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2001年9月30日(日)

◆一週間分の日記と感想文をげしげし書く。うひい。時間がナンボあっても足りません。書いても書いても終りまへん。
◆一ヶ月分の「仮面ライダーアギト」をまとめて視聴。おお、なんだか、敵首魁って感じのアンノウンが登場。ライダーたちの交流やら新変身やら、話が大きく動いていて楽しい。明日は、テレビ特番だし、映画も見たいんだけどなあ。こればっかりは奥さんと二人でっちゅうわけにはいかんだろうなあ。
◆雨なので、今日は大人しくしていようと思ったが、キリンの秋味を探してあちらのコンビニ、こちらの酒屋をさ迷っていると、おお、千葉駅構内で古本ワゴンが出ているではないか。「本日最終日」とか出ていても、覗かずにはいられない奴。ごそごそ。拾わずにはいられない奴。
「呪禁官」牧野修(祥伝社NV)500円
「明治通り沿い奇譚」東郷隆(集英社:帯)100円
「ファントム・パーティー」手塚眞(幻冬舎:帯)100円
「長い長い殺人」宮部みゆき(光文社)100円
「地下街の雨」宮部みゆき(集英社)100円
「遠い約束」光原百合(創元推理文庫)100円
「グランディスの白騎士」茅田砂胡(大陸NV)200円
「神宿市のファントムたち」十川誠志(朝日ソノラマNV)200円
d「地獄時計」日影丈吉(徳間書店)200円
d「ポール・ペニフェザーの冒険」Eウォー(福武文庫)260円
ううむ、一昔前なら大血風本の片割れ、茅田本の王女グリンダ第2巻をゲット。これでめでたく1、2巻が揃いだぜ。宮部みゆきは読むために買う。なかなか100均には落ちてこないんだよね。日影丈吉は、そのうち出る筈なのだが、元本が200円なら買いでしょう。いやあ、これだけ買って2000円いかないんだもんなあ。嬉しいなあ。

◆「呪禁官」牧野修(祥伝社NV)読了
面白さにも怖さにも衒いがない作家。今、私的に、最も新作が楽しみな現役作家の一人。その牧野修のバリバリの最新作である。だが、大人向けのホラー作品を愛好されておられる最近の読者は、この作品を読んでいささか面食らうかもしれない。ここにいる牧野修は「忌まわしい匣」や「病の世紀」を世に送った、笑う世紀末粘液電波ハサミ男ではない。むしろ「王の眠る丘」や「プリンセス奪還」といったやたらと活きのいいエンタテイメント・成長小説風味をものにした、元気印の言霊使いの方である。
舞台は「呪術」が認知され、政治・経済・文化・生活の隅々にまで組み込まれたありうべき未来。
主人公は、殉職した父の後を継ぐべく、その呪術社会を守る呪禁官を目指す少年・葉車創作、通称ギア。
そして物語は、こんな話。
いつしか「呪術」はスタンダードとなり、科学は見捨てられた。自然と超自然の陰陽は逆転し、科学の信奉者たちは嘲笑され抹殺され蹂躪され忘れ去られようとしていた。科学雑誌の編集長だった米澤もそんな負け犬の一人だった。呪術廃絶を唱える科学者集団<ガリレオ>にスカウトされるまでは。だが、皮肉にも殺戮兵器へと改造された彼に与えられた名前は<イヌ>だった。
殉職呪禁官の息子ギアは、呪禁官を目指し友人たちと養成学校で特訓の日々を送っていた。上級生たちの虐めに音を上げ、美しくも猛々しい女教官にしごかれながら、少年たちの日々は続く。
一方、そのギアと因縁浅からぬ「不死者」蓮見は、美術商の衣を纏い、プシュケーの燈火・プロスペロの書・ピュタゴラスの石という3つの魔法アイテムを求め、その圧倒的な<力>をふるいながら静かな殺戮を重ねていた。
ガリレオの放つブレーメンの音楽隊、門を開かんとする不死者、そして秩序の守護者たる呪禁官たち、彼等の思惑が一つのギアによって噛み合わされる時、世界崩壊に向けた序曲は天空の金管楽器によって高らかに奏でられる。果して魔術大戦の果てに立つ最強の呪術者とは?破壊の科学、呪術の学習、暴走する遺伝子、復讐する無意識。そしてギアは変わらないものを見つける。
設定が良い。どうしてもギャレットのダーシー卿だのロバーツのパヴァーヌだのを引き合いに出したくなるが、さすがはストーリーテラー牧野修、科学者たちを狂言回しに用いて社会の歪みを上手く書き込んでいる。また、普段にもまして炸裂する「なんでもあり」のサービス精神も敬服するところ。ただ、この話、「なんでもあり」な分だけ、「既視感」も否定しがたい。ある時は「宇宙の戦士」、またある時は「幻魔大戦」、またある時は「ウルフガイ」、またまたある時は「デビルマン」と、牧野修でなくてもいいじゃんというのが正直なところなのである。規定演技でケレンを見せる割りには、自由演技での新しさがないという作品であった。まあ、生まれて始めてこの類いのお話を読む人にとっては人生観を変える程に面白い作品である事は保証しますけど。


