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2000年4月20日(木)

◆帰り際から、風雨強まり速攻で帰宅。TVチャンピオンも好みの大食いの回
なので、巨神戦とザッピングしつつ楽しむ。赤坂尊子二世とも言えるニュー・
キャラクター登場。うーん、世の中には凄い人がいるもんだ。というわけで、
薮ううううーーーっ!!日本一いいいーーー!!
我々阪神の投手陣は世界いちいいいいいーー!!
◆安田ママさん、それ(4/20日記)は褒め過ぎです。褒め殺しです。うがあうがあ。

◆「怪獣大陸」今日泊亜蘭(ソノラマ文庫)読了
日本SF界の重鎮が世に問うたジュヴナイル長篇。最近の入手本の山の上の方に
あったので、とりあえず電車の友にする。一読唖然。余りといえば余りの下らなさ
に言葉を失う。幾ら子供向けだとは言え、これはなかろう。こんな話。
資源小国日本の活路を南極開発に求める瀬能博士の研究が狙われる。博士の息子
正人といとこのリナが暴漢に襲われた時、突如現われた光る円盤は危機一髪彼等
を窮地から救う。敵でも味方でもないという言葉を残して消え去る円盤。果して
その正体や如何に?暴力団による昭和基地増強の設計図の盗難を機に、正人らを
連れて南極行を決意する瀬能博士。しかし、黒い影はどこまでも博士達を追って
来る。タスマニアに寄港した後、一路昭和基地に向かう開南丸では、少年密航者
が発見される。正人はその密航者、ブーメランの使い手アナウ少年と友人になる
のもつかの間、突如海中から現われた潜航艇の攻撃を退けた謎の円盤によって少年
は連れ去られる。南極にたどり着き、不凍平原に向かう探検隊を待ち受ける、冒険
また冒険!裏切りと陰謀の白い大陸で極光怪人、怪獣、世界的陰謀組織、暴力団
いり乱れての活劇の果てに待つのは黄金の夢か?死の罠か?
仮にこれが戦前に書かれた作品であればそれなりの敬意をもって接する事が出来た
のかもしれない。しかし、現代的な題材を取り込みながら戦前の少年向け冒険小説
の世界を再現しようとした作者の試みは無惨なまでの失敗に終る。中途半端に
新しいSF設定や現代風俗が、真の少年倶楽部的世界の持っていた危ういバランス
を徹底的に破壊する。その結果、読者の意表を突くために準備されたツイストが
尽く空振りに終り、余韻を持たせるために敢えて解かずにおいた謎がただのご都合
主義に堕する。作者の志が低かったわけではなかろうが、ここまでの失敗作も
珍しいのではなかろうか?いやあ、凄かった。


2000年4月19日(水)

◆ああ、また飲み会だよう。と言うわけで古本屋によれずじまい。
でもそんな事もあろうかと、昼休みに新刊2冊購入。
「悪霊の群」山田風太郎・木彬光(出版芸術社:帯)1600円
「美濃牛」殊能将之(講談社NV:帯)1300円
ああ、天下の新刊にdマークが!!古本者の私めにこんな日が来ようとは。
これは一重に編集・解説担当:日下三蔵氏への個人的なエールなのである。
(まあ、10年後には倍の値がついているかもしれないしさ。<誰か殴れ)

◆「ハリーの災難」Tストリート(ポケミス)読了
「本。増えすぎるこれほど厄介なものはありません。棚を埋めている間は宜しい
のですが、少し油断をすると、ほら、もう家中に溢れかえっていまいます。床の間、
納戸、廊下はいうに及ばず、靴箱やトイレの中から寝床の周りまで、1冊買ったが
最後ひと月の間にその300倍は増えてしまいます。ですから本は薄い事に越した
ことはないわけです。そこでこの『ハリーの災難』。ポケミスで一番薄い本はスピ
レーンの『明日よ、さらば』ですが、この本もなかなか健闘しています。なんと
123ページ。夜に飲み会などを控えた日には持ってこいの課題図書です。もともと
早川ポケットブックの520番として刊行され、6年後にポケミスの687番に
編入されました。ポケットブック版には、映画スチールもあって、具象画のカバー
ともどもいい味を出しています。マニアはついつい両方揃えたくなってしまう
そんな本です。お話の中身は、野原に転がった死体を巡って村人たちが長閑な葛藤
を繰り広げるというもの。誤解が誤解を生み、さながら舞台を見るかのごとき
『とりちがえの喜劇』が起こります。引退した仲士、オールドミス、子連れの
女家主、各々がハリーの死に関わり、彼等をとりまく人々がそれぞれの思惑で
かばい、隠し、そして死体は、村のあちこちを引きづり回され、埋められては、
掘り出されます。はたして、ハリーの命を奪った本当の災難とはなんだったので
しょうか?などと長々しゃべっているとたちまち時間は過ぎてしまいます。まず
はスポンサーからのお知らせを聞いてから、本をお楽しみください。おや、みつ
かりませんか?2冊もあるのに。」というわけで、からっとした三幕ものの喜劇
といった雰囲気の作品。ユーモア推理がお好きで時間のない人は是非。



