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2000年4月30日(日)

◆昨日の自宅オフレポに半日かけて昼寝。夕方から新検見川定点観測。
「血の色の喜劇」多岐川恭(桃園文庫)190円
「紅い蜃気楼」多岐川恭(徳間文庫)180円
「孤独な共犯者」多岐川恭(ケイブンシャ文庫)180円
「私の愛した悪党」多岐川恭(講談社文庫)140円
d「うたかたの楽園」菅浩江(角川スニーカー文庫:帯)190円
「スミソン氏の遺骨」RTコンロイ(創元推理文庫:帯)240円
「四月闇桜姫」図子慧(コバルト文庫)100円
「ピュアミント88」図子慧(コバルト文庫)100円
d「殺人保険」JMケイン(新潮文庫)100円
「ディスクワールド騒動記1」Tプラチェット(角川文庫)240円
「スポーツ一刀斎」五味康祐(講談社大衆文学館)310円
「亜人戦士2<神話星団>」川又千秋(徳間文庫)180円
「亜人戦士3<地球征服>」川又千秋(徳間文庫)190円
「星狩人」川又千秋(講談社NV:帯)200円
「寄生同盟」川又千秋(講談社NV)200円
「幻視界第一界−愚能神話」川又千秋(徳間NV)250円
「幻詩狩り」川又千秋(中公CNV)200円
d「霧子、閃く!」多岐川恭(勁文社NV)200円
「パワーオフ」井上夢人(集英社文庫)340円
「鉄塔武蔵野線」銀林みのる(新潮社:帯)600円
「少女怪談」(学研)400円
さあて、では戦記に転ぶ前の川又千秋でも集め出しましょうかね。
◆Gガンダムをぼちぼちと視聴。おお、そうか!それでGガンダムなのかあ。
それにしてもどの国のガンダムも国辱もののデザインよのう。

◆「判決」八橋卓編(秋田書店サンデー新書)読了
昭和30年代後半NET系で放映されていた裁判ドラマ「判決」のノベライズ。
若かりし日の仲谷昇が主役の岸本弁護士を演じていた(らしい)。昭和53年に
高橋英樹主演でリメイクされたものは数話見た記憶があるが、さすがに初代の
シリーズは物心つく以前の番組であり、再放送の覚えもない。この本に収録された
スチルで当事の雰囲気を偲ぶのが精一杯である。日本を代表する裁判ドラマは
文句無しにNHKの「新・事件」のシリーズだと確信しているが、この「判決」
も「事件記者」「七人の刑事」同様日本のテレビ創生期を代表する名ドラマだった
(らしい)。この作品集には昭和39年の作品から5本がノベライズされている。
一読して感じた事は、とにかく「重い」。これはとても娯楽作品とは言えない。
ずばり「社会告発」番組である。この本自体が「よりぬき」なので放映作品総て
が重い作品だったとは断言できないが、「沖縄返還」「暴力団抗争」「航空機事故」
「原爆症」「死刑廃止」というなんともやりきれないテーマがずらりと並んで
いる。このような番組が民放で放映されていた事が新鮮な驚きであり、若者に媚び
を売るお洒落系ドラマとおバカなバラエティーが幅をきかせているテレビの現状に
暗澹たる思いを抱かざるを得ない。勿論、テレビは時代の窓にすぎない。当時の
日本人が、茶の間でこのドラマを真っ向から受け止めるだけの気概に溢れていた
というだけの話である。参ったなあ。以下、ミニコメ。
「沖縄の子」沖縄から内地に来た家族。高校生の息子が喧嘩で同級生を屋上から
転落死させてしまう。しかし、母親は一切、息子の弁護を口にしない。ひめゆり
部隊の生き残りである母親の思いが、法廷で迸る時、全ての日本人が試される。
返還前の沖縄人の「憧れ」が痛い。無関心がこの国を蝕んでいるのは、今に始まった
事ではなく、どうやらDNAレベルの話のようである。
「刑事804号法廷」暴力団抗争で鉄砲玉を務めた若者が被告席に立つ。だが、
彼の恋人は彼のアリバイを主張する。身寄りのない彼が最後に選択したものは
果して何だったのか?まだ貧困な国であった日本の社会システムとしての暴力団
が描かれる。被告人の絶叫はさぞや当事の視聴者の涙を誘ったことであろう。
若手弁護士の潔癖さがよい。
「空の壁」航空管制官の指示ミスにより航空機の空中衝突事故が起き、71名が
死亡する。なぜ、管制官は「その」空路を指定したのか?「空の壁」という言葉
の意味するものは?安易な選択に走る高級官僚と、身を削って任務を遂行する
現場公務員の対比というテーマも永遠のものであるらしい。羽田国際空港の致命
的な限界を告発した名編。
「容疑者」原爆症を宣告されたハイミスのBGに窃盗の疑いがかけられる。総て
に無感動になっていた彼女は、肉体関係や原爆反対運動に逃げ込もうとするが
果たせず、死の淵に向かう。「謎」の構築を放棄して原爆の恐怖を強調した作品。
返す刀で運動家も切ってみせるが、あまりにもやりきれない。
「夜へ赴く」娼婦として働かせていた前妻と今の夫、その母を殺害した男の弁護
に立つ女性弁護士。死刑宣告を免れる途を求めて奔走する彼女の前に、被告人の
内縁の妻が現われる。果して、死をもって報いる事は制度として許されるのか?
「死刑」に対してニュートラルな立場をとった制作姿勢を評価する。個人的には
この被告は死刑が相応しいように思うけどね。
総論:なにかとても懐かしいものを見せてもらった。それは「真面目なテレビ
番組」である。せめてこういう番組が常に1本ぐらいは製作されていて欲しい
というのは只の懐古趣味だろうか?懐古趣味だよな。


2000年4月29日(土)

