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2002年5月31日(金)

◆1年間携わってきた仕事が本日で終了。たまたまW杯の開催日と重なったためにマスコミを始め世の中全体がこの日を目掛けてカウントダウン。いやあ、やっとゴールインだあ。
◆というわけで「自分にご褒美」でブックオフへ。安物買い。
「シミュレーションズ」Kジェイコブソン編(ジャストシステム)100円
「新宿鮫 風化水脈」大沢在昌(毎日新聞社)100円
「マーロウ最後の事件」Rチャンドラー(晶文社)100円
「そこに薔薇があった」打海文三(集英社:帯)100円
「覆面作家の夢の家」北村薫(集英社:帯)100円
「緋色のリップスティック」北原なおみ(講談社X文庫)50円
「4年目のラブサイン」北原なおみ(講談社X文庫)50円
「蔵の中」小池真理子(祥伝社文庫)100円
ジャストシステムの本は、「ヴァーチャルリアリティー海外SF短篇集」という副題のアンソロジー。アスキーはともかくとして、パーソナルメディアだのジャストシステムだのといったお堅い業務用ソフトの会社から時々変なSFが出るんだよなあ。おそらく社内にSFオタクがいて社長を騙して出すんだろうなあ。95年の出版だけどbk1で調べたら現役本だった。息長く売るのかな?北原なおみ(=北原尚彦)の「ホームズ君は恋探偵」シリーズをようやくコンプリート。茗荷さんの追っかけで存在を知ってから、1年もかかってしまった。意外に縁がないときはないものである。大沢・チャンドラー・打海あたりはダブりかもしれない。100円均一の暗黒面に吸い寄せられてしまった。クローン(ダブリ)の攻撃。
◆うーむ、それにしても(私は全く口を差し挟めないのだが)自分のところの掲示板がオモシロすぎる、というか、タメになる。かつて、小林晋氏や森英俊氏によって切り開かれた英米系の満蒙の大地の向うに、更なるフランス・ミステリの原野が広がっていたとは!!せめて、第二外国語でフランス語をとっていれば、と思うと残念。なにせ、当時は「いつかペリー・ローダンを原語で読んで追いついてやる!」などと無謀な事を考えて第二外語はドイツ語履修だったんだよなあ。そのドイツ語も最早忘却の彼方ではあるのだが、とりあえず辞書ぐらいはあるもんなあ。


◆「だからドロシー帰っておいで」牧野修(角川ホラー文庫)読了
キョーキー三分間クッキング。
今日は、関西風バーカーの小津添えをご紹介します。
まず「タリスマン」の壷をご用意ください。これは、ストラウブ&キングという有名ブランドから出ていますので、どこの古本屋でも簡単にお求め頂く事ができます。どちらが上か下か、表か裏かが判らなくても大丈夫。それクライン大した問題ではありません。
次に材料です。ご用意頂くのは「オズの魔法使い」のキャラクター、ドロシーに北の魔女、ライオンにかかしにブリキ男、揃わない場合は身の回りの親族やご近所のろくでなしでも結構です。
これをザク切りにして「タリスマン」の壷に入れ、まず骨と血で充分にフォンを取ります。ここでのポイントはアク取りをしない事。その泥臭さがこの料理の魅力なのです。
また、アル中気味のキャラクターもいますのでお酒は必要ありません。
フォンが出たところで肉を入れ、垢と狂気をスパイスに加え、とろ火で煮込みます。
月が満ちたら仕上げに血と精液で味を調え、そのまま文庫に盛ってお出しください。和風スプラッタ・ダーク・ファンタジーの出来上がりです。お熱いうちにどうぞ。
何?初めと料理の名前が違う?そんなことクラインで騒いでいてはいけません。だって世界が変わったんですから、これでいいのだ、なのです。今日もいい転機、なのです。

というわけで、アダルト・チルドレンな中年女性が迷い込んだ天にあらざる小津の国、ぐっばい・いえろー・盲人誘導ブロック・ロードなお話。原典の写し具合と、作家のオリジナリティーのアンサンブルを楽しむには、せめて前述の二作を読んでおく必要があろう。「呪禁官」の判りやすさよりは、こちらの取っ付きにくさの方が、私的牧野修イメージに合致する。「たいへん面白うございました」(猟奇記者歴32年のkashiba談)。


2002年5月30日(木)

◆世の中的に「フランス」といえば、ワールドカップの開幕戦、なのでしょうが、ここ猟奇の鉄人近刊スタジアムでは、「ポール」といえば、そう!「アルテ」です。昨日衝撃の掲示板デビューを遂げた坂本さんの書込みは、なんと!フランスからの現地レポートだったのです!これはもう、日本一アルテが濃い、いや、世界一アルテが濃い掲示板といって過言ではないでしょう!こんなにアルテが濃くでいいんでしょうかああ!?いいんですっ!!
◆こりゃまた、SF部落の原書読み放出中古車戦隊(はなてんちゅうこしゃせんたい)の、湯川光之さんから「シンクロニティ」じゃなくて「シンクロニシティ」では?とのご指摘を頂く。なんでも「synchronicityという語とsynchroneityという語があって、本来のユングの心理学用語として使われているのは前者のsynchronicityのほう」だそうであります。ご指摘感謝。シンクロニシティ、シンクロニシティ、シンクロにシティ、真黒にして、うっふん。よし、覚えたぞ。
◆昼休みに神保町タッチ&ゴー。原書の古本を2冊。ちょっと嬉しいお買い物。
「The Playboy Book of Crime and Suspense」(Souvenir Press)500円
「Murder Ink:The Mystery Reader's Companion」ed. Dilys (Winn Workman Pubulishing)800円
プレイボーイのクライム・サスペンス傑作選は、まさに珠玉のラインナップ。イアン・フレミングからレイ・ラッセルまで、綺羅星の如き大家の作が並ぶ。殆ど翻訳されているのであろうが、この貫禄には思わず敬意を表する。更にその上をいくのが「Murder Ink」。20年前に「ミステリー雑学読本」として集英社から翻訳が出た本なのであるが、これが「大学祭の夜」もびっくりの抄訳。今回、原本を前に照らし合わせてみると、なんと全体の三分の一程度しか訳されておらず、改めて唖然とする。原本は、版型も大きく、袋とじもついていたりして、実に実に遊び心溢れる本である。枕元において、パラパラ眺めるには最適かも。これはどちらも良い買い物をさせて頂きました。


