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2002年7月10日(水)

◆大阪に日帰り出張の予定。移動時間で睡眠がとれるかなあ、と東京駅まで来てみると、なんと!台風の影響で、岐阜羽島〜米原間で増水し、新幹線が動いていない。これは如何ともし難いと、切符の払い戻しの列に並ぶ事20分。ようやく手続きを終えていつもの勤務先に向おうとした瞬間、「新幹線をご利用の皆様へ」との構内放送。なんと!「のぞみが動く」というではないか。うわああ、もう一度、新幹線乗り換え口に戻ると、至るところで乗客と駅員が押し問答をやっており、完全なカオス状態。指定を取り直して大阪へ向うか、ここでスッパリ諦めるか、悶々としていると、更に放送があり、出るのは「名古屋行きののぞみ」である事が判る。ううむ、なんと中途半端な。確かに名古屋まで出れば、そこから近鉄特急で大阪に向う事は可能だ。しかし、富士川だって難所である。名古屋まで辿り着ける保証もありはしない。大阪に着いたら会議は終わってました、というのは笑い話にはなろうが、そこまで身体を張ったギャグをかますには心の準備が出来ていない。数分間葛藤し、最終的に大阪行きを諦め、「いやあ、誰も、行けっこないですよお」と都内で鉄壁のアリバイ作りに励む。
と、後から、会議の主催者が同じ憂き目に遭いながら、根性で新幹線〜近鉄特級で大阪に向った事を知る。ああ、鉄壁のアリバイが破られてしまった。凄いぞ、サラリーマン。
◆台風が接近してきたので、定時にダッシュで帰宅。古本屋に寄っている余裕などない、と思いきや、駅のワゴンで1冊拾う。
d「匣の中の失楽」竹本健治(講談社文庫)200円
割と珍しい講談社文庫版。以前であれば欲しがる竹本ファンもいたかもしれないが、オーラの枯れ果てた今、需要は減っているにちがいない。まあ、この作品だけは別格かもしれないけれど。


◆「ブラック・オーク」Cグラント(祥伝社文庫)読了
「オクスラン・ステーション」シリーズなどで知られる手堅いモダンホラーの書き手の新シリーズ。後書きを読んで初めて「Xファイル」のオリジナル小説版という、アルバイトをやっていた事を知る。成るほど、確かに合うかもなあ、と納得してしまった。で、この新シリーズは「Xファイル」の制約に飽き足らず、小説化を2作で降りてしまった作者が、自分らしさを出そうとした作品らしい。でも、外の人間からみると、どこが「Xファイル」と違うねん?と突っ込みたくなる仕上がりだったりする訳で、これも「アーチストがこだわる程には、観衆には差が伝わらない」という世の常だったりする。
主人公チームは、詐欺やペテン破りを専門とする探偵事務所のエースであるプロクターと、その探偵社の大スポンサーから派遣された謎の美女ヴィヴィアン。まあ、モルダーとスカリーですな。プロクターの琴線に触れた依頼状には「街が《奴ら》に乗っ取られる」という訴えが記されていた。その街、ハート・ジャンクションは、故あって150年前の西部の街を再現した佇まい。だが、酒場の喧燥は見せ掛けで、依頼人の家も既に廃屋と化していた。一体、誰がプロクターをおびき出したのか?静かな襲撃と血溜り、消えていく住人、欲望の偽証、ローブの中の笑顔、そして闇の中に羽音は響く。それは天使の羽音ではない。
シリーズに仕込まれた設定を咀嚼しながら、エピソードを楽しむためには、やはり第1作から翻訳して欲しかった。展開と血の量はXファイルよりも派手だが、訳の判らなさは似たようなものである。後書きによれば、第3作が傑作らしいのでせめてもう1冊訳してくれい。


2002年7月9日(火)

◆残業。駅傍のワゴンなどに一応チェックは入れてみるが何もなし。購入本0冊。
◆掲示板では、カミの話題が盛り上がりっぱなし。戦前本と戦後本の収録作の異同からに始まり、挿し絵からジュヴィナイルまで、戦後版の「ルーフォク・オルメスの冒険」をもっているだけで満足している管理人の手の届かない領域へ。毎度ありがとうございます。
「洛陽のカミ価を高からしめる」と申しますか。
それだけかいホイそれだけだあ。


