戻る


2000年5月10日(水)

◆昨日のリベンジ!と掲示板を見ると松本さんが一足先にチェックをいれていた
ようである。ちくま文庫の在庫確認に八重洲ブックセンターを覗いた足で、古書
センター&金井書店を覗く。ふっふっふ、値段がついていたぞお。
d「拷問者の影」Jウルフ(早川SF文庫)270円
d「調停者の鉤爪」Jウルフ(早川SF文庫)270円
d「警士の剣」Jウルフ(早川SF文庫)270円
d「独裁者の城塞」Jウルフ(早川SF文庫)290円
「石の微笑」Rレンデル(角川文庫)450円
d「モンティーニーの狼男爵」佐藤亜紀(新潮社)500円
「ベイスボイル・ブック」井村恭一(新潮社:帯)500円
「やぶにらみの時計・かがみ地獄」都筑道夫(三一書房)100円
一番の拾い物は都筑道夫なんだろうが、Jウルフの「新しい太陽の書」4冊揃い
が嬉しいところ。何事も「ダメモト」で行ってみるって大事。
◆八重洲BCでは、久しぶりに文庫コーナーをチェック。全くなんで1階から
エレヴェーターで行けないのかな?やはりちくま文庫初期のディケンズやウォーは
全滅。岩波の「白衣の女」も(上)がない。ところで「白衣の女」って、「びゃくえ
のおんな」だったのね。「はくい」でも「びゃくい」でもないらしい。ううう。

◆「罰金」Dフランシス(ポケミス)読了
最近、夫人の存在が俄かにクローズアップされてきたフランシス。要は、フランシス
亡き後も、アイデア・メモさえ残せば「競馬シリーズ」を実質的な作者(=夫人)の
手で継続できるという悪だくみらしい。ああ、この記事を読んだ時のショックは
凄かった。根が善人のワタクシとしては、ちゃんとディック・フランシスその人が
あの傑作群を執筆していると信じていたのである。「天は二物も三物も与えるのだなあ」
と感心していたのである。誰の評だったか「最初はなぜこの騎手はこれほど小説が巧い
のかと思っていたものが、今ではなぜこの小説家はこれほど競馬の事を知っているのか
と感じるようになった」とかいう最高の殺し文句があったではないか。甘かった。
裏切られた。しかし腑に落ちた。陳腐な表現ではあるが、事実は小説より奇なり、
ジェシカおばさん風にいえば、「幽霊騎手は妻とともに」である。というわけで
嫁はんは大切にしましょう、というのがこの競馬シリーズ第7作。
先輩の競馬記者の死と「遺言」がタイローンに、英競馬界に忍び寄る闇の力の
存在を教える。新聞がさんざん人気を煽った馬が、レース直前に出走取り消しに
なるケースが相次いでいたのだ。もしそれが恣意的なものであれば、賭けの胴元
は大きな利益を得る事となる。タイローンは所属するブレイズ紙とともに、2週間
後に迫った障害レースを前に、一大告発キャンペーンを張るのだが、闇の力は
タイローンとその半身不随の妻エリザベスにあからさまな圧力をかけてくるので
あった!
信念に燃える競馬関係者が、陰謀に立ち向かい、暴力や脅迫に屈する事なく「孤独な
闘い」を繰り広げ、最後に勝利を掴み取る、という競馬シリーズの「勝利の方程式」に
忠実な作品。肉体的な脅迫に屈しない男が、どう心理的な脅しをクリアするのかが、
本編の見所。最後の1行が物議を醸したのではないかと思うのだが、果して女性
ファンは、誰に感情移入してこの作品を読むのかが気になった。勿論、面白くは
読めたのだが、この主人公のタフネスぶりには参る。あと訳題は「脅迫」でよかった
のではなかろうか?少なくとも「罰金」はどこにも出てこない。


2000年5月9日(火)

◆飲み会。酔った勢いで3軒ほどチェックを入れるが空振り。酔っ払いはいけません。
「競艇海域」佐藤茂(新潮社)500円
d「完全脱獄」Jフィニイ(早川ミステリ文庫)170円
実は、某古書店でジーン・ウルフの「新しい太陽の書」の揃いが未整理風に積んで
あったので「幾らになります?」と尋ねてみたのだが、「後日連絡」と言われて
スゴスゴ引き下がってしまったのだ。軟弱軟弱うう。それにしても美本だったなあ
(帯はなかったけど)。
◆Yahooに登録申請してみる。他のポータルにも申請しようとしたところ、
「只今、手書き申請は受け付けておりません」というところが多くて驚く。
ふーん、そうだったのかあ。

◆「光と影の誘惑」貫井徳郎(集英社)読了
著者の9作目。4中編収録、うち2編は書き下ろしである。この作者の「読者を
ビックリさせてやろう」という稚気が好きである。果してそれが本格推理の必須
条件かというと、悩ましいところなのだが、私自身が毎度毎度「さあ巧く騙して
くれよお」という気持ちでミステリに向かっている事は確かである。バリンジャー
風の騙し絵パターンであれ、クイーン的真っ向勝負であれ、カー調のお化け屋敷
であれ、そこにビックリと納得のアラベスクを求めていくのがミステリ読みの本質
なのではなかろうか?そういう読み手の心が分かった作家の一人がこの作者である
と信じている。その意味で、この書はワタクシ的には2勝2敗。書き下ろしの
2作よりも創元推理掲載の2作の出来が全然よい。以下、ミニコメ。
「長く孤独な誘拐」まだ誘拐ものにこういうパターンがあったのか、と感心する。
真犯人の邪悪さが光る。このオチしかないであろうとは、思ったが、もう一段
上をいかれてしまった。99%のやりきれなさの中に一筋の希望を残したラストも
よい。脱帽。
「24羽の目撃者」両端見張られ通路パターンの擬似密室もの。キャラクター造形
から舞台設定までをすべてアメリカにおいた心意気は買うが、少々消化不足。
美少女の描写なぞ、もう一工夫あっていいのではなかろうか。トリックも読めた。
「光と影の誘惑」我孫子解説があったのでそれなりに慎重に読んだつもりだったが、
そうか、そう来るか!うーん、これは参った。結局、再読する羽目になった。
傑作でしょう、これは。
「我が母の教えたまいし歌」これはのっけから仕掛けが見えてしまった。思いは
判るのだが、運びが今ひとつ。「烙印」を読んだ際に感じたのと同質の「不満」
を抱いた次第。
総論:良くも悪くも貫井徳郎見本市的作品集。同時期に明詞シリーズがスタート
している事を考えれば、貫井第一期の総決算と位置づけてよいかもしれない。
<文庫落ちしたら「買い」>といったレベルかな。


2000年5月8日(月)

