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2002年1月31日(木)

◆今週月曜日にオープンした本八幡のブックオフを覗きに行く。なんと朝の5時まで営業しているというとんでもない店だが、ブックオフにしては小ぶりの店で、見るからに何もなさそうである。場所は駅前の一等地だが、これならば付近の古本屋も安泰であろう。とりあえず、名刺替りに1冊だけ。
d「暑い日暑い夜」Cハイムズ(角川書店)100円
文庫の後からハードカバーが出るというご無体商法の1冊。まあ、生頼範義描くところの「墓掘り」と「棺桶」が拝めるのが吉かな。その他にも2、3店覗くが何もなし。まあ、今日はブックオフを見に来ただけだし、と自分を慰める。
◆なんとなくテレビをつけっぱなしにしていたら、NHKの次週「トップランナー」には京極夏彦が出演、との由。おお、これは必見じゃあ。
◆本の雑誌の原稿をやっとこ仕上げて送稿。なんだが、一ヶ月ってアッという間に過ぎちゃうんだよなあ。


◆「ふるさとは、夏」芝田勝茂(パロル舎)読了
サンケイ児童文学出版賞受賞作。最近、「銀河通信」の安田ママさんが固め読みしている作家の中期作で、先日、ブックオフの100均棚で拾えたのも何かの縁と試しに手にとって見たところ、これが大当たり。まさしく巻を置くあたわざる面白さ!個人的に、アジモフの「銀河帝国の興亡」や菅浩江の「永遠の森」の例を引くまでもなく、優秀なSFやファンタジーには「魅惑的な謎」と「鮮やかなるカタルシス」があると信じている。そしてこの作品にも、魅惑的なフーダニットとホワイダニットが仕込まれているのだ。即ち「主人公たちに、白羽の矢を射掛けた神様は誰だったのか?そして、その動機は?」<八百万のかみさま>と街育ちの少年の一夏の出逢いを描いたファンタジア・ジャポニカは、こんな話。
それはある夏休みの事、母がヨーロッパに出張する間、父の故郷・五尾村の「行夫おじさん」のもとに預けられる事となったみち夫。おじさん夫婦や、従姉妹の高校生・沙奈ちゃんはみち夫を家族として大歓迎してくれるが、みち夫は田舎の閉鎖的な人懐っこさに戸惑いを隠せない。そんなみち夫の居心地の悪さを、更に神様らしくない神様たちがまぜっかえす。そして、バンモチという村の伝統行事の夜、滞在を切り上げ都会へ逃げ帰ろうとするみち夫と、村一番の美少女ヒスイの間に、白羽の矢が射掛けられた。果して、誰が?何のために?町との合併を巡り対立する村人の疑心が募る中、神事の立会いに指名されてしまったゆき夫は、犯「神」捜しに立ち上がる。アロハシャツの氏神の面目、イタチを従えるブタ猫、分家の神はスケボーを盗み、松の木は少女を見守る。水辺の褌姿、鼻の欠けたおばば、そして甘露で誘う美女。すべてのものに神様は宿り、少年の心にふるさとが宿る。そのふるさとは、永遠の夏だ。
田舎ことばが心地よい。エラソウにみえない神神がよい。謎と推理は頼もしく、小さな恋が微笑ましい。これはもっともっと話題になって、広く読まれるべき純和風少年ファンタジー。、空気の清冽さ、水の冷涼さ、人の温かさ、神神のええ加減さが程よくミックスされ、爽やかな読後感が風の向こうに待つ。その素朴さで「となりのトトロ」に迫り、その破天荒さで「バガージマヌパナス」に迫り、その温かさで「西の魔女は死んだ」に迫る快作。心が少しへたれている「昔、少年だった」人に是非御一読をお勧めする次第。


2002年1月30日(水)

◆御接待でフランス料理などを食す。処は東五反田の住宅街。「料理の鉄人」で道場六三郎と「鯛対決」したシェフのお店らしい。当方が不調法者の集まりにつき、お客様にワインを選ばせるという禁じ手に走る。というのも、先方は、ワイン極道30年、しかも「最近、洋古書では欲しいものがなくなった」とお嘆きの趣味人。これはかないまへん。ただ、仕事の関係で、根っからの古本者に会う事が極めて珍しいため、うちの上司をさしおいて、「大人買い」やら「蔵書一代」と言った話題、更にはワイン絡みのミステリということで「あなたに似た人」や「別れのワイン」のお話なんぞを振って頂き、楽しく飲んで食って喋りまくる。いやあ、お酒もお話も「大変おいしゅうございました。」
◆明後日締切の原稿に何も手をつけていないので、ブックオフ西五反田店はチェックしないまま直帰。購入本0冊。


◆「霧の旅路」海渡英祐(徳間文庫)読了
本格推理と歴史推理と競馬推理が際立っているものの、処女作をはじめ謀略ものにも才能を発揮する作者は、手堅いサスペンス・ロマンの書き手でもある。この作品も、キャラ設定から、話の展開まで、どこを切っても、こちらが気恥ずかしくなるほど王道を行くサスペンス・ロマン。2時間ドラマには、やや長尺で昼メロ20話・4週間分といった分量。こんな話。
主人公は美貌のOL。恋人は役員の娘との結婚のため彼女を切り捨てる。傷心の彼女が、翳ある男と出会ったのは、東京タワーの展望階。男が読んでいた「不死鳥の伝説」という本が、これから始まる死と再生のドラマを予感させる。男には、かつて恋人殺しの容疑を掛けられたという暗い過去があった。そして、主人公との出会いが、その悪夢を甦らせる。いつしか彼に惹かれていく主人公。彼女を捨てた男、彼女を追う男、そして彼女を護る男。探索の旅で奪われる命、届けられる悪意の肖像、政争の縺れと男達の野心が霧の向こうに牙を剥く。
謎が一段落するたびに死体が転がり、疑惑が再構成されるお約束の展開、更に、キャラクターの縺れ具合がいかにも御都合主義で、それが「まさか、あの結末ではないよなあ」と怖れていた通りに収束していくのには参った。善玉・悪玉の書き分けがはっきりしており、推理趣味のない読者にも抵抗なく受け入れられる判りやすさがプロの仕事である。唯一の推理の対象である「写真」が、犯人の心理に照らして極めて不自然。「御乱心」としか申し上げようない。とりあえず、ワタクシ的には、最初に男女が出会うのが勤務先の直ぐ傍であり、さりげなくもクレッセントでディナーしてしまうのが羨ましい。なぜか、クライマックスも、郷里の近辺であり、ご当地サスペンスとして楽しめた、という事にしておいてくれ。


