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2001年3月20日(火)春分の日

◆興が乗って昨日の日記をしっかり書いていたら昼になっていた。だめじゃん。でも、インターネットでハッダム(=パパゾグロウ)のオフィシャル・サイトがあるのを発見できたり、ちょっとした調べ物モードで日記をつけるのはいいかも。
◆猛烈な花粉症。家からでたくないよう、と思っていると、拠所なき事情で郵便局へ行かざるを得なくなる。ついでなので、MZTさんに送本。ついでなので、ブックオフへ行く。あ、100円文庫が半額だ。ついでなので、買っちゃえ、買っちゃえ。
「凝った死顔/マンハッタン・オプ1」矢作俊彦(光文社文庫)50円
「笑う銃口/マンハッタン・オプ2」矢作俊彦(光文社文庫)50円
「はやらない殺意/マンハッタン・オプ3」矢作俊彦(光文社文庫)50円
「ブロード・ウェイの自転車」矢作俊彦(光文社文庫)50円
「マンハッタン・オプ1」矢作俊彦(角川文庫)50円
「マンハッタン・オプ2」矢作俊彦(角川文庫)50円
「華麗なる戯れ」山村正夫(春陽文庫)50円
「遥かなる死の匂い」山村正夫(春陽文庫)50円
d「透明な同伴者」鮎川哲也(集英社文庫)50円
「スローリバー」Nグリフィス(早川SF文庫)50円
「逆転の瞬間」文藝春秋編(文春文庫)50円
「月夜の晩に火事がいて」芦原すなお(マガジンハウス:帯)100円
うぃーっす、マンハッタン・オプ、ゲットっす。角川文庫版と光文社文庫版。収録作がどう入れ繰りしているのか知らないけど、まあ1冊50円なのでまとめ買いしちまいました。FM大阪で良く聞いてました。オイラ的には、その前にやっていた「あいつ」の方が好みだったけど、贅沢は言わないっす。日下武史の声に痺れたっす。そのあとは「ジェット・ストリーム」聞いてたっす。「夜の静寂(しじま)のなんと饒舌な事でしょう」。城達也の声に痺れたっす。城達也といえば、グレゴリー・ペックやロバート・ワーグナーのアテレコも忘れられないっすよお。
◆休日は読書が進まない。理由ははっきりしていて、電車に乗らないからである。出勤日には好むと好まざるとに関わらず移動時間が発生するために、読書の時間が確保されるのだが、自宅でゴロゴロしていると、本の背を見ているだけでも、小一時間が「あっ」という間に過ぎてしまう。<整理>など始めた日には、それだけで半日が吹っ飛ぶ。もしかして、電車に乗りながら本の整理ができたら一向に本を読まないのかもしれない。で、結局、夜まで読書できず、プロジェクトXも見ずに課題図書消化に勤しむ仕儀となる。とほほ。


◆「孤独の罠」日影丈吉(講談社文庫)読了
一時、日影丈吉の長編が結構本屋で買えた時期があった。教養文庫の在庫があり、徳間文庫からは続々と代表作がリプリントされ、講談社文庫からは、この作品が出ていた。勿論、今やすべて絶版である。入手容易なのは、創元推理文庫から出ている<かつて前編のみ『幻影城』に紹介され埋もれていたの幻の作品>「夕潮」ぐらいかな?日影丈吉というとどうしても幻想味の強い短編の方が珍重され、長編推理は一部の作品を除いて余り評判を聞く機会が少ない。「殺人者国会へ行く」や「咬まれた手」なんぞ、所持していながらどんな話なのかも知らない体たらくである。この「孤独の罠」もそんな一編。本日手にとってみるまで、雑音ゼロ。実に新鮮である。で、結論。とても惜しい作品である。推理小説としては、散漫な造りなのだが、小説としての格が高いとでも申しますか。こんな話。
雪。渋川の東、榛名山に近い寒村の一軒家を尋ねる仰木。妻・典代を産褥で亡くして半年後、今また一粒種・芳夫の通夜に妻の実家へと向う身を寒さが襲う。義父母・義兄・嫂からもてなしを受けながらも、これでこの人々との縁も絶えたと感じる仰木。葬儀には、亡妻の叔父で特定郵便局長を務める古間とその若い後妻・朱野、彼等の口利きで渋川に務める仰木の妹・叶絵も駆けつけた。そして、異変は火葬場で起きる。遺骨を拾う段になって、二人分の骨があると騒ぎになったのだ。一体、どこでもう一人分の子供の死体が増えたのか?謎は解けぬまま、納骨を終えて数ヶ月、今度は、古間の毒殺事件が起き、叶絵の同僚で婚約者である椎名に容疑がかかる。果して、寒村に死を運ぶ鬼は誰の心に巣食うのか?冷え切った男の心に仄かな恋が芽生える時、事件は残酷にして唐突なフィナーレを迎える。
導入部の描写は素晴らしい。徐々にWhyが解凍され、田舎の一家族と主人公の因縁が詳らかにされていく手際の見事さ。無駄のない人物紹介、情味溢れる「父」としての主人公の心の揺れ、そして「事件」。仮に、この最初の「幼児死体増加事件」だけを軸に、中編に纏め上げれば文句無しに傑作足り得たのではなかろうか。ところが、そこからが頂けない。人物の動きに無理があり、殺人のためにするプロットが進展する。毒殺トリックも興ざめで、総てが犯人の告白で終るという、芸のないクライマックスもいかがなものか。幾らその後に主流文学を思わせるエンディングをつけてみせても推理小説としての安普請を塗りつぶす迄には至らなかった。本当に推理小説であった事が残念な話である。これが日影・長編の特徴なのかもしれない。推理とロマンが乖離しているのですよ。うん。

(今月入手した本:142冊、今月処分した本:9冊、今年の増減+413冊)


2001年3月19日(月)

