戻る


2001年5月16日(水)

◆通常出社。デジカメで連れ合いの写真を見せまくる。ただのオノロケ野郎である。
◆新橋駅ワゴンのみチェック。神林の「ルナティカン」帯付きが250円。躊躇なくパス。高すぎるぜ。


2001年5月17日(木)

◆思いっきり残業。これといって何もない1日。読書が進まない。顧みすれば良くぞ毎日1冊読んで、その感想を書くような真似が出来たものだと呆れる。まあ、電車に乗っている時間は、以前よりも長いので、物理的には継続不可能ではないのだが、新婚さんがやる話ではないよなあ。
◆本日よりカミサンも出社。遭う人ごとにお祝辞と冷やかしの連続だったらしい。


2001年5月18日(金)

◆無性に本が買いたくなる。古本屋で何も買う者がないのも辛いので、とりあえず新刊を購入。安全牌をとりあえず確保しておこうという周到なる思惑である。
「夜よりほかに聴くものなし」山田風太郎(光文社文庫:帯)857円
「日本怪奇探偵小説全集4城昌幸集・みすてりい」日下三蔵編(ちくま文庫:帯)
なんだよう、結局日下さんの本じゃねえか。
その足で、会社傍の古本屋をチェック。
「日本SF古典集成(1)」横田順弥編(早川JA文庫)100円
「土曜を逃げろ」Cウィリアムズ(文春文庫:帯)100円
おお、ヨコジュン編集本は若干の傷み本ながらさすがに100円ならダブリであろうがなんであろうが買ってしまいますのう。通勤の友を往路で読み切ってしまったので、復路用にひとつ二つ拾い読む。うわあ、面白いじゃねえかあ、昔のえすえふって。
◆新妻用に新刊書店のレジに平積みされていた猫シールをプレゼント。うけまくる。


◆「くたばれ健康法!」Aグリーン(創元推理文庫)読了
「ユーモアミステリの快作!」という刷り込みを中坊の頃から受けてきたグリーンの著名作。昔の翻訳題名を「ボディを見てから驚け!」と云う。原題は「What a Body!」。まあ素直に訳せば「なんたる死体<ホトケ>!」だと思うのだが、なんとも珍妙な訳題である。実はこの作品「くたばれ健康法!」として復刊されるまで十数年間品切れだった時期があり、我々の世代にとっては、帽子男マークの効き目の一つであったのだ。で、実は私がその頃に入手できた本は非常に状態の悪いシミ本であり、今ほどは古本に対して耐性のなかった私は、今日に至るまでこの作品を手にとるのを躊躇してきたのであった。この日記をつけるようになって、続編の「道化者の死」を先に読んだのはそんな事情による。で、幸いにも先日、ブックオフで、帽子男マーク時代の装丁本を百均で拾えたので、結婚式の友にしたのだが、さすがに読み進めず、一週間もかかってしまった。こんな話。
全米で健康ブームを巻き起こした頑健な健康法教祖が自らの王国ともいえる孤島の、これまた自らの神殿ともいえる居室にいるところを、射殺される。現場は地上4階の窓開き密室。弾道はその真下にあるプールから玉が発射された事を物語る。水深6メーターのプールの真ん中から、殺意の弾丸を放ったのは果たして誰か?そして何故犯人は犯行後わざわざ死体にパジャマを着せたのか?多すぎる容疑者たちの島で、捜査に向かない若手警部は、恋と不可能犯罪に翻弄されるのであった。
軽快な語り口が嬉しい本格ユーモア推理。不可能犯罪トリックは、一発ネタであり、今となっては少々薄味だが、すっきりした解法には好感がもてる。容疑者たちの捜査が、いつしか容疑者たちによる捜査になっていくシチュエーションコメディ的展開に眩惑される事必至。続編の方を先に読んでしまったがために、のっけから「<容疑者>減」状態だったのだが、それでもなおかつ楽しく酔えた。非常にバランスのよいエンタテイメントである。一生に一本こういう話を書いて彗星の如く消えてみたいものである。傑作。


2001年5月19日(土)

