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2000年10月31日(火)

◆扶桑社から日下さんの企画した「秘宝」シリーズが出たらしく、特にともさんのところでは掲示板に喜びの声が続々と寄せられている。和むよなあ。うーむ、なんちゅうか、うちで宣伝してもなあ「『殺人狂時代』のスチール入りなら考えるで」とか「『飢えた遺産』に復題せんかい」みたいな人達ばっかりだもんなあ。とりあえず「売れ行き次第で『凄い』のも出るかもしれませんので、皆さん、本屋で買うように心がけましょう。」って感じですかあ?
◆近所のブックオフがバーゲンの最終日。「半額文庫が200円均一!」「100円単行本は2冊で100円!」ということでゴソゴソと買い込む。
d「世界パロディ傑作選」風見・安田編(講談社文庫)100円
「ガラマサどん」佐々木邦(講談社大衆文学館)100円
「獣儀式」友成純一(幻冬舎アウトロー文庫)200円
「最低の犯罪」Rヒル(光文社文庫)200円
「鋼鉄の軍神」Lディヴィス(光文社文庫)200円
「シュビラの日」PKディック(早川SF文庫)200円
「少女怪談」東理夫編(学研M文庫)200円
「ゆきどまり」(祥伝社文庫)200円
「霊名イザヤ」愛川晶(角川書店)50円
「本の雑誌風雲録」目黒孝二(本の雑誌社)50円
ファルコの「鋼鉄」を買う。一体いつになったらここまで辿りつくのか?ふぅ。とりあえず、明日も別の課題図書(爆)。翻訳ものの新刊に追いつけなくて、カーの新訳も溜まる一方。原書で読んでいたり旧訳で読んでいたり。カーを積読!かーとぅーん・どっく!おお漫画博士!ーって、ここはマンガ喫茶か?(>わからん!爆)うーん、結構この文体は文体で難しいですのう(<お前、閑やろ?)。「獣儀式」や「少女怪談」など文庫化に際して増補したものは、こういう機会に買うに限る。100円だったので佐々木邦なんてものも買ってしまう。ああ、転落の始まりか?半年後には若山三郎を、1年後には源氏鶏太を集めていそうな。…いやだーー!


◆「東京2065」生島治郎(早川SFシリーズ)読了
生島治郎といえば小泉喜美子ファンからは蛇蝎の如く嫌われている元ミステリマガジン編集長。そのSFを集めた作品集がこれである。小泉太郎名では何作かSFの翻訳もある(チャド・オリバーとか)筈だが、正面切ってのSFというのは数少ないのではなかろうか?その辺り、一級のSFの書き手でもある初代編集長に器用さではかなわないといったところか?まあ、都筑道夫に器用さで勝つ作家なぞ、そうはいない、というか誰かいたっけ?それはさておき、冒険作家・ハードボイルド作家稼業の合間に肩の力を抜いて楽しみながら書いた感のある懐かしい香りのする作品が並ぶ。特に表題作であるSFお色気ハードボイルド連作「東京2065」はB級のいい味を出している(もっとも、これとても「未来警察殺人課」の足元にも及ばない作品ではあるのだが)。以下、ミニコメ。
「前世」猿の頭脳を飛躍的に発達させる薬の実験施設秘話。このオチしかないというものだが、怒りと哀愁がよくかけていて吉。
「いやな奴」これもオチがみえみえ。自らの性生活をダシにした著作でヒットをとばすかつての名冒険小説家に読ませてやりたいぞ。
「世代革命」どこか眉村卓を思わせる小気味よいサラリーマン革命もの。オチは結構なのだが、この先どうなるのかの辻褄が辛い。
「ゆたかな眠りを」冷凍睡眠ものだが、味悪。
「ショート・ショート集」「遺伝」と「大脱走」の切れ味がよい。
「過去の女」ハインラインのぱくりと見た。
「夢幻器」なかなかの語り口。オチは読める。
「MAMMY−O」小味なショッカー。結語が説明調なのが残念。
「東京2065」『国際警察機構』の潜入捜査官日高と天才ロボット科学者クサカベの闘いを描いたお色気B級ハードボイルド連作。人間そっくりのロボットを作り、日高を抹殺しようとしては、退けられるクサカベは、特撮ヒーローものの敵首魁というノリで楽しみながら読めた。登場編の「冷たい訪問者」では伏線の引き方が光り、「狂い咲き」ではオカマの純愛ぶりが吉、「甘い夢」は風太郎忍法帖ばりの性愛合戦が笑え、「ペットの好きな女」ではある純愛がなかせる(といってもセクハラの極みではあるのだが)。「非行少年」はコンゲームとして上々の出来栄え。発想としてはこの連作のベストだが、危機からの脱出ぶりが今ひとつ。「老人と爆弾」は人情ものとしてよく出来ている。
総論:全体的には可もなし、不可もなし。SFを初めて読む人が読めばびっくりするかもしれないが、今となっては「生島治郎のSF」というキワ物興味でしか読まれる事はなかろう。やはり表題作の脳天気ぶりが、時代の証言者として貴重か。


2000年10月30日(月)

◆休日遊び過ぎ。寝不足の1日。少し残業が入ったので、南砂町定点観測のみ。
d「鍵孔のない扉」鮎川哲也(角川文庫)230円
d「推理教室」江戸川乱歩編(河出文庫)240円
d「探偵小説の世紀(上)」チェスタトン編(創元推理文庫:帯)325円
d「探偵小説の世紀(下)」チェスタトン編(創元推理文庫)365円
d「列車の死」FWクロフツ(早川ミステリ文庫)250円
d「ヴォスパー号の遭難」FWクロフツ(早川ミステリ文庫)210円
「みささぎ盗賊」山田風太郎(ハルキ文庫)310円
d「血の季節」小泉喜美子(文春文庫:帯)50円
「殺すもの殺されるもの」大藪春彦(浪速書房)100円
「電気脳」唐十郎(文藝春秋:帯)100円
「探偵小説の世紀」がちょっと嬉しいかな。2冊揃いで出てくる事は珍しい。「みささぎ盗賊」は収録作を全部他で持っているので新刊ではスルーしていた本。なんとなく納まりが悪いので今のうちに買っておく。この辺りも10年後にはコレクターズアイテムなんだろうなあ。「広済堂文庫の山田風太郎も時代ものと推理もので背表紙の色を使い分けていた頃のものがコレクターから「茶背」とか「黄背」とかいわれたりすんだよね、きっと」というのは、某古本市での会話。ああ、業が深い。

未読王さんの日記を見て歯ぎしり。なんと私が「翌日行く」という話をまゆの店長から聞いて、梁取三義の『淫神邪教事件』をダブリ承知で衝動的に買ってしまったとか。うがああ、ありか、それ?ええ、2800円なら喜んで買いましたとも!

