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2000年12月29日(金)

◆冬休み1日目。夜郎自大企画の集計をやってから、今年最後の更新。気がつくともう12時だ。とほほ。さて、ここでコミケを覗きに行くか否か、しばし悩んだ挙句に、積み残し作業にとりかかる。まず、余裕のあるうちに安田ママさんの企画に投票。昨年の1位は全然迷わなかったのだが、今年は悩みまくった挙句、皆さんに背中を押される形で決断。そのあとはダブリ本の入力作業。書庫にパソコンと卓を持ち込んで只管打ち込む。打ち込む。打ち込む。気がつくと5時を回っている。うがあうがあ。400冊入力したところで厭になる。ダブリ山脈の向こうからはどうしようもない不良在庫(痛みの激しい本)も出てくるしなあ。来年は本気でダブリ本を買うのは止めよう。というわけで購入本0冊。
◆夜は明日のコミケに備えM氏が遥々岡山から上京。焼肉を食って早目に寝る。

◆「こちらITT」草上仁(早川JA文庫)読了
というわけで、1日の入力作業に倦んで、軽くて信頼のおける草上仁を取り出す。なんでも処女作品集だそうである。JAの247番というのは、一番SFから興味が遠のいていた時期の出版(昭和62年刊行)であり、今年まで無関心であったのもむべなるかな。この作品集は、中身もさることながら、表紙は吾妻ひでお、解説は梶尾真治という豪華キャスト。特に、同じ兼業作家であるカジシンのラブコールが微笑ましい。確かにこの二人にはとても似たテイストを感じる。昔懐かしいシェクリイやブラウンの奇想が、ブラッドベリやスタージョンの抒情が、ブロックやマシスンのショックが彼等の作品のあちこちに「やあ、久しぶりだね」とばかり顔を出す。掲示板のY.K.氏情報によれば、初期作品集は尽く品切れとのことであるが、実に愁うべき事態である。ううむ、ネットの片隅で「草上仁はいいぞおお」と蟷螂の斧を振り回す次第。以下、ミニコメ。
「アル牛」酔っ払いの牛型知的生物が支配する星に不時着した主人公。このまま銀河辺境で呑んだくれて一生を終るのか??惑星規模のドンデン返しの後に更なるツイストを決めたユーモアSF。作者の酒好きぶりが窺い知れる。
「ベター・ハーフ?」異星のバラバラ殺人に遭遇した警視は、異星が異性であったことや、断末魔が絶頂であったことや、あんなことや、あんなことを知らされ、もういや!モードに突入するのであった。猟奇的な、あまりに猟奇的なスラプスティック。
「進化の道」ブラックホールに仕掛けられていたのは、宇宙規模のシミュレーターであった。次々と驚異的な進化を遂げていく、人、宇宙船、そして、日用雑貨。ワイドスクリーン・ばか話。でもヨコジュンなどとちがってちゃんとSFしているところが偉い。
「分裂剤」極秘任務を帯びた宇宙船に「スパイがいる」との通信が飛び込む。疑心暗鬼に駆られる4人の乗組員。だが、犯人捜しはある一線を越えられない。奇抜な設定で極限状況の人間劇を描いたハードSF。オチは、まあこれしかないというものだが、1本SFを読んだという満足感はある。
「こちらITT」電話の会話文だけで、小説に仕立て上げた「IF」もの。電話並みにテレポート・マシンが普及した時代の日常のトラブルを軽妙なタッチで描いた小品。誰もが思いつく分、作者の力量が問われる作品。まずは合格点。
「目には目を」裁判から死刑執行までが、全市民に委ねられた未来の司法制度に叛旗を翻す殺し屋兄弟。それは、見事にシステムの急所を突く報復であった。これは一本取られた。21世紀のスタンリー・エリン。EQMMのファースト・ストーリー級の出来栄え。
「道化の釘」超能力少年がテレポートミスで辿り着いたのは不思議な閉空間。彼はそこで自分と同じく異能を持つ奇妙な友人に出会う。だが、二人の無邪気な遊びが銀河全体を崩壊に導くことは、まだ誰も気づいていなかった。なんとも切ない滅亡SF。クラークのような、カードのような、有り得たかもしれない未来の滅びの詩。堂々たるSF。御見事。


2000年12月30日(土)

