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2000年8月20日(日)

◆洗濯を片づけて、なまもの夫人他に送本方々、総武線定点観測。
「人狐伝」石飛卓美(徳間NV・MIO)200円
d「淫獣軍団 地底王国PARTV」友成純一(大陸NV:帯)300円
「UNKNOWN」古処誠二(講談社NV:帯)300円
「メドゥサ、鏡をごらん」井上夢人(講談社NV)400円
「SFスナイパー」岡本賢一他(ミリオン出版)400円
d「緑の星のオデッセイ」PJファーマー(早川SF文庫:初版)40円
d「刑事」Wハリントン(角川文庫)40円
d「殺人シーンをもう一度」Sホルト(二見文庫)40円
d「グルーバー 殺しの名曲5連弾」Fグルーバー(講談社文庫:カバ欠)40円
「マンハッタン・ゴースト・ストーリー」TMライト(集英社文庫)40円
d「宇宙探査機迷惑一番」神林長平(光文社文庫)60円
「半熟マルカ魔剣修行!」DMターナー(早川FT文庫)180円
「ダッカルカムの罠」HGエーヴェルス(早川SF文庫:帯)100円
「二十万年の試練」フォルツ&ダールトン(早川SF文庫:帯)100円
「タケラ地下迷宮脱出!」エーヴェルス&クナイフェル(早川SF文庫:帯)100円
「オリンプの攻防」HGエーヴェルス(早川SF文庫)100円
「バレリーナの失踪」PJボンゾン(偕成社)150円
「入り江の秘密」PJボンゾン(偕成社)100円
「天使の殺人」辻真先(大和書房)200円
いつもの「安い店」でわしわし買い込む。「刑事」がチョイメズかな?本棚を整理していてローダンの230番台後半が抜けたままになっている事に気が付いた。しかし、リストを持って出なかったので買う時にドキドキものである。めでたくダブリなし。ほっ。神林光文社文庫は3周目に突入かな?一番しんどい「迷惑一番」から手に入るとついやってみたくなる。

◆帰宅して、6月からの積録ビデオを整理。うう、「YASHA」は録画失敗が多いぞ。「ER」や「クリーガン」まで録り逃していたのには呆れる。まあ、「ER」はいずれ再放送もあるしビデオ化もされているので構わないのだが、クリーガンは痛いかも。暗い話なのでそうそう再放送されないだろうしなあ。おーかわさんにケツを叩かれたので「TRICK」の第6話を視聴。佐伯日菜子がゲスト出演して凄まじい怪演を見せていた。やっぱりこの娘には血飛沫が似合うなあ。うーん、久々に佐伯日菜子らしい佐伯日菜子を見たぞ。満足満足。来週の解決編も楽しみである。

◆「西の魔女が死んだ」梨木香歩(小学館)読了
題名からは「オズの魔法使い」を下敷きにしたファンタジーを想像していたのだが、実は「不登校児」の自己回復を描いた児童文学であった。尤もファンタジーの要素がないわけではないので、騙された気にはならない。いや、それどころか不覚にも電車の中で目頭が熱くなった。特にラスト数行。きちんと敷いた伏線がここで落涙花火となって炸裂する。400字詰原稿用紙にして250枚足らずの短い作品であるが、これは傑作。
物語の最初の一行は、題名そのままである。主人公は女子中学生の「まい」。彼女の元にイギリス人である祖母の訃報がもたらされる。祖母は大恋愛の末、今は亡き理科教師の祖父と結ばれ、この東洋の島国に一人住んでいた。ハーフの母親とともに「西の魔女」と親しみを込めて呼んでいた祖母の住む片田舎に向かう二人。その途上、「まい」は2年前、登校拒否に陥り喘息の療養方々祖母の家に寄宿していた頃の事を思い出す。祖母から家系に「魔女」の血が流れている事を聞かされ「魔女修行」に勤しんだあの日々。規則正しい生活と鍛練。鶏と交感し、ワイルドラズベリーのジャムを作り、植物の名前を覚える日常、そして自分の「場所」を与えられた「まい」。そんな心洗われる日々の中で、彼女は人との付合い方、生と死の捉え方を学んでいく。子供と大人の間で揺れ動く心。それは通過儀礼と呼ぶにはあまりに鮮烈な夏の思い出。そこは永遠の「『約束』の地」。西の魔女は死んだ。でも、新しい魔女はここにいる…
第28回児童文学協会新人賞、第13回新見南吉児童文学賞、第44回小学館文学賞をこの一作で浚えたというのもむべなるかな。格調とリーダビリティーの双方を備えた文章で綴られた名品。生活感と透明感が共存する爽やかな作品である。説教臭さは「魔女修行」という設定に中和され、箴言がするりと腑に落ちていく快感。こういう傑作に出会えたのもネットに参加した御利益である。お勧め。


2000年8月19日(土)

◆京成線定点観測。
d「物体Mはわたしの夢を見るか?」大原まり子100円
d「妖魔の宴 ドラキュラ編1・2」菊地秀行編(竹書房)各220円
d「過去からの狙撃者」鷲尾三郎(光文社NV:帯)300円
「シャドウ・ブルー」山田風見子(早川JA文庫)100円
d「オリエント急行殺人事件」Aクリスティー(春陽堂少年少女文庫)100円
d「青いエチュード」鮎川哲也(河出文庫)250円
「ブリット」RLパイク(早川NV文庫)100円
「断層」高木彬光(角川文庫)100円
「ヒトラー最後の謎を追え」高山洋治(集英社文庫)160円
「ホメロスの殺人方程式」小峰元(講談社:帯)400円
d「デネブラ救助隊」Hクレメント(創元推理文庫)100円
d「天国にそっくりな星」神林長平(光文社文庫)100円
d「クロックタワー2ジェニファー編」牧野修(ASPECT NV)100円
「殺意のサンライズ特急瀬戸」矢島誠(青樹社NV)100円
「新日本文学全集2鮎川・仁木編」(集英社:函)100円
「過去のある女」結城昌治編(集英社文庫)160円
「スキースクール事件」PJボンゾン(偕成社)100円
「原子力センター爆破計画」PJボンゾン(偕成社)100円
「のろわれた城館」PJボンゾン(偕成社)100円
「密輸飛行船を追え」PJボンゾン(偕成社)100円
「グランドピアノの謎」PJボンゾン(偕成社)100円
「盗まれた設計図」PJボンゾン(偕成社)100円
d「光車よ、まわれ!」天沢退二郎(ちくま文庫)400円
「オリヴァー・トゥイスト(上・下)」Cディケンズ(ちくま文庫)700円
「世界文学全集22・23」Cディケンズ(筑摩書房)1500円
まあ、鮎哲ぐらいかな?神林光文社文庫があっさりダブリで揃い。さあ、どこへ持って行こうかな?ディケンズの筑摩書房文学全集は「荒涼館」収録本。文庫が手に入らないのでとりあえずの押え。小峰元は某なまもの夫人に所持本を御譲りした関係で引き戻し。意外に早くゲットできて面目躍如といったところ。その他マンガを2冊。
d「クマさんの四季」和田慎二(白泉社:函)200円
「ぼくは天下の人気者」CMシュルツ(鶴書房)100円
何が驚きといって鶴書房からピーナッツの文庫が出ていたのが新鮮な驚き。角川書店に版権を移す直前の「最後の煌き」か?他にも最低2冊で出ていた模様で、またしても探究本が増えてしまった。まあ中身は新書版からの拾遺集なのだが、参ったなあ。


