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2000年3月20日(月)

◆私信あれこれ。
◆くりさん宛「小泉本のレス出来ておりませんが、本はキープしてますので
今しばしのご猶予を。済みませんです。どうも心の余裕がないのです。」
◆膳所さん宛「ディー判事本のレス出来ておりませんが(以下同文)」
◆美夜さん宛「忘れ物、みつかりましたがいかが致しましょう?」
◆2日分の日記を書いているとまたしても昼を過ぎる。おああ、なぜだあ!?
おもむろに昼食がてら新京成沿線定点観測へ。強風に畑の土が舞上げられる。
うう、目があけていられない。春一番か?釣果は今ひとつ「血風」とはいかない。
d「リシェンヌに薔薇を」Rトポール(早川書房)100円
d「舞姫」佐々木丸美(講談社)100円
d「幽霊座」横溝正史(角川文庫:初版)140円
d「誘拐作戦」都筑道夫(中公文庫)50円
「マリリン・モンロー」Eホイト(角川文庫)50円
d「綺堂むかし語り」岡本綺堂(光文社文庫)230円
d「大江戸歳時記 捕物帳傑作選 春の巻」(河出文庫)220円
d「大江戸歳時記 捕物帳傑作選 秋の巻」(河出文庫)240円
d「大江戸歳時記 捕物帳傑作選 冬の巻」(河出文庫)220円
d「大江戸歳時記 捕物帳傑作選 新年の巻」(河出文庫)250円
「収縮する宇宙」Iアジモフ(ダイヤモンド社)500円
「ミステリアス・アイランド 上・下」Jヴェルヌ(集英社文庫)各280円
「怪獣大陸」今日泊亜蘭(ソノラマ文庫)140円
「吉本興業殺人事件」桂三枝(扶桑社)100円
「弁護側の証人」小泉喜美子(出版芸術社:帯)600円
「猛烈教師」眉村卓(三省堂)200円
「宇宙人ノーケズリが来た」Pカーチス(アリス館)100円
「地底人アナーホリの使者」Pカーチス(アリス館)100円
「またきたノーケズリ」Pカーチス(アリス館)100円
「ドーム郡物語」芝田勝茂(福音館土曜日文庫:和田慎二画)150円
d「聖女が死んだ」Cエアード(早川ミステリ文庫:帯)100円
d「殺人者は21番街に住む」SAステーマン(創元推理文庫:帯)100円
角川文庫横溝初版クエスト1歩前進。これでM4。やはり最後は「八つ墓村」
なんだろうなあ。ソノラマの今日泊、ダイヤモンド社のアシモフが嬉しいところ。
「弁護側の証人」は土田さんの書き込みで未収録短編が入っていた事を知って
買いに走る。しかし、こうなれば意地の張り合いだよね(何が?)

◆「SF万国博覧会」北原尚彦(青弓社)読了
そもそも読了本に挙げるのが適当かという議論もあろうが、読んでしまったもの
は仕方がない。小説を受け入れられない日というがあって、今日がたまたまそれに
当たっていたにすぎない。さて、SF者の間ではそれなりに話題を呼んでいる
SFマガジン連載の珍しいSF紹介コラム集。前半が叢書列伝、後半が英米以外の
SF作家・作品を紹介した「バベルの塔から世界を眺めて」。個人的に読み応えが
あったのは、勿論後半である。非英語圏の作品知識が皆無に近いので、勉強に
なった。前半は、ネット上のサイトに優れたものも多く、個人的にも「叢書」で
集める方なので、さしたる感銘を受けなかった。いや、むしろ「この程度で何を
今更騒いでいるのか?」が理解できなかった。突き詰めれば「世代の差」という
ものであろう。著者が中で非常に重宝したとしている別冊奇想天外のSFゴタゴタ
資料大全集の方が、淡々とデーターを羅列しているだけにもかかわらず、遥かに
ステージが高い。作者の思い入れに共感できるか否かなのだろが、その意味で
このコラム集は踏み込みが浅い。枚数に限りがあった事も理由の一つかもしれないが、
特に叢書列伝のパートは、なんでこんなものに金を出してしまったのか?と悔やまれ
た。対する後半は、著者自身も相当に調べものを余儀なくされており、こちらが
疎い事もあって、楽しく読めた。一つわからないのは、著者の境界線の引き方。
ファンタジーとSFは別物、幻想文学とSFは別物としているのだが、どこに
作者なりの境界線があるのかが分からなかった。
まあ、若い人にとっては格好の探求書マニュアルとなるであろうが、その意味で
最大の欠陥は索引や一覧リストがない事である。この労を惜しんでいては、所詮
蔵書自慢の漫文に過ぎない。自分がゴタゴタ資料大全集から得た恩恵を後世に
伝えようとするのが本当ではないのか?