◆今年1年を要約したかのような1日。
◆朝4時に、ぱちん、しゅーーっ、ぱちん、ぱちん、という音で眼が醒める。単調なリズムの正体は、昨夜から泊っているM氏が、起きだしてコミケ用のコピー本を製本している音。ううう、妖怪「小豆洗い」みたいだよお。「鬼太郎!それは『不如帰』(ほっちきす)じゃ」と目玉オヤジの声真似など。5時半前に出発。西船橋でタッチの差で武蔵野線の東京方面始発を逃す。なんと30分待ち。うがが。そのまま吹きさらしで待つよりは、と逆方向の電車に乗って2駅手前で待つ。しめしめ座れたぞ。新木場では、パスネットが威力を発揮。これがなければ臨海線の切符売場は更に長蛇の列になっていたことだろう。あれやこれやで7時半に東館のM氏のブースに到着。カタログで改めてサークルをチェックしながらオープンを待つ。オープンと同時に西館に移動して、国樹さんにご挨拶。お供え物などをお渡し。図書館員漫画とか「らふぃーる丸」とか買い込む。御茶大SF研のコーナーではのだなのだ女史が店番をやっていた。東館に戻って「家電美少女」シリーズの新刊豆本、ナポソロ本、ナレーション大全集など買い込む。12時にはM氏と別れて、帰り支度。そこで「仏教戦隊ブッダマン」の実写ビデオに遭遇し驚愕。あああ、まさかあのブッダマンに実写があったとは!?なんでも、こちらがご本家で、1986年当時アマチュアだったおかげ様ブラザーズに歌を依頼したのだそうな。うひゃああ、20世紀最後の大ビックリ。ゆりかもめで新橋に出てあれこれ買い物を片付ける。ああ、重いぞ。そのまま、今世紀最後の神保町巡り。まだ行くか!こいつは!?
◆神保町では、半分以上の店が既に正月休みに突入しており、空振りの予感。ところが!!古本の神様が、最後の出血サービス。拾ったのはこんなところ。
「天国荘奇譚」山田風太郎(桃源社)600円
「魔女のしかえし」ヒントン(学研)100円
「探偵キムと作られた幽霊」IKホルム(評論社)100円
「ふしぎなマチルダばあや」Cブランド(学研)100円
d「首のない女」Cロースン(東京創元社・函)1000円
うーん、「ナインテイラーズ」に3000円を付けている店でなぜか叢書の効き目中の効き目「首のない女」が1000円!!うそーーっ!!これは「買え」という事だなと、あっさり「昨日の誓い」もどこへやらで掴む。その後で今度は、ブランドの「マチルダばあや」を100円均一ワゴンで捕獲!!やたっ!買わなかったけれども、すずらん通りの某店では、幻影城や別冊幻影城(鯱彦・蒼井・正史3,4など)が大量に平積み、20年以上タイムスリップしたかのようなゾッキ本扱いのオール500円。倉庫の隅からでも発掘されたのかな?謎だあ。
◆夜の飲み会に臨むために五反田へ出たついでにブックオフをチェック。うーん、相変わらず広いよなあ、このお店。ここでは安物買いに勤しむ。
d「風と共に去りぬ殺人事件」ジャクマール&セネカル(集英社)100円
「カサンドラ・クロス」Rカッツ(徳間書店)100円
「トリガー」霞田志郎=太田忠司(小学館)100円
「ベストミステリー10年」北上次郎(晶文社)100円
「淋しがりやのオモチャ箱」亜蘭知子(勁文社)100円
◆旗の台のバブリーな借屋でクラブのOB有志の忘年会。M氏がコミケで買ってきた島本和彦の沖田十三日めくりが馬鹿受け。私の実写版「ブッダマン」も受けまくり。先輩に是非にと言われて貸し出し。ビンテージ・シャンパンのマグナムボトルなんぞを持ち込む人もいて、大いに盛り上がるが、翌日帰省予定につき、9時前には退席して帰途につく。
◆帰宅すると、本が2冊、郵便受けでお待ちかね。1冊は石川県在住の女性が作成した矢野徹の喜寿祈念出版図書目録。赤クロスの表装に金文字で「七十七」と打刻された素晴らしい自費出版物。実は風読人のかつろうさん経由で、データ提供(ポケミスの翻訳関係)に協力していたのだ。むはは。これは立派な本だなあ。ダイジマンとか欲しがりそうな本である。もう1冊はKaluさんからの交換本。
「美女と金猫」Cナイト(三都書房)交換
いやあ、チープな表紙絵がなんとも素敵。これは生まれて始めて御目にかかる本。小泉喜美子とのトレードだったけれども、どう考えても私の方が得したよなああ。ありがとうございますありがとうございます。
◆いやいや、コミケ・神保町・ブックオフ・宴会・交換本と謹呈本となかなかの充実ぶり。世紀末古本血風録の有終の美を飾る1日であった。いわせて頂きましょう。
本日は「血風!!」


