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2000年9月30日(土)

◆緊張の糸が切れたか、何をする気にもなれない1日。たまたま、ぼんやりとヤフーオークションを覗いていたら、マンハントの揃いが出品されていたので初めて「書痴もすなる入札」というものをやってみる。ところが、初心者の辛さ、締切時間にうっかりビデオを見ていて詰めを誤る。あほーっ!7万までなら行くつもりだったのにいいい!!まあ、縁がない叢書は所詮こんなものか。落札した方の履歴を見るとカーター・ブラウンを軒並み落している人だったので、本にとっては私のところに来るより大事にしてもらえそうで、とりあえず良しとしよう。うーん、凄い美本みたいだったんだがなあ。
◆で、見ていたビデオが、これ。「TRICK」第9回・第10回放映分、最終話「黒門島」編。前半の緊張感溢れる展開を、後半で畳みきれなかったという印象。特に、これまで山田奈緒子に倒されてきたインチキ霊能力者たちの思わせぶりの最後の台詞の辻褄をほったらかしにしたのは頂けない。まあでも、テレビ番組にしてはよく頑張ったと褒めておこう。主題歌はとても格好良いので、サントラは買うつもり。すっかり仲間由紀恵のファンになっちゃったぞ(単細胞)。えへへへっ!!(とってつけたように笑う)
◆一応、古本屋も2、3軒回ったが、さしたるものなし。ブックオフで、「半額単行本、本日に限り500円均一」セールをやっていたので、ちょっとだけお買い物。
「ハイペリオンの没落」Dシモンズ(早川書房)500円
「エンディミオン」Dシモンズ(早川書房)500円
「中国鉄釘殺人事件」RVフーリック(三省堂)500円
「依頼人は死んだ」若竹七海(文藝春秋:帯)500円
d「精神分析殺人事件」Aクロス(三省堂)100円。
しめて2100円。うーん、新刊なら「ハイペリオンの没落」1冊すら買えんぞ。ホンマ安いなあ。5冊の割には重い荷物を抱えて外に出ると、雨が降り出したので早々に尻尾巻いて退散。新刊で星野之宣の「KODOKU EXPERIMENT2」(ソニーマガジン)を購入。1巻が出ていた事をつい最近知ったばかり。続け様に読めてラッキーハッピーである。それにしても、星野之宣の未収録短編集を企画する出版社はないものか?「恐竜教室」とか読みたいよなあ。「バトルブルー」も結局、本になっていないし。困ったもんである。

◆行きがかり上、早々と今年のマイベスト5を選ぶ羽目に。うーん、さすがに270冊の中から5冊選ぶのは辛いぞおお。「猫」と「ぶた」だけは当確なんだけどなあ。
◆おお、そういえば今日はダサコン4ではないかあ。さぞやみなさんまったりしておられる事であろう。ダサコン3に比べるとプロ作家の参加も少なく、オークションのラインナップも左程燃えるものではなかったので、まあ羨ましさも中くらいなりである。自分はふつーの人よりはSFを読んではいるものの、それでもって徹夜で語り明かせる程濃くはないもんなあ。

◆「影なき魔術師」梶龍雄(ソノラマ文庫)読了
「<一日一冊>のためにする」読書。「灰色の季節」と並び、梶龍雄収集の最難関の一つだが、そこはそれ、所詮はジュヴィナイルである。元々、青少年を描かせると仁木悦子とは別の意味で巧い人(特に、少年の恋心が巧い)であるが、それは大人向けの小説なればこそであったようである。この2中編を収めた作品集に登場する少年は、妙に大人に付き従うようなところがあって、例えば、小林少年や御子柴進のような破天荒さや爽快感に欠ける。見れば、作中に新幹線も走っており、既に少年探偵とても御行儀良くしていなければならない時代の産物だったのかもしれない。どうしても、少年探偵には、謎の洋館や、怪し気な曲馬団や、呪われた宝石や、華やかなレビューなどという大道具・小道具が欲しくなるところである。少年探偵には、路地や悪所が良く似合う。とまあ、以上のような事は単なる中年の懐古的世迷い言であって、イマどきの子供にとって「少年探偵」といえば、ボイスチェンジャー付き蝶ネクタイの「青年の心をもった」クソがき、なのであろうが。えへへへっ!以下、コメント。
「影なき魔術師」突然ぼくの前に現われた「影なき魔術師」を名乗る男は、ぼくの恋人マリ子さんが夢遊病の治療のために伊豆に転地療養に出た事を告げる。マリ子さんの両親は既になく、莫大な財産を持ち主である彼女は、大きな御屋敷にばあやのおやえさんと二人暮らしをしていたのだが、ここのところ、病気勝ちで医師から面会禁止を申し渡されていたのだ。別荘は、彼女の伯父さんが屏風岬に建てたもの。突然の転地療養を不審に思ったおやえさんの依頼を受けて、現地に向う僕等は車中で顔に疵のある怪しい男を見かけるが、僕等が熱海に着く頃には姿を消していた。屏風岬の断崖絶壁の下の海を調べる僕等に向って落される巨岩。江戸時代の海賊伝説と現代の密輸事件が交錯する岬に秘められ謎とは?そして別荘に潜入した僕等がそこに見たものは?果して僕はマリ子さんの危機を救う事が出来るのか?てなお話。まあ、展開といい、舞台設定といい、すべてにわたってお約束の世界。新幹線の走る時代に、変装上手で拳銃片手の「謎の紳士」は似合わない。それにしても、この一人称の青年、二十歳を過ぎている割に幼すぎないかあ?
もう一編の「消えた乗用車」は、「みんなビンボが悪いんやあ」という話。自動車事故で光を失った薄幸の美少女とその兄の物語で、妹の手術費用を稼ぐために奔走する兄に銀行強盗の疑いがかけられ、彼の無実を証明する幻の証人を探すというのがメイン・プロット。一種の「幻の女」パターンだが、真似たのはパターンのみ。それなりのサスペンスはあるものの、徹頭徹尾「子供だまし」である。こんな話に騙される子供なんぞ、どこにもおらんのではなかろうか?
梶龍雄収集に走っている人からすれば、憧れの本なのかもしれないが、中身に期待するのはよした方がよかろう。


