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2001年12月29日(土)

◆午前3時半に目覚めると、奥さんが「おしゃれ泥棒」をBGVがわりにして年賀状の作成に勤しんでいた。ううむ、こりゃ負けておれんわいと、おもむろに自分用の賀状の宛名書きにとりかかる。奥さんは6時頃に宛名を書き終えダウン。私は8時過ぎまでかかって140枚分の宛名書きを終え、寒風の中を投函へ。帰宅してそのまま二度寝。はたと目が覚めると12時半。奥さんがようやく年賀状に一言ずつ書き終えて投函に向うところだった。あの〜、朝御飯はどうなったのでしょう?
◆午後からはユニクロに年越し旅行の衣装の買い出し。「うそ!」というぐらい買い込んだ割りには1万円でお釣が来る。ううむ、こりゃ新刊書店とブックオフ並みの落差だねえ。ユニクロに向う途中で、ブックマーケットを発見。渋る奥さんに泣き付いてタッチ&ゴウ。通路を駆け抜け、1冊だけサルベージ。
d「殺意の浜辺」JDカー他(ハヤカワミステリ文庫)100円
うほほ、ある意味でカーの入手困難本の5本の指に入ってきた本かもしれない。今年の締め括りとして、一応満足の行くレベル。まあ、kashibaなんて、この程度の薄い奴なんです。はい。
◆そのまま、奥さんの実家によってお茶していたら夕御飯どきになってしまい、結局、およばれになる。御飯の支度が整うまで、近所のブックオフ詣で。さすがに、毎週覗いていると買う程のものは何もない。まあ、暇つぶしにはもってこいだけどさあ。
◆ほろ酔いで家に帰ってユニクロ・ファッションショウ。
「どう、43歳 サラリーマンって感じ?」
「うんうん」
「これに、この文庫本を持つと更に決まったりして」
「…うーん、43歳 古本者って感じ」
あああ「無言でブックオフの通路を只管駆け回る男」というCMが浮かんじゃったよ。


◆「大帆船タイガー号の謎」Mスピレーン(晶文社)読了
さあ、スピレーンのジュヴナイルの続編だ。しかも「タイガー」とくれば、これはもうエスピーナージュに違いない。アカどもの繰り出すハラショー肉弾美女船団をばったばったと「大砲」でなぎ倒すスパイ・キッズの痛快海洋お色気スパイものに違いない、と思った人、あなたは私の「心の友」です。しかしながら卑劣にもこのお話は、とめどなく健全なのである。一言でいえば、少年たちが南の島のお姫様を救う話だったりする。こんな話だぜ。
舞台はカリブ海のピオール島。前作でスペインのガレオン船の秘宝に遭遇したジョシュとラリーの少年二人組は、恐ろしく古びた木のボートで漂流する老人を救出する。なんとそのボートには、200年前の英国海軍戦艦タイガー号の名称が刻まれていた。更に、意識を回復した老人は何処とも知れぬ外国語を口走るばかり。果して、彼の正体とは?英国海軍から調査に訪れたハリー卿は、ボートを紛れも無い本物と鑑定し、少年とその父親たちに呪われた新造船・タイガー号の数奇な運命を語る。だが、英国から見れば不運の象徴だった「タイガー号」は、また別の天命を授かっていた。失われたグランダウ王国の玉璽が甦る時、カリブ海の孤島に黒い陰謀の影が落ちる。隠れ小島の王朝。幼い姫君と冒険少年達の出会い。卑劣なる抹殺の意思。そして闘い。今、運命の戦艦は最後の帆を揚げる。ゴッド・セイブ・ザ・プリンセス!
前作同様、とても、あのスピレーンが書いたとは思えない健全な海洋冒険少年小説。かろうじて善悪の書き分けがはっきりしているところがスピレーン調といえなくもないが、これはなべて少年ものの特徴でもある。多少オカルトめいた展開もあるが、基本的には、「宝島」でありマンハントである。誰もが少年時代に夢に見る、ファンタジックでヒロイックな活劇がここにある。まあ、「宝島」ほどは面白くないんだけどね。


2001年12月30日(日)

