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2000年5月20日(土)

◆おかげさまで50000アクセス突破しました。白梅軒の店長様に踏んで頂き
ました。カウンター設置が昨年の9月1日ですので、263日目で達成する事が
出来ました。ありがとうございますありがとうございます。突破企画は昨日の
日記にも書きましたように特段準備しておりませんが、6月10日あたりでオフ
会でもやりましょうかね?また詳細が固まりましたらご案内致します。
◆朝から雨。最も古本狩りに向かない天候につき、おとなしく本屋などを回る。
「ヴァスラフ」高野史緒(中央公論社:帯)1900円
「見えない蜘蛛の巣」Cアームストロング(小学館文庫:帯)657円
「帰ってこない女」MRラインハート(小学館文庫:帯)695円
「『シュピオ』傑作選」ミステリー文学資料館編(光文社文庫:帯)724円
文庫の3冊は絶対お買い得!はっきりいって今はとてもいい時代である。買い物
を済ませてボンヤリ漫画の棚を見ていると「kashibaさん!」と名前を呼ばれて
ドキリ。おお、安田ママさんでしたか!旦那さんとお嬢さんも御一緒だったそう
だが、隠れていたそうな。うーん、確かに私も逆の立場なら、隠れちゃうかもなあ。
お嬢さんにお目通りかなえなかったのは少し残念だが、そこは潔くあきらめる。
それにしても、なかなかママさんの制服姿は拝めませんのう。
◆本棚を物色にスーパーに移動する。送料はとられるは、時間指定は出来ないは、
という事だったので、これも潔くあきらめる。レコード屋(死語?)でCDを物色。
佐伯日菜子のデビューシングル、浜崎あゆみのリミックスアルバム、最近嵌まって
いる「檄!帝国華撃団」を購入。スーパー内の本屋でマンガをごっそり買い込み。
「将太の寿司:全国大会編15」「MAJOR 25〜29」「JOJOの奇妙な
冒険:ストーン・オーシャン1」「からくりサーカス11、12」「カンブリアン2」。
うーん、散財散財。古本でないものを思いっきり買ってしもうたわい。そのまま
居酒屋で漫画をアテに夕食、「漫画居酒屋」状態。帰宅して、掲示板のレス付け
を終えてから平日の起床時間ぐらいまでマンガモード全開。いやあ、久々に漫画漬け
の1日であった事よ。無性に絵を描きたくなるが、睡魔に負けて就寝。

◆「彗星パニック」岬兄悟&大原まり子編(広済堂文庫)読了
漫画ラッシュの間隙を縫って今日の課題図書をこなす。SFバカ本第6弾!
もはやこの叢書については、多言を要しないので、のっけから、以下ミニコメ。
「楽しい通販生活」この程度の定型文書のパクリなら中学生でも出来る。後は
いかに、変なものを売るかだが、どうもこじんまり纏まり過ぎた感が強い。最初
の商品説明に挿入される「断り」が一番笑えた。
「電撃海女ゴーゴー作戦」牧野修の天才が爆発した「メタ・アクション<小説>」
この1作のために、この本を買う値打ちがある。虚構の世界を渡り歩き、因果の
果てに災厄を駆逐する特殊部隊が「海女」という不条理!!プロではないって事
なのかな?異常な設定のもと、奇矯な特務エージェントが、チームヒーローものの定石
に則ってそれぞれの特殊技能で不可能を可能にしていく様は、痛快の一言。これは
オモシロすぎ。最近のホラー長篇よりも全然よい。
「おれのものはおれのもの」貧乏作家ネタ。パラレル同窓会なのだが、結末は相当
に悲惨で、笑えない。
「笑う『私』、壊れる私」作者が、最近ファン倶楽部会長と再婚したという予備
知識故に心やすらかには読めなかった。ここまで、結婚の修羅をネタにしてもよい
ものであろうか?売文業を「娼婦」に例える呉智英の達観を彷彿とした。まあ、
電波も少々入ってそれなりには面白いのだが。
「つるかめ算の逆襲」形而上SF。こういう事を思いつくのは理科系。楽しめる
のも理科系。文科系のワタクシ的には早く終らないかなあ、と頁を繰っていただけ。
「江戸宙灼熱繰言」こちらは素晴らしく文科系SF。これまでの著名なエイリアン
の侵略を歌舞伎に見立て、それを歌舞伎評論の文体で分析するという画期的な
思考実験。才人の筆が冴え渡る逸品。これぞ翻訳不能な純日本SFである。
「月下の決闘」裏バレイの使い手の純愛を描いた大バカ話。梶尾真治のお笑い
サイド・オブ・フォースが横溢した作品。矢継ぎ早の展開に、お約束のオチ。
いやいや、職人芸的「読む漫画」。
「南、もしくは」人間レミングものの亜種。ひまわり症候群というネーミング
以外に左程の新味は感じなかった。
「ヘル・シアター」切れの悪い漫才とコントの連続にうんざり。オチもどうと
いうレベルの話ではない。これをやるなら「無重力ビリヤード」という先例を
越えて頂きたい。
「墜落」編者の作品。またもやエスカレートものの凡作。読者をなめるな。
「手仕事」久美沙織という作者に抱いていた幻想を完膚なきまでに破壊し尽くす
禁じ手小説。面白くなくはない。が、いくら人間、中年の坂に差し掛かったと
いっても、これはなかろう。所詮、シモネタはシモネタである。これまでのファン
タジー作家としての輝かしいキャリアに泥を塗る作品。読むんじゃなかった。
総論:典型的玉石混淆。牧野、梶尾、いとうの3作品を読めばそれでいい。


2000年5月19日(金)

