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2001年2月28日(水)

◆うう、3.1付け転勤者用に机を整えていたら右の人差し指を切ってしまった。傷自体は大したことはないのだが、バンドエイドで関節を固定する格好になってキーボードが叩き辛いったらありゃしない。実は、結構微妙なバランスで動かしていたんだなあと言う事が良く分かった。なにか、変な所の筋肉が攣りそうである。
◆余裕のあった一日の就業時間終了の直前に残業決定。3時間ほど精を出す。やっとれまへんな実際。購入本0冊。
◆帰宅すると、安田ママさんから奇想天外の発送費到着。ドラえもん切手にモモ(ミンキー・モモではなくて、ピンクのクマの方ね、って誰も勘違いせんか?)シールの封筒であった。若い。ところで、夜郎自大企画の発送・リスト回覧、風邪にかまけて全面的にサボっております。すみません、松本さーん。ごめんなさーい。
◆お、茗荷丸さんはHMM最新号を無事買えたようですな。慶賀。っちゅうか、このサイトで「新刊げっとーー!!」なんちゅう、新刊読みサイトの定番台詞を口走る事があろうとは思いませんでしたわい。
◆S陽堂にご勤務の某女史から「西村京太郎ねえ。ちゃんと知らなかったわよん!」とメールを頂戴する。そうでしょうとも、そうでしょうとも(笑)。


◆「ひらけ胡麻!」Mギルバート(東京創元社・現代推理小説全集13)読了
一種<名のみ知られたミステリ>であろう。まず、創元推理文庫に落ちており古い総目録や、巻末目録などで題名だけは結構見かける。そして現代推理小説全集版も文庫版も絶版が長く続いている。加えて、かなり印象的な題名であり、かつ、中身を全く連想させない。これが「俳優パズル」や「ウイーンの殺人」とかいうのであれば、「ああ、劇場ミステリなんだなあ」とか「ウイーンで殺人が起きるんだろうねえ」と凡その想像はつく。「フレンチ警視最初の事件」なんかも「フレンチ警視最初の事件なんだろうなあ」とわかるし、「幽霊の2/3」に至っては、もごもごもご。ところが「ひらけ胡麻!」は、元がパクリなので、見当のつけようがない。で、読んでみたところ、これが尚も「なんと申し上げてよろしいのやら」というジャンル分けを拒否する一風変った作品であった。創元の分類上は黒猫マークなのであろうが、「その他」の黒猫マークなんだよねえ。敢えていえば、社会派謀略経済スリラーとでも申しましょうか。こんな話。
戦場の余韻を引き摺った快男児パトリック。今は会計事務所で地道な仕事に打ち込む日常だが、ある日の帰宅途中、いつも電車で一緒になる勤め人が拳銃自殺しかかる所を偶然目撃してしまう。すんでのところで思いとどまった男ブリトゥンを酒に誘い、一杯飲ませて事情を聞くと、勤め先で上司の会計課長ブランディソンの理不尽な虐めに遭い30年務めた会社を解雇された所だという。男をなだめて、拳銃を預かり別れた翌朝、警察の訪問を受けるパトリック。なんと、ブリトゥンが水死したというのだ!前夜、したたか酔っ払いながらも帰宅まで確認した筈なのに。しかも、解雇の切っ掛けとなったらしい数字が羅列された書面が消えているという。警察も検死法廷も「自殺」を採るが、快男児は納得できない。早速、ブリトゥンの勤め先に友人のつてで渡りをつけるや、遣り手の総支配人リゲイトに、ブリトゥンが何者かに嵌められ殺害されたのではという疑惑をぶつける。謎に一歩近づいた満足感に浸るパトリックであったが、なぜか数日後、勤め先の会計事務所から今度は彼自身が解雇通知を受けてしまう!そして偶然、自社で死んだ男の上司であった会計課長の姿を見掛けるのであった。パトリックの友人である弁護士アントニィは友人の窮状を聞いて立ち上がり、自ら謎の会計課長の追跡に乗り出すのだが、その彼を暴力のプロが出迎える。一見平凡に見えた「ある出納係の自殺」に秘められた大陰謀とは?そして二人の快男児の運命や如何に?!
ここまで、4分の1。この先も、ダブル快男児は様々な罠に見まわれ、恋に身悶え、死体が転がり、事件は40年前にまで溯る。MI6上がりの老獪な伯父が舞台を仕切り、そしてラストは、対空砲火一閃!一体なんなんでしょうね、この話。ギルバートと言えば、密室や、学校ものや、ビレッジ・フーダニットがある一方で、金融ものや冒険ものでも翻訳作があるわけだが、これは後者に属する「1949年のリチャード・ハネー」風作品である。一章先がよめないビックリ箱のような展開にはまさに「ひらけ胡麻!」という題名こそが相応しいのかもしれない。いささか主役級が多すぎて感情移入に苦しむ作品であるが、スーパーヒーローの存在を許さない「現代」での冒険ものを志向した実験作だったのか?まあ、本格至上主義者は無理して読まなくていいです。持っている事に意味のある本かも。

