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2002年8月31日(土)

◆架空日記:もし「ミステリーはこう書く!」を読んだら。

架空探偵戦記「大逆襲! 巨大軍艦<幻影>の夢 (1)孤島の鬼軍曹」桜島不埒
「昭和19年10月、連合艦隊は真珠湾作戦を成功に導いた源田参謀立案による乾坤一擲の極秘作戦に着手する。作戦名は<猟奇>。生きた人間の脳髄を兵器に移植せしめるという帝国海軍省科学部・海野13部隊の開発した大発明によって、帝国が誇る大探偵小説家・江戸川乱歩は、巨大軍艦<幻影>となって甦った!!マレー沖に迎え撃つは、米国の無敵精鋭巨大空母群。次々と雲霞の如く襲い掛かる米艦載機の論理のアクロバット攻撃!危うし!<幻影>!!だが、その時、真の<猟奇作戦>は発動する。遥か成層圏から飛来するメチルアルコールを動力源とした黒き死の使い・要塞空爆機<小栗>、そして、海神より遣われし救世主、その名は秘密諜報艇<大阪>!!彼らこそ南海に散った鬼軍曹たちの生まれ変わりだったのだ!!たからかに唱えよ!ちゃかぽこ!今、<幻影>の四十面相砲が、敵を殲滅する!!!」

〜「大逆襲! 巨大軍艦<幻影>の夢 (2)パノラマ島の魔術師」に続く。
歴史シミュレーション本格ミステリー「正史! 悪魔の関ヶ原 (1)本陣の蝶」も大好評執筆中!!

見たか!完全めそっど!!目指せ、筆客!!(大嘘)

◆振込みに行ったついでに雑誌を捜すが、付近の本屋には全く見当たらず、結局電車で6駅先まで行って買い求める。
「SF Japan 第5号」(徳間書店)1800円
「メフィスト 2002年9月号」(講談社)1600円
近所になかったのは前者。しかし、1800円かあ。菅浩江女史の幻の「オネアミスの翼」が載っているとなれば、そりゃあ買いますよ。買いますけどね。GAINAX大好きだからそりゃあ、買いますとも。買いますけどね。メフィストも、小説現代増刊号が改名してから、京極読みたさに買い続けてきたけど、最近ホント中身を読んでない。とりあえず、喜国センセの乱丁漫画を確認して、座談会読んで終わり。単発短篇ぐらい読まなきゃなあ。諸星大二郎の短篇というのは、SF漫画マニア泣かせかもしれない。おお、それに貫井作品には、どっかで聞いたような名字の人がいるぞ。ふーん。
◆ふと見ると、なんと!上で(読まずに)ネタにした「ミステリーはこう書く!」が新刊棚あったので、しばし立ち読み。警察やら毒薬やらの最新基礎知識は、なるほどこうして1冊にまとめといてもらえば佐野洋的には役に立つかもしれない。木々高太郎・松本清張の「推理小説読本」パターンですか。問題は、トリック編に入ってから。もう全編ネタバレのオンパレード。まあ、自作や弟子の作品はともかくとして他人のトリックをここまで、解析しちゃうかな。うーむ。藤原宰太郎みたいな志の低い本も許されているのだから、「ミステリの裾野を広げるために、トリックを取り出し、解説する事は許される」という<たーへる・あなとみあ>的立場なのかなあ。まあ、サザランド・スコット先生みたく、歴史本で不意打ちされない分マシか(「現代推理小説の歩み」は、欧米の黄金期本格は大概読み尽したという相当のすれっからしを対象にした凄まじいネタばれ本で、これから黄金期の本格を読もうという人は絶対読んではいけない本です、ハイ)。とりあえず「ミステリを読む人が読む」のではなくて、「ミステリを書きたい人が読む」或いは「ミステリ作家になりたい人が買う」本と捉えれば、これもあり?その意味では「キャンプの極意」「へらぶな釣り入門」といったハウツー本のコーナーに置くべき本であり、ミステリ棚に置く本ではないのかも。

◆「サブウェイ」山田正紀(ハルキホラー文庫)読了
地下鉄の駅、中でも永田町駅に纏わる都市伝説を軸に、現世と冥界の狭間に落ちて滅びていく人々の逝き様を綴ったモジュラータイプのホラー。
40人の同級生をバスの事故で失った女子高生は、Mの疼きを抱えつつ女王様の姿を求め、インスタント写真を撮り続ける。母子心中の生き残りは、人生の晩年に赤い夕陽をフラッシュバックさせ、闇の底で急ブレーキをかける。借金苦にココロをすり減らせた工場主は、はぐれた娘を妻と捜しまわるうちに、最も卑しい者の正体に気づく。病弱な妻に自殺されてしまった男は、凍った時間の中で拘束から解き放たれる。不倫相手に約束してしまったOLはお百度を踏むために紅蓮を招く。
そこにいるのはこの世に遺されてしまった人々。半分死んでしまった心。壊れたルーティーンは思い入れを加速し、日常は異常へと変容する。そして、地下のネットワークの中で、狂気は相互に乗り入れる。営団地下鉄は人身事故のため、運転を見合わせております、永遠に。

地下鉄の都市伝説一つから、これだけの人生を描いてみせるところは「さすが山田正紀」。理に落さず、新たな地下鉄伝説を生み出した。ただキャラクター間の有機的な絡みが足りない分、この作者にしては薄味の仕上がり。<お互いが路傍の人々、それは冥界も含めて>といったのが主題だとすれば、成功しており、それゆえ10年後には「そんな話、あったっけね」という作品になるであろう。まあ、肩の力を抜いて名人芸をお楽しみあれ。


2002年8月30日(金)

◆3周年か。なにもかも懐かしい。
◆八重洲ブックセンターで本格ミステリマスターズを確認。分厚さにめげてパス。それにしてもシンプルな装丁。これはプルーフ本か?
八重洲古書センターで安物買い。
「詩人たちの館」Dチャクルースキー(早川書房:帯)1200円
「サブウェイ」山田正紀(ハルキホラー文庫)300円
もう一駅途中下車して定点観測。
「ミステリー大賞殺人事件」桜庭輝人・りえ(ダイソー)20円
「祇園舞妓地獄変」辻村真琴(ダイソー)20円
「隣人たちの秘密」紫野直子(ダイソー)20円
「子猫の館殺人事件」芦川淳一(ダイソー)20円
「殺し屋は舞妓がお好き」あすかみちお(ダイソー)20円
「帰ることのない旅」西村紅一郎(ダイソー)20円
「明清疾風録1」芦辺拓(学研)20円
「明清疾風録2」芦辺拓(学研)20円
「怪談学園」田中文雄(飛天文庫)20円
「偽りの亡命者」Tオールビュリー(創元推理文庫:帯)20円
ダイソー100円ミステリがドサっと<5冊100円>の棚にあったので、適当に拾う。ふはははは、「定価より安く買うのは不可能」といわれた本を5分の1で買ってくれたわ。芦辺拓は、同人誌用に一通り目を通しておく必要があったので。後は数合わせ。
◆もう一軒で、ちょっと嬉しい本。って、ダブリだけど。
d「エラリー・クイーンの世界」FMネイヴンズJr.(早川書房:帯・Vカバ)300円
EQファン必携の研究本。これが品切れになっているところが、クイーン人気の限界か。少し翻訳が拙いのも(品切れの)原因なのかもしれないが。いずれにしてもビニカバ付き300円はお買い得。ダイソーミステリー15冊分の値打ちはあるよなあ、と思って定価をみたら1500円だった。ふーん。