◆「皇女の霊柩」内田康夫(新潮文庫)読了
久しぶりに読む内田康夫作品。こうみえても内田作品の8割は読んでいる。ベストセラー作家と云うと、とかくマニアは敬遠するが、内田康夫に限らず少なくとも最初の10作ぐらいは読んでおいて罰はあたらない。やはりヒットするにはそれなりの理由があるのである。西村京太郎しかり、森村誠一しかり、赤川次郎しかり、山村美紗、、うううーむ。まあ「黒の環状線」と「花の棺」ぐらいは、、
で、浅見光彦もののストーリーは、<万年梗概>で充分。刑事局長の弟であるフリーのルポライター浅見光彦はひょんな事から旅先で美しい娘と知り合う。なんと彼女は偶然にも、浅見が探索を始めた殺人事件の関係者であったのだ。彼女との間にほのかな恋がめばえる浅見。持ち前の好奇心と正義感、そして抜群の推理力で事件の闇に挑む浅見は、やがて一見単純にみえた事件の裏に、血と欲望の葛藤が潜む事に気づき慄然とする。歴史の中に封印された女の諦観。滅びに向う権威。(ここで、その話のテーマを一言)今、皇女和宮の怨念が百五十年の時を越えて甦る。木曽はすべて山の中。謎はすべて闇の中。
木曽で殺された東京の女性。東京で殺された木曽の女性。二つの殺人を紅い糸で紡ぐ、作者お得意の伝説・伝承系浅見もの。一昔前なら「和宮伝説殺人事件」あたりの題名になったに違いない。世代と時代を超えた脇筋も含め、どっしりとしたプロットが頼もしい。小ネタではあるが、アリバイトリックも準備して、単なるキャラクターノベルに堕さぬよう工夫を施した作品。勿論、いつもの「控えおろう!」も「仄かな恋心」もちゃんと準備してファンサービスにも怠りない。缶詰で書き下ろしをやらされていた頃に比べて丁寧な仕上がりに好感が持てる職人作家の一品。宜しいのではないでしょうか。


2002年5月29日(水)

◆出張先から直帰。いく先々で山のような資料を持たされ、腕が抜けそう。さすがに古本屋によ寄る気力が湧かず、購入本0冊。
◆と、思いきや、甲影会から冊子小包が到着。
「別冊シャレード 天城一特集5」(甲影会)1600円
「別冊シャレード 山沢晴雄特集5」(甲影会)1600円
ああ、なんていい時代なんだろう。次々と幻の名作が適価の文庫本で入手でき、ポール・アルテが日本語で読め、クリック一つで未訳の原書が買え、伝説の本格推理作家の作品が続々と同人誌で供給される。夢のような毎日である。今この一瞬を大事にしよう。「三つの棺」も「白昼の悪魔」も「フォックス家の殺人」も「憎悪の化石」も「誘拐作戦」も「影の告発」も全部絶版だったあの暗黒時代を忘れてはならない。そうした危機はすぐそこにあるのだ。
◆拙掲示板に続々と寄せられるアルテ報。小林晋氏、殊能将之氏に続いて、今度はこんなこともあろうかと密かにアルテを読んできましたという坂本さんとおっしゃる方が降臨して(いらっしゃいませ)、フランス語学習熱を煽られる。ここ10日ばかりの拙掲示板は、森英俊氏によるジョン・ラッセル・ファーンの復刊紹介(感想付き)もあったりして、、はっきりいってこの日記よりも掲示板を読んだ頂いた方が遥かにためになる。ありがたやありがたや。


◆「うつくしい子ども」石田衣良(文藝春秋)読了
「池袋ウエストゲートパーク」シリーズで一躍売れっ子作家の仲間入りを果たした作者が描く「少年A」ものの長編推理小説。「失踪者」だの、「世界の終わり、あるいは始まり」だの、様々な趣向を凝らした少年犯罪ものはあるが、これほどに泣かされる話は初めて。「魔球」を否定するわけではないけれども(というか、どちらかといえば好きだけど)、やはり「胸元に食い込む伸びのあるストレート」こそは、小説の王道であろう。
三村家は学園研究都市・東野に住む平凡な5人家族。真面目一方の技術者の父、子役モデルの妹のステージママに精を出す母、長男であるぼくジャガイモのようなあばた面だが、弟と妹は母に似てうつくしい顔立ちをしている。植物への偏愛ゆえに一芸入学できた夢見山中学に通うぼくの平凡な日常は、ある日、粉微塵に消し飛ぶ。切っ掛けは東野を全国的に有名にした猟奇殺人事件。小学校三年生の少女が殺害され、傷つけられ異形に彩られた死体の傍には「夜の王子」を名乗る犯人の挑戦がペイントされていた。おぞましい事件。だが、まさかその犯人が、あんなにも身近にいたなんて。襲い掛かるマスコミ、正義という名の私刑、一家離散にココロのネジが外れかけた時、ぼくは「犯人」を理解してやる事に生き甲斐を見出す。なぜ「犯人」は壊れてしまったのか?しかとの続く学内で、二人の友人とともに、ぼくたちの探索は始まる。心の闇に巣食う「夜の王子」を求めて。
心さわぐ青春小説。ぼくと卑語を連発する女性図書委員と恥かしい趣味をもった学級委員の3人組がとんでもない逆境を克服しながら真相に迫る展開は、実にスリリング。「犯人」像はいかにもステロタイプなのだが、それが嫌味にならないのは、作者の小説家としての力であろう。作者の筆は中学生の視点と地方支局の駆け出し新聞記者の視点を交互に用いて、鮮やかに平和な街の悪意のカタチと「うつくしい子ども」たちの姿を浮き彫りにしていく。いやあ、朝から泣かされてしまった。これは万人にお勧めできる佳作である。余談だが、少し「夏の滴」との相似点を感じた。ひょっとして桐生祐狩女史は、この作品を読んでいたのか、それとも単なるシンクロニティか?


