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2000年7月20日(木):海の日

◆起きたら11時だよ。うーむ、参ったね、こりゃ。12時間程寝たわけね。
子供だよ。
◆日記つけて、ワセミスOBサイトにリンク張って、ゆるゆると本八幡へ定点観測。
依然、浦和に行く気はおきない。往復3時間だもんなあ。
「地獄の追跡」Hリバーマン(角川書店:帯)100円
「消された日本史」宮崎惇(広済堂)100円
「夢見るものの惑星」JDマクドナルド(早川SFシリーズ)500円
「海が消えた時」CEメイン(早川SFシリーズ)500円
d「ガラスの塔」Rシルヴァーバーグ(早川SFシリーズ)500円
「ハウザーの記憶」Kシオドマク(早川SFシリーズ)500円
d「ヒューマノイド」Jウィリアムソン(早川SFシリーズ)500円
「宇宙知性チョッキー」Jウィンダム(早川SFシリーズ)500円
「超能力エージェント」(早川SFシリーズ)500円
「蝿の戦士」(早川SFシリーズ)500円
「刑事コロンボ・殺しの序曲」リンク&レビンソン(二見文庫)280円
これといったものはない。早川SFシリーズが500均だったので、持っていな
さそうなところを買い込む。シルヴァーバーグは文庫で持っているが確信犯的
ダブリ。ウィリアムソンが、既に銀背でもっていた「うっかりダブり」。とほほ。
ここ20年間、この叢書はついでに買っているだけなので、何を持っていないか
チェックが甘いんだよなあ。いよいよ、非所持リストでも作るかな。でも作っちゃ
うと集めたくなるしなあ。某店で東都書房の日本推理小説大系16巻1万8千円也
をみかけたが、しばし悩んでパス。安いんだけどなあ。沿線には早川ミステリ全集
18巻1万2千円なんてのもあるのだが、スペースを考えるとどうしても躊躇
してしまう。この辺の「効き目だけ持っている全集」って気になりません?
◆居酒屋で一杯引っかけて、安田ママさんの勤務先へ。
「西城英樹のおかげです」森奈津子(イースト・プレス:帯)1600円
「密室殺人大百科(上・下)」二階堂黎人編(原書房:帯)各2000円
「ビッグ・バッド・シティ」Eマクベイン(ポケミス:帯)1100円
おお「密室殺人大百科」は噂に違わぬ充実ぶり。なるほどこれは今、編める最強
のラインナップであろう。本当に読みたいのはカーのドラマとホックの短編なの
だが、全編書き下ろしに敬意を表して新刊で買う。ポケミスは習慣なので。買う
たびに「コンプリート!!」である。いよいよ1700番が見えてきた。何を当
てる積もりなんだろうなあ。やっぱり流れからいってマクベインですかね?
恩田陸のサイン本もあったらしいが、さすがに著者直筆POPの下に平積みされ
ていた本の中にはサインなし。パス。でも、もうひとつサイン本があったのだ。
いや、あるのは知っていたのだ。しかし既にその本はこの店で購入しているのだ。
悩みに悩んで結局抱える。
d「山尾悠子作品集成」(国書刊行会:初版・帯・署名入り)8800円!!
日本広しと言えどサインのためにこの本をダブって買ったのは私ぐらいではなか
ろうか。やってしまいましたあああ(はあはあ)。こいつは完全保存用だあ。
20世紀最後の復活祭への捧げ物、と思えば安い!うう、ママさんの思う壺だよ。

◆「ヴィラ・マグノリアの殺人」若竹七海(カッパNV)読了
順調なペースで著作を発表しつづけている女流新本格作家の近作(といっても
既に昨年の作品なのだが)。書き下ろしのコージー・ミステリである。若竹七海
の作品には、どこか残酷な部分があって、今邑彩ならば「余韻」になるところが
「後味の悪さ」になってしまう。徹底的におぞましい「七月の降霊会」では、その
残酷趣味が全面に出てよかったのだが、なまじ「ほのぼの」「爽やか」パターンの
最後でそれをやられると、面食らってしまう。さて、この作者自らが「コージー・
ミステリ」を志向した作品ではいかがなものか?こんな話。
湘南の一角に建つ住宅街「葉崎マグノリア」。10棟の内、一棟だけ空き家に
なっている3号棟から、身元不明の男の死体が発見される。その顔と指を潰すと
いう徹底ぶりは、何を物語るのか?夫に蒸発された母子家庭、引退した校長夫婦、
塾経営の男性カップル、ファミレス店長夫婦、元学生運動家の女流翻訳家、古本
店経営の母娘、ホテルオーナー、中古車ディーラー経営者夫婦、おせっかい老女。
といったマグノリアの多彩な居住者に山手の邸宅に越してきたハードボイルド作家
夫婦は、平和な街に似合わぬ大事件にてんやわんや。殺人など滅多に扱った事の
ない地元警察が慣れない捜査に乗り出すと、一見、平和に見える街にも、様々な
軋轢や歪みがあった。乱れ飛ぶ中傷、囁かれる憶測、あからさまな、あるいは陰湿
な脅迫。犯行が行われたと思われる日は、おりしも台風襲来の日であり、目撃者も
遺留物にも期待はできない。乏しい物証と証言を警察が追う中、今度は、街のトラ
ブルメーカーであるファミレス店長の妻が殺害されてしまう。果して、二つの殺人
の関連は?自薦他薦の探偵たちが海辺の街で繰り広げるドタバタ悲喜劇の顛末や如何に?
登場人物が多すぎる。しかも作者が丁寧に色付けを行い、それぞれに裏シナリオ付きの
ドラマを配するために、コージーミステリにしては、少々重い。二時間ドラマでは
編成不能であろう。リーダビリティーは高く、謎の編み方も巧みであり、楽しくは
読める。ところどころに作者のミステリおたくぶりが顔を覗かせるのも微笑ましい。
邸宅に住むハードボイルド作家などは明らかに北方某がモデルであろう。ミステリ
部分の解法は、少々捻くり過ぎの感もあるが、及第点。母子家庭の双子姉妹の
おしゃま(死語)ぶりが印象に残る作品。ただ、最近の新本格の悪いところなの
だが、着地してから身体を捻るのはやめようよ。うん。


2000年7月19日(水)