(今月入手した本:171冊、今月処分した本:65冊、今年の増減+280冊)


2001年2月27日(火)

◆私は「銀河帝国の弘法も筆の誤り」などというダジャレは大ッキライだ!とここで宣言しておきます。ヨコジュンのその手の作品も勿論大ッキライ。何が嫌いって、そんな私でも思いつくような下らんダジャレで原稿料をとっているところが嫌い。近親憎悪ですな。
◆うーん、掲示板でよしださんが遊んでいるなあ。古本戦隊ならばやっぱ「セドレンジャー」ではないでしょうか?
「素顔の古本戦隊が新宿伊勢丹に集合!倒せ、悪の女王ゲル・セドラ!本の未来は俺たちが守る!唸れ、ハイパー・ブルドーザー!!遂にやってきた最終対決!!ニューヒーロー『カウレンジャー』も応援に駆けつけたあ!『みんな!新宿伊勢丹で僕と握手!』」。
ミステリネタなら「コンチネンタル・ブック・オプ」ってえのはどうだ?
主題歌は「♪本を売るならブックオフ〜」の音階で「♪こんちねんたる、ぶっく・おぷ〜」と唄うんだ。さしずめ「横溝正史読本・角川文庫初版」が「<赤い>収獲」ですな。でも、本当に探しているのは、失われた「大陸書房」の本だとかさあ。
◆ほほほ、安田ママさんがHMM最新号を買っておられますのう。風読人掲示板情報では、既に売り切れ店も出てきているみたいだし、二階堂黎人氏も日記で煽っているので、影響力大。これで普段は新本格しか読まない人も買いに走るぞお。果して、茗荷丸さんは、無事HMMを買う事が出来るのか?!ますます予断を許さない展開になって参りましたあ。さあさあ、中味はどうあれ、入手困難だよ〜、もう手に入らないよ〜(←ここの常連さんにとっては、なによりの煽り文句)。
◆菅浩江女史から最新短編への言及について御礼メールを頂戴してしまう。いえ、こちらこそ、素晴らしいお話をありがとうございました。という訳なので、湯川さんも真面目に感想を書こう。
◆1軒だけブックオフチェック。
d「奇巌城」Mルブラン(角川文庫:水谷準訳)100円
「星々からの声」Nスピンラッド(早川SF文庫)100円
「黄金の一角獣」児島冬樹(ソノラマ文庫)100円
「罪深い神々の惑星」児島冬樹(ソノラマ文庫)100円
「黄金の竜騎兵」児島冬樹(ソノラマ文庫)100円
「犯人はだれだ?」矢島誠(白石書店)100円
d「バビロニア・ウェーブ」堀晃(徳間書店)100円
ふっふっふ、これで新井苑子画の角川文庫ルパンが揃いましたかな。誰か、揃いで引き取ってくれる方はいらしゃいませんかのう?スピンラッドは、ふと未所持ではないかという焦燥感に駆られてとりあえず押える。うーむ、持ってるのか、俺?