2000年9月29日(金)

◆早朝出勤。とまれ、本日で通常勤務に復帰。定時で退社して南行徳定点観測。
「朱房の鬼」志村有弘編(春陽文庫:帯)310円
「蛇の眼」志村有弘編(春陽文庫:帯)310円
「シャーキーズ・マシーン」Wディール(角川書店)100円
「クラバート」プロイスラー(偕成社)100円
「悪党パーカー/ターゲット」Rスターク(早川ミステリ文庫)50円
「魔物をたずねて超次元」Rアスプリン(早川FT文庫)50円
ああ、古本は安い!!

◆お、くろけんさんって、この日記を読んで下さっているみたい。いや、ありがたい事でございます。「なまもの夫人」のご紹介でしょうか。でも、こんな日記読んでいらっしゃる閑があったらクイーンを読んで下さい。お願いします。絶対面白いです。
◆クイーンといえば、EQFCの20周年記念全国大会が名古屋で開催される事になった由。折角、名古屋まで行くなら、そちらの方々にも御会いしたいものである。噂の「古本まゆ」も寄ってみたいぞお。


◆「第八の地獄」Sエリン(ポケミス)読了
大概の人は、自分が生まれた年に起きた代表的な出来事を年表で見て覚えているものである。それが「東京オリンピック」だったり「日本万国博覧会」や「沖縄博」だったりする人は幸せである。私の場合、日本史年表に載っている出来事といえば「赤線廃止」。とほほ。で、私の生まれた年のMWA受賞作がこの作品。要はそういう時代だったのだ、当時の日本は。さて、エリンといえば「特別料理」に代表される洒落た短編の人なのであるが、長篇もそこそこ紹介されている。その中でも代表作と言えるのがこの「社会派」推理小説で一応文庫化もされている(絶版だけど)。主人公は、私立探偵。テーマは「警察汚職」。となると、卑しい街を行く一匹狼の私立探偵が悪徳警官の執拗な妨害を受けながら組織上部の腐敗に迫るが、最後はトカゲの尻尾切りな「真相」に辿りつく、てな話を思い浮かべる人がいるかもしれないが、この話は全然違う。
主人公は、35歳にして貧困のどん底から現在の地位に辿り着いた中堅私立探偵社の社長マレイ。極めて組織的にビジネスライクに事を運ぶ彼が、理想主義に燃える若手弁護士ハーリンゲンから持ち込まれた「収賄警官の無実を晴らす」という事件に興味をもったのは、一重に被告人ランディーンの婚約者ルースの美貌に打たれたからであった。あろう事か、マレイはルースの関心を自分に向けるために、彼女の婚約者がどれだけだらしない「犯罪者」であるかを証明しようと自ら調査にのりだす。一方には暴力のプロ、もう一方には汚職警官を血祭りにあげようとする地方検事、双方からの妨害を受けながら、マレイがつかんだ絶対的な「証拠」が証明するのは果して、被告の無罪か、有罪か?てな話。
なんともズッシリとした「小説」である。私立探偵の物語ではあるが、いわゆる私立探偵小説ではない。まず、主人公が事件にのめりこんでいく動機が不純であり、しかも(少なくとも結末の直前まで)権力に対して啖呵を切ってみせる、という小気味良さがない。その掟破りが新鮮である。加えて、いうまでもない事であるが「人間が書けている」。ほんの脇役にしか過ぎないキャラクターが、或る瞬間、場を浚う好演をする。主人公を始め、登場する人物のそれぞれがトラウマを持ちながら、それでも必死に生きている様が押えた筆致で描かれる。解説によれば、「第八の地獄」とは「偽善者や、ペテン師や、どろぼうや、女衒や、汚職官吏が呻吟している。いってみれば世俗的な悪の総決算の場」だそうで、なんと物語にマッチした題名である事か。しかも、それでいてこの小説には、日本の社会派推理のように社会告発で終らせない爽快感がある。密室殺人も不可能犯罪もないが、これはこれで上質のアメリカン・ドリーム(とナイトメア)を描いた一級のエンタテイメントである。エピローグがいいんだわ、またこれが。


2000年9月28日(木)

