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2001年2月21日(水)

◆体調は回復方向だったのだが、上司曰く「娘が来週受験なので、風邪をうつすな。さっさと帰れ」ううう、人を<歩く病巣>扱いしよってからに。まあ、さっさと帰りたいのはやまやまなので、ばいばいきーんと大手をふって定時退社。先週土曜日からやっているという渋谷パルコの古本市を覗きに行く。従来は池袋パルコでやっていたものを渋谷に移したんだそうな。池袋では、過去何回か美味しい思いもさせてもらったので、まあ、次も案内状をもらえるように葉書だけでも放り込みにいくか、と病身に鞭打って渋谷行き。ところがこれが笑っちゃうぐらいショボイ市。ポスター、チラシ、写真雑誌、音楽雑誌、漫画などサブカル系中心で小説のコーナーは全体の1割ないのだ。道理で誰も話題にしてないわけである。余りの脱力に「次回の案内もいらないやあ〜」気分が盛り上がり、案内はがきをそのまま持って帰る。私は何をしに、渋谷くんだりまで出かけたのだ?ぷんすか。購入本0冊。うーん、3日続けて本を買っていないぞ。
◆松本楽志さんの新サイトへバック・リンク。煽りはオール書き下ろし(<当たり前だ)。んでもって、もぐらもちさんのサイトへバック・リンク。って、よくみたらあちら様からのリンクは既に昨年末、削除されてましたとさ。ま、んなこともあっかー。折角作ったんで張っとこー。


◆「喘ぎ泣く死美人」横溝正史(角川書店)読了
昨日、SRマンスリーの年間ベストチェックリストを眺めていたら目にとまった堂々たる「新作」である。収録作のうち最も古いのが大正11年、最も新しいのが昭和21年。これはもう「ばりばりの新作」揃いである。どの作品からも作者の若さが迸り出ている、って、それはそうだな。ふと著者紹介をみると、作者の生年は1902年。おおお、ちゅうことは来年が「横溝正史生誕100周年」なわけですな。創元推理倶楽部秋田分科会は「今度は金田一本だ!」と快気炎をあげているし、角川もきっと何かやってくれるんだろうな。まずは<未収録短編集3>を出してもらって、<未収録時代小説集1>も並行して上梓。角川文庫では<シナリオ犬神家の一族><シナリオ本陣殺人事件><シナリオ悪魔の手毬唄><シナリオ獄門島><シナリオ女王蜂><シナリオ悪魔が来たりて笛を吹く>てなところをどーーんと出す。角川ホラー文庫でつのだじろう画の3作を出すってのはどうだ?春陽文庫は浜田さんをブレインにして「人形佐七捕物帖15・16」を編む。といったところで如何でしょうか?頼む、一つでもいいから実現してくれえ。で、この本は16編収録。以下、ミニコメ。
「川獺」評判の美人娘が沼に棲む物の怪に魅入られ殺されていく、という怪異譚が見事に論理的に解体される。発表年代が信じられない堂々たる正史ミステリである。ちらりと「獄門島」の片鱗すら見えるんだわ、これが。
「艶書御用心」もてない男たちの悲喜劇。普通の軽クライム・コント。
「素敵なステッキの話」モデル小説。小説仕立ての若き日の横溝正史交遊録である。それにしてもこの題名の地口はなんとかならんかったのか?
「夜読むべからず」外国を舞台にした怪談。奇病を用いた復讐と錯誤のドラマ。なんとも酸鼻なオチがやるせない。ウイアード・テールズ的なんでもありの安直さが魅力。
「喘ぎ泣く死美人」同上。こちらは正統派幽霊譚だが、女性の物言いがいかにもいなせに日本風なのが違和感。
「憑かれた女」長篇の元になった中編バージョン。プロットは殆ど同じだが、短い分、ラスト界隈の整理の悪さや唐突感が目立つ。何もこんなものまで発掘せんでも、という気にさせる一編。
「桜草の鉢」売れない小説家夫婦の家に忍び込んだスリの狙いは?短いながらも見事にエンタテイメント。「青い紅玉」の正史バージョン。
「嘘」うわあ、一発ネタ。
「霧の夜の放送」お手軽な怪異譚。それだけ。
「首吊り三代記」短い頁数でじわじわと主人公の狂騒ぶりを盛り上げていく手練の技。まあ、オチは読めます。
「相対性令嬢」バカ話。
「ねえ!泊ってらっしゃいよ」同上
「悧巧すぎた鸚鵡の話」お喋りな夫人が落ちた罠を鸚鵡が救う(?)
「地見屋開業」酔っ払いの戯言。
「虹のある風景」オーヘンリーの換骨奪胎。
「絵馬」ああ、犬神家の一族のあのトリックの構想はこの頃からあったのだ。どこか悪魔の手毬唄も連想させる。奸計に翻弄される母娘の運命が読者の興味を引き付ける。語りの巧さは正史の真骨頂である。

(今月入手した本:141冊、今月処分した本:60冊、今年の増減+255冊)


2001年2月20日(火)

