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2002年1月17日(木)

◆一駅下車して、リサイクル系へ。
「真夏日の殺人」PMカールセン(ハヤカワミステリ文庫:帯)260円
「栗色の髪の保安官」PMカールセン(ハヤカワミステリ文庫)290円
「鏡の中は日曜日」殊能将之(講談社NV:帯)350円
わーい、ばりばりの講談社NVの新刊の帯付き、栞付きを半値八掛けでゲットだぜ。後は葉山さんにご指摘頂くまで気が付いていなかった「オフィーリアは死んだ」のカールソンのその後の翻訳作を拾う。先日「真夏日の殺人」を持っていると思ったのも勘違い。「学生の死体」と間違えていた。んでもって、黄色の背表紙ばかり捜しており、今日まで気が付かなかった次第。なんだ、緑色であったか。
ハヤカワの緑背って、カーと競馬シリーズ以外は印象薄いんだよなあ。赤はクリスティーにブランド、グラフトンにLJブラウン、青はクイーンにフィッシュ、ギャレットにガーヴ、ラヴゼイにデアンドリア、黄色はマクベインにウエストレイク、アップフィールドにエアード、黒はクリスピンにスタウト、ブレイクにアイリッシュ、ボアナルにクロフツと、それぞれにつるつるっと出てくるのだが、緑は咄嗟に思いつけない。
見えないグリーン。それは黄色。ああ、何が何だか判らんよう。

◆というわけで、発作的に、ハヤカワミステリ文庫問題。仲間はずれを選びなさい。

「悪党パーカー/死者の遺産」「見えないグリーン」「殺意の浜辺」「われらがボス」

初心者向け

答え:「殺意の浜辺」、理由:これだけ合作だから
答え:「殺意の浜辺」、理由:これだけ緑背であるから

HM文庫に詳しい中級者向け

答え:「悪党パーカー/死者の遺産」、理由:これだけ同じシリーズが色違いで出ているから
答え:「見えないグリーン」、理由:これだけHM文庫に作者の別名義がないから
(後は、ウエストレイク、ディクスン、キャノンとHM文庫に別名義がある)

オタッキーな上級者向け

答え:「われらがボス」
理由:すべて文庫オリジナルであるが、これだけHMMに掲載されていないから。

さあ、貴方はどれ?

◆「忠臣蔵殺人事件」皆川博子(徳間NV)読了
日下編集本の影響か、最近ネットでも再評価・再発見著しい皆川博子の中期作。「恋紅」で直木賞を受賞した直後の原稿依頼ラッシュ時に書かれた作品とのこと。なるほどしたたかな作者と、膨らませようでは如何様にも膨らむテーマにしては、ライトな仕上がりの技巧派推理。それでも、日本語で書かれた洒落たミステリを目指していた小泉喜美子が達し得なかった境地を楽々クリアしており「<作家としての才能の差>というものは在るのだ」と感じずにはいられない。
昭和30年代、時代劇映画の主役として一世を風靡した男優・上月龍太郎。その死に様は、どこまでも演出過多であった。泉岳寺は義士の墓前で皺腹掻っ切って果てた姿は、大石内蔵助役降板に対する無言の抗議であったのか?だが、その死に疑惑を持つものがいた。上月の後妻の連れ子・村井恭子は、先妻の娘・薫から上月殺しの真犯人を告げられる。そして、上月・内蔵助で撮られる筈だった、大河テレビドラマ「忠臣蔵」の撮影が進む中、クルーに死が訪れる。無害な老警備員殺しとの毒殺の連鎖は、一体何を物語るのか?男の悲憤、女の嫉妬、巡る因果は毒の花、我家に愛は未だ参上仕りません。
忠臣蔵を巡る新解釈など純和風の設定でありながら、フレンチ・ミステリのエスプリを強烈に感じさせる逸品。思わせぶりな叙述の中断が、見事に効いた作品。「中町信では、こうはいかない」ような気がする。ただ、ツイストに総てを奉仕させたために、肝腎の人々の内面が疎かにされており、アンフェアの謗りは免れないかもしれない。少し書き急いだと見るのが、正解なのかも。読んで損はないが、重厚さを期待しないように。


2002年1月16日(水)

◆小雨の中、一駅下車して、安物買いに走る。
d「くらやみ砂絵」都筑道夫(角川文庫)100円
d「おもしろ砂絵」都筑道夫(角川文庫)100円
d「かげろう砂絵」都筑道夫(角川文庫)100円
「バースへの帰還」Pラヴゼイ(早川書房)100円
「猟犬クラブ」Pラヴゼイ(早川書房)100円
「義侠娼婦風船お玉」横田順彌(講談社:帯)100円
d「ヨコジュンのびっくりハウス」横田順彌(双葉社:帯)100円
「絶叫大冒険」横田順彌(講談社:帯)100円
「大断層の東」阿井渉介(実業之日本社:帯)100円
「尾行された少年たち」Pベルナ(学研)50円
「赤いUの秘密」Wマッティーセン(学研)50円
「小さな魔法のほうき」Mスチュアート(あかね書房)100円
角川文庫の砂絵クエスト、前回は大矢博子さんにお譲りした関係で、リセットして再度のスタート。まあ、気長に参りましょう。ラヴゼイは今更の本。まあ、文庫化されても800円はいっちゃうから、いっかー。ヨコジュンの元版帯付きが大量に並んでいたので拾う。学研の童話もずらりと並んでいたがミステリっぽい2冊のみを抜く。本日の拾い物は、ゴシック・ロマンスの女王、メアリー・スチュアートが初めて書いた童話だとか。まあ現役本かもしれないんだけど、100円だしさあ。
◆奥さんから、「今年は、古本はよしださん方式で」といわれる。「はいはい、3冊200円ね」と請合おうとすると「ちーがーうーー、買った分ぐらい処分するって事!」と責められる。ううう、そうか、やっぱり処分しなきゃいけないかあ。でも、ばら売りは面倒くさいんだよなあ、久しぶりにどっかーーんとZさんに送って引き取ってもらおうかしらん。