◆GW明け。心身ともに連休モードが抜けない。帰りの電車で、立ちながら眠りかけて
しまった。ああ、恐ろしい。途中下車してまで古本屋へ寄る気力が湧かず、会社の
近所で定点観測。
d「ウルフェン」Hストリーバー(早川NV文庫:モダンホラーセレクション)100円
d「田園幻想譚」Hファラダ(早川FT文庫)100円
◆そうそう、帰宅すると御本人からメールが来ていたので、カミングアウト。
私にダンボール6箱分の本を送ってきたのは、誰あろう「菅浩江」その人でありました。
おお!そーか、そーか、このような本を読んで、あの作品が生まれていたのね、と
納得してしまうkashibaであった。小説よりも、「宝塚」と「コンピュータ」と
「美術史」が混ざる専門書の類いにそれを感じてしまう。で、「家宝」級と書いた
もう1冊の頂き本も、ほぼ見当がつきましょう。これだ!!
d「鬼女の都」菅浩江(祥伝社:著者サイン&お言葉入り!!!)頂き!
うーん、ホームページやっててよかった、と心の底から思える瞬間。
ありがとうございますありがとうございますありがとうございます。

◆「殺意の回想」総戸斗明(太陽くまブックス)読了
小林文庫ゲストブックで盛り上がりっぱななしのこの作品。小林文庫オーナーさんから
「面白いの?」という公開質問を投げかけられたので、「受けてたちましょう」と通勤
の友に。で、しげしげ見て初めて気がついたのだが、これが本文137頁のいわゆる
フランスミステリ・サイズの作品であった。こんな話。
70年代初頭、函館に向かう青函連絡船で、偶然ある男の死に立ち会う事となった
K新聞札幌支社機報部次長の加納は、男の残した荷物から百万円の現ナマを着服して
しまう。男がうわ言のように呟いた「カノサアレオ」とは何を意味するのか?
平凡なサラリーマンであった加納の人生が狂い始めたのは、昭和43年の十勝沖
地震であった。その際に起きた「写真電送」の「事故」が、出世への階段と割り切って
赴任した北の任地に彼を封じ込めたのだった。通常であれば、3年で本社復帰できる
筈が、いつまでも辞令は出ない。妻子は東京に戻り、教育費の捻出を彼に迫ってくる。
そして運命は、遺失物横領に手を染めた彼に、更なる犯罪を犯すよう迫ってくる。
土砂崩れで復旧待ちとなった彼が温泉で身体を温めた後、ふと立ち寄った立会岬で
「電送事故」の責任を彼に押し付けた上司と出くわしてしまったのだ!突如込み上げて
きた殺意に戸惑う加納であったが、、、、
サラリーマンの悲哀を描いた倒叙推理。主人公の心情はなかなかよくかけている。
作者の経歴(後述)を踏まえて、職場の描写や専門知識もきちんと押えている。
が、犯罪に至るプロットがいかにも作り物めいており、梗概にしてしまうと、そこ
まで偶然が重なるか?という突っ込みをいれたくなるのは私だけではあるまい。
尤も、カットバックを効果的に用いているので、読んでいる間は左程気にかからない
から不思議。文章力も相当のものであり、「第3回北海道文学賞受賞」も大いに
首肯できるところである。あとひと登りで松本清張ノヴェラの域に達するとまで
言うと褒め過ぎかもしれないが、実に達者なものである。リーダビリティは非常に
高いといえよう。ただ、推理小説として読んだ場合は、最初に述べたように偶然に
頼り過ぎており、読後感も爽やかとはいえない。総じて可もなし不可もなしといった
小説であろうか。参考までに、巻末にある著者略歴を転記しておく。
総戸斗明(ふさえ・とうめい)
本名惣戸吉男。大正15年5月生まれ。昭和17年札幌逓信局工務部入局。
札幌電気通信局経営調査室調査役を経て、現在中標津電報電話局局長。51年
電電時代賞、52年小説サンデー毎日推理小説新人賞佳作第一席。52年
北海道文学賞受賞。


2000年5月7日(日)

◆ああ、ついに九連休も終了。このサイトを強化する筈が、結局のところ何一つ
手がつけられなかった。人間は弱いのう。でも、とりあえず外的要因とはいうものの
「ダ・ヴィンチ」にも紹介されたので、本日をもって「本公開」とさせて頂きます。
素人の運営するへなちょこサイトですが、今後とも宜しくお願い申し上げます(ぺこり)。
お約束の強化策はぼちぼち作り上げていきますです。
◆憂き世の義理でNHKのBSデジタルフェアを善男善女に混じって見学。今年は
成城の技研公開の分もやってしまうというとことで、しぶしぶ出かける。最終日の
今日もなかなかの盛況。軽く見てまわるだけで半時間は掛かり、NHKの力の入れ
ようが判る。「たかがテレビ、されどテレビ」の感を強くした。民放BS局とは
志が違うわ、こりゃあ。
◆渋谷からの帰り、つい京橋、南砂町などを定点観測してしまう。帰って「ジェ
シカおばさん」の移植でもすればいいものを。
d「信玄忍法帖」山田風太郎(角川文庫)170円
d「忍法忠臣蔵」山田風太郎(角川文庫)170円
d「銀河忍法帖」山田風太郎(角川文庫)170円
d「くの一紅騎兵」山田風太郎(角川文庫)250円
d「忍法黒白草紙」山田風太郎(角川文庫)210円
d「忍法流水抄」山田風太郎(角川文庫)190円
d「忍法落花抄」山田風太郎(角川文庫)170円
d「忍法陽炎抄」山田風太郎(角川文庫)190円
d「おんな牢秘抄」山田風太郎(角川文庫)310円
d「修羅維新牢」山田風太郎(角川文庫)210円
d「外道忍法帖」山田風太郎(角川文庫)190円
d「軍艦忍法帖」山田風太郎(角川文庫)250円
d「忍法剣士伝」山田風太郎(角川文庫)310円
d「秘戯書争奪」山田風太郎(角川文庫)270円
「死相の女」野町祥太郎(春陽文庫:帯)210円
「運命星の女」野町祥太郎(春陽文庫:帯)210円
「秘宝を追う女」野町祥太郎(春陽文庫:帯)210円
「クリスマス・ファンタジー」風間賢二編(ちくま文庫)350円
「夢を盗む女」芳野昌之(早川書房)100円
山風のピンク背はしょーじさんからアバウトに探究依頼受けている叢書。「一体、
何を持っていないの?」と尋ねたら「殆ど持ってない」との事だった。しかし、
総て(?)新版で読めるのに、何が哀しくて自分が生まれる前の版を求めるのか
なあ?単に我々の世代がノスタルジーで追っかけてるだけなのにね。未だにこれ
に古書価をつけている古本屋も古本屋なんだけどさあ。

