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2001年4月25日(水)

◆「更新一時停止他のお知らせ」をアップ。エイプリル・フールではありません。
◆と、書いたところ、掲示板に<弔問客>が引きも切らず。あの〜、4月中は通常通り営業のつもりだったんですけどお。うーむ、紛らわしい書き方をしてしまったかにゃ。とりあえず、まずは御礼を。
ありがとうございますありがとうございます。これほどの方々に支えられていたのだと、感動を新たにしております。涙でディスプレイが霞んで見えません(男泣き)。
で、折角、感動的に送られてしまいましたので、心積りよりは早いのですが、これにて「ちょっとお休み」に入らせて頂く事に致します。その前に、一応通常の日記をば。


◆少々残業。内幸町と新橋駅地下をチェックするがさしたるものは何もなし。雨模様だったので、途中下車気分にもなれず、帰宅すると、「鎌倉の御前」から郵便物が到着。実は昨年ポケットブックとの交換条件の一つで京極夏彦サイン本というのがあったのだが、所持している「姑獲鳥の夏」(初版:帯)にサインをねだったばかりに延び延びになっていたのであった。「嗚呼、遂に我が手に来たか」とこれもまた感慨無量である。ありがとうございますありがとうございます。先日のMYSCON2の「古本なんでも鑑定団」でも「姑獲鳥の夏」の初版は数が少ないと評判になっていたのである。むっふっふ。
それの帯付きだ!
しかも著者サイン入りだ!
おまけに為書きなし!!
フォルコメンハイトおお!!
言わせて頂こうではないですか。老若男女問わず納得でしょう。これが、最後の


「血風!」

◆「影の顔」ボアロー&ナルスジャック(早川ミステリ文庫)読了
後書きを見て驚いた。なんとこのチーム作家の第2作らしい。ポケミスで400番台という位置だったので、なんとなく「死者の中から」や「魔性の眼」よりも後、勿論「牝狼」よりもずっと後というイメージを抱いていた。慌てて「野獣世代」(ポケミス1404)の巻末に載っている著作リストで確認。なーるーほーどー。しかし、今度は更に驚いた事に、なんと「野獣世代」が翻訳出版された82年時点で3作の未訳新作があるではないか!?なんとなくルパン名義の第5作(ジュヴィナイルでのみ翻訳あり)を除いては未訳作などない、と思い込んでいただけにショックは大きい。ピエール・ボアローの没年が88年だか89年だかということからすると、このコンビ作家の未訳作というのは一体何冊あるのかと気になるところ。いやまあ、余り良い読者でないからこその疑問ではあるのだが。
閑話休題。で、この作品であるが、これが思いのほか面白かった。実は、あまりこの高名なチーム作家の作品で「面白い!」と思った作品がないのだが、これは当たり。昭和45年にNHKが二谷英明主演でドラマ化した事もあることから、ポケミスでも重版され、文庫落ちもしている事から入手は比較的容易な作品である。「私のすべては一人の男」や「技師は数字を愛しすぎた」を当て所もなく探し回るのであれば、まずはこの作品から読んでみてはいかがか?こんな話。
榴弾の事故で光を失った電器会社のワンマン社長・エルマンチエ。大立者を演じ続けて来た人間が突然無力な境遇に押しやられた時、猜疑と暗鬼の地獄が幕を開ける。果して上流階級出身の妻クリスチァーヌの愛は真実のものなのか?妻同様育ちの良い共同経営者ユベールは、会社を身売りを画策しているのではないか?いつもの海辺の別荘へ静養に向ったエルマンチエは、そこで不思議な現象に遭遇する。匂う筈のない松の花粉の匂い。引き出しが左右逆になった戸棚。突然実をつけた桃の木。彼にしか聞こえない鐘の音。総ては彼の神経耗弱が生み出した幻想なのか?そして穀潰しの弟マキシムの登場と突然の退場は何を物語るのか?誰一人信じる事ができなくなった男が逃避行の果てに見出したものは、はたして「癒し」か?それとも「闇」か?
盲人の恐怖を余すところなく描いた傑作サスペンス。後天的な視覚障害者の焦燥が実に痛い。画期的な電灯の開発と大量生産で電器会社の中興の祖となった成り上がり者が「光を失う」という皮肉。作者たちの筆は、これでもか!といわんばかりに暴君の末路を残酷に描く。暗黒劇とでもいうのだろうか?主人公の「視点」は他の感覚に頼らざるを得ず、心象風景に交錯する光と闇が強烈な印象を読者に与える。読後感はともかくとして、サスペンスというのはこう書くのだという見本のような作品である。それにしても、よくぞ、この作品をドラマ化できたものだ。凄いぞ、NHK。お勧め。

