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2000年9月10日(日)

◆凄く厭な夢を見た。「チイチイ」と鳴く紙魚に腕を食われるのだ。あああ、なんか追いつめられてるぞ。
◆朝から二日分の日記をアップして休日出勤。二仕事ほど済ませて午後3時、折角ここまで出てきたのだからと大井町のブックオフ・チェック。うーん、相変わらず本も客も多いが何もない。
「徳利長屋の怪」はやみねかおる(講談社青い鳥文庫)200円
d「八百万の死にざま」Lブロック(ポケミス:映画カバー)100円
「王子様は孤独」図子慧(コバルト文庫)100円
「フクロウ探偵30番めの事件」Jマーシャル(童話館出版)500円
「白雪姫の殺人」辻真先(徳間書店)100円
ブロックは言わずと知れた映画カバー狙い。まあ100円なら良いでしょう?「フクロウ探偵」は5年前の本なのでまだ現役かな?なんとなく面白そうである。ちょっと食い足りないので東京に出て八重洲地下チェック。300均と100均でわしわし拾う。
d「現代アメリカ推理小説傑作選1」MWA編(立風書房)300円
d「現代アメリカ推理小説傑作選3」MVA編(立風書房)300円
「ミステリーの書き方」Lトリート(講談社)300円
「ミステリー美食紀行」菊地道子(グラフ社)
d「黄色い部屋」Gルルー・水谷準訳(日本出版共同:裸本)100円
d「或る男の首」Gシムノン(雄鶏ミステリ:カバー)100円
d「マギル卿最後の旅」FWクロフツ(雄鶏ミステリー:カバー)100円
「ドラゴン殺人事件」ヴァン・ダイン(芸術社:裸本)100円
「日本版ファンゴリア・98年2月号」(ファングス)300円
雄鶏ミステリのカバー付きが100円なら買いますよ、ええ、買いますとも。菊池道子の本は「EQ」連載の選集+αなんだそうな。こういう本は出た時にはスルーするけども後になって欲しくなる本の最たるものだな。ファンゴリアは「エコエコアザラクV」の特集がカラーで7頁あったので拾う。というわけで結構なお買い物。重い重い。

◆帰宅して録画してあった「ガメラ3・邪神覚醒」を見ながら夕食。うーむ、前田愛はちっとも可愛くないぞ。でも中山忍がコロコロとして可愛いので許す。特撮はパワーアップしているが、自衛隊にガメラ掃討を命じるのは頂けないなあ。イリスを倒してからの描写が冗漫だし、だいたいどうやって倒したのかが良くわかんないだよなあ。猿マンではないが、こういう場合の「眼鏡くん」の必要性を痛感する次第。

◆「三重殺人事件」鷲尾三郎(小説刊行社)読了
「Mac Fan Internet」で「ラインナップ壮絶」と評して頂いた事を受け、チョイめずな本を取り出し休日出勤の友に。昨年末の新宿伊勢丹展で大量捕獲したハンコべたべたのT蔵書の一冊である。基本的に読めれば良い人間なので、これで充分。そもそも鷲尾三郎に大枚叩くというのが、なんとも悩ましい。以前であれば、とても1000円以上出して買う気にはならなかった作者である。徐々に他に買うものがなくなってくると、このようなゾーンにまで手を出さねばならない。これも「とほほ」なんだろうなという諦めをもって読み始めたが、まさしく然り。150頁弱の中編である表題作に3短編を収めた作品集。
まず、表題作だが、ほんの出来心で40万円をネコババした男が辿る運命の皮肉を描いた作品。古本屋に雨宿りに入ったところ、奥の部屋で店主が泡を吹いて倒れているのを発見する主人公。彼の見守る前で店主は息を引き取る。死に水をとらせ、供養する主人公。が、帳場にあった千円札の束を見た瞬間、悪心が働く。その大金を持ち逃げした主人公が更に二つの「事故死」に巻き込まれ、なんと翌日には凶悪なる三重殺人事件の犯人と目されてしまうのであった!しかも、公私ともども事件の関係者に固められてしまった男には最早心やすめまる時はなかった。果してこの悲喜劇の顛末は?ってな話。喜劇仕立てにすれば、結構みられる芝居になるかもしれないが、真面目に情感を盛り上げようとしているために、なんともやりきれない話になってしまった。とほほ。以下、短編のミニコメ。
「泥濘」盛り場に自分を裏切った女を捜す画家の物語。ツイストもなにもないただそれだけの話である。一体なんなの、これ?とほほ。
「女臭」<奇妙な味>系なのだが、なんと「猫じゃないもん!」である。うーむ、こんな時代から、こういう類いの話というのはあったんだ。まあ、「雨月物語」や「聊斎志異」にある、といわれればそれまでなのだが。それまでである。
「死の仮面」湖畔の宿で、推理作家の私が託された二つの書簡。それには、ある姉妹を巡る巧妙な<人殺し>の記録が記されていた。この作品集のベスト。オチはみえみえであるものの、コンスタントにこのレベルを維持してくれれば、評価の対象足りうる。どこか江戸川乱歩を思わせる筋のいい佳編。総論:通俗の極みといった作品が多いが、たまに筋の良い作品もある、という鷲尾三郎らしい作品集。「面白いから絶対探せ!必ず読め!」というレベルでない事だけは保証できます。


2000年9月9日(土)