◆今日もバタバタ。その日にならないと仕事が見えないという展開は、消耗する。夜は業界の送別謝恩会。送られる人が一番元気なのは一種のパターンである。終了後、閉店間際の書店に飛び込みミステリマガジンとSFマガジンを購入。ミステリマガジンは今更ながらの007とそのライヴァルたちという特集。「それいけ、スマート」の分載は喜ばしい反面、700番台から1000番台までのポケミス暗黒期を思わせて少々寒い。でも、今の読者にとっては結構新鮮なのかもしれんなあ。古本購入0冊。掲示板での皆さん方の気持ち良い買いっぷりが羨ましい限り。
◆ふと、くろけんさんの掲示板なぞを覗いていると、氏がクイーンを殆ど読んでいないということを知って愕然とする。「新本格系の作家=本格ミステリマニア=クイーン・ファン」という勝手な思い込みがガラガラと崩れていく。それにしても推理小説を書く側としておっかなくないものだろうか?「驚天動地の大トリックを思いついたと思ったら70年前にクイーンがやっていた」という事がない事を祈るのみ。
◆知らぬ間にカウンターが、小林文庫さんの「推理小説ノート」を超えていた。20万間近の小林文庫トップページには離される一方であるが、かつてネットに入った時に自分が足繁く通った大先輩サイトに手が届いてちょっと嬉しい気分。

◆「翼ある蛇」今邑彩(角川ホラー文庫)読了
このサイトを立ち挙げる際に、小林文庫さんにおける加納朋子・大阪圭吉のようにマイ・ブームな作家のよいしょコーナーを設けたいという思いがあった。私の場合、海外作家はジェニファー・ロウ、そして国内作家は今邑彩と心に決めていた。決めただけで実行にうつせぬまま今に至る訳だが、それ程に今邑彩には思い入れがある。「何故、この優れた作家の評価が今ひとつなのか?」という苛立ちといっても良い。第0回鮎川哲也賞受賞作家にして、堂々とカーやクリスティーの本歌取りをものにする一方、ツイストの効いた「旧クライム・クラブ」風作品もコンスタントに出してきた作者こそ「ミステリーの新女王」の名に相応しいと信じているのだが。
閑話休題。今日の課題図書は、昨年、同じ叢書から出た「蛇神」の続編的造りの作品。バリバリの新作なので、梗概を述べるまでもなかろうが、とあるフェミニスト作家のホームページの掲示板に「生け贄を捧げる時が来た」という書き込みがあり、その予告通りに猟奇的な連続殺人事件が起きる。偶然、その作家からネット・エッセイ集の企画を持ち掛けられていた女性編集者が、同居している姪の行動に不審を抱き、やがて、東西の神話に封じ込められた蛇の意味に迫る事となる。現代に甦った狂気の儀式は封殺された女系社会の怨念か?そして美しき姪・火呂の生い立ちに秘められた謎は、「日本」の名を持つとある村の奇習に収斂していく。新たな神話は生け贄を求め、そして生命の糸は刻まれる、てな話。
読み終わって直ぐに感じたのは「これって、続編でなくて、いいんじゃないの?」という事。「続編」と呼ぶには、本来の「生き神ホラー」としてのメイン・ストリームが一向に進展していないのである。敢えていえば「外伝」程度の位置づけ。しかもミステリとしてのメイン・プロットは、この作者自身の過去作に極めて似通ったものがある。インターネットの使い方も、「ブードゥー・チャイルド」あたりに比べるといかにも浅い。トンデモ神話解釈はなかなか読ませるが、それ以外の部分では「なんとなく書いちゃった」感の強い作品である。ただ、この作品のラストに実に視覚的に美しいシーンがあって、哭かせる。まだ、この作家を見放すには早すぎる。頑張れ!今邑彩!本当の「続編」に期待しちゃうぞ。


2000年9月27日(水)

◆ダブル・ブッキングしてオロオロしていたら、なんと3つ目の仕事が飛び掛かってきてどちらもキャンセル。個人的には結果オーライなのだが、心中複雑。とまれ、懸案事項が一つ片付いたので、定時で無理矢理切り上げて平井のブックオフへ。
d「太陽の汗」神林長平(光文社文庫)200円
d「蒼いくちづけ」神林長平(光文社文庫)200円
d「ルナティカン」神林長平(光文社文庫)200円
「オネアミスの翼1・2」飯野文彦(ソノラマ文庫)各100円
「多重人格探偵サイコ1・2」大塚英志(角川スニーカー文庫)各100円
「クロノス・ジョウンターの伝説」梶尾真治(ソノラマ文庫ネクスト)100円
d「異次元侵攻軍迫る!」Eハミルトン(早川SF文庫)100円
「このミステリーを読め」郷原宏(三笠書房王様文庫)100円
「95年版海外ミステリ全カタログ」仁賀克雄監修(日本テレビ:帯)100円
見ての通りの空振りな1日。とりあえず光文社文庫神林長平がダブり2セット目揃う。DASACONにもいかない人間がこんなもん2セットも集めてどうする?ほんと、どうするんだろう。ひさしぶりにジグソーさんの御厄介にでもなるかな?

