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2000年12月28日(木)

◆<夜郎自大>企画へのご投票ありがとうございました。Moriwakiさんから、kawaguchiさんまで掲示板とメールにて計29名の皆様にご賛同頂きました(いわいさんは、棄権だったのですね。済みません、日記でチョンボしてます)。自分の感想文に投票してもらうという「俺様」企画に、よくぞ、これだけの皆様から回答頂けたものだと非常に舞い上がっております。ご回答頂いた皆様には、ささやかながら投票の先着順にダブリ本の告知をさせて頂きますので、気長にお待ちください。複数投票の扱いにつき迷いましたが、自分なりの集計法で傾斜をつけて集計しました。とりあえず速報ベースですが、ご回答の中での
第1位は「拷問」、
第2位は「ダック・コール」と「猫の地球儀」、
第4位は「ノスタルギガンテス」「光車よ、まわれ!」「ゆっくりと南へ」の3作
でした。ものの見事に票が割れましたが、すべてメールでの受付にすれば、多少異なった結果になったかもしれません。内訳も、ご自分が実際に読んで好きな本に投票される方と「これが読みたいけど読めないんだあ!」という作品に投票される方の両極端で、名作と幻の名作が競うという意味では、これまで世の中になかった企画なのではなかったでしょうか?(>当たり前だ)それ自体が、「選評」としてスリリングな長文をお寄せいただいた方も多く、主宰者として感涙にむせんでおります。よよよよ。また普段はROMな方からも投票を頂き、ああ、読んでもらっていたんだなあと、ここでも喜悦状態。主宰者の自己満足ここに極まれりといった状況であります。この結果は、新春発表させて頂きます2000年の猟鉄ベストに反映させて頂きます。本当にありがとうございました。
なお、特にお願いの対象ではなかったのですが日記の方の人気第1位はダントツで
「古本殺人」でありました。女王様、強し!!はっきりいって「拷問」を越えてます。
◆御用納め。昨日、20世紀最後の仕事と思って投げた球が投げ返されてしまった。とほほ、21世紀まで持ち越しだよお。今日投げてやればよかったかなあ。
◆夜は飲み会。ブックオフを一軒だけチェック。
d「ハリスおばさんモスクワへ行く」Pガリコ(講談社文庫)100円
d「死がかよう小道」Dキャネル(教養文庫ミステリボックス)100円
「だれがロビンソン一家を殺したか?」チャスティン&アドラー(早川書房:帯)100円
「疑わしきは…」Eゴドフリー(日本評論社:帯)100円
帯に「エドガー・アラン・ポー特別賞受賞」とあったので手に取った「疑わしきは…」はノンフィクションの模様。81年の作品が、なぜか95年にマイナーな出版社から出た背景がミステリーですのう。こんなもん出てたんも知らなかったわい。今年の締めとしては、情けないけど、まあ1年間良く買いました。ふう。お疲れ様。

◆あらら、中村忠司さんが、サイトの無期限更新停止を宣言されてる。巡回ルートの一つだっただけに残念至極。やはり、自分の時間をどこまで持てるのかが、こういったホームページの死命を決するようで、何かと考えさせられる。ともあれ、長い間楽しませて頂きありがとうございました。とりあえず、当方からのリンクは「無期限停止」の旨を添えて残しておきます。落ち着かれた後は、再び復活されんことを祈念致しております。

◆「異人館周辺」陳舜臣(文春文庫)読了
陳舜臣こそ乱歩賞作家という肩書きを超えて大作家になった最初の人ではなかろうか。直木賞と日本推理作家協会賞も掻っ攫った「三冠王」の称号は伊達ではない。しかも、陶展文といった日本ミステリ史上に輝く名探偵を創造しているところが偉い。乱歩賞受賞作「枯草の根」は歴代乱歩賞の人気投票を行えばおそらくベスト3入賞は堅い名作であるし、お約束の館ものから、不可能犯罪もの、通俗的な短編、歴史推理にいたるまで、数多ある推理小説のジャンルのどこにも必ず陳舜臣はいる。歴史小説界に揺るぎ無い地位を占め、今なお長大な話題作を世に送りつづけている陳舜臣こそ、まさに「大人(たいじん)」の名に相応しい作家である。個人的には青春を送った街である神戸や阪神地域が舞台になるのも嬉しい。濃口のミステリに倦んだ時に、ふと陳舜臣のミステリに帰ってくると、そこには懐かしくも優しい世界が広がっている。確かに、華僑ネタや戦争の爪痕に帰結するといういささかワン・パターンなところもないではない。しかし、なればこそ、安心してこの人の作品を手にとれるのだ。この作品集はミステリ作家・陳舜臣としては最後期のもの。枯淡の境地というべきか、ミステリとして大上段に振りかぶったものは1作もない。しかし、歴史に裏打ちされた日常の謎がはらりと解ける快感は、ミステリ・プロパー以外の読者にも爽やかな感動を約束してくれる。それで良いではないかキルヒアイス、はいラインハルト様。以下ミニコメ。
「崖門心中」戦時中、余りにも美しい妻を持った夫から主人公の受けた筋の通らない「御礼」の意味が解き明かされる時、二枚腰の純愛の勝利が響き渡る。夫婦はこうありたい。人間はこうありたい。
「蟹の眼」かつて祖父の元で厄介になるたびに自作の蟹の絵を残していった自称画家。数十年の後、その画家に生き写しの男が現われ、占領下のシンガポールで起きた国宝級の絵画を巡る因果が語られる。普通の人々の「一世一代」の賭けが胸に染みる。
「秘閣の梅」釣り合わぬ縁談の末結ばれた夫は戦死。そんな未亡人の一番の「宝物」を求める彼女にゆかりの二人の男が探索行の果てにみた真実とは?どこまでも優しい家族の情景に微笑を禁じ得ない。ずるいぞ、陳舜臣。
「金に換えず」雪の夜、「銀の匙」の果て、一人の富裕な老人が逝く。しかしその死の現場から消えたコーヒーカップの語る物語は余りにも苦い。最もミステリ色の濃い一編。題名に込められた思いが痛い。
「夾竹桃の咲く家」外人居留地の名家で演出された裏切りの構図。そして幾星霜、怨みと謀の呪が、戦死した一人の日本青年の言葉によって溶かされる。「思いのこす事はない」。ああ、この頃の日本人って偉いんだよなあ。
「地天泰」易者の子は易者。表に見える家族の肖像が、鮮やかに逆転し、時を越えて因縁は巡る。「運命論者の強さ」を感じさせる一編。
「梅花拳」気のいい元娼婦と元ボディーガードの老カップル。策に溺れた富豪がその死とともに男に託したものとは。人間の欲をとことん笑い飛ばす梅花の拳を見よ。やや、出来過ぎ。でも、読後感は爽快。
「パンディット」ラマ教信者のインド人の思い出が、戦時下の「活動家」の記憶と交錯するとき、すべての謎は数珠とともに解かれる。この作者にのみ許された歴史推理。勉強になります。
「異人館周辺」一介の職人の家系にも関わらず、二代続けて英国留学を果たした父子に秘められた謎とは?その末裔から推理作家の私にだけ打ち明けられた奇譚は、今なお恐怖の根を張っていた。この書を読んで、もう一度、異人館周辺を散策してみたくなる、そんな因縁話。