2000年3月19日(日)

◆今日はSF者が集まる日である。MYSCONスタッフでもある七沢さん
幹事を務めるラフなオフ、通称「ラフオフ」(まんまやないけ!)が、なんと
わが街シカゴ、もとい、F市で開催されるのだ。安田ママさんからのお誘いに
「んじゃ、折角だからうちに来ます?」とレスした事で、朝から準備に取り掛
かる。ま、今日はお茶会なので、左程準備もいらないのだが、イングリッシュ・
ティー・タイムといえば、「きゅうりのサンドイッチ」だよね、としこしこ仕込み
に入る。あ、もう待ち合わせの時間だよ!
◆午後一時にF駅改札でたとこで、安ママ、青木みやさんRIKIさん、七沢
くん(なぜかクン呼ばわり)、ダサコンのu−ki総統が待ち受けており、少し遅れて
ヒラノマドカさん登場。早速に本が飛び交うのはいつもの光景だが、モデムが飛び
交うところが、少しミステリ者のオフとは異なるところかな。安ママの勤務先に
乱入して本を漁っているうちに、りなりなさんmutsuさん(かわかみさん、と
言った方がいいのか?)も合流し、とりあえず予定していた人員は揃う。しかし、
皆、声がでかいぞ!声が。ああ、恥ずかしい。私は他人のフリをして、ここぞと
ばかりに、安ママのコーナーで新刊を買い込む。買ったのは、こんなところ。
(それにしても、今週はよく新刊を買ったわい)
「表と裏」MZリューイン(ポケミス:帯)1000円
「自殺じゃない!」Cヘアー(国書刊行会:帯)2400円
「国会議事堂の殺人」Sハイランド(国書刊行会:帯)2500円
「SF万国博覧会」北原尚彦(青弓社)1600円
「ドイル傑作選I」ACドイル(翔泳社:帯)2500円
「ドイル傑作選II」ACドイル(翔泳社:帯)2500円
「The Erotic Dozen」津原泰水監修(エニックス:帯)1429円
◆頃合いを見計らって腹ごしらえをというわけで、ロイホに向かうが、連休中日は
午後2時でも満員、向いのとんかつ屋もアウト、結局スカイラークに落ち着く頃には
午後3時を回る。異様に店員が少なく、机を動かしてくれるオバサンは、見事に
テーブルの上にあったガラス器を床におっことしてオオワラワ。ババ萌えのヒラノさん
の目が潤む。なぞである。ちんたら食事をとって、MYSCONネタ、ダサコンネタ
から兵庫県人会談義で盛り上がる。
◆遅目の昼食をすませて、ブック・オフへ。皆さんの視線がなぜか私に集中。
おいおい、いつもそんなに買っているわけじゃないのよー。結局、漫画を1冊
拾ったのみで終える。だって今日は新刊の日なんだもーん。
「裏とり」とり・みき(CBS SONY)100円
ヒラノマドカさんが例の「SFを読みたい」を100円で拾う。安ママは頭を抱える。
そりゃま、そうだわな、今月新刊のピッカピカのムックが100円じゃあなあ。
◆ブックオフでそれなりの買い物をして、ずんずん歩きで拙宅へ向かうが、皆、
声がでかいぞ!声が。全くコンパを終えて学寮に向かう大学生のような騒がしさ
である。しかも素面。おそるべしSF者!
拙宅につく頃には午後5時を遥かに回る。で、後はいつもの通りである。飲み物を
出す、本を見せる、感心される、食事を出す、感心される、しゃべる、笑う、歌う、
レーザーかける、感心される、煙草すう、酒飲む、本売る、盛り上がるなどなど。
私は例によってホストに徹していたので、詳細は参加者の方々のレポートをご覧下され。
青木さんが本領発揮でお手製のケーキやマドレーヌを振る舞って下された。フルーツ
ケーキのフルーツは4年もブランデーに漬けてあったものらしい。うーん、凄い。
うちには20年ものの積読はあっても、ブランデー漬けはないなあ。たいへん
おいしゅうございました。総統は「みそはどうしたのだああ」と叫んでいる。
意味不明である。電波かもしれない。
シンデレラ・エキスプレス(意味不明)のRIKIさんが6時半頃に退場するの
と入れ替わりに、ダイジマンさんお給仕犬さんが到着。しかし常に場を引っ張る
のはダサコン総統。いやあ、良く喋る喋る。特撮の主題歌を集めたレーザーを
BGVにするつもりで流すと、総統が完全に解説モードに入る。実に面白い。
「一家に一台」というのは私が学生時代賜った最大級の賛辞であるが、完全にお株を
奪われる。うーん、やるなあ、SF者め!!
あとは、お給仕犬さんが、ダブリ本コーナーに座り込んで、スタージョン掲載のSFM
を求めて山をひっくり返していたのが印象的。これまで、私のダブリ本コーナーを
漁っていった人の中でも、ナンバーワンの熱心さ。これほどに愛される作家は
幸せである。ダブリ本も冥利に尽きるというものであろう。
◆さあ、今日は何人泊りがでるのかと思いきや「根が生えないうちに」と午後
9時には全員撤収。ミステリ者の集いではついぞなかった潔さに唖然。あらら、
碌にお構いもしませんで。そして、雨が空から落ちそうで落ちない中を、大きな
の一群は東F駅方面へと去っていったのであった。幹事役の七沢くん、お疲れ様。
犬さんを駅まで迎えにいってくれた安ママ、任務ご苦労。水道の蛇口が汚いと
言って洗ってくれた青木さん、ありがとう。そういうところって気がつかない
んだよなあ。