◆とりあえず出勤。普段の7割程度の稼動で時間を過ごす。喋ると咳が出る。動くと節々が痛い。無表情のままパソコンに向って仕事。定時退社。寒気がするので古本屋に寄る気になれない。購入本0冊。帰宅して、おかずパンを齧って夕食。鼻が馬鹿になっていて、味がわからず、食欲がない。酒もタバコも身体が欲しがらない。21時前に床に入る。つまりなんだあ、職場では、無駄話をせず、うろつかず、黙々と仕事に励み、古本屋にも寄らず、腹八分目で、酒もタバコもやらず、早寝早起き。健康な時の100倍健全じゃん。
◆SRマンスリー1月号到着。年間ベスト投票リスト掲載号である。ああ、また1年経ってしまった。何度か投票した事もあるのだが、ふと年間ベストに投票するためだけに新刊を読んでいる自分を発見し「がーん、こいつアホちゃうか?」と感じて以降、参加していない。国内だけで500余、海外で300弱合わせて約800作の新作が対象になっている。だいたいこの数字はここのところ変りない。自慢ではないが、私はそのうちの4%も読んでいない。まあ、「刑事ぶたぶた」と「永遠の森」(なぜか、リスト入りしているんですな、これが)に9点ってことで。この2作がどこまで健闘するかが楽しみだよ〜。Eメールでも投票はできるみたいなんで、久しぶりに投票してみようかな?
◆たっくんさんからメールを頂戴する。どうやら、ポケミスのフォトカバーで一番番号の若いのは「泥棒成金」である模様。そういえばありましたっけね。ありがとうございまする。


◆「カリスマ」Mコニイ(サンリオSF文庫)読了
一部でカルトな人気を誇るイギリスのSF作家コニイ。日本では、サンリオから4作が紹介されいるだけだが、中でも「ハローサマー、グッドバイ」は知る人ぞ知る大傑作。私もサンリオSF文庫屈指の名作であると信じている次第。本日の課題図書は、作者の書誌上、その人気作と「ブロントメク!」の間に入る作品で、今のところ最後に日本に紹介されたコニイ作品。勿論叢書毎ホロコーストにあったサンリオSF文庫につき現在なお好評絶版中。内容を一言でいえば、並行宇宙の恋愛ものである。一種のタイムマシンものでもある。しかし、これが一筋縄ではいかない作品なのだ。梶尾真治の「クロノスジョウンターの伝説」を更にややこしくして、主要なる登場人物全員が生と死のドラマを演じるよう因果律を崩壊させた作品とでもいうか、はっきり言って、仮に英語で読んでいたら途中でわけがわからなくなって投げ出す事請け合いの作品であった。こんな話。
コーンウォールの海辺のホテル経営者・メローズの策謀によって、半年間の稼ぎと利益を失う瀬戸際に追い込まれた「ぼく」ことジョン・メインとその元雇い主パープロ。しかも、ぼくが憎からず思っている海辺の時間研究所に勤務する美女スザンナは、ぼくの目前で雷に打たれ焼死する。なぜかぼくは、時空間の輪を行き来できる才能ありとして研究所のストラトン博士にスカウトされ、今ひとつの並行宇宙に自己を投影する。そこは、今までいた世界とは似て非なる世界。だが、そこでぼくは、その世界の「ぼく」がメローズを殺害し、自分も爆死している事を知る。スザンナを救うべく更に別の並行宇宙へと投影を重ねる度に、ぼくは勿論、ぼくに関係する人々に何からの災厄と死が訪れる。平均化される歴史、歪む因果律、遂には、最初に自分のいた世界すらローリングする時間流の中で改変が進む。果して、ぼくは(って、どの「ぼく」なんだ?)は、どの宇宙でも僕を逮捕しようとてぐすねを引いているバスカス警部の追求を躱し、最上のカードを引き、スザンナとともにハッピーエンドを迎える事ができるのだろうか?
スラプスティックな時空逃避法螺話であり、成功と失敗の寓話であり、勿論「愛の物語」である。ただ、この作品における「美女」スザンナの扱われ方は、やや辛いものがあった。美と愛と生命の象徴であり時空の狭間に仮体する<イメージ>としてのスザンナは、読者の感情移入を拒み、憧憬と恋慕を纏ったまま虚空に溶ける。ラストの大団円で、めでたく「ぼく」と契らせておきながら、作者の寓話の語り部としての矜持は更なるツイストを叩き付けてくる。なるほど、これは「意味としてそうでなければならない」話なのかもしれない。しかし、そこまでせんでも、というのが一介のエンタテイメント好きの素直な感想でもある。はっきり言って、読者を選ぶ作品である。珍しいという理由だけでSF初心者が探し回っても、努力に見合う満足感が得られるとは限らない。

(今月入手した本:141冊、今月処分した本:60冊、今年の増減+255冊)


2001年2月19日(月)

◆熱が下がらず会社を臨時休業。朦朧と三日分の日記を書き、朦朧とそのうち時間を見つけてやるつもりだった猟奇蔵への掲示板過去ログ移設をしたり(これで本ページは2Mの空きができたぞ!)、「瑣末」のHTMLを書き直したり。朦朧と課題図書を読みながらうたた寝。穀潰しな1日。買い置きの非常食で賄い、外出なし。購入本0冊。
◆土日に全く更新ができなかったにもかかわらず、普段通りの方に御訪問頂いていたようで何やら赤面。すまんですのう。また、多数の方からお見舞いのお言葉を頂戴し感謝。ああ、繋がっている。
◆ポケミス棚をボンヤリ眺めていてふと思ったのだが、ポケミスのフォトカバーって何冊あるんでしょうねえ。昔、ZPでやったらしいのだが、加入が遅かったのでそこまでの過去ログを調べる気になれなかった次第。とりあえず通番で一番若いのが「長いお別れ」(260)、大きいのが「八百万の死にざま」(1431)ではないかと思うのだけど、いかがなものでしょう?


