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2001年10月20日(土)

◆朝4時から起き出してBBSの過去ログ500書き込み分をせっせと猟奇蔵に移設。はあ、これで本ページに1M分の余裕ができた。さあ、感想書かなきゃなあ。
◆あ、夜のうちに19万アクセス到達致しました。ありがとうございますありがとうございます。20万まであと一息、今後とも倍旧の御支援、お立ち寄りのほどを。
◆ネット巡回していて、茗荷丸さんの掲示板で新庄節美・男性説に遭遇。あっりゃあ、そうでだったんだあ!!と慌てて一昨日の日記を修正。こりゃまった、どーも失礼いたしました。
◆ネット巡回を終え、今度はダンボール箱のゴミ出し。これが馬鹿にならない作業。更に食器を洗い、ガスこんろにスペースガードを取り付け。いやあ、朝からひと働きしちゃったぜ。
◆昼からは余りのお天気の良さに誘われてお散歩。奥さんの生まれ育った界隈をそぞろ歩く。途中、新たな古本屋発見か?と色めき立つ事2回。なんと、どちらも既に廃業していた模様。一軒は自転車屋に化け、もう一軒は空きテナント状態。とほほ。唯一、開拓したお店には、ゲームとエロ本と漫画しかなかった。それでも歯を食いしばってエロ本コーナーで友成本が落ちていないかをチェック。何もない。とほほほほ。まあ、書店経営も女性ヌード写真集と漫画に支えられている昨今、小さな古本屋が手っ取り早くそちらに流れるのも無理はないと溜め息をつく。しかたがないので、いつものお店をチェック。先週見たところなので棚に動きはなく、サンリオSF文庫も売れ残ったままである。何も食指をそそられる物はなかったが、1冊だけ拾う。
「アリスのティーパーティ」ドーマウス協会・桑原茂夫(河出文庫)180円
なんとも、さようスナークは、なんともブージャムだったのだ、って感じ(>特に意味はない)。
◆夜は、「42歳の修学旅行」「世界ふしぎ発見」「続・エンデの遺言」とぶっ続けでテレビ視聴。「42歳の修学旅行」は、さすがにNHKの賞狙い作品だけあって泣かせ処を心得ている。最初の1分を見たために途中で止められなくなってしまう。要素を詰め込み過ぎた感は免れず、些かあざといものの、しっかり泣かされた。意外にも賀来千賀子が腺病質のおばさん役を好演していたのが印象的。あれは地か?田中邦衛は上手すぎ。
「続・エンデの遺言」は、エンデの名を借りた「NHKスペシャル/マネー<番外編>」といった造りのドキュメンタリー。勉強になりました。
「世界ふしぎ発見」は、今週パスティーシュした者の務めとして見たが、やはり記憶のみで作ると細部が微妙に異なる。反省。
◆9月下旬に「カックー線事件」と「青髯殺人事件」の感想をアップ。ああ、書いても書いても追いつかない。

◆「世界の終わりの物語」Pハイスミス(扶桑社)読了
中年になると「恥」の概念が随分と変わってくる。若い頃は「読んでない」というのが「恥」だったものが、「へっへーん、どーせ、おいらは積読野郎だよ。読んでない本の数なら人には負けないぞ」という域に達してしまうようである。というわけで、私が初めて読むハイスミス作品。「え?『太陽がいっぱい』も読んでいないの?『見知らぬ乗客』は?嘘でしょ?ねえ」いや、嘘ではない。そもそも、ハイスミス作品というのは、かつてはその殆どが絶版と未訳だったのだ。それが、初期作から晩年作まで万遍なく新訳が出され、復刊が続き、というのは、ここ10年ぐらいの間の話なのである。それまで、ハイスミスを読んでいないというのは、「エマ・レイサンを読んでない」という程度の恥かしさに過ぎなかったのである。
閑話休題。まあ、最初に読むにしては、とんでもない作品集を読んでしまった、というのが実感。全編これ冷たい悪意の固まり。若島解説でも、言葉を選びながらではあるが、「読まなきゃよかった」という詠嘆が綴られている。逆にいえば、これ以外はそれなりの作品なのであろうという安心感もある。まあ、実際のところは、「心ある人」から訴訟を起されそうな作品の幾つかはニヤニヤしながら読んじゃったんだけどさあ。以下、ミニコメ。
「奇妙な墓地」癌の生体実験を行った遺体が埋まる墓地で起きる異形の突然変異。人間の思惑を超えた種の暴走と擬人化は愚かさの墓碑銘。そして、墓参りの列は絶えない。小説足り得ていない「自然の逆襲」もの。 「白鯨II」善良なる鯨が人間と遭遇するたびに無敵の海魔としての力を得てしまう運命の皮肉を描いた「動物小説」。って、どこがやねん?エスカレートする偶然が必然に思えてくる不思議。
「ホウセンカ作戦」放射性廃棄物処理に悩む政府の奇策が、カタストロフへの序曲を奏でる。大胆な計画と杜撰な実態。あってはならない事の頻発に、良心回路は停止する。人類の終りを一足お先の死体が笑う。どこぞの国の臨界事故を彷彿とさせる作品。この主人公の立場は、全人類の立場でもある。
「ナブチ、国連委員会を歓迎す」発展途上というよりはハッテントット>おい!というぐらいに趣味の悪い途上国おちょくり噺。文明人の驕りが未開人の見栄に呑み込まれ、繰り広げられる熱帯の地獄絵図。思い切り笑わせて頂きました。ごめんなさい。
「自由万歳!ホワイトハウスでピクニック」気違いと犯罪者を「解法療法」してしまったアメリカの大混乱を底意地悪く描いた問題作。何故かアメリカンドリームとなってしまうネジの緩んだ「クレオパトラ」が可笑しすぎ。よくもこんな作品が出版されたものである。
「<翡翠の塔>始末記」高級マンションに出没するゴキブリたちの凱歌。キングにも似たような設定はあるが、パニック度はこちらの方が上。長閑な結末にニンマリ。でも、実際にあったら相当厭だな。
「<子宮貸します>対<強い正義>」代理母を巡る否定派と肯定派の論争は、やがて全米を巻き込む闘いへと発展する。女でなければ書けない話だが、女だからといって書いていい話でもなかろう。これも、起承転で終わってしまった小説モドキという印象。
「見えない最期」200歳の老婆が、ただ生かされている未来。自己目的化した命の長らえを、それでも人は求めるのか?永遠の煉獄に繋がれた魂に救いなどない。ミニスケールであれば、世界のどこででも起きている話だけに強烈な印象が残る。いやまあ、これもオチはないんだけどさあ。
「ローマ教皇シクストゥス六世の赤い靴」教皇が中南米で起した熱狂。それはたった一足の血染めの靴がもたらした。縁なき衆生には、今ひとつピンとこないホンキイトンクな宗教話。お気楽な教皇のキャラクターが印象的。
「バック・ジョーンズ大統領の愛国心」アル中のファースト・レディと無責任な大統領が、ホロ・コーストを招来する。パニックボタンの彼方で、人々の阿鼻叫喚と作者の哄笑が響く。ううむ、アート・バックウォルドを更に泥臭くしたような話ですな。


2001年10月19日(金)

◆知っている人は知っているが、私は毎朝2つ手前の駅で降りて(2駅といっても総武・横須賀線の2駅なので結構な距離があるのだ)ぷらぷらと会社までウォーキングしている。だいたいアホな事を考えるのは、この時間帯。で、今日は「創元推理少年文庫」構想を膨らませていたのであった。既に掲示板に書き込んだネタだけど(稀に日記だけ見る人もいらっしゃるので)こちらにも貼っておこう。この記述は「大嘘」なので真に受けないように。

創刊決定!創元推理少年文庫、遂に登場!!

