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2001年12月10日(月)

◆仕事がド修羅場。購入本0冊。

◆「本棚探偵の冒険」喜国雅彦(双葉社)読了:感想は後日


2001年12月9日(日)

◆11月上期に「乳色の暦」「おんな対FBI」「高速道路の殺人者」「かりそめエマノン」、12月上旬に「ふしぎなふしぎなカード」「殺人稼業」の感想をアップ。
◆昼から本を抱えて別宅に向い、便所掃除など。途中、ブックオフとダイソーに寄って100円均一でお買い物。
「なみだ研究所へようこそ!」鯨統一郎(祥伝社ノンノベルズ)100円
「幽霊は殺人がお好き」筑波孔一郎(ダイソーミステリーシリーズ)100円
「シンデレラ殺人劇場」滝原満(ダイソーミステリーシリーズ)100円
ダイソーの100円小説は、過去に勁文社やら広済堂などから出ていた作品の復刊らしきものもチラホラあるのだが、全く未見のものも多い。この筑波と田中文雄(滝原)作品は新作なんでしょうかね?


◆「魔女がいっぱい」Rダール(評論社)読了
<奇妙な味>の代表選手、あとうだに似た人(>本末転倒)ロアルド・ダールの後期童話。実はちょこちょこ買ってはいるが、評論社版のダール童話は初体験。この作品についていえば、イラストのイメージがなかなか鮮烈。一筋縄では行かないダールの世界をユーモラスかつ残酷味のある絵柄で見事に表現していて吉。「魔女がいっぱい」という邦題から「TOO MANY WITCHES」といった原題を想像していたが,そちらは単純に「THE WITCHES」であった。うーむ、レックス・スタウトに書いて欲しかったかも。魔女志願の美女とグッドウィンの掛け合いなんぞ、ちょっと見てみたい気はしますな。閑話休題。お子様向けだと思うと嬉しい裏切りに合う意地悪ダールの残酷童話は、こんな話。 主人公の少年は、ノルウェーのおばあちゃんから、恐ろしい魔女たちの生態について聞かされる。頭に毛はなく、手の指は鉤爪のように曲がり、足の先は鉈で切ったように角張っている、そんなおぞましい容姿もさることながら、彼女たちは子供が大嫌いで、隙あれば、子供たちを亡き者にしようと考えているのだという。話半分に聞いていた少年は、ある日、魔女の一人から誘いを受ける。その場は切り抜けたものの、彼はおばあちゃんと投宿したホテルで、世にも恐ろしい集会に遭遇することとなってしまうのであった。絶体絶命の危機また危機!今、世界一柄の悪いおばあちゃんが、魔女たちの陰謀を粉砕する!! これは、ひどい。子供に恐怖心を与え、世のおばあさんの与太話の価値を徒に高め、躾をあざ笑う。教育的にして去勢された日本の童話を読みなれた者にとって、この物語は強烈な「毒」であり、「悪書」である。とにかく、魔女の描かれ方が惨い。「魔女の宅急便」のような魔女と魔女が違う。ここに登場する魔女は、まさに異形であり、悪意の塊なのである。そして主人公とそのおばあちゃんの振る舞いがこれまた悪魔的である。よくぞ、斯くも邪悪な童話を書いたものだ。しかもそれを業界として評価するのだから参る。ああ、本当に恐ろしいロアルド・ダールなのであった。へそ曲がりな貴方にお勧め。


2001年12月8日(土)

