戻る


2000年11月20日(月)

◆ダウナーな1日。天気は雨だし、昨日買い過ぎたこともあって、駅ワゴンのチェックのみ。
d「鑢」Pマクドナルド(創元推理文庫)200円
やはりこの本の小林晋解説は「革命」。解説のために買うべき本がこの世にはあるのだ、という事を教えてくれた本である。

◆寒さに震えながら帰宅すると、アマゾンから荷物が届いていたようであるが、本日の再配達には間に合わず、お楽しみは明日送り。残念。
◆そろそろ契約容量が一杯になってきたので、ニフテイに別蔵を作ろうかと発作的に試みるも挫折。久しぶりにホームページビルダーのマニュアルを熟読してしまったぜい。ふーん、こんな事も出来るんだあ、と感心する事しきり。ホント、コンピュータの専門家からみたら、このホームページは何の工夫もない「素うどん」のようなホームページなんだろうなあ。

◆「わが職業は死」PDジェイムズ(ポケミス)読了
「たまには分厚めの作品を」と手に取ったが、いやあキツイ。21日の早朝から読んでなんとか帳尻を合わせたような次第。この辺りのポケミスは、殆ど新刊で買っているのだが、奥付けを見てゾっとする。昭和56年1月だとお!?ほぼ20年前ではないか。うう、20年ものの積読かあ。歳とるわけだよなあ。遠い目。それはさておき、「死はわが職業」といえば、メルルの書いた強制収容所ものであるが(田中光二のSF短編にもあるらしい)、この話は「わが職業は死」。法医学研究所での殺人を扱った作品である。原題を直訳すれば「専門家証人の死」になるところをうまくパクリました。法医学者を主人公にしたミステリといえば、神津恭介や、今をときめくケイ・スカペターがいらしゃるし、ブラウン管でも「ドクター刑事クインシー」をはじめ、浜木綿子や名取裕子が頑張っていたりする。EQFCにもプラウティー萌えな女性がいたりして、ミステリの世界では通好みの職業である。しかしながら、法医学者集団内での殺人というのは意外にない、というか、この作品以外に直ぐには思いつけない。舞台裏を舞台にした劇のようなもので、一種の「禁じ手」だったのであろうか。こんな話。
ある夜、ホガッツ法医学研究所の生物部長ロリマー博士が所内で撲殺された。しかし、彼の死を悼む人間は極めて少なかった。自らが優秀であるがゆえに、部下にも完全を求めるロリマーには敵が多かった。不的確の烙印を押された直属の部下、その部下を庇いロリマーを殴ってしまった文書検査官、ロリマーの後ガマを狙う冷徹な女性主任技官、遺産相続を巡って因縁浅からぬ従妹、その同居人にして「恋人」の女性作家、ロリマーの所長就任を阻んだ新任所長、その美しい妹等、多すぎる容疑者と複雑に縺れた人間関係が、ダルグリッシュ警視とマシンガム警部の前に立ちはだかる。しかも、殺害現場の鍵を持つものは限られており、現場は一種の密室状態にあった。被害者の父が偶然とった電話の伝言「燃えたカン」「18、40」が示すものとは果して何か?死の専門家たちの間を、死神はすり抜け、そして新たな死者を招く。
ダルグリッシュ登場以降は、只管訊問に費やされるにも関わらず、実にスリリングなミステリである。重層的に組み上げられた人間関係、序盤から周到に張り巡らされた伏線、機知と皮肉溢れる会話、とにかくキャラクターの厚みが違う。読者を煙にまくダルジール(ディエールといわないと怒られるのかな?)などと異なり、詩人警視と貴族警部というコンビは実直に真相に迫る。その正直さが心地よい。「密室」は、オマケ程度の扱いなので、不可能趣味な人には肩透かしかもしれないが、動機当て・犯人当てミステリとしては、ほぼ完璧な作品といってよかろう。新作とばかり思っていたら(>誰か殴れ)実に年代物のビンテージになっていた作品。「このミス」合わせで解禁状態の今年のヌーボーに浮かれるものよいが、秋の夜長にはこういうフル・ボディ(全身死体?)な作品こそ似合うような気がする。お勧め。


2000年11月19日(日)

◆朝一番でbk1に頼んでいた本が届く。基本的に新刊は本屋をぶらつきながら拾う趣味の人間としては、日本語の本をオンライン書店で買うつもりはなかったのだが、アマゾンドットコドットジェーピー(うう、何踊っとんねん、ちゅう語感ですのう)に洋書のついでに頼んだ本が「品切れ」だったので、ならばbk1では如何に?と「ダメモトの比較対照」モードで頼んでみた本。普通の本屋であれば、取り寄せに1ヶ月はかかりそう難物が、2週間で10冊揃ってやってきた。いやあ、立派立派。買ったのは例の語学春秋社のミッドナイト・シアター。他では読めないラジオミステリードラマの対訳本である。風読人さんでその存在を知った時は唖然としたが、いやあ、あるところにはあるものだ。それにしても「ブラック・マウンテン」の翻訳本の際にも驚かされたが、一体かつろうさんってこういう情報をどこで入手されるんでしょうね?
「美しき恋のからくり」JMケイン(語学春秋社)567円
「ワールド・シリーズの犯罪」Eクイーン(語学春秋社)567円
「ミゼット・ガン殺人事件」SSヴァン・ダイン(語学春秋社)567円
「生きている死体」Sレスター(語学春秋社)567円
「22時の暗殺者」Jパガーノ(語学春秋社)567円
「マーロウ証言台に立つ」Rチャンドラー(語学春秋社)567円
「街が眠るとき」Rブラッドベリ(語学春秋社)567円
「海外特派員」Vシーリー(語学春秋社)567円
「殺人鬼の棲む館」Mジラード(語学春秋社)567円
「謎の指紋殺人事件」Rスタウト(語学春秋社)567円
奥付けをみると昭和60年11月の発行。阪神タイガースが日本一に輝いた頃に出た本らしい(遠い目)。という訳で、bk1ならまだ揃いが買えました。この勝負、bk1の勝ち!ぱちぱち。しかし、この世界、油断は禁物。私の本が最後の1セットだったかも。とにかく翻訳推理に萌えている人は急げ!

