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2000年7月31日(月)

◆本当は年休の筈だった。それが、朝から役員報告、打ち合わせ、会議、おまけに
夜の宴会までつくとは何事かあ!?むかつく〜。購入本などないわ!(怒るなよ)
◆あ、そういえば、土曜日に千林で買った本を2冊アップし忘れ。
「人間牧場」川又千秋(講談社NV)200円
「とざされた時間のかなた」Lダンカン(評論社:帯)400円
<星狩人>がやっと揃ったぞ。これで、初期川又千秋の憑き物は落ちたな。
勤務に荒んだ時、何かしら本を買った報告ができるというのは良いものだ。
◆何故か呂子書房のカタログが届く。豆本の老舗が私のような者のところへ?
まあ、見ている分には楽しいのだが、相手を見て送られては如何かなあ。
◆ついについに「あの!」<均一棚の魔術師>よしだまさし先生がホームページを
立ち挙げられました!!熱烈歓迎!!ガラクタ風雲!!電影的、冒険小説的漫文
之満漢全席!!根っからの同人誌野郎の過去の蓄積がのっけから爆発だあ!
日記もついて御得用!更新地獄へようこそ!!さあ、みんなでよしだ先生を応援
しようぜ!!

◆「死と陽気な女」Eピーターズ(ポケミス)読了
「納骨堂の多すぎた死体」にかかる前に、MWA受賞に輝く日本初紹介作を読んで
おかねば、と手に取った。カドフェル人気に便乗してか、増刷もされているので
入手は容易な筈である。考えてみれば教養文庫で出る以前は、あのカドフェルすら
賞取り作品の「修道士の頭巾」しか紹介されていなかった訳で、下手すれば他の
多くの作家同様、知る人ぞ知る作家で終るところ。ミステリボックスの系統的な
紹介とテレビ放映で日本でもファンクラブができるほどの人気作家になり、今また
初期作がハードカバーで出版される事になろうとは、いやはや実に隔世の感がある。
ピーターズの持ち味は、「善き者が勝つ」という予定調和に男女の恋愛模様を巧み
に絡めるところであるが、それはこの作品でも存分に発揮されている。こんな話。
刑事を父に持つドミニックが、偶然知り合った年上の女性キティ。莫大な財産の
相続人である美貌の女性に対する憧憬が彼を「暴君殺し」の捜査に駆り立てる。
キティが政略結婚を噂されていたビール会社社長の息子レスリーは、父アルフレッド
の期待に背き、画家の道とキティ以外の女性との結婚を選ぶ。激昂したアルフレッド
はレスリーを勘当し、今また、息子夫婦が身を寄せようとしていた古いパブ「陽気
な女」を買い取り、豪華な酒場「陽気な酒場女給」に改装した。その開店披露の
夜更け、得意の絶頂にあったアルフレッドは、何者かにシャンパン瓶で撲殺されて
しまう。警察は当初レスリーに容疑の目を向けるのだが、ドミニックの不用意な
発言がキティを窮地に追い込んでしまうのであった!責任を感じたドミニックは
自らの恋心故の慢心を責めつつ、独自の<捜査>に乗り出すのであった。
思春期の男心が微笑ましいほのぼのフーダニット。ミステリとしての構成は甘く、
正直なところ、ペリイ・メイスンなら30秒で被疑者の女性を助け出すであろうし、
ハミルトン・バーガーでも1分も考えれば、起訴はしないであろう。それぐらい
隙だらけの話である。中世英国であれば、このプロットでも持つかもしれないが、
現代ミステリとしてはいかがなものか。MVAの選者たちも、ミステリとしての
弱さを補って余りある読物としての爽やかさを採ったという事であろうか。リーダ
ビリティは極めて高く、読後感も良い。後はこの「推理」の脆弱さにどの程度
我慢できるかで評価が決まる作品である。ピーターズが好きな人は必読。


2000年7月30日(日)

◆朝から二日分の日記をつけて半日が過ぎる。買い出しに出るが、余りの暑さに
尻尾をまいて逃げ帰る。きゃんきゃん。書籍の購入0冊。
◆昼飯を食べながら、先週夏休み特集で放映されていた仮面ライダークウガの見逃して
いた回(5話、7話、8話)をボンヤリと見る。うう、やっぱり面白いわい。ヤオイな
女の子たちにとって全編これ「ネタ」の連続である。基本は一条×五代なんでしょうね。
コミケまで、あと12日かあ。朝の本編の方では、CDプレゼントをやっていた。
よーし、買うぞおお。
◆昼寝。本日の課題図書を読み、夕御飯を食べながら昨晩の「フードファイト」を
視聴。田辺誠一が「ガラスの仮面」をおちょくり倒したような役柄で登場している。
うーむ、軽い奴っちゃなあ。


◆「長い長い眠り」結城昌治(朝日新聞社)読了
掲示板のKaluさんの書き込みに刺激を受けて、結城昌治の初期作品を取り出す。
カッパノベルズ版も「あの辺に在る筈」という事は判っているのだが、発掘が面倒
臭かったので、書棚に並べている朝日新聞社の「作品集1」で読む。とりあえず
外れのない人だし、初期作の洒落たユーモアセンスは体力の落ちている時の癒しには
最適かもしれない。ひげの郷原部長刑事シリーズの第2作はそんな惰弱な読み手の
希望に充分応えてくれた。こんな話。
公園の木陰から、ワイシャツにパンツ姿の男の死体が発見される。死因はアトロピン
中毒。身元を示す衣服や小物は持ち去られていた。しかも屑拾いの証言によって、
死体発見後に、被害者の靴が持ち去られた事が判明する。そこまでして犯人は何を
隠そうとしたのか?唯一残された手書の地図と、ひょんな事から被害者の身元が
割れると今度は彼の艶福家ぶりに捜査陣は呆れ返る。4人目の妻と別れる算段をして
いた彼を毒殺したのは果して誰なのか?若い愛人に溺れる今の妻?小料理屋を任されて
いる妾?彼女らと関係する嘱託医?最初の妻の連れ子?その子の実の父親である獣医?
御用組合の委員長?あるいは、他の誰かか?多すぎる容疑者たちの動機と機会を洗う
郷原部長は、ある奇手を採るのだが、それが新たな殺人を招く事になろうとは、予想
だにしなかったのである!
作者の俳句趣味や、安保闘争のデモといった当時の風俗を巧みにプロットに織り込んだ
端正なフーダニット。第1作に続いて、「ひげ」が事件の方向性を示す鍵になっている。
モジュラー型の描写を用いているため、複雑な人間関係の把握には一苦労するが、終盤の
収束感は心地よい。動機や犯人に関する手掛りやは余りにもあからさまに示されているが、
このプロットは相当に「とんでも」であり、発表当時は賛否両論あったのではなかろうか?
読後感は今ひとつだが、読んでいる間は楽しく読める「懐かしい推理小説」である。


2000年7月29日(土)

