戻る


2000年6月10日(土)

◆突然、大阪までフェルメールなんぞを見に行く。90分並ぶ。大阪近郊の人々は
平日にいくように!私はパンピーなので「青いターバンの少女」がやっぱよかった。
うんうん。
◆大阪キタを定点観測。えぐちさんや、Kaluさんがチェック入れまくっている
ので、本当に何もない。梅田古書倶楽部でとりあえず買い物。
「女の顔」新章文子(ポケット文春)1500円
「第三の殺人」佐賀潜(浪速書房)1500円
「暗い道〜コンサルタント殺人事件」樹下太郎(報知新聞社)800円
ごめんなさい、石井女王様。「女の顔」、新章文子の写真欲しさにポケット文春版
を買ってしまいました。というわけで、講談社文庫版は発掘して頂かなくて結構で
ございます。「第三の殺人」は「日本一の佐賀潜収集家」計画の一環。何をやって
いるんでしょうねえ。

◆「江戸川乱歩殺人原稿」松村喜雄(青樹社NV)読了
フクさんの掲示板で話題になっていたので、どれほどのもんじゃろかい、と手に
とってみた。これまでにも、何冊か買ってはいるものの、この作者の小説を読むのは
初めて。フランスミステリーの紹介本「怪盗対名探偵」はなかなかの出来栄えで
あったので、ビブリオ的な要素のありそうなこの作品も多少は期待していた。が、
その期待は無惨にも裏切られた。「叔父の七光り、八汚し」。久しぶりに壁に
叩き付けたくなるミステリに出会ってしまった。こんな話。
総理大臣選を控えた保守の大物議員谷村の元に、推理界の大御所安田から送られて
来た原稿。それは「弟子」と題する江戸川乱歩の未発表原稿であった。若かりし日々、
乱歩邸に出入りし探偵小説を熱く語り合った4人の若者、谷村・安田・秋山・鈴木。
そして、ポール・ブールジェの「弟子」を下敷きにしたその<原稿>には、彼等
4人と乱歩自身、そして謎の自殺を遂げた石田ヒカリなる踊り子をモデルにした
犯罪の顛末が記されていた。安田は、この<作品>を乱歩の真筆と認め、世に問う、
のだという。しかし、その背後に「石田ヒカリ」を名乗る謎の美女の存在がある事
を、更にはその女性が自らの傍に忍び寄ろうしていた事を谷村は知らなかった。
果して「石田ヒカリ」の狙いとは?やがて過去の<自殺>は、現在の連続殺人を
招くのであった。
社会派推理と心理探偵小説の不幸なキメラ。それは、自ら「小説」である事を放棄
した歪んだホムンクルス。作者は、これまでの乱歩を引き合いに出した小説やパス
ティーシュに不満を訴え、この書を著したのだ、という。しかしその意図は、見事
なまでに失敗している。「弟子」という作中作の出来栄えは、大乱歩の名に泥を塗る
以外の何物でもない悲惨なものであり、加えて作品自体のプロットも推理小説の本質
を何かはき違えたとしか思えない破綻ぶりである。更に読後感の悪さは、これまた
天下一品。このような作品が、商業出版として上梓された事自体が一番の謎である。
推理小説の愚作伝説に新たな一頁を刻む作品といえよう。


2000年6月9日(金)

◆どうやら私は「狼」で「コハダ」で「ワープロ」で「SF・ファンタジー系作家」
らしい。当たっているかも(愚民)。
◆居住スペースが凄まじい荒れようである。ビデオテープは片付いたが問題は本だ。
少し体制を立て直さねば。むむむ。固定資産税と川口文庫の支払いで懐も寂しいこと
だし……
◆おお!松本楽志さんが「夜のみだらな鳥」を読んでおられる。ワタクシ的には
「ラテン・ドグラ・マグラ」と心密かに命名している作品である。挫折せずに
頑張ってね。
◆自粛ムードと天気が不安定だったのとで、とっとと帰宅。それでもMZTさん
から交換本が到着。
「未来企業」グリーンバーグ&オランダー編(サンリオ)交換
ありがとうございますありがとうございます。
2月の五人男ツアーで彩古さんに目の前で抜かれるまでは、どうと言う事のない
本だったのだが、その一事でハートに火が点いてしまった。困ったものである。
とりあえず、他力本願寺だが、入手できて一安心。こちらからの発送は今しばらく
お待ちを>MZT様:私信

