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2001年4月10日(火)

◆昼休みに神保町をぶらつける快感。ああ、素敵だ。ペーパーバックを一冊拾う。
「THE LAST SHERLOCK HOLMES STORY」MICHAEL DIBDIN(SPHERE)200円
ディブディンのデビュー作。なんとホームズのパスティーシュ。なんと切り裂きジャックもの。帰宅後、森さんの事典で確認すると、シャーロキアンからの評判は散々らしい。っていうか、大EQと同じ趣向を新人が後出しでやるかな、普通。それもちゃんと商業出版されるんだから、凄いよなあ。
◆帰り道、新橋駅前広場に差し掛かると、おお!お馴染みのチャリティー市を開催中。前回が大血風だったので、いそいそと古本ワゴンを覗くも、今回は空振り。
d「時の過ぎゆくままに」小泉喜美子(講談社:帯)100円
「21世紀のレポート」ワシリエフ&グーシチェフ(新潮社)100円
小泉喜美子の遺作集は、先日、感想でボロクソ書いたところだが、帯付きとあっては買わざるを得ない。はっきり言ってこの帯は凄い。内藤陳氏入魂のコピーである。とある事情を知っていると、この挙句に込められた想いに背筋が粟立つのである。もう1冊は、1958年に書かれたソ連製の未来予測ドキュメント。この類いの本は古ければ古いほど、現実の21世紀との乖離ぶりが爆笑なのだが、パラパラめくってみると左程でもなかった。「ソ連がまだある」と思っているところが一番現実とかけ離れているのかな。
◆帰宅するとSRマンスリー最新号到着。私の推した「刑事ぶたぶた」も「永遠の森」も全然票数不足だった模様。しくしく。もう、年間ベストなんて投票してやるもんかい。国内は1位はともかくとして、20位までに芦辺作品が2位、9位、18位と3作入賞。アンソロジー部門での「絢爛たる殺人」の1位といい、昨年は「芦辺拓の当たり年」だったんですのう。個人的には「曾我佳城全集」は昨年の作品とは認めていないので、となると芦辺作品が実質1位。編集部門と小説部門で1位を独占した人なんぞいない!「仲間褒め」だけは絶対しないSRがここまでの高評価。私も素直に敬意を表して1冊ぐらい読まねば、という気になる。あと、選評で、ここの日記が一番面白かったと面識のない方から評価を受けていたのには赤面する。うひゃあ(K木H出男さま、ありがとうございます)。


◆「誘拐」高木彬光(角川文庫)読了
<こんなものも読んでいなかったのか!>シリーズ。誘拐ミステリを語るに当たって、まずは絶対外せない作品である。だが、どうも百谷泉一郎&明子という夫婦探偵に馴染めず、今なお未読がある。「追跡」とか全集版で買って平積みの一番下に敷かれているために、アクセスすらままならない状況である。
閑話休題。誘拐ミステリは、多くの作家が意匠を凝らし挑戦しつづけている分野なので、今となってはこの作品も「歴史的価値」しかないのではなかろうか、とさしたる期待もないままに読み始めたところ、なかなかどうして!犯人の視点でとある誘拐事件の公判を傍聴するプロローグから、ぐいぐい作品世界に引き込まれていくではないか!二転三転するプロットに眩惑され、更には法律の基礎知識を活かしたドンデン返しまで、一気読み。これは面白い。こんな話。
日本中を騒がせた誘拐殺人犯の公判を傍聴する「彼」。自分は絶対にこの被告・木村のような愚かな真似はしないと心に誓う「彼」の犯罪プロットは静かに幕を開ける。標的は、強腕の金融業・井上雷蔵の幼い一人息子。偶然にもその端緒から警察は事件を察知するが、被害者の命を救えなかった「木村事件」への思いが、関係者の行動を見えない呪縛で包む。三千万円を要求してきた犯人は、電話や速達を巧みに使い、捜査陣を翻弄する。警察への不信感が被害者の父を突き動かした時、犯人の大胆な企みは、不可能を可能にする。警察は、怨恨の線から捜査を進めるが、余りに多い容疑者たちにはそれぞれにアリバイがあった。だが、犯人の首に莫大な賞金が掛けられた時、百谷明子は、捜査陣が想像だにしなかった奇手で、真犯人に迫る。智謀対詭計。果して、この闘いの勝利者は?
雑誌「宝石」の末期に連載された作品であるが、なるほど見事な引きである。法廷での心象風景が淡々と綴られる第1部そのものが、心理的な罠へと読者に引き摺り込み、更にその伏線が終盤に至って炸裂するという構成に感心する。中盤の容疑者たちの動きがやや偶然に頼るところが大きく、捜査陣の徒労感とともに、読者も辟易とさせられるが、書いている間に構想がまとまり、歴史的名作となった「奇蹟」の過程と思えば左程腹もたたない。夫婦探偵の描写には、違和感を禁じ得ないものの、やはりこれは読まなければならない佳作である。お勧め。

(今月入手した本:70冊、今月処分した本:21冊、今年の増減+518冊)



2001年4月9日(月)

◆お蔭様で本日未明、14万アクセスを達成いたしました。本当に久しぶりにキリ番のご報告(Moriwakiさん)がございましたので、さくっとキリ番ゲッターを更新。なんと100001番以来じゃないですかあ。うひゃあ。もうあの合同オフ会から5ヶ月かあ。何はともあれ、ありがとうございます。
◆出先から直帰して、神保町チェック。RBワンダーが移転作業で休業中。あらら、こりゃあ元気でないなあ。文庫川村と湘南堂で、どうでもいい系を2冊。
d「フォン・ライアン特急」(ポケミス:フォトカバー)300円
「ビッグ・ボウの殺人」Iザングウィル(早川ミステリ文庫:初版)200円
ポケミス・フォトカバー一歩前進。ううむ、100円縛りのつもりが、どんどん甘くなっていくなあ。これは「1000円までならOK」になっちゃう日も近いかな?ザングウィルは、創元全集版、創元文庫版、ポケミス版はもっているのだが、訳が最もこなれているという噂のミステリ文庫バージョンは未所持。なんと、再版時にもゲットできていなかったりする。縁のない本ってえのはこんなもんだね。
◆「リングにかけろ2」第三巻を購入即読了。それにしても先に進まない話である。他ジャンル外4冊購入。