(今月入手した本:136冊、今月処分した本:129冊、今年の増減+475冊)

◆では、これにて、世紀を越えた古本血風録をば終了させて頂きます。長い間の御愛読本当にありがとうございました。さあ、次はどんな装いでお目にかかれますやら。
……「ワヤヤワ・ミスプリ・マガジン」とか、どないでっしゃろ?(>ホントに忙しいんか?:自分)


2001年4月24日(火)

◆就業後、歓送迎会に向う道すがら新刊3冊購入。
「蹲る骨」イアン・ランキン(ポケミス:帯)1800円
「斧」DEウエストレイク(文春文庫:帯)667円
「本格ミステリこれがベストだ!2001」(東京創元社)300円
ポケミス1600冊目のキリ番が登場。先に1701番(「魔の淵」)が出版済みなので、些か興ざめな部分もあるが、やはりめでたい事にはかわりないい!ミステリ文庫やNV文庫、果てはミステリアス・プレス文庫と、本来ポケミスで出るべき本が他の叢書に流出し最近では月刊1冊ペースに落ちているだけに、このキリ番達成には感慨が大きい。おそらく死ぬまで新刊書店で買いつづける叢書になろうと思う。素直に頑張って欲しいと思う。それにしても、分厚いのう、この本も。また500頁越えてるよ。「斧」は思わぬ出版社からの発刊。嬉しい不意打ちである。まだまだ未訳の多い巨匠なので、二の矢、三の矢が次ぐ事を祈る。許しがたいのが「本格ミステリこれがベストだ!2001」。何が許し難いって、「創元推理21別冊」という位置づけだな。うーむ、足元見やがって。
◆宴会の途中で花粉の諸症状が爆発し廃人状態につき、そのまま失礼する。嗚呼、情けない。

◆「殺人現場へ二十八歩」都筑道夫(光文社文庫)読了
都筑道夫で大量に読み残しているハードボイルドから1冊。と思ったが、これはハードボイルドというには、あまりに「都筑道夫小説」な連作集であった。一人称表記にホテル・ディテクティブというようなネーミングや浅草という舞台から、連れ込み宿の用心棒的なストーリーをイメージしていたが、中味は懐古趣味とミステリの趣向を凝らした名人芸。これはまた楽しみなシリーズが積読になっていたものだと喜んでいる次第。浅草にオープンした近代的な国際観光ホテル「ハイライズ下町」。辣腕の若手経営者・立花は、友人であった警視庁特捜部の小太刀を警備主任に引き抜く。主人公は、同じく刑事からホテル探偵に転じた田辺素直。下町と世界の交叉点で発生する欲望、陰謀、激情の犯罪。腕っ節と人情の機微には自信あり。男・素直が事件を解決。推理が小太刀任せになのは内緒だ!他にも、黒人とのハーフのドアマン、何ヶ国語も使いこなす古美術店主、事勿れ主義の副支配人、素直の娘夫婦などなど脇役の布陣にも怠りなく、浅草の風物を巧みに織り交ぜた描写と相俟って楽しい読物に仕上がっている。都筑道夫の時代物がお好きな方も是非どうぞ。これは現代を写した「捕物帖」である。4話収録。以下、ミニコメ。
「死体のロンド」一度は殺人を通報してきた男。だが、その死体は一度消え、思わぬ場所から現われる。拳銃密売と動く死体の謎が縺れ、ホテル探偵は開業早々、多忙である。シリーズ第1作。死体を入れ繰りするのは作者の得意とするところだが、まあ、落語の「らくだ」あたりの発想であろうか?サイドストーリーを二つ絡めて、小太刀と主人公のキャラを立たせる手際が見事。
「エンコ行進曲」同窓会に招待された老教師が変死を遂げる。一体、無害な恩師を誰が謀殺したのか?そして、偶然投宿していた掏りの名人が見たものとは?必殺の手口を模した「象は忘れない」犯罪と、掏りの名人芸のジャム・セッション。<エンコの六>のキャラだけで幸せになれる一編。フーダニット趣味もまずまずフェアでよろしい。
「黒猫のボレロ」日本マニアのイタリア人大立て者が、フランス人ボディーガードを引き連れ投宿。だが、彼を狙って国際的な暗殺者「黒猫」が動き出したという情報がもたらされたことから、ホテルは厳戒体制。しかし、その警備の隙をついてボディーガードが殺される。果して「黒猫」の正体は?てな話。猫好きの大立者の蘊蓄が振っている。ミステリとしても端整な仕上がりでまんまと一本とられた。ホックあたりが使いそうなネタではある。
「石鹸王ワルツ」新婚カップルの部屋で起こった幽霊騒ぎの真相を追う田辺。サイドストーリーとしてシャボン玉のボードビリアンの親戚捜しが絡む人情編。殺人を起さずともミステリを捻り出す作者こそマジシャンである。このシャボン芸は実物をみたくなる。