◆「断崖の骨」Aエルキンズ(ミステリアスプレス文庫)読了
アメリカの本格推理作家にとって、イギリスという国は、やはり憧れの地なのであろうか?「クリスティーの世界なんてあるわけないよなあ」と左脳で理解は出来ても、そこはそれ、ひとたび都心を離れれば、そこは、森と野原が続く田園、村の外れをせせらぎが流れ、村の素封家の居間では引退した将軍と貴族の末裔がチェスに明け暮れ、書斎には死体が転がり、修道院では漢方に詳しい十字軍帰りの男がコカイン中毒の養蜂家の手当てをしていそうな気がしているのかもしれない。ロス市警の警部補でさえ、イギリスに行くのであるから、ましてや、世界を飛びまわるスケルトン探偵が、英国を訪れないわけがない。さて、前作で知り合ったジュリーとめでたく華燭の宴を上げたスケルトン探偵の忙しい蜜月旅行はこんな話。
スケルトン探偵ギデオン・オリヴァーは英国の片田舎をお忍びで新婚旅行中。だが、立ち寄った博物館では、館長御自慢の古代人の骨が盗まれていることを発見してしまい、更に、発掘技術において一目おいている旧友マーカスが率いる発掘調査隊を表敬訪問したところ、友人が深刻なトラブルに遭遇していることを知る。マーカスは「『ミケーネ人が南イギリスにいた』という決定的証拠を掴んだ」として、地元のウェセックス古遺物研究協会と軋轢を起し、発掘を主宰する財団の査問会が開かれようとしていたのだ。そして、2週間後、無機質な乾いた骨の論争は血塗れの腐乱死体を招き寄せる。消える骨格、頑ななる衒学、仕組まれた陥穽、象牙の塔の嫉妬、咆哮するケルベロス、新妻ともども命の危機に晒されながらスケルトン探偵の慧眼は死の構図を再現する。
絵葉書的な英国な風俗、文物を交えた、巧妙なフーダニット。クライマックスの逃亡シーンは、実に映画的でスリリング。作者のサービス精神に改めて感心する。ただ、伏線の引き方が大胆にすぎ、真犯人だけは一目瞭然。まあ、このあたりもテレフューチャー並みなのかもしれない。スケルトン探偵の新婚さんぶりも微笑ましく、終幕間際の大団円ぶりも、「このヤロウ」ものである。アメリカ人が憧れる「英国」を楽しみたい方は是非どうぞ。


2002年1月15日(火)

◆なぜか終業間際に「お使い」が降って湧く。しかも、無駄骨。帰り鼻を挫かれしぶしぶ少々残業する。ついでに、携帯のメールアドレスを変更。前回の変更以降2、3ヶ月間はゴミメールも皆無に近かったのだが、入り始めると幾何級数的に増えていく感触。昨日も成人式を当て込んでなのか、やたらと出会い系のクズ・サイトの腐れメールが飛び込んできた。怒りを通り越して只管侘びしい気持ちになる。とりあえず、これで当分、カスなメールは減ると思いたい。はあ、まいおに〜。
◆時間もないので、一駅だけ途中下車して5冊200円のお店へ。
「マジックミラーを覗いてみれば……」本城トトロ(講談社出版サービス)40円
「銀河系の超能力者」EEスミス(久保書店)40円
「ミス・メルヴィルの後悔」EEスミス(ミステリアスプレス文庫)40円
「わたしはアンナ」Eリューイン(ミステリアスプレス文庫:帯)40円
d「幻想ホテル」Sシュネック(早川書房:帯)40円
d「馬の首風雲録」筒井康隆(文藝春秋:帯)250円
本城トトロとかいう怪しいお名前の人の本は自費出版なのであろう。とりあえずショートショート集とあったので拾う。久保書店のSFノベルズから1冊。現役と聞いてからは、益々集める気が失せているのだが40円だもんなあ。続いてミステリアスプレス文庫も余り背アセのないものから2冊。おお、なんか知らんが、EEスミスが二人並んでいて可笑しい。SFの方は、エドワードで、ミステリの方はイーヴリンであるのだが。さあ、ここで止めても200円、もう1冊買っても200円となると、勿体ないお化けの血が疼く。といわけで、帯買いで「幻想ホテル」を拾う。一応この本が最も古本的には買いなのだが、ダブリだもんなあ。更にここでやめておけばいいのものを、普通の棚で、筒井の文藝春秋版帯付きが安かったので買ってしまう。ああ、6冊で450円かあ。賢い消費者というよりは、買い込み浪費者って感じ。
◆プロジェクトX「吉野ヶ里遺跡」の回がやっと放映される。昨秋予定されていた筈が、なぜに放映がここまで延びたのか不明。とりあえず、久々に泣ける話なので満足である。
◆ついでに「恋するトップレディ」第2話も見てしまう。選挙活動から、思わぬ勝利まで、中谷美紀のニューロイックな演技が炸裂。さあ、来週からは「総理と呼ばないで」になっちゃうんだろうなあ。


◆「大破壊」Jクリストファー(ハヤカワSFシリーズ)読了
「草の死」の作者が贈る<残された人々>物語。片岡義男のテンポの良い訳文が嬉しいロード・ノヴェル。最近読んだばかりであるせいかもしれないが、何故か椎名誠の「水域」を彷彿としてしまった。お互い「形」に忠実なせいであろうか、片や海が干上がった世界、片や水浸しの世界という対称的な設定でありながら、プロットがやたらとダブってしまうように思われた。一人旅だつ男、破壊前の文明にしがみつく男、ただ略奪する男、自分が自分の主である男勝りの美しい女、そして未来を象徴する男の子と迎えるラスト。ただ、この物語の主人公、トマト栽培業者であるマシュー・コッターには、旅の目的があり、その目的についてラスト直前まで悶え抜くところが、シーナ作品のハルとは大いに異なるところである。
さして大仕掛けなドンデン返しや、奇想天外な生物の描写があるわけではないが、悠々とした筆致は、読むものを大破壊後のやるせない、それでも生きていかねばならないという新鮮な「掟」の世界にいざなう。作風には派手さはないが、それなりに印象的なキャラクターを作ることには長けており、特に、座礁したタンカーの狂える船長の描写には惹かれるものがった。また全体に関して言えば、果して最後をどう締めくくるかと思っていたら、アンチクライマックスの巧さに唸らされた。それにしても、新書2段組で、今日中には読み終わらないかと諦めていたところを、あっさり読了させてくれる訳文には改めて敬礼。この後のブレイクぶりも理解できる。中味的には、可もなし不可もなしだが、他の「破滅もの」との比較で見ていくのも一興か。