◆「おとり」Dユーナック(ポケミス)読了
MWA新人賞受賞作。勿論作者の処女作である。現役の婦人警官が書いた刑事小説ということで、当時世間の耳目を集めた由。同じ年の新人賞にもう一人、ERジョンソンが輝いており、奇しくも婦人警官と囚人が同時受賞という異色の年なのであった。これは露骨なまでに話題先行の選考なのではなかろうか?この辺りの節操なさでは、日本はまだまだですのう。さて、その後も、ミステリやノンフィクションで業績を残した作者の事なので、ある程度期待してとりかかったこの作品、残念ながら、時代に追い越された感が強く、今の読者の鑑賞に耐えるとは言い難い出来栄えであった。こんな話。
主人公クリスティ・オパラは警官だった亡夫との間に一児を設けた未亡人婦人警官。新たな配属先である地方検事局特別捜査課で、数ヶ月に亘る潜入捜査を行い、今まさに「微妙な」LSD密売事件の本丸に迫ろうとしていた。だが、女子大生に扮した彼女が取引の現場に向う車中で、反射的に公然猥褻犯を現行犯逮捕してしまったために、総ての捜査計画は水の泡。捜査の責任者であるリアダン検事の冷静にして論理的な叱責の洗礼を受けるクリスティ。だが、彼女のお節介ともいえる現行犯逮捕が、やがてNYPDの捜査陣たちを翻弄しつづけている美女連続暴行殺人事件の渦中に彼女を巻き込んで行くとは神ならぬ身の知るよしもなかった。だが一本の電話を切っ掛けに、事件は回り始める。そして遂には、検事局を挙げた周到な罠が張り巡らされてくのであった。クリスティ自身を餌にして、、
囮捜査の実際と未亡人婦人警官の日常についてはこの上なく丁寧に書き込まれている。このまま「NY州における公然猥褻犯に対する実践的司法処理マニュアル」として用いる事ができるかもしれない。が、主人公を取り巻く人々は、基本的に善人であり、冷徹と思われた上司までが、職制を越えた親愛の情を抱くというていたらくである。「NY州におけるセクシャル・ハラスメンと女性の社会進出の実態報告書」としては機能し得ないファンタジーである。昨年ここで高く評価した「第一容疑者」などに比較すると「牧歌的」としかいいようのない長閑な善人たちの物語。まあ、この分野でのパイオニアとして栄光を称え、そっとしておくべき作品なのであろう。<婦人警官小説界の「リーヴンワース事件」>とでも呼ぶべきか?少なくとも山田正紀の囮捜査官シリーズの方が10倍面白い。

(今月入手した本:67冊、今月処分した本:21冊、今年の増減+515冊)



2001年4月8日(日)

◆久しぶりにアマゾンとBK1でお買い物。パスワードを忘れていてあたふたするが、えいやあで打ち込むと「当たり」だった。まあ、一人の人間の考えそうな事は半年やそこらでは変らんという事かな。何を買ったかは、到着時点でご報告致しましょう。
◆仮面ライダークウガ超全集の上巻が入荷したという報を聞いて、いそいそと安田ママさんのお勤め先へゴウ。ついで買いで、ポケミス1701番をゲット。
「仮面ライダー超全集・上巻」(小学館)1048円
「魔の淵」Hタルボット(ポケミス:帯)1000円
遂にあの幻の名作がポケミス入り。売れ行き次第ではキンケイドものの第1作「絞首吏の助手」の出版も期待できるとか。これは文句無しに買いでしょう。それにしても、キリ番をわざわざイアン・ランキンに当てるという入れ込み様は何なのであろうか?本格推理愛好家としては、「魔の淵」にこそその栄誉を与えて欲しかったぞ。
◆かの国書の全集の仕掛人、藤原編集長がサイトをオープン!しかも、国書の第4期が決定!そして、そして、あの幻の名作が翻訳されるとか!!!これは、思わず興奮だねえ。いやはや、全くいい世の中になったものです。


◆「怪盗クモ団」ジャン・レイ(岩波少年文庫)読了
「新・カンタベリー物語」などで知られるベルギーの幻想小説家ジャン・レイが100編以上を世に送った<名探偵ハリー・ディクソン>シリーズ。ジュヴィナイル界の「シャーロック・ホームズのライヴァル」として、フランス文化圏で愛された作品(らしい)。1年ぐらい前までは、その存在すら知らなかったシリーズであり、岩波少年文庫侮り難しと唸らされたものである。主人公ハリー・ディクソンは、アメリカ生まれのホームズという異名をとる、医学・工学の知識に長けた快男児。第一次世界大戦に従軍経験あり。防諜もお手の物で、大陸狭しと駆け巡る行動派の私立探偵である。日本初紹介作である「怪盗クモ団」には、国際的な強盗組織である「クモ団」の女首魁とディクソンの闘いをオムニバス形式で綴った表題作と、狂気の科学者が開発した光線兵器を巡る陰謀を描く「謎の緑色光線」の2編を収録。当時の最新鋭兵器であった飛行機や潜水艦なども登場し、少年たちを熱狂させたというのも納得の出来栄え。以下、ミニコメ。
「怪盗クモ団」ディクソンの書斎に毎夜、一つずつクモの置物を置いていく神出鬼没の賊は、ある朝、正々堂々とディクソンの前に姿を現すや彼に「退場」を促がす。ジョルジョット・キュブリエと名乗る美しい娘こそ、以後、世間を震撼せしめる「怪盗クモ団」の首魁であった。そして、その衝撃的な出会いを皮切りに、外科医メレディス卿脅迫事件、国際的な封書盗難事件とディクソンは、美しき怪盗との智略に明け暮れる。軽快なテンポで語られる事件の数々は、鮮やかな逆転に彩られ、命のやり取りの向こう側で不器用な愛憎が仄かに燃える。「敵首魁が小娘」という趣向が斬新。これを昭和の初期にやられてはたまらない。
「謎の緑色光線」ロンドンの北東、廃虚と化した「七つ柏の館」。館の主、マーカム卿は巨額の火災保険金を手に入れたまま行方不明。その廃虚で怪光が踊り、警察の車は運転手もろとも燃え上がる。それが、ロンドン中を震え上がらせた大陰謀の始まりだった。次々と脅迫される富豪たち。拒否は忽ち怪光線による破壊を招来する。フランス人科学者の発明が悪魔の手に落ちた時、罠の口は開く。そして、ディクソンは、異形なる科学の落し子により死の淵に招かれるのであった。意外な真犯人という趣向はあるものの、やや冒険小説的色彩の濃い科学謀略譚。潜水艦の指揮権までも委ねられるディクソンの頼もしさよ。まあフランス製の帆村荘六といったところでしょうか。

(今月入手した本:60冊、今月処分した本:21冊、今年の増減+508冊)