2002年1月29日(火)

◆新刊書店で、いつもの雑誌を2冊。
「ミステリマガジン 2002年3月号」(早川書房)1700円
「SFマガジン 2002年3月号」(早川書房)890円
HMMが恒例の2002年回顧号につき、頁数1.5倍の定価が倍。作家・評論家連のベスト3を拾い読みして肯いたり、勉強したり。本格系では申し合わせたように「第三の銃弾<完全版>」が上がっており感心する。あ、そうか、ハヤカワだもんな。トリートの「被害者のV」は完結。さあ、果してポケミス入りするのであろうか?ベスト3のコメントで、小林晋氏が喜怒半ばする感想を述べておられたが全くおっしゃる通り。まあ、具体的に言えば、速攻で文庫化する「アクナーテン」でHMMを水増し出版するんじゃなくて、「狐火殺人事件」あたりを早くHM文庫で出しなさい、って事かな。


◆「水無月の墓」小池真理子(新潮文庫)読了


2002年1月28日(月)

◆一軒だけリサイクル系。少し御無沙汰している間に100円均一棚とかが充実してはいるのだが、これといって買うものはない。仕方がないので一冊だけ安物買い。
「メビウス・レター」北森鴻(講談社)100円
なんだか、これもダブりのような気がするなあ。そういえば、先週土曜日買った曽野綾子はダブリではなさそうである。GOOGLEで検索したところ、私が昔100円で拾った桃源社の曽野綾子は「塗り込めた声」なのだそうだ。これで一安心、って問題はどこにあるかだよな。
◆GOOGLEといえば、掲示板で鎌倉の御前から御質問頂いたクイーンの「ペルシャ絨毯の謎」についても、一発ヒットで面目を施す事が出来た。これも考えてみれば凄いことで、一昔前であればクイーンの書いたものならばルーブリックに至るまでメモリーの中に整理されているEQFC会長の如き生き地獄もとい生き字引な人でもない限り対応出来っこない話である。最初は、国際事件簿の中の訳されざるエピソードか、ブリーンとかのパスティーシュを疑ってみたのだが、一応の「聖典」の中に記述があったとは、今更ながら<重箱の隅>的トリヴィアリズムの奥深さに感心する。「中途の家」が「スウェーデン燐寸の謎」だったり、「ニッポン樫鳥の謎」が「日本扇の謎」だったりするのは、普通のクイーン好きにとって常識の範囲なのだけれど。いやあ、勉強になりました。リンクとレヴィンソンがプロデュースした「エラリー・クイーン」の第2話だったかに「飛び降りた恋人の冒険」というエピソードがあって、これがEQの「飛び降りた恋人の冒険」という長編の設定の通り金持ち夫人が転落死を遂げるというお話であった。シャーロキアンの世界では、語られざる事件はそれこそ山のように語られているが、誰か「エラリー・クイーンのミス・アドベンチャー」を編んでくれる人はいないものだろうか?日本でも山口雅也とか、北村薫とか、有栖川有栖とか、幾らでもいそうな気はするんだけどなあ。


◆「五人姉妹」菅浩江(早川書房)読了
書き下ろし作1編を含む最新SF短篇集。「永遠の森」の後日談である「お代は見てのお帰り」が収録されているので、まずは「買い!」の1冊。逆にいえば、これでもう「博物館惑星2」の企画はなくなったものと解釈すべきなのか?いやいや、世の中には「なめくじ長屋」の例もある事だ。短篇集に収録されたからといって、シリーズが終わったわけじゃないに違いない。年1作でも書き継いでもらえれば、8年も経てば1冊編める。まだまだ諦めちゃいませんぜ。その他の作品も、実に「SF、SF」していて、スガヒロエ・ワールドが満喫できる好短篇集。ダークサイドの「夜陰譚」とセットで読めば、これで貴方もスガヒロエ通。以下、ミニコメ。
「五人姉妹」表題作。SFM2000年9月号の菅浩江特集に向けて書き下ろされた作品。とある製薬会社が人体実験を美談に演出する陰で、一人の娘と彼女の「胎」違いのクローン姉妹4人とが出会い、語らい、悟り、別れる。神に挑む壮大な実験を家族のドラマに封じ込めた逸品。父への愛という胎盤が繋ぐ魂の煉獄に涙する。
「ホールド・ミー・タイト」書き下ろし作品。VRテーマのキャリア・ウーマン純愛物語。一瞬、女性誌にでも書かれた作品かと見紛う「ロンバケ」もの。一途で今更恋愛に本気になれないと思っている三十路の女性、おせっかいなバーテン、そして、ちょっとボンヤリとしたデュラックの海のように広い年下の後輩。いやあ、勝利の方程式である。
「KAIGOの夜」<大患>後の脱管理世界の断章。<介護されるロボット>という発想の妙で引き付け、最後に払い腰をかけるアイデア・ストーリー。クライマックスの独白の詠唱は、ひたすら怖い。
「お代は見てのお帰り」再読につき、感想を転載。大道芸を題材にしたシリーズのボーナス・トラック。「偉大なる父」をもってしまった息子は、自分の息子に何を伝えるのか?博物館惑星が、計算された笑いと狂騒と驚愕のアンサンブルで満たされる時、選択は迫られる。芸人科学者という設定の勝利。一種のリドル・ストーリーではあるが、答は出ている。だから、胸キュンが募る。どこまでもイタリア映画の猥雑さを纏った異色作。ファンは、これだけでも立ち読みしましょう。
「夜を駆けるドギー」再読につき、感想を転載。人類にとって最古で最良の友が科学の力で再現される時、一人の悪意は都市伝説となってささやかな<愛情>を蹂躪していく。覆面の下から誇りをかけて無音の闘いに挑むサイバー・エリート。静謐な電網を熱い魂は駆け、個とシステムの卑しき企みは、友情の前に崩れ去る。スガヒロエ、ネットおたくに挑戦!巧い、巧すぎる。プラモデル、コミケとおたく道の極北を作中で極めてきた作者が<2ちゃんねる>の世界を活写しつつ、友情と友愛の物語をものにした。
「秋祭り」進化した農法、進化した作物、そして進化しない人間。記号化された歓喜と喧騒の中を、一番大切なものを求め女は走る。「いのり」は「みのり」。里の秋。一本気で古風な日本農業SF。ちょっと、翻訳してアメリカ人の感想を聞いてみたい。
「賎の小田巻」大衆演劇の女形に殉じた老役者の意地。残酷な時が仕掛ける老醜の罠。父の魂が、人ならざるものものの手により甦る夜、息子の目に映る人の誇りと芸の華。昔を今になすよしもがな。これは凄い。このまま「博物館惑星」ものに仕立てる事ができる芸術テーマSF。レトロと科学の融合、父と子の葛藤、緊張感溢れる展開、これは21世紀の「鬼の詩」。傑作。
「箱の中の猫」近くて遠い、遠すぎる彼。軌道のどこかで、ゆっくりと心は試され、歪んだ時空に、恋人たちは流転する。猫は生きているか?愛は生きているか?非SF読者向けに諄諄とSF的恋愛を語ったある愛の詩。強烈に「はるかなる声」や「2001夜物語」の世界。
「子供の領分」閉ざされた空間、限られた配役、単調な毎日、アイデンティティーを求める少年の心は内なる声に導かれ、寒い朝に驚愕は敵とともに訪れる。ああ、僕は役に立つ人間なのだろうか?「学者」「女王」「大佐」「バレリーナ」多彩で極端な性格の子供たちが印象的な「成長小説」。かつて子供だった大人にとって、とても痛い作品。最後の一文も決まっている。