◆未明からサーバーが絶不調。更新も掲示板のレスつけもできないままに、出社。
余波で、銀河通信さんの掲示板で大失態(削除済み)。安田ママさん、すみませーん。
10時半過ぎに復旧。「速ければ今日中にも」と期待していたアクセス五万突破は、
明日以降にお預け。1万、3万と企画をやってきた手前、5万でも何か出来ないか
と悩むが、オフ会も、ダブり本プレゼントも皆さんあれこれやっておられるので、
今更の感が強い。でも、昨年の3月に開催された小林文庫さんの5万アクセス突破
記念オフが、この世界にのめり込む切っ掛けの一つでもあり、5万という数字には、
感慨深いものがある。あの時、とても届き得ないと思っていた数字を目前に控えて
ここを御訪問の皆さんに心から感謝申しあげる次第である。
◆というわけで、5万を踏んだ方は、ご申告ください。お願いします。
◆西大島、南砂町定点観測。
「地下造幣局」南條範夫(徳間文庫)160円
「エーゲ海に死す」南條範夫(徳間文庫)180円
「情事の連環」南條範夫(徳間文庫:帯)140円
「いつかあなたが」南條範夫(徳間文庫)180円
「見えない鎖」南條範夫(徳間文庫)220円
「宝石泥棒G・オハラ」南條範夫(角川文庫)190円
「参謀本部の密使」南條範夫(角川文庫)210円
「黒い九月の手」南條範夫(角川文庫:帯)190円
「屈み岩伝奇」南條範夫(角川文庫)130円
「生きている義親」南條範夫(角川文庫)150円
「牛乳配達退場」Cマクラウド(創元推理文庫:帯)250円
d「深夜の張り込み」Tウォルシュ(創元推理文庫)120円
d「迷宮へ行った男」Mラッセル(角川文庫:帯)170円
d「悪党パーカー/犯罪組織」Rスターク(早川ミステリ文庫)140円
d「悪党パーカー/弔いの像」Rスターク(早川ミステリ文庫)130円
d「やとわれた男」DEウェストレイク(早川ミステリ文庫)170円
d「芙蓉屋敷の秘密」横溝正史(角川文庫)150円
d「末枯れの花守り」菅浩江(角川書店:帯)100円
d「シグナルは消えた」鮎川哲也編(徳間文庫)50円
d「殺人列車は走る」鮎川哲也(徳間文庫)50円
未所持の南條範夫のミステリを買い込む。ああ、まだこんなに未所持の本を買える
なんて幸せ。改めて角川文庫と徳間文庫が意欲的に日本人推理作家の名作を文庫化
していた事が判った。立派立派、褒めて遣わす。
青木みやさま、私そんな知識ないです。「猿」も深くないです。あれはお笑いです。

◆「死がかよう小道」Dキャネル(教養文庫ミステリーボックス)読了
それまでバラバラだった知識が、ある切っ掛けで一つの絵となって腑に落ちるという
経験は誰しもお持ちだろう。私も今回、この本の後書きを読んで、その快感を味わう
事ができた。「へへー、この作者って、カネルじゃん!」脳内データベースには完全に
ドロシー・カネルで入力されていた「いい女の殺し方」の作者ではないかいな。
しかも、浅羽莢子曰く、この後ハヤカワで第3作が出版されるとある。原題を見ると
おお!「Widow’s Club」。「なんだよ、『未亡人クラブ』だよー」。
講談社、社会思想社、早川書房、とまあ見事に出版社がバラバラ。「未亡人クラブ」
とこの作品は作者名を記憶していなかった私がそもそも悪いのだが、とりあえず、
この作者の作品が後2作は日本語で読める事が判ったのが嬉しい。つまりこの作品
が私のツボに嵌まったという事である。こんな話。
牧師の娘テッサは、自分が養女である事を知り、いつか生みの母親に会う事を心に
誓っていた。そして偶然に参加したツアー旅行先で、自分の名を持つ捨て子の伝説に
出会った事が彼女を、奇妙な姉妹の棲む僧坊館への潜入を決意させる。抵抗する
幼なじみのハリーを「陰謀」に引きずり込み、「院長の小道」で一芝居うつテッサ。
その小道は、何百年前かにテセイルという名の修道僧が村の処女を妊娠させた挙句、
自ら首を縊った小道であった。その遺児テッサの子孫が今もその僧坊館に住むという
のだ。記憶喪失を装い館の食客となったテッサは、ハイアシンスとプリムローズという
花の名をもつ奇矯な老姉妹の好奇心を掻い潜りながら、自分の過去を探ろうとする。
空き巣あがりの執事の奇行に戸惑い、世慣れた訪問看護婦と彼女の息子と友達になる
テッサ。寄宿3日目、テッサは老姉妹とともに、オタクな地主と子離れしないその母親
の館に招かれる。そこで彼女は、一癖も二癖もある地主の客の中に、かつての雇い主で
あった画廊経営者がいる事に気づく!!なんとかその場を切る抜けた彼女であったが、
その出会いが、やがて画廊主の死に繋がる事になろうとは、知る由もなかった・・・。
英国伝統の「リージェンシー・ロマンス」をおちょくり倒し、「ゴシック・ロマンス」
のスパイスも少々利かせたスリルと笑いのロマンティック・ミステリー!これでもか
というほど、黄表紙風のキャラクターと小道具を用いながら、読者の意表を突く展開を
加え、ダイイング・メッセージに、巧妙なホワイダニットに、叙述トリックという
ミステリのツボも押えた堂々たる娯楽作品。なんともしたたかな読み物である。
しかも、犯人捜しと母親捜しの二つの大きな謎は勿論、ごく瑣末な謎に至るまで、全て
にわたり解決をつけてみせる律義さには頭が下がる。恋愛小説の手法を採用している
ために、純正のミステリ読みには、出だしが少々とっつき悪いものの、中盤の大どんでん
返しと、それに続くミステリとしての盛り上がりには拍手喝采。まさにページを繰る手が
もどかしい作品である。ハーレクイン・ロマンスが好きな人も、皮肉なユーモア推理が
好きな人も皆さんどうぞ。こういう話に出会えるからこそ、旧作発掘がやめられない。


2000年5月18日(木)

◆前日の日記を書いてアップしようとするがサーバーがメンテ状態で不通。泣く泣く
諦めて出社。会社からアクセスする頃には復旧しており、一安心するも、早起きして
感想文をまとめた甲斐がないというものである。ぶつぶつ。
◆残業。古本を買う気力もなく真っ直ぐに帰る。二日続けて購入本0冊。快挙。

