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2001年12月20日(木)

◆別宅に立ち寄り、ゴミ捨てなど。ついでに近所のブックオフを覗くがさしたるものは何もない。
「フューチャーマチック」Wギブスン(角川書店)100円
こんな本、出てた事もしらなんだ。まるでプルーフ本のような造りで定価1500円はなんだかなあ。まあ、作者が売れっ子だからいずれ文庫落ちするんだろうが、田舎の書店には絶対に入荷しない類いの本ですな、これは。
◆別宅の原書棚の前に平積みになっている2列分の本をずらして久しぶりにロラック(=カーナック)本を眺める。50冊ちょっとあるのだが、戦前の有名どころが全然ないんですな、これが(「悪魔対CID」とか「チェルシーの殺人」とか「病院の事件」とか)。殆ど裸本なので、直ぐに見飽きて封印する。本当は、前の方に出しておきたいんだけれど、、、
◆筑波孔一郎のエイコーノベルズを確認して、ダイソーの収録作が改題ではない事を確認する。やっぱりあれ(幽霊は殺人がお好き)って新作なのかなあ。
そういえば、ダイソーで旧作が復刻された若桜木&矢島コンビの「新本陣殺人事件」が週刊文春のベスト10で5位に入っているとか。思わず「嘘でしょ?」と引いてしまう。貶すと読みたがる人がいるので「黙殺」こそ相応しいと思っていたが、こりゃあ、何がなんでもこの週末には感想をアップせねば。
◆「スタアの恋」最終回、リアルタイムで視聴。いやあ、久しぶりに童心に返ってロマコメの世界を堪能させて頂きました。冒頭は、ちょっと「世にも奇妙な」っぽい構成で、一体何が起きたのか?と思っちゃったよ。それにしても、SMAPドラマではなぜか、草薙君のドラマばっかり見てるんだよなあ。「TEAM」とか「フード・ファイト」とかさあ。
◆さあ、明日は出版記念宴会だあ!!


◆「名探偵チビー:首なし雪だるまの謎」新庄節美(講談社)読了
というわけで、手に入るととりあえず読んでしまう名探偵チビー。中でも傑作の誉れ高いのがこの「首なし雪だるま」。チビーの良いところは、真っ向から本格推理しているところで、律義に3人の容疑者が現われ、名探偵は論理的な推理で意外な犯人と驚愕のトリックを暴く。こういう上質のフーダニットこそ、クイーンJr.名義の作品に相応しいと思うのは私だけではあるまい。さて、今回「五月の風」市を襲ったのは、凶悪なる「デコレーションケーキ破壊犯」。果してその正体とは?
女王様も楽しみにしているウォルナットホテル主催ケーキコンクール。現在、三連覇中のシドニー・オンブさんに挑むべく国中から腕自慢のケーキ職人達がその技を競う。だが、そのコンクールを中止しなければ恐ろしい事が起きるという脅迫状が届いた事から、チビーとぼくニャットの出番がやってきた。だが、警察の警備を嘲笑うかのように、雪の朝に惨劇は起きた。なんと、オンブさんが秘密裏に仕上げてきたケーキが何者かの手によって破壊されてしまったのだ。現場は入り口を豚警官が見張り、回りを処女雪が囲む建物。一体誰が、どうやって?双子のリス兄弟が作った雪だるまの首が消えた時、チビーの瞳は輝き、沈着な消去法はただ一つの真相への道を開く。
さながら「TVチャンピオン、第14回ケーキ職人選手権!!」といった舞台設定が楽しい。三人の容疑者がいかにもテレビチャンピオンの決勝戦ってな感じなんですなあ、これが。さて、この物語、ハウダニットの部分については、ある程度ミステリを読み込んだ人間には直ぐ分かる。問題は、そこからのフーダニット。ここでの容疑者の赤鰊ぶりが実に上手い。更に、そこで展開される論理がこれまた実に美しいのである。子供に対して、少年探偵団や、ホームズでミステリマニアへの道を歩ませようとしているお父さん、お母さん、これからの時代はチビーだぜ!


