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2001年11月20日(火)

◆仕事が修羅場。それでも購入本があるところが我ながら恐ろしい。
d「西の魔女が死んだ」梨木香歩(新潮文庫:帯)400円
新刊をダブりで買ったわけは、奥さんに「新潮文庫版には『まい』ちゃんのその後を書いた短篇が入ってるんだよ」と教えたところ「それは買って宜しい」というお許しが出たからである。まあ、お許しがあろうとなかろうと、買っちゃうところが情けないのであるが、<滅多にない「公認」購入>というシチュエーションに酔う。
で、その短篇「わたりの日」は、とある休日のまいとまいの友人が遭遇した不思議な予定調和の物語。実にほのぼのして、一面力強く、そして爽やかにユーモラス。そうそう、わたしはこの世界を知っている。
◆帰宅すると、またしても希少同人誌が到着。
「別冊シャレード61号:天城一特集4」天城一(甲影会)1500円
「別冊シャレード62号:山沢晴雄特集4」山沢晴雄(甲影会)1500円
本格の驍将たちの短篇集。いやあ、長生きはするものです。これも20年後にマニア達を泣かせる本になるんだろうなあ。ポケミスなんてなあ、いつでも集められるので、こういうマイナーどころを如何に若い時から集めておくかが収集人生の分かれ目だと思う。いやホンマ。


◆「都市国家ハリウッド」Rブロック(ハヤカワSF文庫)読了:感想は後日


2001年11月19日(月)

◆仕事が修羅場。購入本0冊。
◆ストラングル成田氏が主宰する「密室系」が10万アクセス突破。まずは、おめでとうございます。「密室系バラエティブック」の完成が楽しみであります。では、いつぞや、こっそりお送りした替え歌の修正版でも。
<りすとおお!>
♪密室一代、誓った日から
♪正史は捨てた、カーもいらぬ
♪密室一筋バカになり
♪収集 道(みち)をまっしぐら
♪見つけた本を掴んで編むぞ
♪天下無敵の密室リスト
♪てーんかむてきーの密室リスト
◆川口さんの主宰する「カフェ白梅軒」が堂々の10万アクセス突破。おめでとうございます。
<白梅にお母屋取られてもらいレス>偽・小林文庫オーナー。
♪君とよくこの板(みせ)にきたものさ
♪冷やしコーヒー飲みながら話したよ
♪古書店の真向かいのこの板(みせ)の
♪片隅で聞いていたバロムワン
♪あの頃の本は効き目かい?
♪棚の姿も変わったよ
♪軒(のき)は取られた

◆「新本陣殺人事件」若桜木虔・矢島誠(河出書房新社)読了
週刊文春の年間ベストで、何を間違ったか5位に入ってしまった作品である。正直なところ、この作品に関するコメントは、書かずにすませたかった。だが、「<新・本陣殺人事件>被害者の会」のやよい会長から是非書け!と掲示板やらオフ会やらで尻を叩かれたもので、しぶしぶながら書く事にした次第。「本歌」に当たる「本陣殺人事件」は日本戦後本格探偵小説の幕開けを高らかに告げた傑作中の傑作にして、かの名探偵金田一耕助のデビュー作。古い因習に縛られた旧本陣の名家・一柳家で当主の新婚初夜に勃発した雪の密室殺人事件の顛末を赤と白の美学で描いた日本推理小説史の里程標的作品である。「これより先本格領域」な傑作なのである。映画化もされた、テレビ化もされた、漫画化もされた、じっちゃんの名にかけて日本を代表する推理小説なのである。文句のある人は一歩前へ。畢竟、そのパロディなりパスティーシュを行なおうとする者に、それなりの見識と品格を求めたくなるのも無理はない話である。さて、前ぶりが長くなった。