◆「芝居がかった死」Rバーナード(ポケミス)読了
連日の1500番台ポケミス。とうとうバーナードの既訳分もこれで最後。頼む!どこの出版社でもいいから、バーナードの作品を翻訳してくれええ。さて、この話は、風読人さんの掲示板で、森英俊氏が既訳分のベストとして推薦した作品。なるほど、実に堂々たる作品である。といっても頁数はポケミスで220頁弱であり、標準かむしろ薄い程度のボリュームである。しかしながら、その中に描かれた人々は実にエキセントリックにしてビビッド。なにも行数を費やさずとも、人間は書けるし、シチュエーションだって書けるのだ。勿論、小気味よいツイストもクリスティばりの大トリックも。これは傑作でしょう。こんな話。
波乱の人生を送った大作家ベネディクト・コトレルもいまや恍惚の老人。彼の世話をする長男ロデリックとその妻キャロラインの許に、異母妹コーデリアからの手紙が届く。コーデリアは、ベネディクトと当時まだ女優の卵であったマイラとの間に生まれた娘。いまや大舞台女優としてデイムの称号まで勝ち得たマイラに尊厳を踏みにじられ続けてきたコーデリアは、マイラの赤裸々なる伝記を発表する事で永年の復讐を果たそうとしていた。ボーイフレンドのパットとともに屋敷の庭にキャンプを張り調査を開始するコーデリア。かつてベネディクトはマイラとの蜜月が終りを告げるや彼女をモデルとした「女狐」なる問題作を発表し、マイラとの間で赤新聞好みの角逐を繰り広げていた。当時の書簡を手に入れたコーデリアに対しマイラも黙ってはいなかった。若い男優グランヴィルと結婚したてのマイラは、村の宿レッド・ライオン亭に陣取るとコーデリアを呼び出し、親娘で話をつけようとする。辛辣な台詞の応酬、激情と激情が交錯し、遂には縺れ合う二人。やがて響いた一発の銃声。果して、大女優を葬ったのは誰なのか?ベネディクトの愚かな娘イザベル、海軍提督夫妻、上品な未亡人らの証言は、コーデリアを窮地に追い込んでいくのだが、メレディス警部はどこかに引っ掛かりを感じていた。そしてトリヴィアルな手掛りが、彼に告げた真実とは?
実に細部に至るまで気が配られた精密機械の如きミステリ。溢れんばかりの文学的教養が話に厚みを加え、障害者に向けられた優しい眼差しや、俗物をとことんコケにする冷徹な筆致に作者の心情が滲み出る。何組ものカップルを縦横無尽に操り、生と死のドラマに仕立て上げる手腕はまさにクリスティを彷彿とさせる。中盤で驚天動地の思わせぶりの台詞もあったりして、全く一筋縄ではいかない小説である。伏線の張り方もお見事であり。ここまで堂々とやられると唖然とするしかない。まあ、さすがに犯人は分かってしまったのだが、だからと言って価値が落ちないところが本書の凄いところである。映画化に堪えるケレン味も備えた英国新本格の収獲である。「クリスティの後継者はオトコだった」って感じ。推理小説がお好きな人は是非どうぞ。

(今月入手した本:141冊、今月処分した本:60冊、今年の増減+255冊)


2001年2月18日(日)

◆やんごとなき事情で、風邪を押え込んでお出かけ。用事を済ませ、そのまま帰ればいいものを古本屋を覗かずにはいられない奴。拾ったのは3冊。
「ゴジラ対モスラ」(宇宙船文庫)250円
d「秘密日記」Lハーディー(久保書店QTブックス)100円
d「天下御免・第二集」早坂暁(大和書房)100円
◆帰宅途上で体温計を購入。測ってみると38度ある。平熱が低い私にとっては嘘のような高熱である。なるほどふらふらする訳だ。関節も痛けりゃ、咳も出る。飯食って、積録のアギトを2話分見て、寝る。