◆ブックオフを大急ぎでチェック。
d「メグレと消えた死体」Gシムノン(河出書房)50円
d「重罪裁判所のメグレ」Gシムノン(河出書房)50円
「ゴッホ殺人事件」長井彬(実業之日本社)100円
ああ、シムノンが50円だもんなあ。ついつい、買ってしまうよねえ。
◆古巣に荷物を取りに行く。扉を開けるとなんとなく饐えた匂いがする。もしやこれが古本の臭いというものなのだろうか?ううむ、わずか1週間離れているだけで、自分の鼻孔にこびり付いた古本臭の微粒子が落ちて、異臭として感じるようになるのだろうか?これで、新刊が美味しく頂ける身体になるのだろうか?その件については、別のリサーチ結果があがっています、チーフ(大嘘)
とりあえず、1週間分の読書用に「ミステリ・オペラ」なぞを持って出る。あははは、これが今の私に一週間で読了できれば奇蹟というものである。
◆古巣の郵便受けに溝口さんからの冊子小包が届いていた。帰宅して開封すると、お祝辞と本が一冊。結婚祝いなのかな?いずれにしてもありがとうございますありがとうございます。
「グリフォンズ・ガーデン」早瀬耕(早川書房)頂き!
バーチャル・スペースの恋愛もののようである。溝口大人曰く、「大傑作!」。ほほう、これは期待できそうであーる。


2001年5月20日(日)

◆歩いて数分の千葉中央図書館へゴウ!新妻は、2週間後に迫った門下会に備えてピアノの泥縄お稽古に実家へと向うため、放牧状態となるわたくし。開架を見て回ると、香山滋全集や海野十三全集が綺麗に勢揃い。所持本はきれいなまま仕舞っておいてこちらで読むかあ?一通り開架チェックを終え、今度は所蔵本を検索してみるとさすがに、30年代の探偵作家は全滅だが、文化出版局のロバート・ネイサンや岩崎書店のディキンスンや、三橋一夫の春陽文庫などは在庫している模様で結構幸せな気分に浸る。よーし、愛の戦士としては、やはりネイサンあたりから借り出してみるかにゃ〜?
◆その足で西千葉まで歩き。ちょっとだけ定点観測。
d「焔の眼」Mビショップ(早川書房)300円
d「怪奇と幻想3」矢野浩三郎編(角川文庫)200円
「新・刑事コロンボ/死の引受人」リンク&レビンソン(二見書房・帯)230円
「鏡の奥の他人」愛川晶(幻冬舎)100円
「特捜最前線」杉江慧子(テレビ朝日)100円
d「わが子は殺人者」Pクェンティン(創元推理文庫)30円
「幽霊になった男」源氏鶏太(講談社:函・帯)250円
「アメリカの奇妙な話1巨人ポール・バニアン」BCクロウ編(ちくま文庫)330円
d「ポルノスタジオ殺人事件」Rバーナード(光文社文庫:帯)100円
うおお、全集以外に源氏鶏太の函つき本なんてあったのね!これはびっくりだあ。ビショップは先日買いそびれを発見し、古書価格で買った途端にこれだよお〜。一番嬉しい買い物が「特捜最前線」というのは渋すぎますかそうですか。


2001年5月21日(月)

◆うんざりと残業。就業後、昼休みに覗きそこねた新橋駅前の古本市を駆足チェック。こんなしょぼい市でも、古本者の皆さんたちは朝一番でチェックしておられるのであろうか? まあ、なんにもないだろうと思ったが、なんにもない。唯一、一瞬気を引かれたのが先般、日記に書いた講談社の「定本・人形佐七全集」全8巻が揃いで2万円。ううむ、人が「なかなか見ない」と書いた途端出てくるかね?それとも、こちらに見る目がなかっただけなのか?まあ、以前なら悩むところだが、今の私はノー文句でスルー。この値段じゃあ、買えねえ、買えねえ。

