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2002年7月20日(土)

◆梅雨明け。近所の古本屋を4軒ばかり回るが、坊主を引く。無理矢理買ったのは周辺書2冊。
「ゴースト・ファイル〜私は幽霊を見た!」Hラドラム(KKベストセラーズ:帯)200円
「テキサスから来た男」Eヘイコックス(中公文庫)200円
正調英国幽霊実話集と西部劇の文庫本。前者は、帯が結構イけてたので買ってみる。西部劇はさしたる興味もなかったのだが、表紙絵の良さと「駅馬車」の作者と知った事で御試し買い。一昨日のマックス・ブランドといい、中公文庫の翻訳物にも変わり種があるのですね。
◆「推理小説が買いたいよう」と泣きべそをかきながら(うそ)、新刊書店で買いそびれ本を2冊。
「完全犯罪」小栗虫太郎(春陽文庫)676円
「小酒井不木集〜恋愛曲線」日下三蔵編(ちくま文庫:帯)1300円
春陽文庫は、何故か探偵倶楽部で一冊だけ買いそびれていたもの。扶桑文庫で法水中短篇完全編集本が出た今となっては、叢書を揃えるためだけに買うようなものである。帯はないけど、探偵倶楽部のパンフは挟み込まれていたので、買ってみた。これで、とりあえず憑き物は一つ落ちたかな。
もう1冊は先ごろ全5巻が完結した日下編集本「怪奇探偵小説名作選」の第1巻。今頃買ってます。すんません(謝る事でもないか?)。その本の解説でもぐらもち氏のサイトが紹介されている。スラデックが亡くなった時のSFマガジンの作品リストも海外のサイトが重要なソースになっていたというし、凄い世の中になったものである。


◆「横溝正史に捧ぐ新世紀からの手紙」角川書店編(角川書店)読了
小説あり、漫画あり、エッセイあり、対談あり、旅行記あり、年表あり、文庫の表紙集ありのバラエティーブック。何度も言うようで申し訳ないが、「横溝正史自伝的随想集」「金田一耕介に捧ぐ九つの狂想曲」と合本900頁6000円豪華函装にして出した方がよかったのではなかろうかと思う。買う人間はどうせ3冊とも買うんだから(私は、謹呈を受けてしまったので申し訳ない事です)、百年祭らしくっていいんじゃなかろうか。一応、作者毎にコメントしておけば、以下の通り。
泉麻人:成城の町を歩き、金田一の事件簿との所縁を楽しむ街エッセイ。タウン・ウォッチャーとしてのキャスティングはいいのだが、本当に横溝のファンなんだろうか?コアな思い入れがないのが今ひとつ。
岩井志麻子:ぼっけえ、おもしれえ。さすが岩井志麻子である。随所に志麻子節が光り(特に佐藤慶のくだりが爆笑である)、しかも岡山の名誉県民:横溝正史への尊敬が文面に行き渡っている。愛に溢れた好エッセイ。ネタバレあり。
森村誠一・綾辻行人:うーむ、これは新旧「本格推理作家」のエールの交換なのか?森村誠一の誠実な人柄が出ていて非常に好感はもてるのだが、なぜ横溝本なのか、となると、いささか辛い。
北村薫・有栖川有栖:いかにもミステリ研上がりの二人のマニアックな会話。よろしいのではないでしょうか。
恩田陸:恩田陸へのパクリの抱負を聞いたインタビュー。「天神殺人事件」はよかったね。まあ、この人のパクリなら許せるよ。
小川勝己:上手い。「横溝正史について語りなさい」という口頭試問の満点答案。この人は横溝正史の本当のファンである事がひしひしと伝わってくる。それにしても引用部分は、まさか諳んじてるんじゃないだろうな。
CLAMP:読むのが辛かった。どうでもいいです。
岩井俊二:映像作家らしいYOKOMIZO世界へのアプローチ。なかなか大胆な人選であるが、嵌まっていた。少しこの人の撮った横溝作品が見たくなってきたぞ。知恵遅れ趣味だと戦前作品かな。うーむ。
乙一:若手ホラー作家のホープ登場。真面目に取り組もうとはしているが、如何せん余りにも読んでない。せめて戦前作品ぐらい読ませておけよ。
上野正彦:死体の専門家「犬神家」を語る。なるほど、こういう解釈があるのか、と新鮮な興味を覚えた。そして、この「科学」を超越した横溝ブンガクの凄さに今一度、脱帽した。
ささやななえこ:漫画「獄門島」秘話。個人的に、シャープなJET作品よりも、ささや作品の柔らかさが好みである。なるほど、あのベスト・コミカライズの背景にこのような裏話があったのか、と感慨に浸る事しばし。
山前譲:乱歩と正史の書簡を頼りに二人の馴れ初めと正史上京までの経緯を探った「いい仕事」。
横溝亮一:これは家族でなければ書けないエッセイ。特に乱歩の通夜のくだりは涙なくしては読めません。横溝ファン必読。


2002年7月19日(金)

◆コロンボ風に言えば「偽装の顛末」、クイーン風に言えば「二日間の不思議」、二人のMさん(敢えて名を秘す)からメールを貰って、ようやく「謎はすべて解けた」。
拙掲示板へのモリッチさんの「さっさと潰れろよな。こんなくだらないサイト、存在意義なし!」という書き込みは、そもそも「曽野仁」の名前で、2chの「このミステリサイトを読め」スレッドに書き込まれていたものでした(そこでいう「サイト」とは薫葉氏のサイトを指すみたい)。
知ってる人は知ってるけど、「曽野仁」ってのは私がニフティーで使っていたHNなんだよな〜。(グーグルで検索すると、このサイトの自己紹介頁がヒットするので、興味のある方はやってみてちょ。)参ったね、こりゃ。なるほど、それは、勘違いするかも。これが、最初っから「kashiba」名で書き込まれていれば、「自分のHNで書く奴ぁいないっしょ」と疑念も湧こうというものだけど、間に少し探索の要素を噛ませると、そこはそれ中期クイーン的「操り」に遭ってしまうわけで、何やらネットの深淵を覗かせてもらった思いがする。
モリッチさんからすれば、傍証を固めた上での快心の書き込みだったんだろうが、私は2chに書き込んだ経験もなければ、書き込む根性もござんせん。2chも(かなり前のことだけど)「変身」の文体模写スレッドが立った時には、その知の饗宴ぶりに心から感動を覚えたものだけど、自作自演も含めて何でもありの匿名パンデモニウムの環境は、私のようなネット素人にはつらすぎるんですな、これが。

掲示板の方に、モリッチさんの書込みもあったので、本件については、誤解に基づくものとして、これにて収めさせて頂きます。
で、最後に一言、

どこの誰かは知らんけど、キツい事言う時に人の名前を騙らんでくれ!!