2001年12月19日(水)

◆本日は御接待につき購入本0冊。
◆帰宅すると、Murder by the Mailから、なんとも凝りまくったカタログが届いている。「ミステリ美術館」出版記念で、オールDW映像付き!!なるほど、これなら安心して選べますなあ。ジャケ付きと喜んで、黄一色に書名だけなあんて事はございません。さあ、何、頼もうかな?
◆んでもって、nakachuuさんから交換本到着。
「名探偵チビー:首なし雪だるまの謎」新庄節美(講談社)交換
うーん、蝸牛の歩みだなあ。これで、6冊中3冊、すべて他力本願寺状態。こうなったら残る3冊も他人様が頼りだ!チビー専用交換本リストでもアップしましょうか?
◆掲示板にmoriwakiさんから、ブリトゥンの童話は現役であったとの通報あり。うーむ、これは凄い。あなどれんぞお、新刊書店!!何事もダメもとですのう。


◆「名探偵の肖像」二階堂黎人(講談社NV)読了
久しぶりに二階堂作品でも読んでみるべえ、と思ったら殆ど再読になってしまった。なんだよ、実は結構真面目に読んでるんじゃん。さて、この作品集は、パスティーシュとパロディを中心に編み入魂のカー問答&全長編感想までオマケに付けた同人誌的造りのバラエティーブック。二階堂版「名探偵博覧会」というか、こちらの方が1年早い。パスティーシュであってもジャポニズムにこだわった味付けを試みる芦辺とは対照的に、淡々とそして熱っぽく、好みの探偵の新冒険を描く作者は、つまり遺伝子的に小説家というよりはファンクラブの会長なのかもしれない。以下、ミニコメ。
「ルパンの慈善」アルセーヌ・ルパン颯爽登場!ガニマールに盗品を返すところから物語を始める逆転感覚が憎い。作中語られる不可能犯罪は、禁じての部類であり、それも見え見えであるが、パスティーシュとしての完成度は高い。もう少し翻訳調の文体を擬せば完璧。
「風邪の証言」ううむ、この題名のセンスはなんとかならんか?トリックも「まさかアレじゃあるまいな」というトリックで、これは余りにも犯人にとって危険すぎる。発想は悪くないし、展開もお約束だが、かなり無理目。
「ネクロポリスの男」作者にしてはとても珍しいSFお色気ミステリ。ただ、これをもってパスティーシュ集に収録するのはいかがなものか?お話は、アンフェアな意外性はある。
「素人カースケの世紀の対決」大傑作パロディ。プロにこういう事やられちゃあ、アマチュアはやる事がない。メフィストに載った時も、暗記するぐらい繰り返して読んだが、今回再読してもやはり笑わされた。日本探偵小説史上に是非残したいので、「貴婦人として死す」他のネタバレ警告を入れるか、そのくだりを書き直すかして欲しい。
「赤死荘の殺人」見事なHMパスティーシュ。少々、若書きのくすぐり部分が目障りだが、本編自体の完成度は極めて高い。「裏・妖魔の森の家」とも言える作品であり、翻訳調に書き直せば、カー本人の作品と見紛う出来映え。傑作。
「地上最大のカー問答」<おキライですか?><お好きです。>
「ジョン・ディクスン・カーの全作品を論じる」良くも悪くも同人誌レベル。題名は「全翻訳長編への言及」ぐらいにして欲しかった。


2001年12月18日(火)

◆銀座のイエナが閉店するらしい。ネット洋書店の台頭による売り上げ減が原因だとか。確かに、ネットとイエナじゃ値段が倍ぐらい違うので、早晩、苦しくなるだろうなあ、と思っていたら案の定である。個人的には、20数年前、生まれて始めて上京してきて、最初に行ったのが神保町で、その次に行ったのがイエナだった。田舎者にとって、最もトウキョウの文化を感じさせてくれた場所の一つであった。そこでスラデックの「黒い霊気」の原書を買ったのが、なによりの思い出である。残念と思う反面、これも世の中の流れかと感じる。洋書屋というのは原書への窓が極めて限られていた時代の、それこそハワイが夢の島であった時代の風物なのであろう。重要無形文化財に指定されてもいいとは思うんだけど、なにせ銀座のど真ん中だしなあ。長い間、ありがとうございました。私たちはこの店の事を忘れません。
◆定時で帰れたので、12月上旬に「腕まくり女高生」「魔女がいっぱい」の感想をアップ。
◆「さよなら小津先生」最終回をリアルタイムで視聴。なるほど、こう来るか。でも、ちょっとアマすぎやしないかなあ。
◆正月番組を満載したテレビ雑誌がどっと出る。正月にNHKが新作ポアロの「メソポタミアの殺人」と「白昼の悪魔」を放映予定。初ミステリ、初録画は、これで決まりだぜ。問題は、いずれもサッカーだのラグビーの後に予定されていてどちらも延長の恐れがあるって事。おいおい「初撮り逃し」は勘弁してくれい。
ついでに、先日「すわ、ヤクルト優勝か?」で散々な放映のされ方をした「世にも奇妙な物語」が早々と年末に再放映。いつもは1年ぐらい再放映まで間があるので、極めて異例。さぞや、抗議が殺到したんだろうなあ。


