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2000年6月20日(火)

◆職場の同僚と鯨飲馬食激酔頓死。もう、お酒はいいです。勿論古本購入0冊。
◆ワセミスOBのサイトが全面リニューアル。なんとあの!森英俊氏が管理人。
実作、翻訳、編集などあらゆる日本のミステリシーンに君臨するワセミスOBの
サイトというだけでシード入り確実なところへ、森、Masamiの強力2トップ
だもんなあ。零細書店の真ん中に聳え立つスーパーブックオフ!ちゅうか、こら
かないませんわ。ここ1日の間の著名サイトへの Public Relationぶりだけでも
瞠目に値する。恐るべきフットワーク!なぜか、拙サイトもリンクしてもらって
おり恐縮の極み。とりあえず、日記からバックリンクしておきますね。ここ。

◆「猫の地球儀 焔の章」秋山瑞人(電撃文庫)読了
凄い作品があったものだ。涙が出るほど愛らしく、身震いするほど格好よく、
適度にミステリアスでとことんエンタテイメント。こんな作品が読みたかった。
子供だましなどではない、こんな本を子供だけのものにして置く事が即ち罪で
ある。SF系の本読みサイトで評判を呼んでいるので、騙されたと思って手に
とってみたところ、これが大当たり。こんな話。
人類が増え過ぎた人口を宇宙に移民させるようになって既に半世紀が過ぎていた。
過ぎたところで人類は滅び、地球を回る巨大な人口都市には猫たちの社会が築かれ
ていた。ロボットをパートナーとし、「天使」たちの遺産を活用しながら独自の
文化を持つに至った彼等の中に、スカイウォーカーと呼ばれる「種」がいた。
壁の向こうにある「地球儀」に降り立つ事を信じるスカイウォーカー。しかし、
猫社会を統治する大集会は、スカイウォーカー達の「信念」を許す訳にはいかな
かった。これは37番目の、そして最後のスカイウォーカー<幽>の物語。
36番目の<朧>の残した智を託された少女型アンドロイド・クリスと<幽>
の出会い。一方、スパイラル・ダイブというフリー・フォール状態でのロボット
バトルに挑む一匹の若き挑戦者がいた。名を<焔>。伝説のチャンピオン<斑>に
挑戦状を叩き付けた彼に勝算ありや?賭けすら成立しない絶対不利の下馬評の
中、<焔>の勝利を疑わない放浪者<楽>。そして、儀式の鐘は鳴る…。
と、ここまでが37ぺーじ。みたかこの密度!といって、読みにくい訳ではない。
とびきりの設定が時にユーモラスで、時にはしたないまでに格好良いストーリー
に当たり前のように織り込まれているのだ。綺羅星の如きアイデアを惜しげも
なくつぎ込んだ「本物」の手応えがここにはある。どうかこの本を手に取って
欲しい。もう一度言う。こんな話が読みたかった。早く次、読ーもおっと。


2000年6月19日(月)

◆おおお、大森望氏の日記で大きく取り上げられているぞ。ちょっと嬉しいなあ。
でも、邪悪なキャラっぽいのがなんとも。ママさんのレポートでも邪悪だしなあ。
はっ、もしかして本性が邪悪なのかも。とまれ、御両所のお蔭様で、この日は
アクセス・バブル。1日300アクセスを越えたのは、開店直後以来である。
案の定、カウンターは吹っ飛ぶが、今回は数字を控えて直ぐだったので速攻で
修正できた。
◆そうですか、やはり今回の巻頭ジョークは私に捧げて頂いていたのですかあ。
どーもどーもです。返歌「なまもの!なまごむ、なまなまこ」
◆平日だが、ちょっと足を伸ばして古本狩り。
「E=mc2」Pブール(早川SFシリーズ;函)1500円
「アーサー王宮のヤンキー」Mトゥエイン(早川SFシリーズ)300円
「神々の糧」HGウエルズ(早川SFシリーズ)300円
「長い明日」Lブラッケット(早川SFシリーズ)300円
「時間と空間の冒険No.2」ヒーリー&マッコーニー(早川SFシリーズ)300円
「星屑の彼方へ」Jブリッシュ(早川SFシリーズ)300円
「盗まれた街」Jフィニイ(早川SFシリーズ)300円
「超惑星への使命」Hクレメント(早川SFシリーズ)300円
「世界の中心で愛を叫んだけもの」Hエリスン(早川SFシリーズ:帯)300円
「幻視界第四界−宇宙の扉」川又千秋(徳間NV)300円
d「淫夢魔」友成純一(実業之日本社JOYNV)300円
「リトル・ドリッド1」Cディケンズ(ちくま文庫)300円
「猫の地球儀 焔の章」秋山瑞人(電撃文庫)250円
d「八号古墳に消えて」黒川博行(文藝春秋)600円
早川SFシリーズが300円と函付き1500円、いずれも極美が固まってあった
ので、何冊か買い込む。300円なら集めてもいいんだけどなあ。「八号古墳」、
銀河通信さんの宴会で、これを探してるって言ってた人って誰だっけ?ちょいと
高めだけど買っといたよ。心当たりの人は連絡してくだされ。