◆「オシリスの眼」RAフリーマン(早川書房)読了
「こんなものも読んでなかったのか」シリーズ。ソーンダイク博士は、ホームズのライヴァルとしては、最も長編が多い探偵なのではなかろうか?House of Straus の一挙復刊で英語ではその著作の多くが普通に入手できるようになったフリーマンだが、日本での出版事情はまだまだ昏い。ポケミスで「ダーブレイの秘密」が40年ぶりに復刊された時には「おお、古典復興の兆しが」と編集部の英断に拍手を送ったものだが、その後はさっぱりお声がかからない。国書に第5期があれば、是非候補の一つに加えて頂きたいものである。この作品は、「赤い拇指紋」に続く長編第2作。早川の本は別冊宝石に訳出されたものをそのまま単行本化したお手軽な作りだが、カバーアートの具象画がナイスである。
考古学界の著名人であったジョン・ベリンガムが奇妙な失踪を遂げる。エジプトから大量の貴重な出土品とともに英国に戻り、大英博物館に保存状態のよいミイラなどを寄贈したベリンガムは、10月14日に一旦パリに発つ。そして11月23日、パリから戻ってきた彼はエルサムに住む親戚ハーストの家を訪ねるが、あいにくハーストはまだ帰宅しておらず、ベリンガムは一室で主の帰宅を待つ事になる。しかし、30分後にハーストが帰ってきた時には、既にベリンガムの姿はなかった。何故ベリンガムほどの紳士が窓から出ていくような事をしたのか?不審に思ったハーストがベリンガムの顧問弁護士ジェリコ氏とともにベリンガムの弟ゴッドフリイ宅を訪ねたところ、そこで彼等はベリンガム氏がいつも身につけていたスカラベの飾りを見つける。それから二年後、ベリンガム氏の行方は杳として知れぬまま、彼の遺した尋常ならざる遺言を巡って、ハーストとゴッドフリイの間で問題が起きていた。ジョンが自分の遺体の埋葬場所にこだわった条項をつけたため、本来ゴッドフリイに行くべき財産が宙に浮いてしまったのである。この奇妙な事件は、偶然にもゴッドフリイを往診し、その娘ルースに一目惚れしてしまった青年医師ポール・バークレーを通じて、その恩師であるソーンダイク博士の知るところとなる。そして、折も折り、ベリンガムの広大な敷地にある水たがらし畑から、バラバラにされた白骨死体が発見された。果して失われた指は何を物語るのか?一歩一歩推論と物証を積み重ね、ソーンダイク博士は、大胆にして巧妙な陰謀の核心に迫る。オシリスの眼は何を見た?
ゆったりとした本格推理小説。失踪した富豪、異常な遺言状、横溢するエジプト趣味、若く美しく聡明なヒロイン、緊迫の検死法廷、猟奇的にして科学的なクライマックス、そして颯爽たる名探偵と奸智にたけた真犯人との静かな対決。今となっては成立不能のトリックであるが、その時代性をこそ楽しむべき物語。20世紀初頭の古代ブームを真っ向から推理小説に取り入れた通俗性は、最も科学的なホームズのライヴァル作家のお堅いイメージからは程遠いが、実は軽いノリのエンタテナーだったのではなかろうか、と少々認識を改めた。なかでも、部分的一人称パートの主人公である青年医師と令嬢の恋物語は、なんとも大時代ぶりが微笑ましくも爽やかである。古い探偵小説が好きな人は必読。ちょっと原書にもトライしたくなってしまった。House of Straus が健在なうちに頼めるだけ頼んでおくか?


2002年8月29日(木)

◆あぢいいい。脳味噌がトリブルして亜空間通信をジョウント。

あ、フェラーズの新刊が!!鳶・大工で、細工は流々仕上げをごろうじろも読んでないのに(苦笑)
それに、本格ミステリマスターズも出る。山田・島田とくれば後の一人は砂男?違う!!柄刀だあ。
はじめちゃん!じっちゃんの名にかけて、これは3冊とも買わざるをえない!僧正効果か?
しかし気になるバークリー、でも、ドハティーも殆ど積読。原書だし。って、ROMの原稿はどうなる。
いやいやその前に芦辺本の締切りが。本当に冬コミにでるのか?題名は「殺人喜劇の13周年」で決まり、断定宣言!(激爆)

◆…はっ。一体、私は何をイっちゃってるのだ?
◆鶴亀鶴亀。通常モードに戻って、定点観測。
「砦の町の秘密の反乱」Nボーデン(評論社)100円
「アレックスとゆうれいたち」Eイボットソン(徳間書店:帯)100円
「ヴェニスを見て死ね」木村二郎(早川書房)100円
「娼婦へのレクイエム」中田耕治編(白夜書房:帯)100円
「マニアックス」山口雅也(講談社:函・帯)50円
「太閤の復活祭」中見利男(ハルキノベルズ:帯)500円
評論社のSOSシリーズ、久々の一歩前進。見掛ける本は何度も見るのに、見ないものは徹底的に見ない叢書の典型。このシリーズ第1巻も初見。中田耕治編集本は、翻訳ものの娼婦小説アンソロジー。全くのジャンル外だが、帯付きが100円だったので拾ってみる。「マニアックッス」は「ミステリーズ」で掟破りの増補技をかまされてから本屋で買う気にならなかった本。さあ、幾らでも増補してくれい。「太閤の復活祭」は昨年一部で評価の高かった暗号時代小説。それにしてもなんちゅう分厚さ。定価1905円のノベルズだったのかあ。うひゃあ。


◆「ハードボイルド・エッグ」萩原進(双葉社)読了
この人は本当に小説の「ツボ」を心得た人だ。デビュー作の「オロロ畑でつかまえて」も、ファンタジックな田舎モン賛歌だったが、このどこまでもハードボイルドなタマゴの話も、笑わせて、笑わせて、笑わせて、ハラハラさせて、そして泣かせる。実にいい。こんな話。
私は私立探偵。今日も首尾よく家出した15歳の娘を保護して、依頼人に届けた。娘とは血の繋がらぬ美しい依頼人は、とろけるような笑みを浮かべ俺を見上げ、別室に誘う。そこで何が起きたかは聞かない約束だ。だが、探偵に休日はない。もう一件、南米から来たガルシアを探し出さなくてはいけない。地を這い、泥に塗れながらガルシアの行方を追う私。そして、卑しい街の果てで冷たい血に染まった純愛に出会う。そんな私の唯一の憩いの場はJの店だ。ここでドライなカクテルと辛口の警句に身を委ねる時、私とJの心はハードボイルドに煙る。あと必要なものといえば、そう美しい秘書か。そして、片桐綾がやってくる。とびきりのバスト、どこまでも甘い声、料理の腕もよさそうだ。そんな綾との出会いが契機だったのか、やがて私は、土地と利権に絡む老人殺しに遭遇する事となる。被害者は私の数少ない友人夫婦の父。そして兇器は私自身が彼等に預けたものだった。運命はどこまでも皮肉な賽を振る。この事件だけは、私自身の手でケリをつけなければならない。たとえ相手が、闘うためだけに生まれた殺戮マシーンだとしても。血戦の時は近い。

この梗概だけ読んでも、一体どこが面白いんじゃい?と思われるかもしれない。ありがちな話じゃねえか、と鼻先で笑われるかもしれない。だから騙されたと思って手にとって欲しい。これはまぎれもないハードボイルドである。あなたは沢崎以上にマーロウな探偵に出会う事となる。綾も、Jも、ホームレスのゲンさんも主人公をとりまく全ての者たちがタフで、そして優しい。余りにも痛い、実は最初からそこにあった真相までノンストップの大人のファンタジー。強くお勧め。