◆「おお21世紀」西村京太郎(春陽堂・サンポケット・ブックス)読了
たまには変なものを、と思って著名作家のキワもの作品を取り出した。なにせ、今年は21世紀突入の年である。この、作者もその存在を忘れてしまいたいであろう昭和44年に書かれた「書き下ろし未来小説」を読むのに、これほど相応しいタイミングはない。「西村京太郎に長篇SFがあった」というのが驚きならば、「春陽堂がノベルズ本を出していた」というのも結構な驚き。この京太郎作品が13冊目であり、それなりの数が出ていた模様である。しかし、今やこんなものが出ていた事は社員すら知らんのではなかろうか?ねえ?(って、誰に聞いている?)実はこの作品、角川文庫から「21世紀のブルース」として改題復刊されているらしく、bk1では「取り寄せ」マークながら、まだ生きているようである。くそう、それと知っていれば読まなんだものを。こんな話。
21世紀。松崎家の正月は、テレビから始まる。70年安保をゲバ棒振り回して闘った親父に妻、そして長女朋子と次男アキラは、どのチャンネルを回しても「月からの中継」という代わり映えのしない番組にうんざり。そこへ長男夫婦はどんと張り込んで月旅行、カメラの向こうから手を振って寄越す。かくして、長閑に明けた21世紀、朋子の婚約者でテレビ局勤めの田島は、立体テレビ時代に相応しいグラマーな混血タレント原田ロミの売り出しを重役である父から命じられ、東奔西走の日々を送る。一方の朋子は、女子大通いの傍ら、田島から紹介された海洋学者沢木の助手を務めることとなる。沢木はソ連が行った北極圏の自然改造の影響で北海道に旱魃が起きる事を予知していた。地震すらショー化してしまう21世紀の人々に、果して「危機」は存在するのか?「冒険」はありうるのか?確かな予見と想像力で描かれた薔薇色の21世紀の明るい人間群像がここに!
爆笑!いやあ、実にのどかで古いセンスのえす・えふである。さながら「ハワイ旅行」の如き「月旅行」、ロボット化される大学教育、自動運転の自動車、グラマーな立体テレビ・タレント、予知され尽くす地震、ショウアップされるゲバ棒集会、へそ曲りの親父どもに聞き分けのよい子供たち、フリーセックス、そして巷に流行る21世紀のブルース。まあ、宇多田や倉木による和製R&Bの流行を言い当てたのはお見事と褒めておきますか?でも、またその「21世紀のブルース」の歌詞が悶絶ものなんだけどさあ。同じ時代に書かれた、眉村卓作品などと比較すると、如何にも上っ面のみの作品である。諸君、田中啓文のダジャレSF読んでいる閑があったら、コチラヲ読ンデ馬鹿笑ヒシ給ヘ。

(今月入手した本:171冊、今月処分した本:65冊、今年の増減+280冊)


2001年2月26日(月)

◆会社のサーバーが半日ダウンする。まあ、もとより閑な1日だったのではあるが、ほんっとーーにヒマっ!になる。ここまでコンピュータに依存したビジネス形態になっていようとは、うーむ。素直に驚く。
◆途中下車して一駅だけ定点観測。安物買いに走る。
「殺し屋」Lブロック(二見文庫)100円
「魔法探偵、総員出動」Rアスプリン(早川FT文庫)100円
「デッドガールズ」Rコールダー(トレヴィル)100円
「エヴリデイ・ドリンキング」Kエイミス(講談社)100円
「ハートレス」SPコーエン(早川書房)100円
「ディベロッパー」JDマクドナルド(集英社:帯)200円
ああ、なんで古本ってこんなに安いんだよう。コールダーのSF処女作なんて定価2500円だぜー。ジョンDの遺作だって1800円だぜーっ!
◆更新されてますリストが不調だったので、愛・蔵太さんのところからRead meの新着サイトをあれこれ覗きにいく。凄い!90%が屑だ。スタージョンの法則って凄い!!中には既に「Not Found」もあったりして驚く。ふと、このサイトが愛さんにかかるとどうなるのか夢想してみた。
「狂ったように古本を買っている方の日記がありました。推理小説が好きなようです。<田舎のブックオフ>ぐらいには専門的です。」
あははははっ!(仲間由紀恵笑い)