2002年5月28日(火)

◆奥さんにハリーポッターのカエルチョコを買ってやろうと、京橋回りで帰ったところ、既に明治屋は閉まっていた。いまどき、6時半で店を閉める食料品店があるとは思わなかったよ。さすがは老舗。自分の時を刻んでおられる。八重洲古書館にもさしたるものはなく、購入本0冊。
◆一ヶ月前のNHK教育「未来への教室」で、ミッフイ(うさこちゃん)でお馴染みのディック・ブルーナが2週にわたって登場、ミッフィ誕生秘話を交え、子供たちに創作法を伝授していた。そこで、出版社社長を父にもったブルーナが、絵本作家を志す前に様々なミステリの装丁を手がけていたことが紹介されていて、なんとミッフイの作者によるメグレやセイントという珍しいものを拝ませて頂いた。ありがたやありがたや。まあ、日本で言えばさしずめキティちゃん風の金田一耕助やらポムポムプリンな火村と有栖ってな感じなのかな。
◆今月号のHMMからアルテの「ローレライの呼び声」を拾い読み。わずか10頁の短篇ながら、ローレライの声に誘われ凍れる池に呑み込まれた男の死という怪奇に、論理的な結末をつけてみせる。いわゆる「足跡のない殺人」だが、鮮やかな解法と堂々たるフェアプレイぶりに唸る。やはりアルテは凄い。どうか、毎号とはいわないから、隔月ぐらいででも翻訳短篇が出ないものか。HMMがモタモタしていたら「ジャーロ」でも「怪」でも「メフィスト」でもいいから、仁義なき戦いでアルテを紹介してくれい!
あと、二階堂エッセイも拾い読み。こちらは、カー後継者としての自負ぶりが、かつてカーを後輩作家呼ばわりした江戸川乱歩を彷彿とさせて、微笑ましい。


◆「銀笛の夜」水城嶺子(角川書店)読了
たまには旧作も読んでみよう。「世紀末ロンドン・ラプソディー」で横溝正史賞優秀賞を受賞した女流作家の第二作。1年ほど前にその存在を知ってから、捜すとはなしに捜していたのだが、「そうか、借りるという手があるなあ」と近所の図書館で検索すると、なんと開架に並んでいて驚いた。まあ、ミステリネット的に申せば「葉山響氏ぐらいしか読んでなくて、土田館長はとりあえず持っているのだけれど何処にあるのか判らない」という類いの作品である(>なんちゅう喩えや)。中味は「はいからさんが推理する」大正浪漫音楽ミステリー。こんな話。
時は大正九年三月、処は帝都、檜堂朱里はピアニストを志す東京音楽学校の2年生。同窓の佐伯尊任は維納帰りの医師の息子で、朱里とは互いに好意を抱き合う仲。だが、朱里が「今日は三越、明日は帝劇」な友人の富豪令嬢・王崎奈々子からチケットを譲り受けた事から、桜闇の中で紅蓮の因果は回り始める。まず、朱里の乗る人力車が露西亜人パン屋らしい男の襲撃を受け、あわやのところを通り掛かりの貴族院議員宗方子爵に救われる。だが、真の惨劇は別のところで起きていた。なんと同じ頃、王崎奈々子が桜木天神で、見えない弾丸によって射殺されていたのだ。そして警察は、現場の遺留品から、襲われた側の朱里に疑惑の眼差しを向ける。貪婪なる天才、自由の希求、零落する誇り、そして新たなる殺人。佳人、文人、外国人入り乱れる大正浪漫の風の中、殺意は紅い牙を剥き、帝都に楽聖は降臨する。
謎解きへの興味が盛り上がらないまま、真相が明かされてしまい、思わずたたらを踏む作品。大正の風俗、文壇、政治の状況などはよく調べてはいるが、調べた知識をそこかしこに配置する事で精一杯という印象で、互いが有機的に絡まるまでには至っていない。トリックやプロットが(まずはこのオチしかなかろうというものではあるものの)及第点をつけられるだけに、小説としてのコクをもう少し熟成させて欲しかったという気がする。後書きは爆笑もので、この自虐的批判精神には拍手喝采。この後に書評に転じたのもむべなるかな。とりあえず人が余り読んでない本が好きな人はどうぞ。


2002年5月27日(月)

◆朝、いつもの通勤快速が、昨晩の落雷の影響なのか、普通快速の運転になってしまい、無茶苦茶混み合う。身体を捻じったり、よじったりしながら本を読み進むものの、ペースに乗れない。「仕方ない。歩きながら読むか」と腹を括ると今度はポツリポツリと雨が落ちてくる。お、お、おのれええ、そうまでして人の読書を邪魔したいのかあああ!とムカムカしたまま会社に辿りつくと、次は仕事上のチョンボが見つかり赤くなったり青くなったりの一日。うちの役員がドッペルゲンガーでもなければこなせないような日程を組んでしまったあああ。なんとか収拾を図るも、冷や汗ものに変わりはない。「本でも買わな、やっとれまへんなあ」と昼休みに、会社の近所で新刊買い。
「ミステリマガジン 557号」(早川書房)840円
「SFマガジン 555号」(早川書房)890円
HMMはアルテのツイスト博士もの「ローレライの呼び声」掲載!なんだか、星野之宣の「妖女伝説」を彷彿とする題名ですな。早く読みたい、早く読みたい、早く読みたい(とか、書いてる間に読めよ)。で、今月号でショックを受けたのが平石貴樹の写真。えええ!こんな普通のおじさんだったのお?まあ、俺に言われたかないか。嬉しかったのが次号予告。やったぜ、スレッサーの追悼特集だ。そうこなくっちゃ!!それでこそ、日本で唯一の軽妙洒脱な都会的センスの欧米推理小説専門誌である。ミステリアスプレス文庫の発刊中止で休止していたドートマンダー・シリーズの翻訳が再開されるというのも朗報。ラヴゼイの「降霊会の怪事件」も出るらしく、歯抜けになっていたシリーズ作の翻訳は絶好調。よーし、この次は、レジナルド・ヒルのディエールとパスコー・シリーズなんかに期待しちゃうぞ。