◆「お葬式」瀬川ことび(角川ホラー文庫)読了
名前誤記記念読書(こらこら)。実際に手にとってみると、なんと第6回ホラー小説大賞短篇賞の佳作に入った表題作には読んだ覚えがあった。表題作以外は全て書き下ろし。全5編収録。いずれも、新井素子風の文体で書かれた、ふわっとしたホラーが居並ぶ。道具立てには左程の目新しさはないが、読者をくすくす笑わせながら、ちょっとだけぞっとさせる手際はなかなかのもの。「爽やかなホラー」とでも呼べばよいのか。以下、ミニコメ。
「お葬式」表題作。働きすぎで逝ってしまった父の葬式。我が家のやり方で弔う、と宣言した母は、腕まくりして宴会の支度に臨む。いやあ、娘の私も、もう胸もお腹もいっぱいで。筒井康隆に似たような話があったが、ラストのツイストでなんとか新味を出した「あのネタ」。とにかく語り口の妙だけで、つるつる読まされてしまう。
「ホテルエクセレントの怪談」新米ホテルマンが、先輩からホテルの怪談を思い切り吹き込まれた夜、彼は一つの「怪談」の誕生に立ち会うこととなる。ロック歌手への想いを漲らせたファンに不可能はない。優秀なホテルマンにも不可能はない。手頃な恐怖?はい、只今ご用意いたします。なんともイマ風のホテル奇譚。オチまで決めてみせるところなんぞ、憎いね。
「十二月のゾンビ」一人暮らしのアパート。無言電話の次には、顔色の悪い同僚が転がり込んできた。顔を文字通りぐしゃぐしゃにして。「あたしじゃだめ?」ってだめだよなあ、やっぱ。なんとも淡々としたある愛の詩。刃物で切り取ったようなラストが光る。
「萩の寺」激情の殺人。逃げる男が事故の末に迷い込んだ尼寺。時代は果てしなく溯り、背後に獣の吐息が聞こえる。最もオーソドックスな怪談。異形の姿にそそるものがある。
「心地よくざわめくところ」のほほんとした昼下がりの「終末」。街の静けさの中を下校していく僕たちも、既に鼻血がとまらない。銀色の灰が降りやまない。そして誰もいなくなった。犯人の名は、人類。巻末を飾るに相応しい配置。
<ことび>というペンネームは「琴美」なのかな?


2002年7月7日(日)・8日(月)