◆「ふしぎなマチルダばあや」Cブランド(学研)読了
いやあ、ワセミスOBページでの森さんのレビューを読んでから、内緒の探究本だった作品。その後も、ネット上のあちこちでゲット報告や、読了報告が上がって正直なところカリカリしていた。個人的にはごく一部の例外を除いては、余りジュヴィナイルに興味はない。特に、それが6桁、5桁当たり前の高額本となると、何故そこまでして、子供向けの本を?と素朴な疑問を禁じ得ない。だいたいが江戸川乱歩や横溝正史にしたところで、如何に傑作と呼ばれるジュヴィナイルでも大人向けの標準作を越えているとはどうしても思えないのだ。単なる希少性だけで、さして面白くもない子供本に万札切れるかどうかが、特濃の収集家か否かのバロメータのような気がする次第。ほほほ、私なんてサラサラですわ。さはさりながら、今日の課題本のように未だに古書価格もついていないゾーンは、やっぱり読んでみたくなるのが人情というものである。なんてったって、ブランドものですから。はい。こんな話。
ブラウン家の子供たちはとんでもない悪戯者揃い。次々と家庭教師やばあやを追い出す奸計を仕掛けては勝利してきた彼等の前に、ブラウン夫妻の「最後の希望」マチルダばあやが立ちはだかる。ブラウン夫妻がどの周旋所からも見放された時、その信じられない程不細工なばあやは、ブラウン家の階段を上りながら7つのおけいこを子供たちに仕込むことを宣言する。ここに、躾の欠片もない悪ガキ集団とふしぎな力をもった最終破壊ばあやとの決戦の幕は切って落された!!そしてマチルダばあやが黒い杖で床をどんと一突きするとき奇蹟は起きる。増殖し自らに復讐する悪戯、仮病、悪ふざけ、馬が養女になる時、強制は信頼に変る。
マチルダ七番勝負とでもよぶべき痛快娯楽童話。ブラウン家の子供たちの考案する目くるめく悪戯の数々に対し、黒い杖一突きでそれを退け、悪戯の悪意を子供たち自身に返すマチルダの格好良いこと!マチルダばあやこそは、すべてのばあやの憧れであり、躾のできない親にとっての最後の希望である。7番目のおけいこのリフレインや、予言が成就する大団円も感動的。へえ、ブランドってこんなにストーリーテラーだっけ?と感心する1編。お勧め。


2000年12月31日(日)

◆二番のこだまで爆睡しつつ帰省。梅田の古本屋を数店見てまわるが、いずれも既に正月休みに突入しており、荷物も重かったので無駄な抵抗をせずに実家に向う。久々の実家に荷物を置くや、歩いて5分のところにオープンしたというブックオフをチェック。中規模サイズの店舗で、イメージ的には新大久保店に近いか。さしたるものはないが、名刺代わりに何冊か拾う。
d「応家の人々」日影丈吉(徳間文庫)100円
「ハリスおばさんニューヨークへ行く」Pガリコ(講談社文庫)100円
「時間不動産」草上仁(早川JA文庫)100円
「お喋りセッション」草上仁(早川JA文庫)250円
「第四惑星の反乱」Rシルヴァーバーグ(フォア文庫)100円
帰宅して物置の整理で2時間ほど肉体労働。一服して今度は歩いて12,3分の古本市場へ出陣。ゲームコーナーの賑わいとは対照的に本コーナーは閑散としており、気楽に見て回れる反面、この調子だと早晩本のコーナーが駆逐されてしまいそうな危惧を抱く。拾ったのは2冊。
「紅の涙」東野司(早川JA文庫)95円
「黒とかげ」江戸川乱歩・高階良子(講談社なかよしコミックス)95円
東野の第1短編集は、結構てこずらされた1冊。個人的には嬉しいところ。そして高階・乱歩漫画が20世紀最後の購入本と相成る。これはこれで私の本買いを象徴しているようで宜しいのでは。