2002年1月12日(土)〜14日(月)

◆三連休を利用して奥さんと半月遅れの帰省。神戸・京都と美味いもの食い次第、呑み次第で、観光地周り放題につき、古本屋はおろか新刊書店にも寄れずじまい。お父様・お母様、ステーキ、おいしゅうございました。創作懐石おいしゅうございました。異人館、おもしろうございました。

◆「暗い森」Aエルキンズ(ミステリアスプレス文庫)読了
スケルトン探偵第2作。森事典に寄れば、何故か未訳の第1作は、骨推理趣味のないサスペンスらしいので、実質上の「スケルトン探偵」デビュー作なのかもしれない。まあ、法廷ものの代名詞であるペリー・メイスン・シリーズだって、その第一作「ビロードの爪」には法廷場面がなかった筈で、誰でもが緒戦から勝ちパターンを会得できるわけではないという事なのだろう。「古い骨」で、仲睦まじいところをみせつけている二番目の妻ジュリーとの出会いを描いた作品でもあり、なかなかに肉食人種な交合ぶりに赤面する。
かつて二人のハイカーを呑み込んだワシントン州の国立公園内にある雨林、その呪われた「失踪の谷」で新たな犠牲者が発生した。人骨の発見は、スケルトン探偵を招き、そして彼の分析はビッグフット・マニアたちを谷に呼び寄せる事となる。果して雨に煙る森を跳梁するのは一万年前に絶滅した筈の類猿人なのか?歪んだ野心、甦る伝説、虐げられた者たちの叫びが響く渓谷でスケルトン探偵は愛に出会い、復活の奇跡にただ敬意を送る。
悲しき熱帯雨林殺人事件。果してこれが本格推理かと問われると、答は「ノー」である。ただ、ギデオン・オリバーが魅力のある名探偵か?と問われれば若干ためらいながらも、「イエス」と答えざるを得ないであろう。恋人となる公園保護官のジュリーは勿論、脇を固めるジョン・ロウFBI捜査官、老恩師エイブといった常連キャラも魅力的であり、また、全くフェアではないが、クライマックスで明かされる仕掛は、感動もの。本格推理さえ期待しなければ、ミスプレのもうひとつの看板シリーズ程度には楽しめよう。


◆「呪い!」Aエルキンズ(ミステリアスプレス文庫)読了
「古い骨」に続くスケルトン探偵第5作は、「悪霊は遺跡に踊る」ギデオン・オリヴァー版。個人的に嬉し恥かし新婚旅行でユカタン半島に行き、この物語の舞台となったチェチェン・イッツアも観光してきた身の上としては、極めて臨場感豊かに楽しむ事ができた。物語は、いにしえの予言による見立て犯罪の顛末を描いたライトなフーダニット。さすがに「僧正殺人事件」あたりに始まる見立てを80年代も押し迫った時期に正面から扱うのは照れがあったのか、基本に忠実ではありながらも、どこか「いや、別に、真面目にやってるわけじゃないんですよ」と言わんばかりに作者が一歩引いているところが微笑ましいといえば微笑ましい。こんな話。
因縁の遺跡にスケルトン探偵は帰ってくる。かつて、調査団のチーフ・ベネットによる遺物の盗難と失踪という大不祥事を起したマヤの遺跡の再調査が始まる。前回の調査メンバーが勢揃いする中には、勿論オリヴァーの恩師エイブの姿もあった。場所は、メキシコはユカタン半島の中央部。だが、この調査は呪われていた。新たに発掘されたマヤ語の小冊子には、前回の調査時に起きた落盤事故も含め、これから墓を暴く者たちに降りかかるであろう「呪い」が記されていたのだ。吸血キカンジューが放たれ、暗黒が割れて光となり、トゥクムバラムと呼ばれる神が人々の腸を血の川に変え、セコトカヴァチと呼ばれる神が、人々の頭蓋骨を砕き、その脳味噌は地にばらまかれるであろう、、あ、ホントにばら撒かれてしまった。どうしよう?
「呪い」にまつわる仕掛のお手軽さが「六色金神殺人事件」を彷彿とさせる、現代的本格推理。謎の組み立てと解法は、実に真正直で好感が持てるが、それはそれとして、最初の呪いである吸血キカンジューの登場のくだりに爆笑。更に、3番目の呪いの正体には唖然愕然。そ、そう来ましたか。自分で呪いを設定しておいて、これはなかろうという展開をみるにつけ、アメリカでの「本格推理」の棲息しにくさを痛感した次第。いやあ、王政復古への道は遠い。


◆「顔のない男」北森鴻(文藝春秋)読了
ルネ・マルグリットを思わせる装丁が目を引く、技巧派本格推理作家・北森鴻の連作長編。普通、連作長編の作り方としては、登場人物は共通するが相互には無関係の事件の物語が並び、これを通して読むと騙し絵のように一本の謎が立ち上がり、最終編で解かれる、という構成が採られる事が多い。ところが、さすが曲者・北森鴻、大きな幹を最初から晒しながら、その事件の周辺を小味ながらもツイストの利いた殺人物語で埋めていく、という手法で連作長編を書き上げた。熟語になっていない4文字漢字の表題は、アイ・キャッチとして及第点。内容はこんな感じ。
男が殺される。警察が動き出す。だが、その男「空木」の過去を洗っていくと、その先にはぽっかりと白い穴が空く。商事会社の二代目で、親の財産を食いつぶしながら趣味としての「探偵」を営んでいた空木。その調査ノートに記された事件を追う二人の刑事・原口と又吉は、いつしか事件諸共、迷宮への道を辿っていく。真実情報は誘い、ストーカーは隠語に潜む。地には天使の微笑み、水面には歪んだ暗鬼。予言される赤色兇器、鳥瞰された遠い憧憬、そして曖昧なる独断専行。エピローグがプロローグに回帰する時、男の顔ははめ込まれ、そして血みどろだ。
ミステリ読みの裏筋を刺激する捩じれた連作。しかし、感心する心のどこか片隅で、この異色の趣向に対し、最後まで居心地の悪さを感じたのも事実。ラストが、テレビドラマ並みの「どんでん返し」なのでごまかされるが、一筋縄ではいかない連作である。開き直りの美学とでもいうのか、全部変化球とでもいうのか。直球の中に時たま変化球をまぜる宮部みゆきは模範的投手だが、北森鴻は変則下手投げの変化球投手である。さあ、こい、背面投げ。


