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2000年4月10日(月)

◆明方の地震で電車が大混雑。往路では本を読めず、しかも夜は送別会でへろへろ。
結局、明方から軽い本を読んで帳尻を合わせる。参ったなあ。
◆送別会までの時間を縫って八重洲地下をチェック。ああ!金井書店の百均で
絶版カーが並んでいた雰囲気。既に復刊されたものしか並んでいなかったが、
依光画の早川も何冊かあり、これは誰かがいい思いをしたに違いない。むむむ。
d「猫と鼠の殺人」Cディクスン(創元推理文庫)100円
「月の裏側」恩田陸(幻冬舎:帯)1300円
「36,000キロの墜死」谷甲州(講談社:帯)300円
谷甲州は、土田氏ご推薦のSFミステリ。つい最近まで存在すら知らなかった
作品。その気になって見ていると見えてくるものだ。

◆「消えたおじさん」仁木悦子(講談社青い鳥文庫)読了
帳尻あわせにジュヴナイルのとっておきを取り出す。実はこの本は再読である。
しかし前回読んだのは小学生の5年生の頃だったので、内容は殆ど覚えておらず、
ほぼ初読に等しい。唯一「カ・ロ・ゴ・ム・エ」という目撃者証言の解法が脳裏
に焼き付いていた程度。子供心に強烈な印象を受けたようである。ルパンしか読
まなかった私にこの本を薦めてくれたのは、当時の担任の先生であった。ああ、
あの頃の本があれば高く売れるのに、という外道な感興はさておき、随分と爽やか
に読み終えた事は覚えている。「ふーん、日本人の作品にもおどろおどろしくない
話ってあるんだ」と感心した。しかしながら、その作品があの高名な仁木悦子の
作品であったという事を知ったのは社会人になってからの事である。まさに腑に
落ちた。しかし同時に古書価の高さに驚き、もう二度と読めないだろうと諦めていた。
それが「青い鳥文庫」に収録されている事を知ったのは、ニフティの推理小説フォー
ラムの書き込みからである。知ってすぐ入手できたので、さぞや誰でも手に入れる
事が出来るものと思っていたら、今や「青い鳥文庫」にも古書価がつくように
なっている由。はやみねかおるもいいけれど、こういう名作はきちんと常備して
ほしいと思う次第である。
物語は、自室に血痕を残して行方不明になった仲良しのおじさんを助けようと
聞き込みから単身悪人のアジトに乗り込む少年の探偵手柄話。おじさんが家族を
長崎の原爆で失っていたり、殺害されたアメリカ人が日本への贖罪意識を持って
いたりと、太平洋戦争を引き摺った記述が今となっては新鮮に映る。智恵と勇気
で絶体絶命の危機を克服していく「ぼく」が実に逞しい。事件もそのまま大人
向けのミステリのプロットとなりうる話であり、子供向けだからという甘えは
一切感じられない。いや、むしろ子供向けであるからこそ、仁木悦子にしては
珍しい活劇描写も盛り込まれており、仁木悦子ファン以外でも充分に楽しめる
つくりとなっている。文句無しに日本のジュヴナイル推理列伝に名を連ねる傑作
である。青い鳥文庫のチェックを忘れずに。


2000年4月9日(日)

◆完全休養の日。食料の買い出しに出かけたのみ。買った本0冊。

◆「気まぐれスターダスト」星新一(出版芸術社)読了
星新一のショート・ショートを読んで感想を書くほどヤボな事はない。一言、
「面白かった」でよいのではなかろうか?さすが拾遺集だけあってバラエティ
の富み方たるや、これが同じ人間の作品か?というほど印象が異なるものも含ま
れており、特に「憎悪の惑星」「火星航路」は圧巻。ハミルトンばりのスペオペ
の題材を男女の生業の中に昇華してしまう「憎悪の惑星」、少し風変わりな未来
の恋愛賛歌を描いた「火星航路」、どちらも読んでいるこちらが気恥ずかしくなる
程の「純」な話である。最初の作品とされる「狐のためいき」は、後年の高踏的
で無機質なエッセンスを感じるにも関わらず、「SF」を書こうとすると、らしさ
がなくなるのであろうか。いまだ文体が定まっていなかった頃の星作品に触れる
事ができたというのは、ファン冥利に尽きる。脂の乗りきった頃の博士ものは、
どこまでも懐かしく、働き過ぎる天使による滅亡もの「天国からの道」は星新一
的アイデアの玩具箱を感じさせる。一読して意味がとれなかった話が一編だけあって、
「随分枯れた作品があるなあ」と思ったら近作「担当員」であった。枯れた作品集
の中にあればそれなりの気構えで読むのだが、判りやすい昔の作品の中に埋め込まれ
ると実にめだたない。次に誌面の1/3を占めるジュヴナイルはどうか?といえば、
これはもう正しくジュヴナイルである。「黒い光」が乱歩か海野十三ばりの科学犯罪
小説でわくわくする。なぜか手塚治虫の絵を脳裏に浮かべてしまった、そんな懐かしい
香のする話である。あとは正統派の宇宙ものだが、いずれも星新一らしさはない。
唯一「ビーバー星のさわぎ」だけは、誤配された3つの薬品に翻弄されるある星の
運命を描いたジュヴナイルというよりは大人向けの童話といった内容で、星新一
らしい。
巻末の著作リストは大労作。ワタクシ的には「つねならぬ話」の文庫版が大幅に
増補されていた事が分かって大収穫。さあ、本屋に走らねば。
それにしてもこの書名(「気まぐれスターダスト」)は天才的なネーミング!
この作品集にこれ以上にふさわしい題名は有り得ないと断言できる。さぞや星
新一も天国から拍手を送っていることであろう。


2000年4月8日(土)

