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2000年5月31日(水)

◆雨、飲み会、どこにも寄れない、何も買えない。
◆帰宅すると、クロネコの不在票が!よって、川口文庫からの収獲は明日以降。
まあ、長い人生、こんな事もあらあな。
◆掲示板のレスで「開設5ヶ月」とかうっかり書いてしまった。大嘘。本日で
開設9ヶ月である。よくもったものだ。

◆「ナポレオン・ソロ/悪魔のサイコロ事件」JTフィリフェント(久保書店)読了
アンクルを引いて英国の浜辺の家で世捨て人同然の生活を送るガードが、ある夜、
浜辺を散歩中に出くわしたビキニ姿の瀕死の美女。彼女の死をみとり、テープを
託されたガードに追手の魔手が迫る。偶然、休暇をとってガードの家に向かっていた
ソロとクリヤキンは、凶弾に倒れた旧友の「仕事」を引き継ぐこととなる。美女が
残したテープには「ゴルチャックの天才」「25個はできた。あと二個」という謎の
言葉が記録されていた。死者のメッセンジャーとして英国海軍本部に向かった二人は、
事件の背後に善と悪の暗闘があることを察知する。やがて彼等は、絶世の美女の
招きに従ってスラッシュも超えた国際的陰謀の真っ只中へと飛び込んでいくのであった。
幾重にも仕掛けられる暴力の罠。果して「パワー・キューブ」の秘密とは?
てな、お話。ナポソロ小説には、御手軽な駄作もあるが、これは不思議と楽しめる方の
エピソード。最高傑作「人類抹殺計画」には及ばないが、テレビより面白い。とにかく
美女が全裸にされるシーンが多いので、いずれにしても当時は映像化が不能であった
ろうが。ソロとイリアが休暇中に巻き込まれた事件である、というのがパターン破り
であり、更に全編を通じて二人が全く行動を共にする、というのが当たり前のようで
いて実は非常に異色である。準主人公となるナネットという女性が魅力的。父親に
男のように育てられ、男を力と技で屈服させつづけてきた美しき富豪、というのが
泣かせるではないか。敵の攻撃を歯牙にもかけぬソロとクリアキンの腕っ節の強さ
が光る。「悪魔のサイコロ」をもう少しストーリー自体に絡めれば、更に面白い
作品になったところだが、まあ、高望みはするまい。ファンはなにを言っても読む
であろうし、ファン以外は探すのにも倦むというのがナポソロ小説である。


2000年5月30日(火)

◆固定資産税を支払い。ああ、これだけあればどんなに古本が買える事か。
◆とりあえず、大物を片づけたので久しぶりに神保町へ。大島書店で2冊。
「The Calendar」E.Wallace(Collins)250円
d「A Murder in Thebes」A.Apostolou(St. Martin's)400円
ウォーレスには、「東京泰文社」と「鎌倉書坊」のシールが貼ってある。うーむ。
歴戦の勇士って感じ本である。アポストロウはドハティーの別名義。なんでこんな
本が400円で売ってるんだああ、馬鹿ヤローおお!と発作的にダブリ買い。
◆RBワンダーを覗くと、あれやこれやと凄い本がある。しかし値段も凄いので
すべてスルー。そりゃね、買おうと思えば買えなくはないけどさあ。固定資産税
払ったばかりでまた万札切ろうという気にはならんわなあ。で、かんたんむの
百円均一でお買い物。
「現代作家代表作シリーズ:愛欲の罠」(講談社)100円
「現代作家代表作シリーズ:エリートの賭け」(講談社)100円
「現代作家代表作シリーズ:官能の傷痕」(講談社)100円
「現代作家代表作シリーズ:背徳の花びら」(講談社)100円
「現代作家代表作シリーズ:謀殺の構図」(講談社)100円
「現代作家代表作シリーズ:淪落の季節」(講談社)100円
「チータの草原」Vカニング(偕成社文庫)100円
「灰色雁の城」Vカニング(偕成社文庫)100円
「隼のゆくえ」Vカニング(偕成社文庫)100円
「潜入捜査官」Cホワイテッド(立風書房)100円
「人形佐七捕物帖」横溝正史(春陽堂)100円
現代作家代表作シリーズは、40年代に活躍した中間小説誌の雄たちのお手軽な
アンソロジー。はっきり言って「小説現代」がそのまま単行本になったような本
である。なんやねん、これ?とあるだけ買ってしまう。カニングは、以前から
いつか買おうと思っていたシリーズ。偕成社文庫の方に落ちているとは知らなんだ。
超お買い得は春陽堂の「人形佐七」。昭和25年発行のカバー付きが100円は
嬉しいよね。むふふ。
◆帰宅すると松本さんからの交換本が到着。まだこちらは出せておりません。ありがとう
ございます&もうちょっとまってね。
「火の柱」Rブラッドベリ(大和書房)交換

◆「ハロウィーンの死体」Pゴズリング(ポケミス)読了
作者の第12作にして、ブラック・ウォーター・ベイシリーズの第2作。前作では
ストライカーの脇役であった、哲学者保安官マット・ゲイブリエルを主人公にした
作品。出鱈目な私は第3作の「凍った柩」を先に読んでしまっていた。とほほ。
「逃げるアヒル」を原作にしたスタローン映画の印象が強烈で、サスペンス系の
作家という刷り込みがなされてしまったゴズリングであるが、やっと「実は隠れ本格」
というイメージに塗り替える事に成功しつつある。考えてみれば、あのクリスティ
だって、最初の頃は、本格以外に冒険ありロマンスありスパイものありの、よく言えば
「多彩な」、悪く言えば「印象の定まらない」作家であったのだから、致し方ない
といえば致し方ない。しかしながら日本人作家のように多産系であれば、それでも
いいのだろうが、ゆったりと作品を発表している欧米でこれをやられると、リアル
タイムで追っかけている身としてはイメージ固めに苦しむ次第。この作品は北の
田舎町を舞台に「過去の殺人」を追う、ゴズリング版「ハロウィーン・パーティー」。
自動車事故で瀕死の重傷を負った老人。彼は、保安官に打ち明け話がある、と言って
家を出た直後の事件だった。「あれは、事故じゃない・・・・あいつがやらせたんだ」
謎の言葉を残して息を引き取った老人。雑事で老人との約束時間を守れなかったマット
は、自責の念にかられつつ、「過去」への探索行に乗り出す。そして、今や街の重要
人物となった男達が未成年だった30年前に関わったある事故死に行き当たるので
あった。それは、副保安官の父や保安官事務所の有能な女性助手自身も巻き込ん
でいき、やがて街がハロウィーンのドタバタ騒ぎに浮かれる最中、新たな殺人を招き
込むこととなるのであった。保安官であった父の残した秘密の日記から、真相に迫る
マットは、一見平和な田舎街の暗部へと踏み込んでいく。
哲学者を志しながら父の仕事を継いだ主人公のキャラクターがいかにもアメリカ的。
若いカップルのロマンスも絡めながら、長閑な田舎街の「過去」が描かれていく
展開は、まさにコージー・ミステリの王道である。「過去の殺人」はクリスティが
晩年よく用いたモチーフであるが、その定石を踏まえつつゴズリングなりの新手を
盛り込んでおり、安心して読める。特に終盤、容疑者全員集めてからのツイストが
見せる。ポケミスで370頁という長さは少々冗長だが、読んでいる間はなかなか
にスリリングであり、作者が凡手でない事を証明する。コージーがお好きな方は
是非どうぞ。


