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2002年6月20日(木)

◆雨中の神保町タッチ&ゴー。均一台にビニールが掛けられていてなんとも楽しくない。やっぱりこの季節だけは、古本屋廻りには向かない。仕方がないので、新刊書店をしげしげとチェック。ありゃりゃ、またポケミスの新刊が並んでいる。マクベインの「短篇集」なんて、本当に久しぶりに見る。
ポケミスは、HMM分載長編とHMM掲載短篇集で2年ぐらいはラインナップに困らないと思うよ。長編は最近掲載のもので、残っているのはトリートとそれいけスマートぐらいかな?後はウエストレイクの「だれがサシ・マヌーンを盗んだか」、EDホック(ミスターX名義)の「狐火殺人事件」が待望久し!といったところ?世界ミステリ全集入りしてそれっきりの「メグレの回想録」「アリゲーター」もポケミスで出されちゃったら買わざるを得ないけどね。文庫で目を惹いたのはドートマンダーの新作。そうかあ、背の色は黄色かあ。ウエストレイクだもんなあ。どうもドートマンダーは角川文庫の水色か、ミステリアスプレス文庫の濃いオレンジ色の印象が強くていけない。それにしても分厚いね。和物も含めて欲しい本は一杯あったが、ボーナスが出るまでは身動きが取れない。指を咥えて、シッポ巻いて退散。購入本0冊。
◆最近、うちの奥さんの積録ビデオに対する風当たりが強い。「撮ったら、見る!」と尻を叩かれながら、昨晩はカドフェルの「陶工の畑」を見て(1年以上の積録)、今晩はWOWOWで放映中の「CSI(科学捜査班)」の第1、2話を見る。
「陶工の畑」は原作を読んでいる筈なのに、全然話を覚えていない。いつもながら丁寧なセット造りに唸る。
「CSI」は、ラス・ヴェガスを舞台にした科捜研もの。1話のうちで、複数のエピソードを走らせるリアリズムが嬉しい。シリーズを亘る(であろう)名犯人の存在を暗示させたりする手際もお見事。こういうドラマ作りでは、やはりアメリカに一日の長がある。和物だと、1話完結は飽くまで1話完結だし、連続モノはどこまでいっても連続モノだもんね。
◆掲示板の方では、またまた坂本さんのフランス・ミステリレポートが寄せられており、賑やか。いつも貴重な情報をありがとうございます。またまた、聞いたこともない(小林晋氏はあるようだけど)作家のオカルトミステリが紹介されていて垂涎。そこから話題はヴェリーに転じていく。そういう意味では、エクスブライヤやらヴェリーやら(ルブランやら)を紹介していた社会思想社のミステリボックスの選球眼の良さを改めて評価してみたりして。


◆「目撃者」結城昌治(角川文庫)読了
承前。角川の結城昌治拾遺集の最終巻。昭和42、43年の作品を収録。ややハードボイルド色が強いものの、相変わらずバラエティーに富んでおり、それぞれに読ませる。以下、ミニコメ。
「殺人者の一夜」駆け落ち同然で水商売の女と結ばれた男の落魄と逃亡。死に場所を求める男が出遭った女。そして一夜の激情。運命はどこまでも皮肉な非対称。救われない情話。さしたるサプライズもない凡作。
「トリップル・トラッペル」敬虔で貞淑な妻を持った男が抱えた浮気の代償。遡行する病巣。清算される不倫。果てに待つのは淋病の輪舞。このオチしかない艶笑もの。さすがに上手いが、「それで?」という作品。
「夜が揺れた」父親の黒い職業に気づき、自らを貶めていく娘。ジゴロの死が試す自白の果て。夜は揺れ、心は贖う。組み立ての割りに結末があっけなさすぎる。残りページ数を見誤ったのか?
「夜の底から」妻が消えた。流産のショックと死病の予感に耐えかねたという書き置きを残して。追う夫。死への願望と矛盾する借金の無心が物語るものとは?再会は暗澹たる夜の底。不幸を一身に背負った女の描写が痛すぎる。ここまでキャラクターを虐めなくてもと思うのだが。
「すべてを賭けて」手形のパクリを追う元刑事。サルベージ屋に張った網にかかったのは、沈め屋の死体。美貌の女詐欺師はどこに潜ったのか?すべてを賭けたものが、すべてを失う。経済犯罪とハードボイルドを絡めた秀作。キャラクター造形も魅力的でフーダニットの楽しみもある。さすが、短篇集の表題作になるだけの事はある。
「目撃者」表題作。轢き逃げを目撃された男が嵌まる脅迫の罠。殺人が癖になった時、悪意は別の牙を剥く。あらゆる意味で因果応報。強引な話だが、まとめ方がうまい。
「暗い昨日から」野心家のサラリーマンが一夜の誘惑に身を委ねた時、封印した過去が復讐の鉄槌を下す。設定が大時代がかっていて違和感を覚える。復讐の爽快さに欠ける一編。


2002年6月19日(水)