◆「新刑事コロンボ・死の引受人」リンク&ロビンソン(二見文庫)読了
まだ地上波で放映されていない新作コロンボ。WOWOWで視聴済みなので安心してノベライズが読める。犯人役は、これで4回目の犯人役となるパトリック・マグハーン。いやあ、貫禄である。実は、旧シリーズで「祝砲の挽歌」と「仮面の男」の犯人役者が同じと聞いた時には一瞬我が耳を疑った。この人ってメイクで全然印象が変るのだ。新シリーズでも「完全犯罪の死角」と「死の引受人」では別人だもんなあ。閑話休題、この作品は、退潮著しい新シリーズの中では、なかなかの力作。計画犯罪ではないのだが、死体の処理法や、動機、犯罪の破綻のきっかけなどに新味が見えて吉。「私だったらコロンボをこう作る」という律義さが感じられるのである。ハリウッドの葬儀社を舞台に、過去の美人女優の死にまるわるスキャンダルと現在の芸能レポーター殺しが交錯する、灰は灰に、スカイ・ハイ、てなお話。ノベライズもテレビに近い安心翻訳で信頼度高し。

◆「怪奇探偵小説傑作選4城昌幸集・みすてりい」(ちくま文庫)読了
各所で絶賛の続く、この叢書第1期の目玉商品。なるほど、これを古本屋で探すとなると、地獄である。まずは、相場の10分の1以下でこの本が新刊書店で入手できるというのが快挙!それはそれとしておおいに評価されてよかろう。まあ、その前に春陽文庫で「死人に口なし」なんぞが出ている事を思えば多分に<日下三蔵>効果がある事は否めないのではあるが。 さて内容であるが、エキゾチックな異界の荘厳な屋敷に迷い込み、夫々に意匠を凝らした部屋で技巧の限りを尽した箱を開けてみると中には美麗な包装を施した菓子が並んでいる。だが、さあ、どれから食べようかと、幾重にも包れた言の葉を捲りっていくと中には菓子はなく、「外れ」という御神籤が現われる、なんかそんな感じの小噺が多いんだわ、これが。率直に言って「ああ、高値掴みしなくてよかった」という喜びのみが込み上げてくる作品集である。「箸休め」だけでコース料理は組めないのである。


2001年5月22日(火)

◆仕事が修羅場。

◆「グリフォンズ・ガーデン」早瀬耕(早川書房)読了
MZT氏から、結婚祝いに貰った単行本。なんと作者が一橋大学の卒業論文として書いた小説である。中味は、北の街を舞台にした現実のカップルとそのカップルの片割れがバイオ・コンピュータ上に構築した架空現実界のカップルが織り成す恋愛模様を淡々と綴ったファンタジー。文字で描かれた水彩画という風情の哲学的暗喩に満ちた実験作である。なにせ作者が一橋なので文科系である筈なのだが、どうしてどうしてなかなかに理科系アタマな作品である。もしかして経済学というのは理科系なのであろうか?ねえ、MZTさん?


2001年5月23日(水)

◆仕事が修羅場。

◆「螺旋階段のアリス」加納朋子(文藝春秋)読了
早期退職制度を使って会社からの支援を受けながら憧れの探偵稼業を始めた初老の「私」とその事務所に転がり込んできた少女以上女性未満なヒロインが追いかける日常の謎の物語集。それぞれの謎に聖典たる「アリス」の物語がダブる構成は連作としてあらまほしき姿である。ベストは「最上階のアリス」。不覚にも目頭が熱くなった。新婚早々の人間が読む話じゃないよなあ。でも、これを書いた頃って作者自身は新婚早々だったのかな?ううむ、これぞ<至高の愛>。御亭主が羨ましいわい。


2001年5月24日(木)

◆事務方にとっての本番の日。朝から真面目なサラリーマンモードに切り替えようと行きがけの電車で、日経新聞を隅から隅まで読む。ネットを離れても、相変わらずテレビいらずの生活をしているので、どうも世の中の動きに疎い。昼休み前にオーダーが入りバタバタする。来客の捌きも今ひとつ。携帯2台を使いまわしてビルの上に行ったり、下に行ったり。さながら、ナイオ・マーシュ作品の犯人のように慌ただしく駆け回る。夜は待機の気配もあったのだが、するりと篭脱け。ふっふっふ、ロースン作品の犯人のように天外消失してくれたわい。そんな私は森村誠一作品の犯人のように社畜である。