◆「国会議事堂の死体」Sハイランド(国書刊行会)読了
時間の余裕のある時にしか読めそうもないものを、と取り出したりますは国書
刊行会、小林晋氏入魂の翻訳&解説の1作。幸か不幸か、何度、森さんのところ
に申し込んでも外れてきた作品。ミステリ第2作はお譲り頂いたのだが、これが
とても私の英語力では太刀打ちできない純英国推理。む、難しい。ああ、この話
が日本語で読める日が来るなんて。
国会議事堂の改修工事の最中、壁の中からミイラ状になった「紳士」の死体が
発見される。集票目当てのスタンドプレイで、この一件の真相追究に乗り出す
国会議員。議会に調査委員会を設置して、死体の身元割り出しに奔走する事と
なる。被害者の所持していた時計の彫金から選挙区のとある屋敷に導かれた彼
が、そこに見たものは、奇妙にして邪悪な雰囲気を湛えた彫刻であった。果して、
死体の主は何時の時代の誰なのか?そして、その殺害動機と真犯人は?
二転三転するプロットが心地よい、ウイット溢れる純粋英国本格推理小説。探偵
を務める議員たちも個性豊かに描かれ、仮説が検証されては捨象され、新たな
仮説が立てられる、という王道を行く展開に酔う。但し、かなり取っ付きが悪い
作品なので、最初の100頁は忍従を強いられる。出だしの持って回った言い回し
は、クイーンはだしの勿体ぶり。原書で読もうとすれば、ここで挫折していたで
あろう。50年代後半に書かれたとは思えないほど、黄金期のオーラを備えた
作品であり、英国推理の底力を見せ付けられる思いである。これがミステリと
しては処女作というのだから恐れ入る。「掴み」のレベルが、今の売れ線ミステリ
とは根本的に異なるのだ。虚実の線引きが困難とはいえ、これ1冊で英国国会
議事堂史も概観できるという作品である。相当に歯ごたえのある話なので、たま
には英国らしい作品を読もうという人は、気合を入れて取り掛かる事。個人的には
作品そのものよりも、この作品に惚れ込んで商業出版にこぎつけた小林晋氏の
執念に最大の敬意を表するところである。


2000年5月6日(土)

◆朝一番で、さるお方から引き取ったダンボール6箱分240冊の本が届く。
ううむ、SF、ミステリ、ファンタジー、時代小説、ジュヴィナイル、専門書、
雑誌、漫画と壮絶な状態の中、午前中一杯かかって値付けをしてレス。引越しの
ための整理とか。本棚が一つ引っ越してきた感じの中、あれこれと思いを巡らせ
ると楽しいものがある。蔵書はその人を語るからなあ。これを逐一アップするの
はパスして、とりあえず頂き本を報告。
「ロボット貯金箱」風見・安田編(集英社文庫)頂き!
これで、コバルト文庫の翻訳SFが完集!!この1冊にてこずったなあ。ありがとう
ございますありがとうございます。実はもう1冊「家宝」級の頂き本があるのだが、
それは内緒だ!
◆昼からお金を下ろして、市川・小岩アタック。まだ本を買うか、こいつは!?
d「EQ第106号(「幻を追う男」所載)」(光文社)300円
d「闇の祭壇」Sハトソン(早川NV文庫)250円
d「まちがえた番号」Mルブラン(創元推理文庫:カバー痛み)100円
d「太陽の汗」神林長平(光文社文庫:帯)100円
d「親切がいっぱい」神林長平(光文社文庫:帯)100円
「妖魔をよぶ街(上・下)」Tブルックス(早川FT文庫)330円
「ハーディー誘拐事件」Wディクソン(読売新聞社)100円
「水車小屋の秘密」Wディクソン(読売新聞社)100円
「消えた仲間たち」Wディクソン(読売新聞社)100円
「姿なきパイロット」Wディクソン(読売新聞社)100円
「剥製動物の謎」Wディクソン(読売新聞社)100円
「黒いリムジン」Wディクソン(読売新聞社)100円
「黄金のファラオ」Wディクソン(読売新聞社)100円
「不吉な標識」Wディクソン(読売新聞社)100円
「深夜の訪問者」Wディクソン(読売新聞社)100円
「秘密の壁」Wディクソン(読売新聞社)100円
光文社文庫の神林が二回り目までM1。揃ったら欲しい人っていらっしゃいます?
下から12冊が異様に安いのは、某古本屋での「GW中10冊以上半額セール」と
いう信じられない企画故。それと知らずキャッシャーで余りの請求の安さに聞き
返してしまった。うぬぬ、それならプレミヤ本を攫ってくるのだったと思ったが、
ハーディー・ボーイズ10冊が重過ぎて断念。
◆帰宅すると先日の「ながれ星」への要望メールが届いていたので、レス。うーん、
人気だねえ、佐々木丸美。
◆既に、掲示板や知り合いのサイトで知れ渡っている「ダ・ヴィンチ」6月号
への寄稿がどんな感じかを確認するために、自前で1冊買う。ううう、やっぱり
企画全体からは浮きまくっているなあ。ちょっと「バカ」の質が違っているのは
企画段階から判ってはいたのだが。ま、とりあえず、先月の「本の雑誌」に続いて
非ネット系の雑誌で注目されるのは「ここらしくて」それなりに満足。31頁の
最下段にインタビュー風に紹介されてますので、ご興味のある方は、立ち読みして
くだされ。

◆「夢の陽炎館」横田順彌(双葉社)読了
「読むのが勿体ない」天狗党の短編連作シリーズ第2弾。押川春浪を取り巻く
お馴染みのメンバーが明治末期の帝都に現われる怪異に挑戦する探偵小説仕立て
のSF7編を収録。SFのアイデアとしては、全く新しいものはないのだが、
とにかく面白い。これが設定の勝利である事は、前作の感想でも書いた事だが、
まことヨコジュンは金脈を掘り当てたものである。こうなってくると、次はどの
有名ガジェットで来るのか、という興味が先に立って、その部分でのオリジナリ
ティーを求めようとは、さらさら思わなくなるから不思議である。有名であれば
あるほど、どう料理してくれるのかが楽しみになるのだ。アイデアで手抜きが
出来る分、考証部分に対するこだわりに注力し、そこでまた読者を酔わせる。
まさにありふれた素材からハイカラな一品を作りあげるシェフの技。上手いよ。
プロだよ。以下、ミニコメ。
「夜」永久機関の使い方が今ひとつ。アイデアを広げたばかりに奇天烈が許容限度
を越えてしまった。冒頭の殺人は必殺みたいで笑えます。
「命」個人的にはこの作品集のベスト。神の如き未来人の立場で見ていられるから
なのだが、予言された数字と御船千鶴子の遺言が噛み合った時の恐怖が宜しい。
「そこ」で止めたところが巧い。導入部もよい。
「絆」夢ネタと「あの」ネタのコンビネーション。作為が過ぎて、プロットも破綻
している。被害者の死に方は「水晶のピラミッド」のパターンで魅惑的なのだが。
「幻」最初からSF路線を突っ走った話なので、他とは区別すべき話なのかも
しれない。意識の飛んだ先の並行宇宙がなんともやりきれない。
「愛」実に実に古典的な幽霊譚。押川春浪の狂言回しぶりが光る一編。幽霊見物
に行っておきながら、呑んだくれて寝てしまうくだりには爆笑。
「犬」そろそろネタにつまってきたかな?という感のある定番キャラもの。あまり
にも有名なキャラなので、もう一ひねり欲しいところ。
「情」尻切れトンボな話。その先が見たいところなのだが。
総論:前作に比べて後半に行くほどパワーが落ちていくのがわかる。最後の作品
では、只管サイドストーリーの「野球批判顛末」の方が面白く、本筋は「起承転結」
すら放棄した感がある。さすがにアイデア切れなのだろうか?並行して4本も
明治物の小説を書けば、連載でふと手を抜きたくなるものわからないではない。
さて、最終作品集はどうなりますやら。いずれにしても、このシリーズは文庫化
して広く読まれるべきである、とは思う。