◆「死は囁く」F&Rロックリッジ(現代推理小説全集)読了
ノース夫妻シリーズ第17作。他の翻訳作が初期作なのに対して、これは植草甚一の趣味で当時の近作の中からセレクションされたもの。このノース夫妻シリーズ、米風コージー・ミステリのはしりとでも申し上げるべきか。同じ夫婦ものでも、どこか20年代の華麗と退廃を纏ったかのようなライスのヘレンとジェイクとは異なり、ノース夫妻は実に実に健全である。出版社を経営し、自宅で3匹のシャム猫を飼い、気心の知れた友人を多数持つ相思相愛のカップルである二人は「揺るぎなきアメリカ」の象徴のようにも思える。このシリーズが息長く米国で愛されたのは、なにも映画やラジオドラマというメディア・ミックス戦略の成功ばかりではあるまい。この作品は、殺人者にパメラが誘拐されてしまい、ジェラルドが必死にそれを追うという趣向で読者サービスに努めている。こんな話。
夫ジェラルドは出張中。自分も週末旅行から戻ってきたパメラは、自分宛の大きな封筒を見て不審に思う。中から出てきたのはレコード。一体何が録音されているかと深夜の会社に出かけそれを再生したところ、男女の会話が聞こえてきた。殺人者である男と被害者である女。なんとそれは殺人場面を録音したものだったのだ!レコードを抱きしめ慄然とするパメラ。だが、その時既に魔の手は彼女に迫っていたのだ!一方、夫妻の親友であるウェイガンド警部は、ケチなこそ泥棒ハリー・イートン殺しを追っていた。かつて自分の原稿をあちこちの出版社に送りつけた事もあるイートン。その自宅あった、分不相応なディクタホンに目をつけた警部は、製造元から、早熟の閨秀詩人ヒルダ・ゴドウィンに迫る。だが、ヒルダは不在であり、彼女の友人たちも行方を知らなかった。電話に出ない妻を不審に思いおお慌てで出張から帰ってきたジェラルドも、会社の守衛の証言から、パメラが失踪の夜抱えていた大きな白い封筒の正体がレコードだと見抜くのだが……監禁されたパメラからレコードの在り処を聞き出そうとする姿なき殺人者、追跡者たちと逃亡者の糸は二重三重に交錯し、闇の中で「死」は囁く。
追いつ追われつのサスペンスに力点をおいた小品。一応、被害者や容疑者が出版関係者であるので、「消えた処女小説の原稿」というビブリオ・ミステリな部分もある。半分倒叙で描かれているので、気にならないが、ウィガンド警部の勘の良さは少々御都合主義かも。フーダニットの楽しさも兼ね備えてはいるが、犯人の特定は純粋心理的手法(あてずっぽ、ともいう)なので、やや食い足りない。ただ、ノース夫妻がお互いに寄せる信頼感や、猫たちのとの交感ぶりは微笑ましくハッピーエンドとも相俟って、幸せな気持ちでこの殺人物語を読み終えることができる。コージー・ミステリ・ファンはお試しあれ。
それにしても感心したのは、この書の植草解説。駆け足ながらもここに至るロックリッジの作品を7割ぐらい読んだ上でのコメントを加えているのだ。やはり凄いおっちゃんである。ついでに瑣末ネタ。巻末の世界推理小説全集の目録がこれまた「未刊の帝王」状態なのだが、なんとマシュー・ヘッドの第1作が「金の臭い」という仮題で候補にあがっているのには驚いた。うーん、未刊が悔やまれるところ。


2000年10月28日(土)・29日(日)

◆という訳で、愛知県は犬山遊園「臨江館」で開催されるEQFCの全国大会に向う。折角、名古屋までいくのであれば、古本まゆさんとか名古屋の古本屋を回りたいものじゃわいと思っていたら、中村忠司さんが車を出してくれるというのでルンルン気分。EQFCのオークション用や中村さんへの手土産用にダブリ本を詰め込んで、ごう!11時に名古屋駅前の結婚式場の近くで拾ってもらい「おまかせ」であれこれご案内頂く。既に中村さんの日記に詳細が書かれている上に、右も左も判らない状況なので、淡々と釣果を記す。助手席の窓から名古屋城と金をシャチホコを覗いたのみで「観光」を切り上げ、ブックオフ名古屋黒川店へ。まあ、通常の規模。
d「笑い陰陽師」山田風太郎(光文社カッパNV)100円
d「蒼いくちづけ」神林長平(光文社文庫)100円
d「親切がいっぱい」神林長平(光文社文庫)100円
続いて名古屋古書会館を覗くが本日はお休み。では、鶴舞の古本屋街でも、と思った頃から雨が落ちてくる。車の停めようもないので1軒のみのチェック。なんでもこの辺りは「くりさん」のシマらしいので、期待薄。戦前のトンデモ本が面白そうだったがパス。続いて上前津へ向う。ここで、ミステリマニアとしては押さえておきたい2店をチェック。一軒目の三松堂では、店の奥の棚にペーパーバックの山を発見。見ればどれも「東京泰文社」のシールが貼ってあるではないか!!おお!お値段も手頃だったので、カバー・アートがよさげなところを何冊か拾う。
「The Saint in New York」L.Carteris(Avon)200円
「The Saint Meets His Match」L.Carteris(Avon)200円
「Arrest the Saint 」L.Carteris(Avon)200円
「Saint Overboard」L.Carteris(Avon)200円
「The Egyptian Cross Mystery」E.Queen(Pocket Book)200円
「The Devil to Pay」E.Queen(Pocket Book)200円
「Calendar of Crime」E.Queen(Pocket Book)200円
うーん、これは泰文社よりも安いぞお。続いてもう1軒、マニア御用達の「亜希書房」へ、おお、これは目の保養になるぞ。「新青年」や「猟奇」などが非常にお買い得価格で並んでいるが、手は出さないもんね。あれこれ悩むが見たことがない1冊のみ拾う
「砂」綿谷雪(光書房)1000円
外人部隊を舞台にした話らしい。雨も本降りになってきたので、この2店で切り上げ、最大の目的地である「古本まゆ」さんに向う。途中、味噌煮込みうどんの老舗で昼食をとり、中村さんにお土産を手渡し。市内から車で30分、名古屋大学を右手に見ながら快調に「古本まゆ」さんに到着。予め、中村さんからメールで連絡して頂いていたので、早速にご主人から歓待を受ける。店内をじっくり見せてもらい、コーヒーを片手にあれこれと古本話。カー話とか店名縁起とか。「名古屋のミステリマニアにお手頃価格で」という思いで開店されたが、「これ!」という本はネット通販の方で捌けることが殆どとか。名古屋のマニアには頑張って頂きたいものである。奥の棚を中心に何冊か買わせてもらうが、ここでとんでもない「お買い得品」に当たる。
「吸われざる唇」多岐川恭(講談社・帯)3000円
「二月の悲劇」角田喜久雄(桃源社:函)3000円
「おんな対FBI」Pチェイニイ(久保書店QTブックス)1500円
d「モスコー殺人事件」Aガーヴ(時事通信社)2500円
あああ、余りの安さに「モスコー」をダブって買ってしまった。専門店で5千円以下ではない本が、この専門店中の専門店でこの値段!!思わず「いいんですか?この値段で?」と尋ねたが、「どうぞ」と勧められたので、遠慮なく買わせて頂く。どーもです。バーナビー・ロスの「紙魚殺人事件」などのショーケースの中の本も見せて貰えてラッキー、ハッピーな1時間を過ごす。
そのあと2軒ほどリサイクル系を案内してもらうが、ここではさしたるものなし。復路で思わぬ渋滞に巻き込まれるが、なんとか5時20分ぐらいに名古屋駅まで送ってもらい中村さんとお別れ、おお慌てで名鉄に急ぐ。