2002年1月27日(日)

◆早朝から、浴びるように本を読む。貫井徳郎著「症候群」3部作読了。午後は只管妻と語らう。
◆夕方二人でお出かけ。ワインを買って帰宅すると、郵便受けに早川書房からの書籍小包。菅浩江さんからの謹呈本。
「五人姉妹」菅浩江(早川書房:帯)頂き!
ありがとうございます、ありがとうございます。しっかり読ませて頂きます。


◆「殺人症候群」貫井徳郎(双葉社)読了
作者が熱烈な必殺マニアである事は、その日記を読めば一目瞭然。というか、必殺とサッカー以外の記述はむしろ稀であり、日記のみから好みのミステリの傾向を探る事の方が余程難しい。その作者が、愛を込めてデビュー後まもなくから書き続けてきた現代版「必殺」ミステリとも呼べる「症候群」シリーズの掉尾を飾る作品が、これ。小説推理2000年1月号から2001年7月号まで、まさに世紀を越えて書き継がれた大作であり、堂々たる完結編である。現代版「必殺」といっても、調律師がピアノ線で暴走族を吊し上げるような話でも、ラーメン屋が悪人どもをゴーゴーと綿棒でのばす話でもない。警視庁警務部人事二課長・環敬吾と彼が集めた3人の元警察官が、法で裁けぬ連続犯罪の主を、非合法的手段も厭わず追いつめる物語である。岡嶋二人の「眠れぬ夜の」0課シリーズとの相似は確信犯の域であるが、「必殺」と「影同心」ぐらいの差はある。実は、この作品に先立つ2作「失踪症候群」「誘拐症候群」では、チームの追う犯罪は「連続失踪幇助事件」と「非・連続誘拐事件」であり、そこにミステリの柱となる「殺人事件」が有機的に絡むという構成。現代版「必殺」というキャッチから、チームの面々が鍛えた殺し技で<闇に裁いて仕置する、南無阿弥陀仏>といった話を想像すると、やや肩透かしに逢う。ところが、この第三作は、題名からして気合の入り方が違う。そう「殺人症候群」である。ここに至り、環とそのチームは結成以来最大の危機に出会う。今度の敵は、まさに「仕置人」なのである。こんな話。
なぜこの国の法は、少年や心神喪失者を裁けぬのか?彼等の暴力と狂気が発現した時に、被害者は、そして大切な者を奪われた親族たちは誰に訴えたらよいのか?神?力?それとも闇?ここに、その矛盾に身を焼き尽くし、地獄に落ちた二人の男女がいた。環敬吾の慧眼が、職業的殺人者の存在を見抜き、チームを招集した時、陽気な<肉体労働者>は何故か仕事を降りる。盲目的な愛ゆえに献体を製造する白衣の天使。依頼人を失う復讐劇。追う者と追われる者は闇の中で交錯し、逆転の構図に病んだ魂は暴走する。増殖する病理、逆襲の倫理、そして殺しの論理。私立探偵・原田の物語であった「失踪」、托鉢僧・武藤の物語であった「誘拐」、ここに「症候群」は肉体労働者・倉持の物語でその幕を閉じる。中村主水はそこにいる。
さすがに必殺を語らせるとこの作者は熱い。「なぜ金を貰うのか」という、一事について斯くも真剣に語ったミステリは見た事がない。そもそも物語自体、「殺人は許されるのか?」という問いかけに満ちており、幾重にも綴り織られた生と死のドラマは、読者を試す。とはいえ、これがミステリの遊び心を忘れた文学もどきだと思って頂いては困る。この作品からは、初心に返った作者の意気込みが迸っているのである。現代社会の歪みと病理を網羅した告発の書であり、趣味を拗らせた必殺卒業論文であり、アガペーに至れぬ人の愛の詩であり、そして無茶苦茶格好いいエンタテイメントである。読め。
うーん、本当にこれで終わりなんだろうか?
「オヤジ、バタビアで待つ」?
「いたんだよ、俺のシルバーが」?