◆「ソーラー・ポンズの事件簿」Aダーレス(創元推理文庫)読了
あまたさぶらふ「シャーロックホームズのライヴァルたち」の中で最も聖典に媚びたのが、このシリーズである。そして世の紛い物の常として、このシリーズにとってもオリジナルを超える事は「見果てぬ夢」である。よくもこのシリーズの存続をドイルが許したものだと思うほどに見てくれはそっくりである。しかし、何かが違う。決定的に違う。これはもうドイルとダーレスの作家としての資質の差といかいいようがない。ダーレスという人は対ラブクラフトについてもそうなのだが、実に困ったファンである。しかも何故か欧米ではこの紛い物にそれなりのファンがつき、研究団体まであるという。「困ったファン」の増殖である。権威と化した(現に日本でもそうだが)シャーロキアンへのアンチテーゼとしてその所業を笑いとばすのであれば「それもまた楽し」ではあるのだが、プラスティック製の重箱の隅から「カニ風味かまぼこ」を掘り出す作業の何が楽しいのであろうか?素直に疑問である。戸川解説さえあればそれで充分な本ではあるが、とりあえず以下ミニコメ。
「消えた機関車」2つの駅の間から機関車一台を消すという謎はそれなりに魅力的だが解決は情けない。其処までの大陰謀を仕掛けるのであれば幾らでも他に手はあるだろうに。
「アルミの松葉杖」<なぜ松葉杖が壊されたか?>という謎が解けない人は手を挙げて教室から出て行くように。背後に隠された犯罪も余りといえば余りである。
「丸い部屋」ポンズ版の「まだらの紐」なのだが、これも題名を見ればトリックが判る。冒頭作同様「なぜ、ここまで苦労して」という疑問が湧いてくる。
「顔のつぶれた男」ポンズ版の「黄色い顔」か?因果物だが、「それがどうした?」感に苛まれる。
「消えた住人」<怪奇作家ダーレス>っぽくて面白い。謎の解法は<トンデモ>であるが、何故か違和感はない。
「一人暮らしの小説家」ポンズ版<青い紅玉>。小説家を主人公にしたのは吉だが、他に見るべき処はない。
「沼地の廃虚」雰囲気抜群。ヒロインを助けるポンズの男気が良い。ツイストを効かせたラストも心を打つ。
「サザビー村のセールスマン」<ホワイダニット>趣味で1編もたせた作品。謎の組み立ては巧いが、ほぐし方にやや難あり。
「ファヴァシャム教授の失踪」これはブラウン神父のパクリではないかな?感心しない。
「好ましからざる人物」うわあ「海軍条約文書」そのままではないか?これはあんまりだ。
「七人の娘」アジアン・テイストが楽しい冒険もの。ポンズ版「四つの署名」だが、敵首魁が魅力的。モリアーティー教授とは一味違った悪の美学がよろしい。
「半身不随の乞食」<窓開き密室トリック>をあしらった復讐もの。お馬鹿なトリックではあるが、映像的に見せるので許します。
「トッテナム村の狼男」怪奇趣味をあしらったフーダニット。ポンズ版「サセックスの吸血鬼」。これに不可能趣味を加えれば長篇に加工する事もできたであろう。でも、そうなると「バスカヴィル家の狼」か?やれやれ。
総論:「怪奇趣味」を加えた作品には見るべきものもあるが、総じて謎の組み立てが拙く、ホームズものの高揚感に欠ける。要は、「原典は何?」というゲームを楽しむシリーズなのであろうか?


2000年8月18日(金)

◆待機残業に出鼻をくじかれ、会社傍の1軒のみしか覗く気力湧かず。
d「階層宇宙の危機」PJファーマー(早川SF文庫:初版)100円
◆コミケで買った「らんだの城」40号に、「3冊目は何?」という小文が載っていた。神津長篇の場合「刺青」と「人形」の2大傑作が動かしがたいため、選者の趣味が出るのが3冊目なのだそうである。いわれてみれば確かにそうだよなあ。らじ丼@求道の果ての「シリーズアニメは第3話で決まる」説を彷彿としてしまう。金田一耕助にしても「本陣」「獄門島」が不動で三つ目が勝負のような気がするぞ。というわけで、思いつくままに名探偵毎の私的長篇ベスト3なんぞを考えてみると、
<エラリー・クイーン>「災厄の町」「エジプト十字架の謎」「ギリシャ棺の謎」
<エルキュール・ポアロ>「ナイルに死す」「ABC殺人事件」「ポアロのクリスマス」
<ミス・マープル>「予告殺人」「バートラムホテルにて」「動く指」
<ファイロ・ヴァンス>「僧正殺人事件」「グリーン家殺人事件」「ドラゴン殺人事件」
<ギデオン・フェル博士>「三つの棺」「囁く影」「曲がった蝶番」
<ヘンリー・メリヴェル卿>「黒死荘殺人事件」「赤後家の殺人」「一角獣殺人事件」
<フレンチ警部>「海の秘密」「見えない敵」「フレンチ警部とチェインの謎」
<ティベット警視>「流れる星」「死人はスキーをしない」「死の贈り物」
<モース警部>「ウッドストック行き最終バス」「キドリントンから消えた娘」「オックスフォード運河の殺人」
<ペリイ・メイスン>「すねた娘」「万引女の靴」「そそっかしい子猫」
<クール&ラム>「屠所の羊」「カウント9」「スリップに気をつけて」
<リュウ・アーチャー>「さむけ」「ウイチャリー家の女」「ブラック・マネー」
<コロンボ警部>「二枚のドガの絵」「野望の果て」「意識の下の映像」
<明智小五郎>「魔術師」「吸血鬼」「人間豹」
てなところ、「第3作理論」に当てはまるのは、ファイロ・ヴァンスとモース警部かな?メイスンなんてのは、どれも一緒のようなものなので、錯誤トリックの光る「すねた娘」以外はデラ萌えで選んだ。まあ、夏休み初心者向け企画っちゅうことで。あ、そうそう、ワタクシ的には、金田一の三つ目は「悪魔の手毬唄」、神津の三つ目は「白魔の歌」である。金田一はともかく神津は我ながら変な趣味だよな。


