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2001年9月10日(月)

◆台風。残業。購入本0冊
◆ネタがございません。そういう時には、台風にちなんだ推理小説の話でも、と思ったが若竹七海のパニック小説ぐらいしか思いつかない。「虚無への供物」 「偽りの晴れ間」は、まあ洞爺丸絡みなので台風関連なのかな?原語になったテュポーンは、FFではお馴染みの幻獣だけど、これもクラッシャー・ ジョウの「人面魔獣」ぐらいしか思いつかーん。ああ、だめだめだあ。

◆「レイン・ソング」フィリス・A・ホイットニー(サンリオ・ロマンス)読了
ではせめて課題図書は、雨にちなんだ本をと思い、2段組400頁の大作に挑む。仮にこれがポケミスであれば、「1日1冊」はミッション・インポシブルである。トム・クルーズ気分で背中に炎をしょって鳩を飛ばしながら決死の覚悟でとりかかったところ(大嘘)、実にさくさく読める事にびっくり。なんと行き帰りの電車で読了できてしまうではないか。恐るべし、ゴシック・ロマンス!!まあ、ゴシック・ロマンスといえば、幸薄い佳人が曰くありげなお館に招かれて、陰のある人々と出会い、あれやこれや怖い思いをした挙句、素敵な男性と結ばれる、というような様式美の世界であるのだが、、「まんまやん!」であった。こんな話。
わたしの名はホリス・テンプル。23歳、作詞家、未亡人。わたしの永遠の憧れにして夫だったリッキー・サンズは、数多くのヒット曲を世に送り、ゴールドディスクを勝ち得、そして自ら命を絶つ事で伝説となった。その動機は今もって不明。かつて付合いのあった女優コーラルの死が引き金になったのか?それとも、音楽家の自殺につきものの「薬」のせいか?傷心のわたしは、心無いマスコミの取材攻勢から身を潜めるため、かつて歌手だったわたしの父を慕っていたという老婦人ジニーヴァの館「ウインドトップ」荘に身を寄せる事となった。館に住むのは、ジニーヴァの息子同然に育った逞しい青年植物学者アラン、歳の離れた引込み思案の弟ティモシー。わたしは、徐々に田舎の清々しさの中で、自分を取り戻し、アランの幼馴染リズやその弟ピートとも友人となる。だが、一見平和なウインドトップ荘には、奇妙な緊張感が隠されていた。そこかしこに漂う亡き夫の翳。そして縺れた人間関係の実像が過去の闇へとわたしを誘う。懐かしいメロディー、甦る記憶、野心と悲恋、無謀なる愛、そして消された顔。始まりは雨の歌、クライマックスは雨の中。
少ない登場人物を巧みに組み合わせ、しっとりとしていながら邪悪でサイコなサスペンスに仕立て上げた作品。歌手の未亡人で才能ある作詞家という設定は、誰もがなれる」主人公というわけではないので、読者の大層を占める「恋愛願望予備軍」の感情移入に差し障りがあるようにも思うが、それゆえ「様式美」におけるアクセントとして楽しめる。プロットは、やや御都合主義が鼻につくが、文字通りのページタナー。小さな謎を重ね、片づけ、核心に迫っていくという骨太の構成がニクい。仮にこれがロマンティック・サスペンスの水準であるとすれば、ロマンティック・サスペンスという分野も馬鹿にしたものではない。さあ、皆さん、探しましょう。


2001年9月9日(日)

◆うわあ、しまったあ!WOWOWの「ゴールデン・スパイダー(黄金の蜘蛛)」、録画し損ねたあああ。こんな映画あったっけ?と思っていたら、2000年の製作らしい。うう、今月中は、もうアナログの方での放映はないのねそうなのね。私としては初めて、映像化されたネロ・ウルフが見られると思ったのにいい。ぶう。
◆久しぶりに掲示板にレスをつけていると、日記を書く気力が失せて行く。どうもHP自体が「ねばならぬ」モードに入っているのか、スタート当初に比べ「書きたい」という欲求が擦り減っているのを感じる。まあ、ごっこ大好きのコミケ野郎なら「スランプだあ〜」と叫ぶところだが、そこはそれ「スランプちゅうのは、上手い奴がなんねん。お前のはただのへたくそや」と野村監督(@あぶさん)の言葉を胸に頑張ってしまうところがおやじである。
◆7月24日の中国道の女子中学生遺棄事件の容疑者が捕まる、との報にきょとん。なぜ、聞いた事がなかったのかなあ、と思いきやラブラブ新婚旅行中の出来事であった。同じ伝で明石の花火見物でのパニック事件も「へえ」ものだったのだが、一旦海外に出てしまうとその間の三面記事というのはインプットされないものである。こういうのって倒叙推理のネタにつかえませんかそうですか。
ところで、またこういう事件が起きると、携帯やらおたくが批判に晒されるのであろうが、「何々がなければ、こんな事件は起きなかった」という論調はいい加減にやめて欲しい。宮崎事件の時も思ったのだが、なぜ「自動車がなければ、こういう事件は起きなかった。そもそも年間1万人の人を死に至らしめている自動車が野放しにされている事こそ問題であり、犯罪の温床になっているのだ。危険な人物に安易に免許を与えてしまうのが自動車社会:日本の欠陥ではなかろうか。今こそ国と自動車メーカーの責任が問われるべきである。」という論調は一つもないのだ?くそう。
◆ブックオフ一軒チェック。
「運命のSOS」牧逸馬(山手書房新社)100円
つい100円だったので拾ってしまう。全然集める気はないのだが、もし6冊中5冊まできてしまうと、最後の1冊を金で解決してしまいそうだ。これはもう絶対にそうなのだ。まだ2冊だけどさあ。