◆「ヴァンパイヤの塔」JDカー(創元推理文庫)読了
20世紀の最後の日に何をするか?ビンテージワインの封を切る人、思い出の山に登り夜明けを待つ人、青春の名画を夫婦二人きりになって鑑賞する人、年越しのコンサートで熱狂する人、確信犯的にこたつみかんで「ゆく年来る年」な善男善女はさておき、やはり世紀、それも千年紀の変わり目となると何か記念になることをやっておきたいものである。というわけで、「世紀末古本血風録」の掉尾を飾る作品には虎の子のクラシックを当ててみた。好きな作家は、という質問には常にカーと横溝正史と回答してきた自分としては、やはり20世紀を締めくくるにあたっては、カーにご登板頂きたい。他の新・改訳作や未訳作はなんらかの形で読んでいるので、私にとってはこれが最後の未見のカーである。実は、米旅行の際にニューヨークはミステリアス・ブックショップにて購入した古本第1号がこの原書版であった。ところが、これが勿体なくて読めない。そうこうするうちに10年以上の空手形をなんとあの東京創元社が落して、未収録短編や新カー問答まで増補した最強翻訳書を出すではないか!さあ、こうなるとますます勿体ないが募り、結局3年間積読扱いにされてきた。思い起こせばそれからもカーの出版は相次ぎ、いよいよ、未訳長篇は「パパ=ラバ」1作、「第三の銃弾」のノン・アブリッジ版や「この目で見たんだ」の改訳も控えている現在、カーの復活は完全に果たされたといって良かろう。これだけカーの作品が現役本として流通している国は世界に日本のみであると言い切ってよかろう。ここに絶版・絶望的入手困難の代名詞であったカーの名誉回復は完遂された。称えよ、カーの栄光を!不可能犯罪の千年紀に祝福あれ!!ハレルヤ!!
閑話休題、これは、ラジオドラマ職人であったカーの星の数ほどある脚本から世界一のカー・ストーカー:ダグラス・グリーンがセレクトした脚本集「Dead Sleep Lightly」に未収録短編を増補した決定版。前述のように、カー短編集「幽霊射手」「黒い塔の恐怖」が出た時点で、早々に刊行が予告されていたものの、一旦は近刊ラインナップから姿を消しファンを暗澹たる気分にさせた後、一連のカーブームに背中を押される形で不死鳥の如く上梓された。まあ、新樹社や原書房はおろか翔泳社などという新参者にまでカーで美味しい想いをさせてはならじ、という老舗の意地であろうか。出してくれたことに文句はないのだが、望むらくは緑の背表紙も斡旋してほしかったぞおお。ああ、また無駄話が嵩んでしまった。カーで遊べば一晩中でも遊んでいられそうな自分が怖い。以下、ミニコメ。
「暗黒の一瞬」フェル博士登場編。真っ暗闇の降霊会で起きた不可能殺人の顛末を要領良く描いた佳編。怪奇色を控えめにした分、幕切れの二枚腰とセリフの妙が光る。EQに訳出された作品であり再読であるが、それでも充分楽しめる。文句無しの傑作。
「悪魔の使徒」<そこで泊ると必ず死ぬ部屋>もの。仮装パーティーで燃え上がる恋。青年は美しい娘の保護者を務める伯父・人間嫌いの伯爵に結婚の許可を求めるのだが、そこで出されたのは条件付きの許諾であった。そして、伯爵の居城の塔の一室で、恐怖の一夜は幕をあける。ツイストの華麗さに酔うグラン・ギニョール。これは、是非ラジオドラマで聞いてみたい。
「プールの中の竜」残酷なる復讐譚。透明な殺意は水の中に潜む。あまりにも有名なカーの消失トリックを血塗れの悲劇に脚色した作品。残酷趣味には息を呑むが、ミステリとしての完成度は今ひとつ。
「死者の眠りは浅い」フェル博士登場編。墓場で刷り込まれた局番に間違い電話した男が、過去の亡霊から囁きかけられる<不可能犯罪>もの。電話のシーンのおぞましさは、ラジオで聞けば更に恐怖度アップ間違いなし。一点豪華主義のトリックだが、さすがにカーの話の膨らませ方は巧い。
「死の四方位」賭博でおけらになった観光客、その彼に密輸を持ち掛けた男が、雨の中で背後から刺殺される。しかし衆人環視の中、被害者に近づき得たものは四方位のどこにも存在しなかった。ご存知「銀色のカーテン」のドラマ版。見せ方、聞かせ方の勉強になりますのう。
「ヴァンパイアの塔」毒殺魔のメインプロットをそのまま、不可能犯罪抜きで脚色したドラマ。ラジオにしては、やや詰め込みすぎの感があり、鮮やかな逆転劇と感じるよりは、アンフェアと捉える人の方が多いような気がする。毒殺魔を読んでいる人しか読んではいけない話。
「悪魔の原稿」肝試し用の怪奇小説原稿に仕組まれた狂気の罠を描くメタ恐怖ドラマ。ビアスの原作を脚色したものらしいが、会話の切れの良さにカーらしさが覗く。
「白虎の通路」英仏を股にかける<切り裂き魔>の正体を追う駆け出し新聞記者のどたばた推理劇。ちゃんと伏線もはられているが、そんな事はどうでもよくなる爆笑譚。このノリの良さは「盲目の理髪師」級である。どうも、泥臭い、泥臭いといわれるカーのファースだけど、個人的には、じゃあ、洒落たユーモアって何よ?と問いただしたくなる。
「亡者の家」ムッソリーニ時代のイタリア。謎の妖婦の宿に誘い込まれた夫婦は、時空を超えた怨霊に遭遇する。時代物で、空間を転移させるという不可能犯罪で、きちんと妖婦も登場させるという、サービス精神の固まり。しかも論理的な解決と絶妙の伏線付きである。これは天才の一撃。凄い。
「刑事の休日」時間差でデパートに消えた窃盗犯とその情婦、二つの消失トリックをロマンスの味付けを施したクリスマス・ストーリーに仕立て上げた職人芸はさすがカーである。薄味ながらもやんややんやである。
「新カー問答」今もって日本で乱歩以降に書かれたカー論の中で最も傑出したものである。カーに淫した文章は、特にここ数年の復権の際にそこかしこで見受けるが、これほどに正しくかかつ熱くカーを分析してみせた論文は他にない。私からカーについての正面きった文章を書く意欲を奪った文章の片割れである。(もうひとつは言うまでもなくグリーンの評伝である。)ネタバレ満載なので、初心者に勧められないのがなんとも残念至極。
総論:やっぱりカーはいいなあ。ああ!カーの新作長篇が読みたいっ!!