◆「ライディング・ザ・ブレット」Sキング(アーティストハウス)読了
電子出版で話題を呼んだキングの新作中編。電子出版への道を開いた、とも言われるがキングなら何をやってもOKよ、って感じ。豪華私家版やカレンダー小説でキングが成功を収めたからといって「豪華私家版の黄金期が来た!」「カレンダー小説時代の黎明を告げる!」とはならん筈である。どうも器が新しいと、そちらに気がいってしまうようで。で、その話を翻訳電子出版するのならともかく、電子先行注文者に、他では手に入らない装丁本を送る、というのが、いかにも今の日本の「IT」だよなあ、と笑ってしまう。所詮、BtoCなんぞ、電話注文の域を一歩もでないわけで。さて、この作品、器用なキングの事だから電子出版のメタねたでも勝負出来たであろうが、あえて真っ当な<火車>もので勝負。こんな話。
それは「ぼく」ことアランが大学生の時の話。女手一つで必死にぼくを育て、今こうして大学にまで進学させてくれたおふくろが脳卒中で倒れたとの報が届く。ヘビー・スモーカーの彼女からタバコを取り上げる事はできなかった。幼い頃からの母の思い出がぼくの脳裏を駆け巡る。取るものもとりあえず、故郷の街に急ぐぼく。だが、途中でヒッチハイクの車を替えたのがいけなかった。サイコな親父が運転する小便臭いトラックから乗り換えた車は、死臭漂う<地獄への弾丸>だったのだ!遠い日の情景。遊園地の人気アトラクションで宙を駆けていた車。その運転手は、静かに、ぼくを追いつめ、究極の二者択一を迫ってくるのだった。果して「ぼく」の出した結論とは?そして、愛しい母の運命や如何に?
母と息子の情愛を軸にした円熟作。微笑みと安堵の向こうに悪意と死の陥穽が口を開けて待っている。中盤の露骨にしてナスティーな展開で、クライマックスへの期待が盛り上がったが、さすがに中編の分、静かな心理小説に落ちていった。まあ、そこはキングの事、きちんと魅せてはくれるのだが、少々全編のプロットを無効化しかねないオチではないかいな?何が怖いといって、これを1000円で売る出版社が一番怖い。いや、電子注文限定本をすぐさまヤフーオークションに出品して煽る奴はもっと怖いか。

(今月入手した本:164冊、今月処分した本:65冊、今年の増減+273冊)


2001年2月25日(日)

◆洗濯、掃除を片付け、昼からEQFCの例会へ。途中西船橋で下車して昼食をとった後、三省堂でHMMとSFMの4月号を購入。なんと、HMMの方がSFMよりも分厚い!という希有な出来事!!これは本当に珍しい。その奇蹟が起きたのは「ジョン・ディクスン・カーを読もう!」なる特集ゆえ。なんちゅうか、「第三の銃弾」完全版だけで通常号分の厚さを確保している。ポール・アルテをはじめカーへの愛に満ちた翻訳作に、芦辺・二階堂の競作パロディ、更にエッセイに、全話梗概。HMMとして4冊目の臨時増刊にしてもらってもよかったかな、という出来栄えで、もう頭の天辺からしっぽの先までカーがぎっしりみっしり詰まっている。悪い事はいいません。普段はHMMを買わない人も今月だけは買っておきなさい。これは後々伝説になる巻です。この巻を「加納朋子のインタビューが載っているから」という理由で買うのは小林文庫オーナーぐらいでありましょう。
◆SFMは牧野修の連載完結号であり、菅浩江の「博物館惑星シリーズ最新作」掲載号。これも文句無しに「買い」!!菅浩江「お代は見てのお帰り」は、大道芸を題材にしたシリーズのボーナス・トラック。「偉大なる父」をもってしまった息子は、自分の息子に何を伝えるのか?博物館惑星が、計算された笑いと狂騒と驚愕のアンサンブルで満たされる時、選択は迫られる。芸人科学者という設定の勝利。一種のリドル・ストーリーではあるが、答は出ている。だから、胸キュンが募る。どこまでもイタリア映画の猥雑さを纏った異色作。ファンは、これだけでも立ち読みしましょう。
◆アジア会館での例会には、常連さんに、妙齢の新人女性2名(Satoさんと郷さん)に、ミステリ同人誌界にその名を知られた浅草紅堂の小林宏至さんも加わって新鮮、新鮮。まあ、私は例によってMoriwakiさんとボけをやるのを楽しみにいったようなものなのではあるが。今回の読書会は「新冒険」から「がらんどう竜の冒険」と「暗黒の家の冒険」。ところが、斎藤会長は何を思ったか、一向に本題に入ろうとせず、トリビア・クイズに明け暮れる。例えば「がらんどう竜」の依頼人のハンカチは何の匂いがしたでしょう?とか、どんな帽子を被っていたでしょう?、彼女のコブは何の卵ぐらいの大きさだったでしょう?被害者の部屋は何階にあったでしょう?「がらんどう竜」はどこにおいてあったでしょう?お値段は幾らぐらいのものでしょう?等など。延々30題のトリビアの嵐に少々疲弊する。そんなもん覚えてるわけないじゃん!!中でもお気の毒は新参加の郷さん。だって課題本読んできてないのに、無理矢理答えさせるんだもんなあ。もし、次回彼女が参加しなかったら、あなたの責任だぞお、さいとーかいちょー。私は何回か捨て身でボケをかまして溜飲を下げる。早目のオークションでは、私のもっていったクイーンのオムニバス本が何故か高値を呼んだ以外は全体的に低調。はっきり言って、SRもEQFCもオークションがオークションとして機能しない。どちらかといえば「引き取り手捜し」である。稼ぐつもりで出品するとエライ目に遭います。私の出品は5長篇収録のオムニバス本の他は、奇想天外創刊号、SFワールド2、らんだの城40号、「クイーンの色紙」。逆にオークションでの買い物はなし。ただMoriwakiさんから2冊お譲り頂く。
「モンタージュ写真」Mルブラン(創元推理文庫・初版・カバー)100円
「ライディング・ザ・ブレット」Sキング(アーティストハウス)400円
前者は後に「贋作」と合本になった作品だが、単独で出ていた頃の版がコレクターズ・アイテム。なんてったって、通番が300番丁度のキリ番なのである。うう、こんな貴重なもの頂いてしまってよろしいのでしょうか?ありがとうございますありがとうございます。キングは例のネット注文特別版。なんでもネットで申し込んだら献呈を受けてダブった由。お気の毒さま〜。後は、帰り支度に入る人が出たために、会誌クイーンダム61号の発送作業に突入。インクパッドが乾いていたり、会費切れ書き込みを忘れたり、振込み用紙の封入を忘れたりと、あれこれとトラブル。やっと、本題の読書会に入る頃には疲れきった表情の皆様ではありました。私は「がらんどう竜」のみ参加して撤収。「新冒険」の中では一番落ちる話なのだが、ミステリに対して寛容さがとみに増しつつある昨今の目で見ると「十分面白いじゃん」というのが私の感想。いや、ほんと、そうなんだってば。HMMを見てもそう思うんだけど、もうクイーンとカーがあれば、いいやあ、って感じなのよねえ。こうして人は「冒険心ゼロ、思考力停止」のシャーロキアンになっていくんだろうなあ。あ、そうそう、会誌61号は「帝王死す」特集の1回目。20周年全国大会の演題にした犯人不明ラジオドラマ「私立探偵」も掲載され、またしても130頁を越える大冊である。よく続くねえ。Moriwakiさんが「10号ぐらいで終っておけば<伝説の同人誌>として高値を呼んだものを」と歎いていたのが印象的。
◆帰りにおまけでブックオフを一軒チェック。
「パソ婚ネットワーク」矢崎麗夜(太田出版)100円
「糞袋」藤田雅矢(新潮社:帯)100円
おお、噂の「パソ婚ネットワーク」とはこんな立派な本だったのねん。