2000年4月18日(火)

◆あまりミステリ周辺以外の事は書かないように心がけてはいるのだが、一言。
福原ーーー!!お前は男やーーー!!
というわけで、久々にスポーツニュースのはしごなんぞをしてしまう。眠い。
◆ちょっと平日にはあるまじき探索行に出かけるが収獲は0に等しい。うーむ、
ゼラズニイーー、ねえぞお。
d「光の王」Rゼラズニイ(早川SF文庫)100円
d「TVアニメ殺人事件」辻真先(カイガイ出版部)100円
d「幻綺行」横田順彌(徳間書店)600円
辻真先は元版が手に入ったので少し嬉しいかも。ダイナミックプロの表紙絵と
折り返しの大谷洋太郎の推薦文が売りかな。

◆「あなたの魂に安らぎあれ」神林長平(早川書房)読了
ロエ蔵氏の「あなたま掲示板」の語源という事から一部SF系ネット美女・美男
の間で小ブームを呼んでいる神林長平の初期作。新鋭書下ろしSFノヴェルズの
第1弾として水見稜の「夢魔のふる夜」と同時発売された作品。当時水見作品には
即座に飛びつき熱狂していたのに対し、なぜかこちらには食指が伸びなかった。
水見稜が第一線を引いて「惜しい作家」になりつつある一方で、コンスタントに
話題作を提供し続けている神林長平が今や日本SF界を代表する作家の一人に
なっている現実を見るにつけ、この世界の諸行無常を感じる次第。(ところでこの
本の巻末に「五月刊」と予告されている森下一仁の「闇にひしめく天使たち」って
出版されたの?)とまれ今回の小ブームに便乗して、この作品を読めてよかった。
これは、文句無しに面白かった。
アンドロイドが支配する未来世界における「人間復権」ドラマ。人とアンドロイドの
営みの閉ざされた環が爛熟と退廃の極みに達した時、心の迷宮に仕込まれた封印は
解かれる。そして横暴なシステムは未来視たちの予言する予定調和のままに溶け出し、
降臨と暴力の夜は変容の朝を迎える。土は土に、灰は灰に、造物主の掟に従い、
生命はデフォルトの淵に還る。あなたの魂に安らぎあれ。
漢字を巧みに用いた異世界感覚、「ザップガン」「ヤマト」「火の鳥」「ソイレント・
グリーン」等の古典を下敷きにした溢れんばかりのSFガジェット、骨太のプロット
に幾重にも仕掛けられた逆転の構図、カリカチュアライズされた人間群像が織り成す
日常悲喜劇がリーダビリティーを高め、言葉の魔術師の奇跡が「夜」に降る。
猫と鴉という幻視はポーの見た夢なのか?終末をもたらすのは神であり、そして人
でもある。実に、読んでも、考えても面白い小説、こういう作品を傑作というの
であろう。ごちそうさまでした。


2000年4月17日(月)

◆体調良くないのに、飛び込みでご接待モードに突入。案の定壊れる。一駅だけ
定点観測をかけるも1店のみで引き上げ。それにしてもZの人と巡り合わせ悪い。
見る時は幾らでも見るんだがなあ。ボウズを引くのもくやしいので無理矢理1冊
だけ買う。
「究極の鉄道殺人事件」辻真先(双葉社NV)200円
とりあえず、ポテトとスーパーものである。