2001年1月1日(月)

◆朝起きると21世紀だった。世紀の一瞬を、あっさり寝過ごしてしまう。ま、そんなものですか?
◆お正月の祝いを型通り済ませ朝酒。実家には自分宛の年賀状は来ないので、手持ち無沙汰の余り、何もないと判っている古本屋へゴウ!。正月の朝っぱらとあってさすがに人出が少なく、清々しい。が、案の定、釣果は0に等しい。
「ガイア・ギア」富野由悠季(角川スニーカー文庫)200円
d「青いホテル・豹の眼」ビアス&クレーン(英宝社)95円
ああ、21世紀のしょっぱなからダブリかよー。まあ、今まで裸本だったのでこれは良しとしましょう。してくれ。頼む。今年は、無駄なダブリ買いをしないことを目標にするのだ。だから実は一杯スルーしたのだ。くうう。
◆あとは、読書と昼寝で1日を過ごす。はあ、平和な正月だこと。

◆「ハイペリオン」Dシモンズ(早川書房)読了
21世紀の1冊目を何にしようかと、つらつら考えた挙句、この書にした。やはり21世紀はSF、それも大作で幕を開けるべきである、という信念に基き、堂々525頁2段組の雄編だ!文庫版にすれば、2分冊なので、二日分の読書録に引き伸ばせるのだが、愚直に1日1冊にこだわってみた。刊行当初から「これは凄いSFが出た」と評判だった作品。先日の文庫化直後の巷の評判が、これまた上々。
で、素朴な感想。
「読んでも、読んでも、終らねえ」
しかも
「読み終わっても、全然終ってねえーっ!!」
こんな話。

28世紀、人類の範土は銀河の隅々まで広がり、主要な文明圏・重要な戦略拠点は転移網によって結ばれていた。オールド・アースは失われて久しく、聖遷の後タウ・ケティに首都をおいた「連邦」。その文明を後ろから支えるAI群「テクノコア」、そして、かつて連邦と袂を別った宇宙移民「アウスター(放逐者)」。その3つの勢力の関心が、銀河辺境の星ハイペリオンに集まる。そこには、時空を超越した破壊神シュライクを信仰する者達の聖地「時間の墓標」があり、彼の地に向って幾多の巡礼たちは旅立ち、そして再び帰り来なかった。「時間の墓標」とは、抗エントロピー場に守られた空疎な人口建造物。だが、その抗エントロピー場が膨張を始め、シュライクの解放が迫っているという。おしりも、アウスターは「時間の墓標」を制圧せんとハイペリオンへの侵攻を開始、今、まさに連邦宇宙軍FORCEとの決戦の火蓋は切って落されようとしていた。その最中、「最後の」巡礼たちは、星からの脱出者の流れと逆行するように「聖地」を目指す。十字架の者であるカトリック司祭、最愛の女戦士を求めさ迷う伝説的軍人、血をもって贖われる未来の詩を綴る酔いどれ詩人、愛娘とともに時間との競争に臨むユダヤ人学者、詩人キーツの分身を背負う女探偵、見届ける事を自らに課したハイペリオンの元領事、そして、彼等を運んできた森霊修道会・聖樹船の船長。何かに駆り立てられ絶望的な巡礼行に臨む彼等の物語の結末とは?時間の墓標に巡礼たちが立つ時、謎が謎を再生産し、全ての未完の物語は永遠の果てに集う。
というわけで「未完」である。全ての謎は謎のまま、残される。どっひゃー!!ヒューゴ賞・ローカス賞というのは、こういう尻切れ蜻蛉の思わせぶりな作品にも与えられるのかと正直唖然としてしまった。まあ、6つのノヴェラを<時間の墓標>への巡礼行に挟み込んだ構成なので、夫々を独立した物語として楽しむ事は可能である。しかし!その各ノヴェラにおける真実の終章とても、これからなのである。この作品の日本刊行時から、対を成す続編「ハイペリオンの没落」までの6ヶ月間、読者はさぞや身悶えたことであろう。いやあ、よくぞ我慢した。6つのノヴェラで作者があらゆる「物語」の形式を再現しようとしていることは、酒井解説が指摘してしまっているので繰り返さないが、いずれも壮大な馬鹿話を圧倒的な物量でがぶり寄ってくる作者の力技には正直脱帽するのみ。個人的には6つのエピソードの中では、学者と娘の物語が一番痛い。最初のカトリック司祭のフィールドワーク譚もクライマックスの視覚効果が憎い。この二つは特に星野之宣指数が高いなあ。物語の冒頭現われる聖樹船のイメージこそがこの作品の印象を支配する。それはただ一言「絢爛」。これである。さあ、早目に「没落」を読まねば。