◆職場では、サッカーといえば韓国対イタリア戦の話ばかり。あんなに燃える試合をやられては、日本の負け試合なんぞ忘却の彼方である。阪神の凋落著しい今、ビジネス雑誌の次号あたりで韓国のヒディング監督が「乱世を勝ち抜く理想のリーダー」としてクローズアップされる事は間違いなかろう。
ところで最初のPKを決められず、試合を盛り上げたうえで決勝ゴールを決めたマッチポンプなヒーロー、アン・ジョン・ファンが誰かに似てるよなあと思っていたのだが、そうか、飾り職人の秀に似てるんだ、うん。
密室系の成田さんのワールドカップ8強ネタが凄い。ミステリサイトとして正しいW杯への関わり方である。尊敬。
で、日本代表は「魍魎の函」らしいが、ここは素直に「青い密室」だったような気もしますね。いや、それは短篇だから選外となると、うーん、予選は通ったが決勝トーナメントで破れた「死の命題」なんか、どうよ?自費出版の装丁も青一色だしさあ(と、無理矢理ネタに絡む奴)。
◆銀河通信・掲示板のタワさんの書き込みで知ったのだが、ウルトラマン・コスモスは今週・来週で主役俳優抜きの総集編を作って一応お話を完結させる由である。円谷プロの正式発表はこちら。
なるほど、コスモスがいれば、ムサシ隊員抜きでも話は作れなくはない!これは目ウロコである。そこが石坂浩二入院でパニックとなった「水戸黄門」との決定的な差ですな。なんでも、円谷プロに「子供の夢を壊さないで」という声が殺到し、この決断を下した模様(「水戸黄門」だと「お爺ちゃんの夢を壊さないで!」と言う声は出ませんわな)。
横目で見て茶々を入れていた私だが、素直に反省します。今頃、不眠不休で総集編を編集しておられる関係者の皆さん、頑張って下さい。
◆南砂町定点観測。さしたるものは何もなし。
「カラー版 探偵ゲーム」藤原宰太郎(カワデベストセラーズ:初版・帯)100円
d「ノアの箱船殺人事件」池田得太郎(カッパNV)100円
藤原本は、昭和43年の発行。推薦の辞を寄せている面子がいかにも時代を象徴していて面白い。戸川昌子に、生島治郎に、佐野洋ですと。しかし何が驚いたかと言ってこの「叢書」。今の今まで知らなかったのだが、ワニマークのKKベストセラーズって河出書房のカワデベストセラーズだったのね。ふーん。
◆牧人さんに送本。


◆「樒/榁」殊能将之(講談社NV)読了
ショート感想。「鏡の中は日曜日」のボーナストラックの如き密室二題。新旧・名探偵の夢のすれ違い、という趣向が楽しい。天狗といった和風オカルトのスパイスも少々効かせてさらりと読ませる。密室トリック自体は「樒」の方が、オヤオヤもの、「榁」の方もhowよりもwhyにこだわった造りで、「とりあえず<密室祭>に参加してみました」といった印象。尚、前作を最大限楽しむためには、発表順に読む事を強くお勧めする。作者は、資料用書籍の元は取ったのだろうか?
それにしても、この袋とじ企画、作家のコアなファンは未開封も欲しいだろうし、非売品の座談会本を貰うには最低5冊は買わないといけない仕組み。書痴の経絡秘孔を突く企画である。しかも120頁の中編に700円の定価をつけている。いやあ、講談社には知恵者がおるわい。大回転・ハイジャンプ・分身魔球の如き「これでもかっ!」という企画ですな。


2002年6月18日(火)

◆私の読書時間は通勤途上なので、如何に俄かサッカー狂になろうとも、それがために読書時間が減るわけでない。ひたすら、ネットに割く時間が削られるだけである。というわけで、ここ半月、ネットに掛ける時間は著しく減った。ところが、そんな老人をあざ笑うかのように、工夫を凝らした入魂の長文を(長文である事自体をネタにしつつ)腕も折れよと投げ込み合うミステリネット若衆がいる。いやはや、そのタフネスぶり(とサッカーへの無関心ぶり)にはため息が漏れる。いやあ、若いって素晴らしい事ですねえ。
まあ、日本も負けちゃったので、私もせめて通常ペースに戻さねば。
◆途中下車して一店のみ定点観測。角川横溝「空蝉処女」の初版・帯が眼を惹く程度。が、律義に300円という古書価(?)がついていたのでスルー。購入本0冊。