◆「シベリア超特急連続殺人事件」水野晴郎(七賢出版)読了
今でこそCSやらBSにお株を奪われ見る影もないが、かつて地上民放の映画劇場というのは「テレビの華」であった。大作映画の放映権をどこそこの局が幾らで買ったか、というのが芸能ニュースになった。どの局も威信を掛けて改編期のゴールデンタイムに名作をぶつけてきた。ただ、大作を取るためには、大コケした作品やら、C級作品をセット販売で押し付けられるというのも世の習いで、そういう時には、各番組の解説者が、監督・俳優・作品に絡むエピソードで「視聴するに足るそれなりホンペン」に仕立て上げるのが民放のお約束になった。この作者はテレビ映画解説者として、淀川長治に並ぶキャラクター。「いやあ、映画って本当にいいもんですね!」という決め台詞はテレビの歴史に残る名セリフである。「刑事コロンボ」の放映権がNHKからNTVに移り、金曜(水曜)ロードショー枠で放映されたため、ミステリ・マニアでこのセリフを知らない人間はモグリである、と断定してよい。
閑話休題。この作品は、永年映画を愛し、深く映画に関わってきた作者が、面白い映画を作りたい一心で製作した「シベリア超特急」のノベライズ。幸か不幸か、一部で非常に評判の良い映画版を見ていないので、「素」で楽しめた。こんな話。
太平洋戦争前夜、日独伊三国同盟調印後の1941年6月。ヨーロッパ軍事視察の任務を終えた山下奉文日本陸軍中将一行は、シベリア鉄道を用い、一路満州を目指していた。イルクーツクで編成された10両のシベリア特急は、一等車両である7号車を除き全て貨物輸送に切り替えられ、山下将軍・佐伯大尉・青山書記官一行、ソビエト将校、キルギス系佳人、ウイグル系中年女性、ユダヤ系商人、オランダの国際女優、ナチス将校、愛妾二人連れの華僑という12人の乗客を乗せ、東へとひた走る。それぞれの思惑と回顧がなされる夕べに異変は起きた。キルギス系の佳人・李蘭のいるべき1号車に李蘭を名乗る見知らぬ女性が入り込み、続いて6号車のウイグル系女性と、4号車のソビエト将校も姿を消す。ヒトラーとスターリンの不可侵条約の危うさを見抜いていた山下将軍は、ソビエト将校の死を確信する。だが、シベリア特急に乗りあわせた死神は、一人の血では満足しなかった。果して、山下将軍は、邪悪なる陰謀と死の罠を潜り、無事満州に辿りつく事ができるのか?相次ぐ失踪と殺人。高速で疾駆する鉄の函。その名はシベリア超特柩。
いやあ、映画って本当にいいもんですね!なんとも「バルカン超特急」であり、「オリエント急行殺人事件」であり、「ロシアより愛をこめて」であり、某著名列車もの(ネタバレにつき自粛)である。はっきり言って「いいとこ取り」。しかしながら、所謂「イエスか、ノーか!」像とは異なった山下将軍の高潔な人格と人情、確かな先見性と洞察力が、この物語を滋味豊なものにしている。余りにも要素を詰め込み、あれもやりたい、これもやりたいという造り手の想いが強烈に伝わってくる作品。もっとも、メイン・ストーリーを劇中劇に封じ込めた趣向の部分は、素人小説家の勇み足。映画を見た人間でも、新たに楽しめるように、という気遣いかもしれないが、はっきりいって、中味の良さを減じるだけの効果しかない。残念。しかし、これは映画版を見たくなっちゃったぞ。


2001年9月8日(土)

◆のんびりした1日。朝から昨日の日記と溜まった感想などを書いて過ごす。夜は誕生会で外食。4人でワイン3本呑んで酔っ払う。ういい。
◆ネタもないので、国書の全集の第4期の残り4冊が何かを邪推してみよう。
これまでに「変更あり」という条件付きながら紹介されているのが、以下の6冊。
「ストップ・プレス」マイクル・イネス
「割れた蹄」ヘレン・マクロイ
「悪魔の足跡」ノーマン・ベロウ
「レイトン・コートの謎」アントニイ・バークリー 
「大聖堂は大騒ぎ」エドマンド・クリスピン
「魔法人形」マックス・アフォード
ううむ、やはり凄まじいラインナップだねえ。「ストップ・プレス」が日本語で読める時代が来るなんて、感激以外の何物でもない(なにせ、無茶苦茶分厚いのである。分量を見ただけで原書ではギブアップなのである。)この中では、ベロウとアフォードが日本初紹介、森英俊氏によって名のみ知らしめられた不可能犯罪派。いやあ、たまりませんなあ。
さて、では残り4冊の中には初紹介作家が入るであろうか?
ハリー・カーマイケルやサイモン・ナッシュやバトラー(メルヴィル)は、現代的な感覚が国書のテイストとは合わない。ポール・ドハティーは、余りに最近の作家過ぎ、紹介するのであれば光文社辺りでリンゼイ・ディヴィスみたく精力的にやってほしい。
ここは「アフリカ育ちの森英俊好み」ということで、マシュー・ヘッド「藪の中の悪魔」、ハクスレイ「サファリの殺人」なんてところは、狙い目かもしれない。まあ、この辺はクリフォード・ナイト(紹介作あり)の「緋色の蟹」やレナード・ホルトン「狼を退け給え」なんぞとともに、<エキゾティック・ミステリ>みたいな叢書を立ち上げる時の主役になるのかも。
どたばたコージーのラング・ルイス、マーガレット・シャーフ、スーザン・ギルラス辺りは、創元推理文庫向けだろうしなあ。あ、へイヤーが居ましたね。「貯蔵庫の死体」なんぞはいいかもしれない。でも、ハードカバーとなると荷が重いかな。
ベロウ、アフォードとくればもう一人オカルトっぽい味付けから、フィッツジェラルド「魔女を拷問」はどうでしょう。そこまで大盤振る舞いしてくれるかなあ。くれないだろうなあ。

国書テイストに合うといえば、戦前のみの紹介という幻の作家。例えば、アボットやコニントン、ギールグッド。 アボットは九州ミステリ研の菅さんが私家版で出すとおっしゃっていたが、その後、どうなった事やら。 コニントンも、悪くはないが、とにかく地味なのでセールスがどの程度期待できるかとなると些か不安。鮎川哲也から解説でも雑文でも、極論すれば帯に一言でも貰えればそれだけで買う人が何%かはいるだろうけれども。
ワタクシ的には、この辺りから一人選ぶとすれば、ギールグット「放送局の死」(マーヴェルとの合作)がよいと思う。
戦前訳の新訳でコニントン「九つの鍵」は、ありそうかも。その流れでいけばマクドナルド「X対皇帝」、ヴェリイ「絶版殺人事件」も充分有力候補。

最もセールスが読める既紹介作家の未訳作では、こんなところでどうでしょう?
ロラック「悪魔とCID」。これは原書の表紙が、大々的に紹介されていたので。「チェルシーの殺人」「診療所の死」でも可。
マーシュ「愚者の死」。マーシュから、もう一冊といえば、これか「バーの死」だけど、やっぱり派手さでいけば、こっちでしょうね。
スタッグ(クエンティン)「降霊会に死は巡る」。まあなんでもいいんだけど、オカルト味が一番強そうなので。
タルボット「絞首人の助手」。これは国書が出さなくても、絶対どこかがやってくれそうだ。どこでもいいから出してくれえ。
アイアムズ「死の描線」。漫画入りという趣向の勝利。
モール「皮の罠」。全く国書の全集向きではないが、どこか出して欲しいよう。
ブルースは新樹社が持っていくだろうから最初からパス。
あとは国書が自分で開発したところから、ペニー「警官の休日」、クレイスン「死の天使」なんて、どうかな?