◆「サイト」倉阪鬼一郎(徳間書店)読了
才人の描くSITEでSIGHTな心理学的私小説風スプラッタ・ホラー法螺話。「才人」は「サイト」と読んでね(はあと)。
如何に読者に阿ても売れないのであれば、好き放題やってやる。ついてこれない奴はついてこないで宜しい。サッカリン入りの作家なんぞ、もう止めたっ!!という作者の悲鳴が聞こえて来るメタ小説。メタとメタを合わせてもっとメタにしましょ。メタなメタな宇宙はメタメタだ!だ!だ!
すべてを飲み込むイドの怪物が、怪奇小説家・辺見啓三の日常を蚕食していく。先天的に悪かった右目の手術を受けてから、視界のズレに苦しむ彼は、新作「サイト」に賭けていた。だが創作に行き詰まっては、ネットに逃避する日々。突如濃くなる掲示板。虚実が乱れ、幻視の日常に赤の三角が降る時、血と肉で描かれた予言書は現われる。引き裂かれた人格、欠損する娼婦、屍姦の快感。酸鼻を極める賛美。そして、企てが成就されるには、総てがDELETEされる必要がある。さようならミホ。さようなら辺見。ところで黒猫のミーコは何故出てこないんだ?
私は頭が悪いので、良く判りませんが、巻末の参考文献すべてを読んで無理矢理分かろうとも思いません。ある種の人にとっては、倉阪先生の繰り出される活字のお遊びに爆笑がとまらない話なのかもしれません。とりあえず、勃起障害は誰にでもあることなので、安心されてはいかがでしょうか?
でわでわ(笑)


2002年5月26日(日)

◆俳優・伊藤俊人氏、急逝。「王様のレストラン」「古畑任三郎(というか今泉慎太郎というか)」など三谷幸喜ドラマでの名バイプレーヤーぶりが印象的な人。享年40歳というのはいかにも早い。ご冥福をお祈りします。
◆本日、お昼過ぎに25万アクセスを達成しました。毎度ありがとうございます。「なにか企画を」と考えなくもなかったのですが、日記を書くのが精一杯の状況なので、ご勘弁ください。
◆昼からテレビ映画を2本見る。WOWOWでやっていたデミ・ムーア主演の「薔薇の眠り」と、日曜洋画劇場の「ザ・ロック」。前者は、夢の中の自分と現実の自分の区別がつかなくなる女性を主人公にしたニューロイックな恋愛ファンタジー。終盤まで、見ている側にもどちらが現実で、どちらが夢なのか分からない作りになっていて、アンフェアながらも謎解き趣味で引っ張る。後者は文句なしの娯楽作。BC兵器を奪い、人質をとってアルカトラズ刑務所に立て篭もった海兵隊に、英国の老スパイとおたくなFBI研究者が挑む。最後がややバタバタしてしまったが、潰しっぷりが派手で、とりあえず面白く見る事が出来た。「老境のジェームズ・ボンド」という趣向だけで許す。
◆夕方、散歩がてらブックオフを一軒チェック。安物買い。
「死の姉妹」グリーンバーク&ハムリー編(扶桑社文庫)100円
「うつくしい子ども」石田衣良(文藝春秋:帯)100円
「キツネの名たんてい」インゲマル・フィメール(学研:函)100円
ジュヴィナイルが見た事もなかった本。後書きを見る限り、「名たんてい」というよりは「迷たんてい」といった雰囲気の話らしい。
◆決定日本のベスト100で、名作アニメベスト100をやっていたのだが、そこで爆笑問題の太田が「バルディオス」の最終回に突っ込みを入れていた。南極の氷が溶けて発生した津波。逃げ惑う人々。そこで「完」!うーむ、いわれてみれば、そんな話だったかなあ。急に、ソノラマ文庫のノベライズを読みたくなってきたぞ。


◆「400年の遺言」柄刀一(角川書店)読了
ミニコメ感想。古都の古刹の庭園を舞台にした連続殺人事件。400年前の開祖切腹に秘められた真相とは?敬虔なる機巧、光と影の信仰、卑小なる欲、秘すべき愛。著者お得意の仕掛が満載された快作。探偵役の設定が渋く、本当にこんな職業があるのか気になるところ。あっても不思議ではないと思わせるところが「京都」の京都たる由縁であろう。また、幕切れの新劇風愁嘆場には唸った。昨年度の某賞受賞作に同じ趣向があったが、この柄刀作品の方が胸に迫るものがある。ただ全編を支えるネタは、様々な新本格推理でお馴染みの「あれ」なので、いい加減食傷気味。最初にどれを読むかで、優劣の印象が決まるような気がするが、この人の奇想は、このレベルの仕掛で浪費せず、千年オーダーの謎に挑戦して欲しい。


2002年5月25日(土)

◆お出かけする筈の奥さんが風邪で寝込んでしまい、こちらも出そびれる。こういう日に限って、外は爽快を絵に描いたような五月晴れなんだよなあ。まあ、おかげで休日の割りに本は読めたかも。夕方に食料品の買い出し方々、新刊(というほどでもないが)を1冊購入。
「だからドロシー帰っておいで」牧野修(角川ホラー文庫)781円
<オズの魔法使い>ネタのスプラッタ・ダーク・ファンタジー。小津という王様が出てくるらしい。古手の阪神ファンには馴染みの地口である。いたんだよ。阪神球団の社長に小津って人が。負けても負けても球場に足を運ぶファン魂を植えつけたり、安い給料で人気選手を働かせたり、「小津の魔法使い」って言われてたんだよ。なるほど牧野修は関西の人やねえ。
◆ネット巡回してみて、SFマガジンやら、HMMの発売日であった事に気がつく。あちゃあ、行き慣れていない本屋は、チェックが甘いなあ。HMMにはアルテの短篇が載っている筈なので、気になる気になる。明日は買うぞ、買って読むぞ!


