戻る


2001年2月13日(火)

◆またしてもバタバタな1日。昼飯を2分でかっ込むような生活はイヤッ!
◆ちょっと残業。最寄り駅まで隣の課の課長と一緒に帰る。その課長は宇都宮からの新幹線通勤者。毎日往復で2時間新幹線に揺られて通っているという。毎日確実にそれだけの読書時間が確保されている生活というのもいいかもと少し羨ましくなる。ただ、乗る電車を決めているとかで、歩き方の勢いが違う。うーむ、ぶらぶら本屋を覗いて、といった余裕はなくなるんだよなあ。で、こちらはちょっと古本屋と新刊本屋を覗いて、以下を購入。
d「悪党パーカー」Rスターク(早川ミステリ文庫)100円
「真珠の首飾り」RVヒューリック(ポケミス)900円
突然のヒューリックには驚く。薄い!安い!渋い!「魔の淵」の刊行も決まっているし、やればできるじゃん、ポケミス。いよいよ1700番が見えてきたぞお。


◆「ママは嘘を見抜く」Jヤッフェ(創元推理文庫)読了
日記が引き金になって、掲示板で「うちの母親」シリーズが盛り上がっているが、ミステリ界で「ママ」といえば、このお方。コロンボ同様、本名が知られていない安楽椅子探偵である。以前はきちんとハードカバーを新刊で買っていたこのシリーズも今や文庫落ちを古本屋で買う体たらく。いや、別に思い入れがなくなったという訳ではないのだ。逆に私が新刊で買わずとも、きちんと文庫落ちして、たちまち古本落ちしてくれるシリーズだと判ったからそうしているまでの話。そう読む本に困っている訳ではないので、1年や2年の待機はどうという事はない。それで負担が1000円以上変ってくるのだからバカにならない。そこで節約したお金がまた本に化けているというのが問題なんだろうなあ。こめんね、ママ。ゆっくり読む事の効用として、巷の評価が出揃っている事が挙げられるが、この本について言えば好意的な書評が圧倒的、というか、貶した評を見た事がない。で、実際に読んでみて納得。なるほどこれはパズラー好きには堪らない端整なフーダニットである。こんな話。
静かな田舎町メサグランデに選挙の季節がやってきた。これまで無風の中で当選を重ねてきた酔いどれ地方検事マクブライドが、気鋭の女性弁護士ドリスからの挑戦を受ける事となる。公選弁護人のアンとその主任捜査官であるわたしデイヴは、どちらかといえば遣り手のドリスが新風を吹き込んでくれる事を密かに期待している。とある式典でドリスから「事件の総てを検事補のリーランドに押し付ける無能」と揶揄されたマクブライドは、次に殺人事件が起きた際には陣頭指揮でこれを解決してみせると啖呵を切る。そして、その翌日、アジア人街で娼館を経営するエドナという韓国人が絞殺死体で発見された。容疑者として現場から逃げ出そうとした浮浪者ハリーが逮捕される。なんと、ハリーはその前夜エドナから思わぬ招待を受けもてなしをうけている間に寝入ってしまった、という信じられない供述を行う。だが、この銀行レースとでもいうべきガチガチの殺人事件の背景には、市の威信を揺るがす真相が隠されていたのだ。迷走するデイヴたちに謎めいた助言を送るママ。果して、嘘吐きと偽善者だらけの関係者の中で、真実を語っていたのは誰だったのか?
完璧。これぞ推理小説。一見、事件と関係がなさそうに見えるママの質問の切れ味の鋭さ!ユダヤ人のミス・マープルはここにいる。組み立ては小味ながらその推理の確かさには思わず膝を打つ。些細な証言の疵から、犯人を追い込んでいく手法は、ジェシカおばさんを彷彿とさせる。公選弁護人事務所の存亡が掛かるという傍筋のプロットも楽しく、大団円も申し分ない。更に、最後でマイノリティー流のツイストを効かせてみせるところも含め、全く無駄のない小説である。どこまでも懐かしい本格推理。コージーとは一味違った名工の技といえよう。翻訳ものが苦手な人も、短編集「ママは何でも知っている」から是非全話読もう。それだけの値打ちはあるシリーズである。絶賛。

(今月入手した本:104冊、今月処分した本:3冊、今年の増減+275冊)


2001年2月12日(月)