◆「岩場の死」Mアレグレット(ポケミス)読了
昨日に引き続きポケミスである。積読の岩戸が割れている間に読んでおかねばと87年のPWA新人賞受賞作という触れ込みのこの本を手に取った。昨今、賞が乱発され顰蹙を買っているのは何も国内に限った事ではない。特にアメリカのコージー・ミステリ界での内輪褒めや売らんかなの授賞事情については、眉を顰める識者もいるやに聞く。で、どうやらそのような事情はコージーだけじゃなさそうだなと私に教えてくれたのがこの書である。はっきり申し上げて、年間1ダース強しか出版されない早川ポケットミステリへの信頼を完膚なきまでに打ち砕く駄作であった。
主人公は、刑事あがりの私立探偵ジェイコブ・ロマックス。刑事を辞めた理由は、愛妻のレイプ殺人事件が迷宮入りとなりアルコールに溺れたため。友人の助言で立ち直ったものの、組織には戻れず、私立探偵稼業に入る。腕っ節は強く、捜査のイロハは心得ている。そんな彼に依頼された事件は、石油会社社長の事故死の再調査。もしその死が被害者の意思に反したものであれば保険金が倍額になると聞いた妻が弁護士を動かしたのだ。死んだ男は社長とは名ばかり、先代の女婿として社長の座にあったものの、収入はすべて妻と娘に吸い上げられるという「黄金の檻」の番人的生活を余儀なくされていた。ロマックスが調査を開始するや、被害者の事務所から郵送されてきたビデオテープが発見される。その中に録画されていたのは、被害者が少女を犯すオカルト仕立ての安物ポルノ。そこに脅迫の臭いを嗅ぎ取ったロマックスは、被害者の日記から、とある娼婦に渡りをつけ、裏社会の暴力とセックスのプロたちに迫る。果して、哀れな男は自ら命を絶ったのか?それとも?
トラウマを抱えた主人公、抑圧された被害者、爆発する暴力、そそり立つエロス、心優しき娼婦、悪には悪をと捏造される「証拠」、力と力が交錯するクライマックスに向けて、80年代お手軽ハードボイルドは驀進だあ!!ツイストの欠片もない直情径行でステロタイプなC級作品。主人公は一匹狼でありながら、何かと言えば刑事時代の縁故に助けを求める情けなさ。せめてユーモアがあれば救われるのだが、そこまでの筆力はない。まさに資源の無駄遣いにして「凡百」の中の1作品。ポケミス完全読破を志した人だけが読めばよい作品であろう。

(今月入手した本:141冊、今月処分した本:60冊、今年の増減+255冊)


2001年2月17日(土)