◆「ドアのない家」Tスターリング(ポケミス)読了
一風変わったミステリとして長く伝えられているポケミス500番台の逸品。
復刊されているので、現役本なのかもしれないが、私の所持本は東京泰文社シール
付きの初版。おそらく3千円前後で入手したように思う。「泰文社は高かった」と
いう風評もあるが、普通の本なら5百円から千円、このように知る人ぞ知る欠番
で2500円から3千円、いわゆる効き目が5千円前後という値付けであった。
当時は池袋の芳林堂の中にあった高野書店と神保町の泰文社がポケミス定点観測の
ポイントであったが、値づけは大体同様でそれなりの相場感が養われたものである。
最近ならば神保町のRBワンダーがポケミスに関しては比較的良心的な値付けで、
もう少し棚が動けばベストなのかな。
閑話休題。昔語りに入ってしまったのには訳があって、この物語の主人公が過去に
生きるオールドミスなのであった。それも同じホテルの一室に32年間住んでいる
という筋金入りの「箱入り(元)娘」。親の残した莫大な財産を幸いにも有利に
運用し金に困る事はないハンナにとって、第2次世界大戦すら壁の向こうの出来事
であった、というのがふるっている。「ライフ」誌だけが現世の有り様を伝える
メッセンジャーという彼女が、ある日ほんの出来心で表の世界に踏み出す。
カフェテリア方式のレストランでパニックに陥り、街の喧騒に翻弄され、逃げる
ようにして飛び込んだとある高級レストランで彼女は、あろうことか人好きのする
職業的恐喝者に「立ち会い」を頼まれる事となる。その夜、彼の家に集まる誰もが
彼を殺そうとしているというのだ。人助けのつもりで発作的に彼に同行したハンナは、
彼の家で、女流彫刻家、いとこ同士で結婚した名士の若夫婦、共産活動家、船会社の
社長といった一群の人々に出会う。そして、その夜、彼は殺害されてしまう。その
場面を「聞いた」ハンナは逃げ出し、長年住み慣れたホテルの一室に逃げ帰る。
第一子の誕生を控え、やる気満々のコレリ警部は、その夜被害者宅に居合わせた
関係者の過去を洗うとともに、現場から消えた「女性」を探しもとめるのであった。
だが、その時ハンナの周りでは異変が起こっていたのである。
柔らかなユーモアでコーティングされた質の高い異色フーダニット。文字通り浮世離れ
した探偵役の主人公が異彩を放つ。それ以外のプロットは至って正常であり、巧みに
カモフラージュされてはいるものの、犯人を論理的に指摘できるだけの材料は提示
されている。実に折り目正しい本格推理でありながら、それを感じさせないという
希有な例であろう。被害者も、警察官も、容疑者もどこか憎めない魅力をもっており、
MWA新人長篇賞受賞もむべなるかなである。この穏やかで皮肉なユーモアを評価
しただけでいかにアメリカのミステリ界が大人であったかが理解できようという
ものである。リーダビリティも高く、佐倉潤吾の名訳にも支えられて250頁超の
長さを感じさせない。実に安心して人に薦める事のできる作品である。本屋で買って
損はない。


2000年4月16日(日)

◆千葉で古書市の案内があったので覗きに行く。
「始まりの場所」UKルヴィン(早川書房)500円
d「世界名作推理大系21・「牝狼」他」(東京創元社:函・月報)500円
d「同22・「暗い窓」他」(東京創元社:函・月報)500円
d「同23・「ハマースミスのうじむし」他」(東京創元社:函・月報)500円
d「同24・「Bガール」他」(東京創元社:函・月報)500円
d「殺人鬼」浜尾四郎(春陽文庫)200円
d「鉄鎖殺人事件」浜尾四郎(春陽文庫)200円
d「声優密室殺人事件」幾瀬勝彬(春陽文庫)100円
d「私立大学殺人事件」幾瀬勝彬(春陽文庫)100円
d「月下の蘭」小泉喜美子(徳間文庫:帯)150円
「ウェディング・ウォーズ」草上仁(青樹社文庫)300円
d「スラッグス」Sハトソン(早川NV文庫)100円
全然たいした収獲なし。電車賃にもならんぞ。「鉄鎖殺人事件」ぐらいかなあ。
◆津田沼で新刊書店に寄る。
「『探偵趣味』傑作選」ミステリー文学資料館編(光文社文庫:帯)667円
「ミステリー作家事典」森英俊編著(光文社文庫:帯)1000円
うーむ、それぞれ1冊きりしかおいていなかったわい。森さんの事典は、まあ
1000円だとこんなものかな、って感じ。初心者向けならこれで充分か。
EQ後継誌の誌名がわかったのが嬉しい。でも「ジャーロ」ってなんじゃろ?
それにしても新刊書店は宮部みゆきとトマス・ハリス一色。わからんでもないが、
あそこまでのスペースを割くほどのものか?ハードカバー新刊やアスペクトの
ホラーシリーズは給料が出てから買うつもり。カー、キング、ライスあたりが
平積みになっている様をみるにつけ今の若い人達はつくづく恵まれていると思う。
ROM氏ではないが、これだけ出版されれば、わざわざ原書で読まなくてもいい、
という気になってくるよなあ。クリスティにすら入手困難本のあった頃にこの道
に入ったものとしては羨ましい限りである。
◆「コミックマスターJ」第4巻・第5巻、「将太の寿司」第14巻などを買って
一気読み。「J」がこんなに続くとは夢にも思っていなかった。業界内輪ものと
して出色の出来だとは思うが、これがメジャーになってはいかんのだろうなあ。
「燃えよペン!」と並んで元気の出ない時に読むといいです。