◆「The Puzzle of the Happy Hooligan」Stuart Palmer(Bantam Books)Finished
週イチ原書講読。今週の1冊は米国を代表するオールド・ミス探偵ヒルデガード・ウィザースのシリーズ第8作。パーマー版の「ハートの4」というか、「ハリウッド殺人事件」というか、要は「ヒルディー・ゴーズ・トゥー・ハリウッド」である。
オールド・ミス探偵と一括りで表現してしまうと、どうしてもミス・マープルのイメージに縛られて「おばあちゃん」を想像してしまうのだが、ヒルデガード・ウィザースは、精々40代前半ぐらいの設定。思わず「なんだよ、全然若いじゃん!まだいけるよ。40代前半といえば人間が人生で一番輝いている年ごろだよ!」といしかわじゅん的応援に走ってしまうのは、自分が同世代だからなのかな?「ペンギンは知っていた」だけが翻訳紹介されている現在、日本の読者にとっては、「オールド・ミス探偵っていうけど、あのラストシーンの落とし前をどうつけてくれるんだ!?」と突っ込みたくなることであろう。なぜ、ウィザースが独身でありつづけているかの噴飯ものの顛末は、シリーズ第2作「Murder on Wheels」で語られる。まあ、遠い未来の翻訳に向けて、この「シリーズ最大の謎」のネタバレはやめておこう(気になって夜も眠れない人は、メールでもください)。梗概は、森事典にかなり詳しく載っているので今更なのだが、まあこんな話。
休暇でハリウッド入りした我らがヒルディーに持ち掛けられら美味しすぎるバイト話。なんと彼女の探偵としての腕前を見込んで、マンモス・スタジオが企画中の「リジー・ボーデン」テーマの次回作に脚本家として名を連ねないか?というのだ。週給500ドルという報酬もさる事ながら、上っ面の観光では味わえない休暇が楽しめると踏んだヒルディーは、颯爽とマンモス・スタジオを訪れる。撮影所ならではの活気と喧燥の洗礼を受け面食らうヒルディー。エネルギッシュな監督、それぞれに一癖ある脚本陣、恐ろしく有能な女性秘書たち、なんと使い走りのボーイまでが古典詩を諳んじてみせる、ハリウッド、おそるべし。しかも漸く脚本家フロアに一室を与えられたと思いきや、彼女は隣部屋のハンサムな脚本家スタフォードの死体を発見する羽目になる。死因は椅子からの転落による首の骨折。「事故死」で処理しようとするスタジオお抱えの警察に対し、納得いかないヒルディーは持ち前の野次馬もとい探偵根性で事件の謎に挑む。「被害者」のスタフォードは、コンビの脚本家ドビーとともに、ハリウッド中で質の悪い悪戯を仕掛けていた常習犯。まさか、悪戯の犠牲者が彼に鉄槌を下したのか?やがてヒルディーの捜査線上にスタフォードに金を貸していた男デレク・ラヴェルの存在が浮かび上がる。あらゆるパーティーに出没し、友人の間を巧みに泳ぎまわるハリウッド人種の典型、ラヴェル。更に、ヒルディーが「低い処から落ちて首の骨を折った類似の事件がないか」とNYのパイパー警部に電話で確認したところ、10年近く前、グリニッジ・ヴィレッジで起きた類似の事件の重要容疑者の名前こそ、誰あろうデレク・ラヴェルだったのだ!!謎の男ラヴェルの住いを突き止め不法侵入を企てるヒルディー。だが、そんな彼女を待ち受けていたのは恐ろしい死の罠であったのだ。山中の撮影所に向う定期バスもろとも行方不明になるヒルディー。そして、ニューヨークのパイパー警部の元に悲劇的な報せが舞い込む。「ヒルデガード・ウィザース重体!」。とるものもとりあえずハリウッドに向ったパイパー警部を迎えたのは決定的な悲報であった。復讐の犯人探し。容疑者を否定する指紋。謎の数字リスト。そして新たな死。銀幕の向うに潜む「ジョージ・スペルヴィン」は、絢爛たる虚飾の都を弔花で彩る。
やってくれました、スチュアート・パーマー。この作品、ハウダニットとフーダニット趣味をバランスよく散りばめた業界内幕ものあると同時に「名探偵の死」ものでもあったのだ。ヒルディーの危機に熱くなってしまうパイパー警部の純情ぶりが、なんとも微笑ましい。ミステリとしての組み立ても実に王道で、謎の男ラヴェルというプロットも意外性と納得性を兼ね備えたものである。「なるほどハリウッドなら、さもありなん」なのである。勿論、パーティーの場面のオールスター・キャストや、高等遊民たちが競馬に熱中する様なんぞは、その場で仕事をやっていた人間にしか描けないものであろう。たいへん、面白うございました。バンタムブックから80年代に復刊されたものの1冊なので入手は比較的容易。「リジー・ボーデン役ですけど、マーナ・ロイはどうでしょう?」「探偵の印象が強すぎて駄目」なんていう台詞に痺れるハリウッド好きの方は、是非お試しあれ。。


2002年5月24日(金)

◆というわけで、横溝正史生誕100周年、おめでとうございます。

何か書かなきゃな、と思いながら、つい日々の読書とサイト更新に忙殺されてしまい(仕事はどうした?)本日に至ってしまった。私的「横溝正史」初体験は、中学3年生の時。「んじゃ、まあ、乱歩以外の日本の推理作家でも読んでみるべえ」と偶然にも書店で手に取ったのが角川文庫版「獄門島」。よりにもよって、この日本推理小説史上の大傑作に当たったのが始まり。丁度、横溝ブームが吹きあれる直前の事で、まだ角川文庫でも6冊しか出ていなかったために、主だった金田一作品は東京文芸社のソフトカバーで読む羽目になった。東京文芸社で偶々品切れだった「女王蜂」は東都書房版で、「白と黒」は講談社の全集版で、そして「本陣殺人事件」は勿論薄っぺらな春陽文庫版で、それこそ1日1冊ペースで読み進んでいたものである。そして御存知のあの大ブームの到来。角川文庫で「今日は横溝、明日は正史」の勢いで出版が進む一方で、新作「仮面舞踏会」や「迷路荘の惨劇」の出版が相次ぎ、併せて映像化も進んだ。そう、刑事コロンボと並び、石坂浩二演じる金田一耕助は私の理想の大人像であった。いまだに頭をバリバリ掻き毟る癖や、だらしない格好が好きなのは、明らかにこの二人の影響である。そうとも、男は「見てくれ」ではない!頭で勝負だ!と勘違いさせてくれたのが、この二人だったのだ。ああ、俺の人生を返してくれ。尤も「見てくれではない」とかいいながら、渥美清演じる金田一や、西田敏行演じる金田一は「イメージ違うんだよねえ」とか感じていたので、当てにはならない。
また当時は「横溝正史作品が好き」というよりも「金田一耕助登場作が好き」だったので、由利先生やら耽美系やらは積読状態。4年前にニフティーに入って横溝島に上陸するまで、殆どその真価を知らずに過ごしてきた。齢40にして、ようやく横溝正史の幅の広さにようやく触れる事ができたのは、まさにネットの効用といえよう。その再発見以来、戦前の探偵小説については入手が容易なものについては殆ど読んだ。いやあ、面白い事、面白い事。だが、それで終りではない。捕物帳やら時代小説やらジュヴィナイルには未読も多く、まだまだ楽しませてもらえそうである。そう、横溝正史こそは「我が青春の横溝正史」であり、「我が人生の横溝正史」なのである。
横溝正史先生ばんざーい。
金田一耕助ばんざーい。
100周年おめでそうございます。


