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2000年1月22日(月)

◆残業。駅ワゴンのみチェック。
d「消えた超人」高原弘吉(春陽文庫)200円
春陽白背ミステリ好評絶版中となると、やっぱり買ってしまうよね。
◆往路で課題図書を読み切ったので、復路の友を物色する。雑誌とマンガとエロ本中心のしょぼい駅本屋で悩んだ挙句これを購入。
「ペルソナ探偵」黒田研二(講談社NV)780円
とりあえず2章まで読了。なかなか生真面目に推理小説していて、ここまでのところまずまず。ただハンドルネームに星の名前を使う一群というのは、読んでいるこちらが赤面してしまう。「ミステリ研の仲間が、人気作家の名前を愛称に使う」のと同じぐらい「ウソくせええええ!!!」明日の往路で読了予定。
◆帰宅すると徳間書店から冊子小包が到着している。なにかしらん?と思ったらこれ。
「少年の時間 TEXT. BLUE」デュアル文庫編集部編(徳間文庫:帯)頂き!
おそらく菅浩江さんからの献呈本。ありがとうございますありがとうございます。明日の復路で読ませて頂きまする。


◆「断崖殺人事件」岡田鯱彦(小説刊行社)読了
「樹海の殺人」が堂々たる正統派探偵小説だったので、期待して手に取った作品集。やはり正面きって「〜殺人事件」と銘打たれるとそれなりの期待をしてしまうのが、ミステリ読みとしての悲しい性(さが)である。いかに西村・山村・内田あたりによって手垢が付きまくったワードに貶められたとはいえ、「〜殺人事件」には<これは推理小説である>という作者の思いが込められている。いや、いる筈である。いなければならないんだってば。しかし、わたしはここがあの鷲尾三郎の「三重殺人事件」という愚作集を刊行した「小説刊行社」である事を忘れていた。実際に読んでみると、表題作である1中篇と2短編のいずれもが「通俗」を絵に描いたような作品で、いささかゲンナリ。幸か不幸か、若かりし頃に格安で拾った本なので腹は立たないが、これを高値掴みした人は辛いだろうなあ。どの作品も倒叙仕立てで、なぜか金持ちは電器会社を経営していて、社長の娘は親の決めた結婚相手がいる。昭和30年代に如何に電器が伸び盛りの産業であったかが、よく判る。さしずめ昨今であれば、IT関連もしくはコンサルティングもしくはバイオといったところであろうか。以下、ミニコメ。
「断崖殺人事件」電器会社の会長として辣腕を振う若き実業家、夏川秀彦は偶然バスの中で、自分が殺した筈の女性とそっくりの娘を見かけて驚愕する。かつて自分が東北の小さな電器会社に勤めていた頃に、利用し、金を巻き上げた挙句に黒羽山の崖から突き落とした勤め先の社長令嬢、木下道子。娘に家出されたものと信じた社長は失意の内に亡くなり、秀彦は道子が二人の駆け落ち費用として家から持ち出した金を元手に今の会社を立ち上げたのであった。だが、その娘は記憶を喪失しており、自分が誰なのか、勿論、秀彦が自分を殺そうとしたことも覚えていなかった。後の憂いを断つために今一度道子殺害を企む秀彦。言葉巧みに、今は黒羽みそらと名乗る道子に近づく秀彦。成り上がり者のトライアル&エラーは、やがて彼等を「最初の殺人現場」へと誘うのであった。つくづく男運の悪い中小企業社長令嬢の物語。倒叙形式ではあるが、刑事コロンボの如き「奸計対知性」という楽しみのない因果物語。素晴らしく読みやすいが、それもプロットのステロタイプ故であり、特段みるべきところのない作品。
「恐怖の一夜」強盗事件を犯した二人の男が10年の時を措いて再会する。一人は実業界の成功者、一人は刑期を終えた出獄者。成功者が永年の「沈黙の報酬」を支払う夜に、殺意は交錯する。シニカルなサスペンスで、それなりにスリリングではある。しかし、仲間を売らなかった強盗殺人犯が10年で出獄されては堪らんなあ。
「茶色の小壜」大恩人の娘との恋を裂かれた書生が、大恩人の抹殺を決意した時、愚かなる毒薬ゲームの幕は開く。ストーリー運びが強引に過ぎるため、ツイストの納得性が乏しい。ヒッチコック・ミステリから影響を受けた出来の悪い紛い物といった印象のお話。
総論:岡田鯱彦完全読破を志した人が読めばいい作品集。中味の値打ちはせいぜい3桁どまりといったところか。