2002年1月26日(土)

◆朝は二日酔。布団の中でうだうだする。昼から「<貫井徳郎>を買いに」お出かけ。なにせ「殺人症候群」って、頂いたはいいけれど、シリーズ3作目完結編。まがりなりにも感想を書くのであれば、第1作・第2作を読んでおくのが礼儀というものである。まあ、今まで読んでいないのが失礼といえば、失礼なのではあるが、そこはそれ。とりあえず「失踪症候群」の文庫版は持っているが未読で別宅置き。「誘拐症候群」に至っては未入手・未読。「殺人症候群」の帯によれば文庫化されているようなので、付近の新刊書店をウロウロ。ところが中規模書店では、そもそも双葉文庫自体が殆ど置かれていない。沿線No.1級の店では、双葉文庫は3列分ぐらいあったが貫井作品はなし。最後に、ここが駄目なら都内に出るしかない、と勢い込んで乗り込んだ津田沼の「丸善」でやっとこゲット!いやあ、新刊捜しもこれぐらい歯ごたえがあると渉猟の楽しさがあって宜しい!というか、営業努力が足りんぞ、双葉社!というか。
「誘拐症候群」貫井徳郎(双葉文庫)700円
◆勿論、その合間に古本屋も回ったが、そこにも双葉文庫は見当たらず。貫井作品で転がっているのは「慟哭」あたり。貫井作品を買った人は本を大事に保存して売らないって事ですね。きっと。他に買った古本はこれだけ。オール100円である。
「逆転逮捕」春日彦二(広済堂NV)100円
「丸の内OL殺人事件」春日彦二(サンケイ出版NV)100円
「ハードボイルド・エッグ」萩原浩(双葉社)100円
「本格ミステリーは探偵で読め」(ぶんか社)100円
「蒼ざめた日曜日」曽野綾子(桃源社)100円
一番の拾い物は曽野綾子の恐怖小説集なのだが、どうもダブりのような気がしてならない。うーん、自分のサイトでもグーグルで検索してみっか?


◆「崩れる」貫井徳郎(集英社文庫)読了
<結婚にまつわる八つの風景>という副題のついた「妻と夫に捧げる犯罪」集。長編志向の作者が「短篇」に開眼したという表題作から、2年弱の間に書かれた作品集で、AHMM風の小粋なアイデアストーリーから、犯罪心理小説、果てはリドルなホラーまで、各種取り揃えたバラエティーブックの趣があり、楽しめた。以下、ミニコメ。
「崩れる」夫と息子の身勝手に追いつめられていく主婦の心理を活写した逸品。創元推理文庫でいえば「時計」マーク系のお話であるが、描写が的確で、さくっとした読み応えがいい。巧すぎるだけに、余り長編でこっち方面に行かないで欲しい。
「怯える」貫井版<危険な情事>だが、それだけでは終わらない暗鬼の点描。一種、嬉しい不意打ちである。
「憑かれる」思いがけない旧友たちの結婚と招待。甘酸っぱい悔恨に、恐怖は冷たく忍び寄る。笑いと恐怖を交互に繰り出した「奇妙な味」小説。作者にこのような作品が書けたのか、と驚く。
「追われる」自立した女の仕事は、冴えない男をストーカーに仕立て上げる。だが、軽挙は闇に魔を呼び、陥穽は口を開ける。持てない男としては辛い一編。鉄槌のもって行先は違うような気がする。
「壊れる」偶然の事故が不倫の二重奏を狂わせる。「落ち」ありきで、やや空回り。この中では凡作。
「誘われる」孤独な母娘たちは、互いに癒し、そして傷付け合う。最後まで緊張感を維持した好サスペンス。作者らしい叙述の妙が光る。
「腐れる」悪臭ネタの「世にも奇妙な物語」。二枚腰のツイストは良いが、このネタならば、主客転倒オチの方が怖かったんじゃないかな?
「見られる」見えないストーカーの恐怖を描いた<本格推理>。トリックは読めたが、もう一段の仕掛が上手。なるほど、そう書いてある。


2002年1月25日(金)

◆夕刻、新宿にてUNCHARTED SPACEのフクさんの「商都大阪、まあ気張って行ってきなれ壮行会」。靖国通りに面したビルの地下1階のお店で飲み邦題の立食パーティー。幹事の岩堀のおとっつあんのさながらネットミステリ全史の如き、開会の辞を聞いていると、まっことネット・ミステリ界はフクさんとともに発展してきたという事が判る。多少手狭な会場には、プロのミステリ作家、ミステリ研究家、ミステリエッセイストという名の漫画家、恐怖編集者、マンガ編集者、ミステリ編集者をはじめ古本系の老若男女が集う。60歳寸前の岩堀大老から最年少22歳のミスW@Wミスと茗荷丸さんまで、いやあ、交友範囲の広さを象徴する多彩な面子。例に依って「ブツ」のやりとりを済ませ、早速歓談。慣れないお誕生席に座らされた万年幹事フクさんたっての意向で一人30秒の自己紹介が始まると適当に合いの手を入れながら、くっちゃべる。森英俊さんからはMurder by the Mailの新カタログを頂くが、ここで注文してしまうと全品通ってしまうため、時間を置いて冷静に考える事にして、代理買いをお願いしていたジュヴィナイルを売って頂く。
「ぼくはスーパー新入生」Bブリトゥン(文研出版)900円
ありがとうございますありがとうございます。
貫井徳郎さんからは「感想を速やかに上げるように」という条件で、まだ本屋に並んでいない新刊を頂戴する。
「殺人症候群」貫井徳郎(双葉社:帯)頂き!
ありがとうございますありがとうございます。貫井さんとは、日曜日放映のアギトの最終回ネタでも盛り上がる。いやあ、先生、格好いい番組が好きだねえ。喜国さんによる某サイト噂話に爆笑し、日下三蔵氏の隠し玉話に耳をそばだて、あっという間の2時間弱。ああ、楽しい時間はなぜあっという間に過ぎるのでしょうか?今回は珍しく二次会にも参加して、尽きせぬミステリ話で盛り上がる。帰りの電車もやよいさんと立ち話をし続け、ミステリまみれの5時間。その間にゲットした本は、上記以外では以下2冊。
d「メグレの休暇」Gシムノン(ハヤカワポケットブック)やよいさんから交換
「月光の門」城昌幸(ロマンブック)日下三蔵さんから頂き!
ああ、並べて楽しい本を頂いてしまった>読めよ。

では、フクさん、いってらっしゃい。
でも、まさか私の実家から歩いて3分のところに住むなんて、反則じゃん!
ああ、帰省の楽しみはこれで半減じゃああ!!