◆きょうは、ぼくのお家にこわい人たちがやってきました。膳所善造さんと日下
三蔵さんという、ほんしょくで「おに」をやっている人たちです。お家にいく前に
膳所さんを、亀戸の古本やさんにごあんないしました。そのお店はポケミスが
とっても安いお店なのです。亀戸でまち合わせたぼくは、膳所さんがあまりに
京極夏彦みたいにかっこいい人だったのでびっくりしました。膳所さんは、その
お店で24冊もポケミスを買っていました。200円均一なので4800円です。
ぼくが「もっとポケミスしますか?それともどこかの町の古本やさんをごあんない
しましょうか?」とたずねたところ「じゃあ、おすすめの町で」というお話だった
のでさいきん定点かんそくをさぼっていた本八幡にごあんないしました。「一寸
高いお店ですが」とさいしょに入ったお店で膳所さんはボーイズライフふろくの
山下諭一の本を800円で買って大よろこびでした。ぼくはさいきんのほんやく
もののハードカバーが半額で並んでいたのでわしわしかいました。次のお店では
3冊110円たなで買い物をしたついでに一応なかもチェックしたところ、ずっと
さがしていた「オカルト入門」をゲットできました。なんと200円です!これで
角川文庫のオレンジ背のオカルトシリーズがコンプリートです。やったやったあ!
次のお店では膳所さんが「悪魔博士」を買っていました。本当は膳所さんが角川
文庫の「風の証言」に気をとられていたので、「これが出てるじゃないですか」
とぼくが教えてあげたのです。ぼくも山田智彦の「湖の墓」が買えてまんぞくです。
日下さんとの待ち合わせ時間がせまっていたので、あとひとつだけ、と入ったお店
では、ぼくは膳所さんが見のがした「紅鱒館の惨劇」を250円でゲット出来ました。
ぼくは、本当にどんなお店もあなどってはいけないなあ、とちょっと反省しました。
膳所さんは「しらない古本やにいくとわくわくしますよね」とうれしそうでした。
◆ううむ、子供の日記風にすると面倒くさいので、文体を戻す。都合、亀戸〜本八幡
での釣果はこんなところ。
「シルヴィーとブルーノ」Lキャロル(れんが書房新社:帯)500円
「美男狩(上・下)」野村胡堂(講談社大衆文学館)1100円
d「幻の馬」ボワロ&ナルスジャック(偕成社)200円
d「山荘綺談」Sジャクスン(早川NV文庫:モダンホラーセレクション)220円
「スヌーピーのまちがいさがし」(サンリオ)200円
d「死体のない事件」Lブルース(新樹社:帯)1000円
「納骨堂の多すぎた死体」Eピーターズ(原書房:帯)1000円
「月明かりの闇」JDカー(原書房:帯)1200円
「もうひとりのぼくの殺人」Cライス(原書房:帯)1000円
d「ルナティカン」神林長平(光文社文庫)37円
「ウィンブルトン」Rブランドン(新潮文庫:帯)37円
「消えた町」光瀬龍(徳間文庫)37円
「オカルト入門」WEバトラー(角川文庫)200円
「湖の墓」山田智彦(角川文庫)170円
「ミステリーの仕掛け」大岡昇平編(社会思想社:帯)800円
d「100℃クリスマス」森雅裕(中央公論社:帯)300円
d「紅鱒館の惨劇」鮎川哲也編(双葉社)250円
ワタクシ的には「オカルト入門」が血風!「紅鱒館」も格好の交換材になるので
ラッキーハッピーである。なるほどたまに行くとそれなりの収獲があるものだ。
きっかけをくれた膳所さんに感謝。
◆東船橋で日下さんと落ち合い、拙宅に向かう途中も、古本の釣果の話題。ふと
日下さんが「しらない古本屋へ行くとわくわくしますよね」と漏らし、膳所さんと
私は大笑い。あー、それってば、つい15分前の我々の台詞!なんてダメダメな
人たちなんだろう、と更に爆笑する。
◆到着後乾杯して軽く歓談した後に、例によって本棚見学。このクラスの人々に
とっては驚くような内容のものはあるまい、と思っていたが意外にウけて満足。
洋版のクイーンアンソロジーのような正統派から、くまブックスのような外道まで
楽しんで頂く。「おお!クライムクラブや『モスコー殺人事件』が普通の本扱い!」
と喜んでおられた。むふふ。続いて雑誌とダブリ本の部屋にご案内。ここで根が
生えたようになってダブリ本にチェックを入れるお二人。これまでダブリ本に
取り憑いていた人の最長不倒はお給仕犬さんだったが、あっさり記録更新。とにかく
しゃぶりつくすように見ていく。一山ある別冊宝石も1冊ずつチェックを入れる。
1時間以上かかって、膳所さん7300円、日下さん6800円のお買い上げ。
膳所さんには別途、金春本やポケミスの取り置きがあったので、都合8400円。
いまだかつて、これだけうちのダブリ本を買っていった人はいない。基本的に
入手価格でのお譲りを心がけているうちのダブリ本を2000円以上買うという
事がどれだけ凄まじい事か、これまでにご訪問頂いた方々にはお分かり頂けよう。
ありがとうございました。お蔭様で本が相当減りました。これでまた安心して本を
買えます。で、お二人で何が笑えるといって「お互いで取り合う本が一冊もない」
という事。見事なまでに探求書を棲み分けている姿に「長年の付き合い」を感じた
次第。ようやく、本書庫に移動すると、もっぱら和物の古めゾーンで話が弾む。
「うわあ、『大暗礁』に函があるう!」「改造社の全集のオール函つき!!」
「こんなに佐賀潜を集めている人を初めてみた」などと、あの日下さんに幾らか
ポイントを稼いだ事で満足満足。和物の古めは学生時代に卒業したという膳所さん
は、ベンケーシーのノベライズ本に驚いていたが、「刑事コジャック」の第6巻を
見て文字通り茫然自失。注文通りの反応だったので、いっひっひである。膳所さん
が更にダメージを受けていたのが三笠書房の「オーメン2/ダミアン」。この辺り
が、2月にご訪問頂いたよしだまさしさんと全く同じ反応なので可笑しかった。
少なくとも世の中には、私を含めて3人のノベライズマニアがいるという事ですのう。
◆一段落していたところで、日下さんは未知谷の国枝史郎全集の収録作を手書きで
写す作業に入る。作業終了後、山田風太郎の探偵小説選集のラインナップや幻想系
の新アンソロジーの企画をちらりと聞かせて頂く。ありがたや、ありがたや。
と、まったりしていたところ、お二人とも「今日中には帰りたい」という話を聞いて
大慌てで鍋にとりかかる。うわああ、そういう事は早く言ってくれええ。
1時間弱ですき焼きを食べて、日下さん持参の妖しいアニメ主題歌ビデオを慌ただ
しく見て、22時半過ぎにお開き。相当に酒が入っているにも関わらず、両手に
膨大な古本を下げて去っていくお二人の姿はまさに「鬼」であった。かくして、
これまでで最もミステリ濃度の濃い自宅オフは、その日のうちに終了したのであった。
帰り際に、日下さんから1冊、膳所さんから2冊、本を頂く。
「スパイキャッチャーJ3:暗殺教程」都筑道夫(桃源社)
「ミステリ絶対名作201」瀬戸川猛編(新書館)
「ミステリベスト201日本編」池上冬樹編(新書館)
◆ぼくもとてもたのしかったので、また遊びにきてくれるといいなあと思いました。