◆「風の時/狼の時」天城一(私家版)読了
かの「密室」17号に「圷家殺人事件」として一挙掲載された作者の第1長篇
の大幅改稿版。改稿などという生易しいものではなく、同じプロットと人物のみ
を用いた別の作品という印象すらある。どことなく古式ゆかしいヴァン・ダイン調
の初稿に比べ、新本格全盛の今なお新しさを感じさせる作品であるといっても
過言ではないだろう。今回のテキストは、90年に山前譲氏が私家版発行の労を
とられたもの。改題はエッダからの引用である。どうやら私の持っているものが
山前氏在庫の最後の1冊だった模様であり、奇跡的な幸運で落手できた事を素直に
喜ぶ次第である。森脇さんありがとう。内容はこんな話。
時あたかも、真珠湾前夜、軍需産業財閥に連なる子爵家で起こる三つの密室殺人。
その謎を追うのは、外交官であった伯爵とドイツ貴族の母との間に生をなした
白皙の敏腕検事伊多。彼の捜査に立ち会い事件を記述するワトソン役に弁護士
「天城一」。天城は、彼が私淑していた天才科学者阿久津信義から、捜査のプロ
を紹介されるように依頼される。ある明方、何物かが信義の部屋に侵入し、彼を
亡き者にしようとした、というのだ。番町の屋敷には、彼とその父である阿久津
子爵、その秘書であり信義のフィアンセでもある津井ユリが住んでいた。早速、
派遣された警官は、植え込みの影に巨大な軍用靴の跡を発見する。しかし、本当
の凶行はその1週間後に勃発する。内側から鍵のかかった阿久津邸で子爵とユリ
が撃たれたのだ。ユリは瀕死の床で、犯人の姿を説明し事切れる。凶器は玄関脇
の屑箱から発見されるが、犯人の脱出経路は不明である。捜査を始めた知多の前
に立ちはだかる特高。現われては消えていく容疑者。そして知多と天城が、ある
「パンドラの函」を託された時、新たな密室殺人が発生するのであった!
戦時色漂う帝都を舞台に、真っ向から本格探偵小説に取り組んだ雄編。密室殺人
のトリック自体は、作者自身オリジナリティーを主張していないがバリエーション
の妙で見せる。個人的にはトリックよりは、名探偵の造形、後年作者の短編で
主役を張る探偵たちとの推理合戦、随所で展開される戦史分析や哲学論争といった
部分が大いに楽しめた。何より、本格探偵小説(作者は「DS」と略す)に対する
作者の姿勢に感銘を受ける。あえて注文をつけさせて頂ければ、本筋を支える
第二の子爵・秘書殺しの部分の解法が、込み入っている割には、解説に筆を惜しん
でいるところ。実は、未だに納得できない。一言でいえば「なぜ、密室なのか?」
なのだが、どなたかご教授頂けまいか?探偵小説としての評価に関わる部分なので
今日の時点では、全体の評価は差し控える。ただ、読んでいて滅法面白い小説
であった事だけは保証しましょう。


2000年3月18日(土)

