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2000年12月10日(日)

◆「宮廷料理人ヴァテール」なんぞを見に行く。ストーリーは、結構陰鬱である。普段、エンタテイメント系しか見ていない人間には「胃にもたれる」話。しかし美術の凄さには完全脱帽。なんとも贅沢。いやあ、邦画との格の違いをまざまざと見せ付けられた。噂の料理だが、どうも舞台裏を克明に描きすぎた分、左程食欲は湧かなかった。自分で味見をしながら作った料理には、驚きがなくて食が進まないっていう奴ですかね。はい。
◆昨日買い過ぎの後遺症で、購入本0冊。また、寝床の周りに徐々に本の壁が築かれつつある。この段階では、1冊7000円、末端価格2万円(やめんか、その表現)の「ぷろふいる」も1冊100円の「妖魔の宴」も扱いは一緒である。しかし、次のお片づけ時期には、片や雑誌棚の特等席、片やダブり山脈の谷間とその居場所を変える。ああ、なにやら人生の縮図を見るようだぞ。しかし、このまま私が死ぬ迄、本棚の肥やしと化す事必定の「ぷろふいる」と、今後世の中に再び戻っていくダブリ本とでは、一体どちらがシアワセなのだろうか?ううむ(どうした、kashiba!?)

◆「人狼の四季」Sキング(学研M文庫)読了
「IT」の単行本が出るまでは、キングは比較的真面目に読んでいた。しかし、「ミザリー」が、映画公開に合わせてか、異様に文庫落ちが早かった事と「IT」の単行本の値段が高すぎたために、可愛さ余って憎さ百倍、二度と単行本では買わんぞ!と心に誓ったものである。で、一旦疎遠になるとずるずると遠ざかり、この作品が、学研ホラーノベルズ(大判の方)で出ていた事にも気がつかなかった。今回の文庫化で「おお、知らない本が出た!これは学研文庫の隠し玉」と勝手に盛り上がり、「単行本の文庫落ち」との記述に唖然とし、ついでに読んだ挙句「なんだよ、これって『死霊の牙〜Silver Bullet』じゃん!」と知ってトドメを刺される。この作品だったら、昔、レンタルビデオで見たぞおお!!なかなか車椅子の少年とその伯父の交感ぶりが印象に残るストレートな狼男モノであった。かように、一人相撲のツボに嵌まってしまったこの作品、中身はこんな話。
メイン州の田舎町ターカーズ・ミルズ。ある年の1月から、満月の夜毎、謎の連続殺人が起きる。鉄道の信号手、書店の女店主、名もなきよそ者、凧上げに興じていた少年、次々と脈絡もなく惨殺されていく人々。そして、バプティスト教会の牧師ロウは夜な夜な、狼男の悪夢に悩まされていた。彼の夢が現実と交錯した時、車椅子の少年マーティの孤独な闘いが始まる。
元々はカレンダーの添え物として企画された歳時記的作品。とにかく、バーニ・ライトスン描くところのカラー・イラストとペン画の美しさに唸る。特にペン画の流れるようなタッチは溜め息もの。小説としてはキングの作劇法がストレートに出ており、好感を持って読めるものの、6月までの前半部分は、やや散漫な印象。主人公マーティの登場以降は、プロットが明確になり、大晦日のクライマックスまで一気呵成に読める。絵本的に楽しむのがお作法の小品でありました。やっぱりキングは巧いよなあ。また、文庫落ち作品からぼちぼち読んでいこうかなあ。


2000年12月9日(土)

◆寝る。只管寝る。起きたら昼過ぎだった。予定が吹っ飛んだ1日。もういっちょ、お誘いもあったのだが、懸案もあったので「オフ」の日にする。
◆てつおさんと黒白さん用に「幽霊の2/3」と「俳優パズル」のカバーをカラーコピーに行く。いやあ、それにしても最近のカラーコピーの性能のいい事、いい事。表から見ている分には、本物としか思えない。これが100円で出来てしまうんだもんなあ、凄いよなあ。カバー一枚、帯一本に大枚叩くのが正直アホらしくなりまする。洒落でグラシン紙をかけて見ると、更に高級感あーーっぷ!見えにくくなった方が、高級感がでるというのも不思議なものだが、人間の「認知」なんて所詮そんなもんです。スティーヴ・オースチンや、ジェミイ・ソマーズが、時速100キロで走る時にスローモーションになるようなもんですか違いますかそうですか。という訳でようやく本日発送いたしました>お二方:私信
◆総武線定点観測。いつもの駅で電話帳をチェックして、新店開拓に挑む。ところが、最初にみた電話帳からは、ものの見事に古本屋の掲載部分が破り取られていた!なんちゅう事すんねん!!こういう心無い事をする人間がいるからマニアって変な眼で見られるんだよなあ。非常に不快な気分になるが、気を取り直していつもとは逆方向の店を目指す。徒歩5分で目的地到着。おお、なるほど、こんな処にもあったんだあ。わくわくしながら拾ったのはこんなところ。
d「神秘の島T・U」Jヴェルヌ(集英社:Uのみ帯)計200円
d「ブロントメク!」Mコニイ(サンリオSF文庫)100円
「リビング・デイライツ」(宇宙船文庫)100円
d「ドーヴァー7/撲殺」Jポーター(ポケミス)200円
ついでにモームなんぞを買ってしまう。
「女ごころ」Sモーム(新潮文庫)50円
「雨・赤毛」Sモーム(新潮文庫)50円
「月と六ペンス」Sモーム(新潮文庫)100円
ああ、安い。なんて安いんだよう。やっぱりたまには新店開拓って必要だよなあ。うんうん。気分を良くしていつもの店に向い100円均一本をわしわし買う。
d「妖魔の宴ドラキュラ編1」菊地秀行編(竹書房)100円
d「シャーロキアン殺人事件」Aバウチャー(教養文庫:帯)100円
「素敵な恋をしてみたい」矢崎麗夜(太田出版)100円
「ポップコーン」Bエルトン(早川書房)100円
「Oヘンリー賞作品集」(太陽社)100円
「コロンブス・マジック」アードリック&ドリス(角川書店:帯)100円
「ヤマシタ将軍の宝」Rパルバース(筑摩書房:帯)100円
「しあわせショート・ショート」(フェリシモ出版)100円
ああ、なんだが周辺作ばっかり掴んでいるぞ。矢崎麗夜の本は、一部ノベライズという「世にも奇妙な物語」本の作り。ふーん、こんな仕事もやっていたのね。更に、もう一軒いきつけの店へ。
d「危機を呼ぶ赤い太陽」Eハミルトン(早川SF文庫)100円
「海底密室」三雲岳斗(徳間デュアル文庫)300円
「ランドム・ハーヴェスト」Jヒルトン(朝日新聞社)500円
キャプテン・フューチャーをもうワンセットと思って見つけたら拾うようにしているのだが、いざ始めると中々見つからないものだ。ヒルトンの本は「くすみ具合」がよろしくて拾ってしまった。要は「心の旅路」なのだが、文庫でも持っていないので、OK、OK。「あと一軒、開拓すべえ」と住所を頼りにショッピング・ビルに行くがお目当ての書店は見当たらず。しかし!なんと「古本市」という看板が出ているではないか!!おおお、捨てる神あれば、拾う神あり!!さあ、拾うぞおお!!(何か違う)
d「殺しの標的」Dハミルトン(双葉NV)200円
「歩行文明」真鍋博(中公文庫)150円
「シネアスト映画の手帖<ホラー大好き!>」(青土社)500円
「MF」Aバージェス(早川書房)300円
d「菊花大作戦」横田順彌(出版芸術社:帯)300円
「掟」Rバイヤン(講談社:初版・函)400円
「死者からの声」Rハギンズ(国土社)200円
「もっとも悪い恐怖」佐々克明(書苑:帯)300円
「必殺!テレビ仕事人」山内久司(朝日新聞社)150円
ダブリでもゲテでも何でも来ーーい!!まあ、ハギンズのジュヴィナイルが拾えたので良しとしましょう。いやあ、久々に腕が抜けるぐらい買ってしまった。天狗で一杯引っかけて帰途につく。ああ、この重みがなんとも。