◆「消えた犠牲者の秘密」EクイーンJr.(EQFC:私家版)読了:感想は後日


2001年12月17日(月)

◆某社の話である。来年のV字型回復を期して、戦略商品を「V商品」と名付けるのだとか。なんだか「連邦のV作戦」を彷彿としちゃうよな。あるいは、ドイツ軍のV2号にV3号とか(>そりゃビッグXだ)。んでもって、なんでもV2号機のVは、Victoryではないらしい。そりゃまあ、敵性国語なわけないですわな。調べてみるとVergeltungs-waffe(報復兵器)の頭文字とか。おお、ふぇあげるとぅんぐすわっふぇ。すごーく、ぺりー・ろーだんみたいだぞう。
「沈黙のフェアゲルトゥングスワッフェ」
「フェアゲルトゥングスワッフェ秘密作戦」
「戦艦<フェアゲルトゥングスワッフェ>消息不明」
「グッキーとフェアゲルトゥングスワッフェ」
「いいかげんにしなさいフェアゲルトゥングスワッフェ」
◆散髪を済ませて、一駅途中下車。さしたるものは何もなし。
「名探偵の肖像」二階堂黎人(講談社NV:帯)400円
「悪魔のラビリンス」二階堂黎人(講談社NV:帯)400円
d「淫獣の幻影」PJファーマー(光文社CR文庫:帯)300円
「人狼城」以来久しぶりに二階堂作品を購入。考えてみると、このサイトを始めてから1冊も読んでいないのかも。ファーマーは、帯付きが嬉しいけど、300円だもんなあ。微妙な値付けでございます。はい。
◆帰宅すると待望のROM113号到着。今回はロラック特集号。なんと、カーナック名義も含めて15作のレヴューを掲載。森さんの入魂の英国女流特集に迫る勢い。やっぱり、こんな同人誌ないよ。凄い、凄い。じっくり楽しませてもらいましょう。ロラックも一時熱くなって集めていたんだけど、既訳の2冊が今ひとつだったので、積読状態。本棚の下の方に並んでいるので最近は背表紙も拝んでおりません。とほほ。今度、別宅に行った時に、掘り出してみようかな〜。
◆「アンティーク」最終話リアルタイムで視聴。原作が終わっていないらしいので、どうケリをつけるのかと思っていたら、マルチエンディング仕立てで上手く纏めていた。これは縛りを巧みに掻い潜った脚本家の勝利。


◆「庭には孔雀、裏には死体」ドナ・アンドリュース(ハヤカワミステリ文庫)読了
結婚式というものをご経験になった事はおありだろうか?それも主催者側で。これが実に大変なイベントである。とりあえず、日本の場合は万事式場側にお任せしておけば、9割方はOKであるが、それでも残りの1割で凝り始めるときりがない。これまで他人同士だった二つの家が縁続きになるためには、様々な通過儀礼を乗り越えていかなければならないのである。その結婚式を事もあろうに、お手製でしかも3つも準備しなければならないというのは、その一事をもってしても「殺人的」である。これはそんな殺人的な難題を右から左に片付けるかたわら、田舎町に勃発した連続殺人を解決する女流鍛冶アーティストの物語。
女友達と弟と母の二度目の結婚式の準備を仕切るブライズメイドのオナーを仰せつかったわたし、メグ(34歳)は毎日が修羅場。刻々と迫る式の当日に向けて、無理難題を吹っかける主役たちに振り回され、プレ・パーティーの準備と運営に忙殺され、お節介やきからは恋人候補を無理矢理押し付けられ、揚句には死体までが転がり込んでくる。殺されたのは、母の再婚相手の義理の妹。これが一言喋るとその相手に殺意を抱かせないではいられないトラブルメーカー。ミステリマニアの父はここぞとばかり家族の手を借りて殺しの状況を再現しようと実験に明け暮れる始末。ちょっとイカした男が現われたと思ったら「ゲイ」だという噂だし。ああ、もう一体何がどうなってるの?犬は吼え、猫は引っ掻き、アヒルは卵を産み、孔雀は悲鳴を上げる。悲鳴を上げたいのはわたしの方よ!ああ、結婚式は三つともうまくいくのかしら?へ、殺人はどうなった?それはついでに解決するわよ。リストの最後に書いといて!
アガサ賞、アンソニー賞、マリス・ドメスティック賞を総なめにしたコージーの見本市。文庫で500頁の処女作というのは力技である。いや、実際中味のどたばたぶりも実に力技で、主人公のエネルギッシュな活躍を読んでいるだけで疲れてくる。「肉食人種」って感じ。ミステリとしてのプロットは、一応筋も通っており、散りばめた謎を丁寧に潰し、クライマックスにもこの上ない舞台を準備している。勿論、主人公のロマンスについても怠りなく、ラストにぴりりとヒッチコックばりの(というかスレッサーばりの)皮肉を聞かせて余韻を残す。なるほど、お上手。結婚式の手順書として6割、ユーモア小説として3割、ミステリとして1割といった配分であるが、饒舌さを楽しめる人にはお勧め。はあ、しんどかった。