◆「奪われた死の物語」皆川博子(講談社文庫)読了

某なまもの夫人から探究を頼まれるは、Moriwakiさんが「まあまあなので読め」と本を送ってくるは、というわけで手にとってみた皆川博子初体験。「死の泉」の大ヒットで、強烈にミステリ作家としての脚光が当たったものの、それまでの私の印象は「ミステリからホラーから情話から歴史ものまでなんでもこなす器用な職人作家」というものであった。ところが、この書の後書きを読んでDNA的にはミステリの人だった事を知って驚く。直木賞を歴史小説で受賞した際に、選考委員であった陳舜臣が「ミステリ離れしないように」と言ったとか。「それは貴方の事でしょ!」という突っ込みはともかくとして、あの陳舜臣が惜しがるミステリ作家であった事は事実であろう。で、この小説であるが、確かにアクロバティックな技巧をそこらじゅうに散りばめた珠玉作であった。嬉しい不意打ち。予備知識なしで読むのが一番いいと思うので、読もうと思う人は、本を読んでから以下の梗概・感想を読むように。こんな話。
新人賞は受賞したもののシナリオライターから小説家への転進にしくじり、亡き妻の残した印刷会社で糊口をしのぐ鏡直弘の元に、旅行雑誌の編集部から連作小説の企画が持ち込まれる。各地方の代表的な花の写真に短編小説をあしらうという企画は、鏡にとって魅力的なものだった。写真家夫婦、そのアシスタント、うら若い女性モデルと編集者で回る取材旅行に心はやらせる鏡。編集者那智のダメ出しには厳しいものがあったが、新たな船出を飾るために花に因んだ短編小説をひねり出す。第1話は「平戸」のつつじ、第2話は「網走」のハマナス。だが、それらの小説は、なぜか取材チーム一行をモデルにしたかのような構成がとられており、ラストは誰かの死を暗示させて終る。そして、その小説に導かれるようにして、チームの一人に死が訪れるのであった。果して鏡直弘のアナグラムである「皆川博子」作「花の旅」に仕組まれた悪意の正体とは?落花とともに復讐は始まり、愛ゆえに花は散る。花の褥に眠る者を求めて旅の扉は開かれる。その先は「迷宮」。
とにかく新本格登場以前にこのトリッキーな小説が書かれていた事に驚いた。7つの短編と7つの手記で交互に綴られた、まさに騙りの花園。文体にも工夫を凝らし、単純な人間関係でありながら、順列組み合わせの妙で謎を紡ぎ出す。「一発ネタ」の中町信あたりと比較すれば、いかにも細やかな配慮の行き届いた作品である。なるほどこれは一読の価値あり。新・新本格の新作消化に血道を上げるよりも、こういう品切れ作を探究し読む事に喜びを見出してはどうですかね?んじゃ、本送ります、大矢さん(私信)


2000年8月17日(木)

◆Hi−hoのシステム改良が遅れ、容量チェックができない状況が更に延長。この2週間のハラハラ状況が一体いつまで続くのかという不安に掲示板を臨時に切り替える。
◆ううう、社会復帰1日目から「ちょっと一杯」が入ってしまった。まあ、相手が当社でも指折りのキャラクターなので多いに楽しんだのだが、やはり時間の遣り繰りがキツイ。とりあえず南砂町の定点観測のみでギブアップ。拾ったのはこんなところ。
d「果てしなき旅路」Zヘンダースン(早川SF文庫)230円
d「O・ヘンリー・ミステリー傑作選(全)」小鷹信光編(河出文庫)340円
d「殺人はリビエラで」Tケンリック(角川文庫)50円
d「遥かなる地球の歌」ACクラーク(早川SF文庫)50円
「オーヘンリー」は探究頼まれ本だが、これってもしかして現役なのかな?8年間で12版も重ねているのにビックリ。ゼナ・ヘンダースンは本当に久しぶりに拾う。いい作品集なので、是非復刊して欲しいと思うぞ。


◆「死体置場で会おう」Rマクドナルド(ポケミス)読了
作者の第9作。非アーチャーもの。ノンシリーズ4作の後にアーチャーものを4作書き、再び非アーチャーものに戻った理由はどこにあったのか?実は読み始めるまでアーチャーものだとばかり思っていたので、作者の気まぐれが気になるところではある。探偵の一人称だし、プロット的には別にアーチャーであっても構わないようなものだが、地方監察官の探偵という設定をやってみたくなったのであろうか?謎である。ロスマクは「さむけ」から入ったもので、どれを読んでもあのショックを越える読書体験が得られず、困りものなのだが、これも御手軽なアドベンチャー・ゲームの如き印象が最後まで拭えなかった。こんな話。
富豪ジョンスンの息子ジャミイがお抱え運転手フレッドとともに姿を消し、5万ドルの身代金の要求があった。フレッドは、3ヶ月前に泥酔状態で轢き逃げ死亡事故を起こし現在は3年間の執行猶予の身の上。しかし、その朝にも地方監察官のわたしの元をジャミイとともに訪れたフレッドには、犯罪の匂いは感じられなかった。夫の無実を訴えるフレッドの妻エミイ。わたしがジョンスン宅を訪れると、ジョンスンと30歳以上も離れた妻ヘレンが現われ、夫は犯人のいうがままに警察にも連絡せず身代金を渡しに向かったという。やがて受け渡しを終えてジョンスンは帰宅するが、子供は戻らない。行きがかり上、事件に介入する事となったわたしが、身代金の受け渡し場所からその行方を追っていくと、やがて犯人らしき人物に行き当たる。だが、その男は海辺に停められた車中で頚をアイスピックで刺され息絶えていたのだ!一転、事件は警察とFBIの管轄におかれるが、わたしの女性助手の証言から、被害者と富豪のお抱え弁護士ラリイが顔見知りであった事が判明。轢き逃げ事件の被害者に続く二つ目の身元不明の死体の正体を追うわたしは、やがて「家族」という名の迷宮に行き当たるのであった。
夫と妻、父と息子、父と娘、幾つもの家族の悲劇を多重化した中に「レッド・へリング」を忍ばせるプロットはいかにも後年あるを思わせるが、悲劇の深みも、ミステリとしてのツイストも今ひとつ。意外性を狙い過ぎたためにプロットが破綻しているようにも感じる。更に、探偵役をめぐる恋愛模様もいささか唐突の感を免れず、全体として題名の小気味良さを裏切る出来栄え。事件の解し方も御都合主義が目立ち、リーダビリティーは高いものの、完成度は低い。ロスマク完全読破を志した人が読めばよい話であろう。


2000年8月16日(水)

◆夏休み最後の日。錦糸町そごうの初日にのっそり出て行く。9時半に現地着。おお、既にベンチには女王様と森さんが!女王様から修復されたブツを受け取り世間話(って古本話なのだが)していると徐に店員が扉のところに「営業時間10:30〜20:00」という看板を立てるではないか。うへえ10時開店じゃないのおお??仕方がないのでコーヒー店でモーニングしながら時間潰し。10時15分には内扉前に整列、開店時間にはエレベーターで7階へ、とまあ店側の対応はまずまずであったが、中身がよくない。カタログに何点か推理小説も掲載されていて期待させたのだが、これが全くの外れ。昨日の川口の対極を行く情けなさ。何も買わずに帰るのも癪なので、何冊か買うが2度とここには来んぞ!
「加田令太郎全集」福永武彦(桃源社:函・月報)2500円
「ハードボイルド・アメリカ」小鷹信光(河出書房新社:帯)1500円
「信仰ってなんだろう」南部樹未子(新芸術社)700円
何が悲しゅうて南部樹未子の宗教書に手を出さなあかんねん、と泣きながら帰途に。森さんも女王様も惨澹たる状況。恒例の喫茶をする気力もなく、駅で解散。