◆以上をもちまして「猟奇の鉄人」今世紀最後の更新とさせて頂きます。1年間本当に本当にありがとうございました。来る2001年も皆さんにとって素晴らしい年でありますように。この次は1月4日、「新世紀古本血風録」(よしださん、茗荷丸さん、ご推察の通り、この題名しかないでしょう)でお目にかかりましょう!!
では、皆さん、よいお年を!!


◆まあ、こんなところ反転してみる人はいないでしょうが、最後に「さよなら20世紀冗談企画」を一発。
ネットミステリ界でその名を知らない人はいないという「えらりーあな」さんが、今年ミステリを何冊読んだかを、各掲示板の自己申告を元にチェックして調べてみました。

なんと!!当社調べによれば、現在呼んでいる「プレーグコートの殺人」で20冊目ではないですか。おお。なんか凄いぞ。さよなら20世紀だぞ!
ちなみに内訳は、こんなところ。「プレーグコートの殺人」「サム・ホーソンの事件簿1」「曲がった蝶番」「鋼鉄の軍神」「錆色の女神」「青銅の翳り」「白銀の誓い」「ホームズの秘密ファイル」「ホームズのクロニクル」「ホームズのジャーナル」「ホームズのドキュメント」「見知らぬ顔」「パーフェクト・マッチ」「女彫刻家」「細工は流々」「苦い林檎酒」「失踪当時の服装は」「招かれざる者たちのビュッフェ」「双頭の悪魔」「人形はなぜ殺される」
結構いい趣味ですな。
◆今日、会社で聞いた小噺。
「諸君!『IT』の後には何がくるか、わかっているか?!」
「わかりませーーん、一体なんでしょう?」
「それは、ポスト・イットだああ」
おそまつさまでした。


2000年12月27日(水)

◆おおお、続々と「企画」へのお答えが返ってきている(感涙)。ありがとうございますありがとうございます。1年間やってきてよかったなあ、と喜びを噛み締めるkashibaでありました。普段はROMのみの学校のクラブの後輩からもこっそり投票があったりしてちょっと浮かれ気味であります。
◆昨日の反動で古本モードに入れず。今日は新刊でいくのだ、と手前駅で降りて安田ママさんの勤め先へ。お目当ては、ママさんが世紀末冗談企画で仕入れた久保書店のQTブックスとSFノベルズの在庫全部。SFノベルズはかなり最近まで神保町の三省堂に並んでいたのだが、さすがにQTブックスが新刊書店に並んでいるところなんぞ、記憶にない。20世紀最後の情景を拝みにSF・推理コーナーへいくとあるある、ありましたあ!棚一段分が久保書店に占拠されている。まさに、異空間。しかもSFノベルズはともかく、QTブックスの方は安い!これぞタイムスリップ感覚。加えて、どれも驚嘆の美本揃い。一応20冊程度は所持しているQTブックスではあるがカバーの光沢が全然違う。新刊書が綺麗なのは当たり前だが、それが昭和40年代の本となると、やはり「奇蹟」としか言い様がない。bk1で頼めばいいようなものだが、ここは、企画に賛同して2冊ばかり買い込む。所持金の限り買ってもよかったのだが、少しは他の人にもこの並びの美しさを堪能してもらおうと控えめな私。まあ、自分が何を持っているか分かってないというのも理由の一つではあったのだが。
「宇宙の海賊島」ABチャンドラー(久保書店QTブックス)580円
「滅びの星」Eハミルトン(久保書店SFノベルズ)980円
後は、SFMとHMMの最新刊を買って引き上げ。ああ、今日は私、サラサラの新刊者だわ。昭和49年の新刊だけどさあ。ところで、久保書店の在庫をウエッブ上で確認にいって今更ながら驚いたんだけど、久保書店ってあの「レモン・ピープル」の久保書店だったんですのう。そうか、そうだったのかー。