◆朝から猛烈な花粉症。またしても「生ける屍」状態。薬を飲んでおとなしく
していたら、眠ってしまう。結局「Mystery's Realm」に行きそびれ。うーん、
残念。しかし、会場で爆睡ちゅうわけにもいかんしなあ。
◆3時過ぎに、鼻水も治まり人間に復帰。イライラの捌け口を古本買いに求め
総武線沿線の秘密のお店を攻める。たいしたものはないんだけど安いんだよね。
買ったのはこんなところ。
d「猛き神の紋章」古神陸(勁文社)40円
d「禍き神の哄笑」古神陸(勁文社)40円
「魔法!魔法!魔法!」Eネスビット(講談社青い鳥文庫)40円
「フック」Tブルックス(ソニーマガジンズ:帯)40円
「トゥンクル・トゥインクル・リトルスパイ」Lデイトン(早川NV文庫:帯)40円
「仮装巡洋艦バシリスク」谷甲州(早川JA文庫)40円
「惑星CB−越冬隊」谷甲州(早川JA文庫)40円
d「殺人シーンをもう一度」Sホルト(二見文庫:帯)40円
「大洞窟」Cハイド(文春文庫:帯)40円
d「ブレードランナー」PKディック(早川SF文庫:映画表紙・帯)40円
d「闇の展覧会1」キング他(早川NV文庫)100円
d「忠誠の誓い」ニーヴン&パーネル(早川NV文庫:帯)120円
「ありえざる星1,2,3」Dジンデル(早川SF文庫:帯)3冊480円
d「水車館の殺人」綾辻行人(講談社NV:初版・帯)100円
d「時計館の殺人」綾辻行人(講談社NV:初版・帯)100円
「日本未来ばなし」石飛卓美(実業之日本社)260円
「メテオ」EHノース:田中光二訳(ヘラルド出版)350円
「銀の髪のローワン」Aマキャフリイ(早川SF文庫)200円
「ペガサスで翔ぶ」Aマキャフリイ(早川SF文庫)180円
「ダミアの子供たち」Aマキャフリイ(早川SF文庫)120円
「ライアン家の誇り」Aマキャフリイ(早川SF文庫)200円
「女の国の門」SSテッパー(早川SF文庫:帯)200円
d「生者と死者」泡坂妻夫(新潮文庫:3刷・未開封・帯)80円
「キャプテン・クック最後の後悔」Hイネス(創元推理文庫・紙魚の手帖28・帯)100円
d「バルタザールの風変わりな毎日」Mルブラン(創元推理文庫・帯)100円
d「翳ある墓標」鮎川哲也(立風NV)100円
「ウイルキー・コリンズ傑作選4:ノーネーム(中)」(臨川書店)250円
「ウイルキー・コリンズ傑作選9:夫と妻(上)」(臨川書店)290円
「裏庭」梨花香歩(理論社ライブラリー)250円
圧巻はコリンズ傑作選の安さ。まっこと、本屋で買うのがアホらしくなる。なんと
浮いた分でコーヒーメーカーが買えてしまった。さあ、SF文庫もそろそろ本気出すぞ!
「生者と死者」は、完全未開封だが、3刷りが惜しいところ。「ブレードランナー」は
当時はなんとも思わなかった映画カバーだが、「ああ、あの名画がロードショー公開
されていた時代もあったのだ」という感慨に耽ってしまう。綾辻は悪洒落追求。
後は「人形館」「黒猫館」で館シリーズの初版・帯が揃うぞ。揃えてどうするのだ?
という噂もあるが(実際MYSCON朝市では、「十角館」「迷路館」とも売れ残って
しまった)ここは辛抱である(<あほ)。

◆「裏庭」梨花香歩(理論社ライブラリー)読了
「第1回児童文学ファンタジー大賞受賞作」だそうである。が、巻末に選評が
ついているわけでもなく、児童文学界に対する知識は皆無に近い浅学非才の身に
とってはどの程度の歴史と重みのある賞なのか見当もつかない。とまれ、古本屋で
余りの安さに買い求め、何の気なしに読み始めたのだが、これは傑作!一体どこが
児童文学なのか?と不思議になる程の完全無欠のダーク・ファンタジーであった。
印象的には、キング&ストラウブの「タリスマン」やキャロルの「月の骨」を
とっつきやすくした感じの作品。
主人公は照美という少女。共働きの両親はレストランを切り盛りするので手一杯。
幼い弟を事故で失ってから、家族の絆が見えにくくなっている照美の一家。そんな
彼女は仲良しの綾子のおじいちゃんの話を聞くのが好きだった。丘の麓のバーンズ
屋敷。おばけ屋敷とも陰口を叩かれている今はもう見捨てられた屋敷には、「裏庭」
があるのだ、という。それは、大鏡の向こうにあるいずことも知れぬ異界。かつて、
その屋敷に住んでいた二人の姉妹レイチェルとレベッカはその裏庭に行く事ができた。
おじいちゃんが脳溢血で倒れた日、照美の足はなぜかバーンズ屋敷に向かう。
そして、「声」に招かれ「裏庭」に入り込んだ彼女の冒険が始まる。果して、
彼女が裏庭に招かれた理由とは?彼女は裏庭で、その奇妙でどこか懐かしい住人
たちと関わり、3つの藩に棲む3人の「音読みの婆」を訪ねる旅に出るのであった。
暗喩に満ちた少女の異界巡りと、現実界で消えた彼女を巡って繰り広げられる
再生の物語が交互に語られ、感動のラストに行き着く。異界の住人達は、優しい
ばかりではなく、テルミィ(照美)の心を困惑させ、憤らせる。更にその先には、
子供向けとも思えない残酷な一幕も準備されている。生きていくという事の真実や
魂の浄化について考えさせられる作品。CSルイスやロフティングのような宗教
臭さが駄目だが、さりとて「タリスマン」では重過ぎるという人向けのしなやか
なファンタジーである。安田ママさんではないが、これを子供だけの読物にして
おくのは勿体ない。加納朋子の好きな方は、是非どうぞ。