◆帰宅すると伊勢丹のカタログが届いていた。へえ、今回は火曜日が初日ですかあ。うーむ、こりゃあ参戦できないかなあ。光国屋の鮎川哲也が圧巻。相当にコアなマニアの棚から纏まって出た感じの品揃え。署名入りには心が動くが、それにしてもこの値段には絶句。

◆「六色金神殺人事件」藤岡真(徳間文庫)読了
と云う訳で私にしては非常に珍しい事にバリバリの新作を読んでみた。作者は、「ゲッベルスの贈り物」(角川書店)で遅いデビューを飾った人。博報堂勤務というから、逢坂剛みたいなものかな。前作には、作者プロフィールに本名から学歴、勤務先まで詳細に書かれていたが、この文庫の著者紹介には生年と出身地の記載しかない。おまけに後書きや解説もないので、初めて手に取る人は戸惑うのではなかろうか?京極堂デビュー時の「じらし」を踏襲したわけでもあるまいが、極端から極端に走る人だよなあ。個人的には、解説のない文庫本というのは、非常に寂しいのだが、まあ書き下ろしだから致し方ないと云えば致し方ないか。7年ぶりの第二作は、「宣伝」を前面に押し立てた前作とは打って変わって、雪に閉ざされた山間の町で、宇宙開闢から神武に至る歴史を記したとされる史書に見立てて起きる連続殺人という「大伝奇」の香気漂う作品となった。町出身の女優とか、見立てとかいうと「悪魔の手毬唄」であるが、この作品では、更にとんでもない不可能犯罪のオマケまでがつく。こんな話。
プロローグ。昭和12年青森県津本村での、とある「発見」を巡る命のやり取りが描かれる。その発見とは「六色金神伝記」。それは、ビッグバンから大和朝廷の成立までを記した史書であった。津本村の名家東元家の若き当主・智衛門と北大路清彦教授は、赤・青・黄・白・黒・緑の六柱の神々が異邦の神々の雨浮船を撃退する様を描いた「六色金神歌」を特高に示す。
そして現代。道に迷った挙句、豪雪の津本町に命からがら辿りつく保険調査員・江面直美。外部との連絡を絶たれた街には、巨大なリゾートホテルが聳え、今しも「六色金神祭」が始まろうとしてた。そして、彼女が街入りした際に、既に第一の殺人は起きていた。巨石の下敷きとなった朱に染まる木乃伊死体。超能力者・栗栖は祭の中止を人々に呼びかけるが、人々は耳を貸そうとしない。そして、「祭」のメンバー登録した直美の眼前で、第二の殺人が起きる。「六色金色歌」の解釈を巡って異説を唱える岡島教授がパネルディスカッションの最中、宙に浮かび、暗転の後、壁にめり込んだ死体となって発見されるのだ。開発反対派の若人達は群れ、幼女の如き双子の老婆は未来を呟く。飛散する星、室に凍る白き巫女。そして死者は闇に甦る。雪国の冬を地獄に染めた宇宙開闢に至る謎を解くのは、推理作家か、警察か、それとも―。「蘇神歌」の封印が解かれる時「山幸彦」の哄笑は大地を揺るがす、、
横溝正史へのオマージュと稚気に溢れた「伝奇ミステリー」。いにしえの歌に見立てて次々と屠られていく犠牲者たち、という展開に頁を繰る手が加速する。そして、驚天動地のフィナーレ。どこまでも二枚腰の作者の企みに翻弄される快感に酔う。細部に至るまで、張り巡らされたダブル・ミーニングの罠が凄い。これは再読に耐える、いや、再読しなければならないトンデモ・ミステリーである。歌の「軽さ」が疵といえば疵だが、そこに眼をつぶれば、十分に楽しく読める作品。文庫書き下ろしに敬意を表して、許しましょう。さあ、貴方は、笑うか、怒るか、感心するか?!


2000年12月8日(金)

◆川口文庫への支払方々、書店に寄って謎宮会の掲示板に作家本人が登場して話題になっている新刊を購入。
「六色金神殺人事件」藤岡真(徳間文庫:帯)660円
「ゲッペルスの贈り物」以来の新作。あら筋を見る限り相当気合の入った本格物の感触。

◆神保町定点観測。実はお目当ての全集本があったのだが、閉店間際の目的地に着いて探したものの既に聞いていた場所になし。どうやら売り切れた模様。まあ相場より相当安かったもんなあ。仕方なしにいつものポイントを均一棚中心にチェック。一年のうち一番懐の暖かいこの時期でないと出来ない無駄遣いをひとつする。拾ったのはこんなところ。
d「タイムスリップ」スチュアート&ボズウェル(角川文庫)100円
d「タイムトンネルの冒険」LDリー(角川文庫)100円
d「青いホテル・豹の眼」クレーン&ビアス(英宝社)100円
「Arrest the Saint」L.Charteris(Perma Books)200円
「The Great Impersonation」E.P.Oppenheim(Pocket Book)200円
「焔の眼」Mビショップ(早川書房)2000円
んでもって、無駄遣いがこれ!
「ベン・ケーシー 暗い秘密をもつ少女」Wジョンストン(学研)4000円!
あああ、やってしまったああ。はっきり言ってテレビのノベライズに出す値段ではない。しかし、ここは一つ魔法の呪文を呟いて自分を誤魔化すしかないのである。