◆昼から、森さんに昨日教わった千葉の有名店にアタックをかけるが、がーーん、日曜定休。ムカフーン状態で、定点観測に切り替え。実は、さる筋から東千葉のブックオフがツタヤと合体して更に服のリサイクルも扱うという巨大リサイクルショップとして生まれ変わったという情報を得ていたので、覗いてみた。リニューアル・オープンが11月10日だったそうだが、さすがにチェックの厳しい書痴の皆さんの情報網にも引っ掛からなかったのか、結構な拾いもの。わしわし買い込む。ほほほ、原宿とはえらい違いじゃわい。まさに無人の野を行く感。ああ、爽快!拾ったのはこんなところ。
d「孤独の罠」日影丈吉(講談社文庫)100円
d「破滅の日」福島正実編(講談社文庫)100円
d「ショートショート劇場3」(双葉文庫)100円
d「さらばいとしのローズ」Jポッツ(講談社文庫)100円
d「六死人」SAステーマン(創元推理文庫)100円
「中国怪奇小説集」岡本綺堂(光文社文庫)100円
d「殺意の葬列」笠原卓(文華新書)100円
「女狩人」黒木曜之助(桃園書房)100円
「コンタクト・ゲーム」大場惑(徳間NV・MIO)100円
「TVアニメ史ロボット・アニメ編」朝日ソノラマ編(朝日ソノラマ)100円
d「ブロンズの使者」鮎川哲也(徳間文庫)100円
d「球魂の蹉跌」左右田謙(春陽文庫)100円
d「特ダネはカリブ海」MJグローヴ(創元イエローブックス)100円
d「ふたり物語」UKグイン(コバルト文庫YA)100円
「愛と青春のあぶない学園」森奈津子(レモン文庫)100円
「殺竜事件」上遠野浩平(講談社NV)100円
d「不潔革命」村田基(シンコー・ミュージック)100円
「歴史ショートショート集」新人物往来社編(新人物往来社)100円
d「ジャグラー」WPマッギヴァーン(早川書房)100円
「名探偵シャーロック・ホームズボン3めだまやき殺人事件」三田村信行(PHP)100円
徳間ノベルズMioが1歩前進。レモン文庫の森奈津子コンプリート!ダブリ本では、村田基と笠原卓あたりが嬉しいゾーン。情報を下さったMさん、ありがとうございますありがとうございます。ブックオフ以外の定点で拾ったの次の通り。
d「浪子のハンカチ」戸板康二(河出文庫:帯)200円
「血と薔薇は暗闇のうた」桂千穂(大陸書房・奇想天外NV:帯)150円
「女探偵クリット」江利安武(グリーン・アロー・ブックス)200円
「シャーロックホームズ賛歌」小林・東山編(立風書房:帯)1000円
「名作アニメシリーズ・屋根裏の散歩者」江戸川乱歩(新潮文庫)100円
この中では乱歩のアニメ本が嬉しいかな。捜しどころが悪いのか、このシリーズにはお目にかかった事がなかったのだが、ミステリ者として唯一押えておきたいものに出会えてラッキーであります。日本SHクラブの同人誌とでも呼ぶべきシャーロック・ホームズ本をパラパラ見ていたら、中学・高校・大学と同窓だった奴の名前があってビックリ。ふーん、彼って学生時代にこんな事やっていたのね。私とちがってクソ真面目な奴だったもんなあ。それにしても日本SHクラブとは。らしすぎて笑っちゃったよ。


◆「邪視」森真沙子(学研ホラーNV)読了
少女、怪奇、学校、江戸、といった森真沙子のキーワードを掛け合わせると、この作品になる。森真沙子のダークサイドを代表する作品ではなかろうか。これで「音楽」があれば、完璧だったのだが。とまれ、文句無しに怖い話を書いてやろうという意気込みが感じられる入魂の1作。偏執、もとい編集者・東雅夫の熱気が憑依したかのかな。長い事、持っている筈だと思っていたら実は持っていなかった作品。昨日の原宿ブックオフ唯一の私的収獲である。まあ、学研M文庫入りするんでしょうがね。こんな話。
江東区の学校跡で造成が進む巨大プロジェクト。物語は、校庭に埋めた思い出の品を掘り出そうと佇む一美という名の少女から始まる。黄昏は逢魔ヶ刻、取り壊された筈の学校の中から彼女を招く声、童女の笑い、そして、ある筈のない2階の窓からの転落。数ヶ月後、平田建設が進める高層建築プロジェクトの総監督を務める貴部篤彦は、現場での二つ目の死に困惑していた。原因不明の意識喪失によって、ショベルカーのオペレーターが事故死してしまったのだ。それは一人目の死者が掘り出した美都波能賣神の像の呪なのか?社長一族の姻戚となって初めて任されたビッグ・プロジェクトのトラブルに悩む貴部。更に、都の新米学芸員・矢嶋郁子から学術調査のための工事の一時停止が申し入れられる。一方、親友を相次いで失った女子高生・夏子は一美の日記を頼りに、その死の謎に迫る。死の数ヶ月前から一美の見ていた幻視の正体とは?やがて夏子は、現場近くに住む奇矯な老婆から「神託」を受けるのだが、そんな彼女に対して魔はあからさまに牙を剥きだす。千年の呪が約束の地に江戸の暗黒を招来し、闇の童女は嘲う。焦熱の都市で静かな殺戮は、既に始まっていた。
魔の正体に迫る二つの探索行というプロットは吉。しかし、捌きが今ひとつで意外と直線的にクライマックスに雪崩れこんでしまったのは、頂けない。ラストのツイストはなかなかのものであるが、サイキックバトル自体の胡散臭さを払拭するには至らない。テーマや、キャラ設定は優れものであるだけに、ドラマとしての組み立ての甘さが悔やまれるところである。プロローグの怖さと、エピローグの大団円ぶりは百点満点なんだけどなあ。失敗作というよりは残念作である。


2000年11月18日(土)

◆「原宿には文化がない」と春生は言った。つうわけで、本日オープンの日本最大の古本屋ブックオフ原宿店。逝ってよし!
◆9時40分には行列の後ろにつけたが、先頭には森さんと石井春生女王様、少しあけて彩古さんに渡辺さんと、いつものメンバーが勢揃い。朝早くから御苦労様です。10時前には徐にフクさんも姿を現し、遥か最後尾につける。NHKのカメラも回る中、賑々しく開店。ここで、女王様が、階段をダッシュで駆け上がった(らしい)。後から、店員さんの間で「駆け上がった人がいたよねえ」と噂話になっていた(らしい)。シドニーの高橋尚子か、原宿の石井春生か、全国中継されたその勇姿は世紀末の快挙としていつまでも語り継がれる事であろう。ところが、全国から集められた筈の本の群には、見事なまでに出物はなし!完膚なきまでになあーーんにもなし!鮎哲一冊だになきぞ哀しき、である。さすがに彩古さんは、1冊100円だった泉鏡花全集を棚毎浚えるという荒業をかまして貫禄をみせていたが、その他の皆さんは開店15分後には完全に諦めムード。あーあ、何が悲しゅうで土曜日の朝早くから出かけたのか。虚しさだけが込み上げてくる。それでも何かしら、名刺代わりに本を買う一行。渡辺さんなんてなあ「こち亀」買ってんだぜえ!!とほほほほ。私の拾ったのは以下の通り。
d「熱海ハイウェイ殺人事件」川辺豊三(サンケイNV)100円
「私のように黒い夜」JHグリフィン(至誠堂:帯)100円
「ゴッケル物語」Cブレンターノ(妖精文庫)100円
「カプグラの悪夢」逢坂剛(講談社:帯)100円
「邪視」森真沙子(学研)100円
「爆裂都市」戸井十月(徳間NV)100円
「映画字幕五十年」清水俊二(早川NF文庫)100円
「帰ってきた木枯し紋次郎 最後の峠越え」笹沢佐保(新潮社:帯)100円
掘り出し物ですかい?あっしらには関わり合いのねえこってござんす。へい。その後はファミレスでブランチをとって昼過ぎに解散。この店のオープンに備えて、通勤定期を1区間余分に買った女王様をはじめ、皆様本当に御愁傷さまでございました。もう一回云うぞお。ブックオフ原宿店!逝ってよし!!