◆新名古屋17時30分の特急で犬山遊園へ。現地に到着する頃には、完全に暮れ果て、そぼ降る雨の中、人通りのない木曽川河畔を宿に向う。開宴ギリギリに宴会場に飛び込みセーフ。さあ!EQFC20周年全国大会の始まり始まりいい。斉藤会長、Moriwaki一家、横堀一家、静草さん、木林さん、西山さん、中尾さん、といったお馴染みの東京例会メンバーに、名古屋から下村さんと久米さん、京大ミステリ研の薗田少年、大阪から来た女性・加藤さん、最も遠い処からやってこられたのが広島の政宗さん!ガッツだぜ。Moriwakiさんと奥の末席に陣取った私は、ひたすらMoriwaki氏とビールをぐびぐび。始まった自己紹介にいちいち突っ込みをいれては、おおはしゃぎ。私の昼間の釣果を広げるとわらわらと集まってくる面々。これこれ、宴席ですぞ。って広げた私が悪いのだが。中尾さんに、先日のまとめ買いでダブった「かっぱマガジン」のRスタウト掲載号をプレゼント。このうえなく喜んで頂き、こちらもニンマリ。きちんと2時間の宴会をこなしてから、別室に集まり企画開始!第1弾は「犯罪者組合」なるクイーンの犯人当てラジオドラマ。それぞれに配役を振って、いざ朗読スタート。大阪の加藤さん演じるアニメ声のニッキーがひときわ注目を集める。だが、私は次の出し物の翻訳チェックに気をとられ、いい加減な答でお茶を濁す。ここでは下村長老と薗田少年が正解に辿りつく。が、個人的には納得いかんぞおお!Moriwaki夫人の回答が一番可笑しかった。お風呂タイムの後、今度は今回の合宿の目玉、映画版「十日間の不思議」(101分)の上映会を開催。かなり歳をくったエラリー役には違和感を感じつつも、オーソン・ウェルズとアンソニー・パーキンスの嵌まりぶりに感心する。どこまでも原作に忠実に作られた作品なので、字幕がなくてもなんとなく判るが、反面、アクションのかけらもないストーリーなので、展開が単調なうえに、ひたすら登場人物達が英語で喋りまくるため、ビールの酔いも手伝って徐々にうつらうつら。物語の前半はなんとか付き合えたが、後半は爆睡モードになってしまった。うう。でも全部見た人によれば「寝てても一緒」との事だったので安心する。企画第3弾は、犯人当て紙芝居「荒れ狂う墓」。なんと6頁のアメリカン・コミックの一コマ一コマを思い切り拡大カラーコピーして紙芝居状にしたという斉藤会長の大労作。これには正直頭が下がる。私の読み上げで、わいわいと話を進めるが、これも相当のトンデモ話。斉藤会長は「いやあ、やっぱり、アメリカは、クイーンは凄いよねえ」とフォローするものの、余りといえば余りの正解に空いた口が塞がらない一同であった。「いやあ、第一の殺人がブロンドザウルスの仕業というところまでは判ったのですが、第二の殺人との辻褄が」と真顔でいうMoriwakiさんが馬鹿受け。読み手の特権で、予め問題編を熟読していた私は「一応の正解」に辿りつき、供出本の中から景品を獲得。
「The Door Between」E.Queen(Pocket Book)頂き!
引き続いて、Moriwakiさんの仕切りによるオークションを開催。殆どがクイーン絡みの出品物で、皆さん思い思いの本を落していく中、とんでもないものがオークションに掛けられる。2年前に会誌で「Xの悲劇」を特集した際にMoriwakiさんが、膨大な時間と手間をかけて作成した「『Xの悲劇』の兇器」!コルクボールに何十本という針を埋め込んだ、非常に危なっかしいものである。この機会を逃してはと、この晩、唯一本気で競りに参加、めでたく1000円で私が落した。これは写真を貼っておきましょう。これ。
あと「And On the Eighth Day」の最初のペーパーバックを250円で落手。まあ、こんなところですか。そのあとは横堀夫人の作った「題名カードゲーム」「題名あてクイズ」と続き、3時も回ったのでそろそろお開きにしますか、と部屋に引き上げかけると、Moriwaki夫人、静草さん、木林さんの女性軍団が断固として「マーダーゲーム、やるべし!!」と引き止めに走る。その情熱にほだされて2度ほど深夜の「マーダーゲーム」を強行開催。私には探偵役がまわってきたが、あっさり外してしまう。とほほ。さすがに、3時半には一旦お開きとなるが、実は女性陣はそのまま「朝までクイーン」談義に花をさかせていたそうな。うわっ、タフじゃのう〜。8時に起床して、しこたま朝飯を食べ、一風呂浴びて、9時から最後の全体企画に臨む面々。再びラジオドラマ「私立探偵」。典型的なハードボイルド調の私立探偵がニッキーにちょっかいを出すフーダニット。エラリーの嫉妬ぶりが楽しいのだが、実は延々30分の熱演の後、さあ、解決編は?という全員の期待を裏切る衝撃の結末!なんとこのドラマは、問題編のみの脚本が古本屋に出回ったものらしく、解答篇がついてないのである!!うわあ、やられたあ。それでも、思い思いに犯人を推理するEQFCのメンバー。もう、病気というか、真面目というか。10時半には宿の前で集合写真をとって解散。犬山城に向う家族連れチーム、京都で法月・綾辻両氏と落ち合う会長と関西・名古屋チーム、そのまま帰京チームに分かれる。「10年後、いや5年後に、また全国大会で会いましょう!!」
◆私は、静草さん、木林さんとともに、名古屋まで同道の後、下村さんお手製の「名古屋古本地図」を持って2軒のみチェック。一軒は、覚王寺の「SPOOKY」。開店が12時というので、15分程コーヒー店で時間潰しの後、覗かせてもらう。なかなかの品揃えと良心的な価格に感心。ラインナップは中野ブロードウエイの「わたなべ古書店」に通じるものを感じる。周囲の店も含めて若向きの怪しげな雰囲気がそっくりである。ここでは名刺代わりに2冊購入。
「The Blind Barber」J.D.Carr(Collier Books)100円
「ラジオスター・レストラン」寮美千子(パロル社)300円
名古屋に戻る途中で、5月にオープンしたばかりとのふれ込みのブックオフ・新栄店を目指すが、なんとここは既に潰れていてもぬけの空だった。うーーーん、ちょっとショック。名古屋駅の地下で味噌カツの昼飯を済ませ、2時のひかりで帰京。読書タイムのつもりで「不可解な事件」を買い求めたものの、2話読んだところで爆睡してしまったのは「お約束」である。八重洲地下を一応チェックして、帰宅したのが17時過ぎ。いやあ、古本漬け・EQ漬けの2日間でした。古本屋をご案内頂いた中村さん、どうもありがとうございます。EQFCの面々、お疲れ様でしたああ!!また遊んでね。


◆「殺意の惑星」Hハリスン(ハヤカワSFシリーズ)読了
ハヤカワSFシリーズとしては最末期の作品であるが故に「後期作」という印象があったのだが、蓋をあけてみるとなんと作者の最初期作だそうな。ノンシリーズではあるものの、いかにもシリーズ化できそうなキャラクターの立たせっぷりに作者のエンタテナーとしての天才を見る。印象としては出世作である「死の世界」に極めて近く、星野之宣のBEMものに通じる完成度が頼もしい作品である。こんな話。
後進惑星の一つアンヴァール。その星の英雄である「二十種競技」の優勝者ブライオン・ブランド。漸く栄光の座に辿り着いた彼の元に一人の男がやってくる。男の名はイージェル。かつての「二十種競技」優勝者である。そしてイジェールはブライオンに、ある惑星の危機を救って欲しいと協力を要請する。同じエンパス能力を持つイジェールの思いを受け取ったブライアンは、戦争とは名ばかりの虐殺の危機に瀕した灼熱の惑星に降り立つ。過酷な自然とそれゆえの奇態な生態系を持つ惑星ディス。原始的な文化しか持たない筈のディス人が、どこからか調達したコバルト爆弾をもって平和主義者の隣星ニーヨルドに宣戦布告を行ったのだ。やむを得ず応戦するニーヨルドは大艦隊を編成し、ディス側の与えた3日の猶予期間が過ぎ、ひとたびディス人が攻撃を開始するや、ディスを死の星へと葬り去る準備を整えていた。このディスの自殺的ともいえる行動の背景にはなにがあるのか?命懸けでディスの支配者階級マクダーとの接触を図ろうとするブライオン。だが、どこまでも攻撃的なマクダーの振る舞いはブライオンの理解を超越したものだった。灼熱の血風ふきすさぶ中、女性生物学者リーとともにディスの生き物たちの謎に迫るブライオン。だが、時の刻みは冷酷に0時間を目指す。
どこまでも力強くそしてストイックなヒーロー、命を懸けた男同士の「信頼」と「友情」、強靭さと脆さを兼ね備えたヒロイン、息をもつかせぬスピーディーな展開、意表をつくエコロジカルなSFガジェット、そして心地よくもツイストを効かせた結末。娯楽小説はかく在って欲しいという作品である。タフネスの固まりである主人公の純情ぶりが微笑ましく、ハリウッドスタイルの恋愛ものとしても楽しく読める。お勧め。