以上、つらつら挙げた中から4作選ぶとこんな感じ。

ギールグット&マーヴェル「放送局の死」
<JDカーの朋友が放つ代表作!初訳!>

マーシュ「愚者の死」
<衆人環視の雪舞台で首は刎ねられた。巨匠畢生の不可能犯罪>

アイアムズ「死の描線」
<謎はすべて描けた!漫画と推理の融合>

ハクスレイ「サファリの殺人」
<クリスティの最大のライヴァル登場!>

いやあ、こういう遊びは楽しいなあ。いっひっひ。

◆「飛鳥高傑作集:犯罪の場」日下三蔵編(河出文庫)読了
新刊である。これまでは「犯罪の場」も「黒い眠り」も入手困難作の多い飛鳥高の中でも頭一つ抜けた血風本であった。まあ、よくもその2冊をカップリングしたうえに単行本未収録を4編までつけてくれたものだ。歳若いマニアにとっては、感涙ものの企画であり、甲羅に苔の生えた古本者にとっては切歯扼腕ものの出版である。多品種渉猟もとい少量出版というデフレ時代の適者生存のなせる業であろう。後は、かつて探偵小説の繚乱期に出版された様々な全集が辿った「企画倒れ」「途中で中絶」という憂き目に遭わない事を祈るばかりである。第2期も頑張れなどと贅沢は言わないから、せめて第1期は突っ走って欲しいものである。鮎川哲也は後に回していいからさあ。17編収録。以下、ミニコメ。尚、「黒い眠り」収録の7編については、過去の日記のどこかにある筈なのでパス。
「逃げる者」失火の責を負い罪を償った男。彼を愛する女が感じた疑惑。ピクチャレスクでピカレスクな二重底。燃える罠に殺意が爆ぜる。新宿ビル火災直後に読むと、一層切実なサスペンス。短篇なのが惜しい。
「二粒の真珠」完全な密室の中で刺し殺された男。現場に転がる二粒の真珠は何を物語るのか?大胆なトリックで有名な作品。余りにも「ため」にする感はあるが、マニアには堪らない。
「犠牲者」僧侶たちの葛藤、古刹の因縁、煩悩とは無縁の世界が戦争に翻弄され仏たちの集う場所に殺意が走る。巧みなアリバイトリックと、不可能を可能とする仕掛が鮮やか。堂々たるフーダニットである。
「金魚の裏切り」浜辺に足跡を残して消えた一代の政商。彼に飼われた者どもの狂騒を見つめる金魚たち。物悲しいホワイダニット。金魚の告発が効いている。
「犯罪の場」<広い密室と博士たち>。「飛鳥高といえばこれ」といっても過言ではない余りにも有名な、研究室ミステリ。一体幾つのアンソロジーに採られた事か。3次元的に斬新なトリックは、島田荘司や森博嗣の原点としてこれからも語り継がれることだろう。
「暗い坂」かつての当番兵は戦後を逞しく乗り切り、財を成す。しかし、成功物語は密室の中で終止符を打つ。入り組んだ人間関係と入り組んだ密室。企てが空転し、虚仮を嘲う。ナイオ・マーシュ的どたばた密室。読後感が痛い。
「加多英二の死」自分の死の真相を探る幽霊探偵。トリックは相当に無理があるが、大胆な設定と皮肉な展開で読ませる一編。なんだか、源氏鶏太みたいだなあ。
「ある墜落死」闇の中に企みは潜み、プロバビリティーの罠は閉じる。枯れた小技が光る一編。
「細すぎた脚」誰が熱心な建築助手を殺したか?端正なハウダニットでフーダニットと思わせておいて、最後にホワイダニットをぶつけてくる作者円熟の技。思わず唸った。
「月を掴む手」大言壮語の小物の死。それは神の意志なのか?それとも?縺れた罠の中で上を見続けた死に至る病。思わせぶりなピカレスク。この作品集の最後を締めるには些か変格。


2001年9月7日(金)

◆一駅途中下車。
「グリーン家殺人事件」ヴァン・ダイン(春陽堂少年少女文庫)100円
「定本・ゲーム殺人事件」竹本健治(ピンポイント:帯)100円
「ろう人形館の恐怖」JDカー(集英社)100円
ジュヴィナイル2冊のうち嬉しいのは勿論カーの方。御値段といい、本の状態といい申し分ございません。この本が現役本だった頃は、既に創元推理文庫で帽子男マークを追いかけていたために、こちらの方まで手が回らなかったのである。というか、叢書そのものの存在を知ったのもここ数年の事、それもナポソロ本が入っているがために知ったという、体たらく。これよりも少し早いタイミングで出ていたSFの函つき叢書の方は、小学生の頃に嵌まりまくったのだが。この辺りの年頃の1、2年の差の大きさを改めて感じる。
ヴァン・ダインはおそらくダブり。一体この叢書、何を持っていて何を持っていないのか、真剣に判らなくなってきた。マニアの殆どは「第1巻の『夜歩くもの』があればいいやあ」というのが正直なところであろう。斯く言う私もその口である。
竹本健治の合本は、昔からブックオフの半額コーナーが定位置であったが、やっと100円均一に落ちてきた。いっひっひ。そもそも持っていないのは書き下ろし短篇の「チェス殺人事件」(その後、光文社の「勝負」もののアンソロジーに入った筈)だけである。「短篇一つに3200円は出せないなあ。」「他所でも読める短篇一つに1600円は出せないなあ。」ときて、「まあ帯もついてるし、100円だし、嵩張るだけだけどしゃあないなあ」となった次第。
◆ネットで調べ物をしていて、ロバート・ブロックの翻訳リストに出くわす。うわ、この人も凄いなあ。尊敬。どうやらNTTにお勤めの様子。「インターネットのウエッブは、徹底的にユーザーの側に立った視点で構築されているため、儲かるシステムを作ろうとする企業の論理と相容れない」ということがとてもよく判る事例である。人の善意で成り立っている、とまでいうと言い過ぎかもしれないが、自らも情報を発信する事で人の発信した情報も活用できるという「情けは人の為ならず」とか「情報とは<情に報いる>事である」的システムではあって欲しい。
果して私がアップしている内容はどなたかのお役に立っていますか?
私もここにいていいですか?
◆うう、昨日のやたらと時間を食った島荘パロディよりも、一昨日のちょっとしたパクリ日記の方が評判いいなあ。ぶつぶつ。


「笑いの神髄は<内輪受け>にある。
あとは内輪をどこまで広げられるかで決まる。」
(ニール・サイモン;劇作家・アメリカ)