◆「クリスタル・サイレンス」藤崎慎吾(朝日ソノラマ)読了
「コスモス」という科学TV番組を御存知だろうか?あのカール・セーガンが森羅
万象についての解説にこれ務める米・独・日他共同製作の傑作ドキュメンタリー
である。当時の技術の粋を集めたCGや、科学者列伝の豪華なセットもさること
ながら、ヴァンゲリスやラリー・ファーストのシンセ音楽とクラシック音楽・邦楽を
巧みに組み合わせたBGMがこれまた印象的。まさに叡智と贅を尽くした番組であった。
以降の科学ドキュメンタリーの型を作った番組といってもよい。どこまでも真摯に科学と
人間の可能性を説くカール・セーガンの姿は、私の「理想の科学者像」でありつづけて
いる。そしてなぜか、本作を読んで、その番組を彷彿としてしまったのである。
この作品は面白い。この作品は丁寧である。この作品は新しく、そして懐かしい。
こんな話。
2071年、列強のテラ・フォーミング競争にある火星の北極冠地下から節足動物を
移したような高等生物の「貝塚」が発見される。世論を怖れ、これを秘密裏に研究
しようとする列強政府。縄文土器に魅せられ考古学への道を選択した若き研究者
サヤ(飛鳥井沙耶)は、政府からの依頼を受け「貝塚」の謎を探るために火星に
飛ぶ、ネット上で知り合った恋人ケレン・スーとも訣別して。しかし、そのセーガン
生物群の研究を喜ばない勢力がいた。日本のIT産業と兵器産業を牛耳るワイルド
ウエスト社、その若き総帥ツカダは、地球外生命体の研究による戦争回避カードの
選択を許さなかった。巧妙にかつ大胆に仕掛られる妨害工作。危うし、サヤ!
仮想電子空間の「透明人間」は、サヤを護ることができるのか?そして、彼の正体は?
一方、突如火星のコロニー周辺に繁茂し始めた植物風の鉱物:クリスタルフラワーは、
人類たちに「干渉」し始めるのだった。
火星に、電網に広がる謎、渦巻く野心、試される愛、弄ばれる生命。データという
名の「存在」が目論む滅びの構図。生きとし生ける「もの」どもの思いは火焔土器の
風が奏でる時の調べに乗って、赤き星の上で交錯する。透明人間は電気ゴキブリの
悪夢を祓えるか?
瑣末へのこだわりと壮大な構想が、圧倒的なリーダビリティーで語られる文句なし
のエンタテイメント。作者のSFへの愛が随所に感じられる意欲作である。とにかく
イマ風のサイバーパンクにナノ・マシーン、「コスモス」的生物考証がてんこ盛り。
その上で古典的ボーイ・ミーツ・ガールスタイルを踏襲し、未来へ向かって進もうと
する人間の性を描き切った物語である。読みながら登場人物に感情移入する小説は
数限りなくあるが、これは、作者に感情移入しながらエールを送りたくなる、そんな
小説なのである。頑張れ!藤崎慎吾!!


◆猿でもかける「幸い」話(「猿とサイファイ」<シランガナ>収録)

「幸い」という若者がいた。
彼の語りは、一風変わっていたために部族の若い者の好評を博した。
しかし、昔からの語り部や村の年配層からは異端視され、
そのことがかえって「幸い」の取り巻きたちを頑なにさせた。
「幸い」の説く事はあたかも人としての道となり、
「幸い」は取り巻きたちから崇められるようになった。
「幸い」の話を聞くために、多くの約束事が生まれた。
そして、時が流れた。
やがて、他の村から「幸い」の評判を聞いて話を聞きにくる
ものどもが現れた。
「幸い」の取り巻きたちは一晩目に「幸い」の縁起を語った。
二晩目には「幸い」の話の聞き方を説いた。
三晩目には「幸い」の話を聞いた後の振るまいについて説いた。
四日目の朝に、一行の一人が「いつになれば『幸い』の話が
聞けるのか」と尋ねたところ、取り巻きの長は、激怒した。
「その問いこそが『幸い』のことがわかっていない証拠だ!
一体、これまで三日間何を学んだのか!?自ら考えないものに
『幸い』は語らぬ!!」
一行は異口同音に言った「ならば『幸い』はもう死んでいる」
「何をいうか!!『幸い』はここにおられる!!」
長が虚空を指した時、声が語り始めた。

それがこの話である。


2000年5月17日(水)

◆門前仲町定点観測。何もない。身体もへたれているので、そのまま帰宅、はやめ
に飯食って、掲示板のレスつけ。早く寝るつもりが結局23時を回る。でもいいもんね。
明日は5時まで寝るもんね。夜レスの方が人間らしい生活リズムかもしれない。
◆ペリー・ローダンが掲示板で盛り上がっているが、私も一時期嵌まった時期があった。
それこそ、学生時代第二外国語でドイツ語を選択した主たる理由が「いずれは
ローダンを原語で読む」だったのだから笑わせる。いまや、日本語バージョンすら
置いてけぼり、投げているところから既に100巻以上離されてしまった。にも
関わらず、その気になれば追いつける気がしているところが「阪神ファン」である。
それにしても、松谷健二既になく、ローダン世代の翻訳家が後を襲名しているのを
見ると、これはもうローダン道の世界である。ローダン絵師の依光隆が亡くなったら
一体誰が後を継ぐのだろうか?まぎれもなく依光隆こそは、早川SF文庫に最も
多く絵を描いた人だよな。うーん、「<大宇宙を継ぐ者>を継ぐ者」。

◆「十二人の少女像」Sマーチン(創元クライムクラブ13)読了
クライム・クラブの植草セレクションで、最も首を傾げるのは「死の逢引き」なの
だが、この「十二人の少女像」もなかなかである。解説によれば、この処女作以降も
同じ考古学者を主人公とする作品を2作は書いているらしいが、とんとその名を
聞かない。アンチョコに用いているセント・マーティンの事典にもその名は出て
こない。なぜ、そんな事にこだわるかと言うと、この作品が実に妙な作りの話だから
である。チャリス教授というアメリカ人の考古学者が主人公なのだが、まず、出だし
が凄い。夕暮れの街を散歩する内に、もと知り合いが住んでいた家に向かい、思い出
に耽っていると、今の主に招かれ話込んでしまう、というのが発端なのだ。そこで
教授は、知り合いの亡くなった後でその家を引き取った彫刻家の失踪事件に首を
突っ込む事となる。なんとも強引な導入部に続き、その女たらしで贋作者の彫刻家
を追って話の舞台がギリシャに移ると、アメリカにいた関係者全員がギリシャに
向かうというご都合主義。更に、クライマックスでは、これもまたほんの偶然から
とある場所に関係者全員が集合するという凄まじさ。このプロットの安易さは、
黄金期スペースオペラを思わせる。「十二人の少女像」とは、事件の中心にいながら
終盤までその姿を見せない彫刻家が失踪前に残した習作を指し、この像があらゆる
出来事の発端であり、結末である事を思うと実に印象深いネーミングであると言える。
しかし、話は頂けない。ミステリ的には、ある大仕掛けが一つあるのだが、これとても、
フェア・プレイの欠片もない「ためにする」仕掛である。いわゆる「巻き込まれ型」の
サスペンスの伝統を踏まえた、と言えなくもないのだが、余りにも探偵役がおせっかい
であり、邪魔なのだ。Curiosity Hunterという字義通りの「猟奇の徒」なのだが、
はっきりいって、この探偵がいなくともこの話は充分に成立する、と感じた。
「死の逢引き」がクライム・クラブの「変で退屈」の王様であれば、この作品は
「不自然で御都合主義」の雄であろう。クライム・クラブ読破を志した人が読めば
いい作品である。