<13日のゴールデン・サマー>

901「覆面紳士」高木彬光
902「怪人緑ぐも」島田一男
903「都会の怪獣」楠田匡介
904「風さわやかに:一夫と豪助シリーズ」鮎川哲也
905「名探偵チビー全集1雨あがり美術館の謎・虹色プールの謎」新庄節美
906「名探偵チビー全集2首なし雪だるまの謎・泣き虫せんたく屋の謎」新庄節美
907「名探偵チビー全集3一角ナマズの謎・黄金カボチャの謎」新庄節美
908「名探偵チビー全集4(新作・完結編)」新庄節美
909「陽気な奇術師の秘密」エラリー・クイーンJr.
910「消えた被害者の秘密」エラリー・クイーンJr.
911「紫色の鳥の秘密」エラリー・クイーンJr.
912「フレンチ警部と少年探偵ロビン」FWクロフツ
別巻「復刻:別冊宝石・少年探偵」

ラインアップは、まず順当に日本のビッグネームの超入手困難作をずらり、加えて新しいところから名探偵チビー全集を2作ずつの合本で、そこにチビーが両親の失踪の謎に挑み、感動の再会を果たす完結編付きも書き下ろしでつけちゃう!(>勝手にきめんな)
そして、創元と言えば海外ものを忘れてはいけない。早川から出ていない未訳のクイーンのジュヴィナイル3作を一挙訳出。実際のところ、既に私家版で翻訳はあるので「後は出すだけ」状態。更に、クロフツの未訳長編3作の中から作者唯一のジュヴィナイルを挿し絵もそのままに出版!おおお、これは楽しみだああ。
背表紙には、懐かしの整理マークをあしらい(ぺろぺろキャンディー)、通し番号を900番台で復活!
シリーズの愛称を、クイーンの片割れであるダネイがネイサン名義で書いた少年時代を題材にとった私小説「ゴールデンサマー」(まあ、ただの「欲張りユダヤ商人の冒険」という噂もなくはないが)から頂き、<遠い昔を思い出す13冊>の想いを込めて「13日のゴールデン・サマー」と呼ぶ。
んで、その最凶の13冊目には別巻として、「貼雑年譜」30万円という偉業を成し遂げた東京創元社ならではの企画。宝石で最も入手困難と言われる別冊宝石の「少年探偵」を復刻!!
どうよ!?(>って、誰に聞いている?)
◆風邪気味で仕事も古本買いも力入らず。就業後真っ直ぐ帰宅。早目に就寝。購入本0冊。

◆「長い長い殺人」宮部みゆき(光文社)読了
同じ素材から、全く別の料理が出来上がるのを見るのは楽しい。それはつまり「料理の鉄人」の面白さである。「今日のテーマは!!『三浦和義』!!」と言われて「三浦和義事件」を書いてしまった島田荘司は、つまりは真面目な人なのであろう。それに引き換え、我らが宮部みゆきは、軽やかに「長い長い殺人」を著した。それも、「蚤の日記」の如き、懐中からの独白でもって、長い長い殺人の物語を綴らせるのである。つまりは、とことん小説家なのである。こんな話。
これは「財布たち」によって語られる連続殺人の記録。財布たちは持ち主の鼓動と苦悩に一番近いところにいる。持ち主は財布たちの中にに何かしら大事なものを仕舞う。その一つ一つに人生が刻み込まれ、人々は哀しみ、嘆き、喜び、震え、そして今日の日を生きていく。口開けは、ある轢き逃げ事件を捜査する刑事の財布。読者は、被害者の妻が巨額の保険金を得た事を知る。
二番目は、脅迫者の財布。読者は、被害者の妻が強請られた事を、そして財布の持ち主が殺された事を知る。
そして、三番目は少年の財布。読者は、人当たりのよい青年実業家の翳を知る。
十の財布が次々に語るのは、希代の殺人カップルの非道?それとも、更なる悪意の結晶?鉄壁のアリバイの向こうでマリオネットはほくそ笑み、探索者たちの怒りは深い罠を張る。そう、Purseは真実をPursueするのだ。
単調なクライムノベルを技巧のみで膨らませた作品だと思った貴方は既に作者の術中に落ちている。なんという緊張感、なんというドラマ、そしてなんというツイスト。これほどに善と悪とを明瞭に書き分け、それでいて意外性まで確保してしまうとは。またしても宮部みゆきの勝利。またしても、やられた。


2001年10月18日(木)

◆ちょっと神保町。とある店で、ポケミス300円均一に出くわす。ボワナルだろうが、ラビだろうが、悪党パーカーだろうが、300円均一。ちょっと棚上の未整理本を見せてもらっているうちに話が弾む。 「シムノンはどうですかねえ」
「今はバクチでしょ。文庫落ちしてるし。」
「うんうん」
「まあ、37巻から50巻までですかねえ」
「おお、やっぱりそれですかあ」
「おおおお、これは洋版のナポソロ」
「んーー、やっぱり目にとまりましたか」
「いやあ、これはないですよ」
「これが括りの中に入ってると業者同士で競り出しますからねえ」
「泰文社で見たときは3000円ぐらい。神保町BCで見たときは5000円ぐらいでしたか」
「そうそう。でも、そういう値段はつけたくないなあ、、、1500円ぐらい」
「おお、いい値ですねえ」などと盛り上がる。
最終的には話のきっかけとなった「ボロゴーヴはミムジイ」を格安でお譲り頂く。すっかり、こういう話とは無縁になったかと思っていたけど、やっぱり楽しいじゃん。神保町で拾ったのはこんなところ。
「天空を求める者」草上仁(早川書房:帯)400円
d「細い線」Eアタイア(早川ミステリ文庫)50円
「傷痕のある男」Kピータースン(角川文庫)50円
d「不死鳥を殪せ」Aホール(ポケミス・映画カバー)300円
d「ボロゴーヴはミムジイ」Hカットナー(早川SFシリーズ)600円
草上仁の未文庫化長編の帯付きが嬉しいところ、と思ったら蔵書印付きでした。しゅん。ま、いっか、読めりゃ。「不死鳥」はジャケ買い。同じ棚には「ドクターNo」の帯・簡易函という珍しいものもあったが、さすがにこれは1000円の値がついていたのでパス。ああ、なんて普通なボク。
◆あ、新橋駅前で古本市やってたんじゃん。最終日じゃん。何にもあるわけないじゃん。まあ、古本並んでいるのを見ているだけで楽しい。購入本0冊。ああ、なんて普通なボク。