2001年4月7日(土)

◆夜郎自大企画のトリ、白梅軒の川口さんに送本完了!!ひやああ、三ヶ月では決着つきませんでしたわい。皆様、大変長らくお待たせいたしましたああ。土田さん、MYSCON2にいらっしゃれないようなので、送本しましょうか?>私信
◆千葉定点観測。
d「三色の家」陳舜臣(講談社)300円
「刑事フリービーとビーン」Pロス(立風書房)300円
d「破壊部隊」Dハミルトン(ポケミス・帯)100円
陳舜臣の「三色の家」は所持本が裸本につき、カバー目当ての購入。まあ、3千円も出せば入手可能な本なのではあるが、カバー1枚に3000円はさすがの私でも躊躇する。ふっふっふ、またこれで憑き物が一つ落ちたぞ。「破壊部隊」は帯狙い。初版でも、カバーでもないのに何をやっているのだか。


◆「怪。」嵐山光三郎(徳間文庫)読了
モーニング娘。ではないが、「怪」の後ろに「。」がついている。うーむ、これは何の意味があるのだ?怪しいもの総てを語り尽くす心であることよ、などという作者の想いでも込められているのだろうか?のっけから考えさせる本である。更に、この作者が斯くも見事な怪談の語り手であった事に驚く。どちらかといえば、素人包丁記や、中年中間小説の人だという刷り込みがあったので、余り期待せずに手に取ったのだが、なんのなんの、これは怖い!生理的嫌悪感とシーナマコト調の壊れっぷりが見事なハーモニーを奏でる名怪談集である。実に嬉しい不意打ちである。超お勧めである。なぜか断定口調である。ぼ、ぼ、ぼくらは中年断定団である。以下、ミニコメである。
「散歩」息子を連れて住み慣れた筈の街を散歩するうちに辿り着いた駄菓子屋。その親父は何故か死んだ祖父そっくりであった。古井戸に落ちた私の冥界巡りと霊能戦の顛末がノスタルジックな語り口で描かれる佳編。二転三転するプロットに眩惑される事必至。
「G街の幽霊」ゴールデン街のバー<旅路>の常連客3名。彼等が通っていた<白い鳩>のママ・リンダの失踪は地上げの縺れか?やがてゴールデン街で奇妙な「事故」が相次ぐ。酒場の闇の中で幽霊は祟る。余りにも強引な逆転に唖然。どこの酒場にも暗がりがある。
「睡眠王」猛烈サラリーマンが失職した時、睡りの中で奇矯なる自己実現は加速する。夢は叶う。夢は嫉妬する。夢はとり殺す。どこか歪んだセールスマンの日常が怖い。
「蛙女」一流半の役者が食い物にしてきた中国女と後輩男優の逆襲。毒の蚊は舞い、白い蛙はぬめぬめと縺れる。奪う事に慣れきった男は猜疑故に滅びる。破綻したプロットが恐怖感を煽る。チリチリと生理的嫌悪感の募る傑作。
「ランドセル地蔵」霊能力の強い女に取り憑かれた男。男が死んだ息子に捧げたランドセル地蔵の法要に向う時、霊的罠は頂きに待つ。寡黙な悪女によって平和を奪われた一家の物語。異形の地蔵に感嘆。結末に驚け。
「即身仏」魔に魅入られるように即身仏の寺に参り、そこで裏切った夫との再会を果たす女。だが、変わり果てた夫の呪は、余りに深くおぞましいものだった。感傷を笑うツイストは、これもまた即身仏の見た夢なのか?渇いた肉の手触りが厭だ。
「発狂公園」公園を再開発しようとする者どもに下る狂える木々の裁き。人は樹に、樹は人に。杉は襲い、桜は褒美を待つ。奔放な想像力が、森の意思を切り取る。こんな変な話は、読んだ事がない。
「饅頭」中国饅頭流しツアーに参加した、生臭いカップルの願いとは?故事は捩れて、妄想の河に思いが流れる。智と蒙昧のコントラストが鮮やかな不思議小説。詐術は癒す。破綻の種を飲み込んだまま。
「生き霊」サイキック・バトルの幕は、既に開いていた。R国大使館に蠢く陰謀がとある父と娘を巻き込んだ時、生き霊たちの反撃は始まる。食への執着が可笑しい。しかし、このオチは、プロのやることか?
「盲目旅行」講演旅行で不倫を企む私。傷めた目が見せる死んだ兄の導き。無償の霊が嫉妬する時、泉は腐敗する。眼の痛みに関する迫真の描写に息を呑む。熱が出そうな味悪の読後感である。いやあ、凄く厭だ。

(今月入手した本:58冊、今月処分した本:21冊、今年の増減+506冊)



2001年4月6日(金)

◆昼飯時にアークヒルズ界隈をうろつく。某テレビ局の前はいかにもの賑わいぶり。オープン・レストランの華やぎに「日本のどこが不況なのだ?」という疑問が湧いてくる。この雰囲気の中で「日本経済は深刻なデフレ・スパイラルにあり、政治の無策により失業率は過去最高に達しています」などというニュースを作るってえのは、えすえふだよなあ。
◆夜は西荻窪の友人と飲み会。インターネットについてあれこれ教えてもらう。軍事から開放された当初、大学間のデータ・ベースのやりとり等で発達したものなので、Give&Takeが基本になっており「儲ける」という発想に馴染まない、とか。ふむふむ、なるほど。精々私もGiveしないとなあ。
久しぶりの西荻窪で拾ったのは2冊。ありゃりゃ、よみた屋さんがなくなって別のお店になっているぞ。
d「ショート・ショート劇場4」(双葉文庫)100円
「COLUMBO:THE DEAN'S DEATH」Alfred Lawrence(A STAR BOOK)100円
おお!コロンボの「13秒の罠」の原書である。ペーパーバック・オリジナルなので正真正銘の原書だ、原書。コロンボ・フリークとしては無茶苦茶嬉しい1冊である。ところで、この話、カバーや扉の記述を信じれば、なんと作者たるアルフレッド・ローレンスは「祝砲の挽歌」を脚色して書いたらしい。本当かよ?全然違う話じゃん。洋の東西を問わず、コロンボの小説ってえのはどうしてこうなんでしょうねえ。しかしそのローレンス先生も、自作の「死のクリスマス」が日本で「人形の密室」として増補加筆(!)されているとはご存知あるめえ。さあ、小鷹コロンボに増補加筆する人間は現われないかな〜。台湾あたりどうよ?