2000年5月16日(火)

◆昼休みに、会社の近所の本屋で1冊買い物。
「日本ミステリー事典」権田・新保監修(新潮社:帯)2000円
たまたま、第一刷が残っていたのでゲット。婚姻関係をチェックすると、なるほど
ちゃんと載っている。
◆少々残業後、天気も良かったのであれこれ定点観測。
d「占星王はくじけない」梶尾真治(新潮文庫)100円
d「リラ荘殺人事件」鮎川哲也(角川文庫)100円
d「鉄塔の怪人/海底の魔術師」江戸川乱歩(講談社乱歩文庫)350円
d「忍法行雲抄」山田風太郎(角川文庫)250円
d「この荒々しい魔術」Mスチュアート(筑摩書房:函」400円
「失われた文明の記憶」光瀬龍(青春出版社)400円
などというところを駅のワゴンで拾って、南砂町下車。いつものたなべ書店へ
行くと、百円均一棚にずらりとこんなものが。ああ、よしださんのゲット報告を
見ていなければ絶対手を出さないものなのに、、
「キッシンジャー暗殺」J・ド・ヴィリエ(立風書房)100円
「いとしのサブリナ」J・ド・ヴィリエ(立風書房)100円
「CIA長官の自殺」J・ド・ヴィリエ(立風書房)100円
「林彪誘拐」J・ド・ヴィリエ(立風書房)100円
「ヒロシマの復讐」J・ド・ヴィリエ(立風書房)100円
「ベガスの殺人会社」J・ド・ヴィリエ(立風書房)100円
「シスコの女豹」J・ド・ヴィリエ(立風書房)100円
「日本情報部対CIA」J・ド・ヴィリエ(立風書房)100円
「アテネ殺人事件」J・ド・ヴィリエ(立風書房)100円
「白夜の魔女」J・ド・ヴィリエ(立風書房)100円
ご存知プリンス・マルコの立風版。これでおそらく揃いかな?やってしまいましたあ。
あと、1冊。これは八重洲BCあたりでは現役だとは思うが他ではみなくなって
きた本。100円なので躊躇なく押える。
「ゴルファー シャーロック・ホームズの冒険」Bジョーンズ(ベースボールマガジン社)100円
◆帰宅すると、本が届いていた。
「駅馬車」Eヘイコックス(早川NV文庫)頂き!!(膳所さんから)
d「アンバーの九王子」Rゼラズニイ(早川SF文庫)交換!!(松本さんから)
d「おもいでエマノン」梶尾真治(徳間文庫)交換!!(松本さんから)
ありがとうございます。確かに「駅馬車」にはグルーバーの短編が収録されている。
うーん、これは見落としますね、普通。松本さんからの2冊は、青木みやさんと
Moriwakiさん用に確保。それにしても、一体何冊の「エマノン」が私の手元を通り
過ぎていったことやら。ソノラマからでも復刊しないのかな。勿体ない。
◆最近「ネット(文)体」という言葉を見かけるのだが、この表現を怖れるものである。
所謂「昭和軽薄体」といわれる文体の流れなのだろうが、個人的には伊丹十三だった
かが言った「話体」という表現が気に入っている。そもそも、話言葉風に文章を綴る
のは、ネットに始まったわけではない。それを改めて「ネット体」なる媒体に拠った
言葉で括ってしまうのはいかがなものだろうか?ネット上にも格調高い文章は存在
するし、一方では話し言葉にさえなっていない「呟き」や「ぼやき」レベルのものも
ある。(笑)や「ぽりぽり」は活字の世界にも侵食していっており、敢えて挙げれば
「顔文字」が特殊ネット的な表現であろうか?(^×^;>