2002年1月11日(金)

◆「本の雑誌」2002年2月号を立ち読み(>安田ママさん、ご宣伝感謝)。遂に、幻想博物館の土田館長が印刷物の世界にも殴り込み。キャラ立ってるよなあ(しみじみ)。あの鼎談は、本当はもっともっと色々とあったのだけれど、さすがに頁数の関係からか、あの長さになってしまった。SFアドベンチャーの増刊号「アドベンチャー・スピリッツ」を見た時の土田館長の反応なんか、もうサイコーだったんですぜ。
◆今月の二大課題図書の片割れをようやくゲット。
「楠田匡介名作選・脱獄囚」日下三蔵編(河出文庫:帯)1029円
巻末のリストを見て、著作の多さに溜め息。はあ、まいおに〜。実は、この作家とは全くと言っていいほど御縁がなくて、今回の作品集以外じゃ2冊しか持ってないんだもんね。一体、雑誌でどこまでフォローできるんでしょうかねえ。
◆奥さんがナウシカに嵌まっていたので、「トリック2」をとりあえず録画。とれててくれよ〜。


◆「十二人目の陪審員」BMギル(ミステリアスプレス文庫)読了
84年のゴールデンダガー受賞作。あのサンケイ文庫の「殺人セミナー」のギルなのね。カールセンの轍を踏まぬように、しっかりチェック。題名からすると、ポストゲートの「十二人の評決」を彷彿とするが、テーマもキャラクターも如何にも現代風。さりとて猫も杓子もこぞってリーガル・サスペンスに向う時代以前の作品であり、英国好みのブラックな諧謔が独特の風味を醸し出している。
題名の「十二人目の陪審員」とは、主役を務めるバツイチの元新聞記者クインの事を表す。物語は、BBCの紀行番組の人気キャスター、カーンが妻殺しの罪で裁かれる過程を、12人の陪審員と神の視点で淡々と追う。冷めきった夫婦仲、妻の失踪と謎の密告電話による死体の発見、被告の不倫相手である女優の中絶、死体発見現場付近の目撃者、妻の不倫、次々と明らかにされていく被告の有罪を示唆する状況証拠。だが、ひょんな事から、カーンの家出中の娘フランシスを旅芸人一座の男女とともに自宅に寄宿させることとなった12人目の陪審員クインは、評決の審議の直前何かに目覚める。果して圧倒的に被告不利な裁判と余りにも不器用な愛の行方は?かくして、皮肉なる神の裁きは評決の後に下される。
凡庸な法廷推理。この程度の内容に、この長さは不要。明らかに短篇ネタである。12人の陪審員の書き分けも中途半端で、相互の絡みで色づけを施してはいるものの、逆にこの作品の短さ故に損をしている。散々読者を引き釣り回した揚句に、この結末は些かお粗末。なまじゴールデン・ダガーを受賞したために徒に期待値が上がってしまった「並」のミステリ。


2002年1月10日(木)

◆掲示板に御自身の書き込みがございましたが、とうとう古本Master 森英俊さんまでが古本日記を付け始められました。勿論バックは古本者の色、ブラックです。とうっ。
◆就業後一軒だけチェック。
「殺意の黙示録」春日彦二(広済堂ノベルズ:帯)100円
「顔のない男」北森鴻(文藝春秋)300円
d「六地蔵の影を斬る」笹沢佐保(講談社)100円
「咬みつきたい」原案・金子修介、原作・吉村ゆう(フットワーク出版社:帯)100円
おお、なんか知らんが春日彦二の密室殺人らしい。密室殺人というからには本格に違いない。よし!とりあえず買っちゃえ、買っちゃえ。100円だし。でも本当に推理小説なんだろうなあ、これ?笹沢佐保は所持本が落丁本につき入れ替え。これで、シリーズがすべて元版で揃ったかな?揃いものの常として本棚の後ろの列に並べてあるので良く判らん。「咬みつきたい」はこんな本出ている事もしらなんだ。金子監督の本は、つい買ってしまうよね。
◆1月改編ドラマ「京都迷宮案内」は、なんと第4シリーズ。始まった時には、まさかこんな長寿番組になるとは思わなかった。2時間スペシャルも製作されたし、すっかり貫禄である。とりあえず録画。「恋ノチカラ」はリアルタイムで視聴。深津絵里が30歳の呑んだくれOLを好演しているが、他の俳優がぱっとしない。もう一回ぐらい付合って見切りをつけますか。さあ!いよいよ明日は、この1月改編の期待の星、「トリック2」の放映だぜ!!諸君、ビデオの準備はいいか?


◆「白夜の密室」海渡英祐(徳間文庫)読了
というわけで、もう少し海渡英祐を読んでみる。副題は「ペテルブルグ一九〇一年」となると、かの乱歩賞受賞作「伯林−一八八八年」を思わせるが、特に続編というわけではない。探偵役を務めるのは森鴎外でもなければ、ドストエフスキーというわけでもなくて、「♪杉野は何処」という軍歌で有名な軍神、というか伴野朗の「必殺者」でニコライ2世を暗殺に行く(らしい)広瀬海軍少佐である。実はこの作品、野生時代に一挙掲載された際に読む積もりで買ってあった。ところが、その頃は数少ない本格作家であったために、勿体無くて読めずじまい。なんと25年ものの積読と相成ってしまった次第。
物語は、まさに題名そのもの。1901年、ペテルブルグの大使館に赴任していた広瀬中佐は、帝国中枢からの命令によりロシア海軍の機密を探るため、軍事探偵の投入を余儀なくされる。スパイの名は北沢。どこか影のある雄の獣。だが、自らがロシアの貴族令嬢との恋愛に悶々とする広瀬は北沢の虚無の向こうに情熱を感じとっていた。そして、北沢がロシア人・革命分子を通じて新鋭軍艦の極秘情報を入手しようとした白い夜、衆人環視の離れで、密室殺人が勃発する。使用不能の抜け穴、偶然の目撃、鉄壁のアリバイ、果して動機と機会を持った唯一の者は誰?白夜の魔術、悲恋の封印、今、軍神は推理する。「ホシは何処?」
克明な時代背景描写を横糸に、幾つもの男女の愛の形を縦糸にして織り上げた歴史推理。無骨な主人公の魅力に負うところ大。トリックそのものは、舞台設定の割りに小味であり、ある意味「肩透かし」。一読で見当がつくといっても過言ではない。だが、フーダニット、ハウダニットを越えたところに、泣かせるホワイダニットが待ち受けており、唐突ともいえる幕切れには、それなりに感心させられた。でも、冒頭で主人公の死の場面が語られる物語というのは何かとても物悲しいものがある。プロローグは順当にエピローグにしてよかったのではなかろうか?