◆「宇宙捜査艦《ギガンテス》」二階堂黎人(徳間デュアル文庫)読了
「SF。それは推理作家に残された最後の開拓地である。そこには読者の想像を絶する新しい動機、新しいトリックが待ち受けているに違いない。
これは、新本格推理作家 初の試みとして(?)3ヶ月間e−Novelsに連載された宇宙船ギガンテス号の驚異に満ちた物語である」<♪テーマ音楽>
二階堂黎人こそは日本一SFを読んでいる推理作家の一人であろう。なにせペリー・ローダン現役なのである。そんな人間、SF作家でもそういないに違いない。更に、作者が熱烈なバローズ・ファンであり(ウィリアムのほうじゃなくてERの方ね)、重篤なトレッキーである事もつとに知られたところである。これは、そんな作者が、TNG(新スタートレック)の道具立てに、まるぺ風の宇宙人をぶち込み、本職の密室の中での不可能犯罪を綴った「趣味の野心作」。こんな話。
今回の宇宙捜査艦<ギガンテス>の使命は、機械生命体との果てしなき闘いの最前線に位置する星系で勃発した女性大使殺害事件の解明。被害者は、自尊心ばかりが肥大した爬虫類型宇宙人の部族間調停の任務を負っていた。だが、熱い種族と冷たい種族を取り持つ筈の彼女は宇宙基地の一室でバラバラ死体となって発見される。しかも現場は「転送」すら不可能な密室。同じ部屋で昏倒していたトカゲ司祭が見た、顕れては消える謎の殺人者の正体とは?ギガンテス副長は美猫の部下とよろしくやりながら、新しいトリック、新しい動機に挑む。
まず、スタートレックの世界では、「転送」という仕掛があって、生物も含め物体を一旦原子レベルに分解して、それを射程内の任意のポイントに実体化させる事ができる。ペリー・ローダンの世界では、ヒロシマ・ミュータントやネズミ・ビーバーがいて、壁や宇宙空間をものともせずに長距離をテレポートしてくる。こういう世界観の中で、密室殺人に如何程の意味があるというのか?それでも、密室殺人を書かずにはおれない。これぞ、密室バカ一代である。とにかくその意気は意気として評価すべきであろう。密室トリックそのものは、映像化してしまうと一目でばれてしまう類いのものだが、それを成り立たせるために作者が払った努力は並みではない。ある意味、密室を成立させるために、これだけのSF的設定を持ち込んだと言ってよい。C級SF風の宇宙人たちの造形は、読者を選ぶが、キャプテン・フューチャーの好きな人には懐かしい世界であろう。だが、何もここまで無理して密室殺人にしなくても、というのは、誰しもが感じるところではなかろうか。作者の嫌いな耳の尖がった奴ならば「非論理的です」と切り捨てるかも。
蛇足だが、仮にこれが宇宙大作戦のエピソードならば副題は「ザルルン帝国のバラバラ密室殺人」あたりで、新スタートレックのエピソードであれば「機械生命体の陰謀」あたりで、原題を見ると「A Matter of Honor」だったりしそうである。てな、茶々を入れておいて、ワープ9で前進。


2002年6月17日(月)

◆昨晩は「無敵艦隊」に挑む緑ホビット軍団の戦いに熱くなりすぎ、何も手につかない状態。っていうか酒のみすぎ。朝も目覚まし時計に叩き起こされ、感想も何も書けないまま、通常勤務に突入する。この土・日は、すっかり蹴球二日。アイルランドは不屈の闘志の1%でもいいからPKの練習に回してほしいぞ。
◆今月に入って行徳にブックオフがオープンしたと聞いたもので、おくればせながら落穂拾いに出かける。ペンペン草一本残っていないかと思いきや、それなりの収獲。
「連鎖殺人」南條範夫(双葉社)100円
「T.R.Y.」井上尚登(角川文庫)100円
「ぶつぶつの時代」砂川恵永(早川書房:帯)100円
「鎮魂の森」樹下太郎(出版芸術社:帯)100円
d「夢館」佐々木丸美(講談社:帯)100円
d「チューンガムとスパゲッティ」Cエクスブライヤ(読売新聞社)100円
南條本は、双葉社50周年企画の一冊。正史と風太郎は買ったけれど、これは逃していた。「鎮魂の森」も何故か縁のなかった本。帯付きも嬉しいところ。「夢館」は文庫落ちしているが、所持本の帯がカラーコピーなので、帯買い。エクスブライヤは引く手あまたの人気シリーズ。この読売のシリーズでもシムノンと並ぶ入手困難本。だが、何といっても嬉しいのが「ぶつぶつの時代」。作者はなんと、漫画家・砂川しげひさ。ミステリマガジン他に掲載されたショート・ショートを集めた処女作品集。こんな本、出ていた事も知りませんでした。いやあ、電車賃掛けて来た甲斐がありました。満足満足。
久しぶりに行徳まで来たので、昔の定点観測所二店をチェック。安物買い2冊。
「影なき紳士」Mブース(文藝春秋)20円
「宇宙捜査艦《ギガンテス》」二階堂黎人(徳間デュアル文庫:帯)100円
◆よしだまさしさん、10万アクセス突破おめでとうございます。