◆テレパル買って10月改編チェック。なんと!全くといっていいほど、ミステリ系・SF系ドラマなし!おお、これは積録が増えなくていいかも。この改編期のドラマは最終話がクリスマス前後に放映されるので、恋愛ドラマ向きなんだよなあ、うんうん。とりあえずNHKの「深く潜れ〜八犬伝2001」をチェックしてみますかな。後はWOWOWで「新アウターリミッツ」の新シリーズ、10月4日に「世にも奇妙な物語」、てなところ。うーん、折角、野球中継の延長にふりまわされずに済む季節なのにねえ。

◆「クルーイストン実験」Kウイルヘルム(サンリオSF文庫)読了
ちょっとSF系に媚びてみる。SFもミステリもこなす才媛の76年の作品。梗概を読むとロビン・クック風の医療サスペンスの趣。まあ、こんなところでお茶を濁しておきますか、と思って電車の友に。ところが、これがいわゆる「問題作」タイプの作品なのであった。いやあ、参った参った。こんな話。
主人公は、プレイザー製薬で画期的な痛み止めの新薬Pa因子を開発中の夫婦研究者。自動車事故で脚を傷め自宅療養中の妻アンが天才の閃きを持つのに対し、夫クラークは優秀ながらも勤勉なる補助者タイプの研究者。良きパートナーとしてやってきた二人の間に亀裂が入る切っ掛けは、一匹の実験猿の凶暴化だった。新薬の副作用が、現場で囁かれる中、会社を儲けの道具としか考えていない経営陣は、新薬の人体実験を迫ってくる。ジレンマに苦しむクラークは、真の開発者である妻アンに対し、そういった状況の説明を切り出しかねる。続いて行われた3匹の猿を用いた対照実験も、母猿による子供殺しという悲劇的な結末で幕を閉じる。そして、アンを巡る不可思議な出来事が更にクラークを苦しめる。自宅で飼い始めた小猫の惨殺、アン自身の記憶の欠落や敵意に満ちた態度、そして突発的なヒステリー。クラークは、アンが事故の痛みに耐え兼ねてPa因子を自分に用いたのではないかという疑念に駆られる。男尊女卑の会社機構、トラウマと家庭内レイプ、研究者の良心と名誉欲、そして、お互いのプライド故に心と心はすれ違う。そして危うい均衡は、神のテストの前に破局に向う。実験室の中と外で。
サンリオSFにしては驚くほど読みやすい作品。文庫350頁を一気読みである。それというのも、早く気の効いたオチに辿り着きたい一心ゆえである。ところが、この一人の有能な女性を中心にした様々なバランス・オブ・パワーの崩落を描いた作品は、「課題提起」型のリドルストーリー的結末を迎える。勿論、一通りの解決は示されるのだが、それがまさに読者を突き放す形の提示なのだ。中盤のサスペンス感が、非常に優れたものであっただけに、この結末は辛い。一言で云えば「女か猿か」。一夜の娯楽をSFに求める人には徹底的に向かない作品であり、これ自体が「女流SF」読みであるかどうかの適性実験でもある。勿論、私は「陰性」であった。フェミニズム闘士とサンリオSF完全読破を志した人が読めばいい作品であろう。


2000年9月26日(火)

◆もしかして私は今の仕事に向いていないかもしれん、と思う今日この頃。疲労困ぱいで帰宅。昼休み時間に近所の古本屋で2冊だけダブリを拾っておく。
d「ガラスの短剣」Lニーヴン(創元推理文庫:帯)100円
d「激突」Rマシスン(早川NV文庫)100円
なんだかこの日記も看板に偽りありになってきたのう。折角、三田線が延伸して目黒方面へのアクセスが容易になったというのに、ぶう。

◆TRICK第8話視聴。珍しく1話完結。「千里眼」vs.山田奈緒子。どんでん返しが決まっていてなかなかよろしい。特番期は録画すべきものがなくて積録消化に精をだせる。大いに結構。それにしてもTRICKもノベライズが出ているらしい。こりゃあ「買い」かも。
◆DASACON4事前企画のWeb書評アンケートを眺めていると、お二方ほどこの雑文を評価してくださっている。SF読みの人から評価されるというのは嬉しゅうございまする。