◆「若狭湾の惨劇」水上勉(春陽文庫)読了
1中編と5短編からなる作品集、というような事すら読んでみるまで気がつかな
かった。実は長篇だと思っていたのだから情けない。解説のかけらすらない春陽
文庫も春陽文庫なのだが、そこはそれ「春陽文庫ですから」。果してこの辺りが
他の出版社から出ている文庫本に収録されているのかどうかすら不明である。
水上勉といえば、今ではすっかり文学者であり、「飢餓海峡」のような社会派推理
の代表作までを「水上文学の精華」と呼ぶ事には抵抗があるものの、確かに文格は
高く、トリックよりも人間の生業の中に「謎」を追った作家である。この作品集に
収録されている掌編にも、作者が自らが登場しそのような心情を吐露している。
「近作の『雁の寺』にしても一介のこの愛読者から文句をいわれるような拙劣な
トリックを披露している」などというくだりを読むと「こいつ、軽いやっちゃなあ」
という感想も抱いたりするのだが、気さくな大作家なのかな?以下、ミニコメント。
「若狭湾の惨劇」表題作であり、文庫本にして130頁の中編。雑誌であれば、堂々の
長篇!!と表紙に煽りを入れる長さである。若狭湾の岬で、黒鯛釣りに来ていた繊維
会社社長が「事故死」を遂げた。辺りに目撃者はないものと思われたが、国鉄で車掌
を務める時岡は、列車から僅か40秒だけ望めるその岬の風景を愛していたがために、
死亡時刻と目される時間帯に岬に、赤いセーターの女がいた事を目撃していたので
あった。推理好きの時岡が、休みを割いて「事故死」の裏を探り始めるや、死体の
不審点を発見される。彼の捜査が、繊維会社の不正事件を追っていた二人の刑事と
交わる時、一見単純に見えた事故死の背景にある陰謀がその姿を現す。風光明媚な
田舎町とそこに住む純朴な人々の描写が素晴らしい。ミステリとして見た場合の
アリバイトリックは、相当に土地鑑のあるものでなければ理解できない類いのもの
であるが、死体消失についてはなかなかの解法を示した作品。動機が戦争を引き
摺っているのは当時の社会派の常か。前半のゆったりとした筆運びに比べ、後半
詰め込み過ぎた感があり、せめて200頁ぐらいに引き伸ばせばよかったのでは、
と思う。
「東京の穽」女按摩殺しに出くわした浮気夫の物語。一つの証言を巡って逡巡する
男の心理が良く書けている。ワン・アイデアながらミステリ的興味も満たされる
佳編。ただ、それだけではいけないとばかりに社会派の設定を加えているのが
なんとも律義である。
「消える」水上勉版の「赤い部屋」。殺人アイデアを売り込みに来た男の正体は、
果して?作者にもこのような稚気溢れる作品があった事に驚く。
「人形」農業共済組合を舞台にした汚職の顛末を綴った作品であり、いわゆる事件
小説。役所仕事に対する痛烈な批判であるが、ミステリ的な興味は乏しい。
「無縁の死」戦前に無縁仏として葬られた女郎の過去を探る一幕物。ある意味で
文学者:水上勉らしい作品である。
「真福寺の階段」これも殺人アイデア売り込みもの。どうという事のない情痴殺人
がこの作者の昔語りの筆にかかると面白く読めてしまうから不思議。
総論:どこまでも田舎の生活を愛し、日本の「現代」を切る水上勉の若かりし頃の
推理バラエティーブック。なかなか宜しいのではないでしょうか。勿論絶版では
あるのだが、そこはそれ「春陽文庫ですから」。


2000年5月15日(月)

◆日中は会議のハシゴ。夕方は大雨に宴会と、徹底的に古本狩りに向かない一日。
結局どこも覗けず、何も買えずに終る。
◆本日、某セミナーで耳にした「ちょっといい言い回し」
<当社では、80年代から「EC」に取り組んで参りました、まだ、アマゾンと
言えば「川」だった頃です>。
こういう事、言わすとアメリカ人って巧いよなあ。
◆またしてもカウンターが壊れる。須川さま、「100番」ゲット、おめでとう
ございまーす(ヤケクソ)。
◆倶楽部の後輩がMLで、このサイトの感想を回してくれた。「光車よ、まわれ!」
は、彼等の間でもファンタジー・オールタイムベストの一つらしい。ふーむ、
知っている人は知っている作品なんだなあ。

◆「年刊推理小説ベスト18<1963年版>」Bハリデイ編(荒地出版社)読了
帰りが酔っ払い必至の日だったので、小刻みに読める本を持って出る。荒地出版社の
このアンソロジーシリーズは、<1961年版>が出ていたのか否かがいつも話題に
なる叢書なのだが、あれって出てないんだよね?誰か、出てないと言ってくれえ!!
創元推理文庫の「ラッフルズの事件簿」ならば、自信を持って「出てません」と
言えるのだが、こればかりはリアル・タイムで気を揉んだ人間の証明ですのう。
とまれ、この時代のアメリカミステリは、既に洗練の極致。こジャレたクライム・
ミステリのオンパレード。改めて彼我の差に唸る。以下ミニコメ。
「アフター・サービス」向いの家の浮気妻が殺される。犯人はテレビの修理屋?
それとも夫?伏線ひきまくりの「夫と妻に捧げる犯罪」。定石通りの展開ではある
が、実に巧い。無駄がない。
「ゲーム」田舎道で快楽的に動物を轢き殺す先行車。偶然にドライブインでその
主に行きあわせた私の選択とは?このオチは読めてしまう。
「年はいくつだ?」突然に死を宣告された「おとなしい男」の逆襲が始まる。
人を人とも思わぬ不愉快な人間達を躊躇なく射殺していくうちに、町は「思いやり」
に満ち溢れていき、そして、、、誰しもが願う事を軽妙な語り口で描いた大人の
ファンタジー。面白い。
「人里はなれて」オーストラリアで両親を失い、英国の叔父のもとに急ぐうら若き
女性のであった恐怖とは?結語が凄い。さすがはロバート・ブロック。貫禄勝ち。
「太鼓のひびき」証人護送中の航空機内の一幕。ショートショートの類い。これも
オチは読めるが、少々話に無理があるか?
「真夜中のブルー」リュウ・アーチャー登場編。奔放な女子高生を殺したのは誰あれ?
短くてもロスマク。この作品集で最も端整なフーダニットなのだな、これが。
「おれはタフ」ハードボイルドの定法を笑い飛ばす掌編。まあ、それだけの話。
「一千万ドルの賭」富豪姉妹とジゴロという三角関係の末路を描くピカレスク。
<恋は盲目>パターン。そうきましたか、という感じの作品。
「殺しはいくらだ?」原野商法で一儲け企む男と悪徳新聞記者が、洪水に巻き込まれ、
そこで子供の命を救うのだが、、一級のクライムサスペンス。結末もあざやかであり、
出来のいい1時間もののサスペンスドラマを見る思い。
「播いた種」銀行員でありながら犯してはならない罪を犯した色男の物語。大いに結構。
「テレビ殺人事件」なんとスタージョン版「殺意」。何をやっても駄目な甥が、支配者
である伯母に叛旗を翻すのだが、、結末の余韻がさすがスタージョン。
「セールスマン殺し」JJマローン登場。雑誌セールスマン連続殺人事件に隠された
真相を、酔っ払いながら一目で見抜くマローンの慧眼。さすがライス。
「クリスマス前夜」クリスマス・イブに行方不明になった若い男女。警官の計らいが
なんとも「メリー・クリスマス!」である。
「ひとりぼっちの男」<爆弾魔とプロファイリング>を7頁で書くとこういう話に
なる、というお手本。凡百の重厚長大サイコものに鉄槌を。
「家族の中の死」<家族>を収集する葬儀屋の物語。可もなし不可もなし。
「タンジールからの話」犯罪のプロとは?を問う佳編。この道の仁義も地に落ちた
ものだ、とうそぶく連中のしたたかさが良い。
「第二の蜜月」妻への愛が甦った男の物語。これは見え見えの展開で辛い。
「あんたより上手」配役の獲得にかける女優の闘い。スレッサーにしては切れ味が
今ひとつ。主人公の女性の名が<ニッキー・ポーター>だったりするのだが、何か
意味があるのだろうか?
総論:全体的に、ヒッチコック劇場向きの作品が多い。当時のアメリカの最先端で
あったのだろう。私のツボにピタリで楽しく読めた。文中にも書いたが、ロスマク
の本格ぶりが光る。