2000年5月5日(金)子供の日

◆珍しく前日の日記を前日のうちにアップしたのでのんびりできるかと思いきや
掲示板の書き込みが凄い。20超の書き込みにレスつけしていると2時間過ぎる。
頼まれ原稿を1本やっつけて昼食方々津田沼に出かけるが、ショック!銀行の
CD機がお休みではないか。むむむ、財布の残金は3500円。参ったね、こりゃ。
昼食は松屋の牛飯にして、サラダをつけるのが精一杯。卵を控えて50円浮かす。
とりあえず初志貫徹で新京成沿線を攻めてみるが、残金チェックで気もそぞろ。
情けない事おびただしい。
d「宇宙探査艇 迷惑一番」神林長平(光文社文庫)150円
「落ちる」多岐川恭(徳間文庫:帯)160円
「天の川綺譚」川又千秋(双葉社NV:帯)300円
「《虹》作戦を追え!」宮崎惇(徳間NV)200円
「時間帝国」川又千秋(角川NV)200円
「サイレント・ファイア4」樋口明雄(勁文社NV)100円
「サイエンス・アドベンチャー(上・下)」Cセーガン(新潮選書)200円
3巻本だと勘違いしていた「サイレント・ファイア」の第4巻をゲット。なんと
4巻だけ浮いていたので心置きなく買える。セーガンは余りの安さに拾ってしまった。
不完全燃焼で、丸善へ。あ、欲しい本があるではないか!しかし、財布には後
1500円。た、足りない。しかし、ここで見逃すと明日にはなくなってしまう
かもしれないという強迫観念にかられて、禁を犯す。えーい、カード使っちゃえ!
「架空の王国」高野史緒(中央公論社:帯)2200円
「1809」佐藤亜紀(文藝春秋:帯)1800円
「白衣の女(上・中・下)」Wコリンズ(岩波文庫)2060円
「夢の女・恐怖のベッド」Wコリンズ(岩波文庫)660円
禁を犯してまで、と思い込んだのは高野史緒の1冊で、後は2000円でカード
を使うのが格好悪いと思い、一気買い。新刊書店もじっくり見て回るとそれなり
に楽しいものである。津田沼の丸善はこの界隈では最も新興なのだが、なぜか古い
ところを置いているので、結構お気に入り。いやまあ、推理・SF・幻想系では
銀河通信コンビの勤め先が一番凄いんだけどさ。ここはサブカル系の充実ぶりが
尋常ではない。角川のピーナッツブックス他をずらりと並べてスヌーピーフェア
をやっていたので心が動くが我慢。うーん、もう23巻まで出ていたのかあ。
ちくま文庫もぼんやりしているうちにディケンズやイヴリン・ウォーが全然並んで
いないのに気がつく。とりあえず、集めに入ろうかな、古本屋で。
◆最近の若者が本を読まない、って事について。草バンドやテレビっ子は昔から
いた。でもテレビゲームやビデオやパソコン通信や男性向化粧品はなかったね。
今の時代に生まれていたら、ここまで本に嵌まっていたかどうかは正直なところ
疑問である。それだけメディアやカルチャー間での生存競争が激しくなってきて
いるって事がひとつ。今ひとつは、「読まないけれども、書き手にはなりたい」
という風潮に代表されるように(もっとも、純粋な表現手段というよりは「一発
当てて有名人」という動機の方が大きいのかもしれないけれど)、本との関わり
方が昔と変わってきたという事なんざんしょうね。あと、統計上のトリックで、
馬鹿みたいに本を読む若者の数は昔からそんなに変わってないけれども、全然読ま
ない若者の数が(あるいは、こういうアンケートに「全然読んでないもんね」と
回答して恥じない若者の数が)増えた結果として平均が下がっているって事じゃあ
ないのかなあ。

◆「その鉄柵の中で」鷲尾三郎(青樹社小説新書)読了
昭和30年代作家探訪。この作者も完全に忘れられた売れっ子作家の一人。本棚に
10冊程度並んでいる中から、新書サイズのこの作品を取りだして渉猟の友に。
昭和の末期に「過去からの狙撃者」がカッパから出た時は本当に驚いたものだ。
「え、この人ってまだ生きてたの?」と素朴に感心してしまった。それこそ初期
短編を鮎哲のアンソロジーで見かける程度の作家の新作とは!あの「幻影城」で
すら為し得なかった事を!!余りの評判の悪さにその1作で終ったのは吉か、凶か?
探している人は探しているので、古書展やオークションでは4、5千円が当たり前
になっているが、それは本の値段であって、作品の価値とはほぼ無関係になって
いる作家の一人であろう。オークションで彩古さんと「面白いですか」「全然
ダメ」というやり取りがあっても、行くぜ5千円!なのである(あ、そこの貴方、
「過去からの狙撃者」は安いからね、勘違いしてヤフー・オークションに出品し
ないように)。
従兄弟の探偵事務所で留守番をしていた推理作家の私、牟礼順吉のもとに依頼が
舞い込む。依頼人は、立志伝中の富豪岩淵。成城の邸宅に招かれた私は、岩淵から
行方不明の次女捜しを依頼される。屋敷に住むのは、使用人以外には当主とその
長男夫婦に二人の娘。興味本位で依頼を引き受けた私は、屋敷に隣接する養老院の
焼失跡に向かう。次女が失踪した夜に、その養老院は火を出し、収容されていた
老人が全員焼死するという大惨事を起こしていたのだ。現場で偶然出会った顔見知り
の捜査一課の警部から死体が一体多かったという話を聞きつけた私は、二つの事件
が共通の根を持っていると感じた。次女の付き合っていたジゴロの失踪。放火犯と
目される老人の「自殺」。ジゴロの居室の着衣にあった弾痕から、事件は俄かに
きな臭くなってくる。果してジゴロの雇い主である「旭東会」が糸を引いている
のだろうか?美女の危険な誘惑を退け、力は力でねじ伏せて捜査を続ける私の
辿り着いた驚愕の結末とは!!
探偵役が探偵作家という設定に先ず驚く。しかもこいつが滅法腕っ節が強い行動派、
おまけに奇妙な「職業倫理」を振り回すものだから、なんとも凄まじい違和感。
一人称に富豪の娘に暴力団と、洋物ハードボイルドをそのまま日本に置き換えた
ようなガジェットは、それなりに楽しめるのだが、麻薬だの拳銃だのが抑制もなく
散りばめられているのには参った。勿論、現代の作品にも麻薬や拳銃は出てくるが、
それを煙草や包丁扱いはしないであろう。リーダビリティーも高く、プロットも
決して悪くない。だが、この作品は絶対に再刊が望めない。実は、終盤までは
「これなら充分、今の読者の試しにも耐えうるのでは」と感じていたのだが、真相
部分でそういった甘い考えは消し飛んだ。なんとも危険な、そして「平和な」時代
の産物である。