◆「発作的昼から宴会」に参加。メンバーは学生時代に所属していた漫画クラブの
連中。カリスマ的OBの自宅に集まり、ビール片手にまったりと漫画とその場にい
ない人間の噂に花をさかせる。 「エクセル・サーガ」のパロディづくしの回や「ウルトラ
マン・ナイス」等と
いうオタクな映像も堪能する。
◆MYSCONスタッフ・オフに参加。というか、shakaさんにケンリックを渡す
のが主目的で2次会のカラオケにのみ乱入。例によって「おしゃべり組」「お歌組」
に別れて楽しんでいたが、私は、既に出来上がっていたので「お歌組」にまざり
アニソン系を絶叫する。が、若い人のパワーと技に圧倒される。みんな上手いわ。
印象に残るのはなんといってもじょにい高橋さんによる「罪と罰」だが(完全に
人格が変わっていた)、七沢さんの元気唱法、INOさんのコピーぶりも良いです
のう。要はMYSCONのスタッフは一人一人が人型宴会兵器なのである。うーむ
なんだか凄いぞ。老兵はただ消え去るのみ。(それにしても青木みやさんの日記
の詳細ぶりには感心する。よく曲目を覚えていられるものだ。)

◆古本屋は朝、乗り換え駅で一軒だけ覗く。
d「狭霧秘話」佐々木丸美(講談社:帯)100円
d「不自然な死体」Lニーヴン(創元推理文庫:帯)200円
「聖母の部隊」酒見賢一(徳間NV)300円
やっと「聖母の部隊」の美本に出会えた。どうもこれまで出会う本が尽くダメージ
本だったので、ひょっとして縁のないまま終ってしまうのか?と戦々恐々であった
が、どうやら古本の神様は微笑んでくれたようである。
shakaさんにケンリック9冊、しょーじさんに「大聖神」「わらべは見たり」を
お譲りする。丁度カラオケ代に化けてしまった。

◆「チャイルド:異形コレクション7」井上雅彦編
子供をテーマにした競作書下ろしホラーアンソロジー。なるほど古来、子供ネタ
の恐怖小説やホラー映画は多い。子供の目線で闇を描くパターンや、大人から
見た異質な集団としての子供というパターンなど、あれこれと脳裏に浮かぶ。
ただ「子供」である事のみに寄りかからず、他の恐怖の要素をどう混ぜるかが
このジャンルでの腕の見せ所であろう。以下、ミニコメ。
「グリーンベルト」とぼけた幽霊譚でありながら、じわりと怖くなっていきラスト
でからっとした恐怖を演出してみせる。うまい。
「かいちご」技よりも力で持っていった感のある歴史もののクロスオーバー作品。
結末の血みどろぶりで見せる。作者の博識ぶりに拍手。
「マリオのいる教室」人形譚の印象が勝ち過ぎる。感動よりも映像的な不気味さが
強烈。話自体はウエットにすぎ、くどい。
「金霊」恐怖落語とでも呼ぶべき連作の一編。だからどうした?という感じの話。
「黄昏の歩廊にて」逆転が心地よいものの、イメージ先行の作品。何がいいたいのか
が判らない。また子供ネタとはいえないのではなかろうか?
「母の再婚」中盤の妄想を逞しくするくだりもさる事ながら、結末が相当に艶っぽい
話である。いわばポルノの定番中の定番の展開ともいえる。安心して読める。
「帰ってくる子」萩尾望都の書下ろし作品というだけで立派である。よく作品が
とれたものだ。中身も実に萩尾望都である。貫禄が違う。
「絆」妖しいメタ構造を、よくぞこの頁数に封じ込めた。確信犯的メタもこの
短さであれば腹がたたない。
「アリアドネー」相当に馬鹿ホラーなのだが、これも力ずくで納得レベルにもって
いった。設定が上手い。知性派の女性が偽りの母性に狂奔し破滅する過程に戦慄。
「愛児のために」これもメタな話。異常さが一重であれば腑に落ちたものが、無用
なリフレインでナンセンスになってしまった。残念。
「幼虫」辻褄はあっていないのだが、強引なまでの映像的な怖さがある。
「サトル」なんと牧野修の「スイート・リトル・ベイビー」の原形のような話で
あった。面白いのだが、このシンクロニティには釈然としないものを感じた。
「一郎と一馬」不可思議語り。怖くはないが読ませる。
「臨」壮大さはよいが、どこが「子供」で、どこが「ホラー」なのか?
「少女倶楽部」エロチックで怖い。短歌とイラストの組み合わせでここまで語れる
ものなのだ。素晴らしい。
「屋根裏のアリス」正統派のホラーでありミステリの興味もつなぐ。よろしいのでは。
「つばさ君」短くて、子供で、怖い。完璧。
「子供という病」真っ正面からテーマに取り組んでいる姿勢がよい。こんな話も
書けるのだ、この作者(太田忠司)は。
「インナー・チャイルド」幻想味が濃いが不必要に長い。
「夢の果実」プロットで勝利した残酷趣味の濃厚な作品。農耕な作品でもある。
「魔王」山田正紀にしてはイメージ偏重の作品。怖くもない。凡作。
「魔王さまのこどもになってあげる」数で勝負した感のある作品。思わせぶりが
過ぎて何を言いたいのかが伝わらない。まあ雰囲気はいいけれど。
「去り行く君に」プロのお仕事。可もなし、不可もなし。
「十月の映画館」趣味人のお仕事。らしいといえばらしいのだが、同じモチーフ
の繰り返しにそろそろ飽きがくる。
ベストは「サトル」「つばさ君」「かいちご」かな。「母の再婚」にはバカポルノ
賞を授与します。


2000年4月7日(金)