◆二日酔でへろへろ。里帰りしていた妹と姪っ子に「ポケモン」についてあれこれ
教わる。おおお、そうか、ピチュウはピカチュウの進化前だったのかあ。ふーん。
やるなあ、任天堂。これで労せずしてポケモンを増やせる訳だ。
◆根性で帰京。新幹線車中では爆睡状態。なんぼでも眠れるから不思議である。
なぜか、新大阪のコンコースで「中古本コーナー」があったのでチェック。
d「世界カーSF傑作選」シルヴァーバーグ他編(講談社文庫)200円
後、KIOSKで「将太の寿司全国大会編 第16巻」「MAJOR 第30巻」を
購入。「将太の寿司」は先週が連載終了号だったのだが、この16巻でもクライ
マックスに向けての盛り上がりがなんともよろしいですのう。
◆帰宅すると、郵便物が二つ。一つは、待ちきれずに八重洲古書センターで購入した
新宿伊勢丹の古本市目録。ううう、こんなもんダブラしてどうする?!もう一方の
包みはなんと早川書房の冊子小包。はて?と開けてみると、がーーん、これでした。
d「永遠の森 博物館惑星」菅浩江(早川書房)著者謹呈!!
ありがとうございますありがとうございます。時々、このミス投票者クラスの人で
こういうパターンのダブリが在る事は聞いてはいたが、自分の身に起こったのは
初めてである。こちらは保存用として、さて、読み終わった方をどうするかな?
◆最低の体調で、宮澤さんのサイトの5万突破記念オフに参加。乗り継ぎが最悪で、
現地でも道に迷ったあげく30分の遅刻。参集していたのは実に「いつものメンバー」
であった。真っ赤に球場焼けしたMasamiさん、涼し気なTシャツ姿の彩古さん(絶好調)、
喉がれの葉山さん、黒衣のやよいさんに白髪の戸田さん、お久です岩堀のおとっつあん、
本の交換に福島から参加の風々子さん、カタログ多数持参の小林文庫オーナー、
SR代表無謀松さん、微笑む魔界の使者KIYOKA-CHAN、ダンディ須川さん、
先週に続いてお会いしますフクさん、社会人1年生コンビのおーかわさんとしょーじさん、
いつも元気な石井女王様、主賓兼小間使いの宮澤さん。メンバー的には小林文庫オフ会
の拡大バージョンである。

既に、出来上がっているところへ乱入して、ウーロン茶片手に食いに走る。立教大学
に近い若向きの小洒落た店だったのだが、とにかくウルサイ!正直めげました。
とりあえず女王様に「ブツ」をわたし、席に戻って喧燥の中で、あれこれ情報交換。
うう、いいなあ芳林文庫のカタログ。欲しい本だらけである。戦後の本は本当に安く
感じてしまう。昨日「西」で仕入れた話題などを披露。SRの全国大会の噂話とか。
「時計は十三を打つ」は本当につまんないねえ、とか。
食べ物がなくなった頃に「古典SF研究会」の藤元さんが、ライターの末永さんとともに
登場。末永さんは名刺を配って嵐のように去っていかれた。藤元さんから1冊購入。
「未来趣味 第8号」(古典SF研究会)1000円
ドイル特集号。なんといってもドイルの書誌が圧巻。いやあ、こういう資料はホントに
頭が下がる。やんややんや。
場所を代えて、Masamiさんとフクさんと西瓜話。あと1/4残ってるんですうう。
女王様とはあれこれ「ぶっこ抜かれ話」。またしても彩古さんにしてやられたそうな。
今度はシムノンの「自由酒場」ですと。ここまで「やられ」キャラが立ってくると
それなりに笑える。それにしても東西の両女王様と連日宴会をやった人間は、私ぐらい
のものではなかろうか?ヘビーだぜ。
しかし、このあとにあのような恐ろしい事件が待ち受けていようとは、神ならぬ身の
知る由もなかったのでございます。では第二幕「女王狂態<人間椅子>事件」へ。
◆厳しい時間制で店を追い立てられ、いつものノリでカラオケ屋突入。お話部屋と
お歌部屋に別れて楽しむ。私は勿論お歌部屋だい!最初歌部屋には私一人であった
が、Masamiさん、若者コンビ、やよいさん、フクサンで何曲か回す。しかし、その頃
お話部屋では徐々に女王様が壊れていたのである。もともと、今回のオフは乱歩マニア
の宮澤氏のコレクションを拝見するという目的もあったのだが、その趣旨と最近うちの
掲示板を騒がしている「古本フーゾク」ネタが不幸な結婚をしてしまったのである。
(以下、8行削除。どうしても知りたい人はメールください。)
◆11時前にはお開きになったのだが、女王様は無事にご帰宅されたのであろうか?
いや、女王様はともかく、託した「ブツ」が気掛かりな私なのであった。

◆「デイン家の呪」Dハメット(ポケミス)読了

シリーズ「こんなものも読んでいなかったのか?!」ハードボイルド篇。というか
私の場合、ハードボイルドは殆ど読んでいないといってよい。ロスマクだけが例外中
の例外なのだが、他はチャンドラーや今回のハメットにしたところで1冊読んでいるか
いないか、といった体たらくなのだ。「マルタの鷹」や「さらば愛しき女よ」を読まず
してミステリを語るとは片腹痛いとお感じになる向きもあろうが、やはりあの世界は
私にとって「隣街の専門学校」なのである。なまじ映画の知識で梗概だけは頭に
入っているのが読書の妨げになる。というわけで手にとってみたのは、ハメットの
4長篇の中では比較的マイナーな作品。コンチネンタル探偵社の調査員「わたし」が
語る3部構成の物語は、呪われた欲深き血の縺れを複雑なプロットに織り上げた雄編
であった。
最初は、よくある盗難事件の調査だった。ある実験のために宝石商からベケット博士に
貸し出されたダイヤが盗難に遭う。宝石商側の保険調査でベケット邸に派遣された「わたし」。
寡黙な博士と神経質な妻、そして不安定な供述を行う娘。それぞれの供述の裏をとりながら
わたしは、一家の手伝い女に的を絞る。確かにごくありふれた盗難事件だ。だが、事件の夜、
目撃された犯人が死体で発見されるに至って、博士一家の澱んだ過去が瘴気のように
立ち上がる。怪しげな新興宗教、麻薬、過去の殺人、脱獄と逃亡、脅迫と死、歪んだ欲望が
策謀を呼び、現在は過去に復讐される。何発かの銃声の後に立つものの姿とは、果たして?
友人の小説家とともにベケット事件に絡めとられたわたしが辿り着いたのは、やはり「血」
の宿命なのであった……
3部がそれぞれに事件と解決からなる只の連作かと思いきや、終章で離れ業を見せつけ
られる。無駄のない簡潔な文体で綴られる事件の顛末は、まさに饒舌で小洒落た主人公の
独白に支配されるいわゆる「ハードボイルド」の対極に位置する正真正銘のハードボイルド
である。地の文の進みが速いので、うっかりすると一体誰のセリフかが判らなくなる程。
とにかく人がバタバタ死ぬ話ではあるものの、それにいちいち説明が施されるところが
凡百のお色気ボイルドとは志が根本的に異なる。わたしの内面が一切語られないという
手法は名探偵に相応しいのかもしれない。いやあ、びっくりした。


2000年7月28日(金)