2002年8月28日(水)

◆黒白さん、10万アクセス到達、おめでとうございます!!
◆夏がぶり返して来よりましたんで、よしださんや黒白さんみたいな、ほんまもんの怪談ちゅうわけやないんですけど、聞いた話でも。


今はもう廃業してしまいましたけど、私の母方の里は三代前まで造り酒屋やっとっりまして、家の入り口は、三間はあったかなあ、ガラガラと引き戸を開けると、五坪ほどの土間。奥の壁際に一畳ぐらいの上り框がついていて、昔は、そこで酒を直売りしてたと聞いてます。
そこから母屋とお勝手の間の通路を抜けて中に入ると内庭にポンプ井戸、更に奥へ進むと、母屋から離れた風呂に厠、上の蔵に下の蔵と、いかにも昔風のつくりの田舎の商家で、子供心には「えらい広いウチやなあ」と思うとりました。
上の蔵と母屋の間の奥庭を祖父の趣味で「前栽(せんざい)」ちゅうんでしょうか、山水風に造り込みまして、夜になってボウっと水銀灯にあかりが入り灯篭の影を蔵の壁に落とすと、これが何ともエエ景色。関西弁で云うところの「しょんべんちびるぐらい怖い」。
その脇に厠がありまして、用足し終わってから、手水鉢から柄杓で水すくとると、夏の最中でも足元から「じわっ」と冷やっこい気が立ちあがってくるような按配でした。
この前栽に向こた客間で夜更かしして「孤島の鬼」を読んだのが、私の江戸川乱歩・初体験。そらもう、無茶苦茶怖い。怖いけど、ここで止めたらもっと怖い、震えながら最後まで読み通したのが、「孤島の鬼」が今なお和物推理・私的ベスト3に君臨しておる由縁でございます。

閑話休題。今その家には叔母夫婦が住んでいるんですけど、この叔母が商家の出の常で至っての験(ゲン)かつぎ。数年前でしたか、ちょっと家に悪いことが続いた時に「よう見える人」に来てもうて、あれこれ見てもろたんやそうです。何が見えるか、というと、要は「あれ」ですな。「霊」ちゅうか、えすえふでゆうたら「残存思念」でっか。

ほしたら、まあ、仰山いてはったそうです。

まずは、家の表に四、五人。お金がなかったんでしょうなあ、みすぼらしい身なりのおっちゃんらが酒欲しそうに並んどって、その中には焦げた兵隊服着た人もいてはったそうです。内に入ると上り框のところに、通い帳と徳利もった人らが数名、こっちはお金は持っとったんでしょうなあ、お使いできたような、子供衆もいたそうで。そこで終りかというと、さにあらず、前栽から蔵にかけての廊下は、丑寅の方位にあるさかいに悪い気が流れてくるんでしょうか、恨めしげな目した人らが、何人もたむろして、でんでに手招きしとったそうです。

で、その「よう見える人」から「もうこの家は、酒売ってまへんで!」言うてもうて「皆さん方」にお引取り頂いたとか。

いやまあ、そんだけの話でっけどな。
子供時分に夜中に用足しとる横で、そういう人らが横にいてはったかと思うと、ちょっとサブなります。
さけも恐ろしき(ちょーん)、妄念かな(でんでん)


◆夜は飲み会。へべれけになる。購入本0冊。
◆森英俊氏情報によれば、来月号のHMMのアリンガムは“Take Two at Bedtime”収録の中篇だそうです。


◆「ニューメキシコの顔」Dウィルスン(二見書房サラブックス)読了
先日「作者疑惑」の検証用に買った本を、とりあえず電車の友に。シリーズの中でも、マクロードのタオス時代が出てくる異色作。もともと、都会の警官と田舎の警官という対照の妙で見せる話なので、余り田舎警察の日常は描かれないのだが、実はこの作品で見る限り、タオスの警官は全員がマクロードみたいではなく、割と普通なのである。おいおい、すると何か、タオスでも野生児だった人間をニューヨークに研修に出したって事なのか?こんな話。 テレビのパーソナリティーによる反<警官発砲>キャンペーンが盛んなニューヨーク。クリフォード部長までが番組に引っ張り出され弁明にこれ努めている最中、張込み班でポーカーをやっていたマクロードの目の色が変わった。酒店で買い物をしようとした男の顔に見覚えがあったのだ。3年前、タオスで起きた銀行爆破強盗事件で逃した奴だ!咄嗟の反応で飛び出したマクロードは銃撃戦の果てに、その若者を逮捕する。マスコミの追求を避けるようにタオスへの護送役を仰せつかるマクロード。だが、彼のタオス到着を待っていたかのように脅迫電話が舞い込む。なんとマクロードのガールフレンドである、女性記者を誘拐したというのだ!タオスの同僚達を説き伏せ、容疑者を一旦開放して、自分はNYにトンボ帰りしたマクロードを更なる驚愕が待ち受ける。果して音の罠を仕掛けた黒幕の正体は?自らを標的にして真相に迫る田舎刑事の心意気。 おお、なんとこれも結構面白いではないか。コロンボ・フリークであった中坊時代には「マクロードを放映するぐらいなら、コロンボを再放送してくれい」と希っていたものだが、なるほどマクロードはマクロードで充分に気配りのされた痛快刑事ドラマである。ナッシュ・ブリッジ並みには充分イケてる。この作品も、二転三転するプロットや派手な見せ場が満載、クライマックスのNYでの馬車暴走なんぞ、この目で見たくなってしまう。TXで細切れにエアチェックしていた積録ビデオでも見てみますかね。


2002年8月27日(火)

◆宮澤賢治の誕生日だそうな。ちょっとイーハトーブ気分で、本日生まれの著名人を探すとヘーゲル、マリー・テレサなど。偉人の日だねえ、と思ったら宇野宗佑元総理の名もあった。ううむ、人間、誕生日じゃないんだ、誕生日じゃ。
◆ニフティのフーダニット翻訳倶楽部に入れてもらった途端、会議室閉鎖のお知らせ。活動拠点をネット上に移すのだそうな。ううむ、ネット上かあ。ネット上ねえ。なんか、ちっとも珍しくないぞお!!というか、ネット上となると、結局書きたいネタは全部自分のサイトに書けばいいわよね、になってしまうんだよなあ。しくしくしく。そして、サイトのオーナー持ちが増えて行くたびに、掲示板は閑散としていくのであった。これ、ネットの掟>とか、ゆうとる間に自分の掲示板にレスつけろって。
◆頼まれもしないのに文雅さんの「神津ファンへの100の質問」に答えてみる。よくよく考えてみたら神津ファンじゃないかも、俺ってば。
◆「明智小五郎対怪人二十面相」を視聴。二十面相のルーツを日本軍の極秘実験に求めた新解釈。ちゅうか「猟奇の果」。まあ西田敏行のマッドサイエンティストぶりがうまかった、と申し上げておきましょう。田村正和の明智はやっぱり違和感。もう古畑以外の名探偵はやって欲しくないってのが正直なところ。黒白さんも書いているが、明智は陣内孝則がハマまっていたように思う(文代さん役の森口遥子もよかったのよ、これが)。演出は間延びしており、配役も豪華な割りには役者の個性を生かしていない。たけしの二十面相というのは、「怪人二十面相・伝」を北野武が撮るのであれば意味があったかもしれないが、なんだか冴えない。また「新解釈」ゆえに颯爽たる怪人のイメージがぶち壊しにされている。宮沢りえは益々綺麗になっていていい味を出していた。黒装束で走る姿は横溝正史の「幻の女」をやらせてみたくなる精悍さ。とまあ、瑣末なところで評価するしかない話。なにやらセットや画面も安っぽくて、陣内・明智に負けていたぞ。