「新本陣殺人事件」は正真正銘の愚作である。

既に金も読書時間もかけてしまったので、感想を書くことで、これ以上自分の時間を取られたくない、というほどに愚作である。こんな話。
静岡の旧本陣の名家の離れで知事選候補の当主が毒死、現場からは30億円の債券が消えうせる。周りは完璧な雪密室。同日、世田谷の女子校の体育館で同校の学院長の縊死体が発見される。体育館がこれまた完全な雪密室。そして亡くなった学院長もまた本陣の家柄であり、学校の金庫からは2,30億円の債券が消え失せていた。二つの雪密室に凍る本陣の血脈、そして巨万の富を巡る日本の黒い影。この魅惑的で多層的な謎に挑むのは、女新聞記者とカメラマン、女雑誌記者と小心者のキャリア警部というダブル・アベック名探偵。新世紀、二つの新しい本陣殺人事件が交錯するとき、雪の中で渇いた殺意は牙を剥き合う。
トリックは一応ある。体育館の方は、露骨に矢島誠の旧作の焼き直しなので、こちらのパートが矢島担当なのであろう。キャラを立てようという努力もみえる。まあ、その薄っぺらなところは赤川キャラを更に10倍に希釈した程度であるが。プロットもそれなりに苦心している。借景で、本歌取りで、つまるところパクリなのではあるが。それでも、仮にこの作品が「水瓶座の兇劇:W密室にダイヤモンドダストを」てな題名で徳間ミリオンからひっそり上梓されたのであれば、その存在までを否定するつもりはない。初版で消えて、ブックオフの100均棚で晒される、そういうミステリでもとりあえず書店の棚確保のために必要な事は理解できる。だが、それが「本陣殺人事件」の冠をかぶり、あまつさえ、どこでどう抱き込んだか週刊文春の投票者に提灯持ちをさせ、売らんなかで週刊文春5位よ!5位!むうむうと迫られた日には、渾身の力で叩き伏せたくなろうというものである。
思わせぶりの舞台設定は不自然の極み、もっさりした展開をお節介な近所のおばさんたちが後押しするご都合主義。探偵たちはステロタイプで、特に女性キャラの書き分けが出来ていないために、二組が交錯する中盤からどっちがどっちだか区別がつかなくなる。設計図と部品はそれなりなのだが、大工の腕が悪い安普請の本陣を新世紀の隙間風が吹き抜ける。「さっぶ〜」。さあ、それでも君は、この作品を読むか?!!


2001年11月18日(日)

◆10月下旬に「留学生は吸血鬼」「三毛猫ホームズのプリマドンナ」「悪党パーカー/逃亡の顔」「ハイヒールの死」「別れのシナリオ」「病める巨犬たちの夜」「傷痕のある男」の感想をアップ。死ぬ。
◆ちょいと古本買い。
「黒潮殺人海流」紀和鏡(集英社文庫:帯)30円
「大平」山上龍彦(講談社)50円
「怪獣ゴジラ」香山滋(大和書房)100円
「眠れる森の惨劇」Rレンデル(角川文庫)300円
「新本陣殺人事件」若桜木虔・矢島誠(河出書房新社)250円
d「都市国家ハリウッド」Rブロック(ハヤカワSF文庫)120円
d「闇よ、つどえ!」Fライバー(ハヤカワSF文庫)120円
d「風の月光館」横田順彌(双葉社)200円
中では「怪獣ゴジラ」が拾い物。83年の出版で、今となっては珍しい版になってしまった本。シナリオ文学にこだわりをみせる大和書房らしいチョイス。ゴジラとつけばなんでも欲しい、香山滋と云えば何だって買う、という人向きの本であろう。まあ、100円だしさあ。未所持であればお譲りしますぜ>よしださん
星乃彗理コンビの換骨奪胎本は、一応、題名が題名なので押えてみる。しかし、天下の河出書房からこのような訳の判らんミステリが出ますかね?何か勘違いしているとしか思えない。精々、青樹社か、百歩譲って徳間書店の企画じゃねえのかな?レンデルはこれでなんとか追いついたかな?ヴァインはどうてもいいのだけれど、ウェクスフォード・シリーズは、まだまだ読む可能性が高いもんなあ。出版が後先になったりしながらも、ほぼ全作が訳出されているのだから恵まれた作家ですよねえ。ダブリ本は、それぞれに値段が値段なので見逃すわけには参りませぬ。はい。
◆ちょいと新刊買い。
「国枝史郎ベストセレクション」東雅夫編(学研M文庫:帯)1300円
普段は温厚な土田館長やらMoriwakiさんやらが大騒ぎの書。あっさり近所の本屋でゲット。平積みになっていた。あるところにはあるものである。どうも「レモンの花の咲く丘へ」という戯曲の部分が百年ぶりの復刻とかで、とてつもなく珍しいらしい。うーむ、百年は凄いなあ、と訳も判らず買う。未知谷の全集を押えておけば済むというものでもないようなのである。


◆「五匹の赤い鰊」Dセイヤーズ(創元推理文庫)読了:感想後日。実に実に黄金期の収獲!!これは王道。


2001年11月17日(土)

