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2001年3月31日(土)

◆昨年日本一に輝いたプロ野球チームと、昨年、甲子園で最も勝ち星をあげた高校野球チームのエキビジョン・マッチが東京ドームであった模様。スコアは17対3とか。まあ、しょうがないねえ、高校野球だもんねえ。健闘したんじゃん。どこの高校?兵庫県かあ。ふーん。阪神高校?ふーーん、むかふーーーーん。
◆ひぇええ、雪だよ、雪!!本来ならば絶対に動かない日和なのだが、約束があったので、冬支度で出陣。「さあ、出るぞ!」と思った瞬間、森英俊氏から小包が届く。「あれれ?何かしらん?」と思ったら「いつになるか判りません」と言われていた交換本ではないかいな。うわああ、こちらが全く対応できていないのに、無茶苦茶仕事はえーーーっ!ありがとうございますありがとうございます。
「刑事」Bフリードマン(白水社)
"THE RAT BEGAN TO GNAW THE ROPE"C.W.GRAFTON(PERENNIAL LIBLARY)
"THE BIRTHDAY MURDER"L.LEWIS(PERENNIAL LIBLARY)
"DEATH AT CRANE'S COURT"E.DILLON(PERENNIAL LIBLARY)
"TRAVELLING BUTCHER"A.CAMPBELL(COLLINS/WHITE CIRCLE POCKET NOVEL)
"HE CAME BY NIGTH"A.GILBERT(COLLINS/WHITE CIRCLE POCKET NOVEL)
"THE SHADOW OF THIRTEEN"J.J.FARJEON(COLLINS/WHITE CIRCLE POCKET NOVEL)
"NORDENHOLT'S MILLION"J.J.CONNINGTON(PENGUIN BOOKS)
"MURDER BY BURIAL"STANLEY CASSON(PENGUIN BOOKS)
"MAX CARRADOS MYSTERIES"E.BRAMAH(PENGUIN BOOKS)
どあああ、またもって、ビンテージPBの山!グラフトン(親父)に、ランジ・ルイスにエリス・ディロン。それにコニントンの処女長編(非ミステリ)なんて、あるんですねえ、こんな本。いやあ、びっくりビックリびんびん。ああ、なんと御礼を申し上げて宜しいやら。もう一度、ありがとうございますありがとうございます。またしても「オキアミで鯨」な交換でありました。
◆街に出たので、新刊雑誌1冊購入。
「SF Japan 2号」(徳間書店)1600円
うひいい、これが雑誌の値段かい!?
◆桜に雪のそぼ降る中、用事をすませ帰宅途中、一駅手前で食料を仕入れに下車。あ、ワゴンが出ているではないか!!しかも本日最終日とか、うがあ、しまったなあ。結構よさげな新書の古いゾーンが並んでいるじゃないの。初日は相当美味しかったのかも。拾ったのはこんな所。
「愛と青春のサイバイマン」藤井青銅(徳間NV・MIO)100円
d「新宿心中」藤原審爾(実業之日本社JOYノベルズ)100円
「夕映え天使」高橋玄洋(カッパNV)100円
「赤ちゃんは敏腕刑事」丸茂ジュン(桃園書房)100円
「青い薔薇」中田耕治(評論新社)100円
うおお、やったぜ、徳間のMIOがM1だ!残すところ今野敏1冊の筈。まあ、だからどうしたではある。丸茂ジュン作品は、相当「変」なお話の模様。背表紙にはユーモア・サスペンスとあるが、扉には長編現代小説ときたもんだ。中味は、娘の赤ん坊(要は孫ですな)に転生した刑事の物語らしい。ああ、だからどうした、ではあるよなあ。「青い薔薇」は副題「世界の恍惚描写コレクション」。単なるポルノ案内である。誰か要りませんか?川口さんあたりは勿論既にお持ちなんでしょうなあ。


「小鬼の居留地」CDシマック(ハヤカワSF文庫)読了
優しいSF作家シマックが、60年代後半に世に問うた小粋なファンタジー長編。題名を見ただけで、何かワクワクしてくるではないか。そう、このお話には、ありとあらゆる想像上の生き物が登場する。今でこそ、RPGでお馴染みなったゴブリン、ノーム、バンジー、トロール、ブラウニー、そしてゴースト。まだ彼等がRPGの約束事に縛られ記号化したモンスターではない頃の物語。凡百のヤング・アダルト作家は、せめてこの話を読んでから作家を志して欲しい。いやまあ、こんな作品を読んでしまうととても自分で同工異曲をやろうなどとは思えなくなる事請け合いなのではあるが。60年代後半のアメリカといえば、一方ではアポロ計画の夢があり科学の勝利があった。そしてまた一方では、泥沼の如きベトナム戦争へと突入していった時代でもあった。そんな現実の向こうで斯くも「新しい皮袋に古き酒を盛る」が如き作品をものしたシマックは筋金入りの夢見屋である。64歳のおじいさんにこんな話書かれちゃかなわないよなあ。こんな話。
タイム大学ウィンスコンシン・キャンパス所属超自然現象学部准教授ピーター・マックスウェル、帰還。クーンスキン星系に竜が出るという噂を聞きつけ、転送機で跳んだ先は、何処とも知れぬ純粋知性の透明星。そこでとあるミッションを仰せつかり懐かしの地球に帰ってきた彼は衝撃の事実に直面する。なんともう一人のピーターが数ヶ月前に既に帰還し、加えて自動道路で原因不明の死を遂げているというではないか!魔法を掻い潜り、辿り着いた自分のマンションは、既にサーベルタイガーをペットにする女性歴史研究家キャロルに転貸され、大学では失職の憂き目。そんな彼を支えてくれるネアンデルタール人の友人と正体不明のゴースト。だが、彼が護るべきタイム大学が所蔵する謎の「古代石」はチャーチルという三百代言によって買い取られようとしていた。長閑な幻想界と自然の汽水域に迫り来る姿なき敵。暴走する車輪は蟲たちの想い。シェークスピアは陽気に踊り、未来の画家は時を抜ける。数百万年の封印が読まれた時、放たれた勇姿にエールをあげよう。大団円はここにある。
物質転送機と魔法が同居する未来。異界を吸収した「地球の今」がなんとも長閑でなんとも楽しい。「自分殺しの犯人捜し」というプロットを今から30年以上前にやっていたシマックのエンタテイメント心は賞賛に値しよう。そして、良く出来た物語がそうであるように、この作品でも、ラストの一歩手前まで「自分殺しの犯人捜し」ミステリである事を忘れさせてくれる。本作に登場するキャラクターはすべてが空想世界の住人でありながら、実にゆったりとした存在感のオーラを放っている。こんなキャンパスからは間違っても学生運動は起きないであろう。「優しさが足りないなあ」と思った時には是非お試しあれ。

(今月入手した本:206冊、今月処分した本:17冊、今年の増減+469冊)


2001年3月30日(金)