◆「犯行以後」結城昌治(角川文庫)読了
このころの角川文庫は横溝正史ブームに触発されたのか、それは熱心に日本の推理作家を文庫化していた。高木彬光然り、鮎川哲也然り、仁木悦子然り、土屋隆夫然り、都筑道夫然り、そしてこの結城昌治然りである。この頃に日本の推理小説を読み始めた人間にとっては、このクラスの作家の作品は本屋で買えて当たり前という奇跡の時代だったのだ。この結城昌治初期短編選集5冊もそういった時代の賜物である。結城昌治の場合は、中公文庫や、講談社文庫などでも充実したラインナップが組まれていたので、比較的「神様、仏様、角川文庫」感は低いのだが、それでもこの5冊についていえば、その功績は高く評価されていいと信じる。以下ミニコメ。
「死ぬほど愛して」どこまでも愛しあっていた筈の夫がふらりと蒸発する。最近の奇矯な振る舞いはその前兆だったのか?深い愛の底に横たわる真実は読者だけが知っている。すべての夫に捧げる話。嵌まる人は嵌まる快作。
「犯行以後」妊娠を告げる二号を始末した男が出会ってしまった顔見知り。犯行以後の不運が招く死の予感。倒叙推理の顔をしたサスペンス。一筋縄ではいかないオチに驚かされた。このころの結城昌治の天衣無縫ぶりに脱帽。
「キリンの幸福」二号の死。そしてもう一人の「恋人」からの脅迫。男が決断を下したとき、新たな死の向うで虐げられた者の復讐が始まる。男の身勝手と愚かさを活写した作品。ラストシーンの長閑さとその奥にある修羅の対比が絶妙。
「もつれ」夫の浮気を知らされた妻が、浮気相手に迫るとき、小さく狂った歯車が激情の殺人を呼ぶ。ユニークな「夫と妻に捧げる犯罪」。思わず再読したくなる、女の闘い。名品でしょう。
「三じじい」生き残り倶楽部方式の生命保険に加入してしまった老代書屋3人がおいらくの恋の果てに見た地獄とは?痛烈なオチのユーモア犯罪小説。再読だが、何度読んでも面白い。初読時よりも可笑しさ、哀れさが沁みるのは、単に、こちらが年取ってきたせいかもしれない。
「死んでから笑え」令嬢を誘拐しては見たものの。出来の悪い俄か犯罪者三人組みが引き起こす、ドタバタ劇。次々と増殖する人質を前にカレーを作ろうと発意するくだりは、爆笑もの。もう少し、最期をソフトにすれば2幕もののシチュエーションコメディの脚本としてそのまま使えそうな作品。日本人ばなれしたセンスが嬉しい。

どうでもいい話だが、この文庫本の正規栞、裏にしっかりヤマザキ・パンのジュース(!)の宣伝が付いていて、こんがりトースト・ビキニ美女が微笑んでいる。誰かと思ったら沢田和美だった。うーん、時代ですのう。


2002年6月16日(日)

◆サッカー見て、大河みて、サッカー見て1日が終わる。
◆と、その合間を縫って別宅に行き漫画を中心に30冊強を古本屋に売りに行く。都合2300円也。1冊100円にもなりゃしない。「400年の遺言」やら「ミステリ・ニューウエーブ読本」あたりの本は引き取ってもくれない。なるほど、ブックオフの100円均一でダブらした本というのは、その程度のものか。
◆一駅途中下車して、定点観測。とりあえず買う事に意義を認めて、安物買い。
d「犯行以後」結城昌治(角川文庫)20円
d「目撃者」結城昌治(角川文庫)20円
d「悪意銀行」都筑道夫(角川文庫)20円
「KAFKA 迷宮の悪夢」Fリヴィエール(扶桑社文庫)20円
「氷山を狙え」Cカッスラー(パシフィカ:帯)20円
本当は「悪意銀行」だけが欲しかったのだが、そこはそれ、「1冊30円、5冊で100円」といわれると、一冊20円にするために、範囲を広げてサルベージ。結城昌治は、別宅のどこにあるのかは判っているのだが、発掘の手間を考えれば、20円で買い直した方が楽、という訳で来週の課題本にでもしようかな。カッスラーも元版の帯付きが20円ならとりあえず買いでしょう。