◆月曜日の会議に向け、前日から大阪入り。ならば、実家の近所に越してきたフクさんと会って久しぶりにナマでお話しましょう、と連絡を取り合い、「我が街」のブックオフの前で待ち合わせ。
住所から察するにフクさんの家からも歩いて2分かからない筈である。ところが、予定の時間に行って、炎天下で待つ事しばし。現れない。しびれを切らして氏の家に電話をいれてみると、奥さんが出て「5分前には出ました」との事。そうですか、それではもう少し待ってみましょうと、更に5分。来やしねえ。
再度電話すると、奥さんの方でも携帯に電話してくれたようなのだが、電波の届かないところにいるとの事。おおお、これは益々不思議である。トワイライトゾーンに紛れ込んで、ランゴリアーズにでも食われたか?更に待つ事5分、とうとうものすごく別嬪の奥さんがブックオフ前まできてくださる。
「すみませんねえ」
「いえいえこちらこそ」
「途中の道でこけてませんでした?」
「いえ。大きいのはいませんでした」
「うーむ、これは拉致されたのかも」
「それでは、私が困ります」
「そうですねえ」
等とお喋りしてみても現れる気配がない。仕方なく、奥さんに「まさかとは思いますが」と店内を覗きに行ってもらうと、1分しないうちに二人連れで階段を下りてくる。おお、拉致疑惑は晴れた!電波も通わぬトワイライト・ゾーンからの帰還だ!万歳!万歳!
「あっはっは、外にいなければ、中に入ってくるだろうと、棚のチェックを始めたら、つい。」
何が「つい」だ!
「ったく、とんだ『日常の謎』だあ」
「<『ちょっと、ブックオフにいってくる』と言い残して、20年間帰らぬ夫>」
「ありそ〜う」
「それでは、私が困ります」と美人妻
「そうですねえ」
「失踪届けを出しても7年は保険がおりませんから」
「そうですねえ」
と、当初はどこか喫茶店ででも話をするつもりが、場の勢いでお子様の待つ新居にお邪魔する事になる。昔はたしか大きなおうちが建ってたよな、という場所にそびれるセキュリティー付きの新築のマンションの一室にご案内。フクさんのクイズの答えを口頭で伝えながら、当然のように本棚のチェックから。
厳しく在庫を制限されているので、濃いところが目立つ。加えて本棚前後2列+アルファのサイン本が圧巻。よくぞ短期間にこれだけ集めたものだ、と感心する。多岐川恭コレクションも、一線越えのラインナップ。こんなに著作があったのか、とこちらもビックリ。小泉喜美子の青樹社NVの3冊目とか、高原弘吉の文華新書とか、りら荘の光風社版とか、渋いところもあって「みんな黙って揃えてるのね」と感心することしきり。現在進行形は大衆文学館との事。頑張ってくだされ。後は、ネットの話題やら、近況報告などを小一時間交わして辞去する。どうも、突然お邪魔してご迷惑をおかけしました>奥様。今度は飲み会やりましょう。
◆ブックオフに行く前に、1軒だけ古本屋チェック。
「黄色の間」MRラインハート(ポケミス:帯)650円
なぜか、ピカピカの新刊が新刊案内まで挟まった状態で半額。つい拾ってしまう。いかんなあ。
◆実家では、ここ一か月分の週刊誌を10数冊読み耽る。ネットを情報源としている記事も散見され(特にサッカー関係)、時代は変わったなあと感じる。
◆月曜日は、会議を一つこなして東京へとんぼ返り、夕方からご接待を一つ片付ける。本を買っているヒマなどおまへん。
◆掲示板で土田さんから、ご指摘頂く。
(誤)瀬川こびと
(正)瀬川ことび
うっひゃあ。恥かしい。完全に思い込んでました。思わず小さくなってしまいます。
でも、「ことび」って何?(ぼそっ)


◆「Death of Cold」Leo Bruse(Peter Davis)Finished
ブルースの10作目。「死の扉」で登場した歴史教師の素人探偵キャロラス・ディーンの第2作。アカデミー・シカゴでレオ・ブルースが一挙復刊された際にも、漏れてしまった作品らしく、原書そのものが希少な作品らしい。黒白さんが拙宅に初めて見えた折に「な、何故、こ、これがある?」と激しく驚いていたので、本当に珍しいのであろう。まあ、特にブルースに対する思い入れがあるわけではない私の書棚にあること自体「猫に小判、豚に真珠」状態である。せめて読まねばと思い、○年来の積読を手に取ってみた次第。「冷血の死」とでも訳すのだろうか、お世辞のいえない実直な性格ゆえに、何かと敵を作りやすい市長の失踪と「事故死」を巡る推理譚。教え子のルパート、本当は推理好きのゴリンジャー校長など、ディーン・シリーズの常連も大いに活躍(?)するシリーズ第2作はこんな話。
海辺の街オールドヘイヴンの桟橋は、様々な施設を備えた優れもの。海水浴客と釣り客を当てにした、一杯飲み屋から、ちょっとした劇場、「本物の」ジプシー占いも楽しめる。その桟橋に釣り具一式を残して消えた市長ウィラル。ちょうど、娘の出産でおじいちゃんになった夜に、如何なる災厄が彼を見舞ったのか?市長の娘婿のフィアス医師の友人であったキャロラス・ディーンは、失踪の翌日からこの事件に遭遇する事となる。数日後、市長の水死体が発見され、田舎警察が事故死を主張する中、フィアス夫婦の依頼を受けたキャロラスは、桟橋の関係者に聞き込みを行い、失踪の夕方の市長の行動に迫る。釣りのライヴァルとの諍い、ポルノ販売の罪で訴えられた書店主との口論、女占い師への奇妙な依頼、飲み屋で夕刊を買って急に盛り上がるや、シャンパンを注文して店を飛び出ていった市長。その時間には、孫の誕生を知らせにかけつけたフィアス医師の他、泳ぎに来ていた息子の嫁、長年市長の世話をしてきた女中など、それぞれに「遺産」の対象となる人々も桟橋近くに居た事が判明する。そして、キャロラスが、市長の過去を握る「謎の赤毛の老女」に迫った時、新たな事件が勃発する。なんと、桟橋の近所に住む老女が行方不明になったのだ。毎日決まった時間に桟橋を散歩するのが唯一の趣味という無害な彼女に何が起きたのか?事件を「事件」にしてしまった事が、新たな被害者を生んだというのか?静かな怒りと自責の念に駆られつつ、キャロラスは醜い事件の構図を白日の下に晒す。自らを囮として。
実にオーソドックなフーダニット。様々な証言によって、一人の人間の行動が徐々に浮かび上がってくる過程が実にスリリング。桟橋から落ちたのでなければ、一体どうやって見張りのいる閉空間から被害者が抜け出したのか?という一応の不可能趣味もある。キャロラスの素人探偵ぶりは微笑ましく、爽やかな印象を残す。多すぎる容疑者と非協力的な警察を向こうに回して、根気強く真相を追う姿は、正に黄金期の名探偵そのものである。少し肩の力を抜いたユーモラスなやり取り、レギュラー(となる面々)との気の利いた絡み(中でも対面を気にしながら、キャロラスの捜査が気になって仕方がないゴリンジャー校長の描写は秀逸)、そして結末に掛けての天才的推理への大転回、トドメに関係者全員を集めての真相披露。これぞ推理小説である。トリック自体は小ぶりだが、最後まで赤鰊に気を配った佳編といえよう。