(今月入手した本:136冊、今月処分した本:129冊、今年の増減+475冊)


2001年4月23日(月)

◆八尾の猫さんに送本。
◆よし!MYSCONレポートは事実上一番乗りだったかな。むっふっふ。でも、よしださんは褒めすぎ。その後もちょことちょことネタを思い出してきたので、増補するか考え中。例えばこんな一幕。ともさんとの書庫談義で、
ともさん「書棚に蔵書を著者別にあいうえお順に並べてみたいですよねえ」
石井さん「そうそう。そうなると、一番最初は、えーっと、阿井渉介」
わし「うんうん、『赤い列車の悲劇』とか(笑)」
ともさん「‥‥‥やめようかな」(爆)
<推理電網の良心>と呼ばれるともさんのマニアな一面を垣間見せてもらったようでオモシロかったっす。
◆昼間に定点観測で3冊だけ拾う。
「三つ首塔」横溝正史(廣済堂NV)66円
「野獣を撃つ(上・下)」大藪春彦(光文社カッパブックス)134円
横溝本は、テキスト的には何もみるところのない本。「だって欲しいんだ本」ですな。大藪は3冊200円の数合わせに購入。猛獣狩りのノンフィクションである。こんな本、文庫落ちしているのだろうか?欲しい人、おられませんかあ?入手価格でお譲りしますよ〜。
◆就業後の定点観測も全然振わず。安物買い3冊。
「存在の果てしなき幻」司城志朗(カッパNV)100円
「レイミ−聖女再臨」戸梶圭太(祥伝社ノンNV)100円
d「髑髏町綺譚」友成純一(大陸NV)100円
◆あああ、折角、ひとが水も漏らさぬ叙述トリックを施したのに、くろけんさんが自分からなまもの夫人にゲロしちゃってるよ!!うひいいい、げろげろくろっぴぃ。なんと申しますか、「だから、あんたとなんか組むのは厭だったんだよ!この甲斐性無し!!」と罵る共犯役の松尾和子になった気分である。こうなったら、仕方がない、なまもの夫人には和睦を申し入れ「け、刑事さん。あたしは何もやってやしませんよ。こいつが全部やった事なんだ。ええ、全部お話しますとも」と松尾和子になって供述してしまおう。危うし、黒田研二!!四つに畳まれ熱田神宮の鳥居に蝶結びにされる日も近い。
◆あらあ、「英国女流ミステリ作家の系譜」は、そもそも雪樹さんと葉山さんの仕掛けだったのね。なんだなんだ。
◆一応本は読んでいるのだが感想が追いつかない。とりあえず、今日は1冊だけ。