◆「美濃牛」殊能将之(講談社NV)読了
新本格が続く。クセ球の「ハサミ男」の次には直球。ど真ん中へ豪速球で決めた話題
の作家の第2作。あまりの変身ぶりに驚く。別のペンネームを使われれば、それと
わからなかったであろう。そもそも、一人の作家なのだろうか?という疑問すら
湧いてくる。さて本作は、題名に代表されるように牛と神話と横溝正史にトコトン
こだわった本格推理小説。、巻末の参考文献だけで、ネタの仕込み具合が判ろう
というものである。こんな話。
一念発起、故郷の岐阜の村で畜産業を営む「旧家」を見舞う連続殺人事件。殺人は、
いつの頃からかその村に伝わる「歌」に見立てられ、村の地下に広がる巨大な洞窟の
迷宮に魔は吠える。奇跡の泉に招かれた人々が地底に見たものとは?「犬神家の一族」
の如き旧家の確執、「八つ墓村」と相似形の大迷宮、「悪魔の手毬唄」の見立て、
「獄門島」の被害者のように手紙で誘い出される恋人たち、一族の長老は俳句に淫し、
どこか頼りない探偵役はただ事件を傍観する。果して世紀末の山村に正史は復活し
うるのであろうか?
巷での評価は割れているが、私は楽しめた。横溝正史を上面だけ模したわけではなく
作品の構造に踏み込んで研究し尽くした感がある。それは、一重に、この作品の
最後に明かされる作者の「逆転の構図」集にかかっている。なるほど、この人は
これをやりたかったのか、と思わず膝を打った。納得も得心もいかされる快感が良い。
特に美少女の存在が巧い。正史が恐怖を語りのスパイスに用いたのに対し、この
作者は、ギャグとユーモアを散りばめ、読者をゆるゆると騙りの迷宮に誘う。徐々に
明かされていく脇筋の謎の解法も「今」を大事にしたものであり、納得性が高い。
一つ注文があるとすれば、「この長さが果たして必要であったのか?」という点。
霞流一氏なれば、同じプロットで分量1/3の快作をものにしたに違いあるまい。それとも
作者は「長さも『正史』のうち」とでもいうのだろうか?


2000年6月17日(土)・18日(日)

◆「銀河通信」さんの10万アクセス突破オフの日。昼過ぎまで日記とレスに
追われ、ひょっとしたら3次会で何人がいらしゃるかと思い、部屋を片づけて
いるうちにタイムリミット。集合場所の船橋に向かう。5分遅刻。一旦、欠席
通知があったものの復活参加された松本真人氏から「Gストリングのハニー」の
カバーを頂戴する。うほほーーい。ありがとうございますありがとうございます。
これで、私としてはポケミス最後の憑き物が落ちた。まだカバーのないものも
あるのだが、他は余り未練はないのだ。会場となった居酒屋は、以前ディスカウント
ストアだった場所に立っていた。世の栄枯盛衰を感じる。以下、2次会のカラオケ、
3次会の拙宅来襲と翌18日の朝まで続いた宴会の模様は、「脅威の再現力を誇る」
安田ママさんのレポートに委ねよう。ここ。こりゃあ、楽でええですのう。
◆とはいえ一応、本の出入りだけはメモしておく。1次会では、安田ママさんに
「お祝い代わり」に佐々木丸美本6冊を御進呈。ふう、身軽になったわい。と、
代わりに土田さんから、以下の本を頂戴する。
「不潔革命」村田基(シンコーミュージック)
「ビーストン傑作集」中島河太郎編(創土社:裸本)
ううむ、「不潔革命」ってこんな装丁だったのね。これは初見。ありがとうござい
ますありがとうございます。米田淳一さんに「リサイクルビン」にサインを頂く。
なかなか豪快なサインで感心する。
◆3次会では、例によってダブり本を大拡販。50冊ぐらいはお買い上げ頂いた
ものの、焼け石に水である。ちっとも山が減った感じがせんぞ。
◆4時頃に私は沈没するが、他の人々は元気であった。強いなあ、みんな。復活後
某所へ定点観測。
d「すばらしきレムの世界1」Sレム(講談社文庫)200円
d「殺人をしてみますか」Hオルズカー(早川ミステリ文庫)100円
「バトルロイヤル」Sフラー(筑摩書房:帯)100円
d「いさましいちびのトースター」TMディッシュ(早川書房)100円
まあ、レムが嬉しいかな。本を読んだり、うたた寝したりでオフ会の余韻を引きずり
つつ1日が終る。ああ、来週の本番の自宅オフが思いやられるわい。なにせ日曜日
にはEQFCの例会だもんね。大丈夫か、俺?