◆大阪出張に併せて、西の古本女王様&Kaluさんとミニオフを企む。京橋待ち合わせ。
それだけではなんなので、千林下車で7軒ばかりチェック。たいしたものはないの
だが、旅先ではついものを買い過ぎてしまう。
「ダイヤの館の冒険」Mシャープ’(岩波書店)200円
「地下の湖の冒険」Mシャープ’(岩波書店)200円
「ひみつの塔の冒険」Mシャープ’(岩波書店)200円
「オリエントの冒険」Mシャープ’(岩波書店)200円
「魔性の天使」加納一郎(徳間NV)100円
d「極楽案内」天藤真(角川文庫)100円
d「完全なる離婚}天藤真(角川文庫)100円
d「雲の中の証人」天藤真(角川文庫)100円
d「犯罪講師」天藤真(角川文庫)100円
d「シャーロック・ホームズの復活」ACドイル(ポケミス)300円
d「夜の翼」Rシルヴァーバーグ(早川SFシリーズ)380円
d「中継ステーション」CDシマック(早川SFシリーズ)380円
ミス・ビアンカシリーズは何冊あるのだろう?とりあえず、2〜5が安かったので
掴む。重い。天藤真の短編集も初心者向けには嬉しいところ。迷わずぶっこ抜く。
重い。文具屋で袋を買って上っ張りと一緒に突っ込む。お、重いいい。
◆京橋定時、Kaluさん登場。このクソ暑い最中、ちゃんと上っ張りを着てネクタイも
締めて、おお、なんと律義な。ちょいと遅れて橋詰さんもお嬢さん走りで参上。
気分は焼肉屋だったのだが、さすがに給料日直後の金曜日という事もあって、どこも
満員。居酒屋に席をとったのが19時半。さあ、それから大ナマ飲む飲む。喋る喋る。
関西の古本屋事情にミステリ仲間の噂話、SR話にネット話。盛り上がりっぱなしの
4時間が瞬く間に過ぎる。Kaluさんは、どちらとも初対面だったが、何十年来の知己の
ように話が噛み合う事ったら。世代が近い事もあるのだが、用語に説明が不要な宴会は
実に楽しい。今更ながらネットの威力を思い知らされる。Kaluさんと橋詰さんの本業が
意外に近しい事もカミング・アウトして「世の中狭い」状態。ヤフーオークションの謎の
横溝収集家さんの「動機」も判明して、思わず膝を打つ。そうか!そうだったのかああ!!
謎は全て解けた!!
大人数の大騒ぎ&まったり型宴会もよいが、小人数での濃厚な集いも素敵である。
また遊んでください。上京の際には、是非拙宅にもお立ちよりの程を。
べろべろに酔っ払ってタクシーで実家に帰宅して<暗転>

◆「有機戦士バイオム」梶尾真治(早川JA文庫)
新幹線の移動時は、かつて貴重な読書タイムであった。が、ネットに参入してから
貴重な睡眠タイムと化しつつある。それでも何冊か鞄に詰め込むのだが、結局今回
も睡魔の大勝利。往路で読めたのは、このカジシンのショートショート集のみで
あった。初出は不明だが、地方紙などに掲載された36編。ハチャハチャから、
ハードSF、民話調SF、得意の叙情SFまで実にバラエティーに富んだ構成で、
カジシンのSF書きとしての腕前の確かさを知る上でうってつけの作品集といえよう。
勿論、中には水準を下回る作品がないではない(「ばんつ」とか、「精霊機械」、
「死霊のちりなべ」)。しかし、逆にその着想と料理法に感嘆する作品も多い。
例えば、「昼休みの因果律」などは、堂々たる時間混乱SFでありながら、それを
さらりとしたタッチで短い頁数に封じ込める事に成功している。「ライター」では
少女漫画的展開でありながら、最後の数行で見事に女の怖さやしたたかさを切り
取ってみせた。「クリスマス・プレゼント」に至っては、2時間ドラマ分のスリル
とサスペンスを盛り込んだ上で、実にクリスマス・ショート・ストーリーらしい
ツイストを効かせてみせる。よく言われる事だが、ショートショートは、誰にでも
一つや二つは面白いものが書ける。しかし、それを限られた時間で、限られた字数
にまとめあげ、コンスタントに世に送り続ける事は、ごくごく限られた人々にのみ
許された事なのである。天稟といってよかろう。カジシンがその一人である事を
証明する作品集。全ての人が全ての作品を楽しめる訳では決してないが、夫々の
SF度によって幾つかは本当にツボに嵌まる快感を約束してくれる、そんな本である。


2000年7月27日(木)

◆わりとやりやすいですかそうですか。
◆某なまものな奥様に戸板康二など6冊を送本。
◆5時間連続の会議に巻き込まれたうえに出張準備で残業。購入本0冊。
◆おお、スガヒロエ御自らネット一番乗り感想の認定を頂けたぞ!根っからの
古本者にしては上出来、上出来。やれば出来るじゃないか!kashiba!!
(しかし、あの「てにをは」の変な文章を何回も読んで頂いたとは(赤面))

◆掲示板でよしださんが盛んに「古本風俗」な話を振ってこられる。

「ふっふっふ、こんなにヌレているぜ」
「あ、あたし、もうだめになっちゃうー」とか、

「こんなにヤケちゃあ、商売モンにならねえなあ」
「お、お願いします、もっと、もっとヤスリを下さい」とか、

……朝っぱらから、俺は何やっとるんだあああ!!


◆「時計は十三を打つ」Hブリーン(ポケミス)読了
SFが続いたので、再び古いミステリ路線に修正しようと、20年モノの積読本を
取り出した。ブリーンは「ワイルダー一家」の設定と「絶版」というキーワードで、
カーの亜流という印象の作家であるのだが、この作品は全くもってカーではない。
題名は、なかなか格好いい。果して「十三点鐘に秘められた謎とは?」とワクワク
してしまうのが、ミステリマニアの性(さが)である。いかにも思わせぶりである。
ところが、その思わせぶりが単なる思わせぶりで終ってしまうところが、この作品の
凄いところである。高校生の頃に、ミステリ友達が「一体アレはなんだったんだ!?」
と呆れていた事を今になって思いだした。こんな話。
フリーの敏腕写真作家レイノルズ・フレームの元に緊急且つ極秘の仕事が舞い込む。
新婚間もない妻を残し、行き先も知れぬ取材に臨んだフレームは、軍関係者と雑誌
記者とともに絶海の孤島に案内される。彼等を運んできた船の船長はその島から
一刻も早く立ち去ろうとする。まるでその島の存在そのものが禍禍しいものである
かのように。なんと、鳥も魚も寄り付かぬその島では、奇矯な科学者ウエイランド
博士によって細菌兵器の開発が進められていたのだ!それぞれが医療の心得を持つ
研究所員たち男女4名、人当りのよい研究主任マイク、ロシアからの帰化人である
チェスニコフ、ダイエット中の大柄な女性スウジイ、美貌を隠そうとするクレア。
後は料理人のダニエルソン夫人とその息子トム。実験動物以外に、その島で生きて
いるものはただそれだけ。一つの街を壊滅させるだけの細菌兵器を開発したと
浮かれる博士であったが、到着の夜、研究室に招かれたフレームは、博士の死体の
第一発見者となってしまう。しかも、博士の身体には、砕け散ったシャーレとその
内容物がばらまかれていたのだ!一転、島は細菌汚染の脅威に晒され、一行は連絡
のすべもないままに、極限状況へと追い込まれていく。トムの失踪、島を徘徊する
灰色の影、飢餓が忍び寄る中で異変は立て続けに起こる。そしてメンバーがお互い
のアリバイを証明し会う中、唯一人アリバイのない者こそ、フレームその人であった
のだ!疑心暗鬼の果てに、彼等が辿り着いた意外な犯人像とは!?
お約束の孤島ものに、細菌兵器の恐怖という今日的な味付けを施した作品だが、
魅力的な小道具が「犯人捜し」に有効に絡まぬまま終ってしまうのが、なんとも辛い。
強引にして無意味な挿話もあり、プロットを練らないままに勢いだけで書いた
作品という印象がつきまとう。生物兵器の脅威も、エボラに比べれば長閑なもので
あり、時代に取り残された遺物という感を免れない。フレームの推理には見るべき処
もあるのだが、ミステリとしてはいかんせん短編ネタの域を出るものではない。
この作品でブリーンを見限る人間も多かろうと思わせるとほほな作品であった。