◆「黒魔王」高木彬光(東京文芸社)読了
買う方がダメなので「せめて読む方は少し濃いところを」と、この夏の伊勢丹の抽選で当たった本を持って出る。高木彬光の長篇推理としては、最も入手困難な作品。まあ、これに輪をかけてジュヴィナイルはしんどいのだが、そっち方面の趣味のない私にとっては実質上の「上がり牌」である。シミだらけの貸本上がりのボロ本が5000円もするんだもんなあ。それでも「読めればいい」派としては幸せなのである。で、この入手困難本は、大前田英策ものの第一長篇。なんと全編、大前田の一人称で語られるという異色作。しかも、ラストで川島竜子が大前田のプロポーズを受ける節目の作品でもある。それでありながら、この作品が文庫化されないというのは、余程作品の出来が悪いのかと戦々恐々であったのだが、それなりに楽しめる風俗探偵小説であった。こんな話。
おれ、大前田英策は侠客・大前田英五郎の末裔。合気道の達人にして部下も抱え事務所を経営する敏腕私立探偵だ。今回の依頼人は、南米帰りの富豪今川。戦時中、妻子を置き去りにしたものの、老境に入って里心のついた今川は既に妙齢に達している筈の娘・慶子捜しを依頼してきた。妻子が身を寄せていた京都から捜査を始めたおれは、帰路の寝台車内で宝石ブローカー殺しに遭遇する。彼が口にしていた「蒙古王」とは何をさすのか?そして遺留品の名刺に記された「黒魔王」とは?更に黒魔王を追っていたらしい知り合いの新聞記者湯浅が恋人に謎の書簡を残し失踪するに至り、おれは否応無しに「黒魔王」事件に巻き込まれていったのだ。そして事件の糸は今川の知り合いであり、殺された宝石ブローカー近藤の本家筋である旧財閥・大塚一族に連なって行く。一方、湯浅の残した書簡は彼の恋人小宮祐子と同僚の阿部を殺人現場へと誘うのであった。近藤の妻でありバー蝙蝠の経営者であるみどりの殺害現場へと、、、そして、ライバルの川島竜子と競って「黒魔王」事件を追うおれの前に更なる暴虐と陰謀が立ちはだかるのであった!黒魔術を信仰する神出鬼没の大兇賊との闘いを描いた痛快探偵小説、ここに見参!!
戦前のスリラーを思わせる御都合主義満載の風俗探偵小説。とにかく、なんの必然性もなく事件の現場に居合わせる大前田の凶運ぶりに呆れる。要約を試みて改めてその安易な展開に気がついた。クライマックスの銃撃シーンは、邦画華やかかりし頃のアクション映画の趣きで、黒魔術の扱い方まで低予算映画の安セットを彷彿とさせる。「蒙古王」の隠し場所は噴飯ものであるし、「黒魔王」の正体もみえみえである。しかしながら、全編を通した元気の良さがこの本の魅力。大前田と川島竜子の関係なんぞも実に微笑ましい。B級を通り越したC級作品なのだが、作者の開き直りぶりを楽しめる人は是非どうぞ。まあ「5千円の値打ちがあるか?」といえば、これはもう「絶対にない!」のではあるが。


2000年9月25日(月)

◆くそ忙しい1日。また残業の日々が始まるのかああ。購入本0冊。出掛けに投函した川口文庫への注文に希望を託すのみ。

◆「泥棒は野球カードを集める」Lブロック(ポケミス)読了
古本屋探偵といえば、ジョン・ダニングだったり、紀田順一郎だったりするわけだが、この作品の主人公バーニーだって捨てたものではない。もっともバーニーの場合は、古本稼業は世を忍ぶ仮の姿で、それもさしたる目利きとは言えないところが御愛敬なのであるが、これは作者自身に古本属性がない事にもよるのであろう。プロンジーニの名無しのオプあたりが私立探偵を廃業して古本屋でも開業しようものなら、それはもうオタク・パワー爆発の趣味の古本屋探偵が誕生する事になるのであろうが、ままならないものだ。
さて前作から11年ぶりに書かれたシリーズ第6作は、機嫌良く古本稼業に勤しんでいたバーニーが、新しい大家から賃貸料の大幅値上げを迫られるところから物語が始まる。しかも、この新しい大家が嫌味な事に純粋投機目的で女性探偵ものを収集しており、あろう事か500ドルの値打ちの本をバーニーからその5分の1の値で「血風!」していくのである。このサイトの常連さんにとっては、なるほど、抜かれた古本屋の親父はこんな風に感じるものなのか、という読み方が出来て一興かも。とまれ、お気に入りの古書店経営が累卵の危うきに晒されたバーニーは、永年押えてきた「盗みの蟲」を押えるのに四苦八苦。友人のレスビアン・キャロリンは敏感にそれを察して、彼に釘を刺す。わざわざ、その夜の獲物と目した実業家ギルマーティン家に自分から電話してまで、「お仕事」を流す事に成功したバーニーであったが、偶然にも街で美女ドールを手助けした事が、絶好の獲物を彼の前に差し出す。夫婦揃って欧州旅行に出かけているニージェント家にまんまと忍び込んだバーニー。幾らかの現ナマをせしめたところで止めておけばいいものを、「好奇心は猫を殺す」、難攻不落を誇るかのようなバスルームの鍵を開ける事に職人魂を燃やした結果、完全密室の中に裸の男の射殺死体を発見してしまう。しかも、翌朝馴染みの刑事レイがやってきて、ギルマーティン家から、百万ドル相当の野球カードのコレクションを盗んだ疑いをバーニーに掛けてくるのであった!危うし、我らが古本屋・泥棒探偵!
関係者全員を集めて「さて」というお約束のクライマックスや、新旧ガールフレンドとの軽妙なやりとりなど実に「待ってました!バーニー」である。この作品からは新たに、店の守り番として猫のラッフルズも新登場。古本好きから、猫好きまで浚えてしまえというサービス精神には脱帽してしまう。密室殺人の解法や、フーダニットの部分は腰くだけであるが、野球カードを巡る盗みと騙しの入れ繰りは楽しく読める。「四方八方一両得」のような大団円も、このユーモア・ミステリの結末に相応しいものであろう。少々、グラフトン・ネタの言葉遊びが冗長なものの、職人作家のツボを心得たシリーズ復帰作。まあ、よろしいのでは。


