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2002年3月31日(日)

◆別宅に本を叩き込みに行ったついでに、足を伸ばしてEQFCの例会に久々に参加(>それは伸ばし過ぎだ、という噂もある)。MYSCONに参加できなかった鬱憤でも晴らすべえ、と思いきや、開始1時間後に到着した時点で、斉藤代表と横堀氏とMoriwaki氏しかいないという男所帯状態。2時半を過ぎても一向に面子は増えないまま「これじゃあ読書会」にもならないねえ、と機関誌クイーンダムの発送作業に精を出す。うららかな春の昼下がりに、中年男四人で何をやっとるのだ、わしらは?まあ、合間に入るネタは真っ黒けに濃い話題なのでそれなりに楽しい。袋詰めが完了した4時前後からぼちぼちと木林女史と、小林氏が来てくれたので、読書会を無理矢理始める。今日のネタ本は「シャム双子の謎」。国名シリーズの中で唯一「読者への挑戦」がない、という異色作。さすがに「エジプト」やら「ギリシャ」の特A級の完成度に比べると、見劣りするが、話の組み立てを解析していくと、作者のやりたかった事が見えてきて、結論「やっぱり、クイーンは凄い」という事になる。異議なし。
◆5冊ほどオークションに出品して、参加費と電車賃を稼ぐ。あと、Moriwakiさんと交換で1冊ゲット。
「吼える密林」南洋一郎(少年倶楽部文庫)交換
うん、やっぱりリアルの会合も楽しいものですな。


◆「シャム双子の謎」Eクイーン(創元推理文庫)読了:再読


2002年3月30日(土)

◆午前中は昨日の日記に追われる。午後から鼻水止めが効き過ぎて爆シエスタ〜。夕方、運動方々、ブックオフ・チェック。
「くらら」井上雅彦(角川文庫)100円
「怪の標本」福澤徹三(角川文庫)100円
「コール」結城恭介(祥伝社NONノベルズ)100円
「黒い林檎」鏑木能光(河出書房:帯)100円
「南紀殺人事件:ヴィナスの濡れ衣」醍醐麻沙夫(文藝春秋:帯)100円
「カサブランカ」ハワード・コック(新書館)100円
d「13の兇器」渡辺剣次(講談社)100円
渡辺アンソロジーが拾いもの。後は安物買い。
◆エア・チェックしておいた「TVチャンピオン・グルメ漫画王選手権」と「世にも奇妙な物語 春の特別編」を連続で視聴。前者は、「美味しんぼ」「ザ・シェフ」「鉄鍋のジャン」「中華一番」「将太の寿司」あたりを読んでいる私もに、全く歯が立たない。世の中にこれほどグルメ漫画なるものが存在していたとは、いやあ恐れ入りました。後者は、泉昌之原作の第4話「夜汽車の男」で死ぬほど笑った。原作の馬鹿馬鹿しさが、コンピュータ・グラフィックスの解説で更にパワー・アップ。後は第5話「マンホール」での江守徹の怪演が光っていたかな。


◆「It Howls at Night」Norman Berrow(Ward Lock)Finished
レオナード・ホルトンの「Deliver Us from Wolves」と並んで翻訳が待たれている狼男もののオカルト・ミステリ。何故か、ホルトンと同じくスペインが舞台になっていて「狼男の本場はスペインなのか?」と不思議になる。そういえばドラキュラといえばトランシルバニア、フランケンシュタインといえばアルプスだが、狼男は特定のローカル色が稀薄である。もっともホルトンの方が相当に後の時代の作なので、ひょっとすると、この作品の影響を受けたのかもしれない。てな事を考えるのも、ミステリ読みの醍醐味である。
さて、この1937年の作品、「夜に吼える」という格好いい題名から、オカルト趣味の濃いおどろおどろしい作品を期待すると肩透かしに会う。結構凄惨な事件が頻発するにもかかわらず、その本質はどこか脳天気な南欧すちゃらか道中ど田舎ミステリであり、それはラストの真相暴露に至って決定的になる。個人的には上方落語の東の旅は「七度狐」のノリで読んでしまった。こんな話。
えー、わたくしことビル・ハミルトンは、物書きの志望でございまして、父親は英領ジブラルタル守備隊の副官を務めております。まあ、気候もよーなってきまたんで、うま会いのジョージ・ウインター、技術将校のジェオフリー・マーロウ、惚れっぽくて酒好きのポンゴ(まあ、この男が、酔っ払ろうて、英領への関所の手形を無くすようなおっちょこちょいで)てな4人道中、20年もののフォードをガタピシ言わせながらグラナダでアルハンブラを見学して、さても山中に繰り出しましたところ、とっぷりと暮れ果ててしまい、空にはぽっかりとまーるいお月さん。一夜の宿を求めてとあるお館に立ち寄ったところ、それへさして、うら若きお嬢さんが、ばたばたばた、息を切らせて駆け込んで参ります。はてさて、これは一体なんの騒ぎと思いきや、夜の静寂を裂いて聞こえて参りますのは、獣の遠吠え。「うおーーおおーーん。」聞けばそのお嬢はんは、館の主ミス・トレントの姪のセシリア。物の怪の気配を感じて家路を急いでいたところとか。もう大丈夫と、一夜の宿を供されて御満悦の我々でございましたが、なんの、物の怪もきっちりと「仕事」をしていきよりました。なんと、女中が道端で喉笛を食い破られての無惨な死。なんちゅうこっちゃがな。警察は、女中が付合うとった男が怪しい、とゆうてあっさり逮捕しよりましたところが、次の晩には、館の警戒にたっとった警官が二人とも、おんなじように喉をぶっつりやられて逝ってしまいます。さあ、こりゃ、国を挙げてえらい騒ぎや。隣の飼い犬はビビリよるわ、民兵がやってくるわ、マスコミがやってくるわ、おまけにたまたまジブラルタルで知りおうとった超自然現象の大家で狼男の研究家ゾーイ博士までが、やってくる。そやけどホンマに狼男なんておるんかいな?そら、わたしも暗がりの中でもそもそ動くもん目掛けてピストル撃ったりしましたけど。それに、私らいつまでここに足止め食うんでっしゃろか?ま、ジェオフは、お嬢さんとなにやら惚れおうとるみたいで結構な事やけど。なんちゅたかって、セシリーお嬢さんゆうたら、ごっつい遺産を相続されるそうな。はあ、羨ましいやっちゃなあ。「うおーーーおおーーう。」あ、あかん、また満月の夜やがな。狼男が来よりまっせー、気いつけなはれや〜。
なんとも賑やか且つ不可思議なお話で、最初のうちはどうみても素朴な「人食い狼」との闘いであったものが、中盤から「狼男」に掏り替わっていくのである。そこで擬似科学談義が開かれ「狼男」の講釈をたっぷりと味わえる。だが、果してそこまで「狼男」の仕業にしなければならない必然性があったのか、を問うと少々辛い。作者としては多少の不自然さには目をつぶってでも「狼男」テーマのミステリが書きたかったのだなあ、と割り切るべきなのか。その辺り、後年のホルトンは、狼男を印象づける怪異現象や伝承を最初から散りばめ、しかも「狼男」でなければならない必然性を加える事にも怠りがない。とはいうものの、このベロウ作品もミステリとしての構成や伏線は、しっかりしており、今でも鑑賞に堪えるレベルには仕上がっている。やや、冗長ではあるもののオカルト・ミステリ好きにとっては愛すべき作品であると言えよう。ちゃんと合理的な(ややオバカだけど)結末もつく事だし。