2000年5月29日(月)

◆猛烈な二日酔のまま、なんとか土曜日の日記をアップ。中村さんに交換本発送。
◆就業後はまたしても飲み会。職場の喫煙族の集まり。濃いオヤジたちの話に悪酔い。
古本屋にも本屋にもよれず、掲示板へのレス付けも滞ったまま。「猟奇の鉄人」
始まって以来のピンチである。

◆「青髪鬼」横溝正史(角川文庫)読了
お酒を飲んだ翌朝はジュヴィナイルに逃げ込む私。三津木俊助と御子柴進をフィー
チャーした表題作と少女もの3編からなる作品集。大新聞社に一斉に掲載された
まだ生きている者たちの死亡広告。一人は宝石王の古家万造、今一人は科学者の
神崎省吾、そして最後の一人は13歳のいたいけな少女月丘ひとみ。一体、誰が
何のために、このような悪い冗談をしかけたのか?しかし、それは帝都を震撼さ
せる希代の盗賊白蝋仮面の新たなる事件の幕開きにすぎなかった。新日報社に
三津木を尋ねてきた男は、御子柴進に一通の封筒を託し、何かに追われるように
新聞社から立ち去る。ただならぬものを感じた探偵小僧の追跡も空しく、大蜘蛛を
自在に操る青い髪の怪人によって殺害される男。果して男の残した封筒には何が
隠されていたのであろうか?そこへかかってくる宝石王の古家万造からの電話。
だが、その電話は万造の狂ったような悲鳴に続き青髪鬼の犯行宣言に取って代わ
られる。現場に急ぐ三津木。その間隙を縫って、封筒を奪う白蝋仮面。怪人、妖人
を向こうにまわし、三津木と探偵小僧の犯人捜しと宝捜しの冒険は始まる。
どこかでみたようなシチュエーションで読ませる小気味よい少年もの。御子柴進が
幼いヒロインに注ぐ騎士道精神が宜しい。白蝋仮面が完全に道化役を割り振られ
小悪党に堕しているは残念。財宝の正体は今ひとつで、「幽霊鉄仮面」の破天荒さ
には著しく見劣りする。お約束の展開が多く、よく言えば安心してよめる作品と
いったところか。少女ものについては、以下ミニコメ。
「廃屋の少女」善行を施した富豪の少女。その善行が巡る因果によって自らを救う
事になる。身を犠牲にして主人公を救う薄幸の少女が涙を誘う。なかなか少女もの
にしては派手な展開は楽しい。
「バラの呪い」女子学園もの。少ない頁数で、複雑な人間関係と女の妄執を描いた
佳編。お嬢さまぶりがじんわりと楽しめて吉。
「真夜中の口笛」闇に響く口笛と少女の謎の死と、現実味はともかく雰囲気は宜しい。
ただ、完全に「まだらの紐」のパクリなので、如何に大横溝の作とはいえ、ここまで
発掘してしまう必要があったかどうかは疑問である。
総論:表題作は可もなし不可もなしだが、おまけの少女もの3編が書誌的には
貴重なのかもしれない。こういう本が本屋で買えるのは、良い時代であったといえる
だろう。


2000年5月28日(日)