(今月入手した本:273冊、今月処分した本:80冊、今年の増減+193冊)


2000年1月21日(日)

◆仮面ライダークウガの最終回をリアルタイムで視聴。第0号戦から4ヶ月後のキャラクター達の姿が長閑に描かれる。はあ、大人だねえ。公式ネタバレ本の出版を切に望む次第。次週からの新番組「アギト」は相当にお子様向けな印象。とりあえず第1話は見るつもりだが、ウルトラマン・ダイナの落胆ショックふたたびって感じだろうなあ。
◆思い立って「ベルセルク」「将太の寿司全国大会編」などの漫画他を一気に処分。といっても両手で持てる範囲なので計72冊。うーん、ちっとも減った感じがせんなあ。やはり500冊オーダーで処理しないと「焼け石に水」なのかも。まあ、今日のところは、年初来の蔵書減量計画が一歩進んで満足満足。
◆ここで止めておけばいいものを、久々に新京成沿線定点観測。
d「妖髪」田中文雄(奇想天外NV)50円
「機械神アスラ」大原まり子(早川書房:初版・帯)350円
「ジェニーの肖像」Rネイサン(早川NV文庫)100円
「ロビンズ一家の復讐」チャスティン&アドラー(早川書房:帯)350円
「ブラック・ロッド」古橋秀之(メディアワークス)100円
「ブラッドジャケット」古橋秀之(電撃文庫)250円
「ブライトライツ・ホーリーランド」古橋秀之(電撃文庫)300円
「ダーティペア 独裁者の遺産」高千穂遥(早川書房:帯)100円
「ホラーマーケット」田島照久(幻冬舎)100円
「旅涯ての地」坂東眞砂子(角川書店:帯)100円
「山が見ていた」新田次郎(カッパNV)100円
文庫落ちし始めたゾーンを100均狩り。んでもって恩田陸の新作を読む前に読もうと思ったら実は所持していない事が判明していた「ジェニーの肖像」を今更ながら買う。ネットで噂の古橋秀之もシリーズ3部作(青木みやさん、ご教授感謝)を購入。まあ大原まり子の稀少本の帯付きが収獲かな。今となっては新田次郎の山岳ミステリー集も結構貴重かも。