「だって欲しいんだもん」。

まあ、他ではそれなりの拾い物をしているので、良しとしましょう。してくれ。頼む。

◆「ガードナー傑作選2 ミステリーの世界」ESガードナー(新人物往来社)読了
ガードナーの翻訳作品としては最も入手困難な1冊。まあ、困難といってもそこはそれ、ガードナーの事なので、他のビッグネームに比べればどうということはない。あのクリスティにすら入手困難な作品(っといっても戯曲「アリバイ」であるが)ある事を思えば、ガードナー・ファンは恵まれているといって良い。いざとなれば、原書という手もあることだし。この新人物往来社のガードナー本は2冊あって傑作集1はペリーメイスンの中編集なのだが角川文庫の「消えた目撃者」と同じ内容なので無理して探す必要はない。ただ、この2冊、市場に出てくる時は必ずと言っていい程セットで出てくるので、まとめて買わざるを得ないのではあるが。さてこの「ミステリーの世界」と銘打たれた第2集には3中編が収録されているが、メイスン以前の作が1作しかないのが残念。どこぞにガードナーのパルプ時代の作品を紹介してくれる出版社はないものでしょうかあ?以下、ミニコメ。
「罪なき者は石をとれ」警察から「特別捜査員」の証明を貰っている快男児シドニイ・ズームとその相棒であるシェパードのリップの活躍を描いた一編。いわゆるメイスン以前の作品。そぞろ歩きの徒然に、射殺死体に出くわすズーム。死体の握り締めていた赤い宝石は、やがて彼等をとあるマンションへと導く。そこに住んでいた被害者の義理の娘は、偽のアリバイを主張した事で、警察に拘引される。だが、ズームの慧眼は彼女の無実を見抜き、強欲なる被害者の自宅へと向うのであった。弱きを助け、強きを挫くというガードナーの勝利の方程式が冴える一編。証拠の隠匿やでっち上げも辞さず真相に迫るズームの美学はまさにメイスンそのものである。B級の香りがなんとも心地よい作品。
「失踪した男」正式に離婚するため、記憶喪失の夫エドを求めて、山に入る美しき妻コーリス。手掛りとなるのは、1枚の写真を加工した絵葉書。キャリントン保安官は、弱みを握っている山男のルーカスに彼女の案内を命じる。都会の探偵を連れて山に入るコーリスたち。一行には、もう一人の謎の女マリオンも同道するのだが、彼等が目当ての山小屋に着いた時、悲劇の構図が現われる。ガードナーのアウト・ドア趣味が遺憾なく発揮された作品。些細な証拠から、陰謀を見抜き、万事を収める田舎保安官の名探偵ぶりが光る。ラストがバタバタと終ってしまうのがやや残念。
「死は貨車に乗って」第二次世界大戦中の事、タクシーで相乗りになった美女が忘れたハンドバッグから、僕の冒険は始まった。なんとバッグの中から、7500ドルもの現ナマが出てきたのだ。そして、更に奇妙な紙テープに記された謎の言葉。美女ミュリエルのマンションに乗り込んだ僕は、彼女の言動に不審を抱き、一旦は引き上げる。そして、諜報員の友人ギャビーとともに再び彼女の元を訪れた僕はそこで、男の死体に出くわすのであった。やがて紙テープは、僕等を貨物操車場へと導く。戦意高揚諜報サスペンス。事件の鍵を握る二人の美女の入れ繰りがいかにもガードナー。だが長さの割に陰謀の正体が小ぶりで精彩を欠く。ガードナーには珍しい第5列ものではあるが、読み捨て御免な一編。


2000年12月7日(木)

◆どこもかしこも「このミス2001」の話題で一杯ですのう。なんちゅうか、世の中がクリスマスで盛り上がっている時のゾロアスター教徒のような心境である。ちゅうか、世の中が日本シリーズで盛り上がっている時の阪神ファンのようなものか?(ちーがーうー)
◆ROM110号来る!今回はヘンリー・ウエイド特集。編集人の須川さんお疲れ様でございました。実はウエイドって「死への落下」しか読んでいないのだが、あまり感心しなかった。どうも日本語に訳されていない作品に傑作が多いらしいのだが、何故そうなってしまうんでしょうね?とりあえず今回もROM氏は熱いぞお!
◆川口文庫来る!今回は大物がないので、ダンボール一箱で済む。
「佐賀潜捕物帳(一)掏摸の町」佐賀潜(毎日新聞社)500円
「ぷろふいる」昭和11年2月号・4月号(ぷろふいる社)各7000円
「探偵倶楽部」昭和31年2月、4月、6月増刊、8月、9月、12月号(共栄社)計10000円
「探偵実話」昭和32年3月増刊、5月、7月、11月号(世文社)計6500円
「戦後版 新青年」昭和25年2月、5月、6月号(博友社)計4000円
「新青年」昭和12年9月、10月、11月増刊号(博文館)計10000円
「創元通信」創刊号〜40号(創元推理倶楽部)5000円
「別冊シャレード56号」山沢晴雄特集参(甲影会)2000円
「小説宝石」42年11月号(光文社)オマケ
更に!競争率が高くて外れはしたものの、大坂圭吉研究1〜4号のコピーまでつけてもらってしまった。うひゃああ。正直なところ、小林文庫オーナーの保険ぐらいのつもりで参戦したんだけどなあ。気を遣ってもらってしまった(汗)。今回の荷物の中ではやっぱり新青年の昭和12年11月増刊号・探偵小説傑作集が大当たりかな?Pヴェリイの「絶版殺人事件」掲載号。またこれが美本なんだわ。この4000円は非常にお買い得感がありますぞおお。

◆うーん、TVチャンピオン見たさに真っ直ぐ帰ってきたのに、盆と正月がいっぺんに来たような日になってしまった。

◆「バルタザールの風変わりな毎日」モーリス・ルブラン(創元推理文庫)読了
モーリス・ルブランなんて読んだのは何十年ぶりであろうか?実は私が最初に読んだ推理小説は、ポプラ社の南洋一郎ルパンであった。30年以上前のことである。当時はまだ全15巻だった。どうもホームズや少年探偵団は趣味に合わず、ジュビナイルの時代はルパン一点張り。ルパン対ホームズでも、只管ルパンの活躍に拍手を送っていたものだ。ところが大人向けのミステリに触れてからは、逆にルパンに訣別してしまい、ボアナル版の新シリーズも買っているだけ。ルパンと言えば「るぱーーん3世、はーい、おじさまはここですよー」的日常を送ってきた。いや、実は、何作か試そうとしては、訳文に馴染めず敗退してきたと言った方が正確か。南洋一郎の呪縛とでも呼ぶべきか?何か、ミステリ読みとしては物凄く損をしているような気がしてきたぞ。というのも、このノンシリーズ作品が滅法面白かったからである。有無を言わせぬ驚天動地、波瀾万丈、荒唐無稽な展開!引き!引き!引き!の連続は、ああ、懐かしや、大デュマ風連載小説のノリそのものである。こんな話。
「人生には冒険など存在しないのだよ」と説く孤児にして哲学者のバルタザールの心に火が点いたのは、恋人ヨランドの父親から、どこの馬の骨とも判らん輩に娘はやれーーん!と一喝された瞬間だった。忠実な小間使いコロカントとともに自分の父親捜しに臨むバルタザール。とりあえず辻占に尋ねたところ「頭のない男が見える」との事。しかし、彼が積極的に動く間もなく、さる公証人事務所から彼がヴァンドーム伯爵の遺児であり、莫大な遺産の継承者であるとの知らせが届く。ところが、親の名乗りはそれだけにとどまらなかった。警察からは、そのヴァンドーム伯爵の首を刎ねて惨殺した殺人者グールヌーヴの息子であると決め付けられ、更には、地中海に浮かぶ小国の王パシャや、イギリスの詩人までが、「私がお父さんだよ」と現われては、彼の運命を翻弄する!一体、彼の胸に記された「M・T・P」の刺青は何を示すのか?波瀾万丈の「日常」に巻き込まれたバルタザールは、果して真の父に出会えるのか?そして彼の恋の行方は?!
巻を置くあたわざるノンストップ・スラプスティック。読者は「そんな馬鹿な!」という展開の連続にただ息を呑むばかり。しかも、この「父親が多すぎる」事件に一応は論理的な結末が用意されているのには参った。すっとぼけた主人公に可憐なヒロイン、自分勝手な父親ども、見かけを裏切る脇役陣とどのキャラクターも素晴らしく立っている。あらゆる冒険物語のパターンをぶち込んで、笑いを取りに来た作者の開き直りに脱帽。なんとも楽しい騙りの極北。いやあ、宇宙人が出てこなくてヨカッタ。