◆今宵は義母さんの誕生パーティーをやるのだ、ということで朝から大掃除。ビールを買い出しに行きがてら、古本チェック。
「魔女がいっぱい」Rダール(評論社)100円
「ウインブルドンの罠」Mナブラチロワ(二見書房:帯)100円
d「オベロンの手」Rゼラズニイ(ハヤカワSF文庫)60円
ゼラズニイの真世界シリーズがダブりでワンセット完成。人によって違うのだろうが私の場合、何回やっても、この第4巻が上がり牌になる。
ナブラチロワ作のテニス・ミステリは、どうせゴーストライターの作品なのであろうが、帯付きが100円だったのでとりあえず確保。創元推理文庫のペレとかもそうだが、あちらでは結構「スポーツ選手が書いたミステリ」というジャンルが存在するようである。日本じゃ芸能人パターンはあっても、スポーツ選手はないように思うのだが。鈴木一郎著「メジャーリーグ殺人事件」なんていかにも売れなさそうだよな。「Rising Son」Chichiro Suzukiってえのはどうよ?「出世息子」。ああ、なんだか、獅子文六か源氏鶏太みたいだぞ。
◆懐が温かいうちに、新刊も何冊か買う。
「SF Japan <手塚治虫スペシャル>」(徳間書店)1800円
「怪奇探偵小説傑作集3久生十蘭」日下三蔵編(ちくま文庫:帯)950円
「怪奇探偵小説傑作集5海野十三」日下三蔵編(ちくま文庫:帯)950円
「棺の中の悦楽」山田風太郎(光文社文庫:帯)857円
「『探偵クラブ』傑作選」ミステリー文学資料館編(光文社文庫:帯)724円
忽ち5000円が吹っ飛ぶ。何度もいう事だが、新刊本は高い。SF Japanには漸く遭遇。「盲亀の浮木、優曇華の花、ここで逢うたが百年目」という勢いでゲット。天下無敵の手塚治虫特集。表紙のイラストで涙ぐむ。「地上最大のロボット」のクライマックス、100万馬力になってオーバーヒートしたアトムとプルートウの対決シーン。これは、オールドファンには堪らん図柄である。1800円は無茶苦茶な値段だとは思うが、要は、この値段を涼しいと感じる「大人」をターゲットにしとるということですな。日本SF界における手塚治虫の存在の大きさを思い知らされる1巻である。あと10年経つと手塚治虫=ブラック・ジャックの原作者てなイメージだけが定着しているような気がしなくもないけど。
日下さんの編集本は、まだ山田風太郎ミステリー選集が宿題になっている。ミステリー文学資料館本は快調に出版継続中。これは、10巻まで楽楽到達しそうな勢い。素晴らしい。血風本は新刊書店にある。
◆ミステリ関係の年間新刊ベスト本が2種類でて、ネットのそこかしこで盛り上がっている。なんだか、「仲間うちのお祭」企画の間はよかったけれど、<元祖>がミステリの販売に多大な影響を与え、出版社が秋口からプルーフ本を投票者に送りつけ、新刊帯に「第何位」とつけかねない勢いで商業主義の道を驀進し、やがて、世の倣いとして、柳の下のアンチ勢力が現われ、ネットの新刊読みが取り込まれと、益々ド派手な泥沼状態に突入している感がある。
私自身もミステリファンの一人としてベストを選ぶ事は「大好き」である。これはもう「病的に好き」である。オールタイムベスト、ジャンル別ベスト、初心者向けベスト、すれっからしを「むむむ」と唸らせるへそ曲りミステリ・ベスト、無人島にもっていきたい本ベスト、寝床で読む本ベスト、便所で読んではいけない本ベスト、ビールに合うミステリ・ベストなどなど、ベストの企画を考え始めるだけで、うっとりとなってしまう。
でもね、年間ベストという企画はいかにもしんどいんだよね。1年、2年のうちはいいんだけれど、誠実であろうとすればするほど徐々に「全てが年間ベストに奉仕する」読み方になっちゃうんだよね。特に秋口からさあ。SRの年間ベストに投票するために必死になってその年の新刊を消化している自分に気が付いた時に「あれれ?何やってんだ、俺?」と自問自答しちゃったわけですな。だから、このサイトはトップページに書いてあるように(もう誰も読んでないと思うけど「新刊や年間ベストで一喜一憂するのは気忙しすぎて」という人向けのサイトなんだってば)自分の読んだ本についての年間ベストをやっております、はい。
で、年間ベスト本は、マクロ的には全くアテにしていないんだけど、私の信頼しているあの人は何を面白いと思ったのか?というガイダンスとしては有効なのでそれなりに使っている。ただ、この時期に新刊で買う気がしないだけである。さあ、そろそろこのミスの2001年版でも古本屋で探し始めるかあ。


◆「花見川のハック」稲見一良(角川書店)読了:感想は後日


2001年12月7日(金)