◆「蛇」Mスピレーン(ポケミス)読了
年賀状用に画像を取り込んだためパソコン近辺に積まれていたこの本が本日の課題図書。スピレーンといえば、刑事コロンボの「第三の終章」で、被害者役を嬉々として務めていたのが印象的で、個人的には「気のいいおじさん」というイメージなのだが、通常のオールドマニアにとっては、クールカットで拳銃なんぞを弄んでいる著者近影こそがスピレーンなんだろうなあ。上記のコロンボ作品では、セックスと暴力描写満載のハードボイルドから足を洗って、重厚な戦争小説に転向する作家役であったのだが、御本人はその後も飄々とマイク・ハマーものを出しているところがまたなんともいいじゃない。ただ、ハマーとともにアメリカの不・良心の最前線を突っ走ってきたスピレーンにも迷いの時期があったようで、この前作にあたる「ガールハンター」では秘書のヴェルダを失ない、アル中に身を持ち崩したダメなハマーが描かれている(らしい)。そしてハマーの帰還とヴェルダとの再会を描いたのがこの作品。馴染みの小悪党や警官から「7年前とは違う」「もう、あんたの時代じゃないよ」と言われ続けるハマーが可笑しい。こんな話。
ヴェルダとの再会に胸弾ませる俺マイク・ハマー。ところが折角の感動の再会に水を差す馬鹿が銃を持って現われる。馬鹿が二組いたお蔭で、奴等の隙をついて鉛玉をぶち込む事に成功するが、夜のお楽しみはお預けだ。どうやら奴等の狙いは、ヴェルダが偶然匿った少女スーらしい。スーは、今をときめく州知事候補者シム・トランスの養女。なんとスーは、養父シムがかつて彼女の母サリーを殺し、今度は自分の命を狙っているのだ、と告白する。前回の事件で、FBIに恩を売り結構な証明書を頂戴していた俺はスーを守るために一肌脱ぐ気になる。勿論ヴェルダも一肌脱ぐ気になっていて、くっそー、一体いつになったらウッフンできるんだ。閑話休題、調べを始めた俺たちは、どうやらこの事件の裏に、30年前の現金襲撃事件が絡んでいる事を掴む。サリーが死に際に残した「蛇」てえ言葉は、一体何のこった?最初の襲撃の死にぞこないは俺たちの命を狙っていやがるし、アル中のリハビリにはちょいとヘビーな事件だぜ、ベイビイ。
明らかにこの作品でもスピレーンの迷いを感じる。FBIのお墨付きを得て捜査するハマーは、水戸黄門や、松平長七郎文化の日本人ならともかく、アメリカ人からも受けいれられたのであろうか?妙に体制的で、女に不用意に優しいハマーの姿はどこか去勢された牡牛を感じさせる。また、何度となく窮地に追い込まれるのはいつもの通りなのだが、そのピンチからの脱出法がいただけない。殆ど神様を味方につけているとしか思えない工夫のないものなのだ。体制から愛され、神から愛され、ヴェルダからも愛されるハマーは果報者だが、著しく精彩を欠いている。これが60年代の迷いというものなのだろうか?あんたにゃ、もっとワルでいて欲しかったよ、ハマー。


2000年12月26日(火)

◆極悪にも、年休をとって古書展初日2連発に向う。はじめに川口そごうに行くか?新宿伊勢丹へ向うか?迷いに迷うが、より大勢に挨拶できそうなので新宿へ。新宿3丁目到着が9時40分。今回も店側の誘導なしの自由突撃パターンだが、最も階段に近い入り口に行列が自然発生していた。そしてその先頭に陣取っていた人こそ、ああ、女王さまである!!全くもって人の期待を裏切らないお方である。その横にはしっかり彩古さんもいらっしゃる。しかし、いつもは「黒い三連星」を形成しているもう一方(森さん)の姿はなく、「ははあ、川口に回ったな」と納得。早速、女王様に「何時に来たの?」と尋ねると「10分前」と一言。へ?10分間にこれだけの行列ができちゃったのか?と呆れていたら、それは勘違い。なんと「9時10分前」の意味だったらしい。ひいいー。寒風吹きすさぶ中、御苦労様でございますう。「あたしゃ、こんな寒いところで行列作んのやだもんね」と人だかりの少ない別の入り口に向うと、大鴎さんに出会う。どうやら、大鴎さんは夏もここからアタックを掛けた模様。おお、エスカレーターを駆け上がる訳ですか。ふむふむ。「いやあ、今回の光国屋の鮎哲は凄いですねえ」などと目録注文の話題で閑を潰していると、いざ開店時間!3,2,1、ダッシュ!!4番手でエスカレータを駆け上がっていくと、後ろから肩を叩かれドッキリ。ありゃまあ、フクさん。こんなところで。軽く会話を交わしながら4階、5階を突破。おお、これは階段に比べて全然ラクチンじゃん。たちまち6階に着くと、推理小説専門店のコーナーには、誰もいないではないか。ヤタッ!!1時間以上並んだ女王様よりも先に着いてしまったぞお。と、思っていたら、彩古さんが風のように現われ2,3冊抜いていく。うわーーっ、は、速い!!ようやく女王様が辿り着く頃には4、5冊掴んでいる。

「やられたー!」

出ました!女王様の決め台詞!!これで朝早くから運動をした甲斐があったというものである。なんて言ってる場合じゃなくて、自分も本を探さなくっちゃいけないんだけど、これが「ない」&「あっても高い」の二重苦状態。開始5分で早々と戦意喪失。「とほほ」と呟きながら、ジャンル外の専門書店の棚をゆるゆる流していく。結局、棚の方で拾ったのはこんなところ。

d「破壊裁判」高木彬光(東都ミステリ)500円
d「白と黒」横溝正史(東都ミステリ)500円
「別冊奇想天外11・SFアニメ大全集」(奇想天外社)1000円
「事件地図」佐川桓彦(浪速書房)3000円
「快傑ドラモンド」サッパー・乱歩訳(ポプラ社:裸本)3000円

さて、今度は込まないうちに抽選の方へ向う。ここでは、洒落でいれた一番当たって欲しくない高額本が当たってしまった他は狙い目が尽く落選。うへえ、調子悪ううう。一応こんなところ。
「見たのは誰だ」大下宇陀児(講談社・函)3500円
「緑の奇蹟」大下宇陀児(大都書房)18000円
「詐話師」佐川桓彦(浪速書房)3500円