2000年12月6日(水)

◆偽・プレミスコン2レポート:「古・執アルバム」
「晴れ渡った師走の午後、石井女王様は渋谷区で開催されたプレミスコン2にご臨席されました。先週の徹夜オフ会の疲れもとれた女王様は、いつもの軽快なファッションに身をつつみ、にこやかな笑顔で若人たちを人間椅子にして楽しんでおられました。当日は、フク・ミスコン主宰の開会の辞に続き、スタッフを務められた雪樹誤謬皇女様から、企画の例題として、石井女王様をモデルにした物語が紹介され、列席したネット民の皆さんから、万雷の拍手が寄せられました。
女王様は、セレモニー終了後、会場の皆様と親しくご懇談され、歳若い編集者の方にも『貼雑年譜は、臓器を売ってでも是非買い求めたいですね』と、お声をかけておられました。女王様の『私の臓器では不経済ではありませんか?』とのご質問に『いえ、不敬罪です』とお答えする編集の方。まるでshakaさんがいるみたいに寒い1日となりました。」(大嘘。でも、ちょっとホント)
◆ちょっとだけ残業。一軒だけ定点観測。ホントに何もない。一冊だけ文庫棚に紛れ込んでいた漫画を買う。
「薔薇と拳銃」谷弘児(東考社・桜井文庫)300円
ガロにでも載っていた漫画なのだろうか?一応、「空想探偵漫画」とか書いてある。チープな造本に学漫系のエロ・グロっぽい絵柄がなんともナーイス。

◆おおお、葉山さんに、宮澤さんに、茗荷丸さんまでが、「死の命題」を愛好しておられるようである。やっぱり「知る人ぞ知る」本だったのね。試しにbk1とamazon.co.jpで検索してみたら、一応どちらでも取り寄せは出来る模様。ソフトカバーで1900円という本だけど、滅多な事では古本屋ではみかけない本なので、読んでみたくなった方はご注文されてみてはいかがでショッカー。図書館にあるというのであれば別ですが。

◆「ゆっくりと南へ」草上仁(早川JA文庫)読了
この日記を始めるようになってから、古典再訪と合わせ、日本SFを再発見中である。その結果、菅浩江、牧野修、梶尾真治、神林長平等の作品と出会えた事は幸せの一言。よくぞ日記やサイトを始めけりである。そんな中で、ちょっとマイブームの予感がするのがこの草上仁。纏まったものは「よろずお直し業」しか読んでいないのだが、様々なアンソロジーで出くわすとこれが結構面白い。んじゃJA文庫でも試してみようかな、と思い今週の「山」から取り出して電車の友にする。結論から申せば「当り」。それぞれに「世にも奇妙な物語」レベルのツイストが施された佳編揃い。全部がそうだというわけではないが、基本的に和み系の優しさがあって、読後感も爽やか。アイデアを小説に膨らませる手際が実に安心してみていられる。尖がった才気は感じないが、懐かしい家庭料理の味がする作品揃いで、1日1冊のペースメーカーには持ってこいかも。それにしても、この本に入っている作品の初出をみると、7編中5編までがSFマガジン90年8月号というのにビックリ。草上仁特集号だったのかあ?一挙5編掲載は凄すぎ。以下ミニコメ。
「殺せ!」特殊能力を持つ殺人鬼が死んだところから物語は始める。沙粧妙子にも一脈通じるワン・アイデアストーリー。まあ、このオチしかなかろうが、最後のツイストに作者の意地の悪さを見る。このまま「世にも奇妙な物語」のエピソードに使えます。って云うか、そっくりな話を見たなあ。
「オリジナル」物質複製機とマニア根性をネタに爽やかなミステリに仕立てた佳作。この作品集の個人的ベスト。物質複製機という社会を根本から揺さぶるような大発明を「瑣末」な世界の妄執に収束させるところがなんとも可笑しい。実に小説のプロを感じさせる出来栄え。
「おお、白い花びらが」悲恋伝説が、今の駆け落ちカップルにもたらす奇蹟を描いた御伽噺。いささか甘すぎるか?「おじいさんの時計」発明狂の祖父がお気に入りの孫に遺したものは、一台の目覚まし時計であった。これもワン・アイデアをスリルとサスペンスとショック3拍子揃った作品に膨らませた手際に拍手。「あ、それかよー」と思わず笑みがこぼれる。
「隻眼ディガード」スペオペ西部劇。小技の謎を浚う伏線の勝利。いいぞ、いいぞ。
「ピューイ」SF版「狸賽」。主人公の小悪人ぶりが情けないが、友情の勝利にニンマリ。
「ゆっくりと南へ」1年に数センチずつ南へ移動する巨大生物を題材に彼等を守ろうとする老女の闘いを描いた生命賛歌にしてラブ・ストーリー。時制の転換でアクセントをつけた、素敵な読後感を約束してくれる佳編。表題作だけの事はある。題名のセンスが光る。
「あとがき」がまたいいんだわ、これが。この作者は芸人です。


2000年12月5日(火)