◆連続12時間の爆睡。昼過ぎにのそのそと起き出し、昨日の課題図書を読みきる。うう、暗い話やねえ。洗濯を済ませて、さあ!と気合を入れ直し、懸案の一気買いした「銀背」揃いの開梱に取り掛かる。その前に、突っ込むスペースを確保しなければならず、頭を捻る。2時間ほど本と格闘してなんとか棚に収める。ポケミスと違って色の変化が乏しいので、書棚映えしないこと夥しい。うーん、苦労が報われんわい。後ろにまわしたろか?開けてみて気がついたのは「火星の大統領カーター」がオマケでついていたのと(らっきー)、「インベーダー3」の代わりに「インベーダー2」が2冊入っていた事(とほほ)。あああ!これでは揃いではないだろう!!と一瞬焦るが、自分が既に「インベーダー3」を持っている事に気がつき胸をなで下ろす。函付きは2,3冊、カバー付きに至っては1冊もないのは値段から行って当然か。少なくとも「宇宙大作戦」はカバーが欲しいぞっと(まだ買うか、こいつは?)
◆本に疲れたので、古本買いの気力が湧かずゴロゴロしているうちにまたしても爆睡!なにせ、先週末がイベントと仕事だったので完全休養は久しぶり。身体が睡眠を欲しがるのである。荷造りした交換本を投函にいく根性も潰えたまま、寝たきり中年状態。夕方にゴミ出しに降りていくと、いわいさんから本2冊到着。
「妖奇・27年1月号」(オール・ロマンス社)頂き!
「白檀が匂った」佐賀潜(東潮新書)頂き?
「妖奇」は例の「小説江戸川乱歩」掲載号。4月の一気買いの際に欠けていた号である。「祝・一周年」との事なのだが、ほんとにこんな高い本貰ってしまっていいものだろうか?とりあえず、ありがとうございますありがとうございます。佐賀潜も聞いた事もない出版社の新書。うーん、知れば知るほどのその奥深さに慄くなあ。ダブリ本で「これ欲しい!」というのがあれば、御声掛けくださいましね>いわいさん

◆昨晩届いていた川口文庫の目録を眺める。いよいよ、雑誌・同人誌以外にはみるべきものがないような。「トム・ブラウンの死体」は安いなあ。

◆「敵の星」Pアンダースン(早川SFシリーズ)読了
ヒイコラ言って並べた銀背の中から一冊取り出す。文庫落ちしていないアンダースン。アンダースンといえばファンタジー趣味溢れる作品から、どたばたユーモアも得意とするプロ中のプロだが、この作品は直球ど真ん中、叙情溢れるハードSF。何故この作品を手に取ったかというと、実は「審判の日」と間違えたのだああ。作者に「地球を滅亡させた犯人星を探す」というとんでもプロットの話があるのは有名だが、うっかりそれと混同してしまった。紛らわしい題名つけないでよね。題名は原題の直訳だが「敵意の星」ぐらいにして欲しかったなあ。まあ、これはこれで悪い話ではなかったのだが。
時は遠未来。恒星間飛行と瞬間伝送を我が手にした地球人類は銀河にその範土を広げていた。そして重力波伝送装置を載せた星間宇宙船サザン・クロス号は、フリーフォール航行で人類未到の宇宙の果てをゆく。その乗務員は伝送装置によって一瞬にして地球から送り込まれ一定期間勤務するというシステム。だが、サザンクロス号が新たに発見された黒色矮星に近づいた瞬間、事故が起きた。命の綱とも言える伝送装置が大破してしまったのだ!修復には大量のガリウムが必要であるが、船には備蓄がない。宇宙に対して恐怖心を抱く日本人パイロット、沈着冷静な技術貴族、新婚間もないアングロサクソン系重力学者、母星の独立を夢見るロシア系機関士、漆黒の宙に孤立無援となった4人のチームは果してこの絶対絶命の淵から生還できるのであろうか?男達のプロとしての意地が軋轢を越えて虚空に一瞬の光芒を点す。
星野之宣の絵が似合う宇宙遭難物語。技術的設定が少々「ためにする」御都合主義で、果して科学的にみて正しい進歩の仕方かといえば疑問が残るが、そこはそれ、40年以上前の作品ですから。零落した「英語」とか、宇宙で評判の日本人パイロットとか、なかなかツボな設定もあって、「50年代の未来」を楽しめる作品。自らの職責を全うするために命の火を燃やす男達の姿が痛い。宇宙ドラマの果てに何故か物語は地球の汀でキプリングを朗読して終る。「それでも人類は海を目指す。」なんとも生真面目なハードSFである。その思いの真っ直ぐさが実に懐かしい。


2000年9月8日(金)

◆早朝から仕事でバタバタ。夜は久しぶりのカラオケ飲み会。何故かこの面子では1次会がカラオケで、2次会が飲みになる。とりあえずしたたか呑む。一週間の鬱憤が爆発してよく回る事。「おじゃ魔女ドレミ」の主題歌が巧く歌えてご機嫌。どっきりどっきりドンドン!結局午前様。購入本は面子の残業を待つ間に速攻で新刊を2冊。
「SFマガジン・10月号」(早川書房)890円
「翼ある蛇」今邑彩(角川ホラー文庫:帯)762円
なんとなくSFマガジンを買い始めてしまった。うう、70年代懐古に牧野修だもんなあ。このままずるずると牧野修の連載が続く限り買う事になりそうだなあ。挙句にバックナンバーを漁り始め揃えちゃうのかなあ。十数年分あるぞ。置き場所はもうないぞ。

◆本日発売の「Mac Fan Internet」10月号<噂の口コミサイト大公開!>で紹介される。ネット系の雑誌では初めての経験。他は「みすべす」を筆頭に「風読人」「密室系」「Masami's Home Page」の定番サイトに「ミステリ系更新されてます」「あなたま」の2大巡回サイト。一ヶ月ほど前「紹介してもいいですか?」という問い合わせを受けた際には「口コミ」という言葉に惹かれ快諾したのだが、蓋を開けてみれば、なんだよ、二大巡回サイトはともかく、後は定番サイトばっかりではないか!?ヤフーでクールマーク取っているサイトや、LYCOSのジャンルベストとってるサイトのどこが「口コミサイト」なんだよう!!ううう、ワタクシ的には、検索エンジンに登録されていないのが「口コミ」の条件だと思うのだか……単にミステリが限られた世界ちゅうことなんだろうか?とまれ、名だたるお兄さんサイトと並んで載っけてもらえて、満1歳のよちよち歩きサイトとしては満足満足でちゅう。ばぶばぶ。一ヶ所笑ったところがあって、Masamiさんのサイトに「大量の書評が掲載」とのくだり。Masamiさんの苦笑が目に浮かぶようである。
◆あ、そうそう。本日18時過ぎに8万アクセスを突破しました。ありがとうございます。キリ番を踏まれた方はお申し出頂けると幸いであります。上記の雑誌では「ホームページデザイン失敗の法則50」という特集もあって、なんでも、カウンターをトップページのど真ん中に載せているのはエラそうで良くないんだそうですが、今更ネコかぶって隅に持っていくのもなんなので、このままで参ります。