◆「恐怖の日常」村田基(早川JA文庫)読了
これも土田氏のお勧め。こちらは谷甲州とは違って昔から買うだけは買ってあった。
86年から88年にかけてSFマガジンに掲載された8編に書き下ろし1編を加えた
第1短編集。一読、ベイシックともいえるアイデアの連続に驚く。まあ、あの時代に
こんな直球勝負をしていた人がいたのだ。異形コレクションのヘソ曲がりぶりに
比べてなんと素直な作品が続く事。勝手に高踏的な作風を想像していたのだが、
これは不見識であった。リーダビリティーは高く、この類いの話の初心者にはうって
つけの作品集かも。ただすれっからしの身としては、可もなし不可もなし、という
のが正直なところである。以下、ミニコメ。
「山の家」みえみえの展開が辛い。これが最初というわけでもなし。50年代の
アイデアストーリーを読む思い。
「窓」精神分析ものだが、あえてオチをつけなかったところが新味か。
「白い少女」グロでエロだが、これも新しいところがない。
「大きくなあれ」ラストの顛末が納得いかないが、恐怖の底は深い。
「反乱」うーむ、生理的嫌悪感はあるが、これもキングだよなあ。草上仁の最近作で
同旨の作品を読んだが、それより10年早い事は評価できる。

「葬られた薬」夫と妻に捧げる犯罪+MIB。逆転の連続は心地よいものの、
感嘆するレベルではない。
「子宮の館」ああ、これは藤子不二雄です。それだけです。
「屋上の老人たち」ミステリマガジン向けの洒落たクライムストーリーだが、
これも発想が30年前である。
「恐怖の日常」この作品集に書き下ろされた作品。で、これが一番良い。他の
作品がどこか「型」をなぞった習作的な話ばかりであるのに比べ、この作品は
曖昧な恐怖のかたちを巧みに描いてみせた。ただこれもスタージョンが40年
前にやっているといえばそれまでなのだが。
総論:解説の東雅夫氏は、褒め過ぎ!日本では漫画家たちが、昭和40年代から
この程度の「恐怖」は描いてきた筈。とっつきやすさが唯一の救いであろう。


2000年4月15日(土)

◆総武線沿線を2店のみチェック。うーん、雨だと根性入らないなあ。
「ハイウェイ惑星」石原藤夫(早川JA文庫)110円
「ストラルドブルグ惑星」石原藤夫(早川JA文庫)120円
「ブラックホール惑星」石原藤夫(早川JA文庫)130円
「アンテナ惑星」石原藤夫(早川JA文庫)150円
「タイムマシン惑星」石原藤夫(早川JA文庫)140円
「あなたの魂に安らぎあれ」神林長平(早川書房:帯)350円
「ボガードの顔を持つ男」AJフェナディ(文藝春秋:帯)500円
「急行エトロフ殺人事件」辻真先(講談社NV:帯)200円
「幻の流氷特急殺人事件」辻真先(講談社NV:帯)200円
「寝台超特急ひかり殺人事件」辻真先(講談社NV:帯)200円
「沖縄県営鉄道殺人事件」辻真先(講談社NV:帯)300円
「東海道36殺人事件」辻真先(光文社NV:帯)300円
「迷宮」倉阪鬼一郎(講談社NV:帯)300円
「狩猟月のころ(上・下)」Vホルト(サンリオ・モダンロマンス)各100円
奇跡的にダブり本なし。またしても周りに感化された本の買い方をしている。なぜ
黒白さんは今更、キリコと薩次なんて集めだすのだ?なぜ、SF系の皆さんは
「あなたま」を読み出すのだ?とりあえず、今日は長年捜してきたホルトが見つ
かったのでよしとしましょう。なるほどよしださんの言う通り背中に大きくビク
トリア・ホルトと書いてあるわい。これは出会っていれば見逃さない。つまり十年
近く本気で縁がなかった訳か。うーむ。
◆お、掲示板で成田さんが異色作家短編集ネタに反応してくれたぞ。ふむふむ、
なるほど。おお、カットナー!そうそう、これは確かに欲しいなあ。ハリントン
ねえ。うーむ、HMMの同世代感覚がなんとも嬉しゅうございます。
◆「サクラ大戦」を初めて見る。例の主題歌はやっぱり格好いいですのう。でも
時代設定とかが全く理解できん。これは異次元ものか?
◆BSで深夜放映していた「モンティ・パイソン・フライング・サーカス」なんぞ
を夕食のアテに流していたら、ついつい見入ってしまう。30年前のギャグとは
思えない新鮮さである。なんたってBBC製作ってところが凄いやね。