棚と抽選で佐川本が2冊前進したのが、唯一の収獲らしい収獲か。はあ、元気出ないよう。手ぶらのやよいさんとT蔵書の宇陀児の仙花紙本を抱えて「まあボーナスも出た事だし」と自分を誤魔化しているフクさんに「んじゃ、川口いってくるわ」と言い残して新宿脱出。後ろから「よいお年を〜」と声がかかる。そうか、もう年の瀬だよなあ。年がら年中同じ事やってて、季節感ねえよなあ、などと考えつつ、新宿駅11時3分発の埼京線快速電車で赤羽へ。ここでなぜか京浜東北線のエアポケットに嵌まり赤羽発が11時25分。とほほ。まあ、森さんが通り過ぎた後だからぺんぺん草一本残ってないんだろうけどさあ。11時35分には川口そごうの会場到着。一見してガラガラ。新宿の喧騒がウソのようである。知り合いの姿は一つもない。まあ、落穂モードで参りますかと、のんびり見て回る。1冊100番台ポケミスの初版を拾って和物の棚をチェックしていると、再び大鴎さんにバッタリ。ありゃまあ、お互いマメですのう。「ところで抽選はどうでした?」と尋ねると「洒落で入れた本が当たったほかは、鮎哲は全部外れ」とのお言葉。「うーん、やはり人間、洒落で高額商品に札を入れてはいかんのだあ」と人生の真実に深く肯く二人であった。閑話休題、すいているのを幸い、しっかり下の棚まで見て回れたお蔭で、川口では1冊小マシなものを拾う。拾ったのはこんなところ。
d「シルマー家の遺産」Eアンブラー(ポケミス・初版)500円
d「マルタの鷹」Dハメット(ポケミス・初版)450円
「文明の仮面をはぐ」Lブラケット(元々社:裸本)300円
「おれは駆け出し投手・おやじ天下」ラードナー/デイ(筑摩書房)500円
「ニューヨークのフリックを知ってるかい」木村二郎(講談社)500円
「矢野徹・SFの翻訳」矢野徹(奇想天外社)500円
d「殺しがいっぱい」中田耕治編(白夜書房)500円
「テレビジョン・エイジ」昭和52年1、3、4、5月号(四季出版社)各500円

なんといっても白夜のハードボイルド・アンソロジーが嬉しい(ダブリだけどさあ)。テレビジョンエイジが500円で大量に出ていたのだが、とりあえずナポソロの小特集を連載していた頃のもののみ捕獲の対象にする。これもRBワンダーあたりだと4桁の値段がついちゃうんだもんなあ。500円なら涼しい、涼しい。まあ、私の探究レベルの低さもあるが、今回の古書展ダブル初日は、ゆとりと楽しさで川口そごうに軍配を上げてしまおう。
◆折角ここまで来たので、昼食後、川口の古本屋を2軒だけチェック。全然たいした物はない。名刺代わりに買ったのは以下の3点6冊。
「小説ネクロノミコン」朝松健(学研ホラーノベルズ:帯)500円
「ライオン・ハート」恩田陸(新潮社:帯)850円
d「ドーヴィルの花売り」Gシムノン(読売新聞社:帯)250円
d「老婦人クラブ」Gシムノン(読売新聞社:帯)250円
d「丸裸の男」Gシムノン(読売新聞社:帯)250円
d「O探偵事務所の恐喝」Gシムノン(読売新聞社:帯)250円

学研ホラーノベルズは、通番のある小さいサイズはこれで完集。恩田陸は本屋で見る前にブックオフで遭遇。帯もついていたので850円節約。シムノンの名探偵エミールの冒険が帯付き4冊揃いで1000円なら買いでしょう(だぶりだけどさあ)。
◆以上「20世紀最後の古書展」報告を終ります。きんじー・みるほーん。「空振りのS」より(うそ)

◆「レモン色の月」源氏鶏太(新潮文庫)読了

古書展決戦につき軽めの文庫を持って出る。どこからでも読めて、どこでもやめられるものを、と思ってのことである。しかし、本当はそういう本に限って、一旦読み始めたら、一つ、もう一つとするする読み終わってしまうものなのだ。それこそが「面白い短編小説」というものである。プロの仕事というものである。私にとっては星新一がその典型であるのだが、この源氏鶏太も凄い。ところがこの書の後書きに、その源氏鶏太ですら、自分の死後は自作など顧みられる事がなくなるのではないかと怖れていたというくだりがあって、ますます感心する。確かに時代の求める快男児は小説ではなくマンガの世界に移行している。今の日本で、サラリーマン金太郎や部長島耕作の読者と源氏鶏太の読者のどちらが多いかと問われれば、これはもう文句無しにマンガの方であろう。しかし、それは源氏鶏太の敗北ではなく、小説というメディア自体の敗北なのであろう。次々と快男児の活躍する勧善懲悪サラリーマン小説を送り続けてきた大作家が、自作に倦んで怪談という新分野に手を染めた経過そのものが、一つのドラマである。異形系のモダンホラーが隆盛期にある今こそ、この作者の描く穏やかな怪談はもっと共感をもって読まれてよいように思う。そこには、輸入品である吸血鬼も狼男もフランケンシュタインの怪物もいない、ただ、身を焦がすような情念と怨念故に迷う市井の日本人の姿があるのだ。以下、ミニコメ。
「眼」隣室で心中事件が起きたために引っ越した男。ある日、彼は「視線」を感じるようになる。そして、何かに魅入られたように同僚の女性を自室に誘う。繰り返される情死と憑依のモチーフ。終ってみればいつもの復讐譚なのであるが読まされる。
「レモン色の月」一度だけの過ち。最初にして最後の絶頂。死の床にある穏やかな老夫人の情念が、憎くも愛しい男を何十年の時を越えて絡め取る。苦悶と歓喜、現世と冥界の境界線上にレモン色の月は昇る。女の怖さが身に沁みる。
「百人が見ていた」会社のOB会で起きた椿事。しかし、それは収賄を拒否したが故に左遷され、不遇を囲った男の最期の復讐であった。宴席に放たれた呪は暗いバーの扉を開く。なるほど勧善懲悪だ。しかしどちらも死んでいる。
「十日間待て」手形詐欺にあい自殺を決意した男を引き止めるモノの正体とは?とぼけた展開に喝采を送っていると、ぱたんと悪意の蓋が閉まる。完成の極み。
「四十九日忌まで」前回の源氏鶏太の感想でそれと知らず書いた「自分が死んだ事に気づかず」婚約までしてまう男の物語。一体どうなるのだ?という興味は折り目正しい怪談のオチで納得させられる。
「ロビイに来た客」出世のために友人を蹴落として、更にはその妻まで寝取った男が社長就任披露の夜にであった、二人の男女。それぞれに、相手は既に死んだと告げる友人とその妻。卑しい欲望が冥界の裁きに叩き潰される瞬間の心地よさ。映像化に適した作品。ラストシーンの静かな美しさがなんとも。
「鏡のある酒場」取り壊しの決まったビルの地下2階にあるバー。ある常連客が樹海で死体となって発見される。だが、その店に魅入られたのは彼だけでなかった。展開部の落語的な軽さと、ラストの穏やかにして強烈なツイストの妙が凄い。
「手鏡」自殺した姉が枕元に現われバッグに何かを忍ばせる。遺骨を故郷に運ぶ妹が偶然出会った男との一夜に見た鏡像世界の怨霊を描く。この世のルールの通じない怨霊の身勝手さが、単なる勧善懲悪復讐譚で終らせてくれない。この主人公はあまりに哀れだよう。
「末期に見た夢」会社で常にライヴァルだった静かな男が死の床で見る夢。社長に上り詰めながら飽くことなき渇望と猜疑に苛まれた主人公には、それすら許せない。そして、悪意の毒はそのまま自分に戻ってくる。「女ですもの」という一言が怖い。