◆「読後焼却のこと」Hマクロイ(ポケミス)読了
マクロイの第27作にして最後の長篇。ベイジル・ウィリングシリーズの13作目。
1980年の「ネロ・ウルフ賞」受賞作。スタウトのファンが選ぶこの賞にどれ程の
値打ちがあるのかは知らないが、この本が突然ポケミスで出版された時の興奮は
忘れる事ができない。マクロイの本が新刊ででるなんぞ全く予想だにしなかったから
である。仮に「ウルフ賞受賞」が多少なりとも翻訳出版に貢献したのだとすれば、
改めてスタウト・ファンに感謝の意を表さなければならないところである。
物語は、ある物書きの寡婦がボストン市内に一軒の住宅を買い求め、そこに同業者たち
を住まわせるところから始まる。ある日、1階に住む彼女の部屋に1枚のタイプ紙が
舞い込んでくる。それは、その家に住む匿名評論家「ネメシス」を亡きものにしよう
という計画を持ち掛けた手紙の一部であった。住人である、歴史小説家、戦記文学者、
女流推理作家、女流童話作家、女流詩人兼翻訳家のうちの誰が辛辣な批評を以って鳴る
書評家で、誰と誰が書評家の殺害を共謀しているのか?その紙は、たまたま全員が
揃った場所で朗読されてしまい、気がついた時にはその用紙は消えていたのだ!
それぞれの思惑で「犯人」捜しに勤しむ作家たち。一方、寡婦は、ジャーマン・
シェパードを伴に連れた土建屋から彼女が移り住んだ家を破格値で譲るよう脅迫
まがいの申し出を受ける。強引なやり口に反発し、家を護ろうとする彼女。翌日から
通りの向かいでドリル工事の騒音が轟き、夜には巨大な影が庭をうろつくように
なる。そして、遂に殺人が起きた。彼女のその家を斡旋した老弁護士が彼女の部屋
で何物かに喉を裂かれたのだ!しかもその部屋には彼女の行方不明の息子が立って
いた!果して寡婦から相談を受けたウィリングは彼女の息子の無実を立証できる
のであろうか?てな話。
謎の書評家捜しにフーダニット、ホワイダニット趣味も盛り込んだ端正な作りの
本格ミステリである。なによりこの短さがよい(ポケミスで180頁強)。しかも
ビブリオ・ミステリであり、レギュラー探偵登場編でもある。実にサービス精神
溢れる作り込みに拍手。トリックは、森英俊氏によれば自身の短編の焼き直しらしい
が、それと知らなければ充分楽しめる。ホワイダニット部分がやや弱く、唐突感が
あるが、齢75歳にして本格趣味に回帰した作者に対しては敬意を表するべきで
あろう。ビブリオ部分も「幽霊の2/3」の足元にも及ばない軽さであるが、
「ジェシカおばさんの事件簿」並みのコージーな犯人捜しとして読む分には合格点。
洋の東西を問わずやたらと重厚長大化する傾向にある最近のミステリに食傷気味の
方は是非どうぞ。
尚、後書きでは第28作になっているが、森事典によれば1951年の「Better
Off Dead」は中編集なので、第27作になるらしい。ふーん。


2000年4月28日(金)

◆道頓堀角座の聖闘士kashibaです(特に意味はない)>GAKUさん、雪樹さん
◆あ、阪神が負けよう、負けようとして負けてしまった。まあこんなもんだよね。
「阪神一日天下、新庄空砲」で明日のデイリーの見出しは決まりだな。
◆新小岩駅前にリサイクル系の新店をみつけたので覗いてみる。何もない。しょうが
ないので、いつもの店を定点観測。
d「殺人ファンタスティック」Pモイーズ(早川ミステリ文庫)100円
d「血蝙蝠」横溝正史(角川文庫)100円
d「ながれ星」佐々木丸美(講談社:カバー欠け)100円
「ジンボー」Aブラックウッド(月刊ペン社)1000円
カラーコピーという文明の利器のお蔭で、カバー欠けも平気で買うようになって
しまった。いかんいかん。
◆明日は来客につきお片づけモード。例によって全然片付かない。本買い過ぎ。