◆「時の密室」芦辺拓(原書房)読了


2002年1月24日(木)

◆「あ、しまった!京都迷宮案内の録画セット忘れた!!」と気が付いて、残業をそこそこで切り上げ、わき目もふらずに帰宅。それでも、冒頭3分ほどが欠ける。くうう。というわけで、見るとはなしに見ていると、今回は池上希実子が、薄幸な古本屋の女店員をやっていた。エピソードタイトルが「古本屋の女・寺町通り骨董屋殺人事件!」である。これまで、わたしが見た古本屋のドラマといえば、佐伯日菜子のエコエコアザラクのワン・エピソードぐらいのもの。おお、これはちょっといいかも、と垂れ流し視聴してみた。
……う〜む、つ、つまらん!!古本屋である必然性もなければ、骨董屋である必然性もない。ケーキ屋と金貸しでも充分成り立つお手軽な造りに茫然。こりゃ、ダメダメだわ。
「骨董商殺しに秘められた幻の希覯本争奪戦、美貌の古書店主が捜し求めた書は、書棚の止め具に細工した豆本であった、敏腕記者が仕掛けた罠。止め具に飛んだ一滴の血が美本をシミ本に変えてしまう。」てなストーリーを期待した私が馬鹿でした。購入本0冊。
◆さあ、明日は女王様に「クマさんの四季」もって、土田さんに「ギャル・ファイター」もって、日下さんに「俳優パズル」のカラーコピーもって、やよいさんに「こちら殺人課!」もっていけばよかったんでしたっけ?


◆「新・新幹線殺人事件」森村誠一(新潮文庫)読了


2002年1月23日(水)

◆思いついたので書いておく。「Freeze!Mr.Postman」
◆一軒だけブックオフ。
「時の密室」芦辺拓(立風書房:帯)1100円
「新・新幹線殺人事件」森村誠一(新潮文庫)100円
「ふるさとは、夏」芝田勝茂(パロル舎)100円
絶不調は続く。本日も読みたい本の安物買い。こう、血が沸騰するような「頂き!」の快感がないよなあ。自分の別宅のダブリ棚を整理していた方が面白いというのはなんとも情けない。
◆安田ママさんから入電。来週、総武線沿線に、またブックオフが出来るらしい。あああ、私の好きな「街の古本屋さんが頑張っている」地域なんだけどなあ。こりゃあ、間違いなく2、3店ぶっ潰れるぞお。まあ、半分潰れたような店が多いのも確かなんだけど。ブックオフ愛好家としては、やや複雑な気分。
◆風読人さんの掲示板で「ピカデリーの殺人」が品切れ状態なのを知る。世の中が「最上階の殺人」だ!「ジャンピング・ジェニイ」だ!バークリーコレクションだ!と盛り上がっている一方で、こっそりと「出ていて当たり前」が消えている、というのが笑える。まあ、浅黄色の背でも出ていたことを思えば、むしろ健闘していたと取るのが順当なのかもしれないんだけど。「もの凄くは売れないけれど、古典と呼ばれる本を律義に出しつづける」という事が如何にありがたい事か、今一度、感謝の心を以って接する事が必要なのでありましょう。だいたい今時、ヴァン・ダインやら、クロフツやら、クイーンの国名シリーズを出し続けている出版社がどこにあるねん?世界中捜したってないぞ、きっと。


◆「幻書辞典」紀田順一郎(三一書房)読了


2002年1月22日(火)

◆風邪の引き始めにつき、突発年休。それでもアクセスが集中する昼休み前に日記と感想をアップしようとする我が身の健気さよ。おいおい。
◆昼過ぎから借金の前倒し返済の基礎資料集めに完全防備で別宅へ。今の御時世、下手に預金するよりは高利の住宅ローンを返しておいた方が得なのは、判っているのだが、いざとなると腰が重い。はあ、日頃100円均一の人間には、借金の残高は余りにも莫大である。はあ、まいおにー。
◆別宅で、「快楽殿」なんぞを読みながら紀田順一郎を一冊も読んでいないのは問題だなあ、と思い「第三閲覧室」を手にとるが、いや、ここは矢張り「古本屋探偵の事件簿」から読むべきだよな、と思い直し捜す事、約30分。これが見付からない!!どこかの棚裏に横向きで突っ込んであるのは確かなのだが、それがどこだか覚えていない。とにかく心当たりを片っ端から探るが駄目。ところが山をあれやこれや動かしていると、ロラックの処女作「MURDER ON THE BURROWS」が、出てきてぎょっとする。え?俺、こんな本持ってたの??うっそ〜。続いて、ブリーンの競馬ミステリ第4作「HOT AIR」とかも出てくる。うへえ、しまったなあ、持っていると知っていれば年賀状にはこいつを使えば良かったんだよなあ。ぶつぶつ。でもって結局、「古本屋探偵」版はあきらめる。仕方がないので、一部分ではあるが置き場所を把握している双葉NV版の「われ巷にて殺されん」を取り出したところ、この前作は三一書房の「幻書辞典」との既述に出くわし小躍り!これならば、確か棚上の横積みの前の方に出ていた筈だぜ、と見回し10秒でゲット。いやあ、古本屋探偵を捜していたら、思わぬ本が見付かってしまいました。いいぞ!古本屋探偵!!なんだか、居ながらにして血風気分>お前の整理が悪いだけじゃ。
◆一軒だけリサイクル系チェック。何もないので読む本を買う。
「日本人は笑わない」小林信彦(新潮文庫)100円
「水無月の墓」小池真理子(新潮文庫)100円
「深川澪通り木戸番小屋」北原亞以子(講談社文庫)100円
d「昼下がりの殺人」多岐川恭(光風社出版)100円
読む本を買うといいながら、つい、ダブリに手を出してしまう意思の薄弱さよ。まあ、100円だし。