2000年7月26日(水)

◆某なまものな奥様の探究依頼を受け、内幸町・新橋・京橋・南砂町・船橋をチェック。
探求書は省いてゲットしたのはこんなところ。
d「ウィーチーフ」ERバローズ(創元推理文庫)200円
d「クルンバーの謎」Cドイル(創元推理文庫:帯)100円
「あなたも4時間眠ればよい」林高(双葉社)100円
d「同じ墓のムジナ」霞流一(角川NV)100円
d「独裁者の城塞」Jウルフ(早川SF文庫)100円
d「夜の大海の中で」Gベンフォード(早川SF文庫)100円
d「所有せざる人々」UKグイン(早川SF文庫)100円
d「幼年期の終り」ACクラーク(早川SF文庫)100円
d「大帝王コナン」REハワード(早川SF文庫)100円
d「不死鳥コナン」REハワード(早川SF文庫)100円
d「駅馬車」Aヘイコックス他(早川NV文庫)100円
「ウルフ探偵とぬすまれたタイムマシン事件」三田村信行(偕成社)100円
ドイルの帯と木々高太郎の健康本が嬉しい。どちらも昨日よしださんがチェックを
いれた八重洲地下でのゲット。「クルンバー」はカウンターの上に今まさに値段を
つけ終わった状態で載っていた本。毟り取るようにしてゲットだぜ。木々健康本は、
思わず自分の生活を振り返り、身につまされて買ってしまった。そうなのですか?
4時間でいいのですか?では、なぜこんなに眠いのでしょう?ああ教えてください
先生、大心池先生。会議中に「睡り人形」になってしまう私は一体なんなのでしょう?
閑話休題、人様の探究本捜しというのも、普段流している棚をきちんと見直す事に
なって、なかなか良いものだ。

◆「永遠の森 博物館惑星」菅浩江(早川書房)読了
スガヒロエ最新作。7年前から断続的に書きつがれてきた8短編+書き下ろし1編
からなるファン待望の連作短編集。時は未来、処は宇宙、テーマは「美」、主人公は
ワイヤードな学芸員(妻あり)。ラグランジェ・ポイントに浮かぶ博物館惑星<アフ
ロディーテ>。文芸・工芸・動植物の3部門を統括する<アポロン>に持ち込まれる
<美>にまつわる無理難題を働き盛りの学芸員田代孝弘が、仲間とともに解決していく
心優しきサイエンス・フィクションである。科学的で、美学的で、それでいて情緒的
な9つの物語には、少しずつ連環があり歴史がある。処世術に長けた役人タイプの上司、
野生的な魅力を湛えた黒人女性の同僚、「感動」するだけが能の新婚の妻といった
レギュラーの布陣も完璧であり、一編毎に黄金律を刻みながら最終話のラストへと
「感動」を高めていく連作としてのプロットも巧み。優れたサイエンス・フィクション
がそうであるように、この物語にもそれぞれに「謎」があり、「解決」がある。
それは読者と作者が盤面で対峙する形の本格推理の体裁ではない。読者は作者ととも
に「美」の鑑賞者として同じ<課題>に向かうのだ。以下、ミニコメ。
「天上の調べを聞きうる者」第一短編、素材には主人公のキャラを立たせるために
<音楽が聞こえる「抽象画」>というクロスオーバーを配置。「人体2」を思わせる
人の「脳」の不思議を、慈愛に満ちた語りに封じ込めた作品。鑑賞者としての人、
感動の在り場所、といった全編を通じるテーマが既に表現されているところがさすが
である。「聞く」事の出来ない自分が悔しくなる、そんな話である。
「この子はだあれ」書き下ろし作品。人形の名前捜し、というどこか私立探偵小説の
雰囲気を漂わせた作品。依頼人の科学者夫婦の思いが痛切であり、ショッキングな
真相と、それを受けて立つ「人間」の愛の力が心地よい。
「夏衣の雪」テーマは雅楽。趣味のキモノもたっぷり織り込んだ著者ならではの
ジャパネスクな因果物語。音を文章で表現させると右に出るものなき作者の本領が
発揮されている。話の仕掛は「お約束」ではあるが、それを補って余りある視覚効果
が素晴らしい。<消失トリック>もあって推理小説ファンからみてもお得用である。
「享ける形の手」天才舞踏家の最後のステージに向けて奔走する一人の「ファン」の
物語。まさに「鑑賞者」の力を誇示した作品であろう。天才の自分捜しの物語でも
あり、フィナーレにはシンメトリーな美しさがある。題名の付け方が秀逸。
「抱擁」科学の犠牲になった老学芸員の美に対する飽くなき妄執を描いた作品。
老人の中に、自分たちを投影する主人公たちの心情は、我々すべての思いでもある。
狂言回し的に対置された「水芸」がユニークである。ユニークすぎる。
「永遠の森」生物時計という仕掛を思いついた作者の勝利。さすが表題作だけあって
ここに表現された<愛>の歴史は重く、そして美しい。徹頭徹尾、翻訳SFのオーラ
を備えた傑作である。英語に翻訳するとすればこれでしょう。
「嘘つきな人魚」水族館の物語。題名にすべてが象徴されている作品で、組み立ては
オーヘンリーである。母の物語でもあるのだろうか?
「きらきら星」出ました、Xファイル。「美を継ぐ者」とでもいうべきか。最も
ハードSFな美学的アプローチが光る作品。聞こえない音を聞かせる天才、スガヒロエ
ならではの佳編である。
「ラヴ・ソング」何も言うまい。そこには「ある愛のかたち」がある。ウチの
カミサンもいる。愛のテーマこそが甦りの秘法なのである。この本を読んで本当
によかったと思える、エンディングである。どうぞ感動してください。


2000年7月25日(火)

