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2001年4月20日(金)

◆軽い二日酔のまま、いつもの時間に起きて自分のサイトにアクセスしようとすると、サーバーメンテナンスで、アウト。これは神様がくれた休暇だな、と二度寝を決め込む。すやすや。
◆連休前の一番の大仕事が終る。やれやれ。自分にご褒美と西大島、大島、平井定点観測。
d「ショート・ショート劇場」(双葉文庫)150円
d「金貨の首飾りをした女」鮎川哲也(角川文庫)100円
d「占星王をぶっとばせ!」梶尾真治(新潮文庫)100円
「猫の尻尾も借りてきて」久米康之(ソノラマ文庫)150円
「素人芝居殺人事件」春日彦二(青樹社NV)100円
「砂漠の薔薇」飛鳥部勝則(カッパNV)100円
「海の仮面」愛川晶(カッパNV)100円
「酔いどれ犬」樋口明雄(角川書店:帯)100円
「決着」結城昌治(新潮社:帯)100円
「不思議パラダイス」金子晴美(勁文社コスモティーンズ)100円
「麦の海に沈む果実」恩田陸(講談社:帯)760円
「探偵の冬あるいはシャーロック・ホームズの絶望」岩崎省吾(東京創元社:帯)850円
ソノラマ文庫の久米康之と青樹社の春日彦二が嬉しいぐらいで、後は安物買いに走る。それにしても半年前の飛鳥部の新作がもう100円だもんなあ。正直、雑誌はともかく新刊書店では「応援」以外の動機で本買えないよなあ。うーむ。
◆さあ、明日は(って、これを書いてるのはもう今日だけど)MYSCON2です。皆さん、よろしく、たのしく、盛り上がりましょう。


◆「コラムは踊る」小林信彦(ちくま文庫)読了
私は余り良い小林信彦の読者ではない。精々、オヨヨと唐獅子と紳士同盟と神野推理とちょぼちょぼパロディ諸作を読んでいる程度。純文学や紳士同盟以降の長編は一切読んでおらず、エッセイも「地獄の読書録」を斜めに読んだレベルである。で、今日の課題図書。かつて「地獄の観光船」として出版されていた映画エッセイの復刊本である(などと言う事は後書きをよんで初めて知った。なんだよ、俺、元版も持ってるじゃん、積読じゃん)。し、しまった、実は私は「良い映画ウォッチャー」でも全然ないのだ。いわんや戦前から戦後15年、映画が全盛を極め国民的娯楽の座に君臨していた頃の作品なんぞ殆ど全くといって良いほど見ていない。横溝正史の軽井沢ものや成城もので映画産業がウハウハな描写を見ると「これはどこの国の話やねん」と隔世の感を抱く人間である。今まで劇をやっていた人間が急にタップダンスを踊り出したり、歌い出したりするミュージカルなる演劇は「なんだ?なんだ?なんなんだ?」である。よって、この本の真価の5割は判っちゃいない。理解不能である。しかし、それでもなおかつ、この本は面白い。それは、著者が「エンタテイメント評かくあるべし」と語る部分の痛快さに負うところが大きい。作者が「近頃のエンタテイメント評は」と歎いてから既に20年。その間に、「サブ・カルチャー」は市民権を得すぎてしまった。おたく本の隆盛は、マニアだけのトリヴィアリズムの喜びを同世代の一般常識にし、更にインターネットの普及は、日々プロとアマチュアの知識の差を縮めていく。最早、ただの豆知識を羅列するだけで、プロとしての面目を保てる時代ではないのである。作者の主張をまとめれば、良いエンタテイメント評というのは、その評を読んだ者の初見の楽しみを奪う事なく、取り上げた作品の魅力を伝え、金と時間を使う気にさせる評論であるらしい。ううむ、理屈じゃ判ってんのよ、理屈じゃね。というわけで、ネットで書評を書いている人は必読。

(今月入手した本:109冊、今月処分した本:36冊、今年の増減+542冊)


2001年4月19日(木)

◆部が編成替えになった「決起大会」。司会・進行・BGMとオープニングからエンディングまで40余名の宴会を完全に仕切る。終ったと思ったら「よし、飲みに行くぞ!」と新任の部長から「慰労」される。ううう、そのまま帰して頂くのが、なによりの慰労なのですが、とは思うものの、折角なので、呑み、かつ、唄う。「なんか知らん曲ばかり歌うなあ」と云われたので、よし!これならば、サラリーマン御用達と思い「地上の星」を絶唱するが、全然知らない模様。飲み屋のお姐さんたちが知らないのは判らんでもないが、一体、プロジェクトXってどんな人達が見ているんだよう?へらへらに酔っ払って帰宅、結局午前様。購入本0冊。

◆「ローワンと魔法の地図」Eロッダ(あすなろ書房)読了
GOOGLEで「ジェニファー・ロウ」を検索していたら、この子供向けファンタジーの感想文がヒットした。なんと、ジェニファー・ロウの別名義だというではないか!がーーん、知らなんだ。「不吉な休暇」で初めてロウの作品に出会い、ストーリーテイリングの妙に唸るとともにこしゃまっくれた女探偵ヴェリティー・バードウッドに惚れ込んでからというもの、この「オーストラリアのクリスティー」の作品が引き続き紹介される事を心から祈ってきた。しかし、その祈りも虚しくそれから10年、遅々としてロウの紹介は進まない。長編が無理ならせめて短篇集「Death in Store」から一編でも紹介されないものかとも思うのだがこれもダメ。どうも、昨今のミステリ出版状況は、バリバリの売れ線新作と忘れられたクラシックに二極分化しているようで、近年の本格佳作はエア・ポケットに嵌まっている。ミステリ・ボックスが少しだけ紹介したきりの、エクスブラヤやオームロッドやディヴァイン、それにこのロウとなんぼでも面白い作家はいるのだが。いやはや。まあ、私一人のバーディーであって欲しいと思う部分がないではないので、それはそれでいいんだけどさ。
閑話休題。ロウが娘に聞かせるために作り上げた血湧き肉躍る冒険ファンタジーの登場である。まあ、菅浩江の「メルサスの少年」の如き刺激的にして絢爛たる少年ファンタジーが当たり前のように出版されている日本では、些か今更の感もあるのだが、完成度は高い。こんな話。
リンの村を流れる川が枯れてしまった。家畜のバクシャーは塩分の混じった井戸水では生きていけない。ドラゴンの住む禁忌の山に入り異変の原因を調べ、水を取り戻すために、村人の中から腕に覚えのある者6名が名乗りをあげた。だが、ひねくれ者の「魔女」が彼等に渡した山の地図は、バクシャーの世話係であるひ弱な少年ローワンにしか見る事ができなかった。仲良しのバクシャーを助けるため、なけなしの勇気を振り絞って探索行に加わるローワン。その一行を迎える、恐ろしい予言と山が仕掛ける罠また罠、果して心と身体の試練に打ち勝ち、氷雪の頂上ですべての謎の源に立ち向かうのは誰?
非常にオーソドックスな造りの「ひ弱なヒーロー」譚である。思わせぶりの予言が興味をつなぐものの、世界一進化を遂げたRPGとマンガの国の住人にとっては、「だから、どうした?」というレベルの作品。男女同権の描かれ方に何よりの異世界を見る。破綻はないので、生まれて初めてこの類いの話を読む子供にとっては面白いかもしれない。本筋とは関係ないのだが、表紙イラストのバクシャーが、私の頭の中の「ハロー・サマーグッバイ」のリリンのイメージそのものである。