◆1時間ばかりブックオフで時間を潰さねばならなくなり、普段はすっ飛ばす半額文庫コーナーやら、実用書コーナーなんぞも丁寧に見て回る。で、驚いたのは、結構、光文社文庫の戦前探偵小説雑誌アンソロジーシリーズが転がっている事。正直なところ、この本を買う人の殆どは、読むためというよりは、持っておく事に意義を見出しているのだと思っていた。同じく光文社文庫の山田風太郎も転がっているし、不思議な思いがした。まあ、こういう風に考える事自体、本末転倒な話なのかもしれないが。「売るなら買うな、買ったら売るな」って感じなんだよな〜。
◆引き続き、何件か古本屋回りして拾ったのはこんなところ。
「サラリーマンのためのパソコン入門講座(殺人篇)」菅谷充(アスペクトNV)100円
「仮装行列」戸川昌子(講談社ロマンブックス)100円
「金田一ファミリーの謎」金田一ファミリー研究会編(飛鳥新社)100円
「平賀源内殺人事件」新野哲也(光風社出版)100円
d「仮面物語」山尾悠子(徳間書店)100円
「大洗殺人事件」山田圭佑(日本図書刊行会)100円
「昔、火星のあった場所」北野勇作(新潮社:帯)100円
「花見川のハック」稲見一良(角川書店:帯)350円
d「13の密室」渡辺剣次編(講談社:帯)100円
「モナリザの微笑」斎藤純(新潮社:帯)100円
「アポリネール傑作短篇集」(福武文庫)100円
「運命綺譚」カーレン・ブリクセン(ちくま文庫)100円
「新編魔法のお店」荒俣宏編(ちくま文庫)100円
d「血塗られた報酬」Nブレイク(ハヤカワミステリ文庫)150円
「哀しきギャロウグラス」Bヴァイン(角川文庫)100円
「殺意を呼ぶ館(上・下)」Bヴァイン(扶桑社文庫)各100円
菅谷充は今では「ゲームセンターあらし」の作者というよりも、「ネット界の相談役」といった存在。ジャンル外からの参入本として押えておく。戸川昌子は、何が珍しくて何が珍しくないかが判らんが、とりあえずロマンブックスが好きなので買う。本日のワタクシ的当たりが「金田一ファミリーの謎」。「なんでい、金田一少年の謎本じゃねえか」と思われるかもしれないし、まあ実際、只の謎本ではあるのだが、そんじょそこらの謎本とは謎本が違うのだ。これはかの探偵小説研究家・浜田知明氏による、金田一耕助研究本なのである。しかも、金田一一(はじめ)の祖母が誰なのか?という、横溝マニアを悩ませる問題に納得性のある答を準備しているのである。金田一耕助の研究本を、金田一少年のファンを騙して買わせようという志の低い造りではあるのだが、中味はどうして立派なものである。それと知らなければ確実にスルーして、後から臍を噛む羽目になる本である。100円で見かけたら拾っておきましょうね。>ALL
「平賀源内」はダブりかもしれない。まあ、100円だし。「仮面物語」は確信犯のダブリ。探している人は探している本。これで拾ったのは何回目かな〜。5回目ぐらいかな?とまれ、引き取り手には事欠かない本である。「大洗殺人事件」は自費出版のゲテミス。探偵の名は明智小太郎である。それだけで、引いちゃうよね。ぶるぶる。「かめくん」が評判の北野勇作のデビュー作と、不良中年・稲見一良の遺作は、帯付きだったので。「13の密室」も元本が帯付きで100円だったら買っちゃうよね。「モナリザの微笑」はテレビドラマの設定を生かした創作。新刊時に、一瞬ココロが動いた本。やあ、帯付きが100円だよ。ありがとう、ブックオフ。福武文庫とちくま文庫は勢い。ヴァインは追っかけ買い。よし!後は「眠れる森の惨劇」と新刊の「ソロモン王の絨毯」だな。ブレイクの文庫は半額コーナーだったけど、定価が安いので気楽に拾ってしまった。やあ、なんだか久しぶりに沢山買っちゃったなあ。

◆「日曜日には鼠を殺せ」山田正紀(祥伝社文庫)読了:感想は後日


2001年11月16日(金)

◆大矢ひろ子先生に挑戦だあ。「『じっちゃんの名にかけて』なんと解く?」

「解かずとも、はじめから『すべて解けた』とか」

◆思わぬ残業で本屋にも古本屋にも寄れずじまい。購入本0冊。

◆「比翼」泡坂妻夫(光文社)読了:感想は後日


2001年11月15日(木)