◆フクさんの紙媒体デビュー記念ミニオフ出席のため、七時過ぎのひかりで上京。
前日十時間も寝るとさすがに頭冴えわたり状態となり、せっせと読書にいそしむ。
新大阪駅で買った「アナザ・ヘヴン」上下巻を一気読み。お、面白い!!(詳細
後述)。ひかりが有楽町を過ぎるあたりで丁度読了。充実の三時間である。
「アナザ・ヘヴン(上・下)」飯田譲治・梓(角川ホラー文庫:帯)1360円
「天使の屍」貫井徳郎(角川文庫:帯)600円
◆集合は「JR吉祥寺東口に13時」であったので、荻窪で途中下車してブック
オフ他をチェックする。が、これといった出物にはあたらない。抜け駆けしても
禄な事はない、といったところか。しかし、収穫はなくとも、ブックオフ西荻窪
北口店のデカさには素朴な感動を禁じえない。
「ルドルフォ2」図子慧(白泉社:帯)650円
「殺意を砥ぐ」多岐川恭(光風社:帯)500円
◆ユニクロ店内に直結する吉祥寺駅東口には、小林文庫オーナー、やよいさん、
よしださんがたむろっていたが、肝心の幹事や主賓の姿がない。どうやら公園口
を東口と勘違いしている模様。文明の利器:携帯電話のおかげで、数分後には、
彩古さん、石井さん、貫井さん、フクさんが団体で東口に集合。少し遅れた葉山
さんも合流していざ!吉祥寺古本屋巡りへ(結局それかよ!)っとその前に、
わさわさと本の受け渡し。本を譲るという美名にもとに、自分は少しでも荷物を軽く
して、人の荷物は増やしておこうという「愛と謀略の一幕」である。
私?ええ、勿論、よしださんにジャッキー・チェン本2冊を押し付けましたよ。
さて1軒目は、「よみた屋」吉祥寺店。コーヒーの無料サービスがあるというナイス
なお店。道中、石井女王様が先週の木金と立てつづけに「友人」に探求本を目前で
抜かれた事をぐちる。たしかに「ダブルで二発!」は辛いだろうなあ。
ほぼ同時に店内に雪崩れ込む一行。早速、彩古さんが福島正実編のアンソロジーを
チェックするが、値段二千円也を見て棚に戻す。相変わらず、素早い。無駄がない。
店の品揃えはなかなかだが、お値段もそれなりで、あまり掘り出し物は期待できない
雰囲気。結局買ったのは1冊だけ。
「レボリューション」山野浩一(NW−SF叢書)2000円
初めて見た本。こんな鮮やかな赤地の本だとは知らなかった。
◆2軒目は、リサイクル系の大型店。女王様は、店が見えると前傾姿勢で競歩状態。
店内は圧倒的に広い。通路スペースも充分で、実にゆったり見て回れる。但し、
余り凄い本はなさそう。彩古さんは小遣い稼ぎに織田裕二本を拾っている。まめである。
よしださんは「深く静かに潜航せよ」の原作本をを戦記コーナーからサルベージ。
「kashibaさーん、佐賀潜があるよー」と二人から声をかけてもらう。ああ、やはり
日本で唯一人の佐賀潜収集家としてのキャラが立ってきたか。さりとて佐賀潜を
ダブらせる根性はなく、買ったのは1冊のみ。
「東欧怪談選」沼野充義編(河出文庫)580円
ふーん、こんな本出てたんだ。カバーが今の河出文庫カバーなので、チェック漏れ
であった。現役本なんだろうなあ。
◆駅前に戻って、駅下の飲食店街にあるお店を3軒目に攻める。まず買い物はない
だろうと思ったが、よしださんが100円均一で変な3巻本を買っている。
「星3つだよー」と喜んでいる。うーん謎。余りに楽しそうなので、つられて1冊
買ってしまう。
d「HMM440号:EDホック特集」(早川書房)100円
◆駅の南側にまわってメインのアーケードの老舗2軒をチェック。葉山さんの
「赤川次郎、価格破壊」発言が一同の爆笑を誘っていた。曰く「いまどき、赤川
次郎に400円つけるとは、<価格破壊>」。
ここでは、300円均一台から確信犯的ダブり購入。
d「魔女の館」Cアームストロング(トパーズプレス:帯)300円
d「狩人の夜」Dグラップ(トパーズプレス:帯)300円
彩古さんは、また小遣い稼ぎに「ラルク・アン・シェル」の写真集を拾っている。
まめである。
◆井の頭通りを西へ、2軒チェック。手前の店は老舗。少し離れてリサイクル系。
老舗でPBを漁っていると米版のEQMM(82年1月号)に当たる。ホックの
サム・ホーソンが載っていたのでとりあえず押さえる。100円だもんなあ。
2階から降りてきた女王様が「これ要らない?」とチョメズの早川書房世界傑作
探偵小説全集(ポケミスの前身)版の「オランダ靴の秘密」を手渡してくれる。
カバー絵が楽しいので、EQFC例会のオークション用に買い上げる。500円也。
リサイクル系の3冊250円コーナーで無理やり3冊にするため、またしても
こんなものを買ってしまう。
d「沙霧秘話」佐々木丸美(講談社)80円
◆今度は井の頭通りを東へ。リサイクル系を1軒チェック。ここでは何も買うもの
がない。うーん残念。梶龍雄の桃園書房版に帯がついているのははじめて見たが
帯だけのために200円は出せない。店から出たところで女王様の携帯が鳴る。
ZPつながりでなんと九州から「コバルト文庫がずらりと並んでいるんだけど、
何を買えばいいのか?」というお問い合わせ。「とりあえず、山尾悠子と小泉喜美子
でいいのかな?」「いいんじゃないの」と全員。コアな人達である。
◆吉祥寺の締めくくりに、駅方面に流れて黒猫堂へ。狭い店内には、SFやミステリ
のレアどころが良心価格で並んでいる。頑張ってるなあ、この店。思わず応援したく
なる。ここで本日のワタクシ的血風が吹く。
「衝撃波を乗り切れ」Jブラナ−(集英社ワールドSF:帯)700円
やったね!とにかくピカピカの美本で帯つき。しかもこのお値段!!これは嬉しい。
この叢書、残すところはディックのみ。事実上のコンプリートである。いやあ、
どんな本もいつかは手に入るものですのう。
◆喫茶店に陣取って、発作的サイン会を挙行。油ぎとぎとの屋台村では怖くて本を
広げられないのでここでやってしまえとばかり、「天使の屍」に著者と解説者の
サインを入れてもらう一同。彩古さんとよしださん以外は全員本を持ってきており、
二人に差をつける。むっふっふ。あれこれ出版方面の話で盛り上がるが、極めつけは
「絶対売れない出版企画」。「藤村正太推理文庫全集」「西東登推理文庫全集」
「消えた乱歩賞作家シリーズ」などなど。う、売れなさそう。貫井さんが、ゲット
した「必殺ポスター集」を嬉しそうに眺めている。これがなかなかの優れもので、
ファンならずとも本棚に欲しくなる1冊。番宣ポスターを完全収録した本である。
◆総武線で大久保へ向かう。車中では、かなり危ない「作家」さんの生態について
のお話を聞く。おおお。思わずおののいてしまう。大久保下車で新宿ブックセンターへ。
広い店内に一斉に散る一同。ここでは一階で3冊のみ拾う。
「ジョーズ2」Hサールズ(サンリオ)450円
「銀河は滅びず」谷甲州他(新時代社)200円
「McCloud6:The Park Avenue Executioner」Dウィルソン(AWARD)200円
2階で「高いなあ」と文庫をあれこれチェック。それにしても、カーの現役本に
1500円はないだろう。一体これは何なのであろうか?最近チェックが甘くなって
いるので、何が現役で何が品切れなのか、昔ほど把握していないとはいえ、このレベル
なら私でもチェックいれられるぞ。
◆以上で、古本屋巡りは終了。最終目的地「屋台村」に向かい、奥の部屋に通されるや
否や、数名の女性に取り囲まれ、メニューを片手に料理を片言の日本語で薦められる。
わけもわからず最初の中華だけを頼んで、「とりあえず」宣言をするが、どうやら
それはお作法に反していたらしい。猛烈な売りこみ攻勢を捌きながら、それぞれの
お店からバランスよく頼むのが「通」なのだそうな。なにせ、唯一人場慣れした
よしださんが彩古さんと二人で新刊書店へ「天使の屍」を捜しに行っていたので、
勝手が判らない。おまけに店の向かいの新刊書店では、よしださんの目の前の棚
から彩古さんが1冊残っていた本を引っ込抜き、あわれよしださんは更に遠い書店
へと流浪の民状態になっていたのであった。うーん、気分は「漂流街」だぜ。
とりあえずビールだ、ビール!!
後はひたすら宴会。7時半には出勤帰りの戸田さんも合流し、屋台村縁起から
いつものネット&古本話で盛り上がる。荒れるkashibaと女王さま、どこまでも
素面の葉山さんと貫井さん、聞き手に徹する彩古さん、ネタをふるよしださん&
ふくさん、謝る戸田さんと島田なやよいさん、そして遂に明かされた小林文庫
オーナーの秘密とは!!おお。しかし何があったか殆ど記憶が混濁しておるわい。
答:飲みすぎです。でも、「ショパンの告発」を石井さんに貸した事は覚えている
のだ。御近所のやよいさんと最寄駅に辿りつく頃には23時を回る。ああ、酔っ払い
の下げる荷物ではないぞ、この大荷物。帰宅即就寝。

