戻る


2002年7月31日(水)

◆あ、暑い。今日は本当に暑かった。朝の8時から30度だもんなあ。少し酒が残った状態でのウォーキングで、体中の水分が抜けきったかと思うぐらい大汗をかく。会社に行くだけで疲れててどうする?
◆定点観測。ブックオフで安物買い。
「日曜日の沈黙」石崎幸二(講談社NV)
「暗闇の中で子供」舞城王太郎(講談社NV)
「硝子細工のマトリョーシカ」黒田研二(講談社NV)
「名探偵正太郎の冒険1」柴田よしき(光文社NV)
「ベルゼブブ」田中啓文(徳間NV)
「陰の季節」横山秀夫(文春文庫)
「夏合宿」瀬川ことび(角川ホラー文庫)
「名探偵はここにいる」(角川スニーカー文庫)
「フラッシュフォワード」RJソウヤー(ハヤカワ文庫SF)
「ベラム館の亡霊」Sクラヴァン(角川文庫)
「ワトソン君、これは事件だ」Cブルース(角川文庫)
「サンタクロースはめいたんてい」MBクリスチャン(大日本図書)
オール均一価格。最後のジュヴィナイルが初見。「めいたんていスーパーわん」という全6巻シリーズの第5巻だそうな。世の中にはまだまだ知らない推理小説がいっぱいあるもんだ。


◆「死体のささやき」中田耕治編(青弓社)読了
中田耕治編の60年代異色作家集。いわゆる「奇妙な味」系のアンソロジー。翻訳を弟子たちに分担させるお馴染みの翻訳工房システム。まあ、動機はどうあれ日本語で読めるんだから文句は申しません。8編収録。以下、ミニコメ。
「テラスからの眺め」(Mマーマー)家庭を顧みない夫の転落死。テラスから眺める地獄の風景。ゲームの顛末は、決して明かしてはいけない。妻の一人語りで綴った鮮やかなショッカー。爽やかな空気が薫る殺人現場の描写が沁みる。
「女、女、また女」(CBギルフォード)母性本能を強烈に刺激する男が、女から逃げて、逃げて、逃げ回る。「加護の鳥」となった男が仕掛けた逆転のエクソダスとは?刑務所で始まり刑務所で終わる物語。この主人公には、心から同情してしまう。個人的にはこの作品集で最も印象的な作品である。
「住宅問題」(Hカットナー)幸運にして横暴な店子が、飼っているものの正体を覗いてしまった夫婦もの。果して、鳥篭の中にあったのは?しあわせになりたい。なるほど、しあわせかもしれない。作者らしい不思議譚。一見荒唐無稽な話を読ませてしまう筆力はさすがカットナー。
「ショップ・ボトル」(Tスタージョン)二度とは辿り着けない奇妙な店でいびつな店主から授かった才能。使用法をよく読んでお使いください。幽霊が見えてしまうようになった男の困惑と成功、そして傲慢ゆえの悲惨な結末を軽快なタッチで描いた異才の真骨頂。奇妙な味はかくありたい。
「消えたアメリカ人」(Cボーモント)同僚からも、家族からも存在を認識してもらえなくなった男。だが、前兆はあったのだ。自省の果てで、彫像に鼓舞される心。おかえりなさい。現代版透明人間を活写した作品。ありがちのネタを感動の物語に昇華させる、この作者もまた練達の小説家。
「真夜中の訪問者」(FJオブライエン)それは、真夜中にやって来る。友人と二人で捕まえた「それ」の正体とは。見えない「それ」との闘いと静かな結末を淡々と描いた不思議小説。あれは一体なんだったんだろう?まあ、それだけの話。「奇譚」なのである。これでいいのであろう。
「かばんの中身をたしかめろ」(Hエルスン)熱い街での命のやりとり。かばんに仕込まれた美味い話と動く罠。平凡なクライムストーリー。何を今更なお話。凡作。
「ボーダー」(SSテイラー)富豪の若妻の誘惑。男は吸い寄せられるように愛欲の褥で殺人計画を吹き込まれる。完璧な計画、沈着な実行、そして驚愕の応報。悪女ものの展開だが、ラストは意外な方向から来た。よくある夫と妻に捧げる犯罪。


2002年7月30日(火)

◆宴会の幹事役。酔った勢いで無理矢理1冊。
「三つ首塔」横溝正史(角川文庫:帯)200円
帯はTBSの横溝正史シリーズの帯。ううむ、鞄を開けるまで買った事を忘れていた。何買ってんだか。


◆「海の呪縛」弘田静憲(文藝春秋)読了
オール読物新人賞作家が(今のところ)唯一残した長編推理小説。謎宮会の戸田さんがチョイメズで取り上げた(筈な)ので、知っている人は知っているお話。昭和53年の作品とも思えない、楷書体の社会派推理小説。素晴らしく「松本清張」である。
金大中拉致事件をなぞった国際謀略を軸に、婚約者の死と失踪した父の謎を追うヒロインと、父の遺志を継いで30年前の冤罪事件の真相を探る青年が交錯し、戦後日本の裏側で繰り広げられる暗闘に巻き込まれる。今、日本海の碧は歴史の闇に溶ける。てな話。
とにかくその丁寧な仕上げに驚く。決して書き急ぐ事のない筆致は、新本格推理を読み慣れた目には、さながら小説教室の御手本のように映る。なんとも懐かしい密度である。丁度、内田康夫の「死者の木霊」で感じた密度、といえば御分かり頂けようか。「この一作」に賭ける意気込みがよいのだ。典型的な巻き込まれ型サスペンスでありながら、スパイものが苦手な読者も引っ張っていく力がある。ヒロインがそれまで当たり前のものとして受け止めてきた日常がさらさらと崩れていく過程がなんとも哀切にしてスリリング。国とは何かを追求したスリラーであると同時に、父とは何かを問う良質の人間ドラマでもある。
ただ、終盤やや御都合主義が顔を覗かせ、バタバタと終わってしまうのは残念。非情に徹する事ができなかった分、作者も真犯人も敗北してしまった。もはや復刊は望むべくもない小説ではあるが、社会派推理最末期に現われた最後の「大型新人デビュー作」としての意義はある。松本清張がお好きな人はどうぞ。