それにしても、この一件のせいで(おかげで?)今日のアクセス数は凄いね。
小林信彦風に言えば「日本で一番熱い板」っすか?
ハラハラしながら見守ってくれた皆さん、お疲れ様でした。
メールどうもです>MさんとMさん。
◆一駅途中下車して定点観測。
その気になって捜し始めると結構見当たらない角川都筑。駅の200均ワゴンで「ひとり雑誌」の1、2、3、増刊号がバラバラに散らばっていたので、一ヶ所にまとめ直す。こういうのって、つい並び替えたくならない?これは持っているのでスルー。店の方で買い求めたのはこの2冊。
「銀笛の夜」水城嶺子(角川書店)100円
d「雨の午後の降霊術」Mマクシェーン(トパーズプレス:帯)100円
やったー!先日、図書館から借りて読んだ水城嶺子の第二作をゲットだぜ!やっぱり背表紙を一度みておくと、遭遇率は上がるなあ。もう一冊は、そのうちに叢書毎探究の対象になりそうな1冊。この叢書(シリーズ百年の物語)もそろそろ品切れじゃないかなあ。今思えば、実に、鋭くも渋いラインナップだったよなあ。


◆「危険冒険大犯罪」都筑道夫(角川文庫)読了


2002年7月18日(木)

◆掲示板で冤罪モード。これについては、また落ち着いてから。
◆掲示板で、中子本の5冊目は「モンスター・メーキャップ大図鑑」ですよん、と、はやみ。さんからご指摘を受ける。すみません、いい加減な記憶で書いてました。ご指摘感謝。
◆角川都筑を求めて定点観測。意外にないんだわ、これが。仕方がないので、5冊200円で買い物して憂さ晴らし。
「過去からの狙撃者」ジョーン・プルウィックパーカー(日本メールオーダー)40円
「砂塵の町」マックス・ブランド(中公文庫:帯)40円
「灰は灰に」Dペンドルトン(早川ミステリ文庫)40円
「ifもしも」(フジテレビ出版:帯)40円
「カエサレアのパピルス」Wキーファー(角川書店)40円
サスペンス・ロマンス・シリーズの1冊は、鷲尾三郎作品と同じ題名であるという理由だけで買ってみた。ブランドはよしださんが話題にしていた作家だったので。後は勢い。なぜかダブリはございません。はい。


◆「焦げた密室」西村京太郎(幻冬舎)読了
「最近最もマニアの間で話題になった西村京太郎の新作」。なんと昭和35年頃の乱歩賞落選作が、40年以上の時を超えて甦る。まあ、よくぞ作者の存命中にこのような「習作」を出版できたものだ。もうこの人に節操を求めても無理なんだろうなあ。ならば、「十津川警部最後の事件」でも、「亀井刑事最後の事件」でも、「山村紅葉殺人事件」でもなんでも書いて、死後に備えてくれ。
どこにでもありそうな平和な田舎町。アメリカで大成功を収め、金髪の美人妻を連れて故郷の街にかえってくる男。それを迎える叔母一家は、彼を亡き者にして、その遺産をせしめようと虎視耽々と殺人の計画を練っている。一方、町の警察署長は、男の凱旋に先立って起きた三人の中年男たちの失踪に頭を悩ませていた。誘拐?それとも蒸発?或いは殺人?そして遂に運命の日がやってくる。毒と埋葬。小火と密室。脅迫と絞殺。果して、迷走する警察と嵌められた自称ミステリー作家は、相乗りするプロットを掻い潜り、真犯人を探り当てる事ができるのか?
なんとも幼稚なミステリの知識が彩りを添えるユーモア推理。探偵の名前が江戸半太郎だったり、セドリッツという名の金髪美人が出てきたり、「殺人をしてみますか」などというマイナーな作品が転がっていたり、と、実に付け焼き刃な知識が躍る。まるで高校生が書いたような推理小説である。犯罪のプロットや密室のトリックはなかなかよくできているのだが、なまじユーモラスな筆致にした事が裏目にでてしまった。これでは、大人の読み物としては失格であろう。ユーモアの質で天藤真に及ばず、蘊蓄の格で都筑道夫に及ばず、なるほどこれまで世に出る事がなかったのも深く頷ける出来映え。十津川警部ファンが読んでも、初期西村京太郎ファンが読んでも、「なんじゃ、こりゃ?」の一作。密室トリックを集めている人だけが斜めに読んでおけばよかろう。


2002年7月17日(水)