◆朝から半日がかりで掃除。夫婦で「掃除が行き届かずとも正月は来る」とお互い言い聞かせ、午後からお出かけ。行先は奥さんの母方の実家、宮崎。移動に半日。だが、快適旅行の筈が、ANAのトラブルで、羽田空港で1時間10分待たされる。これがテロの影響とか言うのであれば許す。しかし、信じられない事に、「オーバーセルしてしまった旅客の手荷物をカーゴルームから下ろす」ためだけに1時間以上待たせるのだから恐れ入る。こういう「乗せてやっている」体質のままじゃ、益々空の旅は利用客を失うぞ。割引やオマケや無料券よりも、時刻通り安全に客と荷物を運ぶ事が最高にして最低限のサービスだろうが?これでは、鉄壁のアリバイもなにもあったもんじゃねえよなあ。

◆「ザ・ショック」森真沙子(広済堂・豆たぬきの本)読了
森真沙子収集の効き目中の効き目。これは「本当に無い!」。とりあえずこの私は未だに古本屋で見かけた事がない。なにせ、この本、背表紙にも作者名が入っていないという探究者泣かせの本。かろうじて毒々しい半獣人の表紙イラストに隠れるようにして「森真沙子」と小さく入っているだけ。正直なところ、一度現物を見ておかない事には、捜しようがない本の一つである。今回は、古本大魔王の土田館長が、まだ値付けの終わっていないブックオフのカウンター奥の棚から目ざとくサルベージ頂いたお蔭で、幸いにも入手する事ができた。スタジオぬえの本と、加納一郎編のアンソロジーは入手済みなので、とりあえず豆たぬきの本についても、憑き物は落ちたといってよかろう。
中味は、27編の怪奇ショート・ショート集。ただ、如何せん短すぎ、話の骨格部分しかないため、読み終わって「それで?」といった作品ばかり。また、決して剽窃ではないのであろうが「どこかで見たような」既視感に捕らわれる話が多い。効き目の常とは言え、入手困難性と作品の出来が必ずしも正比例しない(むしろ反比例する)好例といってよかろう。作者自身も、自分のアイデア帳を書き移した程度のノリで書き上げたのではなかろうか?これを読んでいないからといって「<森真沙子読者>失格」には決してならないし、勿論、大枚叩くような本ではない。おそらく作者自身も、懐かしさこそあれ、復刊を望んではいないだろう。各編のミニコメはなし。マイベストは、いずれも比較的長尺の「怪魚インぺディア」「籠を背負った赤ん坊」「機長は何を見たか」。


2001年12月31日(月)

◆遅めの朝食を採って、のんびりと投宿したホテルから青島までウォーキング。途中、海岸縁に廃虚と化した巨大な宿泊施設跡が聳える。錆まみれの非常階段、塗装が剥げ雨染みの行き渡った外壁、窓越しに覗く破れた障子など目に入るもの総てが痛々しい。朝の光で見てこれだけの迫力である。夜には前を通るのは相当厭である。黒い窓にぼうっと灯りが点り、白いものがおいでおいで手招きして、どこからともなく
「ここは青島
国定公園
鬼の居ぬ間に
洗濯さあ〜
はあ、ちょっぱれほい
それ、ちょっぽれほい」
とテキトーな民謡が流れてきたらこれは、もう絶対に厭である。
土曜ワイド劇場的には「青島海岸幽霊ホテル殺人事件〜温泉探偵の名推理:奇景の浜に聳える怨霊の館、アベックが見た死への誘い」といった感じである。
まあ、青島全体は、火曜サスペンス劇場的に「神話鑑定人E/亜熱帯樹の断層」って感じでなかなか面白うございました。
◆倒産騒ぎで有名なシーガイアへ。まず見学コースお試し料金で入ってみたところ、余りの「お子様」な造りに唖然とする。中は、摂氏30度。見渡す限りの子供子供子供。とにかく夏場の海水浴場そのものである。うへえ。こりゃあ勘弁。意地でも泳ぐとココロに決めてきたお義父さん他を残して、私と奥さんは市外観光で、平和台公園とはにわ園を覗きに行く事にする。んでもって、この平和台公園がまた凄い。真ん中に異様なシンボルタワーが聳えているのだが、そこに彫られた4文字「八紘一宇」。うへえ。周りの壁石には「〜部隊」という文字が彫り込まれており、どうやらここは敗戦前、大日本帝国のシンボルタワーだった模様。四角の尖塔の角に経つ4神がこれまた物凄く怪しい。どこが「平和」やねん!!??これは「大東亜共栄圏」的、軍国主義的「平和のシンボル」だったのね。なんで、ゴジラに始まる日本の怪獣たちはここを壊しにこなかったのであろうか?プルガサリでも呼ぶか?(>オイ)はにわ園には、沢山はにわのレプリカがあった。それだけ。
拝啓、お義母さん、宮崎は凄いところっす。
◆都城の義母さんの実家に雪崩れ込んで、総勢10名の大宴会&麻雀で2001年は暮れる。