◆京成沿線定点観測。一軒目はブックオフ。
「自由契約少年ノース」Aツァイベル(新潮社:帯)100円
「センチメンタル・シティ・ララバイ」東理夫(徳間書店)100円
「ニンフォマニア」松埜乱(祥伝社:帯)100円
「騎乗停止」松岡悟(三一書房:帯)100円
「フィフス・エレメント」ベンソン&ケイメン(ソニーマガジン:帯)100円
「スパルタンX:Jチェン・シネマ・グラフィティ」(集英社文庫)100円
「ブライド」岡山徹(講談社X文庫)100円
「ザ・ニンジャ」EVラストヴェーダー(講談社)100円
d「衝撃波を乗り切れ」Jブラナー(集英社)100円
ブラナーは銀河通信オフ回し。ここではFT文庫のローニン・シリーズで有名なラストヴェーダーのキワ物小説「ザ・ニンジャ」が大当たり。アメリカ生まれの忍者の活躍を描いた話らしいのだが、なんと四六版で、二段組500頁の大作。一体、日本でこの作品を読みきった人間は何人いるのであろうか?一旦会計を済ませて引き上げかけたところ、入り口直ぐの写真コーナーで、佐伯日菜子のポストカード集「mes cheris」未開封が100円で並んでいたのを見て2セット押える。これも銀河通信オフ送りにしたんねん。って、誰が買うねん?
二軒目のリサイクル系では、一冊だけお茶目な釣果あり。
「ママ、嘘を見抜く」Jヤッフェ(創元推理文庫)280円
「クールキャンディー」若竹七海(祥伝社文庫)160円
「探偵令嬢」城戸禮(春陽文庫)50円
いっひっひ、話題の人、城戸禮の明朗熱血少女ものをゲットだぜ。中味をみるとこれは「空手のお姐ちゃん」とは全く別物のようですのう。
三軒目、四軒目は街の古本屋。
「ねらわれた女子高生」園生義人(春陽文庫)150円
「おてんば娘日記」佐々木邦(春陽文庫)150円
「花嫁選手」中野実(春陽文庫)50円
「仮借なき明日」佐々木譲(集英社文庫)50円
d「アイ・スパイ」Jタイガー(ポケミス:フォトカバー)100円
「妖しい出会い」川上宗薫(双葉社)100円
ううむ、初めて中野実の春陽文庫に巡り合ったぞ。装画が背から裏表紙まで回り込んだ昔の春陽文庫デザインである。ふむふむ。まあ、読まないんでしょうねえ。誰か欲しい人います?
五軒目もリサイクル系。4冊200円というので、無理矢理4冊買う。
「アメリカン・グラフィティ」ルーカス&カッツ&ヒュイック(サラブックス)50円
「カルパチア綺想曲」田中芳樹(カッパNV)50円
「七都市物語」田中芳樹(早川JA文庫)50円
「冬休みの誘拐、夏休みの殺人」西村京太郎(中公NV)50円
ルーカス狙いだったのだが、オマケで掴んだ西村京太郎が山前編集の少年ものの初期作品集と知ってちょっとニンマリ。こういう事でもなければ、一生手に取らなかったかも。なるほど、多産作家のノベルズといえども侮れませんなあ。
六軒目は再びブックオフ。
「少年・卵」谷山浩子(サンリオ)100円
「果樹園殺人事件」Rローゼンバーグ(DHC)100円
「小説大霊界2」丹波哲郎(角川書店)100円
「でか足国探険記」椎名誠(新潮社:帯)100円
「武装島田倉庫」椎名誠(新潮社:帯)100円
「コンダクト・オブ・ザ・ゲーム」Jハフ・ジュニア(集英社)100円
最後の工夫のない訳題の本は、大リーグの審判を目指す青年の物語。こんなものまでリストアップしなくていいかな?
以上で古本ツアーを終えて、安田ママさんの勤務先にて、懸案の「佐伯日菜子写真集」を購入。ひゃあーー、3200円!!た、高っけええーー!!今日買った古本28冊の合計額を一冊で軽くクリアしやがんの。えーい、人の足元を見よってからに。中味は、所謂アイドル系セミヌード集。うーむ、やはり黒井ミサ萌えの人間としては「な、なにか違うぞ、サエキ!」って感じ。第1写真集が同性を、第2写真集がオタクを対象にしていたのに対し、初写真集という触れ込みのこの第3写真集は露骨に「男」をターゲットにしている。個人的には、もっとジャパネスクでファッショナブルな写真集を期待しちゃうぞ。ぶう。