2000年5月14日(日)

◆午前中、菅浩江さんの蔵書処分第2弾がダンボール2箱分到着。今回は奇想天外の
第二期ほぼ揃いに、別冊奇想天外、SFAなど。貴重な蔵書を託して頂き、ありがとう
ございます。お引越し頑張ってください。
◆並べて見るとなかなか壮観。しげしげ眺めていると、1980年当時、SFAの初期に、
奇想天外第2期の末期、SF宝石を入れるとSF専門誌が4誌も併存していたという事
が分かる。あ、SFイズムもその頃かな?その間の引き抜き合戦の余波で「梅田地下
オデッセイ」が絶版になったという事を、掲示板の流れで彷彿とする。結局4誌の中で
いなまお生き残っているのが老舗のSFMただ一つというのは「諸行無常の響きあり」
ですのう。当時は、漫画に一番のめり込んでいた頃なので、HMMさえ購読しておらず
(その後古本で揃えた)、正直なところとてもSFにまで手がまわらなかった。果して
SF者になれなかった自分はシアワセ?フシアワセ?
とりあえず、ネットのそこかしこで繰り広げられている肺腑を抉るような辛辣なやり取り
をみていると、つくづく「ああ、おいらはミステリ者でよかったなあ」と シアワセを噛み
締めている次第。何かのアンソロジーに収録されているのかもしれないが、

SFM93号(67年4月号)に御贔屓作家Rブロックの「人間の道」という短編が
あるのだけれど、これが爆笑もの。核戦争後の荒廃した地球を復興する勢力としての
「ファンダム」が描かれるのだが、そこではSF作家たちや、SFファンが神話化され
過去の英雄として語られている。「マッドサイエンティスト」所載のモロー博士ネタ
でも大爆笑させてくれたブロックだけど、こういうオタクなネタを書かせると本当に
巧いね、この人は。オタクの鑑だねえ。(あ、だからあたしの好みなのかあ!)
ファンダムな人も、ファンダムでない人も、乞うご一読。なんてったって、貴方、
「人類」=ファンカインドときたもんだ。
◆今日は本が沢山届いたので、定点観測はパス。いろんな人に口約束どまりになって
いる、本の発送に勤しみますか。(よしださん、土田さん、中瀬さん、松本さん、
キバヤシさん、本日発送致しました。)

◆「過負荷都市」神林長平(徳間NV)読了
立て続けに神林の初期作にトライ。以前から題名だけは猛烈に気に入っていた作品で
ある。過負荷はカフカで、きっと朝おきたら虫になっていて、いずことも知れぬ城への
道を探しながら、人を殺して太陽が黄色い話なんだろうそうなんだろう(って、「異邦人」は
カミュだよ)と思っていたら、
なんと本当にそんな話であった。とはいえ、さすがに神林で
あるので、そこはそれ、
きちんとコロサスでメカフェチで詞に淫したエンタテイメントに
仕上げてある。

SFアドベンチャーに連載された5つのエピソードからなる連作長篇。連作といいながら
話の流れがどこか不連続で位相が微妙にずれている感覚が、なんともカフカである。
人類は、人々の思いを適える機械である都市中枢機能体・クォードラムに総てを委ねて
いた。脳に端末を埋め込み、クォードラムの見せる仮想の中で、各々の役割を演じる
日常。その仮想の欺瞞に倦んだ、一人の高校生:陽奥峯士は、ある日「殺人者」に
なる事を決意する。だが、クォードラムが峯士に与えた役回りは、「創壊士」であった。
それは、仮想が支えきれないほどの強力な思いを持ちシステムに過負荷を与える異分子を
クォードラム世界から排除し、別の仮想世界へと送り込む「者」。肉体がパワード・
スーツと一体化し、驚異的な運動性能と破壊力を備えた創壊士:峯士は、同じ役回りを
与えられたガールフレンドの玲湖、整備士の剣研とともに、仮想と現実の溶け合った悪夢
世界をさ迷う。思念の滄海=想海のゆらぎの中で、その使命は徐々に変容を遂げ、終末は
創世へと導かれる。それは新たな現実?それとも新たな仮想?
一言でいえば他人様の見た夢を、聞かされているような、むずがゆさを覚える話。
そもそも「夢」というものは、多分に個々人の背景を以ってして成立しうるものなので、
「こんな夢を見た」という話を延々聞かされても、相づちを打っている自分に情けなさを
感じる以外、特段の感興は持てないものである。その「夢」語りを面白おかしく聞かせる
人種を「小説家」と呼ぶのであろう。主人公たちの軽さと短編毎の一応のオチ(それは、
勧善懲悪であったり、老人の愛であったり、親離れの通過儀礼であったりするのだが)が
救いとなって、この悪夢巡りはそれなりに楽しく読めるが、ミステリ読みとしては、前提
や制約自体が揺らいでいく感覚が辛い。仮想をテーマにした悪夢語りに、フェアネスを
求めてもしょうがないのではあるが、読み手に難渋を強いる「エンタテイメント」である
と感じた。自分はSF属性であると信じている方はどうぞ。

◆うーん、こうしてみると少しもミステリの話題がないではないか。


2000年5月13日(土)