◆「UNKNOWN」古処誠二(講談社ノベルズ)読了
♪じえいたーい、じえいたい、軍備に見えても災害救助
♪じえいたーい、じえいたい、私は右翼と関係な〜いわ〜
♪特別じゃない、どこにもいるわ
♪わ〜た〜し〜、自衛官
というわけで、つい読み人知らずの公認替歌が口をついて出てしまう自衛隊。その自衛隊のレーダー基地を舞台にした新本格推理にして第14回メフィスト賞受賞作。「小粒ながら不可能犯罪と現代的テーマを巧みに組み合わせた端正な本格推理」との評判は出版当時から聞こえていたので、100円均一で見かけて迷わずゲットの即読了。なるほど、これは噂に違わぬ佳作。凄みはないが隙もない達人に、綺麗に技をかけられたという読後感。やんや、やんや。こんな話。
国防の血を啜る虫は、ノイズとともに発見された。警戒監視隊長・大山三佐の電話が盗聴されたのだ。基地内でも、鉄壁のセキュリティを誇る地下のレーダー部隊に侵入し、ましてやその隊長室に盗聴器を仕掛ける事など全く不可能な筈だった。獅子身中の虫を探り当てるため、派遣される防諜部調査班のエリート・朝香二尉。アンビバレンツな存在として志気を擦り減らせていく自衛官たちの日常。そこに「敵」が現われた事で奮い立つ野上三曹は、朝香二尉の補佐官として自らの基地内の暗部に迫る。果して防諜のプロは密室を破る事が出来るか?やがて天啓はUNKNOWNの接近とともに訪れる。
正しく評判通りの内容。自衛官の日常を垣間見る事が出来るだけでも楽しい読物であり、その意味において立派に「小説」として成立している。謎が小粒な点は、長編として些か物足りないものの、そこは緻密に張り巡らされた伏線の妙で魅せる。更に、ホームズ役とワトソン役の描き分けも巧みで、読み終わる頃には、すっかり「もう一度、この男たちに会いたい」という気にさせる。なにも、人を殺さなくても本格推理小説は成立するという事を証明した点でも本作に支持票を投じたい。小官は、一年の締め括りにきりっとした話が読めて幸せであります。


2002年1月1日(火)

◆あけましておめでとうございます。朝から酒を飲んで、ご馳走食べて、麻雀。いやあ、ネットから離れているとまっこと「おふ」感覚である。
◆天皇杯サッカーは基本的に「赤勝て、白勝て」なのだが、今回は「勝ってる方の味方」。たとえそれが100−0という大味な試合であってもかまわない。とにかく延長だけは避けて欲しい、という一心。要は、その中継の後に放映される「名探偵ポアロ」の予約録画をしくじりたくないのである。んでもって、後半終了間際にセレッソが追いついた瞬間、悲鳴。延長戦に入ってからは「もう、どっちでもいいから、とっととVゴールを、決めんかい!!」と悲愴な思いで見ていた。はあ、早目にきまってよかった。ありがとう清水エスパルス。
◆夕方に散歩がてらブックオフへ。それ以外にも3件ほど古本屋は発見するが、2件は正月休み、ブックマーケットは、しょぼい内容。初買いはこんなところ。
「海の呪縛」弘田静憲(文藝春秋)100円
「蹴る馬」松岡悟(三一書房)100円
「SFXビデオ大全集」小山内新編(コバルト文庫)100円
「スパイ・ライク・アス」Gマッギル(講談社X文庫)100円
d「女の顔」新章文子(講談社文庫)100円
「新学期だ、麻薬を捨てろ」夏文彦(ソノラマ文庫)100円
あと、漫画を1冊。
「フィットネスクラブ殺人事件」(秋田書店)250円
なんといっても「海の呪縛」が収獲。古書価のつく本ではないが、ブックオフに転がるにはやや古い(昭和53年刊)ゾーンなので素直に嬉しい。後は、勢いだけで買う。「女の顔」は女王様から「ピンク色よ」と教えられていたので意外。なんだよ黄色じゃん。初見だったのでポケット文春版は持っているもののとりあえず拾う。まあ「海の呪縛」があったので、上々の滑り出しという事にしておきましょう。しておいてくれ。