◆年度末。レイアウト変更でバタバタ。まあ、3m移動しただけなのだが、部員総出で「えんやらや」。机は脇机のみの変更、電話もPHSを持って移動するだけと、10年前に比べればラクチン、ラクチン。まあ、10年前は、全部業者任せだったような気がしなくもないが。費用処理や文書の清書なんかもそうだけど、結局OA化って、他人任せにしていた作業を全部自分でやる、って事なのよねえ。
◆久しぶりに神保町へ。まあ、就業後の事なのでゆっくりとは見て回れない。巡回コースの大島書店とRBワンダーが4月に店舗を移動するらしい。ふむふむ。買ったのはこんなところ。
d「沈黙部隊」Dハミルトン(ポケミス・フォトカバー)150円
d「頭のよくなる本」林高(光文社)100円
「驚異のスパイダーマン」ウイーン&ウルフマン(ハヤカワ文庫Jr.)500円
「地下の怪寺院」Jレイ(岩波少年文庫)200円
「野獣の標的」加納一郎(文華新書)200円
「愛のふりかけ」草上仁(角川書店)800円
ポケミス・フォトカバー一歩前進、って集めてるのか?まあ、高値掴みしないよう自分を戒めつつボチボチやっております。はい。ハヤカワ文庫Jr.は、やっとこM1。これも高値掴みしないようボチボチやっとります。草上クエスト一歩前進。うーむ、なんと2段組400頁の大長編ではないかいな。探している本を半額で手に入れておきながら「なぜ、100円棚ではないのか。ちっ」と反射的に感じてしまう自分が怖い。ああ、リサイクル系に飼い慣らされている。草上仁は、あと「天空を求める者」「星売り」でいいのかな?こういう、探すとはなしに探している本があるという状態がシアワセ。


◆「グリュン家の犯罪」ジャクマール&セネカル(ポケミス)
Y.K.氏(QUEEN'S PALACE)の掲示板で同じ作者の「『風と共に去りぬ』殺人事件」が話題になっていたので、いっちょ噛み。そこで調べ物をしたところ、なんと、このコンビ作家の翻訳がポケミスに入っていた事を再発見。それまで、「『そして誰もいなくなった』殺人事件」と上記のみしか訳出されていないと信じきっていた私はまさに頭をぶん殴られたようなショックを味わった。これが、扶桑社文庫や、二見文庫のような「OUT OF 眼中」な叢書であればまだしも、なんと偏愛してやまぬポケミスであったというのが痛恨。ポケミスの題名は、だいたい記憶の何処かに引っ掛かっているのだが、作者名はあやふやという事を改めて思い知らされた。ああ、精進せねば。そういう自戒を込めて、このコンビ作家の日本発紹介作を持って出た。まあ、仏ミステリらしくポケミスにして170頁という薄さも「1日1冊野郎」にとっては魅力だったのだが、なんと、なんと、これが嬉しい拾い物!仏ミステリ、侮り難し!こんな話。
ドイツ国境近くの町ストラスブールの小ベニスと呼ばれる川の入り組んだブチ・フランス地区。その河岸に女性の死体が浮かぶ。が、目撃者達が一旦、居酒屋に集まり、警察とともに現場に向ったところ、死体は「待ちくたびれたように」掻き消えていた。捜査の指揮を執るのは都会育ちのデュラック警視。目撃者の証言から 消えた死体の主は、街一番の有力者グリュン家の当主ヴォダンの長男ドニの婚約者にして同棲相手のディアナである事が確認されていた。早速グリュン家に向ったデュラック警視は、そこで、昨晩、被害者がドニと口論した結果、家を飛び出し行方知れずとなっていた事を知る。だが、なんと、ディアナの死体は、グリュン家の 1階にあるヴォダンのアトリエで警視を待ち受けていたのだ!不可解な死体の移動は警視に事件が殺人である事を確信させる。独裁者たる当主、その歳若い後妻、共産思想にかぶれた長男、芸能プロデューサーの長女、それぞれに異彩を放つグリュン家の人々には鉄壁のアリバイがあり、彼等をとりまく街の有力者たちには動機も機会もない。果して、エネルギッシュで美しい娘の命を奪ったのは誰?そして何故?水の街に殺意は打ち寄せ、更なる犠牲者の血を求める。
歴史の回廊とも言える水の街の描写が嬉しい本格推理。はんなりとユーモラスな序盤から、地道な関係者の訊問が続き、ラスト10頁で華麗なる論理のアクロバットが炸裂する。和物ミステリの洗練されたアリバイトリックに慣れた日本の読者には、やや物足りないかもしれないが、フランスミステリで、これぐらいやってくれれば 及第点である。「シムノンのキャラ設定でクリスティーが書いたような」とまで言うと褒めすぎかもしれないが、読者を騙してやろうという作者達の稚気が頼もしい。死体移動のWHYがやや甘いが、一瞬何が起こったのか呆然とする快感はあった。お勧め。

(今月入手した本:190冊、今月処分した本:17冊、今年の増減+453冊)


2001年3月29日(木)

◆八重洲地下街の金井書店の新装開店プレオープンの案内状が来ていたので、雨の中、覗きに行く。改装前は100円均一棚がちょっと嬉しいお店だったので、さて、どうなったかしらん?と胸弾むものがあったのだが、結果は悲惨。内装は本屋もビックリの美しさ。小洒落た感じが、月刊「店舗経営」(ここ適当)のグラビアって感じ。しかし並んでいる本は、思わず笑っちゃうぐらいしょぼい。あれが、わざわざ、プレ・オープンの案内状を出す程の在庫かい!?ったく。「いらしゃいませ。ご招待のお客様でいらっしゃいますね。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」と地下3階へのエレベータに案内され、着いた先には見渡す限りの書棚また書棚!!ああ、雑誌棚には新青年が1冊千円で、あああ、こんなところに鷲尾三郎の帯付きが500円で、うおおおお、洋書コーナーには、ノーマン・ベロウの美本が3千円で並んでいるではないかああ!!そして100円均一コーナーではポケミスの100番台初版やフォトカバー付きがゴロゴロ、なーーーんてのをちょっとは夢想した私がバカでした。ええ、バカでしたとも。こと推理小説とSFについて申し上げれば、拙宅のダブリ棚の方が十倍凄いわい。ぷんすか。購入本0冊。
◆キャプテン・フューチャー・スペシャル録画完了。既に「♪録るだけ、録ったら、見っなーい」モードに突入しつつある。