2001年9月29日(土)

◆休日出勤で研修。これで当分休日出勤はないであろう。ないといってくれ。
◆休出は3時過ぎで切り上げ、久しぶりの総武線定点観測。本日は奥さんが自宅に友人を招いているので早く帰り過ぎてもいけないのである。2店であれこれ拾う。
「霊薬」三橋一夫(エール出版社)100円
「淫霊の海」船地慧(KKコスミック)100円
「メッカの男」Mクレール(早川書房)100円
「恋愛過敏症」岡崎弘明(PHP出版:帯)100円
d「中国湖水殺人事件」RVフーリック(三省堂:裸本)100円
d「吸血鬼ドラキュラ」Bストーカー(創元推理文庫:300番台)100円
d「スラッグス」Sハトスン(早川NV文庫)100円
d「ハイヒールの死」Cブランド(ポケミス:重版)100円
d「虚無の孔」MKジョーゼフ(早川海外SFノベルズ:帯)200円
d「星条旗と青春と」小林信彦・片岡義男(角川文庫)100円
わーい、三橋一夫の健康本に始めて巡り会ったぞお。だからなんなんだあ。よしださーん、お持ちでなければお譲りしますぜ。船地本は、一見心霊ものかとも思ったのだが、斜めに読んだ感じでは、ただのエロ小説みたいだなあ。間違ったかなあ。岡崎弘明のPHP本は、不思議と縁がなかった本。帯付きが嬉しい。フーリックの裸本は、まあ、読めりゃいい人用。ドラキュラは、通し番号が300番台だったので拾う。ちょっと嬉しい。「虚無の孔」帯付き200円は上出来。「スラッグス」「ハイヒールの死」は布教用。小林信彦・片岡義男の対談集は、余り見かけないのでとりあえずの押え。中原弓彦・テディ片岡対談集だと思うとなかなか渋い取り合わせである。植草甚一の葬儀に参列した際に持ち上がった対談企画だっちゅうのが「いかにも」である。