(今月買った本:2冊、今年買った本:2冊)


2000年1月2日(火)

◆母親が発作的に台所の模様替えを企む。人足たる息子がいる間にと、年明け早々、それも朝っぱらから家具大移動&大掃除。ううむ、これは昼ビールでも飲まなきゃやっとれまへんなあ。うい〜っ。
◆平日よりも働いた後に、遠方のブックオフチェックにでかける。まあ、さしたるものは何もない。
「船に消えた脱走犯」Cファーリー(偕成社Kノベルズ)100円
「マジック湖の幽霊」Cファーリー(偕成社Kノベルズ)100円
「ガイア・ギア2,3」富野由悠季(角川スニーカー文庫)各100円
「ハングオーバーTOKYO」都筑道夫(立風書房)100円
「鮎川哲也の論理」三國隆三(展望社:帯)950円
「異聞真田幸村」中田耕治(大陸文庫)250円
偕成社Kノベルズも、海外ものだとつい買ってしまう。今日の買い物は「姉妹探偵の事件簿」というシリーズらしい。原題が由緒正しいTCOTなので少しだけ期待しちゃうかな。ガイアギア、とりあえず自分用に捕獲を続行。なるほど5巻は見ませんな。鮎哲本はマニアから総スカンを食っていた研究本。定価で買う気はサラサラなかった本。ただ、こういうキワ物って、油断していると後から苦労するんだよなあ。私の場合「金田一さん、あなたの推理は間違いだらけ」なんかがそれに当たる。都筑道夫は文庫バージョンで所持しているが元版がこの値段なら買っちゃうよね。

◆「ハングオーバーTOKYO」都筑道夫(立風書房)読了
この日記を始めた御利益というか、一昨年は横溝正史の戦前作、昨年はクロフツと永年の積読を片付けることができた。で、今年は都筑道夫でいってみるかと、早速買い込んだ本を読んでみる。都筑道夫は初期長篇、本格推理、捕物帳、ホラー、伝奇は比較的真面目によんでいるが、ハードボイルド作品やポルノがほぼ全滅。考えてみれば、日本のハードボイルド史においても「都筑道夫」の存在は極めて重要な筈であり、他で評価されているからそれでいいでしょう?と済ませていては失礼なのではなかろうか?たとえば、もし都筑道夫がクォート・ギャロンのシリーズしか残さなければ、日本語版EQMM初代編集長の唯一の作品として、日本ハードボイルド史の1頁を飾ることになったのではなかろうか?まこと器用すぎるというのも考え物である。さて21世紀2冊目の作品の主人公は、刑事くずれの冴えない私立探偵・久米五郎。妻子を交通事故で亡くし、酒に溺れ警察を退職。その後、禁酒して立ち直り、甥の弁護士から仕事を回してもらい口に糊する生活。典型的なダメ中年のオプである。作者が年を食ってくるにつけ、威勢のいい私立探偵モノが書きにくくなってくるのか、近年のハードボイルド探偵である西園寺剛とは毛色の変った等身大探偵を登場させた。ただ、どうもダメの色づけに戸惑っている感があって、魅力的なヒーロー足り得てはいない。6編収録。以下ミニコメ。
「風に揺れるぶらんこ」成功者の弟が敗残者の兄の想い人を奪って数十年。凄惨な悪意の罠は死を招き寄せる。並み以下の私立探偵が最後に意地を見せるが、裁きが真犯人に及ぶか否かは定かではない。色々な意味で爽快感に欠ける「後期クイーン的」久米五郎登場作。
「鳴らない風鈴」翌日からボディガードを頼んだ青年が、別れた直後に射殺される。果して記憶力抜群の小説家志望の好男子は何故襲われたのか?推理から幕切れに至る手際が鮮やか。しかし、格闘も命からがらで、見ていて辛いぞ。どんな落ちでもつけてみせますという作者の余裕とえらい違いである。
「巌窟王と馬の脚」自分が人殺しかどうかを確認して欲しいという奇妙な依頼を持ち込まれた私。依頼人は芸能界に返り咲こうとしている元スター男優。しかし、死体は1日遅れで現われた。奇抜な時間差シチュエーションを活かすためのキャラの布陣が完璧である。ただプロットへの依存度が高く、それを消化するので精一杯という印象の一編。題名の付け方は抜群に巧い。いやまあ、ただの飲み屋の名前なんですけどね。
「二日酔広場」富裕にして貞淑だった医師夫人が息子と同年輩の高校生の付き合いに溺れ、ついには死体で発見される。彼女を尾行していた私は、その業の深さに戦慄する、てな話。語り口は巧く、女性助手である未散(みちる)とのやりとりもほのぼのしているが、推理小説としては肩透かしの部類。「二日酔広場」などの符丁に頼りすぎた作品。
「濡れた蜘蛛の巣」自ら娘の居場所を探す父の依頼を受け、暴走族に接触する私。しかし、娘の彼氏と目された族のリーダーは殺され、娘の姿は既になかった。若者の生態が相当生臭く描かれているのだが、時代的には作品より10年前のイメージなのが都筑道夫の限界か?瑣末な遺留品を巡る考察はなかなか推理の妙を楽しめるが、とことん風俗に拘った作品という印象。娘を慕う人物の書き方なんぞ、更に10年前のイメージなんだよなあ。
「落葉の杯」家出した娘の在所確認とその真意を知りたいという依頼を昔御縄にした人間から受けた私。だが、その心当たりの家に主の姿はなく、辺りには血痕が残されていた。そしてやがて事件は、二つの死によって幕を閉じる。プロットが「濡れた蜘蛛の巣」にそっくりな話。しかし、主題はなさぬ仲の葛藤と情愛、そして血の呪いである。同じプロットで違う話に仕立て上げるという名人芸をご堪能あれ。このまま時代小説に置換可能な一編である。
総論:作者の小説巧者ぶり、百戦錬磨ぶりを堪能する作品集であり、久米五郎というキャラクターを楽しむ連作では決してない。後者を期待してかかると相当に失望する。都筑中毒者が読んでおけばいい作品集であろう。