◆寝過ごす。おお慌てで前日の日記をアップ。今日も飲み会だし、明後日は昼間
から宴会だし、大丈夫か、俺? 朝から花粉がきつい。特に行きの電車。くしゃみ
がとまらない。だから嫌いなんだよ満員電車。読書も進まない。
◆飲み会終了後、内幸町と南砂町をチェック。新刊でも生きているところを中心に
わしわし買う。
d「ウエンズ氏の切り札」SAステーマン(教養文庫)100円
「灯蛾の落ちる時」Hアダムズ(創元推理文庫:帯)100円
d「地球物語」大原・火浦・水見(早川JA文庫)100円
「アシモフ博士の極地論」Iアシモフ(法政大学出版局)600円
「アシモフ博士の新地球論」Iアシモフ(法政大学出版局)600円
d「魔術師」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩文庫全集:帯)240円
「図書館の美女」Jアボット(早川ミステリアスプレス文庫:帯)50円
「図書館の親子」Jアボット(早川ミステリアスプレス文庫)50円
「怪盗クモ団」Jレイ(岩波少年文庫)200円
「クリスタルサイレンス」藤崎慎吾(朝日ソノラマ:)1000円
「ジョン・ランプリエールの辞書」Lノーフォーク(東京創元社)3000円
「報復(上下)」Bフリーマントル(新潮文庫:帯)100円
「猟鬼」Bフリーマントル(新潮文庫:帯)50円
「流出(上下)」Bフリーマントル(新潮文庫:帯)100円
「オーロラの消えぬ間に」光瀬龍(早川JA文庫:帯)50円
「あけめみや とじめみや」久美沙織(早川JA文庫)50円
「未来視たち」大原まり子(早川JA文庫:帯)50円
「メンタル・フィメール」大原まり子(早川JA文庫:帯)50円
「京美ちゃんの家出」東野司(早川JA文庫)50円
「つかのまの間奏曲」(早川JA文庫:帯)50円
「ジュリエット作戦」(早川JA文庫:帯)50円
「8ビットの魔術師」(早川JA文庫)50円
ノーフォークの本はなんと定価が5000円である。はっきりいって学術書か、
希覯本の値段。でも凄く面白そうである。ゴールデンウイークの友にするのだ。
これと藤崎慎吾の本の「節約分」(=定価との値差)で他の本が全部賄えてしまう
のである。堪りませんのう。

◆「日曜日は殺しの日」天藤真・草野唯雄(角川NV)読了
天藤真の絶筆を鷹見緋沙子仲間の草野唯雄が書き継いだ合作。ライス&マクベインの
「エイプリル・ロビン殺人事件」、坂口安吾・高木彬光の「樹のごときもの歩く」、
アイリッシュ&ブロックの「夜の闇の中へ」、未訳作ではパーマー&フレッチャー
の「Hildegarde Withers Makes the Scene」などの例が知られているが、話題性を
狙った出版社の意向を越えた友情を感じるのはこの作品ぐらいかもしれない。まあ
友情以上の何かを感じさせる「在原業平殺人事件」のような例もないではないが。
この作品は更に後書きを見ると草野唯雄が川辺豊三に謝辞を述べている事から
相当に川辺の手が入っている事が窺い知れる。まさか、草野が名義貸しのみとは
考えたくないが、天藤真・川辺豊三ではインパクトが小さかったかもしれないと
思うとあながち邪推とも言えないか。おそらくは天藤真の残した前半部分を覆う
ムードは暗く、凡そ天藤真らしい乾いたユーモアが感じられない。むしろ代作者の
担当した後半部分で刑事の言動などに「らしさ」が出てくるのは、「天藤真の
推理小説はかく在って欲しい」という友人の思いなのか、なんとも本筋以外の部分で
ミステリを感じ取ってしまう作品である。ストーリーは、「同時交換殺人」という
アクロバティックな設定に、意外な犯人という要素も加えたケレン味たっぷりの
サスペンス。夫を誤診で見殺しにした倣岸な青年医師に殺意を抱く若妻友季子と、
過去の過ちをネタに売春を強要する男を殺害しようと企む未亡人せい子。二人の女の
出会いが交通事故を装った二重殺人を呼ぶ。ところが無辜の看護婦がその事故の巻き
添えをくった事から、友季子は動揺する。鬼瓦と異名をとる大滝警部補率いる
捜査陣は事故の不自然さから、事件が殺人であると断定。大滝は偶然出会った
友季子に仄かな恋情を抱きつつも、真相に迫る。しかし事件には、更なる悪意が
隠されていた、、
作者のやりたい事は理解できるもののプロットには相当無理がある。このアクロバット
を支えるには一種の神業が必要だが、かろうじてクリアしたというレベルであり、
拍手喝采とはいかない。系統としては「死角に消えた殺人者」を思わせる作品だが
追われる者の哀切さがなんとも痛い。悲劇になりきれなかった結末が救いである。
これを最後の天藤真読み残し作品にしなくてよかった。まだ私には「大誘拐」が
待っている。


2000年4月6日(木)

◆明け方から不調。トイレと寝床の往復。どうやら昨晩の揚げ物が良くなかったようである。
最近、体力落ちてるからなあ。耐えきれず、午前中休む。弊社には半休制度はないので、年休扱い。
まあどうせ捨てる年休だからいいんだけどさ。昨日の古本市初日が休めなかった事と併せて、少し
やるせない1日。
◆須川氏に送本。遅くなりましてすみません>私信。SRの会費、しゅえっと、K文庫の本代など
を振りこみ。うーむ、思わぬ散財になっておるぞ。本気で購入を縛らねば。
◆よくよく考えたら、日記にはかいてませんでしたね。
4月1日夕刻、四万アクセスを達成致しました。7ヶ月で四万は、純粋な素人のサイトとしては
まあ健闘している部類でしょう。これも一重に皆様方のおかげです。今後ともよろしくお願い
申し上げます。なお、40000ゲットは、SPOOKYさんでした。後ほどキリ番ゲッターの
殿堂に登録させていただきます。
ところで、このHP、主宰者本人はまだ仮オープンのつもりですが、10Mも使って「仮」という
のも「どすこい」だよなあ、と思いまして、日を切る事にしました。ゴールデンウイーク明けから
「本公開」とさせて頂きます。それまでにもう少しコンテンツの充実が図れれば宜しいのですが。
企画としては、「ジェシカおばさんの事件簿」の梗概完成、奇書紹介の充実、日本版ヒッチコック
マガジン全話レビューのスタート、などを考えておりまする。そのうえで、各種ポータルに登録を
申請していくつもりです。
◆飲み会につき、古本屋に行けず。これでいいんだ、これで。