◆「ポー最後の謎」Mマイヤーズ(角川書店)読了
始祖ポーを探偵役に据えたミステリといえば、かの巨匠のあの短編が頭に浮かぶ
が、ネタバレになるので作者も題名も書けない。まあ、このサイトをご覧になって
いる方ならば大丈夫かとも思うのだが、安全を見てここは自粛。変化球ではオーギュスト・
デュパンが実在の人物であるかのように料理してみせた笠井潔の「群集の悪魔」が
歴史推理の大傑作、SFではラッカーの「空洞地球」が活動的なもう一人のポー
を描いて感涙もの、ヒョーツバーグの「ポーをめぐる殺人」はポーの作品の見立て
連続殺人をドイルとフーディニが追うという際物らしいがこれは未読。で、中級者
に「ボーが探偵役のミステリ」を問えば、この作品の題名が挙がろう。20年近く
前に角川海外ベストセラーシリーズの1冊として出版された作品で文庫落ちして
いないが、その気になって捜せば割と見つかる本である。
1946年12月、病床の妻とともに不遇のどん底にいたポーの元を一人の紳士
が訪れる。その紳士こそ、時のニューヨーク市初代警視ホリス・ベックウィス。
なんと彼は当時、相次いで起きたニューヨーク社交界の令嬢連続殺人事件の捜査に
ポーの助力を求めてきたのだ。それは、単なる殺人ではなく殺害後に屍姦まで行う
という猟奇的な事件であった。ベックウィスは同様の事件を元に斬新な推理を
組み立て「マリー・ロージェの謎」として小説化したポーの洞察力を借りたいと
申し入れてきたのだ。貧窮の底にあったポーは、半ば金で買われるようにして
捜査に乗り出す。社交界では売れっ子の詩人として知られていたポーは、警視と
ともに被害者の友人達を集め探りをいれるのだが、出版界の大立て者、英国全権
大使とその美貌の妻、フランス貴族の甥など、いずれも一筋縄ではいかない人物
たちばかり。そして、ベックウィスにはポーにも報せていないもうひとつの狙い
があったのだ、、
当時の時代背景をプロットに巧みに取り込んだ出来のよい歴史推理。ニューヨーク
時代のポーという余り語られる事の少ない設定だけで半分勝ったようなものだが、
推理小説としてもなかなかよく出来ている。なぜポーでなければならないか、と
いう説明が上手い。フーダニットとしては「まあこんなものか」ではあるが、今
ひとつの仕掛には感心させられた。やたらとエロチックな描写もあって少々面食らう
が、これもサービス精神のなせる業か。大傑作とまではいかないが、記憶の端に
はとめておいて欲しい作品である。とりあえずポー・マニアは必読。


2000年4月14日(金)

◆年休をとってのんびり過ごす。午後から新京成沿線をアタック。こんなところ。
d「EQ」93号(光文社)100円(スタウト「二度死んだ男」)
d「EQ」94号(光文社)100円(スタウト「遺志あるところ(前)」
d「EQ」95号(光文社)100円(スタウト「遺志あるところ(後)」
d「EQ」105号(光文社)100円(「メグレと超高級ホテルの地階」)
d「EQ」112号(光文社)100円(スタウト「ヒーローは死んだ」)
d「EQ」118号(光文社)100円(スタウト「究極の推論」)
d「EQ」124号(光文社)100円(スタウト「ロデオ殺人事件」)
d「EQ」126号(光文社)100円(シムノン「死の脅迫状」)
d「ハリーの災難」JTストリート(ポケミス)100円
d「アヴェロンの銃」Rゼラズニイ(早川SF文庫)100円
d「ビヨンド ザ ビヨンド」牧野修(ログアウト冒険文庫)100円
「ヒミツの処女探偵日記」しんかいさとみ(ナポレオン文庫)250円
「乱れ殺法SF控」水鏡子(青心社文庫)240円
d「青い外套を着た女」横溝正史(角川文庫)120円
d「迷宮1000」ヤン・ヴァイス(創元推理文庫)100円
「白い国籍のスパイ(上下)」JMジンメル(祥伝社NV)各100円
「シーザーの暗号(上下)」JMジンメル(番町書房)各100円
d「いさましいちびのトースター火星へ行く」Tディッシュ(早川書房)200円
「魔女のかくれ家」JDカー(ポプラ社文庫)100円
「夜歩くもの」JDカー(春陽堂少年少女文庫)100円
「黄色い部屋の謎」Gルルー(春陽堂少年少女文庫)100円
「ハンター荘殺人事件」Aクリスティー(春陽堂少年少女文庫)100円
何といっても、春陽堂少年少女文庫でしょう。特にカーの「夜歩くもの」が嬉しい。
古書展で1500円とかついているのを見て「すっぱい葡萄」状態だった本。
石原豪人の絵がいいのよー。「EQ」はまだ20冊はあったのだが、とりあえず
シムノンとスタウト掲載号のみサルベージ。最初に寄ったところでなければ全部
買ってしまったかも。ちびのトースターの元版第2作もゲット。吾妻ひでおファン
としては見逃せない一冊。第1作は家電製品の絵しかないが、第2作には美少女
天使の絵が満載なのである。ゼラズニイはその気になって捜すと意外とない事に
驚く。ふーん。