◆「急がないと夏が…」野原野枝美(MOE文庫)読了
よしだまさし氏、早見網元などジュニア読みの面々が異口同音に絶賛する野原本。
掃除と宴会で読書時間が取れない事がわかっていたので、一気読みの可能なこの
作品にトライ。今をときめく女流乱歩賞作家「桐島夏生」のジュニア時代の作品
は、それなりにものめずらしさだけで集めてはいるものの、以前1冊だけ試しに
読んでみた「媚薬」の出来が宜しくなかったために、本棚のこやし状態であった。
その際には、大人向けの作品すら1作も読んでいない作家を、珍しいというだけで、
ジュニア作品まで追っかけるというのは「邪道」の極みと反省したのだが、この
作品は、よかった。一気に名誉挽回である。やはり識者のいう事には素直に耳を
傾けるべきである、と別の意味で反省した次第。こんな話。
女子高生の知子がある夏の日々に経験した出会いと別れとそして出会いの物語。
憧れの先輩が「早朝の公園プールでこっそり泳ぐ」事を知った彼女は、そこで
先輩に似た少し時代錯誤な男の子、義男と出会う。「お前もマエハタみたいだぜ」
って、マエハタって誰?それに、夜明けのプールを巡視するMPって?徐々に義男
に惹かれていく知子。しかし、夏の終りは同時に、義男との逢瀬の終りでもあった。
急がないと夏が終ってしまう。異母姉妹との出会いや、母親の恋人との遭遇とか、
多感な御年頃の少女は少女なりに悩んだりもするのだが、それはそれ、何より不思議
な少年との出会いが彼女を少し大人にするのであった。
「おじさん殺し」のタイムスリップもの。それぞれの時代にはそれぞれの青春が
あるのだ。「男が壮年期にさしかかった時、初恋の相手と出会う、それも当時の
眩しいばかりの魅力そのままに」というシチュエーションは、色々な小説に用い
られてきたが、この作品は、それを少女の側から描くことで新味を出した。展開は
お約束なのだが、これはなかなかよろしい。男性諸氏からの好評の理由がよく理解
できた。これは少女のロマンスであるが、一方「男のロマーーーーーーーン」でも
あるのだ。桐野夏生、凡手ではない。お勧め。

◆「Q.E.D 六歌仙の暗号」高田崇史(講談社NV)読了
第9回メフィスト賞作家のシリーズ第2作。読み終わってから「第2作」であった
事に気がつき愕然。幾ら新本格に無関心でもこれはいけない。幸い、前作のネタバレ
があるような作りの本ではなかったので救われたが、日頃「シリーズものは最初
から読むのが基本」と主張している者としては、面目次第もない。「六枚のとんかつ」
に対する巷の圧倒的な不評から、メフィスト賞を避けてきた私ではあるが、昨年の
「ハサミ男」といい、この作者といいまんざら捨てたものでもないなと再認識した
次第。1年前の作品なので、梗概は述べる必要もなかろうが、七福神と六歌仙の
謎を縦軸に、現代日本に甦った「七福神の呪」のよって引き起こされる連続殺人事件
を横軸に精巧に編まれた「智の曼荼羅」小説。探偵を務めるのは元オカルト研究会
会長にして漢方薬品会社に身を置く博覧強記の青年:通称「タタル」こと桑原崇。
明邦大学構内で起こった密室殺人とその関係者の死。密室とダイイング・メッセージ
という二大コードを捨て石に使った、壮大ないにしえの呪法の憑き物落しが始まる。
探偵チームの編成といい、謎の解法といい、京極作品まんまであるが、薬学的な考証と
民俗学的な考証が見事にマッチングしており、好感を持って読める。特に六歌仙と
七福神に関する考察は、かの「猿丸幻視行」に比肩するレベルと断言できる。また、
時代を敢えて現代にとった心意気も良し。それだけに「憑き物」が落ちた時のショック
も大きい。理科系・文科系という大学教育の二元論を繋ぐ職業として「漢方薬品勤務」
を持ってきたセンスも吉、ってこの作者の職業そのものなのかな?とまれ、また見過ごせ
ない作家が登場していた事を言祝ぎ、遅れ馳せながら拍手を送りたい。傑作といって
よかろう。さあ、第一作も読まねば。


2000年6月16日(金)