◆映画「チャーリーズ・エンジェル」を見る。全編これアクションとギャグのオンパレード。ラストにNGシーンのオマケまでついて、まさに香港映画のような造り。若い頃のジャッキー・チェン映画を見た後の満足感があったぞお。話は単純明解。只管、カンフーアクションで敵をバッタバッタとなぎ倒すエンジェル達。変装、というかコスプレも千変万化。上映時間もお手頃。キャメロン・ディアスもとことんキュートで、大変結構でございました。ブックオフ原宿店の鬱憤が多少は晴れたかな。

◆「名探偵は19歳 スーザン・サンド(1)スタードロップダイヤの謎」Mエゼル(コバルト文庫)読了
「わたしはスーザン・サンド。ミステリ作家です。自分の頭の中で推理をしながら本を書くってなんて楽しい仕事なんでしょう。でも、一旦本物の事件に巻き込まれたら、もう大変。小説よりもそっちの方に夢中になってしまうんです。どうしてこうなんでしょうねえ?」という訳で、若き女流ミステリ作家スーザン・サンドを主人公に据えた、翻訳もののジュビナイル。装丁に美少女の写真を使っており、なかなか決まっている。コバルト文庫YAシリーズの中では、ミステリ者として押えておきたい3冊である。但し、この第一作を読む限りでは、中味の方は相当にお寒い。少女探偵をミステリ作家に仕立てたところが唯一の売りであろうか。こんな話。
黒髪の眼鏡っ子、スーザン・サンドは、その第一作「痩せた指」でMWAを受賞した新進推理作家。大学教授だった両親は既になく、同じく大学で教鞭をとる伯母アデルに育てられた彼女は、その類い稀な推理力と行動力で、親友マージが相続する事となったホローハース邸に秘められた謎に挑む。そもそも、ホローハース邸はマージの祖父が所有していたのだが、恍惚の祖父を騙してこれを取り上げたウエッブなる悪党の手におちていた。だが、5年前に館から姿を消したウエッブの名が南米からの途上遭難沈没した船の名簿にあり、しかも彼が奇妙にも遺言で館をマージとその母に遺していたことから、館は彼女たちの手に戻ってくることとなったのだ。だがスーザンの受賞、マージの相続と慶事が続いたのも束の間、手首に鴉の刺青をした怪しげな男が街のそこかしこに出没し、ついには死んだ筈のウエッブまでが館に姿を現す。刺青の紋章が、大学のホールのステンドグラスと同じ紋様であった事から、スーザンたちはホールの開かずの間を探険する。そこで、スーザンは煉瓦の中から偶然にも3百年前の手紙と大粒のダイヤのイアリングを発見するのだが、、いにしえの盗賊団の恐怖が、300年の時を超えて現代の学芸都市に甦る時、鴉の黒い影が躍り、星の涙は光の海に眠る。闇を払え、そして走れ、我らが少女探偵スーザン!!てな話。
一本調子の少女探偵もの。大胆にも、この20世紀に「変装」して敵の懐に飛び込んでいくスーザンの行動は、はっきりいって無謀以外の何物でもない。ダイヤの隠し場所を示す謎のメッセージの解法に若干の推理趣味を漂わせる以外は、見るべきところのない凡庸なスリラーサスペンスである。敵の設定にも、捻りがなく、せめて敵の首魁ぐらい意外な人物にせんかいな、と愚痴の一つもこぼしたくなる。まあ「眼鏡っ子」フェチが読めばよいお手軽なジュヴィナイルであろう。


2000年11月17日(金)

◆本日夕刻10万アクセスを突破しました。毎度お越し頂き本当にありがとうございます。なんちゅうか、ケイゾクは力なり、TRICKはお見通しだあ、といったところでしょうか(どういうところやねん?)。1年近くほったらかしの頁もあって、掲示板のレスも滞りがちですが、どうぞ、今度ともよろしくお願い申し上げます。さて、キリ番ですが、99999は「かりっと」さん、100001は落下生さんに踏んで頂きました。うーん、10万ジャストはどなた様だったのでしょう。また、100002が「ご存知!」よしだまさしさん、100003が小林晋さんでございまして、こうしてみて改めて感じるのは、掲示板常連の方々以外にもきちんと見て頂いているんだなあ、という事であります。大学以来の友人からは「<コアな仲良し>が集まる系のサイト」と言われて、そんなもんかいな、と思ったりもしたのですが、この歳になって<コアな仲良し>が300人近く出来た事を素直に言祝ぎたいと存じます。また、このサイトは、銀河通信ヤスママクロペディアでは「古本系」というジャンルに属するようですが、なあに、世の中にある本の99%が古本です。開設当初から、トップページに貼ってありますように「新刊や年間ベストで一喜一憂するのは気忙しすぎて」と感じておられる方々と推理小説やSFの楽しさを語れるサイトとしてもうちょっとだけやらせて下さいね。
◆体調不良。というか、朝起きようとすると起きられない。あれれ?どうしたのかな?ええい!動け、動けよおお!!とモビルスーツに初めて搭乗したアムロ・レイの心境で立ち上がろうとするが、砕ける。ザクの銃口がこちらを狙っている(ウソ)。寒気もする。どうやら風邪のひき始めと睡眠不足の祟りらしい。日記を諦めて出社の許容時間一杯まで寝る。しかし、3時間たっても状況は好転しない。本格的に諦めて会社に電話。そのまま昼前まで寝て、感想文をやっつけ、再び飯も食わずに寝る。只管寝る。夕刻にようやく回復。気がつくと10万アクセスを越えていた。冬眠な1日。購入本0冊。