◆一仕事終わったので、定点観測。さしたるものは何もないので、安物買いに走る。
d「やとわれた男」DEウエストレイク(ハヤカワミステリ文庫)30円
d「死人はスキーをしない」Pモイーズ(ハヤカワミステリ文庫)20円
d「七十五羽の烏」都筑道夫(角川文庫)50円
d「憑かれた女」横溝正史(角川文庫:初版・帯)170円
d「沖の少女」Jシュベルヴィエル(教養文庫)100円
「死のさだめ」Kチャールズ(創元推理文庫:帯)480円
「立て!キンダーマン」実相寺昭雄(風塵館:帯)100円
「焦げた密室」西村京太郎(幻冬舎:帯)400円
「SFX映画の世界(完全版4)」中子真治(講談社X文庫:帯)290円
角川都筑1冊前進。実相寺本は聞いた事もない出版社から出ていた「東京デカメロン」というシリーズ(らしい)の第三巻。ゾッキ流れなのでスリップまでついて御得用。こういうのをみてしまうと第1巻・第2巻も欲しくなっちゃうんだよなあ。
角川横溝は所持本が傷みなので入れ替え。角川文庫ブックフェスティバルのフェア帯がかかっていたのでつい。
唯一、収獲らしい収獲は「SFX映画の世界」の第4巻。従来から存在は知っていたが、何故か巡り合う事のなかった本。なんとなく全3巻だと思われていたりするが(それで揃いのような顔をして売られている事もある)、これで一つ憑き物が落ちた。(「クリーチャーの世界」は別として)まさか5巻はないだろうな?
◆掲示板で、小林晋さんが「年間50冊」に反応。まあ、氏の場合は、どう見てもそれ以上読まれているとは思うが、原書講入の方も、ワシら素人の遠く及ぶところではないんでしょうねえ。だいたい1ドル=360円の頃から洋古書買ってらしたんでしょ?
一冊読むと興味が広がっていく、というのは本読みの基本かな?私も1冊だけ御試し買いした作家が沢山いるんだけど、読んでないのでそれっきりというパターン。何年後かに読んで面白かったりすると、大変なのかも。その意味で国書の全集は「御試し」としても非常に有効で、あれがなければ、もっとロードやAギルバートを原書で追いかけていたかもしれない。「見えない兇器」あたりが翻訳するにたる最高傑作かと思うと、特に無理して原書で読む事もないというのが正直なところ。逆に、フェラーズみたいに、こんなに面白かったのかと唸らされても翻訳が相次ぐと原書で読む気をなくしたりする。原書購読の対象には「ニッチ」が御似合いなのかも(というのは歪んだ古本者の感性か?)
◆今日のよしださんの日記は、涙なくしては読めない。結局、森さんと同じ時期に古本やってます、というのが「僕たちの失敗」なんでしょうねえ。森さんの釣果だけをみているとラッキーボーイにしか思えないけど、そこに至る「とほほ」の時間も人並み外れている(筈だ)もんなあ。
{しかし}「台車一台分の貸本小説」かあ(遠い目)。


◆「煙で描いた肖像画」BSバリンジャー(創元推理文庫)読了
たまには、新刊も読んでみる。「翻訳権切れの名作」を狙ったら、小学館と創元推理文庫でほぼ同じ時期に同じ本を翻訳出版する羽目になってしまったという御気の毒な作品。横並びの家電メーカーをみるようで辛いものがある。集英社文庫の「ナイン・テイラーズ」は、乱歩ベストという企画の趣旨から言って、いずれ創元が出す事を承知で突き進んだのであろうが、今回は全くの偶然らしい。創元は「本邦初訳」とさぞや書きたかっただろうねえ。今回のパターンは、かつて番町書房と創元の間で起きた<「スターベルの悲劇」の悲劇>を彷彿とさせる。誰がイヤって、翻訳者が一番イヤだろうなあ。
閑話休題。詳細なる創元のオマケによれば「消された時間」や「歯と爪」に並ぶ初期傑作との触れ込み。今でこそ、新本格作家が殆ど無自覚に踏襲しているカットバック手法のパイオニアの「原点」は、こんな話。
男の名はダニー・エイプリル。碌でなしの親父の遺産で、取り立て屋を買い取り「一国の主」として些か萎びた船出を飾ったダニーは、出帆早々にして謎の「傾国の美女」にナンパしてしまう。戦前の集金の記録につけられた一枚の美人コンテストの写真。それは、十年前にダニーの心を奪った宿命の女だった。その後、彼女はどこに行き何をしているのか?一枚の写真を手掛りにして、取り立て稼業で培った様々な手練手管を用いながらオンナの今に迫るダニー。
女の名はクラッシー・アルマーニスキー。呑んだくれの父親に見切りをつけ、自らの美貌を武器にどん底から這い上がろうとする彼女。しみったれた地域新聞の出版主とその息子を手玉にとるところから、彼女の成り上がりゲームの幕は開く。モデルとしての訓練、秘書としての修行、愛されるたびにオトコたちの教養と金を吸い上げていくオンナ。彼女が通り過ぎた後には、心を弄ばれ抜け殻となった男たちの列が続く。
果たして男の探索が、女の現在に追いついたとき、そこに生まれたのは愛?それとも欲望?
展開を楽しむ話なので、梗概を紹介するなんぞ野暮の極みではある。ヴァンプ列伝とでも呼ぶべきアメリカン・ナイトメアの世界がここにはある。すれっからしの読者には、ラスト100頁の展開は御見通しかもしれないが、書かれた時代にはさぞやショッキングであったであろう。探索小説としてサスペンスフルで、悪女小説としてスリリングで、恋人たちに捧げるショッカーである。まあ、世界秘密文庫第11巻・陶山密作「女の貌は煙で描け〜シカゴ取り立て屋ファイル」とかいう形で紹介されてても不思議ではないB級の雰囲気もムンムン漂ってはいるのだが(結局、これが言いたかったワケね)。


2002年7月16日(火)

◆仕事が修羅場。購入本0冊。うわあ、「CSI」予約するの忘れてたあ。
◆藤原編集長の「本の中の骸骨」の業務日誌で「フーダニット翻訳倶楽部」なるサイトの存在を初めて知る。翻訳家志望者と原書読みのミステリ好きが集うサイトで、もともとは、ニフティー内の会議室だった模様。ううむ、一時ニフティーのフォーラムをうろついていた時にも、全然気がつかなかった。世の中には、まだまだ凄いサイトがあるものだ。
で、そこで「原書で年間50冊読む」という原書マラソンをやっているのを知る。なーるーほーどー。こういうコアな人々でも「年間50冊」というのは、一つの壁なのかあ。思えば無謀な事を始めたものである(週一原書購読)。そこを覗いてみると、御一人、やたらと黄金期の本格の渋いところを読み進んでおられる人がいて、これまた感心。プロッパーやら、バーン名義のグリーンやらを当たり前のように読んでおられる。いやあ、御友達になりたいわあ。
◆黒白さんの掲示板で、彩古さんと大鴎さんが小峰元の伝説の処女作「百万塔の秘密」を無競争でほぼ同時に落札された事を知る。へえ、それは凄い事があるものです。無事入手されたのだろうか?
ところで、そのやり取りの中で、うちの掲示板の過去ログのリンクが直ってないとの指摘を彩古さんから受けている。実は、掲示板の直下にある過去ログへのリンクはHi-Hoの提供する掲示板が自動生成してしまうので、消し方が判らないという情けない管理人なのである。トップページと掲示板の注意書きページに「猟奇蔵」へのリンクは置いているのだけれど、目立たないもんなあ(あ、そうか、直下のリンクの飛び先に「猟奇蔵」のURL置いておけばいいのか、と書きながら気がつく奴)。そもそも、このサイトって、サイトマップすらないという初めて来た方に徹底的に優しくないサイトの見本のような出来の悪さ。最初は別ページにしていた原書のレビューもなし崩しに日記に放り込んだままだし、トップ画面の書影は「引用」の範囲を逸脱しているし、大々的に手直しが必要なのである。
しかし日々の日記の更新が手一杯の状況の中で、一体どこから手をつけるかとなると、ふうっと気が遠くなってしまうのであった。一旦、更新停止して全面工事しますかね?