◆「驚異のスパイダーマン」ウィーン&ウルフマン(ハヤカワ文庫Jr)読了
映画化記念読書。まあ、これまでにも何度となく映像化されている作品ではあるが、今回のハリウッド版は、どの映画評でも概ね好評の模様。これに便乗すべく、このハヤカワ文庫Jr.で出ていた「スパイダーマン」3作を復刊でもするか、と思いきや意外と商売気のない会社である。「ローラーボール」はおお慌てで文庫化したのになあ。
アメコミ趣味のない私にとって「スパイダーマン」と言えば池上遼一だったり、「チェンジ!レオパルド!」だったりするわけで、今回、この本家のノベライズ第一作を読んで初めて、ご本家の設定に触れた次第。実験オタクな青年が、事故でクモと融合してしまい、蜘蛛の超感覚と体力を身につける、というところはありきたりだが、そこから正義のために闘う羽目になるくだりがユニークで胸を打つものがある。最初は覆面ヒーローとしてテレビ界の寵児を目指し、とある犯罪を見て見ぬふりをしてしまったが為に、育ての親である伯父を死に追いやってしまう、という「切っ掛け」は、なんともこの運の悪いヒーローを象徴するかのような英雄誕生秘話である。「何で僕だけこんな目に遭うんだ」と自問しながら、闘い続けるところが、屈折するアメリカの若者から受けたのも良く分かる。このノヴェライズ第1作は、石油業界の重鎮たちを脅迫する冷酷無比、神出鬼没の怪人とスパイダーマンの闘いがコミカルにビビッドに描いたもの。実は「意外な犯人」のおまけまでついてくる、という御得用。敵は、ドクター・オクトパスなる狂気の機械融合人間、と書いてもネタバレにならないところが、いいねえ。これは懐かしも「キャプテン・フューチャー」ではないか、と思わず嬉しくなってしまった。(敵は「宇宙帝王」と書いてもネタバレにならないでしょ?)。
アメコミファンも、ミステリファンも、SFファンも必読だ!と言い切ってしまおう。好評絶版中!


2002年7月6日(土)