政宗さんの日記によれば、このサイトの掲示板が「彷書月刊」の7月号に紹介
されているそうな。で、弘隆社のHPに行ってみると同書の宣伝があって、入り込んで
いくと、「インターネットの探偵小説」という頁から、リンクされているではないか。
おお。居並ぶネット界の著名サイトに混じって「啓示果つる処」が鎮座ましましている。
「国立国会図書館」の上というのがなんとも面映ゆい。しかし、掲示板単独で紹介され
ているのはうちだけ。つまりなんだ「掲示板以外は古本が濃くない」ってことだな。
よしよし。へ?もしかして「ミステリが濃くない」ってことなのかなあ。うーむ、
あいでんてぃてぃ・くらいしすうう。
◆2ちゃんねるの「変身」文体模写がむちゃくちゃ面白いんですけど。
◆浦和伊勢丹の落穂拾いは諦めて、西大島・南砂町定点観測。うう、何にもないわい。
d「真っ赤な子犬」日影丈吉(徳間文庫)130円
d「塙侯爵一家」横溝正史(角川文庫:初版)150円
「ルネンバーグ館の幽霊」Eウィルソン(偕成社Kブックス)350円
「ねむってから勇者」飯野文彦(ソノラマ文庫)230円
d「惑星タラトス救出せよ!」Eハミルトン(早川SF文庫)170円
d「脅威!不死密売団」Eハミルトン(早川SF文庫)170円
d「魔法の月の血闘」Eハミルトン(早川SF文庫)170円
「名探偵は密航中」若竹七海(光文社カッパNV)410円
「ヴィラ・マグノリアの殺人」若竹七海(光文社カッパNV:帯)420円
横溝はまだみのるさんの探究本だろうか?キャプテン・フューチャーは布教本。
結構、未復刊ゾーンが集まってきたぞっと。あまりにも買うものがないので、新しい
ところから若竹七海本を2冊。スタンプが溜まったので、1000円を越さなければ
ならなかったのだ。
◆「道化者の死」アラン・グリーン(ポケミス)読了
たまには古いものを読んでみようと取り出した100番台ポケミス。同じ作者による
創元推理文庫の「ボディをみてから驚け!」は、改題復刊されて久しいが、こちらは
絶望領域の品切れが続いている。まあ、近年のポケミスは思わぬ100番台の復活も
あるので、皆さん神田方面に向かって念波を発してみよう。実際のところ、なかなか
念波の発し甲斐のある出来栄え。翻訳にはギクシャクしたところもないではないが
これは50年代に書かれた本格推理小説としては出色の出来栄えである。おまけに
皆さん大好きな「密室殺人」である。探偵役には、前作に登場したアーサー・ハッチ
とジョン・ヒューゴを配し、冒頭の「密室」の描写から、雪で外界から切り離された
ホテルという舞台設定、「探偵は皆を集めてさてと言い」というクライマックスまで、
本格マニアの心をくすぐる律義さが嬉しい。ただユーモア推理という紹介がなされて
いるものの、ドタバタ喜劇風の展開は少なく、むしろ地の文に穏やかなユーモアが
含まれているタイプの「ユーモア推理」であり、喜劇役者が楽屋では無愛想である
という世の真実を映しているように感じた。こんな話。
劇場で当たりを取ったもののラジオの時代には逼塞していた喜劇トリオ・ジュニアと
エルロイとベーブ。テレビの黎明期に入り再び爆発的な人気を博した3人は「ふた粒
の阿片と一滴の魔液」というバラエティーショウで全米を席捲していた。その一行が
ニューヨークを離れ、ニューハンプシャー州に建つセントバーナードホテルという
人里離れた山深きリゾートホテルで外部興業を行うことになった。企画の仕掛人は
「健康教祖」事件の後、警察を退職したジョン・ヒューゴ。ホテルの総支配人に
収まっていたヒューゴの義理の叔父アーサー・ハッチは、バラエティーなんぞホテル
の格式に相応しからぬものと気乗りせぬまま、トリオとその家族、歌手にダンサー、
テレビのクルーから広告代理店主、スポンサーの若手重役を含む大所帯の一行を出迎える。
そしてハッチの危惧は的中する。雪中の外部ロケも進んだオンエア当日、なんと主役の
一人であるジュニアが、自分の部屋で脳天に銃創を開けて死んでいるのが発見されたのだ!
これまで舞台やスタジオで数限りなく空砲で撃たれてきた軽業師としては皮肉な最期
であった。しかも部屋には凶器の拳銃はなく、扉には鍵がかかっている。焦る広告代理店
を尻目に、超然と捜査の真似事を始めるアーサー。やがて、密室の謎が解かれた時、
あらたな死が一行に訪れる。なんと今度は「自殺」の姿をとって!
ユニークな人物造形と、巧みなカットバック描写で、作品世界に読者を誘い込む腕前は
相当なもの。密室の謎は他愛ないものだが、なんといっても、全体を支える「ホワイ
ダニット」の謎が素晴らしい。その解法に至る道筋も、実に論理的にして丁寧。伏線の
引き方に何度唸らされた事か。地の文のユーモア感覚に乗せられ、ホイホイ読み飛ばして
いると、まんまと作者に出し抜かれる事必至。複雑な人間関係を解きほぐした先に、
非常にシンプルな事件の構図が現われる、というこの快感は、黄金期の名作に比肩しうる
と言って良かろう。探偵役のキャラ設定も、なかなかのもので「ったく、しょうがない
なあ。解決してやるよ」というノリが絶妙である。これは絶版にしておくのは惜しい話
でしょう。さあ、みんな、念波の準備はいいか?「出せ!出せ!出せ!」


2000年7月18日(火)

◆ふと数えてみた。今年の入って65冊のSF・ホラー系の感想を書いている。
大体一ヶ月10冊ペース。絶対数だけなら立派な「SF系サイト」ではないか。
しかしながら、周りからはSF系サイトであるという認知は一向に得られてない。
その倍近いミステリ系の感想を書いているからであろうか?しかし、自分で読み
返してみると、SFの感想の方がミステリのそれに比べて断然面白い。歴史的背景
がどうたらとか、どこで手に入れたとか、トリックがどうとか、小理屈をこねずに
純粋に楽しんでいるのが宜しい。もしや、SFの方がミステリよりも面白いのか?
それとも単にミステリは世界ベスト級を読み終わっているからなのか?うーむ。
◆さて、ではここは「ミステリ系」サイトかと思うと、さにあらず。
ここは「古本系」サイトなのだそうである。読んでいる本の5倍の古本を買っている
からである。くうう。それならばそれで「凄え!」と唸る本があれば諦めもつこう
かというものなのだが、ほんと、掲示板の皆さんに比べるとトホホの連続だもんなあ。
明日もどこぞの初日に行けるわけでなし。わじわじー。
◆今日は、野暮用があって速攻で帰宅。古本はKIOSKのワゴンで1冊のみ。
d「精神分析殺人事件」Aクロス(三省堂)300円
何度も書いているが、5年後にはミステリマニアがひいひい言いながら探す羽目
になるよ、このシリーズ。悪い事はいわないから半額以下なら、今のうちに買って
おきなさいね>若い人たち。