◆「木曜の男」GKチェスタトン(創元推理文庫)読了
<こんなものも読んでいなかったのか>シリーズ。サイトをやり始めてよかったな、と思う理由の一つに、何かの拍子に読みはぐれていた古典を読もうという気が湧くという事がある。それが、存外面白かったりするともの凄く得をした気になれるものである。横溝正史の戦前作やら、エリンの長編やらは正に嬉しい驚き、「グレーシーアレン殺人事件」が黄金期のバカミスの逸品である事が判ったのも大収獲。ところが、中には「何これ?」ものもあって、今回の「木曜の男」などは正にそのパターン。持って回った言い回しで読者の鼻面を掴んで引き釣り回した揚句、繰り返しのギャグを「これでもか」とかまし、さあ、どうオチをつけてくれるのか?と手ぐすね引いて待っていると、見事に肩透かしを食わされる哲学的政治的ファンタジー。こんな話。
夕陽の中で始まった二人の詩人の論争は、その勢いのまま無政府主義者の秘密集会で火花を散らす。だが、運命の悪戯か、守秘の約束が縺れ、「木曜の男」の欠員選挙では、なんと体制側でありアナーキスト探索の密名を帯びた詩人の方が、本来の候補を破ってしまう。着々と計画され遂行に移される暗殺計画を阻止すべく、新たに「木曜の男」となった詩人が動き始めた時、彼は探索者が自分一人だけではない事を知る。欺瞞と逃亡、対決と曝露、爆弾と爆笑、暗殺と決闘、曜日の名を持つ男達が交錯するたびに、青いカードが舞い、世界は秩序の手からすり抜け、混沌へと向う。真の敵は何処?真の敵は己。
正直に申し上げて、この書の目指す処が正しく理解できた自信がない。骨格的にはオッペンハイム的世界を「バルタザールの風変わりな毎日」風のエスカレーションで綴った哲学風味のシチュエーション・コメディー。ただ、そこに辿りつくためには相当の努力を強いられる。とにかく文章表現のひねくれ方が尋常ではない。また、途中の展開部分は、それなりにスリリングなのだが、大回転が過ぎ、居心地の悪い事この上ない。はっきり言える事は、この本に「帽子男」マークが付いているのは明らかな誤りであるということ。誰がなんと言おうとも「猫」マークこそがこの作品には相応しいと思う。嘘だと思う方はお試しあれ。お勧めはしませんが。


2002年1月21日(月)

◆御接待につき、どこにも寄れず。購入本0冊。
◆渡辺啓助氏、101歳でご逝去。烏といえば七十五羽、カラスといえば数をかぞえない、鴉といえば白書、だからCROWといえばWHITE、そしてクロウと言えば天国への階段。ご冥福をお祈りします。


◆「新門辰五郎事件帖」海渡英祐(徳間文庫)読了
明治を舞台にした捕物帳といえば、坂口安吾であり、山田風太郎であり、有明夏夫であり、この海渡英祐であろう。勝海舟との推理合戦が華を添える「安吾捕物帳」といい、有名人総出演で連作長編としての構成を持つ「警視庁草紙」といい、大阪の街を舞台に読売調の大団円を迎える「大浪花諸人往来」といい、いずれも一筋縄では行かない設定だが、この「新門辰五郎」の工夫は探偵の設定に負うところが多く、中味はストレートな時代推理といった印象。明治という時代背景と侠客にして火消しの親分・徳川慶喜の側室の父という探偵の設定で満足すべきなのかもしれないが、もう一味何か欲しくなるところが、「明治もの」なのである。以下、ミニコメ。
「戊辰の華」無血開城前夜、準備されていた焦土計画。美しき窮鳥は焼死体に何を見たのか?血の伝言が陰謀を暴く。辰五郎登場。キャラ設定を生かすスケールの大掛かりな捕物譚で好感は持てる。史実であっても不思議ではない、という説得力あり。
「紅蓮の女」駿府の城下で起きた火事。そしてさ迷う記憶喪失の娘。囲われ女と士官の焼死体に秘められた謎に迫る辰五郎。敢えて掟破りに取り組んだ作品。現代ものであれば、とほほの部類。
「手向けの芒」野心家の若侍と町娘の心中死体に添えられた芒。辰五郎の慧眼は、時代の裂け目に沈んだ思いを掬う。これは巧い。フーダニットとしても、人情ドラマとしても良く出来ている。
「廓の狐」下火になりかけた遊郭が息を吹き返したのは商売抜きの女狐の恩寵。色の地獄に女の情念が燃える異色編。時代背景と謎が有機的に噛み合った作品。「淫女と謎の屋敷」系の作品の中では新機軸ではなかろうか?
「神隠し夢隠し」甘い香りが漂う時、魂は抜かれ、身体は消える。妖術と人物消失、そして暗号に挑む辰五郎。中盤までは面白かったのだが、結末は肩透かしであり、プロットも破綻している。
「望郷三番曳」人の出入りのない部屋で役者は惨殺された。不可能犯罪の底に辰五郎が見た純情。謎の組み立てと解法はよいのだが、「ためにする」設定がやや不自然。
「立志編異聞」立志の徒を殺害し、貴重なる翻訳を奪った者は誰?折り目正しいフーダニット。中村敬宇訳「西国立志編」裏話。この推理はエラリー・クイーンを思わせる切れ味である。ばっさり。
「告別の舞」なぜ、小悪党は人形と心中したのか?どこまでも粋な江戸の女の意地が、不可能を可能にする。辰五郎の人情裁きが憎い。掉尾を飾るには些か「通常」の一編。作者には、まだ続ける気があったのかもしれない。


2002年1月20日(日)