◆天気もよかったので、近所のブックオフまで御散歩。半額棚でも2冊ばかり拾うところが、懐の温かさを示しているようです。
「犯人はだれだ?PART2」山前譲監修(白石書店)100円
「名前のない死体」日下圭介(広済堂NV)100円
「声を聞かせて」真崎さや(エニックス)100円
「野鳥の会、死体の怪」Dアンドリューズ(ハヤカワ文庫)100円
「ささやき」立原透耶(ハルキホラー文庫)100円
「お葬式」瀬川こびと(角川ホラー文庫)100円
d「危険冒険大犯罪」都筑道夫(角川文庫)100円
d「モンスターブック」AEヴァン・ヴォークト(河出文庫)100円
「カルの謎」ソ・イヨン(クロック・ワークス:帯)700円
「猫の舌に釘を打て/三重露出」都筑道夫(講談社大衆文学館)650円
「ふーん、こんな本出てたんだ」と唸ったのが白石書店の犯人当て本。一体、山前さんは何を「監修」したのだろうか?そして、映画を見てもいないのに、ただ珍しいという理由だけで「カルの謎」を買う奴。それにしても、発売から1年半しか経ってない本がもう品切れなの?一時、いつもヤフー・オークションに出品されていたけど、そろそろ行き渡ったのかな?都筑道夫の角川文庫版は、見つけたら拾うモードに入っている。リアルタイムで出版されていた頃には、元版で持っているものは、買わなかったんだよね。ついでに大衆文学館も解説欲しさに一応押えてみる。こちらも凄いカップリングですな、実際。
◆買い物に奥さんと出かけたついでに、もう一軒だけ定点観測。チョコっと買い物。
「ひすいの復讐」ジャネット・ルイス・ロバーツ(日本メールオーダー)60円
d「からくり砂絵」都筑道夫(角川文庫)60円
d「死びとの座」鮎川哲也(光文社文庫:帯)200円
よっしゃあ、大矢女史の探究本をげっとおお!角川砂絵、残すところは「おもしろ砂絵」です。「千葉の<鵜>」として面目躍如たるものがございます。あれ程、巡り合わなかったのに、日記でお尻を叩かれた途端にこれだもんなあ。
JLロバーツは、「ミステリーロマンスシリーズ」と銘打たれた叢書の9冊目。かのクリスティーのロマンスを別題で出していた叢書である。「ひすいの復讐」はJLロバーツ ゴシック・ミステリー・ロマンス名作選(3)とのこと。とりあえず、この叢書、この9冊で終わっているようなので、集めるとはなしに、集めてみますかのう。


◆「ポンド氏の逆説」GKチェスタトン(創元推理文庫)読了


2002年7月5日(金)

◆賞与が出る。昨年の実績と見比べて改めてその下落ぶりに嘆息す。とりあえず、出た事を寿ごう。ありがたやありがたや。
◆注文した本の受取りに無事成功。ここのところ小遣いが極貧状態だったので定価より高い本を買うのは久しぶり。どれぐらい久しぶりかというと、5月16日に「魔性の眼」のダブリを買って以来。つまり6月一ヶ月間は、新刊以外は安物買いしかしていなかった訳である。更に、ダブリでない定価を越える本を買ったのがいつか?というと連休中に創元推理文庫の目録を100円均一で拾った時。ダブリでないマトモな小説を定価超で買ったとなると、なんと昨年の12月13日以来。「ローラーボール」の元版を文庫化されるとも知らず買ったのが最後。うーむ、こりゃあ我ながら驚いた。要は前のボーナス以来ってわけだ。
閑話休題。届いたのはこの3冊。
「探偵倶楽部 第5巻1号」(共栄社)3500円
「探偵倶楽部 第6巻10号」(共栄社)3500円
「探偵倶楽部 第9巻8号」(共栄社)3500円
今、唯一、探究している雑誌かもしれない。これで73冊目。あと32冊(らしい)。まだまだ先は長い。神保町の@ワンダーではトンデモ価格がついていたりするが、まあ、5000円までなら許せるかなあ。
◆お、大矢女史に受けてる、受けてる。角川文庫のなめくじ長屋は決して忘れている訳ではなくて、一応チェックをいれてます。定価超ならば何度も見掛けるのですけど、自分で半額縛りを掛けているので買えてません。すまんこってす>私信。
◆「英語で阪神タイガースを応援できまっか?」という本を立ち読みしたとき、これだけは覚えておこうと思ったフレーズがあった。
そのフレーズとは「いつものこっちゃ」、
英語で言えば「As Always」。

さあ、一億阪神ファンの皆さん、ご一緒に、れっつ・すぴーく・いんぐりっしゅ!