◆眞明さんに送本。「鉄コミ」の交換で光文社文庫の岡本綺堂がお輿入れ。個人的
には未だに「鉄コミ」を見ないので、物凄くお得な交換という思いが強い。
◆給料日なので神保町に行ってみる。雨の予感にワゴンが片づけられておりガッカリ。
神保町BC、RBワンダー、羊頭書房を駆け足でチェックするもこれといったものは
なし。本日は新刊買いに徹する。
「ミステリマガジン」9月号(早川書房)840円
「SFマガジン」9月号(早川書房)890円
「図書館戦隊ビブリオン」小松由加子(コバルト文庫)457円
「我らが共通の友(上・中・下)」Cディケンズ(ちくま文庫)3700円
「永遠の森 博物館惑星」菅浩江(早川書房)1900円
ううう、新刊は高いなあ。たちまち万札が吹っ飛ぶ。でもいいのだ、菅浩江の新刊
を買えたからいいのだ。三省堂になくてびびったが、書泉グランデには正面の新刊
コーナーに平積みされており、めでたく初日ゲット。新刊本を初日に捜しまわる、
というのは「塗仏」以来である。まだ自分がこれほどワクワクできる本が新刊にも
あるという事が嬉しい。SFMも菅浩江特集なので迷わず購入。「そばかすのフィ
ギュア」の英訳版に新作短編も掲載されていて、これは「買い」でしょう。
◆久々にHMMとSFMを一緒に買って(中坊の時以来だな)気がついたのだが、
HMMが通巻534巻、SFMが通巻533号であった。おお!4年も先にスタート
したHMMがここまで追い縋られているとは!?なるほど、1年に1冊は必ずと
言っていい程増刊号の出るSFMに対し、HMMの増刊号は「007」と「ナポソロ」
と「Japanese Mystery Writer」の3冊のみ。40年も経てばこうなるのか、と納得し
ながらも「兄ちゃん、頑張れ」といいたくなるのはミステリ者の偽らざる心境である。
SFMは、Hiを増刊にカウントするという<卑怯な技>を使っているしなあ。
◆HMMにハヤカワ文庫の海外ミステリベスト100が載っているが、なんと4位に
「火刑法廷」が入っていてビックリ!あの「深夜プラス1」や「死の接吻」や「Yの
悲劇」を押えての4位は立派の一言。更に言えば、20位までに2作入っている作家
は、なんとロスマクとカーの二人のみである。おお!知らぬ間にカー・ブームが到来
していたのだ!ちょっと嬉しいぞお!ところで一般投票数は405名だったそうで、
かつてのポケミス復刊アンケートの221通に比べれば倍近い訳だが、それにしても
トホホな数である。これが日本のコアな翻訳ミステリマニアの上限なのだろうか?
「兄ちゃん、頑張れ!」である。

◆「天使の卵」風見潤・安田均編(集英社コバルト文庫)読了
コバルト文庫の入手困難本の一つ。ロマンティックSFの3冊に続いて世に送られた
テーマ別アンソロジー企画の第一弾「宇宙人SF」編。この後にロボットものの
「ロボット貯金箱」が出たが、予定されていた「時間SF」テーマの3巻目は未刊の
ままである。なぜ、企画がぽしゃったかを推し量るに、このアンソロジーがあまりに
通常のコバルト文庫の読者層を相手にしていなかった、という点に尽きるであろう。
「ソノラマ文庫海外シリーズ」が本家の「ソノラマ文庫」とは格が違い過ぎる事は
広く知られているところだが、このコバルトのアンソロジーも侮れない。それでも
まだ最初のロマンティックSFの3巻は「恋愛」テーマな分だけ、ましであったが、
こちらの企画はもうどうしようもなく「あばよ、小娘」である。とにかくその中身の
ハードコアぶりに驚く。収録されているKローマーの話はまぎれもなく男の友情を
描いたハードボイルドタッチの冒険小説だし、GRRマーティンの短編なんて、
モロに娼婦とポン引きの話だよ。参ったね、こりゃあ。以下、ミニコメ。
「天使の卵」なんと一種の「Xファイル」ものであった。ある博士の日記に綴られた
40年前の<ファースト・コンタクト>。鶏の卵に混じっていた青い卵から孵った
「天使」に記憶を写し取られ歓喜の内に死に至るさまが克明に描かれる。妖精もの
の体裁を借りながら「生命」の本質に迫るコアな作品である。命は何故そこにある
のか?「ワタシノコトヲワスレナイデ…」
「ホップ・フレンド」火星の先住生物と開拓者のふとした交感を描いた小品。描写
を最小限に押え、裏にドラマを感じさせるラストが痛い。この「宇宙人」もどこか
妖精的である。
「わが家の異星問題」もし自分の娘が異教徒と結婚したら、父親は如何に処すべきか?
という永遠(?)のテーマを爆笑タッチで綴った作品。しかも一家がユダヤ教の場合、
問題は深刻である。加えて、婿どのはカリフラワーな植物人間!でも、この結末は
なかなかに宜しい。こうこなくては嘘である。
「スターレディ」時は未来、処は宇宙。あるスラム化した星に放り出された宇宙娘の
転落と再生を、極彩色で描いたアクションSF。当たり前のように身を売らされる
弱者が牙を剥くラストに興奮する。小道具といい、設定といい、プロットといい、
コバルト文庫離れした傑作である。さすがGRRマーティン。萩尾望都のイラストが
欲しくなる。
「巨人の棲む星」ある星に不時着した男。10名の重傷者をコールドスリープにして
医療施設に急いでいた「彼」は、突入時に切り離したコンテナ部分を求めて厳寒の
惑星を行く。その星の唯一人の「人間」である、巨人とともに。緻密に組み立てられた
陰謀、裏切りと逆転、そして友情の果てに男の下した決断とは?冒険小説の王道をいく
雄編。まさかこれほどの作品がコバルト文庫に入っているとは正直驚いた。序盤の
スリル、中盤のサスペンス感溢れる雪中行、終盤のアクションの連続、そして落涙
必至のラスト。谷甲州はだしの男の世界がここにある。Kローマもハードな作品が
書けたのね。
総論:とにかくマーティンとローマの2作を読んで欲しい。恐れ入りました。


2000年7月24日(月)

◆待機残業。根性を無くして京橋と行徳の定点観測のみ。
d「快盗ルパン」水谷準(角川文庫)100円
d「地の果てから来た怪物」Mラインスター(創元推理文庫)100円
「誘拐されて」RLスティーブンスン(角川文庫:帯)100円
「ネバーランド」恩田陸(集英社:帯)1100円
スティーブンソンが拾い物なのかもしれない。昭和30年に出版された本だが、
帯になんとも味がある。おまけに愛読者カードと、角川文庫版「大菩薩峠」の
チラシが挟み込みでついていた。渋いなあ。ルパンの表紙もなかなかよろしい
なんと佐伯祐三の「郵便配達夫」を使っているのである。後の時代の新井苑子描く
ルパンも悪くはないのだが、世界の佐伯には負けるわなあ。で、この巻末目録で、
長い間宿題になっていた「角川文庫ルパンに水谷準訳は幾つあるか?」という
やよいさんの質問の答が出た!
答え:「『奇巌城』と『快盗ルパン』の2冊」。ちなみに「ルパン対ホームズ」
「ルパンの告白」「オルカンヌ城の謎」が大友徳明訳、「水晶の栓」が長島良三訳
である。はあ、やっと肩の荷がおりた。
◆ところで、八重洲古書センターに伊勢丹古本市のカタログが並んでいたのだが、
もう皆さんのお手元には届いているのだろうか?うちには未だ来ていないので、
買うかどうか真剣に悩んだ挙句、1日待ってみる事にしたのだが。5千円クラス
に欲しい本がごろごろあるんだよなあ。