◆「妖異金瓶梅」山田風太郎(桃源社ポピュラーブックス)読了
告白しよう。実は山田風太郎は、全くと言っていいほど読んでいない!
ああ、ストラングル成田さん、ごめんなさいごめんなさい。許してください、今迄、ただ買うだけの男だったのです。でも、これから殆ど初見で読めるんです、どーです、羨ましいでしょう?いひっひっひ、とアンビバレンツな私である。とりあえず、今の新しい読者は日下三蔵氏のおかげて「探す」手間が掛からずに済むが、一昔前までは忍法帖以外の作品を「読める」状態にもっていくのにもそれなりの手間とヒマがかかったものである。まあこの「妖異金瓶梅」は忍法帖でないにもかかわらず角川文庫の桃背で出ており、比較的入手容易な1冊であった。ただ何故か宝石に3分載された「銭鬼」だけが収録されておらず、マニアは、この桃源社版以前の版を探すとか、掲載誌をまとめ買いする等の努力を払ってきたわけである。
閑話休題。数多い風太郎作品の中でも、異彩を放つこの「妖異金瓶梅」。原典たる「金瓶梅」や「水滸伝」に登場する大好色漢の富豪・西門慶の屋敷を舞台に、その美しき夫人たちや、娼妓、稚児、使用人、食客どもの繰り広げる恋慕、諍い、情痴、怨嗟、篭絡、嫉妬、色欲、猟奇、そして推理の物語全15編。正直なところ、中国古典に対する素養の欠片もない人間が語るには些か荷が重い作品集である。勿論、ツイストの効いた猟奇殺人譚として楽しむ分には必要十分。連作短編でありながら、後ろの4編は、主役達を徐々に退場させ、縺れた因縁に決着をつけるとともに全編を一つの叙事詩に編み上げる構成をとっており、長編読みにも満足感を与える作品に仕上がっている。軽妙なる幇間「名探偵」・応伯爵と、驚異の大淫婦・第五夫人の潘金蓮というメイン・キャラも見事な立ちっぷり。また第2作品以降はフーダニット興味を殆ど捨て去り、ハウダニットとホワイダニットで勝負するという点でも異色な連作推理小説集である。該博なる知識と破天荒にして奔放な想像力と緻密なプロット、そして練達の語り口と、ある意味、奇想作家にして、時代作家にして、推理作家である山田風太郎の精華ともいえる作品集。風太郎初心者としては、とりあえず読んでおきたい作品集である。そして、風太郎研究家が最後に帰ってくる作品集なのかもしれない。傑作。以下、ミニコメ。
「赤い靴」シリーズ開幕全員集合。第七、第八夫人の足を斬り、逐電した脚フェチの使用人の猟奇に秘められた奸計。世界一いい加減な探偵が告げる、世界一おぞましい犯行動機に、世界一美しい犯人は艶然と微笑む。完璧な短編推理。
「美女と美童」さて中国といえば宦官。紅顔の美童が睾丸を取られ男偏の嫉妬が燃え盛る時、世界一いい加減な探偵は、またしても意外な犯人を指摘する。だが、その裏でほくそ笑む者がいた。何気ない会話が凄い。夜の暗闇が深い。
「閻魔天女」西門慶の娘夫婦が寄宿する間に起きる恋情のフラッシュ・バック。かつての使用人が義理の母として姿を現した時、愚か者達は詭計の檻に誘い込まれる。パターンを確立した一編。
「西門家の謝肉祭」贅を尽くした饗応の果て、食い道楽の上流夫人が墜ちた地獄。宴は、豚の腹を裂き、金蓮は艶やかに肉を差し出す。むしゃむしゃごっくん。アイヤー、これ、中国三千年の特別料理あるか?
「変化牡丹」画家のモデル合戦の最中、蜂の一刺しが美貌を奪う。やがて正気も奪われた時、雪のような猫の前で、血の雨が降る。シリーズ中、最も大胆なトリック小説。犯人が分かっているだけに「不可能性」が募る。伯爵の絵解きには唖然愕然。
「銭鬼」最強の吝嗇家対世界最強の妖婦との対決。さて軍配はどちらにあがるか?!という興味でもつなぐコンゲーム小説。悲惨を笑う力がある。なぜ、この作品が現行の本から省かれているかは謎。ラストなんてもう爆笑でっせ。
「麝香姫」西門慶への意趣返しか、雲を突くような巨人が彼と売れっ子娼妓を追いつめる。香りの煉獄へ誘う計略が我が身に戻る時、あまりにも身勝手な台詞が名探偵を震撼せしめる。
「漆絵の美女」幼いライヴァルを貶める悪意の罠。オカルトを支える医学知識が頼もしい。
「妖瞳記」見てはならないものを見た女は、見る事が出来なくなる。来る事ができない筈の「神の手」によって。思わず「やられた!」と膝を打つ。伏線は目の前にある。だから見えない。
「邪淫の烙印」キリスト教徒 meets 潘金蓮。妖しの予言者が裁く時、嫉妬は奇蹟を模倣する。ゲストキャラといい、最後の怪異現象といい、若干番外編の趣。しかし、このトリックは物理的にいかがなものか?
「黒い乳房」疑心暗鬼。鬼さんコチラ、手のなる方に。なった先で煮え湯を掛けよ。見取り図が出た瞬間、トリックに見当がつくが、それは作者の思う壺でもある。また、やられちゃったよ。金蓮の分身がそろうりと本領を発揮し始める。
「凍る歓喜仏」心神耗弱に陥った艶福家。彼を追いつめる復讐者。そして第五夫人は氷の中で溶けてゆく。生と死とそして愛のドラマである。シリーズ読者はここで面食らう。
「女人大魔王」愛は愛しき者とともに眠る。そして愛は総てを奪う。愛しい者の埋葬を巡る女たちの闘い。最後に勝利する者はやはりあの女であった。たとえそれが虚しい勝利であっても。作者はまだ推理小説である事を捨てていない。
「蓮華往生」死に至る悪魔の媚薬を巡る英傑と妖婦の肉弾戦の果てに純愛の徒花が咲き誇る。その華の名を呼べ。そして泣け。潘金蓮逝く。
「死せる潘金蓮」愛欲の泡沫、人の心は移ろい、信義は地に落ちる。乱れた街に淫風が立ち込める時、西からの脅威が総てを薙ぎ払う。なぜか中国古典は泰西艶書「バルカン戦争」風のエンディング迎え、死せる潘金蓮は、生ける道化を走らす。

(今月入手した本:184冊、今月処分した本:17冊、今年の増減+447冊)


2001年3月28日(水)

◆経済産業省系の公益法人で「ソーラーシステム振興協会」という団体がある。<ソーラーシステム>というのは、屋根の上にパイプを這わせ中の水を太陽熱で温め、給湯に使うという装置。オイルショック後の一時期もてはやされたが、その後、訪問販売のトラブルなどでケチをつけ(朝日ソーラーとかね)、廃れてしまったシステムである。時代は太陽光発電であり、今更、太陽熱温水機ではないのである!ないのではあるが、私はこの法人の名前が実に実に好きなのだ。愛しているといってもよい。そう、原書でSFを読んだことの在る方なら、御存知であろう。英語でSolar Systemといえば「太陽系」のことである。すなわち!「ソーラーシステム振興協会」は恐れ多くもかしこくも、「<太陽系>振興協会」なのである。ぶっひゃっはっはっ。港区西新橋の雑居ビルにある「<太陽系>振興協会」!!ああ、なんとも素敵な響きではないか!!
…遥か未来、人類は宇宙の果てにまでその版図を広げ、首都は渦状星雲の中心にある。人類発祥の地は既に忘れられた一辺境に過ぎず、観光収入が唯一の糧。「こりゃあいかん!」「テラ興しぢゃ!」「一星一品ぢゃ!」、というわけで作られた団体こそ「<太陽系>振興協会」!てな、鄙びた感じが好きなのよお。「太陽系音頭」とか作ったりしてさあ。♪そーれー、そーらー、来て、そーらー
というわけで、キャプテン・フューチャー第2話も録画できたぞお。
◆ご接待。相当の酩酊状態で近所のブックオフチェック。
d「わが王国は霊柩車」Cライス(ポケミス)100円
d「はなれわざ」Cブランド(ポケミス)100円
d「案外まともな犯罪」Jポーター(ポケミス)100円
「神風特攻第一号」幾瀬勝彬(光風社書店)100円
「南溟の砲煙」高橋泰邦(光人社)100円
「螺旋階段のアリス」加納朋子(文藝春秋:帯)100円
ポケミスのお勧め定番ゾーンを拾う。ああ、安い!この辺って何故か文庫落ちしてないんだよねえ。幾瀬勝彬と高橋泰邦の「ジャンル外」を掴む。幾瀬本は初見。へえ、この方、戦闘機乗りだったんだ。ほほーっ、知りませなんだわい。高橋泰邦のホーンブロア外伝ってもう1冊あるんだよな、確か。加納朋子のバリバリの新作が帯付きで100円。やってしまいました。まあ、この1冊で元はとったかな。