◆掲示板にレスつけがてら、森さんにC&Lの「喪われた古典」シリーズを注文。公開で本の注文を入れるというのもオツなものであろう。よろしくお願いしまーす。
◆と思ったら、小林晋さんからは、C&Lのダイレクト・メールを転送頂いたりして。どもども、ありがとうございます。まあ、ここは一番、森さんにおすがりして生きる事にします。
◆一応、減額されたとは申せボーナスの支給日。「今日は残業はしませんからね」と宣言して、八重洲ブックセンターへ向う。お目当ては喜国さんの「本棚探偵の冒険」、初版・函・帯・月報・検印。ところがこれが、ミステリ棚を見ても見当たらーーん。幻想棚にも見当たらーーーん。ううむ、これは売り切れか?とアタマを抱えかけるが、んじゃ、エッセイ棚をチェックだあ、と壁面をチェックにいくと、ありましたああ!斜め積み状態の「本棚探偵の冒険」!しかも、その本を手にしている人までいる!!おお、こりゃ「通」ですな、と思いきや大鴎さんではないかいな。そりゃ「通」だわ。かもめ、かもめ、かもの中の通りゃんせ。
「本棚探偵の冒険」喜国雅彦(双葉社:初版・函・帯・月報・検印)2500円
いやあ、噂に違わぬ趣味の造本。これは、発売時点から既に古書の貫禄。ネオフィリアちゅうか、「禅銃」やら「AKIRA」の老人顔の少女っちゅうか。参った、参った。これは造り手側のノリがビンビン伝わってくる素晴らしい「書物」である。さすがの「読めりゃいい」派の私も脱帽。皆さん、この本は「買い」です。再来週の今ごろは、初版・函・帯・月報・検印に加え「著者署名」だな。いっひっひ。
◆んでもって、ついでにSF JAPANの最新号を探すのだが、こちらは依然として遭遇できず。きまぐれに版型を買えた祟りなのだろうか?SFアドベンチャーだって、版型が変わるまでに12年掛かったものが、わずか1年だもんなあ、ドッグ・イヤーどころの騒ぎじゃねえよなあ。微速度撮影で、瞬く間に絶版化する雑誌を見るようである。もしや、これで終刊かあ?
◆八重洲古書館もついでに覗く。再び大鴎さんに逢う。「あ、こりゃ、何もないわ」と新刊の古本落ちを2冊ばかり。
「グラン・ギニョール城」芦辺拓(原書房:初版・帯)1000円
「乱視読者の帰還」若島正(みすず書房:初版・帯)1900円
いつもながら、このお店の回転の速さにはたまげる。「乱視読者」に至っては本屋ですらみかけておらんぞ。大鴎さんと「いやあ、日下さんの編集本とか以外、新刊って買いませんよねえ」「そうですよねえ」とデフレな会話を交わす。未練たらしく整理中の括りをみていると、桃源社ポピュラーブックス版の風太郎奇想小説集揃い(極美)やら、HM文庫版の「騎士の盃」を見かける。見ただけで満足して帰途につく。
◆奥さんと「ノッティングヒルの恋人」を見る。そっかああ、「スタアの恋」って、これをパクッたのね。世界的大女優と恋に落ちる小さな書店経営者の物語。ジュリア・ロバーツは相変わらず口がでかい。「ユーガッタ・メール」でも街中の専門書店が舞台になっているのだが、このお話も同様。大女優がシアワセになろうと失恋しようと知ったこっちゃないが、書店関係者にはハッピーエンドが訪れて欲しいものである。めでたしめでたし。
◆牧人さんのサイトでブランドの「ジェイミイ・クリケット事件」の英版と米版のどちらが好みか?というアンケート企画の結果を拝読。やっと、米版と英版のどこが違うか理解できた。牧人さんに感謝。あたしゃ、頭が悪いので、米版の方が好み。それにしても、斯くもマニアックな企画が成立しうる環境(米版も英版も書店で手に入る)にあるとは、つくづく今の若い人達は恵まれてるよなあ。欧米人でもこうはいかんぞ。きっと。


◆「霧の中の虎」Mアリンガム(ポケミス)読了:感想は後日


2001年12月6日(木)