(今月入手した本:97冊、今月処分した本:36冊、今年の増減+530冊)


2001年4月18日(水)

◆明方にMYSCON2メール。交換本&ミニ宴会の組み分けが決まったらしい。同じ班になった、葉山響さん、高1さん、てつおさん、ららさん、市川憂人さん、中島景行さん、百三さん、どうぞ宜しくです。楽しく飲んだくれましょう、って、高1さんはノン・アルコールだわなあ。
◆くしゃみ・鼻水に苦しんだ挙句、薬に頼り、猛烈な睡魔に襲われる。ああ、いつまで花粉は続くのであろうか?それとも、これはただの風邪なのか?古本屋に寄る気力もなく真っ直ぐに帰宅。食事を終える頃にアマゾンから荷物が到着。もぐもぐ。
「Murder,She Wrote:GiN & Daggers」Jessica Fletcher & Donald Bain(Signet)696円
「Murder,She Wrote:Blood on the Vine」Jessica Fletcher & Donald Bain(Signet)696円
「The Man from U.N.C.L.E. Book」John Heltland(St.Martin Press)1622円
「ローワンと魔法の地図」Eロッダ(あすなろ書房:帯)1300円
ドナルド・ベインのジェシカ本が既に15作に達していたのにも驚くが、ナポソロ本は何と13年も前の本だったというのには更にビックリ。ロングセラーなのか、単なる売れ残りなのか、ともあれ、元祖ナポソロおたく本としては「究極」の1冊。「アンクルから来た男・マガジン」の収録作データや、コミックブックのデータも完備していて非常に心弾むものがある。ナポソロ・ファンは有無を云わずに買うべき本である。もう一冊、聞きなれぬ出版社のファンタジーは、「不吉な休暇」のジェニファー・ロウの別名義作。昨年8月に初版が出版されてから、なんと、既に8刷である。これってもしかしてファンタジーの世界ではスマッシュ・ヒットなのでは?どうか、ミステリの方もどんどん訳出して欲しいものである。今にして思えば、ミステリ第2作の「Murder by the Book」に女流童話作家が登場して非常に重要な役割を果たすのだが、あれってロウ女史自身の分身だったんですのう。さあ、一体何年ぶりのロウの翻訳なんだろう。これは直ぐにも読む予定。わくわく。
◆「蒼社廉三の『戦艦金剛』を読んでみたいよう」と、随分昔から思っていたのだが、先日、宝石の総目録を眺めていたら、なんのことはない、載ってるじゃん!しかし、どうみても中編サイズなのだが、単行本には他に何が載っているのだろうか?宝石揃いを持っていたら買わずに済むんだったらいいなあ。それとも、中編の長編化なのだろうか?一つ満足すると、新たな疑問が湧いてくる好奇心旺盛な中年であった。
◆MYSCON2のオークション、続々と凄い本がさりげなくエントリーされている。島久平「知っているのは死体だけ」、楠田匡介「都会の怪獣」、CPスノウ「ヨット船上の殺人」、鮎川哲也「白の恐怖」などなど。一応私も岡田鯱彦の「犯罪の足音」やロースンの「首のない女」を出してはいるのだが、全然霞んでしまった。しかも、何が凄いって、女王さまも、日下さんも、彩古さんも未だ出品していない!ってところが凄い。レベル的には、プレMYSCONやMYSCONのオークションを越えそうだなあ。


◆「日曜日は埋葬しない」Fカサック(ポケミス)読了
「殺人交差点」で有名な作者の、これまた有名な作品。フランスミステリらしく立派に薄く、1日1冊にはもってこいの本である。近年、重厚長大路線に走っていたポケミスも、古典復興の2作「迷路」「真珠の首飾り」で180頁を切り、分厚いばかりが本じゃないところを見せているが、ここは一番、またフランスミステリの埋もれた傑作でも出して、150頁を切ってほしいものである。まあ、「明日よ、さらば」の最薄記録を破る事は出版社の良心からして不可能であろうか。なにせ、92頁だもんなあ。閑話休題。曜日を題名に冠したミステリは、ケメルマンのラビシリーズにとどめをさすわけだけど、それ以外では「日曜日」が人気である。この作品に、シムノンの「日曜日」(まんまである)、プレスバの「日曜日には鼠を殺せ」とか、日本人作家では、天藤真の遺作「日曜日は殺しの日」とか、笹沢佐保の「日曜日に朝はない」、仁木悦子「暗い日曜日」とか、やはり日曜日というのは他の日とは違った意味合いがある。神様も休日である。ちなみに、ラビは何をした日かというと「家にいた」日である。再び、閑話休題。なんで無駄話で、語数を稼いでいるかというと、この話があまりにも「骨のような話」な故である。しかも、ネタばれせずに語るのが難しい作品なのである。こんな話。
貧乏な黒人系フランス人青年フィリップ・バランスが、スウェーデン女学生マルガレータと恋に落ちる。彼は彼女の勤め先として、出版エージェントのクールタレス家を紹介する。それが縁となって、フィリップの思いの丈を削り出した処女作「日曜日は埋葬しない」がクールタレスの手によって世に送られ、大ヒットとなる。だが、スミレ色の瞳を持つクールタレス夫人は、フィリップに忌まわしい疑惑を吹き込み、彼を誘惑するのであった。二組の男女が織り成す、疑惑と嫉妬の四重奏は、男たちの殺意を掻き立て、遂には一つの死が訪れる。だが、物語に終止符を打つのは、一つの生命の誕生であった。
カットバックを効果的に用いた「暗黒小説」。人物の配置といい、展開といい、一種ステロタイプとも言えるシンプルさでありながら、きちんとツイストの効いた着地を決めてみせるところが、「さすがカサック」である。主人公の黒人青年の内面描写はややブンガクしており、うじうじした小説が嫌いな人には向かないであろう。なにせ、解説によれば、カミュの「異邦人」を引き合いに出して褒めた書評もあるらしい。でも、まあ、たかだか130頁である。ここは一番我慢して、白と黒の鮮やかな逆転をご堪能あれ。