◆「マンハッタン・オプ1/凝った死顔」矢作俊彦(光文社文庫)読了
ラジオに嵌まっていたのは、中学2年から高校2年頃まで。生まれも育ちも関西の人間としては、AM民放系の話題が関東の人間と噛み合わず、そんな時はとりあえずFMで話を合わせる。当時のFM民放は実質全国1局のようなものだったので、所変れど、聞いている番組は同じ。マンハッタン・オプも「ジェット・ストリーム」までの繋ぎで、毎晩必聴の番組であった。23時からABCのヤンリク聞いて、23時半からFMの小室等、45分頃から「マンハッタン・オプ」、0時から「ジェットストリーム」というのが基本的パターン。だいたいジェットストリームの途中で爆睡するのが通例で、昔から(中高校生にしては)早寝であった。さて、「マンハッタン・オプ」である。思えば、当時バリバリの本格至上主義者だった私になんとなくハードボイルドの「形」を教えてくれたのがこの番組であった。当時、必読本として挙げられていた「長いお別れ」の饒舌ぶりに辟易とした人間にとっても、すこんと腑に落ちていく快感があった。なんてたって短いのがいいやね。改めて小説として読んでみると、それなりに逆転の妙味があって、矢作俊彦も頑張ってんじゃん、というのが素直な感想。初心者にハードボイルドを勧めるのにはもってこいの短編集ではなかろうか。以下、ミニコメ。
「You do something to me」軍属の一家の肖像。破廉恥な娘が誘拐された時、厳格な母は命懸けの企てに挑む。終始、雪の中の話でありながら「熱い」作品。
「You'll never know」画家が「買った」少年の首を絞める。しかし私がその部屋に向った時には誰もいた痕跡すらなかった。ラストが爆笑のホモ達の物語。
「Wrap your troubles in dreams」1500ドルに目が眩み、主義に反するボディガードをひきうけた私。だが依頼人はものの見事に頭を吹き飛ばされる。逆転の構図の中で私が辿り着いた真相とは?骨のようなプロットながらラストは哀切。
「Satin doll」美女に呼び出された私の前に転がる中年男の死体。美人局に隠された欲望と死の二重奏。よくぞこの長さにこれほどたっぷりの見せ場とプロットを詰め込んだものだ。普通なら長編のプロットだと思うぞ。
「For once my life」二流レスラー崩れから依頼された女捜し。タフな男達と気紛れな女の物語。典型的男性賛歌・女性蔑視作品。ミステリじゃないんだけどいいんだよねえ。
「Thank for memory」マルタの鷹のレプリカを追う私。一種のパロディ作品だがしたたかである。マルタの鷹のネタバレあり(笑)
「Ghost of a chance」戦前のビンテージ・ブランデーの警護を頼まれた私はフランスへ飛ぶ。富豪と大統領補佐官の意地の張り合いが可笑しい大人の御伽噺。
「All alone」ロシア系移民の物語。安物の十字架に秘められた「宝」の謎とその窃盗犯を追う私。冷戦の影響なのか、あまり語られる事のないアメリカの中のロシアという設定が新鮮。
「Secret love」女蕩らしの舞台俳優の死と3人の娘の物語。箱入り娘の純粋ぶりが最高である。「私」ならずとも、この娘は護ってやりたくなる。まあ、一種の蔑視なんだろうが、結構同性からも愛される天然タイプと見た。話も結構ミステリしてます。
「The shadow of your smile」千の窓から、弟を探せと依頼する姉。私が苦心の末、辿り着いた棲家には死体が待っていた。これも、長編にして欲しいプロット。逆に短編では、このツイストはちと辛い。

(今月入手した本:184冊、今月処分した本:17冊、今年の増減+447冊)


2001年3月27日(火)

◆この春最悪の花粉症。特に午後からは人間廃業状態。鼻水がとまらない。鼻をかむ合間にキーボードを叩いている。鼻かみ4に対して仕事1ぐらいの比率であろうか。そういう日に限って、21時過ぎまで残業。ダッシュで帰宅してミスコン2に申し込み。無事受け付けられた模様。参加についてはかなり迷ったのだが、黒田研二氏がゲストというのを見て腹を括る。インタビュアーによってはかなりの爆笑が期待できそうである。握手してもらって、サインしてもーらおっと(みーはー)。私にしては珍しく、上梓された2作品とも新刊で買っているので鼻高々である。あ、いかん、「鼻」と書いただけでむずむずしてきやがった。ううう。あ、そうそう、勿論、購入本0冊である。
◆職場の1年先輩のアタッシュケースからフォーサイスのペーパーバックが覗いていた。なんでも英語に少しでも慣れるために、読んでおられるのだそうな。うーん、ビジネスマンの鑑。あたしゃ、とてもそういう動機で原書を読む気にはなれない。本当は、読みたい原書は山のようにある。そもそも、この歳になってミステリ熱が復活したのは、森英俊氏によって、原書購読の面白さを教えてもらった故である。「ああ、まだ世の中には、斯くも豊穣なる満蒙の大地が広がっていたのだああ」という思い故である。しかし千冊単位で原書を持っていながら殆ど読めていない私はなんなのだ?このサイトも、もう少し原書のレビューとかやるつもりだったのに、「1日1冊」にかまけて全く出来ていない。テレビ・コーナーに至っては、開設以来ほったらかしだし、「1日1冊」を止めてでも、もう少しリストを充実させなきゃなあ。
原書レビューといえば、「ハサミ男」や「黒い仏」の殊能将之氏のサイトで、イネスの『アプルビイズ・エンド』(Appleby's End, 1945)のレビューが掲載されている。で、ここでのイネスの評価が素晴らしく「判ってらっしゃる!」なのである。原書講読趣味の方は是非御一読あれ。そうそう、俺ってば、こういうのやりたかったんだよなあ〜、でっきないんだよなあ〜、という羨望に身悶えてしまうサイトであった。この原書レビューを読んで私の殊能将之氏に対する評価は、3倍ぐらい上がってしまった。


◆「久遠堂事件」太田忠司(徳間NV)読了。
新本格のシリーズものでは、かなりリアルタイムに近いペースで読んでいる狩野俊介モノの第12作。奥付けを見ると2000年12月31日初刷である。つまり20世紀最後の推理小説ですな。ただの偶然か、作者の茶目っ気かは不明。無性に他に幾つぐらい「20世紀最後の推理小説」があるのか気になるが、何せ新刊というものが殆どない家なので、如何ともし難い。皆様も是非、お手持ちの12月刊・1月刊の本の奥付けをご確認ください。そもそも、このシリーズを読み始めた切っ掛けは、単に「表紙絵や挿し絵が可愛い」という単純にしてミーハーな理由であった。後は、なんとなく主人公チームのその後が知りたくて惰性で読んでいる状況。勿論、推理小説としても、それなりの品質が確保されているのも、購読継続の動機ではある。「奇矯な金持ちが、変な建物をたてて失踪し、俊介が乗り出すと残された家族の間で殺人が起きる。」というお約束も慣れてしまえばそれはそれで心地よい。この12作目では、作者は意欲的に「流血の惨事」を演出してみせた。こんな話。
アキの知人の塾講師・中井田靖から2年前に失踪した父捜しを依頼される野上と俊介。中井田の父、邦泰は立志伝中の人。小さな造船所の社長の女婿として経営を任させるや、会社を日本を代表する財閥企業にまで育て上げた。が、数年前に引退しとある村で隠遁生活を営んでいたかと思うと突如、巨大な涅槃像を建設。その完成とともに謎の失踪を遂げていたのだ。時あたかも、涅槃像をくり貫いて建造された「久遠堂」の披露が、邦泰の長男保時により行われ、野上は涅槃像の内なる久遠堂で中井田の親類縁者とともに一夜を過ごす。だが、釈尊の入滅を象った体内で、復讐の「天狗」は血臭の中で舞い、密室に消え、そして白骨となって現われる。一族の長男、長女の婿、長女の三女、あまりにも多くの犠牲者を出した惨劇の真の狙いはどこにあったのか?涅槃像建設と神隠しに秘められた謎を暴くため、駆けろジャンヌ、推理せよ狩野俊介!醜い欲望を解脱へと導くために。
涅槃像と久遠堂に纏わる展開に新味があって読ませる。俊介の推理も見事だが、伏線については、少々飛躍しすぎ。ここから、あの結論を出せというのは、ちと無理筋ではないかなあ。あまりにも警察がオマヌケに描かれたファンタジーであり、せめて野上探偵によるもう少し精緻な動機や機会の検証があって然るべき。どうも野上探偵も俊介の天才に「お任せ!」になりすぎだぞ。まあ、ファンにとってはそれでいいのであろうが。それでいいんです。ファンはどうぞ。