◆ああ、連休の谷間にオマヌケにも出社。今日は、夕方のショウルーム案内が唯一の仕事だよなあ、と閑古鳥モードで臨むと、そういう時に限って急ぎの仕事か飛び込んでくる。うがああ、昼休み返上になり、結局、MZTさんへ送本できずじまい。すみませーーん。
◆就業後、大井町回りで帰る。東口の方にある、いかにも「街の古本屋さん」然としたお店を初チェック。よくいう台詞だけれど「初めていく古本屋ってドキドキするよね」。これは昔自分だけの感想かと思っていたら、古本者百人中百人に共通する思いらしい。そこは既に絶対誰かのテリトリーの筈なんだけれども、もしかして万が一、過去数十年も荒されていない棚が裏の方にあって、そこには、20年代30年代の貸本がずらりと並んでいて、その下には今では絶版の創元推理文庫がずらりと元パラで並んでいる。ああ、もう手が震えちゃうよう、なーんて事を夢想しちゃうのよね。サガなのよね。で、結果は勿論全くそんな事はなし。でも、さすがは「街の古本屋さん」なので、リサイクル系のように瞬殺はできない。床からの平積みに源氏鶏太の古いロマンブックスが突っ込んであったり、棚にはチョイメズの早川ノベルズが帯付きで並んでいたり、回転の速そうな棚がある一方で、整然と風俗関係の新書が揃っていたりと、楽しく物色できた。値付けもおそろしくちゃんとしていて、思わず「巧い!」と感じてしまう。最近は問答無用のリサイクル系とギンギンの専門系しかチェックをいれていないので、たまにこういう折り目正しい古本屋さんに行き当たるとそれだけで嬉しくなってしまう。ここでは1冊だけ名刺替りに購入。
d「ビッグマン」Rマースティン(創元推理文庫・初版・元パラ・帯・カバー)500円
ご存知「厚着の創元推理文庫」。お、ひょっとしたら、と思ってカバーをめくると、あったあった、帯・元パラ!このおみくじ感覚が素敵。それと認識してこれを買うのは初めて。これで3冊目かあ。というわけで、これが500円という値付けが、偉いなあと思えるのだ。ちょうどシャレで買えるギリギリのラインである。まあ「復刊されたら幾らになるか」という値付けでもあるんだけどさ。こういう相場観って大事にしたいよね。売る方も、買う方もさあ。いやいや、良い買い物をさせて頂きました。
◆今度は駅の西口に回って、問答無用のブックオフをチェック。問答無用で買う。おらおらおら。
d「天才投手」弘田静憲(光文社)100円
d「スクープ」クロフツ、クリスティ他(中央公論社:帯)100円
d「自分の耳、他人の目」Pシェーファー(テアトロ・函)100円
d「レトロ館の殺意」多岐川恭(新潮社:帯)100円
「ぼくはホームズ」高野憲央(同成社:帯)100円
「スペースドラベラーズ」岡田惠和(角川書店:帯・Vカバ)100円
「碧の殺意」津野創一(双葉社)100円
「谷山浩子童話集」谷山浩子(六興出版)100円
急に花粉の症状が爆発。鼻水を啜りながら「今日はこれぐらいにしておいてやる」と精算を済ませると、「本日入荷!映画パンフ100円!」というPOPが目に入るではないか。「しゃあないなあ」と荷物を置いて引っ掻き回すこと10分。
「地中海殺人事件」・「ナイル殺人事件」・「そして誰もいなくなった」
「大誘拐」・「わるいやつら」・「RAMPO」
d「配達されない三通の手紙」・d「病院坂の首縊りの家」
d「獄門島」・d「女王蜂」・d「悪魔が来たりて笛を吹く」
さすがブックオフ値段。快調にミステリ関係を抜き去る。今度こそ「今日はこれぐらいにしておいてやる」である。


◆「ロマンス作家は危険」オレイニア・パパゾグロウ(ポケミス)読了
ロマンス作家にだって、生活があるのである!過去があるのである!という事を知ったのは、松苗あけみの「ふり向いてねゴードン」を読んだ時だから、かれこれ20年近く前ですか。それまでに、少女漫画家に対する幻想は、楳図かずおの大傑作「まことちゃん・少女漫画家の秘密(だったっけ?:原本は実家に置いたままなので未確認)」で木っ端微塵に粉砕されてしまっていたのであるが、なんとなくロマンス作家となるとそれはまた別の文字的にブンガク的にステージが上だったのである。その後、クラブの同輩が少女小説でデビューして一家を成したのを見て、現実と幻想のギャップにトドメをさされた次第。ああ、あのようアホなギャグマンガを書き散らしておられた方が「少女小説家」だなんてえ(「かいけつムラズキン」と書いておけば判る人には判るであろう)。
閑話休題。というわけで、ロマンス小説の本場アメリカの爛れた世界を舞台に、ロマンス作家ペイシェンス・マッケナを探偵役にしたシリーズ第1作が本日の課題図書。いかにもギリシャ系という名前の作者は、かのウィリアム・デアンドリア夫人。80年代はこのパパゾグロウ名義でペイ・シリーズ5作を上梓し、90年代に入ってからはジェイン・ハッダム名義で、引退したFBI行動科学課の創設者グレゴール・ディマーキンを探偵役にした、一連の<祝日殺人事件>ものを発表しつづけている。2000年のディマーキンもの(第16作)「Skeleton Key」が今月ペーパーバック落ちしたところで、この5月には新作「True Believers」が出版予定(ディマーキンものかどうかは不祥、只今、アマゾンで予約受付中)。
ハッダム名義の作品は、「クィーンばりの古典的本格」と、かの森英俊氏も太鼓判を押しておられ、個人的には、英のグエンダリン・バトラー、豪のジェニファー・ロウらと並んでもっと翻訳紹介されていい筈の女流本格推理作家リストの米国代表だと思っている。というような予備知識だけはあったので、結構、期待してとりかかったのだが、実はこれが難渋・苦渋の路であった。いやあ、花粉症でボーッとしていたせいもあるのかもしれないのだが、僅かポケミス200頁弱の本にえらく時間をとられてしまった。ペイシェンスという名前の女探偵は「Zの悲劇」以来ではあるが、ほとほと「忍耐」を強いられました。参った、参った。こんな話。
ロマンス小説界に君臨してきた長寿人気作家マイラが深夜の公園を散歩中刺殺されてしまう。警察は通り魔の犯行と断定しその方向で捜査を開始。その葬儀に出席したロマンス小説家と出版関係者は誰も一癖二癖ある連中ばかり。仮名の下で、中味のスカスカなポルノ寸前のロマンス小説を書き散らし口に糊している癖に自尊心ばかりが肥大した作家と彼女たちを馬車馬の如く操りセールス最優先で自転車操業を続けるける出版関係者たち。その糜爛ぶりに辟易としながら、自宅に引き上げた主人公ペイは同じくロマンス小説を書きながらも自分にとっては社会派エッセイこそが生業であると信じている。だが、彼女が自分のフラットに入ろうとすると中から閂がかかっており、誰も応答がない。警察まで呼んだ大騒ぎの末、やっと室内に入ると、そこには彼女のエージェント、ジュリーの無惨な刺殺死体が転がっていた。更に、マイラが遺言状で莫大な遺産をペイに遺していた事から、警察の疑惑は一気にペイに向けられる。振り払う火の粉を払うために慣れぬ探偵家業に乗り出すペイ。ひょんな事から入手した、ロマンス作家同士の酸鼻にして破廉恥な写真がきっかけとなって、ファン社の新ロマンス・シリーズ『愛の炎』の関係者全員を巡る脅迫事件の証拠を掴んだかに思えたが、事件は益々混迷の度合いを深める一方であった。襲われるマイラの相続人である孫娘、隠されていた被害者ジェリーの夫の正体が割れ、兇器が現われては消え、事件はアメリカ・ロマンス作家協会の総会でクライマックスを迎える。新たな「ハートのクイーン」が選ばれた時、喉を刎ねられた死体によって授賞式は朱に染まるのであった。果たして、歪んだ女だらけの社会で、一線を越えてしまったのは誰なのか?
出版を巡る出来事の部分は非常に興味深く読める。殺人の動機についても、門外漢としてはただ感心するばかりであるし、何より女流ロマンス作家たちの「魑魅魍魎」ぶりが楽しい。開巻即「愛の炎」のための執筆者マニュアルを配して爆笑を誘い、畳み掛けるように、ロマンス小説業界を支える造り手と送り手と受け手の狂乱ぶりで笑いのツボを突いてくる。この臨場感は、作者の実体験に基づくものなのか?とも思えるが、まあそこは小説家の事なので薮の中にしておくのが吉というものであろう。ところがこの作品、推理小説として見ると相当に悲惨である。はっきり言って「ダメ」である。まず、密室殺人の必然性なし。トリックは噴飯モノ。傷害事件や殺人事件が相次ぐのであるが、犯人の行動は行き当たりばったりであり、特に終盤の展開は常識では考えられない狂騒状態。これでは、真っ当なミステリとしての楽しみは得られない。出版を巡る陰謀に焦点を絞って、いっそ殺人を出さなければ成功したかもしれない。更に付け加えれば、探偵役のペイも相当に身勝手な女性であり、特に同業者に対して批判的であるところは「お前も同じ穴の狢でしょ!?」と突っ込みたくなる。作者の分身というには些か「愚かな女」でありすぎる。うーむ、極めて面白い部分もあるのだが、万人にお勧めできる作品ではない。本当にこの作者がハッダム名義で「本格」推理を出せているのかかが不安になる失敗作であった。まあ、ロマンス小説業界の裏話を楽しみたい人は是非どうぞ。