◆「大阪圭吉の感想にでてくるQQって何ですかあ?」という質問を受けたので書いておきますと、「クイーンの定員(Queeen's Quorum)」って奴でして、エラリー・クイーンが、探偵小説市場もとい史上の重要な短編集であるとして認定したリストであります。単にクイーンが「俺は、こーんな貴重な本をもっているんだぜ」という自慢のために権威付けしたという噂もあります。頭文字をとって、QQと言うのは古本屋さんの符丁のようなものです。詳しくは風読人さん労作をご覧ください。
◆うーん、久しぶりに早く会社を出る事ができたので、本当に久しぶりに、逆方向のブックオフを攻めてみる。なんにもない。ちぇ!安物買いでこんなところ。
「比翼」泡坂妻夫(光文社:初版・帯)850円
「聖金曜日」サラントニオ編(創元推理文庫)100円
「庭には孔雀、裏には死体」Dアンドリュース(ハヤカワミステリ文庫)100円
「チャーチル・コマンド」Tウィリス(創元推理文庫)100円
「Dの虚像」湯川薫(角川書店:帯)100円
あらら、泡坂妻夫の今年の新刊が半額落ち。初版で帯もついているし、ここは850円節約。かなりの長きに渡り「出たら買い」だった泡坂妻夫も、曾我佳城全集の姑息な商法にウンザリして、慌てて買わなくなってしまった。なんでこれが新刊なんだ!!理解できん!とか、ぼやいているうちに初版が書店から姿を消しちゃったんだよなあ。くそう。という訳で今は「意地でも帯付き初版を古本屋で拾ってやる!」と心に誓っている私なのであった。「チャーチル・コマンド」も余りにみなくなってきたので拾う。なんと20年も前の新刊だったのねえ。猫マークが微笑ましい。
公約につき新刊を1冊。
「日曜日には鼠を殺せ」山田正紀(祥伝社文庫:帯)400円
おお、なんだか「バトル・ランナー」そのものではないかいな。題名もパクリだし、こういう巨匠にこういう事をやられると辛いなあ。

◆「美女と金猫」クリホード・ナイト(三都書房)読了
かつて翻訳書が「リトモア少年誘拐」しかなかったがために、Hウエイドが猫マークの作家だと思われていたように、クリフォード・ナイトも、森事典が出るまでは、甲羅に苔の生えたマニアの間でも「猫」なサスペンス系と思われていた。まあ、ナイトの翻訳書が出ている事自体、相当のマニアでなければ知る術もなかったのであるが。なにせ、この本、昭和25年12月の出版で、版元も聞いた事がない会社。何かの叢書の一部と言うわけでもない。最近では「ミステリ美術館」で書影が拝めるようになったものの、戦後翻訳推理の中でも十指に入る希書と言ってよい。ただ中味は、あの表紙絵から想像される通俗サスペンスの域を出るものではない。仮に旅情豊かなフーダニットである初期作が紹介されていれば、更に紹介が進んだように思われてならないのだが。とりあえず、現時点で唯一のナイトの翻訳作品はこんな話。
百万長者の三代目で放蕩男のジェフ、彼の4人目の妻アミイは、5年も持った結婚を振り返り、嘆息する。だが、文無しスレスレだった夫婦に大金が降って湧く。二人が身を寄せるジェフの従兄弟ランバートの別荘近くのボート小屋から百万ドルを越える金が出てきたのだ!どうせ、銀行には預けられない闇金と割り切ったジェフは早速、何万ドルかを寸借りのつもりで持ち出し、嫌がるアミイとはぐれ猫のサニイとともにヴェガスに繰り出す。だが、ルーレットの罠に嵌まり込むジェフの姿を見てアミイの心の中で、何かが切り替わる。出し抜く女。裏切られる男。殺す女。追う男。追いつめられる女。殺される男。そして、見ている猫。巨万の富を巡る欲望の狂想曲のコーダは果して誰が奏でるのか?
典型的な悪女もののサスペンス。語り口は軽妙で、リーダビリティーの高さは太鼓判。当時の日本の世相を考えると、実に洒落た犯罪読物と受け取られたに違いない。一柳家の次男坊が、金田一耕助に「貴方は、クリホード・ナイトという作家は読まれましたか?いや、実にスマートな話ですよ」と説教のネタに使いそうな作品である。ただ、今の目でみれば、チェイスあたりに比べるといかにも健全でありパンチに欠ける。今更復刊される可能性もなければ、その必要もない賞味期限切れの作品であろう。ディープなコレクター以外の方は大枚叩く必要はございません。


2001年11月14日(水)