◆「ガイア・ギア1」富野由悠季(角川スニーカー文庫)読了
ガンダム小説初体験。思えば、私の青春はヤマトとサンライズ・ロボットアニメだった。この二つがなければもっと違う人生を歩んでいたであろう。少なくとももっと真面目に推理小説を突き詰めていたかもしれない。この歳にして、かくもちゃらんぽらんな購書・読書生活に明け暮れているのは、一重にガンダムのせいである。もっと世間の目が届く前に、探偵小説をしっかり買っておけば、こんな高値掴みせずに済んだものを。認めたくないものだな、自分の若さゆえの過ちというものは。
というわけで、この「ガイア・ギア」、一応、昭和ガンダム・宇宙世紀シリーズの流れを汲む作品らしい。しかしながら、ZZの途中でめげて「逆襲のシャア」すら真面目に見ていない人間が読んで分かるのであろうか?まあ、F91を見ないで長谷川裕一作品「クロスボーンガンダム」を楽しめた人間なので、やって出来ない相談でもないか?5話完結の第1話はこんな話。
宇宙世紀で2世紀が過ぎた頃、もう一人のシャアが宙に還る。ネオ・ジオンの復興を掛けた闘いに自らの魂と命を燃焼し尽くした男の遺伝子と記憶は、ある島の若者の身体に脈打っていた。若者の名はアフランシ・シャア。「自由なる」シャアは、育て親の遺言を受け、自分の内なる音に身を委ねる。「宇宙へ還る」。彼を地球の重力に縛り付ける恋人エヴァリーを振り切り、香港からマン・マシーンを操りシャトルを強奪して宙へ駆け上がるシャア。スラム化したサイド2で彼を待ち受けるのは果たしてどのような夢なのであろうか?
のっけからシャアを取り巻く女性たちが続々と登場する。島の恋人エヴァリー、令嬢にしてキャリアウーマンのミランダ、ジオンの栄光を信じるインド系ハイティーンのクリュシナ。富野監督描くところドロドロした人間関係はまだ見えてこないが、まあ、新しいシャアを巡る女たちの闘いってな話なんでしょうかね?後は、どうやって「宇宙船逃げる!」という黄金パターンにもっていくのかな?笑っちゃったのは、最後の一文。
「彼は、自分が気違いになるのではないか、と、恐れるのだ……」。
監督うう、わかってらっしゃる!
とりあえず、評価は全話読んでからにいたしましょう。(って、いつの事やねん?)