◆珍しく少々残業。購入本0冊。帰宅すると、SRマンスリーの11月号が着いていた。無謀松さんの山前書庫訪問記が笑える。うーん、聞きしまさる凄さですのう。でも年の瀬になって、やっと夏場の話題が掲載されるというSRマンスリーのノンビリさ加減には正直呆れる。一方では、SRの会の仮ホームページも開設されたとかで覗きに行ったものの、今のところ文字通りの「仮設」という造りで会員以外にはお見せできる状態ではない。武士の情でリンクはパス。まあ、あのSRの会もようやくサイトを開いたかと思うと感慨深いものがあるのだが。
◆ノスギガな人達から掲示板に書きこみ頂いたり、日記で取り上げてもらったりと、なかなかの問題作を読んでしまったようである。いわゆる「カルト」な作品だったのね。その目でネットを見返すと、なんと感想文の多い事!こんなに語られている事を知っていたら、あのような無邪気な感想は書けなかったかも(汗)。自分が「名前」というものに興味があるだけに、「命名芸術家」という設定を見たときに、やられたああ、という思いにかられたのだが、それ以外にもツボな部分の多い話である。他にこの作者の作品は「小惑星美術館」しか読んでいないのだが、この人の書く「凍った時間」というイメージは、とにかくあとを引く。加えて「境界」というのが裏のキーワードだと知って膝を打った。これも私のツボである。「文化は境界から生まれ、それを生むものこそが神話のトリックスターであり、宮廷の道化である」というのが昔、山口昌男あたりを齧っていた頃に得た生半可な知識なのだが、この物語の主人公は、まさに誰にも組みせず文化を生み、しかも彼自身は触媒にすぎないところが「道化」なのである。しかし、少年である彼は、諦観するには若すぎ、冷笑するには純でありすぎる。そして、只管やるせなさの中で懊悩する彼の姿に、読者は戸惑う。<予定調和の外にある「子供の道化」の神性と苦悩を描いた詩的小説>というのを、読後2日経った時点での私の解釈にしておくです。
◆そうですか、HALの暗号は日本人の常識でしたか。安心いたしました。>Moriwakiさん、Y.Kさん

◆「アメリカン・ハードボイルド」小鷹信光編(双葉社NV)読了
双葉社ノベルズの翻訳ミステリ2冊の内の1冊。もう1冊はDハミルトンの長篇だが、最近ではどちらも余り見かけない。徳間や光文社もそうだが、一瞬、翻訳モノも出してみて直ぐに撤退する、マニアが後で泣く、というのはノベルズ世界の「お約束」なのかもしれない。なお、発作的ハードボイルド・アンソロジーでは白夜書房の「殺し(キル)がいっぱい」というのもあって、マニア泣かせ度はそちらの方が上。今日の課題図書は、さすが小鷹信光編だけあって、いかにもハードボイルドな話10編を並べつつ、私立探偵ものは1編のみというこだわりが光る。「ハードボイルド=卑しい街を行く私立探偵」という刷り込みを払拭するにはもってこいの作品集といえよう。以下、ミニコメ。
「殺人処方箋」殺し屋に間違われた保険調査員が、ギャング同士のシマ争いに巻き込まれる。暴力のプロを相手に一歩もひかず、美しい悪女の肉体もモノにする、という大人のファンタジー、、と思わせておいて、というツイストが嬉しい意外な拾い物。ラストが静かな感動を呼ぶ。
「大きすぎた獲物」男女4人のチンピラが始めて踏んだ「ヤマ」でジャック・ポットを引き当てる。リーダー格の若者は、暗黒街の大物への第一歩と胸をふくらませるのだが、、皮肉なオチがヒッチコック・タッチ。これも「当たり」!
「墜ちる男」善良で熱心な警官が、幼馴染のろくでなしを追う。二人が出会った場所には「運命の女」がいた。平穏な日常が一瞬にして崩れ去る渇きの刹那を描いた拳銃マークの「20年後」。いいぞ、いいぞ。
「水死人」淡々とした警察小説。いかした美女を殺害し、ダイヤの指輪を奪ったのは誰か?捜査が進むに従って、露になる被害者の悪女ぶりがなんとも。87分署以外にも警察小説はあるぞ!って感じ。完成度高し。
「晴れ姿」掟破りの「ヤマ」をこなし、頭の天辺から足の先まで晴れ着に着替え女と都会を目指すチンピラの一瞬の栄光と末路をさらりと描いた話。主人公の無邪気なワルぶりが笑いを誘うが、幕切れは唐突にして鮮烈。
「ギャングの休日」抗争から逃れて田舎町で親分風を吹かせようとするギャング。しかし、田舎には田舎のルールがあった。普通の人々の方がギャングよりもハードボイルドなのが笑える箸休め的作品
「闇に追われる」一人の女を巡って対立する犯罪者兄弟。だが、警察に踏み込まれた時に、ろくでなし同士は、血の濃さに気がつく。行く先は闇。暗黒小説テイストがよろしい。
「失われたエピローグ」滅多撃ちにされリングに沈んだチャンピオン。為す術もなかった彼にすべての人が八百長の疑いをかける。確かに、彼は一旦八百長の誘いに乗り掛けたのだが、、、真実のドラマがリングの外で始まり、そして終る。この作品集の個人的ベスト。傑作。
「五十万ドルの女」都会の腐敗に倦み、逃げるようにして田舎町の警察に奉職した男の前に、彼が心から愛した「危険な女」が現われる。50万ドルを奪取した誘拐殺人犯として。これもまた、「ある愛の詩」である。但し、血塗れの。
「死を運ぶ風」台風が襲いかかる中、逃亡犯を追って私立探偵、ギャング、悪徳警官が、絡み、縺れ、殺し合う。人間の愚かな営みを一蹴する自然の脅威こそが最高の「ハード・ボイルド」だったりする。
総論:期待値を遥かに上回る出来栄え。編者の博識とセンスの良さがあってのことだろうが、アメリカン・ハードボイルドの豊穣さに脱帽。こりゃ、面白いわい。この本は「買い」です。


2000年12月4日(月)

◆朝、日記を書いてホームページ・ビルダーに貼り込もうとすると、これが立ち上がらない。焦りながらあれこれいじってみるが、逆にフリーズしてリセットボタンを押す羽目になる。とほほ。せわしない月曜の朝にこれはないよ〜。でも、これで立ち上がらなきゃ、当分休めるかな、と思っていると、今度はちゃんと立ち上がりやがる。けっ!また機械におちょくられてしまった。ときに、コンピュータ2001年問題といえば、HALだけど、「HALの暗号」って日本人の常識なのでしょうか?単にSF者の内輪受けなのでしょうか?いやまあ、暗号の中では基本中の基本の「1文字ずらし」なんだけど、「HAL」をそれぞれ一字送ると「IBM」になるって奴。ふと、気になったりして。
◆東西線一駅だけ定点観測。なんにもないので安物買いに走る。
「異郷の旅人」Fボール(早川SF文庫)50円
「スピシーズ」Iナヴァロー(早川SF文庫)50円
d「ブレードランナー2」KWジーター(早川SF文庫)50円
「ポストマン(改訳版)」Dブリン(早川SF文庫)50円
「ホーニヒベルガー博士の秘密」Mエリアーデ(福武文庫)50円
d「黒蜥蜴」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫)50円
d「強殖装甲ガイバー1リスカーの挑戦」早見裕司(アニメージュ文庫)50円
d「強殖装甲ガイバー2第三の影」早見裕司(アニメージュ文庫)50円
d「愛は血を流して横たわる」Eクリスピン(国書刊行会)50円
「コンピュータを撃て」有明夏夫(文藝春秋)50円
これだけ買って500円だもんなあ。古本って安いよなあ。