◆「架空の王国」高野史緒(中央公論社)読了
閨秀作家:高野史緒の第3作。電網上の本読みとして一目おいている方々絶賛の処女作「ムジカ・マキーナ」は未だ入手できず、さりとてカストラートというのも今ひとつ趣味じゃないので、このビブリオの騙りに満ちていそうな第3作品にトライしてみた。そもそも、著者自ら何度も掲示板にお越し頂いてにも関わらず、主宰者が1冊も読んでいないのでは格好がつかない。それが今日の今日まで延び延びになっていたのは、一重にこの書の貫禄にあった。装丁からラテン語が躍り、なにやら西洋史や宗教用語が飛び交う雰囲気に加え、お茶の水の院卒という著者略歴。どことなく「薔薇の名前」の影に怯えつつ、時間の余裕がないエンタテイメント読みとしては及び腰でとりかかった次第。で、結論から申し上げます。これは青池保子です。それもクロスオーバーに青池保子です。安心してお読みください。こんな話。
弱冠19歳の才媛、瑠花・スワノは、智の殿堂として知られる欧州の小国ボーヴァル王国のサンルイ大学特別枠に挑む。だが、指導教官たるトゥーリエ教授の門を叩くべく、大学図書館に向った彼女は、そこで教授の死と遭遇する。動物たちの死骸に記された古の文字、立ち込める本の香りの向こうから、断末魔のラテン語は響き渡る。巨大電子産業の嫡子にして高貴なる助教授ルメイエール、王族たる図書館長と結ぶ英国貴族の留学生シングルフォード卿、ロマンス・グレイの宮内省官吏デュムーランらとの出会いは、瑠花を、古文書戦争の勝者として今なお独立を勝ち得ているボーヴァル王国の継承権を巡る政争に巻き込んで行く。託された<二十八番>、塗り込められ、刻まれ、描かれた暗号、ゼノンの弟子達は秘跡を演出し、予言は闇に成就される。錯綜する真贋、縺れる密約と殺意、偽りの誓の場に陰謀者たちは集い、智の徒弟は歴史の皮肉に翻弄される。奇蹟の真実はルキウスのみが知っている。
一つの国を創り、歴史を創り、思想家を創り、陰謀を創る作者の力技に敬服する。まあSF作家であれば、誰もがやる事といわれてしまえばそれまでだが、それを今の世界に矛盾なく説得力を持って当てはめるとなると、また別の話。ここまで書けるのであれば、何も現代を舞台にせずともよかったのでは、と思っていたら、それにはそれで理由があって更に驚愕。「密室」を弄んでみたり、「暗号」の解法を抛っぽり出すのはミステリ読みには肩透かしであり、登場人物に推理小説を語らせたりするのは興ざめの極みであるが、それを補って余りある歴史の謎があるので許せる。ただ、登場人物たちの軽さが、些かプロットの重厚さに水をさしているのは残念。クライマックスなんか、もろ「カリ城」だもんなあ。ちがいますかそうですか。ともあれ、一見取っ付き難そうだけど、実は堂々たるエンタテイメント。西洋歴史趣味の人は是非御一読を。

(今月入手した本:102冊、今月処分した本:3冊、今年の増減+273冊)


2001年2月11日(日)

◆母親帰阪。既に本屋は閉まっていたので、近所のブックオフのみチェック。
d「ホワイトハウスの冷たい殺人」Eルーズベルト(講談社)100円
d「時の過ぎゆくままに」小泉喜美子(講談社)100円
「ミッドナイト・ブルー」Pフィクス(ぽるぷ出版)100円
d「その男キリイ」DEウェストレイク(早川ミステリ文庫)100円
d「ガイアギア4」富野由悠季(角川スニーカー文庫)100円
「ガイアギア5」富野由悠季(角川スニーカー文庫)100円
「SNOOPYの小さな恋人たち」CMシュルツ(角川文庫)100円
むふふ、やっと噂の「ガイアギア」が揃ったぞ。しかし、この5巻本を読んでいる古本者ってKaluさんの他にいらしゃるのかな?わけも分からず「珍しい」と聞くと買わずに入られないなんて、性(さが)だよなあ。なんでもシャアのクローンが活躍するお話のようなのだが、「逆襲のシャア」すら積録にしている身の上では何が何だか判らんに違いない。うがあうがあ。