(今月入手した本:97冊、今月処分した本:36冊、今年の増減+530冊)


2001年4月17日(火)

◆新刊雑誌1冊。この誌名に変ってからというもの、律義に買いつづけているが、中味は殆ど読んでないんだよなあ。今回も喜国さんのマンガしか読んでおりません。
「メフィスト 小説現代増刊5月号」(講談社)1400円
ううむ、1400円もする新刊本にカバーはおろか、帯すらついていないとは。なんだかムカムカしてきたぞ。ねえねえ、せめて貼付け帯つけましょうよう。掲示板でも評判の喜国さんのマンガは、天地人3拍子揃った感あり。皆んな、こいつを待っているぜ。

◆刑事コロンボ小説「13秒の罠」の原書「The Dean's Death」の入手報告は先日行ったが、折角なのでパラパラと眺めてみたところ、またしても大ショックをうける!な、なんと「13秒の罠」も豪快な翻案だったのである!!昨年、ハリントンの「血文字の罠」で驚天動地の掟破りを告発したつもりだったのだが、なんの事はない、それを溯る12年前、二見文庫で刑事コロンボが紹介され始めた当初からコロンボ小説は、作者を蔑ろにしまくった超訳・翻案訳だったのである!!設定は相当部分を活かしており、一部は忠実な翻訳もあるものの、犯罪の破綻の決め手が全く異なるのである。そもそも翻訳題名「13秒の罠」が意味するシークエンスそのものが、<訳者>による創作なのである。ぐあああ、参ったね、こりゃあ。

◆「和時計の館の殺人」芦辺拓(光文社カッパNV)読了
「SRの会2000年度ベスト5大健闘記念読書」最終回。先日、インターネットの力を借りて自分の書庫から掘り出した芦辺ミレニアム最後の1冊。「怪人対名探偵」が乱歩へのオマージュであったように、この作品は横溝正史への愛に満ちた佳作である。乱歩よりも正史が好きな私としては、期待度大。で、その期待は充分に叶えられた。こんな話。
愛知県の片田舎の素封家に、遺言状の公開に向う我らが森江春策。遺言状の主は天知家の当主・圭次郎。立志伝中の人であった亡父の事業を、姉夫婦に譲り、自らは屋敷に引きこもり和時計の収集と修復に半生を捧げた趣味人の死から2ヶ月。圭次郎が遺言状の公開を指定した春分の日が巡ってきた。天知家に連なる奇矯なる人々は先代からの因縁を抱え、ある者は傲慢をこじらせ、ある者は卑屈を抱え込む。彼等の喜怒哀楽を尻目に堂々と勤めを終えた弁護士探偵は、日帰りする筈のところ、運命の悪戯によって、和時計の館に足止めを食う。そして純和風の時が刻まれる中で、連続して起きる不可能殺人。犬神家の如き遺言状に包帯男、真珠郎の如き影絵の殺人、本陣を模した日本家屋の密室、饒舌な医者はどこか手毬唄の生臭坊主を、行方不明の三男は不死蝶を彷彿とさせ、女王蜂の時計塔に罠は待ち、地下に眠るは八つ墓村の「あれ」。防御率の悪い名探偵が、皆を集めて「さて」という時、総てのからくりは解体される。
正史の本歌取り部分については、もうウットリのエクセレント!敢えて安易な「見立て」を避けながら、ものの見事に正史ワールドに読者を誘い込む。昨年の新本格の話題作「美濃牛」がやはり正史テイストで勝負した作品であったが、フェチ度では、明らかに芦辺作品に軍配があがる。「貫禄が違う」といってよい。「愛が違う」といってよい。では独立したミステリとしてみた場合はどうか?これも極めて完成度が高い。メイントリックは、作者が殆どネタバレで勝負しており、小気味よい錯誤の積み重ねが、不可能を可能にしていく手際に感心。二つの犯人消失トリックとも有機的に結合しており、破綻がない。暗号や「青沼静馬」ネタも作者のサービス精神を感じさせて吉。惜しむらくは、あまりに緻密に説明しきったことで正史の大胆さを消してしまったところ。作者の生真面目さが裏目に出た感がある。SRで他のミレニアム2作に遅れをとったのは、そんなところが原因なのかもしれない。とまれ、正史が好きな人は是非どうぞ。
それにしても、正史ネタの「美濃牛」と「丑」がかぶったのは偶然なのかな?なんとも不思議なシンクロニティーである。

(今月入手した本:93冊、今月処分した本:36冊、今年の増減+526冊)


2001年4月16(月)

