小説家の一夜の狂奔を描く。実寸大の山田正紀が楽しい。いや、謙りすぎなのか?
「後書き」とにかくこの本を買ってあげてください。ぼくからもお願いします。なるほど、そうくるか。


2002年9月18日(水)

トップページの「まーだーぐうす」は、マザーグースみたく意味のありそでなさそな戯れ歌をでっちあげるというだけの企画です。頭文字を縦に読むと別の意味になったり、全体が回文になったりしているわけではありません。それではとても毎日は続きまへん、ってば。
◆たまには古巣の小林文庫ゲストブックにしゃしゃり出てみたり。
◆風邪気味なので真っ直ぐ帰宅。購入本0冊。
◆呉さんという原書読みの方からメールを頂く。先日の青縁眼鏡さん(>おからだ、お大事に)ショックに続いて、おお!ここにも原書クラシックミステリ読みが!若い世代が着実に育っている様子が如実に判って、いやあ、嬉しくなっちゃうなあ。
ちなみに私の「今週の原書」は、修道士アセルスタン・シリーズ第4作「神の怒り」であります。またしても掴みから飛ばす事、飛ばす事。

◆「呪われた航海」イアン・ローレンス(理論社)読了


2002年9月17日(火)

トップページのアクセス向上のため、毎日更新の戯れ歌を貼ってみることにする。題して「まーだー・ぐうす」。この地口、山口雅也にありましたっけね。せめて一ヶ月は続けたいところだけどなあ(弱気)
◆本格ミステリクロニクルで読んでいる数は300冊中208冊。ミステリサイト主宰者としてはちょっと情けない数。もう2冊は読んでせめて7割に乗せたいなあ。
◆社会復帰初日。メールのチェックだけで半日掛かっているぞ。うーむ。
◆新刊買い。
「僧正の積木唄」山田正紀(文藝春秋:帯)1800円
「渋谷一夜物語」山田正紀(集英社:帯)1800円
「サム・ホーソンの事件簿2」EDホック(創元推理文庫:帯)920円
本格ミステリマスターズ、とりあえず山田正紀から。ついでに新刊短篇集も買う。買いそびれ文庫からサム・ホーソンの2冊目。あ、これって日本独自編集でしたのね。てっきりクリッペン&ラドリューで2冊目が出ていたのだと思い込んでた。んじゃあ、遠慮なく3冊目、4冊目と出して欲しいなあ。あとは、サイモン・アークものを3冊とレオポルド警部ものを5冊とランドもの3冊と、、、
◆定点観測。
「風雲の旗」高木彬光(桃源社ポピュラーブックス)100円
特に買うべきものがなかったので、つい彬光の歴史ものに手を出す。絶対読まない本ですな、こりゃあ。

◆「銀グモの秘密」Rアーサー(偕成社)読了
少年は王国を目指す。どうもジュビナイル推理の主人公たちは、どこかの国の王子様(あるいは王女様)と知り合いになり、乗っ取りを企む摂政の陰謀から彼(あるいは彼女)を救い出す運命にあるようである。結局のところ、始祖たるホームズも、様々な王家のスキャンダルを救ってきた訳で、その幼い後継者たちにも当然の如くその役回りが回ってくるというところか。最早こうなると、もともとが様式美の世界である推理界の中の更に「型」の世界。 この話では、カリフォルニア少年探偵団の一行は、ヨーロッパの小国バラニアの王子ジャロと交通事故を切っ掛けに知り合い、やがて王家のシンボルである「銀グモ」の行方を巡り、尖塔から地下水道までを駆け巡る大冒険に巻き込まれる事になる。推理のネタは「宝捜し」一本。「葉を隠すには森に、死体を隠すには戦場に」のセオリー通りの展開で、今ひとつの感触。何度も云うようで申し訳ないが、ロバート・アーサーならば全部読む、という人が読んでおけばいいシリーズである。


2002年9月16日(日)