◆「水辺の通り魔」本岡類(角川書店)読了
ごく稀に自分が非常に見知った場所を舞台にした推理小説に出くわす事がある。それが「旅情ミステリー」と十把一絡げに括られる絵葉書みすてりもどきの場合であると、どことなく他所他所しくも「うそくせええ」。しかしこの作品には、真実の空間があり、真実の人々がいる。犯行現場は勿論、話のキーとなるトイレの場所まで手に取るように判るという話は生まれて始めて読んだ。実に推理の本筋以外で惹きつけられた作品である。ペンション・オーナーや、棋士といったレギュラー探偵を捨ててからの本岡作品ならではの丁寧な取材が生きている。こんな話。
昔ながらの町並みと高層建築が同居する江東区と中央区。そのウオーターフロントで包丁を兇器に用いた連続殺人事件が勃発する。被害者である真面目な新聞少年とカラオケ狂いのOLとを結ぶ接点とは果たして何なのか?警視庁深川署の刑事・武田は、先輩刑事の畠山とともに事件を追い始める。そして新たに「音」の目撃証人が現われ、事件に曙光が見えた時、武田の友人が水死体となって発見される。武田が青春を掛けたボディビルの仲間・館林。その周囲から薬物が発見されるに至り、「挫折したボディビルダー館林」は捜査本部にとって格好の犯人候補となった。友人の無実を信じ奔走する武田は、やがて事件にある法則性がある事に気がつく。犯人を凶行に駆り立てた「最後の藁」を求め、偽りの水辺を行く武田。しかし、事件の牙は、彼自身にもう一人の犠牲者を求めてきたのであった。
ボディビルダーが登場するのは先日読んだ「ポルノ・スタジオ殺人事件」と期せずして同じ。シンクロニティーですな。事件に追われながらせっせと栄養補給に励む主人公の姿は滑稽であり、かつ物悲しいものがある。ストーリーはこのまま鎌田敏夫が脚本書いて火曜サスペンス劇場「わが街」シリーズの一編として使える刑事小説・連続殺人風味。事件の組み立て、関係者の人間像なんぞ実によく書けている。更にこの作品は、この時代、この場所でなければならない同時代性と必然性に満ちている。なるほど、典型的なシリアル・キラーものかもしれない。新本格主義者からは梗概だけ読んでおけば良いと切り捨てられる話かもしれない。しかし、これは「推理小説もまた時代を切り取る窓である」という事を改めて思い出させてくれる佳編である。「風俗」という言葉の真実の意味での「<風俗>推理」である。安心して推理小説を楽しみたい方は是非どうぞ。

(今月入手した本:73冊、今月処分した本:3冊、今年の増減+244冊)


2001年2月10日(土)

◆思いついたので、書いておく。「春の海、びひもす、のたりのたりかな」
◆母親来襲中。購入本0冊。
◆幕張のカルフールに行く。すっげぇーでかい。なんと言うか、外国のスーパーそのものである。いやまあ、外国のスーパーマーケットなのだが。休日とあって、非常に賑わっているのだが、天井が高く、通路が巨大カート6車線ぐらいあるため余裕をもって歩ける。本やCDも置いているのだが、棚のサイズが普通ではない。母親連れなので、新刊にチェック入れる事は不可。テナントにユニクロやコクミンドラッグが入っており、それなりのサイズなのだが、カルフールを見た後だと小さく見える。うーん、後はブックオフが入れば完璧だぜ。