◆「反逆者の財布」Mアリンガム(創元推理文庫)読了
くりさんの何十年に一度の「超血風」に刺激を受けて、創元推理文庫最兇の絶版
本を取り出した。これもお恥かしい話であるが、アリンガムは、昔、原書の「The
Crime at Black Dudley」の退屈さにめげて以来、翻訳作も「集めるだけ」の作家
の一人であった。どうもアルバート・キャムピオンのキャラクターに馴染めないのだ。
「名探偵も諜報員もこなしまっせ」という辺り、ブレイクのストレンジウェイズとも
印象が重なるのだが、ほとほとつかみ所のない探偵役である。さて、この「反逆者の
財布」は、創元の猫マーク。要はスリラーサスペンス系、しかも謀略ものであった。
加えて「レギュラー探偵」を記憶喪失にして、サスペンスを盛り上げるという異色作
だったために、当時の日本の読者からは高い評価は得られなかったものと思われる。
展開を楽しむ話なので、梗概を書きにくいのだが、まあ、こんな話。
病院のベッドで目覚めた男。しかし、彼には記憶がなかった。病室の外の警官の
会話を漏れ聞くとどうやら自分は警官殺しの罪に問われているようだ。このまま
では絞首台の露に消えるのみ。男は、火災報知器を動作させその混乱に乗じて
病院を脱出する。駐車していた車を奪って逃走する男。一体、自分は誰なのか?
その答は、彼の跡をつけてきたもう1台の車の主によりもたらされた。「キャムピ
オン君」。どことなく馴染みのある響きに男はしがみつく。自分に好意を持って
いるらしい清楚な美女の運転に身を任せ、記憶を辿ろうとする男。一体この焦燥感
は何なのだ?そして脳裏をよぎる「15」という数字は何を意味するのか?記憶の
霧の向こうにやがて大英帝国の存亡を危うくする大陰謀の姿がおぼろげに浮かび
あがる。果して「男」は、本当に正義に奉しする者だったのか?はったりと破綻、
綻びる愛、空白の記憶、逃避行の果てに運命の日は訪れる。
記憶喪失の主人公といえば、アイリッシュの「黒いカーテン」やラドラムの「暗殺者」
が思い浮かぶが、「レギュラー探偵」を記憶喪失にするという企画はあまり例がない
ように思う。そもそも、本当にこの男がアルバート・キャムピオンなのか?という
疑問が最後の最後まで付き纏う不安定感が読んでいて実に辛い。背景にある大陰謀の
正体は、当時としては真剣な話であったのであろうが、ネットが行き渡った現在から
見るとさすがに隔世の感がある。どことなく「死ね死ね団」を思わせる大陰謀である。
読み終わってみると、それなりの満足感は得られるのだが、とにかく中盤の曖昧感が
耐え難い。正直なところ「1日1冊」のノルマを自分に課していなければ、途中で
投げ出していたかもしれない。「絶版の正体見たり大愚作」というほどではないが、
創元推理文庫を全部読むのだと願を掛けた人だけが読めばよい作品であろう。


2000年7月23日(日)

◆こっらああ!!楽志いいい!!!オモシロすぎるぞ!!(7月23日の日記)
しかし、こうして見せつけられると、この漫文は漫文なりにパターンがあるっちゅう
ことですのう。ついでにそのノリでレス付けもやってくれると助かるぞ、この暇人め。
◆日記をアップしてごろごろ。昨日意識朦朧で録画した「ヴァンパイア・ハンター聖少女
バフイー」なるお手軽バンパイアものを視聴。もとはテレフューチャーか何かなのだろうか?
今旬のテレパル映画コーナーから完全に黙殺された作品。ズタズタに鋏が入っていて、展開
のワープぶりに唖然とする。こら酷いわ。もう地上民放で映画(?)を見る時代じゃないのね
そうなのね。
◆さすがに3日続けて古本を買わないのは「看板に偽りあり」だと思い、暑さに萎える心に
鞭打って、20日にオープンしたブック・オフ14号江戸川平井店へ。JR平井駅で下車。
さて、一路南に向かうか、と思ったところ、一軒リサイクル系古本屋発見。行きがけの
駄賃で、見て回る。拾ったのはこんなところ。
d「インパーフェクトスパイ」Aクロス(三省堂:帯)390円
「異星人ノーチラス」ドレツアール(岩崎書店)100円
「宇宙少年ケムロ」エリオット(岩崎書店)100円
「宇宙パイロット」グレーウィッチ(岩崎書店)100円
「ついらくした月」シェリフ(岩崎書店)100円
「合成人間ビルケ」ベリヤーエフ(岩崎書店)100円
「コメット号時間作戦」Eハミルトン(岩崎書店)100円
初見の岩崎書店SFこども図書館シリーズ。もの珍しさのみでサクサク拾う。
スミスだのバローズだのもあったのだが、ビッグネームのダブリはハミルトンのみ
に留める。単にキャプテン・フューチャーマニアっちゅうこっちゃね。実は、福島
正実訳だということもあるんだけどさ。
◆徒歩10分弱で、目的地到着。マンションの1Fに入ったブックオフ。「どうせ
落穂ですよね」となげやりに棚を流す。
「骨董屋(下)」Cディケンズ(ちくま文庫)100円
「百万年の船1・2・3」Pアンダースン(早川SF文庫)各100円
「パドック夫妻のパリ見物」DOスチュアート(早川NV文庫)100円
「アイリータの生存者」Aマキャフリイ(創元推理文庫)100円
「ラードナー傑作短編集」Rラードナー(福武文庫)100円
「成層圏ファイター」遠藤明範(ソノラマ文庫)100円
「ライブラ救助指令」遠藤明範(ソノラマ文庫)100円
d「ハンサムな狙撃兵」Cエクスブライヤ(教養文庫)100円
d「獣欲の系図」友成純一(広済堂NV)100円
d「幻想と怪奇1」仁賀克雄編(早川NV文庫)100円
d「魔法入門」Wバトラー(角川文庫)100円
d「シャドウズ」Sハトスン(早川NV文庫)100円
d「いまひとたびの生」Rシルバーバーグ(早川SF文庫)100円
d「わが夢のリバーポート」PHファーマー(早川SF文庫)100円
d「われら顔を選ぶとき」Rゼラズニイ(早川SF文庫)100円
うーん、量だけは買った買った。個人的にはディケンズが嬉しい。古書価としては
「魔法入門」がベストの拾いものかな。
◆掲示板報告のくりさんが凄すぎて言葉を失う。なんか生きる気力の湧いて来る
血風ぶりに完全脱帽。とっとと、自分でホームページ立ち上げなさい!