◆「さあ、帰るか」とパソコンも落して、今日は二日ぶりに古本屋行くんだもんね、
神保町も覗いちゃうんだもんねと、帰り支度。が、一応上司に「何かありますか?」
と念を押したのが運の尽き。そこから1時間半の打ち合わせが始まる。オーマイ、ガーッ!
◆時間が時間なので西大島、南砂町定点観測に留める。なんもねえや。
d「ゴジラ」海原俊平(講談社X文庫:帯)67円
d「裏六甲異人館の惨劇」梶龍雄(講談社NV:帯)67円
「顔のない容疑者:第一容疑者2」LLブラント(早川ミステリ文庫)67円
とにかく古本屋を3軒覗けただけで満足する。
◆ホームページを開くにあたって、目標とした先発サイトについては、昨年の
12月21日の日記に書いた通りなのだが、実はミステリ以外の分野で、意識
したサイトが一つあった。学漫の後輩のページなのだが、いわゆる「雑文」系の
サイトである。彼は私なんかよりも遥かに歳下であるのに、10倍は学があり、筆も
立つ。阪神への愛は百倍深い。「阪神が負けたのは、自分の応援が足りなかったからだ」
というのが口癖であった。口癖になるほど阪神は弱かった。更にいえば、宍戸留美への
愛は一億倍深い。宍戸留美って誰やねん?と問われればワタクシ的には「『夢のクレヨン
王国』のゴマータ」である。知りませんかそうですか。私がこのサイトを立ち上げた時、
既に彼のサイトは2万アクセスあった。学漫系の後輩のサイトでは群を抜いたアクセス
数を誇っていた。追っかけても追っかけても届かなかった。その彼の背中がようやく
みえてきた。待たせたな、下条クン。ついにここまで来れたよ。
◆「わたしの記憶がアシカならば」って、かなわんなあ、もう、大矢さん。あうあう。
今日の日記はサイコーです。ううむ、わたしも墓碑銘用の一発ネタを考えてみよう。

「人間がおっぱい」と叫びつつ
「しりけつけつ」な文章を書き散らした
「猟奇の鉄人」主宰者
ここに眠る

眠れや。

◆「内なる殺人者」Jトンプソン(中公文庫)読了
「ポップ1280」における<足し算問題>がネット上で論議を巻き起こしていた
ジム・トンプソン。その代表作の一つを手にとってみた。刊行時、自分とは無縁の
作家と割り切って黙殺していたが、ネットに入って自分が小説読みと一目おいて
いる人たちが絶賛しているのを見ると心やすらかではいられなくなくなる。しかも
本屋の棚からは姿を消し始めたとなると、一気に「古本者」の血が疼こうという
ものである。品薄にならないと買う気が起こらない、という体質はどうにかなら
ないものだろうか?どうにもならないのである。それは、丁度この作品の主人公の
「凶暴性」と同じ根をもつ心の傷なのである。うひひひひ。こんな話。
西部の小さな田舎町で保安官補を務めるルー・フォード。銃や武器を携帯せず、
決して怒らず、町一番の美女である女教師エイミーをガール・フレンドにしている
気のいい男前。そんな「おれ」の一人語りでストーリーは進行する。おれには、
善良な兄を死に追いやった大立て者の建築業者コンウェイが許せなかった。ひょん
な事から町外れで「営業」を始めた娼婦ジョイスと関係したおれは、コンウェイを
手酷くいたぶる計画を思いつく。ジョイスにぞっこんのコンウェイの息子エルマー
をぶっ殺す。それも娼婦に殺された不甲斐ない男として。勿論、それには娼婦の方
にも死んでもらわなきゃいけない。俺にまとわりつく女には死んでもらわなければ
いけない……。計画は完璧。いや、完璧だった筈だ。なのに、けちをつける奴が一人、
また一人。困るんだよなあ、おれはイイ奴なんだから。お前さあ、死んでくれる?
連鎖する殺意、その根にある傷が徐々に明らかにされていく展開が見事。最初は
長閑な田舎町の保安官物語が、一気に狂気を抱いた殺戮者の独白へと変貌する瞬間、
読者は戦慄する。彼に感情移入する事を求められた我々は、その歪んだ論理に染まり、
いつしか、殺ってしまえよ、と彼を応援している自分に気がつき、更に戦慄する。
どこでその狂ったバスから下りるかで、この作品の見え方は異なる。眉をどこで
顰めるかで、自分の狂い方がわかる。もしも、最後まで爆笑しながら、この書を
読了した人間がいたら、悪い事はいいません。すぐお医者さんに行きなさい。


2000年6月15日(木)

◆掲示板で話題の日下さんの企画。扶桑社文庫の「秘宝館」のラインナップを見て
驚くのは、あのレベルの名作が入手困難になっていること。特に日本ものの文庫は、
何が生きていて、何が死んでいるのかを把握していないために、「復刊が、でてみて
わかる、絶版本」という状況なのである。掲示板では、ウケ狙いで復刊希望を書いて
みたが、ちょっと真面目に考えてみた。こんなんでどう?

甲賀三郎「犯罪発明者」古典バカミス
浜尾四郎「鉄鎖殺人事件」古典本格
陳舜臣「三色の家」乱歩賞作家の逆襲1
新章文子「朝はもう来ない」乱歩賞作家の逆襲2
山田正紀「火神を盗め」イッツ・エンタテイメント!
藤原審爾「新宿警察/マリファナ殺人事件」警察小説の定番
水谷準「瓢庵先生 対 人形佐七捕物帖」捕物帖の隠し玉
仁木悦子「消えたおじさん・水曜日のクルト」巨匠のジュビナイル1
鮎川哲也「時計塔」(少年もの集成)巨匠のジュビナイル2
横溝正史他「時局小説傑作選」異色アンソロジー