◆「不可解な事件」倉阪鬼一郎(幻冬舎文庫)読了
こんばんは、黒猫の「いであ」です。クラニーせんせいが、文庫書き下ろしでまた「いなか」をぶたいにした作品集をだしました。前の「田舎の事件」がとても面白かったので、今回もkashibaくんは期待して手にとったようです。クラニーせんせいは、今の日本のしゃかいのかかっているビョーキを、「いなか」というお皿に結晶化させて、みんなの笑いをとるのがとてもじょうずです。こんどのご本では、前回よりもさらに「死」が身近になっていて、ますますこの国のビョージョーがわるくなっているのが判ります。どんどん電波もこじれていて、お笑いとせなか合わせの「心のやみ」に「おもしろうてやがておぞましき『いなか』かな」と思った人も多いのではないでしょうか?「いであ」の尾は黒ですが、この本はおもしろいです。以下、ひとことコメントです。
「切断」ミステリ系サイトを運営している身の上としては、身につまされっぱなしの佳編。ネットおたくの生態が残酷なまでに鮮やかに描かれている。文学的教養に乏しく、エンタテイメントしか読んでいない自分にとって実に痛い話。ええ、どうせ私はオタク顔ですよーだ。それにしても「ぴぶる」なるHNや「ルマーチャンド」ネタを思いつけるとはミス研出身は伊達じゃないっす。
「招き猫の殺人」企業と夫婦の欺瞞を暴く名作。かくも社会の真実を透徹しながら映像的な馬鹿ばかしさがこれまた天下一品。中味のないハンサムを苛め抜く傍ら、エロオヤヂどもを糾弾し、色魔の妻や似非アイデアメーカーの社長などを切り捨てる作者の筆の鋭さ痛さよ。
「密室の蝿」あるあるー、こんな推理小説。ちょいと「大いなる助走」の加瀬ネタを彷彿としてしまった。ここでも「文化」と「哲学」がとことんおちょくり倒される。この作中作のらしさには、物識りクラニーの面目躍如たるものがある。読んでみたいような、どうせ積読になるような。
「一本道の殺意」クラニー流「赤い部屋」。被害者の良妻ぶりは、ほのぼのと羨ましい。身勝手な主人公に共感している自分が少し嫌いになる。残酷でありながらどこまでも長閑な雰囲気が可笑しく、そして怖い。
「赤い斜線」会話小説。実験的な話ではあるが、味悪感が強い。基本的に諍いに付合わされるのが厭なのだな、私は。「街角の殺人者」愚かなる電波系ストーカーの一代記。木星人や金星人というネーミングも凄いが、<クリスタル星人>のとほほぶりには泣笑い必至。おかあさん、ごめんなさい。
「湖畔にて」公平に、自分を投影したキャラクターも切ってみせるところが、作者の知的アナーキストぶりを証明している。黒猫や少女の扱いには抵抗感があって、もう1頁の「復活編」が欲しくなるところ。


2000年10月27日(金)

◆本日発売の「アスキーネットJ」11月10日号で、このサイトを取り上げて頂く。「本を読むよりもおもしろい!?ネット書評サイト50選」という企画である。ひと月ほど前にメールが来て、掲載の許諾と「今年のベスト5」を選んでちょ、という依頼を受けていたので、本の題字を見て「おお、5×50=250作の面白本が拝めるか」と思ったら、ベスト5を聞かれていたのは4サイトのみだった模様。それもダサコン系ばっかだぞ。うーん、この企画、若干偏向してないか?とまれ、4人のうち3人がベスト5に菅浩江作品を挙げていたのは慶賀!である。ちなみにkashibaのベスト5は「刑事ぶたぶた」「猫の地球儀」「恐怖のブロードウェイ」「異郷の帆」「永遠の森 博物館惑星」。お閑な方は立ち読みでもしてくだされ。
◆飲み会につき会社傍の古本屋のみチェック。
d「キングコング」ウォーレス&クーパー(角川文庫)100円
d「嵐が丘 鬼丸物語」笠井潔(角川文庫)100円
うーん、神保町青空古本市に朝から参戦できる人が羨ましい。本屋でミーハーな1冊を購入。
「TRICK 完全マニュアル」(光進社)1500円
堤監督って「金田一少年の事件簿」やった人だったのね。「ケイゾク」の人だというのは聞いていたけど、なるほど「お前達のやっていることは全部お見通しだ!」って「謎はすべて解けた!」みたいなもんだったわけだ。ははーん。


◆「日曜日ラビは家にいた」Hケメルマン(ポケミス)読了
ラビ・スモール・シリーズ第3作。著作リストを眺めていて改めて気がついたのだが、なぜかこのシリーズ、日本では変てこな順番で紹介されている。土曜・金曜・月曜・日曜、ああ、もうおじさんは何が何だかわからんよう。一週間が回ってから後の4作は一向に訳される気配もないし、せめて第10作の「ラビの辞職した日」とか読んでみたいじゃないかあ!よし、ここは妥協するので順番無視でいいから訳してくれませんか?早川書房さん。まあ、今なおペーパーバックで出版されている人気シリーズなので、その気になれば原書に挑戦も不可能ではないのだが、ユダヤ用語だけでメゲそうだもんなあ。とりあえず、順番通りに読み進んで3作目。確かここまでは文庫化もされている筈だが、なかなか見かけない本になっている。こんな話。
教区の理事会内部の対立がこじれ、ゴーフィンクル会長派の恣意的な運営に対し、ボーリング場経営者のパフを筆頭とする反対派は独立を画策する。パフは買収を済ませていた海辺の邸宅を改装し新しい教会を立てるのだという。おりしも、夏休みで帰省していた教区の若者たちは、野外パーティーの後、突然の驟雨から逃れてその邸宅に潜り込み、パーティーの続きを行った。若者の一人ムーズは、膝の故障からフットボールへの夢を断たれ定職もなく無聊を囲っていたが、大酒を呷ってその場で潰れてしまう。一旦はムーズを置き去りにした若者たちが、停電騒ぎのあとで邸に戻ってみるとなんとムーズは事切れていた!警察は、若者たちを拘留し、更には、パーティーのメンバーであったよそ者の黒人青年に容疑の目を向ける。そして、教区内の対立に頭を悩ませていたラビの元に、ムーズの育ての親からこの事件が持ち込まれる。若者たちを救おうと出馬するラビ・スモール。やがて、無一文の筈のムーズのポケットから発見された2枚の20ドル紙幣から事件のもう一つの相貌が見え始める。果してラビはこれらの混沌から教区を救い、パス・オーヴァーの儀式を終えることができるのか?
毎度窮地に追い込まれるラビであるが、今回はトラブルがトラブルを帳消しにするところが新味。ほんの些細な証言の疵から、真相に迫るラビの推理法はここでも健在であるが、殺人の発生まで物語の半分以上が費やされる展開は、作者の興味がユダヤ人社会の描写にある事を証明するものであろう。今回のテーマは「対立」かな?主義と主義、大人と若者、それぞれに対立する男達とは対照的に、ユダヤの妻たちにしたたかさが垣間見え、興味深い。物語のラストで、次作では「聖地に向うラビ」をやるぞお、宣伝してみせるところなんぞ、初期ペリー・メイスン並みの「引き」ではないか。なんともシリーズの定着を思わせる。かく申す私も段々とこのシリーズに嵌まってきたぞ。


2000年10月26日(木)

◆くろけんさんの新装開店なったリンクページで9位にランクインする。なるほど、こういうリンク・ページってありですか。「マイブームなサイトを週刊更新する」という趣向は斬新にして地獄。さあ、来週の更新はあるのか?!
◆茗荷丸さんから「先週の土曜日、荒した町はズバリここでしょう!?」と指摘を受ける。買った本に見覚えあるぞ、お前達のやっていることはお見通しだああ!とのこと。うう、さすが将来恐るべしと見こんだだけのことはある。すんまへん、大当たりだす。
◆明日は神保町に行けないので、就業後定点観測にでかける。青空古本市の準備が整った街を行く。なんとなく「文化祭前夜」のようで、仄かに楽しい雰囲気が漂っている。オヤジさんがショーウィンドにガラス拭きかけて念入に磨いていたりする。うーん、いいぞ、いいぞ。朝から参戦できる皆さんのご健闘を祈ります。買ったのはこんなところ。
「銀河系の悪魔」Jブラナー(徳間NV)1500円
「髑髏城」JDカー(東京創元社世界大ロマン全集:裸本)100円
「道化の方舟」山田風太郎(東都書房:裸本)800円
d「クイーンの色紙」鮎川哲也(光文社文庫:帯)100円
d「ウサギは野を駆ける」Sジャプリゾ(ポケミス)100円
「マドラプールに消える」Rメルル(早川書房)100円
「妖精戦線」水城雄(徳間NV・MIO:帯)50円
「天の星 血の影」水城雄(徳間NV・MIO:帯)50円
ブラナーは徹底的に縁のなかった本なので高値承知で拾う。これで徳間ノベルズのSFは揃ったかなあ。さあ、近日中に100円で出くわす羽目になるぞ、きっと。風太郎本は、今や文庫で読める作品ばかりなのであろうが、なんとなく題名が気に入ったので買いこむ。一応初版。誰かカバーをカラーコピーさせてくれる方はいらっしゃいませんかあ。水城雄はどちらかがダブりの筈だが、どちらをもっていないか判らなかったために2冊まとめて買う。まあ、2冊100円だったし、MIOは誰か引き取ってくれるでしょ。