(今月買った本:9冊、今年買った本:9冊)


2001年1月3日(水)

◆溜りに溜まった日記をつけたり、帰りの荷物を仕立てたりの1日。さすがにこの期に及んで荷物を増やす気にはなれず、購入本0冊。

◆「悔恨の日」Cデクスター(ポケミス)読了
モース主任警部最後の事件。思えば「ウッドストック行き最終バス」や「キドリントンから消えた娘」という衝撃的な推理の迷宮を堪能してから既に20年以上の歳月が流れていたのだ。13長篇と若干の短編という数は名探偵として決して少ない方ではない。なにせあのクリスティのミス・マープルでさえ長篇は12しかないのだ(という事をチェックしていたら、森事典のミスプリを一つ発見してしまった。「予告殺人」にポアロ・マークの♯がついてますぜ、森さん>私信)。再評価著しいウィムジイ卿でも11長篇。勿論、黄金期の名探偵には、30長篇を越える者も少なくないが、60年代以降となると、ティベット警部こそ19長篇だが、ドーヴァー警部で10長篇、ダルグリッシュ警視にしたところで今のところまだ11長篇である。英国でのテレビ人気を差っ引いてもモースは充分に名探偵の殿堂入りする資格があるのである。その推理の過程で何度も仮説と破綻を繰り返すものだから、名探偵らしからぬ印象が付き纏うモースではあるが、その登場作にみる逆転に次ぐ逆転の妙味は、新しい名探偵の在り方を示したものとしていつまでも新たな読者を生み出していくことであろう。前作でモース引退を宣言したものの、読者からの圧倒的な支持を受け再びモースを登場させたデクスターであったが、この13番目の長篇で、遂に彼に決定的な最後の挨拶を送らせたのであった。こんな話。
1年前、世間を騒がせたものの、迷宮入りしていた看護婦猟奇殺人事件。だが、所轄のストレンジ警視宛に事件の手掛りを匂わせる二度の密告電話があったことから、事件は再び動き出す。再捜査を命じられたものの、最初から事件に乗り気でないモースの態度に不審を抱くルイス部長刑事。しかし密告の主が示唆した泥棒が出所後、彼等の前から消え、更に事件関係者の死体が思わぬところから発見されるに至り、「冷めた事件」は一転して「熱々の事件」に取って代わる。糖尿病の合併症によって半病人のモースは、相変わらずの不摂生を重ねながら、淫乱症の看護婦を取り巻く複雑に入り組んだ人間の迷宮に挑む。果してそれは「モース自身の事件」だったのであろうか?暗転とカーテン・フォールの間に愚か者共への裁きは下る。しかし、カーテンコールには、最早「あの男」は現われない。永遠に。
仮説と破綻の連続という構成はいつもながらのデクスター節である。しかしながら、全編を覆う陰鬱なムードといつになく精彩を欠くモースの行動や言動に滅びの光をが見える作品。モースの冴えない分をカヴァーしようとするルイスの推理はなかなか頼もしいものの、読者は何もそれを期待してはいない。最後の最後に舞台裏で開かされる「真相」には救いがあるが、それだけに一層やるせなさが募る。我々は誰一人勝利者のいない世界に住んでいるのであろうか?「再びモースの日」は訪れないのか?さらば、名探偵。さらば、モース主任警部。キャラ読みなファンはハンカチのご準備を。

(今月買った本:9冊、今年買った本:9冊)


2001年1月4日(木)