「AS ALWAYS!」

◆「動かぬ証拠」蘇部健一(講談社ノベルズ)読了


2002年7月4日(木)

◆残業。帰りの電車では、立っているにも関わらず、本を読みながら何度も眠りこけそうになる。原書でこれをやっていると、自分で勝手にお話つくっちゃうんだよなあ。
◆帰宅すると不在票。文生堂から本が届いていた模様。なんちゅう、素早さ。ホントに久しぶりの文生での御買い物である。さて、いつ引き取れるのだろうか?
◆掲示板で告知があったように、古本まゆさんが遂にサイトを立ち上げられた由。ネスケでは今一つ上手く立ちあがらないけど、IEならば快適に趣味のよいまゆさんの在庫が拝めます。それにしても、書影付きで「これは!」という在庫はさすがに品切れなんですのう。
◆そのまゆさんのお膝元・名古屋在住の三巨頭(王様、大矢博子女史、くろけんさん:五十音順、とでも書いておかないと「一体、なぜ、わたしがあいつの後ろなのか?!」と厳しく追求されるので書いておきます)の日記を並行して読んでいると可笑しさが4倍にも5倍にもなる。一つの事象を全く異なる唯我独尊の視点で描くという叙述の快楽宴。これがタダで楽しめるのだからネットって素晴らしい。一体本当は何が真実なのか女子高生に変装してオフ会に潜り込みたいものである(やめれ)。

♪締切抱えた くろけん 呼び出して
♪自宅で宴会 陽気な大矢さん
♪読者は笑ってる 編集は凍ってる
♪るーるる るるっるー 今日もいい便秘ー

♪古本買おうと 街まででかけては
♪王様呼び出し 鵜飼いな大矢さん
♪読者は笑ってる 「若林」は怒ってる
♪るーるる るるっるー 今日もいい便秘ー


◆「虹の天象儀」瀬名秀明(祥伝社文庫)100円
デビュー作「パラサイト・イブ」1冊で天下を取ってしまった理科系作家が肩の力を抜いて綴った、星と時間ののすたるじあ。肩の力は抜いているが、中編一本書くのに用いた資料の数を見ると、決して手は抜いていない事がよく判る。どうやら、誠実な理科系作家のようである。
ビルの谷間で、何十年にも亘って星空を映し出してきた《宇宙船》の灯が消える。五島プラネタリウム。27年間の勤めを振り返りつつ閉館準備を進めるわたしの前に一人の少年が現われる。そして少年のひたむきな星への想いが、わたしの心を過去へと投影させる。カール・ツァイスW型プラネタリウム投影機。無骨で緻密な技術者魂の結晶。それは、宇宙への窓であり、時の旅への船でもあった。戦火の空、虚無の自嘲、掌の宇宙、月の虹、今逝かんとする大衆作家の心に残った色は果して何色?すべての「謎」は愛するものの微笑みの中へ溶けていく。ああ、君はそこにいたんだ。
さだまさしとは違う意味で「天文学者になりたかった」事を思い出させてくれる佳編。異形のタイムトラベラーが、最後に青い鳥をみつける話。というか、瀬名版のたんぽぽ娘。辻褄合わせがどこまで成功しているかは疑問だか、とりあえず、30分間の感動は約束してくれる。これだけの要素があれば、3倍の長さにする事も出来たであろうに。「贅沢な中編」と申し上げておきます。


2002年7月3日(水)

◆見ました。TBS「かまいたちの夜」。すんげえ、つまんなかったです。ゴミです。こんな酷いドラマ久しぶりです。私の時間を返してください。余りのつまらなさに、日記を書く気が起こりません。今日はもう寝ます。
◆一応買った本だけ。
「動かぬ証拠」蘇部健一(講談社ノベルズ)100円
「悪霊館の殺人」篠田秀幸(ハルキノベルズ)100円
「幻影城の殺人」篠田秀幸(ハルキノベルズ)100円
「ブラック・オーク」Cグラント(祥伝社文庫)100円
「虹の天象儀」瀬名秀明(祥伝社文庫)100円
「0番目の男」山之口洋(祥伝社文庫)100円
「緋迷宮」結城信孝(祥伝社文庫)100円
「蒼迷宮」結城信孝(祥伝社文庫)100円
「悪党パーカー/ターゲット」Rスターク(ハヤカワミステリ文庫)100円
d「メリー・ウィドウの航海」Nブレイク(ハヤカワミステリ文庫)200円
「呪われた航海」イアン・ローレンス(理論社:帯)400円
久しぶりに「重い」と感じる量を安物買いしてしまった。ブレイクだけ半額コーナーだが、元値が元値なのでお安い買い物にはかわりない。理論社のジュヴィナイルは「『宝島』のスティーヴンスンの再来と話題の全米ベストセラー」とか。少し期待してしまう。