2002年1月9日(水)

◆朝もはよから健康診断。うう、飲まず食わずは辛い。幸いにも、正月の不摂生も許容範囲だった模様で、血圧以外に大きな指摘事項はなく一安心。昼休みを利用して1軒チェック。何もないので、漫画などを買う。
「ギャラリー・フェイク23」細野不治彦(小学館)350円
「スパロボコミック・ダンバイン編」長谷川裕一他(双葉社)500円
「スパロボコミック・コンV・ボルテス・ダイモス編」長谷川裕一他(双葉社)500円
あら、長谷川祐一ってこんな仕事もやっていたのね。サンライズ・ロボットアニメ・フリークとしては嬉しい出会い。こーんばいーん、いち、にい、さん、しーごーと、趣味仕事。
ギャラリーフェイクは、例の「古本話」掲載巻。新刊で買うつもりが、とうとうこんなものまで古本で買う事になってしまう。まあ、世の流行を追いかけずに済むパンピーにとっては、これでいいのだ、という気がせんでもないが。
◆浜松町にて新刊買い。貿易センタービルの2Fにやたらと大きな書店が出来ているのを知る。ううむ、これはビジネス街にあるまじき凄まじい品揃え。一体全体、橘外男ワンダーランドを揃いで置いてある本屋が都内に何軒あるというのだ?買ったのは光文社文庫の新刊3冊。言わずと知れた、
「笑う肉仮面」山田風太郎(光文社文庫:帯)857円
「黒いトランク」鮎川哲也(光文社文庫:帯)629円
「『探偵』傑作選」ミステリー文学資料館編(光文社文庫:帯)686円
わっはっは。なんやねん、このラインナップ。専門古書店よりも遥かにマニアック。新世紀、血風は新刊書店に吹く。「笑う肉仮面」を千円以下でゲットだぜ!!
◆就業後、更に一軒だけチェック。安物買い。
「メアリと巨人」PKディック(筑摩書房:帯)300円
まあ、初版帯付きが300円なら買いでしょう。なんと元値は2500円!2200円の節約うう!(300円の無駄遣いとも言う)
◆1月改編ドラマ「漂流教室」は、なんだか恋愛ドラマな展開に戸惑う。
「プリティーガール」は好感度大。いいねえ、いいねえ、暗い世相を笑い飛ばすあっぱらぱあな展開がとても心地よい。これは連続して見よう。
◆で、その新番組の傍ら、せっせとキリ番やら、昨年のBEST13やらをアップ。トップページからどうぞ。


◆「古い骨」Aエルキンズ(早川ミスプレ文庫)読了
スケルトン探偵の日本初紹介作にして、今は亡きミステリアスプレス文庫の第1巻。88年のMWA受賞作。因みにこの年のMWA最優秀ペーパーバック賞が先日読んだばかりの「暗黒太陽の浮気娘」であり、なかなかアメリカにとって「自国の本格推理」の当たり年であったといえるのではなかろうか?作者にとっては第5作で、主役たる「スケルトン探偵」ギデオン・オリヴァーも脇を固める常連キャラも、事件の舞台がフランスでありながら、アウェイな環境をものともしない盤石の安定感を誇る。更に瑣末な話をすれば、所持本は第6版なのだが、なんと初版から1年立たない間に刷られており、この作品が日本でも相当の好評をもって受け入れられた証拠といえる。ボクシングの心得もある大柄で情熱的な人類学教授というキャラクターは、アカデミックでありながら、殺人事件とも無理なく同居も出来る粋な設定であろう。
物語は、欧州きっての遠浅の海岸、モン・サン・ミッシェルで、一人の老人が流砂に呑み込まれるところから始まる。その老人の名はギヨーム・デ・ロシュ。ロシュポン館の当主にして、かつてナチスの専横に対し敢然と闘ったレジスタンスの英雄でもあった。おりしも館には、彼が招集した縁者、ルネ・ロシュとその妻子、ルネの妹ソフィーとその夫、ギヨームのいとこクロード・フジューレとその妻子、そしてソフィーの甥にあたる米国の文学者レイモンドが逗留中であり、ギヨームの莫大な財産を巡って、人間関係をささくれ立たせていた。更に、館の地下室の土中から偶然にも第二次世界大戦中のものと思われる切断され梱包された人骨が発見された事から、丁度フランスでの学会に参加していたスケルトン探偵は事件に巻き込まれることとなる。だが、ギデオンの登場が、館に新たな死を招き寄せる事になろうとは、神ならぬ身の知る由もなかった。今、鉤十字との死闘の記憶が、北仏の館に封印された死の遺産ゲームの賽を振る。
富豪の館、当主の死、一癖ある親類縁者たち、思わせぶりの遺言状、癖になる連続殺人、そして名探偵の推理と、所謂「黄金期<本格推理>」のガジェットがてんこ盛りの痛快作。いやあ、この時代のアメリカに斯くも筋の良い本格推理が甦った事に拍手。また、不器用なカップルの誕生譚や、名探偵と地元警部との友情など、読者サービスにも怠りなく、非常に軽快に読みかつ楽しめた。仕掛自体は練達のミステリ読みであれば、察しがつくものだが、破綻のない論理や丁寧な伏線が実に微笑ましい。いやあ、今更ながら楽しみなシリーズを再発見してしまった。今年は出てるだけ読むぞ!