◆「時空祝祭日」梶尾真治(早川JA文庫)読了
カジシンの第2短編集。79年、80年の2年間に書かれたお笑いあり、シリアス
あり、叙情ありの11編収録。2日続けて外人で星を落したたために、3連敗は
出来ないと、確実に「勝ち星」の読める九州出身の社会人エースを投入。傑作の誉れ
高い「百光年ハネムーン」が入っているので、少なくとも1編は満足が行くという
首脳陣の読みは的中。すいすいと読み進み、平均読書時間を下回る「試合時間」で
読了。ローテーションの柱となる作家を見出す事が、連戦を勝ち抜くこつである。
放送席、放送席、以下、ヒーローインタビューです。
「ローラ・スコイネルの怪物」コリン・ウィルソンの「オカルト」を思わせる
語り口で綴られたふんわりとした「怪獣」もの。作者の優しさが嬉しい。
「ふうてん効果(たぶん)最後の応用例」<カジシンの松戸菜園>もの。とことん
地方マスコミをコケにしたくすぐりが爆笑。オチはお約束。昭和は遠くなりにけり。
「静止人口六億人」ドタバタ・サスペンス。未来の「試行錯誤」。喜劇の幕切れが
哀切であるのには驚く。
「プロキオン第五惑星・蜃気楼」未来戦記もの。男と女、「それぞれ」の闘いを
活写した、輪廻の螺旋。力強さを感じさせるラストが素晴らしい。
「エミトンへ魚釣り」お約束のオチではあるが、釣りの描写が巧み。
「インフェルノンのつくりかた」馬鹿ホラー系統の作品。友成もかくやという展開
に、思わず眉を顰めるが、終盤のツイストとラストのリフレインが効果的。クスリの
ネーミングが「いかにも」なのがおかしい。
「カクテルパーティー効果」アイデア・ストーリーだが、なるほど、こうくるか!
と感心させられた。発想の裏返し方にセンスの良さを感じる。
「三つの願い」題名通りの<定番>と、思わせておいて、、宜しいのでは。
「御町内の皆様!」87分署みたく実物の回覧版を模した構成でどきり。更に老人
の諦観が痛い。それにしても、このラストは複雑。
「梨湖という虚像」宇宙を股にかけた三角関係の顛末。<永遠の愛>が再生産され
る過程が丁寧に描かれる。極めて未来の話でありながら、学生像が妙に70年代
なのが、なんともノスタルジー。このオチしかないとは思いながらも、ついつい
読まされた。星野之宣の絵が似合いそうな硬派な叙情作品。
「百光年ハネムーン」画期的な発明をもって巨大コングロマリットの頂点に立つ
老人に贈られた「プレゼント」の物語。古典的なSFのガジェットのコンビネー
ションで織り上げられた名工の感動作。
総論:実は単行本バージョンには「おもいでエマノン」までが収録されていたらしい。
叙情派の先発・中継ぎ・押えでノーヒット・ノーラン・リレーといった作品集で
あったわけだ。監督は楽だよ、いつもこういう「試合」なら。以上、勝利監督の
コメントでした。


2000年6月8日(木)

◆出先でちょっと残業。そのまま、八重洲古書センター定点観測。
「トパーズ」Lユリス(集英社)100円
「フリック・ストーリー」Rボルニッシュ(サイマル出版会)100円
「ダブル・イメージ」Hマッキネス(早川NV)100円
d「バビロン行き一番列車」アリンガム他(リーダーズダイジェスト)100円
アリンガムの「裏切り」の載ったリーダーズダイジェストが拾い物。100円は
安いっしょ。
◆帰宅して、掲示板のレス付けを始めるが、今回もカット&ペーストでメモ帳に
貼り込もうとすると容量オーバー表示。書いても書いても終らない。諦めて寝る。
◆夜中に起きだして只管レスつけ。ふと見れば、またしても、カウンターがリセット
されている。空白の34時間分も推定で加えて再スタート。いい加減にして欲しい。
◆幻想の土田館長から、昨日話題にした徳間の世界恐怖小説シリーズは、ヒッチ
コックのアンソロジーも含めて全4巻であったと指摘をうける。どうもありがとうこざい
ます。


◆「ロンドン港の殺人」Jベル(ポケミス)読了
さて、森さんがA藤書店で安く拾っているのを見て、25年ものの積読本をとり
だした。これは、新刊本屋で定価(170円)で買った本。返本をヤスリ処理した
とおぼしき一回り小さい本ではあるが、70年代中盤には、まだこのあたりの
本が「早川ミステリフェア」に並んだのだ。ああ、古きよき時代。もちろん、ボア
ナルの千番台なんぞ当たり前のように売れ残っていた時代である。そんなものには
眼もくれず、只管古本屋でカーを探していたっけなあ。時はうつろい、人は替っても、
いつの時代も「探求書はカー」。
閑話休題、この話、純英国女流本格推理を期待して読み始めたのだが、どうも勝手
が違ったようである。ロンドン港とその周辺の貧民街を舞台とした、犯罪物語とで
も言うべきか。一応、自殺に見せかけた殺人には、それなりのトリックと伏線が
あったり、事件の背景にある陰謀の正体も最後まで隠してみせたりもするのだが、
一向に推理小説を読んでいるという感じがしなかった。貧しいながらも真っ当な
生き方をしている若き男女の出会いとすれ違い。うらぶれた貧民街を担当する医師
達の苛立ち。どこまでも粗末にされる命。小人の思惑は、大悪の陰謀に呑み込まれ、
因果の船は新たな謎を汀に運ぶ。そして港に始まる物語は、港の渦に終る。
警察小説でも、ピカレスクでも、ましてや本格でもコージーでもない、自然体の
犯罪物語。読者は、様々なキャラの間を引っ張りまわされ、とりあえずは大団円へ
と導かれるのだが、この違和感はなんだろう?謎のスケールの小ささと感情移入先
を特定させない読者を突き放した書きぶりは「文学」のそれである。さりとて
「街」が主人公と言い切れるほどでもないんだよなあ。つまらんものを読んで
しまった。売れ残っていたのも納得、これ1作でベルの作品が紹介されなくなった
事も納得。


2000年6月7日(水)