◆「アナザ・ヘヴン(上・下)」飯田譲治・梓河人(角川ホラー文庫)読了
さて、只今メディアミックスで売り出し中のこの作品。テレビ版も録画だけはして
いるが、中身をみていない。なんでも我等が佐伯日菜子嬢もチョイ役で登場している
由であるが、とにかくテレビを見ている閑がないのである。新幹線の友には丁度いい
かもと、KIOSKで買い求めたのだが、これが当り。飯田譲治の代表作といえば、
やはり「NIGHT HEAD」であるが、個人的には「沙粧妙子 最後の事件」が
好みである。天才科学者が開発した「人間の禁忌を解き殺人享楽者へと改造する術」
により生み出された殺人マシーン達を科学者の恋人であった女刑事沙粧妙子が追う
という連続ドラマである。沙粧役の浅野温子のニューロイックな演技、同僚である
佐野史郎の怪演、次々と人格を壊されていく人々、二転三転するプロット、そして
効果的に挿入されるマドンナの歌。今も強烈な印象が焼き付いている傑作ドラマで
あった。そしてこの「アナザ・ヘブン」はその異母兄弟とでも呼ぶべき作品なので
ある。こんな話。
東京を震撼させた猟奇殺人事件は「シチュー」から始まった。妻子あるベテラン刑事
飛鷹健一郎と、モデル並みの容姿を備えた新米刑事早瀬学。二人は、これまでに斯くも
見事に調理された死体を見た事はなかった。首をもぎ取り、頭を割って取り出した脳を
シチューと一緒に煮込み、それを食べた挙句、きちんと後片付けまでしていく犯人。
首をもぎ取る怪力と余りに馴染まない現場の状況に困惑する捜査陣。だが、シチューは
ただの始まりにすぎなかった。二人を嘲笑うかのように立て続けに脳料理を披露する
「マッドクック」。が、10番目にカルボナーラにされた被害者の霊の導きにより、やがて
一人の行方不明になった女子大生が捜査線上に浮かぶ。急転直下事件が解決に向かうと
思われた瞬間、奇妙な齟齬が生じる。いつまでも醒めない悪夢。伝染する悪意。エロス
とタナトスのアラベスクは刑事達を翻弄し、そして彼等の身近に恐怖を運ぶ。
ホンキイトンクで破天荒なプロットを、澱みなく底意地の悪いユーモアを秘めた文体
で綴ったノンストップ・ホラー。夫婦の情愛、若いカップルの即物的な性愛、獣じみた
男の情欲、様々な「営み」を散りばめ、物語の迷宮に読者を誘う作者の技に悪酔いする
事必至。これもまたどこか「懐かしい」話である。ダイイング・メッセージという本格
趣味もスパイスに加えた、第一級の「美味しい」マンハント。現実の壁がちりちりと
狂気に炙られていく感覚が「沙粧」の眷属である事を証明する。絶対に捕まらない犯人の
正体は、実に「とんでもSF」なのだが、これはこれでよろしい。とりあえず、イマジ
ネーション豊かで繊細な神経をもった方には絶対にお勧めしません。


2000年5月27日(土)

◆野暮用で帰阪。間隙を縫ってキタのみチェック。何もない。結局、実家の近所
で1冊拾う。
d「年刊推理小説BEST20(1962年版)」Bハリデイ編(荒地出版)500円
◆久しぶりにネットに繋げない夜。10時間ぶっ続けで眠る。移動の新幹線であれだけ
寝ておきながら、この睡眠時間は何?

◆「金曜日ラビは寝坊した」Hケメルマン(ポケミス)読了
「こんなものも読んでなかったのか?」シリーズの一つである。勿論、作者の
出世作「九マイルは遠すぎる」は読んでいるが、こちらのシリーズは意識的に敬遠
してきた。一つに宗教ものに対する苦手意識がある。怪しげな新興宗教モノは笑い
飛ばしながら読む事ができるが性根の座った宗教モノには抵抗感が強かったのだ。
その宗教の特異性を理解しなければ、トリックが理解できない類いのシチュエー
ションを想起してしまい、気安く楽しめない感覚が駄目なのだ。中でもユダヤ教は
手強い。その凄惨な歴史と厳格な教義とそれゆえの辛辣なジョークを思い浮かべながら
しかし、この書を読んでみると、思いのほかすんなりと作品世界に入る事ができた。
食わず嫌いはいかんなあ、と反省するとともに「まだ<一週間分>の端正な本格推理
が読める」という喜びに震えた次第。
ニューイングランドの町バーナード・クロッシングの新任ラビ、デヴィッド・スモール
は学究肌であり、彼の評判は、ラビに押し出しや政治力を期待する街の有力者からは
今ひとつ芳しくなかった。赴任後1年目の「契約更改」を控え、街はスモールの続投か
否かで二分される。その最中、レストラン経営者の家の女中が絞殺死体で発見される。
しかも、被害者のハンドバックがラビの自家用車から発見されてしまったのだ!
絶体絶命の窮地に立たされるラビ・スモール。しかし、彼は全く動じる事なく、事件の
背後に潜むユダヤ人社会の綾を解き、その類い稀な洞察力で真相に迫るのであった。
丁寧に書き込まれた小さな街のユダヤ人社会、そして一見茫洋としながら示唆に富む
教えを説くラビ・スモール、小味ながらもロジックに貫かれたフーダニットの解法と
天地人揃った本格推理小説である。発表当時は、ミステリ部分よりもユダヤ教社会の
書き込みの評判が先行してしまっていたが、どうして、さすがは「九マイル」の作者
である。ただ一瞬の証拠調べで、意外な犯人が特定される醍醐味はクイーンの高みに
達している。本格推理ファンは必読。推理部分以外にプラスアルファを求める人にも
お勧め。「男は中身」という人も、この作品を読んで元気だそうぜ!


2000年5月26日(金)

◆近所のブックオフで定点観測。
d「時のロストワールド」Eハミルトン(早川SF文庫)100円
d「やとわれた男」DEウェストレイク(早川ミステリ文庫)100円
d「魔法使いの弟子」Lダンセイニ(ちくま文庫)100円
「怪人対名探偵」芦辺拓(講談社NV)500円
「巫女」皆川博子(学研ホラーNV)500円
「寒い夏の殺人」南川周三(宝文館出版)200円
全然たいしたものはない。「寒い夏〜」は、最近の自費出版本のようである。
◆帰宅すると中村さんからの交換本が到着していた。仕事、早いなあ。ありがとう
ございます。当方からの発送は、来週早々ということでご勘弁くださいまし。
d「罪・万華鏡」佐々木丸美(講談社:帯)交換
d「新恋愛今昔物語」佐々木丸美(講談社:帯)交換

◆という訳で、掲示板で話題のデュ・モーリアの件、ニフティで見つからず、

昔の投稿を元に起こしてみた。「わが幻覚の時」「愛と死の紋章」をお持ちの方、
原題を教えてくだされ。

<サスペンスもの:長篇>
Jamaica Inn 1936 「埋もれた青春」
Rebecca 1938 「レベッカ」「若い娘の手記」
My Cousin Rachael 1951 「愛と死の記録」
The Scapegoat 1957 「犠牲」「美しき虚像」
The Flight of the Falcon 1965
The House on the Strand 1969

<サスペンス物:短編集>
The Apple Tree 1952 「鳥」(抄訳)
The Breaking Point 1959 「破局」(抄訳)
Not After Midnight and Other Stories 1971「真夜中すぎでなく」
Echoes from the Macabre:Selected Stories 1971
Classics of the Macabre 1987

<普通小説:長篇>
The Loving Spirit 1931 「愛はすべての上に」
I'll Never Be Young Again 1932 「青春は再び来らず」
The Progress of Julius 1933「ジュリアス 愛と野望の果て」
Frenchman's Creek 1941 「燃えるドーナ」「愛は果てしなく」「燃える海」
Hungry Hill 1943「怒りの丘」
The King's Genaral 1946 「愛すればこそ」
The Parasites 1949 「愛の秘密」「パラサイト」
Mary Anne 1954
The Glass‐Blowers 1963
Rule Britannia 1973

◆ちょっと西へ行ってきます。次の更新は月曜日の朝かな?白梅軒のオフにまた
行けないなあ。まあ、川口さんには銀河通信オフで会えるか。

◆「青の殺人」Eクイーン=EDホック(原書房)読了
なんともふざけた出版だ。俺もミステリとの付き合いは長いが、ここまでの羊頭
狗肉には滅多な事じゃあお目に掛かれねえ。こちたらもネンネじゃねえもんだから、
クイーンが名義貸しで三文ハードボイルドを垂れ流してたってえ事は先刻御承知
だが、うぶい連中はコロリと騙されちまうんじゃねえか。罪作りなことしやがる。
何が「青の殺人」だか、正直に「ポルノ映画の殺人」と訳しゃいいものを、随分と
お上品な看板を上げたもんだ。もっとも幾らお上品に飾りたてたところで下世話な
PBの血が薄まるってもんじゃねえんだが。ちなみに、こいつが正真正銘原書初版
のカバー絵だ。