◆「死んだギャレ氏」Gシムノン(創元推理文庫)読了
「怪盗レトン」と並んでメグレのデビュー作とされている作品。戦前に「ロアール館」という題名で紹介された事もあるが、今となっては創元推理文庫の中でもなかなかの入手困難作。この版の入手にはかなりてこずった挙句、神保町BCで800円で買った。あの店にしては中途半端な値付けなのが、メグレものの地位を示しているように感じたものである。河出文庫がコンスタントにメグレを再刊・文庫化しているのは御同慶の至りだが、創元推理文庫も、この辺りの古典はなんとしても復刊して頂きたいものである。「レトン」と「ギャレ氏」の合本とか、絶対にマニア垂涎のアイテムだと思うのだが、どう?
ロアール河畔のホテルの一室で食器セールスマンのエミール・ギャレが殺された。それも頭を撃たれた上に、心臓をナイフで一刺しという念の入った殺され方であった。部屋の窓からは向かいの屋敷が望め、弾道はその方向を指していた。一見単純な事件に思われた行商人殺しは、しかし思わぬ展開を見せる。なんとギャレ氏は、十数年にわたり失職していたのだ。家族を欺き、別名でロアール館に逗留していた彼の真の職業とは?プチブルの妻、野心家の息子カップルからダメ親父の烙印を押された中年男のもう一つの貌が現われるや、事件の背後に脅迫の連鎖が浮かび上がる。有り余る動機。そして鉄壁のアリバイ。現場付近を猟犬のように嗅ぎまわるメグレは、被害者の不可解な行動に悩む。だがその時、現場で作業をしていた鑑識官が銃撃を受ける。しかもそれは、兇器と同じ拳銃から発射されたものだった!
「レトン」の派手さに比べるといかにも地味な話である。脅迫のネタや斜陽貴族の描写が時代を感じさせる。「被害者の正体」が最大の謎であり、それが解けた時に殺人の謎も解ける。物語全体をやりきれない侘しさが覆っており、殺人の瞬間にそれは「神々しさ」の域に達する。これがフランス人の感性というものなのか?上流趣味に対する敵意ともども改めて驚いた。物理トリックよりも、心理トリックにみるべきところがあるのはいつものメグレである。むしろ物理トリックがあった事に驚く。よく「メグレにも初期作には物理トリックがある」といわれるのはこの作品の事なんだなと納得。基本的なプロットが「レトン」と対になっており、メグレ・ファンとしては色々な意味で読んでおきたい一編であろう。


2000年9月7日(木)

◆仕事はますます煮詰まってゆく。元々仕事のキャパのない私としては既に「カラ炊き」状態である。ぐつぐつぐつ。古本屋に寄る気力もなく、ぐったりして帰るとKaluさんからの本が到着。
「時の娘」Jティ・村崎敏郎訳(ポケミス)交換
ありがとうございます。んでもって、すみません、当方からの発送が遅れております。申し訳ございませんです。この週末には必ず発送致します。ああ、とうとうポケミスは異訳も揃ってしまったなあ。後は修羅の初版・異装狙いかあ?うーむ。こればっかりは角川文庫横溝の比じゃないもんなあ。函もあるし。……やーめたっと。
◆おおっ、Masamiざちょーが叱っておられる。実はどうレスがつくか興味津々で見ていたんだよね。
◆爆笑メールを2通頂戴する。帯ネタとダブりネタである。ううう、書きたい。書きたいけど、書いちゃいけない。
◆黒白さん、お大事に。
◆青木みやさん、私の言う事なんぞ気にせずにじゃんじゃん新刊買ってくださいね。そういう人がいないと出版社も本屋も持ちません。私は古本屋をもたせますから(ちーがーうー)。


◆「病の世紀」牧野修(徳間書店)読了
それにしてもいろんな出版社から出す人やねえ。ある意味、売れっ子なのかもしれない。という訳で「流浪の売れっ子」の牧野修の新作である。帯がパラサイト瀬名である。作家としては牧野修の方が百倍凄い(当社推計)と思うのだが、やはりこの世界、「売れたもん勝ち」なのであろうか?ともあれ、なんだっていいから安心して次の作品に打ち込めるだけのセールスを期待したいものである。というのも、この作品、少々サイファイ方面に流れているのが気に掛かるのだ。こんな話。
ある日、松沢靴店に勤める61歳の職人Aさんは足だけを残して密室の中で燃えてしまった!ある日、食品関係の輸入会社に勤める篠田美樹さん(28歳)は地球意思のメッセージを聞いた!ある日、外車ディーラーの村上新造さん(28歳)は、牙が生えどんなものでも美味しく食べられるようになった!続発する怪現象!頻発する猟奇殺人!!果してその真相は!?これは世界的な保健機構WHOの特殊機関IRNI極東支部「国立予防医学研究所」の調査レポートである。ここで紹介される事件はすべて事実である!
御使い達が降りてくる。アポカリプスの「病」に侵されて行く日本。抑制不能の情動。暴走する譫妄。歓喜する殺意。切断される脳。縫われ、燃やされ、呑まされ、食われ、「意思」をレベル4の悪夢が塗り替えていく。癒しの爆炎に悔い改めるべきは、神か、悪魔か、それとも人か?
「推理するトンデモ医学」連作ホラー。総ての怪奇現象を「病気」で解釈していくという基本プロットが、いつしかアチラ側の論理にすり替えらていく様が不気味。人体発火現象、電波系サイコさん、人食い等などのもっともらしい講釈に肯いているうちに、マキノワールドの虜囚となった自分に気づき歓喜にうち震えるのである。ただ、作者が敢えてラストを「B級」に纏め上げたのには抵抗があった。うーん、そう来たか、牧野修。ぱんぴーな読者にサイファイあらんことを。


2000年9月6日(水)

◆おお!ついに愛さんが掲示板に書き込みにきてくれたぞ!ちょっと幸せな気分。うちの掲示板の荒れ模様も、裏の方で決着がついたようで、関係者からメールを頂戴する。管理人としても終息宣言しておきます。一方、政宗さんのところの掲示板のとある書き込みには正直ぶちきれる。メール不精の私にしては珍しく「応援メール」を出してみる。だいたい、これほど海外本格の紹介が奇跡的なレベルで進んでいる現状について不満を持てるというのは、はっきり言って「物知らず」以外の何物でもない。勿論カーにもいまだに何作か入手困難な作品はあるが、私が読み始めた頃には、逆に十数作は入手可能な作品がある、というレベルだったんだぞ!クイーンやクリスティにも絶版があったんだぞ!早川の世界ミステリ全集にカーが入らなかった時の落胆たるやなかったんだぞ!ブレイクだって、スタウトだって、ライスだって、ヘアーだって東京泰文社や高野書店で食費を切りつめてくそ高い値段で買っていたんだぞ!うがあうがあ。
◆仕事が煮詰まっている。ぐつぐつ。残業が見えていたので、昼休みに新刊書店で買い物。
「メフィスト」2000年9月増刊(講談社)1500円
「病の世紀」牧野修(徳間書店)1600円
「メフィスト」はビジネス街の本屋では足が速い。3軒目でようやく捕獲。なにせ場所とるもんなあ。でも読むとこってマンガだけだったりするんだよね