◆「ジェニーの肖像」Rネイサン(早川NV文庫)読了
というわけで読んでみました、ロバート・ネイサン。この古典中の古典を今まで読んでいなかったのかあ、お前は!?と識者の皆さんから叱責を受けそうだが、まあ、それは何も今に始まったことではない。私、ファンタジー系はミステリとSFの合間に読んでいる程度のパンピーですからご寛恕頂ければ幸い。そもそもネイサンはファンタジープロパーの作家でもなくて、いわば「胸キュン系」のブンガクだしね。さあ!今更梗概をつけるのもこっ恥かしい、「たんぽぽ娘」と並びすべての美少女ファンタジーの頂点に君臨する伝説的古典は、こんな話!
1938年冬、ニューヨーク。一日の食事代にも事欠く「わたし」こと貧乏画家のイーベン・アダムズの前に現われた一人の少女。彼女は、ジェニーと名乗り、人懐っこくわたしに自分の両親や友達の話をしてくれる。彼女の両親が出演しているというミュージック・ホールは20年近く前に閉鎖になった筈?しかし、ジェニーにはどこか不思議を不思議と思わせない力があった。そして彼女はわたしを元気付けるためにか、一風変った歌を口ずさみ、そして去っていく。
「どこへ行くのか、だれも知らない、風は吹きすさぶ…」
それから、ジェニーはしばしばわたしの前に姿を現すようになる。その度毎に「現在」に追いつくように常識では考えられない成長を遂げて行くジェニー。わたしが彼女の肖像を描くことになったのは自然な流れであった。そしてその肖像こそがわたしを世に出す最初の「傑作」となったのも自然な流れであった。だが、更に、わたしがジェニーの「現在」に追いついた時、二人に訪れた運命は、自然の流れだったのか?「どこへ行くのか、だれも知らない…」
いや、わたしは、心のどこかでそれを知っていた。ゆっくりと育まれた愛は最後の一瞬に溶け、総ての出逢いは挿入されていく、吹きすさぶ時の風に向って。
すべての男性芸術家からに共感をもって迎えられるファンタジーがここにある。すべてのむかし少女だった人々から愛される物語がここにある。なるほど、これは傑作。相当にこちらの期待値も高かったのだが、充分にそれをクリアしてくれた。終盤の展開も、専ら都市小説を想定していたわたしの思い込みを良い方に覆してくれており、どこかで見た話(吾妻ひでおとか、星野之宣とか)でありながら、新鮮な思いで読み終える事ができた。堅牢なプロットを愛する人向きではないが、だからといってこれを読まない人が、とても損をしている事は間違いない。自省を込めて申し上げよう。「とっとと読め」。

(今月入手した本:270冊、今月処分した本:80冊、今年の増減+190冊)


2000年1月20日(土)

◆押井守の新作映画「AVALON」を見に行く。なんともオタッキッシュな映画。近未来。主人公はヴァーチャル戦闘ゲームで勇名を馳せたチーム「ウィザード」の女戦士アッシュ。チームの謎の解散後もソロプレーヤーとして活躍する彼女を挑発する「高位司教」。ゲームには、「レベルAを越える隠しステージ<SA>」、「強い戦士を<ロスト>させる少女の<幽霊>」などの伝説があった。「ウィザード」の元同僚との出逢いが、やがてアッシュを、隠しステージ<SA>への苛酷な闘いへと駆り立てる。レベルA最強最大の敵をクリアした彼女が辿り着いた驚愕の真相とは?てな話。ポーランドが国を挙げて協力しただけあって、とにかく映像的に魅せる!セピア色の戦場と日常の映像が圧倒的な異国情緒で迫ってくる。会話がすべてポーランド語なのも無国籍感を煽る。CGも今風の処理だけでなく「レトロ・フューチャー」なイメージを醸すことに成功している。音楽も贅沢。んでもってアッシュ役のポーランド女優が無茶苦茶格好良い。佐伯日菜子を更にバタ臭くした感じのお姐さんなんだけど、美人なんだよね〜。これまでは女戦士といえば森山祐子だったけど、実に新ヒロイン登場!!を強烈に印象づける映画でございましたわい。
◆映画が終って外に出ると天気予報通りの「雪」!おお慌てで一軒だけ定点観測。
d「蜘蛛の館」山田智彦(角川文庫)40円
d「黒い白鳥」鮎川哲也(角川文庫)350円
うーむ、鮎哲角川文庫のダブリセットも残り4冊となると厳しい。定価以下なら押えに走ってしまうのであった。