◆「明日訪ねてくるがいい」Mミラー(ポケミス)読了
ミラーの後期作品。考えてみれば、ポケミスの1200番台でこの作品や「これより
先怪物領域」が出た時は「あ、まだ、書いていたんだ」とかなり驚いた覚えがある。
今でこそ、創元推理文庫や小学館文庫で結構読めるものの、一時期この作家も「知る
人ぞ知る<忘れられた作家>」だったのである。サスペンスの文体で、ミステリずれ
した鬼どもの裏をかくショッカーを生み出してきた作者が老境に入って世に送った
作品。そこにはなぜか、アルツハイマーの夫(ロス・マクドナルド)の看病に明け
暮れる事になる作者自身の姿を予言するかのような、滅びの光が射している。
駆け出し弁護士のトムが私立探偵まがいの人捜しに駆り出される。依頼人は、半身
不随の夫を抱えた金持ちの女性ギリー。彼女と裕福な暮らしを捨てて、若いメキシコ
女とトレーラーで新天地を求め駆け落ちした最初の夫BJを探し出して欲しいという
のがその依頼であった。メキシコ系であるトムの土地鑑と語学が買われたのである。
再婚した夫が新婚間もなく半身不随となり、子供もなく、ただ老いてゆく毎日、
情熱的だった前夫の今を知りたいというギリーの願いもわからないではなかった。
手掛りは、5年前に彼女宛に届いたBJからの手紙。それは、バハ・カリフォルニア
での一大リゾート建設を夢見て、彼女に支援を求めてきた手紙であった。しかし、
その建設予定地に赴いたトムの見たものは、蚊すら棲めない不毛の大地であった。
やがて、トムは、BJとその相棒ハリーが詐欺容疑で投獄された事を知る。炎熱の
獄中で何が起きたのか?一人出獄していたハリーに接触した、トムであったが、
いよいよ情報の核心に迫ろうとした時、ハリーはトムの目の前で無惨な死を遂げる。
誰かが、彼に一服盛ったのだ!愕然とするトム。だが、それは、連続殺人事件の
幕開きに過ぎなかった。探索の果てに、トムが辿りついた衝撃の結末とは?
果てしなく貧しいメキシコ社会の描写が痛い。新天地で、障害児の父となり、お粗末
な詐欺師のいうがままに有り金を毟られた挙句、投獄されたBJなる人物の悲惨は、
あれこれいいながらも平和で裕福な生活を送っている我々が嵌まるかもしれない悪夢
でもある。剣呑剣呑。息をするのも厭になる熱気と腐臭に満ちたメキシコの片田舎の
描写は圧巻。ミステリとしてみた場合は、おなじみの、それも老獪なミラーである、
とだけ言っておこう。全体の95%まで、事件が連続して、一体残り少ない頁数で
どうするのか?という不安にかられた事は付言しておいてもいいかな?老いの残酷さ
をテーマとした佳作でありましょう。ポケミスで210頁というコンパクトさも
好感がもてる。


2000年7月17日(月)

◆「ダメモトはオチボの母である。ドントの子はズンドコである」というわけで
(どういうわけだ?)、行ってみました、サンシャイン広小路。
おーなるほど、既に金曜日の開幕から四日目にもかかわらず、綺麗な早川SF文庫
やJA文庫が帯付き200円で転がっている。こりゃあ、初日に来てたら目移りも
いいところだねえ、と一人ごちながら「サイン本はないかな?」とひっくり返すも
見つからず。山田正紀の元本帯付きもゴロゴロ転がっているが、こちらはオール
500円なのでパス。結局購入したのは、以下の通り。
d「ドラフト連続殺人事件」長島良三(リヨン社:帯)300円
「ゼロの暗殺者」若山富三郎(自由書院)400円
「蟲の宴」水上勉(新潮社)200円
d「團十郎切腹事件」戸板康二(講談社文庫)150円
d「異次元侵攻軍迫る!」Eハミルトン(早川SF文庫)200円
ほほほ、長島良三の創作ミステリは、最近とんと見かけなくなった本。帯付き
が300円なら見逃す訳にはいかない。若山富三郎のゲテミスは、ちょっと気に
なっていた本なので嬉しいところ。まあ、こんなところかなと思ったら一冊だけ
マークの厳しい皆さんのお目こぼしにあっていた本にぶつかる。どこから見ても
時代ものなので、まんまとチェックを掻い潜っていた模様。
「甲賀忍法江戸控」宮崎惇(双葉社:献呈署名入り)300円
よっしゃああ!! 渋いところでよしださんに一矢報いたぞ!
何事も「とりあえず行ってみる」は基本ですのう。
◆後は、足取りも軽く、光芳書店を軒並みチェック。これこそたいしたものは
ない。しかし、そこはそれ、さすが光芳書店。遠来の客をボウスで帰すような
無粋な真似はしない。こんなところ。
d「聖女が死んだ」Cエアード(早川ミステリ文庫:帯)180円
d「死体は沈黙しない」Cエアード(早川ミステリ文庫:帯)190円
d「シーザーの埋葬」Rスタウト(光文社文庫)67円
d「皇帝のかぎ煙草入れ」JDカー(角川文庫)67円
「二毛猫アーヴィングの失踪」Aバックウォルド(文春文庫:帯)67円
「DEATH ON DEMAND」C.G.Hart(Bantam)100円
「DESIGN FOR MURDER」C.G.Hart(Bantam)100円
「ダモン」TクラインJr・富島健夫訳(勁文社)200円
ふっふっふ、エアードのダブリ帯付きセット復活。「ダモン」とか言う本は、
ポルノなんだか、SFなんだか判らない本。解説で、富島健夫が作品をボロクソ
けなした挙句「つまらないところは削りまくった、ついでに判りやすいように
エピローグ仕立ての追記まで加えてやったぞ、わっはっは!」と豪語しているの
が凄い。余りの天真爛漫さに恐れ入り、「話のネタ」に買い込む。
◆帰宅すると、菅浩江女史から、拙掲示板でも告知している、3冊が届いていた。
オール・献呈署名入り、お言葉付きである。嬉しいなったら、嬉しいな。実は
少し早めにお知らせ頂いていたのであった。
d「メルサスの少年」菅浩江(新潮文庫:献呈署名入り)
d「鷺娘−京の闇舞」菅浩江(ソノラマ文庫:献呈署名入り)
d「オルディコスの三使徒1」菅浩江(角川スニーカー文庫:帯:献呈署名入り)
3冊で送料込み1200円は、はっきりいってお買い得であります。さあ、皆!
じゃんすか申し込もうぜ!!
おまけに情報誌「PLEIADES」15号も頂く。というわけで、