2000年3月17日(金)

◆神保町で杉江松恋氏に会う。ほー、ご同業でしたか。しかし、勤め人をやり
ながら、評論・創作活動を続けている人々には頭が下がりますのう。奈良さん
との本の受け渡しも上手くいったようでなにより。明日は、頑張ってちょ。
◆神保町で拾ったのは、こんなところ。
「スクワーム」Rカーチス(サンケイノベルズ)100円
「生き埋め」JAブラウン(サンケイノベルズ:帯)100円
「悲恋川中島」佐賀潜(大陸文庫)100円
d「サンタクロースの反乱」Pヴェリー(晶文社)300円
d「悪党パーカー/犯罪組織」Rスターク(ポケミス)100円
うっふっふ、未所持のサンケイノベルズが百均で拾えてラッキー、ハッピー。
◆引き続き、明日の事があるので総武線定点観測。うう、書痴たちに縄張りが
荒らされちゃうよお。
d「カードの館」Sエリン(ポケミス)200円
d「緋色の研究」ACドイル(ポケミス)200円
d「シャーロック・ホームズの冒険」ACドイル(ポケミス)400円
d「シャーロック・ホームズの回想」ACドイル(ポケミス)300円
d「シャーロック・ホームズの復活」ACドイル(ポケミス)300円
d「九つの答」JDカー(ポケミス)300円
d「引き潮の魔女」JDカー(ポケミス)300円
ホームズはポケミス収集の効き目。私自身随分苦しめられたので、つい捕獲して
しまう。

◆「女魔術師」ボワロー&ナルスジャック(創元推理文庫)読了
好評絶版中のボワナロの創元推理文庫。正直なところ、このチーム作家の作品が
本屋から根こそぎ消えてなくなる日が来るとは思わなかった。70年代に翻訳
ミステリを読み始めた者にとっては、創元推理文庫もポケミスもたいがい本屋に
並んでいた、という印象が強い。勿論、「私のすべては一人の男」や「牝狼」
という他の叢書から出たものや、ポケミスでも「魔性の眼」あたりは当時から
入手困難ではあったのだが、「まあ他になんにもないし、ボワナロでも買っと
こか」レベルの作家であった。ボワナロやメグレの受難はまさに、日本における
仏ミステリの冷遇を象徴しているようで興味深い。
さてこの作品はチーム結成以降6番目の作品。その日暮らしの奇術師一座における
悪夢的な殺人を描いた物語は、ボワナロの中でも異色作に属するであろう。
奇術師の父母の間に生まれ、修道院で少年時代を過ごしたピエールは、父アルベルト
の死とともに母の元に呼び戻される。そこで奇術師としての特訓を受けるピエール。
長年別れて暮していた母オデットは、妖しいインセストの香が漂よわせているが、
ピエールの心は一座のドイツ人双生児姉妹ヒルダとグレタに向けられていた。
言葉すら通じない奔放な二人の娘に弄ばれるピエール。一座の道具方ウラジミール
は、ピエールに対し、二人に構わぬよう忠告するのだが、既にピエールの耳には
届かなかった。やがて一人前の手品師となったピエールの初舞台がやってくる。
演劇の構成をとり双子を巧みに使ったマジックショーは大当たりをとり一座は
潤う。しかし、死の翳は絶頂期にこそ忍び寄る。次の公演地に向かう途上で
双子の片割れは「自殺」してしまうのだった。果して、それは自殺だったのか?
そして双子のどちらだったのか?
奇術師一座という特異空間でのアクロバティックな殺人劇。主人公ピエールの
成長小説として読む事もできるのだが、物語全体を覆う雰囲気がなんとも哀切で
愁嘆場の連続、読み終えた瞬間、ああ終ってよかった、と思ってしまう話。
決して楽しい読物ではない。実際、これは推理小説なのか?という疑問すら湧いて
くる。ただ、奇術師一座の演目は、実際にあったらさぞや面白かろうと思える
もので、業界内幕ものとしての楽しみは備えている。かなり許容範囲の広いミステリ
読者向けの作品であり、初心者が珍しいというだけで探し回る必要は全くない
と感じた。(余談だが、「からくりサーカス」の絵柄がどうしてもダブってしかたなかった)


