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2001年6月30日(土)

◆少し早起きして頼まれ原稿の仕上げと4日分の感想書き。貯めるとしんどい事を判っていながらこれだもんなあ。それでも、なんとか復活後一ヶ月、1日1冊ペースを取り戻せたかとほっと一息。まあ、物理的に薄い本しか読めていないのだけど、そこはそれ。さあて、いつまで続きますやら。
◆夫婦ともども久々に何も予定のない連休かと思いきや、奥さんの実家からお食事のお誘い。いそいそと時間差で出かける事にする。私は図書館へ源氏鶏太とディッキンソンを返却し、代わりにギャリコやヤップなどを借り出し一旦帰宅。図書館では国書の世界探偵小説全集がずらっと並んでいて壮観。考えてみれば、別宅でもあの叢書は分散配置だし、書店でも一部しかみかけないので、これまでのところの全巻揃いというのは久々に見たような気がする。って、単に大型書店に行ってないって事なのかもしれんが。4日分の日記をアップしてから、手土産のワインをもって出立。奥さんの実家の近くのブック・オフで時間潰しのお買い物。
d「毎日が夏休み」大島弓子(角川文庫)100円
d「D坂の殺人事件・屋根裏の散歩者」江戸川乱歩(新潮Pico文庫)100円
d「男は夢の中で死ね」小泉喜美子(光文社文庫)100円
「毎日が夏休み」は佐伯日菜子の写真満載のノベライズ。実はダブりが3冊目。佐伯日菜子第1写真集のポストカード・ブックを3冊確保しており、これで「毎・夏」とのセットが3組完成だあ。だからどうしたあ?新潮Pico文庫の乱歩は、後20年もすれば、古書価がつくのではと、見かけたら拾うようにしている。しかし、未だに乱歩ファンって再生産されているのだろうか?今のミステリ好きの子供たちはコナン君がいればそれでいいような気もするしなあ。
◆奥さんの実家で、たらふく酒と肉をご馳走になる。ワインを一人一本空けた勘定。とうに真夜中を過ぎて、うたた寝から起され、タクシーで帰宅して再び爆睡。ううむ、充実の1日だあ。お義父さん、お義母さん、どうもごちそうさまでした。

◆「名探偵ドジソン氏 降霊会殺人事件」Rロゴウ(扶桑社文庫)読了
ホームズのパスティーシュは決して嫌いなわけではないが、個人的には、ドイルを作中人物に用いた作品の方に興味がある。サタスウエイトの「名探偵登場」やヒョーツバーグの「ポーをめぐる殺人」、未読だけどフロストの「リスト・オブ・セブン」とか、数えていけば結構あるんですね、これが。なんといっても、ドイルという人物の複雑な性格が好奇心を刺激する。歴史小説を愛し、ホームズ人気を嫌い、晩年は心霊主義に耽溺したジョンブル気質の傑物。カーならずともその実像に迫ってみたくなるキャラクターである。さて、この作品も、ドイルが登場する。といっても、功なり名を上げたドイルではなくて、まだポーツマスで貧乏医院を開業していた頃の小説家志望の青年医師ドイルである。そして、題名の副題が示す通り、全編を仕切るのは、オックスフォードの壮年数学者チャールズ・ドジスン氏、筆名ルイス・キャロル氏その人である。これはもう設定だけで、成功を約束されたようなものである。こんな話。
ひょんな事で知り合う事となった高名なる数学者と青雲の意気に燃える貧乏医師。ドイルは自らの習作をドジスン氏に講評してもらうべく、無謀にもポーツマスの自宅へと氏を招く。だが、ドイルは一つ厄介事を抱え込んでいた。南洋帰りの元船長の死が他殺であると証言したことから、街は大騒ぎ。更に、元船長の女中頭が、降霊会を催し、船長の霊の口から真相を語らせようと提案したことが、新たな死を招き寄せる。行きがかり上、降霊会に参加させられる、ドイルとドジスン氏、そして暗闇の中で、霊媒に扮した女中頭は息絶える。一体、死因は何か?虐げられた元船長の娘たち、7年の空白をおいて帰還した女中頭の夫、心霊趣味の二組の軍人夫妻、果して、二つの死によって最も利する者は誰なのか?暗躍する熱い国の密偵、因縁は世界を渡り、軍港の街に亡霊たちが踊る。ドイルの熱血とドジスン氏の論理が暴き出した驚愕の真相とは?
シャイで高踏的なドジスン氏がいやいやながら事件に巻き込まれていく過程が笑える。若き日のドイルの熱血漢ぶりは新鮮。ドジスン氏の台詞が後のホームズの台詞となる、といったあたりの遊びも楽しい。だがプロットは非常に盛りだくさんで、いささかレッド・ヘリングの整理が悪い。ドジスン氏の慧眼ぶりは頼もしいものの緩急の付け方にもう一工夫欲しいところ。相当に陰惨な設定であるのに、どこかからっとしているのは、作者が女性であるせいであろうか。読物としては面白いがミステリとしては平均点。ドイルやキャロルがお好きな人は野次馬的興味でどうぞ。