菅浩江、本当に久々の新刊本!
永遠の森 博物館惑星
7月25日、早川書房より堂々発売予定!!
書き下ろし1編を含む、全9編!!!

であります。わしも本屋で買います(お約束)。

◆「バガージマヌパナス」池上永一(文春文庫)読了
さても沖縄である。47都道府県で未だ行った事ない県の残り少ない一つである。
アサドヤユンタは何故か小学校で習ったな。芸能系でいえば、今ならば、アムロに
SPEEDなんだろうが、おじさんにとっては南沙織にフィンガー5である。
星野之宣の「ヤマタイカ」である。「美味しんぼ」の長寿対決である。「ゴジラ対
メカゴジラ」のキングシーサーである。「ウンタマギルー」の小林薫である、って、
この映画は青山千可子の巨乳目当てで見た事はヒミツである。「ひめゆり」である。
「基地」である。サミットである。とまあ、貧困な沖縄の印象の個人的歴史を
完膚なきまでに塗り替える小説がこれである。題名から凄い。「わが島の話」。
おお、いわれてみれば確かにそう聞こえるぞ。この第6回日本ファンタジー大賞
受賞作は、実にしたたかに「沖縄」である。ストーリーは至って単純明解。沖縄
の時間を生きるとびっきりの美人・仲宗根綾乃が、神様の御告げを受けて、いやいや
ながらユタ(巫女)になる、ただそれだけの話である。これが面白い。聖と俗の
境界が曖昧な南国のトリックスターの破天荒にして純な行動と言動に悪酔いする。
脇を固める彼女の心の友、86歳のオージャーガンマーが良い。元は米兵のアイドル
であった銭勘定に汚い島一番のユタ・カニメガが良い。「なんでこんな奴を選んで
しまったんだ、とほほ」と歎く神様が良い。その神様を出し抜いて何とか楽に
生きる事ができないか?と思いを巡らせていた綾乃が、心からユタを目指そうと
するくだりには涙すること必至。圧倒的な沖縄のイメージの奔流の底に律義に
伏線を忍ばせている作者のほくそ笑みが見える。この小説の結末を先読みする
ことはたやすい。それほどにプロットは単純である。しかしながら、そこに至る
までには、「そういうことはもうどうでもよくなっている」のがこの小説の騙り
の力である。読者を笑わせて、笑わせて、笑わせて、ちょっと考えさせて、はらはら
させて、思い切り泣かせる。もっとこの登場人物たちと至福の時を共有したい!
そんな思いに駆り立てる力がこの小説にはある。どこまでも猥雑な南国の陽の下
の神話的バーレスクへようこそ。
さあ、後はこの感想を「自動沖縄語翻訳機」にかければ一丁上がりだあ。


2000年7月16日(日)

◆一度言ってみたい言葉、
「俺の書庫は、宇宙だ」
無理ですかそうですか。
◆南の方から梅雨明け、太平洋高気圧が張り出して来たとかで、とにかく暑い!!!
日記をアップして掲示板への遅レスをつけて、11時過ぎに日用品の買い出しに
表に出た。思わず呼吸困難になるほどの熱気。うがががが、と唸りながら用を足して
速攻で帰宅。シャワーを浴びて、昼ビール。ほろ酔いで、ヤフーオークションの
落札者の方々にメール。そのまま積録の「アルマゲドン」視聴モードへ。ううう、
泣かせるねえ、この話。それにしても「ディープインパクト」に比べて更に特撮
がパワーアップしているのには驚く。
◆というわけで、本日の購入本0冊。今日、古本屋回りした人は本当に偉い。
「夏の鉄人」の称号を捧げます。
「あの、男には暑さがわからない」(って、また「フードファイトネタ」かよ)

◆「機械の耳」小松由加子(コバルト文庫)読了
というわけで、ジュニアの鉄人に、よしださん、日下さんなどジュニア読みの皆さん
絶賛の小松由加子である。昨日、ようやく古本で拾えたので、試してみる。本当は
「ビブリオン」を読みたかったのだが、「1」が未入手につき、作者のデビュー作
にして「97年度ノベルズ大賞&読者大賞」受賞作のこれを読んでみた。こたつねこ
のイラストがなかなかにプリティーである。で、例によって、一読驚嘆。ジュニアの
レベルはここまでの高みに達していたのかあ、と悶絶する。これはSFのようでいて、
民話のようでいて、修身の教科書のようでいて、成長小説のようでいて、青春小説の
ようでいて、つまるところ分類不能の面白小説である。このような不思議な読物は
世界で最も進化を遂げた「JAPANESE 少女漫画」でしかお目にかかれない。それでも、
二編収録されている内の長めの方、「かえるの皮」は、まだ民話や西洋御伽噺のスタイル
を踏まえた解析可能な読物であるが、表題作の「機械の耳」は、なんとも作者の頭を
割ってみて、ちゅるりる啜ってみないことには、その思考パターンが理解できない
「変」ぶりである。とりあえず表題作の要約を試みるとこんな感じ。
3歳の頃に伝説の生き物「デンキサンショウウオ」に耳を持っていかれた少女
かの子。しかしかの子はその障害にめげず、心優しい人間に育った。14歳の夏休み、
そんな彼女は田舎に向かう車中で、半身サイボーグの少年と出会う。気まずい出会い
と別れ。どこまでも機械が嫌いな少年・孝行は無人駅の自動改札を蹴り飛ばし
故障させる。降り出した雨の中、必死に自動改札機の修理に精を出すかの子。
そんな彼女の優しさが、全ての機械を味方につける。自動販売機から転がり出た
機械の耳は彼女にくっつき、遍く機械たちの声をかの子の聞かせるのであった。
一夏の喧燥が嫋嫋たる弦の調べに乗って異界の夕べに溶ける時、小さな奇跡は
起きる。デンキサンショウウオは盆踊りの夢をみるか?
ああ、もう、何がなんだか判りまへん。
頭の固い「おじさん少女作家」には死んでも書けない世界が確かにここにはある。
あくまでも奇矯、どこまでも変、でもこんな少女の、こんな出会いがあっていい、
そんな気にさせる「和み系ファンタジー」。騙されたと思って一度お試しあれ。