◆「隣の人たち」藤木靖子(東都ミステリ)読了
まだ日本の庶民の生活が貧困の底にあった頃、とある共同住宅で生活する人々を襲う密やかな盗難事件。やがて普通の人々たちの間で、猜疑と暗鬼のスラップスティックは加速し、遂には死が訪れる。三畳一間に住む歳若いBGが見た夫婦たちの地獄。最も脆く、そして最も強い心は誰に宿っていたのか?相当に悲惨な話でありながらユーモラスな筆致で「当時の日本」を活写した作者の力量に脱帽。推理小説としてみても合格点。実に生活感溢れる佳編である。お勧め。


2001年5月25日(金)

◆とりあえず、今月のビッグイベントをこなす。まあ、大過なく終了したと言っておこう。このプロジェクトが終わるまで、あと372日。
◆給料日だったので、かみさんと「今日は呑んだくれるのだ!」と宣言。シャンパン1本と赤ワイン1本を二人で空ける。寝る。


◆「ハマースミスのうじむし」Wモール(創元クライムクラブ)読了
こんなものも読んでなかったのか?シリーズ。これまで何度となく挑戦しては数十頁で敗れ去ってきた作品である。今回は、気楽に1日1冊でなくてもいいんだよお、という気持ちでとりかかったところ、一気に楽しめた。犯罪者をコレクションするディレッタントであるキャソンというワイン商が、ハマースミスに住む卑劣漢に彼なりの正義の裁きを下すという作品である。とにかく、犯罪者の内面がよく書けているのに驚く。ひとかどの人物として世間から認められる事を希う美術品マニアである脅迫者の歪んだ劣等感が何とも痛い。プロットの展開が破格であり、一体この話はどう転がっていくのか、相当にミステリを読みなれた人でも戸惑うであろう。黄金期以後の「現代ミステリ」の里程標的作品として記憶されるべき佳作である。ラストの1行には思わずのけぞった。こう書いておいても、貴方の予想を越えていると思いますよ。むふふ。


2001年5月26日(土)

◆中央図書館で貸し出しカードを作って貰い、天沢退二郎だの名探偵チビーだのを6冊ほど借りてくる。アマタイのオレンジ党はこれまで全く古本屋で縁のない本で書影すらさだかではなかったが、ようやく遭遇。ほほう、立派な本ですのう。さて、その中央図書館だが、とにかく明るくて広くて新しくて心地よいんだわ、これが。一緒に行ったかみさんもすっかり設備に惚れ込み、これから休日はずっとここにいましょう!ビデオもあるし、CDもあるし、雑誌も新聞もあるし、電気代も助かるし、と宣言。ううむ、確かに居心地良すぎ。新刊も充実しているし、<本屋で新刊を買いたい>欲がどんどん吸い取られていく。
◆昼飯後、実家にレッスンに戻るかみさんとバイバイしてブックオフチェック。
d「鹿の子昭和殺人事件」橋本明(新風舎)100円
d「銀河盗賊ビリーアレグロ」都筑道夫(奇想天外社:帯)100円
「神戸<異人館>殺人事件」春日彦治(広済堂NV)100円
「名なしの森」中井英夫(中央公論社)100円
「夢の果て」安房直子(講談社文庫)100円
ううむ、都筑道夫の元版帯付きが100円なら買うよなあ。あと、安房直子の講談社文庫は何冊あるのかな?とりあえず4冊目。
◆新刊書店でミステリマガジンを探すが、これが見当たらない。知らぬうちに通常の書店も猛烈な勢いで、写真集とマンガに浸蝕されているようである。とにかく、月刊小説誌すら満足におかれていないのには驚く。ここになかったら諦めようと思った店で漸くゲット。今月は野球ミステリ特集とか。それにしても、小説が、ラインハートの長編分載以外に、ブリーンの短篇が一つだけという構成には唖然とする。ラインハートが必要以上に長いせいであろうか?なんと次号予告にも挙げてもらっていないのだが、これって次号完結だよね?それとも果てしなく長い話なのであろうか?それに対してSFMのキースロバーツ特集はなかなか熱い企画で上々。
「ハヤカワミステリマガジン2001年7月号」(早川書房)800円
「ハヤカワSFマガジン2001年7月号」(早川書房)848円