2002年7月29日(月)

◆定点観測で一冊。
「愛こそすべて」胡桃沢耕史(勁文社)100円
秘密諜報員07号シリーズ第7巻。これでとりあえず、勁文社が復刊した7巻分は揃った。後は浪速書房版の9巻、10巻かあ。これは相当の僥倖と根性がなければ遭遇できないだろうなあ(遠い目)。
◆原稿の裏取りに別宅へ。と、先日の地震で、翻訳書コーナーが惨たらしい事になっていた。破れるところまでいかないが、平積みしてあった創元推理文庫のブラウンとアルレーにかなりのダメージ。あちゃあ。
◆泣きながら片付けて、土曜日に買ったマクロードと横溝正史がダブリでないかをチェック。まず、正史はあっさりダブリである事が判明。しくしく。なんとM2のつもりがM1だったのである。覚えておけよな、そんな事ぐらい。
で、次にマックロードを捜すのだが、これが一向に出てきやしない。軽い気持ちで「ついで買い」していた本なので、どこに積んでおいたのか皆目見当がつかないのである。20分ぐらい探索するが諦めてしまう。とりあえず、M4に針を戻すのか?粗雑に本を扱うと本から復讐されるのである。しくしく。
◆別宅で回収した新宿伊勢丹大古本市のカタログをパラパラ流し読む。文生堂の「探偵倶楽部」5冊欠け100冊45万円は、少しそそるものがあるが、今となっては手が出ない。しくしく。@ワンダーの「十二人の抹殺者」も凄い値段ですのう。逆に奇想天外揃い5万円は非常に御買い得。不思議な値付けをするなあ。


◆「警部マクロード3・消えた死体」Dウィルソン(二見書房)読了
ロナルド・ノックスとボアロー&ナルスジャックとディヴィッド・ウィルソンの共通点を挙げなさい、というのは、意地悪問題に使えるかもしれない。勿論、3名(というか4名というか)とも「消えた死体」の作者である。
警部マクロードは、コロンボ偏愛主義の中坊時代には興味を持てず、「婦警さん役のテリー・ガーが可愛かったなあ」(なぜか古本者にこの傾向が強い)とか「宍戸錠のアテレコって珍しいかも」といった緩い感想を抱いた事ぐらいしか記憶に残っていない。署長マクミランの方はホックのレオポルド警部ものを原作に使った本格推理の回もあったのでそれなりにフォローしていたのだが、ニューメキシコはタオス出身のカウボーイ警官には、NBCミステリーアワー三人衆の中で一番低い評価しか与えてこなかった。ところが、この作品を読んでみて、さすがにアメリカ製の刑事ドラマは、一定の水準はクリアしているのだなあと改めて感心させられた。
マックロードが、偶然向いのビルから発見したバルコニーの死体。その豪華マンションの一室に飛び込むや、中では、上院議員や歌手、フットボールのスターらが美女たちがパーティーの真っ最中。一旦は、バルコニーに横たわる美女の死を確認したマックロードだったが、事情聴取の間に、なんと死体が消えてしまった。上院議員によってもみ消される事件。だが、それはコールガール連続殺人事件の序章に過ぎなかった。頭痛持ちの殺し屋の手によって一人また一人と抹殺されていく美女たち。コールガール組織を内偵していたマッキー警部と衝突しながら、真相に迫るマクロード。脅迫と殺人の連鎖の果てに見た欲望の構図とは?
死体のトリックが秀逸。禁じ手を使いながらも、意外性を追求したプロットに脱帽。なんだ、面白いじゃないか。これがマクロードの水準だとしたら、とんでもない勘違いをしていた事になる。井上一夫の翻訳もしっかりしていて、実に安心して読める。更に「マンハッタン無宿」と「マクロード」「ダーティー・ハリー」の関係を解いた訳者あとがきもナイス。他の作品はいざ知らず、これに限って言えばマクロードは米警察小説の佳作である。


2002年7月28日(日)

◆朝から日記と感想書き。こればっかりである。昼からは「本の雑誌」の原稿をボチボチ書き始める。資料が手元にないまま書き進んでいるので、手間のかかる事、かかる事。
夕方から、奥さんと電子辞書を選びに、ヨドバシへ。あれこれ目移りしまくり、結局カタログだけ貰って帰ってくる。奥さんが「4年前に買った機械でとりあえず試してみれば」と実家から持ってきてくれるが、これが噂通りの「バカ子ちゃん」でとてもドハティーを読む時の足しにはならない。同じく奥さんが実家から借りてきてくれた義母さんのSEIKO最新機種は非常に快適。「修道士のための小部屋」だの「薬草屋」だの普段使わない単語がびしびしヒットして助かる。こりゃあ、辞書よりも数倍早いや。やっぱり電子機器の世界で4年前というのは石器時代だよな〜と感心する事しきり。あ、このパソコンもそろそろ4年か、、がつんがつん。