◆「お嬢さん探偵」中野実(春陽文庫)読了


2002年7月15日(月)

◆懐が暖かいうちに新刊買い。
「被告の女性に関しては」Fアイルズ(晶文社:帯)2000円
はい、やっと買いました。それにしても、皆さん、買うのも読むのも早いねえ。
◆ついでに古本買い。
「海から来たサムライ(上・下)」矢作俊彦・司城志郎(角川ノベルズ:帯)各100円
「小説アダムとイブの判例集」佐賀潜(東京文芸社:帯)500円
「容疑者たち」富島健夫(雪華社)500円
均一棚で、角川ノベルズを拾う。今からみれば豪華なコンビ。この辺りも品切れだもんなあ。それにしても、角川ノベルズはいつの間に、この世から消えてしまったのであろうか?まあ、古書価格の付きそうな作品がない叢書だけどね。他のノベルズだと、結構、古書価格のつきそうな本があるのに(例えば、カッパなら「鉄路のオベリスト」、徳間なら「スタートレック」や日影丈吉、講談社なら、うーむ、「姑獲鳥の夏」の初版・帯でどうだ?)律義に文庫化してきたということなのか、はたまた、マニアックな作家がいなかったという事なのか。あと、普通の棚から、趣味の本を買う。佐賀潜のノベルズに古書価格を出すのは、ネットミステリ界でも私だけではなかろうか?わっはっは(虚しい笑い)。富島健夫は、きっと文庫化している話なのであろうが、ちょいめずの出版社だったのと、ちゃんと「長編推理小説」と銘打っていたので発作買い。おお、今日はダブりがないぞ。


◆「声を聞かせて」真崎あや(エニックス)読了
ENIXエンタテーメントホラー大賞短篇小説部門優秀賞受賞作家。肩書きは長いが、作品は小気味良いヤングアダルトホラー。まだまだ世の中には才人が眠っているものだ。以下ミニコメ。
「声を聞かせて」表題作。合コンで知り合ったという少女からの電話。その声が主人公の日常を支配していく。徐々に抑制を失っていくオンナらしさ。暴走する独占欲。そして、声たちが語らう時、黒い幕は落ちてくる。上手い!ありきたりの設定だが、切れ味鋭いラストに思わず膝を打つ。さすが、表題作。この1作のためだけでもこの本を読む値打ちがある。
「偽りのイブ」私が結婚を怖れるわけ。それは「明生」の存在。生まれたときからそこにいた、もう一人の私。真実のアダム、偽りのイブ。よくある双子ネタのバリエーション。前向きで楽観的なプロットは、悪くないが、ご都合主義。
「君と手をつないで」幼馴染との初恋という永遠のテーマに「ゴースト」と「オールウエイズ」を加えてみました。ジョジョの第4部も入っているかもしれません。
「道を逝く人」これもよくある予知テーマ。星新一にそのままの話があったような気がする。痛いなあ。
「夢の行く先」毎晩、首を刎ねられる悪夢悩む娘がその夢の殺人者と出会った時、因縁は繰り返される。永劫の中で恋は朱に染まる。これも、星新一にあったかも。オチは中学生の書いたショート・ショートみたいで辛い。
「眠れぬ森の美女」眠らない彼氏と付合うために睡眠を犠牲にした女。だが、心と身体は眠りを欲していた。死ぬほどに。殺すほどに。これは一本取られた。不眠もののバリエーションとしては新ネタかも。
「花の命」行き着けの花屋の看板妻が失踪した時、暗鬼は恐怖を掘り起こす。生白くもおぞましい花奇譚。転回が御見事。内蔵を弄られるような生理的嫌悪感が湧く。
「愛しのトーキングベア」近頃巷に流行るもの、家出、蒸発、熊人形。そして妊娠した妻が何処かへ消えてしまった時、夫は不可逆性の心に挑む。強引な人形奇譚。ここまで、妻に(それも妊娠中の妻に)無関心になれるものなのか?不自然だぞお。ジョジョの第3部が入っているかもしれません。


2002年7月14日(日)

◆今が盛りのハスの花を見に近所の公園に散歩に行ったり、外食したり、買い物に行ったり、テレビ見たりで1日が終わる。購入本0冊。
◆ここ二ヶ月程の間に、同人誌へのお誘いが3件、商業誌関係へのヘルプが1件。結局、同人誌2件に関わる事になりそうである。これだけ、毎日毎日ネットで完全燃焼しておきながら、我ながらアホですな。で、断りを書くにも思い切り芸をしてしまうのは一体何なのだろう。今日は、ネタもないので、S倶楽部A分科会への断りメールでも再録してお茶を濁そう。