◆「巨匠の選択」Lブロック編(ポケミス)読了
数あるアンソロジーの中でも、編者がこれほど仕事をしないアンソロジーも珍しいであろう。米国環境庁推薦省エネ大賞受賞作と茶々の一つもいれたくなる作品集。なにせ、ブロックのやった事といえば、めぼしい巨匠たちに「自分の自信作と他人の作で一番お気に入りの作品を挙げてくれ」という手紙を出すだけだったのだから。「アメリカの推理小説そのもの」といわれるクイーンがアンソロジストだったお蔭もあってか、米国ではアンソロジーの地位は高いようで、8人の巨匠たちも乗りに乗って自分の登板回に飛びっきりの豪速球とお気に入りの隠し玉をぶつけてくる。「へえ、あの作家が実はあんな作品を評価していたのか」という楽しみ方もできるメタ・アンソロジーとでもいうか、1回表から9回裏まで、中味のぎっしり詰まったオールスターゲーム。ただ、現代のミステリシーンを象徴するかのように、ガチガチの本格は少なく、角川文庫の北村&有栖川の両アンソロジーと比較すると、日米の差が際立つようで面白い。
「ウエディング・ギグ」凶悪非情の女ボスの誕生を一日の血の祝宴で語りきった作品。世界最少の「ゴッド・ファーザー」パスティーシュかもしれない。
「第二級殺人」母親殺しの容疑を掛けられた青年の弁護を引き受ける被害者の旧友。女の怖さ、男の脆さが凍るラストに戦慄せよ。
「ミス・オイスター・ブラウンの犯罪」世捨て人の如き老姉妹に隠された謎とは?使い切れないほどの肥料のまとめ買いに店主の疑惑は膨らみ、そして好奇心は猫をも殺す。現代短篇ミステリーの収獲。文句なしの傑作。
「悪党どもが多すぎる」ドートマンダーは短篇でもドートマンダーである。周到な計画、思いがけない破綻、エスカレートするシチュエーション、土壇場の知恵、そして鮮やかな逆転。一話で二度美味しい贅沢な銀行強盗もの。
「くたびれた老人」中堅作家が作家パーティーで出会った老作家の正体とは?結末はお約束の範囲だが、エリスンにこの話を書かせる切っ掛けとなったとある出会いの不思議に打たれる。
「13号独房の問題」古典。これを選ぶエリスンは偉い。しかも、彼は乱歩の「人間椅子」も同じレベルで評価しているらしい。ほんまにエライやっちゃ。
「血脈」競馬狂いの親父を憎みきっていた自分が競馬に狂い、人生を狂わせる。そして歴史は繰り返す。ディック・フランシスには書けない競馬の暗黒面。傑作。
「青いホテル」異郷の客を迎えた田舎のホテルで、繰り広げられる「誇り」と「すれ違い」の物語。運命の皮肉と残酷に翻弄される「真実」の脆さを活写した逸品。
「もうひとつの部屋」孤独な離婚女性の部屋に忍び込む醒めた悪意と狂気。二重映しの鏡の向こうで銃声が響く。ユーモア長編のヘスとも思えないニューロイックなサスペンス。まあ、オチは読めますけど。
「いたずらか、ごちそうか」テーマは子供の残酷。これぞ、ショート・ショート。快作。
「法外な賭け」博打好きが講じて借金取りに追われる気弱な男がクリフハンガーの向こうにみたものとは?ツイストが嬉しいサスペンス。いかにもヒッチコックが好みそうな。
「八月の熱波」怪奇ものの古典。勿論、大傑作。どこかで読んでいるのだが、思い出せない。
「魂が燃えている」名無しのオプもの。ただ世の不条理を訴えるために男は探偵を呼んだのか?フェアではないが、このオチには唖然とした。まだまだ、ミステリの可能性を感じさせる作品。
「ソーセージ売り殺し」鮮やかなる少年期の記憶。それが血塗られたものであっても。語りの上手さでよませる作品。
「ガス処刑記事第一信」死刑の記事を淡々と送稿する男。生と死の記録はどこまでもモノトーン。ううむ、これは何が面白いのかよく判らん話。
「さらば故郷」一家の鼻つまみものが父の危篤に駆けつける。触合う心と心。そして「再会」の時は近い。これも鮮やかな人生モンタージュ。
「どこまで行くか」始末屋に不実な夫の始末を依頼する妻。だが、心のブレーキとアクセルは同時に踏まれ、運命はスピンする。未来に向けて。お上手。
「木立の中で」映画界から足を洗った男。元娼婦の妻。そこへ訪ねてくる旧友。男と女のドラマは加速し、一瞬にして奈落が誘う。うわあ、やられた。これは、ほろ苦く笑うしかない。傑作だ、ケッ作。


2001年10月17日(水)

◆思いついたので書いておく。「古本先物市場」。

「河出の島久平、2000本買いじゃあ!」
「何やと? 売りじゃ!売り浴びせたれ!!」

「お客様、将来有望ですよ。峰隆一郎。
今、高値を呼んでいる鷲尾三郎や大河内常平と同じテイストですから。
これこそ、<投資>という言葉に相応しい銘柄です。」

「何いい?増刷やとおおお。…が、ガラが来よった……」

◆明朝、健康診断に備え21時までに夕御飯を食べるため、残業を早目に切り上げる。んでもって、早目に退社できたのをいい事に、一軒だけブックオフ・チェック。
「メーキング・オブ・東映ヒーロー3」講談社編(講談社X文庫)350円
「メーキング・オブ・円谷ヒーロー1」講談社編(講談社X文庫)350円
「メーキング・オブ・円谷ヒーロー2」講談社編(講談社X文庫)350円
「無慈悲な夜の女王に捧げる賛歌」鎌田秀美(ASPECT:帯)100円
「私の中から出てって」Sヴォ・アン(講談社:帯)100円
講談社X文庫・第1期の最末期3冊が手に入る。番号が揃わなかったのは残念だが、半額でも相場の5分の1以下につき、ラッキー、ハッピー。後の2冊は安物買い。前者は題名と装丁と解説者に惹かれて、後者は「蹂躪と凌辱のホラー」という帯の文句に騙されて発作買い。まあ、100円だしさあ。ちなみに前者の定価は2000円、後者の定価は1500円。ふっふっふ、涼しい、涼しい。
◆帰宅してメールを開けると、なんと!名探偵チビーの原作者、新庄節美さんからのメールが届いておりましたあああ!!やったあ!!HM卿@WMCのご紹介とのこと。拙感想なんぞ喜んで頂き、かえって恐縮です。なんだか、いつも軽い感想ですみませんです。はい。まだ3冊しか読めてませんので、全部拾えるように精進致します。というか、このまま埋れさせてしまうには惜しい本格スピリットに満ちたシリーズかと思います。
あと「茗荷丸さんによろしく」と言う事でしたので、お伝えしておきます>茗荷さん
ううむ、これで新庄節美=茗荷丸説は破綻か?(>当たり前だ)
ねえ、某東京創元社のチビーファンの人。創元推理少年文庫でも企画しませんか?