◆というわけで、カミングアウト。今月発売の2002年1月号から「本の雑誌」で1年間、雑文を載せてもらえることになりました。出来る限りこのサイトで使っていないネタで、とは考えておりますが、どうやって12回分の行数を稼ぐのか、正直不安です。どきどき。
コラムの名称は「血風堂奇譚」。編集部がつけてくれました。次点が「電撃古本ゴーゴー作戦」。まあ、この日記をもう少し膨らませた程度の内容であります。ご厚情賜りますようお願い申し上げます。
◆またしても中途半端な残業。本屋にしか寄れない。でも喜国さんの本も、SFJAPANも見付からないんだわ、これが。ピーター・ロビンソンの講談社文庫から出た新刊を手にとって「ほほう」これですか、と納得して平積みに戻す。すんげえ、分厚い。とりあえず明日は、一応ボーナスも出るようだし、どーんと買い物でもしますかねえ。購入本0冊。
黒白さんの日記でC&Lのとんでもない新シリーズの告知を見て、慌ててC&Lのサイトを見に行ったが、見当たらんではないですか?いやあこれがホントにガセじゃなかったら凄いよ。凄い世の中になったもんだよ〜。とにかく新刊をこまめに追っかけているだけで「血風」になるのは、洋の東西を問わず御同様らしい。


◆「腕まくり女高生」園生義人(春陽文庫)
さて、「マイ・ファースト園生義人」である。この「私の初めての」というフレーズがなかなかに似合う作家である。「マイ・ファースト富島健夫」なんかもいいなあ。「マイ・ファースト川上宗薫」、そうそう、昔は青春作家だったんだよなあ。「マイ・ファースト宇野鴻一郎」わたし読んじゃったんです。「マイ・ファースト西村寿行」動物作家でした。「マイ・ファースト馳星周」まだ読んでません。つまり馳童貞なわけですな。閑話休題。ガラクタ風雲師父よしだまさし氏の発掘以来、ネット古本系で静かなブームを呼んだ中間小説家の春陽文庫入り第1作がこの作品。 物語は、すっぽん料理屋の姉妹と彼女たちをとりまく人々の人間模様を、性に対する幼くも我侭な好奇心をスパイスにして描いたほのぼのドラマ。なにせ、時代が時代であるだけに、こっそり友人に借りた性愛に関する学術書を寝床の中で盗み読んだり、年下の男の子と雨宿りの勢いでお医者さんごっこしてしまうとかいうレベルの「性」描写が関の山。勿論、殺人はおろか、かすかな「日常の謎」すら出てこない。まあ、みようによっては、「性愛本の謎の消失」「彼氏の意外な正体」といった仕掛けがないではないのだが、そこはそれ、作者は全くミステリの文法には興味がない。逆に、年頃の娘さんのいわく言い難い心情はそれなりに書き込まれていて、読む者をレトロ気分にさせる。正直な話、春陽文庫マニア以外の誰を想定して書かれた話なのか見当がつかない。かつて、このような小説にも需要があった、ということを証明する以外、さしたる存在意義を見出せない小説。城戸禮はかっとびのバカらしさが、今なお(というか、今なればこそ逆に)新鮮なのであるが、こじんまりまとまっているこの園生作品は、パンチに乏しい。リーダビリティーだけは太鼓判なんだけど、探してまで、ましてや定価以上出して読むような本ではなかろう。


2001年12月5日(水)

◆「♪眠らなーいママとコアなダイジマン、忘れた頃に先月号が出る〜」と気が付くと「銀河通信」の主題歌(大嘘)を口ずさんでいる一日。いかんいかん(掲示板御参照)。
◆膳所さん、例の本、やっと発送しました。遅くなってごめんなさい。>私信
◆またしても残業。うがあうがあ。本屋に寄って「SF JAPAN」の最新号を捜し求めるが見付からない。何も買うものがないのも癪なので、ポケミスの最新刊を買って「完集!」気分。
「霧の中の虎」Mアリンガム(ポケミス:帯)1100円
ううむ、実はこの作品の分載号3冊は密かにダブらせていたんだけどなあ。結局不良在庫になってしまったか。残念無念。これで、通常号並みの値打ちに下落しちゃったよ。
あ、という事は何か、今回の書名の前には「d」マークが必要なのかな?
◆12チャンネルで「寺田家の嫁」を視聴。丁寧な造りが嬉しいが、短篇ネタで2時間の長丁場を持たせるのは些か辛い。岸田今日子は相変わらずの迫力であるが。