◆「ポストマン(改訳版)」Dブリン(早川SF文庫)読了
核戦争後の地球で善と悪との闘いが始まる、というと「スワン・ソング」であり「ザ・スタンド」であり「北斗の拳」だったりする訳だが、この書もその類い。そこへもってきて、映画でケビン・コスナーが主役を務めたりするものだから「ウォーター・ワールド」の印象までもが付き纏う。では、凡庸か?というと、さにあらず。主人公を「郵便屋」に仕立ててそれなりの新味を出しているところが吉。我々が普段何気なく利用している郵便制度というものが如何に多くの人々によって支えられた、平和を象徴する叡智のシステムであるかを再認識させられる作品である。こんな話。
核戦争後のアメリカ。既に世界を二分していた大国の面影はなく核に汚染されていない地域で人々が身を寄せ合うようにして生きている。主人公ゴードンは、そんな世界の中を芝居を糧にひとりで生き抜いてきた流れ者。だが、略奪者の群によって生きるための道具を奪われた彼が、偶然にも山中に遺棄された郵便配達のジープと遭遇したことから、彼と世界の運命は大きく変り始める。最初は、ゴードン一人が生き延びるための「方便」だった。それが、人々の心に希望の灯を点す。繋がり合う事で、文明への信頼を取り戻す人々。小さな点は線となり、線が面へと広がっていく。しかし、暴力によって地上を支配しようとするホロニストと呼ばれる狂信者集団は、自分達以外の「秩序」の存在を許さない。ゴードンが、大戦で唯一破壊を免れたと言われるスーパーコンピューター「サイクロプス」の都に辿り着いた時、正と邪の闘いの幕は開く。人間らしさを求め結束する心と心。古老たち、少年たち、女たち、それぞれが闘いの颶風に向う中、ゴードンの一人芝居は遂に闘神達のハルマゲドンを招来するのであった。
一つ間違えば、悪いジョークにしか思えない設定を用いて壮大な人間劇を描いた作者の力量に拍手。スーパーナチュラルを前提としたマキャモンやキング(推測)に対して、あくまでもSFの道具立てにこだったところも評価に値する。キャンベル賞やローカス賞は、そんな作者の矜持へのSFファンたちからのご褒美であろう。余り腕っ節には自信のないはったり屋に過ぎない主人公が、自分の蒔いた種の予想外の反響に背中を押される形で「英雄」を演じつづけるという設定ゆえに、生の人間として彼が上げる悲鳴が痛い。ハッピーエンドが好きな人は、とりあえず第1部までで読むのを止めておけば良いかもしれない。キングやマキャモンが長すぎると思われる方はお試しあれ。

(今月入手した本:259冊、今月処分した本:8冊、今年の増減+251冊)


2000年1月19日(金)

◆残業。気力が萎えたので駅のワゴンを冷やかすのみに留める。「機械の耳」とかが落ちていたが、200円なのでスルー。「オットーと魔術師」「またたかない星」「メフィストとワルツ!」クラスでもない限り、ジュニア系のダブリは100円が上限だよなあ。
◆ネタもないのでイッチョカミ。例えばですよ、牛丼、ラーメン、カレーといったB級グルメを極めているんだけどハンバーガーは苦手で食べたことがないという人に、いろんなバーガーを10個選んで食わせてみたところ、中にハッピーセットがあって、食い気を失ったみたいなものなのかなあ。「そこ、笑いどころ」なんだろうけどね。とりあえず、わたくし的には「ブラッドジャケット」なる作品を無性に読みたくなってきたぞお。まあ、こういうへそ曲りもいるってことで。
◆業務連絡:茗荷丸さん、SPOOKYさん、葉山さんに送本。「ハイチムニー荘の醜聞」「魔女の笑う夜」「法の悲劇」といった強制流通力のあるところがお輿入れ。まずは順当なチョイスでありました。