◆午前中は例によって日記書き。原書の日は手間が倍。雨模様なので昼からも出かける気にならず、ぼんやりとWOWOW三昧。積録分も含めて3本視聴。ああしんど。
◆「疑惑の悪女」97年のアメリカ映画(らしい)。大富豪の後妻の浮気調査から、連続殺人事件に巻き込まれていく三流私立探偵の物語。浮気相手の法務部主任が射殺され、続いてその秘書までが命を奪われる。容疑者と目されたエセ環境主義者が警察との銃撃戦で死亡した事で一件落着と思われた時、悪女の罠は探偵自身を絡め取る。徹底的に安手な造りのサスペンス。「意外などんでん返し」はあるものの、はっきり云って「だまし討ち」の部類。ブロンドのヒロインも、髭の探偵も何もかもが安っぽい。時間泥棒。
◆「ビートル・ジュース」88年のティム・バートン監督作品。ポップな幽霊コメディの新古典。不運にも突然死を遂げた若夫婦が新米幽霊となって、彼らが丹精込めて整えた田舎の一軒家をアバン・ポップにごてごてと改装する新しい入居者一家を脅かそうとする。が、ねっからの人の良さが裏目にでて、失敗の連続。逆に商売のネタにされそうになった二人は、バイオ・エクソシストの力を借りようとするのだが、この男「ビートル・ジュース」は冥界でも札付きの問題野郎。事態は益々もって悪化の一途を辿る、てな話。人間嫌いでオカルト好きの女子高生を演じるウィノ・ライダーが非常に愛らしくて吉。CGに頼らないクレイ・アニメーション中心の特撮は、チープながらもCG全盛の昨今からすればかえって新鮮。でも、十数年前に見た吹替えバージョン(西川のりお=ビートルジュース)の方が10倍面白かった。残念であります。
◆「グリーン・デスティニー」積録の消化。今更なんの説明も要らない2000年公開の武侠アクション映画。血塗られた武侠の道を一度は捨てようとした男が、自らの愛剣「グリーン・デスティニー」に導かれるように師と友人の敵・女兇賊「碧眼狐」と巡り合い、修羅に還る。狐の弟子にして師を超えた娘の野心と悲恋。武侠者同士の不器用な愛。弟子を持てなかった者の悲劇。弟子に越えられた者の悲哀。闘う事でしか通じ合えない人々の葛藤を描いた大作映画。ドラマの転がし方が、普通のハリウッド映画を見慣れた目には異様で、面食らう。でもって、根はシリアス・ドラマなんだろうが、つまるところ「ワガママお嬢様・鉄拳大暴れ」映画にしか見えなかった。とはいえアクションシーンの凄さは文句無し。これが人間の動きか?と見紛う大技の連続に息を呑む。中国の大自然も含め、一見の値打ちはあり。

◆「太閤の復活祭」中見利男(ハルキノベルズ)読了
なにせ正規の日本史教育が「鎌倉時代」で終わってしまったために、戦国以降の知識は全くと云っていいほどない。久しぶりに見ている大河ドラマ「利家とまつ」も、一体この先どうなるのか?と毎回ワクワクしながら見ている体たらくである。淀君が織田信長の姪にあたる事も、つい最近になって知った(それも、推理小説でだ)人間なので、この小説も、どこまでが真実でどこからが作り事なのか、よく判らなかった。
で、夏休みの最後に、この忍法帖あり、超能力戦記あり、国際謀略あり、とんでも宗教解釈あり、そして暗号てんこ盛りの大伝奇小説を手にとってみた。これは凄い。まず分厚い。読まれる事を拒否するかのように分厚い。関ヶ原前夜の日本を舞台に、それぞれに1年間の大河ドラマを張れる著名戦国武将を縦横無尽に操り、歴史の闇に葬られた(とする)暗合師なる職業をでっちあげ、幻術・体術・智略・謀略・エスプリ・推理をこれでもか!と繰り出してくる作者の骨太のストーリーテラーぶりにはただただ脱帽するしかない。
時は16世紀最後の年、静かに巷で口ずさまれるようになった手毬唄は、天下分け目の大戦に向けて太閤殿下がよみがえると告げる。その謎の本体にあるものこそ、豊臣秀吉の遺した辞世の句。東西の戦国武将たちは、こぞってその謎解きに血道を上げ、秀吉の仕掛けた詭計に嵌まっていく。一方、徳川家康配下の忍び、僅か十歳の少年忍者・友海と巨漢の毒使いにして暗号師・蒼海は、遥か四国の剣山を目指す。太閤の最終人間破壊兵器・千利休を奪還するために!!妖術と忍術が激突し、罠又罠の遺跡に血の川は流れる。伴天連の伝道師たちはミレニアムの大望のために黙示の封印を解き、武士(もののふ)を笑う。果して本当に千利休は生きているのか?そして三重暗号が太閤の復活祭で解かれる時、負けるが勝ちの大博打は始まる。
わずか三十一文字に二十三重に仕込まれた暗号は、さすがにこじつけの嵐。特に最終の解読には、些か鼻白んだ。馬鹿馬鹿しさと紙一重の当てはめに「よくぞここまで考えた」という感嘆と「んなアホな」という呆れが同居する。その暗号のしんどさを支えるのが、ストーリー自体の堅固さ。ここまで多数の人間を矛盾なく操り通し、しかもそれなりの人情の機微も交えて、歴史との齟齬もなく描き切った筆力は新人離れしている。一体、角川春樹はどこでこんな人を探してくるのだ?と不思議になる。やはり秀吉並みの出版会の大妖怪には違いない。後世「ハルキノベルス?ああ『太閤の復活祭』が出た叢書ね」と言わしめるだけの作品であろう。恐れ入りました。