◆「シーザーの埋葬」Rスタウト(光文社文庫)読了:感想は後日


2001年12月4日(火)

◆あ、みすべすのともさんが復活している。なにせ3週間近く更新がなかったので、心配しておりました。祝!復帰!!まあ、無理せず、のんびり参りましょう。
◆残業後、久々に西大島・南砂町定点観測。
d「ル・ジタン」Jジョバンニ(勁文社:帯)100円
「トリック・ゲーム」山村正夫(日本文芸社)100円
「新トリック・ゲーム」山村正夫篇(日本文芸社)100円
d「殺人暦」横溝正史(角川文庫・初版・帯)150円
d「フローテ公園の殺人」FWクロフツ(創元推理文庫)50円
「腕まくり女子高生」園生義人(春陽文庫)100円
「男装の女子高生」園生義人(春陽文庫)70円
「令嬢はお医者様」園生義人(春陽文庫)100円
「夜遊び大好き」園生義人(春陽文庫)100円
「あたしだけの秘密」園生義人(春陽文庫)120円
「お願いゆるして」園生義人(春陽文庫)110円
「忍法創世記」山田風太郎(出版芸術社:帯)850円
「ル・ジタン」は元版の帯付きだったので。「殺人暦」の帯は、先日その存在を大西さんから教えてもらい、探すとはなしに探していたもの。これは嬉しい。「新トリック・ゲーム」は当時の主要な推理作家総手の推理パズル集。今までなぜか縁がなかった。これも極美につき幸せ気分。「フローテ公園」は、長谷川修二訳だったので。まあ、50円だし。後は園生義人の一気買い。これだけの春陽文庫白背を一気に買うのは久しぶりだなあ。贅沢に半額買いだけど、いやあ、100均と変わらないじゃないの。昔は文庫本って、200円だったもんなあ(遠い目)。トドメの一冊は、山田風太郎の「最後の忍法帖」こと「忍法創世期」。帯付きじゃあ、節約しちゃうわなあ。許せ、日下さん。それにしても、この本を古本屋に売る人って誰よ?


◆「殺人稼業」Bハリディ(ポケミス)読了
御存知赤毛の私立探偵マイケル・シェーン登場!って、今の日本にマイケル・シェーンの名前を知っている人間が何人いるであろうか?さしずめ三桁の下の方なか?更に、その作品を読んでいる人は二桁の下の方、感想を書いている人間と来た日には、一桁の下の方であろう。かつては「マイケル・シェーン・ミステリ・マガジン」などという冠雑誌もあったわけで(まだあるの?)、スピレーンと並んで天下を取った時代もあったようである。というか、戦後派の代表選手スピレーンよりも、ハリディの方が先輩格であり、この作品も、物資がやや不足気味の第二次世界大戦中は1944年の事件なのである。こんな話。
44年秋、上品な老婦人によってシェーンのもとに持ち込まれたのは、防諜事件に巻き込まれたらしい彼女の息子の行方捜し。彼女の息子は偽名で兵役に志願するよう求められたという手紙を最後に行方を絶った。そして、なんとその偽名の兵士がエル・パソの大立者で市長候補タウンによって轢き殺されたのだという。果してシェーンが乗り出すや、単純な交通事故は殺人の様相を呈し始め、更には川から身元不明の死体が発見される。かつてシェーンがタウンの依頼を受け、詩人との仲を引き裂いた娘カーメラとの出会いが、彼を事件の深淵に招く。対立候補たちの暗躍。そして、不正密入国の罠。国境の基地の町を舞台に、熱く、そして醜い企みは徐々にその姿を現し始める。なるほど、人探しは義侠心からだ。しかし「殺人」となると、商売でね、頂くものはきちんと頂くのが礼儀ってものさ。
小さな街を舞台にした、権力闘争と様々な悪徳、そして虐げられる弱き者。巨悪の鼻をあかす、シェーンの行動力としたたかさに拍手喝采。殺人に仕掛けられたトリック自体は、大雑把にして単純なものだが、サブプロットのコンビネーションで眩惑的な謎を構築する手際はプロの仕事。やや薹の立った枯れ気味のヒロインが、街の蒸れるような退廃を象徴していて読ませる。主戦場のマイアミとレギュラー陣から離れた作品だが、それだけに謎とオンナには自信あり、といったところか。