Sさま
山城屋五兵衛@横溝島ことkashiba@猟奇の鉄人です。

丁寧なメールありがとうございました。また、お返事が遅れて済みません。
で「病院坂の首縊りの家」解説の件ですが、正直なところ、今の私にその実力も余裕もございません。これが、もうすこし短めの作品であれば、なんとか併せ技一本のような駄文を綴る事も可能かもしれませんが、相手が悪すぎます。あの横溝ブーム真っ盛りの1975年12月から1977年9月まで足掛け3年にわたり、ダラダラと(失礼)野生時代に連載された大長編。勿論、単行本は改稿削除済みで、あろうことか復活する21年前の1954年には序文だけで中絶した原型(病院横丁の首縊りの家)まであるという念の入りよう。しかも、その短編に、先ずは大坪砂男が解決編執筆に名乗りをあげたものの叶わず、何故か岡田鯱彦・岡村雄輔が競作で解決編をつけたという因縁のテキスト史(尤も、最近は、こういった辺りの遊び心満載の「忘れられた作品」が簡単に文庫本で読めるのだから、人間長生きはするものです。閑話休題)。トドメに<金田一耕助最後の事件>という重み。この作品に解説をつけるのは、未だ同作を単行本で一回しか読んだ事のない人間にとって、余りにも荷が重うございます。
思い起こせば、野生時代での連載開始の報には、それこそ、喜色満面、欣喜雀躍、盆と正月が一遍に来た思いがしたものです。勿論その間にも「迷路荘の惨劇」「仮面舞踏会」といった「新作」が相次いで出版され、老いも若きも巨匠の旺盛な筆力に畏敬の念を抱かずにはおられなかったものですが、更に月刊連載とは!! 「野生時代」の刊行を今か今かと待ちわびて、飛びつくようにして掲載号を買い求めたのを昨日のことのように思い起こします。そもそも、その際には「前編」一挙掲載。当時の野生時代は長編小説の一挙掲載が「売り」でしたので、「次号で完結かな?完結してから読も〜うっと」などと考えていたら、これが大間違い。いつまで経っても終わりゃあしない(失礼)。尤も、その当時は、結果的に「鵺の歌」じゃなくて「白鳥の歌」となる「悪霊島」がその後ろに控えていようとは神ならぬ身の知る由もなく「このまま永遠に<金田一耕助最後の事件>が続くのも、それはそれで<吉>かもしれない」と同好の士と無責任に囁き合っていたのも事実です。「探偵小説界の<大菩薩峠>」などという奴もおりました。半ば「絶筆」を期待するかのような不敬な話ですが、当時の推理界を顧みすれば、あながち、冗談ばかりともいえないのです。例えば、連載が終了した1977年には、大横溝に本格推理小説道を開眼せしめたオカルト不可能犯罪のマエストロ(日本でも復権著しい)J.D.カーが鬼籍に入っています。また、少し遡ると、クリスティーの「カーテン/ポアロ最後の事件」が「迷路荘の惨劇」と同じ75年の出版、同じくクリスティーの遺作になった「スリーピング・マーダー/ミス・マープル最後の事件」と「仮面舞踏会」が76年の出版。奇跡の復活を遂げながらも大横溝の脳裏に「ここで一番<金田一耕助最後の事件>というのも面白いのではないか」という茶目っ気がよぎるのも想像に難くありません。果たして、自らの命と追いかけっこするのが、生涯一探偵作家を目指した大横溝の覚悟であったか否かは、今となっては知る由もございませんが、悠々と齢75歳を越えて、斯くも登場人物の多い、タイム・スパンの長い推理小説を書き上げた「頭の強さ」には、「鬼」としか表現しようのない人知を超えた空恐ろしさを抱いてしまうのでありました。
ここでその「法眼サーガ(ほー・サイト・サーガですな:笑)」とでもよぶべき大河推理小説のあらすじを振り返るのは避けますが、昭和28年9月、東京都港区の風鈴生首事件に始まり、昭和48年4月30日を以って終結する事件は、まさに絢爛にして豪奢、酸鼻にして淫靡、猥雑なジャズの調べに乗って奏でられる間違いの悲劇。それを彩る風鈴の看板娘というか、封印の乾板娘というか、その事件のおぞましさ故に、金田一耕助ですら探偵稼業に虚無を観てしまったのもむべなるかな、でございます。こうして書いてみると、この作品には、クリスティーがその晩年に好んで用いた「過去の殺人」というモチーフが仕込まれていると見ることはできないでしょうか?特に「カーテン」で、あの卵頭の小男が最初にその灰色の脳細胞の力を世に示したスタイルズ荘に還ってきたように、金田一耕助もまた、その最期を飾るため(あるいは名探偵という道化の宿業を断ち切るため)にこの未解決の事件に回帰してきた、とみるのは些か牽強付会に過ぎるでしょうか?更に戯言を展開すれば、「スタイルズ荘の怪事件」が出版されたのが1920年、「カーテン」が実際に書かれたのは第二次世界大戦中の1942、3年といわれていますからその間22、3年、そして「病院横丁」中絶から「病院坂」復活・完結までに21〜23年。作品の中と外で、時間がオーバーラップするのがなんとも奇縁です。勿論、これは単なる偶然なのでしょうが、どこかで「推理小説の神様」がほくそえんでいるような気がしてなりません。
あと、殆ど推理小説を再読しない私が「病院坂」についてもう一つ思い出深く語れる事があるとすれば、この<金田一耕助最後の事件>はまた、<石坂・金田一最後の事件>でもあるという事です。我々、第二次横溝ブームのファンにとって、やはり石坂浩二主演・市川崑監督の5作品こそが、映像的に刷り込まれた金田一像ではないでしょうか?既に(テレビですが)由利先生に扮する年頃に達してしまった「ご老公」で再び金田一を取り直す事は叶わぬとすれば、やはり私の金田一映画はこの作品を以って終わったといえましょう。ただ、主演女優が桜田淳子であった事は、可憐系美女の多い市川映画にそぐわないキャスティングではなかったか、と心残りではあります。
さて「語られざる金田一耕助の功績」という夢は、何人もの後進たちの手によってかなえられてはいます。しかし、昭和48年以降に設定したものは余りありません。そこが余りにも偉大な先達への敬意というものなのでしょうか。金田一耕助のその後を書く資格があるのは、横溝正史しかなく、なればこそそれは見果てぬ夢として、それぞれのファンが墓場に持っていくべきなのかもしれません。
これほどに思いの詰まった、思いを起こさせる「病院坂の首縊りの家」について、私が何かもっともらしい事を書く事はできません。長々書きましたが、これが「<病院坂>の断りの由縁」でございます。