2001年6月29日(金)

◆二日酔な1日。いやあ、夕方まで酒が抜けないんだもんなあ。参った参った。
◆通勤快速めざして残業を切り上げ帰宅。これをのがすと20分は違うんだもんね。というわけで、またしても本屋に寄れず、ミステリマガジン、SFマガジンとも買えずじまい。それでも、コンビニには寄って、ニナ・リッチ仕様の「八十日間世界一周」のカバーをカラーコピーする。A3版は100円也。ううむ、本も100円、コピーも100円。ひよどり越えなアンビバレンツ。
◆久々の頼まれ原稿の仕上げに勤しむ。ああ、書いても書いても埋まらんぞお。よしだまさしさんの自動書記の才能が欲しいぞお。

◆「茨姫はたたかう」近藤史恵(祥伝社文庫)読了
ナニワ・サイコ・サスペンス。心と身体の整体師合田力シリーズ第2弾。第1作「カナリアは眠れない」と左程の間を置かず文庫オリジナルにて上梓された作品である。前にも褒めたが、この文庫オリジナルの出版は偉いと思う。さて、この作者の特長といえば、やはり強くて脆い等身大の女性たちの残酷なまでの書き込み方であろうか。特に「女の子女の子」した女の子を書かせるととても巧い。その特長はこの作品でも遺憾無く発揮されており、ストーカーされる主人公・梨花子は、まさに「優等生の茨姫」なのである。こんな話。
父母のいわれた通りの人生を送ってきた女性書店員・久住梨花子。弟のできちゃった婚を機会に独立し、移り住んだマンションで、転居早々隣人たちとの軋轢に悩む。クールなイラストレーター早苗、酒乱気味の美人ホステス礼子、それぞれに癖のある彼女たちとの葛藤は、職場での人間関係にも苦しむ彼女にとっては重荷であった。だが、真の災厄は後からやってくる。何者かが、彼女の私信を開け、更には不気味なメッセージまでを残していったのだ。裏切られる親愛、喪われた絆、増殖する疑心、錯綜する暗鬼、孤立する茨姫。ひょんなことから、事件にかかわった整体師・合田力と編集者・小松崎は大捕物の渦中に飛び込む。果して、都会の闇に潜む卑劣なる牙の正体とは?罠の口が閉じる時、澱んだ瘴気は背後から襲う。
主人公と、合田ファミリーの面々の物語が並行して描かれ、一体どこで2本の線が交わるのか、一瞬不安になる。確かに、正面から書いていっては、小松崎と恵のその後について語る事は難しいものの、推理小説として見た場合にはやや冗漫の謗りを免れないであろう。キャラ読み読者にとっては、万々歳なのだが、もうすこし有機的な関連づけは出来なかったものか?余りにもレギュラー側の物語が、メイン・プロットと独立で動いているのが気になった。ミステリとして見た場合は、薄味。まあ、火曜サスペンス・クラスの作品か。しかし、女性キャラの立たせ方はお見事の一言。救いのあるエピローグも上々。シリーズものの明朗サイコ・サスペンスとして楽しむべき話なのであろう。


2001年6月28日(木)

◆会社の歓送迎会。今回はわたしが宴会当番にあたっていたので、甲斐甲斐しく駆け回る。しかし、最近は店捜しも楽になったなあ。一昔前は、ぴあマップ・グルメとか週刊誌の切り抜きやら口コミなんぞが情報源だったが、インター・ネットの普及このかた、全く不自由しない。予算入れて、最寄り駅入れて、人数入れて、検索一発どん!割り引きクーポンだってついてくる。問題は、サイトによっては会社のスクリーニングで入れないところがあること。えーん、頼むよ〜。何も個人的な飲み会の準備してるんじゃないんだから〜。仕事なんだよ〜。今回は幸い広めの個室で飲み放題で予算内。司会進行から締めまで仕切る士切る。碌に食わずに飲みつづけていたため、ぐでんぐでんに酔っ払う。うい〜っ。部長曰く「久しぶりに仕事しとったな」。ううう、悪うございましたね。わたしにとって、宴会の司会は「天職」なんですよう。二次会で更にへべれけ。帰宅は午前様、即爆睡。購入本0冊。