◆「猫の尻尾も借りてきて」久米康之(ソノラマ文庫)
土田さんが掲示板か何かで褒めておられたので、以降、こっそり探していたソノラマ文庫。おそらく緑背だろうとは見当がついていたが、これが結構な苦労を強いられた。折り返しの紹介によれば作者は「宇宙塵」の同人。作品の内容からしておそらく理系の方であろう。これは、褒め言葉になるかどうか判らないが「森博嗣の別名義初期作」といわれればあっさり信じてしまいそうな、理科系・抒情・時間SFである。非常に面白かった。こんな話。
東林工学・中央研究所に勤める村崎史郎は、先輩研究員の矢野祥子に仄かな恋心を抱いていた。人工知能ニタカの冷やかしにめげず、誕生日を迎えた祥子へのアタックを試みる史郎。だが、その運命の誕生日、1995年7月20日に祥子は何者かに殺害されてしまう。彼女が出掛けに会いに行くと言った「昔からの恋人」の仕業なのか?失意の底におちた史郎にとっては、東林工学の社長秘書の亜弓のアプローチもただ鬱陶しいだけであった。「タイムマシンがあれば…」そんな史郎の呟きに研究室長の林は、あっさりと答える「あるよ」。そして、秘密裏にプロジェクトは走り始める。静かに燃える恋心が時空を歪めた時、時の狭間に棲む猫は自分の尻尾を追いかける。ウロボロスの向こうに少女の約束。「猫の尻尾も借りてきて」。
これは凄い!ソノラマ文庫にまだこんな傑作が潜んでいたとは!!菅浩江ショックや牧野修ショックに匹敵する面白さのマグニチュード。SFを知り尽くした人が余裕をもって仕上げたヤング・アダルト。錯綜したプロットといい、切れ味の鋭い論理展開といい、いかにもSFSFした道具立てといい、おたくの経絡秘孔を突く人物造形といい、もう「完璧」。実用化科学技術の部分に若干の手直しを入れて、徳間のデュアル文庫で即復刊されるべき快作である。脱帽。

(今月入手した本:133冊、今月処分した本:129冊、今年の増減+472冊)