◆ちょっとだけ残業して、なおも職務に励む熱血年配の方に「それじゃあ、そーゆーことで」と言い残し、八重洲ブックセンターへダッシュ!!今日こそは買うのだ、「ミステリ美術館」を買うのだ。「ミステリ美術館」を買うのだ。「ミステリ美術館」を買うのだ。「ミステリ美術館」を買うのだ。You're Going To Buy 'Mystery Art Gallery'そういえば昔そんなユリゲラーのCMがあったよなあ。はあはあ、急げ急げ、今日こそは買うのだ。「ミステリ美術館」を買うのだ。と、たどり着いた翻訳書棚を探すことしばし、おお!なんと平積みのところに、最後の1冊が!!!そのまま掴んでレジへゴウ!さらば5000円札、さらば新渡戸稲造!願わくば、我、太平洋の橋とならん(新渡戸稲造)。そしてこんにちは、災厄の町。配達されない3通の手紙。ミスター・クイーン、あなたは私を殺すのか(松坂慶子)。何がなんだか分かりませんが、買ったのはこれ!
「ミステリ美術館」森英俊(国書刊行会:帯)4200円
自宅へ帰って少しだけパラパラと眺めてみる。おおおお、あんな本や、あんな本や、あんな本まで!!いやあ、凄い。凄すぎて自分でも挑戦してみようとは絶対に思わない。正直なところ、デザイン的に優れたものよりも、下品な具象画(それも綺麗なお姉さん)が好みなので、値段を考えれば、全部が全部欲しいとは思わないのである。はあ、剣呑剣呑。なんて危険な本だろう。今度はペーパーバック編を出してください。>森さん
◆実は帰宅すると、もう1冊嬉しい本が到着していた。
「PEGANA LOST Vol.7」(西方猫耳教会・私家版)1000円
非常に丁寧な梱包に感激。プロでもこうはいかない、という几帳面な防水対策に感謝の念がこみあげてくる。内容の詳細は、土田館長の掲示板ログやら、ご本家サイトとかをご覧頂くとして、今の日本では最精細なロード・ダンセイニの作品・翻訳リストに、戦争小説 編が収録された、超々お買い得同人誌。これは、20年後にマニアが血みどろの争奪戦を繰り広げる伝説の同人誌となるであろう。いやあなんとか買えて、よかった、よかった。んで、こうなると、抜けている5号、6号が欲しくなっちゃうんだよなあ。

◆「篠婆 骨の街の殺人事件」山田正紀(講談社NV)読了
山田正紀の新シリーズ。一筋縄では行かない作者らしい「トラベル・ミステリ」。歪んだ歴史軸上の現代日本を舞台に、「オズの魔法使い」のキャラクターを纏い、一人の超人の記憶を引き摺った男女が、因縁の出会いを重ね、不可能な「トラベル」のミステリを解く、という趣向のようで、既に5部作が約束されている。その第1作はこんな話。
舞台は、篠山を思わせる篠婆という架空の町。関西人にとってはお馴染みの(最近「宝塚線」などという小洒落た呼称になった)路線で、死んでいる筈の男がトラベルする。被害者は、粗忽長屋の主人公の如く、自分が死んでいる事に気がつかないという死んでも直らないおっちょこちょいだったのか?檻の中の臆病なライオンはトラベルミステリの締切に追われ、壊れたドロシーは賑やかに笑う。頭の空っぽな案山子である秀才キャリアは有り得ざる死体に困惑し、魂のないブリキ人形は闘いの舞いを虚空に描く。破綻する伏線、リレーされる筈のレプリカ、すれ違う殺意、投げやりな路線、消えたゼロ戦、そして、喪われようとする伝説の窯元、骨の街に因縁の劫火が降る夜、謎は解かれ、旅は始まる。虹の向こうの4つの街を目指して。Goodbye Yellow Brick Coffin.
謎の提示は、いつもの如く巧い。が、解法は、やや無理目。不可能を可能にするため用意された度外れた粗忽者を許せるかどうかが評価の分かれ目で、単品として見た場合は水準作。だが、シリーズ第1作としての魅力は充分。このキャラ設定の上手さには舌を巻く。トラベルミステリをなんとしても書かねばならない作家志望者という設定が「メタ・トラベル・ミステリ」である。つまるところ「解かれた謎よりも、解かれない謎の方が魅力的」という作品なのであろう。早く次を出してくだされ。


2001年11月13日(火)

◆朝は朝食会、夜は残業。掲示板の方で、著者御本人の宣伝を含め、大いに盛り上がっている森英俊氏の「ミステリ美術館」は買いに行けずじまい。なんとか新橋近辺の本屋は覗いてみるのだが、さすがにここまでの趣味の本をおいている店はなかった。佐伯俊夫(角川文庫の山風の表紙絵の絵師)の画集とかはあるんだけどなあ。ううむ。悔しいので、掲示板でおちゃらける。ぶう。
◆残業を終えて帰宅すると、1冊賜り物。
「ネット探偵局の推理簿」新保博久&逆密室(ワニ文庫:帯)頂き!
筆者の一人である川出正樹さんからの賜り物である。ありがとうございますありがとうございます。