2002年9月15日(日)

◆またしても午前中爆睡。本当にこれで明後日から社会復帰できるのか不安になってきた。
◆午後、奥さんからレンジフードのフィルター交換を頼まれ台所に立ったところ、掃除に嵌まる。まるで魔女に呪いを掛けられた童話の主人公のように、ヤカンを磨く手が止まらな〜い。
◆それ以外は雨模様にめげて、引きこもりの読書三昧。購入本0冊。

◆「The Haunt of Murder」Paul Doherty(Headline)Finished
週一原書講読31週目。なおも続くドハティー漬け。だって面白いんだもん。アセルスタンを別宅に取りに寄れなかったので、先週に引き続きカンタベリー・シリーズに挑戦。これは、本年刊行のシリーズ第6作。副題は「オックスフォードの学者の話」である。
この作品、シリーズの中でも、本歌である「カンタベリー物語」の宗教性を色濃く反映している方の作品と思われるのだが、ある趣向に纏わるサプライズを避けてレビューする事が極めて困難な話である(私が日頃から「サプライズを100%大事にしたい」と考えている事は、先日の「ハードボイルド・エッグ」のレビューを巷のそれと比べて頂ければご理解頂けよう)。20頁も読めばそれと判る趣向ではあるのだが、この書(英初版)の折り返しの梗概でも敢えて言及を避けているので、「読むからにはサプライズを100%満喫したい」と云われる向きは、ここで読むのを止めて、御自身で原書にあたるか、何年先になるかは判らないが訳出されるのをお待ち頂きたい。まあ、そこまで待っても、あっさり梗概や書評でバラされてしまう類いの趣向ではあるのだが。