とか、書くと、一瞬信じません?kashibaのオリジナルだよーん。

◆「恐怖のカタチ」大原まり子(朝日ソノラマ)読了
余りよい読者ではない。アンソロジーで何編かを読んだ事がある程度。それもかつて不思議眼鏡っ娘SF作家であった頃の御真影のイメージを裏切る、どろどろぐちゃぐちゃした艶笑譚が多かったので、辟易としていた。が、先日、現代モノのホラー集と銘打ったこの短篇集を100円で拾えたので、気を取り直して読んでみたところ・・・・面白いじゃないの!獅子王というジュヴィナイル誌の倫理規定ギリギリのR指定小説オンパレード。それぞれに、淫らな匂いが漂う佳編揃い。肉の俗世と幽冥界が絶妙の均衡を保つ汽水域の騙し絵。ツイストが絶妙。これは見かけたら買い!
と、そこまではいいんだけど、この本、文庫化された際に2編増補されているらしいのだ。しまったああ。面白かっただけに相当に悔しいなあ。さあ、文庫を探さねば。但し、100円棚でだ。それがせめてもの古本者の矜持である。7編収録。以下、ミニコメ。
「憑依教室」懐かしい教室に私は還える。学生時代、友人とこっくりさんに耽った教室。そこで甦る恐怖の記憶。暴走する指、迸る血、復讐の罠はその壁に呪いを刻む。鮮やかな仕掛の後に顔をだす愚かな女の性が怖い。一本とられました。
「お守り」お引越し先を嫌うお友達。いつも一緒だったお友達。彼を奪ったお友達。淫らで貧乏なお友達。彼女はひとごろしのむすめ。そしてここはころしのおうち。でも、わたしにはおまもりがある。女同士の屈折した心に潜む妬み、嫉み、怨み、哀しみ。刺激的な話の刺激のないオチに驚け。
「恐怖のカタチ」恐怖について考えた。恐怖がマクラもとに立つ。爽やかな筈の翔んだカップルは肉の暴走に戦慄する。生への執着に走る精。どこまでも緩やかな死。聞こえてしまった恐怖のカタチ。陳腐な設定が常ならざる幕を引く。
「海亀アパートの怪」僕は暗い奴なのか?友達はいない。想い人はいる。美しき片思いが結晶する夜、ポルターガイストの部屋で恐怖は溶ける。白と黒の反転が見事。
「真夏の夜の会議」田舎に家を買ってしまったバブルな夫婦が遭遇した夏の夜の悪夢。知らされ過ぎた男は暗鬼に蝕まれる。当時の世相こそが、異界に見える。歪んだ宮澤賢治。
「猫が轢かれてから」<スピードと死角>、止まらないリフレインが、記憶の函を穿つ。父と姉の風景。夏への扉は禁忌に向って猫を轢く。やや整理の悪い話。
「僕は昆虫採集が好きじゃない」僕の彼女は美人だ。だから、彼女を独占できない事は僕が一番知っていた。誰がコレクターだったのか?誰が命を授けたのか?誰が解放されたのか?死は背中あわせにそこにいる。エゲツナイ展開にも関わらず、なぜか前向きなラストが違和感。


2001年9月6日(木)

◆神保町タッチ&ゴー。
「恐怖のカタチ」大原まり子(朝日ソノラマ)100円
「悪夢『名画』劇場」花輪莞爾(行人社)100円
「快盗ルビイ:密着ロケ日記・完全シナリオ」和田誠(集英社)100円
大原本はホラー集。さすがにバブル崩壊後なので、「水底の顔」のような暴利な価格はついていない。花輪本は、新潮文庫と異同がある模様。自費出版なのかなあ?「快盗ルビイ」は、ホラ、一応、ヘンリー・スレッサー原作だしさあ(>どこが?)
◆新刊1冊。
「飛鳥高名作選」日下三蔵編(河出文庫:帯)998円
「黒い眠り」は所持しているし、「犯罪の場」は総て掲載誌を持っている。オマケの4編のうち3編は雑誌で持っている。要は1編のために買った事になる?ちっちっち。1編のために買ったんじゃねえ、明日のために買ったのさ。
◆「島田荘司パロディ・サイト事件」へのフクさんの問題提起を読む。うう、む、難しい。
で、kashibaは、色物に走る。


「這う2人」(How to Hit)解決編(島田相似 著「御不浄清の事件簿」より)

「では、吸血鬼事件の真相は、、」
「勿論、エリザベス・バートリーの仕業などではない。
 本をヒットさせるためには、何人もの島田相似が必要だった。
 そして島田相似を作り出すためには、島田相似の血清が大量に必要となった。
 その結果、島田相似は無理な採血と輸血を繰り返し続けた。」
「それが、吸血鬼…」
恐るべき真相に戦慄しながらも、私はふと浮かんだ疑問を御不浄に投げ掛けた。
「しかし、血清を射たれた者が島田相似になるのであれば、島田相似の血には不自由しないのでは?」
「そこが宗家の血の意味なんだ。所詮コピーはコピーに過ぎない。劣化島田相似の血清は 新たな島田相似を生み出すには至らなかった。その出来そこない達が、あいつらだ!」
御不浄は、南雲洞の地下に広がる深い穴を指差した。
そこには、血も凍る光景が横たわっていた。暗い闇の底で澱んだ光芒が揺れる。ざわざわという肉のぶつかる蠢きとうめき声が瘴気とともに立ち上る。ゆがんだ顔、唇の曲がった顔、黄色い顔、そのどれもが島田相似の面影を宿していた。
「…あれが這うものの正体だ」そういう御不浄の声は既に私の耳には届いていなかった。吸い込まれるような、囁き、喘ぎ、ざわめき、生まれそこなったモノどもの吐息に意識が朦朧としてくる。
「わたしが島田相似だあ」「わたしこそ島田相似よお」「嘘でもいいから島田相似だあ」「これで、レオナ本が出し放題だあ」「わしは<三浦良枝>本を出すぞお」「さあ、お前も島田相似になるのだあ」「本格推理宣言するのだあ」「勝鬨橋、おちた、おちた、おちた♪」
その声は徐々に高まり、遂に一つの大音声となって、南雲洞を揺るがせた。
「みなで、コミケさ、いくだ!!」
地下から這い上がってきた黒い翳たちは、縺れ、群れ、絡まり、洞の切れ目に向けて押し寄せる。脆い壁を削り、土煙を上げ、軋む。空へ、空へ、東雲の先へ、それは、黒の昇天であった。

廃虚となった南雲洞に立ち尽くす御不浄と私。島田相似が守ろうとした約束の地は今や呪われた抜け殻の地となった。
やがて、御不浄は服の土埃を払うと、手品師のように二枚のチケットを取り出し、そして言った。
「さあ、石岡君、今から行けば、サークル入場に間に合うぞ!」
私達は朝日に向けて駈け出した。