◆先日の飲み会で、よしださんはどうしてあんなに長文を毎日書けるのか?という話題になった。なんでも、キーボードに手を載せると勝手に動き出すらしい。おそるべし、よしだまさし!また今日も、「HERO」最終回の録画を自宅に帰って見み終わった後で、唖然とするほどの分量を叩きだしておられる。うーむ。多少酒も入っているであろうに。信じられん。ちゅうわけで、あたしゃどのぐらい長い日記を書く事ができるかなと思って、ちょっと長めに書いてみましたとさ。

(今月入手した本:130冊、今月処分した本:6冊、今年の増減+404冊)


2001年3月18日(日)

◆激烈な二日酔をおして、決死のお出かけ。懸案事項をかたっぱしから片付ける。二日酔でへらへらな分、花粉症が引っ込んでくれたのでかえって快調だったかも。
◆一軒だけ古本屋チェック。
d「インキュバス」Lラッセル(早川NV文庫)120円
d「大いなる罠」Dスミス(角川文庫)30円
d「幻の殺意」結城昌治(角川文庫・白背・初版・帯)30円
「畸書【全身に鱗が生えてくる本】」日野日出志(KKロングセラーズ)250円
結城昌治の帯が珍しいにちがいない。「東宝映画化」と書いてある。誰か要りませんか?


◆「鉄コミュニケーション@、A」秋山瑞人(電撃文庫)読了
うがあ、もう今日はとても本を読めそうにない。仕方ない、とりあえず、ジュヴィナイルを1冊読んで御茶を濁そう、と手に取った秋山瑞人本。「猫の地球儀」とは異なり、漫画のノヴェライズである。まあ、軽い話だろう、と思ったところ、これが大間違いで、ずしりと重い。しかも滅法面白い。勿論はしたない程格好いい。抱きしめたくなるほど愛らしい。ああ、なんてズルい話なんだ。結局、気がつけば、@A巻計600頁を一気読み。これはもう、魂のキャスリングである!感動のチェックメイトである!!こんな話。
13歳の夏は人生の夏だ。30年間のコールドスリープから醒めて1年目、少女ハルカの夏は世界の誰よりも輝いていた。だってこの世界にはハルカしかいないから…。知的な教師にして医師のクレリック、お調子者の空飛ぶトリガー、御姉言葉のマッチョなリーブス、心配性のスパイクに女戦士アンジェラ。5体のロボットは、目覚めさせてしまったハルカの保護者として迫り来るバーサーカーマシンから彼女を守り、慈しんできた。滅びた文明の下から食料を調達するロボットたち。だが、13歳の好奇心は「してはいけない」事へとハルカを駆り立てる。掌大の<冒険>の底で、自分そっくりのモノに出会ったハルカ。失われた記憶のボタンは静かに押され、懐かしい出会いと別れの物語が大滅亡のコチラ側でリフレインを奏でる。ハルカのであったモノは、ハルカそっくりの少女型ロボット、名はイーヴァ。イーヴァの連れの巨大な虫を思わせる最強のガーディアンロボット、名はルーク。イーヴァとルークは用心棒試験をクリアし、一人と7体の新たな共同生活が始まる。だが、似せられた魂の澱みで嫉妬の炎は冷たく燃え、孤独な心はすれ違う。爆発する怒りが大地を割き、こぼれていく命を掬い上げたとき、破れた恋情は破壊の悪魔を召喚していた。(ここまで@巻)そして、とり繕われた平穏な日々へと制裁に名を借りた殺戮は唐突に降臨する。血に飢えた赤の<僧正>、最凶たることを自らに義務づけた黒の<騎士>。圧倒的なパワーと冷酷に向ってルークは牙を剥く、愛する者を護るために。解き放たれる記憶の封印。絆創膏の下に刻まれたコード。それぞれの思い、それぞれの闘い、霖雨の戦場で勝利するのは誰?…13歳の夏は、やっぱり人生の夏だ。
多少、冗長な部分もある。整理の悪い回想シーンもある。余りに唐突な展開もある。しかし、この作品には多少の疵をものともしないパワーがある。こうすれば格好いい!こうすれば泣ける!という勝利の方程式がある。もう何も言わん。読んでくれい。わんわん。

(今月入手した本:110冊、今月処分した本:6冊、今年の増減+384冊)


2001年3月17日(土)