◆昨日の感想文で凡ミス。桃源社の書き下ろしシリーズ収録の彬光作品は「断層」でした。
すんまへん。その項、全面削除。


2000年7月15日(土)

◆始発で帰宅。帰宅すると交換本が1冊とお譲り頂いた本が2冊着いている。
ありがとうございますありがとうございます。それを確認しつつ、壊れっぱなしの
1日。辛い。
「予告電話の女」中薗栄助(芸文社アクションシリーズ4)膳所さんから交換
「鉄コミュニケーション1」秋山瑞人(電撃文庫)眞明さんより
「鉄コミュニケーション2」秋山瑞人(電撃文庫)眞明さんより
芸文社アクションシリーズはこれでM1。とはいえ、残る1冊が河野典生なので
非常に辛い。「鉄コミュニケーション」は、背表紙が黄色なのでビックリ。てっきり
水色だと思っておりました。見つからない訳だよな。
◆やっと夕方に復活して、少しだけ渉猟のつもりが気がつくと結構買い込んで
しまう。
「地獄の映画館」小林信彦(集英社:帯)500円
「地獄のコラム」小林信彦(集英社)300円
「生きている義親」南條範夫(講談社:函)100円
d「おれは暗黒小説だ」ADC(ポケミス:帯)100円
「ウルトラセブン怪獣事典」酒井・安井編(宇宙船文庫)260円
「十二月王子1」図子慧(角川スニーカー文庫)200円
「機械の耳」小松由加子(コバルト文庫)210円
「図書館戦隊ビブリオン2」小松由加子(コバルト文庫)250円
「ホイールワールド」Hハリスン(創元推理文庫)100円
「自殺クラブ」スティーブンソン(福武文庫)100円
「夜の鳥」Tハウゲン(福武文庫)100円
d「強殖装甲ガイバー(1)リスカーの挑戦」早見裕司(アニメージュ文庫)100円
d「水路の夢[ウォーター・ウェイ]」早見裕司(アニメージュ文庫)200円
「居候は星の王子様」飯野文彦(ソノラマ文庫)250円
d「恋のメッセンジャー」山田正紀(集英社:帯)100円
d「ヨハネの剣」山田正紀(集英社:帯)100円
「もっとスペースを!」Jハーシー(早川書房)100円
山田正紀は文庫で持っているが、元本の帯付きが100円だとつい買ってしまう。
一度は棚に戻したのだが……。こうなれば、オール元本で集めてみるかなあ。
「もっとスペースを!」が本日としては<当り>の部類か。一応SFらしい。
◆「悪魔の火祭」高木彬光(角川文庫)読了
大前田英策シリーズの長篇代表作。作者が食うために書いたと称するだけあって、
通俗の王道を突っ走る大前田ものの中にあっては、比較的「探偵小説」たらんと
した作品であろう。刺青 だの、骨相学だの作者の趣味がてんこ盛りなうえ、故郷
青森のネブタ祭がテーマ
となっており、彬光ファンとしても避けて通るわけには
いかない作品である。
こんな話。
侠客大前田英五郎の5代目で、滅法腕の立つ私立探偵大前田英策の事務所に、東北
から若き美女が奇妙な依頼にやってくる。彼女増長栄子の姉三津子をその夫である
神田徳夫と離婚させて欲しいという。既に別居生活を送っている二人ではあったが、
なんと三津子は夫に強要されて背中一面にネブタ祭の踊り手である化人の刺青を
入れさせられたというのだ。一旦は、男女の綾に小娘が口を出すなと釘をさした英策
であったが、妻に彫り物をさせるという男の奇矯さに興味を覚え、素行調査として、
依頼を引き受ける。手始めに、三津子に針を入れた女彫物師駒子の元を訪れ、事の
次第に探りを入れる英策。一方、英策の妻でかつては女だてらに名探偵として鳴らした
竜子は徳夫に接触する。が、依頼人の話とは微妙に異なる刺青の顛末に困惑する二人。
彼等の捜査はやがて、三津子の愛人村松に至るのであるが、その報告に栄子の元を
訪れた二人の目前で、彼女は刺殺されてしまう。被害者が最後の力を振り絞って
抱きしめた「花笠」は果して何を意味するのか?時をおかず失踪する神田。「必ず
失敗する投資」を重ねていた神田の真意はどこにあったのか?三津子を追って彼女の
故郷青森に飛んだ二人。ネブタの街に役者は揃い、そして新たなる殺人が…。
初期彬光と中期彬光を繋ぐ通俗推理の快作。関係者の証言毎に印象の変る三津子と
いう女性の存在が光る。また女彫物師駒子の生い立ちはそれだけで小説が一編かける
充実ぶりで、この世界に嵌まった作者の面目躍如たるものがある。推理小説として
見た場合、ダイイングメッセージには、無理があり、とても死を目前にした被害者が
瞬時で考え付ける代物ではない。が、犯罪の動機とそこに仕掛けられた「トリック」
にはみるべきものがある。ある意味で「百谷的であり、神津的」である。青森に対する
作者のアンビバレンツな思いもそこかしこに顔を出し、読物としては上々。大前田
英策は、その任侠的設定よりも、恐妻家としての印象が先に立つが、そこが可愛いと
いえば可愛い。神津ものの後期愚作に比べれば遥かに楽しく読める。


2000年7月14日(金)