◆ひーほーのCGI機能が復旧。ふう、失われた34時間。とりあえず、急場の
しのぎに借りた掲示板も予備において置こうっと。
◆小林文庫ゲストブックの実質上ボードリーダー桜さんのゲット報告が凄まじい。
脳内麻薬に痺れるレベルのトンデモ・ゲット。今の日本に、まだあれほどの奇跡
があるのだ。へっ、古本屋回りも捨てたもんじゃねえやね。
◆でも、自分の買った本を顧みすれば、とほほ。ああ、情けない。船橋定点観測。
「宇宙のみなしご」森絵都(講談社)200円
「マカロニグラタン殺人事件」舟崎克彦(パロル舎)200円
後は、ピーナッツ・ブックスの9,15,16,17巻が各500円
◆帰宅すると中村さんからの交換本が到着。
d「橡家の伝説」佐々木丸美(講談社:帯)交換
お蔭様で安田ママさん用の丸美本も随分貯まって参りました。でも帯は自分用に
抜いてしまうのであった。わっはっは。外道。

◆「寝室に棲む亡妻」Cターニイ(徳間書房)読了
かつて徳間書店から出ていた世界恐怖小説シリーズの第3巻。といっても全3巻
で終ってしまったマイナーな叢書で第1巻がAメリット「魔女を焼き殺せ」、第
2巻がRマンベル「呪いを売る男」というなんとも渋いランナップ。昭和43年
というから少々時代が早すぎた。第4巻になる筈のヒッチコック編「私が選んだ
もっとも怖い話」は別の体裁で出た(のだと思う。なにせ、所持本は二刷)。この
あと、Wスローンの「丘の上の幽霊屋敷」、Sジャクソン「死者と話せば」が予定
されていたのだが、仮に刊行されていたらさぞや濃い叢書になっていたであろう。
まあ、3巻叢書でも充分収集家泣かせの濃いシリーズではあるのだが。かく申す
私も、この作品しか所持していない。おそらくメリットの「魔女を焼き殺せ」は
翻訳されたメリットの最凶の入手困難作であろう。なぜ、1冊しか持っていない
のに、こんな事が判るかというと、実はこの叢書、新書にも関わらず生意気にも
「恐怖小説への招待」と称する一号「月報」が挟まっており、これからのライン
ナップと、石川喬司、塔晶夫、田中潤司のエッセイが掲載されているのである。
しかも、登場人物表の載った栞まで付くという念の入り用。まさにマニア殺しの
叢書である。助けてくれえ(と、書いておけば「あ、ダブってますよ、それ」とか
いう人が必ず掲示板に現われるに違いない)。こんな話。
ケティという女性の1人称で物語は進む。わたしの妹ミランダは、美人ではない
が健康的な魅力に溢れた女性。そのミランダがディックという男性と幸福な結婚
をする。しかし、新居に招かれたわたしは、ミランダの様子がおかしい事に気が
つく。なんと彼女には、ディックの事故死した亡妻フェリシアの霊が取憑いてい
たのだ。霊はミランダを流産に追い込み、徐々に彼女の肉体を乗っ取っていく。
黒魔術使いであるフェリシアの母は、更に憑依を完璧なものとしようとし、わたし
に様々な死の罠を仕掛けてくる。だが、その母すらフェリシアの魔性に魅入られた
犠牲者であったのだ。為す術もなく煩悶するディックをよそに、わたしの孤独な
闘いは始まった。
フェリシアという魔性の女の生い立ちが怖い。清楚な外見に似合わぬ奔放な性的
嗜好で数々の男性を狂わせる独占欲の権化。自らの肉親さえ操る手練手管。むしろ
なぜ今ひとつ情けないディックという夫に固執するのかが理解できない程の悪女
である。もっとも話自体は、左程格調高いものではない。60年代の風俗の中で
憑依ものをやってみせただけの物語であり、永井淳の訳文によって救われている
という印象を受けた。特にクライマックスの「軽さ」が残念である。希少性に眼を
奪われて大枚を叩くと痛い目に遭います。それはわたしです。


2000年6月6日(火)

◆とりあえず臨時掲示板を設置してみる。
◆っと、一日でたちまち掲示板に20個の書き込み。め、めまいが。
◆川口文庫に支払。松本さん、良知さんに送本。
◆あ、雪樹さんのブックオフ関連リンクに入れてもらってしまった。どーもです。
推薦者の青木さんも、どーもです。踏み込むとごちゃごちゃになりそうなので入り口
の話しかしてないんですけどね。
◆と、いいながら本日は新刊系の古本しか買っていない。
d「海神の晩餐」若竹七海(講談社:帯)100円
「QED:六歌仙の暗号」高田崇史(講談社:帯)100円
「魔よけ物語(上下)」Eネスビット(講談社青い鳥文庫)200円
「刑事コロンボ・血文字の罠」Wハリントン(二見文庫)200円
「ゴジラ対メカゴジラ」(宇宙船文庫)200円
「喘ぎ泣く死美人」横溝正史(角川エンタテイメント:帯)400円
あとはマンガを2冊。
「お父さんのクリスマス」ふくやま・けいこ(大都社)350円
「ダイイング・メッセージ」長谷部史親・幡地英明(集英社)350円
うう、なんで横溝正史がもう古本屋に並んでいるのだ?帯は勿論、新刊案内まで
入っているぞ。この本を買う人って、相当のマニアで、そういう人は当分手放さ
ないような気がするのだが?それとも、一読して売っ払う人にまで広く読まれて
いるととるべきなのだろうか?