2000年5月4日(木)国民の休日

◆「がんだーーーーむ!!」

ああ、9連休も残り少な。思いっきり有意義に過ごさねばと思っていたのだが、
Gガンダムを昼食時に見たのが運のつき、延々6時間に渡って最終話までの15話
分を一気に見てしまった。まさにリモコン置くあたわざる傑作!前半は結構辛い
話だったのが、後半のガンダムファイト決勝戦に入ると実に実に少年漫画的ヒキ
の世界。前半でウンザリする程溜りまくった謎が、心地よく解決されていく展開
に思わず拍手喝采。台詞の格好良さは全編を通じてのものではあるが、やはり
後半に入って磨きがかかる。らじ丼も指摘していたが島本和彦原案のキャラたち
がまっこと似合う話である。新機動戦記ガンダムWがサムライトルーパーの流れ
を引く女の子向けの話だったのに対して、Gガンダムはどこまでも男の子の向け
のアニメである。全身の血が騒ぎ、涙腺は緩みっぱなし。いやあ、これは面白い!!
亜細亜的格闘技映画のツボも押えており、ガンダムの巨体と搭乗キャラがダブる
作画法がなにより笑わせてくれる。小難しい理屈や鬱陶しく悩むキャラなしでも
充分に大人の鑑賞に耐えるロボットアニメが作れるのだ、という事を堂々と証明
してくれた「B級ロボットアニメ」の頂点に輝く、ガンダム・オブ・カンダムズ!!
「どこがガンダムやねん!?」という突っ込みを無効化する馬鹿馬鹿しいまでの
パワーに最大級の賛辞を贈るものである。っと、気がついたら、なんだ、ジャイ
アント・ロボと同じ監督の作品であったか。うーむ。怖るべし今川泰宏!!
なんちゅうか、それなりに有意義な休日だったわけやね。うんうん。
◆というわけで遠出は出来ずじまい。軽い運動方々、近所のブックオフにタッチ・
アンド・ゴー。
d「未来ショック」福島正実編(講談社文庫:白背)100円
「ピースランド殺人事件」野村宏平(エニックス文庫)100円
◆K文庫からカタログ到着。今回も買い物が沢山有りそうである事よと眺めて
いたら、あわわ、自分の作った同人誌が売りに出されていてビックリ。猟奇の鉄人
という名称を最初に使ったコピー誌。1000円の値がついているが、幾らで
売ったかは内緒だ。ジェシカおばさんはこのサイトでも公開しているものだが、
ジェニファー・ロウの短編の私家版訳がついております。はい。

◆「呪葬」北上秋彦(ASPECT NV)読了
装いも新たに一挙登場したアスペクトのミステリー&ホラーシリーズ、第1回
配本3冊のうちの1巻。作者については、祥伝社でやたら分厚いバイオ風題名
の小説を出している作家という程度の認識。ガンダム疲れした脳みそをクール・
ダウンしようと思って手に取ったのだが、どうして、トンでもないジェットコー
スターホラーであった。
岩手県最北端の寒村である津谷瀬を大型の台風が通り過ぎた後、封じられた魔
が地の底から甦る。次々と生者を生ける屍へと変容させていく「それ」は、次々
と村人達の間に「感染」していくのであった。父親への反発から村を飛び出し
自活している女性臨床検査技師と闇に対するトラウマに悩む刑事の二人が村に
呼び寄せられた時から、暴力と腐臭を撒き散らしながら襲い掛かる「奴等」との
孤独な闘いが始まる。
未読ではあるが小野不由美の「屍鬼」がキングの本歌取りであるとすれば、この
作品は文句なしのクーンツ・スタイル。男と女と子供の逃避行という構図にバイオ
的吸血鬼の新解釈が加わり、多重視点と冷酷なまでのキャラ虐めによるリーダビリ
ティーの高さが、横溝正史的地中の地獄巡りへと読者をひっさらう。それぞれに
トラウマを持つ男女、次々と「奴等」の側へと引きずりこまれる「戦友」、健気
な子供、とまあ、実に「お約束」の世界である。後は作者の筆力勝負なのだが、
一応は及第点を与えてよかろう。ただ、それと知っていればこの話は手にとらな
かった。クーンツが読みたければクーンツを読めばいいのだ。「ホラーであれば
全部読む」という誓いを立てた方はどうぞ。


2000年5月3日(水)憲法記念日

◆2日分の日記に忙殺され、昼過ぎからビッグボックスの定例市の落穂拾いなど
でかける。ビッグボックスではさすがに何もない。28日からだったのね。そりゃ
何もないわい。それでも何か買う奴。
「アガサ・クリスティーの真実」中村妙子(新教出版社)400円
「からくりからくさ」梨木香歩(新潮社:帯)600円
中村妙子の本は86年出版。レファレンスや伝記、研究本を避けて来たのでこう
いう本が出ていた事すら知らなかった。さぞやクリスティーファンの間では有名
な本なのであろう。出版社がマイナーなのでひょっとして現役本なのかも。
◆早稲田古書街を久しぶりにぶらつく。拾ったのはこんなところ。
「崩れた顔」黒岩重吾他(光文社NV)100円
d「アイアンサイド2:霧に消えた歌声」キャンデル(グロービジョン)100円
「幽霊の仇討ち」城昌幸(文華新書)100円
「アンドロボット’99」今日泊亜蘭(ソノラマ文庫:背痛み)20円
「呪葬」北上秋彦(ASPECT NV)700円
「ムーンライト・シンドローム」東野司(扶桑社)100円
芳林堂で雑誌を幾つか買う。
「メフィスト5月増刊号」(講談社)1400円
「ミステリマガジン6月号」(早川書房)840円
「怪:第8号」(角川書店)1300円
それにしても、これが雑誌の値段か?と見まがうような値段だよなあ。「怪」
は7号を買いそびれている筈。うーむ、書泉グランテや三省堂ならあるかな?
「ミステリマガジン」ではティの長篇分載が始まるが、頁数が少なくないか?
まあ、今月は他が古典マニア的に充実していたので許すが、高橋克彦状態には
ならないで欲しいと祈る次第。
後は、ブックオフ系を幾つか攻めて、こんなところ。
「アフロディテの首」森真沙子(実業之日本社:帯)800円
d「伯林−一八八八八年」海渡英祐(講談社)100円
d「追尾の連繋」山村直樹(双葉社)100円
d「郵便配達は二度死ぬ」山田正紀(徳間書店)800円
山村直樹が嬉しいところだが、相変わらず帯はない。山田正紀はMZT氏用の
捕獲。ちょっと高めだけどいいかな?伯林は所持本にカバ欠けなので、入れ替え用。
どのブックオフも盛況なのには驚く。まあ、大型書店もそれなりには賑わって
いるんだけどね。書店では店員が大声出さないからなあ。
◆帰宅してGガンダムを視聴。うう、面白い。ガンダムは本編とZとWあたり
しか見ていなかったのだが、Gガンダムは亜細亜映画のチープさがとても良い
のである。中国語(広東語?)の挿入曲がカッコいいんだわ、これが。