◆「生存者、一名」歌野晶午(祥伝社文庫)読了
祥伝社400円文庫「孤島」競作の1冊。今や新本格スクール一期生では最も信頼できる作家がこのお方。短ければ短いなりに、野卑な設定であろうがなんであろうがきちんと奇想し、華麗にオチをつける腕前には、常々感服しているところ。今回の「孤島」競作でも、短い枚数ながらも当然のように「そして誰もいなくなった」に挑戦し、それなりの勝利を収めている。こんな話。
大●駅を爆破し、鹿児島沖の孤島「屍島」に潜伏する「真の道福音教会」のテロリスト4名と2名の幹部。神とも崇める法王からのねぎらいの言葉を受け、感極まる男女4名のテロリストたち。だが、歓喜の宴は彼らが島に到着した一夜で果て、後には暗鬼の日々が残されるのみ。まず、到着の翌日、幹部の一人が船とともに島から姿を消す。やがて絶海の孤島に取り残された狂信者たちの心の螺子が軋みだす。放棄される尊厳、泡沫に消える信頼、裏切り者の口から陰謀の正体が投げやりに告げられた時、何かが切れる。味覚異常、嘔吐、喪われていく食糧。そして、喪われていく生命。果てして、殺人者の正体は?そして最後に生き残った1名とは誰なのか?極限状況の選択が運命を哄う。
巧い。またしても歌野晶午に一本してやられた。設定はどこまでもオウムであり豊田商事である。そして孤島モノのお約束に則って事件は回る。それでも、ツイストは決まる。なるほど、この手があったか。最後を書き急いだためにあれこれ辻褄合わせのしんどいところはある(手記の書き手の問題、どこまでが手記なのか、など)。が、そんな疵はこの際問うまい。まあ、400円でこの仕事をしてくれれば、充分である。推薦者、一名。


2001年6月27日(水)

◆故あって、定時退社で別宅へ急ぐ。とっとと用事は片付けたのだが、今度は積読ビデオをどこまで撮っていたのかが気になり出しチェック。たちまち無為に30分が過ぎる。皆さん、ビデオはこまめにチェックしましょう。ううむ「陰陽師」の第7話がないぞお。くそう。

◆「俳優強盗と悩める処女」Rスターク(ポケミス)読了
続け様に手に取ったには俳優強盗第2作。なぜか、このシリーズ、1・3・4・2の順で翻訳が出版されており、新刊読みの人には酷だったのではなかろうか?というのも、この第2作のとある登場人物が第3作でも重要な役回りをあてがわれているからである。いやまあ、この作品が普通の犯罪小説である分には、それも悪くない。しかし、実はこの第2作、れっきとしたフーダニットなのである。極めて限られた範囲で容疑者が絞られており、その中の一人が最初から続編に登場する事が判っているというのは、些か頂けない。というわけで、シリーズが完結してから前から読める私は果報者なのであった。って、20年近く積読にしていた人間が云うこっちゃないか。こんな話。
前の「<嘘つき娘>事件」で命を救ったさる大立者から、仕事が舞い込む。「カネになる」という言葉を信じて、俳優強盗が乗り込んだのは、プエルトリコのジャングル深き大邸宅。彼を招いたのは美しい中年女ベル・ダナマト。暗黒界の大ボスB・Gと離婚話の真っ最中の彼女が、見栄えのいいボディガードにと、グローフィールドを呼び寄せたのだという。しかし、高慢なベルやその用心棒たちの無礼な振る舞いに業を煮やした俳優強盗は、毅然とその館を立ち去る。だが、災厄は唐突に訪れる。車を暴漢たちに奪われ、再び館に舞い戻ったグローフィールドは、そこでベラ殺しの容疑者として拘禁されてしまうのだった。アフリカの小国の外交官、ハンサムなつばめにその妹、弁護士夫婦、そしてタフな用心棒に、一癖ある召使いたち。駆けつけた夫B・Gの追求を躱し、果してグローフィールドは身の潔白を証明できるのか?
非常にスピーディーな展開のフーダニット。グローフィールドは、すたこらと逃げながら消去法と心理的な手法で真犯人を特定する。その推理を是とするか否かは、ばらつきが出よう。同系統の泥棒フーダニット、ブロックのバーニー・ローデンバーと同様「皆を集めてさてといい」という趣向が楽しめるが、本格味はやや薄い。なんとなく、翻訳が後回しなった理由が分からなくもない出来栄えであった。ファンはどうぞ。まあ、ファンしか読まんか?


2001年6月26日(火)

◆定時退社の日。総武線を途中下車して定点観測。一ヶ月ぶりの本八幡。ノベルズ本の少し古目なところが並んでいる店があったがパス。双葉社版の「死者を笞打て」や「新人賞殺人事件」なんぞが200円は安いと思うが、ダブリを持つ体力がないのである。ああ、衰えたりkashiba、っていつ栄えてたんだよう。均一棚から1冊拾う。
「1876年」ゴア・ヴィダル(早川書房:帯)200円
ううむ、立派な本が帯付きであるとそれだけで嬉しくなっちゃうよなあ。同じ作者でこれよか更に分厚い「アーロン・バーの偉大なる生涯」とかまあそんな題名の本を持っているので、驚きはしないけどさあ。しかし、読むのか?>俺。
◆のびのびになっていた新婚旅行の行先の相談など。リゾート+都会のコンビネーションに決定。さあ、ブックオフはあるのか?まあ、あっても行けんでしょうが。