さあ、警告はしましたよ。

カンタベリーに向う巡礼たちがかわるがわるに語る物語。「昼は陽気な物語を、夜には血も凍る不気味な物語を」という注文に応えて、今宵オックスフォードの学者が語り始めたのは、とある城に隠された秘宝を巡る連続殺人と恐怖、そして儚くもひたむきな純愛の物語。
時は1381年5月、戦費確保の増税によりイングランドの村々に反乱の気運が立ち込めていた頃。処はエセックス州の街マルドンを臨むレイヴンズクロフト城。一人の乙女が、足取りも軽やかに城への道を急いでいた。彼女の名はベアトリス・アロウナー。城主ジョン・グラッセ卿の家来ラルフ・モーティマーの婚約者である。宿屋を経営するキャサリンとロバートの伯母夫婦に手塩にかけて育てられたベアトリスは、今、幸福の絶頂にあった。彼女が2年間愛を育み続けてきたお相手であるラルフの趣味は、数世紀前にこの地を治めていた領主ブリスモスが侵略してくるデーン人との闘いの最中、公子に託した金の十字架の在処を探し出す事であった。メイ・デーの祝宴に参加するのは、ジョン卿と妻のレディ・アン、アイルレッド神父、テオバルト・ヴェイヴァッサ医師、ラルフの同僚アダムとその妻マリサといった面々。そこではブリスモスの秘宝伝説や盗賊男爵と拷問係<黒のマルキン>に纏わる恐怖の物語、或いは、数日前に何者かによって殺された城務めの女中フェーベの話が肴にされていた。やがて、宴が終わり、一足先に胸壁に向った筈のラルフをベアトリスが追っていった時、新たな惨劇が起きる。何者かによって、殴り付けられた彼女は胸壁から転落してしまうのだった。更に、その夜、マルドンの街では、王の徴税官で嫌われ者のグッドマン・ウィンスロップが居酒屋を出たところで謀殺されてしまう。
幸福の絶頂から突き落とされたラルフは、殺された女中フェーベの恋人であった城の守衛官ステファン・ビアズモアとともに、これらの事件の謎を追う。謎の一つは、城内にいた筈のフェーベが、遺体発見現場である<悪魔の森>にどのように辿り着いたのか。ビアズモアは、自分が警護していた正門以外に城外に出る手段は裏門しかないとするのだが、そこはもう何年も使われた形跡がなかった。果して、フェーベはどうやって城外に出たのか?今ひとつの謎は、フェーベやベアトリスが襲われた動機。だが、ラルフは自らが何者かに襲われ、九死に一生を得た事で確信を得る。ベアトリスはラルフ自身と取り違えられて襲われた事に!
また、グッドマン殺しの方にも進展が見られた。グッドマンと一緒に酒場を出た女の正体が判明したのだ。しかしその娘エレノアは、彼女の恋人ファルクが城に向ったきり行方不明になっている事で城に対して反感を抱いていた。やがて恋人の復讐に燃える者達が、もう一つの城からの出口に気づいた時、必殺の矢が間髪を置かず探索者達に襲い掛かる!!
秘宝の行方を暗示する数百年の暗号、連続殺人犯の動機と機会、そして呪われた伝承の塔に逆巻く瘴気、様々な謎と怪異に立ち向かうラルフにはラルフの闘いが、そしてそんな恋人を見守る娘ベアトリスにはベアトリスの闘いが待ち受けていた。誘惑する淫魔、歓待する旧友、唆す吟遊詩人、導く守護神、甦る戦闘の影、試される信仰心、立ちのぼる不穏、薫る想い人。醜きもの、聖なるもの入り乱れ、悪魔の森に、真相は眠る。
というわけで「憑かれた殺人」である。要は、ドハティー版「ゴースト」である。第1部では、転落死を遂げたベアトリスの霊が、この世をさ迷いながら、善人の昇天や悪人の地獄落ちを目の当たりにしつつ、霊として鍛えられる過程が綿々と綴られる。インキュバスやサキュバスの人当たりの良さが、なんとも宗教説話であり、いかにして彼女が悪魔の誘惑を撥ね退けつつ、現世の恋人を護ろうとするかが、ベアトリスのパートの読み所。一方、ラルフのパートはいつものドハティー節。城からの見えない出口という不可能趣味、宝捜しと手掛りとなる謎の言葉、鉄壁のアリバイを誇る殺人者の正体、そして多すぎる死体と、そのサービス精神はこの最新作でも健在。更に、現世と霊界に別けられた恋人たちが、通じ合う事ができるのか?という「ゴスート」的「オールウェイズ」的興味もあって、読者を最後の最後まで魅了しつづける。ベアトリスのネーミングは、かのダンテのベアトリーチェを意識しているのであろう。これは「裏・神曲」の世界であり、憑かれた人々の愛と死の物語なのである。そして何より凄いのは、その趣向がミステリとして生きているところなのだ!!ああ面白かった。


2002年9月14日(土)

◆前日の深酒が祟り、午前中二日酔。午後2時ぐらいから漸く活動を開始。
◆夕刻、買い物のついでに定点観測。さすがに何も買うものがない。
「遷都」小松左京(勁文社NV)20円
「コドク・エクスペリメント3」星野之宣(ソニーマガジンズ)450円
おお、知らない間にコドク・エクスペリメントが完結していたのね。って、1年半も前の事ではないかっ!ううむ、結婚して本当に漫画とは縁遠くなっちゃたなあ。
◆地上波の「グリーン・マイル」をリアルタイムで視聴。全く予備知識を入れずに見始めたので、3時間のあいだ終始緊張感を持って見る事ができた。いやあ骨太のノスタルジーですのう。どの程度、原作に忠実なのかは知らないが、キングの映像化作品としては出色の出来映えではなかろうか。感動。