◆昨日の日記で凡ミス。何を勘違いしたか、FグルーバーをFハーバートと誤記しているではないか。膳所さんから突っ込みを受け慌てて訂正。ご指摘感謝。ああ、幾ら花粉でぼーっとしているとは云え、そりゃあないよなあ。とほほ。「砂丘の六番目の男」かい?「砂漠のは俺だ」(I,THE DUNE)とか。それはスピレーン。
◆帰りがけに新橋で2冊拾う。
「灰夜」大沢在昌(光文社文庫:帯)200円
「殺人ごっこ」左右田謙(春陽文庫:帯)300円
新宿鮫は、余りの安さに発作買い。例の「ゴミ箱回収パターン」の本である。左右田本は、春陽文庫4冊の推理小説で徹底して縁のなかった1冊。他の3冊は何回もだぶっては、廻してきたのだが、この作品だけはとことん出会わなかったのだ。東都ミステリの文庫落ち改題本の筈だが、元版も未所持のため嬉しい1冊。先日、フクさんがレビューを挙げられたのを見て「ううむ、完全に先を越されたああ」と歯ぎしりしていたのである。
◆一駅手前で途中下車して、昨日美味しい思いをした駅ワゴンの入替えを狙う。
d「ラバーバンド」Rスタウト(ポケミス・初版)100円
d「検事他殺を主張する」ESガードナー(ポケミス・初版)100円
やはり何かしら動きはあるものである。ガードナーは所持本が傷み本なので入替え用。
◆帰宅すると膳所さんからの交換本到着。
d「アデスタを吹く冷たい風」Tフラナガン(ポケミス)
「名探偵は千秋楽に謎を解く」戸松淳矩(ソノラマ文庫)
d「透明人間大パーティー」鮎川哲也編(講談社文庫)
「バカミスの世界」小山正とバカミステリーズ(BSP)
ふっふっふ、これで「アデスタ」と「金蝿」の二大ポケミス復刊即品切れ本がダブりでお揃いじゃあ。契約の問題で二度と復刊されない、という触れ込みなので、絶望度が高いのである。鮎哲スターターセットも1冊前進。これで67冊目。よしださんの日記で紹介されているが、これはMYSCON2のオークションに出す予定。しかし買い手がつくのだろうか?ちょっと不安。
◆Kさんから、速攻で「六番目の男」への交換希望入電。やあ、人気だなあ、Fハーバート(ちーがーうー)。


◆「空中楼閣を盗め!」DEウエストレイク(早川ミステリ文庫)読了
今日の課題本は、ドートマンダー・シリーズのドタバタぶりを、作者本人が更にカリカチュアライズしたような怪作。年代的には丁度「悪党たちのジャムセッション」と「逃げ出した秘宝」に挟まれた作品。ちょっとレギュラーキャラの縛りに倦んだので、気分転換に「海外旅行」してみました、といったところか?盗みのリーダーを務めるユースタス・デンチは、ドートマンダーの分身以外の何者でもない。訳出された当時は、新作の部類だったこの作品も既に20年前の作品。しかし、今なお通用する元気のよさが魅力である。英・独・仏・伊の犯罪者チームが更にチーム組むという凄まじさは、合体ロボで云えば「機甲艦隊ダイラガーXV(フィフティーン)」に匹敵する「無茶」である。こんな話。
ロンドンの大泥棒ユースタス・デンチの今回のヤマは、南米イレルバドーロの革命女闘士リーダから持ち込まれた大仕事。イエルバドーロの独裁者リンチが自らの政治生命の終りが近い事を察し、秘匿財産の海外移転を企んだのだ。財産は宝石等に換えられ、パリ博覧会に出品する「城」の建築材のどこかに隠されているという情報を手にしたデンチは、「城」ごと奪取する計画をたて、ヨーロッパ中の腕利きに声をかける。イギリスの貴族怪盗、フランスの詐欺師、イタリアの万引き団の女ボス、ドイツの軍人上がりの大盗賊、それぞれが更に2名をスカウトし、編成されたのはデンチを含め13名のチーム。更にリーダとそのいとこ(実は恋人)マヌエルが加わり総勢15名の盗賊団が、分解されフランスに荷揚げされた「城」に襲い掛かかる。だが、英語を喋れるのは夫々のチームのボスだけというバベルな壁が、デンチの「完璧な計画」を狂わせる。猜疑と裏切り、抜け駆けと背信、掟破りのツイストの果てにタッチダウンを決めたのは誰?
なんちゅうか、大ROBBER・フィフティーンである。強奪計画そのものは意外にシンプルだが、とにかくキャラクターが多い。しかし、ウエストレイクの凄いところは、その一人一人を見事に立たせているところである。これはもう奇蹟に近い描写力である。20年の犯罪小説のキャリア(当時)をもってして初めて可能になる壮挙である。その書き分けを楽しむ、前衛喜劇の如き怪作であり、読者を選ぶ話かもしれない。人を食ったオチまで、なんともヘンテコな作品。ウエストレイクの名前でなければ、没を食らっていたかもしれないなあ。

(今月入手した本:92冊、今月処分した本:36冊、今年の増減+525冊)


2001年4月15日(日)

◆体調不良。なぜにこの期に及んで、花粉の諸症状が?薬を飲むと今度は猛然と頭痛と睡魔が襲ってくる。ぼろぼろになりながら、膳所さんと川村さんに送本してダウン。真っ昼間から寝たきり中年状態に。
◆夕方にのそのそと起き出し、半年間(!)未整理だったビデオテープの整理を始める。22本目でギブアップ。あと、30本はあるなあ。うがが。
◆隣駅のワゴンで、若干拾いもの。
d「十日間の不思議」Eクイーン(ポケミス・初版)100円
d「シャム双生児の秘密」Eクイーン(ポケミス・初版)100円
d「死者のノック」JDカー(ポケミス・初版)100円
d「赤い箱」Rスタウト(ポケミス・初版)100円
d「腰抜け連盟」Rスタウト(ポケミス・初版)100円
d「悪い種子」Wマーチ(ポケミス・初版)100円
d「六番目の男」Fグルーバー(ポケットブック・初版)100円
グルーバーが珍しいところ。それぞれに結構な美本。クイーンは初版ゆえ、所持本と入れ替え。


◆「あなただけこんばんは」矢崎麗夜(講談社X文庫)読了
1日1冊をこなすために手に取った「ぶたぶた」女流作家の初期作。記憶喪失の女幽霊に取り憑かれた女子高生・弥生が幽霊を成仏させるために、とぼけた雰囲気の男子同級生・戸塚くんとともに謎の「ぶすOL殺し」を追う話。「記憶喪失の幽霊」というSF的な設定と、「幽霊を殺した犯人捜し」というミステリ趣味のクロスオーバーが、後年あるを思わせるほんわか少女小説。「弥生」という名前を見ると一条ゆかりの「春は弥生」を反射的に想起してしまう私は化石的少女漫画マニアである。
年少読者が安心して読めるステロタイプな人物配置やハッピーでラブラブの大団円に向けて総てが奉仕する基本プロットという制約を受けながら、独自のツイストを加えようとしているところは評価できる。文体はやや緩く、特に女性キャラたちがむやみに大級数で悲鳴を上げるのは、あまりにマンガ的。幽霊の正体や、隠し設定は相当に意外ではあるが、全くもってフェアではない。しかも落ち着いて考えてみると、相当に妖しい設定であり、ほんわかした雰囲気とは裏腹に、邪悪な展開を妄想してしまうお話なのである。作者には全然悪気はないのだが、結果として「変」がこじれてしまっているという感触。素質は悪くないが、「ぶたぶた」の洗練された<おばか>には未だ遠い。「ぶたぶた」のルーツを尋ねて、ビブリオグラフィーをここまで溯っても得るものは少ないように思われる。敢えて述べれば、後書きで語られる作者の映画の趣味の良さにセンスの煌きをみるといったところか。入手困難本ではあるが大枚叩く本ではない。作者のファンが自然体で入手して、30分で読んでおけばよい本である。