◆「舞姫」佐々木丸美(講談社)読了
ワタクシ的には17冊中でもっとも入手にてこずった作品。佐々木丸美ハンターの中村さんとの
交換でゲット。ところが、その後で2,3回は均一棚で拾っているのだから、ほとほと古本マー
フィーである。今回も枕元に積んであったダブりの山から取り出して電車の友に。なにせ心身と
もに限界状態。このような時には頭が凝らない本に限る。
さて、この作品は恋愛今昔物語の一篇。ずばり佐々木丸美の「夕鶴」である。とはいえ、さすが
に小説巧者の事、演劇・舞踊・歌唱・映画等を絡めながら、北の街に情念の華を咲かせてみせる。
スキー場で青年に助けられた傷ついた鶴が娘の姿を借りて、その青年の元を訪れる。彼は、残酷
なまでにストイックな芸術の求道者。かつて共に頂きを目指した女性とも袂を分かち、鬱勃たる
パトスを酒で紛らわす日々。その彼の心に娘は再び芸術への灯を点す。どこまでも儚げで真っ白
な彼女は、彼と同じアパートに住む4人の小母さんに守られ、彼を芸術のスポットライトの元に
引き上げるべく、歌い、踊り、そして舞う。やがて、その彼女に見入られるように、芸能記者が、
カメラマンが、彼の元に集い始める。自らの「夢」を再び築き上げるために、青い思いを再び滾
らせるために。彼等は、娘の魅力を最も引き出せる媒体として「映画」を選ぶ。そこでフレーム
の中に人ならぬ彼女のイメージを封じ込めるのだ。かつての彼の恋人は、そんな娘に嫉妬を覚え
る。そして恋するものの修羅は、娘に妖かしの翳を見て取るのであった。娘は、自然の摂理の教
えるままに、裁きを下す。そしてそれは彼女自身への裁きでもあったのだ、、
鶴が怖い。健気でありながら、否、健気でありすぎることが、「彼女」を妖やかしに見せる。
「女の決闘」場面は、まさに鬼気迫るものがあり、それまでの微笑ましさを消去して余りある
戦慄を読者に与える。幻想小説と呼ぶには余りにも恋愛が痛い。御伽噺と呼ぶには残酷に過ぎる。
そこで語られる芸術論はいかにも青く、彼女を憑かれた人々はどこまでも優しい。しかしここに
描かれた舞台は、愛の煉獄であり、そこには恋の冷たい炎が燃え盛る。まさに恋愛今昔物語とし
か表現しようのない世界がそこにはある。中盤からラストに向けては散文である事すら捨てて、
妙なる韻律の中に舞姫のイメージを固定させていく作者の技巧は一見の価値あり。吟醸酒を冷やで
引っ掛け、ほろ酔い加減で音読していただきたい。嵌るぞおお。


2000年4月5日(水)

◆池袋サンシャイン大古本まつり初日。ごく普通のまっとうなサラリーマンと
しては就業後オチボモードで臨むのみ。ったく、一体なんでみんなこんな年度の
最初っから休みが取れるのか?謎よ、謎!!はあはあ。閑話休題、のんびり見て
回る分にはなかなか宜しい。ナポソロ14冊全フォトカバー付き5000円!と
かが平然と売れ残っているあたり、実に宜しい。特に岡本書店のSFは、美本で
帯付きでしかも安いという3拍子揃った掘り出し物揃い。掲示板によれば、朝の
うちはサンリオが並んでいたらしいが、さすがにその残り香はなかったですのう。
偶然おーかわさんに会うと「騎士の盃」300円也!とかを見せびらかされる。
うわ!そんなものがまだあったの?!その値段でポケミスの「騎士の盃」見たのは
何十年ぶりでしょうや。やれやれ。気を取り直して拾ったのはこんなところ。
「創元推理文庫解説目録1969・11」(東京創元社)300円
d「大聖神」横田順彌(徳間書店:帯)500円
d「エネルギー救出作戦」堀晃(作品社:帯)300円
「なんといったって猫」Dレッシング(晶文社)400円
d「愛の輪舞」Vホルト(角川文庫:帯)200円
d「シーザーの埋葬」Rスタウト(光文社文庫:帯)200円
d「ラバー・バンド」Rスタウト(早川ミステリ文庫:帯)200円
創元推理文庫解説目録が嬉しいところ。これが所持する最も古い目録となった。
191番に「怪盗レトン・港の酒場で」という合本が予告されているのだが、
これは出なかったんだよね?きっと。
池袋駅に向かいつつ光芳書店3店を定点観測。
d「三色の家」陳舜臣(講談社文庫)100円
d「ショート・ショート秀作選1」アシモフ編(コバルト文庫:帯)150円
「海底軍艦 全」押川春浪(桃源社ポピュラーブックス:帯)500円
おお!「海底軍艦」の帯付きがこの値段!これは、結構嬉しい。
◆帰宅すると、しゅえっとからスタウトの「ザ・ブラック・マウンテン」が到着。
とてもお洒落な装丁である。帯のキャッチ・コピーもセンスがよい。続いてポスト
の底から宅急便の通知発見!おお、来たかK文庫。管理人さんのところに取りに
行くと、結構ダンボールは大き目でないかあ。どきどき。当たったのはこんな
ところ。
「探偵小説年鑑1948年版」 5000円
「探偵小説年鑑1951年版」 4000円
「探偵小説年鑑1954年版」 3500円
「探偵小説年鑑1955年版上・下」 7000円
「探偵小説年鑑1957年版」 3500円
「探偵小説年鑑1959年版」 3500円
「探偵小説年鑑1960年版」 3000円
「推理小説年鑑1961年版 TU」5000円
「推理小説年鑑1962年版 TU」 5000円
「毒だあ・すとっぷ」筑波孔一郎(栄光出版社)1000円
「探偵クラブ」S27年3月号(共栄社)1500円
「探偵倶楽部」S27年6月号(共栄社)2500円
「探偵倶楽部」S27年8月号(共栄社)2000円
「探偵倶楽部」S27年12月号(共栄社)2000円
「探偵実話」 S28年3月号(世界社)1000円
「探偵実話」 S28年8月号(世界社)1500円
「耽奇小説」 S33年12月(久保書店)1500円
「AUNT AURORA 2号:死者の靴」(レオ・ブルースFC) 2500円
「密室 26号」(SRの会)1500円
「地下室 101号〜150号」(怪の会) 15000円
「らんだの城通信 9,10,21号〜38号」(神津恭介FC)10000円
「PENDULUM 創刊以前号、創刊号−3号」(HMMFC) 5000円
申し込んだ点数の約半数といった戦果。希少性からいけばよしとすべきだろう。
年鑑の48年版なんぞ、感涙ものである。AUNT AURORAは、やっと半分を越えた。
らんだの城通信は、前回欠けていた号を補充して送ってくれる。このあたりが
実に実にK文庫なのである。