◆「夜はわが友」EDホック(創元推理文庫:帯)読了
ホックのノンシリーズ短篇ばかり21編収録したお買い得短篇集。能書きはネヴィンズ・ジュニアの前書き、訳者こと木村二郎=木村仁良あとがき、村上貴史解説の3連続蘊蓄で尽きているので何も申す事はございません。いやあ、これだけ充実した解説も珍しい。読者はただ、ホックの職人芸の幅広さを改めて思い知らされ、至福に酔うばかり。以下、ミニコメ。 「黄昏の雷鳴」戦場に封印した血の記憶が硝煙とともに静かな日常に闖入してくる。抵抗の行方は、ただ朝の静寂が知っていた。ラストの視覚的錯乱が見せるが、読後感はいま一つ。
「夜はわが友」パトカーに便乗して曲想を練るシンガー探偵が行き当たった裸女。彼女の死が招く権力ゲームの果て。果して新人警官を殺したのはだあれ。探偵のキャラと、動機に一工夫した佳作。さすが表題作だけのことはある。このままシリーズにならなかったのが不思議なほどである。
「スーツケース」飛行機事故現場に転がっていたスーツケースには何が入っていたのか?静かな夫婦を襲ったあまりにも皮肉な運命を描く。この夫の心情は極めてよく理解できるが、それにしてもこのオチは辛いなあ。
「みんなでピクニック」精神病院帰りの男とかつての友人たちの出会い。男のとった行動は、狂気ゆえか、それとも寂しさゆえか。人間が書けている。偽りの友情の仮面が剥げ落ちる瞬間、狂気は伝染する。うう、この話も辛いなあ。
「ピクニック日和」思い起こすは一族あげてのピクニック。祖父が博愛賞を捧げた隣人は受賞の言葉の間で毒死する。青空の下の不可能犯罪。真相は時の彼方に埋葬される。いかにもアメリカン・テイスト。ノーマン・ロックウェル的風景の殺人。
「虹色の転職」転職先が決まらず焦燥感に駆られた男が飛びついた危険な「お使い」の顛末を描いた作品。展開も結末も予想の範囲内だが、ラストの独白は決まっている。
「待つ男」ある<技術>にかけては天才的なウエイターの巻き込まれた悲劇。語り口といい、設定の妙といい、衝撃のラストといい、スタンリー・エリン級。
「雪の遊園地」残酷に殺害されたパトロン。その死の決着を求めて若き弁護士は冬の遊園地に立つ。新興宗教の教祖とその娘の葛藤、パズルの最後の一片が嵌まる時、事件はがらりとその様相を変える。うまい。やられました。
「冬の逃避行」かつて過剰防衛で無抵抗の人間を射殺した警官が、寒い地に職を求めて流れてくる。その彼を雇う保安官。だが、呪わしい運命は再び彼に引き金を引かせる。凄い。思わず、そういう話だったんだ!と膝を打った。
「夢は一人で見るもの」連れの女の予知夢のままに犯罪を重ねる男。だが、もう一人の大胆な女との出会いが危うい均衡を突き放す。だが、予言は裏切らない。最初の仕掛を見破れても、もうひとつの方は判らない。保証付き。
「秘密の場所」ベンおじさんが畑の真ん中で事故死した。しかし、その死には卑しい犯罪の翳が落ちていた。クイーンばりの論理のアクロバットが楽しいカントリーミステリー。
「標的はイーグル」殺しのプロが、戦時中空爆した街で獲物を狙う。だが、澱んだ殺意は男自身に撥ね返る。なんとも昏いエスピオナージュ。
「蘇った妻」自動車事故死した筈の妻が生きていた?次いで起こった友人の死。オカルティックなサスペンスだが、真相は最初から目の前にある。
「おまえだけを」別れた妻への最後の贈り物を託す友人。命懸けで、その約束を果たそうとする男の背中に死と驚愕が迫る。まさかこのオチじゃねえだろうな、と思ったらそうだった。
「こういうこともあるさ」ゲームの修理人、女予言者、二流の中年ボクサー、社会の底辺にひっそりと棲む者どもが織り成す生と死の物語。全然推理小説ではないが、泣ける。ウールリッチばりの佳編。
「キャシーに似た女」行きずりの女から持ち込まれた、大がかりな美術品窃盗計画。完璧な計画、完璧な実行、そして完璧なカモ。なんともルパン3世なお話。
「人生とは?」車に乗って、街に出よう。さあ、ゲームの始まりだ。短いながらも鮮やかなニューロイック・ショッカー。
「初犯」友人に唆されて<銀行強盗>の片棒を担がされる少年。安堵の一瞬に時は凍る。くすんだ成長小説。上手い。
「谷間の鷹」ハーモニカのミュージシャンが、もう一人のハーモニカ名人と出会った時、悲劇は起きる。犯罪破綻に至る手掛りは些かズルだが、思わぬ展開に驚くカントリー推理。
「陰のチャンピオン」ヘビー級チャンピオンを奪取した翌日、俺は、街の有力者から豪奢な屋敷に招待され、そこでもうひとつのタイトルマッチを迫られる。このまま「ヒッチコック劇場」に使える傑作。設定がユニークで、オチもユニーク。
「われらが母校」何十年ぶりの母校。かつての苛められっ子が迎えた晴れの日、そして最期の日。容赦のない話。こういう作品をハードボイルドというのではなかろうか?