◆しかしこのままで済ませてはお天道様に申し訳が立たないと、平井下車でブック・オフ・リベンジに臨む。まずは、途中のリサイクル系の100円均一で
d「太陽の汗」神林長平(光文社文庫)100円
d「蒼いくちづけ」神林長平(光文社文庫)100円
d「宇宙探査艇迷惑一番」神林長平(光文社文庫)100円
「おもいでの夏」Hローチャー(角川書店)100円

よっしゃ、また神林光文社ダブリセット完成までM1じゃい。引き続きブック・オフに突入して、先ほどの鬱憤を晴らすようにじっくり見て回る。
「天下御免 其の二」早坂暁(大和書房)100円
「多元宇宙バトルフィールド」矢野徹・高橋敏也(早川JA文庫)100円
「審判の日(下)」GRRマーティン他(創元推理文庫)100円
「英米超短編ミステリー傑作選」(光文社文庫)100円
「戦闘員ヴォルテ」谷甲州(徳間NV・MIO)100円
「金色のミルクと白色い時計」大原まり子(角川文庫)100円
d「尼僧のようにひそやかに」Aフレーザー(ポケミス)100円
d「赤い絵は見ている」Aフレーザー(ポケミス)100円
「殺人事件に御用心」山崎晴哉(ケイブンシャ・コスモティーンズ)100円
「SFショートショート 悪魔との契約」若桜木虔編(秋元文庫)100円
「ガメラ2超全集」(小学館)200円

まあ、たいした本は一冊もないのだが、秋元の中高生ショートショート集がチョイメズ。後は、MIOとコスモティーンズが久々に前進(って、お前、集めてるのか?)。「天下御免」もこれで揃った筈である。何よりこれだけ買って1200円が嬉しいではないか。しくしく。マックでヤケ食いして帰宅。
◆Moriwaki氏より賜り物が到着。
「ディミトリオスの棺」Eアンブラー・菊地光訳版(ポケミス)
「奪われた死の物語」皆川博子(講談社文庫)オマケ

いやあ、ポケミスの訳者違いも後は「時の娘」の村崎バージョンでコンプリート。ありがとうございますありがとうございます。

◆「第一容疑者」リンダ・ラ・プラント(早川ミステリ文庫)読了
英グラナダテレビが製作、日本ではNHKで放映されカルトな人気を誇る女性警部ジェイン・テニスンを主人公にした警察ドラマシリーズ「第一容疑者」。その第1作のノヴェライズがこれである。ただ、もともと小説家である作者が脚本も担当しているため、そんじょそこらのノヴェライズとは格が違う。テレビでは画面に表現できなかったキャラクターたちの心情が「これでもか!」という程ねちっこくかつ的確に描かれており、これだけで立派に小説として成立している。もっとも、主演したヘレン・ミレンの印象が強烈で、凡そ彼女以外のイメージでは読めないのも事実。まさに少しおっかなくてくたびれた感じのオバサン女優のはまり役である。
女性の社会進出が進んだとは言っても小説世界での女性警部となると数えるほどしか思い浮かばない。グエンダリン・バトラーがジェニー・メルヴィル名義で書いたチャミアン・ダニエルズぐらいかな?刑事ならば、エリザベス・ジョージのハヴァーズ部長刑事やジル・マゴーンのジュディ・ヒル部長刑事がいるが、所詮男性警部の引き立て役に過ぎない。主役を張れる女性管理職となるとジェニファー・ロウの新シリーズの主人公テッサ・ヴァンスあたりの昇進を待つのが順当なところであろうか。日本でも柴田よしきのRIKOこと村上緑子警部補が男尊女卑の組織の中で気を吐いている程度。ケイゾクの「わかっちゃたんです」柴田純警部補という異色キャラもいる事はいるが、ヘレン・ミレンの迫力に比べれば中谷美紀はいかにも青い。
と、無駄話が長引いたが、個人のサイトで字数を稼いでも自分の首を絞めるだけの事である。先を急ごう。こんな話。
DNA鑑定によってスピード解決するかと思われた娼婦猟奇惨殺事件。其の事件が、担当主任警部の急死により、ジェイン・テニスンの担当となる。転属後、重要事件から外され続け腐っていたジェインは、管内でも注目度の高い事件が自分に回って来た事で色めき立つが、上司からは口うるさい男女同権論者として疎んじられ、部下からは前任者の手柄を横取りする卑劣漢として反感を買う。
心証はクロに限りなく近い前科者ジョージ・マーロウは、以前の犯行から一貫して無罪を主張し続けている。そして、事件を一から見直したジェインは、前任者の個人的な事由から捜査に致命的なミスがあった事を発見する。なんと、被害者は現場に住んでいた筈の娼婦ではなく別の女性であったのだ!被害者の身元捜しに成功したものの、ジェインは拘留延長を諦め、極めて人当たりのよい容疑者マーロウを釈放し24時間監視体制を敷く。だが、ゴルフ場から新たな惨殺死体が発見された事から、事件は急展開し、過去幾年にも亘る連続殺人事件へと発展していくのであった。果して、「第一容疑者」マーロウは真犯人なのであろうか?前任者の子飼巡査部長の隠蔽工作、警察内部の軋轢、同居人とのすれ違い、女である事と優秀な捜査官ある事の両立に苦しむジェインの辿り着いた真相とは?てな話。
さすがに英国産の刑事ドラマは重い。厳然として階級社会であり男尊女卑社会である英国の現在に挑むジェインの姿は実に痛々しい。この真剣勝負に比べれば、アマンダ・クロス描くところのケイト・ファンスラーの女権主張なぞ只のコップの中の戦争にしか感じられない。それだけに、ラスト間近のあるシーンは感涙ものである。最後の一言でこの物語を単なる予定調和で終らせない作者の底意地の悪さはさておき、とりあえず、偉大なる女性警部の誕生に乾杯。

◆私信:森さん、女王様。本日は以上で力尽きましたので、武田武彦「マンガ研究生」の感想はご勘弁頂き、折り返しの梗概を転記しておきます。こんなの。
「少女雑誌<週刊ヒナゲシ>のマンガ教室に作品を送ったユキと美奈子は、同じ学校のクラスメートだった。幸運にも二人はみとめられて上京し、あこがれのマンガ研究生の生活を送る事となる。わがままで天才肌のユキは新人賞を受け一躍、人気漫画家の道を歩みはじめるが、人のいい美奈子は、東京での暮しに疲れ、自分の生まれ育った古い城下町が恋しかった。夢を売る少女マンガの世界に飛びこんだ二人の少女の青春を描く、傑作ジュニア小説!」


2000年8月15日(火)

◆川口そごう初日。9時5分前に着くが漫画狙いの名物ヲヤヂ以外誰もいない。煙草をふかしながら待つ事しばし、やよいさん、女王様が相次いで登場。おおせつかったこたくんマウスパッドを販売。森さんに続いて、遥かT県から仰天さんも現われたのには驚いた。店舗内に案内される頃に彩古さん、よしださんも顔見せ。よしださんは「さあハンデをあげよう」と袋から本を取り出す。「3冊で100円ね」おお、ありがとうございます。
「今川泰宏の通の道一本勝負」今川泰宏(角川文庫)33円
「弁護士槙弾正の告白」佐賀潜(ポケット文春)33円
「銭と女」佐賀潜(講談社:帯)33円
ううう、安いったらありゃしない。のっけからキャラ立ちまくりのよしださんは「もう並ぶのやめた」といいながら私の横で世間話(って古本話なんだけどさ)。