では、編集の方、頑張ってください。完成の暁には、是非1冊売ってやってください。乱筆乱文ご容赦。

kashiba@猟奇の鉄人拝


◆「The Puzzle of the Red Stallion」Stuart Palmer(Bantam)Finished
オールドミス探偵ヒルデガード・ウイザースのシリーズ第6作。英題は「TPOT Briar Pipe」。なるほど推理っぷりから見ると英題の方がぴったり来るような気がしないでもない。これもバンタム社の復刊ラインナップに入っていた作品で、今でも入手は比較的容易な作品。ずばり競馬ミステリ。ディック・フランシスならば「落馬」とか「逆転」とか銘打ちそうな作品である。森事典によれば、この前作「TPOT Pepper Tree」(未入手・未見:欲っしい〜)辺りからヒルディーのドタバタぶりを強調する書き方になっているそうだが、確かにこの作品でもヒルディーは飛ばす、飛ばす。その一人よがりの暴走ぶりは、作者が遂にキャラを掴んだという感じが漂う。日本での紹介がこの辺りから始まっていれば、このシリーズに対する印象も随分変わった事であろう。こんな話。
ニューヨーク、セントラルパーク周辺。朝靄の中を赤毛のサラブレッドに跨り颯爽と飛ばす美女。だが、次の瞬間、彼女は落馬しそのまま命を失う。被害者の名はヴァイオレット・フィヴァレル。その姿は、街のあちこちのポスターでも見かけるトップモデルである。目撃者の通報で駆けつけた警察は、単なる事故死と思い込むが、愛犬デンプシーの散歩中、偶然事件に行きあわせたヒルディーの慧眼はごまかせない。彼女は、サラブレッドの身体についた血痕から、事故が仕組まれたものである事を指摘する。果して彼女の死は、殺人なのか?やがて、ヴァイオレットには、一年前に別れた夫があり、扶助料の未払いで収監中だったにも関わらず、その夜、何者かによって偽装「釈放」されていた事が判明する。その夫ドン・グレッグの父パットはかつて厩舎を経営しており、被害者が騎乗していたサラブレッド・シワッシュも慰謝料替りに彼女に与えられたものだった。パットの命を受けたオーストラリア生まれの世話係エイブ・トーマスに連れられ、パットの家に向ったパイパー警部とヒルディーは、そこで心臓発作を起し昏倒しているパットの姿に遭遇する。果して、これも偶然なのか?事故現場で発見されたブライアー・パイプを元に犯人像を特定したヒルディーは、林檎を抱えて容疑者たちの間を駆け回る。事件の直前まで一緒に夜遊びしていた被害者の妹バーバラとそのボーイフレンド、エディー・フライ、厩舎の経営者トゥワイト夫妻、マネージャーのラティゴ、そして、被害者の夫ドン・グレッグ。事件の関係者ともどもニューヨーカーたちを惹きつけてやまぬ大レースが開催された日、悲劇は再び訪れる。迷走する推理。驀進するワラビー。自然死の演出者の真意は何処にありや、オールドミス探偵は勝ち馬券をとりながら、騒々しくも罠を張る。
とにかく笑える。初めは、ヒルディーが「兇器が必ず出てくる!」と現場近くの池をパイパー警部に浚わせるくだり。単に愛犬デンプシーが吠え立てていたのがその理由なのだが、このシークエンスは、なんとも「泥臭い」ギャグである。そして、英題にもなったパイプをめぐる推理。ヒルディーは、パイプ商に証拠を持ち込み、その持ち主像を推理して貰うのだが、この推理が揮っている。まさにシャーロック・ホームズもビックリの展開。なんと年齢から、職業、海外経験、そして入れ歯である事まで推理するのだが、それを受けたヒルディーのドタバタぶりが笑わせる。そして、見事な「オチ」。やってくれます、スチュアート・パーマー。勿論、推理小説としても良く出来ており、この真犯人と動機には、相当驚かされた。動物に対するヒルディーの愛情も微笑ましく、エピローグの大団円ぶりにはホッとする。なんとも楽しい推理小説。まぎれもなく1936年の佳作の一つであろう。強くお勧め。


2002年7月13日(土)

◆別宅へ本を突っ込みに行く。
先日買った「探偵倶楽部」を並べたついでに、所持本リストを作成する。要は今まで、目録が来るたびに、所持・非所持をチェックしていた訳ですな。通巻番号がなく、合併号やら増刊やらが入り乱れていてほんに訳の判らん雑誌ですこと。
で、昭和25年5月・6月の「オール読切別冊」の1号・2号は「日本ミステリー事典」に言う105冊の外数なのかな?となると、後まだ34冊も集めにゃいかんわけかあ。うう、段々メゲてきたぞお。
◆ついでに書棚の後列に並んでいる角川文庫の都筑道夫もチェック。おお、あと13冊も買わなあかん。楽しみ〜。これぐらいの難易度の探究本があると、リサイクル系を回る励みになるんだよなあ。
◆EQFCの会誌QUEENDOM65号とSRマンスリー322号を回収。
クイーンダムは尚もしぶとく「第八の日」。あの作品でこれだけの頁数を稼げる同人誌は世界でもこの本だけであろう。いやあ、毎度の事ながら、感心してしまう。クイーンのアメコミやら、「双頭の犬の冒険」の米初出誌(イラスト替りに写真が用いられているのが面白い)などクイーンマニア垂涎のラインナップ。これも「買い」でしょう。SRマンスリーは、去る2月に開催された50周年記念大会特集。開催されてから5ヶ月経って報告されるというのがSR時間ですのう。
◆ブックオフでも定点観測しようかとも思ったが、別宅を見るとゲップが出てしまい購入本0冊。
◆というわけで、本を買わなくとも書庫にいくだけで日記のネタにはなるわけです>よしださん