お、自分で書いて結構気に入ってしまったぞ。
「創元推理少年文庫」。
よしっ!マークは「ぺろぺろキャンディー」だ!
どうよ?

◆「ベローナ・クラブの不愉快な事件」DLセイヤーズ(創元推理文庫)読了
かつて高校生の頃に原書でトライして挫折した作品。この地味で滋味豊かな作品を楽しむには些か年齢も英語力も足りなかった次第。個人的な思い入れを別にしても、メジャー作家の作品としては極めて長い題名が印象的な作品であり、原題で長いとなると、これと「なぜエヴァンスに頼まなかったのか?」が真っ先に脳裏に浮かぶ。閑話休題、ハルの「他言は無用」でも感じたが、古き良き英国の男子の園<クラブ>は、1930年代初頭、既に「老人が死体になって転がっていても不思議はない」沈滞の場だったのかと驚かされる。これは、そんな「紳士の斜陽場」を舞台にした話。
戦勝記念日の夕べ、ベローナ・クラブで、齢90歳になりなんとするフェンティマン将軍が、亡くなっているのが発見される。だが、完全に過去の人であり、さしたる財産も持たなかった将軍の死が、ピーター卿の探偵心をくすぐる事件に発展するには、もう一つの訃報が必要だった。なんと、先ごろ長年の不和に終止符を打ち感動の再会を果たしたばかりの将軍の妹レディー・ドーラまでが、同日の朝10時半に、亡くなって事が判明したのだ。そして将軍と妹はそれぞれが死ねば、全財産を相手に譲るという遺書を残していたのであった。一体、将軍と妹のどちらが先に死んだのか?その一事が、巨額の遺産の行方を左右する事となる。ピーター卿が、軽いパズルのつもりで取り掛かった遺産ゲームは、やがて愛憎乱れる策謀と錯乱へとその様相を変える。最後に開かれたカードの名はクラブのジャック。
冒頭の一章に様々な伏線が張られている事に驚く。冗談から思いついたような発端であり、設定であるが、二転三転するプロットに翻弄される快感は、本格推理ならではのもの。章毎につけられたブリッジ用語の副題と、悪びれない「犯人」像が、物語のゲーム性を強調する。クラブに始まり、クラブに終わる予定調和の遺産狂詩曲。クラシックここにあり。終章の副題はクリスティーをインスパイアしたのかな?


2001年10月16日(火)

◆前夜の無理が祟りダウナーな1日。Moriwakiさんや日下さんの書き込みで救われた気になる。昼間によしださんの「敗北書き込み」があったが、まあ、公平に見て今回の勝負はよしださんの圧勝である。私の「家庭を顧みない捨て身の反撃」に敬意を評して頂いたものと捉えておこう。
◆仕事は相変わらず修羅場が続いている。昨今、局地的に話題の「プロジェクトX」も、田村正和(「さよなら小津先生」)も視聴できなかった。夫々に録画してまで見るものではないよなあ、と諦めていたら、田村ドラマは奥さんがエアチェックしてくれていた模様。かあちゃん、ありがとう。となると、プロジェクトXは木曜の深夜のを録画するかどうかだな。ううむ、そうまでして見たいのか、カップヌードルの開発話?購入本0冊。

◆「妖かし語り」倉阪鬼一郎(出版芸術社)読了
著者の小説としては4作目にあたる作品集。百物語の倉阪新釈であり、匣型の 仕掛が凝らされているのは、この作者の「標準」といってよかろう。ただ、 仕掛自体は作者の云うように本格推理流のフェアネスはなく、やや上滑りの感がある。 作品は百物語という設定に相応しく、長さもトーンもバラバラで、よく云えば 作者の異能ぶりを表している。以降の活躍を知っている者には、「あ、今度はこの『倉阪』で来たか」と納得できるが、この作品集から倉阪鬼一郎に入った読者は、面食らうとともに「プロらしい安定感に欠けた意欲先行の作品集」という感想を抱いてしまうのではなかろうか?それもまた、この作者の思う壺なのかもしれないのだが。以下、ミニコメ。
「顔」引退後田舎の一軒家に逼塞した日曜翻訳家の手記に綴られた悪夢の記録。精気を奪い取られていく様を原稿のこちら側でみていた甥にだるま節が木霊する。ラストは唐突で、あざといが、展開部の膨らませ方が上手い。
「鈴木伝兵衛」古書奇譚。この終幕は、全ての古書・古本マニアが一度は見た事のある悪夢そのものである。ああ、怖い。
「魚影」どこを切っても魚臭く、ラブクラフト。パスティーシュとしては水準をクリアしている。が、「これが倉阪鬼一郎の仕事か?」となると今更の感あり。
「眼」眼繋がりの怪奇断章。イメージ先行で幻想味の強い作品。
「紅豆腐」司法試験浪人が迷い込んだ街の祭の特別料理。基本プロットはありがちだが、ツボを心得た運びにしてやられる。この豆腐は厭だ。個人的にはこの作品集のベスト。
「剃刀」字面の向こうから肌を滑る剃刀の音が聞こえてきそうな迫力。サイコを小気味よく短い頁数に恐怖を封じ込めた。
「ラストショット」思い込みの暴走、欠勤した女性を見舞う男の妄想が更なる恐怖を招き込む。さあ、人生のシャッターが今おりる。心の壊れぶりを過不足なく表した快作。
「妖かし」恐怖の断片を一枚の騙し絵に織り上げる手際の妙。メタを笑うものはメタに死ぬ。


2001年10月15日(月)

◆職場で戦っている最中にガラクタ風雲のよしだまさしさんから挑戦状を叩き付けられる。
◆職場で残業をしている間にガラクタ風雲のよしだまさしさんの日記がアップされる。

泣いた。

やられた。

それは、この俺が、やりたかった事だ。

これは、技巧と技術全盛のミステリ電網に、力のみで立ち向かった大いなる敗北者の血風の記録である。

◆とりあえず、やられたのでやり返します。

今夜の古本の主は、20世紀末を駆け抜けた古本買いの偉人よしだまさし。
ある者は「均一棚の魔術師」と彼を敬い、またある者は「3冊200円おやじ」として彼を慕った。だが、その実態は、数多くの同人誌で培った人脈を元に、常に歴史の裏舞台からミステリ・SF市場を支配した「妖怪」であったとも伝えられる。
果して、その実態とは?そしてその彼が生涯追いかけて止まなかった究極の推理作家とは?今晩、古本買いの亜細亜的魔人の正体が明かされる!