◆「アトリエ殺人事件」高原弘吉(コバルト文庫)読了
B級ハードボイルド作家・高原弘吉が、良い子のみなさんに推理小説の楽しさを伝えるために書いたジュニア探偵小説。なにせ、あの「狙撃者のメロディー」や「日本滅亡殺人事件」の高原弘吉である。一体、どこまでぶっとんだジュニアものになる事かと、期待半分、ハラハラ半分で読み始めたところ、これが結構真面目に啓蒙しているではないか!!というか、面白い。はっきり言って、梶龍雄や鮎川哲也のジュビナイルよりも良く出来ている。あのスーパー字漫画ヒーローものや、世相を反映したとんでもアナーキストものを書いてしまった高原弘吉も、相手が子供だと思うと優しいおじさんになってしまうようである。尤も、それでいてどこか高原作品らしい「変」なところも残っていて、高原ファンは高原ファンとして楽しめるようになっている。これは買いでしょう。収録されているのは以下の4編。
「アトリエ殺人事件」娘・洋子を自社の敏腕経理課長・横山の嫁にやろうとする事業家・瀬川。だが娘には、画家を志す恋人・佐久井がいた。二人の交際を認めない父の眼を盗んで洋子の弟・敏夫が、佐久井のもとに姉から託されたバースデー・プレゼントを届けた時、彼を迎えたのは、パレットナイフを胸に立て、辺り朱に染めた佐久井であった。警察は、敏夫が去った後に、生きている佐久井に借金の件で説教を受けたと証言する後輩・栗原を逮捕するのだが、、、お手本通りの端整なフーダニット。丁寧に伏線を引いているところに好感をもつ。甦る死者というプロットも魅力的であるがカー風の味付けは避け、飽くまでもクイーン流の理詰めに拘った佳編。
「双眼鏡は知っていた」双眼鏡で窓から街のあちらこちらを眺めるのが趣味の須川忠夫は中学三年生。密かに思いを寄せる今村悦子の裸体を盗視しては、どきどきの毎日を送っていた彼は、ある日トンデモないものを見てしまう。それは、いずこともしれぬ邸宅の赤い花に彩られら池のほとりで、美女が撃たれる瞬間!しかし、その刹那、景色は双眼鏡から消え失せる。果して、彼が見たのは何だったのか?推理小説マニアの雨宮先生は、学校でも放心状態の続く忠夫から事情を聞き出し、真相に迫る、、、乱歩や清張が引き合いに出される啓発味の強い作品。ある著名作のネタバレがあるので要注意。って、その作品が何かを言ってしまうと、こちらのネタバレになるところが辛いよなあ。須川忠夫君は、オヤジ趣味だが、なかなか等身大の中学生でいいぞお。
「かくしマイクのわな」名探偵千里悠介登場。小林少年役を務めるのは菊川吾郎。事件は、アライ電気の開発した画期的ダイオードの製法を巡る産業スパイ事件。そして、敵は産業スパイ界の若き帝王・大峰重造。吾郎の連れ・美代ちゃんが目撃したウインクする看板美人の謎とは?そして敵の懐深く潜入した千里探偵が仕掛けた罠とは?手に汗握る陰謀合戦の真の勝利者とは誰なのか?おおお、実に少年探偵団の香気を上手く昭和40年代(推定)に移植した作品ではないか。とにかく名探偵千里悠介のしたたかさに拍手喝采です。千里センセイ、ばんざーい。
「古屋敷ののろい」吾郎が双眼鏡でみた、老人の奇矯な日常。ある古屋敷の庭にある大木を慣れない腰つきで切り倒そうとしていた老人は、木が倒れると前後して自らも倒れ伏す。慌てて駆けつけた吾郎と千里探偵は、その屋敷に伝わる、先祖の財宝捜しに関わる事となるのだが、、どうも、少年は覗きがお好きという事のようで。暗号はシンプルかつエレガント、ラストのツイストも堂に入っており、教育的である。千里センセイ、ばんざーい。高原弘吉、ばんざーい。


2000年11月16日(木)

◆奈良さんに送本。後は宜しくお願いします。>私信
◆掲示板で政宗さんからご指摘。「深く潜れ」はまだ3話あるそうです。ご指摘ありがとうございまする。修正しました。うーん、さあ、ここで録画をやめちゃうかどうかだなあ。悩むところではある。
◆出掛けにたまたまテレビをつけたら、「今日は蠍座がいい日」だそうな。おお、これはちょっと期待できるかもと、幕張メッセ(国際放送機器展開催中)からの帰りに総武沿線チェック。私的に大血風。って、SNOOPY BOOKSなので、殆どの方は知ったこっちゃないであろう。全86冊中、あと14冊まで来ていたのだが、一気に7冊捕獲。漸くマジックといえるところまで来たかな。マジック7!残すところ、60番台2冊、70番台1冊、80番台4冊。やっぱり80番台はきついなあ。ついでに600頁もあるファンブック「スヌーピー生誕35周年記念編集:スーパースヌーピーブック」てな本もゲット。出ていた事もしらなんだわい。やはりこの世界奥が深い。私なんかまだまだです。文字の本では、土田さんに刺激を受けて源氏鶏太なんぞを買い始める。あとはダブりを中心に文庫を拾っていたら、最後にブックオフで当たりがあった。こんなところ。
「永遠の眠りに眠らしめよ」源氏鶏太(集英社文庫)200円
「招かれざる仲間たち」源氏鶏太(新潮文庫:帯)160円
「レモン色の月」源氏鶏太(新潮文庫)130円
「夢の女」源氏鶏太(桃源社)100円
d「妖魔の宴 狼男編1」菊地秀行編(竹書房文庫)100円
d「内なる殺人者」Jトンプソン(河出文庫)100円
「二つの学園」草川隆(秋元文庫)100円
「散歩する霊柩車」樹下太郎(光文社文庫)100円
d「金貨の首飾りをした女」鮎川哲也(角川文庫)120円
d「硝子の塔」鮎川哲也(光文社文庫)220円
d「悪魔博士」鮎川哲也(光文社文庫)200円
d「ステンレススチールラットの復讐」Hハリスン(サンリオSF文庫:フェア帯)500円
「大洞窟の謎」ボンゾン(偕成社)100円
「ショート・ショート・グランプリ」コバルト編集部編(コバルト文庫)100円
「龍神丸/豹の眼」高垣眸(講談社大衆文学館)600円
d「横溝正史読本」小林信彦編(角川文庫:初版・帯)300円
「シャーロック・ホームズ/クリスマスの依頼人」Lヒル、EDホック他(原書房)100円
d「愛すればこそ」デュ・モーリア(三笠書房:函)100円
で、小血風はこの2冊。
d「砂の城」鮎川哲也(中央公論社・初版)100円
d「わたしのすべては一人の男」ボワロー&ナルスジャック(早川ノベルズ)100円
鮎哲の30年代の初版本がまさか100円棚にあろうとは。難易度は低い方とは云え、まがりなりにも鮎哲、それも初版である。やってくれるぜ、ブックオフ!ボワナルも100円で買ったのは初めて。どちらも同じ人の蔵書らしく、読了日の書き込みあり。まあ、でも100円だし、これは買いでしょう!赤背の正史読本も帯付きは初体験。極美本で嬉しい。ぼちぼち買っていた偕成社のクロワ・ルス少年探偵団も10巻コンプリート。なるほど、テレビの星占いも捨てたものではない。