2002年1月8日(火)

◆明日が健康診断につき21時までに夕飯を済ませなければならず速攻で帰宅。年賀状チェックに別宅にタッチ&ゴウ。郵便受けに東急東横のカタログも届いている。バラードのNW-SFは適価なので、久しぶりに注文でも入れてみようかな?
◆ふと、和物のノベルズを横積みしている棚上に目をやるとと、古処誠二の「UNKNOWN」が帯付きでストック(積読)されていた。あっちゃ〜あ、ダブりだったのか〜。見事に買った事を忘れておりました。そんな事とはつゆアンノウン。まあ、100円だし。
◆ミスブレ文庫収集発意記念に「古い骨」を読み始めたところ、やたらと面白いので、ストック(積読)してある骨探偵ものをカバンに詰め込む。
◆「初体験」「恋するトップレディ」を流し見ながら、昨年のベストのコメント書き。あああ、はかどらん!結局アップできないじゃないかあ。はあ、まいおに〜。


◆「シュロック・ホームズの迷推理」RLフィッシュ(光文社文庫)読了:感想は後日 最もホームズをコケにした有名シリーズの第三作品集にして最終作品集。 シュロック・ホームズの他にも、密輸人ケックの逸品やMVA賞を受賞した 「月下の庭師」などのフィッシュの代表作を収録したお買い得作品集。 まずは、この作品集が光文社文庫で編まれた事に心からの敬意を表する。 よくぞ、やってくださいました。やはり「冒険」と「回想」があれば、 残りのシリーズも本にしてもらわないと落ち着かないではないか。


2001年1月7日(月)

◆七草粥などを食した後、本年の初出勤。「あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます」を一体何回言った事か。挨拶回り以外は休みの間のメールと新聞の整理で終わる給料泥棒な1日。
◆久々に南砂町定点観測。まずは帯狙いで3冊。
d「姿なき怪人」横溝正史(角川文庫:初版・帯)170円
d「風船魔人・黄金魔人」横溝正史(角川文庫:初版・帯)190円
d「怪盗X・Y・Z」横溝正史(角川文庫:初版・帯)300円
「風船魔人・黄金魔人」の帯は正規帯なのだが、残る二冊はフェア帯(角川文庫シルバーフェア、’84角川文庫フェスティバル)に「最新刊」表示という何とも悩ましいもの。でもきっと正規に違いない。誰か正規だと言ってくれえええ。続いて、ミステリアスプレス文庫安物買い。
「十二人目の陪審員」BMギル(ハヤカワミステリアスプレス文庫:帯)50円
「裏切りのキス」Jシーニ(ハヤカワミステリアスプレス文庫:帯)50円
「熱い稲妻」Jランティガ(ハヤカワミステリアスプレス文庫)50円
「荒野の顔」Bショーペン(ハヤカワミステリアスプレス文庫)50円
「帰ってきたミス・メルヴィル」EEスミス(ハヤカワミステリアスプレス文庫:帯)50円
「ミス・メルヴィルの復讐」EEスミス(ハヤカワミステリアスプレス文庫)50円
えーっと、これで55冊目かな?あ、こんなところに「マルクスの末裔」が。ということは56冊目ですな。まだ100冊以上あるぞ。何かしらダブリでない買う本があるのというのは清々しいですのう。
後は、翻訳もののちょいめず文庫を2冊。ダブリだけどさあ。
d「メグレの退職旅行」Gシムノン(角川文庫)50円
d「こちら殺人課」EDホック(講談社文庫・黒背)50円
まあ、ホックの最入手困難作を拾うのは久しぶり。角川のメグレは見かけるとつい買っちゃうよねえ。ああ、これだけ買って1000円でお釣が来る。古本って本当にいいもんですね。
◆2001年ベストはとりあえず選考終了したが、今日は、古本買ったから、ネタにない日に回そう。(>せこい)


◆「凶笑面」北森鴻(新潮社)読了
漫画に対して捧げられた推理小説というのは極めて稀である。それも、手塚治虫や石之森章太郎ではなくて諸星大二郎というところが渋い。しかも「稗田礼二郎フィールドノート」ではなくて、初出の創美社版題名である「妖怪ハンター」に捧げられているに至っては、外道照身霊波光線!汝の正体見たりコア・マニア!!「ぶあれたかああ」である。とまれ、異端の女流民俗学者という設定が、日本の名探偵史に新たな一頁を刻んだことだけは間違いない。民俗学的ガジェットと殺人のプロットを巧みに組み合わせた構成は、5編にして既に勝利の方程式の領域。怜悧なる美貌と知性を誇り、その沈着冷静なることストレイカー最高司令官の如き鉄の女、蓮丈那智フィールド・ファイル1は以下5編収録。
「鬼封会」鬼殺しで終わる奇祭に秘められた謎。追う者と追われる者に歴史の光と闇が交錯する。欲望の封印装置は、今、開放される。那智とミクニ登場編。ストーカー殺人の小技のトリックが凄い。なるほど、これは実行不可能ではない。民俗学の解釈も面白い。
「凶笑面」禍禍しい面と福々しい面、二つの面の解釈を巡り二人の民俗学者が対峙する時、堕落への罠が作動する。呪われた笑いは伝承を甦らせ、密室に死を招き入れる。異人=客神論をテーマに、骨董界と民俗学の生々しい角逐を描いた端正なフーダニット。面に仕掛けられた小技のトリックも見せる。
「不帰家」再読。女の悲劇を封じ込めた離れ屋の謎と密室殺人。やはり傑作。
「双死神」ミクニの元に持ち込まれた「だいだらぼっち」の新解釈。それは彼を骨董界のブラックホール、税所コレクションの闇へと誘う。那智 Meets 狐。自分の別作品の主人公を登場させる茶目っ気が嬉しい。鉄の民を巡る着想は、稗田礼二郎というよりは宗像教授である。ミステリとして読んでいると松本清張的展開に慄然とする。
「邪宗仏」異形の仏を元にした二つの市井の論文がほぼ同時に那智の許に送られてくる。果して、聖徳太子はイエス・キリストだったのか?そして像の腕を落したのはフランシスコ・ザビエルだったのか?僧侶惨殺が指し示す只一人の真犯人を那智の慧眼は見抜く。日本人=ユダヤ同祖説という「とんでも」学説を巧みに採り込んだ快作。クライマックスの展開が意外である。