◆「ミステリー大賞殺人事件」桜庭輝人・りえ(ダイソーミステリー)読了
ネットで高い評価をする人がいたので、騙されたと思って手にとってみた。賞に纏わるミステリーといえばEDホックや中町信にトドメを差すのであろうが、この作品も、それら先達同様に業界ネタ部分の描写が楽しい一編。推理作家や編集者が事件に巻き込まれるというのは、手垢のついた世界であるが、脅迫者が「推理小説を代筆せよ」と要求してくる、というプロットは前代未聞。こんな話。
中堅ミステリ評論家・山宮譲治は、学生時代の親友で今は編集者を務める沢井から不倫の証拠を突き付けられ、売れっ子デザイナーである妻・美佐子との離婚を迫られる。なんの勝算もないままに怒りを爆発させた山宮を、更なる陰謀が襲う。なんと気が付くと、絞殺された沢井と一緒に自分の車に寝かされていたのだ。罠の裏をかいて死体を処理したつもりの山宮が、完全な証拠写真とともに受け取ったのは、彼が選考委員を務める「日本サスペンス&ミステリー大賞」で指定する作品を最終候補に残し、更に山宮自身にミステリー大賞を獲れるだけの代作を書けという脅迫だった。果して、脅迫者の狙いは何処に?斯くして、指定された作品「インモラルな殺し方」が大賞を受賞した時、復讐のプログラムは動き出す。幽霊たちの焦燥、電網の剽窃、密室の死美人、昇華する殺意、そして保身を掛けて剥きあう牙と牙。今、コップの中のバトルロイヤルは開幕する。
ジュヴィナイルからミステリに挑戦する「女流作家」、資料貧乏のミステリー評論家、借金王のノベルズ作家、テレビとタイアップしたミステリー賞、自分語りの作家サイトなどなど、極めて露骨なネーミングも含めて歪な業界ネタが満載で楽しめる。プロットも序盤から中盤までは無理筋ながらも力ずくで持っていくのだが、根本的な部分で破綻しているように感じた。犯人は最大限の努力で最小限の効果を狙っているようにしか思えない。まあ、何が不自然って、<推理力抜群のミステリー評論家>ほど不自然なものはないであろうか。トリックはトリックのためにする機械的トリック。ネット者には馴染みのシチュエーションが効果的に使われていて微笑ましいが、3年後には完全に陳腐化してしまうであろう。この世界観の狭さを楽しめれば、100円の元は取った気になれるかも。


2002年9月13日(金)

◆朝から二日分の日記をアップ。追われてる、追われてる。
◆奥さんのリクエストでWOWOWでエアチェックしたあった「マトリックス」を視聴。
私は二度目だが、それでも充分楽しめた。こういう娯楽に徹した作品は良いですのう。
◆夜は、又しても奥さんの実家に押しかけて天婦羅パーティー。したたかに飲んでは爆睡の13日の金曜日。斧でも、ジェイソンでも持ってきやがれい。ういっく。

◆「インベーダー」Kローマー(早川SFシリーズ)読了
御存知SFテレビドラマの草分け的名作のノベライズ。実は「インベーダー」は一度も見た事がない。というわけで「インベーダー」がクイン・マーチン・プロダクションの製作であった事も、この本の後書きを読んで始めて知った次第。FBIだの名探偵ジョーンズだののオープニングから判断すると、クイン・マーチン・プロダクション製作の番組は、オープニング・テーマにかぶせて「クイン・マーチン・プロダクションの製作である。主演は誰それで、ゲスト・スターは誰それで、今晩のエピソード名は、これだ!」というナレーションが入るのだけれど、「インベーダー」もそうだったんでしょうか?ああ、気になる、気になる。
ノベライズを担当したのは、ユーモラスな冒険SFの名手キース・ローマー。随分と原作の暗いムードを引き摺っており、ブラインド・テストされれば、まず当たりっこないであろう。このノベライズ第1作にはテレビのエピソードで3話分が収録されている。以下、ミニコメ。
「発見」企業コンサルタントのデヴィッド・ヴィンセントは、ひょんな事から、優良な電子企業の幾つかに謎の発注がなされている事に気が付く。それらの半完成品を組み合わせてみると、なんと「物質破戒銃」としか呼びようのない兵器が出来上がってしまう!人類の科学力を越えた恐るべき「発注元」の正体とは?だが、その時すでにデヴィッドとその友人科学者に「発注元」の魔手が迫っていたのだ!インベーダーの端緒がこのような出だしであったというのは驚き。てっきり、空飛ぶ円盤の着陸でも見てしまったのかと思っていた。なぜ、それだけの科学力を持ちながら自分で作らないの?という突っ込みはあろうが、なかなか心躍る掴みである。東西冷戦の真っ最中であっただけに、余計に沁みる。スピーディーな展開に、敵の識別法の端緒などシリーズ開幕編に相応しい一編。
「狂人」擬似科学者たちの集いに紛れ、インベーダーと伴に闘える協力者を捜そうとするデヴィッド。だが、彼の眼鏡に適ったのは、猜疑心の強い偏執狂だった。今、恐怖の家で、命を懸けたサバイバルが始まる。「さすがはアメリカ」と唸らせる変人集会の描写が圧巻。このくだりはローマーの面目躍如たるものがある。家の仕掛けは実にB級で、恐怖よりも馬鹿馬鹿しさが先に立つ。しかしながら、インベーダーの介入以降は、手堅いドラマ作りに感心。デヴィッドの孤独が際立つ異色編。
「反撃」前章でインベーダーが漏らした「3ヶ月目」がやってくる。それが、彗星接近を利用した侵入計画を意味する事に気づいたデヴィッドは、軍への接触を図るが、門前払いを食ってしまう。だが、ただ一人の理解者が現われた時、二人だけの地球防衛軍は、立ち上がる。敵は戦艦、味方は銃。インベーダーの原型や、侵略の動機が徐々に明らかにされ、闘いも大掛かりになる。終盤、泣き落としにくるインベーダーがなかなか印象的である。
「あとがき」このあとがきが凄い。福島正実が書いているのだが、ばっさり「インベーダー」は「逃亡者」のパクリであると喝破して、全く提灯を持つ気配がないのである。怖い人だなあ。インベーダーよりも全然怖い。というわけで、この後書き故にこの書を読むというのもありかな。古典が好きな人はどうぞ。