◆「怨霊症候群」藤田宜永(中公Cノベルズ)読了
土田さんが、探しているのを見て買った本。実は、勝手にサイキック・ディテクティブの連作短編集のつもりでいたところ、長篇作品、しかもミステリ趣味が乏しく、ファース味の強い和洋ゴッタ煮ナンセンスホラーであった。こんな話。
婿入り先が骨の髄まで腐りきった悪徳医院であった事を知った線の細い若先生誠くんは、誤診神経症に陥っていた。そんな彼の目前で、担ぎ込まれた急患が、口から鈴を吐いて息絶える。それ以来、医院の周辺には変死や車椅子が一斉に脱輪するといった椿事が相次ぐ。果してそれは病院に取り付いた怨霊の仕業なのであろうか?なまじの正義感を出したばかりに義父や妻、勤務医たちに疎んじられた誠くん。そんな彼に近づく一組の男女。イグアナそっくりの御面相で酒のつまみにバッタを貪り食う巨漢大方総八郎と長髪の美少女マヤ。彼等は自分達を妖術師と魔女の末裔だと紹介するのだが、凄みの向こうにせこさが顔を覗かせる奇矯さがいかにも怪しい。だが、ある事件を切っ掛けに若先生のバッドにしてファンタスティックなトリップの幕は開くのであった!歪んだ風景の中をミゼットは走り、輝く乙女は天空の異形を撃つ。身体の中で鳴る鈴は、淫らな見果てぬ夢の音。ベン・ケーシーになれなかったよ。
一応は、ノリの良さだけで読み通す事は出来たものの、とりたてて探し回るほどの作品ではないというのが正直なところ。和洋オカルト文献はそれなりにあたっており、奔放なコンビネーションで一定のリーダビリティーを確保している。が、それだけ。大方総八郎のキャラクターのデタラメぶりには見るべき処もあるが、愛すべきキャラというには程遠い。良くも悪くも職人肌の「字漫画」という趣の一編。うーむ、二日続けて変な本読んじゃった。


2000年9月5日(火)

◆掲示板にも書きましたが、昨日の日記で「愛・蔵太」さんを「愛・蔵人」さんと誤記しておりました。「ラヴ・クラウドだったよねえ」という思い込みがチョンボの原因であります。申し訳ございませんでした。謹んでお詫び申し上げます。
◆あめーー!残業ーー!という訳で、駅のワゴンのみチェックで終える。
d「妖魔の宴・狼男編1」菊地秀行編(竹書房文庫:帯)250円
ふう、再びこのシリーズのダブリ揃いにリーチ。5万オフの時だったか、白梅の旦那に何冊かお譲りして後退していたのだが、やっとここまできたぞ。これも、数年後には古書価のつきそうな叢書である。ソノラマ海外とまではいかないであろうが、1冊1000円時代がほんのそこまできているような気がしてならない。というわけでホラー系にも興味のある人は今のうちに拾っておかれる事をお勧めする次第。私も100円縛りを解いて「半額なら買い」だと割り切っておりまする。
◆「仮面ライダー・クウガ音楽集1」をやっとこ購入。そうかあ、佐橋俊彦って「ガイア」の人じゃん。「ギンガマン」もツボだったしなあ。当分、BGMはこれだな。しかし、主題歌がTVサイズとはケチくさいぞ。フルサイズは音楽集の2に入れるのかな?商売上手め。でも「タイムレンジャー」が既に2枚も音楽集が出ているのには驚いた。ううむ。

◆よしだまさしさんの掲示板でこっそりと未読王さんがZPこと「絶版本好事家調査会(絶好調)」の解散を宣言しておられた。おお!6月以降書き込みがないと思ったらそういう事ですか。私は、昨年3月ぐらいからこのサイトを立ち挙げる8月ぐらいまでのお付き合いだったが、いやあ勉強になりました。6年の長きにわたり、独自のコンセプトと偽悪的なノリで人気の会議室を運営されてこられた王さまに心からの敬意を捧げます。お疲れ様でした。次は王さま御自身のサイトの立ち上げを鶴首するものであります。考えてみれば、ここの掲示板で本の中身に触れず、買ったという事実を淡々と述べるっていうのはまさしくZPの呪縛なんですよね。

◆「ヘパイストスの劫火」Tペイジ(早川NV)読了
たまにはC級SFの極致を、と思い手にとった昆虫パニックもの。なんちゅうか、こんちゅうか((C)山上たつひこ)、火を噴くゴキブリがアメリカ全土を席捲するというとんでもなく気色悪い話である。後書きで深町真里子が「想像するだに身の毛がよだち、翻訳作業が遅れに遅れた」と吐露しているのもむべなるかな。映画ファンはご存知であろうが「燃える昆虫軍団」なるトンデモ映画の原作である。ときどき深夜放送枠で見かけるが、未見。いやあ、たとえ時間があってもご遠慮申し上げたい。なべて節足動物が苦手なところにもってきてゴキブリだもんなあ。ただ映画はいざ知らず、この原作自身はかなり真面目なつくりであった。こんな話。
ジョージア州を襲った大地震は、禍禍しい生き物を地上に放つこととなった。地割れの底から、とてつもなく固い殻に覆われたコガネムシ状の昆虫が湧き出してきたのだ。彼等は、尾角をこすりあわせる事で火を起こし、焼け残った灰を主食とするという奇怪な生態をもっていた。だが、動きが緩慢でなぜか生殖を行わないため、人々はその根絶はたやすいものとタカを括っていた。この虫の調査に乗り出した昆虫学者パーミターは、ひょんな事から甲虫の類いと思われた彼等が直翅目すなわちゴキブリの一種である事に気がつく。そして徐々に彼等に対し研究者としての興味を越えた感情を抱くようになっていくのであった。一方、動きが緩慢な筈の彼等が如何なる方法でか、徐々に北上を続け、ついにはニューヨークを大パニックに陥れる。だが彼等の弱点や天敵を模索する生物学者たちは、改めてその強靭ぶりに呆れ果てる事となる。果して、人類はこの地獄からの使者に対抗できるのであろうか?そしてパーミターの下したある決断とは?
前半は実にパニックものの王道を行く展開。静かな村の椿事が、徐々に大事件に広がっていく描写はまさに映画そのもの。色々な謎を提示しつつ、その解法に迫る過程もスリリング。天敵捜しのためにいろいろな生物と対決させるくだりは、さながらポケモン・スタジアムのノリである。で、実はパニック映画的なシナリオは、前半で完結してしまい、後半は「ウィラード」になっていくのであった。即ち、この話は、1冊でパート2込みの仕上がりになっているのである。マッド・サイエンティストの領域に踏み込んでいくパーミターの描写には鬼気迫るものがあり、エピローグで紹介される、とあるシーンは、昆虫が苦手な人にとっては悪夢以外の何物でもなかろう。ああ、いやだいやだ。いやはや世の中にはいろんな小説があるもんだ。