2001年9月28日(金)

◆夜なべ覚悟だった仕事がなくなる。どうやら夜中の間にコビトが出てきて片付けてくれた模様。とりあえず喜んでおこう。
◆本当に久しぶりに西大島〜南砂町定点観測。なんと9月15日からとても便利なバス路線が開通した模様で、これまで2停留所分歩いていたのが不要になっておるではあーりませんか。まあ、買ったものには碌なものはないのだが。
d「反死連盟」Kエイミス(早川NV)100円
「三人目の幽霊」大倉崇裕(東京創元社:帯)900円
「怪奇千一夜」黒沼健(徳間書店)300円
黒沼本が、説話風でちょっと拾い物の感があるのだが、全然興味の対象外の人なので珍しいものなのかどうなのかの判断がつかない。大倉本はバリバリの新刊。円紫師匠に続く新たな落語家探偵の登場というふれ込みにとりあえず騙されてみる。
◆若い衆のミステリ系サイトで盛り上がっているようなので、参戦したいのだが「資料」が全部別宅なんだもんなあ。とりあえず、愛唱アニソン、オープニングの部は
「宝島」「ドラゴンボール〜摩訶不思議アドベンチャー」「巨神ゴーグ〜輝く瞳」「疾風アイアンリーガー」「最強ロボダイオージャ」「鉄人28号(リメイク版)〜太陽の使者」「機甲界ガリアン」「機甲創世期モスピーダ」「SEASON(「姿三四郎」主題歌)」「キャッツアイ〜デリンジャー」「南の虹のルーシー」「夢のクレヨン王国〜んぱかマーチ」
山本正之系は「ヤットデタマン」「黄金戦士ゴールドライタン」「UFO戦士ダイアポロン」「銀河烈風バクシンガー」てなとこでしょうか。基本的に絶叫系が好き。
イメージアルバムの類いは新田一郎萌え〜。

◆「カックー線事件」Aガーヴ(ポケミス)読了
ガーヴというのは、なんとも器用な作家である。男女の機微を縦糸にしながら色々な風物・シチュエーションを盛り込み、一晩の娯楽読物に仕立て上げる腕前はピカイチ。善悪の書き分けがはっきりしており、ハッピーエンドが多いのもウールリッチなどとは一線を画するところで、より火曜サスペンス劇場向きの作家であるともいえる。そんなガーヴの日本初お目見え作がこれ「カックー線事件」で、ポケミス100番台の栄誉に輝いた作品である。考えてみれば、ポケミスがまだ三桁だった頃はコンスタントに紹介されていた幸運な作家だった。日本での紹介が止まってからも、したたかに時代を生き抜いた作家であり、諜報ものもこなしつつきちんとしたサスペンスもものにしていると聞く。まだまだ忘れられてよい作家ではないと心ひそかに思っているのだが。さて、この田舎情緒溢れるローカル線を舞台にした「二人で探偵を」はこんな話。
元下院議員にして地元の名士である老紳士エドワード・ラティマーは、ある日、いつものカックー線で、とんでもない災難に巻き込まれる。同じ個室に乗り合わせた若い女性が、突然彼に抱き着いてきたかと思うと、今度は一転して助けを求め暴れ出したのだ。偶然にも事件を目撃した朴訥な信号手の証言によって、哀れラティマーは婦女暴行の容疑を掛けられ、これまで営々として積み上げて来た名声の総てを失う。裁判で争おうにも、当の女性ヘレンは訴えを起さないと言う。これでは、いつまでも名誉回復が出来ないとエドワードの次男ハッフとその許婚シンシアは苛立つが、事件は更なる最悪に向って驀進する。なんとヘレンが殺害されたのだ!当然、容疑はエドワードに向けられるのだが、、、果して無害な田舎郷士を嵌めた陰謀の正体とは?そしてハッフとシンシアの素人捜査と恋の行方は?長閑な入江を瘴気がよぎる時、疾走する車窓は正義を嘲う。
この作家について、まだまだ積読作がある事を寿ぎたくなるぐらいに爽やかなサスペンス。日常のささやかな幸福が、唐突な悪意によって奪われるという掴みが上手い。更に、事件を繰り出していく手際、探偵役の配置など、実に安心して読める。そして唖然とする大転回。いやあ、これは参った。しかも、そこからの二枚腰が心憎い。果してこのような奇手が本当に通用するのかは疑問ではあるが、実にユーモラス。プロローグが生きるエピローグも、読後感をよくしてくれる。「甘い!」という人も多かろうが、甘くって何が悪い?お勧め。


2001年9月27日(木)