<了>

◆「鉄腕三四郎」城戸禮(春陽文庫)読了
いかんいかん、どうも新刊比率が増えているぞ。それもこれも、最近の新刊が「本当に新刊か?」と見紛うラインナップなせいである。泰西古典に、隠し玉満載のアンソロジー、幻の名作の文庫化と、下手に古本屋をさ迷い歩くよりも、新刊を着実にこなしていった方がマニアになれるのだ。ああ、恐ろしい世の中になったものだ。これまで神々しい希少性の光芒を纏っていた絶版本はその神性を奪われ、見た目もボロければ、中身もB級な本性を白日の下にさらけ出されるのであった!そして、棲家を捲くられたマニアは、翳を求めて逃げ惑う便所虫のように、最後に残された陽の当たらぬ魍魎の殿堂、かつて自分達が洟もひっかけなかった「明朗小説」の園に逃避するのであった。こんな話。
それは、まだ竜崎三四郎が、都の西北大学の学生だった頃の物語。東海道線上り列車、米原駅から乗り込んできた元公爵家・大河内家の令嬢・綾子は、一人の清々しい若者に出会う。大河内家の老執事・段原が、東京までの警護を、無理矢理託したその青年こそ誰あろう、柔道五段の快男児・大学の小天狗と異名を取る竜崎三四郎その人であった。綾子の東京での寄宿先は、大河内家の家柄と財産を狙う成金の土建屋・北堀次郎兵衛宅。東京駅には、三四郎のライバルである城東大学柔道部主将にして次郎兵衛の息子・次郎吉とその子分格の拳闘部主将・溝口が待ち受ける。世間知らずのお嬢さまは、駅弁を買い過ぎ、大金を置き引きされ、寄宿先は飛び出し、街で荒くれ学生に絡まれ、と、なぜか事件を巻き起こす。三四郎の朋友・伴、下宿先のおキンばあさん、そして、三四郎にホの時の次郎吉の妹・お色気娘のレン子、多彩なキャラクター入り乱れ、ダイジョービでハバハバな学生たちの季節が帝都にやって来る。
昭和の半ば、探偵小説の断末魔を向こうに、快男児の電光技が悪を裂く。いやあ元気があって宜しい。とにかく藤子漫画並みにキャラクターがはっきりしており、判りやすい事この上ない。主人公の朴念仁ぶりと正義漢ぶりに、頁を繰る手が止まらない。この軽さが、時代を超えて愛されてきた秘訣であろう。おそるべし城戸禮!おそるべし、竜崎三四郎。読めば読む程にアタマ悪くなりそうだよう。


2001年9月5日(水)

◆朝日新聞が、夕刊1面トップで乱歩邸の土蔵から横溝正史他への書簡の写しが341通も発見された事を報じている。山前・新保ご両人の発見らしい。こりゃあ、また、緊急出版かな?まさか朝日新聞社からじゃねえだろうな。おい。
◆散髪に行って、ワゴンを幾つか冷やかすがさしたるものはなし。何も買わない生活。ああ、清々しい。
◆みすべすのともさんが、また過分な紹介とともにリンクを引いて下さった。ありがとうございますありがとうございます。さあ、自己紹介、自己紹介っと。
というわけで、みすべすからいらしたみなさん、はじめまして。「猟奇の鉄人」は「りょうきのてつじん」と読んでください。ここは、古本好きなわたしが、その日の朝にたまたま手元にあった本を読んで紹介しているページです。「毎日の無駄遣い帳(日記とも云います)」や御気楽エッセイ、「幻のポケミス」の一覧などがありますので、探書の際にお役立てられるものならばお役立ててみて下さい。ミステリのサイトはたくさんありますが、この「猟・鉄」は内外、新旧、SF、ホラー、ジュヴィナイルなど(どこがミステリなんでしょう?)さまざまな積読を紹介しているところがへそ曲りです。古典的絶版から新古本まで、守備範囲は比較的広いと思います。その反面、あまり初々しさがないという弱点もあります。「どこまでも黴臭く、限りなく黒い」というわけです。ですから、もっとミステリについてもっと楽しく知りたい、という方はリンクを使われるとよいと思います。
「殺意の連鎖」は様々なミステリサイトへのリンクのページです。それぞれにこだわりのジャンルや一癖ある主張を持ったすばらしいサイトですから、お気に入りのミステリサイトを見つけられるとよいと思います。山田風太郎や江戸川乱歩や小酒井不木といった今コミケでも流行りの作家の萌え萌え系サイト、雨が降ろうと槍が降ろうとファイナルファンタジーをやりながらでも1日1書評を欠かさない熱血サイト、3冊200円で珍しい本を拾いまくるサイト、ぶつぶつと日本一古本を買うサイト、密室便秘ものの大家もとい大矢さんのサイト、夫婦喧嘩の合間を縫って驚異的な講演レポートをアップするサイトなど、優れたサイトはたくさんあります。どうぞ楽しんできてくださいね。
(一体、kashibaはどうしたのだ?と思われた方は、みすべすの8月31日の「思いつき」をご覧下さい)

◆「最上階の殺人」Aバークリー(新樹社)読了
さて、一ヶ月経つや経たずで、バークリーの未訳作が出版されるなんぞと、一体どこの誰が想像したことであろう。国書の探偵小説全集で、一期・二期・三期の総てに入ったのはカーとバークリー。この一事を以ってしても、「マニア好み、日本で不遇」という二大作家の特性を象徴しているのではなかろうか。後は、原書房からバークリーがでれば、「国書一期・二期・三期、新樹社、原書房」という5冠王の栄誉をカーと分け合う事になるのだが。ともかくこの作家はマニア殺しのオーラを纏う。戦前に「第二の銃弾」「絹靴下殺人事件」が紹介され絶版。その後も、一部の代表作を除いて紹介は遅々として進まない。そういった「絶版効果」に加え、処女作を「?」というような人をおちょくった筆名にしてみたり、アイルズという別名でこれまたミステリ史上に輝く名作を残すという変幻自在ぶり、そして、最も重要な点であるが、この人の諧謔と皮肉がツボに嵌まると本格探偵小説マニアにとって「必殺」とも言える堪らない快感をもたらす事。この作品の解説も担当しているROMの「バークリー番」真田氏を始め、森英俊氏にROM誌主宰の加瀬義雄氏、名だたる海外探偵小説マニアが、ぞっこん惚れ込んでいるのだ。そのバークリーの作品の中でも、この中期作は「マニア殺し」な作品である。こんな話。
4階建てのマンションの最上階で吝嗇な老女が絞殺される。階下の住人が聞いた深夜の物音や、現場付近での不審人物の目撃談、そして、現場に残された侵入の手口などからモーズビー警部率いる警察は、キャンパス・キッドという異名を取る常習窃盗犯の仕業であると確信する。たまたま、「<平凡な事件>の見学」気分で初動からこの事件に嘴を突っ込んだロジャー・シェリンガムは、現場の偽装工作を見抜き、犯人内部説に立って独自捜査を開始する。キッドが鉄壁のアリバイを主張し、捜査が行き詰まる中、心ならずも被害者の相続人となった器量良しの姪ステラを無理矢理秘書に雇い入れ、探偵小説家シェリンガムの迷走推理劇の幕は開ける。
黄金期の大リーグボール3号。まず、読物として面白い。これが凡庸な推理作家の手に掛かればマンションの住人の訊問シーンを延々と続け読者を退屈の淵に追いやったところであろう。ところが、そこはストーリーテラーのバークリーのこと、奇矯な素人探偵の硬軟取り混ぜた突撃心理捜査をユーモラスな筆致で描く事で、その大胆な推理に楽しく読者を巻き込んでいく。トリック自体はシンプルだが大転回の妙味もある。後はオチの付け方であるが、なるほど「マニア」は殺されるかもしれない。尤も「初めてバークリーを読んだ人にとってどうか?」と問われるとううむ、と唸らざるを得ない。まあ、バークリー全作翻訳を支援するつもりで、とりあえず、買っとけ買っとけ。