◆「革服の男」EDホック(光文社文庫)読了
読み初めは、御贔屓作家の作にしたいと旅行バックに詰めてきた1冊。何はともあれ1年に1冊ホックの短篇集が読めるというのは慶賀の限りであり、その先鞭を付けたのが、この作品集。「EQ」の財産を後世に伝える好企画として賞賛を惜しまない。また、ポケミスの「13人の仲間」同様、ホックのキャラクター名鑑的な構成もナイス。この作品集からまた新しいホック・ファンが生まれる事を希求してやまない。以下、ミニコメ。
「キルディア物語」ノンシリーズのメタミステリ。これだけの長さで複数のフーダニットを楽しめるのは結構なことだが、一つ一つは推理パズルの域を出ない。全体で合わせ技一本。
「熱気球殺人事件」スーザン・ホルト登場。熱気球からの転落死を扱った不可能犯罪もの。なんと、折り目正しく伏線が引かれているのには感心する。
「五つの棺事件」インターポールものの船上ミステリ。しかも、潜入捜査官ものでもあり、フーダニットでもある。だが、本当は第二の殺人のホワイダニットが凄い。題名はカーへのオマージュであるが、この動機はカーでも使わないだろう。
「人狼を撃った男」サイモン・アーク、知事選挙候補が、撃ち殺した男はその直前までは狼だった、というオカルト・ミステリに挑む。謎は魅力的だが、解決はやや肩透かし。まあ、近年のアークものは「悪の力」との闘いは何処へやらが多いのではあるが。
「七人の露帝」ランドもの。かつての好敵手で今は無きソ連の名スパイ「タズ」が甦り、露帝のコードネームを持つ者たちを抹殺しているという。名ライヴァルの汚名挽回に立ち上がったランドの名推理。捻り自体は「これしかない」というものだが、なんでも貪欲にネタにしてしまう消化力はアジモフ並み。
「不可能夫人」ギデオン・パロ登場。落ち目の女優は、脱出不可能な二階の部屋から消え、階下で死体となって発見される。どこかで見たような話。どちらかと云えば長編向きのトリックであり、やや詰め込みすぎの感あり。
「バウチャーコン殺人事件」大鴉殺人事件の続編。早すぎた作家の権利を巡る陰謀と殺人。編集者を殺したのは誰あれ?業界ものとしての面白さは健在。だが、プロットが如何にも不自然。これは、やりすぎではなかろうか?
「ジプシーの勝ち目」ジプシー探偵もの。モスクワでの競馬風景という珍しい題材で、興味を引くフーダニット。異常な状況が総てであり、ミステリよりもオーヘンリー的人情話。
「呪われたティピー」ベン・スノウ&ホーソン医師、夢の共演。そこで寝ると必ず死ぬインディアンの小屋、という魅力的な謎を呈示。まあ、都会人間にはアンフェアの域だが、真相は意外。それにしても、インディアンものは「痛い」。
「レオポルド警部のバッジを盗め」なんと、ニック・ヴェルヴェット対レオポルド警部というホックの二大キャラの対決が見られる豪華オールスターもの。盗難トリックの後ろに隠したフーダニット趣味が御見事。
「刑事の妻」ノン・シリーズ。連続バーテン殺しを追う刑事と、その孤独な妻の物語。小説としての味わいは、この作品集のベスト。おしどり探偵ものへの強烈なアンチテーゼであり、ホックにもこういう話が書けるのか?と驚く
「革服の男」ホーソン医師もの。個人的にはこの作品集のベスト。村に伝わる怪談「革服の男」が街道に現われた時、ホーソンの探索と困惑の小旅行は始まる。「一緒にいた筈の人間が消え、誰もその存在を否定する」という古典的シチュエーションをホック的に脚色した作品。ホックがどう話しを組み立てるのかが垣間見れて面白い。