◆帰宅すると、不在者連絡票が。大矢博子女史からの宅急便。連絡表の「ナマモノ」という表記が妙に可笑しい。なんと21時過ぎに再度届けてくれた。これは凄く便利。中味は、書籍代金代わりのふみカード「ハローキティ25周年バージョン」。うわあ、これは使えんぞお。10年寝かせてキティラーのオークションにでも出すか?加えて、魔除け(?)の鈴つき直筆「お言葉」セット。「あしたはあしたの便が出る」ともう1枚。ああ、なんて罰当たりに面白いんだろう。これは、巷の大矢博子ファン垂涎のアイテムだと思うんだけどなあ。あと、なぜかお酒までつけて頂きましてありがとうございます。なんか高いものについたようで申し訳ございませんですう。

◆「危険とのデート/ソネ・タツヤ点鬼簿」山下諭一(三一書房)読了
「山下諭一といえば、カーター・ブラウンである。おわり」で、終ってしまってもいいのだが、まあ、そんな話である。ただ「山下諭一といえば、ピーター・ブルックである。おわり」といえるほどにはポルノではない。高度成長期の日本が、ひたすらアメリカに追いつき、追い越すのだと1億火の玉になっていた頃、米国防省防諜部の手引きで国外逃亡し、アメリカで気侭な私立探偵稼業を始めた快男児、ソネ・タツヤの暴力と硝煙、鮮血と女体、裏切りと策謀まみれの日々を綴った短編集第2弾。実は、第1作の「危険な標的」は未入手未読。ところが、この第2短編集の冒頭に作者による非常に良く出来た梗概がついているので、スムーズに作品世界に入っていくことができる。というか、これで無理して「危険な標的」を探さなくてもいいなあ、と思えるほどの出来栄えなのである。梗概が上手すぎるのも考え物である。
さて、第二作品集には16話が収録されているが、長さ10頁強の短編ばかり。主人公ソネ・タツヤが、柔道・空手・拳銃の腕前にものを言わせて、暗黒街の大立て者をあしらい、彼を執拗に付け回すジャックという名の殺し屋との決着をつけ、更に防諜部お墨付きというタツヤの後ガマを狙って襲い掛かってくる9名の殺し屋を次々と葬り(というか、その中の1名、ハット・ピン使いのマリリンとは懇ろになり)、北米から、中米、南米へと足を伸ばす。その途上でゲリラ事件や、山賊事件、密輸事件などに巻き込まれながらも、必ず勝利するタツヤ。そして再び舞い戻ったニューヨークで、シカゴのボス、ミスタ・クリスマスと最終対決、その仕事の後、アメリカにも愛想を尽かしたタツヤが日本帰国を匂わせるところで物語りは終る。
殺し屋達との闘いというシリーズ構成には、見るべきところもあるが、「なめくじに聞いてみろ」や「暗殺心」といった真の傑作の前にでると色褪せて見える。やはり、これは、ゲラゲラ笑いながら読み飛ばすべき話であろう。キャラクターの設定も明らかに実物の俳優に頼ったものが多く、ある作品に至っては、まさに有名女優その人を登場させるという安易さである。まあ、アメリカでニッポン男児が肉体派の金髪美人とよろしくやって、男は白人も黒人もガンガンぶっ殺す、なにせ防諜部のお墨付きだぜ、イエーーッ!!てな話が、昭和30年代の日本人の見果てぬ夢だったのかもしれない。無国籍お色気軽ハードボイルドがお好きな方はどうぞ。


2000年11月15日(水)

◆あーっ!政宗さんの日記を見てて気がついたんだけど、火曜日って何か録画してたよなあ、と思ったら「深く潜れ!」かあ。撮り逃がしちゃったよ。とほほ。気合いの入っていない積録はこれだから。昔はこういう事をやると自分を始め森羅万象を呪いたくなったものだが、最近は至って淡白。ネット>テレビという不等式の世界に身をおいて久しい故である。ビデオの普及はテレビ奴隷を解放したわけだが、ネットの普及はビデオ奴隷も解放しつつある。って、ただ御主人様を換えてるだけじゃん>今ネット奴隷。
◆残業。ちょっと一杯。雨。購入本0冊。帰宅すると奈良さんからの交換本が到着。ああ、つい慌ただしさにかまけて、こちらからはまだ発送できておりません。すみませんすみません。明日は必ず出します。
「カシノの秘密」ル・キュー(聚英閣)交換
今回、ダブっていない本をお輿入れさせるにあたり、奈良さんの交換本リストをみせてもらったのだが、これがもう「絶句!」もの。闘いの年期の差をつくづくと思い知らされましたわい。レベルが違いすぎるのだ。恐れ入りました。