◆休日出勤。午前中必着の筈の荷物が届かず、後ろ髪を引かれる思いで出社。って
リクルートのお手伝いなのだが。雨の中、学生さんも御苦労様な事である。
◆終了後、軽く打ち上げ。船橋下車でブックオフ他定点観測。ま、たいしたものはない。
「シャーロック・ホームズ リオ連続殺人事件」Jソアレス(講談社:帯)900円
「青の殺人」Eクイーン=EDホック(原書房:帯)980円
d「黒潮の偽証」高橋泰邦(光文社文庫)100円
「静かなる哄笑」戸川昌子(光文社文庫)100円
d「超人ロック・魔女の世紀」金春智子・聖悠紀(少年画報社)100円
「白馬岳の失踪」長井彬(大陸NV)100円
<クイーンの新作>(?)は、Moriwakiさんから「ダブったので御進呈しますよ」と
お申し出頂いている本なのだが、こき下ろす予定なので、自分で買ってしまった。
だいたい、各所での評判も「なぜ?」というものが多いが、さすがに皆さん、二大
マエストロに気をつかってか、筆鋒が鈍っているように感じる。原書房のラインナップ
は意欲的であり、大いに評価しているところなのだが、こればかりはミソをつけたので
はなかろうか?わくわく。「黒潮の偽証」は東都ミステリ版が犯人の名前を伏せて
いるという曰く付きの1冊。これで安心して読める。もしかして、本棚のどこかに
光文社文庫版が隠れているのかもしれないが、保険の意味で買ってしまう。まあ、
100円だしね。
◆あ、しまった、朝の早い時間にWOWOWでニックとノラものの続編を放映
していたではないか!!むむむ。こりゃあ、当分再放送はないなあ。しくじったぜ。
で、よくみると来週も続々編の放映がある模様。渋い事やってくれるよなあ。
ホント、BSはNHKとWOWOWがあればいいやあ。

◆「ヨット船上の殺人」CPスノウ(弘文堂)読了
たまには、翻訳物の珍しいところを、という事で休日出勤の友に。「クライムクラブ」
「キャンミス」といった効き目叢書を除けば、戦後の翻訳物の中で「モスコー殺人事件」
と並んでマニアの探求書のトップにくる作品。私もつい2年前に、ジグソーハウスさんで
幸運にもゲットできる迄は「一生かかっても書影すらお目にかかれないかもしれない翻訳
推理小説」の代表選手であった。カバー装と新装版の函装があって、その辺りも書痴魂を
刺激する魔書である。私の所持本は函装で一応カバーもついている。CPスノウは純文学
の世界ではそれなりのビッグネームらしく、東京泰文社跡の大島書店には今もやたらと
スノウの純文学がならんでいる。生涯にこれを含めて3冊の推理小説しか書かなかった
作者の処女出版が実はこの「ヨット船上の殺人」である。出版は1932年。クイーン
マニアにとっての「奇跡の年」である(この年に「Xの悲劇」「Yの悲劇」「ギリシャ
棺の謎」「エジプト十字架の謎」が上梓されているのだ!!!おお!)。クリスティー
が「邪悪の家」「エッジウエア卿の死」、クロフツが「二つの密室」を、バークリーが
「地下室の殺人」を、セイヤーズが「死体をどうぞ」を、カーが「蝋人形館の殺人」
「毒のたわむれ」を書いたまさしく黄金期の真っ最中、この香港帰りの気障な紳士
フィンボウが名探偵を演じる心理的フーダニットの佳作は登場した。
ノーフォーク湖沼地帯を行く大型ヨットの旅に招かれた退役軍人である私イアンは、
乗船の翌朝、ホストにして船長役の医師ロジャーの射殺死体を発見する事となる。
ロジャーの研究仲間ウィリアム、ロジャーの友人で近くマラヤへの栄転を控えた
クリストファ、その婚約者でロジャーの従姉妹エイヴィス、ロジャーの友人にして
お調子者のフィリップ、その婚約者トゥニア。将来を約束された若者ばかりの乗船客の
中で、果して誰が動機を持っていたのか?警察からはビレル巡査部長が、そして
私の個人的つながりからヤードにもその名を知られた名探偵フィンボウが、ヨットに
やってくる。ロジャーの死体が舵を固定する形になっていた事から、犯行時刻が
割り出され、総ての乗客にアリバイのない事が判明する。更に、凶器の拳銃とともに、
三角旗と航海日誌が紛失していた事が事件の謎を深めるのだった。湖畔の宿で、
物証優先のビレルと、人間心理の綾に重点を置くフィンボウの捜査合戦は始まる。
次々と明らかになるロジャーの不行跡と一行の「動機」。そして、ビレルの勝利に
終ったかと思われた事件はフィンボウの名推理により、驚くべき結末へと導かれる
のであった。
背筋の伸びた端整な本格推理小説である。丁寧に書き込まれたキャラクター達と
その複雑な人間関係。周到にして大胆に張られた伏線。見てくれは英国紳士の典型
でありながら奇矯な言動で一同を煙にまく名探偵、滋味豊かに描かれるイギリスの
自然と風物、全体を覆う皮肉なユーモア、とまあ、我々が英国古典ミステリに期待する
総てがここにはある。若干今の時代からみれば、起伏に乏しいかもしれないが、
人物紹介が終るなり殺人を配置している事で掴みはOK。新人作家の処女作として
充分に及第点である。その年のマエストロ達の作品を見れば、いかにこの時代の
ハードルが高かったがご理解頂けよう。この1作でそれなりの評判を獲得しながら
各所からの誘いを断って著者が純文学の道にすすんだのは残念至極である(第2作は
60年代、第3作は最晩年の作である)。入手困難作というのは、「絶版効果」で
内容以上の評判を得てしまいがちではあるが、この作品は、やはりこのまま埋もれ
させるには惜しい作品といってよかろう。勿論、巷間の古書価格(1万円弱)が
引き合うかと言われれば疑問ではあるものの、「赤い館の秘密」や「学校の殺人」
などが今尚読み継がれてる事を考えると、どこか意欲的な出版社の英断を期待したい
ところである。


2000年5月12日(金)

◆そうですか、出てましたか「三百年のベール」。そういえば、そんな気がする
なあ。というわけで「掲示板」にてsonoichiのおとっつあんから指摘を受けました。
南條範夫「三百年のベール」は只今入手可能です。ご指摘ありがとうございまする。
◆阪神vs巨人戦のために、定点観測は軽め。収獲もなきに等しい。
「妖精詩集」Wデ・ラ・メア(ちくま文庫)230円
「カルト映画館 SF」永田よしのり編(教養文庫:帯)300円