2000年9月4日(月)

◆こわいですかそうですか。
「伝説のネット・ファイター愛・蔵太が怖れた掲示板!!」
うーん、怖そうだ。
◆怖いといえば「佐伯日菜子」ですが、彼女の出世作は、なんといっても「エコエコアザラク」でございます。佐伯日菜子こそは史上最強の<黒井ミサ>女優と呼んで良いでしょう。機会があれば是非一度みてくんなもし>大矢博子さま
◆ドタバタの1日。とりあえずとっかかりの山場は越えたので西大島から大島、平井を攻めてみる。
「すばらしい超能力時代」北川幸比古(鶴書房盛光社)100円
d「リュイテン太陽」福島正実(鶴書房盛光社)100円
d「葬送行進曲」鮎川哲也(集英社文庫)100円
「青海豹の魔法の日曜日」大原まり子(角川文庫)100円
「Dの鏡」石井敏弘(講談社NV)25円
「Dの鏡2」石井敏弘(講談社NV)25円
「警察署長・浮かばない死体」石井竜生・井原まなみ(光文社NV)25円
「怨霊症候群」藤田宜永(中公CNV)25円
d「壜づめの女房」Rダール(早川書房:函)100円
わっはっは、やってくれるぜ、ブックオフ!ノベルズ4冊100円もさることながら、異色作家短編集の効き目を100円だってさあ。所持本が裸本なのでこれは嬉しい。ミニ血風。ついで先日ダイジマンが思い出の叢書と呼んでいた岩崎書店の「SFこども図書館」をごっそり確保に行く。
「時間けいさつ官」Rカミングス(岩崎書店)200円
「27世紀の発明王」Hガーンズバック(岩崎書店)200円
「くるったロボット」Iアシモフ(岩崎書店)200円
「月世界探険」Jヴェルヌ(岩崎書店)200円
「逃げたロボット」デル・レイ(岩崎書店)200円
「超人の島」Oスティーブルトン(岩崎書店)200円
「超能力部隊」RAハインライン(岩崎書店)200円
「黒い宇宙船」Mラインスター(岩崎書店)200円
「宇宙の超高速船」EEスミス(岩崎書店)200円
「宇宙家族」EEエバンズ(岩崎書店)200円
「火星の王女」ERバローズ(岩崎書店)200円
「恐竜の世界」コナン・ドイル(岩崎書店)200円
「次元パトロール」マーヴィン・ジュニア(岩崎書店)200円
「深海の宇宙生物」Jウィンダム(岩崎書店)200円
人気の「合成怪物」はなかったけど久々に目方でドン。こりゃあ重いわい。前回買った分と併せて全26巻中21巻を確保した勘定。でもきっちりマースティンの「恐竜一億年」とかもないぞ。目利きが抜いていった後だなこりゃあ。背アセがきつくスリップ入りという店晒しオーラむんむんの21冊、これは私がシャレでもっているよりも大事にしてくれそうな人がいそうな、というか一人は知っているというか。


◆「幻獣遁走曲」倉知淳(東京創元社)読了

たまには新しい方のクライム・クラブでも、と手に取った猫丸先輩シリーズ第2短編集。デビュー当時は並の新本格作家かと思っていたが「星降り山荘」で余りに見事な背負い投げを食らって以来、端倪すべからざる作家として認識している。この歳になって、かけられた技の美しさに呆然とする快感を味わえようとは思っていなかったので、以来、意地汚く「ねえねえ、もう一回」と期待してしまう。作家にとっては、ご迷惑な話であろう。そういう期待がなければ、それなりの水準をクリアした作品集。人が死なず、警察も殆ど出てこない謎を5つ、ユーモラスに手際よく料理している。路線としては探偵のトボケ方ともども泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズを彷彿とさせる。特にこの作品集では、語り手たるべき後輩が登場しないために年齢不詳の小柄な童顔フリーター「猫丸先輩」は、ますますもって「亜」的雰囲気を漂わせている。極論すれば、この作品集、探偵が「亜愛一郎」であってもなんの違和感もない。尤も、謎のパンチの落ちてきた頃の「亜」ではあるのだが。以下ミニコメ。
「猫の日の事件」キャットフード会社が主催する猫自慢大会の控え室で紛失した指輪の謎。犯人を特定するために猫丸の取った奇手が爆笑をさそう。緩急の付け方が巧みであり、喧燥の去った瞬間に何気なく犯人を指摘する猫丸の名探偵ぶりが光る。脇役のキャラも立っており、上々の出来栄え。
「寝ていてください」新薬の臨床試験という「危ない」バイトで消された被験者の謎。少々肩透かし系。謎が充分に熟成されないうちに終ってしまった感じがする。やはりここは超能力ネタや怪談でも絡めて話をややこしくして欲しいところ。
「幻獣遁走曲」幻の生物「アカマダラタガマモドキ」捜しという怪しいバイト先での小さな焼失。変わり種のフーダニットではあるが、さすがにこれはみえみえ。オチまでみえみえ。題名の格好良さで表題作になったのだが、謎の底が浅い。それにしても「タガマ」ってなんやねん?
「たたかえ、よりきり仮面」閑散とした酷暑のデパート屋上でのヒーローショー。よりきり仮面を苦しめた甘い罠の真相とは?ホンキイ・トンクなロジックの展開が楽しめる一編。ヒーローショーの描写は非常に正しい。若者像がよくかけていて吉。
「トレジャーハント・トラップ・トリック」秘密の宝庫で、お宝を中途半端に持ち逃げしようとした犯人の正体とは?これも日常の謎に対してとんでもない解法を持ち出す。しかし、個人的には犯人の気持ちが良く分かるので許す。
総論:悪くはないが、薄味系なのが食い足りない。殺伐たる事件に挟み込まれてこういう「謎」があるのは箸休めになるが、5つも続くと少々飽きが来る。次はきつい一発をお願いしちゃうぞ。