◆「ひとりおきの犯人」かんべむさし(光文社文庫)読了
軽い本を、と思い手に取った久しぶりのかんべむさし。考えてみれば、この日記をつけ始めてから初めてかもしれない。「決戦、日本シリーズ」以降10冊ぐらいまでは真面目に新刊で買って読んでいた作家なのであるが、何時の間にか疎遠になってしまっていた。デビュー当初から読んでいたために「新人」という印象が付き纏うが、今や押しも押されもせぬ重鎮クラス。これは、ほらあれだ、昔、チンピラだと思っていた西川きよし・横山やすしが知らぬ間に「師匠」とか「巨匠」とか言われるようになっていた時の驚きと同質だよなあ。さて、この本は、光文社文庫オリジナル編集で、90年代前半の作品をジャンルを問わず寄せ集めた作品集。これがのっけから文庫で読めるのはお買い得と言ってよろしかろう。眉村卓調のサラリーマンものから、お得意のハチャハチャユーモア、正攻法のホラーまでバラエティーに富んだ作品群は作者の器用さと特徴のなさを同時に証明する。まあ、いずれもそれなりにきちんと楽しませようという意欲が見えるので合格点を上げてしまう。10編収録。以下、ミニコメ。
「署長の名言」うだつの上がらない中年税務署員がキャリア署長から特別のお誘いを受けて向った先でのオモロ哀しい顛末記。なんちゅうか人間がよーかけてます。ほのぼのと情けないです。小心者同士の交感ぶりがよろしゅうございます。
「交通公園」黄昏の交通公園に娘を連れてきた男。やがてミニチュアサイズの町並みは男を呑み込み、魔が時と因果律を歪めていく。よくあるノスタルジーものだが、ラストで一ひねり。思わず読み返した。
「犯人判明・被害者不明」かんべむさしが時々やるセミ・ドキュメント。一夏の思い出はインキンの香り。結局作者の内輪受けワールドに感情移入できないまま読み終える。どうも要らぬ頁数稼ぎに思えてならない。
「黄色いトカゲ」男が現実の危難の前兆として夢にみてきた黄色いトカゲの正体とは?じわじわと恐怖を盛り上げていくお手並みはなかなかのもの。さてどう捻るのかと思ったら、真っ向から来たのでビックリ。意外にすれっからし向けの話かもしれない。
「諭吉の旅」典型的かんべむさし作品。一万円札の流れを軽妙な語りで見せる作品。誰にでも使えるアイデアながら、ここまでの作品に仕上げられる人は少なかろう。
「無人駅の女」鬱勃たる末端セールスマンを一夜の褥にいざなう無人駅の女。作者らしからぬ重厚なエロチック・ホラー。交情シーンの書き込みは正直に意外。まあ、オチはどうということのない雨月物語なのだが、ブラインド・テストをされればまず作者は当たりっこない。ビックリ、びっくり。
「ぞろぞろ道中」軽妙な語りで人生をモンタージュした佳編。なぜ南京玉簾なのかと思ったら、そういうオチですか。オモロ哀しい展開はいかにもかんべむさし。
「女は一夜で」妻が入院中に、昔の愛人とよりを戻す男。その心の歪みが、現実に撥ね返る時、怖い告発が成就される。
「銀色列車」♪呆け乗せ、呪詛乗せ、貴方の街へ、シルバー列車はららららら逝くよ〜。まずはこの短編集のベスト。笑い、恐怖、語り口、オチ、アイデア、どれをとっても一級品。年度ベストクラスの作品。この1作だけでも立ち読みするように。
「特別社友会議」アクの強い部長職がこの世の理を覆すまでに出世欲を発動させた時、会社思いのOB達が立ち上がる。おお、なんか源氏鶏太の恐怖小説のようである。

(今月入手した本:66冊、今月処分した本:3冊、今年の増減+237冊)


2001年2月9日(金)

◆母親来襲。「また、増えとる!ええ加減にし!!」「ホンマにこの子は。一体いつになったら、止めんの?」「もう、買わんでええでしょ?」「全部読んでから買い。」と言われ続けて30年。さすがにこのお方の目の前で古本を買うほど私は根性が座っていない。購入本0冊
◆「なんか、読むのないん?」と言われていそいそと本棚を漁る。が、なかなかこれといったものが見付からない。うちの母親は、結構推理小説の趣味がうるさいのである。まず、翻訳物は一切ダメ。昭和一桁なので、外人の名前が覚えられない。畢竟、国内作品になるのだが、短編集は「スカみたいなん」でダメ。乱歩、正史は「あかんわ、なんやいやらしいよお」。赤川次郎、山村美紗、西村京太郎は「みんな、一緒や」であり「土曜ワイド劇場でみたわ」である。新本格は問題外。ハードボイルドも右に同じ。森村誠一は「暗いわあ」。仁木悦子は「なんや、しんき臭い」。佐野洋は「つまらん」。結城昌治は「けったいやなあ」。笹沢佐保は「すけべえなんでアカン」。これまで安心して読ませる事ができたのは、松本清張であり、鮎川哲也であり、土屋隆夫であり、岡嶋二人、深谷忠記であり、内田康夫である。この辺りの推理長篇はすべて読んでいると言っても過言ではない。一昨年の来襲時には、中町信あたりで迎撃したのだが、今ひとつだった模様。んじゃ「宮部みゆきはどう?」と尋ねると「やめて。嫌いや」と一蹴される。SF仕立てなところや、筋運びが苦手のようである。「もう、内田康夫も一緒でオモシロないわ」と追い討ちを掛けられ、くまかかかか、と身悶えながら、とりあえず手渡したのは「カナリアは眠らない」近藤史恵、「異郷の帆」多岐川恭、「羊ゲーム」本岡類の3作。さあて、どうなりますことやら。
◆あ、しまった。川口文庫への振込み、忘れちまったぜ。