2002年9月12日(木)

◆日記の更新が滞りがちですみません。大鴎さん、アフォードお願いします。>私信
◆昨日図書館で借りた田口俊樹の「ミステリ翻訳入門」を読む。読むといっても第3章の実際に丸々短篇を一つ訳すというレッスンはパスして、読み物部分中心に斜め読み。HMM連載のエッセイなども散りばめられており、肩の凝らない入門書になっている。「出発点は『翻訳でもちょっと』」ってえのがええですな。で、昨日届いたレオ・ブルースでもやってみようなかと「INTO THIN AIR」といういかにも消失ものっぽい作品を拾い読みしたところ、これがコンパクトな推理コントで、殆どが会話で成り立っているという優れもの。でも、実際に翻訳すると時間かかっちゃうんだろうなあ。
◆昼からは別宅に半日篭って本と格闘。少しは片付くが、それでもまだまだ客を通せるには程遠い。考えてみれば、人に遊びに来てもらっていた頃には、それがために片付ける、という事があったのだが、最近とんとやっとりませんからのう。丸々と太った紙魚が這い回っていた。痩せた紙魚は叩き潰すと粉状になって飛散するのが儚くも美しいが、太った紙魚はいけません、ええ、いけませんとも。
◆久保書店のQTブックスを並べてみた。全部で27冊しかない。内ミステリが11冊。後5冊というところなのかな?ナポソロだけは昔から熱くなって追いかけていたけれどもそれ以外は全然興味の対象外であったため、殆ど「久保書店の在庫に毛が生えた程度」である。というわけで、掲示板で松本さんから教えてもらった(>ありがとうございます)事実は衝撃。そうですか「恐怖からの収獲」は現役本ですか。
と、届いていた落穂舎のカタログを見ていると「恐怖からの収獲」には2500円なりの古書価格が付いているではないかっ!!まあ、これは落穂舎が悪いというよりは、久保書店が凄すぎるのであるが。ううむ。この勝負、文生堂の勝ちだなあ(>どの勝負だ?)
◆帰宅して届いていた「本の雑誌」10月号をパラパラと眺めていると、異様にツボに嵌まった記事が載っていて嬉しくなる。マック・ボランを追いかけた2頁ものなのだが、これがよく研究されていて勉強になる、しかも「何の役にも立たない」というところが正しく私の趣味。おおお、世の中には凄い人がいるものだ、私の連載が終わったら次は是非この人に!!と思って筆者の名前を確認したら、な、なんと未読王さんではありましたとさ。ぐはあ。同じ芸風なんだよなあ。
◆土田館長の「ネット古本者像」。ネット古書店をチェックしてないので9項目該当かな。それにしても、橋詰女史からすかさず本買ってる皆さんって、どうやってチェック入れたのよ?