◆リンクに「Hiroe's Private Library」追加。鉄人名称は「もう絶対、これしかないでしょう!!」という快心作。それに併せて若干リンクページの誤字脱字を修正。
◆さあ、今日は黒白さんと飲み会だい。と、その前に買い物で途中下車すると駅でワゴンが出ている。行きがけの駄賃と何冊か買う。
「裏切り者の顔」Dハミルトン(創元推理文庫)100円
「南海の密輸船」和田頴太(ソノラマ文庫)100円
「スーパースターを奪回せよ」和田頴太(ソノラマ文庫)100円
d「13日の金曜日」Sホーク(創元推理文庫)100円
「ダーティペアの大脱走」高千穂遙(早川書房)200円
ハミルトンも油断しているうちに見かけなくなったよなあ。ソノラマのサウンド・ハンターシリーズはおそらくダブりだと思うのだが、さて、どこに積んだっけか?
◆というわけで、1時間半近くかけて浦和に到着。東口の養老の滝で4時間延々と飲み、食い、喋る喋る喋る。店は殆ど貸し切り状態である。というか、周りの客の事など一切気にならない。6名で完全に異空間を形成していたといってよい。参加者は、黒白さん、よしださん、いわいさん、仰天の騎士さんに、初お目見えのえぐちさん。
「いやあ、えぐちさんとは、よくデパート市で競合しますよねえ」
「あー、先日もkashibaさんと森さんと競合していたみたいで、すみません」
「いや、まあ、それはお互いさまで〜」と初対面から既に十年来の知己のようである。
注文を入れる前に早速、黒白さんから1冊頂く。
「謎の女大国」推理史話会(新人物往来社)頂き!!
ひよっとしたらダブリかなと思ったが、確認したら持っていませんでした。ありがとうございますありがとうございます。
「そうそう、なんでも女王さまが『はりまぜ』買ったんだって?」「うわー、どこの臓器を売ったんだろう?」「腎臓?」「肝臓?」「右眼?」「おいおい」てな話を皮切りに、ネットミステリ関係の噂話、父娘古本道中記、怪の会回顧談、扶桑社文庫カースト制度、ネット日記地獄篇、掲示板替え歌合戦、スーパー・アマチュア論、編集長の特権、戦う明朗小説愛好家、著者遠影事件、「真に欲しい本ってある?」、リサイクル系古本屋チェック報告などなど。人様の書棚や家庭生活を心配し、同じ悩みを持つものとして引き攣り笑い、酩酊のうちにあっという間に10時過ぎ。後ろ髪を引かれる思いで解散。ああ、面白かったああ。発作的な飲み会だったので、ここまで盛り上がるとは思わなんだ。何も何万アクセス記念とか、気張るんじゃなくて、もっと気楽に集まったらいいんだな、うんうん。しかし、浦和はちと遠かったかなあ。帰り着いたら午前様。そのまま爆睡。


◆「無重力でも快適」草上仁(早川JA文庫)読了
困った時の草上仁。このリーダビリティーの高さは一体なんなのだろう。この本の解説は、大いなる先達・星新一。フレドリック・ブラウンとの比較において、作者に最大級のエールを送っている。コンベンションなどに一切参加せず、書くという事に真摯な作者の態度を高く評価しているのが嬉しい。結局、私がこの作者に惹かれるのも、そういった「真面目に冗談をやっている」というところなのかもしれない。以下、ミニコメ。
「無重力でも快適」人類の夢、物質転送。その奇蹟の科学技術をペイラインに乗せた実用化とは、なんと「下の処理」だった!わっはっは。このシチュエーションのアホらしさで既に勝利したのも同然である。主人公は、森田衛生設備のサービスマン。とある故障クレーム対応に訪れた輸送船で繰り広げられる糞尿まみれのドタバタをスマートに描く。ラストに<悪党ども>が落される無限地獄は爆笑ものである。
「クーラー売ります」シェクリイあたりが書きそうな宇宙を股にかけた二人組セールスマンの物語。寒冷化が進む星カザにクーラーを売りつける羽目になったおれと不屈の楽天家ワッシャー。俺たちの訪問販売は尽くカザ人のタブーに阻まれる。果して、おれたちはこの縛りだらけの星で不良在庫を売り捌く事ができるのか?圧倒的に不利な条件から一発逆転する爽快感。伏線の張り方が絶妙。主人公の相棒ワッシャーのセールスぶりは口下手な私当たりからするとなんとも頼もしい。
「太公望」未知の星で、ただ「釣り」に余念のない船長。だが、知的生命体発見に懸命な生物学者を逆上させつつ、総てを「釣り」に奉仕させる船長こそが、ファーストコンタクトと一番近いところにいた。異世界での雄大にして奇抜な「釣り」を描いたお笑い<フィッシュ・オン>。釣りバカに言葉はいらない、ってか?
「ウィークスを探して」支配された相手の遺伝子を取り込み変体するウィークス。人類に飲み込まれた彼等の雌体を追うおれ。様々な妨害と荒事を乗り越えておれが巡り合ったウィークスは、おれの最も馴染んだ「姿」で現われる。星野之宣係数の高い逆転の物語。翻訳に堪える活きのいいハードボイルド・ショッカー。
「ヘイブン・オートメーション」人手不足に悩む神様たちの日常。その繁忙感が頂点に達した時、事務効率化の手法が天国にもたらされる。そして、神様はより「創造的」な活動へと勤しむようになるのだが、、サラリーマン社会を彷彿とさせる神様たちの「消極的権限闘争」(=仕事の押し付け合い)風景が笑える。これは星新一テイスト。オチはまあお馴染みのネタだが、腹は立たない。
あと、カバー絵の吾妻ひでおは、一連の草上JA文庫の中でも出色の可愛らしさ。この絵一枚のためにこの本を買ってもいい。

(今月入手した本:106冊、今月処分した本:6冊、今年の増減+380冊)


2001年3月16日(金)

◆猛烈な花粉症で朝から朦朧。そこへもってきて前日の課題本が頭の痛い話だったので、感想文のとっかかりが掴めず悶々とする。1時間ほどあがいたあげく開き直って二度寝。更新をパスする。その後のそのそと出社。そのまま会社でも辛い1日が続く。
◆就業後、キャプテン・フューチャーのダブリ本発掘にでかけるが、さすがにそう都合よくは見付からない。何も買うものないのも癪なので、1冊だけ比較的近作の古本落ちを買う。
「札幌・オホーツク逆転の殺人」深谷忠記(カッパノベルズ)350円
2000年刊行の壮と美緒シリーズ最新作。結局、昨年はこの1作だった模様。
◆鬼束ちひろの1stアルバム「インソムニア」購入。うーむ、やはり「月光」が抜群で、後は「シャイン」がちょっといいかな、という程度だぞお。