◆「ムジカ・マキーナ」高野史緒(新潮社)読了
第6回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作。なぜ、この傑作が大賞を採れなかったかというと、対抗に「鉄塔武蔵野線」と「バガージマヌパナス」のダブル大賞があったからで、これはもう御気の毒としか言い様がない。丁度「大いなる幻影」と「華やかな死体」のダブル受賞で「陽気な容疑者たち」と「虚無への供物」が落選した第8回江戸川乱歩賞並みの激戦だった訳である。とまれ、作者はその後も順調に作品を発表しつづけ、最近では肩の力を抜いたシリーズものにも手を染め、作家として一本立ちしており、慶賀の至り。閑話休題、その発想といい、文章力といい、構成力といい、どれをとっても世界のA級ファンタジーのレベルに達している「埋れた傑作」はこんな話。
時は1870年、おりしもナポレオン3世率いるフランスと宰相ビスマルクの智謀により領土拡大を続けてきたプロイセン王国との間に闘いの火蓋が切られた頃、プロイセンの盟友国ベルンシュタイン公国の領主たるベルンシュタイン公爵はウイーンに在った。公の気掛かりは、かつて公国の科学者が開発し葬り去った激烈な麻薬<イズラフェル>。それが<魔笛>と名を変えて、音楽の都の才能を汚染しているというのだ。放たれる密偵。しかし、黒い翳は、公のお気に入りであるウイーン・フィルの若き指揮者フランツ・ヨゼフ・マイヤーにもその魔手を伸ばしていた。イングランド資本により運営される<プレジャー・ドーム>に秘められた謎とは?抜け殻となった音楽家たちの死体が物語るものは果して?時代の空気にたゆたう序盤、不安から狂騒へ駆け上がる中盤、そして音楽が総てを吸い尽くす終盤。封印された破壊プログラムがムジカ・マキーナを止める時、火柱は天を目指し、物語もまた天の音楽を目指す。
虚実入り乱れるムジカ・スティーム・パンク。この作者の知性と感性には、ほとほと圧倒される。己の無知を斯くも思い知らされるエンタテイメントは珍しい。盤石の史実と音楽的素養の上に、華麗かつ耽美にして醜悪なる虚構の魔宮を組み上げていく力技に脱帽。場面転換の鮮やかさ、多層的なプロット、周到な伏線、読み飛ばしを許さない重厚さと巻を置くあたわざるストーリーテイリングが同居した希有の娯楽読物である。いやあ、これを絶版にしておく出版社の気がしれない。第8回乱歩賞で言えば「虚無への供物」に相当する作品である。絶賛。


2001年11月12日(月)

◆仕事が修羅場。昼休みに近所の本屋を覗くのが唯一の息抜き。
「篠婆 骨の街の殺人」山田正紀(講談社NV:帯)800円
SFサイトへの100の質問で、出たら買う作家に名前を挙げた手前、買わなきゃね。と思ったら、祥伝社400円文庫でも出てるじゃないの。ありゃりゃ。
◆小林文庫オーナーが久しぶりに掲示板に来てくれた。大阪圭吉普及促進委員会名誉会長としてのお運び。ああ、こんなに面白い作家と知っていれば、以前、拙宅に大阪本を持ってお越しの折に1編でも2編でも立ち読みさせて頂いておくのでした。後は手元に「海底諜報局」しかないと思うと実に寂しうございます。なにせ、単価としては、私が出した最高額の本なので、文字通り「勿体無くて読めないのでございます」とほほほ。
◆奥さんに「ぶたぶた」を読ませているのだが、結構気にいっているようである。「他にも面白い本はあるの?」と云われたので、「1冊心当たりはあるんだけど、きっと泣いちゃうから貸さない」と答える。「えー、なんていう本よ」と聞かれ、隠す必要もないと思って「『西の魔女は死んだ』」と教えると、「えーーー、なんで知ってるの?この間読んだところだよ〜。泣いちゃったさあ」と今度はこちらがビックリするような答が返ってきた。「うーん、内緒で魔女修行してたのになあ」だって。剣呑剣呑。