2001年12月3日(月)

◆忘年会の口開け。月曜日から「飲み放題」はこたえるのう。購入本0冊。
◆朝、カギを忘れて出かけたようで、奥さんが帰ってくるまで扉の前で待つ。更地のまま放置されてある原っぱと道路を越えたところに建っている施設の窓が良く見える。一人の男が、カーテンを閉め始めた。こちらに気がついたのだろうか?うう、昨晩日曜洋画劇場で見た「交渉人」(傑作!!)の印象が強烈で、次にカーテンが開いたときには、銃口がこちらを狙っているような気がしてならない。一体、私が何をしたというのだ?たまたま、カギを忘れただけじゃないか。それだけのことで私を殺すというのか?あ、いかん、このままでは妻が帰ってきてしまう。私はともかく妻までを犠牲にするわけにはいかない。来るんじゃなーーーいい。
「はいはい、とっとと入って、カギを確認してくださーい」
かあちゃん、ごめん。
◆お、黒白さんのサイトが2周年記念で、ゲテミスの部屋をオープンしているではないかいな。いやあ、これはオープン以来、待ちに待ちました。早速、とほほなゲテミスが炸裂!いやあ、世の中には、私の知らない凄い本があるんですねえ。今後益々の充実を希望いたします。
茗荷さんのところの一周年クイズの第10問に刺激を受けて、本年のベスト候補をピックアップしてみる。忽ち12作集まってしまう。や、やば。これでは、12月はもう1冊も面白い本を読めないではないかあ!!いやはや、よくも、世の中の本読みの皆さんはその年のベストなんぞを選べるものである。普通、「ハイペリオン」と「銀座幽霊・とむらい機関車」のどちらが面白いかなんて決められないぞう。


◆「ふしぎなふしぎなカード」Bブリトゥン(文研出版)読了
日本版EQMM・HMM・EQに掲載された大量の短篇の中から、すぐにでも「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男&OTHER READERS' STORIES」「ストラグル先生の冒険」「新冒険」の3冊程度は編めてしまうのが、ウイリアム・ブルテン。その本格魂と作品の質の高さは、ホックに勝るとも劣らない。この人の短篇集が出ないのは一重に早川書房の怠慢であるといって良かろう。東京創元社や光文社にやられちゃってからでは遅いぞお。「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」はこの類いのパロディの最高傑作であろうし、「コナン・ドイルを読んだ男」の鮮やかな幕切れなんかもホームズ・ファンは悶絶必至。クイーンはこれをやられて悔しかっただろうなあ、ってネタなんですな、実際。さて、そのブルテンにジュヴィナイルの翻訳作があると知ったのは、つい最近の事。ネットに入らねば一生知らずに(平和に)終わったかもしれない。エバー・グリーンなブレイクなんぞとは異なり、古書の海に落ちたブランドやらディキンスンやらこのブルテンの作品は、誠にもってマニア泣かせである。
さて、この作品集は、「魔女の木」という曰くありげな名前の村を舞台に繰り広げられる「悪魔との契約」ものの連作。毎年6月恒例の教会親睦会の会場で「願い事かなえます」と看板を上げていた金色の目の男、サディアス・ブリン。僅か50セントで、彼がかなえてくれる「願い」とは、果して。12歳の不満たらたらの少女。15歳の恋する乙女、農場の水運びに倦んだ16歳の少年。彼等のささやかな願い事は、ささやかな不幸を呼び寄せる。楽は苦の種、苦は悪の種。村ではウシガエルの声が響き、木が繁り、そして水はこんこんと沸き出づる。ああ、なんて平和な、なんて邪悪な。
典型的な「悪魔との契約」パターンの作品なので破綻はなく、安心して読める。だが新鮮な驚きがあるわけではない。少しずつ位相を変えて描かれる平凡な村の描写はなかなかのもので、作品のそこかしこに推理作家らしいくすぐりが見えて吉。この類いの話が好きな人にはお勧め。あたしゃ大好きなんで、「魔法にかかった世界じゅうのお金」も探さねば。他にもあるのかね?