◆実は、この日記を書いているのは25日の朝なのだが、とうとう掲示板の方にはネット上でのアルテ紹介の雄・殊能将之氏まで降臨されて(いらっしゃいませ)、「こらホンマ、えらいこっちゃがな」状態になっている。小林・殊能両氏が、「アルテ読みたきゃ、フランス語!」と煽るものだから、時ならぬフランス語独学ブームが吹き荒れているのである。うーむ、まるで四月病だよう(「四月病」=青雲の意気に燃えて大学に入ってきた学生が、全ての講義に登録するハーマイオニ症候群の略称。麻疹のようなものだが、一ヶ月後「五月病」に罹った際に重篤になる危険性が高い)。
◆待ちに待った給料日。いやあ、今月は辛かったあ(しみじみ)。で、昨日の大量のアルテがどれだけ売れているかが気に掛かり、再度、安田ママさんの勤務先を覗く。うーむ、気持ち減っているかな?これほどに新刊の売れ行きが心配になる、というのは生まれて始めての経験である。いや、なにも古本者が悔い改めて新刊聖人になったちゅうわけではなくて、
「『第四の扉』がガンガン売れる」
→「早川書房がどんどんアルテを翻訳出版する気になる」
→「フランス語を学ばずしてアルテがさくさく読める」
という欲望の方程式に忠実なだけなのだが。
◆で、お金も入ったので新刊買い。
「滝」イアン・ランキン(ポケミス:帯)1900円
「最終章」Sグリーンリーフ(ポケミス:帯)1100円
「紙表紙の誘惑」尾崎俊介(研究社:帯)2200円
<よし!ポケミス完集!>とお約束のガッツポーズ。研究社の本は、非常に真面目なペーパーバックの研究書。これを、翻訳エンタテーメント・コーナーに平積みしたのはナイスで趣味のいい選択。こんな本、出てた事も知らなかったよ。ダイジマン殿のアドバイスでもあったのかにゃ?この世界の研究書って晶文社の「ペーパーバック大全」ぐらいしか知らないので、非常に嬉しい。PBマニアとしては堪らない一冊である。図版がカラーであれば更に随喜の涙なのだが、さすがにそれをやると3000円に突入しちゃうんだろうなあ(それでも買ったと思うけど)。
というわけで3冊で5000円が吹っ飛ぶ。やはり、ランキンのご無体なまでの分厚さが「ポケミス1冊2000円」時代の黎明を告げるようで溜め息。まあ、創刊当初も貨幣価値で言えばそれ以上の感覚だったのかもしれないけれど、新書の値段じゃないわなあ。
◆バランスをとるために一軒だけブックオフ詣で。さしたるものは何もなし。
「猫たちの森」Aピリンチ(早川書房)100円
「猫たちの聖夜」Aピリンチ(早川書房)100円
文庫落ちしてるとは思うが、まあ、100円だし。


◆「密室の鍵貸します」東川篤哉(光文社カッパノベルズ)読了
カッパ・ワン4冊目。「乗客に日本人はいませんでした」的無国籍タイプの他3作に比べると、いかにも新本格な作りがホッとする作品。正直なところ、作者がやろうとしている事は殆どお見通しであるが、飄々とした語り口で、楽しく読ませる。もしかすると、タフな「ノベルズ作家」としての資質は4人の中で一番かもしれない。こんな話。
烏賊川市在住の映画好きの大学4年生・戸村流平は「知らなすぎた男」。先輩である茂呂の口利きで、小さな映画製作会社に就職を決めたまでは「幸福」。だが、そんな戸村の野心のなさに彼女の紺野由紀から絶交を申し渡しされ、深く傷つき、深く泥酔し、「あの女、ぶっ殺してやる」と口走る「愛と青春の旅立ち」。茂呂はそんなふうに落ち込む戸村を完全防音のホーム・シアターに改造したアパートに彼を招き、戸村の借りてきた伝説の70年代クソ・ミステリ映画「殺戮の館」の上映会を開く。おお、結構面白いじゃん、この映画。やっぱ、自分の目で見ないと駄目だなあ。さあ酒だ、酒だ、というところまではよかった。風呂に行ったきり茂呂が帰ってきやしない。恐る恐る風呂を調べると、服を着たままの茂呂が刃物で刺されて絶命中。先輩、そこで「サイコ」やってる場合じゃないっす。しかもアパートのドアは内側からチェーンが下りている。誰がアパートの鍵を貸したの?ああ、どうなるの俺?とバッタリ「めまい」。翌朝、現場から逃げ出し、知り合いの私立探偵・鵜飼に連絡を取ると既に警察が来てるって?うっひゃあ、日本警察優秀!と思いきや、なんと戸村たちが「殺戮の館」を見ている最中に紺野由紀が殺されたというではないか。やばい!これはやばいですよ、これは。果して就職前から死体を二つも抱え込んだ「第三逃亡者」に明日はあるか?天気予報は水母だけが知っている。
トリックは、開巻すぐに見当がつくが、ホワイダニットでいい味を出しており、思わずのけぞった。ユーモラスなキャラ設定やファース趣味はなかなか堂に入っており、70年代推理映画に対する蘊蓄も同世代感覚で楽しく読める。余り頼りになりそうにない「私立探偵」が終盤で小さな手掛りから謎を解明していく手際は、それなりに緻密なのではあるが、そのみみっちさがなんとも「4畳半」である。推理小説の歴史に名を残す類いのお話ではなくて、あっはっは、と読み飛ばすべきお話であろう。赤川次郎の新シリーズといわれれば、はいそうですか、と納得してしまうかもしれない。それはそれで凄い事ではある。