◆「サム・ホーソーンの事件簿1」EDホック(創元推理文庫)読了
新刊が続く。本格マニアには随喜の涙。ホックの中でも不可能趣味の濃いサム・
ホーソーンものの忠実な年代記にノン・シリーズの初期傑作「長い墜落」を加えた
美味しい短編集。つくづく若いマニアは恵まれておるぞ。これが、あっさり日本語
で読めるだから。クリッペン&ラドロウの元版を積読にしている身の上としては、
嬉しいやら、悔しいやら。まあこの世に900部しかない元版を持っている事を
言祝ぐべきか。ともかくこの先「黒後家蜘蛛」並みの人気シリーズとなって、完全
翻訳が達成される事を望むものである。
あらためて通読して思い知らされたのが、主人公が若いと言う事。老人の昔語りの
印象が強かったのだが、20年代にはバリバリの青年医師だったんだよね。この
シリーズ、不可能趣味と大いなる田舎医師という設定からクエンティンがスタッグ
名義で書いたウェストレイク医師シリーズと印象がダブるのだか、ウェストレイク
が子持ち壮年医師なのに対して、サム・ホーソーンの方が全然若いではないか。
参ったなあ。このシリーズはホックの中でも好きなので雑誌掲載時に殆ど読んで
おり、再読したものも多いのだが、それでも大変楽しめた。以下、ミニコメ。
「有蓋橋事件の謎」消失もの。解法はあまり鮮やかではないが、ホームズへのオマー
ジュが「名探偵登場!」を印象づけて吉。
「水車小屋の謎」小さな「密室」もの。意外な犯人もさることながら、「ホワイ
ダニット」趣味が鮮やか。短編ミステリとしての完成度が極めて高い。
「ロブスター小屋の謎」奇術師と密室殺人という文句無しの舞台づくり。トリック
は大胆にすぎるが、伏線はきちんと張っており、まあ許せるか。
「呪われた野外音楽堂の謎」白昼堂々の殺人と宙に消える犯人。これも「ホワイ
ダニット」の解法に唸る。犯人を強烈に暗示しながら、動機を掴ませない。
「乗務員室の謎」走る密室とダイイングメッセージ。まあ、このダイング・メッ
セージは、さすがにチョンばれ。密室ものとしてもどうかなあ。
「赤い校舎の謎」人間消失と誘拐もの。この不可能趣味には必然性がない。
「そびえ立つ尖塔の謎」密室?もの。ジプシーへのサム医師の思いやりで読ませる。
アクロバティックであるが、これも余り意味のある展開とはいえない。
「十六号独房の謎」脱獄もの。完全無欠の傑作。
「古い田舎宿の謎」通路からの人間消失。繰り返される不可能犯罪に意味がある、
という趣向がよい。これも傑作でしょう。
「投票ブースの謎」誰しもが一度は考える密室もの。凶器の隠し方に一工夫あって
読ませる。不可能を可能とする人間関係の作り方がうまい。
「農産物祭の謎」タイムカプセルから転がり出る死体、という設定の勝利。逆に
犯人はそれがゆえに特定されてしまうのだが。
「古い樫の木の謎」パラシュートで降りたスタントマンが、降りた時には縊り
殺されているという魅惑的な謎の設定がさすがである。トリックは「あれ」では
あるが、うまく料理してあって許せる。
「長い墜落」謎の設定は実に魅惑的だが、解法はごたごたしており、余り好きな
作品ではない。初期短編ではなんといっても「長方形の部屋」でしょう。
総論:全編の題名が「The Problem of〜」で統一されており、カーへの信奉ぶりが
窺える好短編集。ここまで不可能犯罪にこだわったその意気やよし。中にはために
する不可能趣味もないではないが、傑作も幾つかあって、今なおこの作品がアメリカ
で受け入れられている事に喜びを感じる次第。ただ、時代設定が本格推理の黄金期に
設定されているというのは、逆にいえば、現代には不可能趣味はなじまないという
事実の裏返しのような気がしなくもない。とまれ、本格ファンを自任する人は
絶対買って、絶対読もう。


2000年6月5日(月)

◆明方からHi−hoのCGI機能がストップ。カウンターが動作せず、掲示板
にも書き込めない状態。サーバーがパンク状態で、少しでも負荷を減らすために
緊急避難として、意識的にCGI機能を止めている由。怒りのメールを出したが、
復旧の目処は立っていない模様。結局、CGI機能はオマケ程度にしか考えてい
ない、という事なのだろうな。松本楽志さんのところのようにカウンタも掲示板
もない人気サイトだってあるわけで、なるほど「必須」ではないのかもしれない
が、このサイトについていえば、既にオマケでは効かない。これでは、時刻表の
ない鮎川哲也、法廷シーンのないESガードナー、お色気場面のないカーター・
ブラウン、スポックのいないUSSエンタープライズみたいなもんである。
◆おまけに、身体の方も壊れ、夜中ずっと寝床とトイレの往復。結局、1日年休を
もらって寝込む。郵便の確認以外に表に出ず、何も買わない1日。開設以来、わき目
もくれず、突っ走ってきたサイト運営に特別休暇を貰った心境。
◆もぞもぞと積録ビデオの整理を行う。ターザンを4月の改編期で曜日が移動に
なった際に2話とり逃し。YASHAの第3話のとり逃しも痛いぞ。とりあえず、
アナザ・ヘヴン、ショカツ、QUIZはこれまでの所、完録継続中。フイッツ、
クリーガン、ERVといったところも大丈夫みたい。クウガはこれまでに3話欠け。
∀ガンダムはめでたく最終回まで完全録画、星界の戦旗も続いてますのう。まあ
このへんはどうせビデオになるんだろうけれど。やはり「世にも奇妙な物語」の
見逃しが痛恨だなあ。改めて自分に腹が立つ。