◆「光車よ、まわれ!」天沢退二郎(ちくま文庫)読了
早速手にとった詩人にして評論家の著者が送るカルト人気のダークファンタジー。
成る程、これは貫禄が違う。ひたひたと押し寄せる闇の勢力。その力に対抗する
ため選ばれし光の戦士たち。足元に迫る恐怖を退けつつ、町のどこかに隠された
三つの「光車」を探索する彼等。光を呑み込もうとする闇の妄執。さかしまの群れの
蠢く「底」で、光は影を生み、安寧の泥海に時は凍る。地霊文字と輪廻の因果に導かれ、
断ち切れ、邪の釣り糸!篩え、祈りの鞭!そして、まわれ、光車!
文章は平易である。プロットは二元論である。小道具も馴染み深いものばかりである。
しかし、この作品は格が違う。凡百のライトノベルライターが調理すれば、出来そこない
のジャンク・フードにしかなり得ない素材が、心を試し、やがては血肉となる一級の
児童文学へと昇華されている。ここでは、あらゆる形の「子供の恐怖」が描かれる。
貴方は、自分の影に怯えた事はないか?学友の歪みに戦慄した事はないか?先生は
本当に信頼できるか?自分自身を形造っている、そして天から降り、どこにでもある
「水」の悪意を感じた事はないか?肉親や学友を冷酷に奪っていく「死」に立ち会った
事はないか?そして、それが不可逆的なものである事に理不尽を感じた事はないか?
自分が残される事に何かの意味を見つけなければならない事に震えた事はないか?
いつもの町が、通いなれた道が、死の罠と仕掛けだらけの異界に感じた事はないか?
「となりのトトロ」の画面が身長100せんちめーとるの子供の目線で描かれている
ように、この作品もどこまでも子供らしい発想と論理で描かれている。なればこそ
この作品は残酷である。闘いの疵跡を癒すには、時と忘却という処方箋に頼るほかない
のである。勝つためには、何かを失わなければならない。選ばれた者は、選ばれる
が故に闘わなければならない。闇の誘惑は、遍く潜む。光が明るければ明るい程
影は暗い。そんな「真実」が、数々の暗喩に託され諄諄とそしてスリリングに説かれる。
今日逃げる事はかまわない、その先の自らの使命と目標をもっていさえすれば。
私も自分の「光車」を見つけなければ、そして光車を回すために、心の鞭を篩わなければ
ならないのだ、と感じました。読書感想文、終り。よくできました。


2000年5月11日(木)

◆本当に久しぶりに神保町に寄る。どこもちくま文庫の品揃えは八重洲BCに
かなわない。「本の雑誌」6月号を立ち読み。あ、よしださんってば「聖アルカ
ディアの惨劇」をネタにしてる。転んでもタダでは起きないよなあ。神保町BC
のショーケースには黒白書房の「廃人団」が15000円で並んでいる。戦前の
翻訳には余り興味はないのだが、神保町BCにしてはお手頃価格なのかな?セイ
ヤーズの「大学祭の夜」5万円には「ほう」と溜め息。マンハントの大判は初見。
ふーん、これかあ。RBワンダーはますますマニア度が上がっているが、これと
いって欲しいものがない。え?風太郎の「天の川を斬る」が2000円??むう。
結局、あちこちのワゴンを中心に拾ったのはこんなところ。
「The Scarlet Letter」Ellery Queen(Signet)250円
「逆回りの時計」藤桂子(講談社)700円
d「SFコンピュータ10の犯罪」Iアシモフ編(パーソナルメディア)100円
「真実の瞬間」Kアルネ・ブルム(角川書店:帯)100円
「リプレーの世界奇談集4」リプレー(朋文堂)100円
藤桂子がちょっと嬉しい程度。クイーンのPBの表紙は真紅のXをあしらった
もの。そうか、これは探偵クイーン版の「Xの悲劇」だったのだ、と今更気が
つく奴。たまに行くと神保町も楽しいですのう。
◆帰宅すると、キバヤシさんから交換本到着。ごめんなさい、私の方は週末に
手配致します。
「光車よ、まわれ!」天沢退二郎(ちくま文庫)交換
これも、全く縁がない本。MZTさん(本代頂きました:私信)をはじめファンタジー
読み絶賛のシリーズだけに気になるところ。とりあえず、読んでみますかね。
◆この2、3日、カウンターが良く回る。安田ママさんフクさんが日記から
リンクしてくれているからなのか?ダ・ヴィンチ効果なのか?リンク先を増やした
事で掲示板オンリーの人がトップページを経由するせいか?要因と思われるもの
が重なっており、商業誌掲載の効果測定が不能。

◆「第六の容疑者」南條範夫(桃源社ポピュラーブックス)読了
時代小説家として著名な作者の本格推理。「集めるとはなしに集めている」作家の
最たるもの。徳間文庫に収録される前は結構入手が難しかったのだが、それでも
何冊か持っている。「三百年のベール」ぐらいはいつでも本屋で入手可能にして
欲しいものである。さて、この話は唾棄すべき脅迫者殺しを巡るピカレスク風の
フーダニット。こんな話。
電機会社の経理課長にして社長の弟である高山啓三は、美しい妻と幼い子に囲まれ
幸せな日々を送っていた。が、その幸福は如何に脆いものであった事か。社長の
女婿、山崎静夫が大胆にも情婦の別所輝子を雇用した事から、啓三の生活に暗雲
が立ち込める。輝子の叔父飯沼の情婦満子は、若かりし頃に啓三と同棲していた
悪女。今では更正した啓三に、私生児の父役を押し付け「養育費」をせびる満子。
更に、情夫の飯沼も採用させ、十重二十重に啓三を縛っていく。実直な経理課長は
やがて部材の横流しにまで手を染める事になる。そこへ輝子の昔の情夫であった
興信所員:工藤が登場し、高山を、山崎を強請り始める。そして工藤の毒牙は、
啓三の妻、千恵子にまで及ぶ。なんと、貞淑と思われた千恵子も、編集記者藤村
と浮気をしていたのだった。縺れた人間関係の中で、最初の殺人が起きる、、
小市民と小悪党どもが織り成す殺意の交錯。体裁を護るために更に深みに嵌まって
行く小市民たちの姿が哀れを誘うが、文体がどことなくユーモラスであり無駄が
ないため、快調なペースで読める。正直なところ、これほど面白く読めるとは
思っていなかった。しかも、多すぎる容疑者に対する捜査や、後半の急展開に
意外な真犯人と推理趣味も充分に堪能できる。最後まで恋愛模様を絡め、読者の
興味を引きつける技は、まさにエンタテイメントのプロの仕事である。歴史に
残る傑作というものではないが、これはこれで時代を巧みに映した市井の人間
悲喜劇である。結構な拾い物でした。まる。