◆「時の過ぎゆくままに」小泉喜美子(講談社)読了
著者の最後の作品集。眼高手低というか、訳高著低というか、所詮洋物の模倣しかできなかった著者らしさが横溢した短編集である。何作か「作者が<小泉喜美子>である」事でのみ面白さが伝わる自虐小説もあって、まあ、よくもこんなものが商業誌に載ったものだ、と半ば呆れ、半ば哀れに感じる。自身が既に忘れられた作家となっている一方で、ライスなどでの訳業が今なお版を重ねているというのが文筆業「小泉喜美子」に対する適正な評価の証しなのであろう。苦労に苦労を重ねて、大枚叩いて入手した挙句、読んでみたら「つまんねええ!!」という、<忘れられた作家>たちの中では最も若い人かもしれない。まあ、それはそれで一つの勲章か。以下、ミニコメ。
「友をえらばば」成功者夫婦に対する幼馴染の羨望と怨念。既に推理小説ではない「女の闘い」を淡々と描いた小品。一部は実話かもしれない。
「同業者パーティー」別れた夫を同業者パーティーで遠目に見る女の心象風景。諦めきれない忸怩たる妄念が痛い。自虐ツイストで勝負した一編。小泉喜美子と生島治郎の関係を知らなければ、全然面白くない話であるところが凄い。
「小さな青い海」功なり名を遂げた紳士が、少年の日の水への情熱と恐怖を甦らせた夏の点景。まあ、アーウィン・ショーですか。
「秋のベッド」砲声すら届かぬ山の中の銃後の物語。少年とおんなの物語という主題が木霊のように輻輳する。SF的な設定が些か安っぽいが、一種新鮮な話。村田基にも同趣向の話があったが、さて、どちらか早い?
「猫好きの女」男を絡め取るおんなの独り言。闇の中で密やかな舌なめずりが聞こえる。このオチはあまりにも唐突。プロならば少しは伏線を引いて欲しい。
「週末のメンバー」独立しているようで、とことん男に「依存」する女の侘しさが痛切に沁みる。語り口は絶妙。しかし、読後感は味悪。
「さらば草原」<女の使命>を放棄した女の追放譚。昭和30年代のえすえふじゃあるまいし。ケイト・ウィルヘルムの爪の垢でも煎じて飲みなさい。
「洋服箪笥の奥の暗闇」この作品集のベスト。売れない女流イラストレータが行き当たったアパートには不相応なサイズの洋服箪笥が作りつけられていた。そして因縁と怨念のエネルギーがうねり始めたとき、人生の扉は開かれる。典型的な借屋綺譚を小泉喜美子風にアレンジした快作。大いに結構。
「寒い国から来た芸術家」ロシアから来た舞台芸術家を若い日本女性が案内する、それだけの話。人工芝を巡る小ネタで頁数を稼いだお話。アイデアを膨らませられなかった、という印象。
「騎士よ、夜よ」ホスト・クラブの光と影。一応のツイストはあるが、風俗譚の域を出るものではない。個人的には新鮮な世界ではあるが、異常に発達を遂げた日本のやおいな耽美小説の愛好家から見れば子供のお遊びのような話かも。いっそ、江戸時代に移して書いた方が作者ならではの貫禄が出たかも。
「たたり」SF仕立ての自虐小説。作者のファンだけが読めば良い作品。<何があったんだ?!小泉喜美子!!>という感じ。この方って、ネット時代まで生き延びなくて良かったかも。掲示板荒らしとかやりそうだよなあ。
「雛人形草紙」消えた雛人形を巡る因縁話。雛に纏わる有名な言い伝えをオチに使っているために、話が締まらない事おびただしい。

(今月入手した本:55冊、今月処分した本:21冊、今年の増減+503冊)



2001年4月5日(木)

◆夜中の2時前に腹痛で目覚め、そのまま起きる羽目となる。体調が落ちているのか、花粉症の諸症状も炸裂状態。へなへなな1日。それでも、早起きな分、あれこれと片付けに勤しむ。惣坂さん、羽鳥さん、眞明さん、石井女王様、本発送致しましたあ。
◆ビデオ3台を仕掛けて出かける。録るだけは録っているものの、一体いつ見るのか、真剣に心配になってきた。せめて「主任警部モース」ぐらいは真面目に見たいものである。(見ろよ。)
◆少々残業して、一軒だけブックオフ駆足で定点観測。
「凶悪」Bプロンジーニ(講談社文庫)100円
d「蒼いくちづけ」神林長平(光文社文庫)100円
「スリーパー」黒木曜之助(春陽文庫)100円
「怪」嵐山光三郎(講談社文庫)100円
「ハンカチの上の花畑」安房直子(講談社文庫)100円
「南の島の魔法の話」安房直子(講談社文庫)100円
「だれにも見えないベランダ」安房直子(講談社文庫)100円
「三面レコードの秘密」Aヴォデカル(評論社)100円
「いまだ生者のなかで」Zクライン(早川書房:帯)100円
よしださんや土田さんが話題にされている安房直子の講談社文庫を「お試しモード」で拾う。評論社の「児童図書館・SOSシリーズ」1冊前進。縁のない巻は徹底して縁のない叢書である。ひょっとして現役なのかな、このシリーズ?