◆日記と感想で1日が終わる。
◆奥さんの買い物に付合いがてら津田沼を定点観測するも何もなし。ああ、もうリサイクル系で美味しい思いをする事なんぞないのであろうか?何も買わないのも癪なので新刊書店で1冊。
「天国荘奇談」山田風太郎(光文社文庫:帯)899円
初版1刷です。
◆新刊書店をぶらぶらしていると、欲しい本が一杯ありすぎて目のやり場に困る。あ、またポケミスが出てら、これで「完集まで2冊」状態。国書の「ジャンピング・ジェニイ」も買えてないんだよなあ。「ミステリーの本棚」に至っては1冊しか買えてないしなあ。「時の密室」も読みたいなあ。私のカバーしている範囲なんて、書店の中では、ものの二棚分しかありゃしないのに、なんでこんなに次から次へと欲しい本が出てくるのであろうか?それに、結構大きい書店なのに、コリンズ傑作選が1冊も置いてないじゃないか。もしかして、この世から消えつつあるのであろうか。気になる気になる。気になるなら、とっとと買え>自分。
◆仮面ライダーアギト、いよいよ次週最終回。そのせいもあって今週はなんとも深刻な展開。ああ、どうか救いのある最終回でありますように。謎は結局、謎のままで終わるのかな?
◆休日というのは、なかなか読書時間がとれない。というわけで、本日はお風呂読書に挑戦。まあ、のぼせない程度で読み終わるよう童話なんぞを抱えて湯船につかる。うーむ、極楽極楽。


◆「小さな魔法のほうき」Mスチュアート(あかね書房)
ヴィクトリア・ホルト、フィリス・A・ホイットニーらと並ぶゴシック・ロマンスの女王(らしい)メアリー・スチュアートが、初めて子供向けに書いた童話との由。どうも日本では、ハーレクイン・ロマンスは一大市場を開いたものの、それに先立つ先駆者たちの作品は今ひとつ紹介が進んでおらず、スチュアートも筑摩の全集で「この荒々しい魔術」が出版されている程度。さて、実はこの作品もなかなかに「この荒々しい魔術」なお話である。<女の子がほうきに載って魔法学校へ行く話>というと、どこかハリポタを彷彿させ「おお、これはハーマイオニーの大冒険かも」とほのぼの期待してしまう向きもあるかもしれないが、ハリポタで肯定的に描かれていた魔術は、この作品では徹底的に「ダークサイド」の存在なのである。滅ぼされるべき魔と幼い男女の闘いを描いた作品はこんな話。
夏休みの後半1ヶ月、ひょんな事から家族から放り出されてシャーロット大叔母さんの家に身を寄せる事になったメアリー・スミスは、退屈を拗らせていた。だが、黒猫のティブに導かれ、7年に一度しか花をつけない「魔法の花」を手にいれた時から、彼女は余りにも刺激的で、恐ろしくもスリリングな経験をすることになる。その紫の花を潰した汁がかかった箒は自分の意思を持っているかのように、メアリーとティブを乗せ、一直線に歪んだ小人の元へと飛んでいく。そこで、彼女たちを待ち受けていたのは、魔術学校への編入と特待生の扱い。おぞましい姿をした学生たち、邪な術の特訓、そしてほくそ笑む魔法教師。異形の知識欲がメアリーに牙を剥く時、彼女は「呪文の神髄」を掲げ精一杯の闘いに挑む。
真っ正直な少女冒険ファンタジーでありながら、大人も「おっ」と思わせるツイストもあり、なかなか楽しめる。魔法学校の描かれ方が、実に古典的にナスティーで、子供の頃に読めば、相当怖くが感じたのではなかろうか?使い魔のティブがジャパニメーションのように口をきいたりしないところも趣味。クライマックスの「ほうきチェイス」シーンは、ハリポタの映像陣の加工で見てみたい。ハロッズ商会特製の新製品「ヘリホウキ」が出てきたりもするし、正直なところローリングはこの話から「ニムバス2000」を思いついたのではなかろうかと疑ってしまう。いやあ、ファンタジーはイギリスだねえ。


2002年1月19日(土)

◆別宅に、読み終わって感想を書き終わった本と、買い込んだ本のうち当面読みそうもないものを搬入。大き目の鞄に思いっきり詰め込んで行ったにも関わらず、本宅の本積みスペースが余りすっきりしないのは何故だ?読むために、海渡英祐とGKチェスタトンを何冊か持ち出す。
◆久々に八千代方面定点観測。半年ぶりぐらいの遠征につき、多少期待したのだが、あわや坊主を引くところだった。ただ、収獲といっても、ダブリなのだが。
d「ギャル・ファイターの冒険」梶尾真治(岩崎書店)100円
d「おれが暗黒小説だ」ADG(ポケミス:帯)300円
カジシンの効き目ジュヴィナイルは、初ゲットからさして時をおかず引く。土田館長、要りますかあ?とりあえずキープしておきます。>私信。
ADGのデビュー作は、京成八千代駅前の雄気堂という店で買ったのだが、そこの店長に「ブックオフは何かあった?」と突然声をかけられビックリ。いつもは黄色いビニール袋をぶらさがているのだが、今日はカバンの中だしなあ、と不思議に思っていたら「いたんだよ、俺。気がついてた?」と即謎解き。あああ!そっかーー、河出文庫の「文豪ミステリー」他を抱えていた人がいて、「あらら、目利きがおるわい」と思っていたら店長でしたか。ううむ、そりゃあ何にもないわけだわ。それにしても、古本屋じゃあ、本しか見ていないのが、よっく判りました。はい。