◆「惑星CB−8越冬隊」谷甲州(早川JA文庫)読了
土田幻想ブルドーザーご推薦の作者の処女長篇。ようやく山から掘り出して探究の
友に持って出る。結論から言うと「凄い!」の一言。なんとも「男!」の世界で
ある。これぞ冒険小説!これぞハードSF!時は未来、所は宇宙、厳寒の惑星の
極点基地を目指してただ生き延びるために決死行に挑む男達の姿が痛い。惑星の
造形、カタストロフに至る過程、登場するメカのディテール、狂言回しを務める
滅びた筈の異生命体、どこをとっても妥協を許さない理科系の血が疼く。裏設定
となっている地球人と汎銀河人の角逐で壮大さを感じさせる一方、官僚と技術者
の衝突という卑近なモチーフで読者の興味を引きつける作劇法もしたたか。コニイ
の「ハロー・サマー・グッドバイ」を思わせる長楕円軌道の惑星CB−8の隠れた
特性が、官僚達の思惑を超えた非常事態を招来し、更にはエネルギー供給システム
として衛星軌道上に配備された人工太陽を狂わせる。自分達が助かればそれでよし
とする官僚の論理は、技術者達を前進基地に封じ込めようとするのだが、ひとたび
暴走を始めた自然のメカニズムは矮小な机上の論理を無効化するのであった。
汎銀河人パルバティは、生き残った数名の同僚と、奇縁で結ばれた地球人の男達とと
もに、惑星の生態系を確保するために、静寂が支配する極点基地へと向かうのだった。
極限状況の下で、死へのカウントダウンが始まる中を、仲間達の犠牲に支えられて
ひた走る人間の姿というのは斯くも美しい。あまりの女っ気のなさには唖然とするが
これはこれで宜しい。光瀬龍の描くフロンティアの姿は多分に叙情的であり文科系
なのだが、谷甲州の登場人物というのは、とことんストイックであり、技術屋の誇り
に満ちている。光瀬龍が萩尾望都なら、谷甲州は谷口ジロー。光瀬龍がヴァンゲリス
なら、谷甲州はエンリコ・モリコーネといったところか。文科系の私には実にしんどい
話ではあったが、これが傑作である事ぐらいは分かるぞ。


2000年4月13日(木)

◆先輩社員の昇格祝いで痛飲。結局午前様。新刊も古本も購入0冊。
◆昨日の日記に書いた「早川の異色作家短編集に第4期があったら」という妄想
を膨らませてみた。作者を重複させずに選ぶのが意外に難しい。いかに18巻まで
がよくできたラインナップかが判る。とりあえずこんな感じ。
19巻「サンドキングス」ジョージ・R・R・マーティン
20巻「あるいは牡蠣でいっぱいの海」エイブラム・デヴィッドスン
21巻「ぼくの母は魔女だった」ウイリアム・テン
22巻「たんぽぽ娘」ロバート・F・ヤング
23巻「豚島の女王」ジェラルド・カーシュ
24巻「夫と妻に捧げる犯罪」ヘンリー・スレッサー
うーむ、あったりまえのラインナップじゃのう。ディックの「地図にない町」は
次点って感じかな。どこぞにエルシン・アン・ガードナーとかAHZカーの作品集
を編む人はいませんかね?

◆「月の裏側」恩田陸(幻冬舎)読了
恩田陸版「盗まれた街」。既にネット上でも誌上でも頻繁に取り上げられている
ので、梗概は略する。要は水郷の街が「巨大なる意思」に盗まれていく過程を
4人の主要人物の眼を通して克明に追った話である。何度も言っている事だが、
恩田陸は「私ならこう書く」の人である。今回は作中人物にフィニイの「盗まれた
街」を読ませる事でパクリを堂々と公言して憚らない潔さ。その他にもラストシーン
はブラッドベリの著名短編の気配もあれば、「松本清張」だの「B’z」だのといった
アイテムを散りばめるのはキング・スタイル。藤子不二雄作品や「七夕の里」の
要素だってある。そして「私は誰だ?」というディックの追い求めたシュミラクール
感覚も作品後半の重要な骨格になっている。端的に言えば今までの恩田作品の中でも
一際キメラ感の強い作品といってよかろう。「ああ、この話はどこかで見た」
そんな既視感の集合体である。「文学しりとり」や終盤近くに展開される水墨画を
思わせる冴え冴えとした絵画的場面など、恩田陸オリジナルな部分にも良いところは
ある。が、既に「球形の季節」で「盗まれた街」に挑戦して勝利した作者が、今一度
「盗まれた街」を正面からパスティーシュした理由が判らない。稚気なのか、安易な
商業主義なのか?あるいは、どこまでパクリは許されるのか、という文壇への挑戦を
込めた実験的作品なのか?
なるほど、確かにこの話は面白い。しかし、オリジナリティーを評価する人にとって
は、ほぼ無価値といっていい作品ではなかろうか?阿刀田高は堂々とダールや
ブロックを盗み、あろうことか推理作家協会賞までとった上に、読ませ屋を雇って
綴らせたプロットリストを元に自己流のアレンジを加えるといった小説工場方式を
罷り通らせている。そんな日本のエンタテイメント界の優等生が宮部みゆきであり
恩田陸なのであろう。「果してこれでいいのだろうか?」その問いかけの答えを求め
つつ、この作者の次の本も読んじゃうんだろうなあ。