◆「名探偵ナポレオン」Aアップフィールド(創元クライム・クラブ)読了
オーストラリアを代表する推理作家といえばこの人、アーサー・アップフィールド。
これまでに4作が日本で紹介されているが、早川ミステリ文庫でたて続けに3作が
紹介されたかと思ったらパッタリ途絶えてしまった。ペーパーバックなどでは常に
リプリントされているので、原書にあたるガッツさえあれば、読む事は出来るとは
いえ、せめてあと数作、代表作と言われている作品を翻訳して欲しいものである。
さてこの作品は、我が国で最初に紹介されたアップフィールドの作品で、入手困難で
お馴染みのクライム・クラブの第9巻として昭和33年に出版された。題名からは
「名探偵群像」的な歴史推理が脳裏に浮かぶが、この名探偵ナポレオン(ご丁寧にも
名字はボナパルトである)は、白人とオーストラリア原住民の間に生まれた名警部である。
ニューサウスウェルズ州の街で相次いで嬰児誘拐事件が発生した。母親達がふと
目を離した隙に攫われていった4人の男の赤ちゃん。そして5件目の事件では、
遂に母親が殺害されてしまうのであった。管轄外の他州の事件に動員されたナポ
レオン(ボニイ)は、持ち前の動物的な観察力で床の靴跡から現場を再現してみせ、
現地の捜査官の信頼を得る。ボニイは、同じく管轄外から借り出された婦人警官
のアリスとともに、これまでに誘拐された赤ん坊の親たちをあたっていく。そして
その過程で被害者たちに微妙な共通点が在る事が判明するのであった。新たに起きた
博物館から石版画の盗難がボニイの「血」を刺激し、事件の焦点はとある原住民
居留地に収束していく。果して嬰児達は悪魔崇拝者の生け贄となった のであろうか?
それとも、、

恥ずかしながら、この作者の作品は初読である。どうもインディアンだのアボリジニ
だのというのが苦手で、ヒラーマンもアップフィールドも買うだけで読む方は
後回し状態であった。で、読み終わっての感想としては、実に妙な名探偵である、
という事。登場するなり、ズボンをぬいで四つんばいで床を調べるのだ。これには
参った。しかも、自分が担当した事件はすべて解決すると豪語し、実際にこの
豪州全土の話題を集めた不可解な事件も見事に片づけてみせる。名探偵の「道化性」
を極限に推し進めるとこのような造形になるのかと感心した。プロットは登場人物
が多すぎて整理が悪いところへ、名探偵が説明のないまま突っ走るので、ぼんやり
読んでいると筋が追えなくなる。解決にはそれなりの納得性はあるものの、爽快感
からは程遠い。民俗学系が好きな人には堪らないかもしれないが、その趣味の
ない者には少々辛い話といったところか。もう1作読んで判断しましょう。


2000年4月4日(火)

◆食事会。遅くなったので古本屋には寄らずじまい。土日にイベントを入れると
辛いね。どんよりとした日が続く。歳だね。
◆SRマンスリー着。昨年のベスト投票結果発表号。和物の1位に驚愕。どうした?
SR!?って感じ。洋物も「このミス」1位と同じだしなあ。うーむ。
◆あまり占いは信じないのだが、ここで拙サイトを占ってみた結果がちょっと「変」
だったので御紹介しよう。こんな感じ。
「このサイトは、占いにあらわれたところでは、よくわからない、得体の知れない
性格をしています。アングラ情報をあつかうのに向いています。秘密性の高い情報
程このURL向きです。このURLの総合的な吉凶は以下の通りです。<内外面が相互に
矛盾する意味があり半凶半吉です。吉凶が定まらないことが、安定につながると
いう不思議な運勢です>」
当たっているような、そうでないような(惑)

◆「ギリシアみやげは死体付き」三枝和子(中央公論社)読了
女性の視点で歴史を再構築する骨太の小説で知られる女流作家が手遊びで書いた
専業主婦探偵の連作集。新本格登場前夜の昭和59年から61年までの作品4編
を収録。ジェシカおばさんのファンとしては、こういうどうでもいいようなゲテ
ミスまでチェックしなければならないのである。主人公は子育てもそろそろ卒業
してナイス・ミディ・パスでそこいらを旅行して回る年頃の主婦、これは当時の
作者の分身であったと思われる。読んだ感想は、まさに「可もなし、不可もなし」
主人公の1人称で語られる4つの事件は、いわゆる「日常の謎」とはかけ離れた
本格的な犯罪を扱っており、それなりに読ませる。文章はさすがに安定している
ので、腹は立たない。まあ、こんなコージー・ミステリがあってもいいか、とは
思うものの、では「こんな埋もれた傑作がある!」と喧伝して回るほどものかと
言えば決してそうではない。以下ミニコメ。
「ギリシアみやげは死体付き」海外ツアーものかと思いきや、本番の殺人は国内
で起きる。一種のアリバイものだが、トリックというにはあまりにちゃちい。
普通の主婦が立派な殺人事件に関わる必然性はなんとか確保している。
「馬のシッポに乾杯」乗馬倶楽部の偽装殺人。これもアリバイものだが、トリック
は「今更」のもの。警察ももっと早く気がつきそうなものである。主婦達のおせっ
かいぶりは面白いのだが。
「命の綱はトイレ綱」釣り舟のトイレを体験した印象が強烈だったのであろうか、
なかなか楽しく読めた。ミステリ部分よりも、イマ風の貞操観念のない悪女の
書き方に作者の「今時の若い者は」感が集約されているような気がして面白い。
「きらめくダイヤは浮気で消えた」暗号もの。有閑マダムの愚かさが笑える。
それにしても類型的な犯人像だね。
総論:どうでもいいです。忘れて下さい。こんな本読んでいる暇があったら、
赤川次郎を読みなさい。