◆「依頼人は死んだ」若竹七海(文藝春秋)読了
昨日の口直しに新本格でも、と思って信頼性の高い作家の短編集を持ってでたところ、これがまあ、後口悪いったらありゃしない。わたしこと三十路間近の独身女性にして私立探偵社のフリーランサー葉村晶が4つの季節を2巡りする間に出会った8つの事件と、一つの「闘い」を描いた連作短編集。正攻法のホワイダニットあり、鮮やかな叙述トリックありの豪華コース料理なんだけど、食後のコーヒーが余りにも苦い。この作家の作品に共通して流れる「毒」を前面に押し立てた作品集。なんというか「推理小説の読者」を良く知っている。翳のある主人公の設定といい、作者の企みな隠し方といい、文句なし。後は、あざといハッピーエンドをマスターすれば、宮部みゆきなみにブレイクする可能性もある。とりあえず今回も「若竹」印の信頼は確保された。以下、ミニコメ。
「濃紺の悪魔」探偵稼業に復帰したわたしの最初の仕事は、実業界のアイドル松島詩織の警護。次々と彼女に襲い掛かる「普通の人々」。究極の善意が操られる時、普通ではない真相が濃紺の使者によって告げられる。ボーダーライン上の作品であり、評価は分かれるところであろう。シリーズは冬に開幕する。
「詩人の死」わたしが寄宿する女友達の婚約者はなぜ自殺したのか?公務員務めの傍ら詩人として華々しいデビューを飾り、私生活では結婚を目前に控えていた育ちのよい好青年の「自殺」の動機を探る私。謎のバランスが実に見事な作品。ラストの視覚効果も抜群。これは一本とられました。
「たぶん、暑かったから」内部告発から社会的に糾弾されているゼネコンの社内で起きた瑣末な傷害事件。平凡なOLがやり手の人事課長をドライバーで刺した事件の真相を追うわたし。幾つもの仮説が一瞬にして凍る夏の物語。うへえ、恐れ入りました。女は怖いや(って作者のことだよ。)
「鉄格子の女」自殺した挿絵画家が残した1枚の絵画。夜と女をリアリズムに封じ込めたその作品に惹かれたわたしが見た青い地獄とは?依頼人姉弟の設定が笑いを誘う一方で、主題たる狂気と悪意は読者を戦慄させる。赤川の軽み、正史の情念、泡坂の逆転を彷彿とさせる作品。年間ベスト級の傑作である。
「アヴェ・マリア」再び冬は巡り、語り手はもうひとりの元探偵に代わる。ふたつでひとつの聖母像の盗難事件の奏でるリフレイン。演出者が謎を解体する時、心の中で針は飛び、陰惨なクリスマス・ストーリーは微笑みの中に封印される。これ、あり?
「依頼人は死んだ」表題作。「過分な報酬」をもらってしまった依頼人の死を前にけじめをつけるわたし。莫大な財産を巡る修羅たちの争いの中、密やかな悪意は殺意に膨らみ、愚かなる謀は自ら墓穴を掘る。刑事コロンボの最上作並みの幕切れに拍手。
「女探偵の夏休み」寄宿先の女友達に連れられ、閑静で心地よい夏の宿で惰眠を貪る女探偵。ひとりの常連客が、舞台から消えた時、作者の企みが炸裂する。女探偵はふたりいる。
「わたしの調査に手加減はない」なに不自由ないお嬢さま育ちの離婚妻は発作的に飛び降り自殺を遂げた。2年も前の自殺者が旧友の夢の中に現われて訴えたのは一体何か?厭々ながら引き受けた雲をつかむような事件であっても、わたしは解決せずにはいられない。それが無意識に放ったものであっても、悪意は必ずその者に還ってくる。「お約束」ながらも作品に仕立て上げた腕前に敬礼。
「都合のいい地獄」白い霧の向こうから濃紺の悪魔は帰って来る。わたしを苦しめるとある自殺の真相を巡り、命と謎を天秤に掛けたゲームは始まる。冬の街を駆けるわたしが辿りついた結末とは?霧の向こうに心の闇。そして、謎は終らない。

(今月入手した本:257冊、今月処分した本:11冊、今年の増減+246冊)


2000年1月18日(木)