◆連日の飲み会。本日は送別会である。またしても古本屋に寄れずじまい。
昼休みに本屋で買った雑誌2冊
週刊朝日百科「世界の文学」48、49(朝日新聞社)各560円
こういう週刊百科って懐かしい。小学校の頃、毎週日曜日には「アニマル・ライフ」
という週刊百科誌を買いに父と一緒に書店に行ったものである。そこで買って
もらったポプラ社のルパンシリーズが、私のミステリ原体験なのである。
◆帰宅すると本の雑誌7月号が届いていた。うむむ、ちゃんとしているなあ。
また、メールを開くと「『八つ墓村』初版を御譲りします」というオファーをYさん
とおっしゃる「本の雑誌」の読者の方から頂戴する。あああ、なんちゅう事で
ありましょう。丁重にお断りせねば。
◆夜中にカウンターがリセットされた模様。フクさんや政宗さんが日記リンク
してくれたお蔭もあるのだろうか。これでもう10回はカウンターをふっ飛ばして
いるぞ。こういう時に限って前の晩にチェックを忘れているんだよなあ。

◆「エアロビクス殺人事件」ペンズラー&エドワーズ(早川ミステリ文庫)読了
ホックがエドワーズ名義で書いた、純粋犯人当て「懸賞」小説。総てが「Whodonit」
に奉仕する大人の御遊びである。原書には、解答篇がない(らしい)が、この翻訳
版には、最後のページに天地逆にした「解答篇」がついているので安心して読める。
(これの姉妹編である「The Medical Center Murders」は森さんに御譲り頂いたの
だが、とほほな事に解答篇がなく、未だに読む気になれずにいたりする。)
こんな話。
南カリフォルニアの海辺の街、サン・アローマに、「ダイアナ・エアロビック・
センター」という洒落たエアロビクスセンターがオープンする。経営者のラインマン
は、かつてその場所で男性向けのジムを開いていたのだが、時代の流れに迎合して、
痩身に励む中年女性をターゲットに切り替えたのであった。ショバ代を要求する
チンピラ達を退けたり、かつてジムを愛用していた前科者の元ボクサー、ガルシア
を追い立てたり、と幾つかの障害を乗り越え、順調なスタートを切ったかに思えた
ある夜のこと、女性ダンス講師のミッジがセンターで殺害されてしまう。果して
動機は?そして犯人は?彼女の離婚した夫である大企業の若社長、その姉の元
モデル、同僚の男性ダンス講師、あるいは様々な経歴を持つセンターの利用者達、
多彩な容疑者が捜査線上に浮かんでは消えていく。この謎に挑むのは、もと私立
探偵で今は犯罪学教授を務める「ジャンク・フード中毒」のマシュー・プライズと
彼の恋人であるフリー・ライターのジャン・アーリー。だが、彼等の追求を嘲笑う
かのように、第二の殺人が、、、
結構いけてる、犯人当て小説。一応、私は犯人当てには成功した。なかなか上手に
隠してはいるが、すれっからしには「それ」と見当がつくであろう。キャラクター
もきちんと書き分けられており、丁度、ジェシカおばさんの事件簿を1本見終わった
あとの満足感が味わえる。特に探偵役の犯罪学者の奇矯振りが光っており、有栖川の
火村はひょっとしてこのプライス辺りがモデルになっているのでは?と思える程に
「新本格の名探偵」を思わせるキャラ立ちである。御手軽さが嬉しい本格推理小説。
「体脂肪率0%の本格ミステリ」とは、こういう作品をいうのであろう。なにせ、
舞台がエアロビクス・センターですから(おお、きれいにオチがついた!)。


2000年6月14日(水)

◆茗荷丸さんによれば、ここは「古本者のパンデモニウム」だそうな。「わーい、
何かわからんが格好いいぞ。『殿堂』という意味かな?」と思って辞書を引いたら、

「1.伏魔殿、2.地獄、Miltonの造語」

くまかかかか。フルホン王朝でもフルホン公国でも打ち立てたろかい!!

「おほほほほ、本を寄越せとは。全くパンピーの考える事は測りかねますわね。
本がなければ、古本を買えばよいではありませんか」とか、
「立てよ、国民、哀しみをダブりにかえて!立てよ、国民!ジーク、フルホン!!」とか。

……いずれにしても碌な死に方、出来そうにないな。
◆業界の飲み会。おじさまたちの話題はひたすら、ただもうひたすら「ゴルフ!」
である。沈黙するしかない。皆さん、この雨の週末でもカッパを来て芝生の上で
棒っきれを振り回して、何キロもの道のりをガンガン歩くのだ。元気だよなあ。
と、いうわけで古本屋には寄れずじまい。買い物0冊。