2002年3月29日(金)

◆年度末。緊急の全社総合朝会なんぞが開催される。それでも、時間が普段通り流れる我が職場。転勤挨拶が相次ぐほかは、のんびりとした一日。なんだか終末病棟のような静けさかも。雪印のホームページのトップから行けるここの自己批判文章などを眺め、固有名詞を自分の社に当てはめてみたりする。多かれ少なかれ、大企業ってのはこうなんでしょうね。はあ、まいおにー。
◆さすがに郵便物が気になって別宅に寄る。ついでにブック・オフ・チェック。
d「血の季節」小泉喜美子(文春文庫)100円
「『黒い箱』の館」本岡類(光文社カッパNV)100円
「『不要』の刻印」本岡類(光文社カッパNV)100円
「龍王伝説殺人事件」石井敏正(光文社カッパNV)100円
「時に架ける橋」RCウィルスン(創元推理文庫)100円
「死のオブジェ」Cオコンネル(創元推理文庫)100円
買ってきた本は適当に積み上げて、来週読む本をバッグに詰めて離脱。たまには松本清張や佐野洋でも読もうかなと思ったのだが、横積山脈の彼方の本棚の後列「影横たわるモルドールの国」にあって、手が出せない。ダブリ承知で100円均一で買った方が手間も閑も節約できると断言してよい。
どらえもーん。放っておいても本が循環してくれる本棚がほしいーー。
◆あああ、天下に恥を晒してしまった。(そこ!「このサイトのことか?」と突っ込まないように)
詳しい顛末は芦辺倶楽部掲示板をご覧頂くとして、要は、昨日の日記の内容を若干やり変えて意気揚々と芦辺倶楽部の掲示板に貼ったところ、作者御本人から、

「そんな深遠な意味は一切ない」

「ただのお話」


であるとしてばっさり否定されてしまったのである。うぴーーっ。
しこしことお詫びを書いてシッポを巻いて退散してきた次第。
ったく、日頃からミステリ評論を眺めては「そーんな事まで、作者が考えてたわけないじゃーーん」と言っている人間が、まんまとその罠に引っ掛かってやんの。ああ、情けない!!


これは、「真犯人を発表する」としてラジオ局に関係者全員を集め、
得々と自分の推理を語った揚句に、
ジム・ハットン扮するエラーリー・クイーンから、
「素晴らしいよ、サイモン。でも君は間違っている」と指摘された


サイモン・ブリマーの心境である。

(上目遣いに)楽しんで頂けましたでしょうか?
◆でもさあ、今回の芦辺短篇は結局のところ、「動機」と「手段」の説明を惜しんで、純粋論理だけで犯人を特定してしまうところなんかに、一部のクイーン作品に対する突っ込みを感じたりもするんだけどさあ(>まだ、言うか、この口は!この!この!!)