(今月入手した本:92冊、今月処分した本:36冊、今年の増減+525冊)


2001年4月14日(土)

◆昨日の日記を書きながら、同日放映のコロンボのデータを確認するために「刑事コロンボの秘密」を探す。見当たらない。あっれー?おっかしいなあー。だいたいレファレンス関係は固めて置いてあるのだが、その辺りに書影はなし。ううう、確か前回は「奇妙な相棒」放映時に参照したんだよなあ、とビデオテープが積み上がる近辺を捜すが見付からない。くっそおーー、角川からの復刊本を買い直すかなー。
◆続いて「SRの会2000年度ベスト5大健闘記念読書」用に芦辺拓の「和時計の館の殺人」を探す。確か買ってあった筈なのだが、これまた見当たらない。むむむ、もしかすると買ってなかったかなあ、という疑惑に苛まれながら、尚も探す。見付からない。ううう、確かブックオフで手に取った記憶はあるんだけど、ひょっとしてそのまま棚に戻したのかな?ああ、判らん判らん。
◆と、そこで、日記を検索してみようと思い立つ。googleで、「kashiba」と「和時計」で検索すると、一発ヒット!なんとおお、昨年の12月に買っているではないか!一緒に買ったのは、っと、ふむふむこの辺かあ、だったら、書庫のあのあたりにあったぞ、と見込みをつけて掘り出すと、じゃーーん!出てまいりました、芦辺本!!よっしゃあ!!なんて、インターネットって便利なんでしょう!(ちーがーうー)
ところが、掘り出す事にエネルギーを消耗して読書は別の本で。ありがちだな。ありがちか?
◆ROM最新号到着。今回はHIBK派特集。いまどき「私があの時知っていたならば」派の特集をやろうという同人誌があるという事自体が奇蹟だよなあ。
◆bk1の冊子小包封筒が、郵便受けに。あれ?頼んだ覚えがある事はあったのだが、いかにも早すぎる。不可思議と思い手にとると、石井女王様からの送本でありました。貸出し分のコニイ「ハローサマー・グッドバイ」と嬉しいもう1冊。なんと先日、森英俊氏がワセミスOBページでショート・レビューされていたあの本ではないか!
「つむじ風男一匹」城戸禮(春陽文庫)頂き!
中野実の交換本なのでしょうか?嬉やうれし、KINKY雀躍(変態すずめおどり)。ありがとうございますありがとうございます。それにしても、あれだけ古本を買いながら、なおも新刊を通販で買うか、貴方は!凄い、凄いぞ、女王さま!!


◆「プラスティックのしゃれこうべ」草上仁(早川JA文庫)読了
困った時の草上仁。ここ半年で最もよく読んでいる作家である。著者7年目にして6冊目の短篇集(らしい)。この本には、恒例の先輩大物作家のエールは寄せられず、作者後書きになっているのだが、これがなかなか宜しい。ラストなんぞは爆笑ものである。エンディングクレジットが終っても席をお立ちになりませんよう。また、いずれの短篇にも、アシモフを思わせる「枕」が付加されており、雑誌掲載時に読んだ人にも楽しめる構成。つくづく「サービス精神」の旺盛な作家さんである。それも「作家」としての良心と手法に則って発揮するところが偉いんだよなあ。以下、ミニコメ。
「虫食い」宇宙酒場のバーテンが聞かされたお馴染みの法螺話。幼生生殖する害虫から積み荷の果物を護るという必死のミッションの果てで乗員たちを待ち受ける皮肉とは?一発ネタの小噺。さすがに、このままでは気恥ずかしかったのか、脇筋でちょっとした酒場ギャグを準備しており、感心させられた。
「予約制」総てが予約制となった未来世界。万能予約機の故障が招く悲喜劇を描いたドタバタ・エスカレーションSF。まあ「IDカード紛失モノ」のバリエーション。この類いの話では、どこまでディストピアの壊れっぷりをオモシロ可笑しく書けるかが勝負になる。まあ、可もなし不可もなしといった出来栄え。
「ハデスの牧場」巨大コングロマリットの開発対象と目された惑星で、ひとり牛たちを育てる世捨て人。その過去を知り、世捨て人ハデスにインタビューを試みるジャーナリストが見た時空を超えた壮大なる種の企み。作者自ら「徒手空拳もの」と開き直る設定だが、読ませる。SFとしての趣向も目新しく、キャラも立っている。星野之宣の絵で語ってもよい科学者魂の物語。この作品集のベスト。
「プラスティックのしゃれこうべ」アンドロイドたちの時代。かつて地球を支配していたといわれる内骨格の支配生物の「骨」を求める考古学ハンターが、旧型ロボットに誘われ、墓へと辿りつく。語り口は抜群。この作品のアイデアとなった作者の体験が何なのかを先読みするという楽しみはあるが、この落ちには少々不満が残る。
「タイムカプセル」<一家に一つ>から<一人に一つ>のタイムカプセル商売で莫大な財産を築いた兄と、タイムマシンを開発した妹は、酔った勢いである賭けをするのだが、そのために人類の未来はあっちへこっちへと揺れ動くのであった。タイムカプセル商売と、その未来での効用に感心。50年代テイストが嬉しい。
「チキンラン」一人の女性を賭けて、動く「道」の上で繰り広げられる臆病者たちの命を懸けたレースが始まる。奇抜な世界観と異形のチキンレースの描写が冴える佳編。結末はややとってつけた印象だが、シーンの切り替えで感動的なラストをものにした作者に拍手。

(今月入手した本:85冊、今月処分した本:21冊、今年の増減+533冊)


2001年4月13日(金)