成田さんのサイトに待望の掲示板登場!!「子供部屋」もオープンして益々目が離せないぞお!!リンクの文句もやり変えなきゃいけないレベルの事件ですな、こりゃ。

◆「死の命題」門前典之(新風舎)読了
「たまにはド新本格でも」と思い手に取った第7回鮎川哲也賞最終候補作。第7回は「海賊丸漂着異聞」が受賞作だが、選考経過を読むと、鮎川哲也御大はこの「死の命題」(候補作の時点では「唖吼の輪廻」)を第一席に推していた模様である。この回の最終候補には今をときめく柄刀一も残っていて、まずは激戦と言ってよい回だったのかもしれない。「海賊丸」が刊行されて1年後の97年に新風舎から自費出版でこの作品が上梓された時には、SRマンスリーだったかで刊行案内を見たような覚えもあるが、以来お約束てんこ盛りの新本格ミステリとして「知っている人は知っている<幻の作品>」となってきた。なんと、私の所持しているのは、第二刷で、自費出版にしては健闘した作品と言えよう。能書きはともかくとして中味であるが、正直なところ結構面白く読めてしまった。鮎哲賞ではなくて、講談社に持ち込まれていれば、メフィスト賞はとれたのではなかろうかと思える出来といってよいかな?こんな話。
奇矯なる建築家にして元K大学名誉教授・美島総一郎が行方不明となって3年と8ヶ月、教授の遺志を継いだ未亡人の手によって信州の山深き焔水湖のほとりに「美島館」が完成する。館に集まったのは、美島の弟子3人を含めた6人の男女。建築設計士、労働省官吏、インテリアプランナー、医師、製薬会社社員、そして推理作家。だが、館には彼等を招待した筈の未亡人の姿はなく、入院をやむなくされたので客たちだけで楽しんで欲しいという書き置きがあるばかり。機能的な壮麗さを誇る美島館の休日は、静かに幕を開ける。庭に設えられた巨大ギロチン、教授の名を全国に(嘲笑まじりに)轟かせた昆虫コレクションなどどこか死の影を感じさせる館の中で、談笑する6名。しかし、その底には奇妙な緊張感が流れていた。知らぬ間に館を孤立化させていたのは3人の弟子が途上目撃した黒いコートの男なのか?そして2日目の雪の夜、惨劇は起きる。足跡のない雪の中で撲殺されていた女性インテリア・プランナー、失踪したと思われた労働省官吏は片腕を奪われた溺死体となって湖に浮かぶ。次々と蹂躪されていく命、断頭台は唸り、雪の中を兜虫は這う。そして、死神はノックの音とともに訪れる。
「うそ!」というようなトンデモなネタが随所に登場するところがいかにも「新本格」である。二つのプロローグがまさにそれを象徴しているのだが、雪に閉ざされた山荘、雪の密室、謎の兇器、鉄の処女や巨大ギロチン等の残酷趣味、そして誰もいなくなった、思わせぶりの手記、奇矯な名探偵、多重構造の真相に言葉遊びと、凡そ推理小説のお約束事を尽く盛り付けていく作者の律義さには感心する。とってつけたようなミステリ談義や時事解説はやや興醒めではあるが、名探偵の立たせ方(蜘蛛手という名前がまたなんとも)なんぞはなかなかのもの。メイン・プロットが某著名作にあるとして否定する選者もいたが、バリエーションとして許せる範囲ではなかろうか?というか、もう一工夫しているのだ、この作者は。疵の少なさで「海賊丸」に及ばなかった作品のようであるが(実は「海賊丸」は未読なんですう)、「翼ある闇」レベルには楽しめますぞお(>褒めとんか、お前?)いやあ、たまには「新本格」もいいもんですのう。


2000年12月3日(日)

◆近所のブックオフのみチェック。
「魔女のかくれ家」JDカー(あかね書房)100円
「ビクトリア号怪事件」JDカー(あかね書房)100円
「ゆうれい殺人事件」Cロースン(あかね書房)100円
d「血のスープ」都筑道夫(祥伝社)100円
「愛物語」南部樹未子(光文社文庫)100円
d「サウサンプトンの殺人」FWクロフツ(創元推理文庫)100円
d「拷問」Rバーナード(光文社文庫)100円
あかね書房の推理・探偵傑作シリーズがずらりと並んでいたが、さすがに全巻買う気にはなれず、御贔屓作家のみに留める。ってロースンが入っていたのにびっくり。しかも「棺のない死体」ではないか。おお!こんな作品がジュヴィナイルで出ていたのかあ。「拷問」は煽った張本人として責任買い。今後とも積極的に拾ってまいりますぞお。ところで掲示板の土田さん情報によれば、「ポルノ・スタジオ殺人事件」とセットでヤフー・オークションに出てるんですって?まあ、再評価は望むところだけれど、頼むから高値にならんで欲しいなあ、ったく。100円均一で拾える、と言ってるでしょうに。

◆安田ママさんの勤務地にて新刊3冊購入。
「悔恨の日」Cデクスター(ポケミス)1300円
「ラスト・ダンス」Eマクベイン(ポケミス)1100円
「女には向かない職業2」いしいひさいち(東京創元社)600円
デクスターは神保町から姿を消していて焦った本。やはり人気作家なんだなあ、と再認識。マクベインは87分署の第50作目。一人の作家が、同じ探偵(チーム)で50作書いたというのは、やはり立派であろう。この本は、後世「ポケミスで最大の帯がついた本」として記憶されるのではなかろうか?さあ、ここで問題です。ここまでの既訳87分署50作のうち、ポケミスになっていないのは何作あるでしょう?題名を全部お答えください。すらすら答えられた人は病気です。

◆もういっちょ、掲示板ネタ。大矢博子さんから菅浩江さんには直メールが行った模様です。双方からその旨ご連絡がございました。ハラハラしている人がいるといけませんので、ここでご紹介しておきます。
◆掲示板のレスが何時つけられるか判らないので、松本さんのご質問にもお答えしておきましょう。集英社シムノン選集のうち、集英社文庫に入っていないのは、1「雪は汚れていた」4「アナイスのために」5「新しい人生」6「リコ兄弟」7「日曜日」8「可愛い悪魔」9「港のマリー」10「妻のための嘘」の8作。内、この選集でしか読めないのが、5、7、9、10の4作です。この4つがないんだわ。と書くと、またヤフーにでちゃうのかあ?まあ、こっちはバーナードと違ってそうたやすく見つかるものじゃないけど。