◆「『Y』の悲劇」(講談社文庫)読了


2002年3月28日(木)

◆途中下車して一軒だけ定点観測。安物買いとダブリ買い。
「『Y』の悲劇」有栖川・篠田・二階堂・法月(講談社文庫:帯)120円
d「軍艦泥棒」高橋泰邦(ソノラマ文庫)100円
「Yの悲劇」アンソロジーはHMMのクイーン特集に引っ張られて<ついで買い>。「軍艦泥棒」は、この値段で見かけたら拾っちゃうよね。
◆ぼーっと、有名人・偉人の誕生日一覧サイトを眺めてみて思ったこと。
赤川次郎 2月29日生まれ ほほーー、なーるーほーどー、いつまでも若いわけだ。
桂米朝  11月6日生まれ おお、大倉祟裕と一緒だったのね!

円谷英二 1901年7月7日生まれ 

あああ、20世紀最初の「星の日」に生まれておられたのだ。そうか!そうだったのか!!思わず感極まって涙ぐむ。しゅわっち。
◆HMM555号から芦辺短篇「Qの悲劇」を拾い読み。殆ど題名から想像がつく通りの展開だったけれど、なるほど登場する有名人はそのお方でしたか。ただ、クライマックスでの「正体暴露」を見ると、この作品は「一種の幻想譚もしくは暗喩として読まなければならないお話」のようである。作家としてのクイーン、編集者としてのクイーン、書誌研究家としてのクイーン、そして探偵としてのクイーン、果して剥ぎ取った仮面の下には何が隠されていたのか?エピローグで<二人が生んだ者>たちによって匂わされる<語られざる「Qの悲劇」>についての考察は嵌まり出すと、きりがなくなりそう。とりあえずは、その後のクイーンの本格推理作家としての活躍、映画・ラジオ・テレビというメディアの寵児としての展開、編集者としての成功、そして、代筆、名義貸しといった最後の一撃以降の黄昏を象徴していると読むのかな?それは<クイーンを殺したのはだあれ? 私だわ、ってクイーンが言った>という事なのか?或いは<「アメリカの推理小説そのもの」の悲劇>と読むのか?EQFCの斎藤代表ならこれだけで4頁埋めるところである。(いや、褒めてるんですよ。はい。>さいとーさん)


◆「暗い宿」有栖川有栖(角川書店)読了

どうでもいいんだけど、「読了」をミスタッチすると「ドクロ湯」と変換されてしまって、夜中に一人で受ける。


2002年3月27日(水)

◆早出につき、昨日の日記をアップできず。「せめて日記ぐらい」と思った途端にこれだもんな。
◆2chで「鉄人の人」が話題になっていたらしい。「宴会部長」という指摘には深く納得。だって、人生この方、どこへいっても宴会部長だもーん。騒がしくてすまんですのう。「雑誌が高い」というか、「SF Japanが高い」と思ったのはどうせ直ぐに単行本化する巨匠の新作の一部と新人の一挙掲載でページ数を稼いでいるところ。これは、HMMのクリスティー特集やら、メフィストの田中芳樹一挙掲載でも感じたこと。他の商品でこれをやれば露骨な「抱き合わせ販売」として、指弾されると思うのだが、なぜ出版界はそれを許すのか?が疑問。まあ「一刻も早く読みたいんですうう!!」という純なファンのためです、と言われればそれまでなんだけどさあ。高い翻訳権料やら人気作家への原稿料2重払いのつけを普通の読者に押し付けてくださるな、ってこと。「ジャーロ」は(何度も言うようだけど)HMM三か月分だと思えば適正価格でしょうね。ただ「雑誌が1000円以上」というのが、抵抗あるのですよ。部数の少ないのは、読者側の事情ではないわけで。
◆一軒だけ定点観測。
d「不思議の国でアリマス」ルック・キャンノット(三菱鉛筆:帯)50円
「情状酌量」Nローゼンバーグ(TBSブリタニカ)100円
おお、来月号の「本の雑誌」のネタに使った三菱鉛筆の文庫本ノートをダブリ・ゲットだぜ。定価より高く買っちまったぜ。つまりこれは古書なのか?え?(>だから「書」じゃないんだってば)


◆「図書館警察」Sキング(文春文庫)読了
「Four Past Midnight」を構成する二分冊の後半二編を収録した中編集。というかはっきり言って、どこが中編やねん!?という長編級の作品が二つも楽しめる御得用の作品集。花見の途中で立ち寄った図書館で偶然にも「古書と図書館」に纏わる本の企画展示が行われおり、そこにもこの書の元版が飾られていて、一人にんまりする。「図書館警察」というのは、アメリカでは、既に慣用句になっているのであろう(それだけに、大御所キングにこのネタを書かれてしまった他のホラー作家たちは切歯扼腕した事であろう)。「借りた本を返さないと、図書館警察がやってきて、お前たちを逮捕していくんだぞお」というのは、実に図書館が発達した御国柄を表していて心躍るものがある。更に想像を逞しくすれば「図書館公安官」「図書館審問官」「図書館絞首吏」「図書館司祭」などなど、相当に怖い考えになってきそうである。個人的には「図書館乞食」とかが薄暗がりに潜んでいたら厭だろうなあ。
さて、この作品集には表題作の「図書館警察」と「サン・ドッグ」の二編が収録されているが圧倒的に「図書館警察」の方が面白い。そこに巣食う「魔」に対し、それに魅入られた人々が力と心を合わせて立ち向かう、という基本プロットは同じなのであるが、「図書館警察」には、作者の<図書館>に対する盲目的で無条件の愛が感じられてならないのである。「サン・ドッグ」のポラロイド・カメラに封じ込められた異空間と魔犬という設定が、やや無理目なのに対して、<図書館>は如何にも「魔」が棲んでいそうではないか。埃と黴臭さ、ほの暗い通路、どこまでも高い天井、強制される静寂、禁欲的な女司書、手垢でなめされた表紙、そして格納された光と闇の知識。さながら、人間の頭の中を覗くようなインモラルな快感が込み上げてくるではないか。ああ、どこかに「図書館警察、募集中!」などというポスターが貼られていないだろうか。などと、とりとめもない事を書いてしまった。まあ、キングの作品になんの解説が要ろうものか。読め。怖がれ。楽しめ。そして、図書館警察がこないうちに、さっさと返しに行け。