(今月入手した本:158冊、今月処分した本:65冊、今年の増減+267冊)


2001年2月24日(土)

◆私事により二つの古本系オフに参加出来ず、無念。相当数のお馴染みさんが召喚されていた模様。KIYOKA-CHAN、無謀松どの、すまんこってす。
◆30分だけサンシャイン落穂クエスト。只管広い。HMM最凶の効き目「ナポソロ特集号」が売られているのを見たのは本当に久しぶり。2000円は、持ってなければ文句無しに「買い」だけど、さすがにダブって買う値段ではない。100円均一コーナーの充実ぶりもなかなかであり、初日朝一番であれば相当楽しめたであろう。くすんだ本も良さげで、何かありそうなムード。伴大矩訳「賭博殺人事件」、裸本とはいえ600円は安いよなあ。買わないけどね。結局買ったのは1冊だけ。
「手塚治虫の奇妙な世界」石上三登志(奇想天外社)1500円
はあ、まあ多少なりとも古本の匂いがかげたので良しとするか。


◆「時間不動産」草上仁(早川JA文庫)読了
立て続けに読んでいるので、雑談で語る内容もタネ切れな草上仁の書き下ろし短編集。この短編集を書き下ろすというのは、究極の贅沢である。本来ならば、雑誌掲載のうえで、二度美味しい印税生活となるところを一発勝負の文庫オリジナル。いやあ、その意気やよしである。まあ、SFマガジンの原稿料はタダみたいなものだという噂もあるのだが、実際のところはどうなんでしょうね?この本の解説でも川又千秋が絶賛しているが、なぜか昔懐かしい50年代SFのアスタウンディングや、サープライズに満ち溢れた作品集。6編収録。以下ミニコメ。
「時間不動産」人間がいっぱいな未来の住宅事情は最悪。夏への扉から出た男がアウターリミッツの先で送る加速生活の顛末やいかに?お馴染みの設定のバリエーションで読ませるユーモアドタバタSF。静かなクライマックスの描き方にセンスの良さが光る。
「国民不在」酔客の一人語りは、システムの作り上げた電子上の幽霊譚へと憑依し回帰する。政治からみた良き「国民」とは果して?語り口の妙で最後まで読者を飽きさせない手練の技。まあ、少々かんべむさしではある。
「ダ・ビ・ン・グ」物質複製機の生む紛い物だらけの若者の未来と未来の若者。物理法則を無視した法螺話であるために、エスカレーションの納得性がイマイチ。
「蜂の幸福」アルコールやドラッグを合成する蜂の開発を巡って「名人」は逃げ出した「画期的新製品」の狩りに借り出される。実に実に人間不在の生命賛歌である。この作品集のベスト。
「嫌煙権」喫煙が善とされる世界で悶え苦しむタバコ嫌いの狂騒を描く。展開からオチまで、なんとも懐かしいSFである。こういう話は、いまや「世にも奇妙な物語」でしか遭えないと思っていた。
「明日にのばすな」罪を犯す前に罪を償うシステムが導入された未来の復讐譚。まあ、これはウイリアム・テンの原典のあからさまなパクリで、しかも原典を越えていない。私が編集者なら没にする作品ですな。

(今月入手した本:151冊、今月処分した本:60冊、今年の増減+265冊)


2001年2月23日(金)

◆閑な1日。んじゃ、年休とってサンシャイン大古書市初日にでも行けばいいものだが、なにせ今週は月曜日に風邪で年休を取得済み。いかに「すちゃらかサラリーマン」の私でもなかなか辛いものがある。で、昼間は閑なのに、なぜか夕方になると半端仕事が出てくるのがこういう日のお約束。結局、就業後、ダッシュで池袋へ行く気力を奪われ、久しぶりに京橋をチェック。
d「名探偵読本5・シャーロックホームズのライヴァルたち」(パシフィカ)800円
うーむ、何ダブリ買ってんだよ。でも、いい本なんだよなあ、これ。誰かいりまへんか?
◆ところで、昼休みのお話。HMM(今世紀最初のカー特集!!)はまだかいなあと、近所の新刊書店をチェック。残念ながらミスマガは明日発売のことで、新刊をあれこれ手にとって暇つぶし。ここで、感動ものの文書に出会う。ものは、赤川次郎の新刊文庫「呪いの花園」、折り返しの作者紹介の部分。通常なら主著書を紹介すべき、文末にこうあった。