◆「究極の鉄道殺人事件」辻真先(双葉NV)読了
「てっちゃん」辻真先、本領発揮の連作長篇。某地下鉄勤務の知人に聞いた話だ
が、鉄道会社では鉄道マニアは採用しないのだそうである。冷静な経営判断が出来
ない、というのが理由とか。なるほど納得。この書でも、「地方の赤字路線を廃止
するくらいなら、なぜ遥かに赤字を垂れ流していた東海道線を廃止にしないのか!」
などという天下の暴論を開陳していたりするのを見るにつけ「げに恐ろしきはマニア
魂」という思いを強くする次第。ともあれ、鉄道アリバイ崩しを書いている分には、
無害であり、狂おしいまでの思い入れもスパイスとなる。鉄道開闢時の岡蒸気、
リニア新幹線、北海道の廃線、という三種類のシチュエーションで、律義なまでに
アリバイトリックを繰り出す作者の「愛」は、微笑ましいばかりである。チームを
組んでいるイラストレータ経由で、薩次に託された3編の鉄道ミステリは、素人
らしい気負いと遊び心に満ちたものであった。行き着けのバーからキリコの自宅に
場所を移しながら作品に没入する二人。果して、三つの作品にはある作者の意図
が隠されていた!二人は現実の「死」を食い止める事ができるのか?てな話。
以下、ミニコメ。
「汽笛一声新橋事件」当時の客車の特徴を利用した密室殺人にアリバイトリックを
組み合わせた作品。明治の風俗もよく調べており人物造形も堂に入っている。
女性サスペンスとしても完成されており、この短編一つで終るにはあまりにも惜しい。
名探偵の正体もふるっている。
「リニア新幹線事件」前作とはうってかわって辻真先の悪い面が強調された話。
これも密室殺人ではあるが、あまりにもリスクが大きすぎる。しかも犯人の用意
したアリバイトリックは想像上の時刻表によるものなので、説得力の欠片もない。
さすがに辻真先、自分でも気がついており、作中人物にも指摘させているが、
辛い作品である事にかわりはない。
「廃線駅殺人事件」トリックよりも、犯人像に一工夫あって印象に残る作品である。
廃線に対する作者の主張は熱い。
全体:3つの短編から一つの暗示を導き出すくだりは、いつもながらの噴飯もので
ある。ただいかにもミステリマニアが考えそうな、という意味ではメタ構造的に
正しいのかもしれない。やりたい事は判るのだが、、とりあえず「汽笛一声新橋
事件」を読めたので許す。


2000年4月27日(木)

◆検診帰り、昼飯どきにK駅近辺をチェック。
d「悪魔の麦」Rトーマス(立風書房)100円
d「大江戸歳時記 捕物帳傑作選 新年の巻」柴田錬三郎(河出文庫)350円
d「幻想と怪奇1」仁賀克雄編(早川NV文庫)50円
d「ハンサムな狙撃兵」Cエクスブライヤ(教養文庫)50円
ロストマは拾えるのが決まっているんだよなあ。ぶつぶつ。
◆検診の結果は、相当にショック。またダイエットを趣味レベルで展開するしか
対応はなさそうである。とほほ。といった状況下、残業〜軽く御食事コース。
まあ、連休明けからダイエットって事で。
◆帰宅すると阪神が首位にたっていた。おお!またしてもスポーツニュースの
ハシゴ。楽しんでおける時に楽しんでおかねば。ね、眠い。

◆「幻影の航海」Tパワーズ(早川FT文庫)
PKディックゆかりのスチームパンク派ティム・パワーズ描く海洋冒険伝奇。
史実を研究し尽くしたうえで巧みに作中に織り込み、18世紀のカリブ海を舞台
にした血湧き肉踊る魔術大戦をものにした作者の力業に脱帽。主人公ジョンは、
人形使い。父から受け継いだ技で糊口をしのいでいた彼は、叔父セバスチャン
が卑劣なる簒奪者であった事を知り、叔父の住むカリブへ向かう。しかし、彼が
船主と一芝居うつために設えた船が、海賊に急襲される。そして万全の装備を誇る
その船は為す術もなく小人数の海賊に制圧されてしまうのであった。客の中に
海賊の協力者がいたのだ。ジョンがほのかな恋心を抱いていたベスの人格者の
父ハーウッドと肥え太った医師レオ・フレンド。なんと二人は魔術を自在に操る
師弟だったのだ。ひょんな事から海賊の一味に加わるジョン。ハーウッドとレオ
はそれぞれの思惑で、海賊黒髯と結び、新世界にある異世界への門「不老不死の
泉」を目指す。師の妄執、弟子の貪欲、海賊の無法、カリブの魔海に死者は甦り、
灼熱の大気が鉄臭にけぶる。操りの技は、「依り代」の因果を断ち切る事が出来る
のか?恩讐の環が閉じる時、運命の帆は希望の風をはらむ。恋と陰謀、友情と裏切、
魔法と剣劇、疾風怒涛のビルトゥングス・ロマン、ここに登場!てなお話。
エンタテイメントは、斯くありたい。正統派の伝奇でありながら、ボーイ・ミーツ・
ガールでもある文句無しの快作。史実に新解釈を与える奔放なイマジネーションは
著者ならではのものである。「好事家のための覚え書き」はこのような作品に
こそ相応しい。にもかかわらず、判らん奴は判らんでよろしい、という潔さが
なんとも素敵である。酒宴のある平日に読むには少々荷が重い作品ではあったが、
作者の志の高さに心からの敬意を表さずにはいられない。


2000年4月26日(水)