◆「The Bull's Eye」Milward Kennedy(A.L.Burt Company)Finished
戦前にも「死の濃霧」が抄訳で紹介されてはいたが、国書の「救いの死」で日本に本格的に再紹介された黄金期のへそ曲り作家の1933年作品。原題は「ダーツのど真ん中」の意味だが、そのまま「ブルの眼」でもある。ケネディにしては珍しいレギュラー探偵、ジョージ・ブル卿の登場作。正直なところ、世評に名高い「救いの死」は、名探偵という存在自体の欺瞞を暴き立てた反「探偵」小説であったが故に、名探偵大好き人間のワタクシ的には、限りなく不快な思いをした。そこで見放しでもよかったのではあるが、その前にこのひねくれた作者のレギュラー探偵ものを見届けておくのも悪くないか、と考えて手にとって見た。で、率直に感想を述べれば、「情けをかけずに、とっとと見放しときゃ良かった」といったところ。こんな話。
准男爵ジョージ・ブル卿の探偵事務所を訪れたエレノア・ドッキングの依頼は、夫リチャードの浮気防止と小額盗難事件の解明というささやかなものであった。だが、ブル卿が、適当な口実を設けドッキング家でのホーム・パーティに乗り込むや、近所に住む、元医師レイシー・ルカンの毒死に遭遇する事となる。なんとレイシーは、ブル卿の学友であり、そしてリチャードが目下、心を奪われている美しい箱入り娘パメラ・レンを巡ってリチャードと反目しあっていたという。田舎警察は、状況証拠からリチャードを逮捕するのだが、ひょんな事から死体の第一発見者となったブル卿はルカンの死が「リチャードを犯人だと思わせるよう仕組まれた自殺」であると推理する。やがて浮かび上がる、パメラの富豪の伯父ケムボールの船旅中の突然死。どうやら、ルカンはケムボールの死が計画的殺人によるものであり、リチャードこそがその犯人であると、思い込んでいたようなのだ。エレノアの縁続きの娘クララという「押し掛けワトソン」に背中を押されるように、名探偵としての探索に勤しむホームズ気取りのブル卿。彼の執拗な聞込みと現場への潜入は、事件に思わぬ展開をもたらす。すべてを満たす容疑者が捜査線上に浮かんだ時、新たな「事故」が勃発したのであった。それも、名探偵自身の車を使って!
一筋縄ではいかない「自然死」と「自殺」と「事故死」のロンド。果して、ブルの慧眼が見抜いた真相とは?
ブル卿は、ピンと跳ねた口髭以外、これといった特徴のない中年男性。その探偵法は「徹底した思い込み」。仮説を立てたが最後、齟齬を来すまで強引に突っ走るタイプの探偵で、若い娘におだてられて舞い上がってしまう軽薄さも併せ持つ。個人的には、金田一映画の加藤武を若くしたようなイメージを持った。で、この作品は、メインプロットが何なのかをはっきりさせない迷走気味の推理劇。あっちへふらふら、こっちへくらくら。そこへ持ってきて、解決の付け方がなんとも名探偵好きをコケにしたものであり、素直には喜べない。探偵が素直に推理せず、右に左にぶれ捲くった揚句に、最も意外性のない結末に達するという肩透かしの一編。「陸橋殺人事件」ほど本格推理愛好家を笑い者にはしていないものの、1933年作らしい黄金期本格を期待する向きには、全然お勧めできない。ロジャー・シェリンガムが好きな人はどうぞ。


2002年6月15日(土)

◆朝は昨日の余韻に耽り、昼間は父の日の手配でお出かけ、夕方はキーパー対決、夜はベッカム様のご活躍を視聴。ああ、面白い。他に何も出来ない。
◆とか云いながら、駅にワゴンが出ていたので無理矢理1冊拾う。気がつくとこの一週間、1冊も古本を買っていなかった。
「湖畔に消えた婚約者」Eマクベイン(扶桑社文庫)200円
なぜか今ごろ訳されたマクベイン(マースティン名義)の初期作。扶桑社文庫も時々ビッグネームの変な作品、拾ってくるよね。単発ものは大いに歓迎。でも、シリーズものでこれをやられると困る。一番罪作りなのは、マウラウドの3冊かな?創元と競うようにシリーズの順序を無視して訳出したかと思いきや、そのまま品切れだもんなあ。やる気があるのやら、ないのやら。マラソン・ランナーに短距離走者が挑むようなものなのか?徳間ノベルズの87分署もそうだったけど、金に任せて有名シリーズを奪いに来て成功した例は少ないんじゃないかな?
◆ウルトラマンコスモスの予告をどう扱うか、興味津々で6時25分に6チャンネルに合わせてみる。次週予告はなく、粛々と放映中止の案内が出されていた。さあ、来週が楽しみだ。


◆「占星師アフサンの遠見鏡」Rソウヤー(ハヤカワ文庫SF)読了


2002年6月14日(金)

◆職場では、午後3時半から、BSデジタルハイビジョンの受信状況確認。就業後、ダッシュで帰って、7時からのニュースを見て、韓国戦に突入。韓国戦の裏のニュースステーションを録画しておいて、韓国戦終了後はNHK、日テレをザッピング。両局が終わってからフジを見て、徐に、ニュースステーションを視聴。なにか、川平Jは勝ってしまうと逆に感動の余り声が出てないようで。
さあ、来週火曜日も、BSデジタルハイビジョンの受信状況確認なのか?
◆などと、日本中がW杯で浮かれている間に、衝撃の報道が!なんと、ウルトラマンコスモスの主演男優・A(二十歳未満の時点の犯行だったのでか、どのメディアも杉浦太陽と書かないようである)が恐喝と傷害容疑で逮捕され、番組が打ち切りになるというではないか!!あの話、怪獣を殺さないというコンセプトがどうにもこうにも嘘臭いのと、主演男優の大根ぶりにうんざりして第1話を見て「逝ってよし!」と無視していたら、これだもんなあ。栄光あるウルトラマン・シリーズがこういう形で打ち切られるのは、なんとも残念である。しかし「コスモス」自体の打ち切りは惜しくもなんともない。これが、ガイアあたりで打ち切りになるというと大騒ぎなのだが、まあ、そこはそれウルトラマンコスモスってガンダムXのようなもんだから。一儲け企むのであれば、ここでコスモスのソフビを買ってストックしておくのかな?特に放映中止された回の怪獣なんて人気でちゃうんだろうなあ。これが日本の1次リーグ突破の日でなければ、夕刊紙はこぞって「ウルトラマン逮捕!!」と煽ったんだろうけどなあ。いやあ、残念残念。って何を残念がっているのやら。
円谷プロは勿論、夏休み映画を撮り終えている松竹も、毎日放送もエラい災難ですのう。これに懲りず頑張ってください。杉浦太陽が刑期を終えて出来てきたら「帰って来たウルトラマンコスモス」を撮ってください(>誰か、殴れ。>あ、「撃つな、ムサシ」でもいいです>まだ、云うか、こいつは)
◆と、いうわけで購入本0冊。