◆「空手のお姐ちゃん」城戸禮(浪速書房)読了
という訳でマイ・ファースト城戸禮である。芸文社アクション・シリーズの2冊は叢書揃えのために押えてはいるものの未読。もう1冊、浪速書房の本だというだけで買ったものがあったと思うのだが、どこぞに積んだきりになっている。世間一般には「刑事三四郎」のシリーズはいまだに現役で、さすがに白背は珍しくなったものの春陽文庫を大量においている八重洲BCあたりでは、「超爆アトミック(←ここ、適当)刑事三四郎」といった太ゴチックの題名が異様な存在感を主張している。パラパラみた感じでは、門田某の「黒豹」シリーズに非常に似たオーラが紙面から溢れ出ているといった印象。とまれ、私の読書生活の上では一生縁のない作家だと思っていた。ところが、今回の「昭和30年代のヤングアダルト」とでも呼ぶべき「明朗熱血青少年シリーズ」の第4巻については、森英俊氏へのお輿入れが決まった関係で読んでおかざるを得ない仕儀と相成った。こんな話。
16歳でちっぽけな貸船屋の社長を勤める女子高校生・マコ。凛とした美貌を輝くばかりの健康的な肉体に包んだ彼女は亡祖父譲りの空手の達人。しかも、正義感と経済観念も兼ね備えたスーパー・ガール。今日も、子分格の同級生「ポコ新」の目の前で、川面に空財布を捨てていった掏りの大物を、えいっ、とうっ!と空手の技で見事に捕縛の大手柄。そんな彼女が写真界を舞台にした連続殺人事件に巻き込まれる。「大学の豹」と異名をとる七郎が、街中で遭遇した美人モデル狙撃事件。うっかり彼女を助け起したために七郎は周囲の人々から犯人扱いを受けてしまう。飛び掛かってくる善意の人々を、やあっっと反射的に投げ飛ばし、駆け出す七郎が逃げ込んだ先こそ、マコの貸船屋。澄み切った七郎の目を見るや、マコは七郎の無実を信じ、警察を適当に言いくるめ、狙撃の真犯人捜しに乗り出す。やがて、事件は写真界を揺るがす大陰謀に広がり、マコと七郎は「悪魔島」と呼ばれる敵首魁の潜む島へと潜入するのであった。唸る鉄拳!滾る正義!飛鳥の如く舞い、豹のように跳ね、二人の技が悪の臓腑を抉り出す。駆けろ!大学の豹!闘え!空手のお姐ちゃん!!
ああ、なんとレトロな明朗熱血でしょう。この世に悪の栄えたためしなし!たとえどんな窮地に陥ろうとも「ダイジョービ」といいざま、悪を叩きのめすマコの勇姿に拍手喝采です!!今を去る事40年前に、かくも凛々しいスーパーヒロインがいた事に驚かない人はいないでしょう!どうせ、城戸禮でしょ?と侮ったりしちゃダミよ、ダミダミ、辛いのよ〜。もし作者名が城戸禮でなければ、古本者があぎゃあぎゃ探し回る事になった作品です。御都合主義的な展開といい、安直にして切れの悪いジョークといい、これぞB級、いやC級、いやいやZ級のエンタテイメント。これはお勧めです。読めるものなら読んでみなさい。とうっ!

(今月入手した本:66冊、今月処分した本:3冊、今年の増減+237冊)


2001年2月8日(木)

◆ようやく今週の仕事のヤマを越える。少々早く仕事を切り上げ、散髪や買い物を済ませ帰宅。やっとゴミ出しが出来る。掃除する。洗濯する。食器洗いまわす。川口文庫からの荷物引き取る。無謀松さんの購入報告を見ていたので、何が外れるのかは判っているわけで。どうも世の中には、私と無謀松さんともう一人探偵倶楽部を集めている人がいらっしゃるという感じかな?当たったのはこんなところ。
「青ひげは顔が白い」陶山密(日本文芸社)1500円
「ぷろふいる」昭和11年7月号・12月号(ぷろふいる社)各7000円
「トリック」昭和28年3月号(オールロマンス社)2000円
「探偵倶楽部」昭和32年1・2・5・7・9・11月増刊(共栄社)8000円
「探偵実話」昭和33年4・7・11月号、34年3・7月号(世文社)5000円
「新青年」昭和13年2月・2月増刊・5月号(博文館)8000円
「らんだの城通信」40〜43号(神津恭介FC)2000円
陶山密は競争率高かったのかな?まあ、1冊でも当たればよしといたしましょう。なんといっても「新青年」の探偵小説傑作集が嬉しい所。ぎっしり翻訳推理の詰まったお買い得の1冊。通常号のミステリ比率の低さがウソのようなミステリ専門誌である。貫禄である。それにひきかえ同月の通常号は「五大国通訳官座談会」だの「上海戦線飛行将校陣中放談会」だの「1937年何がどうした総決算」などというのが特集記事なんだよな。まあ、それはそれで面白いんだけどさ。
◆一昨日の「キリストの石」を遥かに越える血風本(という既成事実が出来てしまったようである)「空手お姐ちゃん」だが、浪花書房の明朗熱血青少年シリーズというシリーズで、巻末の刊行案内によれば城戸禮としては4冊目、第1回配本の「はりきりスピード娘」に続いて「電光山猫娘」「猿飛三四郎」と出ているらしい。「はりきり」はワセミスOBページで森さんがレビューされているが、「電光山猫娘」ってえのがどんな話かというと「突如貨物船九竜号の船上に現われた山猫娘!電光石火の技を持つ男装の美少女が密航し、日本に向う目的は!興味溢れる豪快編」ぐははは。かなりイけてます。さてこの「空手のお姐ちゃん」、このほど森英俊氏のところへお輿入れが決まったので、ごしごしと汚れを落して、グラシン紙などをかけてやる。おお、なんだかそれなりにチープな高級感が出るではないか。まあ、私が洒落でもっているよりも百倍大事にしてもらえそうではある。可愛がってもらうんだよ。と祈りつつ、とりあえず自分でも読んでみーようっと。