2000年4月3日(月)

◆早見網元に送本。須川さんはもう少々お待ちを。
◆以前の職場に4年ぶりに復帰。4年の間に変わっている事に驚いたり、変わって
ない事に驚いたり。方針発表会のあとの決起大会で長居をしてしまう。うい。
◆船橋下車でブックオフ詣で。まずは駅のワゴンで、
「白い街の復讐者」森真沙子(実業之日本社)200円
「SFアドベンチャー:創刊号」(徳間書店)200円
「米国ゴシック作品集」Jメリル他(国書刊行会)200円
続いてブックオフで、
「最後の英雄」Jギル(早川NV)100円
「マックQ」Aエドワーズ(立風書房:帯)100円
「追跡」Rユネキス(すばる書房:帯)100円
「ブラックユーモア選集5:日本編」伊東守男編(早川書房)100円
d「ブラックユーモア選集6:海外編」(早川書房)100円
うーん、今日は高い本が安く買えてしあわせ。ちなみに定価を合算すると9千円超。
それが1100円である。この値差は少々の批判を駆逐する。ブックオフでは
半額コーナーに先日定価で押えに走ったピカピカの帯付き「カント・アンジェリコ」
が並んでるし、もうやっとれまへんな、実際。

◆「フレンチ警部最大の事件」FWクロフツ(創元推理文庫)読了
これまで3回読みかけては挫折してきた、私にとって最も相性が悪い「基本図書」
の一つ。帰りの新幹線用にと大阪まで持っていくが、既述の通り爆睡モードにつき
10頁も進まず、このまま4回目の遭難か?とも思われたが、根性で読み通した。
というか、百頁を越えてからはグッと楽になったので、成る程これまではその辛抱
が足りなかったのだ、と再認識した次第。
宝石商の実直な支配人が殺害され金庫から3万ドルを越えるダイヤモンドが盗ま
れる。果して金庫の合鍵はいつ誰によって作られたのか?時をおかず行方をくら
ました同社の外交員を追ってアムステルダムからシャモニーに向かうフレンチ
警部。奪われたダイヤが市場に現われた時、事件の陰に謎の女性の存在が浮かび
あがる。上流夫人になりすまし、ダイヤを売り捌く彼女を追って、「ねこなで
ジョー」との異名をとるフレンチの執拗な捜査が続く。
この作品以降、クロフツの常連探偵となるフレンチ警部の初登場作。作者本人が
当初はフレンチの再登場を考えていなかったのか、さして大事件とも思えない本作
に「最大の事件」という題名が割り振られてしまった。推理小説としての仕掛も
他の初期作より地味なものであり、旧大陸を狭しと駆け回るくだりが異彩を放つ
ものの作者の中でも中位の出来という印象の作品。なぜ、このフレンチ警部が
レギュラー探偵の地位を獲得できたかを顧みるに、これは一重にフレンチ夫人の
存在に拠るのではなかろうか?事件が行き詰まった際に、夫人にぐちをこぼして
いると、思わぬヒントが得られる、というパターンはこの後の作品でも繰り返し
使われる。特にこの作品では2度もそのシーンがあり、更に夫人を積極的に発言
させているのが目をひく。ここでクロフツは勝利の方程式を掴んだのであろう。
また、フレンチが第1次世界大戦で息子を失ったという記述が一ヶ所だけあって
どきりとした。長年の付き合いの友人夫婦の秘密を初めて知った思いがして、
慌てる。常連の相棒となるカーター刑事も既にこの作品から登場しており、クロ
フツ・マニアはもとより鮎川哲也ファンも鬼貫、丹那コンビの原形の初登場作と
しての本作を外すわけにはいかないであろう。逆にいえば、普通のミステリファン
が数冊クロフツを読もうと思った時には候補リストから外してよかろう。


2000年4月1日(土)・2日(日)