◆風邪が本格化。夕刻の銀河通信オフに備え養生する。夕方、森さんから「空手のお姐ちゃん」の交換本がダンボール一箱分届く。どっひゃあ!!これは、何事?!たかが100円の中古本1冊が、末端価格12800円のペーパーバック13冊に化けてしまう。「海老で鯛を釣る」どころの騒ぎではない「オキアミで鯨を釣る」ぐらいのウハウハである。新ワイルド7成金のよしださんには及ばないものの、これは物凄く嬉しいぞお。ありがとうございますありがとうございます。
「A CITY OF STRANGERS」R.BARNARD(DELL)交換
「FETE FATAL」R.BARNARD(DELL)交換
「THE SKELTON IN THE GRASS」R.BARNARD(DELL)交換
「THE CHERRY BLOSSOM CORPSE」R.BARNARD(DELL)交換
「CORPSE IN A GILDED CAGE」R.BARNARD(DELL)交換
「DEATH STARTS A RUMOUR」MARY FITT(WELLS,GARDNER,DARTON CO.)交換
「THE CASE OF THE TWO PEARL NACKLACES」A.FIELDING(CRIME CLUB)交換
「PAYOFF FOR THE BANKER」F&R.LOCKRIDGE(ARMED SERVICE EDITION)交換
「THINK OF DEATH」F&R.LOCKRIDGE(ARMED SERVICE EDITION)交換
「PRO」B.HAMILTON(POCKET BOOK)交換
「MY OWN MURDER」R.HULL(PENGUIN BOOK)交換
「A CLUE FOR MR. FORTUNE」H.C.BAILEY(PONY BOOK)交換
「OLD LOVER'S GHOST」L.FORD(BANTAM)交換
「今日のフランス演劇3」(白水社:トマ「罠」収録)交換
「バーナードの売れ残りでも下さいな」とダメモトで言ってみたところ、メアリ・フィットだの、フィールディングだの、ハルだの、ベイリーだの、ハミルトンといったビンテージペーパーバックの嵐。カバーアートもいかにもレトロで嬉しいところ。本当にこんなに頂いてしまってよろしいのでしょうか?ドキドキ。いやあ、何事も言ってみるものです。
◆銀河通信オフについては、例によって安田ママさんの詳細レポートがいずれ掲載されると思うのでそちらを御参照の事。オークションの結果まで、逐一メモる根性には脱帽だよ。個人的には、浅暮三文さんにサインをもらえたのが、収獲かな。尚、宿題であった「自分のルーツ本」には「小学館の図鑑@『植物の図鑑』」を持っていく。まだ字も碌に読めない頃に伯母の本をもらったのである。「という訳で、私はそのルーツから『古本』だったのでした」と笑いを取りに行く。それにしても、安田ママ側のテーブルには女性及びプロ作家が勢揃い、ダイジマン側のテーブルには古本者をはじめとするオトコばっか。これで同じ料金かい?って感じですかいのう。以下、本の出入りのみ記載しておく。
まずは、ダイジマン殿に岩崎書店のジュヴナイルSFのシリーズ21巻を引き渡し。キャリアをガラガラ引き摺っているのは、二人だけ。「成田帰りの怪しい売人みたい」とは随分な言われようである。ぷんすか。代わりにゲットしたのは、
「奇想天外創刊号(第1期)」(盛光社:オマケ付き)交換
「SFワールド1〜5」(双葉社)交換
「季刊ソヴィエト文学・特集SF文学」(東宣出版)交換
ついでにジャーロの拡材を貰う。やよいさんからは、佐伯日菜子インタビューが掲載された日経を貰う。
青木みやさんに「魔王子セット5冊」を進呈、「アンバーの九王子セット5冊」を販売。
オークションで売った本は、
「光文社文庫 神林長平6冊揃い」
「ブロントメク!」
「山尾悠子集成未収録作品掲載雑誌3冊+α」
「さすらいのスターウルフ」(創刊帯)
「宇宙嵐のかなた」(初版・創刊帯)
「緑の星のオデッセイ」(初版・創刊帯)
「衝撃波を乗り切れ」
「佐伯日菜子ポストカード集:mes cheris」(未開封)
「スヌーピーブックス日曜版4・7+α」(角川書店)
「SFXの世界・完全版1,2,3」
「11人いる!」切り抜き+α
「鉄の夢」(SF文庫版・帯)
そこそこ高値を呼んだものもあるが、「妖魔の宴」6巻セット600円に声がかからなくて、びっくり。これは、絶対将来的に高値を呼ぶ本だと思うんだけどなあ。「鉄の夢」を巡っての安田ママさんvs.πRさんの闘いでは、尚も高値をつけようとする帯狙いのπRさんに「帯は上げるから!!」とママさんの泣きが入り600円どまり。こらあ、そんなところで密約するなあ。早川SF文庫創刊帯セットはあっさり1冊200円でダイジマン殿の許へ。対抗馬が誰もいないんだもんなあ。πRさん絡みの「衝撃波」「神林」も盛り上がったのだけれど、一番白熱したのは「11人いる!」での<銀河通信大乱>。「どうして貴方が?関係ないでしょ?!」と安田ママ。「そんな事ないですよお。失敬な」とダイジマン。お二人で競り合った結果、まんまと1600円になってしまいましたわい。わはは、押し入れの奥から掘り出してきた甲斐があったというもの。入手したのは下記の通り。
「ガダラの豚1〜3」中島らも・阿萬和俊(双葉社)300円
「DIVERGENCE EXTRA IV」(東北大学SF研)1000円
「高天原なリアル」霜越かほる(集英社スーパーファンタジー文庫:帯)300円
「わが愛しき娘たちよ」Cウィリス(早川SF文庫)600円
「英国情報部員・秘密作戦」Rジェサップ(久保書店QTブックス)1500円
東北大学SF研の機関誌はティプトリー・ジュニア特集。編集人欄に「探偵小説ページ」の宮澤氏の名前もあったりして歴史を感じさせる。とにかく、SF中心のうえに、これといった出物もないので、無理矢理参加して高値掴みをしてしまった本が多い。何が悲しゅうてスーパーファンタジー文庫を300円で買わにゃいかんねん?QTブックスも、オークションの順番が逆ならばもっと安くゲットできたものを。まあ、今回のオークションはダイジマン氏の大勝利でしょう。
◆あ、しまった。安田ママさんから、奇想天外の発送費貰うの忘れた。


◆「殺人創作講座」Aクラーク(ポケミス)読了
私がその日の課題図書を選ぶのは慌ただしい朝の一瞬の事である。従って、平積みの山の裏に隠れたポケミスなどは、当然のように対象外となる。ところが先日、風読人さんへのいっちょかみで「死体付き会社案内」を掘り出すにあたり山をどかせたお蔭で、このあたり(1530〜50)のポケミスが露出した。おお、何か随分と久しぶりに拝むなあ。そこで再度封印する前に、そのうちから英国風伝統の香りのするこの作品を取り出した次第。結論から申せば、クリスティ的世界へのオマージュといった風情のお洒落なサスペンスといったところか。こんな話。
恩師フランシスが開く創作講座に参加すべくストーンヘンジに程近い田舎町ウィンズフォードに赴いた英文学教授ポーラ。ところが、フランシスが自宅の庭の石段で足を滑らせ怪我をしたために、急遽代理講師として金持ちの未亡人レディ・ヒントンの屋敷に乗り込む羽目となる。「家庭内の殺人」という表向き健全な講座のテーマは、その底に「自らが過去に犯した殺人をなぞらせる」という悪意が流れていた。引退した老牧師、元教師だった未亡人とその同居人たる女友達、舞台評論家、元看護婦に農夫、生まれも育ちもバラバラの人々の習作を読み、密かにほくそ笑むレディ・ヒントン。果して、どの<死>に真実が隠されているのか?はたまた、フランシスの足を滑らせた<苔>は自然現象がもたらしたものなのか?渦巻く疑惑の中で、想像上の死を操る者に対して神の鉄槌が下されるのに、そう時間は掛からなかった。相次ぐ「事故死」に「自然死」。みずからも事故に見まわれながら、真相に迫る女教授が最後に見た狂騒とは?
英国のカントリーサイドの豊かな自然を背景にして、夫々に個性ある創作講座の参加者に、一癖ある使用人たちも加わり、当て所もないフーダニットが展開されるという異色作。矢継ぎ早やに事件が起きるテンポの良さや、何が偶然で、何が作為なのか、という五里霧中感はなかなかのもの。問題は、作者自身が、総てを説明し切ろうとはしていない所で、メインの「殺人」以外については敢えて解説を加えていない。逆にいえば、思わせぶりな部分の殆どが偶然であったと言う事になってしまうわけで、それがこの書の評者をして「サスペンス」と呼ばしめた所以であろう。作中作や、過去の「殺人」などなかなか贅沢な味付けが施されているにも関わらず、本格たらんとする決意はなかった、コージー・ビブリオ・サスペンス。コリンズ社から出ただけあって水準は充分にクリアしているが、これ以降予定されていた翻訳が出ていないところを見ると売れ行きはよくなかったんだろうなあ。英国ミステリに飢えている方は、「つなぎ」にどうぞ。