どうだい、血湧き肉踊るむんむんのPB調だろ?聞いてくれ、こんな話だ。
州知事の厄介事を片付けるのが俺のおマンマのたね。とあるパーティでスローンと
かいう映画プロデューサーに引き会わされたんだが、こいつが「ワイルド・ニンフ」
なる幻のアングラポルノ映画に惚れ込んぢまって、そいつを撮った監督を探して
いるんだと。州知事に噛み付くウーマンリブかぶれの連中に「ポルノにも名画は
あるんだ」ってえ事を思い知らせるのも手かなと思った俺だが、スローンがあっけ
なくぶち殺されちまったのには参ったね。乗りかかった船と、そのアングラポルノ
を追っかけるうちに、マン・フォト・サービスってえ現像会社に辿りついた俺は、
どうやらそこの社長が、ポルノ製作に関わっていたっていうシッポを掴むんだが、
ちょいとトウの立った「ワイルド・ニンフ」の御本尊まで拝めるとは思ってもみな
かったぜ。丁度ストライキのごたごた真っ最中に首を突っ込んだもんだから、血の
気の多い連中に絡まれるは、謎の美女が出てきてウッフンだは、さてさて、この
ややっこしい事件の犯人は一体どいつだ? 
俺はなにも腕っ節だけじゃねえ、おつむの方もちょっといけてんだぜ。ま、印篭は
出しても、「読者に挑戦」したりはしねえけどよ。

有栖川解説が、余りに提灯持ちなので、臍を曲げて安手のハードボイルド調で
書いてみたが、逆にそこまで酷いものでもない。安手のハードボイルドの体裁を
借りながら懸命にクイーン風の趣向を盛り込み消去法による犯人当てをやろうと
しているゴーストライター:ホックの姿には、なかなか心打たれるものがある。
勿論、クイーンのベストには程遠く、同じ代作者ものでも、「盤面の敵」や「三角
形の第四辺」には及ばない。ハードカバーでクイーンの新作でござい、と出す事
には大いに抵抗がある。が、ホックの初期習作だと思えば、これはこれで楽しめる。
ホックのファンはどうぞ。


2000年5月25日(木)

◆ふう、やっと給料日。でも固定資産税の支払やK文庫の買い物があるのでとても
ブルー。更に来週から6月にかけてイベントラッシュになりそうで怖い。とりあえず、
給料日当日はあれこれ定点観測。
「無頼列車、南へ」Bメッグズ(文春文庫)360円
「未亡人クラブ」Dキャネル(早川ミステリ文庫)340円
「荒涼館1」Cディケンズ(ちくま文庫:帯)370円
「ファタ・モルガーナ」Wコツウィンクル(福武書店:帯)300円
「霧と影」水上勉(新潮文庫)37円
「十二の意外な結末」Jアーチャー(新潮文庫)37円
d「ザ・クライム」山野浩一(冬樹社)37円
「スロー・ラーナー」Tピンチョン(ちくま文庫:帯)450円
メッグズとキャネルの買いそびれ補完。ディケンズ・クエストが一歩前進。唯一
珍しいといえるレベルの山野本がダブりというのが、情けない。後はジャッキー・
チェン本を2冊拾う。
「贈りもの」ジャッキー・チェン(双葉社)500円
「ジェッキー・チェン全作品グラフィティ:東映編」神保明彦編(秋田書店)500円
「贈りもの」が、いわゆる典型的なアイドル本の造りなので笑ってしまう。ジャッキーに
こんな事やらせんじゃねえ!で、これって、よしださんの探究本じゃなかったでしたっけ?
お入用なら喜んでお譲りしますんで、声かけてくださいね(私信)。
◆帰宅して、レス付け。スポーツニュースのはしごをして就寝。またしてもセリーグは
ダンゴ6兄弟状態へ。今年も6月までは野球が楽しめるかな。

◆「依頼人の娘」東野圭吾(祥伝社ノンNV)読了
今をときめく東野圭吾の連作本格推理短編集。高額所得者向けに設けられた会員制
調査機関「探偵倶楽部」が、巧妙な殺人計画を暴いていく小気味よい作品集。岡嶋二人の
「眠れぬ夜」シリーズの探偵チームを彷彿とさせるが、よりシリアスで悪魔的な色付けが
施されている。謎を解き、機関の威信を守る事が第一義であり、正義の執行には無関心、
という設定が、端整なフーダニットでありながら、一筋縄でいかない余韻を残す。
「人間を書く」というような言い訳なしに、サプライズに特化した作りは、推理ゲーム
に過ぎないという謗りを受けるかもしれないが、本格短編はこれでよいのではなかろうか。
個人的には、昨今のSFもどきの長篇よりは、キャラをあくまでも駒扱いした、この頃の
作品を評価したいところ。以下、ミニコメ。
「疑装の夜」富豪の死を巡って、その内縁の妻、義弟、秘書らが企む擬装が更なる謎を
呼ぶ。結果として不可能犯罪になってしまうという皮肉な展開を犯人側から描いた第1作。
それでいながら、きちんとしたフーダニットとして成立させてしまうところが凄い。
いちいち伏線が引かれているのだ。
「罠の中」冒頭、3人の犯人の姿が描かれる。そして、起きる「自然死に見せかけた死」。
読者は殺人である事を知りながら、それでも作者はその一手先に罠を仕掛ける。まんまと
やられてしまった。
「依頼人の娘」人情編である。自分の母の死を前にして揺れ動く乙女心が哀切。お約束の
展開ならば相当悲惨なオチを予期したのではあるが、味悪をうまく回避している。
「探偵の使い方」設定の裏をかく作品。従って本格趣味は乏しいものの、ラストの小気味
良さはピカイチ。多少自家中毒気味ではあるものの、探偵倶楽部の「意地」がよい。
「薔薇とナイフ」暴君の教授が、娘を妊娠させた男を探偵倶楽部に探させるのだが、、、
人間関係が長篇並みに込み入っていて楽しめる。探偵の悪魔性が存分に発揮された作品。
総論:東野圭吾は歴代乱歩賞受賞作家の中でも最も「本格」にこだわった作家ではなかろうか?
コードべったりのミス研系新本格とは一味違った新しい時代のフーダニットを模索していた
作者の試行錯誤の一環として記憶に止めておかれるべき作品集であろう。こういう作品が一編
でもあれば掲載誌が締まるというものである。


2000年5月24日(水)

◆朝バタバタした結果、掲示板のレスつけを一部昼休みにやってみる。出来ない相談
ではないが、本に当たれないのがキツイ。なんだか懐かしい感覚だなあ、と思ったら
そうか、自前のパソコンを持ってなかった頃ってこうだったんだよな。
◆帰りそびれ。もたもたと東西線定点観測。
d「シャーロック・ホームズのライヴァルたち1」押川曠編(早川ミステリ文庫)240円
d「夜歩く」JDカー(早川ミステリ文庫)140円
d「下宿人」Bローンズ(ポケミス)150円
d「極悪人」山田風太郎(双葉社)200円
d「ロイストン事件」Dディヴァイン(教養文庫)160円
d「チャイナタウン特捜隊」Eマクベイン(サンケイ文庫)100円
「グラント船長の子供たち(上)」Jヴェルヌ(旺文社文庫)240円
「ホームズのライヴァルたち」が嬉しいところ。ヴェルヌは出ていた事も知らなかった
類いの本だが、さて(下)と巡り合う日は来るのだろうか?