◆「俳優強盗と嘘つき娘」Rスターク(ポケミス)読了
悪党パーカーの脇役・俳優強盗グローフィールドが主役を務めるサイド・シリーズの第1作。先日、うっかりと最終作を読んでしまったので、心を入れ替えてシリーズもののお作法通り前から読む事にした。ところがこの話自体が、「悪党パーカー・カジノ島殲滅作戦」からの続きという設定なのであーる。うーん、本当に楽しむためにはパーカーを最初から読まなきゃいけないわけね。私が悪うございました。そもそも、この「カジノ島」を初めとする角川文庫のパーカーって結構入手困難本に成り上がってしまっていて、今日も本八幡の某●道楽で5000円とかいう法外な価格を見てしまったところである。普通の人がグローフィールド・シリーズに円満に辿り着くのは茨の道のりであることよ。いやまあ、わたしの場合は、単に本棚の後ろから掘り出すのが面倒なだけなのだが。こんな話。
カジノ島のヤマで、背中に一発銃弾を食らい言葉の不自由なメキシコの宿で潜伏療養中の俳優強盗。宿の彼の部屋に、白昼堂々、窓からの闖入者があった。シャンだが、怯えた様子のその娘が語る身の上話は、叔母の手によって政略結婚を迫られ逃げ回っているという、絵に描いたような「御伽噺」。端っからそんな話を信じないグローフィールドだったが、むくつけきプロの三人組みという「おばさん」の乱入には面食らった。一度は、連中をやり過ごしたものの、拉致監禁の憂き目にあう。かくなるうえは稼ぎとプロの面目を守るため、ここから抜け出し、奴等の思惑をぶっ潰す!しかし、それが、とある独裁国家の命運を左右する事になろうとは、さすがのグローフィールドも気づかなかった。錯綜する嘘と真実。一本道の両端で陰謀者たちの焦燥と混乱は縺れ、命のタイムリミットは迫る。変幻自在の俳優強盗、今回演じまするは「逆襲者」。
徹底した犯罪マシーンのパーカーに比べ、人間味溢れるグローフィールドにはこういうすっとぼけた「犯罪」が良く似合う。中米の青空のようにすこんと抜けたクライム・ファンタジー。どこまでも作り物めいた舞台や人物造形がウエストレイク名義の中期諸作を思わせる。まあ、主人公がドートマンダーでもいいようなお話であるが爆笑指数はやや低め。パーカー・ファンの箸休め的なお話である。


2001年6月25日(月)

◆<「八十日間世界一周」ニナリッチ・バージョンは牧眞司著「ブック・ハンターの冒険」に紹介がありますよん>と掲示板では松本さんから、メールではきばやしさんから御教授を頂く。ありがとうございます、ありがとうございます。んで、この話の凄いところは、お二方とも「このあいだ見ました」とおっしゃってるところ、更に凄いのが、きばやしさんがスルーした本を私が拾っているところ。いやあ、シンクロニティーと「世界は狭い」現象。「古本はひとつ!人類は皆らいばる!」でも私は「一日一善」で、入手本を鎌倉の御前にお送りするのであった。ぬはは。
◆奥さんの話。昔、共産圏だった頃のハンガリーに旅行した時、楽譜の安さに腰を抜かしたのだそうな。日本では5000円は下らないフランツ・リストの楽譜が、おらが国さの名作曲家の楽譜だっちゅうことで、無茶苦茶安くて、70円!おお、これはブックオフでも敵わん。余りの安さについ持っている楽譜をダブって買い求めてしまったとか。そうでしょう、そうでしょう。余りに安いとやってしまうんだよねえ、そうなんだよねえ。判る判る。うんうん。まあ、惜しむらくは古本ではなくて新刊だというところですかな?>なにが「ですかな」ぢゃ。

◆「かまいたち」宮部みゆき(新潮文庫)読了
世の中には「小説家になるために生まれてきたような人」というのがいるが宮部みゆきなんぞはさしずめその代表選手。デビュー当時は随分応援モードで読んだものだが、いまや押しも押されもせぬ超売れっ子作家。お蔭で新作を新刊で買う事もなく、文庫落ちを古本落ちの100均落ちで買っても良心が傷む事はない。とはいえそんな宮部みゆきにも、若書きの作品はあって、この作品集に収録された時代物はいずれも初期作品。気負いや仕掛が真っ正直に出過ぎており久々に「うんうん、やりたい事は、よく判る判る」という応援おぢさんモードで読めてしまった。まあ、このリーダビリティーの高さはやはり並みではないのではあるが。大岡越前アウトサイドストーリーで中編サイズの表題作と、「霊験お初捕物控」の元となったエスパー捕物帳2篇+1短篇の構成。以下ミニコメ。
「かまいたち」作者最初期の時代中編。大岡越前治下の江戸の街に出没する辻斬りかまいたち。その殺害現場を見てしまった街医者の娘の冒険と恋の顛末を描いた作品。作者の企みは余りにも見え見えで、いかにも若書き。陰謀自体の縺れさせ方もキャラが余分な印象。
「師走の客」市井の正直者夫婦が巻き込まれたコンゲームと消失ものの顛末を江戸情緒豊かに描いた快作。やや強引な展開ながら、爽やかな読後感が、人情ものの江戸落語を彷彿とさせる。
「迷い鳩」大江戸サイコメトラー、霊験お初デビュー。若妻の着物の裾に真赤な血飛沫を見てしまった岡引の娘・お初と彼女を取り巻く人々が、悲恋が絡む陰謀を暴く。お初の能力をあっさり受け入れる「老旗本」がやや御都合主義だが設定の説明は過不足なし。
「騒ぐ刀」霊験お初第2作。ひょんな事から「<守り刀>の上げるうめき声」を聞いたお初。その声に導かれ、妖刀を封印する闘いに導かれるお馴染みの面々。第1作の鳩に続き、この作品で登場する著者得意中の得意の動物キャラが良い!もう、その活躍だけですべて許す。喜国雅彦ご夫妻は涙なくして読めない話じゃないのかな?