◆書店で漫画を3冊「将太の寿司全国大会編17巻(完結)」「ドーナッツ・ブックス34,35」立て続けにいしいひさいちが出て嬉しいぞ。「将太の寿司」も泣ける!お涙頂戴なシリーズの掉尾を飾るだけあって、もう号泣必至。くうう。
◆「天国と地獄」
三省堂の平積みで見かけた本が、私を天国と地獄に誘った。その書名とは「世にも奇妙な本」。出版社は<ぴあ>。ご存知テレビシリーズ「世にも奇妙な物語」の10周年を記念しての映画公開目前出版!という雰囲気の造り。まあ、映画版の話はどうでもよい。私にとっては、テレビ版全335話の放映データが狙いである。こういうデータ集を待ち望んでいたのだ!ネット上でも研究は進んでいるのだが、さすが「公式本」と銘打つだけあって、充実の記載!やったー!と引っつかんでレジにもっていく。帰りの電車でも、課題図書そっちのけでデータを眺めて楽しむ。このサイトを掲示板ともども愛好してくださっている方々はご存知のように、先日、「世にも奇妙な」絡みのご質問があって、積み残しになっているのである。その質問とは「果たして花輪莞爾原作のTVドラマとは何か?」。「世にも奇妙な」あたりなのかな?という感触はありながらも確証はない。さすがにネット上のデータにも原作者まで完全にフォローしているものはなかったのである。で、この新刊。眺めていると確かに原作者の記載がある。かなり詳しい。早速1話から第3シーズンの最後まで原作欄をチェックしていく。結果「花輪」の文字は見当たらず「とりあえず『世にも』でないことは判明して一歩前進」と胸をなで下ろした。ここまでが「天国」。
ただ原作者のチェックをやり終わったあとで、ふと気になったのだ。「あれ?阿刀田高あったっけ?」。実は「3エピソード総て阿刀田原作の回があった筈」という記憶があったのだ。しかし、今しがたのチェックでは、阿刀田高が3つ並んでいるものはなかったよなあ。あれれ?というわけで再度、放映データーをじっくりとチェックする。そして、衝撃!90年8月23日放映の25・26・27話は紛れもなく阿刀田原作にも関わらずその記載がない!!

「がーーーーん、大ショックううう」

つまりこの本も原作者については


「当てにはならーーん!!」


ということが判明してしまったのである。

あああ、なんのためにわたしは1500円も出したのじゃああ!
くおらあああ!ぴあ!!!
いい加減な本出してんじゃあねえぞお!!
おぢさんは怒っているんだぞおおお!!!

以上、「地獄」。


◆「南から来た拳銃使い」中井紀夫(ハヤカワJA文庫)
その著作の9割が絶版状態の「不思議」作家。ゲームや「世にも奇妙な物語」のノベライズといったお仕事もこなすが、やはりハヤカワJAの二つのシリーズが代表作と云うことになろう。ひとつが下品な神話世界を描いた「タルカス伝」、今ひとつがこの「能なしワニ」シリーズである。
植民惑星ナインガックを舞台にした、トカゲライダーたちの繰り広げる西部劇SF。「能なし」とは「超能力が使えない」という意味で、この星の住民たちは、なんの具合かなんらかの超能力を持っているという設定なのである。その超能力は「ずぶぬれでないと発動しない念動力」「掌サイズのピンクの象を踊らせる召喚能力」などどこか間の抜けた力から、「能力者を狂わせその超能力を暴走させる」という危険な力まで様々。そんな環境の中で超能力を与えられなかった男ワニは、銃の腕を磨きいっぱしの賞金稼ぎとしてナインガック唯一の大陸のあちこちを放浪する。シリーズ第1作は、目的のためには手段を選ばない冷酷な石油成金デュラントと、昔かたぎの牧場主トーマス・ヤングとの闘いにひょんなことから首を突っ込んでしまった「能なしワニ」の物語。善玉と悪玉をはっきりさせた典型的なウエスタン。石油パイプを敷設するために絡め手からヤング一家の土地を奪おうとするデュラント。真っ向から捻り潰さないのはトーマスがデュラントの義父であるため。一触即発の状況下のこの街にふらりと現われ、デュラントの妻にしてトーマスの娘ジュリアと一夜を共にしたワニ。「私を連れて逃げて」というジュリアの誘いにヒーロー気取りでデュラントの屋敷に潜入したまではよかったのだが、「他人の超能力を暴走させる」能力しか持っていない筈のデュラントのもう一つの能力によってボコボコにされてしまう。危うし「能なしワニ」!
ネーミングから、原住民の設定まで、どこまでも人を食ったシリーズである。ステロタイプなウエスタンのパターンを踏襲しながら、「超能力」対「拳銃」というミスマッチの妙で興味を惹きつける。また、ワニが世話になる洗濯屋夫婦や「自分の娘」を殺すためにナインガック中をさ迷う男クサフリといった脇役達も非常に魅力的。西部劇風浪花節の要素を押えたうえで、ラストに大きな謎と悲劇を準備した作者のしたたかさは評価に値する。読みやすさについては言うまでもなく、疲れた時の現実逃避読物としてお勧め。


2000年10月25日(水)

◆本日発売のミステリマガジン最新号の川出正樹氏のブックレビュー・コーナーでこのサイトの事を大きく取り上げて頂く。例の「襤褸の中の骨と髪」の一件についてなのだが、川口文庫のカタログの受け売りをやっただけなのに、なにやら面映ゆい。でも、永年親しんできた雑誌に自分のことが出るというのは嬉しいぞっと。あそこで始めてこのサイトを知ってお越しいただいた方っていらっしゃるのかな?
◆ちょっと退社が出遅れたのと、HMMの一件があったので妙に満たされてしまい古本買い0冊。HMMとSFMの最新号のみ購入。
◆メールにあれこれ返信していたら、時間切れにつき本日はネタはございません。

◆「ミステリー短編傑作集2」Eクイーン編(洋版出版)読了
おそらく戦後の翻訳アンソロジーの中では、入手難度が最も高い本ではなかろうか?この洋版出版の2冊は、東京創元社の「アメリカ探偵作家クラブ傑作選」の2冊と並んで、本当に見かけない。かく申す私も、この第2巻は、<古本魔人>彩古さんとの交換でようやくゲットできた曰く付きの本。いまだかつて棚に並んでるのは、長い古本人生(なんか書いてて情けない言葉だな)で一度も見たことがない。収録作の半数は、他の作品集でも読めるものだが、何編かでも「これでしか読めない」作品が入っているとテキスト派としても熱くなる。以下ミニコメ。
「取材記者」(ウールリッチ)米版事件記者もの。抒情派のウールリッチとしては珍しい活きのいいフーダニット。軽ハードボイルドタッチながら、きちんと伏線を貼る手際の良さに唸る。エンタテイメントかくあるべし、という好見本。
「GI物語」(クイーン)ライツヴィルものの短編として有名なダイイング・メッセージもの。大統領に因んで名づけられた3人兄弟の誰が父親を毒殺したのか?ダイイング・メッセージもののこれも著名な「ひねり」はこの作品が最初なのかな?
「生きている奴が多すぎる」(ハメット)サム・スペードの短編として有名な作品。入り組んだ詩人殺しのプロットが、やや肩透かし気味のオチで終る。
「シルビアはだれ?」(パーマー)果して新婦は希代の「女青髯」なのか?ハイミス探偵ヒルディは一枚の写真から真相に迫る。なかなか洒落たオチに驚いた。いかにも短編ネタではあるが、これはケッ作。
「ロンドン捜査網」(ギルバート)ちょっと頭の弱い大男と美しい保護司を巡る人情捕物帖。まあ、それだけの話である。
「人形のライヴァル」(ヘクト)ゴールドマンの「マジック」を彷彿とさせる腹話術師の悲恋劇。なんともやるせない話である。ベン・ヘクト傑作選を誰か編んで頂きたいものだ。
「ある冬の物語」(ロックリッジ)凍り付く冬の朝に田舎の一軒家で発見される老人の血塗れ死体。科学的に正しいのか少々引っ掛かるものの、真相の奇抜さはなかなかのもの。こんな手があったのかと素直に驚いた。
「スリルを求めて」(ハイスミス)インポテンツの中年セールスマンの密かな「趣味」とは、言葉巧みに近づいた女の元から戦利品代わりにちょっとした小物を盗むことだった。設定の妙でよませる短編小説の見本。ラストの味悪感がなんともハイスミスである。
「トレイラー殺人事件」(リンカーン)あの歴史上最も有名な大統領の書いたミステリ、というか半分実話?失踪した小金持ちを巡る裁判奇談。奇談が奇談として終っているところが情けない。まあ、「リンカーンの書いた小説」というだけで値打ちはあるのだか。
「銀行は決して間違わない」(ヘス)万年平社員が仕組む「銀行強奪」の奇手とその皮肉な結末を描いた佳編。推理小説的な部分もあるが、現代の寓話風のお話。面白く読める。