2001年4月21日(土)・22日(日)MYSCON2レポート

◆一軒だけ、定点観測。
d「影の顔」ボアロー&ナルスジャック(早川ミステリ文庫)30円
d「真夜中の女」Dアンソニー(角川文庫:帯)30円
d「アプルビイの事件簿」Mイネス(創元推理文庫:帯)30円
d「マックス・カラドスの事件簿」Eブラマ(創元推理文庫:帯)30円
d「くらやみ砂絵」都筑道夫(角川文庫)50円
マックス・カラドスの帯で、ホームズのライヴァルたちの帯がすべて揃う。だからどうした?ではあるのだが。
◆さあ、MYSCON2である。久しぶりのイベント参加で、子供のようにドキドキ。無茶苦茶冷え込む中、持ち込む本をバッグに詰めていると、bk1から注文していた本が到着。
「時計ネズミの謎」Pディキンスン(評論社)2200円
なんだか無闇に大判で高価な本であるが、そろそろ品薄の模様であり、お金で解決する人は急げ!
◆例によってバッグをキャスターに括り付け、小雨の中をがらがら引き摺っていく。階段で何度か地獄をみるが、今回の持ち込み本は90冊程度なので、なんとかこなす。お茶の水からタクシーで会場近くに乗り付ける。前回は、本郷通り沿いにスタッフが立って誘導してくれていたが、今回はマンパワー払底の模様。途中、宿の方から雪樹さんとしょーじ君が並んでやってくるのに出会え「やあやあ」とご挨拶。これで一安心。受付を終えると、shakaさんがくそ重たい荷物を軽々と抱え部屋に案内してくれる。ありがとうございますありがとうございます。荷物を広げ、綾辻の館シリーズ初版帯付きセットを企画の賑わしにと、玄関のフクさんに手渡し。と、茗荷丸さんからご挨拶をうける。「おお、貴方がみょうがさんですかあ。どーも、どーも。」聞くところによれば茗荷さんは小田急古書市などで私を確認されていた模様である。ふむふむ。面が割れとると恥かしい事は出来ませんのう。そこへ今度は受付を終えたばかりの石井女王様から大河内常平の「九十九本の妖刀」のカラーコピーを頂戴する。「チープでしょう?」とにんまりする女王様。ありがとうございますありがとうございます。他所の部屋をのぞきにいくと、よしだまさしさんから、探究本を1冊頂く。
「金田一耕助さん、あなたの推理は間違いだらけ」佐藤友之(青年書館)頂き!
ありがとうございますありがとうございます。何故か縁がないんだよねえ、この本。とりあえず、頂くばかりの私であった。同室となったコドコロマニアの崎Qさんに入れて頂いた御茶を飲みながら、只今更新停止中のnakachuuさんらと談笑。時間ギリギリにホールに向うと、くろけんさんこと新進推理作家・黒田研二氏を案内するフクさん、蔓葉さん一行とばったり。くろけんさんから「大矢がいつもお世話なっております」と、丁寧にご挨拶を受ける。くろけんさんは、講談社NVの写真以上に精悍な好漢であった。
◆合同企画・黒田研二氏インタビューは、蔓葉さんの進行で、主に参加者から来たQを中心に一問一答形式でサクサクすすむ。前の方には、生身のくろけんさんを少しでも間近でみようと若い女性参加者たちが固まっている。さすがの大人気である。ネットの最初期から自身のサイトを運営してこられたくろけんさんに対する仲間意識が会場を和ませている。「FSUIRI三大恥かしいハンドル名」とか、「<森高千里、召喚!>を夢見るセクシー美少年」な話。「スキーに明け暮れる日常」「腕に覚えの水泳」などスポーツマンな実像から、遠路広島から上京した政宗さんとの濃厚な「モーニング娘。談義」(専門用語が飛び交っており、理解不能)などで盛り上がり、いよいよ「ウエディングドレス」や「ペルソナ探偵」の創作秘話・悲話などミステリ関連のQ&Aに突入。「<Yの悲劇>焼け」で爆笑を誘い、「意外に<リサイクル>な創作手法」「唯一人理解を得ていた編集からも『ふざけるな』と突っ返された幻の第8作」「なんとか借金せずにスキーに行けるようになった年間収入」などなど苦労話の連続に深く感動する一同。特に大矢博子女史との仲について「彼女は僕のブレインで、本当は著者名に並べて書くか、せめて後書きで謝辞を書きたいのですが、固辞される」「彼女の旦那様も公認」「もし生まれ変われるならば、大矢博子になりたい」とのお話には、ネット民はどきどき。私の後ろの方に座っていた女性たちが「大矢博子ってだれよ?」と嫉妬の炎をメラメラ燃やしていたのが印象的であった。って云うか、若干ニュアンスは違うかもしれないが、まあ、そういう事にしておいてくれい。「アイドルおたくな名探偵」を起用した第3作は今年の7月には上梓される予定とか。さあ、皆な、くろけんさんを応援しようぜ!