◆いよいよ開場。9階に雪崩れ込む一行。30〜40年代の推理小説コーナーという島があって、ここがなかなかの見所。総じて値段は高いが中にはとんでもなく安い奉仕品も混じっていて発掘していて飽きがこない。また美本が多いもの吉。ところがぼんやりしている間に、他のみなさんが春陽文庫の美味しいところをばさばさと狩っていく。うわああ、しまったああああ。ダメだよなあ、俺って。お、さっき女王様に「貴方、こんな処で丁寧に挨拶してる場合じゃないでしょ!」と一喝されていた仰天さんが悩んでいるぞ。何?「月報に1200円出すかどうかで悩んでいる?そりゃあ、本を持ってなければ買いでしょう!」と背中を押す。結局、目の正月に終った釣果は以下の通り。
「秘密捜査官」Mブラッド(久保書店QTブックス)600円
「火星美人」大下宇陀児(穂高書房)4000円
「緋のコネクション」花屋治(ダイヤブックス:帯)1500円
「真説金田一耕助」横溝正史(角川書店:帯)1800円
「海底軍艦」押川春浪(ぽるぷ出版)1000円
d「追尾の連繋」山村直樹(双葉社:帯)1500円
「けもの道」西東登(文華新書)500円
「闇からの遺産」笠原卓(文華新書)500円
「野望の空路」佐賀蒼(文華新書)500円
「マリファナ殺人事件」藤原審爾(実業之日本社)400円
「未知の来訪者」JRタウンゼント(岩波書店)800円
「片手いっぱいの星」Rシャミ(岩波書店)800円
「狂った断面」西田稔(小説刊行社)

d「情事の人々」Bヘクト(光文社)300円
d「偽りの晴れ間」高橋泰邦(講談社:帯)500円
「宇宙生物図鑑」WDバーロウ他(心交社)1800円
d「法の悲劇」Cヘアー(HM文庫)200円
d「法王計画」CDシマック(早川SF文庫)250円
d「バトラー弁護に立つ」JDカー(ポケミス:初版)400円
d「月曜日ラビは旅立った」Hケメルマン(ポケミス)250円
d「火曜日ラビは激怒した」Hケメルマン(ポケミス)250円

山村本は、帯の鮎川哲也の賛辞狙い。ああ、やっと引き戻した。「マリファナ殺人事件」は「活字探偵団」リストの1冊。これで、あのリスト分9冊をようやく完集。所持本は14冊になった。実はこれが一番嬉しかったりする。文華新書の3冊はMINT状態。これは綺麗。「真説金田一耕助」の単行本版もようやく巡り合えた。ケメルマンは探究頼まれ本、これも安くで捜すと意外にない本である。他の人の華麗なるゲット本を知らなければそれなりに満足のいく出来なんだけどなあ。ま、いっか。
よしださんが「女の子連れの人がいないか探してたんだけどさあ」おお、そういえばえぐちさんも来るという話でしたっけ。「放送で呼び出せば?」と女王様。「kashibaさんの御連れの方々は8階の喫茶に御集まりください、って」うははは、それ、可笑し過ぎ。
◆8階の喫茶店に陣取って釣果報告。女王様の三橋「ふしぎなふしぎな物語」1〜3巻、1万2千円也は立派。さあ、4巻が手に入る様に応援しようぜ。森さんはジャプリゾの処女作とかいう普通小説帯付きを安くでゲットしている。うーん、そんな本見た事もないぞ。彩古さんも聞いた事もない野口赫宙の推理小説を拾っている。そして仰天さんの楠田の文庫500円は文句無しの血風で、皆の羨望の的。いやあ、遠方から乗り込んだ甲斐がござんしたねえ。私の引きの中では「狂った断面」という普通の風俗小説が注目を集めていた。なんでやねん!
ところで、その場で話題になった創元推理文庫の「俳優パズル」のカバーアートはこんなのです(私信)
帰ろうかなと思ったらよしださんが「ええ?帰っちゃうの?川口の古本屋見ないでいいのおお?」と一言。ああ、弱い!その一言に弱いの私。もうどこでもついて行っちゃう!とシッポをふって駅から徒歩10分以上の「荒木書店」とやらへ。午後から出勤の彩古さんと別れた一行6名はひたすら歩く歩く。「いやあ、これだけ歩いた挙句、お盆で休みだったりしてね」と思わず口走ったところ、いやあ皆さん言霊というのはあるものです。見事にシャッターが下りておるではないかあああ!!「タクシーでブックオフ行く?」と済まなそうなよしださん。でもタクシー一つ通りかからないのがお盆というものである。結局たまたま目の前にあったバス停からバスで駅に戻り、今度は荷物をコインロッカーに放り込んでいざブックオフへ。線香の香漂う住宅地を抜け、またしても徒歩10分以上かかって目的地到達。
全く彩古さんってホントに開店日にここまで来たのかあ?店内は噂通りの広さで見ごたえだけはある。たいした本があるわけではないがそれでも条件反射で何かしら買う一行。全くもって、ビョーキの鉄人たちである。私の拾ったのは以下の通り。
「処刑」多岐川恭(文華新書)100円
d「灰色の部屋」Eフィルポッツ(創元推理文庫)100円
「絶対迫力デルパワーX」塚本裕美子・戸的あき(近映文庫)100円
「ビアス怪談集」Aビアス(講談社文庫)100円
「大鳥池の悲劇」左古文男(徳間NV)100円

尚も赤羽の古本屋を回るという4人と別れ、ご近所組のやよいさんと帰途につく。今にも降り出しそうな雨に怖れて真っ直ぐ帰宅。さあ、これで夏も終りかな。ぼんやりと積録の「マーキュリー・ライジング」などを見て残りの午後を過ごし、夜に3日分の日記をアップする。ああしんど。