◆「危ない恋人」藤木靖子(東都ミステリ)読了
宝石賞作家の第2長篇。どちらかといえ往年のジュニア作家というイメージが強く藤木靖子コンプリートなんぞを志すと、とても辛い闘いを強いられる(ようである)。あの趣味にうるさい黒白さんが「ラブ&ラブなぞのワンちゃんハッピー事件」だかなんだかそういう題名の大判の絵本もどきをゲットして「いやあ、アニキ!これからは『ラブ&ラブなぞのワンちゃんハッピー事件』の時代っすよお!!」と(半ばヤケクソで)喜んでいる姿を目のあたりにすると、その業の深さに慄くほかはないのである。ああ、恐ろしい。一体、このような作家の場合、どの辺りで収集の線を引けばよいのであろうか?鶴亀鶴亀。とりあえず、今回の作品は「高松弁で綴られたフランスミステリ」といった風情の作品で、それなりに楽しめた。「ラブ&ラブなぞのお手紙アンハッピー事件」とでも申しますか。こんな話。
冒頭、幾つかの書簡が並ぶ。レズがその相方に送った恋文、年甲斐もない母の恋愛に悩む娘からの人生相談、男から女に再会を望んだ礼状、嫁ぎ先での姑の虐めを母にこぼす娘からの手紙。そして、それら書簡にこの歪んだ痴情殺人事件の萌芽が総て含まれていたのだ。香川たか子は、婚家での姑の虐めに鬱々とした日々を送っていた。とはいえ、同居の義妹とはそれなりに上手くつきあい、中学教諭の夫はどこまでも優しい。そんな彼女の日常を一通の密告手紙が破壊する。「奥方様」の不倫を仄めかす文面を見たたか子は、彼女を傷物にした挙句放り出したかつての恋人・沖津の仕業ではないかと推理する。その頃、女の扱いに自信を持っている沖津は一人の女性にターゲットを絞っていた。オールドミスの公務員・中北小枝。貯蓄と土地投機に執念を燃やす小枝は、不動産屋である沖津の目には絶好のカモに映っていた。従妹のひろみとの禁断の愛にのめり込んでいる小枝は、沖津の金目当てのアプローチを冷ややかに見ながらも、身体の奥深いところで甘い疼きを感じていた。そして縺れた人間関係は破局に至る。沖津が神社の参道下で転落死体となって発見されたのだ!たか子の義妹・啓子の証言で、アリバイを否定されたたか子は第一容疑者として拘引されていく。だが、舞台裏では、禁断の愛ゆえの死を掛けた葛藤が繰り広げられていたのだ。果して、密告の主は?そして田舎のジゴロを死に追いやったのは誰なのか?
登場人物たちの小市民的な日常が崩壊していく様を多重視点でおったサスペンス。犯人像にもトリッキーなツイストを加え、最後までフーダニット興味も残したところは、さすが宝石賞作家。発想の原点がシンプルであり、それをこれだけ入り組んだ人間悲喜劇に仕立て上げる地力は賞賛に値しよう。全体に漂う貧乏臭さが、これまた昭和30年代の日本の田舎の雰囲気を良く伝えている。話し言葉が、はんなりした関西弁であり、硬質な地の文との対照も心地よい。疵は、多重視点故に、読者として誰に感情移入してよいかが定まらないうちに物語が終ってしまうところ。読み終えてどことなく散漫でアンフェアな印象が残るのはそのあたりが原因であろうか。NHK四国が丁寧に映像化すれば、引き立つ話なのかもしれない。とりあえず及第点をつけておきます。


2000年11月14日(火)

◆小雨。萎える心に鞭打って途中下車して一軒だけ定点観測。
d「さすらいのスターウルフ」Eハミルトン(早川SF文庫:帯)90円
d「緑の星のオデッセイ」PJファーマー(早川SF文庫:初版・帯)100円
d「ゼロのある死角」笠原卓(産報NV)100円
d「メグレ激怒する」Gシムノン(河出文庫:初版・帯)190円
「ロシアから愛を」高山洋治(集英社文庫)220円
「白妖村伝説」高山洋治(集英社文庫:帯)150円
d「りら荘事件」鮎川哲也(春陽文庫)170円
「五行道殺人事件」麗羅(徳間NV)100円
「微笑する悪魔」多岐川恭(光風NV:帯)100円
d「沈黙の函」鮎川哲也(光文社NV:初版)100円
d「最後のチャンス」EDホウク編(創元推理文庫)50円
「自殺クラブ」Rスティーヴンスン(講談社文庫)50円
ハミルトンとファーマーの帯が嬉しいところ。残念ながらハミルトンは2刷だったけど、これで創刊帯は3つめ。一体何番までついていたのだろうか?通し番号5番のファーマーまではあったってことだよなあ。2の征服王コナン、4の月の地底王国にもあったのであろう。それにしても、30年経って立て続けに入手できるかね。やはり、古くからのSFマニアが丁度死に頃って事なのだろうか?9月二刷のハミルトンについていたって事はその先もあったということなのか?うーん、悩むぞお。古手のSF者の情報求む。鮎哲の春陽文庫版「りら荘事件」も嬉しいかな。でもこれは新装版なので、こうなると旧版が欲しくなる。病気である。多岐川恭もなぜか縁のないタイトルだったので嬉しいところ。勢いに任せて中古ビデオも買い込む。
「銀星号事件」(NHK・VOOK)1000円
「ケンネル殺人事件」(NHK・VOOK)1000円
「冴子:新宿事件屋稼業」(MAXAM)1000円
NHKの2本はそろそろみかけなくなってきたので、買い時かと思い。「冴子」は内藤陳と藤原善明の共演というのに惹かれて発作買い。天本英世や鹿賀丈史も出ているとなると、期待は出来そうなんだけどなあ。この際、主役の常盤貴子はどうでもよいのである。


◆「バッファロー・ボックス」Fグルーバー(ポケミス)読了
グルーバーがウエスタンの名手であることは、多少なりとも翻訳ミステリを齧った事のある者なら心得ているところである。で、この作品は、「六番目の男」のような西部劇でありながら、マン・サーチャーものとパズラーの良さを備えた快作をものにしている作者の真骨頂ともいえる西部劇の香漂う私立探偵小説。おまけに、主人公が古本愛好家というのが、なんとも我々にとってツボである。おそらくよしだまさしさんや膳所さんあたりは偏愛している作品ではなかろうか。こんな話。
ハリウッドの私立探偵サイモン・ラッシュの元に、奇妙な依頼人がやってくる。小さなロバに跨ったさすらいの試掘者、なんとも時代はずれな格好をしたその依頼人は、自分がランスフォード・ヘイズティングズその人であると名乗り、精巧なバッファローの彫物が施された木箱を取り出し、持ち主を探して欲しいと告げる。ヘイスティングズといえば、100年前の西部史上の残酷物語「オレゴン、カリフォルニア両州への移住路」を書いた人間ではないか。サイモンは全くのヨタ話とその狂った依頼人を追い返すが、ふと立ち寄った馴染みの古本屋でその問題の書の作者署名初版本にぶち当たり、今度はその持ち込み人である美女エリザベス・ダンロップから最近なくしたバファロー・ボックスの探索を依頼されてしまうのであった。あからさまな符合にきな臭ささを感じ取ったサイモンは、エリザベスの依頼を受け、彼女の婚約者であるラジオ・パーソナリティ:ハロルド・ウエイドを尋ねる。なんと、彼の番組に先のヘイスティングズが出演していたというのだ。やがて事件は、1847年に雪に封じ込められた移住隊の一員アイザック・エカートが遺したとされる5万ドル分の金貨の争奪戦へと繋がっていく。そして、サイモンは自称ヘイスティングズの死体の第一発見者となってしまうのであった。現われては、消えるバッファローボックスに秘められた仕掛とは?西部移住史上の悪夢の継承者たちが繰り広げる遺産ゲームの勝者は果して誰なのか?
入れ替わり立ち代わり、エカートの末裔と目される人物が現われ、その全員が嘘をつきまくるというとんでもない展開に翻弄される。全編これ騙りに満ちた痛快私立探偵もの。宝捜しであり、歴史捜しであり、犯人捜しでもあるというサービスぶりに感心する。とてもポケミスにして190頁とは思えない密度であり、読み飛ばすとなにがなんだか判らなくなる事請け合い。また、同じ名前をもった人間がいて、混乱する事夥しい。フーダニットとしては、いきあたりばったりの部類であり、探偵も推理というよりは行動で真相に辿り着いた感がある。依頼を断りまくった主人公が最後にモノにする報酬にはニンマリだが、もう少し読者に優しく説明してくれよう。テンポの良さに惑わされずに、系図や証言をメモりながら読む事をお勧めします。実は、いまだにバッファロー・ボックスのやり取りが理解できていないのである。とほほ。