2002年3月26日(火)

◆夕刻は飲み会につき、どこにも寄れそうにないため、昼休みに新刊買い。
「ミステリマガジン 2002年5月号」(早川書房)800円
「SFマガジン 2002年5月号」(早川書房)890円
HMMは、尻尾の先までエラリー・クイーン特集。日本版EQMMの時代にも、ここまでEQ一色だったことはなかろう。さながらEQFCの機関誌かと見まごう1冊。だいたい本家米国のEQMMでここまでの特集が組まれたことがあるのかな?本当に日本のミステリ・ファンはクイーンが好きなんだねえ。シナリオ一挙掲載につき、また「悪夢の特別定価(>どこが定価やねん!!)」かと戦々恐々だったが、通常「定価」でひと安心。芦辺拓のパスティーシュは目の付け所がユニーク。シオドア・マシスンではないが「探偵小説界の偉人は名探偵だった」という連作が書けたら面白いかも。楽しみに読もう。
◆ほろ酔いで帰宅して、本の雑誌用の原稿をしこしこ仕上げて送稿。たかが1200文字、されど1200文字。今回は持ちネタで乗り切るが本気でネタに詰まってきたぞお。プロのライターの人は偉いと思いますよ、ホント。
◆Amazon.co.jp で購入した本をやっとこ受け取る。一ヶ月前に注文したものだが、一冊だけ取り寄せに時間がかかってしまい、全体の発送が遅れてしまった模様。まあ、早く着いたからといって直ぐに読める本でもないんだけどね。中身はAmazon.UK で一気に入手が容易になったドハティーの固め買い。
「Saintly Murders」C.L.Grace(Headline)2874円
「The Gallows Murders」Michael Clynes(Headline)3171円
「Murder Most Holy」Paul Doherty:Paul Harding(Headline)1344円
「By Murder's Bright Light」Paul Doherty:Paul Harding(Headline)1344円
「The House of Crows」Paul Doherty:Paul Harding(Headline)1344円
「The Assassin's Riddle」Paul Doherty:Paul Harding(Headline)1344円
「An Ancient Evil」Paul Doherty(Headline)1344円
「The Rose Demon」Paul Doherty(Headline)1344円
「The Haunting」Paul Doherty(Headline)1152円
「Corpse Candle」Paul Doherty(Headline)1344円
どっかーんと10冊。いやあ、気持ちいいなあ。とりあえず、今回の一気買いでドハティーの所持本は49冊(含、ドラキュラの合本)。現時点ではM5になるのかな?とにかく名義が多い上に、海外作家とは思えない多産作家なので、全貌が見せまっしぇん。それはともかく、英国の本ってえのは高いねえ。同じタイトルがアメリカの倍はする。やっぱ、図書館王国だからなのかな?


◆「ベイジルと犯罪王」Eタイタス(あかね書房)読了
図書館の本。ネズミ・ホームズのベイジル・シリーズ第2作。あかね書房からは4冊が出ていた模様だが、それで全部なのかな?題名から、聖典のモリアーティー教授に匹敵するキャラクターが倫敦を震撼させる大犯罪計画を引っさげてベイジルに闘いを挑んでくる、といったストーリーを期待すると面食らう事間違いなし。この作品、原題を「Basil and the Pigmy Cat」と云うのだが、中味もまさにそのまま。東洋のどこかの島に住んでいると伝えられるネズミよりも小さな猫の一族=ピグミー・キャットを求めてベイジルとドースン博士が大冒険を繰り広げるというお話なのである。
黄金の盃に彫り込まれた大王とコビト猫。汽笛とともに始まった探索は、仲間を増やしながら、王位簒奪を目論む犯罪王の陰謀を粉砕しつつ遥かなる大洋を目指す。巨大な友は道標となり、更なる手掛りはネズミたちの夢へと冒険者たちを誘う。甦る碑文、古代ユーフォリアの微笑み、そして遂に姿を現した「生きる伝説」。だが、その時既に破滅へのカウントダウンは始まっていた。そして名探偵は神話となる。すべての命を救うために。
ネズミ・モリアーティーの「ラディガン教授」なんぞも登場するが著しく精彩を欠いており、陰謀の破綻もあっけない。ホームズものというよりも、チャレンジャー教授ものと割り切って読んだ方がよい作品。その目で見ると「秘境もの」のツボは外しておらず、ネズミと猫の関係に一石を投じる大団円もなかなか爽やかである。ミステリ読みとすれば、エラリー・クイーンをもじったティラリー・クインなる冒険家兼作家ネズミやら、ヴィンセント・スターレットを思わせるヴィンセンゾ・スターレティなる歌好きのネズミが登場するところで「ふむふむ」と楽しんでおけばよかろう。