◆「迷路」Pマクドナルド(ポケミス)読了
「実は読んでいませんでした」の1編。あれだけ、HMM版を人に斡旋しておき
ながら、あの字組みにめげてパスしていたのだ。考えてみれば、HMMの長篇連載
で読んだのは「魔の淵」1作だけかもしれない。どうも、連載中は連載が終ったら
一気読みしよう、連載が終ったら本になったらそれで読もう、とずるずる先延ばし
にする癖がある。さて、これは今年の新刊でもあり、ネット上でもあれこれ語られ
ているので、下手な梗概はやめよう。要は、艶福家の富豪の殺害を巡る検屍法廷の
記録のみからゲスリン大佐が犯人を指摘する、という純粋推理小説である。作者は
あくまでもフェア・プレイに徹したとして、ゲスリンの解決編の直前までで論理的
に犯人を指摘できると豪語する。
「これは、当たらん。」というのが解決編を読んでの印象。確かに、ゲスリンの
推理には首肯するに足るものはあるのだが、正直なところ、それはないんじゃないの、
というのが第一印象。一人一人の言動を細かく解析していけば、こう推論するのが
最も確からしい、というレベルの「揚げ足取り」に近い。少なくとも「いい小説を
読んだ」という満足感は、全く得られない。「得られなくて結構。そんなつまらん
ところで勝負しとらん」と作者は言うのであろうが、まずそのような作品は欧米
でも間違いなく好評絶版中であろう。Pマクは、ストーリーテイリングのまずい
作家ではない。いや、むしろ得意な作家である。「Xに対する逮捕状」にしても
「R.I.P」にしても、そのサスペンス感は素晴らしい。また、「ライノクス」
のように作品そのものに仕掛けを施す稚気もある。そんなPマクが敢えて自らの
武器を捨てて、純粋本格という名の「破格」に挑んだ、そんな作品に思えてならない。
この作品をポケミスで出版した早川書房の英断には最大限の賛辞を贈りつつも、
「本当のPマクはこんなもんじゃねえぞ」という素朴な感想が一方にあるのもまた
事実なのである。


2000年6月4日(日)

◆「あなたーのキスをかぞえーましょーーー」。よくブックオフでかかっていた
この曲。うーん、確かブックオフ以外でも聞いた事があるのだ、ううう、一体、
どこだっけえーー??と悩んでいたところ、なんでい「アレクサンダー戦記」の
主題曲じゃん、とCDを買って初めて気がつくボケ中年。あれも積録アニメだな。
◆掲示板の森さんの書き込みを見て速攻でFAX。角川文庫横溝初版クエスト最凶
の例の本の取り置きを依頼。店主が来る頃を狙って電話で確認。「2000円
ですが?」という念押しに「何の問題もありません!」ときっぱり。早速、中野へ
ゴー!!ああ、ついにこの書がわが手におちる日が来たかああ!!!!
d「八つ墓村」横溝正史(角川文庫:初版)2000円
書影はらじ丼のところで見ていたし、実物もニフティのオフで喜国さんにみせて
もらっていた。しかし、やっぱり自分でも欲しいやね。これはもう「テキストが
あればいい」大人のやる事ではない。仮面ライダースナックをカード欲しさに買う、
あるいはポケモンカードに大枚叩くガキのやる事である。ああ、やってしまったあ!
なにはともあれ、角川文庫横溝初版クエスト、コンプリートまであと2冊!!
◆他に買った本は、これだけ。
「ゴジラ対ビオランテ」(宇宙船文庫)300円
d「リインカーネーション」Mエールリッヒ(早川NV)100円
「泡亭の一夜」泡坂妻夫(新潮社:帯)800円
ついに、泡坂妻夫の新刊を古本屋で買ってしまった。これまで、初刊行時に、
「連載でもっているからいいや」と思ってスルーした「湖底のまつり」以外は
こまめに新刊で買ってきたのだが、帯付きで半額の誘惑には抗えなかった。
◆やっとこ、mutさんにゼラズニイ本と松本さんに山野浩一本を送本。
◆深夜、またカウンターが不調。どうして節目節目で起きるの?恨みでもあるの?
本気で接続業者を再考しようと思いますので、識者の方、あるいは御自分が契約
されているところで、「ここがいいよ」というところがあればご推薦ください。
1)カウンターがトラブルを起こさない
2)大容量レンタルが安価
というのが、二大条件なのでありますが。
Hi−hoの「つながりやすさ」や「掲示板の自動ログ」は結構気に入っている
のですけどねえ。

◆「エイブヤード事件簿/陰画応報」Jフレイザー(講談社文庫)読了
20年前に講談社文庫から4冊刊行されてそれきりになっている、英国産の警察小説。
若くして警部を務めるエイブヤードと、苦労人のブルートン巡査部長のコンビが
絵に描いたような英国の田舎街の殺人事件を追うシリーズ。本格趣味は稀薄で、語り
の上手さで読ませるタイプのビレッジ捜査小説である。日本初紹介の「死利私欲」を
学生時代に読んだきりだったが、たまには「渋い」ものをと考えた時に浮かんだのが
このシリーズだった。こんな話。
小村ブレーキーズ・ヒルに3百年前の佇まいそのままに建つベント邸。その広大な
「庭」の一角から、子供の白骨死体が発見される。骨と一緒に発見されたしおれた
花は何を意味するのか?丁度その死体が発見された直前に若妻がその娘とともに
村から消えた事が判明し、捜査陣はその夫に疑惑の目を向ける。一方、犬を使った
捜索で、新たに製材所のおがくずの中から、人間の血を骨が検出される。地道な
聞き込み捜査で、失踪した母子の行方を追う彼等であったが、その最中、事件の
関係者が水死体で発見される。しかもその発見者とは、製材所の娘と逢引中の
フレーザー警部その人であったのだ。時が止まったように平和な田舎町を、徐々に
不穏な空気が支配していく。
なんとも「地味」な話である。加えて相当に肩透かしな話でもある。幼児の白骨
死体、母子の失踪、そして二つの「殺人」と、題材が盛り沢山な割には、意外な程、
起伏に乏しい。作者は、次々と謎を提示しては、実にあっさりとその解決をつけて
いく。正直なところ、梗概を書いて始めて「おや、それなりに『血生臭い』話だった
のだ」という事に気がつく、という程にのんびりとした作品である。またフレイザー
を弄ぶ繰り返しのギャグなど、皮肉なユーモア感覚は実に英国的であり、階級社会
の描き方も英国の田舎そのまま。決して面白くないわけではないが、フェア・
プレーや、不可能犯罪にこだわる「本格」好きからは、決して高い点は得られない
であろう。読者の「英国かぶれ」度を測るのに適した作品である。