◆「シンデレラ殺人劇場」滝原満(ダイソー)読了
幻影城作家:滝原満(=田中文雄)が放つダイソー100円ミステリの秘密兵器。田中文雄の推理小説も結構真面目にフォローしてきたつもりなのだが、どうもこの作品の記憶がない。「もしかして新作か?」とも思うのだが、中身を読むと、編集者がいい加減なのか(そもそも居るのか?)意味もなく年のズレが生じていたりする。とりあえず、東京ディズニーランドのオープン(83年)の12年後というから、1995年が舞台の作品である。奥山和由をモデルにしたとおぼしき御曹司プロデューサーが登場して「サブリミナル効果だあ!」と騒いだりするところが、94年公開のRAMPO奥山版を彷彿とさせるので、本来ならば、その頃に出版されているべき話だっだのであろう。お蔵に入っていたのか、それとも単に私が知らないだけなのか、どなたか識者に伺いたいところ。東宝で飯を食った人間として、あからさまな他社(松竹)誹謗はまずいという判断でもあったのであろうか?ううむ、本編よりも遥かに謎。とりあえず、こんな話。
海に落ちた老紳士を偶然にも助けた事が、スキューバダイビング店を経営する笛吹(うすい)紀子を、一度は諦めた映画製作の道に連れ戻す事となった。なんと紳士の正体は、帝国映画を傘下に従える一大コンツェルンの総帥であったのだ。その死後に帝国映画の株10万株を遺贈され筆頭株主となった紀子は、戸惑いながらも帝国映画入りする。おりしも帝国映画は、総帥の息子でプロデューサーを務める清家史郎の発案で社運を賭けた大プロジェクトを始動させようとしていた。製作費13億円の歴史映画「邪馬台国」。だが、主演女優の座を巡り暗闘を繰り広げる女優たちの一人で史郎の愛人でもあった峰貴子の殺害事件により史郎は逮捕され、プロジェクトは累卵の危うきに!果して殺人者は、12年前に世間を騒がせた「首斬り人」なのか?やがて、殺人者の魔手は、主演女優に抜擢された往年の大女優の娘・朝霧香に向うのであった。銀幕への執念、鬱屈した怨念、歪んだ愛情、挿入される兇器、そして励起される殺意。シンデレラたちは、鮫男の正体を暴く事ができるのか?
業界内幕ものとして出来がよい。活動屋や大部屋役者たちに向ける目の優しさは勿論だが、映画会社の組織人間に対しても「まあ、それはそれでしょうがないんじゃない」というスタンスで臨むところが、田中文雄、大人である。推理小説として見た場合、誰が探偵役かはっきりせず、真犯人のサイコさんぶりも無理目。二重底にするために、後付けでアリバイやら手がかりが出てきたりするのでフェアな本格推理を期待する向きには全くお勧めできない。ただ、ノリのよさや見せ場の盛り上げについては「勝手知ったるギョーカイ」という強みもあり、「何を書いても65点」の田中文雄伝説はここでも健在。主演:藤原紀香で、TX2時間サスペンスドラマ化希望。


2002年8月27日(月)

◆朝早くから先週分の原書読みに精を出す。
◆ネットをふらふらしていたら、Paul Doherty が、またしても別名で歴史ものを書いていた事を知る。Vanessa Alexander というそうな。森さんの事典が発刊後にスタートしたシリーズなので、ノーチェックでした。既に3作が上梓されているようなのだが、この題名が凄い。「The Love Knot」に「Of Love and War」に「The Loving Cup」と、全部に「LOVE」が入っている。ううむ、ロバート・ネイサンも真っ青だねえ。とりあえず、怖いものみたさで注文してみようかな。でも、これって、まさか、大河恋愛小説じゃないだろうな。
◆新刊買い2冊。
「ミステリマガジン 2002年10月号」(早川書房)840円
「SFマガジン 2002年10月号」(早川書房)890円
HMMはランズデールの特集。全く読んでない作家なので、入門編には丁度よいのかもしれない。また次号からは、アリンガムの長編分載が始まる模様。しかし訳題(「無邪気な人求む」)からは原題が見えないなあ。「More Work for the Undertaker」あたりかな?
SFMは恩田陸特集。全著作解題を見て改めてその売れっ子ぶりに感心する。ううむ、「六番目の小夜子」を他人様のためにダブらせていた頃が懐かしい、っていうか、このサイトを始める直前までそんなもんだったんだぞ。


◆「マレー鉄道の謎」有栖川有栖(講談社ノベルズ)読了
火村とアリス登場の「長編」国名シリーズ。やっぱり国名を名乗るからには、長編であって欲しい。EQFCのコアメンバーからは「けっ、なーにが国名シリーズだあ、恥を知れ、恥を」という声もあるのだが、まあ、そこはそれ。しかし、マレーってのは国名なのかね?それに、密室の舞台はちっともマレー鉄道ではないぞ。「東京空港殺人事件」みたいなものであろうか?以前から題名だけは有名だった作品(のよう)であるが、古畑任三郎の「語られざる事件」こと「スマトラ鉄道殺人事件」(第三シーズン第9話は、この事件を解決して日本に戻る機中で起きた、らしい)と完全にごっちゃになっていた。国際旅情ミステリー「火村助教授、炎熱の追想」と見せかけておいて、「彼がアリバイ推理を書くはずがない」。四畳半襖の目張りではなくて、トレーラーハウスの目張り密室である。こんな話。
さあ、マレー半島すちゃらかお大尽旅に出かけましたのは、いつものうまあいの二人組、わたいこと有栖川有栖と、むっつり火村でございます。今回は学生時代の友達やったハーフ・ジャパニーズ大龍が自分のゲストハウスに泊めてくれる云うんで、いそいそとマレー半島はキャメロン・ハイランドくんだりまで出かけましたところ、またややこしい事件に巻き込まれてしまいます。大龍と同業の日本人・百瀬虎夫はんの経営するハリマオ・コテージに宿賃のカタにほっぽかれたトレーラー・ハウスの中で、地元の若い衆がぶっすり刺し殺されまして、なんと、扉はおろか、窓という窓、隙間という隙間が荷造りテープで目張りされとりますねや。遺書も出てきたよってに自殺かと思いましたら、どうやらそれ程単純な事件やおまへん。今度は、その男と一悶着あった日本人の流れもんまで殺されてしまいます。ああ、もう、言葉は不自由やのに、おっちょこちょいのイギリス人日曜小説家がわてらに推理合戦を挑んできよるは、大龍は百瀬はんとこの右腕やった日置はんのお嬢さんにホの字やは、えらいアツいこっちゃで、これは。ええい大サービスや、おまけにダイイングメッセージもつけまっせ。さあ、読んでんか、当ててんか。
というわけでEQFCの猛者からの反論を覚悟しつつも、折角の長編国名シリーズなんだから、読者への挑戦を入れてもよかったんじゃないのかな?逆にいえば「双頭の悪魔」程の自信はなかったという事か?アリスせんせ。密室の解法は、先達の二人には及ぶべくもなく、舞台を見た途端にそれと見当がつく。殺人のためにする殺人、ダイイングメッセージのためにするダイイングメッセージと、ある意味では「本格推理」の王道を行く話なのかもしれないが、切れ味は今ひとつ。萌えの読者は火村とアリスの掛け合いが長々と続くだけで楽しめるのかもしれないが、石器でごりごり押し切られた感触の一編。絶叫城で見せた煌きは、南国の陽の下では些か色褪せたか、久々の本格推理長編であり、その意欲は高く買うが、総合的には努力賞。