2000年9月3日(日)

◆野暮用で半日、仕事で半日。疲れが抜けませんな。仕事帰りに南砂町定点観測(久しぶり)。
d「鉄の夢」Nスピンラッド(早川SF文庫:帯)250円
「幻獣遁走曲」倉知淳(東京創元社:帯)900円
d「マクベス殺人事件の謎」Jサーバー(角川文庫)50円
d「琥珀のひとみ」Jヴィンジ(創元推理文庫:帯・紙魚の手帖6)50円
「とりっくものがたり」松田道弘(ちくまぶっくす)100円
「エルドラドの冒険」Lアレグザンダー(評論社:帯)100円
「鉄の夢」の帯は初見。ふむふむ。サーバーは久しぶりに拾う。しかもこれって訳者署名本だよ。「鈴木佳子様/武樹」とある。ううむ、訳者(鈴木武樹)の親戚に送った本なのであろうか? 松田道弘の元本も嬉しいぞ。ミステリマガジンを全部もっているので「ま、いっか」でパスしていた本だが、100円なら買い。「紙魚の手帖」が本当に久しぶりに前進。あと16葉。うーん、道のりは果てしなく遠い。まあ「挟まっていればラッキー」程度の捜し方なので、こんなもんでしょう。「デュマレスト」や「ブレイド」あたりに結構挟まっているという話は聞いた事があるのだが、だからといって見かけるたびにチェックいれているわけじゃないしなあ。

◆今度は石井さんの書き込みで掲示板方面が荒れ模様ですが、この日記を読んで下さっている方はご存知なように、私自身の古本買いのスタンスは、極めてよしだまさしさんに近いものです。「何故買う?!」という自己突っ込みだってやりますし、新刊で買える本を古本で買って「いっひっひ」とほくそえんだりします。前者が「本に対して失礼」というのは、字面だけを判断されればそういう面もあるかなと思いますが、それを死蔵したりしない事を自分が戒めている限りはまあ活字中毒患者の「照れ隠し」だと理解して頂ければ幸い、「だって欲しいんダモン」です。後者は、それでもって「作者に失礼」とはあまり思いません。皆さんだって、電気製品を安く買って「メーカーさん、ごめんなさい」とかまでは思わないでしょう?本に関していえば私は「消費者」に過ぎません。これはブックオフ論議の時にも感じていた事なので、この際ここに書いておきます。あと自分が一目置いている人が勧める本、探している本ならきっと面白いに違いないと思って、まずは探し、ゲットできたらとりあえず嬉しそうにここに書きます。逆にここで紹介した本を、人が買っているのを見ると<とても幸せ>になります。勿論、読んだ感想があれば更に<すっげー幸せ>ではありますが。従って石井さんが、松本さんを名指しで非難された事については「ふーん。そんなふうに思うんだあ。へー。」と少しビックリしました。それに対して松本さんが謝罪されたのは「理屈はともかく、結果として人に不快感を与えたのであれば謝る」という実に「<大人の対応>だねえ」と思いました。まあ、彩古さんにしても、石井さんにしても<「トップランナー」の孤独>が「ちょっとは、私たちにも『へー、それは凄いなあ』と思える本を紹介してみせてよ」というグチになったのかなあ、と解釈しておりますが、まあその辺りはこのサイトが「少し濃い」というレベルなのでご寛恕頂ければ幸いです。世の中には最近の小林文庫さんや風読人さんの掲示板のように「これはもうむちゃくちゃドロドロに濃い」ところもありますし。とまれ、私は石井さんもよしださんも、物凄い「本読み」だという事を知ってますので、その上での<「本買い」道>論議については、管理人として積極的に口出しをしようとは思いません。ただ、私自身のスタンスは極めてよしださんに近いものである事だけは改めて表明しておきます。「本件については以上」と宣言しながら長々と書いてしまいました。明日あたりには恥かしくなって削除するかもしれません。これぞ「オーナーの特権」ってなもんですな(笑)。

◆「黄金の褒賞」Aガーヴ(ポケミス)読了
「読後感の爽やかなアイリッシュ」というのが個人的ガーヴ感である。切なさを究極まで追求するアイリッシュと異なり、ガーヴの話には勧善懲悪の予定調和があって、安心して読める。「どちらが好き」となると、元ロマコメ(死語?)愛好者としては、大きな声で「いやあ、アイリッシュは凄いなあ」と言った後に小さな声で「でも、ガーヴの方が好き」と囁く、といったところか。確かこれは読んでなかったよなあ、とおっかなビックリで手に取った中期作。ダブリ買いはできてもダブリ読みをしている余裕のない今日このごろなのである。おめでとう、初読でした。
遺産が転がり込み、子宝にも恵まれ地域からの尊敬も受けている富裕なアレンビー家。その幸せな家庭に闖入者があった。その男ロスコオは、海水浴で溺れそうになったサリイとトニイのアレンビー母子を勇敢にも助け出してくれた「恩人」として一家に招かれる。軍隊で鍛え上げた堂々たる体躯ときびきびとした振る舞い、話題の豊富なロスコオはたちまちアレンビー家の人々の心を虜にする。アレンビーの当主ジョンは養鶏所の経営を考えているというロスコオに、全面的な支援を申し入れ、宿や車まで提供するのであった。だが、アレンビー家に投宿するようになるや、ロスコオは山師の本性をむき出しにしてくる。自分の肉体を誇示するあからさまな「誘惑」や、不遜で傲慢な態度に、困惑と怒りを募らせるジョンとサリイ。車の事故が切っ掛けとなって知り合ったトレーラーで旅をする石油成金夫婦シアーストンも、ロスコオには不快感を禁じ得ない様である。そして、彼等の怒りが頂点に達した夜に惨劇は起きた。
前半、平穏そのものの一家を襲う「悪意」の連続に、息を呑む。展開部のサスペンスの盛り上げにも成功しており、さらにラストに向けて畳み掛けるように主人公達を追いこんでいく手際もお見事。そしてガーヴお約束の結末も心地よい。イギリスの田舎風景も丁寧に書きこまれており、リーダビリティーの高さも相俟って一夜のドキドキを約束してくれる一編。但し、すれっからしにはこのツイストは物足りないかもしれない。いろんな意味で実に「火曜サスペンス劇場」向きの作品である。