◆「Nightingale Gallery」 Paul Harding(Morrow)Finished
ドハティーが別名義で放つ修道士アセルスタンのシリーズ第1作。結論から言うと、これこそが噂に聞いていたカーの後継者としてのドハティーの神髄か、と唸った。「密室で毒殺されていた男。その部屋に通じる廊下は<鳴く>細工が施されており、誰も近づけない」という謎を柱に、宝捜し趣味を盛り込み、秘密結社の影をちらつかせ、飛びっきりのオモシロ読み物に仕上げた作者のエンタテイナーとしての才能に感服。探偵役の二人、修道士アセルスタンと検視官クランストンのコンビがこれまた好対照で楽しい。いやあ、よく出来てます。ヒュー・コーベットがエドワード1世の密偵として13世紀終盤から14世紀初頭に活躍したのに対し、ベネディクト派修道士アセルスタンは、エドワード3世が亡くなりその孫にあたるリチャード2世が即位した14世紀終盤に登場。こんな話。
1377年、賢王と言われたエドワード3世が色に狂って晩節を汚し、その息子エドワード黒太子の後を追うようにこの世を去る。王位に就いたエドワード黒太子の息子リチャードは、即位当時僅か10歳の少年。幼王を後見するのは、エドワード黒太子の弟であり王の叔父に当たるジョン・オブ・ガーント(ランカスター公)。フランスとは果てしなき百年戦争でイングランドの国力が疲弊の極みにあった頃、アンセルタン最初の事件は起きた。 季節は春、処は倫敦。王家の信任厚かった銀行家トマス・スプリンガル卿が豪奢な自宅の寝室で毒殺される。そして、その犯人と目された召使ブランプトンは、首を吊って自殺。だが、この開幕即終結した筈の事件には、不自然な点があった。現場の検死を行った国王の検死官ジョン・クラストン卿と彼の補佐を務める修道士アセルスタンはブランプトンの「自殺」と、その翌日ロンドン橋で首を縊ったスプリンガルの使用人ヴェッキイの「自殺」に、小さな矛盾を発見し、二つの「自殺」が殺人であったことに気づく。それは、とりもなおさず、スプリンガル卿の毒殺も、見かけ通りの単純な事件ではない事を示す。だが、現場は内側から鍵の掛かった完全な密室。毒物が検出されたワインをブランプトンが持って上がって以降、一夜明けて死体の発見に至るまで誰も卿の部屋に近づいたものはいなかった。というのも、寝室に続く「小夜鳴鳥の柱廊(ナイチンゲール・ギャラリー)」は、人が歩けばキイキイと鳴く仕掛けが施されており、眠りの浅い卿の母アーメンギルドは、その夜、何の物音も聞かなかったというのだ。果して、スプリンガル卿の死を望む者は誰か?彼の妻イザベル、弟リチャード、チェスの友人クリスピン師、アリンガムにバッキンガムといった使用人たち。やがてアセルスタン達の探索は、なぞなぞ好きの故スプリンガル卿が遺した「靴屋が真実を知る」という言葉に行き当たる。それは彼の立身の鍵の在処を示しているのか?巨大な邸宅を覆う秘密結社「探究の息子たち」の影。そして新たなる密室での毒死。聖体祝日(コーパス・クリスティ)の祭の準備が整う中、聖書が指し示した解決とは?探索と陰謀の物語は幼王の御前でチェックメイトを迎える。
主人公の修道士アセルスタンは、富裕な農家の出であったが、兄ともどもエドワード黒太子のフランス遠征に参加。そこで一家の跡取りたる兄を戦死させてしまい、両親は失意のうちにこの世を去る。そしてアセルスタンは戦争にロマンを感じていた自分を許せぬまま僧職の入り、自らを罰するように貧しい教区での務めに精を出す。今は、猫のボナベンチャーと二人暮らし。教会の関係者から愛されて、そして、彼自身は教区の娘ベネディクタに仄かな恋心を抱いている。
一方の検死官クランストン卿は、巨躯を鯨飲馬食で支える陽気な男。賢夫人のモードとの間に生まれた息子を数年前にペストで失い、のみ潰れると愚痴をこぼす。事件現場でも酒をかかさず、どこででも寝てしまうという豪放磊落ぶりである。
このデコボココンビのキャラが実に立っており、それだけでも充分に面白い。そして、そこにもってきて不可能趣味がマニア心をくすぐる。種明かしされてしまえば、なあんだ、ものではあるが、無理なくプロットに当てはめた手際は賞賛されてよかろう。更に、時代設定を隅々まで活かした「動機」が、これまた嬉しい。解明に至るまで、ミスディレクションたっぷりの宝捜しもあって、とにかく読者を飽きさせない。名シリーズの開幕を飾るに相応しい力作と断言してしまおう。
因みに、私の読んだ米初版は、折り返しの梗概でとんでもない年代の誤りをしでかしている。何故か事件が1336年に起きた事になっているのだ。一体どこをどう読めば、こんな数字が出てくるのか、謎なのであった。


2002年7月27日(土)