◆「話すドクロの謎」Rアーサー(偕成社)読了
知っている人は知っている短篇推理の名手ロバート・アーサーのジュヴィナイル。年代順で最後の作品が、なぜか偕成社版では「カリフォルニア少年探偵団」の第1巻に当たる。少年探偵団のメンバーは、推理力のジュピーター・ジョーンズ、行動力のピート・クレンショウ、調査のボブ・アンドリュース。ジュピターのおじさん夫婦の経営するジョーンズ古物再生商会の大型トレーラーに本部が置かれ、科学捜査のための実験室もある。その本部の秘密の電話番号を知っているのは、3人の顧問役であるミステリー作家のへクター・セバスチャンと警察のレイノルド署長という設定。クイーンのJJよろしく、セバスチャンの前書きがついているのが微笑ましい。というか、子供向けなのでどこ巻から読んでもいいように人物設定を説明しているのである。
ジュピターが競売会社のオークションで、古トランクを1ドルで落札した事から、物語は始まる。会場に遅れてきた女性が、その古トランクを10ドル出してでも欲しいと騒いだために新聞記事となり、なんとそのトランクを狙って悪党どもが動き出したのだ。一旦は奪われたと思ったトランクを開けてみたところ中から出てきたのは手品の道具と白いドクロ。そしてあろう事かそのドクロは彼等に話し掛けてきたのである。ドクロの導くままに少年探偵団はジプシー女の元に誘われ、それが切っ掛けとなってトランクの隠しから一通の手紙を発見する。それは、銀行強盗だった囚人がトランクの持ち主で失踪した手品師グレート・ガリバーに宛てたものだった!果して手紙には暗号が隠されているのか?だが、真相に迫りすぎた少年たちは、危険にも迫りすぎていた。危うし、少年探偵団!
話すドクロのトリックは「なあんだ」ものだが、宝捜しとその伏線については単なる子供だましを越えている。全体のプロットもよく練られており、まずまず楽しく読める。問題は、少年探偵たちの書き分けで、はっきり言ってジュピター一人いればそれで足りるのではなかろうか?これで太り気味のジュピターをネロ・ウルフよろしく出不精にして、ピートは外回り専門、ボブはコンピュータ好きのがり勉少女に置き換えるてな感じが勝利の方程式だと思うのだが、いかがなものか。とりあえず、もう2冊ばかり付合ってみるつもり。ロバート・アーサーならば何でも読む!という人はどうぞ。


2002年9月11日(水)

◆Amazonから本が届く。
"Murder She Wrote : Murder in a Minor Key" Donald Bain & Jessica Fletcher (Signet)725円
"Murder She Wrote : Provence to Die for" Donald Bain & Jessica Fletcher (Signet)725円
"The House of Death" Paul Doherty (Robinson)1259円
"The Hangman's Hymn" Paul Doherty (Headline)1079円
"The Love Knot" Vanessa Alexander (Headline)1079円
"Of Love and War" Vanessa Alexander (Headline)1079円
"The Loving Cup" Vanessa Alexander (Headline)1079円
"Murder in Miniature : The Short Stories of Leo Bruce" (Academy Chicago)2347円
ドナルド・ベインの「ジェシカおばさん」本は、16作目と17作目。10月には18作目が出る予定らしい。16作目はニュー・オリンズのジャズ・フェスティバルが舞台。17作目は「ジェシカ、南仏プロヴァンスへ行く」。ジェシカおばさん殺人漫遊記、さあ、次はどこへいくのであろうか?
Robinson社のドハティーは、アレキサンダー大王もの。もう1冊は、揃えたつもりでいたカンタベリー・シリーズの第5作。どうやら未所持のようだったので、慌てて注文した。そして Vanessa Alexanderの3作は、ドハティーが女性名義で描いた「歴史上の著名恋愛もの」。もう、表紙からしてこてこてのロマンスである。梗概をざっと見る限りでは不可能犯罪やオカルティズムとは全く無縁の恋愛小説みたいである。中には若干ミステリっぽいものもありそうだが、これは辛そうだなあ。
最後のハードカバーは、レオ・ブルースの短篇集。なんで、こんな本が現役で売っているのか?と半信半疑で申し込んでみたところ本当に届いてしまった。10年前に出た小部数出版の本だよ。おそるべし、アカデミー・シカゴ出版!!まだお求めでない方は是非この機会にお求め下さい。
◆図書館へ行って、ロバート・アーサーのカリフォルニア少年探偵団を3冊と、田口俊樹の翻訳レッスン本を借りてくる。なんて便利なんでしょ。