◆衛星民放5社主催のBSデジタルフェアなる催しを覗きにいく。新高輪プリンス
ホテルの一角を借り切っての派手派手な演出に呆れる。デモソフトのBGMはなぜか
「第九」である。それにしても、地上波すら積録になっている今、これ以上ソースを
増やさないで欲しいよなあ。私はテレビ番組が好きだが、インターネットの濃密な
インタラクションに嵌まっていると、どうしてもネットを優先してしまう。単位
時間の効率という点でみれば明らかにネットの方が楽しい。テレビは、メシ時に
垂れ流す程度の付き合いが精一杯。テレビ局がかつての邦画のように衰退するとは
思えないが、受け身でよしとする人々に迎合する限りオバカの度合いは上がりそう
で怖いなあ。
◆雨なので真っ直ぐ帰宅。購入冊数0冊。阪神も雨で試合がなかったので、のんびり
夜レスをつける。皆さんの報告を見て羨望に身をよじる。

◆「廃流」斉藤肇(広済堂文庫)読了
どうもこの作家は相性が悪い。結構読んでいるのだが、いまだに面白い話に当たった
試しがない。おそらくは最後の広済堂文庫「異形招待席」になるであろうこの作品も
ダメダメであった。読みやすいのが唯一の救い。とにかくどこを切っても軽い。それも
軽くしようと思って軽いのではなく、元からぺらぺらに薄いのである。似たような
プロットである「BH85」を先に読んでしまっているのもマイナス材料。状況を究極
まで発展させていながら、そこはかとないユーモアが滲み出してくる「BH85」に
対して、「廃流」は叙情を狙う。しかし、届かない。ジャック・フィニイが「ブロブ」
を書いて100倍に希釈したらこんなものが出来るのであろう。なぜこの作者の作品が
薄っぺらに感じるかと言えば、それは「知識」のなさである。あくまでも推測だが、
この作家は娯楽小説か漫画しか読んでおらず、作品を仕上げる際にも専門書で突っ込んだ
下調べをせずに、殆ど頭だけで書いてしまっているのではなかろうか?荒俣宏の如き
博覧強記であればいざ知らず、このレベルの作家がそれをやれば結果は明らかである。
この作品のようなマルチ視点であればあるほど、力の差は明らかになる。キャラクター
の造形がいかにも薄っぺらなのである。タメがない。余裕がない。顔が浮かんでこない。
顔のないキャラが数だけ出てきてどろどろと呑み込まれも、何の感興も湧かない。
その程度の作品であるにも関わらず、この作者は喋り過ぎる。後書きが2つもある。
更に「妖怪ハンターぐらい読め」とか読者に要求する。何かはき違えていないか?
作家は作品のみで語るべきだ、とまでは要求しないが、不快感のみが募る後書きで
あった。なんとも惨めな本である。


2000年4月25日(火)

◆業務連絡。SPOOKY様、お送り頂いたメールが文字化けで判別できません。
再送頂ければ幸いであります。
◆給料日なので、リキ入れて買うぞ!と船橋定点観測。
「迷走皇帝」梅原克哉(エニックス文庫:帯)200円
d「ヒッチコックを殺せ」Gバクスト(講談社)200円
d「銀河は滅びず」谷甲州、松本富雄、虚青裕(新時代社)100円
「夢都物語」川又千秋(実業之日本社:帯)100円
「島田荘司読本」島田荘司責任編集(原書房:帯)100円
「ミステリー風味グルメの世界」西尾忠久(東京書籍)100円
「猫語の教科書」Pギャリコ(筑摩書房)100円
「火焔菩薩」石飛卓美(徳間NV)100円
「鹿鳴館殺人事件」近藤富枝(中公NV)100円
「廃流」斉藤肇(広済堂文庫)300円
「ホームズ贋作展覧会(上)」山田風太郎他(河出文庫)250円
「夜想曲」依井貴裕(角川書店:帯)900円
「N・Aの扉」飛鳥部勝則(新潟日報事業社:帯)900円
「屍蝋の街」我孫子武丸(双葉社:帯)900円
d「棺の中の悦楽」山田風太郎(講談社大衆文学館)350円
梅原作品は、DASACON3のオークションで高値を呼んでいた売れっ子サイ
ファイ作家の処女作。ダサコンでみるまで存在さえ知らなかった。噂では「アンバー
の九王子」まんまらしいのだが、さて。「銀河は滅びず」は谷甲州収集の効き目
である、と彩古さんに教えてもらった作品集。なるほどこれはマイナーな出版社。
後は百均と気になっていた少し前の新刊をわしわし買う。これだけ買って4千円強。
ああ、ありがとうブックオフ。
◆満足して引き上げようとしたところ、LDセールのチラシを渡され「うーむ、
2000円以上は表示価格から更に1000円引きかあ」と心が動く。不運にも
財布に万札があったので、以前から指を咥えていたものを発作買い。
「機動武闘伝Gガンダム vol.4,5,6‐7」9000円
あーあ、やってもた。ひっさーーーつ!しゃーいにんぐ・ふぃんがああーーっ!!
◆S川さんから図書券を賜る。正直者へのご褒美なのだが、顛末はまた改めて。
◆NHKBSで「阪神−広島戦」を観戦。結局、延長15回の試合終了まで見て
しまう。いやあ凄まじい総力戦。2試合分楽しめた。というか23時半まで野球
やらんでくれー。NHKBSでさえなければ、もっと早く中継も終了したであろう
に、なんとも罪作り。眠い。