2001年9月4日(火)

◆はいはい、買いました。読みました。「御友達」がぞろぞろ出てくるという噂の新刊漫画。
「栞と紙魚子の夜の魚」諸星大二郎(朝日ソノラマ:帯)800円
なるほど、こいつあ業が深い。あ、こんなところによしださん、まあ、土田さんまで。私にフィットする台詞は「捨てるのも惜しくて、今だにこんなに〜」かな。このシリーズも既に4冊目なんですねえ。1冊目は現役で買ったんだけどなあ。「古本地獄屋敷」以外ではショート・ショート集の「顔・他」が面白うございました。
◆掲示板のレスで「1000レビュー」と書いてしまったので、今どの辺りなのか、数えてみた。日記では、99年1月1日の「長靴をはいた犬」から2001年9月3日の「風精の棲む場所」まで、目次に上げていない「日本を殺す気か!」を入れて959冊(950作)、ちっとも増えない原書レビューが7冊(7作)、これもちっとも増えない奇書コーナーで2冊(2作)、計968冊(959作)の感想・紹介をアップしていた。最初の頃は「寸評」もいいところなので、カウントするのもおこがましいのだが、これも「歴史」であり、過去を改編するのは本意ではない。というわけで、あと41作で、せんげんせんげん(千件宣言)。頑張りまっしょい!

◆「タイタス・クロウの事件簿」Bラムレイ(創元推理文庫)読了
帯には「邪神対名探偵」。連作オカルト・ミステリときたもんだ!こりゃあ、ジュール・ド・グランダンにカーナッキー、ジョン・サイレンスやサイモン・アークといった豊穣なるオカルト探偵の歴史に漆黒にして新たなる歴史を刻む作品集かと期待してしまうではないか。加えて「ラブクラフトの後継者登場」だ。さあ、完全密室の中で魚に食い殺された死体でもでてくるのか?本の呪いで人が虚空に溶けるのか?はたまた、古代ヒューボリア文字のダイイング・メッセージでも出てくるのか?わくわくわく。……で、読了後の実感「何か、ちーがーうー」そもそもタイタス・クロウのどこが「名探偵」やねん!そんな事、どこにも書いとらんではないか!どうもあの帯の煽りは、言ってみれば<8マン>を「マッドサイエンティスト対名探偵」、連作SFミステリと銘打つようなものである。まあ、ラブクラフト世界へののめり込みようは微笑ましいので、読む人は「これはオカルト・ミステリではない」と3回 唱えて御読みください。以下、ミニコメ。
「誕生」希代のオカルティスト、タイタス・クロウは何故タイタス・クロウとなったのか?それは、一夜の追跡者と逃亡者の物語。暁天に暗黒は溶け、神は祝福する。作者が乗りに乗って書いている雰囲気が宜しい。
「妖蛆の王」若き日のクロウと歴史の闇に蠢く<妖蛆の王>の戦いを描く中編。至る所にクトゥルーのガジェットを散りばめた佳編。アイデアが平板な分、やや冗長だが、クライマックスの視覚効果はなかなかのもの。
「黒の召喚者」タイタス・クロウのデビュー作。呪いのカードに黒の遠隔殺人、暗号めいた古文書に秘められた逆転の秘策等ミステリ的要素に富んだ活劇。全然、クトゥルー的ではないが、読ませる。
「海賊の石」巨石奇談。疾駆する列車に併走する海賊という山場シーンが鮮やかではあるが、石との繋がりにやや無理がある。
「ニトクリスの鏡」クロウのワトソン役ローラン・ド・マリーニの単独作の掌編。動きに乏しいが、ラストシーンの見せ方がうまくウイアードテールズ流のショッカーとしては及第点。
「魔物の証明」クロウの宝自慢とでも呼ぶべき掌編。余りに一直線な展開がやや興ざめ。
「縛り首の木」クロウの家自慢とでも呼ぶべき掌編。導入部のキャラ立ちが嬉しく、樹木奇譚としてもよく出来ている。
「呪医の人形」余りにも古典的な「人形モノ」の展開に辟易とする。クロウである必要も感じない凡作。
「ド・マリニーの掛け時計」WHホジスンを思わせる、闇の中の光。相当に無理のある話だが、クロウの書痴ぶりに満足。
「名数秘法」現代に巣食う悪の意思とクロウの凄絶な魔術数的闘争を描いた佳編。大風呂敷きの広げ方、たたみ方とも過不足なし。筋の良いオカルト冒険ものなのであろうが、理屈が後づけの分、推理小説ファンとしては知的満足には遠い。
「続・黒の召喚者」クロウが異次元に消えた後、その屋敷跡で繰り広げられる魔術大戦。クロウはいない方がキャラが立っているような気がしてならない。


2001年9月3日(月)

◆飲み会。酔っ払い。爆睡。こういう時のためにネタを仕込んでおくべきなのだろうが、思いついたら直ぐに書いてしまいたい、言ってしまいたい、誰かにやられる前にやったしまえ!といったタチなので、ない時は何もないんだよう。昨日書き過ぎなんだよなあ。
◆しかたがないので、御他所への相乗り。みすべすのともさんがタイタニックテーマで2作お薦め本を書いておられる。「エヴァ・ライカーの記憶」については私も文句なしのお薦め本。これぞ西洋大伝奇てな感じの「徹夜本」である。品切れとはいえ、まあ、ブックオフの100円均一棚で見かける本、結構分厚いので秋の夜長に最適。で、もう1作となるとカッスラーじゃなくてカーの「曲がった蝶番」なのである。日本風に言えば、天一坊ものなのだが、シンプル且つ凄惨なトリックもさることながら、記憶喪失の富豪が本物か偽物かという謎が、作品に凛とした緊張感を与えており、読者を飽きさせない。フェル博士ものとしては5本の指に入る出来映えではなかろうか?5本の指は、うーんと、「三つの棺」「囁く影」「魔女の隠れ家」「曲った蝶番」あと御一つはお好きなのをどうぞ、って感じかな。