◆会社の書類に「日星関係」と言う言葉が出てきて面食らう?「星」??そんな国あったっけねえ?まさか日本が宇宙貿易してるわけがないしなあ、謎だなあと思って識者に聞くと、シンガポールの事だってね。「星港」なんですと。うう、知らんなんだ。もう一つの当て字「新嘉坡」の方はなんとなく知っていたのだが、日本・シンガポール間の貿易、などという際には「日星貿易」と書くのだそうな。ふーーん。だいたい「日ロ」といえば日本ハム対ロッテ戦を、「米朝」といえば「桂米朝」を連想する国際関係オンチに、「日星」とか言われてもピンとこんわな。ちなみに「日星」という言葉をネット検索してヒットした中で、一番笑えたのは、「中日星野監督」。
閑話休題。「日星」を求めて広辞苑を引いていたら「星虫」という生き物が実際に存在する事を知った。星虫類に属する前肛動物で、体長5せんちめーとるの海産の生き物だそうな。名前の由来は、口に当たる部分が星型をしているからだとか。うーん、岩本隆雄の「星虫」がそんなんでなくてよかったよかった。こういうのがおデコに貼りついてミンミン鳴いたら、相当に「いや!」だろうなあ。
◆掲示板ネタ。扉を閉めた古本屋をこじ開ける石井女王様の様子をよしだまさしさんが、迫真の描写で再現されている。うーん、さすが女王様、さすがよしださん。あたしゃ、またてっきり、「我こそは、日出処の女王、石井春生。いまだ見ゆざる古の叡智を求め、遥けき道程よりこの書肆に至らん。旧き典範に則り、ここに希う。汝、主なるもの、この扉を開かん。<開門!!>」とラテン語で唱え、三年もののイモリの血とべラドンナの灰をまぶした大木槌でぶっ叩くのかと思っちゃったよ。(<化けもんかい!?)
◆神保町定点観測。大島書店で、クイーンの5長篇が入って500円というお買い得な洋書を1冊押える。「第八の日」「盤面の敵」「クイーン警部自身の事件」「九尾の猫」「ダブル・ダブル」というなんとも渋いラインナップ。あちらでは、結構この類いの電話帳のような本が出ているようで、ナイオ・マーシュの5長篇1巻本なんてのも所持している。「よめりゃいい」派には持ってこいですな。まあ、今回の本はEQFC例会のオークション用に回すけどね。カバーアートのエラリイがなかなかよさげである。あと神保町で拾ったのはこんなところ。
「都筑道夫ドラマ・ランド」都筑道夫(徳間書店:帯)1500円
「艶めいた遺産」源氏鶏太(集英社文庫)220円
「首のない鳥」倉阪鬼一郎(祥伝社ノンノベルズ:帯)200円
「邪龍幻紀」新田一実(大陸書房奇想天外ノベルズ)200円
なんといっても嬉しいのが都筑道夫の脚本集。集英社文庫版は7編も割愛されているという事を知って以来、こっそり探していた本。初版帯付きが定価で売っていれば文句なしでしょう。うーん、やっぱりこういう本は足で稼がないとだめだよなあ。大陸書房・奇想天外ノベルスは「邪龍幻紀」にてコンプリート。一番入手容易な本が最後になってしまうのは、こういう時のお約束ってことで。あとは明朗野球マンガ「MAJOR」の33巻を買って本日のお買い物は終了。