「ワゴンの旅人〜よしだまさしの生涯」

「目立て、世界古本発見!!」

今晩は、草野仁です。「目立て、世界古本発見」。まずは、皆さんにこの古本を見て頂きましょう。
「あ、これは小野不由美の『メフィストとワルツ』!!」
「ええ!これが山口雅也の『13人目の名探偵』?」
「おお、三橋一夫の『花嫁失踪』!」
そう、皆さんも名前だけはご存知でしょう。真クン、これはお幾らだと思いますか?
「うーん、1冊1万円ぐらいですかあ?」
そうですね、普通はそのぐらいするかもしれませんが、実はこれがすべて3冊で200円だったのです。
「えーーーーっ??!!」
そして、これを拾ってきたのがこの人、よしだまさしです。
今晩は、その奇蹟の秘密に迫ります。
今晩もパーフェクトの方が出ると、海外旅行をプレゼント。
「LOOKJTBで行く、チャリング・クロスからセシル・コート、森英俊が案内する倫敦古本の旅5泊6日間」をテレビをご覧の皆様の中から1名様に抽選で差し上げます。
さあ、この「均一棚の魔術師」にはどのような秘密があったのか?
最初の謎は、彼の幼年期の終りから。それでは、古本発見!!
<中略>
「3冊200円おやじ」と呼ばれたよしだにも、ただ一人だけ、1万円札を切っても惜しくない作家がいました。それが、この人。香山滋ですうう。
「戦後五人男の一人として知られる香山滋。その業績を、探偵小説という言葉で括るのは多いに抵抗がある。そのデビュー作からして、一種の秘境小説とも、空想科学小説ともいえる作品。そして日本が世界に誇る怪獣映画の祖『ゴジラ』も香山が小説を担当した。破天荒な発想、流麗な文体、そして予想を裏切るプロット。まさに香山滋の作品は、それがいかなる名称でよばれようとセンス・オブ・ワンダーそのものであった。学生時代をミステリ研ではなく、SF研で過ごしたよしだにとって、香山滋こそ、ファースト・インパクトであり、ラスト・インパクトであったのだ」
一方、よしだには、買うだけの作家も多かったと言います。例えば、本格推理の驍将・鮎川哲也。角川文庫は勿論、河出文庫や春陽文庫を完全収集しながら生涯1冊も鮎川を読まなかったと言われています(「えーー、勿体ないー」)。そして、とある成り行きからその鮎川哲也の遺稿「白樺荘殺人事件」の原稿をよしだが入手してしまった事が、彼の謎の失踪に繋がったといいます。そんな謎に満ちたよしだと本格推理の関係から、ラスト・クエスション。実は、本格推理が苦手だった彼が、たった一人だけ愛好した本格推理作家がいます。その作家は、ある意味では彼が最も苦手だった鮎川哲也とも縁があったのですが、それではその本格推理作家とは誰でしょう〜。
<中略>
それでは、スーパーひとし君で挑戦の真クンの答を見てみましょう。ひらがなでかいてあります。はせせいしゅー?
「え、『不夜城』ってお城の中で起きる密室殺人って聞いたんですけどお」
読んでから書いて下さい。続いて板東さんのお答えは、
「鮎川哲也賞作家」
なるほど、ヒントから言うとそうなりそうですが、ここは一つ、具体的な名前をお願いします。
「えー、それでしたら『芦辺拓』ということで」
そう書いて頂けますか。では最後に黒柳さんの答、開けてみましょう。
貫井徳郎とございますね。
「ええ、もうそれは、鮎哲賞関係で、本格で、よしださんにも読みやすいとなるとこの人でございましょう?」
それでは見てみましょう、正解はこの方です。
<中略>
それではまた来週も古本の国でお会いいたしましょう〜。

『エンディングテーマ』
古書肆 何の書
気になる 気になる
見た事もない 書ですから
みんなが欲しがる〜書になるでしょう

古書肆 なんの書
気になる 気になる
みんなが欲しがる書ですから
見た事もない 値が〜つくでしょう
値が〜つくでしょう

◆ああ、「プロジェクトX」には敵わない。

◆「九十九本の妖刀」大河内常平(講談社)読了
探偵小説の糜爛期を駆け抜けたB級通俗作家の代表作。映画化もされたらしいが、一体この珍作を如何に映像化したのか、気になるところではある。さすがに代表作と云われるだけの事はあって、作者の道楽ともいえる日本刀への偏愛に満ちた作品であり、作者の通常の都会派通俗とは一線を画した、土俗に根差したというか日本の中の秘境ものとでもいうべき作品に仕上がっている。まあ、だからといって復刊されるかといえば、それはまた全然別の話で、はっきり言って無理でしょう。こんな話。
昭和30年代初頭、岩手県の山中で遭難しかかったストリップ一座。ふとした隙に看板踊り子二人、シャーリー花子とメリー瞳が行方不明となる。座頭らの証言から、どうやら遭難そのものが、何者かの企みであった様相を呈してくる。そして、水沢市警察署の古参署員たちは10年前に迷宮入りした令嬢猟奇惨殺事件の記憶を甦らせる。性器から体内を破壊された死体が物語る闇の年代記とは?続いて起きた神主襲撃事件、そして、山中の奇行の目撃談。全ては一座に付き纏っていた猿のような老婆の仕業なのか?奇祭の夜、古から鍛えられし妖刀は集う。
これを推理小説に分類して良いものかどうか悩むところ。どちらかと申せば嗜虐文学全集だの猟奇文学全集だのにすんなり馴染む物語である。作者が意図したものかどうかは定かではないが、どことなくネジの外れた「笑い」の要素を感じてしまう。いや、おそらく大真面目で書いたのであろう。なればこそ、この作品は日本探偵小説史上に妖しくも淫らに輝く大馬鹿野郎探偵小説なのである。大枚叩く必要は毫ほどもないが、とりあえず持っている人に借りて読んでおくとバカ話のネタにはなる。その意味で(ちゅうか、その意味だけで)お勧め。
なお、この書には「安房国住広重」と題する中編が一編併載されているが、こちらは題名から、刀鍛冶を主人公にした時代ものを想像していたところ、嬉しい誤算。極めて趣向を凝らしたお宝鑑定趣味の不可能犯罪ミステリの逸品であった。時代背景といい、キャラクターの設定といい、凄絶なトリックといい、こちらは真っ当な意味でお勧め。


2001年10月14日(日)

◆朝からせっせと日記やら、感想文を書いては上げ、書いては上げ。それでも、3日分の日記と、3冊分の感想文で果てる。今頃になって、9月中旬に読んだ「黒蝶」「ろくでなしはろくでなし」の感想をアップ。誰か読んでくれるのだろうか?「三人目の幽霊」の感想は調子に乗ってだらだらと書く。こちたらも桂米朝上方落語大全集を子守唄にしてた人間だもんね。
◆家事を何一つしないというのも何なんので、AV機器用に奥さんが無印で買っておいた金属ラック2本を組み上げ、床の直置きしてあったミニコンポとDVDを収納。おおおお、なんだかショールームみたいにぴったりと収まるではないかあ。世の中、見栄えも大事ですのう。ローエンド機種ばっかりの割りには、シルバーとブラックのアクセントが効いていて良い感じ。それだけで、何か音を流してみたくなる。その音もいいように感じる。人間とは斯くもいい加減なものである。
◆夕刻、お買い物のついでに、一軒だけチェック。
d「別冊宝島 ミステリーの友」山口雅也編集(宝島社)50円
d「劇場の迷子」戸板康ニ(講談社:帯)200円
「妖かし語り」倉阪鬼一郎(出版芸術社:帯)300円
ここのお店はいつも何かしら、面白い本が並んでいてお安い予算でハッピーな気分に浸れる。まあ、ダブリの2冊はこのお値段なら、引く手あまたでしょう。その他にもサンリオのちょいめずゾーン(「緑色遺伝子」とか「コンパス・ローズ」とか)が1000円前後で並んでいたがパス。相場の3分の1とは申せ、ダブリで買うには些か高い。まあ、未婚の時なら勢いで買っちゃったかもなあ。
◆WOWOWでエア・チェックしておいた「シックス・センス」を視聴。見えてはならない者どもの姿が見える少年と、カウンセリングの失敗で全てを失った壮年精神分析医との交感を描いた物語。先読みを拒むしっとりと怖い話で、まんまとやられてしまった。なんと言っても子役のハーレイ君の芸達者ぶりに夫婦ともども脱帽。ブルース・ウィリスは完全に食われているといっても過言ではない。いやあ大変面白うございました。もう一度頭からじっくり見たい映画でございます。