2002年1月2日(水)

◆移動日。よくよく考えてみると宮崎の郷土料理を食べてないよなあ、というわけで空港にて「地鶏御膳」なる郷土料理セットを地ビールで流し込む。地鶏の炭火焼は激美味。地鶏の叩きがこれまた美味。豆腐ベースの天ぷらも、豚の角煮も、冷や汁もしっかり美味い。夜であればビールをグイグイいっちゃうところだが、さすがにそこはグラス一杯に留める。この地ビール(ひでじビールというのだが、一体どういう漢字を当てるのかよくわからん)が、すっきりしながらコクがあるという優れもの。4種類あって、それぞれに世界の特徴的なビールを模して製法されているらしいのだが、動物の名前を愛称に使っているのが御愛敬。私の呑んだのは「もぐら」だそうな。食後にレシートを見ると「生もぐら」とだけ書いてあって、なかなか異様。ううう、もぐらの活け造りでも食べたような。
◆機上で出発を待つ間に、NHKでラグビーをこれまた熱心に見る。勿論「強い方の味方」である。今日のポアロは「白昼の悪魔」なのである。延長だけは絶対に許さんぞおお!!
◆帰宅後、無事録画できていた正月特番「名探偵ポアロ・メソポタミア殺人事件」を視聴。ポアロ&ヘイスティングス絡みで原作にないエピソードも加え、笑いを取っているが、基本的には原作に忠実な映像化。ただ、第一発見者を容疑者から外す手順が甘く、クリスティーにしては珍しい不可能犯罪トリックが浮いてしまっている。オカルト趣味といい、密室殺人といい、初読時には大いに好みのお話であり、世評が今ひとつ高くない事に不満を覚えていたのだが、映像化された事で不自然さを認識させられてしまった。なるほど、これは映画化された他の旅モノに比べて少し落ちる。ちょっと残念。


◆「オフィーリアは死んだ」PMカールソン(サンケイ文庫)読了
まだ扶桑社文庫がサンケイ文庫だった頃に題名に惹かれて買った14年ものの積読。85年の作であり、翻訳当時はまだ新作の部類の劇場もの。解説によれば、88年段階で、探偵をシリーズ化して4作まで書き継がれていたとの事。で、女探偵に興味があるのと、本作が初見となるマギー・ライアンがなかなか魅力的な学生探偵だったので、ちょっと追跡してみた。結果、アマチュア探偵マギー・ライアンは以下の8作に登場し、8作目では結婚して双子の母親になっているらしい。
「Audition For Murder(1985)」「Murder Is Academic(1985)」「Murder Is Pathological(1986)」「Murder Unrenovated(1989)」「Rehearsal For Murder(1989)」「Murder In The Dog Days(1990)」「Murder Misread(1990)」「Bad Blood(1991)」
作者はその後 MARTI HOPKINSという女保安官のシリーズを2作書いて現在に至る模様。 作品名は以下の通り。
「Gravestone(1993)」「Bloodstream(1995)」
アマチュア女探偵からプロの女捜査官という流れが敬愛してやまぬジェニファー・ロウと同じだったので、ちょっと嬉しくなったりして。
さて、この60年代のとある大学での「ハムレット」特別公演を舞台にした、処女作はこんな話。
旦那様の名前はニック・オコナー、奥さまの名前はリゼット。卓越した演技力と美貌を兼ね備えた俳優夫婦はごく普通の出会いをし、ごく普通の結婚をしました。でも、ただ一つ違っていたのは、奥さまはヤク中だったのです。ニックの兵役中に身も心もズタズタになった妻リゼットの立ち直りの切っ掛けを求め、ハーゲイト大学の卒業記念特別公演「ハムレット」のオーディションを受ける二人。 ニックの完璧な演技は、演出監督と舞台監督を唸らせ、リゼットに予定外のオフィーリア役を引き寄せる。だが、その事がオフィーリア役を期待していた女子学生たちの間に嫉妬の嵐を巻き起こす。半年がかりの稽古と準備の折々、リゼットに対して仕掛けられる嫌がらせや死に繋がる罠。だが、4人のプロ役者と素人たちは確実に難劇をものにしていく。そして、舞台が成功裏に千秋楽を迎えた直後、惨劇は起きた。そう、オフィーリアは死んだのである。彼女を狂わせたある言葉を書き残して。果してその死は自殺?それとも?恋に舞い上がり、傷つき、そして真相に到達するスーパー女子大生マギーの活躍を描く青春推理。
どうです、一見面白そうでしょ?ところが、この作品、人が死ぬまでに長くかかりすぎ。なんと死体が転がるのが370頁中の285頁なのである。で、そこまでは只管、60年代のベトナム戦争の影を引き摺ったキャンパスで登場人物達が「ハムレット」の解釈を巡って衝突しながら役を掴んで行く過程が描かれる。勿論、一応その過程に幾つかの伏線が引かれてはおり、種明かし後に成る程と思いもするのだが、正直、読み通すにはかなりの根性が必要である。「俺は青春演劇小説を読んでいるのだ」と発想を転換でもしない限り、楽しくは読めない。反面、最後には探偵を務める事になるマギー・ライアンのスーパーウーマンぶりは時間をかけてじっくり醸成されていくため、その後の彼女が猛烈に気になるのもまた事実なのである。85年に60年代の話を書いたのは、おそらく作者(1940年生まれ)の学生時代を反映させているのだろうが、さて、マギーは作者にとってのなんだったのであろうか。マギー萌えになってみたい人はどうぞ。それ以外の「ミステリの読者」には余りお勧めしません。