2001年6月24日(日)

◆朝から5日分の日記をアップ。ああしんど。感想は貯めると辛いなあ。
◆相方が勤め先の慰安行事で不在につき、別宅に昨日の購入本を搬入。タッチ&ゴーのつもりが、ふと、自分は創元推理のピンク背を何処まで買っていたかが不安になりチェックを始める。あ、「細工は流々」買ってないジャン。アリサ・クレイグも近作2作が欠け。マクレガーとかケラーマンは当然のように何冊も買っていないし、ローゼンも第1作のみのチェック。ジェーン・トムソンのホームズ・パスティーシュも近作2作が抜けている。ついでにピンク背ではないが、Pロビンソンの5冊目「水曜日の子供」もありませんがな。ううむ、事ここに及んでは、100円均一落ちをじっくり待つかな?
◆一箇所だけブックオフ・チェック。安物買い。
「大密室」(新潮社:帯)100円
「もういちど」矢口敦子(徳間書店:帯)100円
「大密室」所載の法月トイレ密室が興味津々。これだけでも拾い読みしちゃおうか?それにしても、本日は入り口のところで西村京太郎5冊100円セールを実施中。1冊20円かあ。今の日本で他に何が買える?
◆帰宅して「アギト」を視聴。次週はいよいよ、三人ライダー激突編になりそうである。いやあ、そこまで5ヶ月かけるかね。大人向けの造りだなあ。依然、謎が謎を再生産している状況。ああ、歯がゆい。後はほったらかしになっていた積録ビデオの整理に勤しむ。そろそろ、主任警部モースの一本でもみなきゃなあ。

◆「過去にもどされた国」Pディッキンソン(大日本ジュニアブックス:図書館貸出本)読了
今更いうまでもない事だが、ディッキンソンは一筋縄ではいかない作家である。このジュヴィナイル・ファンタジーでも、そのしたたかさが炸裂しており、正直、この開巻即の有無を言わせぬ展開には恐れ入った。この状況をさっくりと子供に「判れ!」というのが無理というものである。お子様向けでさえこれなのだから、いわんや大人向けの、例えば「緑色遺伝子」が理解できなくても、それはしょうがないのだ。ちっとも筋が頭に入らなくても、別にこちらの頭が悪いわけじゃないんだ、と自分を慰める私なのであった。閑話休題、この話は、「緑色遺伝子」なんぞに比べ(相当怨んでいるらしい)遥かに壮大で、意外性に満ちた作品である。この奇想は、もっと広く紹介されて然るべきだと思う。こんな話。
5年前からイギリスはおかしくなってしまった。機械嫌いの人間が幅を利かせ、それに馴染めぬ人々は沈む船から逃げ出すように、故国を捨て大陸へと避難する。一方、時計の針が逆に回った英国内では、物理法則もが超科学に浸蝕されていた。気象を自在に操る「天候師」なる異能者が各地に現われ、今や農業国となった国の根幹を支えるとともに、外敵の侵入を阻止していたのである。そんな「天候師」の一人、16歳のジェフリイが、妹とともに迫害を受けているところから物語は唐突に幕を開ける。打ち所が悪く5年間の記憶を失ったジェフリイは、妹とともに、天候の力を利用して窮地を脱出するが、運命の悪戯は、彼等を「謎の中心地」ウェールズへと向わせる事となる。すべての内燃機関を喪った筈の国で、奇手を用いて<鋼鉄の馬>を駆る兄妹。その波瀾万丈の旅の果てに出会った「病気」の正体とは?傲慢なる独占欲が破滅の螺旋を招来した時、「天候師」の賽は、ラテン語の懇願とともに投げられる。
冒頭さえ乗り切れば、後は非常にテンポ良くよめる少年旅モノである。途中の妨害や試練も程よく、ラストの骨太の仕掛へと読者を導いてくれる。真相は「おお、その手があったか」ものであり、英国が好きな人には堪えられないネタであろう。これは出来る限り雑音を入れずに読みたい話。是非、岩波少年文庫あたりで復刊してもらえないものだろうか。それだけに、この書の後書きの「ネタバレ」は頂けない。要は、この訳者は、ミステリ読みではないのだ。幸運にもこの本に行き当たった人は、後書きは後読みしましょう。ディッキンソンにしては痛快作。お勧め。