◆神保町で、孤高の原書古典ミステリ読み同人誌「ROM」の編集会議に参加。メンバーは、加瀬代表、小林晋氏という二巨頭に、実質編集人の須川氏、某出版社勤務の塚本氏、掲示板でお馴染みの大鴎さん、なぜかスペシャルゲストで高一君あらためオーツカ君、及び私の7名。メンバーが揃う前に大鴎さんからヤフーオークションでゲットした噂の「百万塔の秘密」を見せてもらう。いかにも占領下の日本で出版されましたという安っぽい造本だが、生まれて初めてお目にかかった。時代の割りには極美と呼んでいい状態に感心。「殆ど無競争で」とは聞いていたが、それでも5桁だったらしい。うへえ。結構なものを見せて頂きました。
概ねメンバーが揃ったところで、あちこちで本が飛び交うのは、この種の会合の常だが、それが全て洋書というところが「ROM」の「ROM」たる所以である。オーツカ君が2年分ぐらいの原書をおじさんたちから押し付けられていた。私も小林氏放出の本を1冊頂く。
「KEEPS DEATH HIS COURT」Mary Durham(John Crowther)頂き!
「前から気になっていて結構買っている割りには読んでない作家なので、読んだら感想を上げる事」という条件付き。はいはい。では、近いうちに。
一応116号の企画を相談するが、殆ど問題なく通ってしまう。というわけで、116号「More Rivals of John Dickson Carr」の名義上の編集長は私が務める事になった。レビューの数だけなら、前に編集をやらせてもらった106号を上回る事が既に確実。問題は、企画頁をどう埋めるかですな。黒白さん、Moriwakiさん、何か書きませんかあ?
◆ROM コンベンションについては大枠のみの相談。とにかく人数が確定しないと場所も何も決められない。「で、これって、要はオフ会?」と世話人の須川氏に尋ねると「そ、中味はオフ会。まあ、ネットと違って普段がオンじゃないので<オフ会>とは言えないんだろうけど」とあっさりしたお答え。さあ、いかが相成ります事やら。会員の方々、来週完成予定の115号の発送時に案内が行きますので、ふるってご参加を。なあに、ただの「オフ会」ですけど。
◆後は雑談。
「生まれて初めて読んだ原書は?」「カー」「わしもカー」「わしも」「わしも」とか、
「ROM会員数は昨年度6名減の7名増で1名増でした。亡くなった方もいらしゃいます」「御気の毒に」「その方の蔵書はどうなったんでしょう?」とか、
「易しい英語作家は?」「それはブルースでしょ。特にディーンものは会話中心なので吉」とか、
「ロードってどこが面白いの?」「とりあえず名探偵はでてくるかも」「それだけかい」とか、
「一体、原書ミステリを読む日本人ってどのくらいいるのかな?」「古典に限っていえば、ROMの会員数の倍ぐらいじゃないですか」「いや、もうちょっといるんじゃない、高一君もみたいな若者も育っているし」「じゃあ、高一君以外にそんな人知ってます?」「うーん、……高一君とか、…高一君とか」「おいおい」とか、
「骸骨島買った?」「日下さんは応援モードで6冊買ったらしいよ」「うへえ」「帯には普通版とミーハー版の二種類あるんですぜ」「どひゃ〜」とか
「日影丈吉全集どうします」「まあ、買うしかないでしょう」「値段は奥さんには内緒だな」「『9500円だよ〜』と言っておけば揃いの値段と思うでしょ」とか
その他「海外ミステリ専門店事情」「国書探偵小説全集裏話」「蔵書収納苦労譚」「ネットで買いまくり〜」「アルテ萌え〜」などなど、濃密な時間を過ごして解散。
◆そのまま、掲示板で森さんの書込みがあった「タイ料理屋の傍のミステリ専門古書店」へ有志数名で向う。まあ、棚のレベルはブロードウエイの渡辺や、神保町の羊頭書房並み。文庫や、新書中心で、戦前本や仙花紙本などはない。挨拶替りに無理矢理1冊購入。
「警部マクロード3/消えた死体」Dウィルソン(二見書房)600円
まあ、定価である。問題はダブっていないかだな。
◆一人になってから、もう一ヶ所寄り道。森さんから教えてもらった店で横溝正史本を1冊。
「白と黒」横溝正史(東都書房)800円
うーん、持ってないつもりだったけど、この表紙には見覚えがあるんだよなあ。もしかしてダブりかな〜。どきどき。以上、古本的には薄いけど、ミステリ的には濃い1日でした。


◆「ミステリー・クラブ」霞流一(角川書店)読了


2002年7月26日(金)

◆昨日のリベンジで新橋駅前。買うものがあるかないかはこの際問題ではない。棚をチェックする事に意義があるのだ!と眦を決して臨む。通常、この場所に専門店が出る場合は普通の店売りと同レベルの値付けなのだが、今回は「新橋こいち祭」の一環なので、やたら安い。文庫は100円均一が殆ど。ミステリボックスのカドフェル帯付き揃いも100円均一だったのには驚いた。私にとっては、それなりに覗き甲斐のある市で、楽しく御買い物。
「明治バンカラ快人伝」横田順彌(光風社出版)400円
「熱血児押川春浪」横田順彌(三一書房)900円
d「国文学増刊号:ミステリーとSFの世界」(学燈社)300円
「大地のうた」河野典生(徳間書店)200円
わっはっは、なんと!これまで全然縁がなかった河野典生のインド小説をゲットだぜ!!これは嬉しいなあ。しかも、値段が値段である。この10倍でも買ってましたね。後は、ヨコジュンの明治ノンフィクションをちょぼちょぼ拾う。ひょっとしたらダブリかもしれない。「国文学」増刊号は、私の高校時代のバイブルの一つ。見かける本だがこの値段ではないので布教用にダブり買い。いやあ、満足満足。
◆リンク更新。「黄金の羊毛亭」追加。今頃すみません。
◆考えてみれば、これまで、あれこれ替え歌を作ってきたわけで、リンク先の皆さんにちなんだ歌も結構あったりする。大矢博子女史のは先日書いたところなので、他の方々を少し棚卸するとこんな感じ。


密室系(空手バカ一代)

「りすとおお!」
♪密室一代誓った日から
♪正史は捨てたカーもいらぬ
♪密室一筋馬鹿になり
♪収集道をまっしぐら
♪見つけた本を掴んで編むぞ
♪天下無敵の密室リスト
♪天下無敵の密室リスト



白梅軒(学生街の喫茶店)

♪君と良くこの板にきたものさ
♪冷やしコーヒー飲みながら話したよ
♪古書店の真向かいのこの板の
♪片隅で聞いていたバロムワン
♪あの頃の本は効き目かい
♪棚の姿も変わったよ
♪軒は取られた

♪あの頃は愛すると知らないで
♪見つけてもそのままでスルったよ
♪城戸 キッド



ワセミスOBページ(こいのぼり)

♪屋根より高い森英俊
♪大きい書棚はジョンロード
♪小さい書棚はジュヴィナイル
♪ほがらか小説 溺れてる



銀河通信(眠れぬ夜)

♪安田ママが目の前に
♪ひざまずいてすべてを
♪忘れて欲しいと涙流しても
♪ぼくはママのところへ何度もやってくる
♪新刊情報 感想
♪日記 掲示板

♪眠らないママとコアなダイジマン
♪忘れた頃に先月号が出る

♪レスのない毎日は自由な毎日
♪誰もママを責めたりできはしないさ



ガラクタ風雲(風のフジ丸)

♪時は平日、アラシの自慢
♪でっかいバスケで 回ろうぜ
♪風吹きまくれ、吹き荒れろ
♪正史ダブリだ、セドリの術だ
♪サンリオ・ソノラマ やっつけろ
♪始まる、始まる
♪血風始まる、中年よしだ


で、更に幾つか作ってみました。




小林文庫(ウルトラマンA)

♪遠く輝く夜空の星に
♪残業時間が果てる時
♪群馬県境 遥かに越えて
♪やまびこ共にやってくる
♪今だ、更新!ゲストブック

♪戦え、戦え、
♪小林文庫オーナー
♪僕らのオーナー



天使の階段(君が代)