(今月入手した本:138冊、今月処分した本:60冊、今年の増減+252冊)


2001年2月16日(金)

◆社内会議を仕切る。無事終了で気が緩んだのか風邪の症状が出始める。しかし夜は定年退職者の送別会。オマケに一曲唄えというノルマ付き。玉砕覚悟の「それが大事」。玉砕。購入本0冊。
◆録画しておいた今週の「プロジェクトX」を視聴。「運命の船『宗谷』発進!」。昭和30年、まだ戦後だった日本の誇りをかけ南極探査計画に挑む人々の物語。ぐががが、これは、数あるプロジェクトXのエピソードの中でも泣ける話である。
「敗戦の傷、いまだいえず」「屈辱の国際会議」「カリスマの笑顔」「夢に飢えていた」「未知の大陸 南極へ」「頼みは伝説の船」「前代未聞の突貫工事」「誇りを取り戻す」てな文字が、中島みゆきの「地上の星」にかぶって画面をよぎる。NHKの演出はあざといばかりに「泣け!泣け!」と迫ってくる。ううう、号泣だあ!!次週後編も必録だあ!!
◆お、楽志さんが新サイトからリンクしてくれたようで。「地獄の番人」ですかそうですか。こちらからもリンクを修正しなければいけないのだが、今しばしのご猶予を。


◆「安曇野・箱根殺人ライン」深谷忠記(ジョイノベルズ)読了
黒江壮&笹谷美緒シリーズ最新作(なのかな?)。個人的にノベルズ推理の名探偵として、最も愛しているのが、このコンビ(これに匹敵するのは、女弁護士高林鮎子と「俊平さん」ぐらいのものなのだが、あちらはテレビのみの脚色なので、対象外)。数学者にして浮世離れした白皙の朴念仁・推理機械の壮と、育ちは良いが煩悩の固まりの女性雑誌記者・美緒という組み合わせは、ノベルス推理の布陣として必要十分。毎回、この素人探偵コンビをいかにして複雑な殺人事件に遭遇させるかが作者の腕の見せ所である。最近は、抒情色の濃いノンシリーズの大作に色気を出してはしくじっている作者だが、さすがに壮と美緒シリーズとなると安定した強さをみせてくれる。また、この作品は週刊小説連載という事もあってか、文章の密度も濃く、なかなか読ませる力作になっている。こんな話。
安曇野の畠に脱輪した車のトランクから女性の惨殺死体が発見される。死体の主は信州の同族製薬会社の女社長。中興の祖である兄の死後、社長の座に就き辣腕を振うが、お嬢さま育ちの悪弊からか、部下や別れた夫を人扱いしない彼女。彼女の甥・前社長の長男の家庭教師を務めていた黒江壮は、恋人の美緒とともにこの敵の多い多情女殺しに関わっていく。捜査線上に浮かんだ容疑者は、被害者の別れた夫、被害者の妹の夫である重役、若き東京支社長など。殺人現場と目される死体発見現場からほど近い被害者の別荘と東京・箱根を結ぶ殺人ライン上に真犯人が仕掛けた大トリックとは?更に、最有力容疑者であった被害者の別れた夫が殺害され、事件は昏迷の度合いを深めていく。そしてその突破口となったのは、東京で起きたもう一つの殺人事件であった。勝警部が壮たちと出会う時、壮は事件の不自然な構図を指摘して、「考える人」となる。
アリバイトリックとしては非常にオーソドックスなものであるが、細部へのこだわりで一応のリサイクルに成功している。信州の製薬会社の同族殺人といえば、直ぐに思い浮かぶのは横溝正史の「犬神家の一族」であり、家系的にも似たイメージがあったのだが、一切遊びはなかった。この辺が妙に生真面目な深谷忠記である。あと気に掛かったのは、3人は殺しすぎではなかろうか?という点。第1と第2の被害者は殺されてもしょうがない人間だが、ストーリーを展開させるためにだけ挿入された「アクシデント」で殺された3番目の被害者はお気の毒としかいいようがない。とはいえ、小味ながらも理系トリックを散りばめた手堅い仕事ぶりは評価せざるを得ない。1年に2作ぐらいこのレベルの壮と美緒シリーズを出してくれたらいう事ないんだけどなあ。