◆少々残業。南砂町定点観測。
「聖闘士戦記総集編1、2、3」星矢龍(暗黒聖域一家)各50円
d「ドラキュラのライヴァルたち」Mパリー編(早川NV文庫)190円
d「キングコングのライヴァルたち」Mパリー編(早川NV文庫)180円
d「フランケシュタインのライヴァルたち」Mパリー編(早川NV文庫)180円
「週刊文春傑作ミステリー・ベスト10」週刊文春編集部(ネスコ:帯)100円
「海辺の骨」Dマクファーランド(文藝春秋:帯)100円
d「ヤミナベ・ポリスのミイラ男」梶尾真治(早川書房)100円
「トマソンの罠」とり・みき(文藝春秋)100円
星矢本は純正ヤオイ本。これが、ハヤカワSF文庫の体裁のパクリで、無茶苦茶よくできているのだ。はっきり言って中味は、正常な男子ならばとても精子に、もとい正視に耐えない話なのだが(一応眼を通したらしい)、装丁のお馬鹿さんぶりに思わず買ってしまった。まあ1冊50円だしなあ。MYSCON2にもっていって、ネタに使うか?奥さまへのお土産にどうですか、よしださん? 久々の「ライヴァルたち」シリーズ3作ゲットは嬉しいところ。これと竹書房の菊地監修本6冊と合わせて、これもMYSCON2のオークションに持っていこうかな。梶尾本は、未文庫落ちの1冊。昨日から梶尾本は流れに乗っている感触。「海辺の骨」は非ミステリみたいですのう。まあ殺人は起きるみたいだし、とりあえず100円だし。
◆「新・刑事コロンボ」の新作を視聴。新シリーズの21作目。これで日本で放映された刑事コロンボは地上波で66本、BSで1本という勘定になる。原題「A TRACE OF MURDER」邦題「殺意の斬れ味」。あたしなら「共謀の末路」とでも付けたくなるところ。二見文庫では「二つめの死体」として本国放映の翌年1998年に訳出されている。まあ、本編では殺人が一回しか起きないところを二回起すという水増し訳ぶりで、更にそれを訳題にするという不敵なまでの自信には、唖然とせざるを得ないが、そもそも、殺人が一回しか起きないことは、今回の放映を見て初めて知ったような次第。犯人役に一工夫あるが、手掛りがお粗末。演出はピーター・フォーク本人。犯人役に実生活での<かみさん>シェラ・ダニーズを起用して好き放題やっているが、ラスト5分の「斬れ味」の悪さには、頭を抱えてしまう。やはりこの辺りのコロンボは「残骸」と呼ぶのが相応しいのかもしれない。正直なところ、こと幕切れに関しては日本版の翻案訳の方が十倍よい。あと、コロンボの声は、石田太郎・カリオストロ伯爵よりもBSや廉価版完全ビデオで起用された銀河万丈・ドップラー総統の 方が小池朝夫に近いような気がするなあ。うーむ。


◆「真説ルパン対ホームズ」芦辺拓(原書房)読了
「SRの会2000年度ベスト5大健闘記念読書」は続く。むふふ、ちゃんとあたしだってこのあたりの新作を買ってはいるのだ。勿論ブックオフの半額棚からだけどさ。で、結論から言う。これは文句無しに面白い。探偵小説マニアにとっては堪らない本である。一部、贔屓の引き倒しの弊により評価が落ちる部分もあるが、全体的には、辛めのSR評点でも10点満点で8か9を御進呈したくなる出来栄え。特に、書き下ろしの2中編は、翻訳ミステリ好き必読。かくも出来のよいパスティーシュは、本場ものでもそうお目にかかれない。同好の士としての共犯幻想に酔える逸品である。以下、ミニコメ。
「真説ルパン対ホームズ」1900年、パリ万国博覧会。折りからの日本ブームに乗って大人気を博していたマダム貞奴の首飾りを衆人環視の舞台から奪い、意気上がる若き日のルパン。だが、身の覚えのない「大仏盗難事件」と「日本記録映画盗難事件」の犯人と目され、反日極悪人の汚名を着せられた事でいきり立つ。しかも、大英帝国からかの世界的名探偵までが捜査に加わるという。果して、日本の姿を伝える文物を奪った真犯人の正体とは?ドーヴァー海峡を越えて二つの叡智が覇を競う痛快譚。なんといってもルパンが若いのが宜しい。ミステリの主人公としては、残酷な作者によって晩年の姿まで描かれてしまったキャラクターの一人だが、やはりルパンには若くあって欲しい。二人の対決もルブランの「聖典」に比べて好感が持て、なにより作者の先達に対する敬意が微笑ましい。物理的トリックは今更であるし、大陰謀の正体も高橋克彦の初期作で用いられたものではあるが、なんとも楽しい作品である。
「大君殺人事件 あるいは ポーランド鉛硝子の謎」ダイムノベルの出版王殺人事件を追うファイロ・ヴァンスとその忠実なる記述者。多すぎる容疑者に対し、もう一人のヴァンが登場し、推理を競う。アリバイの検証とトリックの吟味。推論が袋小路に入りかけてもご安心。ここはニューヨーク。名探偵には事欠きません。題名から「あの名探偵」が登場するであろう事は想像がついたが、やられました。容疑者の配置にまで遊び心の横溢した作品。ただ「アライアス・ヴァン・ダイン」で暴かれた実像について突っ込んでいるのは、10年遅い。こういう事は、あまり自慢たっぷりにやらない方がいい。HMM89年11月号を読んでいるマニアは沢山いる。新本格ファンは眩惑できても、マニアから見れば笑止。一方、風読人のかつろうさんの名考察が紹介されているのはネット人としては喜ばしいところ。
「《ホテル・ミカド》の殺人」中国大陸を戦火が覆い始めた頃、サンフランシスコの日系ホテルで、日本男子のハラキリ死体と白人娼婦の惨殺死体が発見される。捜査に加わるCCことチャーリー張とSSことサム・スペード。だが、驚くべき真相に辿り着いたのは、KKというイニシャルの東洋人ジャンキーだった。うまい!これは貫禄が違う。奇矯な死体の謎を、時代と民族性を背景に見事に解き明かした傑作推理。このまま、英語に翻訳してEQMMで紹介して欲しい。
「黄昏の怪人たち」<怪人二十面相、危機一髪!>な乱歩小説。路地からの消失トリックは、まあ「お約束」。全編に立ち込めるノスタルジーが心地よく、真犯人にも、思わず「待ってました!!」と声を掛けたくなる。実写でみたいなあ、この話。
「田所警部に花束を」むむむ、トリックが「お笑い」なので辛い。鮎哲への偏愛故に、やるからには中途半端なものを載せたくなかったのであろう。だからといって、はっきり「駄目」なものを載せるかな?初出が初出(鮎哲読本)なので致し方ないのかもしれないが、これは「宿題」にしておきます。白樺荘とどっちが早いかにゃー。
「七つの心を持つ男」文字通りの怪作。しかも、それだけでは終らない趣向つき。いかにも、短いページにアイデアをぎゅう詰めにする作者らしい実験作。ちょっと懐かしい匂いがした。よろしいのでは。
「探偵奇譚 空中の賊」巧い!凄すぎて何も言えない。発掘作だといわれれば、そのまま鵜呑みにしてしまう完成度の高さ。さすが構想20年の重み。話としていい加減なところまで、そっくりだ。
「百六十年の密室−新・モルグ街の殺人」もうひとつの<モルグ街>への解答。幻想小説家としてのセンスの良さも感じさせる名編。例えば、二階堂黎人が本陣殺人事件に対して行った反論よりも遥かにスマートである。先達に対する敬意をどう表現するかという差なのであろうか。独創的なトリックで百六十年の<冤罪>を晴らすという仕掛が爽やかである。これも翻訳して世界に問いたい作品。
総論:「新本格マニア、お断り」。この本がそこそこのセールスを確保できるぐらい日本のミステリ読者層が大人であればいいのに。大人であれかし。