◆「闇の中のオレンジ」天沢退二郎(筑摩書房・図書館貸出)読了
いやあ、探した探した、天沢退二郎。ところが千葉の図書館には、市立図書館の数だけ置いているようなのである。おお、一体どうした、千葉市立図書館!?と思ったところ、なんと、オレンジ党のシリーズは明らかに千葉県の新興住宅地がモデルになっているのであった。なーるーほーどー。郷土の誇りというわけですか。んで、最初に手に取ったこの作品は、オレンジ党を含むアマタイのダークなジュヴィナイル・ワールドの断章を集めた作品集。一応は独立した話なのだが、その向こうに巨大な物語世界が透けて見える短篇集である。新本格系の人に説明しようとすれば、京極夏彦の「百鬼夜行」みたいなもんといえば判りが早いか。なんとも不気味な闇の手応えが怖い。ひたひたとココロの汀に寄せてくる黒の力がおぞましい。漆黒の中で、ぼうっと浮かび上がる原色の仄かさ。それすらも敵か、味方かが判らない。この本を面白がれる子供がいたとしたら、相当に厭な子供である。アマタイの手にかかると、光に満ちた千葉中央図書館がどのように描かれるのかちょっと見てみたくなった。


2001年5月27日(日)

◆ちょいとブックオフ・チェック。
「戦慄の旅路」中島河太郎編(文華新書)100円
「鏡像のクー」竹本健治(ハルキ文庫)350円
「Wild Cats1〜8」(主婦の友社)各100円
1冊880円のアメコミが100円なら買いでございます。とりあえず、ミステリ者としては中島河太郎のアンソロジーが当たり。これは、今まで存在も知らなかった本である。久しぶりに「ちょっと手が震えた」。この程度の収獲があれば満足なんです。俺って奴は。

◆「黄金カボチャの謎」新庄節美(講談社・図書館貸出)読了
噂の名探偵チビーシリーズ。貸出から戻ってきたところという感じの栞が挟まれていたので、結構人気なのかもしれない。図書館での人気と市場での売り上げというのはまた別物なのであろうか?まあ、絶版効果もあって「読みたい欲」が湧いているシリーズなので、その辺り、アンビバレンツな私である。さて、このシリーズは初目見えなのだが、初めの方の巻が開架に並んでいなかったので後の方の2冊を借り出した。カボチャ伯爵の隠し財宝という伝説の伝わる山間の村で、何の変哲もないカボチャ一個の紛失事件が発生。この瑣末な謎はやがて、村の存亡を賭けた一枚の書類の盗難事件へと発展する。果して、真犯人は、3人の客の内の誰なのか?平明にしてユーモラスな語り口もさることながら、伏線の張り方が巧いのには感心する。まだまだ世の中には凄い才人がいるもんだ。今更ながらではあるが、ここにも推理小説のなんたるかを、自分の言葉で語れる人がいた事を素直に寿ぎたい。ずばり買いです。茗荷さーん、見つけたら拾っといてね。


2001年5月28日(月)

◆25日のイベントの後始末で1日が終わる、というか、調べ物で半日潰す。これほどにてこずる調べ物も珍しい。蜃気楼というか、都市伝説というか、誰もが知っているのに、その火元が判らないのである。日経テレコン、Googleなどをさ迷い、会社の散らかりまくった書庫で法律をひっくり返してみても手がかりなし。ああ、喉の奥に小骨が刺さっている感じだよう。しくしく。
◆残業してもラチが明かないので、久しぶりに南砂町定点観測。5月から通勤経路を変更したので、かれこれ一ヶ月ぶり。外の均一棚に、コロンボの合本がワンサと並んでいたが、スルー。2年前なら少なくとも効き目の巻だけは押さえたと思うのだが、すっかりクールになってしまった。いやあ私も大人になったもんだ。その他にも、あれこれとスルーした結果、買い求めたのは以下の2冊。
「ハリケーン」ノードホフ&ホール(三笠書房:帯)100円
「蛇の穴」MJワード(星和書店)100円
ああ、なんだが周辺作品ばかり買っているなあ。結局、人間一つのジャンルで飽く事なく本を買いつづけることができるのは、ものの2年ぐらいなのかもしれない。目の醒めるような拾いものに出会わないものだろうか。