◆FFを買うか、旧友と飯を食うか、無駄遣いの選択。なぜ、旧友と飯を食うと
金がかかるかというと、慢性金欠症な奴なので、すべてこちらもちになるから
である。結局、したたか食って飲んで歌う。壊れる。壊れる前に、西荻窪で拾った
本は以下の通り。
d「木曜日ラビは外出した」Hケメルマン(ポケミス)250円
「機械たちの時間」神林長平(徳間NV・MIO:帯)100円
「赤毛のアンの探偵たち」Eウィルスン(偕成社ミステリー文庫)200円
「死の命題」門前典之(新風舎)850円
「名探偵より愛をこめて」(サスペリア6/25増刊)150円
MIOが本当に久しぶりに一歩前進。帯付きが嬉しい。偕成社ミステリー文庫は
奥が深い。一体、どんなシリーズが何冊出ていたのだろうか?サスペリア増刊は
二階堂黎人も2編入った御得用。しかしなんといっても嬉しいのは「死の命題」。
自費出版の鮎哲賞の候補作。なんと、2刷である。一体何部刷ったのであろうか。
おそらく取り寄せも可能だとは思いながら、そこまでして買う本か?という抵抗
もあって、今日に至った。これを古本で拾うところが「古本者」の矜持である。
だからなんだというわけではないのだが。
◆「罪の女の涙は青」日下圭介(講談社NV)読了
日下圭介は日本の推理小説を読み始めた頃にデビューした人なので個人的に「永遠
の新人」のような刷り込みがなされている。第1作から数作は比較的真面目にそれ
こそ新刊書店で買って読んだものである。昨年、近年のシリーズ探偵ものを読んで
その別人かと見まがうほどの通俗ぶりに随分と驚かされた。さてこの作品は講談社
ノベルズの乱歩賞作家スペシャルの1作。乱歩賞30回を記念して受賞作家に書き
下ろし競作をさせるというこの企画は、作家側からみても力の入るものらしく、その
出来はともかくとしてなかなかの力作が多い。事実、この作品でも、作者は自身の
原点に返ってとんでもない仕掛に挑戦した。それがどの程度のとんでもぶりかと
いえばCディクスンの「五つの箱の死」レベルの「トンデモ」である。意気やよし、
着地失敗。こんな話。
脱サラした経済評論家兼コーヒー店経営者、それが私、木次喬である。娘の絹子は
3年前に癌で亡くし、病身の妻と暮す私にとって、店を任せている北原と娘のように
愛情を注いできた七里梢の結婚が何よりの楽しみであった。その梢が、自殺を遂げた。
南紀白浜の三段壁から墜死した男と、房総の別荘で絞殺された女性翻訳家、相次いで
起きた連続殺人の犯人は自分であるという遺書を残して。そして遺書には、今ひとつ
6年前に奥飛騨の山荘で起きた火災の犯人も自分であるとの告白がしたためられて
いた。一人の女性を焼死させ、梢の妹梓と友人沙枝の未来を奪った火災。その火災
こそが全ての事件の遠因であった。だが、北原は梢の「告白」を信じなかった。
私と北原は、連続殺人の真相を探るために活動を開始する。その探索行の果てに、
あらゆる形の「女の罪」が待つ事も知らず。
大胆なアリバイトリック、多層的なホワイダニット、全編に影を投げかける「過去の
事件」といった本格推理のガジェットを散りばめながら、女たちの罪を淡々と描いた
作者の真骨頂ともいえる作品。だが、この長さにしては、要素を詰め込み過ぎており、
いかにも整理が悪い。少なくとも、二つ目の殺人は余分である。非常に意欲的に「推理
小説」に取り組んだ姿勢は評価するものの、一編の小説としての熟成度が低いのである。
特に、終章の因果の連鎖には、唖然とする。もう一ねかせして、事件の数を刈り込み、
プロットを膨らませれば傑作に化けたであろう「堂々たる失敗作」。惜しい。


2000年7月13日(木)

◆なんやねん、「作家と同じレベル」って?>春都さん。
要は、評論や感想もひとつの創作物なのだから、ネットに感想を書くときにも
作家をあからさまに見下した書き方(例「清涼院は清涼院なるがゆえに駄目なのだ。
だって、清涼院だから(笑)」)や、萌え萌えで全肯定みたいな書き方(例「きゃあ、
JDCよー(はあと)。JDCをもっと立たせてくれなきゃ、イヤ(らぶ)。でも
とにかく書いてくれたので許しちゃう(きゃあきゃあ)」)は好きじゃないのよん、
って事ですかね?持って回った言い方すると、みのるさんが壊れちゃうじゃないの。
◆睡眠時間が不規則なため、昼のとんでもない時間に強烈な睡魔が襲ってくる。
やはりレス付けは死なない程度にしとかないとなあ。(<何があったんだ!)
◆神保町駆け足チェック。1冊だけ当たり。
「紀淡海峡の謎:小説・南海丸事件」高橋泰邦(荒地出版社)1500円
以前、黒白さんのところで話題になった本。というか、「へー、高橋泰邦にそんな
長篇があったんだあ」と驚いた作品。高橋泰邦は結構、所持しているつもりだった
ので、自分が聞いた事もない本があるというのがショックだった。まあ、こういう
形で注意喚起されると、渉猟時に目に引っ掛かってくれるわけだが。昭和33年に
168名の死亡者を出した南海丸遭難事件の事故原因に迫る小説だそうな。
こういう収獲は嬉しい。
◆ネット上で調べものをしていて、つい「雪印」関連の特集に嵌まる。なるほど
こういう事だったのね。わずか2週間で業界のガリヴァー企業が存亡の危機にまで
追い込まれていく過程のルポは、凡百の小説の及ぶところではない。牛乳は全く
飲まないが、6Pチーズは好きなので、個人的には頑張って頂きたいのだが。
まあ、古牛乳のリサイクルは、ご勘弁だよなあ。「1本でも1パックでも結構です。
不思議の魔法で、ほらこの通り、牛乳が生まれ変わります」。おげげ。