◆「黒い仏」殊能将之(講談社NV)読了
「ハサミ男」で衝撃のデビューを飾った作者の第3作。ダサコン周りのSF読みの方々の間で話題になっていた本。なにやら奥歯にモノの挟まったような書評が多く、気になってはいたが、ある程度、予想もついた。予想通りだった。一種の「踏み絵」小説なのだが、例えばカーの諸作に比べればいかにも軽量級。作者自身が照れ臭さのあまり、正面から本気の文体で描けなかったという印象が付き纏う。題名が「くろふつ」なので、ミステリとしては「アリバイ崩し」がテーマ。これに暗号と宝捜しというオマケもつく。こんな話。
西暦877年、中国で修行を積んだ老僧・円載は謎の経典と変化仏を携え、海路を故郷日本へと急いでいた。その先に待つ運命も知らず……。それから1123年後の日本、ダイエーの連続優勝に湧く福岡の安アパートで、一人の男が絞殺される。榊原と名乗っていたその男の身元を追う福岡県警の刑事たち。一方、揺らぐ事なき信念の名探偵・石動戯作は助手のアントニオとともに、バイオ系ベンチャー企業の社長・大生部暁彦から「宝捜し」の依頼を受けていた。福岡の阿久浜の安蘭寺に伝わる黒智爾観世音菩薩に秘められた円載の宝物を探し出すという、国文学向きの依頼を引き受ける石動。安蘭寺の住職・星慧の説明を受け、福岡に飛ぶ。目撃者の証言から、一人のヘルス嬢に辿りついた刑事たちの軌跡が、石動たちの長閑な探索行と交錯するとき、時間と空間を操る犯人の奸計が、ハルマゲドンの序曲を奏でる。
日本の時刻表トリックの雄・鮎川哲也の長編には自作短編を下敷きにしたものが何作かある。「偽りの墳墓」「風の証言」等など、骨格をなす短編に巧みに肉付けを施す手際を読み解くのも、またマニアの楽しみとなっている。才人・殊能将之も、この作品で、立派に鑑賞に耐えるだけの短編時刻表トリックを案出してみせている。だが、それを長編化するにあたって、作者は推理作家にとって禁断の秘術を用いる。そして、すべてのトリックを無効化し、嘲弄する。ただ、純粋ミステリ部分とそれ以外の水増し部分の相克を許容できるか否かのみで、この作品の評価を決めては、したたかな作者の思う壺である。因数分解した上でそれぞれの本歌に敵うものかを考えるべきではないか?例えば、暗号解読は、それなりの工夫はあるとはいえ所詮「お手盛り」の域を出るものではない。「闘い」の描写は余りに断片的でありすぎる。この書を評価している方々はせめてカーの「火刑法廷」ぐらいは読んでおいてほしい。私の感想は「面白くなくはないが、いかにも軽い」といったところ。この作者のこの分野での「本気」をみたい。

(今月入手した本:53冊、今月処分した本:21冊、今年の増減+501冊)


2001年4月4日(水)

◆銀座、門前仲町などを定点観測。安物買いなど。
「新・本格推理01」二階堂黎人編(光文社文庫:帯)400円
「黒い仏」殊能将之(講談社NV:帯)450円
「狂信の推理」黒木曜之助(春陽文庫)170円
◆帰宅すると、川口文庫からの荷物がダンボール一箱分到着。今回の当たりはこんなところ。
「隠れた顔」小島直記(東都ミステリ)500円
「隣の人たち」藤木靖子(東都ミステリ)500円
「光の肌」佐野洋(東都ミステリ)500円
d「死者におくる花束はない」結城昌治(東都ミステリ)500円
「異説新撰組」童門冬二(東都ミステリ)500円
「青髯殺人事件」藤澤恒夫(講談社ロマンブックス)500円
「蘭堂捕物帖」福田蘭堂(四季社)1000円
「大心地先生の事件簿」木々高太郎(桃源社)1000円
「探偵夜話」岡本綺堂(東京ライフ社:函)500円
「自殺協定」樹下太郎(早川書房・裸本)500円
「海底大陸」海野十三(桃源社:帯)1000円
「ぷろふいる」12年2月号・4月号(ぷろふいる社)各7000円
「探偵倶楽部」33年2,4,7,8,12月号、34年1月号(共栄社)9500円
「探偵実話」35年2月、7月号、36年臨時増刊、9月号(世文社)4000円
「新青年」14年1月、2月増刊、3月、7月、11月、12月号(博文館)17000円
「雄鶏通信」(雄鶏社:函)3000円
東都ミステリをぼちぼち集め始めている。今回の当たりで7割程度まで来た。野口赫宙のハズレは痛いけど、藤木靖子がゲットできたのでよしとしますか。雑誌はまずまずの当たり具合。相変わらず「探偵倶楽部」と「探偵実話」は競争率が高いが、「新青年」14年2月増刊は物凄く嬉しい1冊!!Pマクドナルド(ポーロック名義)の「殺人鬼対皇帝」一挙掲載号で、他の短編も思わずのけぞる充実度。まずは戦前の翻訳探偵誌の頂点の一つといいてよい本であろう。今時、この本が5000円は「理不尽なまでに安い!!」と申し上げておきましょう。で、今回のオマケがまた凄い。なんと表紙や裏表紙がない状態ではあるのだが、「ぷろふいる」12年3月号をタダで頂戴してしまう。うひゃああ。読めりゃいい派の私としては、失禁ものの「ごちそうさま!!」である。幾ら表紙も裏表紙もないとはいえ、「ぷろふいる」だよ〜。通常なら2,3万円する雑誌だよ〜。私も大概、気前がいいつもりだけど、川口文庫さんにはかないまへん。凄すぎ。改めて、ありがとうございますありがとうございます。で、ぱらぱらと雄鶏通信の合本復刻を眺めていると、これが嵌まる嵌まる。敗戦直後の世相がじんわりと伝わってくる。ああ、人はこうしてレトロの罠に墜ちていくのね、って感じっす。
◆昨日の「貴方の古本人間度チェック」を大矢博子さんや、フクさんに日記で取り上げてもらっている。ありがとうございます。なんちゅうか、大矢さんが「古本大将」に輝いて、フクさんが「古本野郎」にも届かないというのは、チェック表としての精度が悪いって事なのか。それとも「古本大将」は本の数や知識ではなくて心の在り方の問題だ、って事なのか。ううむ。悩んでみたりして。改めて設問を見てみると舌足らずな部分もあるなあ。
「5)他人の家に行くとまず本棚を見る」は「本棚を見て、傾向を把握したうえで値踏みする」と、「6)旅先でポケミスを読んでいる人を見ると声をかけたくなる」は「絶版のポケミスを読んでいる人」と補わないと、ただの本好き、ミステリ好きも引っ掛かってしまいますのう。
◆私のよく行くサイト「瑞澤私設図書館」の4日付け日記で、ファン・ヒューリックの名前の表記について、「何故、従来のグーリックやフーリックを改めたか」が明らかにされている。ご興味のある方は、ご一読を。