◆「ノスタルギガンテス」寮美千子(パロル舎)読了
昨年のダサコン2あたりだったか、ネットの一部で猛烈に盛り上がっていた作品。題名から、てっきりブラッドベリの「霧笛」のような作品を想像していたのだが、見事に(良い方に)裏切られた。そして、嫉妬した。この作品は私のツボである。人生でこういう作品が一つ書けたらいいなあ、と思えるプロットである。シャンブロウを仁賀克雄に訳されてしまった野田昌宏の心境、といえばSF読みの人には判ってもらえるのかな?テイスト的には純文というか、透明感漂う寓話というか、とにかく夢見勝ちの男の子にとって、この主人公は自分である、といいたくなる話なのだ。こんな話。
僕の名は草薙櫂。シティのマンションに住んでいる。歳は、さて、学校で順列組合せを習う年頃とでも言っておこう。僕の母さんは、「清潔」という世俗の垢にまみれた大人で時々発作を起して自宅をモデル・ルームのように磨き立てる。そのたび、僕の愛すべき創造物たちは、ゴミとして処分されてしまう。今度の傑作メカザウルスもその浮きめにあった。僕はゴミのポリ袋からメカザウルスを救出し、近所の森に向う。友人のケイ、エイ、ユウらと一緒に遊んだ森の「神殿」にメカザウルスを匿ってやるのだ。だけど、その日から「神殿」の周りには、いろんな「役に立たないけれどすてきな物たち」(僕は「キップル」と呼んでいる)が集まり始めた。そして、二人の大人、カメラ男と石膏像のような「命名芸術家」との出逢いが僕の運命を大きく変えていく。大人同士の相克と狂騒を静かに見下ろす「あいつ」。琥珀に閉じ込められた時間。鏡に固定されるキップルたちはその存在次元を代え、「思い」は透明の中に包まれそして増殖する。お願いだから、それに名前をつけないで。大人の世界に持っていかないで。墜ちていくような空の青に向って僕は祈る。始める者としての祈りを。
全編に静かに「死」のモチーフが流れる少年小説。主人公は始める事を運命づけられた者として成長を拒みつづける。飛べないピーターパンである櫂には、琥珀の中の虫こそがティンカーベルである。人間の営みを肯定できない大人の身勝手。虚名に憧れ、真名をみようとはしない大人の「智慧」、自然愛好家であれ小役人であれ自分たちが一番可愛い大人の無恥。主人公はどこまでも我を通す。そして、その結果に裏切られる。主人公以外の誰もが、友人すらもが、昔(あるいは今)自分が子供であった事を思い出さない世界の中で、物語は語り終えられる事がない。ああ、なんて「痛い」話なんだあ!!文章は平易で、ドラマ性もある。だが、ノスタルジックなエンタテイメントでは片づける事のできない小説である。困った作品である。皆さん、読んで一緒に考えましょう。


2000年12月2日(土)

◆激烈なる二日酔。寝床とトイレの往復が続く。合間にダブリ本の整理などをやっている内に午前中が終る。うーん、さすがに皆さん、いいところを持っていくよなあ。正味ぺんぺん草しか残っていないかも。昼から萎える気力に鞭打っておもむろに高田馬場・大久保定点観測にでかける。一応ビッグ・ボックスの定例市も覗いたうえで、未見の都電早稲田駅前のブックオフをチェックするのが目的。まずは2日目につき完全に落穂モードで臨んだビッグボックスではこんなところ。
「トランプ台上の首」横溝正史(角川ホラー文庫:帯)300円
「アリア系銀河鉄道」柄刀一(光文社NV:帯)400円
「これは王国のかぎ」萩原規子(理論社)400円
「日本推理小説大系15水上・樹下・笹沢編」(東都書房:函)300円
「キネマ旬報1976年10月号」(キネマ旬報社)200円
新刊の古本落ちで終るとおもったら、思わぬ拾い物が大系とキネ旬。前者は樹下の「夜の挨拶」狙い。300円なら安いものです。後者は「犬神家の一族」のシナリオ一挙掲載号、スチールもエッセイも満載でこれが200円は嬉しいぞお。しかしそれからがさっぱりワヤ。ブックオフ高田馬場北店、早稲田通り北側、ブックオフ都電早稲田店では殆ど何もない。何もないといいながら何冊かかってしまうところが病気なのだが、とりあえずこんなところ。
「男+女=殺人」深谷忠記(実業之日本社)100円
d「裏切りの日々」逢坂剛(講談社)100円
「なぞの宇宙基地」Dヒル(ポプラ社)50円
「世にも奇妙な物語 小説の特別編」(角川ホラー文庫)100円
d「よろずお直し業」草上仁(PHP)100円
「めいわく犬」Mドニュジエール(講談社:帯)100円
「眠たい入江」落合恵子(講談社:帯)100円
「切手収集殺人事件」黒木曜之助(春陽文庫)100円
「ゆっくりと南へ」草上仁(早川JA文庫)100円
ううむ、あまりのなにもなさにジャンル外にまで手を伸ばす状況。落合恵子本はショートショート集。ポプラ社のジュヴィナイルSFは初見。16年前の叢書らしい。「世にも奇妙な」文庫本は、本屋で見掛けないうちに100円均一でゲットできてしまう。再び早稲田通りに戻るが、南側もさしたる釣果はなし。一番奥の江原書店で山と積まれていたペーパーバックの中からミステリ3冊とあまりのカバーアートの美しさに惚れて西部劇を1冊買ってしまう。
「The Beautiful Frame」W.Pearson(Pocket Book)150円
「The Lady in Cement」Anthony Rome(Pocket Book)150円
「Reason for Murder」Jack Usher (Pocket Book)150円
「The Girl from Frico」W.Heuman(Pocket Book)150円
相当に荷が重くなってきたが、ここまで来たからには池袋か大久保をチェックせねばと、悩んだ挙句、大久保へ向う。もし池袋に流れていたらよしだまさしさんに出会っていたかもしれない。そして実は大久保では森さん・野村さんのワセミスOBコンビに遭遇してしまったのであった。いつもトリオを形成している石井女王様は、プレミスコン2にご出席なので、男二人旅だった模様。出会った瞬間、「あ、こりゃあ釣果は期待できないなあ」と諦めモードになるが、あまりにレベルが違うのため、逆に森さんから、「これいいですよ」攻撃にあってハッピーラッキー。最近女王様が買いすぎている理由の一端が理解できたような気がする。一階で10数冊並んでいたペンギンの古い装丁の中から、ライスは原書で一冊もなかったよなあと思って洒落で一冊買う。
「Trial by Fury」Crig Rice(Penguin Books)100円
何とこの本にも泰文社のシールが貼ってある。凄いよなあ。後は3階で森さんに勧められるままに3冊買う。
「光と闇のリサ」Jニューフィールド(文化出版局)700円
「騎士の陥穽」Wフォークナー(雄鶏社)1000円
「渇いた牙」佐川恒彦(浪速書房)2000円
文化出版局の本は初めて現物をそれと認知した。よーし、次はネイサンに挑戦だあ。フォークナーはクイーンの定員入りしている本らしい。全く知らなかった。文庫落ちもなく「全集でしか読めないですよ、その全集も切れてますよ」と森さんからトドメをさされて抱え込む。佐川も2年前なら一顧だにしなかった本だが、最近はこういう30年代のB級作品も守備範囲になってしまった。ああ、いつまで経っても買書量が減りませんのう。最後の一店で帳尻を合わせて、なんとかバランスのとれた釣果の1日。森さんが石井女王様の探究本を見つけたとかで、携帯から携帯に電話をいれたところ、なぜか私にも電話を回してくれ、丁度プレミスコン2本編終了直後の女王様、フクさん、小林文庫オーナーと簡単にお話できた。森さん、たいへんありがとうございした。

◆帰宅すると、原書が1冊到着。最近、ネット古書商売を始めた「赤い靴」というお店を始めて使ってみた。洋古書専門で、送料・手数料が割高だが、日本語のみで片がつくのが楽ちん。決済は銀行振込のみなので不便だけど安心といったところ。買ったのはこれ。
「The Makeover Murders」Jennifer Rowe(Bantam)3723円
うっひゃあ、ペーパーバックの値段じゃないよなあ。どうしても欲しい1冊だったけど、これは無茶高くつきました。半分は送料と手数料。まあ勉強代ということで。 これにてジェニファー・ロウは、とりあえずミステリは集まった。なんでも別名義の童話があるらしいのだが、そこまで追うのかなあ?豪州古本旅行でも企画したい気分である。教訓:洋書は現役のうちにアマゾンで買うのが一番安い!