◆「赤ちゃんをさがせ」青井夏海(東京創元社)読了:感想は後日
推理小説は殺人を扱う事が多い。飛び切りの謎を組み立てるためには、やはり人が死ななければ物語が始まらない。そして、まず被害者が舞台から去り、次々と容疑者が舞台から去り、結末で真犯人が舞台から去り、そして最後に探偵が舞台から去る。それは実に明快な引き算の世界である。
まあ、長い歴史の中には、死者が甦るような破格な話も出てきた。海渡英祐の「天国の活人」の如き変化球もある。だが、人を殺さず、人が生命を得る事で謎が生まれ、その誕生をもって謎が解かれるというミステリは私の知る限りこれまでになかった。それこそが、この作品。創元のコウノトリ便でやってきた天からの授かり物。待望久し、かの知る人ぞ知っていた野球ミステリのニューウエーブ「スタジアム虹の事件簿」で話題を攫った青井夏海の書き下ろし連作である。オーギュスト・デュパンに始まる名探偵の系譜に「カリスマ助産婦・アームチェア・ディテクティヴ」という新しいファイルを開いた作品でもある。ハートウォーミングな3つの物語は、すべて見習い助産婦・陽奈ちゃんの一人称で語られる。彼女が、ベテラン助産婦の聡子先輩とともに遭遇する妊婦さん絡みの事件の謎を聡子さんの師匠にして「街を歩けば妊婦に当たる<伝説のカリスマ助産婦>」明楽(あきら)先生が快刀乱麻を断つ如く解決していく。たまごママも、たまごパパも、みんな頑張れ!心地よく秘密めいた場所から赤ちゃんのエールも聞こえてきそうな推理譚。以下、ミニコメ。
「お母さんをさがせ」助産婦トリオ最初の事件は、3人の妊婦さんの中から、依頼人の本当の奥さんを探す話。55歳にしてたまごパパになった健康食品会社社長が男子誕生にかけた保険は、3人の妊婦さんを自宅出産させ、その中の男の子を自分の実子として育てるという詭計。えええ!先輩先輩!一体、ウサギさん、ゾウさん、クマさんの誰が、本当の「お母さん」なんでしょう〜?明楽先生の慧眼は、真「お母さん」を見抜くばかりか、事件の裏に潜む「もう一人のお母さん」の愛を露にする。設定はかなり強引だが、軽妙な語り口と登場人物たちの優しさで、つい読まされてしまう。シリーズ第1話としての掴みもOK。正直なところ、3編の中では一番好み。
「お父さんをさがせ」続いては高校生カップルと彼女を取り巻く男たちの中から本当のお父さんを探す話。次々と「お前じゃダメだ」とばかりに生活力のありそうな男たちが現われ、揚句には、その総てが行方不明になってしまう。あちゃ〜、先輩先輩、みんな肝腎な時にどこへいっちゃったんでしょう〜。またしても明楽先生は、掟破りとも言える思い込みの呪縛を解く。これは、手の内が見えました。どっちかというとオトコの気持ちは良く判る。うんうん。
「赤ちゃんをさがせ」収録作品中最長の中編。寄りを戻したがっている聡子先輩の元旦那を追っ払ってから、相次ぐ仕事のキャンセル。果して、それは元ダンの陰謀なのか?キャンセルしてきた妊婦さんに訳を聞いても追い返されるだけ。ああ、先輩先輩、これじゃあ、商売あがったりですよお。そして、遂に一人の妊婦さんが消える。水中出産を利用して信者を増やす新興宗教との関係は?走れ、ひよっこ助産婦!隠された積木は知っていた。長い分、普通の意味での「事件性」が雑味になってしまっている。が、一つ一つの謎の解法は納得性あり、いかにも女性らしい気配り、目配りが嬉しい。ラストには些か驚いた。

いやあ、川出解説の向こうを張って感想を書くのが難しい事、難しい事。とまれ、この作品で、作者は名実ともにプロ作家になった。おめでとうございます。

10月15日午前0時0分 青井夏海 プロ作家誕生 2500部グライ?

ところでさあ、「とんでもない共通点」って何よ?こっそり教えてちょ。


2001年10月13日(土)

◆慰安旅行@軽井沢継続。ゴルフ組、テニス組、観光組に別れ行動。観光組とは名ばかりで、要は、ゴルフもテニスもやらない人達の事である。10時前に軽井沢駅でバスから降ろされ、とっとと家路を急ぐ人、アウトレットを見て回る人、本当に観光する人とバラバラに行動。私は、電話帳で古本屋をチェック。どうやら「りんどう書店」というのが、メイン・ストリートにあるらしい。まあ、10時から開く古本屋はなかろうと、評判のアウトレットを見て回る。「日本のどこが不況なのだ?」といった感じのブランドショップの放列が夫々に結構な賑わい。夏の最盛期には、息苦しいぐらいになるのではなかろうか。本以外の事に興味の乏しい私のような人間ですら、思わずウインドショッピングで楽しくなる。11時になったので、いそいそと古本屋に電話を入れてみると「ごめんなさい。今日は休みにしちゃいました」とのショッキングな返事。がーーん。おのれ、軽井沢め、見ておれ!この次こそはきっと必ず!(>「必ず」なんだよ?)
◆都内に戻り、総武線沿線で一駅だけ下車して憂さ晴らし。
d「私だけが知っている・第1集」(光文社文庫)100円
d「ジャックは絞首台に!」Lブルース(教養文庫)100円
d「帰らざる肉体」Hモンテイエ(ポケミス)200円
「三浦半島殺人岬」宮田一誠(大陸NV:帯)100円
「夏の滴」桐生祐狩(角川書店:帯)600円
颯爽のダブリ買い3冊。この値段なら押えておいて損はなかろう。まあ、得もないかもしれんけど。意外だったのが大陸NVの宮田本。なんと著者紹介を見て、作者が「火の樹液」の宮田亜佐だった事を知る。がーん、「幻影城」作家となると、押えておかねばなるまい。帯の梗概を見る限りでは、とてつもなく普通の社会派推理みたいなので、通常であればスルーなんだけどなあ。
実はこの書店でもう1アイテム、私的血風&疑問の元にぶち当たる。その正体はこれ。
「スヌーピー傑作選4〜6」(鶴書房:函)500円
鶴書房のスヌーピーは、新書サイズで60巻辺りまで出ていたのだが、こちらは文庫サイズの「傑作選」。いつだったか、この日記でもこのシリーズの第1巻のゲット報告は行ったと思うのだが、なんとその後もシリーズは続いており、これで6巻まで出ている事が判明。しかもなんと、3巻ずつが函入りになっていた、という事実に愕然。ちなみにサブタイトルは4巻が「やさしい愛をありがとう」、5巻が「ぼくらのスター大活躍」、6巻が「すばらしき仲間たち」である。中味は完全な再録・編集本らしいので、「読めりゃいい」派にとっては、殆ど意味のない本だけど、話のネタとしては面白い。だってさあ、函だぜ、函!!
まあ、私は適当にやっているからいいようなものの、スヌーピー本も、集め出すと地獄を見そうなジャンルである。