2002年5月23日(木)

◆神保町のリサイクル系で以前から気になっていた本を安物買い。
「ドッグショー殺人事件」Sコナント(心交社)100円
ペット本中心の出版社から出た犬ミステリ。30年後のマニア泣かせの本であろう。それにしても、この本を読んだ人っているのだろうか?
◆途中下車して安田ママさんの勤務先を覗く。すると、なんとポケミスの「第四の扉」がどどーーんと十数冊平積状態で、その上にはママさん手書のPOPがチョコンとのっかっているではないか。

「アルテすげーーーー!!」

あああ、どこかで見たような煽りが…。(汗)

「すれっからしのマニアも絶賛。今年の一位はこれで決まり!(もう?)」

ですと。売れなかったら責任もんだなあ。売れるといいなあ。
政宗さんも早速のご注文ありがとうございます(なぜ、俺が礼を言う?)
ところで、昨日(5月22日)のペインキラーさんの日記でもアルテは大絶賛されています。私の感想なんかより全然面白いので、皆さん読みましょう。そしてアルテを読みましょう。
◆ここでは、古本は売っていないので(当たり前だ)、新刊を1冊。
「密室の鍵貸します」東川篤哉(光文社カッパノベルズ:帯)800円
まあ、折角の4作同時発売なので、お試し買い。まんまと乗せられてるよ。
◆このままでは古本者の名が泣くぞとばかり、尚も途中下車して、いつもの古本屋で安物買い。
d「警察官に聞け」バークリー他(ハヤカワミステリ文庫:帯)50円
「FBIの殺人」マーガレット・トルーマン(サンケイ文庫:帯)50円
「警察官に聞け」は「殺意の浜辺」の復刊によって、ミステリ文庫のリレーミステリの中では最入手困難になった筈。まあ、只の帯買いです、はい。トルーマンもダブリかもしれないなあ。今となってみると、黒背のサンケイ文庫もいい感じだよね。単に、講談社文庫のイメージを引き摺っているだけかもしれないけど。


◆「The unseen 見えない精霊」林泰宏(光文社カッパノベルズ)読了
カッパ・ワン3冊目。「髑髏城」「マスター・キートン」ときて、今度はさしずめ「ガダラの豚」的なシャーマニズム世界が舞台。その異界の空にとことん人為的な論理の決闘場を浮かべ、作者は何度も読者に挑戦してくる。その意気やよし。こんな話。
伝説の写真家ウイザード。撮影不可能な被写体を追い、常に勝利しつづけてきた男。その彼が、精霊の森の大シャーマンの撮影に挑み、消息を絶った。これはウイザードと因縁浅からぬ私が、森の依り代から聞かされた一夜の物語。
大シャーマンの村に飛行船で乗り付けるという奇手を用い、更には存在しない筈のカメラで絶対不可能な撮影を達成したウイザード。しかし、闘いはそこからが本番だった。月食の間に禁忌を破った撮影チームを森の精霊が皆殺しにできれば、シャーマンの勝ち。生き延びればウイザード達の勝ち。立会い人の村人と新たなる美少女シャーマンとともに、飛行船が運ぶ巨木の洞の中で、命を懸けた死亡遊戯の幕は開く。生と死と霊界を経巡る殺意。降臨する仮面。衆人環視の昇天。果して見える事が能力の拠り所であるウイザードは見えない精霊に勝利できるのか?いま神秘の向うで輪廻は笑う。
正直言うとこの真相は見抜けなかった。なるほど確かに、補助線一本ですべての謎の辻褄を合わせる事に成功している。しかし、負け惜しみでなく、余り「やられたあ〜」という敗北感がない。それはアルテであれば、捨てネタに使う仕掛をメインに据えているが故である。舞台設定といい、小道具といい、ここまで作者が引かせたいカードをフォースされると、辛いものがある。更に推理合戦の裏付けのために「催眠術」を持ち出したところで「なんでもあり」感は頂点に達し、「ああ、もう好きに踊っとれや」と言いたくなってしまうのである。「霊手術は成功したが、患者は昇天した」。まあ、そんな話である。


2002年5月22日(水)

◆猟奇演芸場から実況中継。
猟奇野鉄人さん・別人さんのご両人で「僕は新刊読み」をお届けします。
「はーい、どこよりも早く新刊を読んで感想をお届けする新刊バリバリ読みサイト『猟奇の別人』でぇーすっ。」
「こらこら、言うに事欠いて」
「だってえ、もう4冊も続けて新作読んでるんですよお。もう、身体の中から綺麗になるって感じ。今までの僕はどうかしてたなあ。ああ、新刊を本屋で買うってなんて素敵な事なんでしょ。こうやって新人さんの本をちゃんと本屋で買うって、その人の未来に投資するって事なんですねえ」
「でも、本棚は真っ黒けで、読んだ新刊は平積み。」
「さっすがあ、新刊!平積みといえば、ベストセラーの証明!」
「平積みが違う!(すっぱあーーん)
「ところでなんで『4冊続けて』やねん?アルテに『双月城』に『アイルランド』で三冊だろうが?」
「それは日曜日のStaggeの分」
「スタッグのどこが新刊やねん!!」
「日本でいえば、2010年頃の新刊だもーん」
「君とはやっとれんわ!」
「ははあ、さいなら〜」
◆とかなんとかいいながら、会社のチャリティーバザーで安物買い。
「ランゴリアーズ」Sキング(文春文庫)50円
「皇女の霊柩」内田康夫(新潮文庫:帯)50円
むふふ、とうとう「図書館警察」の片割れも50円で拾ってやったぜ。
◆安田ママさんの掲示板や、政宗さんのサイトによれば日本推理作家協会賞は、山田正紀『ミステリ・オペラ』と古川日出男『アラビアの夜の種族』のダブル受賞との由。つまり、SF作家とゲーム小説作家が攫っていったわけですか。昨年の菅浩江女史といい、異業種にあぶらげを攫われるというか、それとも門戸を広げてエールを送ってるというか。この調子でいくと来年は「ヴァンパイア戦争」や「巨人伝説」で有名なSF作家の古牟礼サーガ最新作が獲るかもしれんなあ、などと邪推してみたり。
矢吹駆ばんさーい。大先生ばんさーい。あ、それは本格ミステリ大賞か?