2002年3月25日(月)

◆だらだらと残業。購入本0冊。というか、Amazon.co.jpで頼んだ本がドカンと届いていたのだが持ち帰りの憂き目に遇い、再配送の時間に間に合わず。場所にもよるのだろうが、少なくともうちの近辺では、ペリカンのサービスはクロネコの足元にも及ばない。うがあ。
◆MYSCON3の参加者がアップされていた。なんと82名中16名の参加者の方が「よく行くサイト」に「猟奇の鉄人」を挙げて頂いている。二桁の支持を頂いているのは、拙サイトのみ。ありがとうございますありがとうございます。最近、パソコンに向っていると奥さんのご機嫌が宜しくないので、いい加減にしなきゃなあ、と思っていたのだけれど、こうなると、せめて日記ぐらいは更新するか、という気になります。はい。
◆アカデミー賞発表を奥さんが熱心見ている横で、キングの「図書館警察」を読んでいたら「どんな話なの?」と聞かれた。「図書館で借りた本を返さないと<図書館警察>がやってくーるーんーだーぞー、って話」と答えると、ケラケラ笑いながら「またまたあ。からかってんでしょ?(笑)」と反応が返ってくる。いや、本当にそういうお話なんだってば。ホラーとお笑いというのは斯くも紙一重なものなのですな。


◆「ベイジルとふたご誘拐事件」Eタイタス(あかね書房)読了
図書館の本。これも、これまで古本屋ではとんと縁のないシリーズ。そうか、こういうサイズで、こんな装丁の本だったのね。このシリーズ開幕編は、確かEQの創刊号と2号に分載されていた筈。といっても、どの程度の紹介であったのかは、EQが別宅につき未確認。「ゴールデン・サマー」とかもそうなんだけど、EQってさわりの部分のみの紹介ってえのが多いんだよなあ。
ともあれ、数あるホームズ・パロディの中でも、異色チュウの異色編。ベーカー街221Bの地下室に建設されたホームズテッドに棲むネズミ界のシャーロック・ホームズことベイジルとその助手を務めるネズミ医師デーヴィッド・Q・ドースン博士の活躍を描いたシリーズである。この開幕編では、ベイジルとドースンがホームズテッドを建設し、そこに移り住むところから話は始まる。ある日、彼等の元をプラウンフッド夫妻が訪れ、夫妻の双子姉妹アンジェラとアガサが誘拐された事を告げる。やがて恐怖の三人組みを名乗るものたちからの脅迫状が届き、街の明け渡しを要求してきた。これほどの住みよい場所を悪党どもの基地にしてなるものか!ベイジルはお得意の推理で、犯人たちの身元と居場所に迫っていく。颯爽たる洞察、奇抜なる変装、海上の逆転、果してベイジルは、双子と我が街を恐怖の魔手から護ることができるのか?
パロディなり、パスティーシュのスタンスには幾つかあって、聖典そっくりを過不足なく目指すもの、あわよくば聖典よりも面白いものを書いてやろうという野心を秘めたもの、あるいは、もうその世界を描けるだけで嬉しくて薔薇色なリスペクト萌え状態のものなど、さしずめこのベイジル・シリーズは最後のパターンであろう。大人の鑑賞に耐える出来映えとは、お世辞にも言えない。ホームズ関係であれば、紙屑でも欲しいというシャーロキアンでもない限り無理して捜すほどのものではなかろう。


2002年3月24日(日)

◆朝から一週間分の感想をアップ。出張が一日入るとこれだもんなあ。つ、辛い。
◆昼から奥さんとお出かけ。結婚準備に奔走していた1年前を振り返りつつ、高輪やら増上寺やらの桜を見て回る。最後に銀座博品館に立ち寄って、ぶたぶたさんのぬいぐるみを買う。Sサイズ880円なり。なにせ、単純な造形なので、ゼロコンマ数ミリのずれで全く印象が異なる。何体もご対面を重ねて、なるべくぶたぶたさんのイメージに近いものを選ぶ。いらっしゃいませ、山崎ぶたぶたさん。購入本0冊。