2000年9月2日(土)

◆来客につき整理整頓。あちこちにはみ出た本を「えいやあ」で書庫に詰め込む。普段は大体どこに何があるかを掴んでいる積もりなのだが、ここまで模様替えしてしまうと辛いかも。早く目を慣らさねば。買い出しに出る間もなく、酒に乾き物、煙草までam・pmのデリバリー・サービスを使う。便利ですのう。
◆12時半を回った頃に来客到着。ネット系では拙宅御訪問最多回数を誇る「銀河通信」コンビ、安田ママさんとダイジマン登場。赤い薔薇一輪と、バースデイ・アイスクリームケーキを頂く。ケーキのチョコプレートには「Happy Birtday りょうき 」((C)よしだまさし氏)とある。うーん、嬉しいやら照れくさいやら。別に一周年オフというわけではなくて一ヶ月前くらいの訪問要請が延び延びになっていたものだが、そこはそれ、気をきかせて頂いたようである。ありがとうございますありがとうございます。でも、玄関入るなり「ああ!本棚が増えてる!!」とダイジマン。ったく、これだもんなあ。乾杯して、ピザを注文。歓談に入るや、ダイジマンからお土産に本を頂く。
「ターザン物語」ERバローズ(旺文社「中一時代」付録)頂き!
「狂った雪」Rホールデン(学研中学二年コース付録)頂き!
「世界ロマン全集:内容見本」(東京創元社)頂き!
「kashibaさんが持っていなさそうなものというと、こんなところかと」って、「こんなところ」をダブらせている君は何なんだ?!席に就く間もなく早速に本棚チェーック!!ある意味ホストとしてこれほど楽な客もいない。放っておいても只管本棚を見て寛いでくれる。手抜きの食事をしながら「『猟奇の鉄人』と『銀河通信』はどちらが薄いか?」「実はダイジマンはこのサイト立ち上げ以前からkashibaを『おっかけ』ていた!?」「安田家のSF勢力事情」「ペーパーバックの増刷表記の実際」「なぜkashibaはポケミス完集を目指したか?」「注目新刊情報(笑)」などなどの話題に花をさかす。ダイジマンの最近の大発見(なんと、あの東京創元社で作品集が刊行されているカルト人気作家のリスト漏れ作品を見つけたのだ!!さあ、ある作家とは誰でしょう?)や、大血風(よしださんと私の漁った2日後のサンシャインで数々のサイン本・手紙などをゲットしたのだあ!!)にはビックリ。うーん、濃い!濃いですぞ!!その濃い彼が突然「ピーナッツの雑誌はお持ちですか?」と尋ねるので「何冊かはあるよ」と応じつつ本書庫に移動して数年分の「SNOOPY」誌を渡す。「いやあ、いいなあ。『船橋の図書館』は〜」と嬉々とする彼に「なんでまた」と尋ねるとその答がふるっている。なんと鶴書房盛光社から出ていたかもしれないターザンのアメコミ本の広告が載っていないかを確認したいのだそうだ!うーん、そんな理由で「SNOOPY」誌50冊弱を丹念に見る人間などいない!ママさんはママさんで「あ、懐かしいなあ、この広告!!」と別の楽しみ方をしている。そういえば、アシモフの「地球の危機」や福島正実の「アトランティス滅亡」をみながら「懐かしいよう。このシリーズで『ヘレンケラー』とか読んだんだよね」と楽しんでいた。「銀河通信」の強さの片鱗を見せて貰った思い。チェック終って、「この辺りに本積んでましたよね」と厳しく指摘するダイジマン。何故、他人の家の本の配置を覚えているんだ、君は!!ケーキを食べて、まったりと寛ぐ間もなく、今度は「宝石」を頭から取り出してはSF系の作家の記載がないかを黙々とチェックするダイジマンの姿はまさに「鬼」であった。「小泉喜美子の小泉は小泉太郎の小泉なんだよ」と教えて一矢報いるのか精一杯。いやあ、濃厚な6時間でした。夕立後のむせ返るような湿気の中、引き上げる二人を見送って、本を読む内に爆睡。ああ、また「フード・ファイト」みそこねたああ!

◆掲示板で日下三蔵氏から、高橋克彦の陰陽師チームがレギュラーであった点につき指摘を受ける。ああ、前作を読んでいながらこれだもんなあ。似たような設定と感じつつ本が見つからず、いい加減な事を書いてしまった。どうもご指摘ありがとうございます。その項、削除しました。メールで若おやじ氏から、掲示板でMZT氏から「『聖痕』は角川ホラー文庫ちゃうで。ハルキホラー文庫やで」と指摘を受ける。ああ、済みません済みません。ケアレスミスです。直しました。