◆「冒険はセーラー服をぬいでから」森奈津子(ログアウト冒険文庫)読了
1)ロス・トマにめげた、2)阪神が勝ったのでスポーツ新聞を読まねばならない、
3)夜が遅めの飲み会である。以上の理由により軽い本を持って出る。わははは、
これは本当に軽い。ほいほい読めるぞ。
黒百合学園ファンタジー研究会部長を務める山岡千草は、廃部に追い込まれた
オカルト研究会の元部長にして学園の理事長の孫である黒田百合子に惚れ込まれ
関係を迫られる。その方面の趣味がない千草が百合子を拒否すると、なんと百合子
は秘法を用いて千草の作品「聖竜共和国物語」の中に彼女を転移させるのであった。
そのとばっちりを受けて、ファンタジー研究会の副部長葉子、部員桂、生徒会長の
玲子もそれぞれ異世界へと飛ばされる。そこは、千草が下手の横好きで書いた、
どこまでも安易でステロタイプなRPG風異世界。安易に設定された他力本願な
美形キャラの懇願を受け、ダンジョンの奥へと歩を進める彼等。安易な冒険の果て
に待ち受ける安易な大団円に向かって安易なファンタジーの幕は切って落された!
さすが曲者、森奈津子。今更のファンタジーなんか、この私に書けるわけがない
じゃないの、おーーーほっほっほっほっほーー、とばかりに、ありきたりの異世界
ライトノベルをとことんコケにしまくった、学園ファンタジーをものにした。
作中、千草の作品をけなす形で、下手なファンタジー作品の特徴を列挙するのだが、
これが笑える。「稚拙なくせに妙に気取った文章」、「アイデアにつまるとすぐに
ダンジョンにはしる」、「短編ひとつ完成させられないくせに、作品世界の地図は
ちゃんとつくる」、「異世界には月が二つあって、男と女の名がついている」等など。
4短編の連作だが、それぞれに笑いのツボを押えており、何度か電車の中で爆笑
しかかる。イラストもチョーかわいいので、背広のサラリーマンが通勤電車で読む
にはどこまでも向かない作品である。これだけ笑わせてもらえれば、充分に元は
とったと思える作品。また、作者後書きが笑殺ものなんだわ、これが。


2000年6月13日(火)

銀河通信からお越しの皆さま、おはようございます。私がこのたび本の雑誌で
デビュー致しましたkashiba@猟奇の鉄人です(笑)
と、いうわけで、本の雑誌7月号に、小文を載せてもらった。御興味の向きは、
立ち読みでもしてくだされ。このサイトの常連客の皆様方にとっては何を今更の
角川文庫横溝ネタである。でも、「デビュー」じゃなくて、ただの素人のアルバイト
ですからね>安田ママさん
◆安田ママさんのひそみにならい上半期読書の個人的面白本を顧みると、これが
「ぶたぶた」「刑事ぶたぶた」「あなたま」の3作になってしまうのだ。本当に
ここはミステリサイトなのだろうか?ぶう。ミステリにも「恐怖のブロードウエイ」
「妖奇切断譜」など良いものもあるのだが、いかんせん「ぶたぶた」2作のインパクト
が余りにも強過ぎて、割を食ってしまうのであった。怖るべし、山崎ぶたぶた!

◆ちょっとネットをうろついていたら、なかなか期待できそうなサイトが仮営業
していた。茗荷丸さんの海外本格一直線のHP。古本者の薫りもあって、思わず
掲示板に書き込んでしまう。私自身決して日本の新本格が嫌いな訳ではないのだが、
巷のサイトでは、海外本格路線が少ないだけについつい肩入れしたくなる。そんな
「瑞澤私設図書館」はここ。って、この人、MYSCONにも来てらしたみたいね。
◆古本的には最悪の日。雨の中、2、3軒覗くが「ボウズ」な日。仕方がないので、
古ビデオなんぞを買ってしまう。
「デストラップ:死の罠」(ワーナーホームビデオ)1380円
「メル・ブルックス:逆転人生」(フォックスビデオ・ジャパン)980円
「デストラップ」はアイラ・レヴィン最後の傑作。主演がマイケル・ケインなん
だよね。どこか「スルース」を裏返しにしたかのような作りがなんとも趣味。
以前から古ビデオで見つけたら拾うつもりだったので、OK、OK。
メル・ブルックスは、私がただ一人、「監督」で追っかけている人。「ヤング・
フランケンシュタイン」とか「新サイコ」とか、今でも時々引っ張り出してみている
のであった。
古本は新古本を1冊
「ウィーン薔薇の騎士物語1」高野史緒(中公NV:帯)200円
まだ1冊も読んでいない高野史緒が溜まっていく。よし、残すはデビュー作だな。
って、これが、最難関なのだが。
◆このファイルの末尾にうっかり全角文字を使っていたがために、ネット環境に
よっては、ここに入れない人がいらっしゃったようである。ご迷惑をおかけしました。
それにしてもパソコンって難しい。