◆「殺さずにはいられない」小泉喜美子(青樹社ビッグブックス)読了
図書館の本。本当にこの本は見掛けない。「妬み、痛み、かたみ」と「幻想マーマレード」とこの本が著者の3大入手困難本だと思っているのだか、ご賛同頂けようか?85年11月に著者が不慮の死を遂げてから二ヶ月後の86年1月に上梓された本。とはいえ、最後のエッセイを見る限りでは、生前から企画自体は進行していたようである。中味は昭和47年から50年代前半の作品を中心に編まれた拾遺集であり、晩年作の愚痴っぽさ(もしくは開き直り)がない分、安心して読める。9編収録。以下ミニコメ。
「尾行報告書」新米女探偵が尾行した男からは、嗅ぎ慣れない「ケモノ」系の香がしたという。果して猜疑の果てに待つものは?一応二回捻りのユーモアミステリ。もう一押しすると、ユニークなストーカーものに化けたかもしれないのが惜しい。
「冷たいのがお好き」贅沢な女友達から、人の殺し方をしつこく尋ねられた女流推理作家はとっておきのレシピを紹介する。一種のプロバビリティーの犯罪の顛末。元ネタを堂々と披露するところは、さながらヴァン・ダイン。しかし、短篇でそれをやるかな?
「血筋」人食い人種の血を引く南国の若者の熱い視線に身悶えるわたし。ああ、食べてしまわれたい。理が先に立った「特別料理」のパクリ。凡作。
「犯人のお気に入り」二人の若者と一人の女、そして一つ死体を巡るとぼけた会話。死んでいたのは誰?聞いていたのは誰?何が起きているのか、よく判らないうちに、さっくりと物語が終わってしまった。はっはーん。作者のやりたい事だけはよく判った。
「子供の情景」ママンとラ・マンはイってしまった。子供は「するな」と言われた事をする。オチは見え見えだが、丁寧に作り込もうとする姿勢は買える。
「突然、氷のごとく」N夫人の心を燃やす若者。二人の逢瀬を邪魔する者には死を。燃やすのは脂肪だけにして欲しい。二転三転する愛と裏切りの1幕コメディー。題名の付け方が秀逸。
「殺人者と踊れば」思い出の館に帰ってきた女。そこで待っていた危険な男と舞う夜に裁きの幕は降りる。抒情溢れる小泉ミステリ。この作品集のベスト。
「髪」教授は私の髪を褒めてくださる。教授は私を大家に紹介してくださる。ああ、教授、でも私は気が付いてしまったのです。罪は罪として裁かれるべきではないのでしょうか?奇妙な髪切り魔事件の顛末を描いた犯罪小説。これもプロット先行が鼻につく。
「被告は無罪」この世の正義は当てにはならぬ。無罪判決を聞いた女は自らの手を汚す事を決意する。恋人を殺した者に鉄槌を。「怪奇大作戦」のあのネタ。判決の言い渡しが、妙に日本的で笑える。
「殺さずにはいられない」表題作。重役の娘との結婚を控えたハンサムが、過去を清算しようとする夜。殺さずにはいられない。愛さずにはいられない。そして皮肉は流転する。非常にステロタイプなお話だが、語り口で読ませる。
「特別エッセイ」ミステリーひねくれベスト10」いやあ、ひねくれてます。一見の価値あり。


2002年3月23日(土)

◆花粉爆発。覚悟を決めて抗ヒスタミン剤を飲む。頭半値八掛け二割引き状態。
◆とりあえず鼻水は止まったので、奥さんと近所の公園に花見に行く。1時間ぐらいかけてそぞろ歩き。ああ、やっぱり日本人は桜だねえ、桜はソメイヨシノに限るねえ、と春気分を満喫していると雨粒が落ちてきたので、中央図書館で雨宿り。企画コーナーで図書館や古本テーマの書籍展示が行われていて、しばし立ち読み。ふうん、「ブックハンターの冒険」というのはこういう内容だったのね。続いてダメモトで小泉喜美子を検索してみると小泉収集の最後の1冊になっている「殺さずにはいられない」があっさりヒットする。ねずみホームズのベイジル・シリーズと一緒に借り出してみてびっくり。なんともポップな装丁ですこと。へえ、こんなカバーだったんだ。 とりあえず、これで背は覚えたぞ。
◆積録してあったアイリッシュ原作、ジャンヌ・モロー主演のFトリュフォー監督作品「黒衣の花嫁」をぼんやり視聴。なんとなく「白黒映画」だという思い込みあったが、蓋を開けて見るとフルカラー作品。いかにもな古い音楽がそそる。左程期待はしていなかったが、5つの復讐譚が小気味よいテンポで綴られており、それなりに楽しめた。


◆「The Phantom Violin」J.J.Renaud(Metropolitan publishing)finished
半ば意地になりかけている週に1度の原書レビュー。今週は、先日大鴎さんが入手されたフランスのオカルト・ミステリに挑戦。たまたま、次はこれを読もうと別宅より持ち込んでいたところへ大鴎さんの入手報告があって驚く。あるのですな、こういう百万に一つの偶然が。まあ、お互いオカルト・ミステリ好きなわけで、百に一つの必然なのかもしれないが。こんな話。
ブルタニュー地方の街、ブレストに住むパントロイとその従者ヒッポリテ。アフリカで修羅場をくぐり財を成したパントロイには、姪のローラが付合っている男モーリス・クローズが気に食わない。お気に入りの土地っ子ガイと添い遂げてくれればと今日も年甲斐もなく姪と口論。そこで遺書から彼女を外すと宣言してしまった事が、呪われた事件の引き金となってしまったのか?その夜、友人や縁者を招いての会食で、ヴァンデンという名の殺人鬼の事が話題に上がる。ヴァンデンはリストの「恋の詩」を得意にしたヴァイオリン奏者。殺しの予告にE線を送りつけるという洒落者はパントロイの証言で逮捕され何年も前に獄死したと言われていた。だが、2週間前から、パントロイの館では、どこからともなく「恋の詩」を奏でるヴァイオリンの音が響き、ヒッポリテが屋根裏から地下室まで捜しまわったが、どこにもその音の主を発見する事が出来なかったのだという。そして、遂にはその日の朝、E線が郵送されてきたのだった!質の悪い悪戯か?それとも、獄死した筈の殺人鬼が甦ったのか?果してパーティーの翌日、中から施錠され、ボルトの降りた完全密室の中で、バイオリンの弦で縊り殺されたパントロイの死体が発見される。窓も内側から施錠され、部屋の鍵は引き出しの中。だが、オーヴィル警部率いる即物的な警察は現場から盗まれたと思しき15万フランの一部がモーリスの部屋から発見された事から彼を逮捕する。モーリスの無実を信じるローラは、戦時中には諜報戦でも名を挙げた私立探偵カシミール・シャナバードに事件の解決を依頼するのだが、ヴァンデンの魔手は、とどまるところを知らなかった。どこからともなく届けられるE線。警察署内での密告者の射殺、被疑者の逃亡、担当警部を襲う誘拐の罠、そして、便乗犯への死の鉄槌。今やブレストの街は、あらゆる不可能は可能にしていく幽霊ヴァイオリンの恐怖に包まれていた。
フランス版「悪魔が来たりて笛を吹く」。派手なオカルト・ミステリであり、不可能犯罪の部分では横溝正史を越えているといってもよい。次々と捜査陣の先手を取って犯行を重ねる真犯人が凄い。だが、その凄さを強調しようとする余り、話に無理が生じてしまっている。中でも、便乗犯を、警察の監視の目が離れた一瞬に全くの外傷もなく葬り去る、というくだりが、完全な肩透かしで、しかも説明不足なのには参った。誘拐の顛末も全くの危険な賭けであり、物語の完成度で問えば、全くもって大横溝の敵ではない。不要なキャラも多く、その場その場を盛り上げておけばよかろうという「ええ加減さ」に溢れた大衆小説。密室の解法にも新味はなく、オカルト・ミステリと名がつけば読まずにはいられない人だけが読んでおけばよい作品であろう(というわけです>大鴎さん)。