2002年1月3日(木)

◆昼から、別宅に赴き年賀状のチェックと刷り増しなど。どうやらプリンターは本格的に黒インクが目詰まり状態。使わないとこれだもんなあ。
◆ふと、ミステリアスプレス文庫を何冊もっているのかが気になって勘定する。全部で49冊。エルキンズ、ヒラーマン、ハート、ウエストレイク、トーマス、ディブディンてなメジャーどころを投げやりにしか押えていないので、この程度。あと100冊強。丁度完集するには適当な冊数なので、今年はこの叢書でも100円縛りでのんびり集めましょうかね。
◆テレビ東京の正月ドラマ「開幕ベルは華やかに」をリアルタイムで視聴。原作は未読につき、比較はできないが、これも相当に「すちゃらか」に改変されているような雰囲気。「主演女優」の加藤治子は好演ながら、どうにも美しくない。北村和夫が青年将校に扮する処はもう噴飯モノだし、そもそも新劇ってえのは、こういう異空間なんでございましょうか?もう30分刈り込めば、それなりの作品になったのかもしれないが、いかんせん冗長の極み。CXサスペンスは連続してハズレ。


◆「伯爵夫人の宝石」Hスレッサー(光文社文庫)読了
♪ぶんちゃちゃちゃちゃ、ちゃっちゃちゃーーん
♪ぶんちゃちゃちゃちゃ、ちゃっちゃちゃーーん
(↑「マリオネットの葬送行進曲」だと思いねえ。)
皆さん、今晩は。なんとこの作品集は、日本では25年ぶりのスレッサーの作品集なのです。「まーだ、生きていたのか?」口の悪い方はそうおっしゃるかもしれません。でーも、スレッサーは健在です。それに仮に亡くなったとしても大丈夫、このヒッチコックがデジタル処理で甦ったように、いずれスレッサーも自動書記機械として甦るかもしれません。それもカラーオーダーは思いのままです。では、以下、コマーシャル。
「伯爵夫人の宝石」男が最もオトコを憎むのは、自分の誇りを汚された時でありましょう。さて、この真面目なナンバーツーの誇りとは一体なんだったのでしょう?なんとも、痛快なお話ではありませんか。
「世界一親切な男」ウールリッチも私のお気に入りの作家でした。さて、ではもしスレッサーが「喪服のランデブー」を書いたらどうなるか?これはそんな素晴らしい夢への答です。なんですか?それじゃあ剽窃じゃないか?いや、怒ってはいけません。理不尽な怒りは自分に跳ね返ってきます。丁度この主人公のように。
「シェルター狂想曲」核の恐怖というのは恐ろしいものです。でも、もっと恐ろしいのは夫婦の間の「冷戦」かもしれません。さて、一体不倫のつけはどのように支払われるのでしょう。いや、それは出口のボタンではありません。迂闊に押さないように。御用心御用心。
「ハローという機械」夢のようなロボット生活。おお、21世紀、人間はどこまでいくのでしょう?そして果してロボットは殺人が可能なのでしょうか?勿論、ガレージキットに三原則は通じません。三原則とは「スポンサーに逆らってはならない」「スポンサーを傷つけてはならない」「以上に反しない限り、視聴率を上げなくてはならない」というわけではありません。ええ、ありませんとも。