(今月入手した本:110冊、今月処分した本:8冊、今年の増減+276冊)


2001年2月15日(木)

◆南砂町定点観測。さしたるものも、なかりせば。
「安曇野・箱根殺人ライン」深谷忠記(実業之日本社ジョイNV:帯)400円
「伝説亀御殿」左右田謙(春陽文庫)220円
「あんただけ死なない」森奈津子(ハルキホラー文庫:帯)310円
「殺し屋が街にやってくる」中田耕治(桃源社ポピュラーブックス)100円
深谷忠記本は完全にチェックから漏れていた。ううむ、もう1年以上前の出版なのかあ。久しぶりの壮と美緒シリーズ。結構好きなんだよね〜、「寂しからずや、暗号を解く君」。左右田本はついで買い。時代ものには興味ないとか言いながらこれだもんなあ。まあ「殺し屋が街にやってくる」が当たりなのかな?
◆銀河通信オフ用に、受け狙いアイテムがないものかとゴソゴソ発掘。うーむ、なんにもねえなあ。部屋が散らかっただけである。ぶう。


◆「パリの罠」新章文子(毎日新聞社)読了
このあたりはリアルタイムで新刊書店で見ていた本。近刊予告に西村京太郎「孤島伝奇」とか、海渡英祐「さらばペテルブルグ」とか、藤村正太「キャッシュレス殺人事件」とかいう書名が躍っていて楽しい。西村と海渡は異題で出版されたものの(「伝奇島」「白夜の密室」)、藤村の「キャッシュレス殺人事件」が気になるところ。出たの?とまれ、まだ私が若葉マークのミステリ読みだった頃と新章文子の晩年がかろうじて被っていたんだなあ、と感慨深いものがある。んでもって、その頃に読まなくてよかったなあ、とも思える作品集。ガチガチの本格原理主義だった中坊にとっては、いささか「大人」過ぎる作品揃いである。「女は怖い」という話ばかりである。8編収録。以下、ミニコメ。
「パリの罠」伯母の財産を狙って直系の孫の抹殺を目論む甥夫婦。海外旅行と倒叙を組み合わせた贅沢な短編。観光地を舞台とした生臭いトライアル&エラーは皮肉な結末を迎える。別のツイストを期待していたら不意をつかれた。まあ、全然爽やかな話ではない。
「盗作の周辺」少女小説家の旧作をそっくり盗んで小説家の夫が審査員を務める懸賞に応募した高校生。それが三席にしか入らなかった事が、冷えた夫婦仲に益々水をさす。果して悪意はいかにして育まれたのか?シチュエーションの妙で読ませる作品。読者を結婚忌避症に誘う味悪感がなんとも。
「五円の剃刀」髯のある女がよろめいた時、姑と夫と嫁の人間関係は地獄に向って切り開かれる。姑の妄念に慄然とする作品。よくある設定を、髯のある女の独白で自分色に脚色してみせた作品。最後に佇む者が怖い。
「落ちていた手紙」結婚詐欺まがいの裏切りにあった男と伯母の財産を狙う男。一通の呪詛をしたためた手紙は交換殺人へのパスポートとなり、悪党は電話口で身をくねらす。心臓ネタがあまりに唐突。アイデアを無理矢理ミステリの鋳型に当てはめた話。なぜかこの作品集の中では最も爽快感があったりするから不思議。
「とぎれた声」零落した夫と成功した夫。美人姉妹の運命は歪に裂かれ、雪は血と悪意に染まる。陰謀を暴いたのは、大嫌いな父を信じた娘の祈りだった。澱んだ人間関係が味悪。人間もっと大らかに生きられないものか?勧善懲悪でありながら、どこまでも救いようのない話である。
「奥さまと推理小説」私小説家が鬼嫁に尻を叩かれものにした非「本格推理」。作品の暗示が現実の殺しと輻輳し、愚か者は自らの策と浅慮ゆえに滅びる。題名から察するとこれは新章文子なりのユーモア推理なのかもしれない。なんとも苦いユーモアセンスである。
「疑惑」嫉妬に狂うバーの女が巻き込まれた新進女優殺し。だが、嫉妬の炎は別の心にも燃えていた。勘の良さは殺意を招き、死の部屋に電話は鳴る。純愛と呼ぶには余りにも愚かな想いの暴走。私なら別の登場人物を殺すなあ。
「眠りの時」母と子、愛人と恋人。奇妙な四角関係がもたらした偶然の完全犯罪の夢はしたたかな大人の掌で滅びる。戦後哀歌の中から成り上がった女の運命が余りに哀れ。作者の悪意すら感じる。ああ、厭だ厭だ。
「明日には明日の」自己中心的な老婆が、更に上手の老婆と出会い、瑣末な栄光の座から転落する様をユーモラスに描いた異色編。この作品に至っては、ミステリであることすら放棄している。唯一の事件らしい事件である、盗難事件にオチをつけないのである。いやはやリドルな老境。
総論:この歳で読んでも辛い作品集。中坊時代に読んでいれば壁に叩き付けて「こんなん、推理小説じゃないやい!」と騒いでいたであろう。実は、率直にいえば、今もそうなのだが、ここは大人のふりをして「女の怖さと愚かさ」を堪能したい方はどうぞ、と言っておこう。