2002年3月22日(金)

◆凄ええ、本日の朝日新聞。なんとトリック2が全面広告だあ!!これは田舎じゃ、やっとらんに違いない。それにしても全面広告するほどの番組なのかあ?
◆新刊書店で雑誌2冊購入。
「ジャーロ 2002年春号」(光文社)1500円
「SF Japan 4号」(徳間書店)1800円
ぐうの音も出ない程に高い。既にどちらも雑誌の値段ではない。まあ、ジャーロは月刊誌3ヶ月分と思えば納得できなくもないし、「探偵実話」を1500円で安いと思って買うんだから今の作家を育てるつもりで買ってくれよって事なのかもしれないのだが、やっぱり徳間書店は許せん。山田正紀の「神狩り2」は、単行本のさわりを先行出版しただけのものだし、あとは日本SF新人賞の一挙掲載で頁数を稼いでいるだけの志の低い編集の本。ただ悲しいかな、山田正紀ファンとしては、泣く泣く買わざるを得ない1冊。ひ、人の足元見やがって、こ、こんな雑誌は長生きできねえぞお!徳間のSF雑誌は大判になったら末期症状なんだぞお。まあ、でも、山田正紀ファンですらない、<鶴謙>エマノン・ファンは、もっと悔しい思いをして買っているんだろうなあ。
閑話休題。「山田正紀ファンクラブ(プロ作家限定)結成記」は「皆さん、判ってらっしゃる!!」の一言。ここに入るためだけにプロ作家を目指したくなる。著作リストをチェックしてみたら、最新刊の「サブウェイ」を除いて139冊全部読んでいた。積読派の私としては極めてレアな話である。
掲示板でとださんがアンビバレントに噛付いておられたジャーロの「ミステリ秘宝館」は、看板に偽りのない「秘宝」揃い。これは唸った。だからと言って「もの凄く欲しい〜っ!!」というものでは決してないのだか「成る程、こういう楽しみ方もあるのか」と納得させるだけの「バカの年季」が入っている。2頁ぐらいの特集かと思いきや、捲っても捲っても出てくるんだもん。あの中で私が所持しているのは戯曲の「二拾分間の不在証明」だけだよ。はあ。
◆鬱憤を晴らすように、ブックオフで安物買い。こういう場合、少しでも1日の平均購入単価を下げたくなるものなのである。
「不気味な話1江戸川乱歩」江戸川乱歩(河出文庫)100円
「誰もが戻れない」Pロビンソン(講談社文庫)100円
「略奪」Aエルキンズ(講談社文庫)100円
d「斜光」泡坂妻夫(扶桑社文庫)100円
「図書館警察」Sキング(文春文庫)100円
「黒祠の島」小野不由美(祥伝社ノンノベルズ)100円
「駒場の七つの密室」小森健太朗(光文社カッパノベルズ)100円
「対決金田一家の一族」WKK(ワニブックス)100円
「ウルトラマン対仮面ライダー」池田憲章・高橋信之(文春文庫PLUS)100円
これだけ買って、ジャーロ1冊にも届かない。うふふ。河出の江戸川乱歩は、随筆集を刊行している途中にひょっこり出た短篇小説集で、整理番号が割り込みの3番。未収録作があるというエッセイ集の方は泣きながら新刊で買ったのだが、こちらはスルーしていた。これで番号は揃うのはいいのだが今度は装丁が揃わないんだよなあ。美観を考えて出して欲しいよなあ。まあ、どうせ背が眺められるようには収納できないんだけどさ。