「ベストセラー膨大」


うーん、これは凄い。「著書多数」という紹介はよく見かけるし、「ベストセラー多数」というのもあろう。でも「膨大」だよ〜。他にこんな風に呼べる作家が何人いるだろう?はっきりいって、これは、作家の理想の姿である。作者が潤い、出版社が潤い、沢山の読者が楽しめる。「たとえ部数は少なくても筋の通った本を」というのも結構だが、なんといっても筋の通った本が売れるのが一番なのだ!売れてこその作家、読まれてこその作家!「ベストセラー膨大」多いに結構!!うーん、余りの感動に新刊で赤川次郎を買いかけてしまった。剣呑剣呑。
集英社の御関係の方、お読みになってらっしゃいましたら、kashibaがいたく感動しておったと文庫担当のお方にお伝えください。


◆「プリズナー」TMデッシュ(早川SFシリーズ)読了
本日の課題図書はテレビのノヴェライズ本。とはいえ断じて「お手軽」ではない。まず、番組が凄い。最もわけ判んないテレビSFシリーズといわれる伝説の「プリズナーNo.6」である。んでもって、その設定を踏まえつつ「60年代わけわかんないSF」の旗手デッシュが、肉付けしたのがこれである。同じSFのノベライズといっても、「ナイトライダー」や「スペース1999」とは格が違うのだ。おもちゃでいえば、田宮の模型とマクドナルドのハッピーセットぐらい違うのだ。残念ながら私はこの歳になるまで原作たる「プリズナーNo.6」を見た事がない。しかしながら、この作品を読んで、その難解さの一端は窺い知る事は出来た。まあ、よくもこんな話を天下のNHKが放映したものである。伊藤典夫解説で、当時の困惑ぶりを読み「はあ、尤もだあ、もっともだ」と一節唸る次第。今更ではあるが、こんな話。
イギリス。静かな田園生活を夢見、情報局を辞した一人の男。彼女にも別れを告げ、旅立つ車中、ガスで意識を奪われ謎の一群に誘拐される。やがて、彼が目覚めたのは、何処とも知れぬ「村」。人々は互いに番号で呼び合い、村の名前すらない閉じた世界。そしてそこで彼は「No.6」と呼ばれる。牧歌的でありながら、全てが虚構の村の至るところで彼は監視され、逃亡の企ては、ぷかぷかと跳ねる巨大な球によって阻まれる。偽りの好意と偽りの順応。慎重に準備された脱出計画により、一旦はロンドンに戻る事に成功した彼を更なる焦燥と衝撃が襲う。条件付けられる心、植え込まれた記憶、一体誰が何のために、この世界を作り上げ、そして俺を試すのか?そもそも俺は何者だ?No.6?番号で呼ぶなああ!!
誰もが信じられなくなる不快と不審の罠また罠。原作がアクション満載だった(らしい)のに比べると、このノベライズは心理的葛藤や、No.2らとの禅問答に頁数が裂かれている。それでも、不思議な球体との闘いのシーンなんぞは、妙な高揚感があって吉。中盤から「記憶操作」が前面に出てきて、五里霧中感はいやますばかり。さながら「村」に取り込まれていく主人公のように、「ああ、これはもう、こういう話なんだ。わけ判んないんだあ」という諦観が込み上げてくる。しかし、デッシュは更に「そんなんありか?」的展開をラストに準備して読者を驚かせる。物理的な背景の総てに解を求めず、寓意に身を委ねて「へんなの〜」と納得するのがお作法の作品であろう。それにしても、原書のパトリック・マグハーンの目付きは怖いねえ。さすが刑事コロンボ最多犯人役者だけの事はある。

(今月入手した本:150冊、今月処分した本:60冊、今年の増減+264冊)


2001年2月22日(木)