(今月入手した本:178冊、今月処分した本:17冊、今年の増減+441冊)


2001年3月26日(月)

◆朝、地下を大手町から日比谷にかけて抜けて行く。日比谷界隈の壁面が三共製薬にジャックされていて驚く。薬の歴史やドラッグストアの文化史などが写真や化学式でビビッドに展開されていて、結構楽しい。まあ、見飽きてしまうと辛いものがあろうことは想像に難くないが。それにしても、電車広告やスポーツ広告がジャックされるのは見てきたが、駅周辺が総て1企業にジャックされるというのは初めて見た。いろんな事を考える人がいるものだ。まあ言いたい事は「買え!」なんだけどさ。で、千代田線の日比谷駅にワゴン発見。わざわざ昼休みに覗きに行ってしまうところが病気である。買った本は2冊。
「スティームタイガーの死走」霞流一(勁文社NV)400円
「社長の女」源氏鶏太(桃源社)200円
あまりにしょぼいので、本屋で雑誌を購入。
「ミステリマガジン通巻542号」(早川書房)840円
「SFマガジン通巻541号」(早川書房)890円
「ジャーロ通巻3号」(光文社)1500円
HMMはオーストラリアン・ミステリ特集。ジェニファー・ロウが一行も語られていない特集なんぞ特集とは認めたくない。クラシック長編分載はラインハートの「黄色い間」。うーむ、ラインハートよりもエバーハートにして欲しかったですのう。SFMはもう止めてもいいなあ。頭の天辺からシッポの先までクラーク特集。全く思い入れのない作家なので、読むところがない。「ジャーロ3号」は、Fミステリー特集だそうな。ジェニファー・ロウが一行も語られていない特集なんぞ特集と認めたくない。一方、HMMの企画の焼き直しながら「映像化されたヒーローたち」はイイ感じ。エイモス・バークやハニー・ウエスト、マクミランなんかをきちんと取り上げていて好感が持てる。ハニーがバークのゲスト出演から始まった事も押えているし、マクミランの総本数が41本なんて始めて知りましたわい。という事はかなり日本未放映があるわけね?更にびっくりはバーク。スタートがディック・パウエル・ショーだったのは知っていたが、その脚本がリンクとレビンソンだったというのは初めて知った。スゲエ。結局、私の好きなテレビオリジナルの探偵「コロンボ」「ジェシカおばさん」「バーク」の3人ともリンクとレビンソンが生みの親だったんじゃないかあ。うっひゃああ。リンクとレビンソンといえば、私が尊敬してやまぬテレビ探偵ドラマ・ウォッチャーの小山正氏は「エラリイ・クイーン」をご覧になっていないとか。私も何本か録り漏らしているので、是非どこかでやって欲しいものである。
◆帰りがけに新橋駅地下で1冊拾う。
d「戦慄の十三楽章」鮎川哲也編(講談社文庫)300円
鮎川哲也収集スターターセット、一歩前進。


◆「奇憶」小林泰三(祥伝社文庫)読了
「レキオス」ショック以降軽い本しか読めなくなっている。今日の課題本は例の祥伝社380円文庫。角川ホラー大賞出身作家の中編。漢字二文字の題名が総てを語っていて吉。これはナイスなセンス。手垢のついた並行宇宙テーマを、とことんモラトリアムなダメ青年の自分語りで巧く纏めた。もともとが中編の得意な人なので、この祥伝社文庫の企画に良く馴染んでいるように感じた。というか、読者として「ああ、小林泰三の作品はこの長さだよねえ」と納得してしまうのであった。ダイジェストするほどの長さでもないが、一応こんな話。
確かに記憶の中で、月は二つ輝いていた。都会の一人暮らしで、徐々に腐っていく青年・藤森。キャンパス生活を謳歌したために幾つか単位を落した1年。勉強と遊びの二兎を追って滅びた2年。いつしか大学から足が遠のき、後はお定まりの転落コース。大学からは除籍され、友人からの借金は踏み倒し、田舎の親を欺き、ゴミに埋もれた部屋の中で時を無為に過ごす人生の執行猶予者。そんな彼が、ここにいる自分が本当の自分ではない、という思いに囚われるのは無理もない事であった。ただ一人残された友人はそう考えた。だが、恋人から決定的な別離を突きつけられた時、藤森の夢想は鮮やかな血肉を持ち始める。腐臭と泥海の中で「よもつしこめ」の試しは始まる。ヒトをヒト足らしめる「物心」が初期化された時、窓の外の月はどちらにでているか?
ダメ青年が実にしっかりと描かれている。大学進学を機会に一人暮らしをした事のある人ならば、誰しも思い当たるところがあろう。同世代感覚のダメぶりがなんとも懐かしい。プロットは今更だが、異界や異形の描写は及第点。「ショゴズ2号」なんていう言語感覚も宜しい。ただ、そろそろ意味もないクトゥルー趣味は卒業されてはどうか。総ての駄目な下宿生にお勧めしたい小林泰三の入門編。

(今月入手した本:178冊、今月処分した本:17冊、今年の増減+441冊)


2001年3月25日(日)

◆食器洗い回して、洗濯機回して、金曜日の日記書いて、溜りに溜まった送本作業に勤しむ。Y.K.さん、隼さん、膳所さん、宮澤さん、よしださん、中3さん、本日発送致しました。ついでに浪花のドクターてつおさんに、「俳優パズル」のカバーのカラーコピーを発送。お待たせいたしました。>私信
後は、選挙行って、テレビをボーッと見て、昼寝をして過ごす雨の日曜日。本が減った1日はとても心が平和である。
◆茗荷丸さんのサイトのURLを変更。