◆「超人ニコラ/大金塊」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫)読了
昨日の科学軍事探偵小説がとても変なお話だったので、kashiba君は、「こんなときは少年探偵もので頭をほぐすに限る」と乱歩先生のご本を持ってでました。実はkashiba君はあまり良い乱歩先生の読者ではありません。小さい頃はルパン(そう、あの明智探偵と戦って敗れたフランスの怪盗ですね)ばかり読んで、少年探偵団の活やくはぜんぜん読みませんでした。中学生の頃、NHKで明智探知事務所の放送がはじまるのにあわせてやっと春陽文庫(ちゃんと、NHK放映!という帯がついています。ああ、なんという事でしょう!信じられませんが、まだこの頃はちゃんと本屋さんで本を買っていたのです!感心ですね)で大人向けのお話を読み始めたのです。色気のつきはじめたkashiba君は乱歩先生の描くめくるめく物語を読んでは「こかん」を熱くしていました。お父さんお母さんは、うちの息子はえらい推理小説を読んで頭のトレーニングをやっているのだ、と思っていましたが、息子はそのまた息子のトレーニングをやっていたのですね。皆さんにも覚えがありませんか?
それはさておき、そんなわけで、kashiba君はいまだに少年探偵団の活やくのほとんどを読んでいません。何作は試してみたのですが、どうも面白くなかったようです。今日のご本も「どうせ、大人もののやきなおしでしょ?」とたかをくくってとりかかったところ、本当にそうだったのでビックリです。
「超人ニコラ」は「猟奇の果て」の<そっくり人間>という仕掛を使って、宝石ドロボウというケチな犯罪をたくらむ100さいを超えるスーパーマン、ニコラと明智探偵・少年探偵団の戦いがえがかれます。自分の家族が実は別人にすりかえられていたらとても怖いですね。おまけに黄金にかがやくトラや、天狗のように空を飛ぶ怪人という不思議な事件もおきます。でも、みんな手アカがついていると解説の中島河太郎先生もバッサリです。
「大金塊」は「孤島の鬼」の暗号と宝捜しをうまくアレンジしており、皆さんの大好きな二十面相は出てきませんが、それなりにわくわくして読む事ができます。さすがに戦前に書かれたものには、乱歩先生の筆にも勢いがあるようです。その頃、中国では兵隊さんが戦っておられたので、小説家の先生たちもふきんしんなお話を書くわけにはいかなったようです。このお話でも、発見された1億円もの(今なら数千億円ですね)お金はぜんぶ大蔵省に収められてしまいます。ああ、なんてもったいないことでしょう。kashiba君はストーリーそっちのけで、お金の行く末が気になって仕方ありませんでした。このお話では小林少年が、敵を挑発する文書を残して、明智先生から叱られるシーンがあり、ちょっと新鮮です。でも、これも子供は大人のいう事をよく聞いてうっかりした事を云ったり書いたりしてはいけない、という時節がらの教訓なのかもしれません。
中味はどうあれ、ともかく無事に本を読め、感想もかけたのでkashiba君は大満足です。
「明智先生、ばんざーい」
「少年探偵団、ばんざーい」
「江戸川乱歩先生、ばんざーい」
「貼雑年譜完売、ばんざーい」

(今月入手した本:100冊、今月処分した本:6冊、今年の増減+374冊)


2001年3月15日(木)

◆残業を終えて、とぼとぼと新橋駅に辿り着いたのが21時5分前。駅前広場の古本市は撤収に入っている。一応、連日買い物をした100円均一コーナーをチェックすると、なんと!5冊300円セールになっているではないか。時間との競争の結果、並んでいた雑誌を根こそぎ浚う。
「月刊 獅子王」通巻16号〜39号(朝日ソノラマ)1500円
家に帰ってから中味を確認したら殆どソノラマ文庫でもっている話ばかり。安いからといって買えばいいというものではない。ないんだったら。


◆「ハウザーの記憶」Kシオドマク(早川SFシリーズ)読了
あの脳味噌古典SF「ドノヴァンの脳髄」の作者(なんと昨年の9月に98歳で亡くなったのだそうな)が、その出世作から25年の時を越え、冷戦真っ只中の1968年に世に問うた「トンデモ・メディカル・エスピオナージュ・ナチ風味・SFあえ」。要はなんでもありな話である。当時は遺伝子が科学ミーハー的ブームだったらしく、DNAがどうたら、RNAがこうたらといった薀蓄が飛び交うのだが、さすがに今からみればサイエンスよりはシャーマニズムに近い。RNAが種のメッセンジャーであるのはいいとして、個体記憶のメッセンジャーであるというのはいかにも飛躍がある。しかも少々マッドな主人公たる博士が、「記憶」を抽出するために取った手法たるや、脳味噌をすり潰して、遠心分離機に掛けて、あとは<ちちんぷいぷい>である。うわあ、助けてくれい。ま、とりあえずこんな話。
チンパンジーを用いた記憶転移に成功していた世界的生化学者コーリイ博士はCIAエージェント・スローターの訪問を受ける。水素核分裂の数式を発明したドイツ人科学者ハウザー博士がソ連からの亡命途中、狙撃され意識不明の重体に陥った。そのハウザー博士の記憶を他の人間に移して欲しいというのがCIAの依頼であった。自らを実験台にして、この依頼を受け入れようとするコーリイ博士。だが、彼の助手ヒレルもまた科学者であった。ヒレルはコーリイを危険に晒すよりも、よりリスクの低い道を選び自らにハウザーの脳から抽出したRNAを注射したのだ!フラッシュバックのようにヒレルを襲うハウザーの記憶。そして、その記憶の命ずるままにコペンハーゲンに飛ぶヒレル。かくしてユダヤ人生科学者に移されたドイツ人物理学者の記憶を巡り東西エージェントのマンハントは始まる。逃げる男と追う男がダブル・イメージとなって東西ドイツを駆け、謀略と裏切りの冬は犠牲者の血で赤く染められる。大陸を股にかけた逃避行の果てに待つ鉤十字の呪縛。復讐するは我にあり。
「ううむ、この話は一体なんなのであろうか?」というのが、読後第一印象。巻きこまれ型エスピオナージュの王道を行く展開は、60年代のスパイ・スリラーのオーラそのもの。このまま、ポケミスで出ても不思議ではない作品である。一応、濃い口の生科学者が登場して、科学の業の深さを語ったりもするのだが、SF設定のもたらす人格輻輳サスペンスは、純ミステリの世界でも(特に記憶喪失パターン:「暗殺者」とか「黒いカーテン」とかで)お馴染みの域を出ない。更に、エンタテイメントの読者として文句をつけたいのは、一体誰に感情移入すればよいのかが良くわからない点である。おそらくこの作品で最もカタルシスが得られるのは、ハウザーという悲劇的な人物の生き地獄旅という読み方だろうと思うのだが、作者は敢えてハウザーの内面を描こうとはしない。大ドイツの栄光を信じ、幸福な家庭を夢見、友情を信じた一人の科学者が、死して尚その全てに絶望させられる、それもユダヤ人の身体に乗って。これほどの悪夢があろうか?仮にこの話が、ハウザーの記憶の側から語られれば、「変身」と復讐のドラマとしてそれなりの感興を読者に与えたであろう。いやはや、なんとも評価に苦しむ作品である。どこを切っても中途半端。とりあえず、後回しにしておいていいです。もっと面白いSFはなんぼでもあります。

(今月入手した本:99冊、今月処分した本:6冊、今年の増減+373冊)


2001年3月14日(水)

◆左舷、花粉被弾!大破!!右舷、花粉被弾!大破!!第4、第5、第6隔壁閉鎖!出力低下70%!第三艦橋、落ちます!!
「古代」「は、はい」「波動砲で撃て!」「はあ?」「復唱はどうした?」「はっ、波動砲で撃ちますっ!!」


は、は、は、は、ははははははは、はくしょーーーーーーい!!