◆DASACON3へ行く。場所は道頓堀のほとり、日本橋の橋詰めに建つ讃岐屋
旅館。全世界的に有名な「動く巨大蟹」のすぐ傍である。異空間である。周り
を行く人々は皆な吉本のようなノリで喋っている。サイン用の本8冊とオーク
ション出展用の本10アイテム・14冊で手提げは一杯、更に「ディーラーズ」
として文庫中心に70冊ばかりの古本を小ぶりのダンボールに詰め込み搬入。
「吉本と古本ぐらい違う」一泊二日の始まりである。当初は全く行く気はなかった。
ラフ・オフでスタッフのマドカさんや青木みやさんに「行きましょうよ」と背中を
押され、MZT氏から「来ませんか?」と直メールを受けなければ、旅費・宿泊費
合わせて3万5千円のイベントには参加する気になれなかったであろう。それに
なんといっても伝説の「山尾悠子」をはじめとするプロ作家の参加率の異常な
高さが魅力。とても1ヶ月弱で企画されたとは思えない。安田ママさんのように
「なんとしても行きたいが行けない」人もいるのだ。行ける人間は行かなければ
ならない。
◆行きの新幹線では、東京駅の栄松堂で買い求めた「BH85」をあっという
間に読み切り。あと数時間で作者本人にあえる、という思いにページを繰る手も
軽快である。日本橋から宿へ行く3百めーとるの途上に古本屋を2軒発見。早々
に受付を済ませ、荷物を置いてからその店を攻める。1軒はなかなか綺麗に整理
されており品揃えも豊富。とりあえず名刺代わりに2冊購入。
d「天の川を斬る」山田風太郎(ポケット文春)480円
d「忍法関ヶ原」山田風太郎(ポケット文春)480円
お入用ならお譲り致します>よしだまさし様(私信)
◆MZT氏に5人組ツアー時の忘れ物とバローズを1冊手渡し、巽・橋詰ご夫妻
に挨拶。軽く阪神談義など。B1の宴会場に本を搬入して、早速に下座のテーブル
の隅で「古本屋」を開業。後になってここはベストポジションであった事が判明
する。早い者勝ち状態で軽快に売り捌く。ほくほく。眞明さんが袋一杯の古本をお
抱えて私の隣で店を広げる。楽志さんに「ロボット物語」を手渡し。
◆7時過ぎに開会。総統の挨拶・参加者点呼・乾杯の後、喜多・冬木・北野・
我孫子4氏のトークバトルへ。内容は37年生まれについての考察。マイクが
準備されていなかったり、資料が配られていなかったりとさすがに急場の仕事
といった綻びがあるも、そこは気で気を養うDASACONメンバーである。
しかし、なにせ私は最も奥の隅なので専ら眞明さんとビールを飲んでいた。
肴はない。ところが私たち二人の直ぐ1めーとる前には大輪の桜が!おお、そう
あの「山尾悠子」さんが遅れてきて奥の隅に陣取られたのである。やったね!
おーっほっほっほ。
◆トーク・セッションは、結構ツボな話題も多く、万博のコートジボアール館
ネタには笑い転げてしまった。終了後、早速サインねだりに突入。山尾悠子さん
には三一書房版「夢の棲む街」に(国書の作品集成には、大体の作品が収録され
るとの事、これでもう小説現代やソムニウムを捜さなくていいんだああ!)、
我孫子武丸さんには講談社NV「8の殺人」(初版・帯)に(ギャリコの「メリー
の手型」収録のリーダーズ・ダイジェストを押し付ける。やはり、ギャリコ・ファン
を自称するからには読んでおいて欲しい、という思い)、牧野修さんには「忌まわしい
匣」に(「銀河通信」のダイジマンは奇想天外36号を持ち込み、ちゃっかり
牧野ねこ名義のサインをせしめている。さすがである)、森青花さんには勿論
「BH25」に(なんと、うちの掲示板をよくチェックして頂いているとの事。
ビビリながら感動する。「書き手に安定感がある」のだそうです>ALL)、
山之口洋さんにはこちらも勿論「オルガニスト」にサインを頂く。この後ひたすら
フクさん、橋詰さんと山之口さんを囲い込んであれこれお話。山之口さんとは
ちょいとワケありで、話が大いに弾む。「古本」席に戻ると、もう山尾さんは
退出されるとの事、し、しまった。でも、「待っていたんですよ」と言われ、
1冊古本をお譲りする事に!!!おおお!!我が古本人生に悔いなし!!その時
頂いた百円玉は家宝にする事に決める。因みにお買い上げ頂いたのは笠井潔の
「嵐が丘」であった。大森さんにも「とっぴとっぴんぐ」を50円で持っていかれる。
なぜ50円かというと50円の値札シールを剥がしていなかったからである。
「あれだけ橋詰さんをボロクソにいいながら、こいつはああ!!」と突っ込まれ、
見事に一本とられた次第。勿論その50円玉は特別扱いせずに財布に叩き込む。
◆11時前から冬樹氏の講評による「○○と××ほど違う」セッションに突入。
個人的には「つんくとクーンツぐらい違う」(第3席)、「みかじめ料とめかじき
漁ぐらいちがう」(大賞)が好み。
◆12時からはオークション。今回オークショニア役は自分の出品物だけなので、
最前列に陣取って、文庫販売で得た百円玉を積み上げて適当に声を入れていく。
なにせ今回の狙いは彩古さん出品の1冊だけである。それまでは総統との掛け合い
を楽しみ、せいぜい本の値打ちに相応しいところまで値を吊り上げる事に徹する。
銀背の安い事、安い事。外道の高い事、高い事。全くもってダサコンらしい。
石原藤夫の限定出版と山尾悠子サイン入り「オットーと魔術師」、大原まり子
「機械神アスラ」あたりが高値になって盛り上がる。眞明さんの「星虫」2冊
同時販売は爆笑を呼んでいた。自分の出品物では「樹海伝説」に高値がついて、
嬉しい。パイパーや「人類創世」などというゴミにも買い手がついて満足。
受け狙いの漫画同人誌3冊セットは、丁度原価(1500円)で落ちてしまい
少々意外だったが、まあ、あんなものか。皆様、お楽しみ頂けましたでしょうか?
彩古さん向けの軍資金を懐にうつらうつらモードで最後の出品物を待つ。
トリに「日本版アメージング・ストーリーズ1」登場。
「500円から」のMZT氏の声に戦闘モードで「2000円!!」の声を入れる。
「3000円」の追いが入るがすかさず「3500円!!」で止めを刺す。
ラッキーである。昔から1冊欲しかったんだよね、この叢書。彩古さんらしく
気配りのカラーコピー付きなので大満足。いっひっひ。
オークションで買ったのは以下の通り。
d「危機のペルシダー」ERバローズ(早川SFシリーズ:カバー)200円
d「火星のタイムスリップ」PKディック(早川SFシリーズ・函)500円
「魚の少年」坂口尚(奇想天外社)200円
「星の動く音」坂口尚(奇想天外社)700円
d「重力の使命」Hクレメント(早川SF文庫)400円
「アメージング・ストーリーズ1」(誠文堂新光社)3500円
オークションを盛り上げた功績により、ダサコン・シールを獲得。
◆のだなのだ女史に捕まり、お茶SFの同人誌を薦められる。連載が多い本誌は
ご勘弁願い、BESTセレクションバージョンを買わせてもらう。1500円。
確かにこの本はお買い得かも。
◆あれこれまったりしているうちにアニメ早押しが始まるが、みやさん、みのる
さん、森さん、坪井さん、らじ丼等と歓談の傍ら、茶々を入れるに止める。うる
さい外野である。「ウルトラマン・ガイアとうるさいわい・外野ぐらい違う」。
森さん、坪井さんからは、ラフ・オフレポートから「もっと、物静かな紳士を
想像していた」と異口同音に指摘される。なるほど、そー見えましたか(笑)
アニソンを知り過ぎ&全然想像と違ったのでダサコン・シールを1枚獲得する。
◆なにやら真ん中でやっていた、ホラーカルタに引っ張り込まれる。MZT氏、
大森望氏、牧野修氏、巽・橋詰夫妻との闘い。とにかくMZT氏が滅法強い!
と思ったらカルタの作成者だとお!!というわけで14枚を獲得した私はめでたく
実質一位でダサコン・シールを獲得する。並み居るホラーの専門家に圧勝できた
というので増長する。むっふっふ。「蟻工場」の時の速さに一同が唖然として
いたのが印象的。「この小説は変である」という一言で攫ったんだもんね。
◆古本席にもどって、遅れて来ていた小林泰三さんにサインをもらう。後は
MZT氏、らじ丼、羽鳥さん、ダイジマンとまったりしたり、みのる・みや・
川上のMYSCON組に混じったりで6時過ぎに寝部屋に引き揚げ沈没、8時
過ぎに復活。らじ丼のトークを半分眠った頭で聞いていると楽志さんからダサコン・
シールを譲られてしまう。なんだなんだなんなんだ。
◆グランド・フィナーレ。ザンジョルディの日のPOPには、なんと総統の言壷
評が最多得票を得てしまう。銀河通信賞は「どすこい(仮)」。そして第3回
のDASACON大賞はシール7枚獲得の最年少しおざき嬢が受賞。5枚の私
は、3位でしたとさ。
◆解散後、梅田に出てダイジマンと梅田古書倶楽部とかっぱ横丁巡り。ダイジマン
がかっぱ横丁で新版NULL7冊:全冊筒井康隆サイン入りを3万5千円で購入
したのに刺激を受けて、末広書店で以前から狙っていた「妖奇」67冊を買って
しまう。最近、大阪に全くいけなかったので、これを機会に清水の舞台から飛び降り。
「妖奇」67冊(創刊より6年分:含、トリック5冊)269000円
「宇宙空母ギャラクティカ」ラーソン&サーストン(三笠書房)100円
◆14時23分のひかりで帰京。車中ではダイジマンともども爆睡。自宅につい
たら19時前であった。かくして発作的大阪行は幕。思いっきり散財した2日間
であった。もう当分、古本はいいです(エイプリル・フール!!)