◆「一角ナマズの謎」新庄節美(講談社・図書館貸出)読了
名探偵チビーのもう一作は「見立て」である。「10人の小さなインディアン」を彷彿とさせる7人の一角ナマズの王子たちの顛末を語った歌に見立てて、その一角ナマズをシンボルにした富豪の家で起きる奇妙な破壊事件。果して真犯人の狙いは何か?さしもの名探偵を困惑させた真相とは?レギュラーキャラ立ち捲くりのエピソードに、犯人特定の手掛りを忍ばせる手際が鮮やか。そして、感動的な隠された大団円に作者の優しさを見る。多くの名探偵がそうであるように、チビーもその敗北こそが、最も華麗な勝利なのである。この作品に至り、チビーは真に名探偵の殿堂に名を連ねる資格を得た、とまでいうと褒めすぎか。それにしても、こういう見立て歌作るってのは楽しいだろうなあ。私も思わず10人の古本マニアなんて歌を作りたくなるぞ。
♪10人の古本マニアが旅に出た。
♪一人が寝坊して9人になった。
まんまやん!


2001年5月29日(火)

◆不本意なる待機残業。作らなくてもいい資料を作って時間を潰す。感想文の一つでも書けばいいのにね。待機解除で速攻で帰宅。実は寄り道をせずに帰ると、ドア・トゥー・ドアに要する時間は、以前と変らないのである。ただ、通勤快速に乗りそびれると結構なロスが生まれる。本を読む時間は明らかに増えているのに、パソコンに向える時間は単調減少。ああ、こんなことで6月からネット復帰できるのであろうか?

◆「オレンジ党と黒い釜」天沢退二郎(筑摩書房・図書館貸出)読了
本当に読みたかった本。下手をすると一生手に取る事は出来ないかと危ぶんでいた天沢退二郎のダーク・ファンタジー「オレンジ党」シリーズ第1作!土田さんからは「<黒い本>ですよお」と教えてもらっていたのだが、成る程、これは<黒い>!いや、勿論、背表紙の色は黒なのだが、中味がこれまた「黒い」のである。 六方小学校に転校してきた少女・鈴木ルミが、「黒い魔法」と「時の魔法」と「古い魔法」の三つ巴の闘争に巻き込まれ、オレンジ党を名乗る同級生たちと手を携え、黒の力の源である「釜」を封印していく物語である。まずは、釜の在り処を記した地図の争奪戦がスリリングに描かれるのだが、その地図に込められた意味の重さに驚く。「これを子供に読ませるのか?!」である。そして、一人一人のキャラクターの裏設定がこれまた凄い。オレンジ党の実質的なリーダーである李エルザの生まれ一つとっても、この話が一筋縄ではいかない小説である事が理解できる。更に、作者は事象の総てにはいちいち解説をつけない。それがまた、作品の懐の深さを感じさせるのである。通常のジュビナイルであれば先生は悪者にできないものだが、この作品の先生たちは見事なまでに「悪者」である。特に「源先生」と来た日には、嵌まれば充分<萌え>の対象になりうる立ちっぷりである。巻を重ねて行く毎に益々オバカに磨きがかかっていくところが凄い。明らかに作者は源先生に、やられキャラを割り振っている。これだけ破格な話でありながら、物語の定法もきちんと心得ているところがなんとも不敵ではないか。はっきり言ってハリー・ポッターとやらの翻訳が待ちきれず洋書で読んじゃったわ、きゃあきゃあ、なんぞと出版社の陰謀に乗って浮かれる前に、図書館で読んでおくべき傑作である。ダーク・ファンタジーなんて言葉が、まだなかった時代に既に日本ダークファンタジーの最高傑作は生まれていたのだ。面白いぞお。


2001年5月30日(水)