◆「ザ・スクープ」クリスティ、セイヤーズ他(中央公論社)読了
英国黄金期のリレー推理小説。最近は、新本格系の作家を中心に似たようなお遊びが
行われているが、大いに結構。こういう「サロン」的お遊びは大好きである。日本では
戦前、戦後にも似たような試みはあって、マニア泣かせの稀覯本になっているのだが、
逆に英米ではとんと聞かなくなってしまった。「古き良き時代の遺物」という事なの
だろうか?幸い、その「時代の遺物」は早川ミステリ文庫から赤・黄・緑のシグナル
カラーで、出版されていたので容易に接する事ができたが(今は緑と黄がかなりの
入手困難)、この「スクープ」には結構てこずらされた。知らぬ間に出版されて、
知らぬ間に絶版になってしまったミステリの代表格である。クリスティーの書いた
推理小説としては、今の日本で最も入手困難な翻訳作品といいきってよかろう。
表題作の「スクープ」は、セイヤーズ、クリスティ、ベントリー、バークリー、
クロフツといった超豪華ラインナップ。一人だけクレメンス・デインなる作家が
混じっているが寡聞にして知らない。短めの「屏風のかげに」は、ウォルポール、
クリスティー、セイヤーズ、バークリー、ベントリー、ノックスとこちらも著名作家
のオンパレード。まあ、ウォルポールのみ短編「銀仮面」でしか知られていない以外
は、まさに綺羅星である。さあ、30年後に「堕天使殺人事件」作家のうち何人が
忘れられた作家になるであろうか?
「スクープ」は、事件記者を探偵役に据えたアップテンポのスリラー要素も入った
フーダニット。ある囲われ女の殺害を巡って、その凶器を発見したと第一報を社に
入れてきた記者が、ロンドンにつくなり殺害されてしまうという衝撃的な出だしが
光る。被害者の意趣返しに立ち上がる同僚たち。警察は二股を掛けていた囲われ女
の新しい愛人に捜査の焦点を絞るが、同僚記者は、失踪したパトロンの線も追う。
彼の前に現われた囲われ女の兄と称する男の正体とは?事件が煮詰まり掛けた時、
最初に被害者の電話をとった女性は、ある事に気がつく。二転三転するプロットが
心地よい作品。指揮者を務めるセイヤーズが「らしさ」を殺しているのに対し、
他の作家たちは我流で突っ走っているのが可笑しい。クリスティはともかくとして、
バークリーの「引き」、クロフツのアリバイ崩しなど見事なまでの存在感である。
個人的にはクロフツのパートが際立って異質なのにも関わらず、全体のバランス
が崩れていない事に驚く。ふと、クロフツって、メンバー全員から相当に敬愛の念を
もって遇されていたのでは、という感慨を抱いてしまった。「愛すべきおっちゃん」
って感じね。
「屏風のかげに」は、危機に瀕した一家で起きた「食客」の殺害事件を巡る地味な
フーダニット。被害者である「食客」が一家を乗っ取っていく様が、実に「銀仮面」
である。出だしは、一家の宝である娘と婚約している医師の視点で描かれ、一家団欒
の居間の屏風の蔭から死体が発見されるという発端はなかなかショッキングである。
警察が登場してからは、地道な訊問が続くので少々退屈。だが、終章を担当した
ノックスが、さすがに一筋縄ではいかない「探偵」と「解決」を持ち出し、なんとも
奇妙な味のミステリになってしまった。最初の2章が全く打ち合わせなしで書かれた
とかで、なるほどいかにも「リレー小説」である。
総論:あまり期待せずに読み始めたが、一応の水準はクリアしており、楽しく
読めた。特に、「スクープ」でのクロフツのパートは、独立したクロフツの短編
としても読めるので、クロフツファンはなんとしても押えておきたい本である。


2000年7月12日(水)

◆微温湯のような日常の定点観測を打破すべく、大回りの寄り道。五反田のブック
オフを覗きにいく。うわあ、広いぞ。うわあ、同じ本が並んでいるぞお。うわあ、
なんにもないぞお。とほほな釣果は以下の通り。
d「魔術師が多すぎる」Rギャレット(早川SF文庫)100円
d「準急ながら」鮎川哲也(角川文庫)150円
「SFXビデオ大全集」小山内新編(コバルト文庫)100円
「ダラス」Lレインツリー(サラ・ブックス)100円
「白い乱気流」花屋治(日本経済新聞社:帯)100円
はあ、コメントする気にもなれんわい。名古屋とはエライ違いやねん。
◆帰宅すると、いろんな方から本の代金や交換本が届いている。
「たんぽぽ旦那」岡崎弘明(新潮社)MZT氏と交換
「恐怖と怪奇1<シデムシの歌>」ダーレス他(岩崎書店)同上
ショックだったのは、「郵便事故」の一件。なんと、速達が一ヶ月遅れで届いて
いるではないかああ!?なんやねん、これ!?うーむ、当事者のmutさんには
要らぬ手間や心配をかけてしまった。こらああ、郵政省!日頃儲けさせてやってる
んだから、ちゃんとしてくれよう!!
◆「あの本」をヤフー・オークションに出してみる。さあ、どうなりますことやら。
◆溜りに溜まったレスつけを始めるが、全然終らんぞおお。寝る。
◆「猫の地球儀 その2<幽の章>」秋山瑞人(電撃文庫)読了
さて、本年度ベストSFとの呼び声も高い活劇<猫>SFの後編。前編の興奮が
冷めないうちに読むのがお作法と、とりかかった。前編のラストで、最強の白猫
「焔」に対し作法に則った挑戦状を叩き付けた37番目のスカイウォーカーである
黒猫「幽」、その天才の幼年期のエピソードから後編はスタートする。伝説的な
女盗賊であった「ビリビリ尻尾のキジトラ円」率いる菊水一家に拾われた不愛想な
子猫は、どこで身につけたのか、奇跡的なロボット操りの技術を持っていた。
なぜか「円」のお気に入りとなったその黒猫は「幽」と呼ばれるようになる。そして
彼は、あらゆる知識や技法を吸収しては、その「教師」たちを凌駕していくのであった。
語られざる悲劇の後、生っ粋の「まつろわぬ者」として再び一匹(ひとり)になるまで。
……時は流れ、<戦闘>という名の友情の幕は開く。戦いの鐘に向かって準備を整える
二匹(ふたり)、その間を好意と親愛を惜しげもなく振りまきながら「楽」は踊り、
震電も踊る。自由落下の中で強き者どもの命は紅蓮に縺れ、時間は加速する。それは、
不器用な格好良さの墓標。許せないのは誰?確かめたいのは何?夢を持つ事が罪と
いいきる事は、別の罪。天空の盆に向かって魂は昇る、どこまでも。涙を失った
猫たちの目に映るその色は、「青」。
はしたないまでに格好いいキャラクターが思わせぶりの中で漏らす「真実」が痛い。
メカ戦の妙味を知り尽くした作者によるナノ・セコンド単位の戦闘描写が凄い。
夢と夢の遭遇と意地の張り合いはどこまでも心地よく、命の軽さが滂沱の涙を誘う。
巷の感想では「詰め込み過ぎ」との風評もあるが、私にとってはこれで必要充分で
ある。嵌まりました。やはり面白い。惜しげもなくアイデアをぶち込んだ究極の
エンタテイメント。天翔ける猫たちの「神話」に心からの敬礼を送る。もう一度言おう。
「こんな小説が読みたかった」!!絶賛。