◆「キャメロット最後の守護者」Rゼラズニイ(早川SF文庫)
ゼラズニイのベスト短編集第2集。初期作から当時の最新作まで16編を収録した
御得用の作品集。ワンアイデアのショートショートあり、百頁級のノヴェラありで
楽しめる。元版から長篇の原形となった2編を除き、代わりに他では読みにくい
2中編を収録した日本独自編集が嬉しい。全作品に著者コメントがついており、
アシモフほどではないにしても、軽妙な内輪話がなんともアメリカ人。よろしい
のではないでしょうか?以下、ミニコメ。
「受難劇」作者のデビュー作。車モノ。「祭」の型に託された死と再生の儀式を
通じて描かれる未来図が斬新である。アメリカが車社会である事を再認識させら
れる掌編。美文調で高踏的で、若書きの感は免れないが、そこが微笑ましい。
「騎士が来た!」いずことも知れぬ辺境宇宙での収獲の儀式。1枚の絵画を思わせる
ラストシーンが印象的だが、正直なところ何がいいたいのかよくわからない。
「吸血鬼伝説」最後の吸血鬼が演じる皮肉な未来絵図。同じ趣向の設定は他でも
見た事があるが、ユーモラスにして哀しい滅びの情景はさすがゼラズニイ。
「おそろしい美」滅びのBGMに流れるマイルス・ディヴィス。神の視点の二人称
で飄々と描かれる60年代の終末伝説。アメリカ的「侘び」の世界である。
「復讐の女神」壮大なスペオペの要素を盛り込んだ中編。破壊者と彼を追う超能力
者チームの静かなる闘いが感動を呼ぶ。判りやすさが嬉しいマンハント・ドラマ。長篇を
支えるだけのパワーを持ったキャラクターたちが実に魅力的である。
「心は冷たい墓場」コールド・スリープ・テーマの地球年代記。時間を超越せんと
して、つまるところありふれた男女の生業の中で翻弄される野心家と詩人の滑稽劇。
少々冗長だが、最後の一幕で「いかにも古典的SF」な展開があって楽しめた。
「いまこそ力は来たりて」超能力者の孤独テーマ。あまりにストレートな展開に驚く。
「異端車」車を闘牛に見立てたアイデア・ストーリー。不思議なエキゾチズムがよい。
「フロストとベータ」超機械による創世伝説。なんとも古めかしいアイデアを
巧みにふくらませた。幕間に登場する「最後の人間を殺してしまった機械」の
存在が象徴的。原罪とは?神とは?そして人間とは?を問う雄編。人によっては
笑い話として読むべきである、という意見も出てきそうな作品ではある。
「生と死の浜辺」個人的にはこの作品集のベスト。英雄物語のエッセンスがここに
ある。身体が機械で代替されうる未来。人間は何をもって自らの人間性を証明する
のであろうか?
「血と塵のゲーム」神のゲームもの。ありふれたアイデア・ストーリー。初心者向け。
「賞はない」記憶をなくした男が「暗殺者」に仕立て上げられる様を1人称で描いた
サスペンス。ワン・アイデアながらも、それなりの読後感を残すところがさすがである。
「ここにも悪魔を愛するものが」スプラッタのお約束。これも初心者向け。
「キャメロット最後の守護者」アーサー王伝説の最終章。不死性を纏った最後の
聖杯の探索者が、因縁の環に立ち向かう。魔法あり、剣劇ありの娯楽作品。全編に
漂う高貴な滅びの雰囲気が宜しい。さすがに表題作だけの事はある。作者が楽しんで
書いているのがわかる佳編。
「そのままでいて、ルビーストーン」異星の性の営みを描いたショッキングな作品。
イラストを意識した描写が随所にあって、作者のサービス精神が光る。
「ハーフジャック」宇宙船乗りの休暇を描いた掌編。職人芸ではあるが、新しさは
感じない。これも初心者向けかな。
総論:やはり読み応えのあるのは3つの中編ではあるが、高踏的な初期短編と
通俗的な70年代最新作という対比も楽しめ、作者の作家としての成長ぶりを
知るのに適した作品集といえる。読者層を意識して、「えすえふ」のレベルを
自由に操ってみせる作者は、やはりしたたかなプロである。Zな人は必読。
というわけで、この本はmutさんにお輿入れ予定。


2000年5月23日(火)

◆収納庫の電灯が不調につき、買い換えようとするが、タッチの差で店が閉店。
ううむ、悔しいぞ。仕方がないので、一ヶ所だけ定点観測。
d「悪夢録画機」都筑道夫(光風社)200円
d「キャメロット最後の守護神」Rゼラズニイ(早川SF文庫)300円
d「インキュバス」Rラッセル(早川NV文庫)100円
またまたゼラズニイを引く。ここ2ヶ月間縁遠くなっていた分を一気に取り戻す。
取り戻してどうする?という噂もあるのだが、そこはそれ。
◆福井氏の日記で、SRの会の竹下会長の訃報を知る。西のアイドルからも別件
でメールを頂くが、告別式帰りとか。全国大会で2度ほど御一緒させて頂いただけ
の縁ではあるが、まさに生きている伝説に触れる事が出来た思いで一杯だった。
戦後、探偵小説文壇が瓦礫の中から甦って以来、あくまでもアマチュアリズムの
立場からこれを愛し、育て、叱咤してこられた竹下氏の偉業に敬意を評しつつ、
心よりお悔やみ申し上げます。