2000年3月16日(木)

◆痛飲で午前様。古本屋が開いている時間には帰れず。飲み会の前に買った新刊
2冊のみ。
「どすこい(仮)」京極夏彦(集英社:帯)1900円
「文藝別冊 Jミステリー」(河出書房新社)1143円
京極夏彦は<初版・帯>継続中。既に三刷が古本屋に出回るというベストセラー
ぶりに愕然とし、慌てて初刷を捜しまわっていた。はあ、やっとみつけたよ。
いかほどの意味があるのか疑問だが、まあ現在一番好きな作家に対する敬意みたい
なものか。だったら、出た日に買えという話もあるのだが。「文藝別冊」では
何が驚いたちゅうて、恩田陸の写真。あああ、なあんだやっぱり女性だったのね。

◆「ifの迷宮」柄刀一(光文社カッパNV)読了
長篇デビュー以来矢継ぎ早に奇抜な不可能状況を軸とした骨太の本格推理をもの
にしてきた作者がまたやってくれた。「3000年の密室」での時を越えた豪快な
密室トリック、「サタンの僧院」でのオカルト現象の連打に次ぐ連打、「4000年
のアリバイ回廊」での封じ込まれた命の逆転ときて、今度は「生と死の華麗なる
騙し絵」である。しかも仕掛けが作品のテーマと密接に絡みあっているところが
心憎い。近未来の社会派推理としての性格も持っており、更に一皮剥けた、という
印象がある。最先端医療コングロマリットの中枢にある宗門一族。「人」を部品
扱いし医療界に君臨するその一族で殺人が起きた。身元が明らかであるにも関わらず
なぜ、その死体は上半身を焼かれていたのか?そして遺伝子鑑定に用いられた被害者
の亡父の遺髪が、新たな謎を呼ぶ。数十年前に死んだ筈の亡父のDNAを持った
人間の痕跡がとある不可能犯罪の現場に残されていたのだ。その不可能犯罪とは
疾走する車のトランクの中での刺殺。しかもその死体は、腐りもせず、遺棄された
現場から立ち去ったという。謎が謎を再生産する事件を追うのは身重の女性刑事
朝岡百合絵とその夫である生化学者朝岡真一、そして新たに起こる自然災害の中
での密室殺人!甦っては殺人現場に痕跡を残す死者たち。果してその真相は?
奇抜な設定が本格推理愛好家の琴線をくすぐる生と死のアクロバット・ミステリ。
いつもながら、謎の組み立てが上手い。ある一点で、あまりにも蓋然性の低い偶然
に頼っている以外は、隅々まで配慮の行き届いた合理的な解法を準備してみせた
作者の力技に脱帽。「本格推理」というジャンルを形容する詞は、通常「緻密」
「大胆」「華麗」などであるのだが、こと柄刀一の本格推理は「壮大」なのである。
本作では、遺伝子障害児を持った女性刑事を通じて、社会問題としての「優性学」
を俎上にあげ、それを見事に作品世界に昇華せしめた。これまではどちらかと
いえばトリックメーカーとしての印象が先に立った作者であるが、この作品では
同時に一流の小説家である事を証明してみせた。追っててよかった。

◆いかんいかん、二日も続けて新作読んじゃったよ。看板に偽りありだな、こりゃ。


2000年3月15日(水)