◆「風精の棲む場所」柴田よしき(原書房)読了
ハードボイルドな女刑事もので横溝正史賞を攫った真正・正史マニアが、魂の故郷に帰ってくる。それは、人里離れた山村で起きるもう一つの「蝶々殺人事件」。というわけで、先週、100円均一で拾ってしまったバリバリの新作を読んでみた。せめて早い内に感想を上げるのが、古本者としての責任の取り方かと(ちーがーうー)。余り熱心な読者ではないが、横溝正史賞作家の中ではピカイチのジャンルの広さと量産ぶりに、常々敬意を表している所。その作者が愛してやまぬ横溝正史ワールドに回帰した最新作はこんな話。
推理作家・浅間寺竜之介は、一通の電子メールに誘われて、京都は北山の奥、道も果てる山間の村・風神村を訪れる。御伴に、雑種犬のサスケを連れた彼を迎えてくれたのは、どこまでも懐かしい雰囲気を湛えた家々、人々、そして風の精と呼ばれるシジミ蝶の群。竜之介にメールを送った少女・美夢は、自分達の奉納の踊りを見て欲しいと頼む。祭の前日、近親者を集めた稽古舞いで雌と雄の四羽ずつ蝶は艶やかに華麗に舞う。だが、悲劇は終幕とともに訪れる。衆人環視の不可能殺人、堕ちた蝶、閉ざされた村、隠された花園、消えた誘惑者、焔の向こうで停まった時間、そして、女は約束を待つ。ここは古都の外れのシャングリラ。風の精(ゼフィルス)の棲むところ。
殺人の仕掛はパズルであり、映像的なトリックや動機なども、ほぼ予想の範囲内。最後のツイストはアンフェア且つありきたり。しかし、泣かせる。探偵の造形は、はんなりと微笑ましく、隠れ里の風俗や由来は光の側の「八つ墓村」といった風情でなかなか宜しい。全体的に薄味に纏め過ぎ、登場人物が不要に多いという印象を受ける。もう一呼吸、タメが欲しいところ。可もなし不可もなし、SR風採点ならば凡庸の6点といったところか。


2001年9月2日(日)

◆夫婦ともどもイベントがない日。朝から只管ノンビリと過ごす。午前中は読書、午後からは散歩。気温も暑からず寒からず、一年のうちで一番いい感じにつき、少し足を伸ばして県立美術館の企画展や常設展示などを見て回る。なんということのない非日常感覚が嬉しい。それにしても、うちの街の市役所の近辺というのは、どうしてこうも寂れているのだろうか?コンビニはおろか、都市の文化の象徴ともいえる古本屋一軒ありゃしない。
◆で、夜の酒を仕入れに行がてら一駅だけチェック。
「タイタス・クロウの事件簿」Bラムレイ(創元推理文庫:帯)350円
「ショットガンを持つ男」Jチャーリン(番町書房IFノベルズ)100円
d「アップルビイの事件簿」Mイネス(勉誠社:帯)50円
「レイン・ソング」FAホイットニー(サンリオ・モダン・ロマンス・シリーズ)140円
わっはっは、とうとうIFノベルズの「どうでもいいゾーン」に手を出してしまった。まあ、一応、ゴリラやコックスマンとは一味違った正統派の警察小説らしいので、細々やっていきましょう。良い評判を聞いた事がないイネス本は、余りの安さに拾う。帯付きで50円だもんなあ。後10年も経てば、イネス収集の効き目とか言われるのかな?でも出版社が出版社なので20年経っても現役本だったりしてね。嬉しいのは、ホイットニーの「レイン・ソング」。少し前に、掲示板の方で、彩古さんに存在を教わった本。あかね書房の「呪われた沼の秘密」、角川文庫の「失われた島」の作家の1984年作品。一応ミステリ的な要素もありそうだが、10頁ほど読んでみたところ余りの「甘さ」に辟易。ううむ、これは嬉しがってばかりもいられないかな。この甘ったるさが400頁も続くんだよなあ。まあ、彩古さんに教わらなければ一生あることも知らずに終わった本である。縁は大切にしなきゃなあ。
◆仮面ライダーアギト視聴。少々一話に詰め込み過ぎ。謎は一向にほぐれる気配がない。映画版も予告を見る限り、メインプロットには何の進展もなさそうである。でも、ちょっと見てみたい。思う壺じゃん。
◆「稲垣吾郎」事件について、まああれこれ思う事はあるのだが、一言だけ。もしかして、彼が明智小五郎に扮した「淫獣」や、古畑任三郎のSMAPの回が貴重な映像になってしまうのであろうか?後者は既にビデオ化されているだろうが、前者は「江戸川乱歩収集家」にとって効き目になったりしなきゃいいけどね。
◆「新刑事コロンボ・奪われた旋律」を視聴。昨年作成のバリバリの新作。先日のWOWOWの無料放送日の目玉商品。積録してあったものをようやく見る事ができた。最多コロンボ犯人役者のパトリック・マグハーンとピーター・フォークが監督とプロデューサーを勤める。今回の犯人は、映画音楽家。才能が枯れた師匠が伸び盛りの弟子の曲を奪い、そして殺す、というお話。映画BGM趣味のあるワタクシ的には、舞台裏を見せて貰えた感動はあったが、ミステリ的には薄味。最後の決め手には「お」っと思ったものの、コロンボのふけ方も痛々しい程で、そろそろこのあたりが引き時なのかもしれない。