◆「夏の滴」桐生祐狩(角川書店)読了
ピカピカの本年度「日本ホラー小説大賞長編賞受賞作」。結論から言う。この本は面白い。

もしも貴方が、背筋も凍る、周りの誰もが信じられなくなる類いのホラーが好きならば、

もしも貴方が、永遠の夏を一瞬のフレームにきりとってみせる少年小説のファンならば、

そして、もしも貴方が、本当のところ、ありきたりの少年小説の文法には飽きており、
実生活では覆い隠している密やかな不道徳や禁忌の喜びを読書に求めていたりするのであれば、
躊躇なくこの本をお薦めする。
それも出来る限り「素」で読む事をお勧めする。

さあ、読みましたか?では、以下梗概。
僕の名は藤山真介。美少年。母は所謂シングルマザー、女の太腕一本で串焼き屋を切り盛りして、まあ、なんとか二人でやっている。それは4年生の夏休みの事。僕たちのグループ3人で、突然転校していった友達・桃山ヨハネに会いに行く事にした。僕の仲間は、元気娘の河合みゆらと車椅子の徳田芳照。徳田の奴は、地元テレビ局NBNが連続取材している「とっきーと3組のなかまたち」というドキュメンタリーによって、いまや地元じゃ有名人。勿論、僕たちクラスメートもちゃっかりとその恩恵に預かっている。ところで僕たちの碌でもない故郷の街は、地方博で大コケして、街ぐるみが財政破綻。倒産・夜逃げも続出で、桃山の家族もその憂き目に遇ったようなのだ。だが、何かがおかしい。何かが起きている。兆しはあった。全校の虐めの標的・八重垣が持ち込んだ「植物占い」の突然の流行と唐突な収束、気がつくと何故か金回りのよくなり始めた大人たち、そう、僕たちが裏技で探り出した桃山の両親たちの引越し先も、なんと大邸宅だったのだ。だが、そこにヨハネの姿はなかった。代わりに僕たちが見たものは、、、電子仕立ての本草綱目、偽りの友情は捌け口を求め、サッカーボールは悲鳴を上げる。これは「ゴールデン・ボーイ」たちが巡り合った夏の終りの物語。世界の終りの物語。
やってはいけない事、テンコ盛り。「虐め」を肯定的な娯楽として楽しむ歪んだ関係に驚いていては、次々と繰り出される反道徳・不道徳のラッシュに取り残される事必定。それでいて、何故か瑞々しいのだ。不思議と爽やかなのだ。また、徐々に恐怖を盛り上げていく手際の鮮やかさたるやこれが処女作か?と見紛うばかりの出来。キャラクターの立たせ方も心憎いばかりで特に虐められ女である八重垣純は強烈な印象を読む者に与える。これまでのところ「今年小説で出会った印象的なキャラ」の3本の指には入る。更に骨太のプロットを読者の想像を超えるスケールで展開させる力強さにも脱帽。嫌悪感の余り、この本に触るのも厭な人がでるかもしれないが、それ程にインパクトの強い小説である。傑作。


2001年10月12日(金)

◆「『笹塚日記』に出てるわよ〜」という安田ママさんのタレコミで「本の雑誌」11月号を立ち読み。確かに出てはおりますが、メインの話題は未読王さんのサイトの一周年。目黒氏曰く、王様のサイトとよしださんの「ガラクタ風雲」と拙サイトが古本系の御三家ネットだそうな。となると、未読王さんは文句なしに「尾張」で決まり。後はまあ、関東出身のよしださんが「水戸」、関西出身の私が「紀伊」でございましょうか?なんちゅうか、江戸では土田将軍が君臨していそうな気もするのだけれど。
◆会社の旅行で、就業後大挙して軽井沢へ。軽井沢とは名ばかりの「北軽井沢」という辺り。なんと、ホテルの住所を見ると、長野県ではなくて群馬県の嬬恋になっている。「ううむ、これは、<軽井沢の奥座敷>というよりは<裏庭>」「いんや、裏山」。まあ、成田空港を新東京国際空港と呼ぶようなものであろう。
20時半から正統派の日本の慰安旅行風宴会。ビールのストロー一気のみなぞをやらされる。圧勝。爆睡。

◆「北村薫の本格ミステリ・ライブラリー」(角川文庫)読了
この本の何がアセったかと言って銀河文庫の「名探偵パロトール」なる本がこの世にあったという事を初めて知った事。「何だよ〜、これ?」と思っていたところ、なんと「四つ辻にて」の内容を文庫化したものだと判り一安心。いやあ、世の中には知らん事がまだまだあるものです。
「スクイーズ・プレイ」酔いどれ弁護士を主人公にした、不可能犯罪もの。とても若書きとは思えない人物造形に、新たなる「ユダの窓」の開き方といい文句なし。
「剃りかけた髯」必要最小限の容疑者たち。これもまた新たな「ユダの窓」。どうも、この作家は部屋を見ると、どこから銃弾を撃ち込むかという事ばかりを考えているような気がする。とりあえず、この2作を読むだけでも、この本の値打ちはあるでしょう。
「ガラスの橋」再々々読。隠し玉勝負は森・二階堂コンビの方がタッチの差で勝った事になるのかな。ナインテイラーズの新訳合戦を彷彿と致しました。
「やぶへび」当時としては最新の科学技術が決め手になる話。DNA鑑定の現代からみるといかにも古い。なぜこの作品を採ったのか理解に苦しむ。
「田中潤司語る」インタビューはどちらかといえば嫌いの部類なのだが、この鼎談は素晴らしい。というか、田中潤司が素晴らしいのじゃ。何故、この人がミステリとの縁を切ってしまったのか?なんとも残念である。
「ケーキ箱」いかにも大学生の習作といった風情の作品だが、大胆なトリックには脱帽。確かに「あの長編」よりも早い。
「ライツヴィル殺人事件」これは趣味が悪い。やって良い事と悪い事がある。読み終えるのが辛かった。新井素子が嫌いになった。
「花束の秘密」読んでいる方が赤面してしまう少女探偵もの。これは発掘者に敬礼。
「倫敦の話」まあ、面白くなくはないのだが、本格ミステリではない。ミス・チョイス。
「客」これも、絵に描いたような奇譚ぶりがナイスなのだが、本格ミステリではない。
「夢遊病者」恐怖コント。だから、どこが本格ミステリや、っちゅうねん!?
「森の石松」森の石松の殺害を巡る辻褄のズレから、壮大な仮説を打ち立てる一種の安楽椅子探偵。原典に親しんでいない分、感動も薄い。都筑道夫らしさはあるけどね。
「わが身にほんとうに起こったこと」いい加減に本格ミステリでないものは止めて頂きたい。一瞬なりとも「これに合理的な説明がつくのか?」と期待した私が馬鹿だった。
「あいびき」うわっ、やられたああ。でも本格じゃねえってば。
「ジェミニー・クリケット事件(アメリカ版)」堂々たる怪作。英版がどんな話だったか忘れている人間にとっては、充分面白い。狂ったロジックがお見事。しかし、これが出ちゃうと「37の短篇」の市場価値はかなり下がってしまうのではなかろうか?