◆花粉症、いよいよ本格化。前を向いていると水洟が垂れてくるという廃人領域
に突入。会社では「早く帰ったら?」といわれるが、風邪じゃないので帰っても
なあ。ぐすんぐすん。
◆いずれにしても古本気分は盛り上がらず、あれこれ新刊を買って帰る。
「シュロック・ホームズの迷推理」RLフィッシュ(光文社文庫)552円
「乱歩の選んだベスト・ホラー」森秀俊・野村宏平編(ちくま文庫)950円
「『ぷろふいる』傑作選」ミステリー文学資料館編(光文社文庫)667円
「ifの迷宮」柄刀一(光文社カッパNV)952円
フィッシュは、待ってました!という1冊。創元があまりにぐずぐずしているので
アシモフの黒後家蜘蛛&ユニオン倶楽部拾遺集も光文社で出してくれればいいのに、
と思ってしまうぞ。「ぷろふいる」も快挙。続刊期待で敬意を表して新刊で買う。
某書店で森・野村本を持って通路に立っていたところ、突如店員が立ち止まって、
「『む!<乱歩の選んだ>とは、出来る!』と思ったら、kashibaさんでしたか」
と声をかけられる。つうわけで、某ダイジマンと少々立ち話。安田ママさんは
お休みだったみたいっすね。
◆それでも根性で船橋のブックオフへ向かう。なんにもねええ!!
「さよならダイノサウルス」RJソウヤー(早川SF文庫)300円
「クリスマスに捧げるミステリー」(光文社文庫)100円
「百年前の二十世紀」横田順彌(筑摩書房)100円
◆で「MYSCONのオークションで、倉阪さんの句集のセリを一旦始めようと
しながら取り下げた」件につき触れておきます。あれは、倉阪さんからその場で
「実家に在庫がある」という発言があったことで「あ、こらセリが成立せんわい」
と判断し、取り下げを決めました。サイン本にする!というアイデアも出されて一瞬
「いけるか?」とも思ったのですが「実家の在庫にもサインぐらいつきそうなものじゃ
わい」と思い、結局、やめました。反射神経系での判断は上記のような極めて物理的
なものであります。「オークションは『稀少本』でやる」というルールもありましたし、
「このままやっても盛り上がらんなあ」という関西人の勘のようなものもありました。
本件については以上。
◆鷲尾三郎の事は彩古さんに聞く、ジョン・ロードの事は森英俊さんに聞く、
そして友成純一の事はおーかわさん、貴方に聞くのが一番だと判断しました。
おもちゃにしてるわけじゃないからね。

◆「ポー収集家」Rブロック(新樹社)読了
3Bといえば、バッハ、ベートーヴェン、ブラームス。ショートストーリーの
3Bといえば、ブラウン、ブラッドベリ、そしてこのブロックである。それぞれ
の印象を一言でいえば、前から「器用」「郷愁」そして「魔」であろう。いつの
頃からかブロックの魔味に取り憑かれた者としては、今の時代にまたブロックの
短編集が読めたという事がただ嬉しい。願わくば、この作品集が爆発的に売れて
ブロック紹介が更に進まん事を。ただ一つ言わせて頂ければ、初出は入れて欲しかった。
雑誌にブロックが載っていると、それだけは読む、という基本動作が身にしみついた
ものとしては、「ああ、懐かしい」というのが正直なところ。これまでの仁賀編集が
すべて文庫出版だった事を思えば、出来る事ならこれもハヤカワNV文庫あたりで
出せなかったのかというと贅沢か?いや、勿論私はたとえこれが3千円の本であっても
買うのだが、より広くの人たちに読んで欲しいというのがファンの切なる願いなので
ある。以下、ミニコメ。
「冥府の守護神」細部の書き込みにみるべき所はあるが所詮俗悪ホラー。初期の
ブロックが行儀よくWTのカラーに合わせていた事を知る上では意味があるか。
「恐怖の粘土人形」これも俗悪ホラーながら、そろそろ内的世界への傾斜を感じる。
復讐劇をいかに完成させるか、が見せ所であるが、いささか滑稽。
「鉄仮面」珍作といってよかろう。当時としては最新の戦況を背景にしたトンデモ
サスペンスだった筈。ツイストが心地よく、「鉄仮面」の正体にも驚く。
「バルザックの珍獣たち」上質のモダン・ホラーテイスト。マッド・サイエンティスト
ものとしてもよくできている。
「サド侯爵の髑髏」でました、俗悪ホラー。悪夢方面に話が延びるかと思いきや
それはないんじゃないのという衝撃のラスト。
「凍れる恐怖」これは現代風の道具と人間関係を使って鮮やかなスプラッター
ホラーに仕上げた。手の冷たさが怖い。
「愛のトンネル」完成されたショッカー。完璧。
「ポオ収集家」個人的には、ブロックの全作品の中でも5本の指に入る傑作。
作者のポオへの偏愛と、主人公の狂気、そしてビブリオ・マニアを刺激する見事
な着想。クトゥルーものの小道具も顔を出しマニア心をくすぐる。表題作となった
のもむべなるかな。
「灯台」ポオの未完の短編を書き次ぐという作家冥利につきる作品。ラストはまさに
ポオ以外の何物でもない。
「地獄行き列車」これも印象に残る作品。悪魔との契約ものとしても、十指に
入るのではなかろうか。悪魔との駆け引きが見せる一編。オチもツボである。
「禿げ頭の蜃気楼」うーん、これはバカSF。ファンとしても、ちと辛い。
「クライム・マシン」ブラッドベリ風の作品。ブロックらしい底意地の悪さが
ない。話としては面白く読めるが。
「闘牛の角の下で」題材の妙で読ませる夫と妻に捧げる犯罪。このラストはよめ
なかった。灼けた砂と香辛料の匂いのする話。どこまでも情熱的である。
「ジュリエットの玩具」三つ子の魂百まで。このネタを書くと、実に生き生きして
くるように感じるのは、こちらの思い込みだけではあるまい。
「生きている屍」策士策に溺れる。まあこのオチしかないであろう。「鉄仮面」
との対比で読むと面白いのかもしれない。
総括:とりあえず「ポオ収集家」と「鉄仮面」を読むだけでも一読の価値あり。
買ってくれええ!!