2001年6月23日(土)

◆あ、そうでしたそうでした。6月20日に16万アクセスを達成致しましたのでした。和束さんという方に踏んで頂きました。どうもわざわざのご報告ありがとうございます。キリ番ゲッターに登録致しましたので、ご確認ください。確か、結婚当日に15万アクセスに乗りましたので、5週間で1万ペース。碌に更新もしないサイトに毎度お運び頂きあつく御礼申し上げます。まあ、今後とものんびりやっていきますので、よろしくお願い申し上げます。>各位
◆ごろごろとして午前中を過ごす。午後からかみさんとお出かけ。昼飯と用事を済ませ、帰宅後、録画しておいた「華麗なる相続人」を視聴。オードリー・ヘップバーン、ロミー・シュナイダー、ベン・ギャザラなんてところが出演、監督テレンス・ヤング、原作シドニー・シェルダン、音楽エンリコ・モリコーネとなると、それなりに期待してしまうのだが、これがもう全然駄目。全編これ「納得いかーん!」の連続。猟奇殺人のくだりが全く浮いてしまっており、単なる観客サービスの煽情趣味にしか映らない。犯人の特定も全くなってない。序盤で一族の開闢を実験的手法で綴る閑があったら、もっときちんとフーダニットの辻褄を合わせて欲しい。一族の肖像はなかなか要領よく説明しているのだが、肝心要のミステリの絵解きが余りにも説明不足。警部役の役者が嵌まり役で強烈な印象を残すだけに、残念。やあ、これは公開当時相当叩かれたであろう駄作であった。原作と比べてどうなんでしょうね?原題から察するとアカデミー出版の「血族」がそうみたいなんだけど。
◆かみさんの実家の傍のブックオフをチェック。拾ったのはこんなところ。
d「化石の城」山田正紀(二見書房・サラブックス)100円
d「樹海伝説」Mビショップ(集英社:帯)100円
d「魔族創世記」友成純一(実業之日本社)100円
「雪女のキス」井上雅彦監修(カッパNV)100円
「おばけ桃の冒険」Rダール(評論社)100円
「魔法のベッド南の島へ」ノートン(学研)100円
「七時〇三分」牧逸馬(山手書房新書:帯)100円
「わが愛しのワトソン」MPブリッジス(文藝春秋:帯)100円
ビショップはワールドSFの中で一番縁のある本。また帯付きを100円で拾ってしまった。これで何回目だ、一体?山田正紀は一旦棚に戻すが、まあ、著者唯一の<今後再刊の見込みのない絶版本>なので、再び籠に入れる。牧逸馬は余りの安さについ手を出してしまう。一冊買うと他の5冊も欲しくなるので避けて通っていたんだけどなあ。カッパNV版の異形コレクションも漸く100均一落ちしてきた。嬉しい嬉しい。「わが愛しのワトソン」は「世紀末ロンドン・ラプソディ」とごっちゃになって所持している積もりでいたが、どうやら持っていなさそうである。まあ、帯付きが100円ならよしとしないか?後はビデオソフトを一本。
「笑撃放送!ラジオ殺人事件」(ユニヴァーサル)350円
ルーカスが製作指揮したドタバタミステリーらしい。まあ、定価13733円が350円だもんね。外しても悔しくなんもんね。
◆夕飯を済ませて積録消化。今度は「ハムナプトラ」なんぞを視聴。3000年前のプロローグ部分の掴みはベリーグッド。だが、話が20世紀に入った途端に、展開が散漫になる。主演女優レイチェル・ワイズは、なかなか勇ましいが、全体的にギャグっぽい演出で、出来損ないの「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」といった雰囲気の作品。99年作品だけあってCGはそれなりに凄いのだが、ストーリーは「予想を裏切り、期待に応える」ではなくて「予想に応えて、期待を裏切る」凡作といったところかな。まあ、それなりに楽しめるが、映画館で金を払ってみる程の作品ではないような気がした。それにしても、ここまで「死者の都」にケリを入れておいて、どんなパート2を作ったのだろう?

◆「落葉の柩」樹下太郎(ナニワブックス)読了
昭和37年の「長編推理小説」。まあ、何かその一言で紹介も感想も終わりにしてしまいたい「男と女の風俗情話、殺人仕立て」である。週刊新潮の犯罪実話読物のようなお話と申し上げればご理解頂けようか?先日読んだ同じ作者の「石の林」にはまだしも「謎」があり、「意外な犯人」や「意表をつく結末」が準備されていたのだが、この作品は「長編推理小説」の名が泣く出来栄え。なんとも締まらない犯罪小説である。こんな話。
山間の宿で、一千万円の拐帯犯人と同宿した事が平凡なサラリーマンである戸田省三を狂わせる。冷え切った夫婦関係、父親を小ばかにする子供たち、社内旅行が縁で関係を持つようになった花木陽子との愛を成就させるために、戸田は、拐帯犯・堤を巧みに山中に誘い込み、彼を落葉の柩に葬る。だが、偶然が生んだ完全犯罪への甘い夢は、同じく偶然によって打ち砕かれる。そして、新たな故意が醸成され、探索は交錯する。欲望と恋情の果てに、運命の場所へと導かれる二組の男女。果して生き残るのは誰?
はっきりとこれは恋愛小説として売り出すべき話だったように思う。刑事も出てくれば、私立探偵だって登場する。勿論、人も随分と死ぬ。だが、ここで描かれているのは、人生に倦み、その鬱憤を恋愛で晴らそうとする卑小なる男と女の姿であって、そこには不可能犯罪も華麗なる論理のアクロバットもない。しかも彼等の心情は極めて侘びしくも物悲しく、この物語の登場人物に感情移入するには、相当の努力が必要とされる。これが「長編推理小説」は嘘でしょう?せめて「長編サスペンス」にしておいて欲しかった。