◆「リサイクルビン」米田淳一(講談社NV)読了
というわけで、作者からのご要望に応えて読んでみた。講談社NVの新刊を読むなんぞ、
「カニス」以来である(こちらも作者からのダイレクトメールに感じるところがあって
の読書であった)。さて、実は私はこの作者の文章が苦手である。特に第二人格が出て
くると、もう対応不能である。おっかなビックリでネット上のこの作品に対する感想を
みるとその殆どが、作品のトンデモぶりに、かなり当惑気味である。そこから出てくる
結論は一つ。本作は「人間消失を扱ってはいるものの真っ当な推理小説ではない」という事。
では、その消失トリックだが、通常SF的には二つの方法がある。一つはスタートレック
流の転送、あるいはテレポーテーション。今一つが、アシモフがある短編でも用いた方法
である。で、仮にこれら以外の解決を行っていれば、あるいは、最終的にその方法を
採るとしても、様々な合理的な解決が提示されていれば良しとするつもりでこの作品に
取り掛かった。結果は、既にこの作品を読まれた方はご存知のように、SFミステリと
して「ペケ」であった。こんな話。
本庁捜査一課勤務に胸膨らませ登庁したヒロインを待ち受けていたのは、オタク全開の
奇矯な上司一人が仕切る「閑職」部門。彼等が、不治の病に犯された女性達ばかりを
狙った完全密室からの連続誘拐事件の捜査に乗り出すと、直ちに一人の容疑者が浮かび
あがる。裏ゲーム界を支配するインテリやくざ鷹巣。引き続き、首都を大混乱させる
鉄道のコントロール撹乱事件が勃発する。果して犯人の真の狙いはどこにあるのか?
密室、脱獄、アリバイというミステリの古典的コードを破壊し、国家というシステム
すら無効化しながら迷走する事件を迎え撃つのは、美女とオタクと天然ボケ。四面楚歌
の中で、ネットは縺れ、因果律は崩壊する。そして、人類は純愛の鎮魂曲を聞く、、、
文章は多少説明調なところもあるが及第点。キャラクター設定は、多分に「ケイゾク」
ではあるが、掴みはOK。リーダビリティーも高く、この破天荒なプロットに呆れる間も
なく力ずくで結末まで持っていく。だが、ミステリ読みとしては、この作品はやはり
辛い。作者がミステリのコードを笑い飛ばすつもりで書いた訳ではないと頭で理解でき
ても、この禁じ手なしの掟破りの連続には辟易とする。なまじ、前半部分がそれなりに
ミステリの文法で書かれているために、余計辛い。もしかすると、相当に面白い推理小説
に化ける可能性を感じさせるのが、なんとも残念な作品である。かくして、本日の読書
時間を奪ったこの作品に対し、敬意を込めてこの称号を捧げる次第である。
この「時間泥棒!!」


2000年5月22日(月)

◆外部の会議に代理出席連荘。疲れますのう。定期が切れたので金を下ろしに新橋
まで歩く。あーーっ、そうだよ!今日って駅前広場の古書市の初日じゃん!うがああ、
すっかり忘れておったわい。なんにもないんだろうなあ、と辺りを物色。結構見ごたえ
があり文庫もお手頃価格帯ばかりで嬉しい。でも、買う程のものはない。拾ったのは
こんなところ。
d「泣くなメルフィー」Cアルレー(創元推理文庫)200円
「青いホテル・豹の罠」Sクレイン/Aピアス(英宝社)150円
アルレーは、挟み込みの新刊チラシ欲しさ。まあ、一巻本は珍しいといえば珍しいかな?
もう1冊はわけも判らず、とりあえずの押え。
今一冊拾った漫画があって、これが久々の前進。
「きょうはなんの日?スヌーピー」CMシュルツ(角川書店)300円
よっしゃあ、スヌーピーブックス72冊目!!あと14冊!!ああ遠い。
さて、そろそろ金を下ろすタイムリミットだな、と思っていると「kashibaさん!」と
どこかで聞いたような女性の声が。おお、石井女王様ではないか!「やっぱり!」
やっぱりで悪うございましたね。ここは私の縄張りだよう。というわけで文生堂の
棚の前で15分ほど立ち話。あーあ、また定期買い損ね。しかし、古本話は尽きる
所を知らない。では、お互いもう一ヶ所といいつつ別れるまで、古本つながり系の
話題で楽しむ。よろしいのではないでしょうか。うーん、またしても人妻から声を
掛けられてしまったワタクシであった。
◆膳所さんから、メッグズにはもう1冊翻訳があるという指摘をうける。TRCで
検索すると、おお確かにございました。この題名には記憶がございます。またしても
腑に落ちる一瞬。ご指摘ありがとうございまする。

◆「死の旅券」エド・レイシイ(ポケミス)読了
人種ネタや悪徳警官もので名を残したエド・レイシイの出世作。ペパーバックライター
だった彼が最初に世に問うたハードカバーなのだそうな。作中、主人公が「ペリイ・
メイスン」と冷やかされるくだりがあるのは、当時の超売れ線であったという事なの
だろうか?いずれにしても、ガードナーへの憧れか敬意が書かせた台詞であろう。
ポケミスの300番台は黄金期の本格に混じって意欲的にハードボイルドを紹介して
おり、以前取り上げた「恐怖のブロードウェイ」とか、マイケル・シェーンものが
あったりして楽しい。スピレーンで幕を開けた叢書が、次なるドル箱を探していた
のであろうか?この作品の探偵もなかなかイマ風である。プロレスラーと見まがう
巨躯とバカ力の持ち主でありながら、専ら民事しか扱わず、年上の妻を亡くし男手一つ
で養女を養う心優しい男バーニー。彼のもとに義弟である警部の紹介で持ち込まれた
事件は、なんと「警官殺し」の犯人捜しであった。食品のキャッチフレーズ募集で
一席をとり1000ドルを手にしたアンダーサンという冴えない若者と野心家の
刑事エドがうらぶれたバーの前で射殺されるという謎の二重殺人事件。果して犯人は
どちらを殺そうとしたのか?警察は普通、仲間殺しの捜査によそ者の介入は許さない。
それがわざわざ民事専門の私立探偵を紹介したのは、エドの妻ベッツイがエドの自殺
説に固執したためだった。半ば、未亡人への「安心毛布」がわりに雇われたバーニーで
あったが、思わぬ僥倖から、事件の背後に潜む功名なカラクリに迫るのだった。
物語のかなり早い段階から真犯人たちの姿がカットバックで挿入されるため、
ビックリのテンションは下がるものの、「動機なき殺人」ものとして良く出来ている。
探偵側のみの記述で勝負すれば、かなり印象に残る「そんなんありか」話になった
かもしれない。この類いの話の常として、脇を固めるキャラクターたちも魅力的であり、
特に主人公と組む事になる盲目の元プロレスラーが良い味を出している。探偵と彼の
娘との交感ぶりも微笑ましく、楽しい読み物に仕上がっている。決してミステリ史上に
名を残すレベルの話ではないものの、やや重いテーマの掘り下げに進む前のレイシイを
知るのに適した娯楽作である。


2000年5月21日(土)