2000年7月11日(火)

◆朝歩けず、夜歩く。銀座、京橋定点観測。収獲0。あらら。
◆午後から5時間ぶっつづけでPC作業。家に帰ると目が拒否反応。発作的に
一昨日の日曜日にやろうと思っていた本棚の入れ替え作業に着手。2段で断念
する。居間の壁面にVHSテープを積み上げ、本棚の前に積みあがっていた本を
並べてみる。1段目の後ろに、河出文庫のアンソロジーを入れ、余ったスペース
は春陽文庫の黒岩・邦光・島田で調整。1段目の前には、三橋・高原・幾瀬など
の春陽文庫、桃源社の書き下ろしシリーズ、東都ミステリほか雑多な新書サイズ
を並べる。2段目の後ろには、MIO他なげやりなノベルズを突っ込み、前には
大下宇陀児を固め、北町一郎、ベン・ヘクトなどここ1年で入手した高めのゾーン
をずらり。おお、なかなかくすんだ見てくれがよろしいですのう。
◆ところで壁面展開しているVHS。何が入っているのかと任意の一本を取り出す。
例えばこんな感じ。
「名探偵ホームズ<ブンブンはえはえメカ作戦>」
「スタートレック2<カーンの逆襲>」
「ガラット<まけるなマイケル!ガラットの危機>」
「Zガンダム<月の裏側>」
「ルパン3世<とっつあん大いに怒る>」
「必殺仕置人<仏の首にナワかけろ>」
「ルパン3世<おれを愛したレティシア>」
一生見んわ、こりゃあ。
◆本当に久しぶり(1年半ぶり)にでた創元推理文庫解説目録を眺める。それまで
コンスタントに半年刻みで出ていただけに、このブランクは謎である。見る人が
見れば分かるのかもしれないが、あまり代わり映えしないラインナップ。フレド
リック・ブラウンに軒並み品切れマークがついているのが痛い。いずれハドリー・
チェイス並みになってしまうのだろうか?SFに目をやるとバローズの全滅状態は
ともかく、レンズマンにまで品薄マークがあって厭になる。こちらではブラウンは
健闘。いずれ完全に「SF作家」だと思われるようになるんだろうな。
それにしても、一体いつから私は「何が出ているか」ではなく「何が切れているか」
という視点で目録を読む人間になってしまったのであろうか。ああ。
◆「ダイノスター破壊計画」ペドラー&ディヴィス(角川書店)読了
角川海外ベストセラーシリーズのソフトカバー探究が再び掲示板で盛り上がって
いるのに刺激を受けて、ハードカバーの方から1冊引っこ抜いて通勤の友に。
ペドラー&ディヴィスの3冊目。切れ味の悪いマイケル・クライトンといった
印象のコンビ作家だが、この本は帯の煽りで騙される。曰く「宇宙の密室連続
殺人!」。どうも、この殺し文句に弱い。但し、ここでいう「密室殺人」は、
いわゆるカー流の「不可能犯罪」とは程遠い「密室」。ダイノスターというスペース・
ラブを称して「密室」と呼んでいるに過ぎない。そりゃあまあ、「密室」には
違いないが、「密室」の中に関係者全員がいるというのは、通常「閉鎖空間」とか
「嵐の山荘」とか言うのがミステリ者のお作法である。ぷんすか。こんな話。
原子力発電が過去のものとなった1980年代、人類の希望を載せて宇宙に建設
された核融合炉「ダイノスター」。しかし、環境NPOの試算でその計画が生物
にとって致命的なレベルでオゾン層を破壊してしまう事が判明し、計画はあと数時間
という段階で中止が決定、「ダイノスター」には閉鎖命令が下されてしまう。
「人類の救世主」から一転、巨大な無駄遣いの象徴となったその「ダイノスター」
の中で、惨事が起きた。3名の科学者が、通気孔の故障で、居ながらにして真空に
晒されてしまったのだ!!合衆国エネルギー庁長官コルダーは、ダイノスターに
乗り組む残り8名のクルーの救出に歴戦の宇宙パイロット:ヘイワード以下2名を
シャトルで送り込む。だが、プログラムの異変による放射能漏れ、船外活動中の
宇宙服の破損などで、次々と屠られる救出隊メンバー。計画の中止によって意気消沈
する科学者クルーに渦巻く反感と疑心暗鬼の中で孤立するヘイワード。コルダーは、
姿なき謀殺者の正体を暴くべく、心理学者たちを招集し乗組員たちのプロファイリング
に着手する。宇宙空間と地上での必死の捜索が続く中、殺人鬼の魔手は、次々と巧妙な
手段で乗組員たちの生命を奪っていく。果して、真犯人の狙いはどこにあるのか?
今、虚空の密室で人類滅亡へのカウントダウンが開始される。
ハリウッド映画のお手軽さを身に纏ったハイテク・スリラー。あくまでも閉鎖空間
のみで物語が進行するのかと思いきや、シリアル・キラーものの定法に乗っ取った
プロファイリング調査が地上で同時並行するのには驚いた。1975年の作品に
しては、ここ10年の流行のツボを押えているではないか。最後に真犯人を炙り
出す手法も、なかなかドラマティックではある。当時の先端技術を踏まえたであろう
宇宙船内のメカ描写もしっかりしており臨場感もまずまず。更に核融合とオゾン層
破壊というサイエンス・ジャーナリズムの定番も押えており、舞台装置としては
ほぼ満点を与えられる。が、やはりこれは飽くまでもサスペンスであり、不可能
トリックの欠片もなく論理的に犯人を特定する喜びもない。全くない。ミステリ者
にとっては帯の煽りを、仲間うちで大笑いして終っておけばよい話である。
異常な殺人現場&方法趣味の人はどうぞ。