2000年10月24日(火)

◆今週末はEQFCの全国大会で愛知県へ行く予定。大会は土曜の夕方から日曜の朝までなので、それ以外の時間で遊んでくれそうな方を募集中。なんちゅうか、わざわざ関西からの参加者を募るために箱根(だっけ?)の予定を名古屋に変更したにもかかわらず「関西からの申込者がいない!」そうで、これは精々電車賃分、取り戻さなきゃという気分が盛り上がる。とりあえず、土曜日は中村忠司さんに「古本まゆ」に連れていってもらうんだもんね。つうことで、土田さんの一周年記念飲み会には参戦できません。済まぬ。それにしても土田さんの集いは思いっきり(古)本を買う人の集まりになりそうだなあ。
◆天気もよかったので、あちこち定点観測。
d「しぶとい殺人者」鮎川哲也(青樹社)100円
「ゴールデン・ピープル」Pギャリコ(王国社)500円
「マルタン君物語」Mエイメ(ちくま文庫)100円
「六週間」フレッドMスチュアート(三笠書房)100円
「安達が原の鬼密室」歌野晶午(講談社NV)450円
d「毒蛇」Rスタウト(ハヤカワミステリ文庫)200円
d「ラバーバンド」Rスタウト(ハヤカワミステリ文庫)200円
d「ネロ・ウルフ最後の事件」Rスタウト(ハヤカワミステリ文庫)200円
ギャリコのスポーツもののノンフィクションと、スチュアートの恋愛小説が嬉しい。どちらも出ていた事すら知らなかった作品。そもそもギャリコがスポーツ記者だったことも初めて知った次第。人に歴史ありだよなあ。鮎哲とスタウトはスターターセット用に捕獲。って、一体いつになったら売りに出すつもりかね?買えば買う程、打ち込みが面倒くさくなるという悪循環。

◆神田古本まつりのカタログを立ち読み。噂のRBワンダーのびっくり価格を見てのけぞる。NWSFのバラードには殺意が込み上げて来る。あれに1万円以上つけてはいかんでしょう。意地でも安値で拾ってやるというガッツが湧こうというものである。
◆プレ・MYSCON2企画告知中。今回は「古本オークションなし」なので、不参加の予定。「即売」もこの分だとないでしょう。オークションや即売があるとそれに気をとられて(あるいは時間をとられて)ネットのミステリファンの交流が充分に図れないというのがその理由。その主張には美しい正統性があることを認めながらも、「私にとっては、売ったり買ったりする事が<交流>そのものなんですけどね」と云っておきます。
◆ふう、やっぱりネタを考えるよりも古本買っていた方が日記的にはラクチンであることよ。

◆「虚ろな車」飛鳥高(東都ミステリ)読了
「初期短編や協会賞受賞作の好印象」に加え「絶版効果」と「<寡作=傑作>効果」などで市場では人気の作家。私もとりあえず買うだけは買っているのだが、そろそろ読んでみますかね、と思い手にとってみた。結論から言うと、大はずれ。たまたまこの作品だけがそうなのかもしれないが、「腐っても東都ミステリ」という仄かな期待を踏みにじる、どうでもよい通俗作品であった。昔から見つけたら拾っていたので、一冊も高値掴みをしていないのが救いだが、やはり今の時代に版が重ねられていないのにはそれなりの理由があるのだ、という冷徹な事実を思い知らされた。こんな話。
冒頭、二つの殺人が描かれる。浅見という男が、何者かを車で跳ねた後に絞殺する。淡々と手順を踏むようにへこんだバンパーを付け替え、証拠の隠滅を図る浅見。それと時を同じくして、荒木という男が、やはり同じ手口で何者かを殺害する。そして「自社」に戻ると、若い男にバンパーの修理を命じる。やがて読者の前には、一人の被害者が呈示される。かつて運送屋に務めていた若者田村は、その夜遅く誰かに呼び出され、そのまま同居している妹の元には帰らなかった。田村の死体発見で動き出す警察。一方、たまたま前夜、浅見がバンパーをすげ替える前に、「兇器」の前を通りかかった雑誌記者石本は、田村殺害を報じる新聞記事と前夜の記憶を突き合わせ、浅見に迫る。一体、田村はどちらに殺されたのか?そしてその動機とは?悪夢の如き二重殺人に秘められた人間の闇。やがて二つの糸はとある化学会社の新製品開発の裏側で交叉し、虚ろな者どもの渇いた欲望は、60年代の殺伐を血で彩る。
殺人者の正体を少しずつ露にしていく「捜査小説」+「倒叙小説」という趣向のみで一本の長篇を持たせるのには無理があった。作者としては、一種の叙述トリックに挑戦したつもりかもしれないが、淡々とした書きぶりは飽くまでも読者の興奮を拒否する。浅見という謎の人物の造形には一工夫あるものの、さりとて感情移入出来るほどのものではない。異常に読みやすいという点を除けば、時間泥棒・金泥棒な「推理小説もどき」である。東都ミステリ完集を志した人と、折り返しにある江戸川乱歩の推薦文が欲しい人だけが買えば良い本であろう。


2000年10月23日(月)

◆雨模様につき速攻で帰宅。購入本0冊。
◆古本を買わなかったので何か他のネタで行数を稼ぐ。一昨日、よしださんから、当分古本買いを控えてくれた方が面白いぞ、という指摘を受けてしまったんだよなあ。さて、秋といえば虫の音であるが、何故か、私の部屋では蚊がぷーーーんと飛ぶ音なのである。今日も2匹ほど葬ったのにまだ音がする。うーむ、夏場には余りお目に掛からなかったのになあ。不思議。蚊を扱った推理小説というのはガードナーの「弱った蚊」のほかにも幾つかあるようで、ここ1年で2作ほど読んだ。でも、ネタバレになるので題名を書けない。その2作、考えてみれば同じネタなので、ひょっとすると後の方の著名作家は、前のマイナー作家のトリックをぱくったのかもしれない。もっとも後の方が大掛かりにはなっていてストーリー的にも全然面白いのだが。昆虫もののミステリといえば浅黄斑というようなペン・ネームからして「虫愛ずる」人がいるわけだが、蟲蟲蟲蟲というようなぞわぞわしたオドロな使い方が多い昆虫モノにあって結構印象に残っているのが日下圭介の「告発者は闇に跳ぶ」。視覚的にとても美しく虫を扱っていて吉。でも、昆虫ってミステリよりもホラー向きだったりするわけで、外骨格生物への違和感からか、食物連鎖の関係からか、虫には「死」を連想させるところがある。BEMという言葉だって「虫の目をした化け物」の略だったりするわけで、何か相容れないものがあるんだよなあ。そんな中で個人的に一番怖かったのが、蝿やゴキブリといった「存在そのものが厭」という虫ではなく「こおろぎ」である。マシスンの短編なのであるが(「幻想と怪奇2」ハヤカワNV文庫収録)、この話を初めて読んだ時の戦慄は未だに忘れられない。というか、この話水木しげるがそのまんまぱくっていて、私の初体験はそちら。和田慎二が「幻の女」をぱくったり、魔夜峰央が「ヘンショーの吸血鬼」をぱくったり、近くでは「金田一少年」が島田荘司ぱくったりと、マンガのぱくりは「あとからそれと知って、深く傷つく」ケースが多いのだが、こと「こおろぎ」に関していえば水木しげるの方が原作より十倍は怖い(当社推計)ので、なんとなく許す気になってしまう。まあ、この話、虫の音を左脳で聞く西洋人ならでは発想なのではあるのだが。あああ、何か虫の話をするつもりがパクリの話しになってしまったぞ。とまれ、昨年の今ごろは世界を挙げて「虫」騒ぎになっていたかと思うと、1年経つのは早いよなあ、と秋の蚊の音にイライラしながら雑文してみました。え、昨年、世界を騒がせていた「虫」って何かって?そりゃ貴方「みれにあむ・ばぐ」ですよん。さあ、来年は「コンピューター2001年問題」だぞ、準備はいいか、ボーマン船長?