◆「続・巷説百物語」京極夏彦(角川書店)
必殺フリークの京極夏彦が<闇の仕事人>たちの活躍を描いた連作時代コンゲーム小説。勿論、妖怪小説でもあるが、重心が「理」の方にあるのは、いつもの京極堂シリーズ同様。このシリーズ、WOWOWで映像化もされたが、佐野史郎の山岡百介はともかくとして、田辺誠一の又市はミスキャスト。まあトヨエツぐらいの貫禄が欲しいところなんだよなあ。
その映像化の第1話が、この書に収録された中編「死神」の原型となった「七人みさき」。結局、作者自身、映像作品の出来が不本意だったのであろう。この書に収録された6編中4編を掛けて改めて人物や小道具の伏線をはり直し、感涙の後日談までオマケにつけて、修復を図ろうとしている。その意気や良し。「これがあのわけの判らん『七人みさき』か?」と見紛う程に、完成度の高い作品に仕上がった。ただ、余りの完成度の高さ故に、シリーズを一旦終わらせなければならない程に、盛り上がってしまったのが玉に傷。ああ、もっと続けてくれええ。以下、寸評奉仕(ミニコメしたてまつる)。
「野鉄砲」八王子千人同心を務める百介の兄、軍八郎が持ち込んだ怪異。額に小石を叩き込まれた死体の謎とは?山狩りの手練を絡め取る妖怪野鉄砲。轟きは驚き。追われ覆われ。「治平自身の事件」。巻き込まれ型の百介が、自ら又市を訪ねていくところからして正編のパターン破り。野鉄砲の正体は「本当?」と疑いたくなる。なにやらディクスンの「『一角獣』の正体見たり」感に苛まれるというか。
「狐者異」百介が小塚原でまみえた「死なない祇右衛門」の生首。そして、山猫廻しのおぎんの恨みは青く燃え上がり、奇矯な定廻りの義憤が呪縛を刎ねる。「おぎん自身の事件」。京極堂の木場修を思わせる不器用な正義感・田所登場編。何度処刑されても死なない兇賊の首魁という設定が光る。これが小塚原という場所の力でリビング・デッド系の脚色も施され、衝撃度大。必殺のエピソードとしても使える傑作。
「飛縁魔」老いらくの恋に身を焦がす大商人。輿入れの夜に消えた白菊探しは行く先々で火に祟られた女の生き地獄を映し出す。妄念を紅蓮に封じ込め、妖しの癒しは宙を舞う。宮部みゆきの「火車」を思わせる幻の女探しの顛末は、狂気を正気に裏返し、哀切にして見事な大団円を迎える。しかも、後のエピソードへの布石も打って、まずは堂々たる丙午の女もの。
「舟幽霊」百介、四国へ渡る。襲い掛かる侍。煌く白刃。奇妙な同行4人連れは、平家の末裔・川久保党の元に誘われ、兇賊の正体を巡る乾坤一擲の大仕掛けに向けて物語りは山雪崩のように動き出す。京極版「西村左内」・東雲右近登場編。中編と読んでもよい長さ。そろそろ又市たちの仕掛けが大掛かりになっていく。藩とサンカ衆の闘い、源平の昔から伝わる殺戮兵器の秘密、などなど大伝奇の道具立てを縦横無尽に操る京極夏彦はやはり天才である。勿論、シリーズ最終回に向けての非業の姫の伏線にも怠りない。
「死神」若狭の小藩に禍禍しい瘴気が立ち込める。無辜の民を屠る鬼の正体とは?四神に守護された狂気の理と、又市チーム一世一代の大仕掛けが真っ向から激突する。繰り返される七のモチーフ。埋蔵された陰謀。幽閉された怨念。殺人淫楽者 対 天変地異。裁きの雷よ!民を救え。実質上のシリーズ最終回。必殺でもここまで大掛かりな最終回はなかったのではないか。幕閣を始末する話はあったと思うが、それをむしろ「語られざる事件」にして、テレビで消化不足だった七人みさきの構想を手堅い伏線と因縁、そして派手な演出で纏め上げた快作。
「老人火」死に場所を求める老忠臣と老盗賊。天狗の怪火が招く静かな血戦。あれから2年。人々は舞台から去っていく。あるものは暴力的に、あるものは日常に埋没して。これは、百介の見た終りの夢。嫋嫋たる余韻を残して物語は巷説百物語・激闘編に続け!