◆「痛み かたみ 妬み」小泉喜美子(双葉社)読了
掲示板で話題になっている小泉喜美子の入手困難作。一昨年、小林文庫さんの著作
リストで見るまでは存在すら知らなかった本。自前パソを購入してニフティの推理
小説フォーラムはZPで探求書を尋ねられ、この書を挙げたら「お前もか?!」
状態になったので、如何にしんどい本かを理解した。しかし、小泉喜美子って、
そこまで騒がれる作家なのか?結局、「粋な姉御」ぶりに惚れ込んだ男ドモが
「凄い凄い」ともてはやす上に、絶版効果で評判だけが一人歩きしてるだけのよう
な気がするのだが、こういう事を言うと袋叩きに遭うのかな?さてこの作品集は
6編収録、内表題作の「痛み」が昭和54年度、「かたみ」が昭和55年度の協会
賞候補作になっている由。以下ミニコメ。
「痛み」緊急病棟に担ぎ込まれた不良少女の「痛み」を彼女の一人語りを交えながら
綴ったショッカー。不器用な友情の果てにもたらされた「痛み」は余りにも痛い。
オチは見え見えだが悪くない。オヂさんとしては、お約束で和田慎二の絵をイメージ
してしまうのであった。
「かたみ」最愛の恋人を特攻で失った娘が抜け殻のような人生の果てに掴んだものとは?
ホテルの一室で自殺した中年女性の業を抉る底意地の悪いラブ・ストーリー。
<女は怖い>型の話だが、なにより作者の悪意にぎょっとする。
「妬み」大女優とその旧友の女性文筆家の葛藤を「建前と本音」の両面から描いた
作品。妬みの怖いのは、妬まれている方が無自覚なところである。そこは良く
書けているが、問題は全く推理小説でないことである。結構、不快。
「セラフィーヌの場合は」フランス人の外交官夫妻と妻の昔の恋人が極東の夜に
出会った時、何が起こったか?殺意の根元に咲く毒々しい「日本の華」の正体は?
ガイジンさんたちの狂態を笑い飛ばす作者の企みがよろしい。
「切り裂きジャックがやって来る」ブロックの「切り裂きジャックはあなたの友」
にインスパイアされた出来の悪い紛い物。原稿料泥棒。
「影とのあいびき」アラブの富豪が惚れ込んだ歌舞伎の華。ファンタジックな一夜
の夢。歌舞伎趣味以外は、感心できないが、この作品集の中では、女性に優しい
ところがホッとする。
総論:ミステリとしては、どうというところのない作品集。この程度の話が読みた
ければ阿刀田高を読んでいればよい。女性が女性に対して残酷である事を知るには
適した作品集かも。
渉猟のご参考に書影でも。


2000年7月22日(土)

◆さて、来客である。Masami's Homepageの主にしてワセミスOB会の世話役で
あるMasamiさんとご存知MYSCON主宰フクさんをお招きしての突発的すき焼き
パーティーである。Masamiさんには自分のサイトを立ち上げる前から、あれこれと
ネット上で遊んでもらっていたのだが、考えてみればプレMYSCONでもMYS
CONでも殆どお話出来ていない。あちらはワイン抱えて走り回っておられ、
こちらは古本を持って走り回っていたのであった。そこで、無理矢理こちらからお誘い
して、草深き拙宅にお運び頂いた次第。二人ではちょっと心細いので、5万オフを
申し込み損ねたと臍を噛んでいたフクさんにも参加してもらった。さあ!暑い時こそ
鍋だ!ビールだ!いえーい!昼から酔っ払うぜ!
◆乾杯の後、ビールを鯨飲・煙草をばかばか吸いながら、いつもの本棚チェック。
4ヶ月ぶりにご訪問のフクさんは書庫の溢れ具合に唖然としている。「ああ、こんな
ところにも佐賀潜が!」そうなのよ。目指せ、日本一の佐賀潜収集家なのよ。Masamiさん
は、これまで私の本棚を見た人の中で一番物静かでいらっしゃった。その旨を告げると、
「ワセミスの先輩の書庫をみせてもらっていますから」との事。うああああ、そうか、
そうだよなあ!「敗れたり、kashiba!」である。むむむ。御本人が最近あまり古本属性
のない事もあったそうだが、なんと「井の中の蛙」であった事よ。精進せねば!!
Masamiさんが呆れていたのは英語教材の「ジェシカおばさんの事件簿」ぐらいかなあ。
◆鍋をつつきつつ、ワセミスの話をあれこれ伺う。なんと高校時代から、ワセミスに
入ると心に決めておられたらしい。うーん、筋金入りだあ。山村紅葉に、高瀬美恵に、
飯野文彦(同期だそうな)話、ワセミスOBサイト話等など、いやっはっは、さすが
ワセミス!話題は尽きない。後は、サイト運営の苦労話など、3人とも掲示板のレス付け
ではヒケをとらないので、こちらも果てしなく盛り上がる。なぜか、よしだまさしさんが人気である。
◆突如、地図を取り出し「西瓜を買ってきます」と立ち上がるMasamiさん。むむむ、
なんだなんだなんなんだ?フクさんと顔を見合わせる私。「え、この辺って店ない
ですよ」「調べてきました」と地図を見せる。「はあ」と気合に飲まれ、待つ事
20分。Masami氏、手ぶらで再登場。「店、みつかりませんでした?」と尋ねると、
「財布を忘れました」。ぎゃははははは。酔っ払いいい!!
◆再度、西瓜買いにチャレンジするMasamiさん。フクさんは、ダブリ本ゾーンで
「劇場の迷子」「舞姫」「ながれ星」「ペトロフ事件」といったところをお買い上げ。
うーん、いいところ持ってくねえ。毎度あり!
◆18時過ぎにフクさん、20時前にMasamiさんが引き上げるまで、実に実に楽しく過ご
させて頂きました。また、やりましょう!!3人で消費したビール、5.6リットル。
ワイン1本。既にベロベロに酔っ払っていた私はそのまま倒れ込む様に暗転。
……うう、フードファイトみそこねた。
◆あのー、西瓜、丸ごと冷やしたまんまなんですけど。