2001年12月16日(日)

◆只管、年賀状と闘う。本宅のPCをカバンに詰めて、別宅へゴウ!なにせスキャナー、プリンターも別宅に置きっぱなし。しかも両方とも今年の年賀状を作成して以来使っていない。さあ、果してちゃんと動いてくれるのか?
別宅に着いてから、おもむろにスキャナーで読み込み用に馬ネタの作品のピックアップ。瞬く間に1,2時間が過ぎる。何冊か積み上げ、いざスキャン開始と思いきや、スカジーカードが見当たらない。探し回る事、1時間。それでも発見できず、諦める。とりあえず、プリンターの調子でも見るべえと、試し刷りしてみると黒のヘッドが不調。何度もヘッドクリーニングを掛けていると、今度はカラーインクが切れる。ほんでもって私もぶち切れる。ああ、なんてパソコンって時間食い虫なんだああああ!!!
◆気を取り直して、スキャナーを手提げに放り込み、本宅に戻る。雑貨入れに使っている袋を引っくり返すと、ようやくスカジーカード発見。ぐああ、ぐああ、とうめきながら、カードを突っ込むとスロットが不調。もういい加減にしてくれえええ!!
来年1月1日に年賀状が着かなかった場合は、「ああ、kashibaは、年賀状造りに疲れ果てたのだなあ」と思って、気にしないで下さい。
っていうか、もし、ここ当分、更新がなかったら、「ああ、kashibaはパソコンを壁に叩きつけたんだなあ」と思ってください。長い間御愛読頂きありがとうございました。>相当アタマに来ているらしい。
◆購入本0冊!
◆ところで、腐ってもカーですなあ。一昨日の2冊に忽ち引き取り手が現われてしまった。「コナン・ドイル」に至っては二人も。いやあ、凄い。