◆「大鳥池の悲劇」左古文男(徳間ノベルズ)読了
心の余裕がなかったので、とりあえず山の一番上にあった本を掴んで飛び出す。作者はミステリでは他に「雨の異邦人」「殺しのマニア」の2作がある高知出身の作家。漫画で「チャイナタウン」という作品もあるらしい。あと20年もたてば、「やったぜ!左古の効き目『雨の異邦人』をゲットおおお!!大陸書房の本は苦労するよなあ」てな血風報告がペタビットインターネットのどこかの古本サイトに寄せられるかもしれないが、今のところは只の忘れられたマイナー作家である。さてこの作品は、作者が気合をいれてノベルズ推理らしいノベルズ推理を書こうと頑張った「成果」である(らしい)。なるほど、一生懸命キャラを立てようとしている。フリーカメラマンにして高校時代はボクシングでインターハイ優勝経験あり、関西便でしゃべくり、卓越した推理力から「下町のコロンボ」という異名を取る男・谷川健二!うーん、「下町のコロンボ」というネーミングが実にチープで哀愁をそそるよなあ。だいたい平成7年に今更「コロンボ」でもあるまいと思うのだが。昭和30年代生まれの同時代感覚では、名探偵といえばコロンボだったって事でしょうかね。こんな話。
自然を撮る事を生き甲斐とするカメラマン谷川の元に実に久しぶりの仕事が舞い込む。撮影の対照はUMA。谷川は、磐梯朝日国立公園の大鳥池に伝説の怪魚「タキタロウ」を追う。村役場の山本と大学の釣りクラブの面々とともにタキタロウ捕獲に挑む谷川。しかし捕獲用の仕掛に掛かったのは人間の白骨であった。そして山本の証言から1年前、同じく大鳥池にタキタロウを追ったUMAマニアのパーティーから失踪した男が白骨の主として浮かび上がる。一方、警視庁では、墨田区の公園で起きた売れないミュージシャンの毒殺事件を追っていた。並行して描かれる二つの事件が交錯する時、新たな死が訪れる。今度は、上京していた山本が下町のホテルで毒死したのである!警察からあらぬ疑いをかけられた谷川は、持ち前の好奇心と推理力でこれらの事件の謎に関わっていくのであった。やがて、UMA研究会を巡る欲望と失踪の構図が浮かび上がり、泡沫の夢に浮かれた者どもに裁きが下される。
プロットの整理が悪く、すっきりしない。小道具としてUMAを持ち出しているが、殆ど本筋に絡んでこない。探偵には、飄々とした持ち味はあるものの、推理は行き当たりばったり。動機部分のある「犯罪」のアイデアは、新鮮なものなのだが、その現実性すら疑わしくなってくる。いかにも書き飛ばし、読み飛ばし御免のノベルズ推理。この書を読まずとも推理小説を語る事はできる。30年後にマイナー作家好きのミステリマニアが読んでおけばよい話であろう。

(今月入手した本:66冊、今月処分した本:3冊、今年の増減+237冊)


2001年2月7日(水)