2000年6月3日(土)

◆予定を急遽キャンセルして、完全休養日。CDや服など本以外のものしか買わない
1日。寝床の周りには、栃木古本ツアー以来買い込んだ古本が積みあがっており、
少々買い疲れ。オフ会などに備え整理に取り掛かる。片付かん。諦めて、積録ビデオ
の整理に取り掛かる。VHSで30本あった。片付かん。諦めて寝る。
◆オフ会のお申し込み。この日記を書いている時点で、10名様に達する。メンバー
は、下記の通り。しょーじさん、彩古さん、須川さん、おーかわさん、無謀松さん、
SPOOKYさん(初参加)、GAKUさん、やよいさん、松本真人さん(初参加)、
そして黒白さん!(初参加)。
と、一旦、アップした所で、石井さん(初参加)と土田さんからメールが届きました
ので、
急遽締め切らせて頂きまする。ごめんなさい。

◆「アンダーウッドの怪」DHケラー(国書刊行会)読了
「アメージング・ストーリーズ「ウイアード・テイルズ」などで活躍した米国の
精神分析医の作品集。正統派ホラーから、「小説」綺譚、古風なSFと幅広い作風
を誇る。なるほど、この集成でもその多彩さには舌を巻く。煽りで「ブロックにも
通じる」と書かれていたが、確かに似たオーラを感じる。お互い同時期の作家の筈
であり、作家同士の親交があったのかどうか気にかかるところ。作家専業のブロック
は、本職の精神分析医であるケラーの作品をどう読んでいたのだろうか?なお、
後書きによれば、ケラーの別筆名に「ヘンリー・セシル」があるようだが、これは
あの「法廷外裁判」「メルトン先生」の英国作家とは無関係。同姓同名の作家が
いるというのは、他にも例がないわけではなかろうが、お互い余り居心地の良い
ものでもなかろう。いずれにしても本筋以外に、あれこれ物思わせてくれる作家
である。以下、ミニコメ。
「地下室の怪異」古典的な「子供の恐怖」もののプロットに精神分析的アプローチを
加えた作品。人間の浅はかな「科学」が闇の力に蹂躪される様が辛い。
「馬勒」魔法合戦もの。変身譚を許す田舎の描写が秀逸。医師が主役を務めるが、
この主人公自身、一見まともに見えて実は相当に「変」な奴である。
「タイガー・キャット」<地獄の歌姫>もの。罠に絡め取られた男たちの描写が
酸鼻であるだけに、この残酷な結末も許されるといったところか。羞恥心の悲劇。
「芳香の庭園」<「小説」綺譚>。全く展開の読めない話であったが、なかなか
のオチにニヤリ。よろしいのではないでしょうか。
「死んだ女」これはブロックの作品と言われれば納得してしまう、見事なサイコ
もの。同工異曲がないわけではなかろうが、医学的に正しい淡々とした語り口が
恐怖を倍加させる。傑作でしょう。
「発想の刺激剤」これもまた、ブロックの「バカ」作品に一脈通じる「小説綺譚」。
なんとも痛快な話である。小説家としての「生みの苦しみ」をこういう形で表現
した例を他に知らない。佳作。
「リノリウムの敷物」この作品集の中では私のベスト。短い語りの中で、地獄の
結婚生活を活写してみせた作者の手腕に唸る。これは「怖い」。すべての妻帯者に
読んで頂きたい大傑作。これから結婚を考えている人もこの作品を読んでから
今一度考え直して頂きたい。
「阿片常用者」魔法の果て。正統派のホラーである。キングなら、このネタで一千
頁の本を書くであろう。静かなラストシーンの余韻がよろしい。
「健脚族の反乱」なんとも古いSF。いやあ、昔のSFはいいねえ。物語としては
なかなか壮大で宜しい。車社会に対する強烈な皮肉の書である。今のSFX技術を
もってして、モノクロのレトロSFムービーに仕上げて欲しい。
「クラゲ」あっはっは。ミクロの決死圏の一発ネタ。なんちゅうオチやねん。
「ドアベル」イマジネーションを刺激する復讐譚。復讐の方法が、変に科学的
なところが笑わせる。思わす「腹」を押える作品。
「怪音」これは、ある意味いまでも通用する怪獣物語。怪異に対する分析が生物
学的に正しい。ラストも怖い。
「ロボット乳母」星新一に同じテーマの作品があるが、オチの指向性が全く異なり
面白く読めた。なかなかに感動的なラストではかなろうか。ノーマン・ロックウェル
とシド・ミードが合作イラストをつけるが如き、そんな家族の物語。
「許されざる創作」三文ライターの創作が現実の魔を招来する。オカルト・ミステリ
の発端部分には最適だが、まあお約束のホラーである。
「神の車輪」これは「神」を食った男の物語。終末もの、超人もののパターン
ではあるが、結構読ませる。エッダあたりが下敷きになっているのかな?
「金色の枝」幻想的な城と樹と音楽の物語。残酷なファンタジーとして実に正統派
である。金枝編と牧神伝説のアンサンブルが見事。
「月明の狂画家」絵画綺譚。王道を行く展開。絵の象徴的な部分を読み取れない
自分が歯がゆい。
「砂漠に立つ扉」<どこでもドア>もの。それだけの話。
総論:期待以上に楽しく読めた。文格の高さと確かな医学知識が奔放なイマジネー
ションの妨げになっていないところがよろしい。思わず「昔はよかった」とこぼし
たくなる魅力が確かにここにはある。拾い物である。