◆「陶工の畑」Eピーターズ(教養文庫)読了
実に久々のカドフェルもの。前回読んだのは、この日記をつけ始める以前である。
で、正直な話、どこまで読んだかを忘れていた。渉猟の友に持って出かけたのが
この前作にあたる「異端の徒弟」。ページの角を折っていないので未読かと思い
きや、これが読んでいくと常に先がよめてしまう。「あ、やばいぞ、こりゃ。」
と己の老人力にびびるが、「いやいや、ひょっとしてテレビ放映を見ていたから
かも」ととりあえず最後まで読み切る。帰宅して日本クラウンのHPで確認する
と、さすがにこの辺の新しい作品は未放映の模様。あああ、やってしもたあ!!
貴重な読書時間をカドフェルの再読に割いてしまうとは。というわけで、一晩
がかりでこの「陶工の畑」を読む羽目になる。読書メモをつけていない私も悪い
のだが、似たような話を書くピーターズもピーターズである(八つ当たり)。
今日の更新が遅れたのはそんな理由なのである。
今はシュルーズベリの修道士となっているルアルドが陶工として粘土を利用して
いた畑から女性の死体が掘り出される所から物語は始まる。果してそれは、彼が
俗界に残してきた妻、そして誰とも知れぬ愛人と共に姿を消した妻ジェネリーズ
の死体なのであろうか?だが、その疑惑は近くの荘園主の次男で今は遠方の修道
院に身を投じたサリエンのもたらしたある証拠により晴らされる。捜査を続ける
カドフェルは、偶然にも浮浪者の証言からある行商人と彼の愛人の存在を知るの
だが、、、信仰に、戦争に、男達は妻を残して去っていく。残された心の形が歪む
時、真実の愛が試しを受ける。奪う愛と与える愛の狭間で死者は甦り、そして
再び土に還る。自棄を救う告悔はまた神の御業なのであろうか。「呪われた地」に
調和の光あれ。
というわけで、いつものカドフェル。それ以上でもそれ以下でもない。シリーズ
の中では、デクスター的なツイストの匂いが多少ある方だが、作者の書きたいのは
そんな瑣末なミステリ趣味ではない。中世版ハーレクイン・ミステリがお好きな
方はどうぞ。「陶工の畑」という題名だけでキリスト教信者達は不吉を感じる
(日本で言えば「安達が原」みたいなもんか?)とかいう知識の習得にも役立つ。
例によってヒュー・ベリンガーの妻アラインがいい味だしてるぞおお!とかいう
キャラ読みも出来る。プロだねえ、プロ。


2000年5月1日(月)・2日(火)

◆さて、5月も4月同様、お泊まりツアーで幕開け。今回は、先週古本者が大挙
して押しかけた黒白さんちにいって、古本をアテに酒をかっくらう企画。午前中、
黒白さんが出勤ということなので、午後2時に小山駅のロータリーで待ち合わせ。
あれこれとお土産を仕込んでいざ出陣!
◆充分に余裕を見て家を出たのだが、大宮駅で信号故障とかで電車の発車が10分
近く遅れ、現地についたのはまさにジャスト・オン・タイム。慌ただしく階段を
駆け下りていくと、「kashibaさーーん」という黒白さんの声。あれ?言ってた
車と違うじゃん?と思ったら、なんと黒白さんの方も、自家用車がパンクして
急遽、仰天の騎士さんの車で駆けつけてくれた由。おお、お互いに気を揉んで
いたわけですのう。運転席の仰天さんに挨拶して、一路、小山界隈の古本屋ツアー
に出陣。のっけから、古本的に濃い話題が炸裂する。最初のお店は、富士書店と
いうリサイクル系中型古書店。雑然と文庫が並ぶ中を見て回る。店の内周に沿って
椅子が用意されており、漫画を読む若者で溢れかえっていたのが印象的。買った
のはこんなところ。
「立ちどまれば死」光瀬龍(ソノラマ文庫)100円
「フランケンシュタインの日記」Hヴェナブルズ編(学研)300円
d「恐怖の心理サスペンス」マッコーリー編(ワニ文庫)100円
「空飛ぶ冷やし中華」筒井康隆・山下洋輔他(住宅新報社:帯)100円
「ミステリー入門」佐賀潜編(青春出版社)100円
「ミステリー入門」が大当たり。クイズや著名作家の犯人当て小説満載のご機嫌
なアンソロジー。存在さえ知らなかったのでこれは嬉しい1冊。棚下のダンボール
箱から拾い出した文字通りの掘り出し物である。
◆2軒目は、「ほんだらけ小山城南店」へ。入って直ぐの棚の上に香山滋の本が
あって、先週、彩古さんが最初に目に留めたとか。うーん、さすがだ。ここは
「ほんだらけ」らしく、とにかく広い。ぼんやり眺めていると時間が瞬く間に
過ぎていく。サンリオSF文庫や宇宙船文庫などもなかなかの品揃え。プレミヤ
価格をつけているが、都内の6割程度といった印象。購入は7冊。
「ヴィクトリア朝空想科学小説」風間賢二編(ちくま文庫:帯)550円
「フローティング・オペラ」Jバース(サンリオ文庫)300円
d「求婚者の夜」殿谷みな子(早川JA文庫)150円
d「ローズマリーの赤ちゃん」Iレヴィン(早川NV文庫モダンホラーセレクション)200円
「スーパーマン」Eマッギン(講談社:帯)500円
「女」結城昌治(青樹社:帯)300円
「トパーズ色のBAND伝説」野原野枝実(MOE文庫)100円
サンリオのバースがなぜか破格に安かった。買いそびれていた1冊なので、躊躇
なく買う。
◆ここからブックオフ3軒乱れ撃ち。最初に50号小山店へ。ほんだらけに比べ
圧倒的に店内が明るくて宜しい。本の数も多いが収獲的には乏しい。
「亜人戦士」川又千秋(徳間文庫)100円
「総統の招待者」森真沙子(祥伝社ノンNV)350円
「三人のおまわりさん」W=ペン=デュボア(学研)100円
森真沙子は100円で拾いたいところだがその気になって探すと意外にみつからない
ので半額で我慢。森英俊さんが掲示板に書いていたデュボアの童話を拾い、帳尻
をあわせる。
◆引き続き、今年に入って、黒白さん・仰天さん・キバヤシさんが日がわりで
血風を吹かせていた、茨城の玉戸モール店へ車をすっ飛ばす。かなりの距離を走り
アメリカンスタイルの郊外型モールの一角にある店舗に辿りつく。しかしながら
さすがに何ヶ月も経っていては血風の残り香すらない状況。探究中のZ本が拾え
たのがせめてもの救いといったところ。
「真昼に別れるのはいや」笹沢佐保(桃源社:函)100円
d「ユニコーンの徴」Rゼラズニイ(早川SF文庫)100円
d「混沌の宮廷」Rゼラズニイ(早川SF文庫)100円
「血の埋葬」麓昌平(弘済出版社)100円
笹沢佐保が唯一の血風の名残。まあ、この叢書の函付きが100円なら買いで
しょう。
◆再び小山に取って返し、黒白さんのご実家に立ち寄ってから、初日最後の店へ。
ブックオフ小山城北店。二階建ての二階部分が小説ゾーンという、私の近所の
ブックオフと同じ作り。
d「小惑星要塞を粉砕せよ!」MWウェルマン(早川SF文庫)100円
d「柊の僧兵記」菅浩江(ソノラマ文庫)100円
「ナイトライダー」ヒル&ラーソン(勁文社NV)100円
「エアーウルフ」Rレナルド(勁文社NV)300円
「エアーウルフ2」Rレナルド(勁文社NV)300円
「エアーウルフ3」Rレナルド(勁文社NV)300円
「急がないと夏が」野原野枝実(MOE文庫)100円
「本格・結婚殺人事件」辻真先(朝日ソノラマ)100円
d「ながれ星」佐々木丸美(講談社:帯)450円
「エアーウルフ」は1冊100円で拾わなければならない本なのだが、3冊揃い
の誘惑に勝てず止む無く買い入れ。「急がないと夏が」はジュニア読み絶賛の
作品なので、嬉しい1冊。これは仰天さんが持ってきてくれた。丸美本は、また
しても「ながれ星」。バリバリの初版帯なのでヤフー・オークションに出せば
結構な値段がつきそうである。
◆とりあえず黒白さんの家に一旦入り、噂の書庫を拝見。うーん、これは凄い!
四方を本棚が取り囲み、真ん中にもスチールラックを配置、入り口右手に書き物
机、さらに右手壁際にパソコンコーナー。おお、ここで「BAR黒白」が作られて
いるのですな。ライティングデスクの本棚には東西のレファレンス類がきちんと
整理されている。部屋の真ん中のラックには宝石とポケミス、ラック上部には
メグレがずらり。左手の壁沿いに不木他の全集系と文庫の鮎川が勢揃い。幻の
「夜の疑惑」もちゃんとあるぞ。この棚の下に乱歩文庫が全部帯付きで並んでいる
のだが、この背が凄い。白いのだ!ええ?こんな版あったの?と聞くと、なんと
「アセ」てしまったのだそうな。ああ、勿体無い!!入り口向かいの壁が優遇
ゾーンで、和物の古いジュヴィナイルや楠田・飛鳥などの30年代作家、プロッパーや
コニントンの揃いといった洋書がスライド本棚に綺麗に収められている。ああ、
これは美しい。その向かって右手の本棚には高木・鮎川・戸板などの贔屓作家の
初版が居並び、さらにその右手には百冊以上のカーのPBが発表順に収められて
いる。可哀相なのは、カーのハードカバーが床の間に無造作に積み上げられて
いる事。日本一高価な平積みだよね。
◆忘れないうちにと、黒白さんと仰天さんにあれこれお土産を渡す。「霧子、閃く」
とか、原書のパーマーのダブリ本とか、別冊クイーンダム第4号とか。それなりに
喜んでもらえてラッキーハッピー。黒白さんから「刺青殺人事件」の英訳版を
頂戴してしまう。あれれ、そんなつもりではございませんでしたのに。とりあえず
ありがとうございますありがとうございます。
◆溜め息まじりに、買い出しにでかけ、しこたまビールと日本酒とつまみを買い込み
奇書の並ぶ片隅で酒宴を始める。よくもまあ、あんなところで酒盛りをやったものだ。
最初は濡れ本の恐怖に慄きつつ、しかし酒が回りだすとお構いなしの大放談会!
ZPの事、ホームページの事、洋書の事、天城一の事、同人人脈の事、評論家の事、
高木彬光の本質論、宝石の事、ひたすらミステリ関係の話題で盛り上がる。12時
頃に徒歩で煙草と酒の買い出しに再度出かけ、結局2時過ぎに広大な2階で雑魚寝。
いやあ、よく飲んだ!かくして1日目は、充実のうちに終了。