2002年8月26日(日)

◆二日続けて別宅に本を持ち込み、整理を試みる。まずは、蛍光燈の付け替えから、というのが、別宅の別宅たる由縁である。ようやく原書をそれなりの収納にもっていくが、それでも本棚1本分が平積み状態。うへえ。これは、少しでも減らせるものは減らそうと思い立ってダンボール二箱分の漫画などをブックオフに売りにいく。これまでに何度となく買った経験はあるものの、売りに行くのは初めて。どきどきしながら「お買い取りの計算でお待ちのkashiba様」という呼び出しを待つ事30分。「大切な本をお売り頂きありがとうございます」なるマニュアル風挨拶を聞くのも初めて。都合、大切な本の代金は1920円也。一冊50円にもなりゃしない。捨てるには惜しいような、さりとて無理して運び込むほどでもないか、という微妙な値付けですな。
◆もう、当分本など買わんぞ、という気分になって帰宅すると、Amazonで買った本が届いていた。わーい、ドハティーだあ。
「A Haunt of Murder」Paul Doherty(headline)¥3,180
「A Tournament of Murders」Paul Doherty(headline)¥1,308
「The Treason of the Ghosts」Paul Doherty(headline)¥1,121
「The Slayers of Seth」Paul Doherty(headline)¥1,308
「The Godless Man」Paul Doherty(Caroll&Graf)¥2,696
しばらく版元切れだった「A Tournament of Murders」が復刊されたので、これでカンタベリー・シリーズも揃い。「A Haunt of Murder」が同じくカンタベリーものの最新作。「The Treason of the Ghosts」はコーベットもの、「The Slayers of Seth」は見ての通りのエジプトものの最新作、ドハティーもまた重厚長大化と無縁ではないのか、どちらも300頁級である。とても一週間では読めそうにもない。「The Godless Man」はアレキサンダー大王もの、ダリウス大帝と戦争をやりながら探偵もやるという話らしい。
今回の買い物で、ドハティーは55冊を突破。これは、私の持っている一人の作家の原書としては最大の数である。翻訳のあるビッグネームは原書を殆ど買わない主義なので、これまでの最高がロラック(+カーナック名義)の51冊。今後、ロードでも集める気にならない限り、将来的にもドハティーの最多数は動かないところであろう。年間にコンスタントに3冊は出てるもんなあ。
◆家計で念願の電子辞書を買ってもらう。結局シャープ製で、やたらと英語に特化した上級機種を選ぶ。なにせ英和がグランドコンサイスだ。これで出ない単語は「もぐり」である。いやあ、快適、快適。
◆遅れ馳せながら、WOWOWで録画しておいた「ギャラクシー・クエスト」を見る。死ぬほど笑う。これはトレッキー必見の爆笑・感動SF。凄い、凄いぞ、アメリカ人!チョット「暗黒太陽の浮気娘」を思い出してしまった。


◆「Murder in the Madhouse」Jonathan Latimer(No Exit Press)Finished
というわけで、私立探偵ビル・クレイン初登場作を読んでみた。ラティマーと言えば、日本で言えば戦前作家に属する大家にもかかわらず、映画はともかくとしてテレビのペリーメイスンのシナリオを書きまくり、刑事コロンボの脚本もやっていたというのだから、なんともその「軽さ」が頼もしい作家である。この作品は35年作というから、作者が20代の頃の作品。非常に天真爛漫なフーダニットであり、今では書き方の難しい「気違い病院」ものである。「宝捜し」趣味も満足させ、一種の不可能犯罪もあり、ネジの外れたキャラクターとしたたかな陰謀者たちを巧みにシャッフルして読者を眩惑する手際は後年あるを思わせる。すべてのドタバタの収拾をつけてはいない(読み落しかもしれないが)ものの、最後の最後まで、みっしりと「事件」のつまった読み応えのある作品といってよかろう。

リバーモア博士のサナトリウムに入院する事になった呑んだくれの私立探偵ウイリアム(ビル)・クレイン。伯父のスレイターが彼の健康を案じて、というか自分をオーギュスト・デュパンだと信じている甥を入院させた、ようである。噴水とプールのある広々とした敷地に到着したビルが、リバーモア博士とその同僚イーストマン博士の面接を受けている最中に、狼憑きの患者ラダムが騒ぎを起す。普段は開放されているが、厄介事を起す「ゲスト」は拘束棟に収容される仕組みのようである。今、収容中なのは8万$の債券の入った箱を盗まれたと主張するヴァン・ケンプ嬢。だが、彼女の警護こそ、ビルがこの病院に潜入した目的だったのだ。美人のエヴァンズ看護婦長、クレイトン看護婦、見てくれのいい看護士チャールズなどイケ面揃いの環境の中で、ピッツフィールド、リチャードソン、ブラックウッド、クイーン嬢、ブレイディ夫人、ヘイワース夫人、パクストン嬢、ペニーといった多彩な「ゲスト」との対面もすませたビルは、サナトリウムご自慢の映画療法の最中にこっそりと映写室を抜け出し、盗まれた箱を求めて、ゲストたちの私室を探索する。だが、そこで彼は、患者の一人ピッツフィールドが、赤いバスローブの帯で縊り殺されているのに遭遇してしまう。やがて病院中が大騒ぎになり、容疑は、なぜか拘束棟から脱け出していたラダムに向けられる。病院を上げた捕物騒ぎの中で、ビルは何者かに殴り倒されてしまう。庭を掘る影、静かに薫る脅迫状、降ってくる椅子、そして相次ぐ殺人。誰が一体何のために、害のない患者たちを殺すのか?いや、そもそも気違い病院に動機など必要ないのか?謎のダイイングメッセージの差し示すものとは?そして、ヴァン・ケンプ嬢の箱の行方は?理のない閉鎖空間で、颯爽と名探偵が犯人を指摘した時、最後の殺人の容疑は探偵自身に向けられる。

前半はゲストとスタッフが次々と登場するのと矢継ぎ早の展開についていくのがやっと、という感じだが、二つ目の殺人が起きたあたりから、ようやく筋を楽しめるようになった。登場人物が多い割りに書き分けができていないのではっきりいって誰が誰でもよくなってしまう話である。殺人を巡るプロットや宝捜しについての明察は、なかなか読ませるし、最後の最後に華麗な不可能犯罪を用意したところは評価できるが、やや整理の悪い話。それでもクレイトンの飲みっぷりと名探偵ぶりはなかなかのものであり、今なお読むに足る話といえる。


2002年8月25日(土)