◆仕事が修羅場なれど一山こえる。一山こえるが終わった時間が時間だったので
どこにも寄れずじまい。購入本0冊。
◆では、遅れ馳せながらHMMのミステリ映画特集に便乗いたしましょう。
好きなミステリ映画:「探偵」「デス・トラップ」「シーラ号の謎」「殺しのドレス」
好きなミステリ映画俳優:マイケル・ケイン、アンジェラ・ランズベリー
好きなミステリ映画監督:Aヒッチコック、Bデ・パルマ、Dアルジェント
リメイクしたいミステリ映画:「F/X2」(正編が凄く面白かったもので)
映画化したいミステリ作品:「エジプト十字架の謎」「夜歩く」「Xの悲劇」
ここの項目で、どうしてみんないかにも映画化されそうな話ばっかり挙げるのかな?私はガチガチの黄金期本格推理作品を当時の風俗を再現して映画化してくれると、とても嬉しいんだけどなあ。「Xの悲劇」あたり、2、30年代NY交通案内一ヶ所滞在型観光映画みたいで良さげでございまする。ドルリー・レーンを誰が演るのかを想像するだけでも楽しいではありませんか。「エジプト十字架」も当時の交通機関を駆使しての追走シーンが見せます見せます。うう、これも誰がEQ、RQをやるのか想像するだけでもいいぞお。こちらは殺害現場の酸鼻さもイマ風でワクワク。んで、後はカーから1作。既映画化の「火刑法廷」を除けば、舞台設定の派手さで「一角獣の怪」とか、カントリーな感じと小技の密室が光る「毒殺魔」とかも捨て難いが、20年代パリの残酷劇そのものである処女作が一番スクリーン映えしそうな気がした。まあ、実写のフェル博士やHM卿を見てみたい気もするのだが、実写のバンコランもいいなあ。いいぞお。

◆「青髯殺人事件」藤澤桓夫(講談社ロマンブックス)読了
黒白さん曰く、おそらく日本で最初の女子大生探偵シリーズ。どうやらこの本は、第2作品集らしい。今でこそ、「女子大生探偵」といえば「幽霊」シリーズの永井夕子であるが、さすがに昭和30年代の女子大生は品がようございます。おほほほほ。しかも学部は医学部なんでございます。おほほほほ。幼馴染の新聞記者・小島純吉さんが持ち込む事件やら老刑事の真田さんを悩ませる事件を解決いたします。康子は探偵いたします。
推理小説としては、生真面目で小味だが、読後感は爽やかなのは、一重に康子のキャラクターに負う所が大きい。つい全作追いかけてみたくなる気持ちにさせる。この作品集には2中編と2掌編を収録。以下、ミニコメ。
「青髯殺人事件」素封家に嫁いだ康子の高校時代のクラスメート幸子。だが、その結婚は幸福なものではなかった。幸子の夫:抽象派の画家・今岡は大酒飲みで女関係にもだらしなく、今もまた女給の美洋子を囲う始末。その今岡が自宅近くの溝川で死体となって発見された。そして容疑は、幸子と彼女に同情的だった今岡の母親に向けられる。果して、今岡家の金庫から契約書を盗み出したのは誰か?そして真犯人は?康子はわが身を盾に真相に迫る。ほのぼのとした軽本格。殺伐とした事件だが、善人の多さに救われる。だが、フーダニットとしてはそこがまた限界でもある。
「スクーター殺人事件」夏休みを利用して山陰のとある街に友人の秋子を訪ねる康子。だが、その訪問の夜、秋子の親戚である名川家の当主・延雄が、断崖からスクーター諸共、海に墜落し、死亡する。果して事故か、それとも殺人か?康子が名川家で見かけた3人の男、延雄の従兄弟にして恋敵の三郎、延雄の異母兄弟・銀之助、そして証券会社社員の大智のうち、動機と機会が揃うのは誰?康子の慧眼は、水面下の奸計と欲望を暴き出す。これも律義な軽本格。トリックは単純だがスッキリとまとまった作品。
「白い羽根」越川家の新年パーティーで、越川夫人のサファイアの指輪が盗難にあう。果して犯人は如何にして宝石を持ち出したのか?小さく軽い手掛りから真相に飛ぶ康子の名推理。まあ、推理コントといった風情の小品。康子が探偵を務める以外にさして見るべき処はない。
「不完全犯罪」大阪の街を狂騒に追い込んだ教授夫人殺し。大胆にも犯人は、「完全犯罪など存在しない」という尾武教授の持論に挑戦するためだけに、その夫人を殺害したのだ。だが、ひとり康子だけは、論理の罠へと真犯人を追いつめて行く。まあ、よくある話ではあるが、過不足ない佳品。