というわけで一日花粉で死ぬ。
「こんなこともあろうかと思って開発しておいた<花粉除去装置>だ」
さ、真田さーーん。
真田さんなどいない。
◆掲示板にDUPINさんから決定的な情報あり(ありがとうございます)。NHKのホームページでも確認したところ、「キャプテン・フューチャー」は来週3月21日から再放映スタート!銀河通信掲示板によれば、更に29日にはスペシャル版(原作は「謎の宇宙船強奪団」だったと思う)の放映がある模様。うおおおお!燃える!!
伊東岳彦流にいえば、

「さて諸君、準備はいいか?」

である。
◆帰りがけにまたしても新橋古本市をチェック。
「イクスプレス・ファイル」レン・デイトン(早川ノベルズ)100円
「わたしを見かけませんでしたか?」Cフォード(早川書房:帯)100円
「南蛮秘宝伝」左右田謙(春陽文庫)250円
百円均一棚の回転が速く、何かしら買うものがあって嬉しい。フォードのユーモア・スケッチは現役本だろうけど帯付きで100円だもんなあ。左右田謙の時代物もゲット。これでいちいち春陽の時代物をチェックしないで済む。


◆「現代イギリス・ミステリ傑作集(1)」ハーディング編(ポケミス)読了
ポケミス1600冊弱の中で、アンソロジーは少ない。「名探偵登場」や「黄金の12」、そして「密室殺人傑作選」など。まあ数が少ない分、レベルは高いのかもしれないが、やはり<アンソロジーはハヤカワ文庫>という思い込みがこちらにあったせいだろう、このハーディングの3分冊がポケミス出た時は相当驚いた。しかも、文庫で刊行中のシリーズのベスト集である。素朴に「なぜ?」であった。今もって謎である。内容はさすがにベスト・オブ・ベストだけあって、86年に編まれたとは思えないビッグネームも登場。読み応え十分である。正直、ポケミスで300頁超は、一日の読書量としては些かきつい。勿論、通勤の行き帰りだけでは読み切れず、帰宅して3分の1を読む羽目になる。さすがに時代が時代なので、真っ向から本格推理小説している作品は0に等しく、ツイストの効いたクライム・ストーリーが並ぶ。第1巻には12編収録。以下、ミニコメ。
「君が執筆で忙しいのは判っているけれども、ちょっと立ち寄っても気を悪くするはずはないと思ったんだ」(Eクリスピン)世界最長の題名をもった短編ミステリかもしれない。執筆を邪魔されつづけた作家が「切れた」時、訪問者に命の締切が訪れる。まあ、お約束の話だが、実体験もありそうで楽しめる。
「この家に祝福あれ」(Cブランド)少し精神のタガが外れた一人暮らしの老婦人が、身重のまま路頭に迷う歳若いカップルに救いの手をさしのべる。出産に成功した時、その子をキリストの再臨と信じ込んだ狂気が走り出す。まんまと作者にしてやられる<奇蹟>のクリスマス・ストーリ。さすがブランドである。
「血の協定」(Eアンブラー)クーデターで倒された独裁者。革命政府を軽やかな弁舌で煙にまく彼に心の平穏は訪れるのであろうか?巻き込まれ型エスピオナージュの神様が、シニカルな笑いのマエストロでもある事を証明する一編。貫禄勝ち。
「したたかな女」(HRFキーティング)銀行の向かいに住む夫婦が巻き込まれた大胆な銀行襲撃事件。頭に重傷を負った夫を庇い、一人、弁舌のみで強盗一味に揺さ振りをかける妻の闘いを描く。「かかあ天下」をかかせると巧いねえ、この人。
「パルマー氏の金の鯉」(Jビンガム)チェーン洗濯屋の支店長の密やかにして唾棄すべき<趣味と実益>の顛末記。脅迫を心から楽しんでいる主人公に感情移入していく自分が怖い。起承転結に一点の隙もない傑作。うほっ、ジョン・ビンガムって巧いじゃん。
「クィン氏のティーセット」(Aクリスティー)再々読。やはり雑然とした印象は変らない。どうしても編者としてクリスティーのシリーズ探偵、それもみずからのアンソロジー用に書かれた作品を入れたかったのであろう。誰もそれを責める事などできまい。
「メアリ」(PMハーバート)幸せな中年夫婦宅に迷い込んだ美少女。その娘の美しい毒が一家に回り始めた時、中年夫婦の友人が下した結論とは?「銀仮面」系の話ではあるのだが、ラストの唐突感は破格である。正直、自分が作者の意図を正しく読めたのか自信がない。
「ファニー ──望楼」(Jスタッブス)従姉ファニーによって巧みに脅され操られていく使用人たち。そのファニーが男性の心を絡め取ろうとした時、鼠は牙を剥く。ファニーという怪物が凄い。「操り」に掛けては中期EQの犯人達の域に迫る。いかにも英国的な大家庭での日常と権謀がよく描けている。
「病的執着」(Mトリップ)自分に自信をもてない男女が、静かな愛を育み、素晴らしい結婚生活に入った時、迷惑なストーカー男は堂々とやってくる。片隅の愛の描写が共感を呼ぶ。それだけにこのストーカーには主人公ならずとも殺意が湧く。「愚者の贈り物」というか、ヒッチコックアワーというか。ラストの一行がよい。
「逆転につぐ逆転」(Fクリフォード)天才的な軽業師の娘が巻き込まれた宝石奪取計画。サーカスの雰囲気抜群の導入部から、恋人達の語らいと脅迫、サスペンスフルでどこかファンタジックな犯行シーン、そして「逆転につぐ逆転」。短編ミステリはかくありたい。
「死は大草原の中に」(Gローズ)南米のパンパスに逃亡者を追う捜査官と現地の署長。渇いたマンハントの結末は<薮の中>。やーらーれーたー。異色の舞台に慣れる頃には作者の術中に落ちていること請け合い。
「特種」(Dフランシス)ケンタッキー・ダービーに仕組まれた大がかりな八百長。泥酔の中でその情報を偶然手にした酔いどれ記者に果たして「再生の時」は訪れるのであろうか?主人公のダメダメぶりが笑いを誘う。作者が作者なので本当に笑える。

(今月入手した本:75冊、今月処分した本:6冊、今年の増減+349冊)


2001年3月13日(火)

◆思いついたので書いておく。「♪ほのぼのローン、ほのぼのレイプ」
うーむ、なんだかドラマを感じちゃうなあ。
◆なんだなんだ、新橋駅前で古本市やってんじゃん、と帰りがけに気がつく。しまったなあ。そういえば、ポスターでてたっけねえ。昨日は雪と雨だったけど開いていたのかな?まあ、こちらの市では余り出物に出くわさないので、左程悔しくもないのではあるが。底冷えする駅前広場をちょこちょこ見てまわって、最後に行き当たったお楽しみ100円均一コーナーで幾つか拾う。
「野望の接点」黒木曜之助(さんいちブックス:帯)100円
「柔肌の罠」三好徹(三一書房)100円
「風がめざめる」菊村到(講談社:函)100円
「欲望の媒体」邦光史郎(三一書房)100円
d「忍法八犬伝」山田風太郎(東京文芸社)100円
「ある状況」佐野洋(宝石社)100円
「ボギー!俺も男だ」Wアレン(新書館:帯)100円
本当に読むのか?と問われると辛いゾーン。が、100円の誘惑には堪えられない。ほら皆さんも、つい百均ショップで要らなそうなもの買っちゃうことあるでしょ?
◆掲示板のやりとりに刺激を受けて新刊書店へ。ご存知安田ママさん勤務先へ。
「眼中の悪魔」山田風太郎(光文社文庫:帯)857円
「十三角関係」山田風太郎(光文社文庫:帯)857円
「『猟奇』傑作選」ミステリー文学資料館編(光文社文庫:帯)724円
「怪奇小説傑作選2 横溝正史集」日下三蔵編(ちくま文庫:帯)950円
「妖怪馬鹿」京極夏彦他(新潮OH!文庫)695円
「仮面ライダークウガ超全集(下巻・最終巻)」(小学館)各1048円
うーん、新刊文庫本1冊の値段で古本7冊分。やはり高いとしか言い様がない。でも、もし何処ぞの古本屋に同人誌で「『猟奇』総目録」てな20頁ぐらいの冊子があったら、1000円は確実に出すもんな。京極夏彦画妖怪パロディ漫画集という16頁の冊子があれば2000円まではOK、OKだもんな。光文社文庫の山田風太郎は、「笑う肉仮面」を古本で買った気になれば、10巻全部買っても釣りがくる。10巻揃いでもっておけば、後々転売も効こう。問題はちくま文庫である。こればかりは、もし第1期で終ったら泣いちゃうぞ。