◆「黄昏にマックの店で」Rトーマス(早川ミステリアスプレス文庫)読了
白状してしまおう。これがロストマ初体験である。それは私だって古本者である。
立風書房の効き目ロストマはしっかり追っかけている。ポケミスの1冊も、ちゃんと
買っている。だが、買うと読むとの間には、それこそ向こう岸が見えない程の深く
澱んだ大河が横たわっているのだ。今日も冷たい雨が降るのだ。で、その初体験だが
これが、もう、さっぱり。これほど読みにくいエンタテイメントは久しぶりであった。
こんな話。
CIAの協力者が穏やかな死を迎えた。だが、彼の残したという「回顧録」のために
多くの人々が心穏やかではいられなくなる。彼の息子で、元刑事のという経歴を持つ
俳優グラニー・ヘインズが、アーリントン墓地での父の葬儀に立ち会った際に、その
場には他に3人の参列者がいた。一人は、グラニーの幼なじみにして父の最後の
愛人イザベル、一人は父の旧友にして元フランス外人部隊員バーンズ、今一人は情報
局からやってきたビルマ情報分析官アンディーン。だが、「回顧録」は彼等のもとへ
静かに死を運んでくる。CIA高官はキーズは、絡め手から「回顧録」の買い上げを
グラニーに持ち掛けるが、既に別の買い手が存在している事を知る。一方、グラニー
は弁護士から渡された「回顧録」のタイプ原稿を見て驚愕する。なんと原稿の99%
は白紙だったのだ。果して亡父は本当に「回顧録」を書いたのか?それとも、亡父に
とっての最期のジョークだったのか?しかし「回顧録」の存在を信じる何者かの魔手
は冷酷に関係者の生命を奪っていくのであった。亡父の行き付けであり、パディロと
マコクールというタフな男たちの経営する「マックの店」をベースにして、グラニー
達のブラフと暴力に満ちた探索行は始まる。
感情移入を許さないぶっきらぼうでどこまでもこわもてな男達、善悪の二元論を拒否
した変幻自在の人間関係、予測を裏切り唐突にして読者を煙にまくストーリー運びと
気の利いた会話、ああ、もう何がなんだかわかんない。似たような世界を書きながら
ラドラムやフリーマントルとは全く別の読物がここにはある。これほどまでに、
読者に優しくないエンタテイメントは「深夜プラス1」以来。終盤に至ってようやく
作者の企んだプロットが見えてくるのだが、慣れる頃には話は終っている。よくも
まあ、こんな小説が受け入れられたものだ。「大人の読物」と開き直るのだろうか?
まこと「読者を選ぶロストマ」である。私はどうやら選ばれなかったようである。
実は、これを読むのに2日かかった。生ぬるい読者にはお勧めしません。


2000年6月12日(月)

◆うむむ、若い衆は若い衆で盛り上がっているみたいだ。宴会で古本の話ばっかり
してたらだめだぞお(説得力0%)、 ダメな大人になっちゃうぞおお(説得力100%)
◆SFミステリのおバカな題名を考えてみた。
「恐怖の宇宙帝王死す」
「人形つかいはなぜ殺される」
「野獣、イルタバーに死すべし」
「太陽風交点と線」
「世界の中心で愛を叫んだけものみち」
「縮みゆく人間の証明」
「あの真珠色の朝はもう来ない」
「狂風世界をおれのポケットに」
うーん、やっぱり「裸の太陽がいっぱい」がおバカ大賞かなあ。
さすが名作(何がやねん?)
◆会社の傍の100均棚でダブり中心に拾う。
d「章の終わり」Nブレイク(早川ミステリ文庫)100円
d「心やさしい女」長島良三編(早川ミステリ文庫:帯)100円
d「グレイ・フラノの屍衣」Hスレッサー(早川ミステリ文庫)100円
d「マネキン人形殺人事件」SAステーマン(角川文庫)100円
「殺意が疾る夜」Mヨーク(二見文庫)100円
とうとう、古本屋のおばちゃんから「いつもありがとうございます」と言われて
しまった。ううむ、まずい。まずいですぞ!

◆「女の顔」新章文子(ポケット文春)読了
というわけで、早速入手したばかりの新章文子を読んでみた。いや、実は読む気
はなかったのである。一体どれほどの作品なのかな、と数ページ試し読みしたところ、
これがやめられなくなってしまったのだ。巧い、巧い。これは実に小説としてよく
出来ている。病院のご令嬢が映画スターをやっている、という設定には「そんな
美味しい話があるもんか」とも思うが、難しい事は言いっこなしである。それを
言ったら、周囲から切り離された巨大な館で起こる吸血鬼伝説をなぞった密室殺人
みたいな話はもっとアホらしい。さて、こんな話である。
新進女優の夏川薔子は、婚約者である映画監督倉敷保樹から逃れ、野心家のインターン
葉山努とつかの間の逢瀬を楽しんでいた。映画に倦み、婚約者にはない努の肉体の
魅力に嵌まる薔子。医院の令嬢である薔子の財力と美貌に惹かれる努。しかし、
薔子の独占欲と努の矜持ゆえに、二人は衝突する。苦い思いで帰京した薔子を、
母兼子が自宅の庭で事故死したとの訃報が迎える。実家の医院は、名ばかりの院長
であった父英輔の死後、副院長であった兼子が切り回していたのだが、その母が
失明してからは、雇われ医師である杉原が実権を握っていた。薔子はかつて杉原に
力ずくで犯されたという過去があった。薔子の異母姉妹である葉子とその娘道子には
相続権はなく、母の死を契機として医院を閉鎖し杉原を切る決意を固める薔子。
しかしそんな彼女に対し、杉原は思いもかけない逆襲に出るのであった。なんと、
父英輔の死は、母がもたらしたものだというのだ!交錯する男女の愛憎、偽りの
仮面の下で静かに醸成される殺意、美貌の罪を贖うのは死をもてするしかないのか?
丹念に組み上げられた人間変奏曲は、唐突に終る。
多重視点で描かれる人間模様。特に主人公である薔子のキャラクターが光る。運命は、
人を容易に被害者にも加害者にもなしうる。そして、探偵にも、犯人にも。古典的な
探偵小説とは異なり、さりとて社会悪を追求するというものでもない。作者は、
ありとあらゆる人の悪徳と愚かさを淡々と綴っていく。人の世を哀れにするのは
人に他ならない。これは、したたかなツイストで「火曜サスペンス」や「土曜ワイド
劇場」の原作となる事も拒否した作品である。日本の推理小説は、かつてここまで
進化していたのだ。フランスミステリが好きな人は是非どうぞ。