2000年6月2日(金)

◆飲み会である。考えてみれば、土、日、月、水、金と痛飲が続いている。もう
限界だよう。
◆とりあえず、会社の近所の本屋で新刊を買う。
「サム・ホーソンの事件簿1」EDホック(創元推理文庫:帯)900円
HMM 2000年7月号 (早川書房)800円
週刊朝日百科「世界の文学」46「チャンドラー、ハメットほか」560円
うーん、今年はホックの本が沢山でているなあ。「1」という事は「2」以降も
出るってことだろうし、ファンとしては感動を禁じ得ない。このまま、どしどし
短編の紹介が進むと嬉しいのだが。「サイモン・アークの事件簿」とか読んで
みたいぞお!週刊朝日百科も感涙もの。これはともさんの新刊報告がなければ、
存在すら知らずに終っていたであろう雑誌。書影(特にPB)ファンには堪ら
ない企画である。頁数の割に、御立派な値段がついているが、これは買いでしょう。
「ノクターン」もみかけだのだが、今日のところはとりあえずスルー。パラパラ
眺めると今年中にあと3冊の小説と周辺書を1冊出すつもりらしい。おああ、
マクベインがペリー・ローダン状態。
◆ネット上でブック・オフの功罪論が盛ん。確かに、ブックオフ以前は、本屋で
買う本の比率は今よりも高かったように思う。刊行から余り時間を置かず綺麗な
本が半額で並んでりゃあ、そりゃあそちらで買いますよ。このあたりは、出版社
や作家が、無駄な献本を止めるだけで随分変わると思うのだけれど、どんなもの
だろうか?私の蔵書(勿論古本)にも随分「乞う、ご高評」スリップ入りの本が
あるぞ。
◆オフ会のお申し込みは、この日記を書いている時点で6名様。内、5名の方が
リピーターである。4回目が約1名、3回目が3名。おっほっほ、TDLと呼んで
くれい。というわけで、あと4、5名様で、快適に過ごせる収容人数の上限に達し
まする。お申し込みは御早めに。まあ、その前の週に開催される「銀河通信」さん
の10万アクセスオフから一部流れてこられても結構ですけど。
◆リンク先に「なまもの!」を追加。古本属性が欠片もなく、MYSCONつながり
でもないが、大矢ひろこさんの日記は良い。あれほどサービス精神に富んだ文章を
タダで読めるのだから、本当にネットって凄いと思う。

◆「死者の暗号殺人事件」矢島誠(大陸NV)読了
さて、矢島誠である。実はこの作家は結構チェックしている。星乃名義以外は
全冊揃えていたりする。ホームページを開設した時もいち早くとんでいって、
一桁番号をゲットした。もしかして、ファンなのかな?本格推理を志向しながら、
なぜか着地でしくじるところが、健気に映るのかもしれない。もう一皮剥ければ、
充分、斎藤栄レベルには行ける人なのだが、何が足りないのだろうか?
さて、この作品も題名が暗示するように、見事なまでに「謎の言葉」の解法に
淫した作品。例によって「必然性はないが、意外性はある」。こんな話。
離婚のショックから刑事を辞し、探偵社を開業した亀浜のもとに、一通の依頼状
が届く。差出人の住所も氏名も架空であったが、それゆえに、依頼状に書かれた
「謎」が亀浜の刑事魂を刺激する。それは、勤め先の信用金庫から5千万円を横領し
自殺した女性行員の死の真相と、彼女が残した手紙の暗号「ふじをでるふじにふじ
さんをくわえる」の謎を解明してして欲しいという依頼であった。所員の竜宮紫子
と鶴崎静男とともに、初仕事に乗り出す亀浜。死者の関係者をあたる内に、彼等は
ある美術愛好サークルにいきつく。しかし、そこで今度は正真正銘の殺人が起きて
しまった。一方、暗号は、ある数字を意味する事が判明する。捜査と推論の出会い
が、ある場所へと彼等を導くのだか、、、
あっはっは、またしてもやってくれました。推理のアクロバット・着地失敗。
「風が吹けば、桶屋が儲かる」式の推論で、桶屋が儲かる頃には、どうも最初、風は
吹いてなかったのではないか、という疑問が湧いてくる、そんな話である。暗号を
めぐる「ふじ」尽くしには、研究の後が見え、一生懸命「アイデア」を「謎」に
膨らませようとしている作者の姿を彷彿とさせる。例えば、クイーンの「心地よく
秘密めいた場所」にみる「9」の推論並みに、あらゆる角度からの検討が行われる。
非常に結構。しかし、そこまでだ、矢島先生。
何故に、こんなひねくり回した謎を残したのか、その説明が薄いのである。人間が
軽いのである。これでは、「感動的なラストシーン」が感動的にならないのである。
その分、リーダビリティーは高いのだが、これでは所詮「読み捨てノベルズ」との
謗りを免れる事はできないであろう。ああ、どうしてこんな作家、好きになっちゃっ
たんだろ?