◆「犬嫌い」Eハンター(ポケミス)読了
犯罪趣味のある作品は「ジャングルキッド」と「歩道に血を流して」に吸い取られてしまったために、なんとも普通の読み物ばかりになってしまった作品集。巨匠でなければ本にならなかったであろう拾遺集である。こんな本出しているぐらいなら他にポケミスで出すべき短篇集があるだろうに(「ストラング先生を読んだマニア」とか「AHZカー短篇集」とか)。私はなにもこんな話が読みたくてポケミスを買う訳ではない。こういうのは、ハヤカワコンテンポラリーズか、早川ノベルズで完全版を出してくれ。それともハヤカワが版権を取ってしまったのがそもそもの敗因か?ただ、著者あとがきだけはアシモフみたく没自慢に走っており、笑える。後書きを先に読んだ私は、作品を読んで、なるほど、こりゃあボツでしょうと大いに納得いたしましたとさ。
「小さな小さな欲望」投書仕立ての艶笑落語。老醜の異常愛がストーカーと化し、紙爆弾と散る。今ならさしずめネット話体で綴られるんだろうなあ。しかし、このオチはオチとして受け取っていいのかな?
「馘首」演出家への仕打ちの背後あったのは、演劇への純粋な想い、それとも失恋の清算?男とオンナのラブゲーム。教訓は「批評は見てから言え」。
「誕生パーティー」酔っ払い、大陸を渡る。さあ、ピンクの象と一緒にスッチーの夢を見よう。クリスマスと誕生日を一緒にされつづけた男の一夜の暴走を描いたブンガク、なのか?
「映画スター」キム・ノヴァクに似ていると言われた平凡なOLが、少しずつ成り切りの魅力に憑かれていく。一線を越えた果てに彼女を待っているものは?サスペンスを盛り上げていく過程は抜群に面白いのだが、ラストが「奇妙な味」の水準に達していない。
「犬嫌い」一人の女を愛した男と犬。歪んだ独占欲が、もたらした悲劇。吠える犬はもの憂げな恋人に何をもたらしたのか?かろうじてミステリっぽいつくりの作品。救いようのない展開に落ち込む事しきり。
「モーテル」三幕の不倫の風景。ただそれだけの話である。常盤編集長時代のHMMなら掲載したであろう、青木雨彦向け作品。
「真夜中のベル」裕福な一家が住む高級アパート。真夜中にベルを鳴らす者の正体とは?リドルの向うに少年の夏が走る。どこまでも輝いていたあの日。すべては沈黙の中。不思議なブンガク。少年の気持ちが実に鮮烈に描かれていて吉。日常の謎はこの際どうでもよくなってしまう。傑作かもしれない。


2002年7月12日(金)

◆一駅途中下車して、定点観測。
d「埋もれた青春」デュ・モーリア(三笠書房:帯)100円
d「愛すればこそ」デュ・モーリア(三笠書房:帯)100円
d「吸血鬼飼育法」都筑道夫(角川文庫)200円
「お嬢さん探偵」中野実(春陽文庫)300円
デュ・モーリアは、縁のない本とある本の落差が大きくて、ダブる本は何回でもダブる。帯付きなので拾っておきます。角川都筑は只今サルベージ・モードにつき確保。半額以上だけど、ま、いっかー。思い切り悩んだのが中野実。「探偵」という言葉がついていなければ当然スルーなのだが、この言葉に弱いのよ〜。定価120円のところ300円の古書価格。いやあ、太っ腹だなあ。
◆ちょっと勢いがついたので、新刊もついでに買ってみたりする。
「犬嫌い」Eハンター(ポケミス:帯)1100円
「法月綸太郎の功績」法月綸太郎(講談社NV:帯)820円
「煙で描いた肖像画」BSバリンジャー(創元推理文庫:帯)680円
「戦艦陸奥」山田風太郎(光文社:帯)857円
「男性週期律」山田風太郎(光文社:帯)857円
「怪談部屋」山田風太郎(光文社:帯)895円
山田風太郎ミステリー傑作集全10巻をようやく揃える。「しめしめ、ちゃんと帯付きだぞ」と思ったら「戦艦陸奥」と「男性週期律」は後帯じゃん。やられたなあ。アコギな事するよなあ。ぶつぶつ。ポケミスは、エド・マクかと思いきやエヴァン・ハンター名義。これにも意表を突かれた。エヴァン・ハンター名義のポケミスなんて何年ぶりだろう。後は、小学館と企画が被ってしまったバリンジャー。とりあえず安い方を本屋で確保しておきましょう。講談社NVは有栖川・火村の最新長編も手に取ったのだが、なんと3刷。うーむ、やはり女性ファンがついているシリーズは違うなあ。仕方がないので、初版だった法月の最新短篇集のみ買う。レジで、平積みになっていた「ハヤカワ文庫解説目録 2002年7月版」と「IN POCKET特別増刊/真夏のミステリーズ」を堂々と頂戴する。ふっふっふ、これだけ買えば文句あるまい。
◆その新刊を買うためにレジの列に向ったとき、タッチの差で長い髪の女性に負ける。
うがあ、これだけ持ってると重いんじゃ。
早よ終わらんかい、ぐおらあ。
鞄も古本で一杯なんじゃあ。
いちいち文庫本にカバーなんか掛けさせてるんじゃねえぞお、ぐおらあ。
とココロの中で、毒づいていると、その本の表紙が目に入った。なんとディックの「ヴァリス」じゃん。
ありゃあ、なんてご趣味のいい。これはきっと素敵な人に違いない、
ささ、どうぞどうぞ、お先に御済ませ下さい、
その本はいい本ですよお、
と和んで優しい気持ちになってしまうところが「心の狭いSFファン」だったりする。
◆帰宅すると「本の雑誌8月号」の贈呈本が到着していた。特集は上半期エンタテーメントベスト10。当たり前と言えば当たり前なのだが、そのうちの1冊も読んでいない私は「『本の雑誌』に書かせて貰ってます」と人に言いづらいよなあ。
◆では、決めの台詞。「ああ、本を買った日は日記が楽だ。」