2000年11月13日(月)

◆BAR「黒白」さんとの合同オフはたちまち定員に達してしまいました。企画側と致しましては嬉しい一方で、参加を考えておられた方には真に申し訳なく感じております。二次会会場(拙宅)の収容能力と歩留まりから逆算した一次会の設定でしたが、思いのほか速攻で席が埋まってしまいました。合同オフのなせる業でありましょうか。とまれ、参加頂ける皆様とは多いに古本談義、もとい、ミステリ夜話で盛り上がりたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。
◆会社の送別イベントを仕切る。終了後、おお慌てで残り物をビールで流し込み後始末。酩酊モードにつき、直行で帰宅。購入本0冊。

◆「安達ケ原の鬼密室」歌野晶午(講談社NV)読了

新本格派といわれる作家の中で、最も島田荘司ばりの奇想を実践しているのがこの作者であろう。特に、長篇では「ROMMY」以降、短編では例の立風のアンソロジーに収録された作品(うう、本が平積みの一番下にあって、題名が確認できない)以降の、化けっぷりには瞠目すべきものがある。今、最も奇想を堪能したい人には、師匠である島田荘司を押しのけてこの作者を推す。さて、この作品も構成からして奇天烈である。それが、成功しているか否かはさておき、一編の芯となる現代の不可能犯罪を、戦時中に怪屋敷で起こったオカルト趣味溢れる連続猟奇密室殺人で挟み込み、更にその作品を、アメリカンに留学した女子高校生が遭遇したサイコな連続殺人で包み、更に更にその外側を、お子様向け教育啓蒙コントでコーティングしたという、とんでもない造りである。そしてその物語総ての底流を一つのキーワードが貫いているのである。
最も魅惑的な謎は、表題にもなっている安達ヶ原の鬼密室。時は、敗色濃厚な昭和20年夏、ところは、陸地と一本の道で繋がれただけの切り立った半島に建つとある素封家の別荘。そこに迷い込んだ少年の目前で展開される怪異と死のパノラマ。小さく高い窓、屋敷に住む老婆、閉じた中庭、二階の窓から現われ、そしていずこともなく消える身の丈5mの鬼。密室の撲殺、中空の縊死、あるものは虎に食われ、あるものは武者の鉾に貫かれ、腐臭の中、謎のエネルギーは皇国のつはものどもを地獄に招く。そして封じ込まれた記憶は半世紀後に開かれる。
実に贅沢なトリックの四重奏。数多くの怪異が、一本の補助線で鮮やかに解体されていく快感に酔う。これぞ新本格!ただ「ROMMY」「ブードゥー・チャイルド」と深みを増してきた人間描写が一歩後退して戯画化されてしまっているのは残念。これを奇想の原点に還る作者の意気込みとみるか、バカ・トリック(褒め言葉)ゆえの衒いとみるか。とりあえずは、この1トリックの華麗なるバリエーションを御堪能あれ。やんや、やんや。


2000年11月12日(日)

◆合同オフ会の案内を告知致しました。皆さん、ふるってご参加ください、って、そろそろ満席かも。
◆2駅分新京成定点観測。
「日本推理小説大系9 昭和後期編」(東都書房:函)500円
「壷中の天国」倉知淳(角川書店:帯)800円
「紙の牙」松本清張(ロマンブックス)300円
d「ある詩人への挽歌」Mイネス(教養文庫)100円
「ある日どこかのダンジョンで(上・下)」Gコスティキアン(電撃文庫)500円
d「架空幻想都市(上)」めるへんめーかー編(ログアウト文庫)250円
「ガイア・ギア(4)」富野由悠季(角川スニーカー文庫)250円
d「内なる殺人者」Jトンプソン(河出文庫)100円
「名探偵の憂鬱」山前譲編(青樹社文庫)250円
「ケイゾク/小説・完全版」西荻弓絵(光進社:帯)700円
東都書房の大系が500円なら買いでしょう。倉知淳のピカピカの新刊も半額以下は嬉しい。「紙の牙」は昔のロマンブックスだったので捕獲。「架空幻想都市(上)」以前は全く見掛けない本だったのだが、これでダブりが3冊目。交換でなんとか手に入れた本なのになあ。

◆「ケイゾク・特別編」視聴。うわあ、全員生きてるじゃん!?そんなのあり?話は大長編。密室あり、ダイイングメッセージあり、アリバイ崩しあり、少々オカルトもありで非常に盛りだくさん。説明をあっさり済ませてしまうところがテレビばなれしている。で、思わせぶりの狐面と偽住職の説明はどうなったねん?ラストは、本編のパロディですな。