2000年9月24日(日)

◆雨の予報だったので前日に食糧を買いこんで御篭りモード。午前中は日記とレス付けで終る。天気予報を裏切る晴天に出かけようかとも思ったが、女子マラソンを見始めたらそのまま2時間釘付け。うう、録画とは知らなんだ。結局昼間は積録ビデオの整理。「サクラ大戦」の24話・25話視聴。まあ、お約束の展開である。最終回の絵が今ひとつなのは残念。あとは読書に昼寝とのんびり過ごす。それにしても「自分がこの時代に生きていた証」ですか。うーん、「あの投げ捨てたサングラスには幾らの値がつくのかな?」と瞬間思った自分との差にウンザリだよ。

◆「おせっかい」松尾由美(幻冬舎)読了
休日ほど本が読めない、というのは通勤読書派の皆さんに共通した悩みではなかろうか?本当は、こういう時こそ分厚い翻訳物に挑戦すべきなのは判っちゃいるのだが、つい取っ付き易い本を選んでしまう。というわけでファンタジー作家の一風変った新作メタ・ミステリが休日の友。「バルーン・タウンの殺人」でそのミステリ書きとしての実力は証明済みではあるが、この作品も一筋縄ではいかない。女性ばかりを狙うシリアル・キラーを冷徹な女刑事が追う、というありふれた話がこの作者の手にかかると、小説世界と現実世界が溶け合った不思議小説に化けてしまう。
中堅の女流推理作家、橘香織が「推理世界」に連載を始めた「おせっかい」なる作品。それは「羊たちの沈黙」まがいの売れ線「連続殺人鬼もの」であったのだが、職場の事故で療養中のビジネスマン古内の琴線に触れるものがあった。どこまでも一途な正義感を持ち不器用な人生を送ってきた彼にとって、作中の探偵役を務める女刑事がおかれた境遇の理不尽さは我慢ならないものだった。その思い故か、鎮痛剤の副作用か、なんと彼は、作品世界に自分らしき人間が入りこんでいる事に気がつき愕然とする。古内の元部下で彼を慕うカップル柳と日比野は、そんな古内の危うさを見て、直接、小説の送り手側に接触を試みる。しかし、その頃、作者もまた、自作への「闖入者」を認識していたのであった!そして現実と小説の垣根の上で、ニューロイックな道化達の推理ドラマが始まる。剃刀研人は過ぎ行きにけり。
なんとも奔放にして破格なミステリである。連載小説の伏線から「真犯人」を推理するくだりや、現実界の或る「死」に纏わる考察は、律義なまでに推理小説でありながら、基本的なプロットは、白日夢の如きBad Tripである。探偵と被害者と加害者、書き手と読み手という「仮面」が次々にすげ替えられていく展開は、設定の強引さを補って余りある興奮を我々に与えてくれる。予定調和に慣れたミステリの読み手からすると、幕切れ近くの「破綻ぶり」を如何に収束させるのかが気に掛かって仕方なかったのだが、なるほど、そうきましたか。ページの向こうでしたたかに笑う作者を感じつつも、「本当に大丈夫?」と要らぬ「おせっかい」をしてしまう作品であった。


2000年9月23日(土):秋分の日

久しぶりにしっかりレス付けしてお出かけ。今更ながら「Mi−2」なんぞを見る。トム・クルーズ、格好良すぎ。何故か、鳩が飛ぶんだよ、鳩がああ!ウーッ!お話は単純明解。なんだか「スパイ大作戦」というよりも「007」みたいである。突っ込みどころ満載。まあ、とりあえず面白かったからいいやあ。映画も久しぶりなら予告も久しぶり。で、どうやら「チャーリーズ・エンジェル」をリメイクしたらしい。その中の台詞に「またテレビのリメイクかあ!」というのがあって爆笑。判っててやるのね。映画館を出ると大雨だったのでぶらつく気になれず、そのまま飲みに突入。購入本0冊。酔っ払って帰宅すると日本サッカーは負け、中日は巨人胴上げを阻止していた。なべてこの世は事もなし。

◆「ピタゴラス豆畑に死す」小峰元(講談社文庫)読了
「物は新しい処から腐る」。至言である。例えば、今、一番旬な言葉をうっかり使うと、1年後あるいは半年後には、その部分が恐ろしく浮いてしまうのである。例えば「ダンゴ三兄弟」とか、「ブッチホン」とか、今の流行でいえば「モー娘。」なんぞも、近い将来、必ずや文章の「病巣」と化すであろう。というような事を改めて感じさせられたのがこの作品。そもそも、この人の書く「青春推理小説」は苦手である。そこに描かれる若者が若者らしくないのだ。何か中途半端に大人に反発しているようで迎合したような「けったいな」高校生がわやわや出てくるのがうざったい事この上ない。おまけに彼等の性格付けに当時流行の言葉やタレントを用いるものだから、その浮き加減たるや筆舌に尽くし難いものがある。正直、苦痛である。これが三橋一夫のように完全に時代錯誤になれば、呵呵大笑しながら読めるのだが。
この作品も設定からして凄いぞ。「ツチノコ捜し」。
ひゃあ、やめてくれええー。