2000年12月25日(月)

◆SFマガジンとミステリマガジンを立ち読みでパラパラ。SFマガジンの表紙絵が鶴謙に戻っていたので嬉しい。でもこの構図って、SFアドベンチャーでしょっちゅう生頼さんのやってた工夫のない構図っすね。いや、まあ、鶴謙の絵でやられるとそれはそれで結構なのではあるが。それしても、SFM、2月号からこの分厚さは何?来月号は、HMMも年度末号なので多少は分厚くなるだろうけど、SFMは「さらに倍、ドン」って感じだろうなあ。2000円越えちゃうだろうなあ。いっそ2001円にせんか?
◆一駅だけ定点観測。惰性のような買い方。
「スプラッシュ」佐山透(講談社X文庫)100円
「アガサ 愛の失踪事件」Cタイナン(サンリオ)300円
d「泰平ヨンの回想」Sレム(早川SF文庫)150円
「漱石事件簿」古山寛・ほんまりう(新潮社)500円
漫画が一番の収獲かも。やけに凝った造本である。

◆「更新されてますリンク」で、ぶこうさんが珍しく真っ昼間から更新しているなあ、と思って見に行くと、なんと!閉鎖のお知らせであった。古本買いの初期症状が出ている日記は御贔屓だっただけに残念。とりあえず、3年間お疲れ様でした。見事な引き際でした。一方、無謀松さんがサイトを仮オープン。とりあえず叢書紹介と日記と掲示板が営業中。日記は、自分の日記を読んでるような、本買い日記。何はともあれ、ホームページは更新が命。今後のご発展を祈念いたします。
◆ぼちぼちと積録処理していた「ショカツ」、11話と最終話を視聴。まずは典型的な日本の刑事ドラマであった。延々、引っ張ってきた伏線が最終話で効果的に機能しているところはさすが河野圭太演出。ちと甘すぎるようにも感じたが、まあ、松本清張じゃないんだし。警察のセットは丁寧に作られていて、考証もしっかりしていたので、推理作家や漫画家の参考にはなるかも。ところで、最近の警察のポスターで一番わらっちゃったのが「この街に銃はいらない」って奴。なんと、このコピーに渡哲也がどーーんとバストショットで写ってるんですよ。「大門軍団」に云われたかねえぞ!

◆「騙し絵の檻」Jマゴーン(創元推理文庫)読了
あちこちで話題の英国本格推理の新刊。あの森英俊氏が「事典」と帯で煽り、新本格スクールきっての論客・法月綸太郎が入魂の解説で誉めちぎり、翻訳は一連のフェラーズ作品で力量をみせた中村女史。そして作者が、英国本格の正嫡マゴーン。これで面白くなければ「うそ」である。邦題がつくまでの経過を、ウエッブ上のかつろうさんの掲示板や中村女史の日記でリアルタイムに見てきた者としては、ここは節を曲げてその月の新作を本屋で買い、ブックオフに落ちないうちに読む事にした。こんな話。
男が帰ってくる。かつて情痴の縺れで幼馴染アリソンと私立探偵を殺害した罪に問われ、16年の刑期を勤め上げた男、ビル。しかしそれは冤罪であった。真犯人を探し出し彼自身の裁きを与えるため、静かなる殺意を秘め、ゆかりのOA機器メーカーの役員会に乗り込むビル。役員会の面々は、アリソンの寝取られ夫である現会長、アメリカから来た野心家、創業者一族であるビルの従姉妹、最年少記録を塗り替えてきたかつての天才青年、獄中のビルを終始励ましつづけた別れた妻。突然の闖入に困惑を隠せない彼等に向ってビルは、真犯人捜しの「協力」を依頼する。それが1ヶ月にわたる復讐推理行の幕開きであった。そして元女性新聞記者ジャンのお節介な協力を得ながらビルの探索は続く。カットバックされる忌まわしい陥穽の記憶の狭間でビルが辿り着いた驚愕の結末とは?演繹的推理と消去法の果てにロジックは華麗に舞う。
やーらーれーたー。なるほど、これは評判通りの「推理の化け物」である。複雑な人間関係、錯綜する複数の事件、それが一本の補助線で見事に解体されていく快感は、真の本格推理にのみ許されたものである。作者は過去の事件を小出しに挿入することで、巧みに騙りの迷宮に読者を誘い込む。一見ハードボイルドな設定でリーダビリティーを醸しながら、「皆を集めてさてと云い」なクライマックスまで読者の鼻面を掴んで引き摺り回す力技に感服。騙されつつも多幸症に嵌まる佳作である。すべての推理小説ファンにお勧めします。
おまけで、あれこれ邦題づけごっこ。泡坂妻夫なら「馬遁人遁」、刑事コロンボなら「殺しの再会」、クリスティの名作を意識して「五頭の隠し馬」とか。うーん、でもこの邦題はナイスです。ここでも脱帽だあ!