◆「借家人」Jギル(早川書房)読了
叢書の中で異様に目立つ背表紙の本というのがあって、例えばポケミスの中ではクイーンの「九尾の猫」初版。例のペーパーバックを模したツートンカラーのダブル背表紙ですな。かつての創元推理文庫では「月長石」と「異星の客」。これは無茶苦茶分厚いパターン。まあ最近ではどうという事のない分厚さだけど、昔は一目みただけで「どーだ!参ったかああ!」「いやあ参った参った」という存在感があった。で、ソフトカバーのハヤカワノヴェルズではさしずめこの書。緑色の地に黄色く題名を抜いた装丁で、比較的地味な背表紙の多いハヤカワノヴェルズのコーナーでは(文字通り)異彩を放っていた。まあ、「私のすべては一人の男」や「マイラ」あたりも目立つのだが、この辺りは売れてしまっている事が多かったので、余り印象にないんだよなあ。その点、この「借家人」、売れ残っているには実は理由があります、という不幸な作品。こんな話。
電気屋を開業する中年男デニスの密やかな楽しみは、自宅の敷地にたつ貸しコテージで齢の離れた美貌の妻ルゥイズが繰り広げる不倫の「音」を聞くこと。借家人や近所の夫たちを銜え込んでは奔放な性遊戯に耽る妻の声、不倫相手との語らいと喘ぎ、寝室に仕掛けた長時間記録テープレコーダーが拾う「音」を一人で聞く事こそ、デニスにとっての愛情表現であり、幾度かの流産の結果、子供を産めない身体になった愛妻への贖罪の儀式であった。そして、新たな「借家人」が新聞広告を見てやってくる。有閑画家のコーダーは、逞しい身体をもった独身の自然愛好家。デニスの想定する不倫相手として最適の男。案の定、ルゥイズは夫が家を空けている間に、コーダーに媚態を示し、忽ちのうちに彼を篭絡する。だが、今回の「借家人」は、これまでとはやや勝手が違った。ルゥイズの振る舞いに、「浮気」が「本気」に転じていくのを感じとったデニスは、初めて「寝取られ夫」としての嫉妬に身悶えるようになる。そして、儀式のからくりが露見した時、死と贖いのドラマは始まる。
「火曜サスペンス劇場」向けの夫と妻に捧げる犯罪。ウールリッチならば、この3分の1の分量で更にサスペンスフルでショッキングな作品に仕上げた気がする。まあ、テレビ脚本としても凡庸の部類である。しかも、この作品の不幸はそれだけにとどまらず、なんと扉の梗概でこの書の数少ないツイストの一つがネタバレされているのである。かく申す私も、梗概をうっかり読んでしまったために、山場でのとあるセリフに出くわし「ああ、この作品の狙いはそこかあ!」と逆に驚いた次第。全く早川書房も罪作りな事をする。首吊りの足を引っ張っちゃあいけないよなあ。出版社のチョンボぶりを自分の目で確認しないと気が済まない方はどうぞ。

(今月入手した本:257冊、今月処分した本:8冊、今年の増減+249冊)


2000年1月17日(水)

◆残業。急遽まとまった飲み会メンバーで飲み屋に急行中、タクシーの窓から、見慣れないリサイクル系の店が見える。ああ、行きたい!なんかまだ開店早々らしく花輪なんぞも見えるじゃないか!「こっ、ここでおろしてくれー!!頼む〜!!」という言葉をぐっと飲み込んで、会話に耳を傾ける。しかし、頭の中は「えーと、ここはどこだっけ?会社から真っ直ぐ来て、あそこで曲ったんだよな。で、目的地はあそこのガード下だから、うーむ、まだ随分走るなあ、帰り道に一旦引き返して覗くことは出来るかな。そうなると飲み会は早目に切り上げたいなあ。二次会は辛いもんなあ。うー、まだ走ってるなあ。何時までやっているのかな?最近の大型店って20時閉店の店もあるしなあ。くそー、まだ走ってるぞ。これを歩いて戻ってくると大変そうだな〜」てな事でいっぱいである。で、結局痛飲のあげく、へらへらになって帰宅。購入本0冊。今に見ておれ〜。次こそは必ず!(<必ず、何だよ?)