◆奥さんがピアノに明け暮れる一日なので、意を決して別宅に本を放り込みに行く。まずは、本宅の方の整理から。既にBクラスが見えてきた阪神が威勢のよかった頃のデイリースポーツをばっさり捨てる。抜本的に袋詰めにしていたままの本も取りだして、別宅送りの山を作る。うへえ、こりゃあ1回じゃとても無理だわ。作業をしていると、とある袋の底から「別冊シャレード」の天城一特集3が出てくる。あっれえ?これって、完全に買いそびれたと思ってパニックしていた号じゃないのさ。現時点での探求書のトップに上げてる本だよ。またしても自宅で血風かあ。めでたさも中くらいなりおらが棚
◆お昼はレトルトのタイ・カレー。これがレトルト離れしており非常に美味。先日から奥さんともども嵌まっている次第。値段も手頃で、とにかく味が本格的。お申し込みはこちらまで。
◆夏がぶり返す中、ひいこら言いながらハードカバーを中心に60冊程度の本を別宅に搬入。来るべきROM宴会二次会に向けて、原書を見場よく並べようと、ビデオテープをダンボールに突っ込み、空いたスペースに本を並べる。これだけの事で2時間が経過。昔は、アニメをこまめにチェックしていたのだが、15年以上も前のアニメなんぞ、絶対見ないよなあ。本当に見たければDVDやら、CSやら幾らでもアクセスの方法はあるもんなあ。今はこのスペースの方が貴重なんだよね。と、とりあえず、本棚1本分の前面が原書になったが、裸本が9割なので色気のない事おびただしい。あ、こんなところからラティマーの「Murder in the Madhouse」のハードカバーが! うぬぬ、先日、羊頭書房でペーパーバックの復刊を手に入れて喜んでいた私が馬鹿でした。ごめんね、オーツカさん。
◆埃に塗れて汗だくになって、今日はもう1冊も本は買わんぞ!特に原書はご勘弁だ!と思って帰宅すると森さんから送本。
「The Newtonian Egg Peter Godfrey(C&L Lost Classics)15$
うひゃあ、やっと届いたああ。直接注文した人に遅れる事半年、やっと南米の不可能犯罪作家の作品集をゲットだぜ。万歳!万歳!ありがとうございます。
◆「SRマンスリー」最新号を別宅から回収。今回は横溝正史特集。まあ、横溝正史については、何もSRが今更、という感じがしなくもない。というか、他で幾らでも専門家がいらっしゃる訳で、「とりあえず特集してみました」というレベル。ネットの情報の方が全然上。


◆「殺意は幽霊館から」柄刀一(祥伝社文庫)読了
天才・龍之介シリーズの第三作。「日頃の居候の御礼に」と龍之介持ちで、相模湾沿いの温泉地に出かけた私こと天地光章と我らがマドンナ長代一美の素人探偵トリオ。ここでも天才の従弟はフロントで起きた「見えない客」事件を、鮮やかに解決してみせる。だが、軽い頭の体操の次に控えていたのは、近くに建つ廃ホテルでの幽霊騒ぎ。青い光の瞬く中で、三階の窓から女性の幽霊が浮遊していくのを目撃した私たちは、「肝試しのイベントか?」と合理的な解決を求めて「幽霊館」におっかなびっくりで乗り込むのだが、そこには更なる怪異が待ち受けていた。なんと私の目前で三階の窓から転落した筈の女性の姿がその一瞬後には、どこからも掻き消えてしまったのだ!そして長い墜落の果ては、脱輪車だけが知っていた。
天地龍之介、オカルト・ミステリに挑む。本筋の殺人に纏わるトリックは、トリックのためのトリックで、余り感心しなかったが、それでも必然性があるところが偉い。まあ、鮮やかさでは浮遊する女幽霊や「見えない客」といった脇筋の解法の方が上手。でも400円文庫に、これだけのトリックを惜しげもなく突っ込むところが、さすがは平成のトリック工房・柄刀一である。オカルトを合理的に解決したところで、じわりと即物的な恐怖が鎌首をもたげるのはカーの「妖魔の森の家」を彷彿とさせて吉。
あと、どうでもいい事だが、表4の梗概で「相模湾」が「駿河湾」になっているのは頂けない。編集の人は、ちゃんと中味をよく読んでから梗概を書いて頂きたいものである。危うく、写しちゃうところだったよ。


2002年8月23日(金)

◆あ、28万アクセスに載ってました。毎度ありがとうございます。
◆フーダニット翻訳倶楽部で精力的に古典の原書を読んでいる青縁眼鏡さんって、御存知「小林文庫」は黒猫荘55号室の住人でいらしたのね。んでもって、ご自分のサイトもオープンされていたのね。で、日記を読んで、更にビックラこいた事には、一男一女のお母さんだったのね。どっひゃああ。「クラシックミステリ好き」の「原書読み」=男性という思い込みに支配されておりました。失礼をば、ぶっこきました。
◆一駅途中下車して定点観測。棚を見て唖然とする。最新刊を除く国書の探偵小説全集の完本揃い(34巻分)から新樹社、原書房などの古典翻訳がずらりと並んでおり、相当のマニアが放出したのだなあと見とれる。オール半額。うーん、余程の事情があって手放したんだろうなあ。もしかして亡くなったのかな?それとも、同じぐらい翻訳ミステリが好きなもの同士で結婚したのかな?などとあれこれ考える。ポケミス棚はポケミス棚で「雪だるまの殺人」やら「パンチとジュディ」「恐怖は同じ」を初めとするカーの復刊がズラリ。そのラインナップは実に本格ど真ん中なのだが、全て新しい版というのが妙に「昨日今日のマニア」って感じ。はああ、これはこれから集めようと云う人には極楽状態だねえ、と溜め息をつきながら、買ったのはこんなところ。
「怪盗ゴダールの冒険」FAアンダースン(国書刊行会:帯)1000円
「マレー鉄道の謎」有栖川有栖(講談社ノベルズ:初版・帯)450円
d「姑獲鳥の夏」京極夏彦(講談社ノベルズ:初版・帯)450円
「はぐれ刑事純情派 贋作画殺人事件」篠崎好(勁文社)300円
d「ヴォスパー号の遭難」FWクロフツ(早川ミステリ文庫)100円
d「西武池袋線ラブストーリー」矢崎麗夜(講談社X文庫:帯)100円
d「贋作展覧会」Tナルスジャック(ポケミス)100円
「ジェームズ・ボンド」Jピアーソン(立風書房)300円
新刊で買うつもりだったゴダールと有栖川を半額ゲット。とにかく美本だ。京極夏彦の記念すべきデビュー作の初刷りも信じられない美本。所持本も初版・帯だけど、10人ぐらいに「面白いから読め!」と回しているうちに薄汚れたり帯が傷んだりしてしまったので、保存用に買い増し。はぐれ刑事純情派のノベライズは今は亡き勁文社刊行だし、ノベライズが出ていた事も知らなかったので発作買い。矢崎文庫は帯狙い。うーむ、帯があったのかあ。立風のボンドものは、由緒正しいパスティーシュ(なのか?)。なんとなく勢いで買ってしまった。給料日のお買い物としては満足満足。