◆「密室殺人コレクション」森英俊・二階堂黎人共編(原書房)読了
今から10年前に、「2001年には英語圏の幻の古典本格作家達の密室アンソロジーが出版されるのだ」と言おうものなら、お前の頭はモノリスか?とHAL1000チョップをかまされた事であろう。人工頭脳を叩いてみれば、文明開化の音がする。ぼーまん感があるとおもったら、あらら赤子がうまれましたあ。>いい加減にしなさい。
さて、天下の本格主義者たちが随喜の涙を流した密室アンソロジーの登場。同時期に出た角川文庫の「有栖川アンソロジー」「北村アンソロジー」にはマニア人生を掛けた一発勝負の感があるが、こちらにはプロの余裕が感じられる。なにせ、まだまだ豊穣なる未訳の大地がどどーーんと控えているんだもんね。原書房らしく季刊・密室殺人コレクションになっても、きっと大丈夫に違いない。少なくとも、次の「SOMETHING WONDERFUL」を2010年まで待たされることはあるまい。期待してまっせ、ご両人。というか、二階堂黎人先生には、パスティーシュを一編お願いしたいところである。以下、ミニコメ。
「つなわたりの密室」脱出不可能なフラットで起きた二つの殺人。悪魔的な犯人が描いた錯誤の砦を破るのは缶詰の男。「赤い右手」の作者が構築する騙りのマンション。叙述の限りを尽して、可能を不可能に演出する技巧を見よ!しかし私にとっては「まさか、そういうネタじゃないだろうな?」と思った通りのオチだった。探偵役は魅力的。
「消失の密室」人が消えるという呪いの部屋から、今日もまた一人、てなお話。プロットはどこかで見たような話だが、このシンプルなトリックには脱帽。いやあ、やられました。 「カスタネット、カナリア、それと殺人」出ましたバナー上院議員!カナリアの毒殺に始まる、異常な出来事は、遂に「フィルムに映らない殺人」という不可能犯罪へとエスアレートする。登場人物が夫々に魅力的で、特にメキシコ女優の軽さがなんともいい味を出している。トリックは唖然愕然もの。これが赦せれば、お前も立派な密室者じゃい、という踏み絵になりそうなほどオバカである。私は赦す。 「ガラスの橋」再読。雪の山頂の一軒家から消えた女の謎を追え。業界内輪ネタもある、この分野での有名作。実にエレガントなトリックと言ってよかろう。 「インドダイヤの謎」警官に包囲された宝石泥棒はいかにして現場から宝石を消したか?名探偵らしい名探偵がよい。トリックは正攻法だが、演出の外しっぷりでよませる。 「飛んできた死」砂浜で死んでいた男。現場に残された5つ爪の足跡と殺害方法は犯人が翼竜である事を指し示していた!果して敵だらけの沿岸警備員は、時空の狭間におちたのか?謎はそれなりに魅惑的だが、無理矢理の感あり。しかし書かれた時期を見れば、誰しも高い評価を上げたくなるであろう。


2001年9月1日(土)

◆朝から、新宿ビル火災の報道である。犠牲者のご冥福をお祈りしながらも、ずっと疑問に思っていたのだが、「スーパールーズ」なるお店って、どの辺が「飲食店」なのであろうか?気になって、気になって、ついグーグルで検索してしまう。お、あるじゃん。・・・凄く見てはいけないものを見てしまった気がする。重ねてご冥福をお祈り申し上げます。
◆休日出勤で研修。一番、心に残った台詞。
「このまま経済運営のアイドリングを続けていると、小泉きょーこーが来てしまいます」。
座布団1枚。
◆帰りがけに2軒チェック。
d「蝶を盗んだ女」鮎川哲也(角川文庫:初版・帯)400円
「ミステリーの書き方」HRFキーティング(早川書房)100円
「遥かなる啄木一握の殺意」小嵐九八郎(青樹社:帯)100円
「風精の棲む場所」柴田よしき(原書房:帯)100円
「シベリア超特急連続殺人事件」水野晴郎(七賢出版:帯)100円
鮎哲角川文庫は帯欲しさ。これでやっとチェックメイト78の帯が揃った筈である。昔は帯なんぞ気にしていなかったので、母親に貸した際にどこかにやられてしまったままうっちゃっていたもの。それから23年の歳月が過ぎた。ううむ。まあ、これでとにかく角川の鮎哲文庫は憑き物が落ちた。めでたし、めでたし。柴田よしきのバリバリの新刊美本がなぜか100円均一に落ちていたので拾う。値付けの際のチョンボなんだろうなあ。でも100円でなきゃ買わなかったろうしなあ。水野晴郎の本は、くだんの「シベリア超特急」の御本人ノベライズ。こんな本、出ていた事も知らなんだ。出版社も聞いた事ないしなあ。調べてみると旅や鉄道関係に強い出版社らしい。んでもって、bk1で引くとこの本はまだ現役らしい。ほほう。いやあ、古本って本当に面白いですね。(>お約束)
◆「ゲッベルスの贈り物」お勧め電撃作戦、みすべす方面での快勝に続き、πR戦車隊により安田ママ講堂を陥落。ジーク、ハイル!ジーク、ハイル!!わが闘争に勝利せり!ハイル、藤岡真!!ハイル、葉山響!!・・・あ、操作されているのは俺か?

◆「割れた虚像」高森真士(青樹社)
さて、BNBのおーかわ師匠が読んで白梅軒で広めた噂の通俗ミステリ。なぜか本格至上主義者だった高校生の頃に拾ってはいたが、21世紀の今日に至るまで佐賀潜山脈の下に埋れていた本である。オール読物新人賞、という帯の煽りがなければ拾いもしなかったかもしれない。全く本との出会いは縁である。今回もこの騒ぎがなかれば、危うく私は日本推理小説史上に燦然と輝く「ケッ作」推理小説を読み損なうところであった。ありがとう、おーかわ師匠!うっかりした事を云おうものなら、忽ち好事家の楽しみを奪ってしまう、偉大なる天然バカミスはこんな話。
急成長を遂げてきたエメロード靴店の創業者・無垣の水死体が多摩川に浮かぶ。目撃者の証言から、無垣が六郷橋から突き落とされた事が判明。警察は、捜査を開始する。おりしもフリーのトップ屋・黒部は、一流誌から無垣の成り上がりぶりを取材するよう依頼を受けていた所であった。だが、黒部の手腕を持ってしても無垣の急成長の原因に迫る事はできなかった。ところが、靴店社長の葬儀に凡そ相応しからぬ人物を発見した時、事件は思わぬ展開を見せる。その人物とは、飛ぶ鳥を落す勢いの若手映画俳優・桜木陽。鉄壁のアリバイを持つ男に挑むトップ屋魂。蠢く黒い翳、目撃者を巡る脅迫と失踪。友情と侠気は男を支え、愛と裏切りは男を試す。果して弱肉強食のアスファルト・ジャングルで黒部の見た驚愕の真実とは?
トップ屋が事件に迫る過程がメリハリをつけてビビッドに描かれており、実にテンポよく読める。また小さな手掛りを積み重ねて、徐々に真相に収斂させていく運びは、新人離れしている。ただ、瑣末なキャラでも立てようとするために、やや冗長な部分はある。後は、巷で評判のこの驚天動地鼠一匹の大トリック。一体何が起こったのか思わず息を呑んで読み返してしまった。なるほど、斯くも見事に伏線が張られていたのかと再度感心。人によっては脱力系かもしれないが、私はこれだけ不意をつかれてしまった事に素直に敬意を表しておく。恐れ入りました&そんなんありかい?とある描写のために、このままの形では復刊は無理であろうが、友達(というか被害者というか)の輪を広げたいという欲求に刈られる1冊である。もし見かけたら即ゲットの即読破だぜ!