2001年9月26日(水)

◆仕事が修羅場。それでも昼休みに出先から神保町タッチ&ゴー。
「THERE WAS AN OLD WOMAN」ELLERY QUEEN(SIGNET)200円
「DRAGON'S TEETH」ELLERY QUEEN (Pocket book:1st)650円
なんでクイーンの、それも「ドラゴンの歯」なんぞのPBをこの値段で買ったかというと、只のネタ用である。なんのネタかは、そのうちに公開するのでお楽しみに。
ついでに新刊を2冊。
「創元推理21 2001年夏号」(東京創元社)500円
「夜はわが友」EDホック(創元推理文庫:帯)980円
創元推理はそろそろ次が出そうなので。ホックはそろそろ帯付きが少なくなってきたので。
◆松本幸四郎主演のドラマスペシャルというので「憧れの人」を奥さんと視聴。かつて上司の裏切りで詰め腹を切らされた企業戦士。妻は他の男の元に走り、残されたのは少しおかしな性癖を持った息子。10年後、写真館を営む主人公はある事件を切っ掛けに「引きこもり」となった息子の心を開くため、「レンタルお姉さん」を頼む事になるのだが、、、ううむ、テレビ欄で<「憧れの人」の正体が意外>とか書いてあったので、つい見てしまったが、余りにも不自然なところだらけの話である。確かにラストで明らかにされる「憧れの人」の正体には意表を突かれたが、そこまでの設定や展開が納得性をとことん奪う。余貴美子がとことんいい女、ちゅうか男にとって都合のいい女をやっていたのが印象に残る程度。やれやれ。

◆「審判の日」Pアンダースン(早川SFシリーズ)読了
とことんB級なのではあるが、SFミステリを語る上で避けては通れない里程標的作品。アジモフのベイリ&Rダニイル、ギャレットのダーシー卿といった、名探偵の伝統を踏まえたSFミステリとは異なり、「被害者」のデカさのみで有名な作品。その被害者とは即ち「地球」である。まあ、島宇宙をぶっ潰すが如きハミルトンやら長谷川裕一的スケールからすれば「小せえ、小せえ」なのかもしれないが、一応、被害者と探偵と容疑者と真犯人がいるという「推理小説」としては、最大の「被害者」といってよかろう。こんな話。
「これは、人類最初の試みとして3年間の調査飛行に飛び立った宇宙船フランクリン号の驚異に満ちた物語である」。で、戻ってみると「時に西暦2000年頃、地球は宇宙の謎の星からの攻撃を受け、人類絶滅の危機まであとマイナス1年と迫っていた」って、もう滅びてるじゃん!地殻は裂け、海は沸騰し、灼熱の溶岩はすべての文明と生命を死に至らしめた。果して、地球の命を奪ったのは誰か?地球に恒星間宇宙船を与えた友好種族モンワイグの助けを得ながら、フランクリン号の乗組員達は沈着冷静なカール・ドンナン俄か司令官の下、日夜、謎のホシを追う羽目になっていった。最も容疑が濃厚だったのは、地球の回りに自動追尾型のミサイルを残していったカンデミル星人。彼等と戦争を繰り広げているフォルラク星系の援助でカンデミル星系に乗り込むフランクリン号一行。だが、探索と脱出の果てに彼等を待ち受けていたのは、余りにも衝撃的な「証言」であった。大宇宙を股に掛けた壮大なパズラー。回天の宙に慟哭を。
舞台はでかいが、ミステリとしてのトリックは小味。なんと真相を告げるのは、ミサイルに残されたメモ書きなのである。「宇宙気流」の顰に倣ったとでもいうのか、政治的な駆け引きに埋没させず、ミステリのコードを守ったのは評価に値するが、SF読みはなんとおっしゃるか。1961年の作品ではあるが、50年代のテイストに溢れたお話。既に東西冷戦を引き摺っているあたりは、時代認識の確かさを感じる。早川ミステリ文庫で復刊してもいいような作品であろう。B級好きにはお勧め。


2001年9月25日(火)