2000年6月1日(木)

◆5万アクセス記念オフですが、都合により日程を2週間延期しました。6月
24日(土)に開催致します。お申し込み要領はここ
◆朝の更新時、期間限定の新企画にのめり込んで掲示板のレス付け出来ずじまい。
一体何人の人が気がついてくれた事か。
◆書庫の電灯がもとからイカレたので、総入れ替え。早目に会社を出てホームセンター
で買い物。おおお、嘘のように明るいわい。背文字がよく見える事、見える事。
照明の大事さを改めて認識。
◆その前に、一応ビッグボックスにチェックを入れたのだが、これが見事なまでに
何もない。どこぞのブルドーザーが通り過ぎた後だったのかな?ブック・オフと
早稲田古書街に定点観測をいれるも、結局拾ったのは以下の3冊。スランプである。
d「赤い密室」鮎川哲也(サンケイノベルズ)100円
d「街中の男」長島良三編(早川ミステリ文庫)100円
「北の殺人童話」藤林愛夏(扶桑社)100円
◆川口文庫の荷を受領。こちらも哀しいなあ。「地下室」は流れで来ると思っていた
が、まさか「マンハント」揃いを私以外の人間が買いにいくとは!考えが甘かった。
新章文子は幸運にも落手できたが、他の取りこぼしが痛い。とりあえず、入手分を
掲げておく。まあ、御値段控えめで健全な買い物ではあるのだが、2ヶ月に一度の
羽目外し、思いっきり当たってくれよう。
「黄昏にさようなら」ジョイ・パッカー(角川文庫)1000円
「幻の女」田中小実昌(桃源社)1000円
「パリの罠」新章文子(毎日新聞社)1000円
探偵倶楽部 S28年5月号 (共栄社)1000円
探偵倶楽部 S28年8月号 (共栄社)1500円
探偵倶楽部 S28年10月号 (共栄社)1500円
探偵実話 S29年5月号 (世文社)1000円
探偵実話 S29年8月号 (世文社)1000円
推理小説研究 7号、11号、各1000円
「季刊SR」32号 1500円
地下室 151号〜199号 (怪の会)15000円
地下室 200号 (怪の会) 3000円
ハヤカワ文庫SF、HSF,他SF関連書解説目録
怪奇探偵クラブ オール読切別冊2号 共栄社 2000円
探偵実話 S27年1月号 世界社 1500円
探偵実話 S27年5月号 世界社 1000円
探偵実話 S27年7月号 世界社 1500円
探偵実話 S27年9月号 世界社 1500円
裏窓臨時増刊8集 耽奇小説 No.4 久保書店 1500円

◆「ファウスト時代」荒巻義雄(講談社)読了
今や架空戦記の第一人者として出版界に君臨する作者がまだ普通のSF作家だった
頃に「書下ろし新探偵小説」というふれ込みで上梓された匣型推理小説。おそらく
文庫落ちしてはいないと思うのだが、定価の1.5倍を出す覚悟があれば、容易に
入手できるのではなかろうか。原型になった短編(「ヴァルプルギスの夜」)が
ネオ・ヌルに発表されたらしいが未見である。こんな話。
冒頭、狂った男を病院に見舞う男女が描かれる。患者の名は、露木一二三。どうやら
彼は、畔沢遙子なる人形劇団主宰者を殺害したが、精神鑑定の結果不起訴処分と
なったようだ。女性の見舞い客の名は遠井千津子。彼女は娼婦であり、その最初の客
であり今は恋人でもあるFなる人物がこの「神曲」をなぞった殺人の真相と暗号解読
に挑むこととなる。ここまでがプロローグ「天上の序曲」。本編である「ファウスト
殺人事件」は、露木の視点で遙子殺害に至る狂気の過程が綴られる。大学を卒業しながら
気楽な日雇い稼業に逃避する露木は、女王然とした遙子の魔力に捉えられ、その娘である
丸賀理恵子の清楚な美に打たれ、一方では年上のピンサロ嬢知子との愛欲に耽る。
ホムンクルスを生み出そうとする人形好きの青年、劇団の蔭の部分をも仕切る放浪学生、
すべての道化たちは「ヴァルプルギスの夜」に向かって集い、そして破局が訪れ、露木
の精神は崩壊する。そして長いエピローグ。神の視点でこの事件を再検証したFは、
事件の背後に悪意と操りと裏切りの構図を見てとるのであった。
全ては、<「神曲」は推理小説的に読めるのでは?>という作者の妄想が生み出した。
サーバーの短編に「マクベス殺人事件の謎」なる爆笑作品があるのだが、この類いの
妄想を料理するのであれば、あのレベルにかっちりまとめて頂きたい。勿論、自分の
好きな作品を翻案するのは楽しいであろうし、プロットやキャラ造形で頭を使わなくて
良い分、小説としての余裕が感じられるのは読者としても歓迎である。しかしい、
このオチは余りにも見え見えである。暗号解読は、強引でそれなりに笑えるものの、
このレベルのツイストに長篇1冊分をかける必要はないと思うのだが。そのあたりが
ミステリ・プロパーでない作者の限界なのだろうか?作者の意気込みだけが空回り
した作品といえよう。