◆「嫉ける」新章文子(講談社ロマンブックス)読了
ショート感想。長編としては「女の顔」の前に位置する<後期作>。器量が良く、独占欲が強く、愚かな二人の女を巡り4人の男が繰り広げる嫉妬と操りの色の地獄を描いた作品。青木雨彦ならば、この物語をもってして10枚のエッセイをモノにすることができるかもしれないが、推理の妙味を期待する人間にとっては、肩透しな一編。
塩酸を買っていった美女・戸倉由里亜に心奪われる薬局の若主人雄太郎。彼の友人・野田金次郎は、アパートの隣室に住むファッションモデル松宮のり子に懸想する。由里亜は、売れっ子の中年カメラマン戸倉作也の妻の座を射止めながら、モデル時代の恋人であり彼女が捨てた推理作家・柾目秋介がのり子と恋仲になっている事に激しい嫉妬の炎を燃やす。作也が、由利亜の心を取り戻すため、のり子と一芝居うった時、心の紅蓮は暴走する。うち捨てられた助手の死体、流転する強酸、そして身勝手と我侭は勝者と敗者を峻別する。嫉け跡に佇む純愛は誰のもの?
ドラマはどこまでも不運な死体をほったらかしにして、男女の心を行き交う。造りようによっては、ファンタジックでコミカルな三幕ものになりそうな要素を持ちながら、作者のウエットな書きぶりによって、情痴テーマの実話よみものの域を脱する事が出来なかった作品。新章文子完全読破を志した人が読めばいい作品であろう。


2002年7月2日(火)

◆プロ野球オールスター・ファン投票の結果が出る。しかし、日本を飛び出して海外で活躍する選手の多い今、なんとなく気の抜けた感じがするのは否めない。特にセリーグは見事に外人選手がいなくて、さながら「本格ミステリ大賞」状態。まあ、先発投手部門の井川は久々に江夏の伝説に挑戦できる可能性を秘めていると思うので、是非頑張って頂きたいとは思う。
◆残業。一駅途中下車して定点観測。
「ベニスへの密使」Hマッキネス(講談社:帯)50円
d「ファウスト時代」荒巻義雄(講談社)50円
今更ながらのヘレン・マッキネス。何度も見かけては「いつでも買える」とスルーしていた本。余りに美本だったので手にとってみると、この頃は「ウイークエンドブックス」とは謳っていなかったのが判る。へえー、「好評の講談社翻訳シリーズ」「講談社の新しい翻訳小説」だったのかあ。そうなると一体いつごろから「ウイークエンドブックス」と銘打ち出したのかが、気になってしまうなあ。よしださんのサイトでリストの吹き溜まりを覗いても、今ひとつはっきりしないしなあ。荒巻本は、まあ50円だったのでダブリ買い。これでも専門店の棚にあれば1000円ぐらいの値付けにはなる本なんだよな。


◆「殺人配線図」仁木悦子(角川文庫)読了
なおも続く「こんなものも読んでなかったのか」シリーズ。元版は桃源社の書き下ろし推理小説全集の1冊。あの全集は、乱歩・宇陀児・木々高太郎てな大御所と、戦後派の鮎川哲也やら日影丈吉、そしてこの仁木悦子が加わるという新旧世代のせめぎ合う好企画で、特に新人側の選球眼の良さには感服する。この作品は、現代的な設定で書いてきた作者が、操をすてて黄金期の「お館」ものに挑戦した作品。そのせいか仁木兄妹が登場しないのは残念ではあるが、シャープにまとまった名編である。こんな話。
新聞記者・吉村に友人の塩入が持ち込んだ頼み事。「父を自らの過失で殺してしまった」とふさぎ込む従妹のみどりを救うため、その死の原因が別にあった事を証明して欲しいのだという。みどりの父、塩入の伯父にあたる卓之助は、画期的な発明を事業化する手腕に長けた立志伝中の人。だが、人間嫌いが嵩じて、自らが設計した奇矯な3階建ての邸宅に篭り、発明に明け暮れていた。その彼が三年前の夜、3階のベランダから転落死を遂げたという。そして吉村が、その夜に至る過去を調査し始めると、次々と不審な事実が浮かびあがる。切れていた電球、割れていなかったツバキ油の壜、移動する針金、更に、卓之助が邸宅のどこかに隠したと言われる財宝を巡り、失踪した書生や、間違った配線図など新たな謎が持ち上がる。果して、闇の中の目撃証言が明かす悪意の姿とは?
なんとも爽やかな「お館推理」。暗号あり、仕掛あり、フーダニットありで、所謂「本格のコード」に満ちた話だが、真犯人以外は歪なところがない。子供の使い方がこれまた心憎いばかりで、今どきであれば、嫌味なパソコンおたくにしかなりえない理系の子供がなんとも微笑ましい(まあ、これはプロジェクトX的ノスタルジーに過ぎないのであろうが)。ただ、ここまで怪しい事だらけにも関わらず、事件直後に警察は何をしていたのか?という疑問は湧く。まあ、警察がしっかりしてないからこそ名探偵が活躍できるわけではあるのだが。この作品での「事件記者」の頑張りは、やはり島田一男の影響なのかな?重厚長大な新本格に倦んだ方は是非どうぞ、とは言うものの、これってもしかして絶版?