◆「なみだ研究所へようこそ」鯨統一郎(祥伝社ノンノベルズ)読了
よくも悪くも軽い読物で、軽い連作である。作者らしい、サイコセラピスト「もどき」の<日常の謎>系ミステリ。専門的であるようで、知識やら蘊蓄は飽くまでも、ぶっ飛んだ推理のための「対照」。このあたり、出世作「邪馬台国はどこですか」に一脈通じるものがある。少女の面影を残す頼りなさげな「心の名探偵」、キャリア・ウーマンがスーツを着てあるいているような美貌の事務員さん、自信満々の新米心理学者のぼくというキャラの布陣もツボを心得ており。全体を通して読むと、それなりの仕掛が見えてくるのもお約束。安定感あるプロの仕事といって良かろう。まあ、一つ一つの作品は、それこそ、モスキート級の軽さなのではあるのだが。以下、ミニコメ。
「アニマル色の涙」シリーズ開幕編。夫々に印象的な二人の女性主人公が効果的に紹介され、涙田煌子は、動物の幻影を見る男の仕種から、彼の心の傷を見抜く。このこじ付けの凄さにめげた人は、鯨統一郎にはついていけないであろう。
「ニンフォマニアの涙」淫乱症も、60歳の女性となると、凄絶。だが、その狂ったような仕種に、ある愛が潜んでいた。一見もっともらしい解釈なだけに本職からクレームがきそうなシリアスな内容。
「憑依する男の涙」宴会芸が嵩じて、人形をみると喋らせずにはいられなくなった男の秘密とは?タイムリミットものでもあり、読ませる。これは相当に意外。実はオチの仕掛ばかりに目がいって、本筋を疎かな読み方してしまったのである。
「時計恐怖症の涙」時計を嫌う少年の行動は、いじめの結果だったのか?少々逆転させすぎ。ここでも財務省は悪者である。既に財務省になっているところが新作である。
「夢うつつの涙」夢と現実を逆転していると捉えたい女心にはなにがある?これも逆転のアンサンブル。百マンに一つの偶然だよなあ。話、創りすぎ。
「ざぶとん恐怖症の涙」この作品集のベスト。なぜ、座布団が怖いかという解釈が最高である。
「拍手する教師の涙」催眠術師の失敗を見て拍手する先生の秘密に催眠術で迫るぼく。これももっともらしすぎる話。そろそろネタ切れか?
「捜す男の涙」刑事の捜すものを捜す最後のセラピー。意表を突く展開が、いかにも掉尾を飾る作品に相応しい。花丸をあげましょう。波田先生には、今度は長編で会いたいものである。


2001年12月15日(土)

◆早朝、日記と最近二日分の感想を書いて上げて二度寝。起きたら昼の1時だった。
◆奥さんと日用雑貨の買い出しへ。いずこもなかなかの賑わい。師走だねえ。新刊書店チェック。新聞広告で見て物凄く気になっていた1冊をゲット。
「快楽殿」森真沙子(徳間ノベルス)800円
幻のSM雑誌を巡るネット古書店主の探索行を描いた異端のビブリオ・サスペンス。とりあえずツボだし、作者もそれなりの人なので押える。これで作者が峰隆一郎やら勝目梓だと、如何にビブリオであろうと躊躇するところだけど。それにしても凄い題名、凄い表紙絵である。奥さんから厳しくチェックを入れられ「邪悪だああ」と睨まれる。
◆夕食を早目にすませ、「ハリー・ポッターと賢者の石」のレイトショーへ行く。歩いて帰れる所にレイトショーをかける映画館があるというのは、分不相応にもターミナル駅傍に住む者の特権。しかも、ここのレイトショーは前売り料金よりも更に安い1200円。新刊をゾッキで拾う感触にニンマリ。結構な人出だが、さすがに21時上映開始となると子供が一人もいないので、マナーを心得た環境の中で心静かに映画を楽しめた。「読んでから見るか、見てから読むか」悩んだのだが、結果的には、読む前に見て正解だったように思う。最新の特撮技術を駆使した画面は、見るものを自然と魔法学校の世界に誘う。子供の頃にこんな映像を見てしまうと、「魔法」を現実のものだと思ってしまいそうである。物語は魔法界に知らぬ者なき伝説の子ハリー・ポッターの復活、彼の1年間の魔法学校での修行を横糸に、両親殺しの犯人捜しの顛末を縦糸にとって、贅沢に編み上げられた勇気と友情のマジカル・タペストリー。どこでも言われている事だが「何を今更」であり、だからこそヒットしたのであろう。一言でいえば過不足なく「ああ、面白かったああ」である。御家族でどうぞ。ハーマイオニーが、スンゲエ可愛い。