♪みゆきが代は
♪千代に八千代に
♪沙戯れ歌の際物なりて
♪蕎麦の打つまで



政宗九のページ(怪獣マーチ@ウルトラQ)

♪アリバイくだき 密室けちらし
♪地鳴りとともに やってくる
♪探偵(がオーッ)
♪探偵(ぎゅあああーン)
♪名探偵
♪響け 店の書棚に
♪叫べ 夜のエフエム
♪キュー キュー キュー
♪政宗九



瑞澤私設図書館(ミッキー・マウス・マーチ)

♪ぼくらの サイトの オーナーは
♪茗荷丸 茗荷丸 茗荷茗荷丸
♪チビーを 掘り出す カーマニア
♪M・Y・O U・G・A M・A・R・U
♪茗荷丸 茗荷丸
♪さあ ぱくろう 伊集院 ヘイ!ヘイ!ヘイ!
♪みんなで たのしい ミステリー
♪茗荷丸 茗荷丸 茗荷茗荷丸

楽しんで頂けましたでしょうか?


◆「館という名の楽園で」歌野晶午(祥伝社文庫)読了
ショート感想。御存知400円文庫最新刊。歌野は、懐かしの「館」もので勝負。「○い家の殺人」3部作でデビューした当時は新本格スクールの劣等生だった作者の14年目のリベンジや如何に?いや、それとも、奇想密室では「安達ヶ原の鬼密室」で、島田荘司の正統後継者たる事を証明してみせた作者にとって、むしろ「館」ものへの鎮魂曲、或いは卒論とでも言うべきものなのだろうか?
日常に埋没していた壮年期のミステリ研のOB4人に届いた「館」への招待状。彼等の仲間であった男とその妻が見せるマーダーゲームのイリュージョン。それは、遥か英国の幽霊奇譚を孕む宿命の館、現われては消える鎧武者、扉の向うの驚愕、殺人とアリバイ、自明のフーダニットと難解なるハウダニット、シンデレラの時刻が告げる天啓の宴、三本の矢の家の殺人は、悲鳴で終わる物語。
トリックはバレバレ。なんとも懐かしい底の浅さである。これは、ひょっとして「○い家の殺人」の第4作「矢の家の殺人」として構想されていたのではなかろうか?英国幽霊譚部分は「暗闇坂の人喰いの木」にインスパイアされてそうだしなあ。で、この作品のテーマは「さても恐ろしき妄念かな」だったりする。これをにっこり笑って全てを許すか、「所詮、歌野は歌野」と切って捨てるか、評価は別れるところであろう。とりあえず、最近の頑張りに免じて、にっこり笑ってなかった事にしてあげよう。


2002年7月25日(木)

◆新橋駅前で古本市。んじゃ、仕事を早目に切り上げて覗こうか、と思っていると就業時間間際に厄介事が飛び込んでくる。それを持ちこんだ上司は飲みに出かけ、残された自分は泣きながらパソコンと格闘。なんとか踏ん切りをつけて飛び出ると雨が降り出し、駅前に着く頃には本降り。無情にもワゴンにはシートが掛けられていた。上司を呪いながら、総武線地下ホームに向うと、車両故障の影響とやらで電車が動いていない。泣きながら再び地上に出て京浜東北線で東京へ。東京で再び地下に潜り、ようよう始発の総武快速に乗りこんだが、電車が出やしねえ。おーのーれー。普段の1.5倍の時間を掛けて千葉到着。本でも買わなやっとれまへんモードに陥り、閉店間際の構内本屋で新刊1冊。
「館という名の楽園で」歌野晶午(祥伝社文庫:帯)400円
これで、この本が乱丁本だったりすれば、物語としては「完璧」である。一日としては最低である。


◆「殺人シーンをもう一度」サミュエル・ホルト(二見文庫)読了
ウエストレイクが別名義で書いた俳優探偵シリーズの第1作。スターク名義で描いた俳優強盗グローフィールドは、演劇に対して実に真摯で、泥棒で稼いだ上がりをすべて舞台劇に蕩尽する役者バカだったが、対する俳優探偵サミュエル・ホルト(作者と同じ名前)は、警邏警官時代にエキストラを務めた事が縁となって、たちまち全米で知らぬ者なき売れっ子テレビ俳優になってしまった男。まさにグローフィールドとは「陰と陽」の関係にある主人公である。有り余る財力、東海岸と西海岸のそれぞれに美しい恋人と居城を構えるテレビ俳優をフィーチャーした第1作はこんな話。
5年間続いた刑事ドラマ「パッカード」の主役のイメージが強すぎて、次の仕事にあぶれていた私、サミュエル・ホルトの元に持ち込まれた企画は、没になった自作のシナリオを使って「パッカード」のディナーショーを行うというトンデモ企画。東海岸では肖像権を巡っての訴訟が進行中。この若さにして、既に人生の後処理に入ったかに見えたわたしの日常に、とんでもない荒事が飛び込んでくる。LAのハイウェイで車ごと襲い掛かってきた謎の一団。どうやら、友人の脚本家ロスがでっちあげられたスナッフ・ビデオの一件が尾を引いているらしい。何故か言を左右するロスの身辺を洗ううちに、裸の美女を保護する羽目になったり、怪しげなアラブ人から探りを入れられたり、一体何がどうなっているのか?Qの入らない本物のアクション・ドラマの顛末は「ビヴァリーヒルズ炎上」という幻のシナリオだけが知っていた。
脳天気なアクション犯罪小説。華やかで贅沢な成金探偵は、まさにアメリカン・ドリームの体現者であり、正直なところ、余り感情移入できない。まあ日本でいえば「翔んでる警視」のようなものか?解説ではエイモス・バークを引いていたが、とても、あのロジカルな推理は楽しめない。冒頭の派手なカーチェイスから数々の美女とのスリリングなお付き合い、ショービズの裏舞台、そして、政治的陰謀と聖なる闘い、と煌びやかな道具立てには事欠かない元気小説。頭がアメリカ人な人には楽しめる読み物であろう。男のだらしなさに引き換え、女の元気の良さが光る話でもある。まあ、「黒い国から来た女」を「陰」だとすれば「陽」にあたる話なのかな。