◆またしても不本意な残業。新橋駅地下チェックのみ。なんにもない。購入本0冊。

◆「魔の沼」天沢退二郎(筑摩書房・図書館貸出)読了
オレンジ党シリーズ第2作。闇との闘いは、鈴木ルミ自身にフォーカスされる。街の外れの野を静かにそして着実に浸蝕する黒い水。それはルミが夢の中で見た黒い沼であった。託された分析。錬金術師のほくそ笑み。歓喜の大地は徐々に異次元の穢れの中に呑み込まれていく。黒との相克に破れた古き魔法は、新たなる源の発現へと動く。果してオレンジ党の面々は、ルミの呪いを解き、黒の勢力を駆逐することができるのか?怪錬金術師と別の闘いを往く少年が三魔法の鼎に降り立ち、今の世のグーンの物語は佳境に入る。 最も頼りになる支えを釜とともに失ったオレンジ党だが、なればこそ彼等は自らの技量を磨き黒への闘いに挑む。道具立てが身の回りの雑貨であるところに作者のセンスの良さを見る。馬鹿馬鹿しさと紙一重の見切りが凄い。特に、何の人手もかからぬままに完成へと向う「家」の不気味さが圧巻。そして、完成した家の窓からオレンジ党を覗き見る白い人。その虚ろな魂に吸い込まれるような恐怖を感じる。その怖さに比べれば、黒いスワンを使う沼の王も狂言回し程度にしか感じられない。まあ、尤も、颯爽と武者を引き連れ現われたかと思うと、あっさりシッポを巻いて退散する源先生に比べれば怖いけどね。


2001年5月31日(木)

◆仕事上でポカが出る。出るぞ、出るぞと思っていたらきっちり出るだもんなあ。一体何人の目をくぐりぬけて来たミスなのであろうか?さながらハリウッド製ヒロイン映画の主人公の如く幾重にも張り巡らされた厳しいチェックと罠を潜り抜けて来たミスである。ペリカン文書のジュリア・ロバーツか、スピードのサンドラ・ブロックか、チャーリーズ・エンジェルのキャメロン・ディアスか。うーん、凄いぞ、凄いぞ、って、単に「敵」が間抜けなだけじゃないのか、キルヒアイス?はい、ラインハルトさま。
◆千葉で一番頼りになる本屋を覗くが「ぶたぶたの休日」は見当たらない。既に売れた、という気配でもないしなあ。ああ、早く山崎ぶたぶたさんに会いたい!


◆「オレンジ党、海へ!」天沢退二郎(筑摩書房・図書館貸出)読了
オレンジ党シリーズ第3作にしてとりあえずの完結編。といっても、「ここに全ての謎は明かされる」というわけではない。黒い魔法が、凍れる風となって蹲る丘。その丘の主たる「鳥の王」からオレンジ党一行に届けられた助けを求める一通の手紙。だが、傷ついた鳥人は「鳥の王」の無慈悲を告げるメッセージを残す。果して「鳥の王」の本性は聖か?邪か?土気の丘に向ったオレンジ党を待ち受ける鳥使い。迷いの立て札は、パティーは分裂させ、オレンジ党は護るべき者から白眼視される。果して、古の魔法は、何を企んでいるのか?オレンジ党の一人一人が持つ力が開放されていく時、癒しは海に訪れる。
ああ、これでオレンジ党も終りかと思うと実に寂しい。これは、ドリトル先生やナルニア国物語のシリーズ全巻を読み終えた時のあの感情である。黒の魔法はその強大さの片鱗を見せたまま、とりあえず舞台から退く。だが、それは一時の勝利に過ぎない事を我々は知っている。この物語の底に横たわる文明批判の魂は今なお、物質文明を謳歌する我々に決断を迫ってくる。忘却の淵にわざと置き忘れてきた純粋さを物語の結晶にして我々の眼前に突きつける。命の源たる海に、オレンジ党の面々が還るのは、それがまた異界への扉である事の示唆なのであろうか?このような良質の創作ファンタジーが絶版のまま今に至るのは日本の出版界の恥のようにすら思える傑作である。筑摩書房さん、どうかこのオレンジ党のシリーズを文庫化してください。