◆翌日は、7時過ぎにどろりと起き出す。仰天さんが甲斐甲斐しく作ってくれた
カップ麺を朝飯にしながら、古本屋の開店時間まで中央市場のマグロ状態で、CS
で放映していた勝新の「子連れ狼」を見るとはなしに見る。殺陣が派手で、腕は
飛ぶ飛ぶ首真っ二つの血まみれで目が離せない(おいおい)。二人がゴジラの
ラストシーンに嵌まっている間に私は「夜の疑惑」収録の他では読めない2作を
立ち読み。「緑色の扉」と「夜の挽歌」。まあ、あの時代の軽いフーダニットと
倒叙もの。「緑色の扉」はツイストでなかなか読ませる。こちらはどこかで再録
されても恥かしくないだろう。「夜の挽歌」はいかにも作り物めいた話で辛い。
オチもオチだしなあ。黒白さんの調子が今ひとつだったが、9時過ぎには再び
仰天さんの車で宇都宮へゴー!!
街道沿いのこじんまりとしたお店が一軒目。ここは先週のハイエナツアーご一行
様は大人数過ぎて立ち寄っていないお店とか。おお、それは期待できそう。
古目の新書があれこれ並んでいて見ごたえあり。近場ならついダブりで押える本
がゴロゴロしていたが、絞り込んでこんなところ。
「黒い昼夜 小説人生相談」佐賀潜(東京文芸社)150円
「小説 女の法律」佐賀潜(東京文芸社)150円
d「花嫁人形」佐々木丸美(講談社)300円
「20世紀最後の珍本」テディ片岡(KKベストセラーズ)150円
「トイレ的発想の書」テディ片岡(KKベストセラーズ)100円
d「外時局第五課」藤村正太(ポケット文春)100円
うう、安い!それにしても佐賀潜は一体この世の中に何冊あるのだろうか?これで
所持する佐賀潜はついに50冊を越えてしまった(除、法律入門書)。ここで
仰天さんがデュモーリアを1冊もって行く。ああ、やられたあ!
◆2軒目は山崎書店という、これも普通の町の古本屋さん。ここは、荒され済み
なので確かに何もない。ポケミスに結構なお値段がついていて驚く。とりあえず
Z本強化の一環で1冊だけ購入。
d「コイルズ」ゼラズニイ&セイバーヘーゲン(創元推理文庫)250円
◆次に向かったお店は開店しておらず、ちょっと残念な思いをする。その店の本店?
にあたる門倉書店が3軒目。ここでワタクシ的に大失敗をやらかす。三笠ノベルズの
チャーリーズ・エンジェルが4冊揃っていたのだが、どの一冊が未所持かを思い
出せずに、悩む事しばし。なにせ1冊700円である。これを外すとダメージが
大きい。仮に1冊100円なら文句無しに4冊とも買うところだが、、記憶を頼り
に一冊引き抜く。上手くすれば三笠NV完集!!で、帰宅して確認するとこれが
ダブリ本!!ああ、やってもーたーー。さっぱりわやでんがな。まあ、長い人生
こんな事もあるさね。それにしても当てにならん記憶じゃ。kashiba的「チョコ
レートの箱」ですのう。
d「チャーリーズエンジェル 西海岸で何かが起こる」フランクリン(三笠NV)700円
◆そんな事とはつゆ知らず、次はブックオフ宇都宮竹林店へ。広さは通常だが
これといった収獲なし。
d「ファントマ対ジューヴ警部」スーヴェストル&アラン(早川NV文庫)100円
「原罪都市」川又千秋(講談社NV)100円
d「神獣聖戦3」山田正紀(徳間NV)100円
ここで、仰天さんが「東欧SF傑作選(上)」をゲット。いやあ素晴らしい。
完全に1本取られました。LDコーナーを覗くと、なんと新必殺仕置人のLD
ボックス(上)が並んでいて頭を抱える。あああ!!こんなものブック・オフに
流すなよおお!さすがに所持金が足りず、泣く泣く諦める。なんとも心残りである。
◆サクサクと次なるブックオフへ。宇都宮宿郷店。「もし、ここに新仕置人の
(下)が出ていたら、銀行に行ってもらうけんね」と半泣きで店内に。最初に
LD棚をチェックするところが、先ほどのショックの大きさを物語る。結果、
ありませんでした。めでたしめでたし。本の方は投げ遣りにバローズを2冊押える
にとどめる。
d「モンスターマン」ERバローズ(早川SF文庫)100円
d「時の忘れられた人々」ERバローズ(早川SF文庫)100円
◆一軒、黒白さんお勧めの店に向かうが残念、ここも店を開けていなかった。
個人営業のお店は連休中に休む事があるようである。以上で、宇都宮ツアーを
終了。小山に戻る途中で回転寿司をつまむ。街道沿いにマンガ中心の店がある
ので寄ろうとするが、準備中。開店時間の2時まで5分待つが、一向に人の気配
がなくあきらめる。ぶつぶつ。ならばということで、黒白さんが「すずめ書房」
なる店に行こうと発案。もう何年も行ってないが、気難しいオヤジがやっていて
SFはかなりあった、との事。若干回り道にはなるが、街道を外れ水田を貫く
一本道をひた走る。やたらと軽自動車が多いのは、この辺りの生活の智恵か。
ようやくついたお店は、怪しい雰囲気満載。興味津々でのりこんだが、薄暗い
店内は、呆れるばかりの雑本、また雑本。つまり、汚いブックオフなんだな。
とにかく買うものがない。そして、ついに密かに継続していた連続購入記録が
ここで途絶える。あああ、無念!!
◆最後に口直しというわけでもないが、もう一軒ブックオフで、と4号栃木石橋
店へ。ああ、くつろぎますのう。ここでは目の前で仰天さんが宇宙船文庫を半額
コーナーから3冊ぶっこ抜き。うーーん、今日の仰天さんにはかなわんわい。
私の買ったのはこんなところ。
「裏切りのゲリラ星域」在沢伸(ソノラマ文庫)100円
「異郷の扉」草川隆(ソノラマ文庫)100円
「悪夢への鎮魂曲」草川隆(ソノラマ文庫)100円
「天界の狂戦士」川又千秋(双葉NV)100円
「幻獣の密使」川又千秋(徳間NV)100円
「時空間の剣鬼」宮崎惇(双葉NV)100円
d「占星王をぶっとばせ」梶尾真治(みき書房)100円
「あいどる」Wギブソン(角川書店)100円
カジシンの初期作の元版が嬉しいところ。なんといっても芦田豊雄の表紙イラスト
がヴァイファムだよなあ。在沢伸が一歩前進も喜ばしい。
◆かくして、小山駅まで送ってもらった私は、黒白さんと仰天さんに手を振って
お別れ。ラビット号で一路東京を目指したのであった。購入数48冊、頂き本
1冊、計49冊の栃木ツアーはこれにて幕。2日間フルアテンドしてくださった
黒白さん&仰天さんに心からの感謝を贈ります。次は是非お二人で拙宅に遊びに
来てくだされ。