◆「死を招く航海」Qパトリック(新樹社)読了
たまには新刊も読まなきゃね、と1933年の「新作」を取り出す。いや、まさかこの本が日本語で読める時代がこようとは、全く長生きはするものである。もっと長生きすると、絶版と化したこの本を、若いマニアがヒイヒイいいながら探し回る様が楽しめて(おいおい)、二度美味しいかも。船上ミステリといえば、「ナイルに死す」とか「九人と死人で十人だ」(猟鉄は絶対、こちらの邦題を支持します)とか「フレンチ警部の多忙な休暇」とか云うビッグネームの作品から、只今ヤフーオークションに出ている「ヨット船上の死」といったマイナー作、未訳ではスターレットの「Murder on “B”Deck」や、ナッシュの「Death over Deep Water」とかたちまち何作か思いつく。それほどに船上ミステリというのは、作家の心をくすぐる何かがある。傑作ミステリ映画の「シーラ号の謎」、コロンボの「歌声の消えた海」など映像方面にも良いものがあるぞ。さて、本格推理作家であった頃のパト・Qのこの作品も「名のみ知られた」船上ミステリであった。題名からして「S.S.MURDER」<汽船殺人号>である。期待はいやますばかりである。こんな話。
静養のため船旅に出た新進女流コラムニスト・メアリが汽船モデルナ号で遭遇した殺人の記録。物語は、彼女が恋人に語り掛けるようにして書き留めた日記形式で綴られる。出帆して最初のディナーで、一等船客の面々と食事をともにするメアリ。年配の事業家ランバート、その歳若い妻と妙齢の姪とハンサムな秘書、尊大な雰囲気の未亡人ミセス・クラップとその同伴者である女傑ダフネ、上品な紳士ウルカット、浅黒い肌のスペイン人シルヴェラ、人当たりのよい禿頭の紳士バー、ちびのロンドンっ子ダニエルズ。だが、惨劇はその夜に起こった。食後の一時、バーでブリッジに興じていた事業家ランバートが衆人環視のもとストリキニーネで毒殺されてしまうのだった。疑いは、バーにいた客たちに向けられるが、なんとブリッジのメンバーであった船客のロビンソンなる人物は、船のどこにもいないことが確認されてしまう。果して、ロビンソンは何処に消えたのか?持ち前の好奇心から関係者の動機をアリバイを嗅ぎまわるメアリ。そして、<汽船殺人号>は更なる犠牲者を求める。なんとランバートの姪ベティが深夜の海に落ちて行方不明になったのだ!日記の詳細ぶりで一躍ミステリマニアであるフォーテスキュー船長のお気に入りとなったメアリは、徘徊するロビンソンの影を追って、深夜の探索行に乗り出すのだが…
あるページに決定的な手掛りがあることを作者自らが宣言し、主人公の言葉を借りて読者への挑戦も行うという稚気溢れるビンテージ本格推理トラベル仕立て!事件の鍵が、ブリッジの手に隠されていたりするのも、翻訳ミステリファンには堪らない趣向。なにより現われては消える謎の船客という設定が実にサスペンスフルである。野次馬根性剥き出しの主人公の探偵ぶりも微笑ましく、真の名探偵が「皆を集めて『さて』と云」うクライマックスもお作法にかなったものである。いやあ、堪能いたしましたわい。クラシック・ミステリが好きな人、必読!!ところで、この本の解説者の渡辺さんって、一昨日のW女史?だとしたら知らぬ事とは申せ、ただのミステリ好きの女子大生扱いして済みませんでしたあ。


2000年10月22日(日)

◆遊び過ぎでぐったり。24時から13時まで寝る。後は読書と日記に費やして1日が終る。ネタもないので、電波系ニュースで変換した20日付け日記でも載せてみましょう。勝手に文字列をいれてくれるんですと。うう、死ぬほど可笑しい。

<ここから『電波系』>

2000年10月20日(金)

◆飲み会。その「額の紋章」が、何よりの証。大雨。購入本0冊。そんな筈はない。
◆カウンター回復。トップページ最下段のカウンターと微妙に食い違うのが不思議。とりあえず、アクセス解析もやってくれるので最下段も残すことにする。ちょっぴりセンチな気分になったので、この話題はここまで。1日たってみて、時間毎の履歴をみると、なんと12時が一番多かった。要は皆さん、昼休みに会社から覗いてくれているということですな。今思えば危ない橋を渡り歩いてたんだなあ。
◆掲示板に載せたけれども、遠巻きに妄想日記にも再掲。まあいいか、どうなっても。別に死ぬ訳じゃ無し。「ひとりクイーンいじり(と思うだけ)」第2弾!
「家族みんなが喜ぶフレンチ白粉をはたくはお子様の手の届かない所へ保管して下さい」FWクロフツ
「希臘柩迷宮譚かよ!?(一人きりになってから逆ギレ)」小栗虫太郎
「伝説として語り継がれるT型クロス殺人事件」広瀬正
「幸運を招く銃社会・米国の謎」朝日新聞特別取材班
「夜中に勝手に改造手術されて右手をドリルにされたのはちょっとうれしかったけどタイ風ソーセージでミステリー(終始この一点張り)」金春智子
「そのせいもあって一生日陰を歩むこととなる裸死岬」笹沢佐保
「ドアは覗く」MRラインハート
「そのせいもあって一生日陰を歩むこととなる払われる悪魔なのは悲しかったけど韓国硬貨とはいえ500円として使えたので差し引きゼロ」赤川次郎
「からみてぇ町と思ったら姫路城の出来上がり」清水一行
「だぶっただぶったぴょん」矢崎存美(これは、中村忠司さんのぱくり)
「始まりは<悪>(遠い目で語る)」志水辰夫
「シャーロック・ホームズ対エラリー・クイーンなど恐るに足りない」東映マンガ祭り
「限定版第八の日に帰った男」Bフリーマントル
「はみだし刑事失格」太田忠司(あ、これは「まんまとは、俺もとんだ道化だな」でしたね)
Moriwakiさん考案分も入れるとりあえず国名シリーズは埋まった。金春と笹沢が自信作(爆破)。ああっ、僕のせいで町が沈んでゆくっ!大変なのがドルリー・レーンの4作。そして私に感謝なさい。まさに「気性が荒く、時として人間を襲うこともあるいじり(と思うだけ)」を拒否する完璧気味な題名。そんなわけで職場で孤立。ううむ困った困った。あたしゃ本気で泣きましたとも。ええ、ええ。もう少し考えてみましょう。そ、そんなの嘘だあああ(走り出す)。


<ここまで『電波系』>

◆「ノンセクシュアル」森奈津子(ぶんか社)読了
奇跡的に文庫化されてしまったので、ブックオフにて半額購入してあった単行本を慌てて読んでみた。思えば森奈津子の御尊顔をしげしげと拝見したのはこの書であった。きりりとしたゲジ眉に切れ長の瞳、そして不敵な笑み。ううむ、これが噂のバイセクシュアル作家か、と妙に納得してしまった。自分の体をはってエロ系・とほほ系の笑いを取りに来る作家根性には常々感服しているところだが、さて、ストーカー系サイコホラーという触れこみのこの作品、やはり、登場人物に、著者本人がダブって見える。こんな話。
男も食べます、女も頂きます、バイセクシュアルのエロ作家・詠子は、ふとしたすれ違いからボーイフレンドの徹と、ガールフレンドの秀美を同時に失う。「ががーーん、大ショックうう!!」。だが「二股かける自分が悪い!」という反省もそこそこに、偶然出会ったお嬢さまタイプの美女・絵里花に惹かれる詠子。一方、絵里香もボーイッシュな詠子に「心の友」を感じていた。初めは処女の如く清らかにそして美しく育まれていく女の友情。同じノンセクシュアルでも高校時代からの旧友・夕子とは天地ほども開きのある絵里花の繊細さは詠子の傷心を癒す。だがノンセクシュアルな絵里香のオーラの下には、凄惨にして血塗れの過去が隠されていたのだった!心と心の歯車が狂い始めたとき、美しき恋の「思い入れ」は、新たな血を求め、限りなく暴走していく。ひえええ。
危ないお嬢さまの描写が的確。狂人の論理が腑に落ちる。しかし作品全体としてみると、これが全然怖くない、というか笑える。主人公詠子とその旧友夕子の会話は爆笑の連続であり、加えて詠子のトホホな嘆き節がこれまた笑殺もの。よくもこれだけ「お笑いアウトサイダー」な自分を見詰められるものだ。自分の本能に忠実な詠子の描写は、まぎれもなく作者本人の投影である。男と女をしゃぶり尽くした作者ならではの「金言」も数多く含まれており、お買い得。SFでもホラーでもない、とほほ系ユーモア・エロ作家としてブレイクする日も近い!頑張れ、森奈津子!美形な男女を押し倒すのだ!