◆15分のインターミッションを挟んで今度はお勧め本交換&ミニ宴会。私は第9班だったのだが、本来進行を勤める筈の葉山スタッフどのが仕事で遅刻。とりあえず、私と市川憂人氏で旗振りを買って出る。同じ班になったのは、只今社会人見習い中の新本格補完計画者・市川さんの他、渋い雰囲気のファンタジー読み中島景行さん、ご存知ワンクリック・ん万円のネット血風人・ドクターてつおさん、創元推理倶楽部・東京分科会のメンバーでもある眼鏡っ娘・ららさん、実はロングヘアーの女性・百三さん、そして今回最年少参加者の高1さん、なんと15歳(うへえ)。自己紹介タイムでは、「つくばは田舎」な話とか、「買って買って買い捲る」話とか、「高校はどこよ?」みたいな話で盛り上がり、なんとドクターてつおさんが、私の中学高校の後輩であった事が判明して仰天。うひーー。ますます悪い事はできませんのう。交換本は、私が「拷問」、市川さんが「摩天楼の身代金」、中島さんが「ホッグ連続殺人」、てつおさんが「殺人ファンタスティック」、ららさんが「マイナス・ゼロ」(元版・二刷)、百三さんが「カリブの鎮魂歌」、高1さんが「引き潮の魔女」を引っ込め「ヨナ・キット」(帯付)となかなかセンスの光るセレクションである。高1さんは、「無料で交換」と聞いて慌てて本を入れ替えたのだが、どう考えても「ヨナ・キット」の帯付き方が古書価は高いと思うぞ。私は唯一未所持のオベールを頂戴する。「拷問」はジャンケンで勝った市川氏のもとに。あと、年長者の貫禄で高1さんに「アデスタを吹く冷たい風」「金蝿」「失われた過去」てなところをプレゼント。ボア・ナルのジュヴィナイルを見て「これ何冊まで出ていたんでしたっけ」と尋ねる高1さんは、既に只者ではない。末恐るべし。あとは、最近読んだ面白い話なんぞで話題をつなぐ。私は「レキオス」を推してみたが、なんちゅうか、結構みなさんミステリ以外からの推薦書が多かったような気がするぞ。あっという間に1時間強が過ぎ、葉山さんが駆けつけた頃には、ビールも底をついていた。んで、葉山さんから結構な賜り物1冊。
「スタジアム虹の事件簿」青井夏海(創元推理文庫:帯・署名!)頂き!
ありがとうございますありがとうございます。なぜ葉山さんが、作者にサインを貰えるかは秘密だ。
◆サインといえば、持ち込んだ「ウェディングドレス」にもサインをして貰った。ありがとうございますありがとうございます。かすれたサインペンですみませんでした。>黒田さん。
◆次の企画待ちの時間に、コンビニで酒と弁当を買って、部屋でもぐもぐ。石井女王様とみすべすのともさんがやってきて、楽しく書庫談義。崎Qさんから日本酒を振る舞われご機嫌な一同。ともさんが清水の舞台から飛び降りて購入した高級物置は相当に優れものらしく、内装は木目仕立てで床は絨毯張り、空調なども取り付けられる由。凄い凄い。対する女王様は、コンテナを借りて本を置いており、値段と収納能力は申し分ないものの、夏は焦熱・冬は厳寒なので、梱包や保存法にはかなりの気を払わねばならないとか。ううむ、皆さん、苦労されてますのう。まあ、そうまでして本と付合っている人々なればこそ話も合うわけで。
◆分散企画第1幕は「イギリス女流ミステリを語ろう」の部屋へ向う。なんと、仕切りがしょーじ君と聞いて「それは荷が重かろう」と保護者気分で乗り込む。メインテーブルには、しょーじ君と雪樹さんと葉山さん。おお、葉山さんがいればとりあえず一安心かな?と横を見ると、昨年の「老ミス」でも、場を攫った浅暮三文さんが、陣取っておられるではないか。むむむ、これは波乱の予感。重い思いをして持ち込んだ、英国女流の原書を何冊かアクセサリーにとメイン・テーブルに手渡す。雪樹さんも今回はスタッフを降りている筈なのだが、何故か甲斐甲斐しく事務局側の仕事をこなしているし、やっぱりこういうイベントは、一人一人の好意でより良いものになっていくんだと思う。まず、イギリス女流と云えば避けて通れない女王アガサ・クリスティを取り上げ「いわゆる名作でないクリスティの推薦作は?」と導入。しかし「何故クリスティは、かくも日本で、世界中で愛されているのか?」てな話から雲行きが怪しくなる。そう、浅暮タイフーンの到来である。「ジェーン・オースティンに見る英国女流作家の系譜とその社会性に関する一考察」を怒涛の寄り身で語られ始め、話はひたすら純文学から社会学の方向へ向いかける。「イギリスの母系社会が」と誰かが言いかけると「ぼけい?突っ込みはどうした?」というような「突っ込み」まで含め独壇場へ。「クリスティの心理描写はあるのか?