◆「喪服のランデヴー」Cウールリッチ(ポケミス)読了
実はこの巨匠の作品も半分ぐらい読み残しがある。好みの作家なのだが、立て続けには
読めないのである。今になって「まだ読んでない本がある」事を素直に喜んでいる
次第。この作品は「復讐」テーマのサスペンス。なべて「復讐譚」なるものは面白い。
「モンテ・クリスト伯」然り、「白髪鬼」然り、「ブラック・ジャック」然り。
陰謀に呑み込まれるも九死に一生を得た主人公が、過去を捨て自分を罠に掛けた者ども
一人一人に知略を尽くして同じ労苦を味合わせていく。何故か、この類いのプロットは、
洋の東西を問わず人の琴線に触れるものがある。陰謀者が巨大であればあるほど燃える。
おそらくは、世の中には成功者が一握りしかおらず、成功なるものはどこか他人の犠牲
の上に成り立っているという事なのだろう。だが、この作品では、主人公の不幸は、
陰謀の結果というよりは、「不運」としか呼びようのないものであるところが辛い。
それがウールリッチのウールリッチたる由縁である。貧しいながらも、結婚を間近に
控えたカップルがいた。しかし、飛行機から投げ捨てられた壜が「彼」から、最愛の
人を奪う。「彼」は、自らの総てを捨てて復讐を誓う。名を変えあらゆる航空会社に
勤め、「犯人」たちを絞り込む主人公。そして彼の執念は5人の男たちの名前を
探り出す。その「犯人」たちの最愛の者を婚約者の命日に奪う、という彼の闘いが
始まる。ある者は「病死」で糟糠の妻を奪われ、ある者は妾殺しの汚名を着せられ
処刑台へと送られる。しかし、一人の刑事が、事件の背後に「彼」の存在を察知する。
追う者は追われる者となり、心のデスゲームは静かに繰り広げられる。
オムニバス形式で綴られる愛と復讐の物語は、それぞれがウールリッチ・スタイルの
アイデアに満ちたものであり、さて次はどの手で来るか、という楽しみ方が出来る。
更に、ラストで発揮される作者一流の底意地の悪さは、このファンタジックな復讐譚
の幕引きに相応しいものである。「ウールリッチの見本市」的な完成度を誇る第一級
のサスペンス。お勧め。


2000年4月24日(月)

◆うーん、「アフサン」の千円が波紋を呼んでおりますのう。ちいとばかし辛抱
が足りなんだか?そのうち100均で引いて帳尻合わしてやるけんね。
◆大雨になる前に会社の近所を1軒定点観測。
d「ヴィーナスの心臓」鮎川哲也(集英社文庫)100円
d「天才は殺される」アシモフ/コーヴァ(角川文庫)100円
d「果しなき河よ我を誘え」PJファーマー(早川SF文庫)100円
我ながらなげやりな買い物である。就業後は飲み会で飲み過ぎ。真っ直ぐ帰って寝る。
◆ああ、やっと明日は給料日である。この1ヶ月本当に金を使った。特にダサコン3
と「妖奇」の一気買いが効いている。昨日の「相談事」で更に預金口座が心寂しく
なっていることだし、来月は少し自粛せねば。ヤフーのオークションでダブリ本、
叩き売って少々取り返すかなあ。

◆「樹海の殺人」岡田鯱彦(青樹社)読了
岡田鯱彦といえば通常は「源氏物語殺人事件」(薫大将と匂宮)の作者としてかろう
じて日本推理小説史に名を残している作家だが、30年代フリークの多い拙掲示板の
常連の方々は血眼で捜している超人気作家である。個人的には、「集めるとはなしに
集めている」レベルで、左程の思い入れはない。その割には万札切ったりしている
ので、えらそうな事は言えないのだが、「雑誌で押えておけばそれでいいや」の
範囲であり、何がなんでも単行本をゲットするのだ!という思い入れがない、という
意味である。「樹海の殺人」は別冊幻影城に収録されたこともあって、この作者の
作品にしては比較的入手容易な話である。正直なところ、高校時代に「源氏物語
殺人事件」を読んで以来初めて岡田鯱彦を手にとった。で、意外にも「探偵小説」
していたのに感心した次第。こんな話。
富士の裾野に研究所を構える旧友坂巻の誘いに応じた田島教授は20年ぶりに旧交を
暖めるべく、山麓鉄道に乗った。彼を出迎えたのは坂巻の娘久美子。田島はかつて
坂巻と争って破れた一人の女性 千鶴の姿を久美子の中に見る。逗留の初日、坂巻は
久美子を田島の息子の嫁に、との提案を持ち出し田島を慌てさせる。久美子に岡惚れ
状態の研究所員の須藤と玉川は、田島を強力な恋敵とみなし、その殺害を仄めかす
密談を交わしていた。偶然、その会話を耳にした田島は早々に逗留を切り上げ
帰京しようとするが、坂巻の熱心な誘いに一晩だけ帰宅を繰り延べする。それが、
田島の運命を決めた。その夜、囲碁の会に出かけた坂巻の代わりに実験器の調整を
行った田島は午後10時丁度に密室状態の研究室で爆死する。警察は事故か他殺かの
判定に苦しむが、所員の須藤は爆発の仕掛を見抜いたとして暗に玉川を揺さぶる。
自らの無実を主張する玉川であったが、、、樹海と風穴で繰り広げられる連続殺人
事件は、田島の息子の招請を受けた一人の男の登場により、驚愕の終幕になだれ
込むのであった。
登場人物や殺人がやたらと多いのには閉口するが、なかなか筋のいい本格推理小説。
犯人は少々分裂症気味だが、その心情は理解できなくもない。第二の被害者の残した
「ある言葉」を巡るレッドヘリングには感心する。何が気に入ったといって、最終幕
に至って名探偵然とした人物が登場して快刀乱麻、事件を解決してしまうところが
良い。おお、なんだかんだ言って、やはり名探偵はええですのう。大傑作というわけ
ではないが、日本の推理小説が「あの密室トリック」をこの時代にやっていた事にも
拍手喝采である。人物造形の古めかしさをさて置けば、このまま忘れ去られるには
惜しい作品である。和物ファンは、乞うご一読。


2000年4月23日(日)