2001年1月6日(日)

◆9連休の最後の1日。日記と感想を2日分書いた以外は、惰眠を貪る。昼過ぎに買い物がてら近所の古本屋で1冊だけ安物買い。
「凶笑面」北森鴻(新潮社:帯)500円
「大密室」だかに収録されていた「不帰家」にいたく感動したので、500円落ちで購入。巷での評判も高いようなので、期待してしまおう。
◆本日20時半頃に、21万アクセスを達成した模様です。ベルモットさんから掲示板にご報告を頂きました。どうもありがとうございます。18万アクセス以来久しぶりのご報告で嬉しゅうございます。
◆あ、よしださんが、ハーマイオニーに嵌まっているぞ。そーだろー、そーだろー。うちも夫婦揃ってハーマイオニー萌えだぞお。


◆「咸臨丸風雲録」海渡英祐(講談社ノベルズ)読了
18年ものの積読。なんと新刊で買っていた。帯も栞もピッカピカ。NHK大河ドラマ「徳川家康」との番宣タイアップチラシが挟み込まれているのを見て、時の流れに嘆息する。さて、徳川幕府の最末期、幕府がアメリカに派遣した咸臨丸を舞台に繰り広げられる作者の歴史推理絵巻。小説現代昭和57年7月号から翌58年1月号まで連載された(らしい)。勝海舟、福沢諭吉、中浜万次郎などの有名人が活躍するので、歴史が苦手な人間にもそれなりの興味を持って読む事ができる。ある面、カーへのオマージュとも読めなくもない名探偵・福沢諭吉登場作「百七人と死人で百八人だ」はこんな話。
「米国への使節派遣は日本の軍艦にて行うべし」とする勝麟太郎の建議は、中庸を取った幕閣の判断により、正使の護衛艦という形でかなえられる事となった。だが、準備を整える勝に次々と難題が押し寄せる。ついには、出航にして目前水夫小頭が殺害されるという事件までが勃発する。死体の側に「Wh」の文字が記された紙片が残されていた事から、木村軍艦奉行の従者として採用された福沢諭吉は英語に絡む犯行と推理する。ついに咸臨丸は出帆、だが、外洋の洗礼は、日本人乗組員に対して余りにも手荒いものであった。降り止まぬ雨、打付ける荒波、食糧の紛失、幽霊の出没、反目する日米の水夫たち、そして、ついには殺人と謎の死体消失が起きる。果して、太平洋上で何が起きたのか?正史の翳に抹殺された「志」が今150年の時を越えて甦る。
先日、ようやく感想を書き終えた「海賊丸漂流異聞」と比べると、やはり海渡英祐に一日の長があると言わざるを得ない。ミステリへのこだわりが違うのである。絶海の閉鎖空間に忍び込む幽霊、動き回る死体、不可能な消失、そして、意外な犯人。これらが、史実と有機的に絡まり、歴史の流れに立ち向かった男達の姿を描き出す。ただ、視点のふらつきが玉に傷で、些かアンフェアの謗りを免れない構成ではある。とりあえず偉人たちの素顔に手軽に触れてみるには適した歴史推理であろう。


2002年1月5日(土)

◆掲示板にて葉山響さんからカールセンについてハヤカワミステリ文庫で2冊でてますよ、と御教授頂く。ありがとうございますありがとうございます。「Murder In The Dog Days(1990)」と書き移しながら、「へえ『真夏日の殺人』って、確か同じ様な題名の本があったよなあ」と思ってはおりましたが、グーグルでカールセンを叩いても出てこなかったもので、油断してました。国会図書館で叩くべきでした。謹んでお詫び申し上げます>ALL
それに確か「真夏日の殺人」って持っていたような気がするんだよなあ。とほほ。また、あの山の中から掘り出すのかあ?
◆2001年11月中旬に「篠婆 骨の街の殺人」「ムジカ・マキーナ」「美女と金猫」の感想をアップ。ああ、やっと「ムジカ・マキーナ」の感想を書けた。そもそも、それがためにきばやしさんから御譲り頂いた本なのに。でもついでに感想が書ける本じゃないんだよねえ。
◆あ、茗荷さんにまたしても先を越された(私的年刊読了本ベスト)。プレッシャーよのう。まあ、「ムジカ・マキーナ」の感想を書き終えるまでは、と思って控えておりましたが、近日アップ致します。
◆夕方お出かけ。新刊を1冊購入。
「クリスマスのぶたぶた」矢崎存美(徳間書店:帯)1200円
えーい、即読了だあ!


◆「クリスマスのぶたぶた」矢崎存美(徳間書店)読了
なんともクリスマス仕様な本である。装丁としては「ぶたぶた」の元版が一番好み。「ぶ」の濁点が丸で囲われていてみように寄っては半濁音「ぷ」にみえてしまうところが可愛い。「刑事ぶたぶた」のゴランツ・ミステリの如きシンプルさも捨て難い。その意味では、この本は無難に過ぎる装丁で、もっと大胆に冒険して欲しかった。なんてったって、クリスマス本なんだから。白を基調にまとめ、ぶたぶたに作中の扮装をさせた表紙写真はなんとも愛くるしいのではあるが、帯がバランスを崩していてうるさいんだよね。
クリスマスがやって来る。サンタが街にやって来る。贈り物をいっぱい持って。今回のぶたぶたの御仕事はデパートの配送サービス。これは彼と10人の女性との出会いの物語。風邪気味の女子大生、遠距離恋愛に失敗した新米OL、お留守番の少女、バブリーなお嬢様、呑んだくれオヤジOL二人連れ、疲れた若妻、オカルトが苦手な服飾店の店員、元気な小学生、ケーキ屋さんのバイト。ドッジボール大で桃色のふわふわしたものが、ころころと街を駆け回れば、少し色褪せかけた彼女たちのハートにぽっとイノチの色が差す。それは、神様からの贈り物。諸人こぞりて驚きまつる。ああ、お父さんお帰りなさい。小さな奇跡をありがとう。みんなでメリー・クリスマス。
うーむ、大矢博子女史ともども第4作こそ捕物帳か、宇宙ものかと思ったら、こう来ましたか。というわけで、今回は女子供とぶたぶたの交感を描いたクリスマス・モンタージュ・ストーリー。物語的には、オヤジOLとの絡みが初期の爆笑モードをなぞっていてニヤニヤがとまらなかったが、いずれにしてもこんな話に感想を書くのは野暮の極み。ぶたぶた好きは、クリスマス・シーズンのうちにとっとと読みましょう(>お前が遅い!)