◆「快楽殿」森真沙子(徳間ノベルズ)読了
「風俗奇譚」やら「奇譚クラブ」といった正統派のSM雑誌というのは苦手で、もっぱらSMの顔をしたポルノ誌のお世話になった口である。それが証拠に、由紀かほるやら千草忠夫を読んでいても、マルキ・ド・サドだの、ザッヘル・マゾッホだのいう始祖たちの作品は全く読んでいない。これぞ「読んでない」と公言する事が左程恥かしくもないという、希有な例の一つであろう。この世界自体がアングラであり、更にそこに古書界というアングラが加わると、これはもうBeneath Underground、「魑魅魍魎が蠢く伏魔殿」という常套句が実によく似合う世界である。さあ、壊れたインテリが迷い込む痴呆宮へようこそ。こんな話。
主人公・矢城はネット古書店主に身を持ち崩したかつての気鋭の学究。留学先グラナダでの悲恋と傷心が、彼を知の廃棄物処理場へと導く。ある日、スペイン時代に知り合った師匠格の強腕古書店主・岩倉から、矢城に大仕事が持ち込まれる。東北経済のフィクサーである漆原恭之輔が、ある条件の下に自らの膨大にしてハイエンドな蔵書の処分を任せるというのだ。その条件とは、昭和30年代、その質で他を圧倒した伝説の背徳誌「快楽殿」の第6巻を探してくる、というものだった。それは、印刷所の火災によりこの世から総て焼失した筈の最終号であり、幻の古書として書痴たちの見果てぬ夢の一つとして語り継がれてきた本であった。期限は一ヶ月。だが、矢城が、ネット上に残された僅かな手掛りを許に探索を始めるや、その目当ての古書店主は殺害され、彼自身にも黒い影が付き纏わり始めるのであった。古都の魔商、異邦の失踪、猟奇の下僕、淫虐の邸宅、漆黒の喜悦、果して、「快楽殿」に封じ込まれた秘密とは?今、知で痴を洗う趣味人たちの妄念が探偵を地下へと招く。
本捜し小説としての出来は及第点。アイテムも探索の過程も丁寧に作り込まれている。だが、陰謀の仕掛が「いかにも」であり、業の深さも「並み」である。純粋な書痴からすると、やや甘っちょろいと感じるかもしれない。おそらくは作者が女性である事からくる限界なのであろう。説明しきってしまったところが最大の弱点。仮に、逢坂剛がペンネームを用いて、みっしり書き込めば、日本推理史に残るビブリオミステリになったかもしれない。どんな話なんだろう、と気になっている人はどうぞ。尚、エロシーンは通り一遍で、オカズにはなりません。はい。


2001年12月14日(金)

◆仕事を強制終了させてとっとと帰る。今週は自分で言うのもなんなのだが、本当によく働きました。どれぐらい働いたかというと、新橋駅前でチャリティー市をやっていた事にすら気がつかないぐらいよく働いた。くっそおおおおお。
◆ぶちきれた余り、総武線で途中下車。某ブックオフでお買い物。最初、ポケミスの「金庫と老婆」だの「疑惑の霧」だの、「怪盗ホック」シリーズだのが100円均一に落ちていたのでわしわし拾うが「いやあ、どうせこれは不良在庫になるだけだよなあ」と思い直し、棚に戻す。私も大人になったものである。結局、ここでは安物買いに走る。
d「切られた首」Cブランド(ポケミス)100円
「総理大臣秘書」佐賀潜(報知新聞社)100円
「海神の黄金」Lディヴィス(光文社文庫)100円
「ALONE TOGETHER」本多孝好(双葉社:帯)100円
「世紀の殺人」辻真先(東京創元社:帯)100円
「ダービーを盗んだ男」狩野洋一(出版芸術社:帯)100円
「フライング・グリーン・トマト」Fフラッグ(二見書房)100円
「ボーン・コレクター」Jディーヴァー(文藝春秋:初版・帯)100円
佐賀潜は何故か縁のなかった本。ブランドはスターター・セットを構築中につき拾う。ディヴィスの新刊もやっと100円均一に落ちてきてくれた。ブックオフにしては珍しく新刊チラシが挟み込みで入っている。これで帯があれば申し分ないのだが、まあ贅沢は言うまい。本多孝好の本は、帯がついていなければ推理小説だとは思わなかった。フラッグの本はノヴェライズかと思いきや立派な原作らしい。後書きを見ると一応殺人事件も出てくるようなので拾う。辻、狩野はどうでもいいのだが、思わず唸ったのがディーヴァー。これは幾らなんでも100円均一落ちは早すぎるんじゃないかなあ。美本だし、初版だし、帯付きだし、未所持だし、買わない理由は何一つないやね。
◆ああ、久々に買った買った。それにしても、ポケミスで抑制が掛かるあたり、まだまだ正気だ、と家路に向う。まあ、何もないであろうと、駅の近くの店を確認の意味で覗く。なんと!結構珍しいポケミスがあるじゃないの、と値段を確認する。