◆「幸せな家族〜そしてその頃はやった唄」鈴木悦夫(偕成社)読了
1989年12月に刊行されたジュヴィナイル。作者は児童文学家でシナリオや作詞も手がける人(らしい)。この小説は「鬼ヶ島通信」という同人誌に6年間に亘って連載された長編推理小説。これだけ長期間にわたり、一つのミステリを書こうという根性には正直な所アタマが下がる。存在そのものが「伝説」の資格があるミステリかもしれない。先日、大熊さん迎撃オフの際に、「なんでも知っている」葉山響さんから「また、渋いところをkashibaさんに買われちゃいましたねえ」と言われたので、どうやら本当に「知る人ぞ知る」<ちょいめず>なミステリらしい。こんな話。
これからぼくが話すのは、ある「幸せな家族」の話。というか、ぼくの家族の話だ。その幸せな家族の最期の生き残りの話を、どうぞ聞いてください。はじまりは1年前。父さんの友人のCMプロデューサーが、我が家に持ち込んだある企画。保険のCF用に、1年間掛けて「幸せな家族」の日常を撮り続ける、というその企画は、ぼくにはとても魅力的なものに思えた。有名なカメラマンの父、優しい母、美しい姉、利発な兄、そしてぼく。だけど、父が密室状態の自分の部屋でカッターで刺し殺された事から、企画は立ち消えになり、幸せな筈だった一家はゆるゆると壊れて行ってしまう。そして、次は兄が台所で事故死する。それは、その頃にはやった唄そのままの出来事。ああ、どうして、こんな事になってしまったのだろう? みんな幸せを守りたかった筈なのに。傷ついたココロ、見通した破滅、口ずさむ殺意。退屈だろうか、こんな話は?
不可能犯罪二種盛りの技巧派ジュヴィナイル。読後感の悪さは天下一品。見立てであるにもかかわらず、「その頃はやった唄」の歌詞が紹介されるのは本当にラストになってからという構成が、イライラを加速する。更に、その歌詞がなんとも陰隠滅滅とした出来損ないで、誰がこんな唄うたうねん!と突っ込みたくなる事間違いなし。この詩のセンスの悪さは、つのだじろう版の悪魔の手毬唄を彷彿とさせる。ジュヴィナイルでありながら、歪な愛のかたちが全編を支配しており、楽しくないこと夥しい。ゲテモノが好きな人は是非どうぞ。


2002年8月22日(木)

◆以下は、膳所さん向けの話題。
「本の雑誌」のネタにならないかと警部マクロード本について調べ初めたところ、書痴の迷宮に迷い込んでしまった。実は、マクロードのノベライズは、アメリカで6冊、日本で5冊が出版されており、翻訳者が翻訳者だけに(井上一夫)、刑事コロンボ本などとは異なり、アメリカ版ノベライズを律儀に前から順に訳してきて、たまたま6冊目が未訳になっているものと思い込んでいたのである。

「これが、とんでもない間違い!」(古舘伊知郎)

まず、アメリカ版はこうである。

McCloud # 1 /Wilcox, Collin
McCloud # 2 The New Mexico Connection/ Wilcox, Collin
McCloud # 3 The Killing/Wilson, David
McCloud # 4 The Corpse Maker/Wilson, David
McCloud # 5 A Dangerous Place to Die/Wilson, David
McCloud # 6 Park Avenue Executioner/Wilson, David

で、日本版は、こう。

警部マクロード1:殺し/ディヴィッド・ウイルスン/二見書房/1974
警部マクロード2:ニューメキシコの顔/ディヴィッド・ウイルスン/二見書房/1975
警部マクロード3:消えた死体/ディヴィッド・ウイルスン/二見書房/1975
警部マクロード4:裏町の怪盗/ダグラス・ヘイズ/二見書房/1975 
警部マクロード5:コロラド大追跡/マイケル・グリースン/二見書房/1975 

もう、作者からして全然違うではないかっ!! アメリカ版の最初の2冊は、あの文春文庫のへスティングス警部シリーズで有名なコリン・ウィルコックスがやっていた事に、改めて驚く。ほほう、そうだったのね。
ここで、日米の相関を見ると、おそらくアメリカの第3巻が日本の第1巻に、アメリカの第4巻が日本の第3巻に当たりそうである。問題は、日本の第2巻とアメリカの第2巻の関係である。たまたま「ニューメキシコ」という言葉が共通しているだけで別物なのか?アメリカでウィルコックスが担当した「The New Mexico Connection」が、コロンボにおける「死のクリスマス」「13秒の罠」のような、探偵の設定だけを借りたオリジナルストーリーかとも思ったが、http://epguides.com/McCloud/で調べると、「The New Mexico Connection」と題したエピソードは、ちゃんと存在しており、72年の10月1日放映、(パイロット版を含めて)第15話、第三シーズンの第1話に相当する模様。
一方、ミステリチャンネルの7月放送分のメニューによれば、「ニューメキシコの顔」は18話にらしいが、まあ、日本の放映順は、あてにならないのでこの際どうでもよい。これは何としても日本語版に当たる必要があると、先日「消えた死体」を買った神保町の富士鷹屋古書店に行って日本語版「ニューメキシコの顔」を買い求めた。

原題データのところにはこうあった。
「The New Mexico Connection」
そして、作者は、David Wilson !!

おおお、そんなアホな!

一体何を騒いでいるかというと、

「従来、80年に文春文庫で登場したとされるコリン・ウィルコックスは、実は、既に75年に、デヴィッド・ウィルスンと取り違えられて、マクロード本が訳出されていたのではないか?」

という事なのである。

なにせ、相手は「あの」二見書房である。何があっても不思議ではない。そもそも、第4巻「裏町の怪盗」、第5巻「コロラド大追跡」はコロンボ本と同様の<脚本起し>である可能性が高く、作者名は「脚本家」の名前でなのある。

これって、知っている人は知っている話なんでしょうかね?

以下に、ご参考まで、判った範囲で、日米ノベライズの元エピソードのタイトルを記載しておく。

McCloud # 1/Wilcox, Collin
episode title:?

McCloud # 2 The New Mexico Connection/Wilcox, Collin
episode title:The New Mexico Connection

McCloud # 3 The Killing/Wilson, David
episode title:Butch Cassidy Rides Again

McCloud # 4 The Corpse Maker/Wilson, David
episode title:The Solid Gold Swingers

McCloud # 5 A Dangerous Place to Die/Wilson, David
episode title:The Barefoot Stewardess Caper,

McCloud # 6 Park Avenue Executioner/Wilson, David.
episode title:Lady on the Run


警部マクロード1:殺し/ディヴィッド・ウイルスン/二見書房/1974 
episode title:Butch Cassidy Rides Again

警部マクロード2:ニューメキシコの顔/ディヴィッド・ウイルスン/二見書房/1975
episode title:The New Mexico Connection

警部マクロード3:消えた死体/ディヴィッド・ウイルスン/二見書房/1975 
episode title:The Solid Gold Swingers

警部マクロード4:裏町の怪盗/ダグラス・ヘイズ/二見書房/1975 
episode title:The Million Doller Roundup

警部マクロード5:コロラド大追跡/マイケル・グリースン/二見書房/1975 
episode title:The Colorado Cattle Caper

◆神保町で5冊。
「警部マクロード/ニューメキシコの顔」Dウィルソン(二見書房)600円
「警部マクロード/コロラド大追跡」Mグルースン(二見書房)600円
「女のいる迷路」多岐川恭(桃源社)700円
「射殺の部屋」多岐川恭(桃源社)500円
「許婚者」水芦光子(東都書房:函・元パラ)100円
マックロードはダブりの可能性もあるが、とりあえず資料代と割り切って買い求める。難物と噂される桃源社の多岐川恭・短篇集が一気に2冊前進は嬉しいところ。進む時は進むものである。水芦光子はどうみても推理小説ではなさそうであるが、44年前の本が函・元パラ100円なら拾うよなあ。
◆近所で1冊。
「コナン・ドイル」ジュリアン・シモンズ(創元推理文庫:帯・初版)150円
買いそびれていた1冊。なんと帯を剥がすと、そこには懐かしい「はてなおじさん」マークが。なんだか、得した気分である。