「壜」収集家。この罪深い人々の心は同じ罪を犯した者にしか理解できないでしょう。従って犯人が収集家であれば、探偵もまた収集家であるべきなのです。なーに、収集以外は至って無害で無毒な連中なのですが、、
「ハーリーの運命」推理雑誌の編集者程、殺人のアイデアに豊富に接する事ができる人々はいません。たとえそれが借り物であっても、そう、一つぐらいは現実に実行が可能かも。しかし、オリジナルには敵わない事だけはゆめゆめ御忘れなく。
「目」目は口ほどに物を言い、と申します。あるいは、百聞は一見に如かず、とも。まこと目の情報量は侮れません。人間、まずは、よく見て、よく聴く、そして正しく判断する事です。特にこれから殺人を犯そうというのでしたら。
「不法所持」物事が行き詰まった時、神仏の力を頼る事は決していけない事ではありません。同僚刑事を殺されたこの主人公にも、等しくそれは当てはまります。まずは信じてみる事。理屈は後からついてきます。そして恐怖も。
「狙われたハート」恋、嗚呼、恋。なんと昔から男たちはこの感情に翻弄されて来た事でしょう。自分の逞しさを信じ、庇護する喜びに震える貴方。そんな貴方の熱弁が、どこか蟷螂を思わせるのは私の気のせいでしょうか?
「濡れ衣の報酬」毒食らわば皿まで。殺人は癖になります。そして自白もまた。友情の重みに涙してください。これは、愛する者達を守りたい、或いは守りたかった男たちの物語です。
「帰郷」ホーム。心の故郷。そう、肉体とは別の故郷を心が持ってしまった時、人はどうするのでしょうか?記憶が甦るに従って、愛も喜びも又甦ってきます。そして、もっと強い感情も。
「遅すぎた手紙」男が二人に、女が一人。2引く1は1。算数では、それが答えです。ですが人生ではどうでしょう?一体誰が引き算されたのか。すべては一通の手紙が知っています。
「明日は我が身」完全犯罪を成功させるには、通り魔が一番。動機のない犯罪ほど手掛りを与えないものはありません。そして、現代は通りに沢山の魔が潜んでいます。もしそこで偶然を演出できれば、完璧。ですが、タイガー、象は忘れない事を御忘れなく。
「内輪の秘密」毎日大量に事件は起きていてもそれを読物に仕立て上げる者がいなければ、事件は見過ごされ、そして忘れ去られます。偉大なる事件には、偉大いなる報道官が必要なのです。ですが、許されるのは事件の脚色まで。いかな名ライターでも小説の才能とは別物である事を忘れてはいけません。人には人の分というものがあるのです。
「問題の女」女の闘い。猫の喧嘩にも喩えられますが、もし相手がライオンだったら、その結果は火を見るよりも明らかです。さあ、シッポを巻いて逃げ出しましょう。
「取引」人に物事をやらせる場合、まず自分がやってみせる事が必要です。ましてや、女に先手を打たれてしまえば、男たるもの引くわけにはいきません。何事も先手必勝。そんな教訓を深く理解できる物語です。
「第二の評決」弁護士。この罪人さえいなければ、如何に世の中から諍い事が消え失せる事か。へ?こんな事を言うと弁護士協会から訴えられる?大丈夫、こちらにも弁護士がついていますから。