100円。

あああああああ、止まらない。買う。

d「コナン・ドイル」JDカー(ポケミス:初版・帯)100円
d「バトラー弁護に立つ」JDカー(ポケミス)100円
「酒仙」南條竹則(新潮社:帯)270円
カーの「コナン・ドイル」のポケミス版は、およそポケミスを完集したい人だけが買う本であり、大概のカーマニアは函装旧版(これがまた高いんだわ)や新装ビニカバ版で買ってしまっている。以前も書いたが、後々ポケミス収集の効き目になる可能性大なる本である。御存知の通り500頁になりなんとする分厚さなので、8年前の本とはいえ、定価2400円!!おいそれと買える本ではない。それが100円であれば、きっと誰でも買うに違いない。そうだ、きっとそうなんだ!そうだと言ってくれ。頼む!!「酒仙」は第5回のファンタジーノベル大賞優秀賞作。帯がなければ絶対に見逃しているところ。結局この本が唯一百均本ではなかった。ちなみに本日買った10冊の定価の合計は、14640円也。その10分の1以下で買えちゃうんだもんねえ。古本万歳だもんねえ。安田ママが腰を痛め、胸を痛め、日々、愛と葛藤を繰り返している新刊本も、僅か1年かそこらで100円となるのである。ああ、いつから僕は新刊で滅多に本を買わなくなったんだろう?


◆「死刑執行人のセレナーデ」Wアイリッシュ(ポケミス)読了
アイリッシュで、闇の中に響く音楽といえば「ハミングバード、帰る」という名短篇がふと脳裏を過ぎる。なんとも哀切なラストにアイリッシュらしさを感じたものである。ところが同じ闇の中の音楽を題材にしても短篇と長編では全く組み立てが異なるようで、闇が暗闇の友人であった「ハミングバード」に対し、この「セレナーデ」においては、闇はあくまでも光の対照概念に過ぎない。勿論、随所にアイリッシュらしさは感じられるのだが、ある意味、非常に真っ正直なハーレクイン風サスペンスになってしまっている。
物語は、人口僅か200人の田舎町に、名誉の負傷ゆえ静養を命じられたニューヨークの刑事プレスコットがやってくるところから始まる。そこで彼が最初にであった知恵遅れの青年が仄めかす死。そしてプレスコットはヒロインたる女性画家との運命的遭遇の後、不安な下宿屋の女主人とともに「不自然な縊死体」を発見する事となる。更に連続する不審な死。なぜかその死の現場では「ヤンキー・ドードル」の調べが口笛で奏でられていた事が明らかになる。奪われた人生、奪われた夢、そして奪われた命。純粋な心は、挑戦に破れ、敗北ゆえに無実は晴らされる。しかし、光は新たなる闇を招来し、歴史の彼方の約束が新たなる契約と交わるところ、蟋蟀の泣き止む夜に口笛は響く。
典型的なミッシングリンクもの。村の情景といい、ヒロイン像といい、どこかクイーンの「ダブル・ダブル」を思わせる作品。犯人像がこれまた非常に土曜ワイド劇場もので、しかも愁嘆場を引っ張るだわ。むしろ、ちょっとしたシークエンス(アベックの死のくだりや、保安官事務所での絶唱場面など)に他の作家が逆立ちしても真似のできないアイリッシュ節が出ていて吉。こじんまりまとまった水準作といったところ。裏表紙の梗概で一ヶ所とほほなネタバレがあるのでご注意。


2001年12月13日(木)

◆夜は順調に残業につき、昼時間に雨の中、神保町タッチ&ゴウ。探究本を2冊ゲット。
「驚異のスパイダーマン2」Pクパーバーグ(ハヤカワ文庫Jr)500円
「ローラーボール」ウィリアム・ハリソン(早川書房)1300円
いずれも定価より高いお買い物。前者は、ハヤカワ文庫Jrの上がり牌。後者は長年の探究本。こんなもんくらいいつでも100円均一で拾えると信じていたが、今日に至るまで何故か巡り合えなかった。定価より高いは(100円だけだけど)、蔵印はベタベタ押してあるは(T蔵書じゃないけど)なのだが、ここでスルーすると当分出会えそうもないので、美本・帯付に100均で巡り合うマーフィー期待で1300円はたく。完璧な計画である。僕、何か変な事、言ってますう?
実はこの表題作をミステリマガジンで読んで、もっとこの作者の作品を読んで見たいと思っていたのだが、直ぐ単行本として出版されたこの本は、高校生にとっては「高値の花」だったのである。まあ、文庫本が200円から300円の頃の1200円だから、今ならば3000円ぐらいの値打ちはある。そうこうするうちに書店から消え、文庫でも復活しなかった。仮に「手頃な探究本」をリストアップしようとすれば、その最前列に位置していた筈の本になってしまった。いやあ、嬉しいなあ。
◆トップページでお遊びして、日記から直リンクするとカウンターが良く回る。「休止宣言」以来の400突破。いかに日記直接の読者が多いかの証拠である。