2000年4月12日(水)

◆昼休みに近所の本屋に行って「本の雑誌5月号」を買う。なるほど、笹塚日記
をみると、このホムペに対する記述があるではないか!!やったね。天下の書痴、
目黒孝二から「いやはや、すごい人がいたものだ」と正しく呆れてもらえるとは、
虚空に向けて打ったファンレターに返事が来た思い。ホムペやっててよかった。
◆門前仲町定点観測。
d「嵐が丘」笠井潔(角川文庫:帯)100円
「小説パタリロ」魔矢峰央/金春智子(白泉社)50円
おーかわさんが探し回っていた「小説パタリロ」をようやくゲット。既にあちら
では土田氏との密約が成立しているようなので、安心して蔵書の山に積んでおける
というものである。で、これも御入用ですか、膳所さん?

◆「オカルト物語」ジェラルド・カーシュ(大陸書房)読了
なぜか大陸書房の「世界のノンフィクション」シリーズに混じって出版された
奇想天外作家カーシュの作品集。ソノラマ文庫海外シリーズで「冷凍の美少女」
が上梓されるまではこれが唯一無二のカーシュの作品集であった。普通はあまり
存在を知られていないのだが、掲示板常連の方々にとっては「持っていて当たり
前」の本である。例えばミステリ者がサンリオSF文庫のディキンスン3作と
ボンフィリオリ1作だけを押えるように、SF者が早川ミステリ文庫のギャレット
2作とホック2作を押えるように、小説読みは大陸書房の例のシリーズでこの本
だけを押えに走るのである。それにしても昭和49年になぜカーシュの作品集が
こっそりこんな形で出版されたのか、今もって謎である。まさかノンフィクション
と取り違えられたわけでもあるまいに。個人的には出版七不思議の一つに上げる
べき本だと信じている。全部で13編収録。いずれもカーシュ節に溢れた作品
ばかりである。以下ミニコメ。○はソノラマ海外との重複収録。
○「死を呼ぶ宝石」天才的な法螺吹き骨董商がでっち上げた「伝説」が一人歩きを
はじめ、世界に「呪い」を撒き散らす、という話。結末に至るまで隙のないカーシュ
調が心憎い。この作品集の中でもベストのひとつ。
○「生きていた化石」作者の代表作である「冷凍の美少女」である。ハワード調の
展開があるかと思いきやあっさりと終ってしまうので、作者が一体何を意図した
のかがピンとこない。
「不吉な誕生日」巻頭作と同趣向の話。誕生日になると不運に見舞われる盗人の
最後の誕生日を描く。語り手がいつしか運命の射手の役を押し付けられている皮肉
が宜しい。これも組み立てで読ませる奇談形式の一編。
「悪魔のトリック」アンファン・テリブルもの。あっさりめでありながら恐怖の
底は意外に深い。引き伸ばそうと思えば幾らでも引き伸ばせる話を効果的に切って
みせた潔さが宜しい。
「哀れな大酒飲み」哀切な双子綺譚。よくある感応パターンかと思いきやとんでも
ない仕掛が施されており、唖然とした。こんなんありか!
○「『不運の島』の女王」大悲劇。これ読まずしてカーシュは語れない。残酷な
運命に弄ばれるフリークスたちに愛の手を。発端がまた上手いんだわ。傑作。
「超能力者の大予言」これも素晴らしい「世にも奇妙な物語」。新聞記者奇談
として完璧。手の込んだたちの悪いプラクティカル・ジョークがパンドラの函を
開けてしまう結末の逆転が見事。
○「『乞食の石』の秘密」カーシュらしい皮肉に溢れた作品だが、弱い者苛めが
少々辛いかも。
「極彩色のモンスター」200年前に漂着した刺青巨人の正体を知った時には
開いた口がふさがらなかった。ホラー・ジャポニズムの一編として貴重な作品。
○「人形の呼ぶ声」ゴールドマンの「マジック」の系統に繋がる腹話術師の物語。
まあそれだけの話である。語り口はさすがに上手いが今更の感あり。
「鏡の中の黒い顔」「黒い変身」テーマ。これもまんまの作品で今更感強い。
○「一秒を買った男」「悪魔との契約」パターン。新味はない。
「移植された“眼”」人体移植ものの王道だが、幕切れに一工夫あって読ませる。
総論:今となっては陳腐化した話も多いが、やはり「奇妙な味」好みはなんとして
も書棚に並べておきたい1冊。早川異色作家シリーズに第4期があれば、マーティン
の「サンドキングス」と並んで当確の作品集であろう。