2000年6月11日(日)

◆帰京していつもの京橋・南砂町定点観測。
d「エアロビクス殺人事件」ペンズラー&エドワーズ(早川ミステリ文庫)100円
d「幻想と怪奇3」仁賀克雄編(早川NV文庫)100円
「内なる殺人者」Jトンプソン(河出文庫)270円
「消えた日曜日」多岐川恭(光文社文庫)220円
「シナリオ’79年12月号」(「配達されない三通の手紙」所載)250円
やっと、トンプソンを拾えた。ここへ来ての作者の再評価で、相当に入手困難に
なっていた作品。全く、一寸先は闇。何が流行るか油断できない。河出書房は
「太陽がいっぱい」を改題して出している暇があったら、こっちも重版して欲しい
ものである。シナリオはちょっと嬉しい。EQFCでもこれを押えている人間は
少ない(というか、コアなマニアはあの翻案作品を忘れたがっているらしいのだが)。

◆「ターミナル・エクスペリメント」RJソウヤー(早川SF文庫)読了
ソウヤーのネヴィラ賞受賞作品。翻訳出版当時、ミステリ読みの間でも相当に評判が
高かったクロスオーバーでスリリングな、生命と魂と愛の一大エンタテイメント。
なるほど、これは文句なしに面白い!こんな話。

と、ここで、警告。この話は「素」で読んだ方が絶対面白いと思うので、できれば
以下の梗概と感想は、作品を読み終えてから見て頂くのが吉。

「脳死」判定へのナノテクノロジーの応用。医学博士ホブソンの臨死実験は、世界中
で大論争を巻き起こすある発見をもたらした。死の瞬間、脳から小さな電気フィールド
が抜け出していく事が明らかになったのだ!果してそれは人の「魂」なのであろうか?
魂の正体と死後の世界に迫ろうとするホブソンは、友人の天才AI学者サカールの
協力を得て3つの自分の精神の複製を作り出す。肉体と関係する総てを削除された
複製、肉体の衰えに関する総てを削除された複製、そして何も手を加えない複製。
やがて「成長した」彼等に対し禅問答にも似た、探究が開始される。だが、その
背後で、その複製の何者かが犯したとしか考えられない「殺人」が起きていたのだ!
事件の担当となった、女性刑事ファイロの捜査は、一歩一歩、ホブソン達に迫る。
果して、どの「複製」が真犯人なのか?ホブソンとサカールは命を賭してその謎
を追うのであった。魂とは?進化とは?男とは?女とは?愛とは?今、智と生命の
螺旋が久遠を目指す。
最新テクノロジーとフーダニット趣味をエンタテイメントの坩堝にぶち込んだ、
驚異的リーダビリティーを誇るサイエンス・フィクション。脇役に至るまで性格
づけされた丁寧なキャラ設定。人間社会のツボを押えた脇筋の「架空イベント」。
長篇を支えるだけのアイデアを惜しげもなく枝葉末節で消化してしまう作者の潔さ
には脱帽してしまう。例えば、SAKATAMさんも自身のサイトに引用しておられる
が、この作品の中で1エピソードとして挿入されている「ジョーク」論などは、
その最たるもの。凡そ、ジョークというものにSF的なアプローチを加えた傑作と
してはアシモフの「笑えぬ話」(「地球は空き地でいっぱい」所載)があるのだが、
それよりも生理科学的にジョークを解析してみせた作者の手腕に唸る。「三つの棺」
の「密室談義」、「Xの悲劇」の「ダイイング・メッセージ」論議にも比肩しうる
出来と感じるのは私だけであろうか?
なにはともあれ、この作品は、SF好きは勿論ミステリ好きにも自信をもって薦める
事のできる「完全食品」。いやあ、ごちそうさまでした。