2002年7月24日(水)

◆夕方ぽっかり時間が空いたので、神保町をぶらぶら。リサイクル系で探究本をゲット。
「グリーン・トレイン(上)」Hリーバーマン(河出書房)100円
「グリーン・トレイン(下)」Hリーバーマン(河出書房)100円
上下巻のどちらかは持っているのだが、自信がなかったので両方買う。まあ、100円だし。こういう時にリサイクル系は気が楽でよろしい。これで、リーバーマンは揃ったかな。
◆飯島書店でEQのPBを1冊捕獲。まあ、この辺はEQFC向けの条件反射の世界。淡々と拾う。
「The Fourth Side of the Triangle」Ellery Queen(Pocket Book)200円
なかなか小洒落たカバーアートで吉。
◆小宮山書店の一階のショーケースに乱歩を中心とした探偵小説がズラリと並んでいて壮観。相当まとまって探偵小説が入荷した模様。虫が騒いだので、2Fをチェックしたところ、ここでも探究本に遭遇。
「悪魔が来たりて笛を吹く」横溝正史(東都書房)1000円
「獄門島」横溝正史(東都書房)1200円
「悪魔の手毬唄」横溝正史(東都書房)1200円
東都書房版の「横溝正史傑作選集」。8冊中3冊を一挙にゲット。テキストはこの際どうでもよくて、完全なジャケ買い・叢書買いの類いである。この上西康介描くところのイラストが実にバタ臭くていいんだよなあ。ある意味、角川文庫の杉本画と双璧と言っても過言ではないような。バラで買い集めており、これでM2。「8巻揃いで1万円」が相場の本であり、御見事な値付けに唸る。買いますよ、買えばいいんでしょ。
◆すずらん通りのかんたんむは「一階からミステリが消えたなあ」と思っていたら、なんと探偵・推理コーナーが2Fに出来ていた。鱒書房の保篠作品とかロマンブックス版の「十三角関係」など渋いところが並んでいて楽しい。丁度、ダンボール二箱分の入荷があって、横目でちらちら見ると、講談社版の人形佐七全集だの、星新一の「殺し屋ですのよ」だの、創元版のMVA1だのが見えたが、未整理につき、指を咥えて出てくる。これからは巡回コースにいれましょう。
◆やあ、なんだか、それなりの収獲があって楽しいぞ。やっぱ、欲しいと思っていた古本に巡り合うってのはイイもんだ。


◆「法月綸太郎の功績」法月綸太郎(講談社ノベルズ)読了
本年度日本推理作家協会賞受賞作収録の最新短篇集。ちなみに最後に長編を出したのが94年であるので、もう8年間も新作長編が出ていない。短篇集だって3年ぶりだ。よくこれで専業作家として食っていけるものだと思うのだが、実際のところ、どうなのであろうか?ゲームに知恵出して稼いでいる風でもなければ、コミカライズで荒稼ぎという風でもない。欧米の作家でもここまで寡作なビッグネームはまずおらず、このままではいつ法月版「瀕死の探偵」が書かれるのかと不安になってしまう(「法月綸太郎の最後の挨拶」収録予定)。
さて、内容の方は、「寡作=良心的」の構図に忠実に、うるさ型のマニアを唸らせる正統派の珠玉作揃い。協会賞受賞も大いに頷けるところである。これは、きちんと新刊で買って、応援しなければならない本であり、作家なのである。この短篇集には創元推理文庫の「ハテナおじさん」マークをつける事を許可します(>勝手にきめんな)。以下、ミニコメ。
「イコールYの悲劇」講談社のテーマ・アンソロジー向けにかかれた「Yの悲劇」へのオマージュ。というか、ダイイングメッセージとなると「Xの悲劇」なんだけどね。いつから「Y」イコールダイイングメッセージになったかといえば「月光ゲーム」あたりの影響か?閑話休題。不倫の風景に虚飾のアリバイを絡め、DMで味付けした巧妙なパズル。二色ボールペンの考察はいかにもクイーン調で、二転三転するプロットは「三角形の第四辺」や「緋文字」を思わせる。なぜ、これで長編にもっていかないのか惜しくなる傑作。
「中国蝸牛の謎」<チャイナ・マイマイの謎>と読んでくれ!(笑)勿論「チャイナ橙(だいだい)」へのオマージュ。全てが裏返しになった密室の外で縊られていた推理作家の謎に挑む綸太郎。密室の仕掛は、森博嗣を思わせる即物的な小ネタだが、全体に散りばめられたマニアックな笑いが素敵。殊能将之の「鏡の中は日曜日」と小道具やキャラ設定のイメージが被るが、これはシンクロニシティーか?密室としての出来の悪さと、ミステリとしての出来の良さが、なんちゅうか(中華)「チャイナ橙」である。
「都市伝説パズル」<ルームメイトの死>という都市伝説が模倣されるとき、闇の中で犯人は嘲笑う。てんこ盛りの容疑者が、鮮やかな推理の補助線で消去されていく過程に酔う。端正にして、堂々たる本格推理短篇。題材の妙、青春群像の鮮やかさ、そして美しい論理と意外な犯人。これぞ、正統。
「ABCD包囲網」これも講談社のテーマアンソロジー向け書き下ろし。繰り返しやってもいない殺人の自白を行う男の行動は一本の直線によって、殺意の構図を描く。異形のシリアル・キラーものでありながらだら、ある点で原典に非常に忠実だったりして、ミステリ研出身作家の面目躍如たるものはある。逆転の発想も御見事。だが、やや作りすぎ。この作品集の中では、最も落ちる(とはいえ、ABCD評価で言えば充分にAマイナスを進呈できるのだが)。
「縊心伝心」一人暮らしの不倫OLを殺したのは誰あれ?ホットカーペットの切り替えスイッチの謎一つで、全ての謎が解き明かされる快作。退職刑事どころか九マイルもビックリである。これぞ、論理のアクロバット。小道具が現代風であり、もしEQが生きていれば嫉妬したかもしれない。傑作でしょう。