◆「死ぬまでの僅かな時間」井沢元彦(双葉社)読了
逆説日本史家・右傾言論人としての「活躍」の傍ら、96年から97年にかけて「小説推理」に連載した長編推理小説。発刊は98年。申し訳ないが百円均一棚で見かけるまで、存在すら知らなかった。カバーアートがやたらと煽情的で、見るからに危険な香りのする本なのだが、実際の中味もこれほど鬼畜系の話だとは思わなかった。
犯人は玩具を攫ってきては、壊して遊んだ。柔らかな締まり具合を楽しみながら首を刎ねてみたり、フォルマリン漬けにしてみたり。玩具の名を、「由美子」という。女子大生だった。
探偵はペットを飼っていた。檻の中に入れて、可愛がった。御飯も自分の手で凝ったものを作ってやった。勿論、ペットは裸である。ペットの名は「陽子」と言う。テレビの人気アナウンサーだった。
二つの異端は、かつて勝者と敗者として交錯した事があった。そして敗者は永遠の夢を美畜の血肉で描き始める。規格外のインモラルが、富と権力に鼓舞される時、世紀末の糜爛は、死ぬまでの僅かな時間に哄笑する。
乱歩賞の中の乱歩賞「猿丸幻視行」で世に出た麒麟は、とうとうここまでの駄馬に成り下がったか。なるほど、江戸川乱歩にも「大暗室」のような異形の白と黒の闘いを描いた作品はある。そのイマジネーションの差には天と地ほどの開きがある。大乱歩のそれが帝都の地下に広がる絢爛たる大伽藍に舞い踊る黒い孔雀の夢だとすれば、井沢のそれは、新建材のデコラ貼りの連れ込み宿に映った電影細工に過ぎない。誰か、作者の前に行って、この小説を朗読してやるがいい。ああ、恥かしい。


2002年3月21日(木)

◆休日で、実家にいても、なぜかいつもの4時になると目がさめてしまう。病気だね、こりゃ。しかたがないので、リビング中に散らばっている週刊誌を10冊ばかり固め読み。いやあ、一気に物知りになっちゃったよ。
◆ここまで来たからにはと、梅田古書倶楽部を一応チェック。それなりのラインナップではあるが、欲しいものは見当たらない。何も買わないのも癪なので名刺代わりに雑誌を一冊購入。
「探偵実話」昭和37年8月号(世文社)1500円
島久平が載っているらしいので、とりあえずチェック。問題はダブリかもしれないという事。さあ、次回別宅にいく日までドキドキものである。
◆新幹線の中では半分爆睡。往路は飛行機だったのだが、やっぱり新幹線はいいねえ。


◆「保瀬警部最大の冒険」芦辺拓(角川ノベルズ)読了
芦辺拓の長編第二作。「殺人喜劇の十三人」で颯爽デビューを飾った作者の書き下ろし作品という事で刊行直後、新刊を飛びつくように買い求め、読み進もうとしたのだが、20頁行かないうちに挫折。それはそうだ、がちがちの本格推理を期待していたら、中からとんでもない小説がでてきたのだからたまらない。思わず、「う、裏切り者」と口走って、そのまま積読山脈の中に封印してきたのである。で、一日一冊を始めて3年3ヶ月、心が広くなると同時に、最近の著者の凄まじい迄の活躍に惚れ込んでしまった今、改めてその封印を解いてみた。こんな話。
今まさに、豪奢たる天狼館を舞台にして絢爛に繰り広げられた「十七神家殺人事件」の真犯人が、告げられんとした瞬間、銃声が轟き、物語は一変する。可憐なる被害者と美しき暗殺者に掘り込まれた鳥の刺青。それは秘密結社「始祖鳥」の刻印であった。Q市とT市の総てを賭けた死のオークション。誘拐される美女と乙女。そしてそれを追う快男児と美人記者。次々と放たれる刺客を、機転と腕っ節と度胸でバッタバッタとなぎ倒し、迫るは敵の秘密基地<ヴェルヌ島>。巨悪を呑み込む市井の知恵が、最強の生体兵器を復活させる時、Q市を、いや日本を、いやいや世界を救えるのは只一人。さあ、人々よ、その名を呼べ。スペイン革命に身を投じたでしゃばりの末裔、保瀬七郎!<警官と悪漢>、<攻撃と反撃>、<外套と短剣>、ノスタルジックな愉快をテンコ盛りにして快男児は裸女とともに、ここにあり!!
痛快ドタバタアクションを平成の御世に復活させようとした意欲作。とにかくこの方面への作者の蘊蓄を総動員して、書きたいものを書いてしまった作品。はっきり言って書いている人間が一番楽しかったのではなかろうか?つまり、読み手のスピードを無視しているのである。この饒舌なる密度は、本来軽快に読み飛ばさせるべきプロットに負荷をかけてしまう。いわば、アクセルを踏みながらブレーキを踏んでいる状態なのだ。そこで、御立会いの皆さんに、この話を楽しく読むコツを伝授いたそう。実に簡単、誰にでも出来る。それは「頭の中で音読する」事。さすれば、芳醇たる昭和三十三年生まれの同世代感覚に身を浸しながら読切る事が可能とならん。ああ、濃い。ああ、長い。善き哉、善き哉、冒険譚。
一ヶ所笑いのツボに入ってしまったところがあって、「評論家なんて人種は英語ぐらいしか取柄がないのだから」というくだり。いやあ、ここでも芦辺節は健在だねえ。