◆「顔のない女」高木彬光(角川文庫)読了
高木作品の中でも大前田ものと百谷ものには結構読み残しがあって、現在再訪中。どちらも嫁さんと仲睦まじいのが孤高の神津と異なるところ。特に大前田ものは竜子夫人の独身時代の活躍譚もあってキャラの歴史を楽しめるところが良い。この短編集でも5編中3編が川島竜子登場編で、内1編は大前田が登場しない単独作品である。九州の富豪の娘に生まれ、一度縁付いたものの若くして夫と死別、自分の内なる「M(男)」の血の騒ぐままに私立探偵稼業に手を染める30女という設定がなんとも通俗でよろしい。この年上の猛女に惚れ込んだのが大前田で、事あるごとにプロポーズ紛いのセリフを投げかける。面と向かっては軽口しか叩かない大前田が竜子の危機となると侠気と恋慕の情をむき出しにして事件に立ち向かっていく姿は、さながら中世騎士物語の趣がある。うーん、男だねえ。これは、そうした二人の生業を知る上で重要な短編集。以下、ミニコメ。
「暗黒街の帝王」シンドバッドを名乗る男から謎の手紙をもらった清楚な娘の依頼を受けた竜子が待ち合わせ場所でガードに回る。手紙の主は現われず、依頼人の手元には百万円と凝った細工を施した宝石が届けられた。だが、その宝石は最近殺害された闇の女王の持ち物であったのだ!魅力的な出だしから、スピーディーな展開。終戦後の日本の暗黒街を舞台に大前田の気風が光る娯楽作。特に、敵首魁とのやりとりは浪花節である。竜子は完全に大前田の引き立て役に回ってしまうところが、またなんとも。
「暗黒街の逆襲」竜子をおびき出す偽の依頼。暗黒街の顔役の殺害現場におびき出された竜子。その彼女を助けるために立ち上がる大前田。やがて、事件の陰には、度外れた賭けをおこなった顔役たちの麻雀があった事が判明する。果して、真犯人は、どの敗者だったのか?大前田は彼一流の落とし前の付け方で犯人を追い込む。またしても大前田に助けられる竜子が徐々に彼に心を寄せていくさまがよろしい。最後のブラフは頂けないが悪の道に落ちた女性に対する大前田の台詞はグッド。さすがは五代目である。うんうん。
「顔のない女」竜子の単独編。喫茶店に飾られたのっぺりした女性肖像画にくちづけをした男がその場で毒死するという幕開けが巧い。竜子に思いを寄せる松隈警部を手玉に取る彼女の奔放さが楽しい。でも、ちょっとやりすぎでないかい?大前田がいないところでは、実に姉御肌の竜子である。
「蛇魂」夫を死に至らしめるという予言を受けた歳の離れた妻の依頼を受けた大前田。その予言通り、夫は毒殺されてしまう。「予言」というお得意のテーマをモチーフにした作品。神津ものでもありそうな真っ当なミステリである分、犯人は直ぐ割れてしまう。
「女を探せ」「青線」事情を織り込んだ人探し小説。動機に一工夫あって、山場の展開も吉。これは神津ものでは逆に探偵が浮いてしまう話。通俗ここに極まれりである。


2000年8月14日(月)

◆激烈な二日酔。出勤するM氏を送り出して二度寝。昼過ぎに回復して徒歩五分のホームセンターへ日用品の買い出しに出ると、本棚の安売りをやっていた。発作的に4本買う。3本は送りにして、1本は店の台車を借りて家までガラガラと搬入。組み立てと整理で残り半日が過ぎる。あらら。まあ、これも本買いの日常すかいのう。本の購入0冊。

◆「ブギーポップは笑わない」上遠野浩平(電撃文庫)読了
二日酔の頭には字漫画が御似合い、と思って手に取った近年の電撃文庫の大ヒットシリーズの第1作。ところがどうして、これは「字漫画」よばわりしては失礼な小説としての企みに満ちた作品であった。奇矯な装束や可愛い系のキャラクターに騙されてはいけない。作者は、小説であるが故のテクニックを駆使して、この「新しい」変身ヒロインものを見事に色づけしてみせた。多重視点や叙述トリック、時制の逆転による謎の醸し出し方が抜群に巧いのだ。勿論、物語を貫く謎も大仕掛けではあるのだが、仮に視点を固定して直線的に書いてしまっては、一人よがりの学園変身ヒロインもののワン・エピソードという評価しか得られなかったであろう。
密かに「悪しきもの」に浸蝕されていく学園、その「気」がヒロインのもう独りの人格を発動させる。ヒトの謀により天使は翼を奪われ、禍禍しき複製はヒトを食い散らす。殺される事でしか愛を確認できない歪み。虚ろな傀儡子と化す学友。護るために総てを犠牲にして闘う黒き聖女。どこまでも素直な心と行動。蹂躪される生命。そしてバトル。裁きの雷は地上より発し永久へ向かう。儚き泡沫の名はブギーポップ。
先ずは学園ものとしてよく出来ている。諦観に辿りつく前に、極端へ走る若者像が実によろしい。それでいてセンチメンタルに堕す事がない。彼等は真剣に生き、あっけなく死ぬ。そのハードボイルドぶりが良い。視点を移動させる事で、叙情と冷酷を同居させる事に成功している。視覚効果も見せる。青の不気味さを心得ている。謎の繰り出し方が巧い。善悪の判断すらつかない展開に読者は翻弄される。更に総てを説明しきらない余韻が憎い。読後に尚もブギーポップな物語を読みたくさせる。
うーん、世紀末、「ねらわれた学園」はここまで来ていたのかあ。いやあ、凄いわ。


2000年8月13日(日)

◆小雨交じりのコミケ3日目。友人M氏のスペースの店番とは名ばかりで、東館・西館を駆け回る。とりあえず、国樹さんにご挨拶。新刊を頂く。ありがとうございますありがとうございます。ついでに、喜国さんへの本を託し、女王様とやよいさんの御使いで「こたくんマウスパッド」を購入。
続いて「麒麟館」で図書館4コマ漫画を3冊ゲット。M氏と分担したエロ系の買い物を済ませて西館へゴー。久々に「ホランドテラープロダクション」の本をあるだけ買い込む。主宰の松平惟光氏とは10年前ぐらいまでお付き合いがあったのだが、最近は年賀状も途絶えがちであった。先日、日下三蔵氏ご来訪の折に昔の本を自慢したら「あ、知ってますよ。コミケにでてますよ」と逆に教えられた次第。
10年前はホラーと本格推理が売り物だったのだが、随分アクション方面にシフトしていたので驚く。元々映像志向の強い人であったが、時代の流れを感じる。西館は比較的(あくまでも比較的である)空いていたので、創作系をあれこれうろつき絵が気に入ったサークルを中心にこれまた1万円弱の御買い物。どうもコミケに来ると金銭感覚がおかしくなるんだよなあ。
◆11時半にスペースに戻って戦利品を交換していると、お給仕犬さんと友人の女医さんが登場。某MLで指名手配のかかっていたチェリイの「ションジル」を御譲りする。なんでも女医さん、10年近くこの本を探しておられたとか。とりあえず喜んで頂けてハッピー。任務完了。犬さんからTシャツなんぞを頂戴してしまう。どーもっす。
◆後はひたすら脱出のタイミングを見計らうが、今回は宅急便の受けつけが遅れた関係で、ずるずると3時前までビッグ・サイトに足止め。ゆりかもめで新橋にでて、M氏と海明寺裕でビア・ホールに腰を据え一次会。5時過ぎに海明寺裕のアシスタント小杉あや他1名が合流してしゃぶしゃぶで二次会。更に2時間後、カラオケ屋に乗り込んでアニソン歌いまくり。明日出勤というM氏とへろへろになって帰宅。電車を一駅寝過ごしタクシーを奮発する始末。うう、もう当分ビールはいいです。