◆「ルナティカン」神林長平(光文社文庫)読了
現在入手困難な神林長平作品の1冊。月の地底に住むルナティカンと呼ばれる
人々は、彼等のユートピアを築いていた。一方、地球に対し対等の権利を主張する
者達は「月人」として月面上のドーム都市で繁栄を謳歌し、そして彼等から見て
前時代的なルナティカン達を忌むべきものとして退けていた。そんなドーム都市で
ルナティカンの孤児ポールは、巨大企業LAPの開発したアンドロイドの両親に
育てられていた。彼の成長記録はそのままLAPのPRに利用されるのだ。地球
から来た女性ルポライター:リビーがポールを取材しようとLAP本社を訪れる
ところから物語は始まる。そしてポールの影の保護者リックとリビーの出会いは
巨大にして精巧な虚構に蟻の一穴を穿つ。15歳の少年の休日の家出は地獄への
一本道か、それとも天界への飛翔なのか?血族と言う名の束縛が解放の徴となり、
力任せの完璧は素朴な心の揺らぎの前に瓦解する。完璧なものなどない、真理など
ない。今も昔も変わらぬものは人を思う人の気持ち、それがたとえルナティック
であっても。ここは未来。ここは月。
「地底」対「地上」、精巧なアンドロイド、孤児と血の宿縁、といえば勿論、
「あなたの魂に安らぎあれ」。この作品は、多分に「あなたま」のモチーフを
用いながら、ハリウッド映画スタイルの公式に当てはめた娯楽作品である。それ
以上のものではない。終盤の月の地底シーンには、異界のオーラが満ちてはいる
ものの書き急いだ感があって、練り込み不足。探偵の造形もステロタイプでふと
メル・ギブソンの顔が重なる。1時間で読み飛ばすには持ってこいだが、これが
神林なのか?と問われると辛いものがあろう。いや、面白いんだけどね、なにも
神林長平が書かなくてもいいな、って事です。

◆「真昼に別れるのはいや」笹沢佐保(桃源社)読了
当時、気鋭の新人であった笹沢佐保の初期作。函付きを100円で拾って、帰宅
の友にと手に取ってみた。堂々たる本格推理でありながら、男女の生業や心理を
絡めて、誰にも親しめる作品に仕上げると言う点では、笹沢佐保こそは、社会派
全盛の時代の本格マニアの救世主に映ったのではなかろうか?正史が筆を折り、
彬光は通俗と実社会の裁判にのめり込み、鮎哲一人が本格の孤塁を護っていた
時代に、笹沢佐保こそは出版社を騙して隠れ本格を世に送れる期待の星であった
に違いない。個人的には「木枯し紋次郎」を始めとする股旅物の作者というのが
第一印象だったので、その真価を知るのは更に長じてからの事であった。この
作品もまさに笹沢作品の特徴がすべて盛り込まれている作品である。妻を亡くし
その忘れ形見である娘までを交通事故で失った春彦に新たな恋が芽生える。彼が
再び生きる気力を取り戻した事を喜ぶ妹多美子。しかし関係会社の社長の娘と
一介の人事係長の恋が成就するには、世間には障害が多すぎた。春彦の自宅でつかの
間の逢瀬を貪る二人。しかし、女は親から政略結婚を押し付けられようとしていた。
一方、春彦の関わった採用業務でトラブルが発生する。そして奥多摩のダムで、
彼の死体が発見されるのであった。ひょんな事から、この事件に首を突っ込んだ
謹慎中のテレビ・ディレクター富田は、妹多美子とともに、春彦の死の謎を追う。
なぜか現場での春彦の恋人:葉子の不審な行動が富田に疑いを抱かせる。四面楚歌
の中、二人の孤独なアリバイ崩しが始まる。
どことなく書き急ぎによるギクシャク感が残る作品。笹沢佐保的な要素は満載
なのだが、底が浅くアリバイ工作もお粗末である。「空白の起点」や「結婚って
何さ」「霧に溶ける」あたりの傑作に比べると見劣りする事おびただしい。おそらく
作者は、ある「テーマ」(一読すれば直ぐに見当がつく)尽くしで一本ミステリを
仕上げてみようと考えたのであろうが、少々筋運びが強引に過ぎた。ただ、題名の
付け方は相変わらず素晴らしく、結末のハードボイルドぶりも後年あるを思わせる。
書下ろし長篇らしい熟成感を求めるには、既に売れっ子になり過ぎていたという
事であろうか?残念感の募る作品。100円で買ってよかった。