◆「西城秀樹のおかげです」森奈津子(イーストプレス)読了
森奈津子は菩薩である。人間としての誇りや作家としての矜持といった瑣末なもの
を捨てて、色事に縁なき衆生に対し遍く慈愛を振りまかれる。森奈津子は快楽天で
ある。女性である事の有り難さ(当たり前さ)、儚さ(図太さ)、美しさ(醜さ)を
すべて読者の快楽に向けて動員される。森奈津子は、「女」式貴士である。SFの
衣を纏ったポルノ、なんでもありの落し話、式貴士が作家ならとても恥かしくて
書けないような幼児並みの地口やオヤジギャグを武器にすれば、森奈津子の武器は
スタジオぬえ仕込みのSFマインドと女体の神秘である。というわけで、官能爆笑
作家:森奈津子の処女短編集である。処女とはいえ、かきおろしは7編中1編という
再生処女である。そこがまた、なんとも。いやはや。以下、ミニコメ。
「西城秀樹のおかげです」突如発生した疫病によって人類は滅亡した。一人生き
残った15歳の乙女・早乙女千絵は、淫らな妄想に身を委ねつつ廃虚の街をさ迷う、
といった冒頭から、このあまりの馬鹿馬鹿しい人類絶滅のラストを想像できようか?
どこまでも愚かな生き残った者たちの繰り広げる我侭勝手ぶりに爆笑必至の「思弁SF」
もとい「花弁SF」(そんなものはない)
「哀愁の女主人、情熱の女奴隷」富裕であった兄夫婦の忘れ形見である姪を引き取った
女性学者。「廃棄処分」にするのは忍びないとメイド型ロボットも引き取ったのだが、
そこには、恐ろしい官能の罠が隠されていたのだああ。作者自身のサイトで案内係を
つとめる女奴隷ハンナ登場編。SMポルノの定石に従ったセリフ回しが抜群に可笑しい。
さあて主人公はいつまで正気を保てるのであろうか?
「天国発、ゴミ箱行き」作者自身を徹底的に笑い者にした「転生テーマ」の艶笑譚。
ポルノ部分の描写は、さすがである。自身の描写もここまでやるか?というほどの
ノリ。再読だが、それでもなおかつ楽しめる。オチも巧い。
「悶絶!バナナワニ園」レズビアン厳禁の未来社会での女探偵もの。中国拳法を使う
助手が可愛い。プロローグとエピローグは、ストーリー進行上全く無意味だが、
きちんと劣情も笑いも満足させるところがえらい。本編は、なかなかスリリングである
が、考えてみれば、これもSMポルノの定石かな。題名と、それにインスパイアされた
<責め>のアホらしさが、泣かせるではないか。
「地球娘による地球外クッキング」それぞれ性欲・食欲・オタク欲に忠実な3人の
ルームメイト。その家の庭に落ちてきた小型UFOと宇宙人。食欲の権化は、操を
捨ててでも、この宇宙人を調理したいという欲望に駆られるのであったが…、
最後のツイストが効いている。トンデモな設定だが、主張は意外にマトモかもしれない。
「テーブル物語」書き下ろしの官能SMレズビアン説話。「奴隷女の調教」と思わせて
おいて、まんまと背負い投げを食わせる作者のしたたかさよ。この小説に限っていえば
イラストがないのが残念である。
「エロチカ79」「後生だから」というキーワードで突如現われる山口百恵似の生徒
会長があんなことや、あんなことや、あんなことをしてしまう、爆笑SM。オチオチ
ワルもやってらんない、という繰り返しのナンセンスギャグがモンティ・パイソン的
英国ユーモアを思わせる。それにしても最終話の女教師はどうなったのだ?
「あとがき」最後の3行が抜群に笑える。森奈津子おそるべし!
総論:いやあ、笑った笑った。えっちの方は「実用」には使えないが、門外漢の
おちょくりや手すさびと呼ぶには巧すぎる。ううーむ、この本が文庫になるとも
思えないので、森奈津子ファンは押えに走ろう!!


2000年7月21日(金)

◆明日が来客につき、あれこれ買い物をして速攻で帰宅。購入本0冊。
◆ビデオテープを棚から出して、そこに銀背を並べてみる。ほほう、124冊あり
ましたか。あと200冊強という数は集めるには手頃かもしれない。1冊千円として
20万円かあ。ううむ(やめとけ、やめとけ)。銀背を並べていたところには、翻訳
もののハードカバーを並べてみる。国書の全集の第3期(それにしても1期、2期と
不揃いな装丁だねえ)、原書房、新樹社、翔泳社等などで瞬く間に1列が埋まる。
壮観である。国書の全集刊行に始まるこの6,7年、我々は奇跡の世紀末に立って
いたのだ。そんなこんなで本の整理を行うがKaluさんや、女王様のように、買った
まま忘れていた「嬉しい」本は何ひとつ出てきやしない。ダブリが1冊判明したのみ。
嬉しくねえ!!
◆「星界の戦旗」も終り、なぜか「トリック」も放映されない金曜日。昨日は、
京極の「怪」、「合い言葉は勇気」、「レリックハンター」とビデオ3台フル
稼動の日だったのだが、今日はビデオの年休である。金曜日に何も録画しなかった
のは本当に久しぶりのような気がする。

◆「不思議な国の悪意」Rキング(創元推理文庫)読了
新しくて古いところから1冊。ハードカバーでの古典復興の向こうを張って、創元
推理文庫でも、フェラーズやキングが新たに訳出されたのは諸手を挙げて歓迎してい
るところである。かつて「鑢」やクロフツの中期諸作を「探偵小説全集」と銘打ち
世に送った戸川社長の「趣味の英断」か?この書の原題「Malice in Wonderland」
を聞いた際には速攻でブレイクの中期作と一緒じゃない?と思ったのだが、川出解説
によれば、クイーンのたっての頼みでブレイクが承諾したのだとか。題名には著作権
が発生しないとはいえ、ちゃんと仁義を通していた事に驚く。まあ、ブレイクの長篇
の方は米版ではなぜか「The Summer Camp Mystery」というジュヴィナイルめいた題名
に改題されているので、混同の可能性がなかったのかもしれないが。問題は、仮に
ブレイクの作品が翻訳された際に一体どうするのだ、えー?ということなのだ、
こういう要らぬ心配をしてしまうのが、ファンのファンたる所以である。10年前
ならば「阪神の優勝に備えて紅白饅頭の手配に思いを巡らせる」レベルの「杞憂」で
あった事が、今や「巨人の優勝」程度の確からしさをもってきているのが、この
世紀末である。で、何をこんな脱線をしているかというと、この本の川出解説が、
様々な角度からこの書を解剖・解説してしまっているので、今更蘊蓄を書く事が
出来ないんだよう。以下、ミニコメ!
「不思議の国の悪意」表題作。少女の誘拐という「過去の事件」がアリスの今に
甦るという題名通りの作品。暗号や植物相等の小道具の使い方が巧みであり、読ませる。
真相は左程意外なものではないが、真犯人の邪悪さに戦慄を覚える。
「マイアミプレスの特ダネ」新聞社社長令嬢の気侭な冒険譚。クリスティを思わせる
軽やかさが嬉しい。これも、起死回生のネタにある小道具を使っているのが憎い。
「淵の死体」ギャングの殺人の証言台にたって一躍ヒロインとなった女性の物語。
鮮やかな逆転というか、アンフェアの極みというかは読者の趣味による。
「思い出のために」砒素を使った現代のルクレチアの陰謀の破綻を描いた作品。
米国の裁判制度を熟知した逆転が心地よい。
「死にたいやつは死なせろ」文庫にして百頁超の中編。リゾートで繰り広げられる
マザコン男の結婚を巡る陰謀と死をテンポよく描いた佳作。早めに真相を割って
逃避と追跡にページを費やすところがいかにもキングであるが、叙述トリックで
最後まで興味をつなぐ技はさすがである。先読み名人のエキゾチックな美女が
印象に残る。
「承認せよ−さもなくば、死ね」企業家の暴力的な殺害をテーマにしたワン・アイデア
ストーリー。少ない容疑者の中に巧く犯人を隠しているが、遺伝についての講釈は
いかがなものか。
「ロックピットの死体」夫と妻と愛人に捧げる犯罪。ありふれた設定でありながら、
ラストで「奇妙な味」を出した作者に拍手。
「黄泉の国の霊薬」ゴシック的な人物配置の中に現代的なネタを潜ませた一発芸。
面白くなくはないが、少々無理がある。巻末作には「思い出のために」の方が
相応しかったような気がする。
総論:犯人たちの割り切った「悪人」ぶりが楽しい。昨今の流行のサイコでも、
哲学者でもない悪党列伝として、実によく出来た短編集である。アメリカのクライム・
ストーリーの一つの到達点であろう。必読。