◆「こわれたサングラス事件」ピーター・レスリー(久保書店)読了
イベントをこなしながら読書をしようという不届き者には軽スパイものである。で、困った時のナポレオン・ソロ「チャンネルDオープン」なのである。ナポソロ作家といえば、まずは「人類抹殺計画」「ソロ対吸血鬼」のDマクダニエルであるが、このピーター・レスリーも悪くない。ちなみに特殊日本的な事情ではあるが、早川・久保・洋版と版元の割れたナポソロ小説で、3社ともに作品があるのはこのピーター・レスリーだけである。この作品も、ナポソロの設定をきちんと踏まえながら大技小技の趣向が凝らされていてなかなか吉。ナポソロ小説の中でも上位に位置する出来栄えであった。
展開を楽しむ話なので、梗概をまとめるのは野暮というものだが、とりあえず出だしが奇抜なのである。特務機関UNCLEの本拠地がニューヨークのデル・フロリア洋服店にある事は知られているが、なんとこの物語では任務明けのソロがその店の中からまんまと誘拐されてしまうのである。一体なぜ任務についていなかったソロが誘拐されたのか?そして彼を誘拐した組織はスラッシュなのか?というのが物語前半を支える謎である。敵の大立て者とソロとの駈け引き、それに続く脱出行と話はテンポよく進む。物語後半ではソロと合流したクリアキンが何故か彼等の立ち回り先を読んで執拗に攻撃を仕掛けてくる敵をかわしながら、殺害された特務員の残した「暗号キー」を追う。
この辺りも当時の最新科学を交えながら納得性のある展開で、暗号の在り処捜しも捜査小説としてよく出来ている。ともすれば単調な活劇シーンの連続になってしまうお約束のスパイものでありながら、幾つもの謎を仕掛けツイストを効かせたプロ作家の意地が嬉しい佳作である。
久保書店の4冊はかなりの入手困難本ではあるが、探究し甲斐のある作品であるといってよかろう。お勧め。


2000年8月12日(土)

◆ゲームと芸能系には興味がないので本日のコミケはパス。夕方からの来客に備えて部屋の片付けなど。昼前にちょっとだけよと新京成沿線定点観測へGo!1冊だけ嬉しい本があったが基本的には新古本を刈るに留める。お暑い中ご苦労さん!
d「年刊SF傑作選」Jメリル編(創元推理文庫)100円
「ダークシーカー」KWジーター(早川SF文庫)100円
「ヘパイストスの劫火」Tペイジ(早川NV)100円
「<骨牌使い>の鏡」五代ゆう(富士見書房:帯)1150円
「空飛ぶ木」Rシャミ(西村書店)100円
「魔法使いハウルと火の悪魔」DWジョーンズ(徳間書店)100円
「魔界住人」宮崎惇(大陸文庫)190円
「ドラゴンはダメよ(上下)」Dコスティアン(電撃文庫:帯)530円
「黄金の国から来た男」鳥海永行(ソノラマ文庫)100円
「天使の仮面を持つ悪魔」鳥海永行(ソノラマ文庫)100円

「ブギーポップは笑わない」上遠野浩平(電撃文庫)220円
「ブギーポップリターンズVSイマジネーター1、2」上遠野浩平(電撃文庫:帯)420円
「ブギーポップ・イン・ザ・ミラー『パンドラ』」上遠野浩平(電撃文庫:帯)220円
「エンブリオ浸蝕」上遠野浩平(電撃文庫)200円
「エンブリオ炎生」上遠野浩平(電撃文庫:帯)200円
「地球の危機」Iアシモフ(旺文社:裸本)200円

というわけで嬉しかったのは以前掲示板で話題になったアシモフのデヴィッド・スターものの第1作であった。るん。
◆帰宅すると荷物が二つ。ひとつは一昨日送りにした新宿伊勢丹の買い物。ううむ、改めてみると凄い量である。とりあえず、SFシリーズ以外を梱包から出して書棚に収納する。仙花紙本が多く、程よく書棚の一角がくすんでくる。しかし、大下宇陀留はもう少し普通の本の方が当たってほしかったのう。今ひとつの荷物は Murder by the Mailの荷物。森さんからは半分ぐらい残ってましたよ、との内示を受けていたのだが、本命のホルトンが二冊とも当たってご機嫌。こんなところ。
「It Couldn't Be Murder!」Hugh Austin(Sun Dial:カバー)8500円
「High Jump」Val Gielgud (Collins:カバー)3000円
「Mirror of Hell」Leonard Holton(Dodd,Mead・米初版)2500円
「Pact with Satan」Leonard Holton(Dodd,Mead:カバー・米初版)3500円
「Affair of the Corpse Escort」Cliford Knight(McKay・米初版)4000円
「Death for Dear Clara」Patrick Quentin(Cassel:英初版)6000円
趣味を広げようと初めて注文した作家は総て落選。まあ、こんなもんですか。

◆夕刻より友あり遠方より来る。焼き肉を食ってビール呑んで、明日のコミケ備えてとっとと寝る。

◆「地球の危機」アイザック・アシモフ(旺文社)読了
イベントの合間を縫った読書にはジュヴナイルが最適、と本日入手したばかりのデヴィッド・スターもの第1作を読んでみた。何事も「旬」が大事である。古本に旬があるのか?というような突っ込みはいれないように。
さてアシモフといえば、SFにおいても意外性を大事にする作家である。はなからSFミステリを目指した「鋼鉄都市」や「裸の太陽」のみならず「ファウンデーション第2部」の黒幕の正体や「同第3部」の第二ファウンデーションの位置等などそのサービス精神にはほとほと頭が下がる。そしてそれはこのジュヴィナイルにおいても然りである。この作品では、太陽系を転覆させようとする大陰謀を暴く舞台で「探偵は皆を集めて『さて』と言い」をやらかしてくれるのである。こんな話。
突如地球の各所で死に至る食中毒事件が頻発する。被害者たちは誰もが火星産の食物を口にしていた事が判明するが、その毒の正体は不明であった。このまま火星産の食糧輸入を止める事は地球人類の飢餓を意味する。化学局のコンウェイ局長とヘンリー博士は、彼等の旧友の忘れ形見にして天才的な頭脳と逞しい肉体を持った青年デヴィッド・スターとともに事件の謎に挑む。彼等の期待を担って単身火星へ潜入するデヴィッド。死の大気と低温の星・火星は、農業プラントが林立する「ファーム・ボーイ」たちの星であった。多少の荒事を持ち前の腕っ節で乗り切ったデヴィッドは、首尾良く火星でも有数のファームに見習いとして潜入する事に成功する。だが、そこで彼は友人も得る代わりに敵も作ってしまう。次々とデヴィッドに対して仕掛けられる死の罠。一方ファームお抱えの科学者ベンソン博士は、毒の正体は、火星の先住生物がもたらした細菌毒ではないかという推理をデヴィッドに打ち明ける。果してデヴィッドは、この謎を解き人類存亡の危機を救う事ができるのか?滅亡へのカウントダウンが始まる中、彼は人類を代表した「出会い」を経験する事となるのであった。
シリーズ第1作らしく、デヴィッドの生い立ちや、後にシリーズを支える「ある能力」を獲得するくだりが克明に語られる。ウエスタン風の舞台設定とそれを生かした活劇趣味や、意外な犯人とその犯行方法といったミステリ興味も盛り込んだ快作。いや、やはりアシモフは偉大なるエンタテナーである、と再認識させられる。