2002年7月23日(火)

◆SRの会費と「骸骨島」の代金を振込んで、散髪にいったら所持金がなくなる。新刊書店も古本屋も覗いたにもかかわらず購入本0冊。深刻にネタ切れ。昨日のネタ、とっときゃよかった。でも、思いついたら直ぐに書かずにはいられない性格なんだよな。
◆無理矢理ネタ。e古本講座。
「君はブロードバンド時代のコンテンツ流通について、どう考えちょるかね」
「えーっと、帯が広くなると、傷みやすくなるので、ダブリを送るときに気をつかいます。」
「コピー制御は?」
「帯やカバーをカラーコピーしてもらうとオリジナルを持っている気になれます。
でもそれを更に孫コピーするのは仁義に反します」
「ウオーターマークは?」
「水濡れは、やだなあ」


◆「骸骨島」高木彬光(神月堂)読了
というわけで、雑誌掲載のまま埋れていた、冒険ジュヴィナイルを神津FCの静御前、文雅さんが復刻。最近の日下本、藤原本、芦辺本など商業出版も凄いが、この同人誌も凄い。少年小説の第一人者、二上洋一のエッセイやら、元ポプラ社編集の思い出やら、ストラングルNとのタッグで発掘ボンバーをかまし続けるおげまるさんの乱入もあって、全く商業出版と比べても遜色がない。いやあ、凄い世の中になったものです、というか凄い本です。さてその内容は、
「まだ、吉田茂が総理大臣だった頃、帝都の南に骸骨団という怪しい団体が現われた。その言いつけに従わないものは、恐ろしい仕打ちに会うという。その正体は何か?松下捜査一課長は、東京大学から白皙の法医学者を呼んだ、その名は、神津恭介参上」と、赤影や大卍を彷彿するもよし、
「ボクの名は恭介。ボクは名推理を使って鋼鉄の意志になり、20倍の偉さになる。そして世界の平和のために戦うんだ。ボクの大活躍にご期待ください。」と、ビッグXやV3号を思い起こすもよし、
「あの骸骨団が最後の一党だとは思えない・・もし水爆実験が続けて行われるとしたら、あの骸骨団の同類がまた世界のどこかに現れてくるかもしれない・・」とゴジラ的感慨に耽るもよし、
骸骨島にスカールークの影をみて「地球の夜明けも、もう近い」と口ずさむもよし、まあ、そんな話である。
ジュヴィナイルが好きな人は必読。というか、とりあえず「買え!」


2002年7月22日(月)

◆飲み会。購入本0冊。ネタないです。
ねたの入ったミステリってありますか?

「すねた娘」

「つかみそこねた幸運」

「シャーロック・ホームズを訪ねたマルクス」

失礼しました。
(INOさんみたいな)
---------------------------------------------
SFならば「ネッター来襲」とか(←愛・蔵太さんみたいな)

◆と、帰宅すると、只今、ネットで話題沸騰中のあの本が着いていた。
「骸骨島」高木彬光(神月堂:帯・私家版)
もう、各所で言い尽くされた事ではあるが「壮挙」と申し上げておきましょう。見事にプロの編集者のお株を奪う充実ぶり。よしださんではないが、同人誌野郎の血が疼く出来映えである。脱帽。
◆1年3ヶ月ぶりにリンクを更新。「名張人外境」「うたたね通信社」「N.M卿の部屋」を追加。


◆「十二色の空間」南條範夫(ポケット文春)読了
たまには大人の読み物を、と思い手に取った「ポケット文春」。思った以上に大人の読み物だった。ううう、私は何もこんな話が読みたくて推理小説を読みつづけているわけではないのだが、、、
老境のワンマン社長とその若き後妻を軸に回る不倫と猜疑の輪舞。社長のもとに送られてきた一通の手紙、そこにはただ「コキュは哀し」とのみ記されていた。逆流する血を押え込み不倫相手を推理する男。果して、妻を寝取った相手は誰?義妹と婚約した友人の息子?義妹のピアノ教師?色好みの主治医?それとも顧問弁護士?だが、それはこの乱れ縺れた多重不倫劇の一面に過ぎなかった。姉を追い落とそうとする義妹。社長の長男の心を奪わんとする3人の娘。忠実なる秘書と鬱屈した書生。闇の中に捨てられた貞操、暗鬼の果ての淫らな妄想、純愛と憧憬ゆえの暴走。ゼロ時間に向って毒は仕掛けられ、新たな悪意が放たれる。
題名の「十二色」の「色」の意味するものは文字通りの「色欲」である。「愛」や「恋」と呼ぶには余りにも生々しい人間の欲望の姿がそこにある。これは中坊の時に読んでいたら、そのまま壁に叩き付けたであろうタイプの小説である。終盤に差し掛かって漸く殺人が起きるのだが、むしろ殺人が起きた事に驚かされた。正直そこまではオンナ・ピカレスクものか、誰が不倫相手を推理する「フリンダニット」かと思っていた。まあ、結局のところ「殺人」は、オマケみたいなものであり(被害者はたまったものではないが)、十二色の空間はその最初と最後で秘めやかにリフレインを奏でて終わる。読み物としては、職人技である事を否定するつもりはないが、推理小説としてはフェアじゃない、と申し上げておきましょう。


2002年7月21日(日)