◆「BH85」森青花(新潮社)読了
第11回「日本ファンタジーノベル大賞」優秀賞受賞作。というよりも、ほら、
あの吾妻ひでおの表紙の本、といった方が通りがいいかもしれない。結構、街
の書店にも置かれており、表紙効果で平積みされている事も多いこの作品を私が
手にとったのは、らじ丼からの直メール故であった。「DASACONに来る
のであれば、必ずこの本を読んでくるように!」うへえ、なにせあの趣味のうる
さいらじ丼がここまで言うのだから、横溝正史とエヴァンゲリオン並みには面白い
に違いない、と思い新幹線の友にする。
展開を楽しむべき話なので梗概の紹介は控えるが、要はマッド・サイエンティスト
の開発した「効きすぎる育毛剤」によるエスカレーション・ホラSFである。
ラストなんぞはちょっとエヴァ(映画版)かも。
まずは驚異的なリーダビリティーに拍手。日常のアイテムをちりばめながら多重
視点でかたられる異常現象、という構成はキング以降のパターンではあるものの
はんなりとしたユーモアのセンスを感じさせるしっかりとした文体は既に新人
離れしたものである。法螺を支える科学的ガジェットもなかなかのもので、クラ
イトンとは言わないまでも流行のバイオ技術を折り込み、及第点。そして何と
いっても残された人々に対する作者の温かい眼差し。これである。スタイル抜群
の電話相談員、マッドで臆病な研究員、穏やかな老教授とその教え子の新聞記者、
自給自足生活を送っていたおばば、「てろめあ倶楽部」の5人それぞれが、各々の
思いでこの異常現象に適応していく様は、この壮大なホラ話に命を吹き込み、読者
に幸せな読書体験をもたらしてくれる。勿論「スワン・ソング」の如きキリスト教
肉食人種の描くえげつないまでの壮大さは期待できないが、なんとなく「ああ、
これでいいんじゃないの」という不思議な優しさに満ちた作品なのである。題名に
込められたオチも微笑ましく、イラストも原作の味を引き立てている。作り物の
「優しさ」や押し付けがましい「感動」に飽きた人向きのファンタジー。お勧め。

◆「電影馬賊団」樋口明雄(徳間NV)読了
さて、なんでも書く樋口明雄が、自分らしさを求めて書いた中国電影をモチーフ
にした大陸冒険ものである。これも展開を楽しむ話につき、さわりの部分だけを
紹介すると、両親を事故で失った青年:志場克彦が中国に永住している祖父の家
を訪れたところ、そこには祖父の姿はなく、部屋は荒され放題。突如、中国公安
を名乗る男達に拉致されかけるものの、「偶然起きた」交通事故の隙に逃げ出す
克彦。孤立無援の大陸で、僅かな手掛りから祖父捜しに挑む彼を手助けする大陸
浪人。果してかつて満州映画協会のカメラマンであった祖父はどのような秘密を
抱えていたのか?中国電影の花形女優との出会いは克彦を日本の歴史の闇に連なる
波瀾万丈の冒険への誘う、てな話。
これも実に実に読みやすい。約束しよう。1時間で読める。とことんB級である。
展開は「お約束」である。こいつが怪しいと思ったら、まず間違いない。格好良さ
という要素について知り尽くした人間の書いた小説であり、安心して読める。
さながら、2時間もののテレビドラマ並みの軽さ、と言いきってよかろう。但し、
作中登場する中国人女優の格好良さは、なかなか描けるものではない。少なくとも
今の日本には「愛鈴」を演じる事の出来る女優はいない。山田章博の抜群の画力で
彼女の魅力の一端を膨らませるのが精一杯といったところか。陰謀の正体などは
そこそこオリジナリティーもあり、もう少し勿体をつければ重厚なハードカバー
が相応しい作品になったかもしれないが、この軽さが作者の持ち味なのかもしれ
ない。同じテーマでラドラムや高村薫が書けば、どんな話になったかと想像する
のも一興。どこまでも「軽さ」が心地よく、そして残念な作品である。