2000年12月24日(日)

◆一日がかりで年賀状書き。図案は、蛇に因んだミステリ&SFの表紙絵を並べただけなのだが、本を取り出すのに一苦労。先週の来客用に整えた筈の本棚周辺が乱れる事、乱れる事。宛名を手書にこだわる関係で、気がつくと平日よりも働いていたような。とほほ。でも、珍しく「年賀状は25日までに」という煽りの期日以前に投函できてハッピーである。購入本0冊。ついでに、よねざさんとKaluさんに送本完了。今世紀の宿題は、これであとは「ダブリ本リスト」作成かあ。ふう。
◆芳林文庫の目録が届く。初めて送ってもらえたと思ったら当分休刊ですと。2年前なら「とても手がでない」と思われる値段が居並ぶが、文生堂あたりの価格に慣らされてしまうと、昔ほどには、のけぞる角度は浅い。いかんいかん。まあ、でも幾つか注文しちゃうんだろうなあ。
◆<夜郎自大>企画。MZTさん、いわいさん、ご参加感謝です。ところで「やろうじだい」を変換すると「野郎時代」とか出て妙に受けてしまった。「野生時代」をぱくったホモ雑誌みたいだよ〜。「創刊特集、三島由紀夫!」って感じ〜。

◆「真赤な子犬」日影丈吉(徳間文庫)読了
実はこの作者も殆ど読めていない。「幻想短編の人」という刷り込み著しく、どこかブンガクしている感じの文体が肌に合わないのである。「せめて、課題図書なりともクリスマスに因んだものを」と手にとってみたこの作品は、敢えて本格ミステリのコードに真っ正面から取り組んだ意欲作であり少しビックリした。こんな話。
五ツ木化学工業の社長を「組織の力学」で押し付けられた五ツ木守男は、業績不振による労働争議に倦み、追い討ちをかけるように婚約者であった天才歌手・三渡真規から突然の婚約解消を申し渡された事から、華麗なる自殺を決意する。ところが、彼が最後の晩餐に整えた毒掛けステーキを、意地汚くも盗み食いする愚か者がいた。その愚か者こそ、真規の父親にして、党人派政治家の三渡国務大臣!パニックに陥った守男は、助けを呼ぼうとするが、その彼を何者かが、4階の階段から突き落とす。三渡大臣の秘書・久筑は、守男の転落死で屋敷が混乱している中、4階で一人悶絶していた三渡大臣を隠密裏に運び出す。かくして、警察はクリスマスをこの不可解な「自殺事件」解決に費やす事となる。錯綜するプロットの間を、駆け回る真赤な子犬に秘められた謎とは?そして人間の果てしなき欲望は、雪降る聖夜に、別のノンセンスな殺人をプレゼントする。今なら死体にビールの小樽がついてお得です。
半倒叙スタイルで描かれた前半、一種の不可能犯罪が成立している事に気がつく頃には、雪密室に真正面からアプローチした第二の殺人が勃発する。不本意な形で「自殺」を完成させられる人生の皮肉にクスリと微笑むもよし、三渡父子の傍若無人な振る舞いに大笑いするもよし、探偵が多すぎるクライマックスに「一体全体、なんなんだあ?」と呆れるもよし、これぞ、エスプリ・ド・日影。普段は真面目な人が、大真面目に冗談を言ってみて、「わしだって冗談くらい言えるんじゃよ、わっはっは。どう?面白いでしょ?」といった感じが辛いといえば辛いかも。バカミスがお好きな方はお試しあれ。


2000年12月23日(土)

◆おおお、こしぬまさん、らじ丼、茗荷丸さん、SPOOKYさん、葉山さん、Kaluさんと続々アンケートの答が!!ありがとうございますありがとうございます。<夜郎自大>企画、引き続き募集中であります。土田さんも安田ママさんも数にめげず宜しくです。
◆「♪暮っれーの元気なお買い物」で1日終る。といっても古本ではない。私だってそういつもいつも本を買っている訳じゃないんだああ。
「あの、これとても大事なものなんですけど大丈夫でしょうか?」
「古本入ります」
「古本OK」
「古本でまーす」
「はい、古本」
「…どうして、古本って判るんだ?」
帰宅するとよねざさんから交換本到着。
d「八つ墓村」横溝正史(角川文庫・二刷・白背)交換
<今年もやっぱり本の人>
よねざさん、どうもです。状態確認致しましたので、こちらからも送本致します。>私信