◆「ランゴリアーズ」Sキング(文春文庫)読了
「図書館警察」と対を成すキングの中編集。どこが中篇なのかと見まがう表題作と、まあ中篇と呼んで差し支えなかろう「秘密の窓、秘密の庭」の二編を収録。既視感に襲われながらも、心地よくつるつる読まされてしまうところが、さすがキング。以下、ミニコメ
「ランゴリアーズ」ジェット機ごと時空の狭間に飛び込んでしまった10名の乗客たちが、極限状況の中で葛藤し衝突しながら、道を切り拓いていくというプロットはあり来たりだが、勝利の方程式でもある。研ぎ澄まされた感覚を持つ盲目の少女、まだ観ぬ文通相手との恋に心ときめかせるキャリア・ウーマン、離婚した妻の訃報に動揺するパイロット、自分の過去と未来から追い詰められた金融マン、パルプ・ヒーローを夢見る少年バイオリニスト、いまどきの薬物依存症娘、そして特殊技能をマスターしたGメン等など、「IT」と同じく、自分探しの旅を行く人々。時間が死んだ世界で、生き延びる道はあるのか?彼方より襲い来る「虚無」の御遣わしたちは、ただ貪欲に現世の残滓を轟音とともに呑み込んでゆく。暴走する妄執、回転する必殺、幻視の傀儡は、時を稼げるか?失われた「今」に向けて、飛翔せよ、翼!睡れる戦士たちを乗せて。
どんな人間にも輝く瞬間がある、どんな人間にも果たすべき役割がある。全員生還の夢は夢として踏みにじりながら、ドラマは躍る。安心して読めるキング風アウター・リミッツ。ランゴリアーズの襲来シーンで、「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」を連想したのは私だけではあるまい。
「秘密の窓、秘密の庭」主人公は寝取られ夫の役回りを押し付けられた小説家。離婚による心の疵が癒えた頃、一人の農夫がやってくる。覚えのない剽窃疑惑。磔にされた愛猫。偶然?悪意?それとも狂気?紅蓮が全てを奪い去った時、秘密の窓から殺意は覗く。
小道具にEQMMを使われたりすると、ミステリ者としては堪らない。ただ、プロットは「ダークハーフ」と「シャイニング」を足して5で割ったような話で、やや安易な印象。キングが書いたのでなければ「キングを剽窃しただろ?!おら!」と脅迫されかねない話。悪くはないんだけどね。


2002年6月13日(木)

◆今朝は更新をサボってしまった。なぜサボらざるを得なくなったかと云うと、風が吹いたからである。いや、冗談ではなくて、6月12日の早朝、逗子近辺で強風によって倒れた木が線路をふさぎダイヤが混乱。なんと現場から100キロ離れた成田発通勤快速にまで影響を与えてしまったのだ。たちまち、通勤快速は妖怪・片輪車に変化して、通常はすっ飛ばしていく駅に停まっては、むしゃむしゃと人間たちを呑み込んでいく。お蔭で、車内は阿鼻地獄・叫喚地獄。私の貴重な読書時間は無惨にも奪い去られてしまったのである。私にとって、電車内こそが書斎。特にここ数ヶ月は、往路でその日の一冊を、復路でその週の原書を読むというローテーションで回しているために、朝の遅れを取り戻すには一苦労。結局、昨日は、普段であれば健康のため二駅手前で降りて歩くところを最寄り駅まで乗って、人の導線を邪魔せぬよう改札手前の柱に身を寄せ、課題書を読み進む。しかし、タイムリミットまで粘っても読了できず、諦めて出社。後は昼休みや出張の移動時間を小刻みに投入してなんとか読切ることができた。結果、復路でも無事、原書を読む事ができ、やれやれ、ほっと一息。と、この一息がよくなかった。
「やればできるじゃん!」という安心感から、つい晩酌のピッチが上がり、気がつけば、日記一つ書かないうちに爆睡。おまけに、朝はいつもの時間に目が覚めず、6時に目覚し時計に起される体たらく。あーあ、やっちまった。しかしながら、1日更新をサボると「いつ更新されるのか?」「もう更新されたかも」とトップページの来訪者が増え、その結果、きちんと朝更新した日よりもアクセス数があがってしまうのである。人生の皮肉である。
以上、「風が吹けば、アクセス数があがる」。因果関係は切断されているでしょうか?
◆昼休みに、しょーじさんに「警察官に聞け」を送本。この交換は私の方が得をさせてもらったなあ。
◆帰宅すると本の雑誌7月号が届いていた。今回の特集は「レッツゴー!大河小説」。当然「モンテクリスト伯」だの「大菩薩峠」だのといった定番が並んでいるのだが、SF畑からのエントリーがなかったのは少々残念。ローダン、グイン、幻魔は置くとしても、その他にも「サーガ」と呼べる作品は少なくない。「デューン」とか「リバー・ワールド」(ほんまもんの大河である)とか、少し短めだと「魔王子」とか「真世界」とか、なんぼでも挙げられる。ところがこれが推理小説となると、途端に難しい。解決が前提となる推理小説に大河の果てなき時間は似合わないのであろうか。「警察署長」に5倍の長さがあれば「大河推理」になったのかもなあ。