◆「手首の問題」赤川次郎(講談社NV)読了
赤川次郎は初期作を中心に20冊程度読んでいる。「三毛猫ホームズの推理」や「幽霊列車」といったあたりは、堂々たるマニア好みの不可能犯罪モノだし、「死者の学園祭」なんてのは、これまたジュヴィナイルとしては出色の出来栄えであろう。「マリオネットの罠」だって、フランスミステリの香気漂うニューロイック・サスペンスだし、仮に赤川次郎が10作程度しか作品を残さなくても、間違いなく日本推理小説界において揺るぎない評価を得たであろう。だが、ネットのミステリサイトを見渡しても余りその評価を行っているところは見当たらない(謎宮会の戸田氏あたりが例外中の例外で識者ぶりを誇っている程度かな?)。売れすぎるというのも考え物である。仮に、赤川は売れているから駄目だ、と勘違いしている若いマニアがいたとしたら、騙されたと思って特に初期作を読んでご覧になるがいい。文章の完成度といい、キャラの立たせ方といい、トリックといい、完璧である。「これって、天藤真の未発表作なんだぜ」と言われれば「おおお、それは凄い!!」と鵜呑みにする人間が10人に2人はいそうな気がする。更にこの人は、今時の推理作家のように余分な事を語らない。ただ作品で勝負する。プロの中のプロである。という訳で本当に久しぶりに赤川次郎を読んでみた。なにせ、作品の多い人だし、シリーズものも数限りなくある。おそらくシリーズの数でこの人に敵うのは都筑道夫ぐらいではなかろうか?で、選んだのがこのノン・シリーズ中編集。男女の恋と別離、それが引き起こす波紋、何かの拍子に私達が嵌まり込むかもしれない日常の魔を描いた4編収録。はっきり言って推理小説ではない。ただなんとなく読まされてしまう。読み終わって「ほう」と溜め息をついている自分がいる。そんな夜のほうじ茶のような作品である。以下、ミニコメ。
「手首の問題」少し人間関係に疲れたOL。彼女が下着泥棒を懲らしめようと反射的にとった行動が、とある夫婦の「形」を変性させる。設定に無理があるものの、中盤の悲喜劇的状況が醸すサスペンス感はウールリッチの最上作を思わせる。ある種の<幸福の形>に仄かな寒気が漂う。
「天使の通り魔」奥手の彼と彼女。女の元に殺人を犯した幼馴染が転がり込んだ時、ある決断が下される。だが、不器用なのは二人だけではなかった。自分が追っている時は、自分が追われている事に気がつかない。そんな真実が痛い。殺人を無理に絡めずとも書けた話。ハッピーエンドが照れ臭い。
「断崖」死に場所を求め「名所」に投宿した女。その心を見透かすように男は一言呟く。遅すぎた悟りは、時を止められるのか?自己犠牲もまた、身勝手の一つ。主人公に甘すぎるが、ちょっといい話。
「みれん」助けた中年男は心中の片割れ。孤独を友としてきた娘の胸に滅びへの憧憬が宿り、父を思う二つの心が雪の街に交錯する。索漠たる物語。皆が傷を負っている。傷は今も血を流している。赤川次郎の翳を代表する展開。嗚呼、冥い。

(今月入手した本:172冊、今月処分した本:17冊、今年の増減+435冊)


2001年3月24日(土)

◆千葉定点観測。珍しく駅にも100均ワゴンが出ていて小市民的幸福を味わう。
d「柔らかい月」Iカルヴィーノ(早川SF文庫)100円
「どらきゅら奇譚」香山純(中央公論社)100円
「俳句は下手でかまわない」結城昌治(朝日新聞社)100円
d「機械神アスラ」大原まり子(早川書房:帯)100円
d「十三角関係」山田風太郎(大和書房)100円
d「ラヴレターに御用心」小鷹信光編(大和書房:帯)100円
d「探偵物語」別役実(大和書房:帯)100円
「オトコ独身」樹下太郎(グリーンアローNV)100円
小鷹編の手紙ミステリアンソロジーは文庫落ちしてない1冊。帯が嬉しいなあ。「十三角関係」は、出版芸術社の増補版が出た今となっては殆ど無価値なのだが、かつてこの書を捜し求め古本屋をさ迷った頃のお、怨念が、わ、私を狂わせるのだああ!!ま、100円だしさあ。「機械神アスラ」もこのあいだ半額で拾ったと思ったら帯付きが100円だもんなあ。はあ。「柔らかい月」は、100均では初見。自分が高値掴みした本は容赦なく抜かせて頂きます。はい。で、一番の収獲は樹下太郎でしたとさ。なんだか、ただのモテモテ男評判記みたいなんですけど、そこはそれ「100円だしさあ。」
◆夜、WOWOWで再放映されていた「マトリックス」をぼーっと視聴。おおお、なるほど、この特撮は本当に凄いや。でも贅を尽くしたCGよりも格闘技のスローモーションに興奮してしまうのは、新鮮さの問題でしょうかね。


◆「ステンレス・スチール・ラット世界を救う」Hハリスン(サンリオSF文庫)読了
シリーズ第3作は、大胆にも時間戦争もの。シリーズ作品にタイムマシンを持ち込むというのは、ある意味危険である。以後のシリーズ展開を固定化したり、これまでの展開を無効化してしまう恐れがある。ひとたび、時間を自由に出来れば、総ての危機が危機でなくなってしまうのである。通常の物語は成立し得ないのである。それほどに時間モノは諸刃の刃である。スタートレックなどでも時間旅行は、あくまでも「事故」の類いでしか語られる事がない。時間を操りながら冒険や失敗を何度も繰り返せるのは、ドラえもん(主に冒険)とのび太(主に失敗)にのみ許された特権であろう。まあ、さすがにそこはベテラン、ハリー・ハリスン。きちんと破綻なく落とし前を付けてくれてはいる。こんな話。
「アルバイト」がばれて、特殊部隊隊長につるし上げられらる「するりのジム」。だが、なんと彼の目の前で烈火の如く怒る隊長が消えて行くではないか。しかも突入してきた部隊員も次々と宙に掻き消えて行く。かくして何者かによる、時間戦争の火蓋は静かに切って落された。部隊の科学者、コイプ教授は、記憶還流装置を用いて防御を試みるが、このままでは特殊部隊の命運は風前の灯火。対抗策はただ攻撃あるのみ。最初は渋っていたジムも愛妻アンジェリナを目の前で消された事から、敵のいる3万年前の時空へと出撃するのであった。その地の名は「地球」、時代は地球時間で1975年。未来科学を縦横に使いこなした金庫破りに豪遊、追跡と対決、そして逃亡、果してステンレス・スチールラットは時間の環に仕掛けられた「至高者」の罠を破り、世界を、そして家族を救う事ができるのか?
シリーズのコミカルな面が強調された時空冒険譚。現代のアメリカ、19世紀のイギリス、そして2万年後の終末の地球、と目まぐるしく舞台を移し、危機を乗り越えていくステンレス・スチール・ラットではあるのだが、終盤に突如、頼りになりすぎる助っ人が登場するために、どちらかと言えば英雄よりは道化としての印象が勝つ。第2作を踏襲、といえば判る人にはお判り頂けようが、この展開は折角の緊張感を奪ってしまったように思えてならない。ラストの一発大逆転も一体何が起こったのか、という唐突ぶりであり、大風呂敷を広げた割りには小さく纏めてしまった感を免れない。じゃあ、他にどうオチをつけるのか?と問われても困るのだが、まあ、あまり細かい事言わずに楽しもうぜ、兄弟!って話ですかね。「レキオス」のような超ド級艦の後ではいかにも足ばかり速い駆逐艦という風情の一編でありました。

(今月入手した本:172冊、今月処分した本:9冊、今年の増減+443冊)


2001年3月23日(金)

◆花粉症爆発。出力50%。知能指数半値八掛け二割引き、他店よりも高ければその分お引きします&ポイント還元セールぐらい頭悪そうってゆーかー。こうなると邪悪モードへ思考が流れる。もしかして、花粉症というのは、人類の種としての闘いなのではなかろうか?来年あたり宇宙の彼方から飛来した隕石が南太平洋に落下してそこから繁殖した正体不明のウィルスによって花粉症に掛かっていない抵抗力のない人間は全員死に絶えるのではなかろうか?そうなのだ、我々花粉症患者こそ宇宙意思に選ばれし新たな種なのだ!さあ、花粉症に罹っていないものは心するがよい。最後の春を精々謳歌されるがよい。ノアの審判は既に下されているのだ。ふはは。ふははははははは、は、は、はーーーっくしょん!!
◆お、味戸ケイコ画のディキンソン詩集は、K博物館ではショーケースに鎮座ましましておられるらしい。うっひょー。そうかあ、稀少本だったのかあ。いいぞいいぞ。ふはは。ふははははははは、は、は、はーーーっくしょん!!
◆本日の課題図書が面白すぎ、古本を買いに途中下車する時間が惜しい。速攻で帰宅して、夕飯もそこそこにひたすら読書モード。鼻水止めの服用による睡魔が来襲するまで一心不乱に読み耽る。残り50頁で沈没。翌早朝読了。ああ、面白かったあ。購入本0冊。


◆「レキオス」池上永一(文藝春秋)読了
出ましたあ!エキゾティズム溢れるスーパードレッドノート級霊的モンスター・バトル・ファンタジー IN 沖縄!!あんぎゃあああ!!!
めんそーれ、池上ワールドお!!南国イマジネーションてんこ盛り!
おたく力極大!オモシロごころ臨界点!
いい女ごろごろ!東西蘊蓄颱風の十字路!
中味が厚い!空気が暑い!ハートの温度が熱い!!
池上作品に通底する沖縄産霊力のうねりが最高潮に達した大傑作!
これ読まずして皇国科学冒険小説の千年紀を語る勿れ!!