2000年4月11日(火)

◆どうやら松本さんと中村さんの「暗い鏡の中に」の受け渡しも完了したようで、
そもそもの当事者としては一安心。まっこと「本は縁」という事を感じる一方で
中村さんの引きの強さには脱帽。前々からバックリンクせねばと準備はしている
のだが、もう一言が浮かばないんです。済みません。でも名前だけは結構自信が
ある。「中(あたる)の鉄人」。
◆恒例の新橋チャリティバザー。いつもながら安いんだよねえ。うんうん。
d「殺人四重奏」Mルブラン(創元推理文庫)100円
d「ナイトライダー2」ラーソン&ヒル(勁文社)100円
d「鏡の中のクリスティー」中村妙子(早川書房)100円
「処刑のデッドライン」Cハワード(早川書房)100円
「暗闇にうかぶ顔」Jエイケン(あかね書房)100円
「地球国家2106年」HGウェルズ(読売新聞社:帯)100円
d「夢の棲む街」山尾悠子(早川JA文庫)100円
ウエルズは「何やねん?」もの。解説に綴られた訳者の執念が凄い。ハワードも
嬉しいぞ。山尾悠子も自力での引きは始めて。状態はイマイチだし、いずれ6月
には作品集成も出る予定なので「何を今更」ではあるのだが、表4の写真といい
やはりこの版で持っていたい人もいるだろう。あかね書房のジュヴナイルはMVA
受賞作。はあ、世の中には私の知らない推理小説がまだまだ山のようにあるのだ。

◆「我が屍を乗り越えよ」Rスタウト(ポケミス)読了
昨日電車で読みきれなかった作品。2日掛かりでようやく片づける。これも御恥ず
かしい話なのだが、私にとってスタウトの長篇はこれが2作目である。「毒蛇」
を読んで以来、余りに肌が合わず避けて通ってきた作家なのである。勿論、買う
だけは買っていて、既訳分は短編1作を除いて所持だけはしているのだが、とにかく
相性が悪い。今回「ザ・ブラック・マウンテン」の初刊行を記念して、それと対を
為すと言われているこの作品から先ずはトライしてみようと思い立ち手に取った。
フェンシングとダンスの教室に務める娘カルラはウルフを訪れ、教室で起きた
ダイヤの盗難事件で濡れ衣を掛けられている同僚のネヤを助けて欲しいと依頼
する。なんとネヤは、若かりしウルフが故郷モンテネグロで独立活動に身を投じて
いた時に養女にした女性だと言うのだ。一度は話を断ったウルフだったが、その
カルラの言と彼女の残した国際的契約文書に興味を感じアーチを差し向ける。
しかし盗難事件があっけなく片付いた瞬間、教室である男が殺害され、しかも
その凶器がアーチのポケットから発見されてしまうのだった。連邦警察、英国諜報部
金融界の大立て者入り乱れての国際的陰謀にウルフ自身の過去が絡まる異色作品、
ここに登場!てな話。
一筋縄ではいかない怪しげな登場人物満載の作品で痩せていた頃のウルフが語られる
というウルフファンにとっては堪らない話なのであろう。しかし正直言って感心
しなかった。純粋なフーダニットとして読んだ場合、この作品は成功しているとは
言い難い。「なあんだあ、これかよ」というのが素直な感想。動かざる名探偵と
ハードボイルドなワトソンという組み合わせは、私にとっては相変わらず違和感
以外の何物でもない。とことんコケにされるクレイマー警部に同情を禁じ得ない。
妙な訛りで喋る人間が多すぎ、佐倉潤吾の意欲的な翻訳とも相俟ってひたすら
読みにくいのもマイナス材料の一つ。もう少し、ウルフ・ファミリーのなんたるか
を会得してから読むべき話であった。「ブラック・マウンテン」へのジャンピング・
ボードのつもりであったが、もう一度最初から順番に読む事に方針変更を余儀なく
されたようである。ファンの人、ごめん。