◆「そこに薔薇があった」打海文三(集英社)読了
「灰姫」で横溝正史賞を受賞した作者の異色短編集。結論から言えば非常に面白かった。
で、この作品は、一切情報をいれず「素」で読むことを強くお勧めする。
(さあ、警告はしましたぞ。)

収録されている7編は、いずれも男女の危険な恋愛を扱った作品。
第1話「はしゃぎすぎてはいけない」を読み始めて、まずは「変な本掴んじゃったかな?」という疑念に駆られた。結末の手前まで、初期「課長・島耕作」を村上春樹の文体で綴ったようなお話。どこをどう切っても、ミステリの要素はない。魅力的な年上女性とイイ関係を続けるバツいち男の与太話にどこまで付き合わされるのか、と思いきや!作者は、とんでもない「オチ」を仕掛けてみせる。読み終わって呆然とした。「なんなんだあ、この話?」
気を取り直して、第2話「結婚式までカウントダウン」に進む。こちらは打って変わって「奇妙な味」を全面的に押し出したお話。自分を「鳥」だと称する妖しい美女に絡め取られた男。その恋の顛末と猟奇の果てをさらりと描く。
第3話「お家へ帰ろう」は、3年間の契約夫婦を解消しようとした男が出張先で少し頭のネジの外れた女性ライダーと左脳的に淫靡な関係に嵌まり、人生の歯車を狂わせてしまうまでを、ユーモアと恐怖をない交ぜにしながら綴る。そしてそこで読者は、どこかで見た名前に遭遇し、この作品集が密かに連作を意図して編まれたものである事に気がつく。
第4話「街で拾ったもの」は、バイもヘテロもこなす奇矯な女流作家の山荘で、道化達が流す血の物語。
第5話「みんな我慢しているんです、と彼女は言った」は一転、アウトドアを舞台にした爽やかなスポーツ恋愛小説、と思わせておいて、ホンキートンクな私的独占の風景を暗示する。題名もユニークである。
第6話「ふたりのメアリー」では、幼い頃に引き裂かれた兄妹の不器用なまでに純粋な愛の姿が描かれる。なんて、美しい。なんて、おぞましい。
そして最終話「美しい年齢」で、作者の力技が炸裂する。なんと、この「世にも奇妙な物語」たちを、論理の糸で、一つの「芸術」に織り上げてしまうのである。
そう、確かにそこに薔薇はあった。赤い夢、華やかな愛、身を焦がすほどの恋、
そして勿論、そこに棘もあった。黒い驚愕、緩やかな狂気、そしてほくそえむ作者。
見事に一本取られた。この作者の作品をもう少し読んでみたくなった。


2002年6月12日(水)

◆交換本で入手した「パンチとジュディ」を職場のミステリ好きの人にお譲り。感謝感激のあと「一体どうやって?!」と尋ねられたので、まあネット古本者にかかればこの程度の本、何という事はございません、あっはっは、と高笑いを残して去ってきた。まあ、確かに一般ピープルにとって、古書には届かない品切れゾーンの本というのは、意外と見つけにくいのかもしれない。私だって一人で捜せといわれれば、それなりに時間がかかったに違いない。ありがとう、しょーじさん。やあ、人助けは楽しいなあ。