◆「コイルズ」ゼラズニイ&セイバーヘイゲン(創元推理文庫)読了
ミステリの世界では、余り実現する事の少ない「名の通った者同士の合作」であるが(死後の補作を除けば、「エレヴェーター殺人事件」「人民対マローンとウイザース」ぐらいしか直ちには思い浮かばない)、SFの世界では結構ある。どちらかといえば、ハードSF系の作者とエンタテイメント系の作者という組み合わせがお互いを補完する意味で幸せな形なのかもしれない。しかしながら、ゼラズニイとセイバーヘーゲンというのは、同じ系統の「器用なエンタテイメント系」同士の組み合わせであり、さあ、どうなりますことやらと思ったら、これが滅法面白いではないか!ズバリ、これは字で読む「超人ロック」である。こんな話。
「貴方のご両親に会わせて」。恋人のコーラから、そう頼まれたぼく、ドナルト・ベルパトリがはるばる故郷の街に戻ってみると、そこには記憶と異なる町並みがあるばかり、勿論、ぼくの両親だっていやしない。ぼくの記憶は偽物だったのだ!!悶々とするぼくを襲う幻影。やがてぼくは少しずつ本物の記憶を取り戻し始める、コンピュータ世界に入り込んで自在にそれを操れるという特殊能力とともに!そして、コーラがぼくの前から姿を消した時、その背後にかつての仲間の影を感じたぼく。エネルギー・コングロマリットの尖兵となって、商売上の敵を葬ってきたエスパー・チーム。それがぼくの仲間だったのだ。チームへの復帰を猫なで声で囁く企業の会長。その誘いを突き返した時、ぼくとかつての同僚たちとの死力を尽くした超能力バトルの幕は切って落された!クリック、クリック、クリッカデリック。
「封印した筈の記憶が徐々に甦り、やがて男は愛しき者を救うために闘いの場に向う。」うーん、定番といえば、これほどに定番なプロットもないのだが、なればこそ、作者の技量が試される。困惑の序章、超能力バトルにカット・バックで過去のエピソードが挿入される展開部、そして圧倒的な戦力差を超能力一つで退け敵首魁に迫るクライマックス。うおお!!燃えるううう!!面白さ、ノン・リミット!!どこを切っても「超人ロック」!!まあ、ただの「字漫画」で終らせない隠し設定がないこともないのだが、これは、がーーーっと読んで、ああ、面白かった!!というのがお作法な作品であろう。名のある二人が、一人では今更恥かしくて書けない娯楽作を楽しみながら仕上げたという印象の作品。ヒマつぶしにはもってこい!


2000年12月22日(金)

◆という訳で、黒白さんから合同オフ募集時の「応援メッセージ」を転送してもらいました。どうもどうも。メッセージを頂いた皆さん、遅れ馳せながらありがとうございました。「もっと本を買おうよ」という方(ヒント:日本で一番古本を買う人)が約1名いらしゃいましたが、基本的には身体に無理がでない範囲で継続しなさい、って事なんでしょうか。ちょっと元気でました。
◆<夜郎自大>企画に一票投じて頂いたMoriwakiさんに、ロビーさん、ありがとうございます。メールでは0通ですので、今のところお二人だけでございます。自分で書いておいてなんなのですが、ほんに数ヶ月前の感激や興奮でも、時間の経過とともに薄れるものなんですねえ。「拷問」はともかく「ダック・コール」の感想の興奮ぶりは我ながらビビリました。御礼はご投票頂いた順にダブリ本の山から抜いてもらいますので、リスト作成まで今しばしのご猶予を。企画の方は1週間継続中でありますので、よろしくです。>ALL
◆会社と自宅の最寄りを定点観測。本日は、駅のワゴンで小当たり。特に自宅の手前駅のワゴンは本日最終日というのが痛恨。ちょっと古目のノベルズ本が100円均一で並んでおり、初日に気がついていれば、もっと楽しい思いができたかも。拾ったのはこんなところ。
d「密輸品」松本清張編(集英社)100円
「トラウマ」Dアルジェント(ABC出版)100円
「フランス妖精民話集」植田祐次編(教養文庫)100円
「フランス幻想民話集」植田祐次編(教養文庫)100円
「和時計の館の殺人」芦辺拓(光文社カッパNV)250円
「東京難民殺人ネット」村上政彦(ハルキNV)250円
「東京大壊滅」井口民樹(スポニチ出版)100円
「黒の捜査」佐賀潜(双葉新書)100円
「白鬼屋敷」高木彬光(桃源社ポピュラーブックス)100円
「完全犯罪」梶山季之(桃源社ポピュラーブックス)100円
d「行くぞ金剛拳」河崎洋(春陽文庫)200円
d「男は夢の中で死ね」小泉喜美子(光文社文庫)250円
「ノンマルトの使者」金城哲夫(宇宙船文庫)300円
アルジェントのこんな本出てたのね?知らなんだ。映画コーナーって本屋でも覗かないからなあ。「金剛拳」も、自力で見かけたのは初めてなので思わず拾う。宇宙船文庫は、ようやく「『ノンマルトの使者』なんて珍しくないもんね」同盟に加入できた。安値で見かけたら拾う程度の集め方しかしていないため、宇宙船文庫はこれでやっと10冊目。まだ二、三合目辺りなのかな?全部で何冊あるのでしょう、この叢書?井口民樹のゲテモノ・パニック小説も買えてまずはご機嫌の一日である。


◆「子供たちの夜」Tチャスティン(ポケミス)読了

私的チャスティンの印象は、先ず「新ペリー・メイスンの作者」、次に「ポケミスのキリ番ゲッター」、それでもって「サンリオでも出てたよね」といったところであり、如何に真面目に読んでいないかがチョンバレである。鳴り物入りで「パンドラの匣」が紹介された時も、「またヒーロー警察モノかよ」程度の受け止めで、以来カウフマン警視シリーズについては20年来の積読と化している。正直な話、私にとっては新ペリー・メイスンの2作目である「TCOT Burning Bequest(燃える遺産)」さえ訳出してくれたら、それでいいや、というレベルの作家である。しかし、このノン・シリーズのサスペンスを読んで少々認識を改めた。
クイーンの「Xの悲劇」が1930年代のニューヨーク交通づくしな都市小説であった事は公知の事実だが、この「子供たちの夜」は80年代ニューヨークの夜を知る上で、なかなかためになる作品である。光の海に浮かぶブラック・ホールである「セントラル・パーク」をはじめ、ニューヨークの夜の街角の息吹を感じさせる描写が随所に顔を出す。プロットそのものは至って単純。「夜のセントラル・パークで行方不明になった9歳の一人娘を探す、ヤンエグ・マザーの物語」である。離婚した夫との確執、担当刑事との恋愛というお約束の展開も安心して読める。年季の入った気のいいバッグ・レディ、「教授」と呼ばれる老ホームレス、「成功者」であるドーナツ屋、お節介な女霊能力者などなど、脇役の布陣も手堅く、マン・サーチャーものの単調さを救っている。終盤の急展開もそれなりに見せる。しかし、やはりこの書の主役は「夜」であり「都会」である。例えば、幾つかの脇役を巡るサイドストーリーは謎のまま終ったりする。友情、懐疑、欲望、無関心、恐怖、妄執、愛、そして憎悪、愚かな人の営みの総てを呑み込み深閑としてそこにある闇。読者はそこに何を見るのであろうか?そう、何も見えないのである。
裏と表の大団円よりも、剥がされ道に散る「尋ね人ポスター」の欠片にはっとするそんなサスペンスであった。ニューヨークが好きな人はどうぞ。