◆「クイーンたちの秘密」Oパパゾグロウ(ポケミス)読了
たっくんさんに尻を叩かれ、時間を置かずデアンドリア夫人の、女流作家探偵ペイ・マッケナ・シリーズ第3作を手に取った。なぜか、第2作は未だに未訳のままである。賞取りとも無縁であるにも関わらず、順番を飛ばして紹介されるというのは「謎」である。まあ、この第3作の方がよりミステリマニア受けすると踏んだのであろう。なにせ、題材が「ロマンティック・サスペンス」である。邦題が暗示する出版界のカラクリも含めて業界内輪話として読む分には楽しめる。だが、ミステリとしてみた場合、第1作同様ごちゃごちゃした印象で切れは今ひとつ。まあ、こんな話。
サイモン・アンド・シャスター社が「シルエット・ロマンス」をハーレクィンに売るご時世。ロマンス小説は今や斜陽である。代わりに、出版社はミステリに殺到し、二流のロマンス小説家は、ミステリ仕立ての作品で口に糊する仕儀となる。だが、一握りの成功者の生活に憧れ、自分の習作を送ってくる作家予備軍は後を断たない。今や犯罪実話の世界で成功しつつあるペイシェンス・マッケナが、ふとした気まぐれで世に送る手助けをする格好となったサラ・イングリッシュも、そんな新人作家の一人だった。彼女をエスコートして作家の行き付けのクラブに案内した夜、二流を絵に描いたようなロマンス作家ヴァーナ・トレインは地下鉄に轢き殺される。果してその死は事故か、自殺か、それとも殺人か?ペイは、ヴァーナとよく騒動を起していた二流のミステリ作家マックス・ブレイディに疑惑の目を向けるのだが、なんと次なる事件は、ペイ自身に降りかかってきたのだ!エイジェントのデイナのオフィスで、悶死するサラを目撃したペイは自分も毒を盛られた事に気づくが、時既に遅く、そのまま倒れる。3日後、病院で目覚めたペイは現場にサラの死体などなく、彼女は故郷の町で元気でいるという情報を聞く。九死に一生を得たペイは病身を押して事の真偽を確かめに遥かニューイングランドへと向うのだが、、、百鬼夜行、疑心暗鬼、生きていくために小説を生産しつづける小説家たちの日常に芽生えた殺意の源とは?クイーンたちの秘密が暴かれた時、ペイに天啓が訪れる。
出版界を巡る裏話の部分は面白い。というか、ここまで描いてもいいのか?という程に作者の筆は残酷である。前作では同性を滅多切りにした作者であるが、この作品では、男性ミステリ作家の矜持もズタズタに引き裂く。それでいて、作中のデアンドリアは実にものの判ったいい男に描かれているのが笑える。こうした公然のノロケは古今東西のミステリの中でも極めて珍しい。ギリシャ系アメリカ人おそるべし。で、殺人以外の犯罪は結構イケてるのだが、いざ毒殺トリックや転落トリックとなると、いかにもとってつけたようであり、何もそうまでして、ややこしい殺し方をしなくてもというのが率直なところである。サラの娘に対する優しさなど、主人公たるペイにも成功者としての余裕ゆえか、人間的な魅力が出てきてはいるものの、それでも、この探偵は「等身大」に愚か過ぎる。もっとヒロインは格好良くていいと思うのだが。(ところで、たっくんさんが驚愕した「クイーンたちの秘密」が、もしアレの事だとすると、これって、既に「公知の事実」なのではないでショッカー?>私信)。前作同様、米国出版裏話的興味で読む分には吉。それ以外はペケ。

(今月入手した本:44冊、今月処分した本:17冊、今年の増減+496冊)


2001年4月3日(火)

◆だらだら残業。南砂町定点観測。うう、雨が降り出しやがる。
d「人形館の殺人」綾辻行人(講談社NV:初版・帯)100円
d「黒猫館の殺人」綾辻行人(講談社NV:初版・帯)100円
d「世界SF大賞傑作選1」アシモフ編(講談社文庫:帯)160円
d「怪盗クモ団」Jレイ(岩波少年文庫)100円
100円縛りでやっていた綾辻の館シリーズ6冊、初版・帯クエスト終了。やってみると結構時間がかかってしまった。もう10年寝かせれば値がつきそうな気もするが、ひょっとしてもう旬は過ぎているのかもしれない。気合の入らないダブリ買いの1日。
◆帰宅すると落穂舎のカタログが到着している。うーむ、彩古さんもおっしゃっているが東方社の高騰ぶりに唖然。宇陀児あたり、普通帯つきでも5000円までだと思うよ。まあ「装丁がチープで楽しい」「本棚に並べると幅をとって立派に見える」といった特長も捨て難いのだが、なんといっても「見栄えほどには高くない」っていうのが一番可愛いところなのになあ。何冊か欲しい本もあるけど、途端に一桁高くなるというのは、こちらの探究レベルもそれなりに上がっているって事なんでしょうかね?
◆森下祐行さんが、運営されている「怪の会」ホームページのデータ部分を取りだして「ミスダス」なる翻訳ミステリDB系サイトを立ち挙げられた。便利便利。リンクで拙サイトも取り上げて頂いているが、うちって森下さんから「濃すぎてついていけない……」と言われるレベルでは決してございませんことですわよ。
◆MYSCON2のこれまでのところの参加予定者名簿がアップされている。ふふふ、古本者も沢山いらっしゃるわい。皆さん、僕は薄い奴なので優しくして下さいね。
◆掲示板のレスに使ったネタだけど、日記にも貼っておく。「貴方の古本人間度チェック」。半分Yesなら「古本野郎」、8割Yesなら「古本大将」って感じでしょうか?
1)古本屋でウハウハな思いをする夢を見たことがある
2)血風本を手に入れた帰り路、人に取られるのではないかという不安感にかられる
3)飲食店や公共建築物よりも古本屋の位置で町並みを覚える
4)1冊90円だと「安い!」、1冊110円だと「高い!」と思ってしまう
5)他人の家に行くとまず本棚を見る
6)旅先でポケミスを読んでいる人を見ると声をかけたくなる
7)カーの入手困難本をそらで言える
8)「●●堂」とか「古●●」という看板に敏感に反応する
  (それが、はんこ屋だったり、古着屋だったりする経験がある)
9)既に持っている本を買った事がある
10)「自分は薄い」「自分なんか、まだまだ」と思っている