◆「犯罪の足音」岡田鯱彦(光風社)読了
さて、別冊幻影城で「薫大将と匂宮」と「樹海の殺人」がカップリングになっているのは編者の慧眼というべきか、それとも誰が見ても他がゴミなのか?という疑問に駆られてしまう岡田鯱彦である。200頁級の表題作と3短編を収めたこの本も絶版になって既に40年の歳月が流れている。結論から申し上げれば、なるほどこれは絶版もむべなるかな、という作品集であった。表題作なんぞは、なかなか派手に人が死にまくり、それなりのフーダニット趣味もあるのだが、なにかこうわくわくするものがない。同じようなプロットで正史が書けば「八つ墓村」になるものが、岡田鯱彦が書くと通俗抒情サスペンスにしかならない。これはもうストーリーテラーとしての才能の差としか言い様がない。表題作はこんな話。
胸を患い南伊豆の宿で静養する大学生阿部文夫。宿の主は片桐熊之助という70歳近い老人。そして阿部は熊之助の若妻・千鶴子の美貌に打たれる。ある夜、阿部は宿から抜け出す女性の姿を目撃するとともに、熊之助が千鶴子の寝具に短刀を突き立てているのを盗み見てしまう。幸いにも千鶴子は翌朝何事もなかったように阿部の前に姿を現す。だが、彼女には家を抜け出た記憶はないという。果して、千鶴子は夢遊病なのか?やがて静かな南伊豆の宿は一転、恩讐と欲望の連続殺人の舞台と化すのである。宿の養子・鹿之助、千鶴子に懸想する学校教師・原、次々と謎の転落死を遂げていく被害者たち。千鶴子の兄・源太は片桐への呪詛を吐き、運命の崖に道化達の足跡は交錯する。そして殺意は墜ちていく。白く泡立つ水面に向けて。
「伊豆の踊り子」を殺人劇に脚色したような旅情サスペンス。薄幸の佳人を軸に老若問わぬ男達の色と欲が絡まり、静かな「連続殺人」が起きる。ストーリー上のこととはいえ、幼児や少年まであっさり殺害されてしまうのには驚いた。ちょっと無神経じゃないかなあ。途中から倒叙的な展開もあって、それなりに考えられたプロットではあるのだが、本格推理からは程遠い、フェアプレイの欠片もない読物である。真犯人がラストで主人公を前にして崖をバックにべらべらと自分の犯行を告白するのは、土曜ワイド劇場的お約束。一定の水準は確保しているものの、希少性だけで本を読めるコアなマニア以外は無理して読む必要はない作品である。
他収録された3短編のうち1編「地獄から来た女」は、先般レビューした「断崖殺人事件」の短編バージョン。どちらが先だったのかという興味は湧く。「言葉の殺人」は美女の嫉妬心がもたらした<言葉による殺人>の顛末記、「雪の夜語り」は雪の夜の二つの純愛譚と一つの犯罪譚、そして奇蹟は起きる、という類いの話。まあ、どちらもオーヘンリー未満である。こんな本に大枚はたく必要はございません。

(今月入手した本:72冊、今月処分した本:6冊、今年の増減+346冊)


2001年3月12日(月)

◆成田さんに送本。夜は歓送会。雨。購入本0冊。
◆私の計算が正しければ、この日記の感想文もそろそろ800冊分に達した筈。フクさんのように書き貯めがきかず「毎日が締切り日」の自転車操業。今日も、会社の後輩からきぱっりと「サラリーマンのやるこっちゃないですね」といわれてしまった。そうだよなあ。少なくとも真面目なサラリーマンのやるこっちゃないわな。 ちなみに私が書き貯めてある、原稿といえば、サイトを閉める時の主宰者の辞のみ。もしこの感想日記を更新できなくなった時には、いつでも出せるように用意だけはしているのだ。おおおお!なんだか辞表を胸ポケットにいれて闘う企業戦士のようじゃ。いやまあ、辞表の方は用意してないんだけどさあ。


◆「七面鳥、危機一髪!」山田正紀(双葉ノベルス)読了
なぜか読み残していた山田正紀の連作ピカレスクが本日の課題図書。ルパン3世を彷彿とさせる「七面鳥」という小粋な泥棒の活躍する短編6編が収録されている。しっかり、カバー絵はモンキーパンチである(ほんと)。声は山田康雄である(うそ)。作者が確信犯的に「字漫画」を志向した作品集であり、主人公は毎回のように絶体絶命のピンチに晒され、それを奇手で切り抜ける。それなりの伏線を引いているところがさすが山田正紀。荒木比呂彦並みの説得力があるぞ、とまで云うと褒めすぎか?第1話、第2話では都筑道夫の「なめくじに聞いてみろ」「暗殺心」の如き「敵の奇妙な<殺し技>を封じる」という路線なので、そのまま最後まで突っ走ると思いきや、そこは飽きっぽい山田先生の事、3〜5話は、それぞれに「特別料理」「RPG」「クリフ・ハンガー」というシチュエーションにキャラクターを放り込んで勝手に動かし、最終話では、「ギルバート・マレル卿の絵」を堂々と正面から盗んで、見事な「七面鳥の歌」ちゅうか「白鳥の歌」を謳いあげた。枚数の制限がきつかったのか、序盤・中盤をそこそこにして、山場だけを書くという構成は、実に読みやすい。なるほど、通常の「準備、潜入、工作の綻び、サスペンス、間一髪」という展開は只の水増しであったのかと納得させてしまうところが山田正紀。まあ、これまでにきちんとその分野での仕事をこなしてきた作者でなければ「なめんじゃねえぞ」なのではあるが。以下ミニコメ。
「七面鳥、登場」題名通りの主人公登場編。後の作品でコンビを組む事もある峰不二子もとい「工藤七子」も登場。E国大使館からD王妃が来日時に着るファッションを盗み出す七面鳥。逆転に次ぐ逆転。出だしは怪人二十面相、序盤はニック・ヴェルベット、そして全編これ、るぱーん3せーい、である。いやあ漫画だあ。
「七面鳥、ジルバを踊る」盗みではなく、ある老人たちの夢をかなえるべく、アジアの軍事国家の邸宅でジルバを踊る七面鳥と七子。ところが、潜入した建物は模様替えされており、事前準備は全く役に立たない!危うし七面鳥。だが、真の危機はミッション終了後に訪れる。第2話にして、既に泥棒ではない。大胆なパターン破り。伏線の妙が光る完成度の高い「暗殺心」。
「七面鳥、料理される」中国人富豪の秘密料理のレシピを盗め。潜入した筈の七面鳥は、あれこれとかかる注文の多さに、ある<保険>を掛ける。まあ題名通りのお話で、展開、オチとも予測に範囲を出ない。山田正紀にしては凡作。
「七面鳥、ロールプレイング・ゲームになる」殺し屋と掏りと金庫破りと七面鳥、チームで銀行強盗に挑む4人。しかし、それは周到に練られたRPGの幕開けだった。ところが、現実はゲームとは異なる。頭でっかちのオタクの悲鳴が聞こえる痛快作。既に自己パロディ。
「七面鳥、百万ドルの夜景を盗む」香港の富豪同士の賭けの駒にされた七面鳥が、難攻不落、仕掛満載の「悪の居城」に挑む。ぎっしりとクリフ・ハンガー。小説巧者が、昔懐かしい<罠>に捧げるオマージュ。感動的なラストに、どうしてもオチをつけたくなる山田正紀って御茶目。
「七面鳥、最後の挨拶」独裁者の妻の財宝を盗め。七子とともに七面鳥が挑む最後のヤマ。トリックは「ギルバートマレル卿の絵」そのものである。作者もそれを断わった上で、更にツイストを加え感動作に仕立てあげた。どうか、七面鳥が、バリツで危機を切り抜けますように。