◆「贋作展覧会」Tナルスジャック(ポケミス)読了
世の中にホームズのパロディ、パスティーシュの類いは星の数ほどあるものの、それ以外の名探偵たちのパロディは意外に少ない。この分野での最高傑作であるウィリアム・ブルテンの「○○を読んだ××」シリーズ(「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」がとにかく有名)は、HMMに紹介されたきり単行本にはなっていないので、翻訳長篇ではMマナリングの「殺人混成曲」、翻訳短編ではJLブリーンの「巨匠を笑え」とこのナルスジャックの「贋作展覧会」で渇を癒すしかなかった。しかし、私がミステリに嵌まり出した頃には、ポケミスを置いている店ならばどこでも並んでいたこの本も、今やとんとみかけなくなってしまった。ブルースの「三人の探偵のための事件」が喝采をもって迎えられた事からも明らかなように、この分野の需要は確実にある。日本では山口雅也や、二階堂黎人、芦辺拓あたりがいい仕事をしているので、新本格読みの若い読者からも喜ばれると思うのだがいかがなものであろうか?さて、この作品集はいわば作家ナルスジャックの出発点であり、その内容はパロディというよりはパスティーシュ。作者名を隠せば、<巨匠の知られざる短編発掘!>と勘違いされかねない出来栄えの作品が並ぶ。特に、自国のヒーローであるルパンとシムノンの模写ぶりは圧巻。「メグレほとんど最後の事件」なんぞは題名だけで爆笑ものである。幾つも「最後の事件」があるメグレに対する強烈なおちょくりであり、しかも内容がどこからみてもシムノンなんだよなあ。7編収録。以下ミニコメ。
「ルパンの発狂」(ルブラン)開巻即唖然とすること請け合い。稲葉明雄畢生の名訳。なんと保篠訳を模した講談調の総るび付きの訳文なのである。ブラジルの百万長者殺しの現場で昏倒していたルパンが獄中で発狂。ガニマール警部は、事件の光明を求めて奇手を打つのだが、、という話。宝捜し興味に、逆転の妙味も味わえる佳編。翻訳と併せて、この書の最高傑作。さすが、後年、公認の新ルパン長篇をものにした作家だけのことはある。
「牡牛殺人事件」(ヴァン・ダイン)エジプト遺物の収集狂の城館で勃発した殺人事件とダイング・メッセージの謎を追うファイロ・ヴァンス。舞台設定が実にツボに嵌まっている。密室の謎がいささか旧態然であるところもおちょくりのうちなのか?後は勿体ぶった引用と註があれば完璧。
「エルナニの短剣」(ボアロー)なんと、後にコンビとなるボアローまでが血祭りにあげられている。楽屋で首を切り裂かれていた主演女優とその二人の情夫の死体。現場に残された「ラシーヌ」という言葉の意味とは?三重殺人という奇抜な設定がいかにもコンビ以前のボアロー作品のケレンを再現している。事件の真相も実にフランス・ミステリである。
「赤い風船の秘密」(クイーン)一見バラバラな殺人を繋ぐ鍵は現場に残された「赤い風船」にあった。だが、クイーンの慧眼もヴェリイ部長の負傷までは予測することはできなかった…奇妙な連続殺人とクイーンの仕掛ける罠が<いかにも>である。勿論お約束の「読者への挑戦」つき。ジューナも登場する初期EQマニアには堪らない一編。
「メグレほとんど最後の事件」(シムノン)男爵家の娘婿殺しを追う風邪気味のメグレを描いた作品。これはもうどこからみてもメグレである。物語もきちんと上流階級批判になっているところが立派。トレビアン!
「赤い蘭」(スタウト)これも題名だけで苦笑させられる作品。画期的な発明を行った科学者の保護にかりだされたウルフとアーティー。だが、「赤い蘭」の盗難に続いて依頼人は殺害されてしまう。犯人のアリバイトリックは今更のものだが、それが破綻する顛末が笑える。この作品は、パロディ要素が高く、全編に皮肉とおちょくりが横溢している。家の外にでるウルフの描写だけでも一読に値する。
「花束も冠もなく」(チェイス)名優の幼児誘拐事件を企んだ男の末路を描いた暗黒小説。無慈悲な殺しっぷりがなんともチェイス。なるほどチェイスがフランスで受けていたことがよくわかる。
総論:後書きを読むと他にもナルスジャックに「血祭り」にあげられた作家・探偵は多く、この訳本自体続刊が予定されていた模様である。ああ、30年越しで「空手形」を落してくれないかなあ。名探偵マニア必読。

(今月入手した本:251冊、今月処分した本:8冊、今年の増減+243冊)