2001年6月22日(金)

◆特別休日でお休み。午前中は、銀行とのトラブル・シュート。単なるこちらのちょんぼと分かり、素直に口座に不足分を預け入れ。午後から、先日の川口文庫の荷物を収めに別宅に向い、結婚後ほったっらかしになっていた雑誌書庫の整理。そこら中、ダンボール箱が散乱しており、収拾つかない状況。小一時間かけてなんとか格好をつける。新青年の戦前版は24冊になった。全然可愛いものである。少々うたた寝をして、ブックオフへゴウ!拾ったのはこんなところ。
d「シーザーの埋葬」Rスタウト(光文社文庫)100円
d「死体は沈黙しない」Cエアード(早川ミステリ文庫)100円
「かまいたち」宮部みゆき(新潮文庫)100円
「ミステリアス・エロティクス」(扶桑社文庫)100円
「名探偵ドジスン氏 降霊会殺人事件」Rロゴウ(扶桑社文庫)100円
「死んだ男の手首」シュバルツ編(ポプラ社文庫)100円
「盗まれた楽譜」Cキーン(読売新聞社)100円
「サヴァナの事件簿 デザートは殺しの味」GAマクケベット(DHC)100円
スタウトのこの本は、見かけるとつい拾ってしまうよね。エアードはこれで帯なしと帯付きが1セットずつダブったぞ、よーし(何が『よーし』だ!?)。「かまいたち」もダブってそうな気がするがまあ100円なのでよしとしよう。「ミステリアス・エロティクス」は、こんな本があったのか?状態。ブロックが入っているんだから買わなきゃ嘘だよね。同じく扶桑社文庫で膳所さんや八尾の猫さん絶賛のCウィリアムズを探したところ、なんと昨年の出版なので、まだ100円落ちしていない事が判明。むむむ、ここで350円出すかどうか悩んだが、結局スルーする。なんてケチな奴であろうか。ごめんなさいね、膳所さん。それにしても1963年の作品が、2000年に訳出されるってえのも凄い話だよなあ。映画化サマサマである。そういえば今年読んだ「模造世界」なんかもそのパターン。更にはオールディスの短篇集「AI」も映画化故の出版である。ああ、ノーマン・ベロウやクライド・クレイソンやPCドハティーが映画化されないものか?(されるわけないじゃん)
もう1冊、好事家のための本を拾う
d「八十日間世界一周」Jヴェルヌ(創元推理文庫・ニナリッチ仕様)100円
見慣れぬ表紙の「八十日間世界一周」があったので手にとったところ、中身はごく普通の創元推理文庫。ところが、カバーには「PHIEAS」と主人公の名前を大きくあしらい、下に「NINA RICCI」と白抜き文字で表示されている。どうやらニナリッチが「フィリアス」という香水を出した際にプロモーションで作った特殊カバーらしい。カバーに値段が入っていないところをみると、記念品の類いと思われる。創元推理文庫との付き合いは長いけれども、こういう「企業モノ」ってえのは初めて見た。東京創元社がどこまで企画に噛んでいたのかが知りたくなるところ。とりあえず話のネタに押える。鎌倉の御前はこういう「色物」はお入用ではないかしらん?いや、そもそも御前が企画に関与していたって事もありうるなあ。ううむ。