(今月入手した本:58冊、今月処分した本:6冊、今年の増減+332冊)


2001年3月11日(日)

◆本当に久しぶりに完全オフ。午前中は爆睡に次ぐ爆睡。いやあ、寝る寝るうう!爽快!やっぱり人間寝なあきまへん!!折角なので昼飯を食いに出たついでに、一寸だけ新京成沿線を定点観測。
「聖女のふりをして」森真沙子(KKベストセラーズ)400円
「女死刑囚」山田風太郎(旺文社文庫)220円
「ゑいり庵綺譚」梶尾真治(徳間書店:帯)100円
「刑事物語」片山蒼(サンリオ)100円
「刑事物語2 りんごの詩」片山蒼(集英社:帯)100円
「偽装殺人」Sケリー(原書房)100円
「ヘミングウェイペーパー」Vコスグローヴ(光文社)100円
「マルティーニの妖術」有明夏夫(文藝春秋:帯)100円
「ズルきこと神の如し」邱永漢(東都書房:函)500円
「昏い部屋」Mウォルターズ(東京創元社:帯)1040円
「ウィッチライト」テム&ナンシー(創元推理文庫:帯)290円
d「透明惑星危機一髪!」Eハミルトン(ハヤカワSF文庫)140円
d「恐怖の宇宙帝王」Eハミルトン(ハヤカワSF文庫)140円
d「宇宙囚人船の反乱」Eハミルトン(ハヤカワSF文庫)140円
d「魔法の月の血闘」Eハミルトン(ハヤカワSF文庫)130円
d「人工進化の秘密」Eハミルトン(ハヤカワSF文庫)130円
d「月世界の無法者」Eハミルトン(ハヤカワSF文庫)130円
d「危機を呼ぶ赤い太陽」Eハミルトン(ハヤカワSF文庫)140円
d「異次元侵攻軍迫る!」Eハミルトン(ハヤカワSF文庫)100円
d「ラジウム怪盗団現わる!」Eハミルトン(ハヤカワSF文庫)130円
森真沙子が一冊前進、って、こんな本出ていたのも知りませんってば。旺文社文庫の山風は所持本がカバー欠けだったので入替え。梶尾本も元本が帯付き100円だと買ってしまいますのう。後はちょぼちょぼ。キャプテンフューチャーが纏まって出ていたので再放映記念放出に向け捕獲だあ!!只今のところ全20冊中16冊までダブっております。さあ、放映開始までに20冊総てダブらせる事ができるのか?!


◆「危険なささやき」MPマンシェット(早川ミステリ文庫)読了
最近某著名SFサイト主宰者が嵌まっているおフランス暗黒小説ざんす。パリとその周辺を舞台に、私立探偵がギャングとドンパチやる話。あのアラン・ドロンの監督第1作だそうな。カバー絵は明らかにドロンを意識してますのう。で、随分元気のいい訳だなあ、と思ったら、訳者は藤田宜永。よくみれば作家デビューの3年前。ふーん、こんな仕事をしてたんだあ。どうも原作に惚れ込んで訳したというよりは「映画公開に間に合わすんだ。誰か手の空いた人間はおらんかあ?」という事で白羽の矢が立ったように思えてしまう。お話の方は、マンシェットにしては、主役がやや体制よりで少々イメージが違った。こんな話。
おれの名はウージェーヌ・タルポン。元機動憲兵の私立探偵だ。現在抱えている事件といえば、薬剤師の使い込み調査。地道なもんさね。そこへ、顔馴染みのコッチョリ警部から、一人の老婦人が回されてきた。彼女、ピゴ夫人の依頼は行方不明になった盲目の娘フィリッピンヌ探し。警部は、他の探偵に食い物にされないよう、適当にあしらって欲しいと電話を寄越す。ところが、依頼を引き受けるや、いかにも暴力の匂いを漂わせた人間が現われ、事件から手を引くように迫ってくる。更に、あろうことかおれの眼前で、一発の弾丸が依頼人の頭を吹き飛ばす。死者からの手紙で、娘の父親であるファンシュ・タンギイなる人間の存在を知ったおれに次々と刺客が送られてくる。そしてついには「警視」を名乗る男からも命を狙われたのだ!一体、今度のヤマは何なんだ!?スタント役者の女友達シャルロット、元新聞記者のチェス友達エマンの家を転々としながら逆襲の時を待つおれ。どこまでも手荒い事件は、フランス・ゲシュタポの逃亡と新興宗教の闇へとおれたちを誘う。
ジェットコースター・ハードボイルド。とにかく息つく閑もなく次から次へと事件が起きる。平凡な人探しの依頼が、たちまちにしてフランス全体を揺るがす大事件へと発展する大風呂敷ぶりに驚く。プロットの組み立ては実にしっかりしており、とある「偶然の一致」もまた企みの賜物であった事が判明した瞬間、膝を打つ。主人公タルポンの躊躇のない荒事師ぶりも堂に入っており、恋人役のスタント女優もいい味を出している。だが、「結」の部分が些か説得力不足。なぜ、主人公たちでなければいけないのか、という必然性が乏しい。もっと警察をワルに描いてトドメをさすべきだったような気がする。画竜点睛を欠きましたな。

(今月入手した本:58冊、今月処分した本:5冊、今年の増減+333冊)