◆頼まれ事で中央線沿線へ。滅法美味い餃子屋で昼食、相談事にのる。
◆久しぶりに沿線の店を幾つか攻める。
「輝く世界」Aグリーン(月刊ペン社)1200円
「ネヴァーモア」Mルドネ(集英社:帯)500円
「温泉街殺人事件」川辺豊三(文華新書)100円
「北陸翡翠境殺人事件」関口甫四郎(青樹社NV)100円
「七胴落し」神林長平(早川JA文庫)100円
d「ルナティカン」神林長平(光文社文庫)100円
d「天国にそっくりな星」神林長平(光文社文庫)100円
d「キャンティとコカコーラ」Cエクスブライヤ(教養文庫)100円
d「ウエンズ氏の切り札」SAステーマン(教養文庫)100円
d「四季屏風殺人事件」Rファン・フーリック(中公文庫)100円
「ドラキュラ戦記」Kニューマン(創元推理文庫)100円
「肉食屋敷」小林泰三(角川書店:帯)100円
「ゆうれい城のひみつ」Bシーヴァス(あかね書房)100円
「殺意の蔭に」佐賀潜(秋田書店)100円
「うつろな男」Dシモンズ(扶桑社:帯)300円
「スウォーム」Aハーツォグ(早川書房)300円
「甲羅男に甲虫女」Eチュツオーラ(筑摩書房)300円
「ユニコーン・ソナタ」PSビーグル(早川書房:帯)800円
「占星師アフサンの遠見鏡」RJソウヤー(早川SF文庫)1000円
川辺豊三は探していた一冊だが梗概を読んでいるとメゲる。なんとも通俗の淫臭
が漂ってくるカバー絵も凄いぞ。「ゆうれい城のひみつ」は犬の名探偵シャーロック・
ハウンド・シリーズの第1作。うーん、世の中には色々な本があるものじゃわい。
ソウヤーは結局、お金で解決。まさか千番台の本にプレミヤ価格がつく時代に
なっていようとは。これが「ユニコーン・ソナタ」より高額なのは釈然としない。
それでも中央線沿線は半年以上渉猟しておらず、なかなか楽しかった。特に収獲
があったわけではないが荻窪のブックオフは大きさといい込み具合といいやはり
凄いやね。ブロードウエイの「古書のワタナベ」は少し見ない間に本に埋もれて
しまっている。昼なお暗きという雰囲気がなんともであるが、品揃えには磨きが
かかっている。
◆黒白さんのところのオフ会レポートが楽しそうである。うーん、参加したかった。
特に蔵書は一度拝ませて頂きたいものである。
◆阪神が強すぎる。誰か悪魔に魂でも売ったのだろうか?

◆「肉食屋敷」小林泰三(角川書店)読了
小林泰三の第4短編集。初めて書き下ろしではない作品集である。相変わらず
リーダビリティは高い。それにしても定価1300円のピカピカの帯付きが2冊
並んでブックオフの100円コーナーに並んでいるというのは、それだけ売れて
いるという事であり、それだけ手元に置く本でもないという事なのであろうなあ。
以下、ミニコメ。
「肉食屋敷」町役場の平凡な係員の遭遇した悪夢。なんともおぞましい内臓感覚
で読ませる。偶然にも先日読んだ「さよならダイノサウルス」同様、恐竜絶滅に
関する一つの答となっているが、SF的には大いに疑問が残るところ。怪奇小説
が理に落ちてはいけないという事なのかもしれないが、中途半端にSF的な設定
を用いたために辻褄が合わなくなってしまった。その一点を除けば、「怪獣」もの
としてよく出来ている。オチも「これしかない」というものであるが、怖い。
「ジャンク」異形シリーズ「屍者の行進」収録のゾンビ・ウェスタン。再読。
相変わらず整理の悪さが気にかかる。長さに割りにアイデアを詰め込み過ぎ。
「妻への三通の告白」出されざる3通の手紙に描かれた妄執のラブ・ストーリー。
3通の手紙が時代を溯っていくのは「瓶詰めの地獄」パターンだが、プロットには
それなりのオリジナリティーあり。
「獣の記憶」ミステリの新十戒ではなかろうが「二重人格を用いる場合には予め
読者にその旨を断らなくてはいけない」といったところか。西村京太郎の「殺し
の双曲線」が双子でやったアクロバットを、二重人格で再現してみせたサイコ・
キラーもの。心意気やよし、ではあるが、話として成立しているのか疑問。アン
フェアという以前にプロットが破綻しているような気がするのだが?「サイコ
じゃから、しょうがない」のかなあ?
総論:SFやミステリの仕掛を利用したクロスオーバーなホラー集。試みとしては
斬新なところもあるのだが、重心がホラーにあるために用いた設定を消化しきれて
おらず、怖さを評価しつつも釈然としない部分が残るのが残念。


2000年4月22日(土)

◆休日出勤。電車が空いているのがせめてもの救い。事務所によってFAXを確認、
軽く作業して、学生面談。終了後、入社2〜4年目の若い衆と飲む。ういい。
帰ったらまた阪神が勝っていた。仮にリアルタイムで見ていたら胃の痛くなるよう
な経過であった。うひい。
◆ああ、黒白さんちのオフ会にも佐伯日菜子主演「蛇女」の初日にも行けずフラ
ストレーション溜りまくり。古本屋にも寄れずじまい。それにしても居住スペース
に本が溢れてきたぞ。まずいのう。