◆「海賊丸漂流異聞」満坂太郎(東京創元社)読了
第7回鮎川賞受賞作。受賞後それなりに活躍する鮎川賞作家の中では珍しい「一発屋」。乱歩賞で言えば長坂秀佳的存在。サントリーミステリー大賞の土井行夫のような死後受賞じゃあんめえな、という疑惑が湧くほどに、その後の噂を聞かない。この年の対抗馬は、門前典之の「死の命題」やら、柄刀一だったりするわけで、思えば罪作りな事をしたものである。鮎川哲也賞というのは、ある意味、他の賞からは外れるほどに本格に淫した作品に与えるべきであり、そつの無さを評価するのは、他の賞に任せておけばよいような気がしてならない。
中味は、黒船直後、御蔵島に漂着した米国商船バイキング号の密室で起きた船長殺しと、島の名主殺しの謎を、通詞役のジョン・万次郎が解決するというお話。市左衛門という若い書役の目を通して、異国の風俗とその空気に馴染む万次郎の姿を描いた江戸時代のファースト・コンタクトものである。また、「積み荷」が清国の労役者という設定も話に膨らみをもたせ、日中米の文化と歴史、そしてそれを越えた人としての交感ぶりが爽やかな読後感を保証してくれる。
文章も達者で、シナリオライターという職歴は伊達ではないと感じさせる。また考証もしっかりしており、安心して読める。もう一歩踏み込んで、殺人と時代性が有機的に絡まれば「異郷の帆」や「伯林一八八八年」並みの名歴史推理小説としてミステリ史にその名を残したであろうと思われる作品である。逆に言えばそこが、物足りないだ。不可解な殺人の発生が、この時代でなかればならなかった必然性に欠けるのだ。「異国船の漂着」という異常事態が殺人事件を呑み込んでしまいその卑小性を際立たせてしまうのである。まあ、門前典之や柄刀一に、プロ作品のレベルの高さを思い知らせるという意味ではその役目は立派に果たしたといえるのかもしれないが。腹は立たないが、ミステリとしての華はない作品。「殺人事件も出てくる歴史小説」として楽しんだ方がよかろう。乱歩賞向き。


2001年11月11日(日)

◆「たまには、別宅に行ってきたら」という奥さんのお言葉。というか、本宅の方に、本が溜まり過ぎたので、そろそろあちらへ持ち込めという事らしい。というわけで、70冊程度を袋に詰め込み、別宅へゴウ!それにしても何故に本というのは斯くも重たいのだろうか?ひいこら言いながら、搬入を終えて、部屋の換気を行いながら、溜まった郵便物を見て行く。落穂舎からカタログが着いていたが、鷲尾・大河内・九鬼あたりの値段に絶句。ううむ、これは何?数年前までは、ここまで酷い値段はついていなかったように思うのだが、、この辺りの作品に3万も4万も出せないよなあ。
◆徐に、持ち込んだ本を然るべき位置に整理し始めると、それ以外の事が気になりだすのはお約束。とにかく原書の無法地帯ぶりにうんざりして、せめて同じ作家の本は固めて置こうとするが、遅々として進まない。一体、あたしゃグリン・カーだの、ロイ・ハートだの、ジェニー・メルヴィルだの、何冊持っているのだろう?
◆なんとか、原書に見切りをつけて、次に雑誌コーナー。今度は、先週読んだ大阪圭吉が余りに面白かったので、わずかばかり所持している「新青年」に文庫未収録の大阪作品が載っていないか、探し始める。結局「三の字旅行会」と「赤いスケート服の娘」の2作を発掘して、その場に座り込んで読み耽る。前者は、奇妙な三尽くしの乗客と案内人に纏わる奇譚。一種のコンゲームものだが、犯罪の質がいかにもセコイ。殺人を扱えなくなってきたということなのだろうか?後者は、視覚効果抜群の防諜もの。ページ数の制限でもあったのか、もっぱらドラマは、探偵のしゃべくりに終始する。まあ、洒落で買っただけの「新青年」も偶には役に立つじゃないの、と暫し戦前の探偵小説に思いをはせる。
◆最後に和書の新書だの、文庫だの、単行本だのを、適当に積み上げていくのだが、ここで、「一体ルース・レンデルって、どこまで買ってあったのか?」が猛烈に気になり始める。あれこれ引っくり返すが、どうやら、角川文庫の「求婚する男」「眠れる森の惨劇」「哀しきギャログラス」あたりが見当たらない。扶桑社文庫では「殺意を呼ぶ館」がないらしいという事が判明する。というか、これ以上探索するよりも、買い直した方が早いと割り切る。なんだか、ちっとも片付いてないような気がするのだが、きっと気のせいに違いない。
◆一応、近くまで来たのでブックオフ・チェック。安物買いに走る。
「求婚する男」Rレンデル(角川文庫)100円
「オペラ座の怪人」Gルルー(早川ミステリ文庫)100円
「時の扉を開けて」Pハウトマン(創元SF文庫)100円
「絶海の訪問者」Cウィリアムズ(扶桑社文庫)100円
「マーベリー嬢失踪事件」Rロゴウ(扶桑社文庫)100円
「小説ゲゲゲの鬼太郎3」水木しげる(講談社X文庫)100円
d「不潔革命」村田基(シンコーミュージック)100円
早速レンデルとヴァインを捜すが、拾えたのは1冊のみ。「オペラ座の怪人」は黒白さんが買っていたのに刺激を受けて。なんと、日影丈吉の新訳じゃないの。これは迂闊でした。創元推理文庫で持っているからいいやあ、と完全にスルーしてました。膳所さん一押しのCウイリアムズもとうとう100円に落ちてきたようで、ラッキー。今日はダブりは止めようと思っていたら、かつて思い切り苦労させられた村田基の効き目があったので拾う。まあ、引き取り手には、事欠かないだろう。100円だしさあ。