(今月入手した本:94冊、今月処分した本:21冊、今年の増減+542冊)


2001年4月12日(木)

◆1時間のヒアリングを済ませてとっとと帰郷。途中、古書倶楽部とかっぱ横丁をざっと撫でていくが、何にもありゃしません。かっぱ横丁の外れでショーケースの中に大阪圭吉「海底諜報局」初版・函が15万円哉で鎮座ましましていた。その趣味の人にとっては「買い!」の値段だけど、読めりゃいい派の私にとって、函一つに8万円出す積もりは毛頭なく「目の正月」に留める。
◆車中の友として、KIOSKで新刊買い。こういう時に普段から新刊を買っていない人間は得。選び放題である。あれこれ迷った挙句、買ったのはこれ。
「四重奏」倉阪鬼一郎(講談社NV:帯)800円
一瞬、二階堂本にも心が動いたのだが、黒白さんに速攻でレビューを挙げられてしまったのでパス。何も、古本野郎が続けて同じ新本格新作評を挙げなくてもいいよね。
◆帰りに近所のブックオフチェック。
d「拷問」Rバーナード(光文社文庫)100円
d「猫のミステリー傑作選」鮎川哲也(河出文庫)100円
「スバル星人」大原まり子(角川文庫)100円
「少年探偵虹北恭助の冒険」はやみねかおる(講談社NV)100円
d「綺型虚空館」梶尾真治(早川書房:帯)100円
d「占星王をぶっとばせ!」梶尾真治(みき書房:帯)100円
「おとなしいアメリカ人」Gクリーン(早川書房:函)100円
「21の短篇」Gグリーン(早川書房:函)100円
バーナードは、MSCON2のお勧め本候補。まあ、私が昨年読んだミステリのベスト作品だし、一応本屋にはない本だし、丁度いい頃合いかも。鮎川哲也スターターセット一歩前進。この本は現役だけど、旧装丁にこだわってみた。梶尾真治の元本・帯付きが100円なら「買い」でしょう。しかし嵩張るだけなんだよなあ。グレアム・グリーン選集が2冊落ちていたので拾う。早川書房のロングセラーだが、今まで手を出していなかった。この際、集めちゃうか?あと佐伯日菜子のポストカード集「mes cheris de hinako saeki」未開封が100円で叩き売られていたので、あるだけ確保。ついでに「毎日が夏休み」(角川文庫)も1冊押える。佐伯日菜子メーリング・リストででも頒布しますかね。


◆「四重奏」倉阪鬼一郎(講談社NV)読了
というわけで、バリバリのクラニーの新作を読んでみた。で、感想なのだが、その前に、作者の文章を引用しておこう。104頁である。

「何のことはないパズルだった。これがミステリーの解答だったとしたら、多くの読者が本を投げつけるだろう。」

よしっ!作者のお許しが出たぞ!準備はいいか、諸君?こんな話。
その塔はラブホテル街を抜けたところに建っていた。そして塔の中では、歪な生と死の営みが繰り広げられていた。人の名を持った薔薇が咲き誇り、異形の弦楽四重奏曲が静かに流れる館で、中澤という名字の男女が読者の前に一人ひとり現われては消えて行く。主題は人称代名詞の章題とともに奏でられ、堕天使・占星術・魔術・騙し絵・迷宮・愛死・弦楽の各部屋の意匠は殺戮を暗喩し、包み、隠し、揶揄し、暴く。倫理を嘲笑う探偵という不協和音が闖入した時、過去の亡霊とともに瘴気の如き狂気は土中から立ち上り、虚空に躍る。音に閉ざされた心、嗜虐の果て、飢えた犬、散華するエロス、重層するタナトス、そして崩壊するロゴス。いま、黒猫を従えたコードの破壊者は、翻訳不能領域を驀進する。アガペーはもう見えない。
奇書である。その館は黒き死に満ち、その部屋は虚無を模し、その心はチャカポコである。このマジックには、かつて、一人の若き奇術師が挑んだ事がある。だが、その試みは、先輩奇術師を困惑させただけに終る。その不可能に敢えて挑んだ作者の冒険心には敬意を表しておく。だが、今回の作者は予言者としてこそ称えられるべきであろう。

「多くの読者が本をなげつけるだろう。」

おお、神よ!予言は成就されました。
ばしっ!