◆「0番目の男」山之口洋(祥伝社文庫)読了
あるいはマカロフで一杯の地球。クローンテーマの中編。非常に懐かしい未来。ロマンと科学を巧みにシャッフルして爽やかな読後感を醸した作者の技に脱帽。
一人の環境科学者が、<優秀な人材>工場の原型に選ばれる。そして70年後、自らの実験成果を見届けるため冷凍睡眠から目覚めた0番目の男を待ち受ける「有り得べき《自分》」たちの姿。演出家の自分、バーテンの自分、役者の自分、刑事の自分、泥棒の自分、様々な自分達との出逢いは、やがて危険なステージへと男を運ぶ。空疎なる自分、変容する計画、賑やかな同窓会は孤独への入り口。老境の1番、愛する900番、存在しない1000番、課せたれた《罪》は15年。
星野之宣の絵柄の似合いそうな佳編。SFの部品はありふれたものばかりだが、寓話として良く出来ている。長編にしようとすると、ディック的に自らを「原型」と信じる男のシミュラクラ感覚を弄んだり、俺が偉い!というヴォークト的な超人哲学やらを絡めて話を膨らませるところなのだろうが、あっさり藤子不二雄の「パラレル同窓会」を思わせる呑気な展開で騙り尽せてしまうのが中編の強み。一体、どのようなオチをつけるかと思っていたら、まんまとしてやられました。これは、あの「部品」を見たときに気がつくべきでした。お勧め。


2002年7月11日(木)

◆本日は飲み会哉。購入本0冊。
◆とりあえず、原書を読み始めた動機は3つぐらいあって、一つに、この分だと一生掛かっても読めそうもない冊数が積みあがってしまったから。一週間に1冊読めば、一年で52冊。60歳まで勤め上げるとして、自分のサラリーマン人生残り16年4ヶ月で845冊。積読分ぐらいは、なんとかなりそうなギリギリのタイミングが今であったこと。これが5割ぐらい。次に、奥さんと「今年のテーマは英会話だ!」と誓い合ったり(そっち=英会話の努力は何もしていないんだけど)、会社で一緒に仕事してた人がペーパーバックを読んで英語の勉強していたこともあった。この理由が3割ぐらい。で、まあ、サイトの差別化にはなるかも、という下心があった事も否定できない。これが2割ぐらい。目指せ、日本一の原書ミステリ読みサイト!(元気だけは、宜しい)。
◆サイバー・ガーシュムを覗く。ヘレン・ニールスンとバーソロミュー・ギルが死んだらしい。ヘレン・ニールスンが、白黒時代のテレビ版ペリー・メイスンの脚本を沢山書いていた事を知る。ふーん。
で、誰だっけ、バーソロミュー・ギルって。ぐぐってみると、「ジェイムズ・ジョイス殺人事件」の作者らしい。「アマンダ・クロスの『ジェイムズ・ジョイスの殺人』と紛らわしい題名の角川文庫」という印象しかないや。まだ買ってなかったよなあ、確か。
そのギルの検索でヒットした「Parallel World 」という本&パソコン大好き系のサイトをしばし探訪。するどくスタイリッシュな画面作りに感心する。世の中には、まだまだ知らない優れもののサイトがあるのだなあ、と嘆息する。今度は、そのサイトがリンクしている「WebRing 海外ミステリファン」の登録サイトを見て回る。ミステリ系更新されてますリンク頼りで巡回サイトを固定化していたので、実に新鮮である。ほほう、ネット上にはこんなにたくさんの翻訳ミステリファンがいたのか、とこれまた感心する。私も入れてもっらおかな〜。「N.M卿の部屋」というサイトでは、気合の入った名探偵データベースが構築されつつあった。まだ開設されて二ヶ月足らずだが、コツコツ作りこんできたのだろうなあという事が伝わってくるサイトである。COLUMBOの綴りが違ったりするのはご愛嬌だけど、名探偵で括ったデータベースは作家括りの風読人さんに対抗できる内容でしょうね。書影掲載をいちいち出版社に仁義を切っているところも立派。んでもって、そこのリンク先を見るとちゃっかり相互リンクで「酔胡王」なんぞが載っている。へえーっ、ドクターってば、こマメにいろんなところチェックしてんだ。「殺人配線図」は面白かったですか?>私信


◆「ささやき」立原透耶(ハルキホラー文庫)読了
ヤングアダルトでも活躍している(らしい)女流の書き下ろしホラー。ロンド形式で、この世の終わりを描いた連作。分類すれば「電波系」なのだろうが、叙述の妙でアクセントをつけており、様々な壊れっぷりが楽しめる。こんな話。
街を猟奇連続殺人事件の影が覆っていた。動機の欠片も感じさせない惨殺ぶりを、人々はただ「物語」として消化していた。そして、ささやきが聞こえ始める。
最初は、人間嫌いの娘。人間の営みの立てる音すべてが、耐え難い騒音と化していく日常。いつしか手の中にあった携帯電話だけが、彼女の生き甲斐になる。自分を理解してくれる只一人の声の主を求めて、彼女の修羅はまだ始まったばかりだ。
二人目は妻を亡くした老人。時の流れを越えて綴られた愛しいものたちへの手紙。未来へ、そして過去へ託された想い。穏やかな邂逅。静かな消失。
三人目は愛娘を失った若妻。五時のサイレンは心の中でいつまでも鳴り止まない。まだ間に合う。まだ間に合う。狂ってしまうには。アチラ側に逝くには。
四人目はセイギのミカタ。護るために生まれた男。闘うために生きる男。殺すために殺す男。
五人目は平凡な主婦。非日常の蚕食を拒否した女。裁きは緩やかに揺れる軒下のペンデュラム。
六人目。観察者は記録者に選ばれ、道化のシャッター音が浄化の時を刻む。画はどこまでも露出オーバーだ。
個人的にはもの凄く波長が合ってしまったが、ホラー系の人からすれば「理が勝ちすぎた」作品かもしれない。多重視点の書き分けなど筆力はあるのだが、話のパターンが決まっているので、そこへ落す過程がやや冗長に感じられる。特に第2話などはそこまでの長さが要るのか?と突っ込みたくなる。まあ、これぐらい楽しませてくれれば、ワタクシ的には及第点。ごちそうさまでした。