◆「アイルランドの薔薇」石持浅海(光文社カッパノベルズ)読了
ざっとネットを見渡す限り、カッパ・ワン4作のうちで最も評判よさそうな作品。一読感嘆。なるほど、これは素晴らしい本格推理小説である。まあ、漫画でいえば「マスター・キートン」の前後編2週連続作品、といったテイストではあるが、斯くもきちんと文字の世界でやられると、唸る。この端正なロジックと、鮮やかなキャラクター造形と、社会性を取り込んだプロットと、爽やかな読後感は丁度コドコロさんの「UNKNOWN」あたりを彷彿とさせる。最新作なので、梗概にどれほどの意味があるか分からないけど、こんな話。
いつ果てるともなき抗争。闘いのシステムを支持する者の卑しい企みは、罪なき者の命を犠牲にして、憎悪の循環を加速する。組織が自らの「腫瘍」を「外科手術」に託すとき、南の宿に人々は集う。アイルランドの国境近くの町スライゴー。日本人科学者・黒川が、同僚と出かけた週末のバカンスで、嵐に巻き込まれ辿り着いた宿「レイクサイド・ハウス」には奇妙な緊張感が漂っていた。気立てのよい女主人、働き者のボーイ、三人組みの釣り客、オーストラリアから来たビジネスマン、二人連れの女子大生、アイルランド人会計士。その中に、殺しを厭わない者が何人もいた。或る者は祖国のため、また或る者は復讐のため、そして或る者は「生活」のため。翌朝、戸外で一人の釣り客の死体が発見されるや、活動家たちは困惑する。果して事故なのか?それとも「手術」が施されたのか?あるいは、別の意図による殺人なのか?一瞬のカオスを収拾する日本人フジ。そして、政治的に正しい「嵐の山荘」で、知力と誇りをかけた論理ゲームの幕は開く。果して、策謀の結末に薔薇は美しく咲くことができるのか?
アイルランド紛争という重たいテーマを扱いながら、その舞台設定を見事に一編の本格推理の中に昇華せしめた作者の手腕は、日本人ばなれしていると言ってよかろう。専門的捜査官を登場させないための「納得性」のある工夫は、まだまだ幾らでもできるものだと感心する。論理の切れ味も心地よく、真犯人には相当に驚かされた。「殺し屋」というカードを巧みに使いまわす事で、物語に厚みを加えるという手法にも脱帽。なにより、重厚長大でないところがいい。探偵役の魅力も相当のもので、潔癖な作者は続編はないと言ってはいるものの、もう一編ぐらいは、同じキャラクターで「日常の謎」的なものでもいいから書いて欲しいと思わせる。文句なしの佳作。こういう作品こそ「本格ミステリ大賞」の候補に相応しい。絶賛。


2002年5月21日(火)

◆まだ、アルテ熱が冷めない。ネットを徘徊していると、そこかしこで澎湃として歓呼の声が湧き上がっている。称えよ本格!響けよ推理!汝の名はアルテ!ハイル!Halter!!
安田ママさんも早速10冊追加注文を入れられたそうな。どうぞ政宗さんも追加注文してください。ここで、即重版が掛かれば、続けて訳されるかもしれない。煽って煽って煽り捲くってやるう。


騙されたと思って買って欲しい。

買ったらその場で読んで欲しい。

そして、読んで騙されて欲しい。

諸君、それがアルテだ。


◆なんとなく帰りそびれてしまい書店で新刊買い。とりあえず、巷で評判のよい石持作品も読んでみる気になった。これで5日間も古本を買ってないなんて、一体どうしたことだろう?新刊も捨てたものではないというのもアルテ効果か?
「アイルランドの薔薇」石持浅海(光文社カッパノベルズ:帯)781円
「The unseen 見えない精霊」林泰宏(光文社カッパノベルズ:帯)781円


◆「双月城の惨劇」加賀美雅之(光文社カッパノベルズ)読了
というわけで、日本のアルテ、というかJDカー大好き人間である作者が贈るカーへのオマージュを手にとってみた。一人の日本人も出てこないというある意味「潔い」作品。明らかに作者はJDカー初期作品のレギュラー探偵であるアンリ・バンコランを模した探偵を、「髑髏城」を模した城に据え、オカルティックでシンメトリーな不可能犯罪の美学を演じさせる。で、結論から言えば、処女長編としては悪くない。トリック・メーカーとしても、プロット・ライターとしても、見果てぬマエストロの域に達している、いや、ある部分では凌駕していると言ってもよかろう。ただ惜しむらくはストーリー・テラーとしての資質が決定的にマエストロに及ばないのである。こんな話。
黒き血の伝説に彩られたラインの古城。美しき双子姉妹の愛憎は、復讐する死霊を召喚する。双子の塔で続発する惨劇。虚空から忍び寄る魔は、開かれた密室で気高き乙女の首を奪い、卑しい男優の首を転がす。仏独の威信を掛けて青い火花を散らす二人の名探偵の叡智。だが、運命の輪は停まらぬまま、傲慢が新たな死を誘い込む。満つる月、そして甦りの月。時の営みを溯り、呪われた月の城の封印を解き放つのは誰?妄執は、月明りの闇の中、夜歩く。
一言で言えば「楷書で書かれたカー・パスティーシュの習作」。それ以上でもなければ以下でもない。「意気やよし」だが、まだまだズルさが足りない。律義に張った伏線が、ギラギラしすぎていて、「なぜ、この人はここでこんな事を書くのだろう?」と不思議に思ったところが尽く伏線であった。少し、純粋な怪奇短篇でも書いて、不可知なるものの表現を養ってみては如何か?結局、この人は推理小説しか読んでいない人なのだろう。もう少し、幅をつけて、一皮剥ければ、この路線の需要はあるものと確信する(というか、私は少なくとも買う)。あと、よく「人狼城の恐怖」の後からこの話を書く気になったものだと感心する。まあ、260インチの4連ハイビジョンプラズマディスプレイに、25型のブラウン管で闘いを挑むようなものである。ここで二階堂黎人に余裕をもってエールを贈られて満足していてはいけない。先達に歯ぎしりさせてこそ、プロなのだ。頑張れ。