◆「月夜の晩に火事がいて」芦原すなお(マガジンハウス)読了
さて問題です。この作者の出世作の題名は次のうちどれでしょう?
(1)「青春デンデケデン」
(2)「青春デンデケデンデン」
(3)「青春デンデケデケデケ」
正解はこの頁の一番下。まあ映画化もされているので音で覚えている人も多いであろうが、ブックオフの百円均一コーナーで背表紙の文字面だけ見ている人間は結構ハズすかも。
閑話休題。「みみずくとオリーブ」が創元推理文庫に入った事で一気にミステリ作家としての認知度が上がってしまった「普通の小説家」の最近作が本日の課題本。梗概を書けばこうなる。
「因習の染み込んだ田舎町善音寺(ぜのんじ)。入り組んだ血筋を持つ旧家で起きる酸鼻な童謡連続殺人事件を町出身のニューロイックな私立探偵が追う。」
さあ、イメージして頂けたであろうか?で、実際に読んでみるとそのイメージはおそらく100%裏切られる。なんとも「のほほん」とした田舎推理小説である。こんな話。
愛妻を交通事故で失なってから、教師という職を捨て、浮き草の如き私立探偵稼業を始めたぼく・山浦歩(あゆむ)の元に「やまねこのママ」から奇妙な依頼状が届く。手紙の主が幼い頃一緒にお医者さんごっこに興じた脇屋志緒である事に気づいた時には、ぼくは既にこのへんてこな見立て猟奇殺人事件に巻き込まれていた。自分が生まれ育った瀬戸内の田舎町<善音寺>に向ったぼくは、志緒から、彼女の妹・奈美の夫であると同時に、志緒のパトロンでもある岩松第一郎が受け取った謎の手紙を見せられる。それには、善音寺に伝わる童謡が書かれていた。
「月夜の晩に、火事がいて、水もってこーい、木兵衛さん、金玉おとして、土ろもぶれ、ひろいにいくのは、日曜日」。
だが、肝腎の第一郎と遭えぬまま、岩松家の執事を自任する幼馴染・岩松畝一たちと旧交を温め、最初の夜を過ごしたぼく。そして、夜明け前に惨劇は起きた。逗留していた木兵衛屋敷が燃え、更に翌朝、第一郎と畝一の死体が発見されたのだ!そして第一郎の死体からは性器が切り取られていた。呪われた見立て殺人の真相とは、果して?懐かしい、余りにも懐かしい風景の中で記憶の断片が蠢き、どこか頭のネジの緩んだ女たちに翻弄されながら、因縁と心の迷路をふらふら辿るぼく。ああ、頭の中で電話のベルが鳴る。
岩崎省吾の一連の「ふるさとミステリ」には、どこか余りにも「田舎礼賛」な押し付けがましさを感じたものだが、この芦原作品における「田舎の良さ」はどこまでも自然体である。それぞれに心の傷を負った者たちが繰り広げる一風変った怨念ゲームは、まさに横溝正史の世界そのものである。しかし、この全編を覆うのどかさは一体なんなのだ?探偵自身が、死んだ筈の妻と頭の中で語り合う、という病み方も何故か悲惨さよりも可笑しさが先に立つ。フーダニットとして楽しむには、やや脇が甘いものの、少々淫乱症のやまねこのママや、上品に文法が狂ったイミコさん等、魅力的なキャラたちと知り合いになるだけでも、読む値打ちのある「田舎小説」である。「あれって結構面白いんだよねえ」と判る人だけで楽しみたい類いの作品。だから無理にはお勧めしません。いっひっひ。

(今月入手した本:11冊、今月処分した本:17冊、今年の増減+463冊)


2001年4月2日(月)

◆日頃出入りしている団体が4月1日を期して事務所移転。紅白ワインをぶら下げ、課を挙げてお祝いに行く。移転先は緑に包まれたピカピカのインテリビル。スマートで威厳に満ちた入り口、広大なフロアに居並ぶ人間工学に則した什器と最新鋭のAVC機器、機能的な会議室、落ち着いた雰囲気の談話室、ああ、羨ましい。何が羨ましいって、場所が新御茶ノ水である。神保町まで徒歩5分!これぞ、夢の職場!!さあ、気合いれて出張すっぞー。>おいおい
◆だらだらと残業。駅ワゴンのチェックのみ。何もなし。購入本0冊。


◆「弱虫チャーリー、逃亡中」DEウエストレイク(ポケミス)読了
今や押しも押されもせぬユーモア・ミステリの大家として信頼のブランドを誇るウエストレイクの最初のユーモア・ミステリ。デビューから数作は実に真っ当なハードボイルドで勝負してきた作者の転機となった作品である。私がポケミスを買い始めた頃は、書店の棚に常備されていた(ちゅうか、売れ残っていた)この作品も、今や入手困難作。文庫落ちしていない事もあって、新しい読者にとってはそこそこ入手に手間がかかる本である。まあ、「警官ギャング」あたりの競争率の高さはないが、みかけたら絶対「買い」である事は確か。なにせ「ない」だけではない。読んでも「面白い」のである。こんな話。
おれ、チャーリー・プールは、伯父のアルバートから回してもらったバーテン稼業でノラクラ生活している、いわば普通の穀潰しだ。バーとしちゃあ赤字続きの店がやっていけてるカラクリはくわしか判っちゃいないが、たまに「預かりモノ」を合い言葉の主に手渡すサービスぐらいはやっている。ところが、ある夜の閉店間際、伯父貴の知り合い二人組がやってきて俺に「黒丸」を突きつけた瞬間に、俺の幸せなノラクラ生活はバッサリ終っちまう。「組織」が何故、この俺を?抹殺?冗談だろ?馴染みの巡査が一杯ひっかけに来てくれた事で九死に一生を得た俺は、バーから抜け出すと、伯父貴と連絡を取ろうとするが、そこで知ったのは「誰も信じるな」っていう有り難い教訓のみ。とりあえず数少ない友人宅に身を寄せた俺は「教訓」とともに得た手掛りを追って黒幕その一の自宅に忍び込む。ところがそこでもトラブルは俺をほっておいちゃくれない。殺し屋から追われ、殺しと誘拐の汚名まで着せられて、弱虫チャーリー只今逃亡中。求む、真犯人!!
謂れのない罪を着せられ暴力のプロから逃げ回る青年が、友人とそのガールフレンドの助けを得ながら、汚名を晴らすまでをユーモアとサスペンスたっぷりに描いた軽快な犯罪成長小説。危機また危機のストーリーテイリングの妙に酔う。更に、論理的に真犯人を指摘できるフーダニットでもあるところが、この作品の立派なところである。異常なシチュエーションによってのみ可能となる錯誤トリックが用いられており、なんと、クライマックスは「皆を集めて『さて』と言い」だったりする。中盤から相方を務めるクローという娘のキャラも立っており、主人公ともども爽やかな読後感を約束してくれる「ユーモア・ミステリ作家」ウエストレイクの原点。早川書房は速やかに復刊するように。

(今月入手した本:7冊、今月処分した本:17冊、今年の増減+459冊)


2001年4月1日(日)