◆文生堂のカタログも着いていたが、相変わらずべらぼうに高い。これと言った目玉もないので、眺めるだけにしようかな。先日来、私が店頭で買っていった樹下本他も掲載されていて、なんだか虚しいぞ。

◆「迷宮へ行った男」Mラッセル(角川文庫)読了
角川文庫には変な翻訳ミステリが幾つかある。なぜにこのような渋いところを?というような「夜明けの舗道」「流砂」「地下道」タイプのものと、「なんなんだよ、これ?」という類いの「マーロウもうひとつの事件」「黒いアリス」的「文字通りの<変>」なものの二種類あるのだが、この作品はどちらかと言えば後者タイプ。一種の悪夢小説とでも呼ぶべきであろうか?さしずめ創元クライム・クラブ向きのミステリとでも言っておきましょうか。知ってる筈の人間から他人扱いを受けるというのはアイリッシュ辺りが得意なシチュエーションだが、これはそのパターンを長篇で突き詰めた作品。こんな話。
金属メーカーの研究部門に勤務する冶金学者のジョン・ティヴァトンが、ある日普段通り自宅に帰ってくると妻は自分の事など知らないという、騒ぎを覗きに来た隣人からも認知されない。彼等はジョン・ティヴァトンは半年も前に死んだというのだ!そして、実の母からも、ついさっきまで通っていた筈の会社からも他人扱いされてしまう私。露頭にくれ、再び自宅に忍び込んだ私は、そこで隣家の主ともみ合いになり、彼を階段から突き落としてしまう。逃げる私。世話好きの宿屋の女主人のお蔭で屋根裏に一夜の宿を確保した私は、悶々とここ数年の出来事を回顧する。軍が絡んだ極秘プロジェクトのリーダーを務めるうちに、女性研究助手との不倫に嵌まり、妻とぎくしゃくした関係にあった事は既に過去の出来事として精算されていた筈なのに、一体、何が起こっているか?そもそも私は何者なのか?「自称」ティヴァトンの孤独な自分捜しの逃避行の果てに待つものとは、果してどのような悪夢なのであろうか?
中盤までの、自分捜しのサスペンスは相当のものである。これに一体どう合理的な解決をつけるのかとハラハラしながら読める。突破口が開けてからは、「陰謀」の正体らしきものが姿を現し、ああ、その類いの話かあ、と納得しかかる。しかし、作者の企みはそれにとどまらない。好き嫌いはあろうが、騙りのアクロバットとしては一読に値する作品であろう。20年前の本なので、入手には若干の幸運が必要だが、まあ「黒いアリス」や「地下道」レベルに比べれば容易な方である。「変」なミステリが好きな人は是非お試しあれ。


2000年12月1日(金)

◆飲み会でしたたかに酔っ払う。飲み放題は怖い。帰りの経路すら覚えていない体たらく。購入本0冊。

◆「妖髪」田中文雄(大陸書房 奇想天外NV)読了
おーかわさんの挑発に乗って書影を貼ったために、出掛けにピックアップしてくれと言わんばかりの位置にあった著者の第3短編集。8編収録。学校ネタのファンタジーから、欧風味付けの幽霊船もの、純粋な剣と魔法ものまで幅広い作風が窺い知れる作品集。反面、なんでも器用にこなすが、重厚さには欠けるという作者らしさも見て取れるところが辛いと言えば辛いか?収録作の題名がすべて漢字二文字で統一されており感心していたら、なんと雑誌掲載時には、それぞれにベタな題名が付けられていた模様であり肩透かしを食らう。全くもって、なかなか絶賛させてくれない作家である。以下ミニコメ。
「妖髪」空気圧で単純な動きをこなす「人形」テクノロボの工房に、特別の依頼が持ち込まれる。事故死した娘そっくりの「人形」を作って欲しいと娘の遺髪を託す母。苛酷な納期の隙間を縫って「娘」が完成したとき、怨念と愛の闘いが幕を開ける。超自然的解釈と現実的解釈を拮抗させるのは作者の十八番だが、ラストシーンの禍禍しさが作品のトーンを決めた。色々な別れの形を描いた佳作。
「蟻塚」心中未遂のカップルが立ち直り、平凡ながらも輝かしい人生への一歩を記そうとしたとき、心と肉体を操る罠の口が閉じる。プロットは破綻気味ながら、映像的な「厭」感が強い作品である。ヒロインのかわいい女ぶりが恐怖を加速させる。
「墓船」遭難者一行が遭遇した船はびっしりと海藻で覆われた幽霊船であった。そしてその藻の下に封印された時間が動き始める時、彼等は空と海を貫く壮大な闘いのドラマを目の当たりにし戦慄する。ラストのツイストがよろしい。
「星軍」突如飛来し破壊の限りを尽くすUFO。彼等の求めるものは果して何なのか?その事件を予言するかのようにプラネタリウムにUFOを幻視していた下半身不随の息子が事故で意識不明となった時、怒りの鉄槌は大地を裂く。とんでも系SF。誰もが思いつき、誰もがネタにしようとは思わない話。
「兄貴」弟が死の床にある時、兄としてできる事は何なのか?生と死の狭間で母と兄との闘いが続く。ワン・アイデアストーリーだが、巧くまとめた。
「伴走」W大受験の最中出会った少女香織は僕に力を与えてくれた。だが、彼女が受験していた筈の教室は、7年も前に取り壊されていた。そしてその教室跡でW大をこよなく愛する僕の父が倒れていた。果して香織の正体とは?甘いゴーストストーリー。御都合主義の固まり。この親子関係は歪だなあ。
「魔炎」典型的な剣と魔法の物語。魔王モール復活をかけて北の洞窟で魔道師ダルカムに闘いを挑む剣士ユーリがそこに見た真実とは?習作の域を出ない作品。いかにも幼い。
「幻妻」貧乏下宿に小説家志望の男を尋ねてきた謎の女性。彼女は10数年後の男の写真を彼に示し、そして自分が彼の妻である事を告げるのだが、、、よくも悪くもこの作者らしい作品。なるほどそうきましたか。