(今月入手した本:110冊、今月処分した本:8冊、今年の増減+276冊)


2001年2月14日(水)

◆ヴァレンタイン・デーである。製菓業界にとっては、年に1度のビッグイベント。女性から意中の男性にチョコレートを送るというのは、まさに日本のデファクト・スタンダード。もしこれにビジネス特許が与えられれば考案者は一生遊んで暮せたであろう。私の職場では、既に数年前に女性陣から一方的に「虚礼廃止」が宣言され、義理チョコは一切配られなくなってしまった。その代わり飲み屋から社用族に対して「撒き餌」として送られてくるチョコが召し上げられ、就業後、全員に均等に配分される。そこでは、チョコはその本来の価値である食料としてのみ存在する。「日本的企業における宗教行事の崩壊〜オフィスの原始共産制と聖餐の神性剥奪」である。仮にこの職場で「毒入りチョコレート事件」が起きても、それは単なる「無差別殺人」である。うがあうがあ。
◆新橋駅前の拾い集めた週刊誌を百円均一で売っている「リサイクル露天商」にて1冊拾う。
d「ターザンの双生児」ERバローズ(ハヤカワ文庫特別版SF)100円
これってやっぱり駅のゴミ箱に捨ててあったのでしょうか?ちょっと掘り出し物気分。後は新刊書店で、1冊購入。
「『探偵文藝』傑作集」ミステリー文学資料館編(光文社文庫:帯)700円
相変わらず渋いセレクション。この本が千円以下で買えるのだから、今の読者は恵まれている。はっきり言って、総目録だけでもこの値段分の値打ちがあると言っても過言ではない。実はそこだけの値打ちである、などとは言わないように。
◆中村さん、大鴎さん、フクさん、森さんに送本。ちっとも減った気がせんなあ。銀河通信オフに賭けるしかないっかー?


◆「ナポレオン・ソロ14/犯罪王レインボー」Dマクダニエル(ポケミス)読了
ポケミスでフォトカバーがつくのはこの14巻目で終り。なんでも15巻には例の簡易函があって、そこにナポソロの写真が刷り込まれているらしいのだが、それを追求するほどのマニアではない。ないにちがいない。ないんだってば。ナポソロ作家で最も人気を誇るのが、このマクダニエル。小説バージョンの最高傑作であり早川の世界ミステリ全集に収録もされたシリーズ第5作「人類抹殺計画」を書いたのが、この人である。更に、一種の不可能趣味とオカルトを合体させた異色作「ソロ対吸血鬼」もこの作者の手による。テレビシリーズの設定を借りながらも、そこに何かしらの工夫を凝らすのがマクダニエル作品の良さであり、それはこの第14作についても言える。なんと、この作品ではソロとクリヤキンは英国の田舎に隠遁する百歳を超える「養蜂家」と出会い助言を受けるのであーる。こんな話。
日夜、新たな犯罪者・犯罪組織のスカウトに余念のないスラッシュ。英国を本拠に大胆な犯罪計画を確実に実行し成功を収めてきた伝説的犯罪王レインボーは、スラッシュにとって垂涎の逸材であった。密かに新型武器を試供品としてレインボーに提供するスラッシュ。だが、それを察知したアンクルは、早速、ソロとクリアキンを英国に派遣し、スラッシュとレインボーの提携壊滅を図る。だが、スコットランドヤードは「レインボーは只の伝説上の人物」としてやんわりアンクルの介入を拒む。幸いMI6の共同戦線を張る事に成功した二人は、とあるレインボーの計画に罠を掛ける。しかし、逆にソロは彼等に誘拐されてしまったのである!敵の隙をついて逃亡するソロ。そのソロを窮地から救った娘は、ソロを二人の人物に引き合わせる。小柄な神父と、ジェーンという名の老婆。彼等の推理力や事情通ぶりに舌を巻いたソロは、更なる推理名人の許に導かれるのであった。果して、レインボーは実在するのか?そして、ソロとクリアキンはスラッシュの陰謀を阻止できるのか?
怪作である。ミステリマニアならずとも、名前ぐらいは聞いた事のある著名な名探偵や名犯人たちがナポソロ・ワールドにゲスト出演し、異才ぶりを発揮する。ロビン・フッド的なレインボーの設定や、アクション・シーンの迫力も通常のナポソロ小説のレベルをクリアしていて楽しめるものの、やはりこの書では推理小説の内輪受けを堪能するのがお作法というものであろう。特に「養蜂家」の推理ぶりはまさに神業。スラッシュとレインボーの武器の受け渡し場所と時刻を特定してみせるところなんぞは爆笑ものである。本筋のプロットがやや肩透かし気味に終ってしまうのが、些か自家中毒を起して悪乗りになっていたテレビの第3シーズンを彷彿とさせるが、まあ、高望みはすまい。ナポソロ小説はこれでいいんだ、これで。

(今月入手した本:106冊、今月処分した本:8冊、今年の増減+272冊)