◆森さんに交換用の林二九太を発送。
◆安田ママさんに、キャプテン・フューチャー・スターターセット納品のため、朝一番で、銀河通信コンビの勤め先へ。ママさんはお休みにつき、ダイジマン殿を呼び出してもらい、堂々新刊書店の中で古本を売ってくる。ぬはは。さすがに、買い物もせずに呼び出してもらうというのも何なので、1冊だけ定番を買う。
「憎悪の果実」S.グリーンリーフ(ポケミス)1100円
うーむ、新刊は高いのう。こちたらキャプテン・フューチャー16冊で2000円だと云うのに。帰ろうとするとダイジマン殿に呼び止められ、「このシリーズが要チェックですぜ」と教材棚のブツを紹介される。古い洋物サスペンス・ドラマのCDシリーズ。なるほどこれはノーチェック。でも、ちと値が張るので考え中。
◆先週に続き千葉のブックオフチェック。
d「女医スコーフィールドの診断」Hデンカー(文藝春秋)100円
d「ドルードルしよう」Rブライス(早川書房)100円
d「失われた過去」ボワロー&ナルスジャック(偕成社)100円
「天使の殺人」辻真先(大和書房:帯)100円
「地理面白事典」都筑道夫編(ごま21世紀ブックス)100円
「鹿の子昭和殺人事件」橋本昭(新風舎:帯)100円
わーい、森英俊氏ご推薦の自費出版をゲット。100円で押える事が出来てハッピー。全部で54頁だもんなあ。定価だと相当に躊躇する。半額の500円でやっと同人誌価格。「地理面白事典」は永年の探究本。はあ、これでもうゴマブックスをチェックせずに済むわい。
◆朝方にワセミスOBページの掲示板での森英俊氏と小林晋氏のやりとりを見てぶっ飛ぶ。やりとり自体は既に2週間近く前の話なのだが、「あなたまミステリ掲示板」に入っていない掲示板はつい覗き忘れてしまう。なんでも、シムノンには、「怪盗レトン」の前に別名義で4編のメグレものがあるという話。正直なところエイプリル・フールかと我が目を疑った。
Christian Brulls - Train de nuit [Night Train] 夜汽車
Christian Brulls - La figurante [The Extra]エキストラ
Georges Sim - La femme rousse
Georges Sim - La Maison de l'inquietude [The House of Anxiety]不安の家
うがああ、なんじゃあ、こりゃあ!おまけに、「不安の家」については、英訳版が堂々と全文ネット公開されているではないかああ(ここ)。フランスでは10年前ぐらいから「常識」だったみたい(なにせ、復刊されている)だが、全く知りませんでした。EQ掲載の「死の脅迫」でメグレは上がりだと信じきっていた。風の噂に「まだメグレものの長編があるらしいよ」とは聞いていたが、そうかそういう事かあ。ああ、もう贅沢は言わないから、ジャーロでもミスマガでもいいから、一挙訳載してくれええ(それが贅沢だちゅうの)。
◆4月新番組をチェックしていてまたまた腰を抜かす。なんと4月5日木曜日から「主任警部モース」がNHK−BSに登場。前々から放映希望の高かった作品。ああ、ついにモースの吹き替えが楽しめるぞお。ERも新シリーズが放映開始。「チャームド」、「ロストワールド」も必録だしなあ。ああ、この春はテープが何本あっても足らんぞお。それにしても、NHK−BSの目玉商品って、テレパルでは全然取り上げられないんだよねえ。NHKがステラ売りたさに情報を絞っているとしか思えない。ぶう。


◆「かれはロボット」草上仁(ハヤカワJA文庫)読了
「それでは、ここでクエスチョン。このサイトの主宰者が、出かける直前まで、何を読むのか決めていない日に、つい頼りにしてしまう作家とは誰でしょうかああ?」
「はいそれでは、坂東英二さんの答から開けてみましょう。」
『ミステリーのような』
「なんといっても、推理小説のサイトですから、まあ、ミステリーというか、クリスチーというか」
「では、クリスティーと書いて頂けますか。続いて野々村真君の答は?」
『江戸川らんぽ』
「僕も小さい時、良く読みましたから。ぼ、ぼ、ぼくらはしょーねん探偵だん〜」
「やあねえ、子供じゃないんだから、乱歩ぐらい漢字でかきなさいよお。」
「そう、おっしゃる黒柳徹子さんの答を見てみますと」
『草上仁』
「こまめに日記読んでいれば判る事ですから。何も予め答えを教えてもらっているわけではございませんのよ。おほほほほ」
「黒柳さん、ご正解。他の方々は没シュートとなります」
というわけで、困った時の「スーパー仁くん」である。この作品集でも、後書きで眉村卓が星新一に続いて熱烈なエールを送っている。なんとも「長老殺し」な作家である。アイデアといい、話の膨らませ方といい、実に素直にSFしているところが好感の源なのであろう。以下、ミニコメ。
「キーヴの墓堀り」全く犯罪の起こり得ない星で、何故か起きた墓荒らしはおぞましい奇蹟をもたらし、狂信的な生物学者は生命の企みに嘲弄される。とぼけた序盤、謎が自己増殖する中盤、そして鮮やかな解と皮肉。非常に良く出来たSF短編の見本。
「夢よもう一度」スーパーリモーション映画のヒーローとしてもう一稼ぎと思った宇宙探検隊が遭遇した驚異の<増幅器>。軽妙な語り口で、スペオペを凝縮してみせた手際の良さが光る。オチの切れ味の悪さを作品の構成でフォローするところはさすが。
「キャンペーン虫!」ホログラフィーで擬態する虫の遺伝子を操作して作られたキャンペーン虫の悪夢。星新一に本歌はあるが、そこに「虫」という題材を加える事で、マッド・サイエンティストものに仕上げた。
「空白の一日」うるう年を忘れていた人民国家の物語。意地を張りつづけた結果、払った代償はあまりにも大きかった。実にシャープな作品。翻訳ものの域。
「レッド・アンド・ブルー」一種のロボット・ユートピアもの。ラストのブラックさが吉。
「あてようか?」都筑道夫風メタ・ホラー。転写式ワープロリボンというのが時代を感じさせる。ハイテクから古くなるよなあ。
「いたずら電話」ネットワーク上に死せる天才の仕掛た時限<爆弾>が10年のカウントダウンを終えて炸裂する。これはまんまと一杯くった。これも翻訳もののレベル。
「暗号」よくあるコンピュータ対暗号ものではあるが、このオチは誰かやってません?やってないとしたらよくぞ今まで残っていたものだ、と感心する。
「魂の問題」一発ネタの小噺。こんなのも書けまっせ、という自信が不敵。
「かれはロボット」表題作。ロボットを営業活動に使えるか、という大命題に正面からチャレンジした佳編。生き馬の目を抜くセールスたちの闘いが笑える。お笑いでありながら、この作品の伝える寓意は痛い。

(今月入手した本:7冊、今月処分した本:17冊、今年の増減+459冊)


4月3日のQの答:(3)