(今月入手した本:84冊、今月処分した本:21冊、今年の増減+532冊)


2001年4月11日(水)

◆昼休み、森さんの書き込みを見ていそいそと創元推理文庫新刊「スタジアム虹の事件簿」の著者後書きを立ち読みに行く。おお、あったあった。謎宮会から、アンチャから、この猟鉄まで。いやあ、東京創元社の出版物に載ったのは初めてだから嬉しいかも。というか、こんな極北のサイトを作者の青井さんが見ててくれたかと思うと、照れ臭いやら嬉しいやら。「やってて、良かった」である。リンクをはるのが手間なので、1年半前の書評を再掲しておく。うひゃあ、えらそうな事、書いてんなあ(<今もじゃ!:自分)
(1999年9月12日(日)の日記より)
◆「スタジアム虹の事件簿」青井夏海(東京書籍)読了
葉山、戸田という錚錚たるビブリオ・グルメを唸らせた自費出版の連作集。題名からは野球ミステリであるかの如き印象を受けるし、確かに野球も重要な要素ではあるのだが、厳密には「野球殺人事件」「地下球場」「鈍い球音」「魔球」などの<野球>が主役となる類いの「野球ミステリ」の系統樹からは外れた、見事な「安楽椅子探偵」ものである。探偵は、万年最下位球団レインボーズの女性オーナー。といってもサッチーが如き女傑ではなくて、元オーナーの若き未亡人で野球オンチという設定。このキャラが実に立っている。とにかく品が良い。ちょっとおせっかいなのだが、そうでもなければこういう女性の廻りにそうそう犯罪のネタは転がってこないであろう。先日読了した「屋上物語」のさくらばばあに引き続いて、印象に残る「ミス・マープル」の後継者である。
「試合をそっちのけで鞄を抱えてじっとしていた陰気な観客が突然とった行動の真相は?」「球場の側に住む暴力教師に仕掛けられた嫌がらせは、なぜ試合の夜に起こるのか?」「自分の忘れ物を渡された男は何故受け取りを拒否したのか?」「毎日留守番電話にかかってくるストーカーの脅迫電話が、現実の荒事に変わる時、バイト少年が落ちた罠とは?」「男の一言と、女のの一言に翻弄される主人公が優勝の掛かった試合で見たものは?」 それぞれに語り手を入れ替え、野球の1シーズンの流れに乗せて綴られる推理譚はどれも爽やかな読後感を残す。北村薫や加納朋子に代表される良質の「日常の謎」に挑む探偵は、どこまでも自然体で、どこまでも天然ボケで、どこまでも品が良い。
文章も達者であり、こういう作家が野にいるという事が日本のミステリ界の裾野の広さを思わせてくれて頼もしい。もし定価以下で売っていたら絶対に買いである。こういう本に出会えるから、古本渉猟は止められない。

というわけで、銀河通信の安田ママさんも早速チェック!の、この作品。是非、本屋でお買い求め下さい。上記「定価以下」には「定価」も入るわけで〜(<罪の意識を感じているらしい)。
◆仕事の行き掛かり上、急遽、大阪出張が決まる。お泊まりセットの用意はないが、幸いビデオの予約録画は深夜分まで仕掛けてあったので、Yシャツや歯ブラシなどを買い込んで、新幹線に飛び乗る。実家が関西でなければUSJオープンと大学入学シーズンの影響でかなり宿を取るのに苦労するところなのであろうが、お蔭様でその心配だけはない。実家の近くのブックオフで2冊だけ拾う。
d「パロディSF傑作選」安田・風見編(講談社文庫)100円
「夏への扉」桐野夏子(双葉社レディーズ文庫)100円
うう、何を実家まで来て、レディース文庫買ってんだよ。これって、桐野夏生なんだよね?よしださん、もう手に入れられました?まだでしたらお譲りしますよ(MYSCON2ででも)


◆「怪人対名探偵」芦辺拓(講談社NV)読了
SRの会2000年度ベスト5大健闘記念読書、というわけで、乱歩通俗長編への郷愁と愛に満ちた新作推理長編を手にとって見た。レトロな扉絵付き。どこかで見た絵柄だなあと思ったら喜国さんであった。なるほど、当然といえば余りにも当然の人選である。「鮎川哲也・薦」とあるのだが、本体にはそれらしいものがないところを見ると、もしや「帯」にあるのか?そうなのか?!それって、「追尾の連繋」パターンか?!だとすれば、やーらーれーたああ!!私のようにブック・オフで買った者は自業自得だが、世の中には帯なしで本屋で売ってる事もあるのだぞ。ちょっとは配慮して欲しいものだ。ぷんすか。
閑話休題。中味であるが、これは凄い。絵に描いたような名探偵と少年助手、そして怪人、その名も「殺人喜劇王」!、が登場する。なんとも念の入った方法で人がバタバタ殺される。最近、「インスパイア」という言葉で「ぱくり」を認容する風潮が著しいが、これほどまでに、原典への愛と畏敬を込め、更には自らの奇想を盛り込み、鮮やかな創意工夫を凝らして初めて「インスパイア」という言葉は用いられるべきである。この作品は、懐かしくも邪で、そして正しく、凛として<ものがたり>である。こんな話。
封印の館で増殖する幼い恐怖。近代的なオフィスに降臨した怪人は悪魔の設計図を紡ぐ。顔を切られた美少女。緩められたナット。注がれる肉腫。失われた時間。そして、罠に落ちた美女。名探偵が登場した時、既に幕は上がっていた。地下の水罠。時計塔の磔刑。天空の絞首刑。恐るべき実況中継。マントと仮面の怪人は、名探偵に警告を与え、探偵はガリバーたる己に戦慄する。架空が現実を侵す時、火の記憶は流転する。語る者と騙る者。幻想の地平に待つ地獄という名の死の器。紅蓮の裁きが下るとき、血は沸騰し、肉は爆ぜる。称えよ、名探偵!その名は、花筐城太郎、いや、それとも森江春策か?
虚構と現実が錯綜し、あやかしの推理浪漫が現代に甦る。颯爽たるWHO。残酷にして酸鼻なるHOW。廃虚が夢見るWHERE。燃えさかる怨念のWHEN。闇に笑うWHAT。そして、大いなるWHY。総ての謎はここにある。総ての答えがここにある。これぞ、通俗。これぞ、夢のまこと。どんでん返しも楽しい、これぞ、探偵小説。いやあ、ごちそうさまでした。面白いよみものが好きな人は是非是非どうぞ。絶賛!

ところで、SRの会のベスト5で良く分からないのが「短編集」と「連作集」の扱い。同じ主人公の短篇を集めたものを「連作集」として、長編と同じ括りにしているのかと思ったら、長編部門第2位の芦辺作品「真説ルパン対ホームズ」ってパスティーシュされている探偵はバラバラではないか。本来、短篇集として扱うべきではなかったのか?そうすれば短篇集部門で1位だったのに、と思うと釈然としないんだよなあ。

(今月入手した本:72冊、今月処分した本:21冊、今年の増減+520冊)