◆「幽霊は殺人がお好き」筑波孔一郎(ダイソー)読了
所謂「幻影城」作家の中では、泡坂妻夫がダントツのマイ・ベスト。だが、その後は連城でも李家(田中)でも滝原(田中)でもなくて、この筑波孔一郎が好みだった。幻影城ノベルズも確か冊数では泡坂並みだったに違いない。更に、後に1冊にまとめられた、くさや刑事鼻つまみ事件簿は、連載当時ちょうど海渡英祐の吉田警部補シリーズの渇を癒す形で、本格大好き少年の腑に落ちたのである。その後、幻影城の廃刊とともに姿を消したかと思いきや、どマイナーノベルズの代名詞エイコーノベルズで復活。それらの著作も徐々に古本屋からすら消えたかという21世紀、筑波は不死鳥の如く復活を遂げた。それも新刊時点で既に100円均一という叢書で!うーん、いいねえ。
さてその筑波孔一郎の作品というのは、一見すべてが揃っているように思えるのである。この作品だって、探偵は物部太郎もびっくりの「幽霊探偵」である。物語も、旧家の一族を襲う連続殺人事件である。冒頭時計塔に一族を呪う女の幽霊が現われ、そして消える。兇器は、足のある人間には運び得ない場所に転がる。更に毒殺に密室殺人の大盤振る舞い。ごろごろと容疑者が出てきてアリバイを申し立て、デコボコ探偵コンビのユーモラスな会話も楽しめる。どうよ!?って感じなのである。
正直な話、トリックはそこそこ練られている。幽霊消失と毒殺と密室については、充分に及第点を与えて良く、特に密室トリックは、お見事。ここまで感心したのは、最近では北森鴻の民俗学者シリーズぐらいか。更に文章は平易にして簡潔。鍛えられた文章である事は間違いない。問題は、小説としての滋味の部分である。これだけ贅沢に舞台とトリックを準備したのであるから、もっと面白く書けないものだろうか?軽口を叩きまくるセクハラおやぢ探偵が、突然、影のある渋い中年になったりするし、ナイスバディーの女助手も意味もなく過剰反応するし、なんとも支離滅裂な展開。最後は枚数が足りなくなったのか、バタバタと皆を集めてさてと言い、という雰囲気がなんとも余韻を奪う。トリックメーカーで文章家でありながら徹底的にストーリーテラーとしての才能に恵まれなかった作家の帰還に黙祷。


2001年12月12日(水)

◆仕事が一段落。通常の残業モードに戻る。新刊書店で「本の雑誌」2002年1月号が出ているのを確認。いやあ、連載を広報してしまった手前、とりあえず休刊しないで良かった。御興味の方はどうぞ立ち読みしてやってくだせえ。へこへこ。無謀にもホームズの題名パロディで続けてみるつもり。
◆大矢博子さんのなまもの日記にある、くろけんさんの暗号にトライ。
L1D4・L7U1・R3U3・L2・R5・D1・R2
よしださんの戸惑いもむべなるかな。
◆喜国さんの著作の余りの面白さに敬意を表して、トップページの題字前で期間限定の瞬間芸を試みる。趣旨に御賛同頂ける方は、さあ御一緒にどうぞ〜。


◆「殺人狂躁曲」パミラ・ブランチ(レオ・ブルースFC ハッピー・フュー・プレス)読了:感想は後日


2001年12月11日(火)

◆仕事が修羅場。
◆会社の売店で拾い読みしていたら本格的に面白かったのでジャンル外を1冊買う。
「読者は踊る」斎藤美奈子(文春文庫:帯)676円
半分程読み進むが、切れの良さと対象の広汎さにたまげる辛口書評の連打又連打。これは小気味良い。アニメ評とクラシック評の類似性の指摘などには深く深く肯く。この類いの本としては呉智英以来の興奮だなあ。


◆「黒い囚人馬車」Mグレアム(ポケミス)読了:感想は後日