◆別宅へ。本を放り込み、数週間分の原書を(=数冊の原書を)選ぶ。
この原書を選ぶのが、今の私にとっての至福の時である。なぜかといえば、とても贅沢な気分に浸れるからである。自分のお気に入りの作家というのは、日本語では結構読み尽しているので、「さて、次に何を読むか」となると、あまり選択肢がない。あとはジュビナイルぐらいしか残っていない状態の作家も結構多かったりする。ところが、原書の場合は、本格ど真ん中の長編が未読でゴロゴロ転がっているのである。まあ、日頃は「ガラス玉」で無理矢理自分を満足させている人間が、ダイヤの原石に囲まれているようなものである。ああ幸せ。
ところが今回は、積読山脈に迷い込み、遭難しかかった。久々にPマクドナルドでもと思い立って、森事典で「チョンボ密室」として名高い「The Choice」を探し始める。ところが、捜せども捜せども出てきやしない。一応、Pマクは父親と合作した最初のスリラー以外は買ってある筈なのに、何故なんだああ!と原書棚を引っくり返す事約半時間。今一度、森事典(同人誌版)をひもといて別題が「The Poleferry Riddle」だった事を思い出す。うへえ、最初から目の前にあったわ。
で、今度は「Persons Unknown」という作品がない事に気がつく。なんでやねん!と思いながら、よくよくリファレンス関係を眺めていて「迷路」の米オリジナル版だった事が判る。
よく題名を変える人ですのう。いい加減にして欲しいよなあ。
というわけで、無事、何冊かのPマクを持ち帰る。今度の気掛かりは、その時に発見したPマクの「Queen's Mate」という作品。これってなんでしたっけ?リスト外の歴史小説?


◆「The Prince of Darkness」P.C.Doherty(St.Martin's Press)Finished
それにしても似たような題名ばかりのドハティー。「Satan」だの「Darkness」だの「Assassin」だの「Angel」だの勿論「Murders」だのが、繰り返し題名に用いられるので、はっきり言って何を持っていて何を持っていなかったのかの管理が大変なのである。この本も「Crown in Darkness」やら、「The Fate of Princes」あたりとごっちゃになってしまいかねない題名。ヒュー・コーベットものの第5作、「The Angel of Death」と「Murder Wears Cowl」の間に位置する作品である。
ドハティーといえば、オカルティズムと不可能犯罪てんこ盛りの歴史作家という紹介をされてきたわけだが、ここまでヒュー・コーベットものを読んできての印象は「密室系」というよりは「密使系」。それはそれで、面白いのは事実なのだが、期待が大きすぎる分、翻訳戦略の方も難しかろうなあ、と感じる。余り、カー、カー言わずに、「まあ、カドフェルみたいなもんですよ」とさらっと紹介された方が息長くいけそうな気がする。まあ、最もカーっぽいという噂のハーディング名義のアンセルタン修道士シリーズを読んでみないとなんとも言えないのだが。
さて、今回ヒュー・コーベットが挑むのは、修道院で起きた謎の転落死(おお、「雷鳴の中でも」か、「Papa Labas」か!? >煽るなって)被害者は、エドワード一世の息子であるエドワード(ウエールズ皇太子)が離婚した元の皇太妃エレノア。これもまた血生臭い中世の権謀術数渦巻くフーダニットである。こんな話。
1301年。英王エドワード一世と仏王フィリップ四世の間ではつかの間の平和が保たれていた。既に姻戚にあった両王家の仲を盤石のものとするには、エドワードの息子ウエールズ皇太子と、フィリップの娘イザベルの政略結婚こそが望ましいと思われる。だが、そのためには、幽閉の身の上とはいえエレノアの存在は醜聞の火種となりかねないものであった。そしてあろう事か、そのエレノアが謎の転落死を遂げた。エドワード一世は、その死の真相を探り「皇太子による陰謀」説の禍根を断つべく最も信厚いヒュー・コーベットを「事故」現場であるゴッドストウ修道院に派遣する。なんと、ヒューとその従者レイナルフが皇太子の居城ウッドストック宮に程近いゴッドストウ修道院に到着したとき、新たな「事故死」が起きていた。年配の耳の不自由なマーサ夫人が、浴槽で溺れ死んでしまったのだ。マーサ夫人はエリザベス夫人とともにエレノアの生きている姿を最後に見た目撃者であった。エレノアは、死の当日、修道尼全員が夕べの祈りに向う中、一人休みをとり自室に居たが、階段を降りようとして足を踏み外し首の骨を折って死んだものとされていた。だが、その遺体を不気味な地下墓所でコーベットが改めるや、不審な点が発見される。身体に疵がなさすぎたのだ。やがて、コーベットは、エレノアがその夜、修道院を脱出しようとしていた節がある事に気づき、何者かが、修道院の外で馬を用意していた事を知る。何かを隠そうとしている修道院長アメリア。そして、コーベットを魅了する美貌のアガサ夫人。俄かに陰謀の匂いが立ち込める中、コーベットとレイナルフは1年半前に、付近の池で、若い娘と青年が裸で溺死していた事件に行き当たる。彼女たちの連れていた犬の首輪に記された「我に触れる事勿れ」という家訓の意味するところとは?
更に、ウッドストック宮を訪れたコーベット一行はエドワード皇太子とその悪友ギャベストンが、その夜、余りにも早くエレノアの死を知っていた事に疑問を抱く。我が物顔に暗躍するフランス人スパイ、ド・クラオン。けしかけられる死の猟犬。子供の姿をした暗殺者。幾つも罠を掻い潜り、ヒュー・コーベットの探索は続く。マーサ夫人の残した言葉「左ではなくて右」の意味とは? そして、王の右腕は王の左腕を発見する。
緻密なプロットと、意外な動機が楽しめる歴史推理。この頃の歴史的背景や、その後の暗愚の王エドワード二世(この作品では皇太子)の行く末を知っていると面白さ三倍増。エドワード皇太子とその幇間(にして愛人、うへえ)ギャベストンが登場するだけで英国人なら「待ってました」と言うところであろう。転落死自体に謎はないが、細かな証拠の積み上げで、真犯人の大胆なトリックに迫るコーベットの推理は吉。更に、コーベットに息子が産まれていたり、その息子に対してエドワード一世が名付け親になろうとしたりするくだりはシリーズものの醍醐味もたっぷり。最終章のコーベットは本当に格好いいんだ、これが。また、捜査に行き詰まったコーベットが、愛妻メーベに捜査状況を話して、突破口を見つけるという部分はクロフツっぽく、14世紀から英国の探偵はこのような習性を持っていたのか(笑)と感心した。いいねえ、ドハーティー。お勧め。