◆「さよならダイノサウルス」RJソウヤー(早川SF文庫)読了
各所で評判のソウヤー初体験。SFを知り尽くした作者によるSFに淫したタイム
トラベルもの。タイム・マシンは時間を遡行すると同時に、天文学的距離を瞬時
に踏破できる乗り物でなければならないという条件(地球が宇宙の絶対軸から見て
凄まじい速さで移動しているからである)に答えてはいないが、遠過去程エネルギー
を必要としないというタイム・マシンには新味がある。その結果、タイムマシンは
古生物学者の役にしか立たない、という理屈づけが笑える。古生物学者ブランドン
は、妻を寝取った同僚クリックスとともに、タイム・マシンに乗って6千5百万年前
の白亜紀末期に時間遡行する。そこで彼等はなんと喋る恐竜達に出くわす。勿論、
鳥並みの脳しか持たない恐竜たちに言語を使いこなせる筈はなく、彼等は青いゼリー
状の存在に操られていたに過ぎなかった。そしてその存在は「あの星」から来た
のだという!生命進化に仕組まれた驚天動地の大実験に巻き込まれた二人は、
古生代の地球を探険しながら恐竜絶滅の謎へと迫るのであった。
HGウェルズとJPホーガンがジュラシックパークでランデヴーした壮大な法螺話。
どこか火星シリーズであったり、「ドノヴァンの脳髄」であったり、キャプテン・
フューチャーであったりもする古典的SFガジェットてんこ盛りの怪SF。
プロローグとエピローグ、揺らぎの「境界層」である挿話部分にイマ風の展開が
あるが、0時間へ向かってカウントダウンされる古生代アドベンチャー部分は、
実に漫画的にしてオバカなシーンの連続。恐竜絶滅の真相には唖然とする事、請け合い。
「そんなんありか!」と口走りつつも、言われてみれば最初から伏線が張られていた
事に気がつき二度ビックリ。「星を継ぐもの」がデクスターばりの論理と仮説の
アラベスクだとすれば、この作品は霞流一の緻密なバカミスを思わせるファン・
ライターのアクロバット。なるほど、これはオモロいわ。ライトノベル読者から、
甲羅に苔の生えたSFマニアまで楽しませる力を持った作品。お勧め。


2000年4月21日(金)

◆明日も出勤なので、ヤケを起こして小雨の中を西大島、南砂町定点観測。
いつもはバスですっとばすところを歩いてもう2軒こなす。
「プリズム」神林長平(早川JA文庫)170円
「夢の言葉・言葉の夢」川又千秋(早川JA文庫)170円
d「気球に乗った異端者」小松・かんべ編(集英社文庫)160円
「クラッシャー・ジョウ大研究」(ソノラマアニメ文庫:帯)300円
「21世紀の快楽」Pケイズ(浪速書房)600円
「四次元世界の秘密」LPデービス(あかね書房)250円
「小惑星美術館」寮美千子(パロル舎)520円
ああ、ミステリの欠片もない釣果。定点観測もいいんだけれど、たまには古書
らしい古書も漁らないと、味蕾が退化しそうだよ。
◆どこまでがオマージュで、どこからがパクリか?という問題はこの世界の永遠
のテーマなのであろう。例えば「すべての密室殺人をテーマにした推理小説は
『モルグ街の殺人』のパクリである」という極論から「そこに『何か新しいもの』
があれば許す」という極論まで幅広くあっていいと思う。作者がネタ本の作者に
面と向かって「これが貴方の作品に対する私の答です」と堂々と言えればそれで
いいような気もするのだが、これも作家の質によるので当てにはならんか?

◆「無慈悲な鴉」Rレンデル(ポケミス)読了
ウェクスフォード警部シリーズ第13作。比較的新しいところから、と思って
引っ張り出したがこれとても15年前の作品であった。時の流れの速さに驚く。
レンデルは、ノン・シリーズの鬱陶しいサイコものの評価が高いのだが、個人
的には折り目正しく本格推理をやっているウェクスフォードものに思い入れが
ある。PIにあらずんば、ミステリにあらず的な風潮の中では、詩人警視やクロス
ワード警部ほどのキャラ立ちはないにしても、安心して読めるシリーズがあると
言う事がただ嬉しいのである。フレーザーやエアードの紹介が進まない一方で、
クライム・ノベル人気に引っ張られる形でウェクスフォードものがきちんと翻訳
されている事を言祝ぐ次第。さて、この話はさしずめ青木雨彦あたりの紹介が
似合いそうな「男と女」の物語。レンデル版の「中途の家」であり「二人の妻を
もつ男」である。
ウェクスフォードの隣人の会社員ウィリアムズが失踪する。当初は愛人との駆け落ち
を想定して適当にあしらっていたウェクスフォードも、ウィリアムズの鞄が発見され
るに至って男の死を確信する。やがて、身体に7ヶ所の刺し傷のある彼の死体が見つ
かる。そしてその報を受けて警察に現われたのは彼のもう一人の妻だった!離れた街で
それぞれに子供をもうけ家族生活を営んでいた重婚者ウィリアムズ。一挙に複雑化する
事件の一方で、警察は一人歩きの女が声を掛けてきた男に切りかかるという奇妙な
「通り魔」事件を追っていた。更に捜査の過程で、ウェクスフォード達は、「女の顔を
した鴉」をシンボルマークに用いたウーマンリブ団体の存在を知る。果して、卑劣
な重婚者を死に至らしめたのは、二人の妻か、二人の娘か?それとも?
真犯人の動機が実に意外である。これは一本とられた。最後の10頁に至るまでは
なんと冗長にして不快な作品かと感じていたのだが、この真相には驚かされた。
ウーマンリブの描き方が、レンデルらしい丁寧なものであり、その「敵」の最たる者で
ある被害者との対比もさることながら、ウェクスフォードの部下であるバーデン家の
妊娠騒動という一幕を絡ませることで「主張」に厚みを持たせている。果してこの長さ
が必要かどうかは疑問ではあるが、着地の美しさに総てを許したくなる作品。15年前
の「英国の今」を知るには適した作品でもある。御時間の余裕のある本格マニアは
どうぞ。