しかしながら、推理小説としては結構真面目な造りになっているのが、これまた困り者なのだ。こんな話。
処は奈良県葛城市。山林王にして、株の仕手戦で連戦連勝の傑物・本間彦左衛門の所有する萱の原に幻の蛇ツチノコを追う高校生達。堂島高校妖怪研究会5名と飛鳥高校生物研究会7名。彼等を指揮するのは、ツチノコ捜しに血道をあげる予備校経営者・千葉。その一行に加わるために近鉄桜井駅に降り立った浅草高校落語研究会の沓野が、ひょんな事から浪人の男女・辻本雅美と意気投合するところから物語は始まる。小さな事故から、雅美は本間翁のお気に入りとなり、沓野は入院する羽目になる。萱の原を開発し一儲けを企む政商や市議、開発に反対する自然保護団体入り乱れる中、なんと、本間家の女中が鬱蒼たる萱の原に逃げ込むツチノコを目撃してしまう。行きがかり上、己の貞操を掛けて、翁にツチノコ捜しを許可させる雅美。そんな彼女の決意も知らず、夜を徹してのツチノコ捕獲劇の幕は開く。だが、一夜開けると、そこには生研部員の死体が一つ。なんと死体の喉には蝮のような噛み疵が残されていた!窮蛇人を噛む?だが、警察が乗り出すと、その死因は蛇の毒ではない事が判明する。一体誰が何のために、高校生を殺害しなければならなかったのか?続いてツチノコ狩りの関係者の一人が、大阪市内のマンションで刺殺されるに至り、事件は益々その謎を深めていくのであった。果して「ピタゴラスの定理」は、この登場人物の多すぎる事件に如何なる解法をもたらすのであろうか?
探偵の性格付けやもってまわったダイイングメッセージにそれなりの必然性があり、レッドヘリングの撒き方に長けた本格推理小説。仕手戦部分のユーモラスな描写など徹底的にセクハラであるが、軽妙なキャラクター設定が味悪感を救っている。ピタゴラスの定理のこじつけはいささか強引ではあるが、まあ許容範囲か。小ネタながらローカルな時刻表トリックもあり、推理小説家として真摯に取り組んだ姿勢は称賛に値しよう。この小説の疵は、なんといっても高校生を主人公にしてしまったところである。高校生でさえなければ、メイン・キャラ達の違和感も消化できたであろうと思うとなんとも残念至極である。


2000年9月22日(金)

◆通常勤務。ちょっちい残業で池袋に行きそびれ。いつもの南砂町定点観測。
d「淫獣迷宮」友成純一(天山NV)100円
d「遺跡の声」堀晃(ASPECT NV:帯)100円
d「屍衣を着た夜」筑波孔一郎(幻影城NV)100円
「殺人フォーサム」秋川陽二(文藝春秋:帯)300円
「幽霊たちの館」ブルックス他(講談社青い鳥文庫)200円
さしたるものもなかりせばこれにてゴメン。

◆一昨日買った「このミス92年度版」をパラパラみていると、投票者の中に「よしだまさし」さんを発見!!おお、やはり昔から凄い人だったのだなあ、うんうん。それにしても「ガラクタ風雲」の多彩ぶりに比べてこのサイトの単調な事。これはもう人間の幅の差としか言い様がない。だってわし、本のほかに趣味といえるようなもんないもんなあ。10年ぐらいマンガ同人をやっていた程度では太刀打ちできんわい。そのうち「替え歌」宴会やりましょうね。よしださん。
◆ちょっとビデオ棚の方をいじっているうちに「あれは、どこにあったっけ?」モードに突入。積録の初期「必殺」を掘り出す作業に勤しむ。インターネットで、貫井さんのリンクから全話リストページなどという凄まじいものがある事を知って狂喜乱舞。しかし対照してみると結構録画漏れがあって、逆にショックを受ける。取り漏らしたつもりはなかったので、放映禁止の回があるのかな?必殺は、全体の1/3程度しかみておらず、あろう事かシリーズの最高傑作との呼び声が高い「新・仕置人」に至っては一話も見る事が出来ていないという体たらく。LDボックスが欲しいよう。どこぞの中古屋に並んでいないものかな?(また、中古かい!!)