◆冬休み最終日。朝一番のひかりで帰京。年賀状をチェックして、芳林文庫への注文をしたためFAXする。さあこれが最初で最後の芳林文庫でのお買い物になるのであろうか?
◆遅めの昼食をとりながら、正月にエアチェックした「ケイゾク/映画」を視聴。テレビを特別編まで含めて全部見た人へのボーナストラックという感じの造り。スタイリッシュな映像はテレビ版そのままだが、やはりフィルム撮影だとかなり印象が変るものである。孤島に招待される15年前の沈没事件の生き残りたち。その内の一人の娘は身の危険を感じて捜査二係に出馬を要請する。かくしてやる気満々の新二係長柴田純とくじ運の悪い間山はあらゆるものが消失する冥界の入り口があるという小笠原諸島の孤島へと向う。毒殺トリックに転落トリック、消える部屋や消える島など大掛かりなトリックをてんこ盛りにした贅沢バージョン。まあ、どこかで見たことある話ばかりなのもテレビ版同様なのではあるが、これだけ手際よく映像化してくれれば良しとしよう。しかし、メインの事件が一応の解決を見てからが冗長に過ぎる。エヴァンゲリオン最終回はだしの理屈に合わない禅問答の応酬に辟易とする事必至。まさしく「なんじゃ、こりゃ!?」ものの映画であった。
◆久々のネット巡回。皆さんの年頭の抱負に触れて、自分も頑張られば、と決意を 新たにする一方、茗荷丸さんに私的2000年ベストを先にやられてしまって いたのにはショック。しかも、結構似た本、選んでるんだよなあ。とほほ。

◆「赤い涙」東野司(早川JA文庫)読了
電脳ユーモアSF「ミルキーピア物語」シリーズで知られる作者の第1短編集。「ミルキーピア物語」は、どこの古本屋でも転がっているのだが、このノンシリーズの作品集は何故か本当に見かけない。昨年末、ようやくゲットできたので、「2001年・日本SF再発見の旅」の口開けに手にとってみた。そもそも私がSFから遠ざかっていた理由の一つにサイバーパンクの隆盛があった。以来、ヴァーリーとカードがありゃいいやという集め方、読み方しかできなくなっていたのだ。で、日本にもしっかりサイバーな作家が登場していた模様で、その代表格がさしずめこの東野司。勿論、<なんでも書ける山田正紀>あたりの「サイバーパンク」にはお付き合いしていたのだが、果して日本サイバーSFの実力や如何に、という興味をもって臨んだ次第。で、結論から申せば、少々肩透かし。「漫画とSFしか読んだ事のないコンピュータ専門家が書いた習作」というのが私の第一印象である。なるほどコンピュータのテクニカルタームは溢れている。が、しかし、それがドラマ部分の既視感を補って余りあるかと問われれば、残念ながら答えは「No」である。入手困難になっているのもむべなるかな、という1冊であった。以下、ミニコメ。
「バッド・チューニング」彼女に裏切られ、米軍流れの新型ドラッグのモルモットにされてしまう若者。切れた男の脳内で聴覚と視覚は混線し、サイケデリックな色の洪水の中で、滅びに向ってシャウトする狂気!「もっとデータを!」そして銃声…てな話。河野典生あたりの流れだが、描写力に欠ける。形を真似てみても70年代の虚無や渇きを再現するには至っていないというところか。これと比べれば改めて牧野修のMOUSEの凄さが判る。
「任務」今更ながらの「残酷な方程式」。突発事故に遭遇した宇宙船で、あろうことか密航者までが発見されてしまう。彼女を救うために船長が下した決断とは?これは上々。手垢のついたテーマを見事に一ひねりしてみせた。ラストまでショックを二枚腰にした星野之宣級の佳作。
「キャットファイト」強化山猫とその調教師に迫る卑しき欲望の罠。電子の頚木を破る時、殺戮のエンドレスゲームは開幕する。えー、「超犬リープ」か「超人ロック」かな?復讐部分にはそれなりの爽快感があるが、救われない話だよなあ。
「こんにちは赤ちゃん」あーぱーなカップルが賞品で獲得したクローン赤ん坊を巡って繰り広げる子育てごっこ顛末記。凡庸なアイデアを軽い笑いに持っていこうとしているのだが、切れ味の悪いシック・ジョークにしか思えない。
「門ひらくときに」ゲームデータの横流しの挙句、サイボーグ腕をボコにされたチンピラが偶然手に入れた「手」の物語。アイデア自体はなかなかいけるのだが、プロットとして消化しきれていない。相当の力作であることは認めつつも、読むのが苦痛なサイバー「明日に向って撃て」。
「赤い涙」精神療法に用いられるプレロイドの原因不明の不調。その謎に迫り過ぎた男の見た地獄絵図を描いた佳作。まあ「禁断の惑星」なんだけど、短く纏めた分、評価点が高い。