2000年10月21日(土)

◆今日の大本営発表
「初々しい推理小説マニアの女子大生及び日本推理作家協会賞に輝く才人他の方々と高名な推理作家の新居を訪問し、堅牢な書棚に並ぶ趣味の良い蔵書と京極夏彦題字の必殺ビデオの山を拝見しながら、リッチなティータイムを過ごす。壁にかかる菊池健の端整な和み系水彩画が印象深い。どうもありがとうございました。奥様にもよろしくお伝えくださいませ。」
◆今日の彩古さん
集合場所に三々五々メンバーが集まる中、「いやあ、一応ブックオフはチェックしてきましたよ。10冊ぐらい買って、コインロッカーに入れてきました」と涼しい顔でのたまう彩古さん。「やるかな、普通?」と私。「え?これから皆で行こうというのにそれあり?!皆で行く時には一週間は行かないもんだよなあ」とよしださん。「ブックオフの前で30分間立たせてたたせておこう!」と女王様。
◆今日の女王様<鳥頭編>
「これ、いいんじゃない」と女王様の勧めるジュビナイルを手にとって、広い店内をうろつく事しばし。私の釣果を覗いた女王様が「あー、これいいなあ」。って、貴方が勧めてくれたんでしょ!?
◆今日のよしださん
高名な推理作家氏がよしださんを奥様に紹介する「ほら、あの3冊200円のよしださん」「まあ!あの」「よしだです。ってそれしかないの?」奥様は喜国夫人と一緒にお風呂に入ったことを自慢する。「おお、んじゃ、今度は喜国さんと一緒に風呂にはいるぞおお!縫い目を見せてもらうぞおお」とよしださん。
◆今日のフクさん
「嫁さんには、『新居に伺って、そのままお食事をよばれるのもなんなので、外食してくるから』と云って出てきました。本のいい訳はどうしよう?」大下宇陀児のサイン本他5桁の買い物だもんなあ。知ーらない、っと。
◆今日の森英俊さん
毎朝、テレビで星座占いのチェックを欠かさない森さん。「いい方から7番目以内に出てこない時はテレビを切るんですよ」そ、そうなんですか「kashibaさんと同じ運勢ですからね」ああ、いわれてみれば確かに。
◆今日の女王様<酩酊編>
二次会の喫茶店で、隣のテーブルのよしださん・彩古さんが「ナンパ」の話をしていた。「まあ、あれを商売にしてる人もいるしねえ」との言葉に、思わず反応する女王様「なに?セドリの話?」貴方の頭の中には古本の事しかないんかい!!?「ねー、もう一軒焼鳥屋行こうよおお、古本抜かれ話なら一杯してあげるからさあ」と暴れる女王様のお姿を拝見し、森さんの後輩のW女史の清々しさとの落差に慄くとともに「古本をこよなく愛する素敵な美女」通称「古・女(こじょ)」の称号を捧げる。更に暴れる。
◆今日の頂き本
「けもの道」西東登(文華新書)頂き!(森さんより)
「社長の椅子」佐賀潜(学研:帯)頂き!(森さんより)
◆今日買った古本
「非情の顔」佐賀潜(秋田書店)100円
「吸血鬼は闇にわらう」三田村信行(国土社てのり文庫)100円
「少年監督の推理」Aメイヤー(学研)240円
「キャンパス殺人事件」中川裕朗(三一書房:帯)200円
「逃亡将校」桶谷繁雄(角川書店)500円
「まよなかのパーティー」Fピアス(富山房)200円
「わが夢の女」ポンテンペルリ(ちくま文庫:帯)350円
「脱獄魔 白鳥由栄」山谷一郎(オホーツク書房)500円
d「愛の宮殿」Jヴァンス(ハヤカワ文庫SF)50円
d「闇に待つ顔」Jヴァンス(ハヤカワ文庫SF)50円
「必殺の大四喜」藤村正太(立風書房:帯)320円
「乾燥死街」佐賀蒼(ダイヤモンド社:帯)200円
「五三の桐のメロディー」光瀬龍(光風社)100円
d「ザ・スクープ」クロフツ他(中央公論社)500円
「青猫屋」城戸光子(新潮社:帯)100円
「みちのく路の殺意」榊玲(日本図書刊行会)100円
「幽霊がいっぱい」山内照子編(新風舎:帯)900円
d「シャーロキアン殺人事件」Aバウチャー(教養文庫ミステリボックス)50円


◆「気まぐれな仮面」PJファーマー(ハヤカワ文庫SF)読了
夜が飲み会なので「懐かしい作家の景気の良い話」で課題図書をクリアすべえと手に取ったみたところ、これがとんでもなく骨太なSFで、結局、読了に1日半を要する仕儀を相成った。振り返ってみれば「宇宙版<白鯨>」とでも呼ぶべき「壮大なる法螺話」なのだが、その構造が見えるまでに時間が掛かり過ぎた。ここのところ読者にSF的素養と努力を要求するSFを読んでいなかった人間にとっては、少々荷が重い作品。さながらSFガジェットが屑籠からはみ出た薄暗いイスラムの横丁を鼻面捕まれ引きずり回された、という思いがする。次々と紡ぎ出される謎また謎、相対化される正義、科学と神秘学の相克、そして全編を貫く「神との闘い」という大テーマ。文学系の読み手であっても解体し甲斐のある作品であろう。私の場合はエンタテイメント系ですので、そこはそれ。こんな話。
宇宙。それは人類に残された最後の開拓地である。愛情回路をもつぐにゃぐにゃ科学調査船<アル・ブラク>の船長ラムスタンは神自身に唆され、1万年にわたりテノルト人の信仰の中心にあった偶像神グリファを盗み出してしまう。乗組員全員を裏切ってまで、ラムスタンが卵型の偶像神を盗み出した理由とは?イスラムの伝説の奇人アル・ヒルドが投影する滅びの予言は、その罰なのか?忍び寄るテノルトの追手を躱し、調査船<ペガサス>に置いてけぼりを食った女性海洋生物学者デイヴィスを載せ、寄港地カラファラから緊急発進する<アル・ブラク>。だが、失踪した<ペガサス>の航跡を追って向ったウォリスクは、死の星と化していた。降り注ぐ何億何兆というニッケル鉄の小球が大地と生きとし生ける者すべてを切り裂いたのだ。その大破壊の主こそ「混沌の怪物」にして「一人を除いて皆殺しにする」ボルグ!ラムスタンはその宙域の唯一の生存者であった海洋生物のワスラスから暗喩に満ちた歌とともに3つの贈り物を託される。全ての謎と鍵がラムスタンの元へと集結する中、最終破壊兵器と神を奪われた民との三つ巴の闘いの幕は開く。
冒頭から幻視と現実が交錯する描写に面食らう。其処へもってきてSFガジェットと宗教用語がてんこ盛りで、展開が早く、カットバック手法も多い。結果、百頁ぐらいは、何が本筋なのかが殆ど掴めなかった。これを「読者を引き込む手練の技」と取れる人は相当のSF読みである。少なくとも私は、何度となく投げ出したくなった。ただその背景が見えてくると、途端に面白くなって来る。宇宙を股にかけた逃避行、暗号を解きながら創生と大破壊の謎に迫る展開。そして明らかにされる壮大(とんでも)にしてシンプルな「真相」。クライマックスで自らの使命を悟り最終決戦に臨む主人公の男気に落涙必至。3人の「魔女」に三位一体をみるのか、マクベスのパロディをみるのか等読み解きの楽しさに満ちた作品である。ファーマー侮り難し。SFSFした法螺話が好きで、時間に余裕のある方はどうぞ。