2002年7月1日(月)

◆今年も既に半年経ってしまった。ワールドカップも終わってしまった。職場の所属も変わって心機一転。でも机の上の書類は積みあがったままだったりする。少々残業するが、何も変わらん。購入本0冊。
◆7月改編の中でもダントツで話題の「私立探偵 濱マイク」第1話をリアルタイム視聴。スタイリッシュな映像がなんともテレビばなれした作品。プロットは大筋で壊れているような気もするが(「何故、依頼人はマイクに依頼したか?」「何故、マイクには真相が分かったか?」)細部は軽快にイマ風である。常連キャラが多すぎて整理が悪いような気もするが、おいおい慣れていくのだろう。チョイ役で泉谷しげるやら樋口可奈子といった主役級を使い捨てる贅沢な配役にも脱帽。これは21世紀の「探偵物語」の予感。とりあえず、次ぎも見る気にさせる佳編であった。文句なしのお勧め。


◆「非常階段」日影丈吉(徳間文庫)読了
「こんなものも読んでなかったのか」シリーズ、国書刊行会「日影丈吉全集 内容公開」記念読書。それにしても一冊9500円は凄い値段である。8500円とかいう情報が出た時も「ほほー、毎回《山尾悠子作品集成》のようなもんですか」と感心したが、本決まりになると軽くそれを越えてしまった。私的「本屋で買った一番高い本」記録を更新しそうである。どの巻にも所謂収集の「効き目」を入れてくれているのが、いい訳をくれているようで、安心する。徳間文庫で出たところばかりで1冊組まれたら辛いもんなあ。
閑話休題。その徳間文庫で最初に出たのがこの「非常階段」。まあ、古本屋でも、これと「真っ赤な子犬」が一番見かけるところ。帯を見ると「推理界のベテランが密室に挑む!」という煽りがあって少し期待するが、読んでみたら「嘘つけ!」であった。一体、これのどこが密室やねん?こんな話。
昭和30年代初め、航空業界の伸びに押され気味の海運会社が舞台。採用に応募してきた成績抜群の美人・兼任絹子は、片親を理由に不採用が内々決まっていた。若い人事課員・八木原は、上司の二戸が市橋人事課長の縁故である辻宮睦子を推そうとしている事に我慢がならなかった。そして絹子が身体検査に呼び出された時、惨劇は起きる。なんと二戸は刺し殺され、その傍には意識を失い兇器をもって昏倒する絹子の姿が!八木原は御局様の織枝と組んで、証拠の隠滅を図ろうとするのだが、、、消えては出没する移行死体、戦争での上下関係を引き摺った憎しみの多角形、父親を失った女の家、やがて捜査陣が辿り着いた内部の真実とは?
人物の配置や、事件の設定はいかにも当時の風俗を写したものなのだが、展開が一筋縄ではいかない。特に、残り10頁で不意打ちのように明かされる真相には意表をつかれた。フェアかアンフェアかは再読してみないと何ともいえないが、この作者であればヘマはやっていなさそうな気がする。日本の社会が平均して貧乏だった時代の産物だが、ミステリの骨格は今なお鑑賞に耐えるものである。もう少し捜査陣側のキャラを立ててもよかろうと思われるのだが、これがフレンチ・スタイルというものか。