◆「朱房の鷹」泡坂妻夫(文藝春秋)読了
前日の勢いで宝引きの辰シリーズ第4作を手に取ってみた。気がつけば、これとても昨年の出版だったのか。うーむ、新作老い易く、読なりがたり。8編収録。以下ミニコメ。
「朱房の鷹」将軍様お気に入りの鷹が殺される。動機は、鷹匠の横暴に耐え兼ねた庶民の怒りか?だが、辰は思いもかけない「真相」を手繰り当てるのだった。初々しい釣り師と辰の娘・景の交感ぶりがよい。
「笠秋草」紫染屋の二階。人気も火の気もない若旦那の部屋に行灯を点したのは人か、物の怪か?笠に撫子の花を盛り込んだ洒落た柄の紋は何を語るのか?紋章絵師と手品師という作者の知識と経験が生きる作品。
「角平市松」江戸の街に突如流行りだした斬新な市松模様を考案した男・角平。その角平の行方捜しと、男の髷を結った女の死体の謎を追う辰。これも、仕立てや小紋についての作者の蘊蓄が光る話。尤も、推理部分は肩透かしだが。
「この手かさね」年上の後家を手なずけちゃっかり旦那となった噺家が殺される。辰は容疑者たちを前に、何故か十五年前の殺しの絵解きを始めるのだった。噺家仲間が惚れていた常盤津の師匠が残した「この手かさね」の柄帯に秘められた奇縁が感動を呼ぶ。これも和服に関する知識で一本ものにした作品。ただ3本続くと読んでいる方としては「またか」という思いが先にたつ。
「墓磨きの怪」墓を十個ずつ磨いていく物の怪の正体とは?狐狸か、ぬっぺぼうか、はたまた人か?ホームズものを思わせる魅惑的な謎が楽しい作品。事件解決後の後日談までが微笑ましい。
「天狗飛び」辰たちが富士登山に出るという珍しい旅モノ。次々と災難に見舞われる一行。何年か前にも起こった天狗による人攫いの真相とは?作者の処女作を彷彿とする一編。円熟の境地と呼んでおきましょう。
「にっころ河岸」膝の上の生首に櫛を入れる人影と、橋の真ん中から消える鎧武者という島田荘司ばりのオカルト・ミステリ。幼い頃に隠れ里に迷い込んだ若者が語る不思議を辰の推理が解き明かす。推理小説としては、この作品集のベスト。
「面影蛍」蛍合戦で、辰に酒を振る舞う大店の主の一人がたり。幽玄という言葉はこういう作品のためにあるのだ。作者の語りに酔う逸品。ところでこれって最初から辰ものだったのだろうか?随分と異色作である。しかし、作品集のラストを飾るに相応しい作品でもある。


2000年11月11日(土)

◆金曜の夜に変則的な睡眠時間をとったので、早朝、というか夜中にせっせと日記書きなど。時間があったのでつい「いっちょかみ」してしまうが、まあ、碌な結果にはならない。黙々と本を買って、読んで、感想書く事に専念しーようっと。あ、そうそう、一言だけ、相手がママさんならいつでも貸し出しはOKですが、「絶版○○図書館」というのは「馬から落馬」ではないでしょうかねえ>安田ママさん。通常の図書館の本の9割は絶版のような気がするのですが?
◆20年代、30年代の和物ミステリが増えてきたので、棚の構成をいじる。これまで「特等席」の一角を占めてきた島田荘司のノベルズ本を棚上に平積みにする。これからは普通の扱いにさせて頂きましょう。代わりに30年代作家のノベルズなどを並べてみる。うーん、このくすみ具合がなんとも言えませんのう、いやはや。ああ、幸せ。
◆一駅だけ総武線定点観測。
「救いの死」Mケネディ(国書刊行会:帯)1600円
「結末のない事件」Lブルース(新樹社:帯)1000円
「四次元立方体」Aガーランド(角川書店)500円
「送り絵美人 津軽殺人風土記」赤石宏(北の街社:帯)350円
ああ、ピカピカの翻訳新刊がもう古本落ちしている。先日、書店で買ったばかりの「永久の別れのために」まで半額じゃないか!!意地を張ろうかとも思ったが、2冊で1800円の節約となると、買わずにはいられない。済みませんねえ。「送り絵美人」は以前から存在は知っていた本。地元では幾らでもあるのだろうが、実物は初見。奥付けを見て再版だったので驚く。ゲテミスではない堂々たる地方出版物ですな。帯の煽りによれば、月刊<北の街>に連載されている連作推理小説、らしい。目次を見ると「地獄のわらべ唄」とか、「生首肥料」とか、なかなか食指をそそる題名が踊っている。ちょっと幸せかも。

◆「ケイゾク」最終話視聴。悲愴味満載のラスト。そういう終らせ方するかな?この終り方では、リアルタイム視聴者は相当フラストレーション溜まったろうなあ。最後のエピローグは更に辛い。沙粧妙子みたく一旦はきちんとケリをつけて欲しいぞ。

◆「凧を見る武士」泡坂妻夫(NHK出版)読了
この本の出版が95年。丁度「宝引きの辰捕者帳」がNHKの金曜時代劇枠で放映されていた時に、未収録作2編に書き下ろし2編を加えて緊急出版されたもの。NHKの捕物帖はスタジオ収録ののっぺりした画面が苦手で、せいぜい「なにわの源蔵」「御宿かわせみ」「ふりむくな鶴吉」てなところしか見ていなのだが、帯をみると小林薫が辰を演じた模様。結構好きな男優なので、見ればよかったかなあ、と思う反面、このシリーズの売りの一つである、毎話の語り手を変えるという趣向をきちんと踏襲したとも思えないので、見なくて正解だったのか。泡坂作品の映像化という意味では一度は見ておくべきだったかも。民放のドラマが比較的ビデオ化やすいのに対し、NHKドラマは一度見逃すと後が大変である。日本最強のライブラリーの筈なんだけどなあ。
さて、この作品集であるが、語り口の上手さでは定評のある泡坂妻夫の事、実に安心して読める「捕物帖」もとい「捕者帳」である。「物」ではなくて「者」であるところに、作者の人間通としての矜持が見えて微笑ましい。ワープロだと変換しにくくて困るところが玉に疵ではあるが。以下、ミニコメ。
「とんぼ玉異聞」江戸に出回る禁制の「とんぼ玉」の出所を追う辰。宝の在り処を示す書き付けを手に入れ、呪われた陵墓に臨むのだが、、一瞬の逆転劇が素晴らしい。一体、何が起こったのかと唖然とする。<植木屋の算治>登場編としても重要な話。
「雛の宵宮」大店に奉公する若い女中が語る、「転び雛」の謎。女雛と左大臣を転がしたのは誰か?そして何のために?事件を聞くなり真相に辿りつく辰の慧眼が凄い。その後の「裁き」は少々生臭の感もあるが、ラストの一言の見事さが読後感を良いものにした。
「幽霊太夫」無理心中で逝った太夫の霊が出るという噂の真相とは?店の命運を掛けた奇矯な大勝負の結末は、さすがの辰にも止める事ができなかった。面白く読めるが、やや説明不足。「絵」の美しさに絵解きがおろそかになった感あり。
「凧をみる武士」通常の3倍の頁数があるシリーズ唯一の中編。子供同士の凧勝負は、やがて相次いで武家屋敷から飛んだ10両付きの凧の謎に行き着く。そして因果の連鎖は、とある一家離散へと辰たちを導く。恩讐の糸、悲恋の糸、慕情と羞恥の糸、乱れ縺れた糸は果して、解されるのか、断ち切られるのか?なんともやるせない因果物。長丁場を持たせるために、「奇縁」を持ち込んだのは少々頂けないが読まされてしまう。巧い。