◆「恐怖に濡れて」松井永人編(双葉文庫)読了
今から、もう25,6年前になろうか、漫画出版界の片隅から「三流エロ劇画」のムーブメントが起きた。ダーティー松本や羽中ルイや飯田耕一郎あたりの絵が血沸き肉躍る淫欲の宴を彩ったものである。まあ、個人的にも色々と「お世話になった」わけではあるが、それはともかく、自動販売機売りの三流エロ劇画誌は隆盛を極め、「三流エロ劇画」の中での序列が形成され、漫画大快楽やら漫画エロジェニカやらの三流の中での一流誌が生まれる一方で、三流の中の三流的な雑誌もカゲロウのように生まれては消えていった。そういう本の埋め草に、95%は健全な青春劇画でありながら、突如何の脈絡もなく、男女の絡みを挿入された作品が混じることがあった。要は、表舞台の青年漫画誌からは相手にされず、「まあ、エロを入れてくれれば使えなくもないけどね」という理由で、無理やりエロ漫画に改造された漫画だったのであろう。このアンソロジーを読んで、一番最初に、そういった類の漫画を彷彿とした。いやはや、朝っぱらから物哀しい想いをさせてくれるものである。エロシーンは勿論、女性のヌード写真までが意味もなく挿入されるんだわ、これが。いやはや、なんとも。以下、ミニコメ
「プライベートラボ」(桜庭りえ)烏を殺す女。懐かしい微笑が洩れるとき、警官は雄に堕ち、悪しき記憶の隅でちりちりと快感が臓腑を貫く。二重底の医学系ホラー。導入部から、驚愕のラストまで、エロに必然性を持たせながら性と死のサバイバル・ゲームの顛末を活写した。個人的にはこの作品集のベスト。
「怖い女」(石川真介)外国から美しい母が帰ってきた時、シンデレラの時間は終わる。向かい合わせの殺意が牙を剥く時、霊たちの宴は生者の営みの裏側で始まる。やりたい事は判るが、これは無理目。焦点の呆けた復讐譚になってしまった。
「淫薬のアトリエ」(芦川淳一)美女たちの深情け。演出されるストーカー。淫らな誘惑は独占を宣し、抜け殻の股間で蜘蛛はほくそえむ。これは見え見え。エロも浮いている。
「悪者」(矢島誠)開業医に婿入りした男の性の遍歴は、幾つものおんなの死体で舗装される。淫楽の果て、策謀の終焉、ああ、妻の笑顔に勝るものはない。終わってみれば典型的な顔のない死体もの。まさかと思ったが、それだった。中年男の欲望が立ち込めたエロ推理。
「死霊祭」(松井永人)東京オリンピックの年。故郷に一人で帰ってきた娘が見舞われた剥き出しの悪意。それは黒い闇の記憶。殺したのは誰?殺されたのは誰?禁忌の村で奇祭の火は燃えさかる。編集人の作品が最もエロが唐突で、しかも話は迷走し、言葉づかいも不自然。全くダメダメな話と言い切ってよかろう。


2002年8月21日(水)

◆週の半ばではあるが、義弟殿が帰省しているので、奥さんの実家で寿司パーティー。
就業後ダッシュで帰る。それでも駅のワゴンで本を買う。
d「からくり砂絵」都筑道夫(角川文庫)200円
よし、角川都筑道夫一歩前進。M10。
◆昼はメッセの大恐竜展に行っていた義弟殿から、トリケラトプスの頭骨のレプリカを見せびらかされる。おお、凄い重量感に質感!! これは気色よろしい。でも、値段を聞いてのけぞる。6せんえーーん、だとお?これに?え?ううむ、独身貴族めええ。
◆のみ過ぎました。サイト主宰者急病につき、本日のサイト更新はございません。


◆「壜の中の手記」Gカーシュ(晶文社)読了
はい、はい。はい、今週は、普段よりも張り切って藤原本を消化しております。というわけで奇想天外作家ジェラルド・カーシュの短編集を読んでみた。カーシュの作品集はこれで3冊目。つまり「豚の島の女王」はこれで再々読。確かに傑作だし、前の二つの短編集は入手絶望領域なので、編集者としてこの作品を採りたくなるのは理解するが、今度は、この本が生きているうちに次の短編集が出る事を期待したいものである。このままでは、日本におけるカーシュの評価は「万年<1巻本傑作集>作家」である。今回、詳細な西崎解説を読んで改めてこの作家が精力的な作家であった事を思い知らされた訳だが、「奇抜なアイデアストーリーを丹精こめて世に送り出した寡作の奇想天外作家」というイメージが払拭されるのは、いつの日か?永遠の異色作家短編集<第4期>筆頭作家に黙祷しつつ、以下ミニコメ。
「豚の島の女王」四肢のない教養人の美女、心優しき巨人、こすっからい二人の小人、フリークスが流れ着いた孤島で、生の秩序が築かれ、滅びるまでを淡々と描いた奇譚。これぞ、短編小説。日常を超越したドラマは、いつまでも鮮烈に心に響く。
「黄金の河」西洋狸賽モノの異郷冒険譚。めくるめくいかさま勝負の果てに掴んだものは金。最後まで余韻を残しつつ、語り部は静かに退場する。全てが作り物であるにも関わらず、どこか懐かしい。
「ねじくれた骨」囚人の語る数奇な一代記。男を枯らす女。自棄の果てに辿り着いた冤罪の楽園。そして男は聖者に向う。練りに練った、灼熱の下の昔語り。なんと納得のいくラストか。
「骨のない人間」再読。異郷探険もののアイデア・ストーリー。おぞましき姿の怪物が主張する権利とは?なるほど、そう来たか。こいつあ、セブンだ。
「壜の中の手記」再読。アンブローズ・ピアスの最期が綴られた手記。時を越えた超人に迎えられる高潔な魂。清浄の地で研ぎ澄まされた感覚は、エデンの罠を見抜く。失踪した大作家に相応しい皮肉なシャングリラもの。表題作だけの事はある。
「ブライトンの怪物」再読。17世紀、イギリスに漂着した刺青の怪物の正体とは?改めて、この作家が戦後に活躍していた事を思い知らされる「怪物物語」。我々にとって、最もショッキングな一作。
「破滅の種子」再読。有能な骨董商の生んだ伝承は、次々と所有者の運命を呑み込みながら成長しつづけ、鮭の如く生まれた場所に戻ってくる。リドルなオチに唸る完璧なアイデア・ストーリー
「カームジンと 『ハムレット』 の台本」生き馬の目を抜く古書売買の裏側。ビブリオで、アンティークで、コン・ゲーム。素人は近寄ってはいけない世界がそこにはある。
「刺繍針」ハウダニットを語ったばかりに退職に追い込まれた刑事の一人語り。頭蓋骨に刺繍針を打ち込まれた死体は、いかにして製造されたのか?慧眼は墓穴を掘る。
「時計収集家の王」露西亜王室奇譚。天才時計師が時計収集狂の露王に仕えた時、運命の歯車はまやかしの時間に向って時を刻む。王を笑い、権威を笑う、20世紀の伝説。
「狂える花」マッドサイエンティストが精製された悪意を試験管から解き放つ時、野辺のパンドラは、人間に復讐を始める。それは、いつか見た悪夢。今、紅蓮の裁きを。これもマッドサイエンティストものとして王道の展開。
「死こそわが同志」堂々たる一代記。肥大化した兵器産業が見た終末の風景。諍う者どもに無の恩寵を与える死の商人、その生き様は凄まじく、その死に様は、瘴気にまみれた爆発の記録。全編に横溢する死に至る皮肉。人間の愚かさを笑い倒す力作。これが表題作でもよかったかも。