ないのか?」などなど吹きあれる浅暮魂のラッシュに口を挟めない人々。幸い「クリスティ自伝を読んだ事ある人」「しーーん」という一幕でなんとか、クリスティ地獄から脱出。続けて「セイヤーズは何が一番面白かったか?」という質問で再びミステリの集まりらしい展開に軌道修正。意外に「ナインテイラーズ」を挙げる人が多くてビックリ。やはり浅羽訳の効用は凄かったということか。私は「ピーター卿の事件簿」とずるい回答で逃げる。引き続き、「ナイオ・マーシュは、早業殺人ばかりでミステリ部分は面白くないんだけど、『DEATH OF A FOOL』は、素晴らしく面白い。国書の第4期で、是非紹介して欲しい」と陳述して感心され、続いて「ブランドの未訳作『Honey Harlot』は、メリーセレスト号タイプのお話。乗客全員の消失もの!(おおお)、でも未読でーーす(あらららら)」と失笑を誘う私。この辺りで、アリンガムネタに入り「『反逆者の財布』はすっげーー詰まんないです」「じゃあ、何が面白いのよ」という切っ掛けで再び浅暮魂が復活。「心理描写において、たとえ米国人とは云えパトリシア・ハイスミスを無視するわけにはいかないのではないか!?どうよ?」と贔屓作家の方へ話を持って行こうとする。ああ、もう何がんだか判らん!!こらあ、葉山あ、そこでエアードの原書を撫でて和んでる場合じゃねえぞお!そこは雪樹さんがぴしゃりと仕切るが、以降はフェラーズ・ネタと思いのほか「時の娘」を読んでいる人が多かった事で少し盛り上がった程度。リチャード3世なる王様をあの話で初めて知った人も多い筈なのに、この人気は不思議である。ラストの新女王は誰か?てな話題では「ミネット・ウォルターズ」という声が上がったが、私はクリスティの後継者ならオーストラリアのジェニファー・ロウですよん、と方向違いに話しを飛躍させる。成田さんから「よし!新女王決定!!」となんだか訳のわかんない同意を得てうやむやのうちに定刻を迎える。尚も、ハイスミスについて議論したげな浅暮さんは、愛・蔵太さんにお任せして強制終了。「この続きは深夜企画『コブラ対マングース』で!」「誰がコブラやねん?!」と鎌首をもたげてみせる浅暮魂。役者やのう。
◆分散企画第2幕は、新企画「古本鑑定団!」。石井女王さまが司会進行を勤め、彩古さん、日下三蔵さんという古本極道お二人が、参加者の持ちよったミステリやグッズをズバリ鑑定。とにかくこの二人の知らない本はこの世にないのではないか、というノリでびしばしと鑑定価格が決まっていく。以降印象に残っているものを紹介すれば、宮澤さんの乱歩セットでは、名張人外郷の中さんのサインを巡って、さくっと厳しい鑑定結果。大森さんが荒俣宏氏から預かっているという同人誌にはさすがの価格がつくが、京極夏彦の和綴じ私家本には、日下プロが厳しい値付け。岩堀のおとっつあんご自慢の「不連続殺人事件」最終回の掲載された雑誌「日本」も、「へえっ?」という値段。そんなに安いものですかあ?はあ。惣坂さんが矢崎存美御本人から譲り受けたという実物大の「ぶたぶた」ぬいぐるみには会場の一部から嬌声があがるが、オリジナルぬいぐるみ以上の値はつかなかった模様。ううむ。ほ、欲しい。爆笑を誘ったのは同じく惣坂さんの持ち込んだH系グラビア誌で、浅暮さんがAV女優:瞳リョウの代作をしているというもの。なんと浅暮さんのサインをその場で貰った事で、値打ちダウン。ぎゃはは。よしだまさしさんは、ジェームズ・キャメロンのサイン入りターミネーターのビデオソフトやブローディガンのサイン入り小説などという人脈系のお宝で勝負。ずるいぞお。そのよしださんは、shakaさんが持ち込んだ香港映画のパンフレットのゲスト鑑定士として召喚され、これまたびしばしと厳しい鑑定結果を申し渡していた。同じくshakaさんの安彦良和画集(サイン入り)、茗荷丸さんの紀田順一郎小説(サイン入り)は相当数で回っているとかで、殆ど値がつかないとか。逆に、どなたの持ち込みだったか失念したが山田章博の同人誌が相当に高値を呼んでいたのが印象的(「スタジオへ」(爆笑))。また、敢えてワセミス関係の本で勝負する人もいて、日下さんの鑑定価格に注目が集まっていた。新保博久の角川オモシロ文庫や、成田さん持参の森英俊さんの編集したフェニックスのクラシックミステリ特集号などなど。後者は「森さんの『事典』を新約、同人誌版『事典』を旧約とすれば、さしずめ『死海文書』」という紹介がバカ受け。ネタひとつのために同人誌版事典を持ち込んだストラングル魂に対し惜しみない拍手が送られた次第。私はマンガ同人誌を2冊と、鑑定士二人が苦手な洋古書を持ち込み鑑定士を鑑定するという悪趣味な趣向でトライ。松平惟光作画の「黒鎧館の殺人」・「ヴァナティ・ハウス事件」の二大不可能犯罪マンガはそれぞれ2000円と高い評価。ブランドの「Honey Harlot」は、苦手な筈の彩古さんが、論理的にぴたりの価格を当てて大拍手。カーナックの戦前作は、さすがにお二方とも匙を投げ、実際の価格よりも安めの値踏みであった。そんなこんなで、出張鑑定大会イン本郷は盛り上がりのうちに終了。いやあ、面白うございました。