◆「本の殺人事件簿1」Sマンソン編(バベル・プレス)読了
<Murder by the Book>といえば、レックス・スタウトやら、ジェニファー・ロウの長編作品を思い浮かべるのだが、これはビブリオ・ミステリ短篇を集めたアンソロジー。年度別や、書き下ろしではない、AHMMとEQMM掲載作から採られた正統派テーマ別アンソロジーである。ビブリオ・ミステリファンには堪らない趣向で、翻訳学校の卒業制作という形であれ何であれ、この翻訳出版自体は大いに寿ぎたい。テーマ別だけあって、ラインナップも綺羅星であり、サーバーの「マクベスの謎」のようなふたたび入手困難になっている傑作を紹介しているもの頼もしい。この本は、買いだと思う。
「ボディ・ランゲージ」(ビル・ジェイムズ)大学の文学講座に乱入した拳銃男との珍妙な文学談義が爆笑を誘う「死に至る専門バカ」の物語。メタ・ビブリオ・ミステリ。
「作家とは……」(ロバート・セネデッツ)売れっ子作家が企んだ妻殺しの完全な計画の発動と破綻を描いた倒叙推理。コロンボの「構想の死角」やら「第三の終章」を期待すると肩透かしに逢うが、読後感はニヤリ。職業病ここに極まれり。
「パルプマガジン・コレクター」(ビル・プロンジーニ)名無しのオプ垂涎、驚異のパルプマガジン・コレクター殺しの手口とダイイング・メッセージに迫る古本者の物語。オチはアメリカ人にしか判らんネタ(日本で喩えれば「両手でチョキを作って死んでいたら、犯人はバルタンというフランス人だ!」みたいなものである)。まあ、プロンジーニがとことんネタに詰まって、自分の書棚を見回してでっち上げた話であろう。
「ジェーン・オースティン殺人事件」(ミシェル・ノールデン)病気恐怖症の女探偵が、ジェーン・オースティン協会に纏わる家族の殺人の謎を快刀乱麻で解き明かす。ミステリとしてのタメがないものの、キャラが立ち捲くっていて読ませる。ビブリオ・ミステリの見本のような作品である。
「マクベスの謎」(ジェームズ・サーバー)「マクベス」とミステリだと思って読み、その殺人に新解釈を加えるという名作中の名作。何度読んでも笑える、エバーグリーンなビブリオ・ユーモア・ミステリ。
「犯罪作家とスパイ」(EDホック)ランド、CWAの作家連と爆弾殺人に巻き込まれる。甦る過去と新しい殺人というお馴染みのテーマ。フーダニット興味に加え、ランドの見事な逆襲ぶりも見所。ホックの旺盛なサービス精神を見せ付ける佳編。
「ハラルド警部補と『宝島』の宝」(マーガレット・マロン)「宝島」を巡るお宝捜しの物語。ツイストの効いた正統派の「お宝捜し」であり、「ほほう、まだこういうネタがあるのか」と感心した。
「大いなる遺産のゆくえ」(ジョン・ネルソン)こちらは「大いなる遺産」を巡る、大いなる遺産の物語。自殺者の死の動機に迫る警察官の慧眼が、スクルージーな謎を解く。欧米で如何にディケンズが当たり前に読み継がれているかが伺い知れて吉。
「ザ・ヒット」(MZリューイン)列車の中でのナンパ法螺吹き合戦を描いたケッ作。何も申しません。読んで笑え。
「ウッドパイルの秘密」(マイクル・イネス)精神分析医殺しの真相は、ある早熟な詩人の出世作へと収束していく。ミステリーとしての組み立てが巧い。いかにもイネスらしい「詩人の夢」が描かれている。イネスファン必読。
「女の声」(ジョゼフ・ハンセン)老作家を殺したのは、喧嘩別れした娘?熱烈な崇拝者の青年?酷評によって復活への道を閉ざされた作家?それとも?ハンセンってこんなに面白かったのかと見まがう実に端正なフーダニット。お勧め。