◆残業。3日続けて23時を越える帰宅。おまけに今日はみぞれの追い討ち。疲労はピークである。月曜日に着いている筈の川口文庫の荷が未だに受け取れない。購入本0冊。

◆「みるなの木」椎名誠(早川JA文庫)読了
遅れて来た椎名誠信者である私にとって、シーナマコトといえば「ビールを日本一美味そうに呑む男」である。それまでにもテレビのCMでビールを飲む男は星の数ほどいた。が、椎名誠の呑みっぷりの良さや、呑んだ後の幸せぶりに敵う人間は誰一人としていなかったし、今もいない。また「あやしい探検隊」を始めとする旅ものエッセイがこれまたビールのあてに絶好なのである。よく椎名誠の本を抱えて居酒屋のカウンターで只管ビールを飲んだものである。作中で東ケト会の面々が酔っ払い、こちら側では読者たる自分が酔っ払い、メタ酔いにへらへらあぐあぐになって、飲み屋のアンチャンに左38度の角度からするどく「ごっちゃん」と声をかけてそぞろ歩きの宵の口、なのである。だが「椎名誠のSF」となるとやや趣を異にする。初期作ははっきり言って、良くも悪くも「<筒井>時々<バラード>ところにより<オールディス>」であった。まあ、一種のファンライターなんだろうなあ、という私の認識を改めさせたのが「アド・バード」。これはシーナマコト的えすえふ嗜好を、旅エッセイの飄々とした文体で一大長篇に織り上げた傑作であった。そして本当に久しぶりに読んだこのSF短編集では、もはや「シーナマコト」的作品としか呼びようのないスタイルを確立していたのである。恐れ入りました。通常のワン・アイデア・ストーリーも初期筒井的世界から脱した、末期山上たつひこ的な枯れた印象がよろしいのだが、なんといっても「とてつもなく大きな戦争が終った後の世界で、得体の知れないもぞもぞと動く生き物だったり食べ物だったりと、タフで怪しい主人公が、出会う物語」が凄い。この作品群に登場する生物と食物は自らがその存在感をぎゃあぎゃあと主張する。見慣ている筈の漢字や日本語なのに、その文字の向こうに異形や異界が見える。物語の基本プロットはいたって単純に「狩り」だったり「商売」だったりする。しかしその底には「原SF」とでもいうべき懐かしくも不思議な世界観が脈々と流れているのである。読者はみっちりぎっちりと詰まった異界の<図鑑>的迫力に圧倒されるのである。以下、ミニコメ。
「みるなの木」異界のマンハント。奇矯なる山の掟が不可思議感を募らせる。古老が最後に出てきて総てを解くというのは説話風であり、ギリシャ劇である。
「赤腹のまむし」表向きエロチシズムの底に、異形なる生と死の問題が潜む。とか深読みしたい人は勝手にしてなさい。食い物ネタの「必殺」。
「南天爆裂サーカス団」サーカスを見に行くだけの話。しかし、その代金も奇矯なら、サーカスも「変」の固まり。喧燥から静謐へのスイッチが入り、少年たちの恐怖を煽る。
「管水母」騙りの勝利。呼び込み、呼び込まれ、食われ、食うあるよ。なにするか。なにあるか。しーな先生の食地獄八景亡者戯なるか。読めよ。
「針女」贈収賄と女の夜は、一皮一皮剥けてゆき、長く艶然たる微笑みは床でのたくる。ここまで萎えていいのか!?いいんです。
「幽霊」とぼけた幽霊に取り憑かれた男が幽霊を捨てに行く話。割と普通の面白怪談。オチも普通なのである。実は家にいるのである。
「突進」只管真っ直ぐに突き進む入社試験。猛烈な主人公よりも、やや気弱な随行員が光る。アンデスかヒマラヤのガイドあたりにモデルがいそうである。
「巣」ホームレスたちの住宅掘削物語。なぜか山上たつひこの絵柄が無性に会いそうでしょうがない。コマ割りまでが目に浮かぶ。
「聞き書き 巷の達人」くねくねの名人や、衛星を見る達人や、大便をしない人が語る私の御自慢大会。少々息切れかな。
「漂着者」割と普通の漂流モノ。島に飼い慣らされ絡め取られていく男の姿が、淡々と描かれる。最後のリセットも利いている。
「出歯出羽虫」ある日目が覚めると虫が転がっていた。途中までエスカレーションものかと思っていたら「私の多角事業紹介記」になってしまう変なはなしん。
「対岸の繁栄」どこまでも平凡な公務員の夜。って、どこが平凡やねん!壮大な設定をディテールから覗かせる非凡の技。
「海月狩り」灰汁シリーズ。草海原を渡る狩猟船という設定だけで勝利したも同然。男達の物語としてステージが高い冒険小説。
「食昆飩商売」大戦争後の「商売心得帳」(PHP刊:うそ)主人公の業務的ハードボイルドが笑える。

(今月入手した本:44冊、今月処分した本:3冊、今年の増減+215冊)