2001年10月11日(木)

◆安田ママさんのところのBBS:時果つるところ、じゃなくて、オペレーション外宇宙、じゃなくて星間宇宙船で、よしださんから「ヒカルの碁」ネタの挑発を受け、「西洋骨董洋菓子店」ネタで返す。一日にネットにかける根性の総てを使い果たし日記をパス。よしださんは、といえば、涼しい顔で大量の日記をアップ。ううむ、息をするが如く、文書を製造できる人には敵わん。
◆帰宅すると謹呈本1冊。
「赤ちゃんをさがせ」青井夏海(東京創元社:帯)頂き!
ピカピカの新刊本を頂戴してしまう。ありがとうございますありがとうございます。
◆本日から「修道士カドフェル」第3シリーズ放映。最早カドフェルをイメージする時に、デレク・ジャコビ以外考えられない状態。放映以前は、ヒュー・ベリンガーなんぞは青池保子キャラ風のイメージで捉えていたのだが、テレビの配役(イーオイン・マッカーシー)は相当に猛々しい印象で当初はかなり面食らったものである。本日から木曜日に「聖なる泥棒」「陶工の畑」「憎しみの巡礼」を順次放映予定。勿論、積録。
◆「スタアの恋」第1話視聴。藤原紀香は、やや「芸風が違う」という印象だが、軽快な演出は楽しい。でも、2、3話で終わった方が良いような話だよね。後は「すれ違い」「混乱」の繰り返しで「大団円」に持っていくだけだもんなあ。

◆「三人目の幽霊」大倉崇裕(東京創元社)読了
えー、推理小説も21世紀に入ってまいりますと、進化の袋小路と申しますか、ただの落語家や、ただの編集者では名探偵は務まりません。ここに登場致しますのは落語季刊誌の編集長でございまして、なんですな、そのうちには月刊へらぶなの女編集長バツいちコブつき、てな探偵も登場致しかねませんな。
「いてるかえ?なんやいな、朝からええ若いもんが家の中でごろごろと」
「いや、朝からほーむぺーじの更新で」
「そうか、そら悪い事した。なんやな、やっぱり朝、更新した方が、長い事ミステリ系更新されてますリンクの上の方におれるさかいなあ。」
「いやまあ、それが最近伸び悩みですねん。こうあくせす数の上がる工夫ちゅうのはないもんでっしゃろか?」
「なに、あくせす数の上がる工夫か。まあ、昔から、一見栄、二女、三金、四芸、五精、六おぼこ、七台詞、八力、九肝、十評判、てなことを言うてな」
「なんでっか?そのマイクロソフトのまじないみたいなん?」
「ちゃうがな。これがあくせす数の上がる工夫やな。一見栄。なんちゅうても、まずは見栄えや。わっと見て『あ、こらエライこざっぱりして、見やすいなあ』と、それだけでまた来よか、ちゅう気になるな」
「へえ、そうだっか。どないでっしゃろ、うちのホームページの見栄え」
「おまはんのか。黒地に黄色文字、みるからにエゲツないわな。だいたい名前見て慌てて帰る人も多いで。」
「そうですか。ほな、二つ目はなんです?」
「二つ目はオンナ。女の子がやっとるサイトやな。まだまだ、ネット人口は男の方が圧倒的に多いさかい、女の子がやっとる言うだけでアクセスは増えるわな」
「さいでっか、実は私も女で」
「うそつけ、そんなオンナがおるかいな。けったいなシナ作るんやない。あー気色ワル」
「そしたら、三つ目は、」
「あ………、えー、インター根問い(ネットい)、なかばでございます」てな感じで落語家がとちる話が2話ばかり。後はいわゆる日常の謎の短篇集。
「三人目の幽霊」月島の如月亭。松の屋葉光、鈴の屋梅治率いる二門会で、次々と大しくじりを犯す噺家たち。長年、落語界で不仲を伝えられた葉光と梅治の手打ちとも言える二門会の成功を喜ばない者とは果たして?三人目の幽霊が高座を過ぎる時、師匠たちのいつか見た夢がさても恐ろしき妄念を招く。舞台設定といい、伏線といい、落語誌の編集長と新米女性編集者という探偵チームの造形といい、表題作に相応しい貫禄。これは年間ベスト級。素敵に和風エレガントな快作。
「不機嫌なソムリエ」記念日のビンテージワインの写真が一人の天才ソムリエを曇らせる。愛ゆえに人は完璧を求め、早すぎた結論は、時間という揺り篭で熟成を待っていた。人物消失トリック自体は小味であり、プロットもアンフェア。それでもそれなりに読ませる作品にはなっている。剣名舞みたいな話だけどね。さあ、なんのことですかな。
「三鶯荘奇談」病身の妻を気遣い華を失う中堅噺家。その息子が父親を奮い立たせるために考えた汚れなき悪戯。別離の因縁漂う山荘に、少年と女性編集者・緑が見た恐怖と死の狂想曲。あーら不思議、あら不思議。誰しもがやってみたいネタではあるが、誰しもがスマートにこなせるネタではない。まずは及第点。
「崩壊する喫茶店」緑の祖母が壊れていく。光を喪い、一枚の白紙を前に「気」を感じられない自分を責める祖母。だが、編集長の慧眼は、街で二番目の喫茶店の突然の休業と崩壊、そして街の備品の遺失から仮説を導く。たった一つの正しい仮説を。かなり強引な運びだが、バラバラの謎が三題噺的な妙味を感じさせる。物語の底に流れる深い愛の姿が、味悪の陰謀の毒を浄化してくれて吉。
「患う時計」三鶯亭華菊。名人の子として生まれ、同門の名人の元で修行した落語界のサラブレッド。だがその彼を狙って、幾つもの罠が仕掛けられる。時計が患う時、巻が入り、ベンチは薪に帰る。ホワイダニットの重奏。ただこの動機を納得させるには、頁数が足りなかったという印象。

あ、そうそう、最後に一つだけ、実はあたしの誕生日も11月6日でして。いやあ、奇遇ですなあ。今まで、有名人で同じ誕生日の人はいないと思ってましたが。うちのかみさんが聞いたらなんていうだろ。