斯くも有無を言わせぬ面白さのラッシュ攻撃は私的読書体験の中でも希有の部類。
ボリュームと面白さでこれに匹敵するのは「エヴァ・ライカーの記憶」「姑獲鳥の夏」あたり。
いやあ、なんとも凄い作家がいたものである。日本という「異国」で勝負できたように、充分世界に通用するだけのパワーがこの作品にはある!
どこまでも猥雑!はしたなくも知的!
時を超え、空間を抜け、紺碧の空と海に騙りの魔法陣は輝く!
いっけええ、こんな話だああーーっ!!
古来、西欧列強からみてアジア侵攻の扇の要(レキオス)とされた琉球。返還後も米軍とともに歩んできたこの島に一人の混血少女がいた。名はデニス。黒人兵と琉球人の母との間に生まれた彼女は178cmの長身と8.0という驚異的な視力の持ち主。その彼女を巡って三千年の時を越えた霊的大戦の幕は開く。何者かによって描かれた巨大な魔法陣、地中を駆け宙に舞う逆さ女の脚、少女達の嬌声が響く沖縄の夏に予言者たちは狩られ、精霊はガーネーシャに宿る。性を弄び、智を操る天才女科学者は、科学と魔法の大いなる統一を目指し、基地の夜に陰謀は蠢く。米軍の最新鋭戦闘機を襲う赤の謀略は古の契約に呑み込まれ、最強の神女にして依り代<聞得大君>に時を超えた祈りは降る。知謀の島、詭計の街、ジェノサイドの城。歪んだパラドクスの向こう側で赤い目の山羊は笑い、黙示録の封印が解かれる時、原始なる畏敬にして宗教を超越した大いなるレキオスは金色に躍る。犬的演算装置の示すところ、光の先にあるものは、果して破滅か?再生か?「さあ、どっちかしらね、くすくす。」
日本ファンタジー大賞受賞作「バガージマヌパナス」を丸のまま併呑し、米軍ミリタリーおたく魂をスパイスに、古今東西の政治的謀略を絡め、西欧の科学主義と神秘主義で精霊の島<沖縄>を強姦させたようなスーパーファンタジー。それぞれに華のある女達の生き様がひたすら格好良い。主人公のデニスは言うに及ばず、驚異的な的中率を誇るユタのオバァ、世俗を超越した淫乱天才科学者サマンサ、男勝りの諜報員コニー、イケイケで生け贄のアメ女・広美、彼女達の生命力の豊かさに大地の神の声を聞く思いがする。奔放なプロットは5頁先の展開を予想させる事なく読者を眩惑し、異界の興奮に巻き込む。文章技法も硬軟取り混ぜいかようにも変幻自在。時に格調高くヘブライ語和訳の文語調が轟いたかと思えば、歩く性器の垂れ流す緊張感の欠片もない口語が跳ねる。巧さと面白さと力強さを兼ね備えた語りの最終破壊兵器。ああ、面白かったああ。面白い小説がお好きな方は是非どうぞ。この本は確かに2000円分の仕事をしています。

(今月入手した本:164冊、今月処分した本:9冊、今年の増減+435冊)


2001年3月22日(木)

◆年休を貰って野暮用を片付ける。古本屋も回る。あれこれ買うが大したものはない。
「星を拾う男たち」天藤真(創元推理文庫)340円
「久遠堂事件」太田忠司(徳間NV:帯)350円
「思索せり我が暗号」尾崎諒馬(角川書店:帯)100円
「ウィーン薔薇の騎士物語A」高野史緒(中公NV)100円
「この島でいちばん高いところ」近藤史恵(祥伝社文庫)100円
「奇憶」小林泰三(祥伝社文庫)100円
「金閣寺に密室」鯨統一郎(祥伝社ノンNV)100円
「空にキス」竹内志麻子(大和書房)100円
d「Sの悲劇」中町信(青樹社NV)100円
「扉のない家」Pストラウブ(扶桑社:帯)100円
d「死を告げる白馬」Aブラックウッド(ソノラマ海外文庫)50円
「さらば愛しき女よ」鎌田敏夫(角川文庫)50円
「傷だらけの競争車」梶山季之(角川文庫)50円
「夜生きる男」島田一男(春陽文庫)50円
結構しんどい竹内志麻子作品を、げっとーー!そうか、こういう版型の本であったか。買うだけ買って、読まない本の典型。いずれ、コバルト文庫と揃いで売っぱらってやろうかな?そして、とうとう「扉のない家」が100円に落ちる日が来てしまった。うーむ、感慨無量、と思って棚を流しているとポケミスの新作(デクスター、エドマクあたり)がまとまって百均に並んでいてショックを受ける。そりゃ幾らなんでも早すぎるんじゃない?ブラックウッド以下は4冊200円コーナーで買い込む。こういう時の帳尻合わせには苦労するよね。後はジャンル外から2冊。
「ディキンソン詩集 愛があるとしたら」(サンリオ・味戸ケイコ絵)100円
「明朗傑作集 人生停留所」林二九太(新元社)800円
詩集は勿論、味戸ケイコの絵欲しさ。これが100円なら買いでしょう。って、詩集は全く興味がないのでよくわかんない。まあ、味戸ケイコの事ならこしぬま先生に聞こう(おーっ!)。もう1冊は、戦中の明朗小説らしい。作者も、書名も全く初見。まあ、昭和18年の本が800円なら安いかなと買ってしまう悲しさよ。この作者、他にも「新婚回覧板」「新婚南進記」「隣組の合唱」とか著書があるらしい。刊行物紹介の下に「読み終わったら慰問袋にいれませう」とあったりして、ああ、なんか知らんが時代だなあ。二刷だけど結構美本。この辺りご専門の石井女王様、要りません?それともこの辺はユウモア明朗系の人達は持っていて当たり前の本なのだろうか?ああ、ミステリ・SFを外れると何にも知らん私であった。