◆「怪物」H・ヘクスト(ポケミス)読了
古典再訪。というかタダの積読本である。この読書日記が、それなりにバランスよく古今東西のミステリを取り上げる事ができるのも積読の御利益である。えっへん(いばるな)。所持しているのは、昭和58年に再刊された版。ついこのあいだ買ったような気がしていたのだが、月日の経つのは早いものである。一昨日、「近年の復刊ブーム」などと筆を滑らせた「死の月」の再版も調べてみるとなんと!13年も前の話だったし、いやはや。<小説買い易く、読なり難し>である。
さてフィルポッツといえばなんといっても「緑衣の鬼」こと「赤毛のレドメイン家」である。新人作家のアガサ・クリステイを応援した人である。かろうじて黄金期に指が掛かった頃、この作者は押しも押されもせぬ大御所であった。つまり一言で云うと「古い」。
かつて港町として栄えたウエスト・ヘイブンの「ロミオとジュリエット」。リチャード・リバースとフィリス・ベルハンガア。リチャードの先祖が、フィリスの先祖から「血の畑」という呪われた名でよばれる土地を騙し取った事から、両家の間では諍いが絶えなかった。だが、リチャードとフィリスの純愛は、その恩讐を溶かし、リチャードの伯父パトリックの仲介によって、両家の当主ジョージとマイクルは、港の古い倉庫で「血の畑」の売買契約に調印する運びとなった。しかし、惨劇はその夜に起きた。なんと、フィリスの父マイケルは拳銃で惨殺され、リチャードの父ジョージは行方をくらましたのだ!ジョージを誘い出した偽電報は果して、ジョージ自身のトリックだったのか?悲嘆にくれるベルハンガア夫人は有能な私立探偵プレスコットに真相究明を依頼する。一方、フィリスから婚約解消を言い渡されたリチャードは、更なるショックに襲われるのであった。そして密売人の巣窟として様々な抜け道や仕掛が施された「古倉庫」は新たな血を求める。
この犯人の見当がつかない人はいないであろう。それほどにクラシカルなフーダニットである。開巻即当たるといってよい。従って、そのゆったりとした筋運びがいかにも冗長に映る。途中で探偵を交代させるといった掟破りの展開があったり、真犯人の「正体」に一工夫あったりはするのだが、それがうまく機能していない。ある種の「達観」がないと最後まで読み通す事すら難しい作品である。そもそも、解説で、「本当は『誰が駒鳥を殺したか』を訳したかったのだが、原書が手にはいらなかったのでこっちを訳しました」と書かれているところが、なんともこの本の「凄い」ところである。もしも「駒鳥」の原書が入手されていれば、或いは未だに「幻の作品」だったかもしれない。その方がお互い幸せだったかもしれない。


2000年9月21日(木)

◆本日は仕事絡みの飲み会。購入本0冊。
◆聞いた話である。一流といわれる経済評論家というのは、景気が悪かろうと良かろうと基本的に同じ事を言うのだそうだ。強気な人はあくまで強気に、弱気な人はいつも弱気に、持論を展開する。では情報操作がどのように行われるかといえば、マスコミが「んじゃ、そろそろ景気を上向き方向に持っていきますね」となると強気の評論家にお座敷がかかり、悲観論者の出番が減る。なるほど、なんか納得してしまう。ということは、なんですか、つまり経済評論は、「全て当たるわけではない」ではないと言うことの裏返しなのね。
◆本棚を増やし、雑誌を取り出しやすくしたので、古い書評なんぞをパラパラと眺める機会が増える。そこで聞いたこともない本をみつけ、しかも書評が好意的だったりすると地団駄踏むことになる。例えば、国土社から出ていたというHペンティコストの「ひきさかれた過去」。ブレイクの「クリスマス殺人事件」と同時期に出ていたジュヴィナイルミステリらしい。戦争の傷跡と描いた硬派な作品との由。ううむ、そうか、そうなのか。全くもって探求書が一向に減らないのはなぜなんだあ。

◆「徳利長屋の謎」はやみねかおる(講談社青い鳥文庫)読了
帰りが酩酊確実につき、軽い本を持ってでた。人気シリーズの番外編・夢水清志郎左右衛門江戸日記(嘘)後編。
この作品では我らが名探偵清志郎左右衛門は幕末の江戸を舞台に、衆人環視の花見の席から串ダンゴを1本だけ盗んでいった神出鬼没の怪盗・九印の正体を暴き、東海道のとある村で起きた空から降る御札と猫の呪という怪奇現象を解明し、最後には江戸の人々のために勝海舟と西郷隆盛の目の前から江戸城を消してみせる。サイドストーリーとして、前編の六地蔵事件で清志郎左右衛門が遭遇した侍の正体を巡る愁嘆場と、天真流の天才・中村巧之介と「闇の天真流」との対決が情味豊かに描かれる。
価値のないものを盗んでみせる怪盗九印、という設定は、明らかにニック・ヴェルヴェットのパクリだが、何故九印が価値のないものにこだわるか、という説明があるのが作者の功績。後日談も微笑ましい。ダンゴ盗難事件については、物理トリックはみえみえであるが、心理トリックが光る。猫の呪い事件は、かなり無理筋。これは殆ど再現不能である。昔の闇の暗さをうまく演出に用いているが、ここまでして怪奇現象をつくらんでも、という気が先に立つ。江戸城の消しっぷりは、なかなかのもの。一度は勝海舟が絵解きをするのだが、清志郎左右衛門は更にその上を行く。おお!これはもしや安吾捕物帖の基本プロットではないか!知っててやったとすれば、この作者のスレ方も相当のものである。
とまあ、ミステリ部分の評価は、中くらいなのだが、この話の最大の見せ場はやはり国家の在り方について、清志郎左右衛門が涙ながらに語るところだろう。このくだりは泣くよ、実際。作者の職業を知りつつここを読むと、なんだか大変なんだろうなあ、との思いを強く持つ。良い話を読ませて頂きました。