2002年1月4日(金)

◆本日もお休み。奥さんは御出勤。只管、さぼっていた正月の日記と感想書きに勤しむ。2001年11月中旬に「本の殺人事件簿1」「海賊丸漂流異聞」の感想をアップ。しっかし、一ヶ月以上前の読了本なんぞ、誰も気にしとらんぞ、きっと。とりあえず、年刊ベストを選ぶためだけに、感想を埋めていく日々。うひいい。そもそも、感想が滞っていたがために安田ママさんのところの企画にも乗れなかったし。やっとれんよなあ。ああ、神様、一体、いつになったら、私は2001年の読了本の感想を書き終わるのでしょうか?
んでもって、これ以上滞留感想本を増やしてはならじと、2001年12月下旬に「ライラック・タイムの死」「悪魔のラビリンス」「水域」、2002年正月休みに「大帆船タイガー号の謎」「ザ・ショック」「UNKNOWN」「革服の男」「オフィーリアは死んだ」「伯爵夫人の宝石」の感想をアップ。
「とりあえず、書けばいいんだ、書けば」というスタンスで臨むのに、書き始めると変に凝り始め、時間ばかり食う。一体何をやっておるのだ、俺は?
一旦帰宅した奥さんに「気分転換に年賀状でも出しにいこうかな」と言うと、パソコンを指して「これが、気分転換じゃないの?」と突っ込まれる。つうこんのいちげき。kashibaは100ポイントのダメージをうけた。
◆とりあえず、息抜きに預金通帳の記帳に行く。ついでに古本屋を一軒覗く。以前から100均棚にあって気になっていた本を1冊購入。
「名馬の血統:増補改訂版」山野浩一(明文社)100円
三橋一夫の健康本や、森下雨村の釣り本や、大河内常平の刀本や、木々高太郎の精神医学本のようなもので、かの日本ニューウエーブSFの旗手・山野浩一が趣味を拗らせて書いた競馬の血統本。まあ、こういう本というのは意外に現役本だったりするのだが、100円ならいいか、と思い拾う。これまで、何度もスルーしてきたのだが、ここは一番「午年」にちなんでみましたとさ。どなたか、本気で捜しておられる方がいらっしゃれば御譲り致しますので、掲示板にお申し出くだされ。


◆「暗黒太陽の浮気娘」Sマクラム(ハヤカワ文庫ミステリアス・プレス)読了
げにも恐ろしきはファンダム。そして魑魅魍魎どもが集う魔宴を「こんべんしょん」と云う。幸か不幸か、これまでにSFのコンベンションに参加した経験はない。(DASACONはネットのオフ会だと思っているので、オミットね。)どうやらとても凄いものらしい。まあ、コミケを経験してきた人間なので、コスプレやら、替歌にビビる事はないのだが、SFの場合、わたしの苦手とする「主義者」やら「論争好き」が沢山いらっしゃるようで、今日に至るまで、コンベンション童貞を守り通してきた(>異議あるものは沈黙をもって答えよ)。さて、この物語は、そんなSFのコンベンション、それも本場アメリカのコンベンションを舞台にした、スラップスティック・ミステリ。出版当時から一部で話題になっていた本ではあるが、近親憎悪というか、照れというか、これまで「暗黒太陽の浮気娘」童貞を守り通して来た次第(>素直に積読と言わんかい)。で、一読、大爆笑。これはもうツボに嵌まりまくり。はっきり言って小森健太朗の「コミケ殺人事件」の百倍は面白い。こんな話。
さあ、待ちに待ったルビコンの日がやってきた!!開催場所のホテルには、エルフやら、帝国兵やら、蛮人やら、クリンゴン人やらがうようよ、でも皆一皮向けば、男はおたく、女はぶす。さあ、祭だ祭だ、お祭だあい。と、浮かれているのは参加者で、主催者側は椅子を温める閑もない忙しさ。メイン・ゲストの売れっ子ファンタジー作家は、イギリス製のチョコ菓子を持ってこいなどと無理難題を吹っかけ、隙き在れば自作を褒めてもらいたがっている作家志望はプリント・アウトを持って押しかける。唯一、マトモなのは、ひょんな事から作家デビューしてしまった工学博士ジェイ・オメガと彼のガールフレンド兼エージェント役のマリアン・ファーリー博士。マリアンは、その暗い過去ゆえにコンベンション慣れしているが、初体験のオメガ博士は困惑の連続。しかも、メイン・ゲストが何者かに殺害された事から、講演やら、採点者やら、果てはゲームマスターまでお役が回ってくる。ええい、ついでだ、探偵もやってやるう。担当警部じゃないけれど「この事件はこたえられない」
もう作者自身がSFファンをやっていたといたとしか思えない正確な西洋おたく描写に頬が緩みっぱなし。そうそう、そうなんだよねえ、と肯きすぎて首を脱臼するほどである(嘘)。特にデブ娘と理系バカの駆け引きのくだりは、もう涙なくしては読めません。ひいひい。特撮マニア、RPGマニア、作家志願などなど、その生態のえげつなさを余すところなく活写した名作であろう。また、おたくどもを辛辣に書きながら、それでいて彼等に深い愛情があるのが、この作品の魅力。更に、被害者となる横暴な作家のキャラクターが、これまた立ちまくり。純文学を志しながら、食うために書き始めたケルト風ファンタジーが大当たりしたがために悶々と愚作を書き飛ばす自己チュー小男。いやあ、泣ける。で、ミステリとして評価した場合は、水準作。動機と犯人を追いつめる手法に新味があって、特に後者は、類別表を作れば欄外に書かれそうなものである。浅羽訳もSF知識のツボを押えており、門外漢の誤訳・直訳がないところも嬉しい。というわけで、SFマニアは必読!!BNFの意味が知りたい人も必読!!