◆「クールキャンディ」若竹七海(祥伝社文庫)読了
青春推理には夏がよく似合う。樋口有介「ぼくとぼくらの夏」とか創元推理文庫落ちした「繭の夏」とか題名に夏を冠したものも少なくない。なぜ、夏かというと、それはやはり「夏休みがあるから」という単純な理屈である。そもそも学生というのは、結構、忙しいものなのである。運悪く殺人事件に巻き込まれてしまっても、普通は学校に行かなければならないのである。纏まって探偵ごっこをやるにはやはり夏休みでないと格好がつかない。とはいえ、最近の学生ってえのは、夏季集中特別講座とかで塾通いの毎日という噂もあるのだが。どうよ?その点、この物語の主人公はイラストレーターの母親の腕一つでのんびり育てられたために、古本屋でバイトに明け暮れる毎日を過ごしている。ううむ、若さ溢れる理想的な夏休み、だよね?テレビ版「エコエコアザラク」でも佐伯<ミサ>が古本屋でバイトしている回があったのだが、古本屋に美しい娘のバイトってえのは、萌えるよなあ。こんな話。
あたしは渚、14歳、7月20日の誕生日を控え、逞しく生きている。家族はイラストレータの母、結婚して家を出た腹違いの兄良輔。その夜、良輔の妻柚子が入院先の病院で息を引き取った。彼女はストーカーに襲われ自宅の窓から転落し重態だったのだ。しかも、同じ頃、彼女を襲ったと思われるストーカー田所が変死を遂げちゃう。警察は、兄貴に田所殺しの容疑をかけてくる。さあ、兄貴の無実をはらさなきゃ。数少ない手掛りと時間を遣り繰りして、14歳の夏は大忙し。父は蒸発、兄は殺人容疑者、気になるあいつもアテにはならない、これってちょっとヘビーじゃない?
軽快な青春推理。ご存知祥伝社400円文庫なのでサクサク読めるが、幾つかのサブ・プロットを一本の筋にまとめ上げる手際はなかなかのもの。しかも、いかにも若竹七海らしいオチを用意して、読者を喜ばせる。ああ、なんたる後味の悪さ。アイス・キャンデーを食べ終わった後の棒が正露丸味だったような不快感である。夏は暑い、夏は激しい、そして、夏は苦く、夏は凍る。


2001年6月21日(木)

◆さしたる事のない1日。早目に引き揚げ、別宅に寄り、郵便受けをチェック。SRマンスリー最新号到着。SR50周年記念行事の案内が大々的に告知されている。って、まだ半年以上先のイベントなのだが、例年とは気合の入り方が違う。なにせ、50年だもんなあ。おぎゃあと同じ時期に生まれた人間が、壮年期にさしかかっているわけで、その歴史の重みには、敬意を表するのみ。で、そのイベントだが、2日間びっしりの企画で2万8千円。ううむさすがに「老舗の貫禄」といったところかな。それはいいのだけれど、最近脇が甘い、というか、性善説になっているようで、未だに今年分の会費の請求が来ないんだよなあ。どこに払い込めばよかったんでしたっけ?
ROMも以前、古本販売のあがりを会費に充当してもらい3年分払い込んだらそれっきり、昨年で切れている筈なんだけどなあ。その点、厳格な年会費制度の「怪の会」は、払わないと来ないという明解なスタンス。EQFCは、例会に参加したついでに毟られるので、こちらもはっきりしている。会誌(クイーンダム)の発送作業で会費切れの通知を的確に突っ込めるようになれば貴方もEQFC例会の定連と言ってよい。と、書く事もないので、著名同人の会費徴収について書いてみました。とか言ってる間に払えよ>自分

◆「ヴェイスの盲点」野尻抱介(富士見ファンタジア文庫)読了
壮年の酔いどれ船長、美貌の女性航法士、ひよっこの女性ナビという布陣が嬉しい作者の処女作。いのまたむつみを彷彿させるイラストの御利益もあってか、それなりの人気シリーズとして今尚新作が期待されている(らしい)。ネットワーク・ゲーム「クレギオン」の設定がいい。永年にわたる宇宙戦争の結果、過去の超文明はその相当部分が喪われてしまい、恒星間航法程度が人類に残されている世界。これは、はっきりいって「なんでもあり」に等しく、しかも無理せず「なんでもあり」ができる。宇宙伝承一つで凄い兵器や発明品を登場させる事ができるのである。この作品でも、その設定が巧く用いられており、楽しく読めた。
幾万の追尾型宇宙機雷に封じ込められた星ヴェイス。そこと交易できれば破格の利益を挙げる事が出来る。しかも、喪われた文明の遺産発見という余録だってあるかもしれない。持ち船の修理代にも事欠くミリガン運送社長にして船長のロイドは、嫌がるただ一人の社員にして女性パイロットのマージを巻き込み、乾坤一擲の大博打に出る。だが、彼等にあてがわれたナビゲータは、実戦経験0時間のひよっこメイ。青雲の意気に燃え意欲は充分、理論も万全、でもパニック癖が玉に疵、って全然ダメじゃん!それにどうやら荷主の大企業レグルス社には表に出せない思惑がある模様。さて、この勝負、吉とでるか?凶とでるか?さあ、突っ込むぞお!突っ込むんだってば!封印された故郷の星、死の演出装置の裏をかく幸運の女神たち、影が教える虚空の遺産、冷たい方程式なんか怖くない。おー!
元気印の冒険SF。ストーリーは、一発アイデアなので、中盤からダレる。メインキャラ3人の立ちっぷりに比べて脇役たちの書き込みが今ひとつで、ストーリーに膨らみがない。特に「悪」の描写が軽すぎるのは悔やまれるところ。用語のらしさは、さすが後年あるを思わせる。まあ何はともあれ絵が可愛い。いやあ、マージは美形だし、メイは可憐である。これでいいんだこれで!