◆「背徳のメス」黒岩重吾(角川文庫)読了
昭和35年下期の直木賞受賞作。これは本物。お恥かしい話だが、おそらく生まれて初めて読む黒岩重吾作品。なぜ、ミステリ読者歴32年にもなりながら、黒岩作品と没交渉で来たかといえば、それは一重にオヤジの責任である。私の父親は、中間小説誌が大好きで、物心ついた頃には、家の中のそこいら中に小説宝石だの問題小説だの小説現代だの週刊小説だのが散乱していた。その割りに単行本になったものは余り買わず、要は大衆小説は雑誌で読み捨てるもの、という割り切りだったようである。その中で何人か例外的に新書でも読んでいる作家があって、一人が山田風太郎、今一人が黒岩重吾であった。つまり、私の頭の中では、この二人は「親父の読む作家」=大人の小説という刷り込みがなされてしまい、いつまでも若者気分が抜けない自分としては、この年に至るまで、積極的に手に取るには至らなかった次第。気がつけば、この二人を読んでいた頃の親父の年齢を遥かに越えてしまっているにもかかわらず、である。ああ、厚かましい。
閑話休題。さて、この作品、さすがに日本の社会派推理を代表する作品の一つであり、そのキャラクターの造形の分厚さには舌を巻く。開巻即「あ、この小説は凄い」と感じさせる迫力がある。こんな話。
大阪、阿倍野区。繁華街の外れにその病院はあった。キリスト教団の資金で運営される阿倍野病院は、その仁術の理想とは裏腹に、患者の質・医者の質ともに周囲の澱みを吸い込んだ病院であった。主人公は医専上がりの産婦人科医・植。彼は、愛のない結婚の反動から、その心の隙間を漁色で埋める男。19歳のアプレな看護婦・妙子と奔放なセックスを楽しみ、障害者の夫を持つ薬剤師の伊津子を犯し、尚も新たな看護婦もものにしようとする。物語は、植が、科長の西沢の犯した医療ミスの現場に立ち会った事から始まる。被害者を食い物にしていた「夫」は、西沢を脅迫する一方で、そのミスを証言するよう植に迫る。帝大出の権威を振りかざす西沢を快く思っていない植が、「夫」に組みして病院の刷新を図ろうとしたとき、何者かが彼の命を狙う。宴会で酩酊した植の部屋に忍び込みガス栓を開けていったのだ。幸い発見が早く命を取り留めた彼は、姿なき殺人者を求め、権力、欲望、愛憎渦巻くうらぶれた白い巨塔で、孤独な探索に乗り出すのであった。
登場するキャラクターの一人一人が一筋縄ではいかない。主人公は云うに及ばず、準主役の誰もが、表と裏の顔を持ち、夫々に葛藤する人間として見事に描かれている。身勝手な一方で自分なりの正義を通そうとする主人公・植の二面性は、推理小説の探偵としては極めて異色。そしてそれと対を成す真犯人の内面が、これまた痛い。トリックを云々する話ではなく、何故、人は人を殺そうと思うのか?を倦まずに追求した作者の気迫が伝わってくる名品。直木賞受賞も当然と思える作品である。何故か、これだけ爛れた人間関係を描きながら、読後感が爽やかなのも特筆に価する。読まず嫌いの人も是非。私もオヤジになったので、もう少しこの作家の作品を読んでみよう。


2002年6月11日(火)

◆とにかくワールドカップに全ての時間を吸い取られている。地上波しか見ていない私ですらこうなのだ。スカパーも見ているサッカーファンは、一体どのような生活を送っているのかと思うと空恐ろしくなる。まともな社会生活を営めるとはとても思えない。
今日も今日とて、夫婦そろって中津江村の名誉村民・カメルーンを応援している善男善女ぶり。もう、鉄壁カーンの憎たらしい事ったら。ゲルマン民族、キャラ立ってます。
ところで、カメルーンと云えばなんといっても愛称がキまっている。で、その「不屈のライオン」というのは、どうやら公募したらしい。日本大会では「遅刻したライオン」という印象が余りにも強烈なのだが、とりあえずカメルーンにも名コピーライターがいたものである。日本のいるグループでも「赤い悪魔」だの「カルタゴの鷹」だの威勢のいい愛称が並んでいて、羨ましくなる。アジアの国でも韓国が「アジアの虎」、中国が「眠れる巨人」とか呼ばれているらしい。韓国は判るが、なんで初出場の中国にまで愛称があるんじゃい?日本にはないのか?というわけで、なんでも、W杯開幕に向けてネットで日本代表の愛称を決めよう!という企画があったらしい。しかしながらさりながら、「サムライ」だの「青い稲妻」だの「代表」(←これはある意味凄い)だのに票が集まったらしいのだが、最終的な最多得票は「愛称はいらない」で、企画がずっこけたとか。確かに、人から自然発生的に呼ばれてこその愛称、という考えにも頷ける部分はあるなあ。
個人的には、前回大会は3タテ食らって予選落ちだったので「二度寝する猫」。今回は「ライジング・ブルー」とか「極東の青龍」って感じ。「サムライ」というのは、どうもあの茶髪軍団をみていると不似合いな気がしてしょうがない。
ちなみに、拙サイトの愛称は「古本パンデモニウム」らしい。茗荷丸さん、ありがとう。
◆「パンチとジュディ」到着>しょーじさん、ありがとう(私信)
◆購入本0冊っす。


◆「夜に挑む男」大河内常平(昭和書館)読了
とことんC級エロエロ・通俗アクションに徹した作者の後期長編。最近の相場では、状態がよければ平気で5桁つく本なのだが、作品そのものは、何も必死に捜して大枚叩くよりも、「鯱」やら「黒豹」やらを読んでいればそれでよろしいというレベル。正直なところ、仮に息長く出版されていれば、絶対買わない、というか避けて通る作品である。
謎の外国人が運営する秘密倶楽部「バブーン・クラブ」。退廃と糜爛の限りを尽し日本の政財界の巨頭たちを下半身から篭絡する性愛の妖女。淫楽と殺戮の魔窟に乗り込む快男児の活躍や、如何に?与太者たちの叫び、令嬢達の地獄、魔人の嘲笑。驀進する悪魔に向って、握れ拳!放て銃!
トンデモ度では、作者畢生の名作といわれる「九十九本の妖刀」には遠く及ばない。まあ、大河内常平というブランドでなければ洟も引っかけないC級作品。悪洒落で捜して、大笑いしながら読み捨てるべき作品であろう。