2000年8月11日(金)

◆コミケット初日。彩古さんから入場券を回してもらったのだが、うっかり寝過ごし、起きたら10時過ぎ。あらら。で、行列がなくなる昼過ぎからの参加に切り替え。もともと、EQFCへの表敬訪問が主眼なので、余裕である。
今回はカタログすら未入手で「まあ現地で買えばいいや」とビッグサイトに乗り込んだが、一向に販売場所に行き当たらない。スタッフの一人に尋ねると「売り切れたんじゃないですか?」との返答。あわわわ、この広い広い同人の海から一滴のEQFCを捜し出すのか?とビビルが、なんとか、インフォメーションに辿り着きカタログをゲット。
えいやあで「西館に違いない」と決めうちして正解。両隣が空いている中、優雅にMoriwaki夫人と静草女史がお店番。今回は売れ行きも上々で、既に私の辿り着いた段階では残部が2部だけであった。なぜかお二人から大歓迎を受け面食らう。既に朝の内に撤収したというお隣さんの椅子に腰掛けて、カタログをチェック。なんでもそのスペースでは本物の探偵さんの本を売っていたらしい。こういう他では見る事のできない本が売られているのがコミケの凄いところである。
甲影会の「山澤晴雄特集本」の2巻目が欲しかったので、ぶらぶらと移動。おお!なんと、ジョニー高橋さんがお店番をしているではないか!?「へ?高橋さんって甲影会だったの?」と驚きを隠せない私。隣の女性が「どちらの方?」とジョニーさんに尋ねると「うーーーん、有名な人だよ」って、答になっとらんぞ。山澤本は搬入した最後の1冊をめでたくゲット。危ない危ない。ついでに御贔屓の今邑彩特集の別冊シャレードを購入。あとは気ままに、ミステリ系のスペースを探索。
「呪いのデュマ倶楽部」本や、佐々木丸美本が出ているところにコミケの底力を見る。大半を占める京極系と有栖川系はパスして、乱歩の「大暗室」本や貫井徳郎の「症候群」本などを買う。小林カリン&所沢のぞという女性二人で出している「ミステリ本2」の金田一耕助特集がやおい抜きの真っ向勝負で当たり。若い女性の間で横溝が真面目に料理されているのを見るのは気持ちいいものである。
委託本で、以前第1巻を買ってすっかり気に入っている「図書館のおねーさん」という図書館ネタ4コマ漫画集の第2巻を発見できたのは大収穫。更に3巻まで出ているという話を聞いて舞い上がる。13日に作者本人のスペースで販売される由。むふふ、またチェックすべきスペースが増えてしもうたわい。続いて、あらどこかで見た本だねえ、と思うと「神津恭介FC」の「らんだの城」ではないかいな。
女性3名の熱心な売り込みに、ダブリ覚悟で40号を購入。なにせ、川口文庫さんで何冊買えたか記憶がないのである(帰宅して確認したらダブリではなく一安心)。「黒白さんとはネットでよくお話してまして」と話題を振ると「え!○○(本名)編集長とお知り合いなんですか?」「減量されてからお目にかかってないんですよねえ」と大騒ぎである。黒白さんモテモテじゃん。なんと手提げの紙袋まで頂戴してしまう。小一時間のチェックを終え、EQFCの美女お二方に別れを告げて撤収。
◆京葉線回り稲毛海岸、稲毛コースで帰宅がてら定点観測。ここで小血風が吹く。とりあえず寄ってみる、というのは大事ですのう。拾ったのはこんなところ。
d「街中の男」長島良三編(早川ミステリ文庫)140円
d「シーザーの埋葬」Rスタウト(光文社文庫)100円
d「鉄の夢」Nスピンラッド(早川SF文庫)150円
d「殺戮機械」Jヴァンス(早川SF文庫)200円
「電脳砂漠」GAエフィンジャー(早川SF文庫)300円
d「名探偵読本8金田一耕助」(パシフィカ)700円

「ミステリハンドブック」中島河太郎編・著(講談社現代推理小説大系別巻2:函・カバー)1500円
名探偵読本は所持本がヌレ本なので嬉しいところ。が、なんといっても中島河太郎である。これが1500円は本当にラッキー。持っていなかっただけに個人的には小血風。片手に同人誌、片手に古本を下げて居酒屋で一杯。かーーっ!ビールが美味いわい、で1日が終る。
◆「これだけ日記を書いておきながら、何が『夏休み』なんだ?」という突っ込みを受けた。うーん、そう言われてみればそうだよなあ。とりあえず掲示板のレスが「休み」って事で。

◆「失踪の果て」松本清張(角川文庫)読了
さて、困った時の松本清張である。どうも古本市だのコミケットだのがあると目録やカタログを眺めている時間が長くなっていけない。そこで活字中毒が緩和されてしまい本当の読書が出来なくなってしまうのだ。今更長篇ミステリなんぞはもたれそうだし、さりとてジュビナイルで蹴るのも損した気分になる。そんな貴方に「松本清張」である。
特に短編集がお勧め。とにかく文章が巧い。短いセンテンスで、過不足なく複雑な人間模様を表現しきる希有の天才である。しかも作品数が半端ではないので、いくらでも「常備菜」として使える。仮にすべて読み終わったとしても、その頃には昔読んだ内容は忘れている。
この作品集は20年にわたる収録漏れ作品をまとめた拾遺集で必ずしも作品自体の質は高くない。しかしながら、ではこのレベルの作品をコンスタントに書けるか?と問われれば、これは絶対にノーである。味読にも、飛ばし読みにも耐えるプロの仕事が確かにここにはある。以下ミニコメ。
「失踪の果て」地質学教授の突然の失踪と情死に潜む罠を描いた作品。ホワイダニットに重点をおいた話だが、トリックになり得るレベルではない。結末もあっけない。
「額と歯」戦前のバラバラ死体事件を新聞記者が追うという構成は吉。作者自身の経験も踏まえた「古きよき時代のブン屋魂」で見せる。犯罪自体は相当に殺伐としたものであり、戦前の正史や乱歩ならさぞや毛色の違った話になったであろう。
「やさしい地方」弁護士から代議士になった男と三人の女の話。彼はそのうちの二人を裏切り、一人を殺し、一人に復讐される。「いかにも松本清張」という雰囲気に溢れた作品で、主人公が徐々に追いつめられていくサスペンスを書き込めば充分長篇を支えるだけのプロットはある。この作品集では質・量ともベスト。「女の正義感」が怖い。
「繁昌するメス」後期倒叙ものの典型。戦争が絡むところは「遠い接近」あたりを思わせる。同情する余地のない犯罪者が、同情する余地のない犯罪者を殺害するが、計画が破綻する、という話は、読み終わって左程爽快感のあるものではない。
「春田氏の講演」評論家の講演旅行に仕掛けられた罠をコミカルなタッチで描いた作品。松本清張らしからぬ匂いのする短編。犯罪の底は浅いが、発想は奇抜である。
「速記録」新米陣笠代議士と官僚の生態を描いた作品。短いながらも、ワルの本質を押えた書きぶりがさすが清張。読後感は「ざまあみろ」である。