2000年12月21日(木)

◆日記三年目に突入。うーん、我ながらよく続いているもんですのう。
◆毎度虚空に向かって感想を垂れ流している者としては、このページを御訪問頂いている皆さんが一体どのように感じておられるかが気にかかっている。勘の良い方はお気づきかもしれないが、特に買う方については、この主宰者は、殆ど「憑き物」が落ちている。そりゃあ、最近でも古い探偵雑誌や、2、30年代作家のマイナー作をじゃんすか買っており、入手できればそれなりに嬉しい。しかし、かつて「毒殺魔」や「Panic in Box C」に感じていたような一本気な渇望感がないのである。「外れたら外れたで、まあしゃあないかあ」というノリなのだ。顧みれば、今年は、日下さんからAHMMの46号をお譲り頂いたり、森さん情報で角川文庫「八つ墓村」初版をゲットできたり、えぐちさんとの交換で同じく角川横溝文庫コンプリートを果たしたり、よしださんから「空飛ぶスラッシュ」のカバー付きを回してもらったり、松本さんから「Gストリングのハニー」のカバーを譲っていただいたり、石井女王様からはナポソロのジュヴィナイルをまわしてもらったり、とまあそんなこんなで見事なまでに「憑き物」が落ちてしまった。ありがたいと感じる一方で、以来、次の「妄執本」がなかなか現われないのも事実。歳かな(ぼそっ)。勿論、読む方には、それなりに楽しい出会いがあるのだが、それとても、どちらかといえばミステリ以外の作品の方に興奮することの方が多い。これはもう、感想文を読んで頂ければお判りいただけるであろう。「ああ、震えが止まらないようなミステリが読んでみたいっ!!」
◆閑話休題。黒白さんが、何時まで経っても前回オフ募集時の「応援メッセージ」を転送してくんないので自力救済企画、ちゅうか、非常に夜郎自大にして「俺様的」企画なんですが、今年のマイ・ベスト選出の際の参考にさせて頂きたく、
「2000年のkashibaの感想文の中で一番面白かったもの」
を教えてください。掲示板でもメールでも結構です。御礼は、余り碌なものはございませんがダブリ本からでも。はい。本年最終更新日(予定)の12月28日までお待ちしております。よろしくです。
◆5回目の忘年会。古本屋には寄れずじまい。テレパルを買いがてら、そこら中で話題の翻訳新作を購入。
「騙し絵の檻」Jマゴーン(創元推理文庫)定価

◆「ねぶたの夜 女が死んだ」藤村正太(弘済出版社)読了
Kaluさんの掲示板の書き込みに刺激を受けて持ち出した藤村正太の後期作。ガキの頃から題名だけは知っていた作品。というか表紙が女性ヌード写真に手を加えたもので「おお、これは恥かしい」という刷り込みが強烈だった本なのである。入手したのは比較的最近。西東登や藤村正太にも愛を、と探究モードに入ってからの事である。この辺の殆ど文庫落ちのない忘れられた乱歩賞作家って、何か愛しくなるんだよなあ。動物ものに拘った西東登に対し、藤村正太は川島郁夫名義の初期密室ものと最後期の「麻雀推理」がイメージとして定着しており、<晩年、通俗に堕した>という悪印象を免れない。が、中後期の作品では、アリバイ崩しを基軸とした本格推理をなんとか社会派的な設定と折り合いをつけさせようと努力した人であり、その真面目な姿勢はある意味で賞賛に値する。が、その律義な慮りが仇となって、「そんなん知らんもんね」というノリでぶっ飛んだ快作をものにしていた西村京太郎と作者の差になってしまったのは皮肉な話である。さて今日の課題本は、さしずめ今なら「旅情ミステリ」と銘打たれてKIOSKに並べられるであろう作品。僅かではあるが「オカルト趣味」も入って御得用である。こんな話。
フリーの敏腕ルポライター江坂の元に奇妙な「依頼」が舞い込む。青森出身の稲田律子と名乗る女性が「許婚の日下部が<いたこ>から死を宣告されてしまったので、助けて欲しい」というのだ。日下部が勤める「奥羽開発」が企画する開発プロジェクトを巡って律子の本家筋と分家筋との間で推進・反対の諍いが絶えないという事実と<いたこ>のよる死の予告という超自然とのミスマッチの妙に、記者魂を揺さ振られ、裏取りに動く江坂。日下部は、律子の危惧を一笑に附すが、果してねぶた祭の準備に湧く青森に江坂が乗り込むと、開発推進派と反対派の軋轢は予想以上のものであり、恐山で聞く「いたこ」の予言も不思議な説得力を帯びてくる。そして、ついにねぶたの夜に殺人は起きた。だが、その犠牲者は、日下部ではなく、律子だったのだ!奇妙な火と水の痕跡は何を物語るのか?ゆうづる3号で遭遇した怜悧な美女と競うように事件を追う江坂の前に、関係者全員のアリバイの壁が立ちはだかる。そして超自然の謎が理性の光に溶かされた時、遅れていた予言が成就されるのであった。
金銭欲と男女の愛憎というドロドロの動機、サービス精神の意味を履き違えたお色気シーンなど実に藤村正太の社会派である。二つ用意されたアリバイトリックは、納得性のあるものであり、破綻に至る過程も正統派である。探偵を務めるルポライターが、やたらお行儀良く警察の捜査に協力するところが、現実的であり、興醒めでもある。作者の努力のベクトルが相反する方向に作用してしまっているところがなんともお気の毒な作品。まあ、でも期待値が低かった分、結構楽しくよめてしまった。「忘れられた作家マニア」としては必読の部類であろう。