◆「グラン・ギニョール」JDカー(翔泳社)読了
今の時代の日本人に生まれる事が出来て幸せである。本場アメリカですら滅多なこっちゃお目にかかれないカーの作品にこれだけアクセスできるのは、今の日本人に許された特権と言ってよかろう。この書を始めカー復活に獅子奮迅・八面六臂の活躍をされている森英俊氏と同じ時代に生まれた事を心から寿ぐものである。この「グラン・ギニョール」とて、存在が知られてからまだ月日の浅い作品。かのカーのデビュー作「夜歩く」の原型中編である。それが新刊書店で買えるなんて、これを幸せと言わずして何を幸せというべきか!(おー、アテネの執政官よ。)なにせ、再読する程にはカーを読み込んでない身の上としては、初読のように楽しめてしまうわけで、犯人すら忘れてしまっていたのには、我ながら恐れ入る。で、成る程、これは昨今紹介の進んでいる些か精彩を欠いた末期作などよりも遥かにスマートにして、若々しい佳編であった。表題作はこんな話。
四代目サリーニ伯爵ラウールは、新妻ルイーズの狂った前夫ローランから殺人予告を受け取っていた。ローランは、精神病院を脱走後、整形手術で顔を変えるや、新しい顔を知る整形外科医を殺害した狡猾なる殺人淫楽者。果して結婚式の夜、訪れたカジノのカードルームにて、サリーニ伯爵は無惨な首切り死体となって発見される。警備についていたバンコランが捜査を開始するや、現場から犯人が逃げ出す事は不可能であった事が判明する。サリーニ伯爵を巡り微妙に矛盾する関係者の証言。更に伯爵宅に乗り込んだバンコランはそこで歪んだ欲望の翳を見る。そして生まれる新たな犠牲者。パリの夜に跳梁する殺人鬼との闘いは、バンコランの演出する<グラン・ギニョール>でその幕を閉じる。
大仕掛けでありながらシンプルなプロット、鮮やかな不可能犯罪の解法、巧みに張り巡らせた伏線、そして悪魔的な探偵と真犯人、20代半ばにして斯くも見事な作品を仕上げたカーに心から敬服する。まあ、クライマックスのグラン・ギニョール上演にあたってバンコランが容疑者一同を縛り上げるのはいかにもやりすぎだが、話が短い分、カーの作劇法の骨格が見えて吉。無性に「夜歩く」も再読したくなる。 他の短編・エッセイについては、以下ミニコメ。
「悪魔の銃」黒海の辺の雪深い古城で起きる惨劇の顛末。果して黒人の呪術は復讐を果たしたのか?雰囲気は良いがプロットはアンフェアにして荒唐無稽であり、感心しない。
「薄闇の女神」ナポレオンの百日天下の裏側で起きた一人の女と二人の男の物語。ツイストは気が利いているが、読みにくさが只事ではない。
「ハーレム・スカーレム」短いコント。語り口に癖があるが楽しめ、切れ味も鋭い。
「地上最高のゲーム」カーが理想とする本格推理について語り尽くした檄文。なんとも小気味よい。途中、悪い推理小説の典型として語られる「お館もの」と「ハードボイルドもの」が爆笑。「お館もの」のところではコールの「ブルクリン家の惨事」を彷彿としてしまった。ハードボイルドについても「あるあるう」である。EQをおちょくったところも抜群の可笑しさ。親友なればこその文章であろう。このエスプリを日本の本格推理作家にも求めたいところである。このエッセイはすべての本格推理愛好者必読!!
総論:悪い事は言わないので、この本は今の内に買っておきなさい。2030年頃には、新しいマニアが血眼になって探す<血風本>です。

(今月入手した本:164冊、今月処分した本:9冊、今年の増減+435冊)


2001年3月21日(水)

◆うーむ、日中摂氏23度。体調は絶不調。就業後、南砂町定点観測。
d「移行死体」日影丈吉(徳間文庫)200円
d「光車よ、まわれ!」天沢退二郎(ちくま文庫)240円
「マチルダ」Pギャリコ(早川書房:帯)100円
「光の帝国」JGバラード(国書刊行会:帯)100円
「銭と女」佐賀潜(講談社)100円
「ワンダラーズ」Rプライス(二見書房)100円
◆というわけで「伝説のSFアニメ」キャプテン・フューチャー再放映開始日である。オープニングの懐かしさに震える。しかし、中味は所詮「昔のテレビアニメ」である。ああ、テンポが遅い!まあ、頑張って録画しましょうかね。私のお気に入りのBGMはグラッグがコメット号を曲乗りしてみせているシーンでかかっていた。ふむふむ、てっきり「これまでのあらすじ」のテーマだと思ってたよん。
◆さて!結局16冊どまりでしたが、この際キャプテン・フューチャーを集めてみようという初心者のかた向けのスターターセットを御用意しました。
「透明惑星危機一髪!」「挑戦!嵐の海底都市」「暗黒星大接近!」「時のロスト・ワールド」
「宇宙囚人船の反乱」「恐怖の宇宙帝王」「魔法の月の血闘」「脅威!不死密売団」
「彗星王の陰謀」「惑星タラトス救出せよ」「人工進化の秘密」「月世界の無法者」
「危機を呼ぶ赤い太陽」「異次元侵攻軍迫る!」「小惑星要塞粉砕せよ!」「ラジウム怪盗団現わる!」
以上、16冊一括。「海底都市」「暗黒星」は現役の新版です。送料別で2000円!!
1セットしかないので、早い者勝ち。御入用の方は、まずうちの本掲示板(啓示果つる処)で「買いたい」旨を書き込みください。「最初からメール」は無効。しかし、ここの読者で、まだこれをもってない人っていらっしゃるんでしょうかね?


◆「模造世界」DFガロイ(創元SF文庫)読了
昨年の創元SFの新刊。「13F」という映画の原作という事で急遽出版された作品らしい。なんと書かれたのは1964年。東京オリンピックの年である。新幹線開業の年である。かくも中途半端に昔のSFが今更新刊で訳出されたのは一重に映画化の恩恵である。ありがたやありがたや。それにしても「13F」って全く印象に残ってないのだが、公開されたの?という事が気になるのも、結構この作品が面白かったからである。読みながら、ああ、新作の割りには、なんて肌に合うんだろうと思いながら、読了後に出版年を知って大納得。どうも私のSF力はこのあたりまでが、限度なのかもしれない。こんな話。
時は近未来。実業家ホレス・シスキン率いる企業連合に属するREIN社は、丁寧に属性を与えた仮想人物たちによる仮想社会を電脳空間に組み上げ、そこで確度の高い社会シミュレーション実験を行う事に成功していた。ある日、その装置「シミュラクロン−3」の開発者フラー博士が事故死を遂げた。フラー博士の助手であったダグ・ホールは博士の後を継いで開発責任者のポストに就く。だが二人と親しかった保安主任モートンは、ダグに「フラー博士の死は事故ではない」と告げ、行方をくらます。モートンを追うダグ。しかしなんと、社の人間はおろか、家族付き合いをしてきたフラー博士の娘ジンクスまでが、モートンなどという保安係はいなかったと彼に告げるではないか。果してこれは何の陰謀なのか?世界人口の1/4が何らかの形で「世論調査」で生計を立てている世界にとって、シミュラクロン−3の登場はまさに脅威であった。そうした反対勢力の静かなテロなのか?政争のもつれか?あるいは、ライヴァル会社の謀略なのか?それとも、、事件を追うダグの周辺で次々と常識では考えられない出来事が起こり、彼自身も幾度となく突然の失神に襲われる。真実への鍵は、アキレスと亀?あるいは、仮想人物の反抗?やがて、ダグと彼をとりまく人々の日常は電脳の霧の中に溶かされていく。さあ、諸君、接続を始めよう。
さすがに今の読者には作者の企みは早い段階で割れてしまう。その上で「犯人捜し」に駆け回る主人公に感情移入して読み進むのがお作法というものであろう。一つの仕掛けを見破ったからといって満足していては作者の思う壺である。律義かつ丁寧に伏線を敷いていく作者の姿には、どこか推理作家としての資質すら感じてしまう。ディックほどラリっておらず、スターリングほど深くない、という雰囲気が非常に自分にマッチした作品。これは是非映像版も見たくなったぞお。

(今月入手した本:148冊、今月処分した本:9冊、今年の増減+419冊)