2001年12月1日(土)・2日(日)

◆さる企画の関係で、本を漁るため別宅へ。本宅に溜まったダブリ本や感想を書き終わった読了本を50冊ばかり持ち込む。前回搬入時の教訓で、キャリアーに本で膨らんだバッグを括り付けガラガラと音を立てながら上天気の街を行く。はあ、ラクチン、らくちん。
◆到着後、まずは先日300円均一で買い求めた初版函付きのポケミスを手持ちの後版と入れ替えようとして戸惑う。なにせ、僅かなスペースさえあれば横向きに本を突っ込んでいるのだが、函を潰さないためには、その上に本を置けないではないか!!ううむ、これは悩ましい。悩んだ揚句、函付きポケミスの収納を先延ばしにする。
◆引き続き、持ち出す本を探し始めるのだが、これが見当たらない。「ルアンヌの暗い旅」1冊を(文字通り)掘り当てるのに20分は掛かる体たらく。やはり本と別居生活を続けていると、「どの辺りに何があった」という勘が衰えていくものである。ちなみに「ルアンヌ〜」は、講談社ウイークエンドブックスではないかという疑惑をもたれた1冊。まあ、ウイークエンドブックスとは全く装丁の違う本なので、巻末目録に言うところの「新しい世界の文学」なるシリーズの第1巻なのであろう。以前、よしださんの掲示板に「ハードカバー」と書いたが、これは記憶違い。ソフトカバーでした。すんまへん。
◆と、内親王御誕生の余波で、会社の仕事が発生。携帯でやり取りして、なんとか助けてもらう。うがあ、うがあ。まあ、とりあえず「おめでとうございます」と申し上げておきましょう。いろんな思想・信条はあろうかとは思うが、誰の話であれ赤ちゃんが無事生まれるというのは大変めでたいこってす。
◆企画終了後、奥さんの実家で夕御飯をよばれ、学会でたまたま上京していた義弟殿ともしこたま酒を呑み、爆睡。ああ、一体何時に寝たのか記憶にない。何を喋ったのかも記憶にない。こういう乱暴な酒の呑み方をしたのは久しぶりだなあ。毎度ご馳走様でございます。
◆10時頃に起きて、朝食をよばれて、昼前に辞し、近所のブック・オフへ。なんだか、ここのところ毎週来ているよなあ、この店。それでも何かしら買うものはあって、拾ったのはこんなところ。
「笑うな/くたばれPTA」筒井康隆(新潮PICO文庫)100円
「星の国のアリス」田中啓文(祥伝社文庫)200円
「木曜日の毒ガス魔」PRネイラー(偕成社)100円
「フランダースの犬」楠田匡介(鶴書房)100円
d「超音速攻撃ヘリ・エアーウルフ2」Rレナルド(勁文社)100円
「二重生活」新津きよみ・折原一(双葉社)100円
「ストレンジ・デイズ」Jキャメロン(ソニーマガジン)100円
「ふしぎなふしぎなカード」Bブリトゥン(文研出版)100円
いやあ、PICO文庫の筒井は初めて巡り合えた。これでPICO文庫はもういいや。「フランダースの犬」は高名な感涙童話。教会に飾られたルーベンスの絵を盗むために不可能脱獄に挑む少年と犬の話ではない。ああ、なんだか、そっちの方が面白そうだぞ。それにしても楠田匡介も何でまたこんな仕事をやったのだろうか?本日最大の拾い物はビル・ブリトゥン(というか、ウイリアム・ブルテンというか)の童話。古本者の皆さんの各所でのゲット報告に歯噛みしていたもの。ふうん、こんな本だったんだあ。もう1冊、勢いで買う。
「奇術探偵 曾我佳城全集」泡坂妻夫(講談社:帯)1600円
受賞帯ではない正規帯だったので、初版ではなかったけれど、買う事にする。まあ、1600円の節約になったのかな?後は初版を裸本ででも拾えばいいや。
◆帰宅して2週分のアギトを視聴。話が大きく動いており、主人公も記憶を取り戻す。これまで仕込んで来た謎を一気に解説してくれるのはいいんだけれど、なんとなく釈然としないんだよなあ。最初に登場した超古代の錠やら、遺伝子情報やらちっとも説明されないし、アンノウンの正体も納得いかんぞ。敵の行動も支離滅裂だしなあ。