◆給料日。ということはHMMとSFMの発行日。という訳で、本屋に向う。ううむ、SFMはあったがHMMは見当たらん。ま、まさか、とうとう廃刊か?と思い「見届け」の意味も込めてもう一軒の新刊書店チェック。ところが、どっこい!なんと、なんと、ミステリ映画の特集号はなんと500頁超の大冊!!値段もシャレにならない2500円!!これが雑誌の値段かい!
まあ、中身の充実ぶりには百点満点を与えてよい。全編これ勉強になりまする。リンクとレビンソンのプロデュースしたアンソニー・ホプキンス主演の未放映テレフューチャーがあったという情報には切歯扼腕。うがああ、みたいよう。
◆メフィスト賞作家・殊能将之氏が御自身のサイト:Reading Diaryにて、ここ数日「カーの再臨」と噂のポール・アルテ萌え萌え状態で目が離せない。私の知る限り、日本ではレオ・ブルースFC会長・小林晋氏がROM誌で紹介されて以降、最も纏まったアルテ評だと思う。カーキチ必読!!ポケミスでの紹介の日も近いそうな。うがああ、早く読みてえええ。
◆小林晋氏といえば、先日我が職場のまるぺ人脈を紹介した際に、ネタにさせて頂いた「国際畑文科系課長補佐級」の人と小林氏の以外な関係が判明。うっかり、「30代半ば」などと書いてしまったが、大嘘。なんと小林晋氏と中学校時代の同期だったのだそうな。うっひゃああ。とは、お若こうみえる。えらいすまんこってす。
わざわざ、小林氏がメールで拙掲示板での「まるぺ」スレッドを御注進されたとか。「いやあ、突然、旧友からメールが来て、kashibaさんの掲示板を『知ってます?』といわれちゃいましたよ。kashibaさんって有名なんですねえ〜」ちゃいます、ちゃいます。わしなんかより、小林氏の方が一万倍有名なんですってば。
こうしてみると、よしだまさしさんの結婚式の司会を務めた人とか、小林晋氏の旧友とか、当社もなかなか人材豊富なような気がしてきましたぞ。

◆「おれは暗黒小説だ」A.D.G(ポケミス)読了
おそらくポケミスで珍題名大賞を選べば、ベスト3には入賞確実な、文字通りの「ロマン・ノワール(暗黒小説)」。さあ、対抗馬はどんなところだろうか?<これが題名か?短い部>では「オー!」とか、<これが題名か?長い部>では「さればその歩むところに心せよ」とか「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」とか。なんとなく直訳調が違和感な「殺人をしてみますか?」も捨て難い。「草は緑ではない」とかもその類い。ちなみに個人的に最も煽情的であると感じる題名は「ストリップ・ガールの馬」。ごめんなさい。何を想像していたか、聞かないで下さい。
題名遊び:その2「おれは暗黒小説だ」シリーズ。
「我が輩は探偵小説である」
「私は私立探偵小説だ」
「僕は本格推理です、お父さん」
「あたしはコージーミステリよ」
「わいはゆーもあみすてりでんねん」
「おいらはジュビナイル推理だよ」
「自分は警察小説です」
「I(アイ) SFミステリ」
いい加減にしやがれ。こんな話。
おれの名はジェローム・ロッセ。ちったあ名の知れた暗黒小説書きだ。まあ、生活態度はお世辞にも褒められたもんじゃねえ。愛娘あり、女房あり、女房のおっかさんあり、クリスマスに集まったぴいちく囀る女房の親戚にウンザリした俺は、家を飛び出し3日間呑んだくれ、ベロベロになってパリに戻ってきたと思ったら、今度は豪奢な屋敷に半分攫われるように招待されちまった。そこで、見知らぬ上品な爺いから、嫁さんに子種を仕込んでくれと頼まれる。据膳食わぬはなんとやら、好奇心も手伝って、嫁さんとやらの顔を見たと思いねえ。オイ、冗談じゃねえ、俺の女房じゃねえか!こいつは何の冗談だと大暴れしている内にブラック・アウト。気がつきゃ、マットレスに縫われてゴミ捨て場にポイ。さあ、こっからが、ホトケ共との舞い踊りだ。ゴミ捨て場で知り合った乞食どもは鉛玉食らってお陀仏。家に戻れば、女房は首を裂かれておっちんでやがる。おいおい、これはなんなんだあ?元大臣だかなんだか知らねえが、暗黒小説家をなめんじゃねえぞおお。
というわけで、スラングの連続に最初は面食らうものの、中味は文句なしのページタナー。主人公が逆襲に転じてから行動を共にするエドガーとエドウィージュ兄妹の壊れっぷりが凄まじい。この二人のキワどい行動を見るだけでもこの本を読む価値がある。暴力の行き着いた先にへらへらとブラックな笑いが込み上げて来る。間違っても推理小説ではないが、滅法面白い読物である事は保証する。お勧め。