◆いい天気なので、昼から京成沿線を攻めてみる。途中、森さんとSAKATAM
さんに送本。バスでゴーゴー、一軒目はブックオフ。
「SS−GB」レン・デイトン(早川書房)100円
「白蝋怪」横溝正史(桃源社)100円
「迷宮世界」福島正実(フォア文庫)100円
「寄り目のテディベア」Eマクベイン(ポケミス:帯)600円
エスピオナージュ属性の薄いワタクシとしては、かの架空ナチものの名作「SS−
GB」すら買っていなかったのだな。文庫も品切れと聞き、ようやくゲットする気
になった。マクベインのピカピカのポケミス新刊が、早くもブックオフ落ち。これは
昨日書店で横目で睨んでスルーした本。うっふっふ、600円もうけ。
二軒目は、いとう系のお店。
「ヴィクトリア朝妖精物語」風間賢二編(ちくま文庫)350円
「危険なアイドル」草川隆(ソノラマ文庫)100円
d「メグレと宝石泥棒」Gシムノン(河出書房)250円
d「刑事コロンボ・毒のある花」リンク&レビンソン(二見書房)150円
「幻視界第二界−異界海流」川又千秋(徳間NV)300円
「幻視界第三界−幻創領域」川又千秋(徳間NV)300円
「鉄のオオカミ」Rアダムズ(新書館)300円
「惑星ヒミコの貴婦人(上・下)」森奈津子(小学館キャンパス文庫)200円
「犬神家の一族(上・下)」JET・横溝正史(角川ASUKAコミックス)500円
ちょぼちょぼ拾っていたら結構な数になっている。森奈津子のこの上下巻には
てこずらされた。いよいよ森奈津子クエストもゴールが見えてきたかな。コロンボ
は、いわずもがなの小泉喜美子訳ゆえの押え。
三軒目は、昔ながらの街の古本屋。ここで大当たり。
「ブライヅヘッドふたたび」Iウォー(ちくま文庫)450円
「荒涼館2」Cディケンズ(ちくま文庫)370円
「恋のお守り」Wデ・ラ・メア(ちくま文庫)500円
「水木しげるの妖怪事典(上)」水木しげる(講談社X文庫)400円
「競走馬空輸殺人事件」新橋遊吉(春陽文庫)200円
へ?何が大当たりか?むっふっふ、これです、これ。
「忍法相伝73」山田風太郎(講談社風太郎忍法帖6)600円
本当に久しぶりに、大物が安価で入手できてラッキーハッピー。5万アクセス
越え記念で、来た来た来ましたあああ!!「血風!!」
勘定の際に店主が「しっかし、バラバラの趣味だねえ」と一言。あははは、いや
まあ、大抵のものは買っちゃってるのでとかヤバイ事を口走らないように、にこにこ
と沈黙を守る。ここで下手を打つと、相伝の値が跳ね上がるやもしれぬ、と戦々恐々。
無事支払を終えて、ほっとしながら店を出る。ふーーう、やっとこれでオイラも
「忍法相伝なんて珍しくないもんね」同盟の一員だぜい。まっこと、たまには、
リサイクル系以外のお店も回らなくてはいけないという事ですのう。
4軒目も、町の古本屋だが、こ綺麗系なので大したものなし。
「天使と悪魔の物語」風間賢二編(ちくま文庫:帯)500円
「乱歩の幻影」日下三蔵編(ちくま文庫:帯)600円
えーっと、日下さん、ごめん。
5軒目は、均一棚が楽しい街中系古書店。
d「巨匠を笑え」JLブリーン(早川ミステリ文庫)50円
d「死体は沈黙しない」Cエアード(早川ミステリ文庫)50円
d「飢餓列島」福島正実・眉村卓(角川文庫)50円
d「ドリームマスター」Rゼラズニイ(早川SF文庫)50円
「おれたちはブルースしか歌わない」西村京太郎・峰岸とおる(講談社コミックス)250円
4冊200円の条件下、厳選された4冊である。これでエアードがまた3冊セットに
なった。Masamiさんところの掲示板で、東西の両アイドルが頼まれ探究していたみたい
だけど、どうしましょうね?
6軒目は、リサイクル系。
d「屋根裏の散歩者・D坂の殺人事件」江戸川乱歩(新潮社Pico文庫)50円
d「魔女も恋をする」風見潤編(コバルト文庫)40円
「東京シャンゼリゼ殺人事件」井口泰子(コバルト文庫)40円
d「ふるさとは水の星」森下一仁(コバルト文庫)40円
d「宇宙のファイアマン」横田順彌(コバルト文庫)40円
d「西武池袋線ラブストーリー」矢崎麗夜(講談社X文庫)40円
「静かな教授」多岐川恭(徳間文庫)140円
「紅い蜃気楼」多岐川恭(徳間文庫:帯)170円
d「わが名はコンラッド」Rゼラズニイ(早川SF文庫)140円
d「砂の中の扉」Rゼラズニイ(早川SF文庫)140円
d「燃えつきた橋」Rゼラズニイ(早川SF文庫)140円
「シャーロック・ホームズ:切り裂きジャック」ドュシャトー&スティバーン」(偕成社)1000円
風見アンソロジーを拾うために5冊200円に挑戦。うう、重いよう。ゼラズニイが、
見つかる時は何故か団体さんで見つかる。本日だけで4作ゲット。みやさん用には
「時すでに遅し」だが、どなたかお入用の方はいらっしゃいますかな?
最後のホームズものは、フランスコミック。95年に出ていたらしく、まだ現役かも。
ホームズが5冊、ルパンが5冊出ていたようである。翻訳が長島良三。ちょっと
お洒落で宜しい。
いやあ、買った買ったあ。何故か昨日今日で定期代に下ろしておいた金が消えて
しまう。参ったね、こりゃ。
◆昨日に続いて居酒屋で読書して、ほろ酔い加減で帰ってくると、郵便受けに
荷物が。あれれ、もしかして昨日の内に届いていたのかな?取り出すと、よしださん
からの交換・丸美本3冊でした。どーも、ありがとうございまするるる。
d「雪の断章」佐々木丸美(講談社)交換
d「崖の館」佐々木丸美(講談社)交換
d「夢館」佐々木丸美(講談社)交換
これはこのまま、銀河通信行き。さあ、いよいよ辛いゾーンに突入してきたぞう。
名古屋のお方にピンチ通信でも打つかな。(それにしても、中日強すぎ:泣)

◆「サタデー・ゲーム」Bメッグズ(ポケミス)読了
45歳でデビューした作者の処女作。この後、第2作の「九人の失楽園」が同じく
ポケミスから刊行されているが、第3作は、自らの経験に基づくレコード会社を
舞台にしたストレート・ノベルだったようで、以来、ミステリからは遠ざかったの
であろうか、とんと名前を聞かない。作者と同世代の中年男性の「不満」を軸に
した良質のサスペンス作家、という触れ込みなのだが、さて?
パサディナのジェット推進研究所仲間が、チームのトップであるバロンの妻にして
奔放な男性遍歴を続けるウーマンリブかぶれの悪妻エムジェイと密かにマリファナ・
パーティを開く。めくるめく快楽の中で、ほんの些細な諍いが、やがて本物の暴力に
転化していく。そして、その翌朝からドラマは始まる。3人の男は、何か禍禍しい
事が起きた断片的な記憶に苛まれながら、寝取られ夫のバロンと朝一番からテニス
に勤しむのであった。試合に集中しきれない彼等はカットバックで、前夜の乱交に
至る記憶を反芻するのだが、肝心な部分は思い出せない。彼等が1ゲームをこなした頃、
子供の密猟者を捉えた警官達は高級住宅街傍の森の中で、辺りの大自然にそぐわない
ものを発見していた。それは、大きなゴミ袋に詰められた美女の全裸死体であった!
報せを受けたコッケー警部は、付近の有力住民を刺激しないように、上流階級出の
異色の警部補フレールを事件に当たらせようとする。哀れ、精神科医の恋人と贅沢な
ワインと手製の昼食を取るプランをたてていた非番のフレールは、上司の懇願とも
言える要請にしぶしぶながら応え、死体の身元捜しから始めるのだが、、
徐々に明らかされていく「失われた記憶」と、警察側の捜査が交互に描かれ、
事件の構図が読者の前に晒されて行くという構成にはそれなりの工夫が感じられる
ものの、正直なところ「ありきたりの警察サスペンス」との印象を払拭する事が
できなかった。但し、それは終章に至るまでの話である。
「いやあ、まんまとしてやられました。」
全く、中年男というのは、だから油断ならない。第2作も期待しちゃうぞ。