◆「大学の爆弾児」三橋一夫(春陽文庫)読了
買うばかりでは石井さんから何を言われるかわからないので、読んでみました「三橋一夫」!!そもそも国書で出るまでは推理作家として全く認識していなかった作家である。それこそリアルタイムで春陽文庫を見ていた筈なのだが、全くもって「OUT OF 眼中」。あの頃ボク等は若かった。そりゃあまあ、クリスティーやクイーンにも品切れのあった時代、春陽文庫の「明朗快活ユーモア推理」にまで気が回る訳がないではないか!!捜し始めてここ1年程の間にゲットできたのは、春陽文庫が4冊に森英俊氏ボロクソの「骨董殺人事件」ぐらい。道のりは果てしなく遠い。で、初体験のこの書であるが、なんとこれが結構楽しめてしまったのだ!ヤバイ!ヤバイですぞおお。これはまだまだ探究の地獄道をひた走らねば。こんな話。
城山大学ボート部に所属する月影健児は逞しい快男児。美貌の姉夫婦を通じて警視庁の鬼警部とも顔見知りの偉丈夫である。そんな彼が義侠心から街で助けた中年男、河喜田。人生の敗残者のオーラを纏った河喜田は、富豪の娘である妻の不倫に苦しんでいた。彼は健児の真っ直ぐな生き方に惚れ込み、いつしか10歳以上も年下の健児を頼りとするようになる。だが、その河喜田が、妻殺しを告白した遺書を残して遥か木曽の川辺で自殺を遂げる。彼が東京を離れる際に、それと知らず手助けした健児のもとにも河喜田の遺書が届く。だが、運命の皮肉ないたずらは、健児が河喜田の自殺に疑問を持っているという記事を世に送り出す。やがて健児は、河喜田の戦友であった暗黒街の顔役や娘を河喜田に殺された富豪から思いがけない「接触」を受ける。更には、河喜田の妻の男友達であった杉浦の恩師から、杉浦夫婦の仲をとりもつ役まで仰せつかるのであった。そして一旦は終った筈の「事件」は、新たな血を招くのであった。飯を八杯かっこみながら、フォワード・オール!…ロウ!!それいけ僕等の快男児!恩讐の彼方に純愛を見た!まだ戦後であった日本を舞台に、明るく真面目に前を向いて突き進む月影健児の痛快推理譚、ここに登場!!
誤解を恐れずに言えば、これは三橋一夫の「長いお別れ」である。月影健児はマーロウのように屈折しているわけでもなければ、気の利いた台詞をはける訳ではない。しかし、富豪の娘である美貌の姉妹、人生の負け犬との友情、暗黒街の戦友、上流階級の腐敗、不倫の連鎖、暴力と「自殺」と物語りに散りばめられた要素は「あら懐かしや」チャンドラーそのものではないかいな。その事件に、どこまでも前向きな主人公がいやいやながら関わって行くミスマッチ感がなんとも可笑しい。推理小説として評価した場合、物理トリックは御愛敬ではあるが、人間関係の縺れさせ方と解し方は、なかなか巧みなものである。これほどにまで苦労して真っ直ぐな主人公を、この捻くれた事件に関係させた理由は不明だが、「ギムレット」が「情けの握り飯」に化ける笑殺ぶりは何物にも代え難い。面白うございました。大当たり。


2000年9月1日(金)

◆大阪へ日帰り出張の一日。昼過ぎののぞみで行って、のぞみの最終で帰宅。もうっ、いや!!購入本0冊。
◆ちょいと彩古さんの書き込みが論議を呼んでいるようなので、私なりの思いを書いておきます。基本的に掲示板って広場みたいなもんですから、小学生であれ、プロ野球の選手であれ、好きにキャッチボールしてて良いわけですな。そこで小学生はプロの球みて「すっげええ、いつか僕も」と思うし、プロの選手は小学生みて「おーおー、俺もあんな野球小僧だったな」と思っていればいいんじゃないのですかね。みんな「野球」が好きって事に変りはないわけだし。仮にホーム・ページの主宰者に「特権」があるとすれば、それは主宰者だけが自由にダブりゲット報告をしていいっていうことじゃなくて、皆が自由にキャッチボールできる広場を運営する事じゃないかなと思ってます。
◆あとダブリの件については、以前も書いたけど、夫々に逐次お譲り報告をしてないから抱え込んでいるように見えてるだけじゃないのかな?まあ、私の場合は、確かに常軌を逸しているという自覚はございますが。でも、自分にとっては「うわあ、どーすんだよ、これ?」みたいな状態の悪い在庫が物凄く喜んで引き取ってもらえたりする事だってあったしね。まあ、あれこれ勉強させてもらってます。本件については以上。

◆「聖痕」島村匠(ハルキホラー文庫)読了
松本清張賞受賞作家の受賞後第一作、書き下ろしホラー短編集。「短編集の書き下ろし」というだけでついポイントが高くなる。通常の短編集というのは、いろんな雑誌や書き下ろしアンソロジーなりに掲載されたものをとりまとめた、いわば二度売りである。アイデアを捻り出すエネルギーは、短編であれ、長篇であれ余り変りはないのではないかと日頃から感じている人間からみれば、その貴重なアイデアを惜しげもなく書き下ろし短編集に使ってしまうのはなんとも贅沢な行いに映る。なんたる潔さ!とはいえ中身がともなわなくては只のアイデアのワゴンセールである。だが、作者はどの作品でもサラりとした文体で内臓感覚溢れる悪夢を綴る事に成功している。「臨月」のどろりとしたツイスト、「眼球譚」の肉温の圧迫感、「まどろむ夢」の思考を浸蝕する逆・聖母像、「聖痕」の期待と不安に満ちた余韻、「桜の木の下で」の陶然たるフレーム・アウト。見事なまでに物語は騙り終えられる。新規性の点では、さしたるものはないが、どれも完成されたホラー小説である。正統派が、我々の棲む異端の汀に投げ込んだ石は、5つの波紋を残し心の闇の底へと沈んでいく。ふとみれば、黒い水面には桜の花びらが散っている。そんなイメージの作品集。以下、ミニコメ。
「臨月」嗅覚をモチーフにした妊婦幽霊談。呪われた産院というホラーの王道を行く舞台設定に科学的な味付けを施したところが吉。畳み掛けるようなラストのツイストが心地よい、というか、気持ち悪い。
「眼球譚」悪魔の医者ネタ。「まさか、そんな」という思いが、くんと自分に撥ね返ってくるラストが憎い。絶対、映像化はできないだろうなあ、この話。
「まどろむ夢」多重視点を収斂させていく展開が堂に入っている。どこかでみたようなアイデアではあるが、侵される脳と身体というテーマは個人的に恐怖のツボである。
「聖痕」表題作だけあって、切なくて読後感のよいホラーという離れ業を成し遂げた佳編。ラストの次の瞬間、さらにエンドクレジットの背景に映る映像に思いを馳せる話である。
「桜の木の下で」肉の束縛を離れた水墨画の世界でも、作者はなにかしら五感に訴える「新味」を出す。思わず息を呑んだ。メイン・プロットは、ありきたりではあるが、ラストを彩るに相応しい作品。書き下ろし短編集ならではの企みであろう。