2001年9月21日(金)〜24日(月)

◆金曜日の夜から、奥さんの叔母さんの御宅へ小旅行。福岡県O市にて、呑んだり、麻雀したり、猫と戯れたり、生まれて始めて日曜礼拝に参加したり、吉野ヶ里遺跡やら北原白秋生家やらを観光したりで、面白可笑しく過ごす。あれこれと大変お世話になりました。
購入本4冊。新刊1冊。古本3冊。
「棲家」明野照葉(角川ホラー文庫:帯)680円
d「ササッサ谷の怪」コナン・ドイル(河出Cノベルズ)100円
d「13人目の名探偵」山口雅也(JICC)100円
「秘密のラブ・メッセージ」北原なおみ(講談社X文庫)100円
会食の間隙を縫って古本屋に寄ったら、奥さんから「こんな処まで来て、古本屋に寄るの!?」と白眼視された。はいはい、Moriwakiさん、よしださん、フクさん。私もお仲間でございます。


◆「サーキット殺人事件」高原弘吉(春陽文庫)読了
若き人気レーサーが引き起こしたクラッシュ。果してそれは事故だったのか?元レーサーの業界記者が事件を追う内に、レーシング・チームのチーフ・メカニックまでが謎の死を遂げる。そして、真相に迫り過ぎた記者自身にも黒い死の影が。レースマニアの刑事が仕掛けた命懸けの罠。果して、黒幕の正体とその動機とは? 非常に活きの良い、業界内幕推理。最終的に探偵役を務める成金カーキチ刑事の設定がふるっている。レーシング界の内実は三面記事的であり、どことなく安っぽい感じが漂うのは、この作者の持ち味であろう。犯人は結構意外。というか、これがありなら、なんでもあり、という感じ。

◆「妖しい花粉」狩久(あまとりあ社)読了
作者の残した数少ない単行本の一つ。いずれも男女の性愛に絡めた幻想的な殺人譚が居並ぶ。文章は余りごてごてしておらず、程よい雰囲気。江戸川乱歩調の奇譚から、海野十三ばりのとんでも科学もの、幻想譚とみせかけた完全犯罪もの、などなど、そのバラエティー豊かな作風には今更ながら感心した。T蔵書に大枚叩いたからいうわけではないが、この作品集は、是非ちくま文庫の日下コレクションで増補復刊して頂きたいものである。まあ、若い人々はそれを待って高値掴みしないのが賢明な選択といえよう。

◆「棲家」明野照葉(角川ホラー文庫)読了
オール読物新人賞・松本清張賞を受賞した女流作家の新作長編ホラー。題名の示す通りの「家」ものである。若きOLが、歪んだ洋館に魅せられ、そこに蠢くものども乗っ取られていく様が克明に描かれ、読ませる。一人暮らしの女性の日常や、女同士の友情のちょっとした描写が巧みで、荒唐無稽とも言える展開を下支えする。後半から俄かに今流行りの「陰陽師」的な勝負ものへと物語の様相が変貌するが、ここも力強い筆力で乗り切り、まずは及第点。高橋克彦が絶賛するほどのものではないと思うが、この「主人公」にはもう一度逢ってみたい気はする。

◆「秘密のラブメッセージ」北原なおみ(講談社X文庫)読了
ホームズ君シリーズ第5作にして最終作。突如、学園に流行する男装の麗人たちに秘められた恋の罠とは?物語はブーメランのように、「イレギュラーズ」自身に撥ね返ってくる。謎の組み立てはなかなか斬新だが、果してこの「犯罪」が成立するのだろうか?余りにも「女の子」をバカにしているような気もするのだが、まあ、主人公がシアワセならいいっか〜。だってX文庫だもん。