◆「Dの虚像」湯川薫(角川書店)読了
100円で拾ったので比較的近作を手にとって見た。著者紹介を見るとなかなかに華麗な略歴であり、森博嗣系の理科系ミステリの書き手といった雰囲気。帯の煽りも「真相は数十億年の彼方にある」と来たもんだ。だが<サイバー探偵>という呼称のダザさが何やら妖しい雰囲気。これは「月光仮面」の「マンモス・コング」並みの科学知識かもしれんぞ、と一瞬厭な予感が漂う。果して、その実態は?こんな話。
日本での人間関係に倦み、恋人Yとともに海外に棲家を求めようとした私・和田又三郎は、戦火の煽りで恋人を喪い、失意のうちに帰国する。そこで、私が偶然にも目撃したのは、黄昏時の靖国神社で起きた女子高校生誘拐事件。類猿人の如き巨漢は美貌の少女を抱えたまま皇居の堀に忽然と消える。やがて送られてくる不可解な暗号。シャーロック・ホームズを大叔父にもつ<サイバー探偵>橘三四郎が舞台に登場するや、前代未聞の大暗号は速やかに解かれ、大胆不敵な犯人との対決は幕を開ける。生命の鍵。希少なる黄金蝶。獄中の餓死。密室の串刺し死体。壁に吊るされた屍仮面。そして光のカルト。嗜虐の館に人形は踊り、隠れ里に佳人は舞う。ああ、Yよ、我に道を示してくれ。
作者はかなり意識的にワトソンとホームズを模しているが、読後感は、高橋克彦の「総門谷」に近い。薄暮の人間消失、凄惨なる密室拷問殺人という二つのミステリコードの部分は、かなり邪道な解法で、昔ながらのミステリマニアなら怒るのでなかろうか?死に至る狂気と「忍者探偵」チームの闘いも、それなりの盛り上げに成功しているのだが、大伝奇を現代に移植するにはやや筆力不足。看板の「生命の起源」への挑み方にしても、SFを読み慣れた人間には、「ああ、あれね」モノであり、しかも肝腎な部分で肩透かしを食わせる。森博嗣が京極夏彦を真似するとこういう話になるのかもしれない。何でも屋の闇鍋といった風情の怪作。ゲテモノが好きな人はどうぞ。


◆「星の国のアリス」田中啓文(祥伝社文庫)読了
テーマは吸血鬼。そして、舞台は宇宙。永遠の夜の中で、異形のフーダニットが縺れ、捩れ、叫びを上げる。オカルトSFミステリという素晴らしくクロス・オーバーな一作。はっきり言ってこの作者を見直した。これは、この長さなのが惜しい傑作。
宇宙船「迦魅羅」号の一行は、出港直後、密航者の変死体に遭遇し戦慄する。その浮浪者の死体には血が殆ど残されていなかったのだ。喉元の噛み跡は船の中に伝説の「吸血鬼」が存在する事を暗示する。泥酒に溺れる船長、人形フェチの航海士、若妻との性生活に思いを馳せるロートル船員、下働きのポンコツロボット、食事要らずの宇宙猿というクルーの面々、あるいは自称「小説家」、狂い咲く美貌の自称「秘書」、兄との仲を裂かれた女子学生、睾丸そっくりの宇宙人、という乗客の誰かが呪われたヴラドの末裔なのか?それとも、乗り遅れた筈の歴史学者アルカードこそが、その名の通り吸血鬼だったのか?疑心暗鬼の中で、ラミアへのワープ準備は着々と整っていく。それが死への飛翔となるとも知らず。宇宙では、アリスの悲鳴は誰にも聞こえない。そして誰もいなくなる、のか?
エロとグロと狂気を冷たい方程式の中にぶちまけた臭い立つような逸品。キャラに対する作者の酷薄さに戦慄せよ。この真犯人像には、呆れた。まんまとやられました。今の時代の日本にしか存在し得ない、豊穣たるミステリとホラーとSFの歴史へのお笑いアンチテーゼ。非常にお勧め。