◆風邪はほぼ全快。後は誰かにうつせば完治ですな。で、まずは新刊本屋で雑誌と話題の本を購入。
「ダ・ヴィンチ」2001年3月号(メディア・ファクトリー)450円
「必殺シリーズ完全殺し屋名鑑<荒野の果てに編>」(ザ・テレビジョン文庫)500円
「必殺シリーズ完全殺し屋名鑑<月が笑ってら編>」(ザ・テレビジョン文庫)500円
ダ・ヴィンチは、京極夏彦・東雅夫といった濃い面子と佐伯日菜子との妖怪トーク狙い。こういう事でもなければ買わない雑誌である。ホント、読むところのない雑誌だねえ。恩田陸も随分と露出が進んで来てかつての「謎の作家」時代が懐かしくなる。この号の写真なんか、随分な「隣のおばさん」的な映像だよなあ。もっと、綺麗に撮ってやんなよ。必殺の殺し屋名鑑については文句なし!素敵に熱い本である。もう少し、本屋に置いて欲しい本である。いやあ、探した探したあ。
◆近所のブックオフチェック。
「家の中の見知らぬ者たち」Gシムノン(読売新聞社)100円
d「トロイの黄金」RLフィッシュ(講談社)100円
「ザ・サード・フォース」Mレイドロー(角川書店)100円
「死神になった少年」我孫子武丸(集英社ジャンプJブックス)100円
「MYSTERY SPA!」(扶桑社ムック)100円
シムノンは、かつてハヤカワポケットブックで出ていた本。まさか読売新聞社から新訳(長島良三訳)版が出ていたとは知らなかった。ときどき読売新聞社って、あれ?っと思うようなフランスミステリを出しますのう。よっぽど好きな人がいるんだろうなあ。「ザ・サード・フォース」なるキワもの本は、日本のアドベンチャーゲームが、米国でも大人気となり「パパの原発」で知られるMレイドローがノヴェライズしたとかいう本。うーむ、日本のゲームもやるもんだ。SPA!のムックは占いとサイコが一緒になったかなりいい加減なコンセプトの本。100円なので話のネタにはいいでしょ。ダブリで、フィッシュの効き目も拾えて大満足。タバコはまだ吸う気になれないけれども古本はまずまずのリハビリぶりでございます。まあ、明日のサンシャインには行けないんだけどね。


◆「まだ死んでいる」都筑道夫(光文社文庫)読了
推理小説の中で推理小説をネタにしてサマになる作家が日本に二人だけいる。一人は江戸川乱歩、今一人が都筑道夫である。この二人以外の人間がやると、興醒めであったり、自家中毒だったりして、まこと読むに堪えないものがある。これから推理小説を書こうと思っている人は、そこんとこヨロシク。さて、この紅子シリーズの第2長篇で取り上げられたのはRAノックス大僧正の「まだ死んでいる」(ポケミス版)。なぜ創元版の「消えた死体」では駄目かというと、それにはわけがございまして、原題「Still Dead」を「まだ死んでいる」と訳したのは<早川書房時代の都筑道夫>であったからですな。さて、現われては消え、消えては現われる幾つもの死体、果してその顛末やいかに?こんな話。
あたし紅子の父が警備主任を務めるマンションの一室で、死体が発見され、そして消えた。発見者は、空き家だった509号室に入居見込み客を案内した不動産屋。引き続き、地下駐車場で、新たな死体発見・消失事件が勃発。騒然となる警備陣と青年探偵団の面々にトドメをさすように、マンションの植え込みの陰で男の死体が発見され、更に一旦は死体が消えた筈の509号室から新たな死体が発見される。一体、死体は幾つあって、なぜ消えては現われるのか?やがて、部屋の死体の主は以前509号室に住んでいた美容院店主のヒモだった事が判明する。そして、もう一人の身元がとある犯罪の露見とともに明らかなった時、全戸冷暖房バス死体付きのメゾン多摩由良に危険の匂いが立ち込める。消える探偵、消える髯、稲光とともに天啓は訪れ、漫才のリズムで真犯人を嘲弄する。
アクロバティックなロジックを軽い調子で綴ったパズラー。青年探偵チームの動きはいつもながら迷走気味だが、新加入の女子高生探偵が天才ぶりを発揮して吉。短編ネタのコンビネーションで、謎を膨らませていく手際は見事なものだが、あまりに洒脱であり、本格推理たるの偉容を誇るところがないのは残念。追う者と追われる者の錯綜、死体の入れ繰り、意外なる真犯人と、プロットもしっかりしているにも関わらず、何故かあっさりとした印象しか残らない。なんと贅沢な。なんと勿体ない。

(今月入手した本:149冊、今月処分した本:60冊、今年の増減+263冊)