◆鑑定大会終了後、日下さんにお約束の「六番目の男」を手渡し。引き替えに、CD1枚と以下を頂く。
「戦艦金剛」蒼社廉三(徳間書店)交換
嬉しいなったら、嬉しいな。日下さんも満足気でお互いシアワセなトレードであった。
◆そして、夜も更けて、日が変ると、いよいよホールの半分を使って古本オークション。今回はフクさんが仕切りを勤め、さくさくと6,70アイテムを捌いていく。はっきり言って今回のオークションの出品物は濃かった。「いやあ、凄いラインナップですねえ」と言ったら「最初に出品掲示板に書き込んだ人が悪い!」と云われてしまった。あっはっは。俺だ俺。まあ、その中でも最高の盛り上がりを見せたのは、市川尚吾さんご出品の「都会の怪獣」を巡る彩古さんと日下三蔵さんの攻防。これはMYSCON史上最高のバトルとして後世語り継がれるであろう。最終落札価格は、正確には覚えていないが、7万円弱だった筈である。二人とも1万円を越えたところからやっと声を入れ始め、相手の声にすかさずプレッシャーをかけるコールの連続。ううむ、凄い凄すぎる。なんちゅうか「大人の時間」である。でも、競っているのは「子供の本」である。実は、途中、部屋の反対側でやっていた「<地獄の腹話術師>によるINOさん殺し」という推理劇に参加していた出品者を待つために30分ばかりオークションを中断していたのだが、その間に私は目の前にあった「都会の怪獣」を読み飛ばしにかかったのである。しかし、これが全然面白くならないのである。「おお、今日のレビュー本かあ!?」という周りからの冷やかしを遮断して読もうとするものの、余りのつまらなさに半分で挫折。まあ、3万8千円分は立ち読みした訳ですか。このバトルでは、日下さんが支払の段階でおもむろに銀行の封筒を取り出したのにも呆れた。なんと20万円も下ろしてこられたとか。うっひゃーーー。気合の入り方が違います。
ほかに目立った戦いは、「知っているのは死体だけ」の際の女王様とてつおさんの闘い、日下さん出品の渡辺啓助と小酒井不木の仙花紙本を巡る同じく女王さまと彩古さんの闘い。5000円までは私もついていくのだが、そこを越えたところで女王・彩古戦に突入。クイーンのサイキックバトルのリフレイン!!てな感じっすかあ。私の出品物は、モンスターアンソロジーセット9冊が普通の値段で、鮎哲スターターセット67冊は殆ど原価割れの最低価格でお輿入れ。まあ、ここで稼ぐつもりはなかったので、持って帰らずにすんだだけでもめっけもの。「首のない女」、「犯罪の足音」、マンハント大判はそれぞれに稼がせて頂きました。お買い上げの皆様、ありがとうございます。んで、その上がりを突っ込んで競り落したのはこんなところ。値段は正確に覚えていないのでMYSCON2の結果レポートを待ちましょう。
「イヌの記録」日影丈吉(光風社:裸本・カラーコピー)
「悪魔の殿堂」Bヘクト(平凡社・函欠)
「明治・大正文学全集56巻乱歩・甲賀編」(春陽堂・偽函)
「現代長編推理小説全集15樹下・結城編」(東都書房・函)
「天使の傷痕」西村京太郎(講談社・初版・帯)
「二度死ぬ」樹下太郎(平和新書)
「東京殺人街」萩原秀夫(東京ライフ社・裸本・カラーコピー)
「夜に挑む男」大河内常平(昭和書院:裸本・カラーコピー)
高いものでも3000円どまりで、読めりゃいい派の私にとっては大収穫。オークションも久しぶりならこれほどの収獲も久しぶりである。「濡れ手で粟」の市川尚吾さんを始め、皆さんそれぞれに満足されたオークションだったのでは?
◆オークション終了が午前4時。さすがに徹夜は無理な身体になった私は、部屋に引き上げ爆睡。8時前にshakaさんに起されるまで昏々と眠りつづける。8時に再びホールに集合してフクさんによる閉会宣言。グランドフィナーレ!!いやあ、スタッフの皆さん本当にお疲れ様でした。心から御礼申し上げます。
◆帰宅して再び爆睡。結局2時半まで眠り続け、このレポートを書く。さあ、なんか本読まなきゃなあ。

(今月入手した本:127冊、今月処分した本:125冊、今年の増減+470冊)