◆「顔のない男」DLセイヤーズ(創元推理文庫)読了
創元推理文庫がマニアに贈る「ピーター卿の事件簿II」。全21編ある(らしい)ピータ卿の短篇のうち、これで丁度3分の2が収録された事になるが、今回敢えて実話ものの「ジュリア・ウォレス殺し」と評論の「探偵小説論」を入れて、小説を7編で止めたのは、「ピーター卿の事件簿III」を出す布石に違いない。違いないと言ってくれえ。これで出なかったら詐欺ですな。とまれ、セイヤーズの凄さを手っ取り早く理解できるという点で、非常に優れたセレクトであり、編集者のセンスの良さは大いに賞賛に値する。以下ミニコメ。
「顔のない男」海岸で無惨に顔を潰された男の死体が発見される。果してそれは激情の産物か、それとも謀略の果てか?純粋論理対世俗的捜査の対決の結末の名は「未解決」。「芸術未満、趣味以上」へ下したピーター卿の裁きが光る一編。
「因業じじいの遺言」アカな思想にかぶれた女にゃあ、わしの財産は一文もやらん!という因業じじいが残したクロスワードの謎に挑むピーター卿。盤面の探索から、言葉捜しまで、徹頭徹尾クロスワードパズルに淫した作品。面白くなくはないが、パズルの問題と答えを同時に示してしまうのは如何なものか?
「ジョーカーの使い道」卑劣な脅迫者に「目には目を」の罠を仕掛けるピーター卿。その手は目よりも早く、その目は手よりも早い。話はどうという事のないものだが、普段は紳士なピーター卿の悪党貴族ぶりが新鮮。
「趣味の問題」戦意高揚小説なのか?毒ガスの売買を阻止せんとするピーター卿、「よし!利き酒で勝負だ!!」。諜報員エイモス・バークのようなもんですな。ピーター卿萌えな娘さんに受けまくりそうなお話。
「白のクイーン」奔放な白のクイーンを殺したのはだあれ?正統派の仮装舞踏会での殺人とピーター卿の名推理。貴族趣味の横溢した「らしい」一品。錯誤トリックは今更のものだが、舞台設定に巧みに消化しており吉。ハーマイオニーという名のオバサマが登場したのには驚く。そう珍名というわけでもないのだろうか?
「証拠に歯向かって」ガリガリと治療の合間に狩りに励むはピーター卿。当時としては大胆なトリックだったのかもしれないが、陰謀と設定が直結しすぎており、この作者の作品にしては謎の底が浅い。邦題は名訳でしょう。
「歩く塔」幻の盤面の敵は塔に果てた。夢のお告げのままに。多分に幻想趣味な一編で、映像的にインパクトはあるが、解法はさして鮮やかとはいえない。
「ジュリア・ウォレス殺し」実話もの。証言と証拠で事件への再アプローチを試みる作者の筆は、実に冷静で科学論文を読む趣き。それだけに起伏に乏しくカタルシスもない。セイヤーズの神髄はむしろこういう世界にあったのであろうと思わせる論考である。この短篇集に挫折する人は、ここで遭難するに違いない。
「探偵小説論」なんともスリリングな探偵小説論。しかも正統派。忠実に歴史を押え、その生成から発展までをコンパクトに纏め上げた名論文。その命の限り、推理小説を語って欲しかったと思うのは私だけではなるまい。


2002年1月18日(金)

◆神保町タッチ&ゴー。ツキに見放されたように何もないんだ、これが。
d「非常階段」日影丈吉(徳間文庫:帯)100円
何も買うものがないのも寂しいかな、と思って拾う。とりあえず、日影丈吉スターターセットも構築中だしね。
◆夜は業界の新年会。したたか酔っ払う。勢いで南砂町定点観測。安物買いに走る
「顔のない男」DLセイヤーズ(創元推理文庫:帯)390円
「グリーン・マイル1〜6」Sキング(新潮文庫)300円
「ハンニバル(上下)」Tハリス(新潮文庫)100円
「シャーロック・ホームズの恋」SJナスランド(早川ミステリアスプレス文庫)50円
「童話の終わる時」BMギル(早川ミステリアスプレス文庫)50円
「密造人の娘」Mマロン(早川ミステリアスプレス文庫)50円
「ニンニクの謎」三橋一夫(エール出版)100円
わーい、バリバリのセイヤーズの新刊の帯付きが、半額だあ。キングもハリスもようやく50円均一に落ちてきた。例によって、ミステリアスプレス文庫を何冊か拾う。三橋の健康本も久々にゲット。よしださーん、お入用でしょうか?>私信


◆「鏡の中は日曜日」殊能将之(講談社NV)読了
殊能将之の凄さというのは、その分厚い読書体験から来ているのであろうか?ともかくこの人のホームページに紹介されている未訳推理・SFと来た日には数こそ二桁ながら、まさに「綺羅星」と呼ぶに相応しいラインナップである。ああ、羨ましい。
一作目では、創元クライムクラブの薫り高い騙りのサイコ・キラー・デテクティヴを描き、二作目では「横溝正史大好き!文庫化の時には、黒背に緑文字でお願いします」といわんばかりのヨコセイ・ワールドを現代に甦らせ、かの問題作、ふりーまん・ういるす「黒い仏」では、邪神と名探偵の世紀のすれ違いを活写した、正直な話、この人って、本当に一人の人間なのか?という疑問が沸沸と湧いてくる程に多芸多彩で分裂気味なのである。
さて、その殊能が、真っ向から<名探偵の退場>に挑戦したのが、この作品。
「この書は、帯さえ見ずに、何の予備知識もなしに読み進む事を強くお勧めします」と書くだけでも、楽しみを奪うことになるのかもしれないキャッチーな問題作である。
さあ、警告はしたぞ。
石動探偵第3の事件。三作目に来た殊能流「迷路館」は「眩暈」を起しそうなメタ・ミステリのアクロバットが楽しめる梵貝の館の名探偵物語。果して、14年前に伝説の名探偵・水城優臣が高らかに暴いた驚天動地の真相には誤りがあったのか?孤高の仏文学者・瑞門龍司郎の館に招かれた学生たちは、そこで、不可思議な殺人に遭遇する。封じ込められた中庭に転がる刺殺死体。散りばめられた一万円札。そして奇矯な図を見守る塑像たち。傲慢なる自尊心、狂騒への螺旋、暗喩の辺に世俗の血は滴る。水城の語り部・鮎井郁助の未完作に秘められた謎とは?平成の名探偵・石動は自らの「憧れ」に挑む、自分が殺されることになるとは夢にも思わず……。「そして罪はつぐなわれねばなりません」。
やーらーれーたー。まず、核にある「梵貝荘殺人事件」そのものが面白い。教養の差で一本取られて唸る。これはかないません。メタの部分も半分は読めたものの、その二枚腰、三枚腰ぶりには舌を巻く。加えて!至るところに仕掛けられた「遊び心」のしたたかさ!!鮎川哲也を嗤い、ミステリマニアを嘲い、そして自分自身までもおちょくりの材料にしてしまう、まあ一体全体なんて作家なのでありましょうか。読者は選ぶがここまでのこの作者の作品の中ではベスト。お勧め。