2000年3月14日(火)

◆うーん、不調。いよいよ花粉症が始まった。だいたい普通の人より1、2ヶ月
あとに来るのだが、今年もとうとうその季節か。MYSCON疲れも抜けず、昼間
にとてつもなく眠くなる。大丈夫か?俺?
◆本屋を覗いていたら嬉しい新刊をみつける。躊躇なく買い求める。
「ポオ収集家」Rブロック(新樹社:帯)2000円
勿論、仁賀克雄編。この時代に再びブロックの短編集が読めるとは、実に実に
嬉しい。あまりに浮かれて他の新刊を捜すのを忘れる。
◆一方、古本はダメダメ。西大島・南砂町定点観測は空振り。
d「未亡人」Mルブラン(創元推理文庫)240円
「グッドバイ・ロリポップ」松村光生(早川JA文庫:帯)210円
「わが母の教えたまいし歌」松村光生(早川JA文庫)50円
「順列都市(上・下)」Gイーガン(早川SF文庫)各310円
SF系では何冊かみるべきものもあったのだが、今ひとつ燃えず。松村光生は
MYSCONの交換本として「あの」大森望さんが持ってきたもの。それは余程
面白いに違いないと思い、買う。
◆うーん、一部でバカポルノが盛り上がっているなあ。「バカポルのパパ」として
乱入しちゃおかな。「おれでいいのだあ!」よくねえよ。

◆「金髪のオンザロック」Cブラウン(ポケミス)読了
調べものを頼まれ卓の横に積んでいた矢野徹訳ポケミスの1冊。一番上に乗って
いたこれをカバンに突っ込んで出かける。150頁しかないので、往路で読み切れる
かと思ったが、さすがに一応は翻訳ものである、そうサクサクとは進まない。
これは、ハリウッドの自称「産業コンサルタント」、私立探偵リック・ホルマン
シリーズの1作。考えてみると、これまで読んだのはアル・ウイラーに、メイ
ヴィス・セドリッツものなので、ホルマンは初体験。まあ、中身はどれも似たり
よったりなのだが、舞台が舞台だけあって、映画界の内幕ものとして楽しめる。
年下の売れっ子男優ロッドにのぼせ上がり、彼の死の直前大喧嘩をした大女優
デラ・オーガスト。しかしロッドの謎の交通事故死以降、完全に仕事を干される。
誰が、何のために?エージェントからも邪険にされ思いつめた彼女は、ホルマン
の元を訪れ、黒幕捜しを依頼する。リックは彼女のエージェント、バーニーを
揺さぶるところから、捜査を始めるが、昔から性根の腐った奴だったバーニーは、
「とっとと潰されちまえ!」とばかりに黒幕の正体をリックに教える。その正体は、
金融シンジケートのボス、ジェローム・T・キング。勇躍、キングの懐に飛び込む
ホルマンであったが、キングにも言い分はあった。金の卵を産む鶏であったロッド
が死んだのはすべて性悪のデラのせいであり、そのような淫売は映画界から抹殺
されるべきである、としてリックにも圧力をかけてくる。果して、リックはロッド
の死の真相を暴き、デラを映画界に復帰させる事ができるのか?
一種の「消えた女」パターンの作品である。また「転落」と「成り上がり」という
典型的なハリウッドものでもある。登場する女性は、いずれも120%の完璧な
肢体と、0%の貞操観念の持ち主揃い。リックも数限りない誘惑に晒されるが、
意外にも事件関係者そのものとは肉体関係に陥らないところがアル・ウイラーより
抑制が効いているか?また、ラストで皆殺しにならないところも好感持てた。
アンフェアながらも結構「意外な犯人」だったりする。高原弘吉の志の低いハード
ボイルドとは一味も二味も異なった大人の読物であろう。


2000年3月13日(月)

◆MYSCONの余韻を引き摺る1日。いまだ興奮さめやらず。
◆朝、珍しく新橋回りで行くと、本日が駅前古本市の初日とか。やたっ!!
昼休みにダッシュで駅前へ。アート文庫が出ている以外はミステリ系の出展は
なし。いつもながらの暴力価格の文庫本を眺め、新書の棚からMYSCONで
「テキストが他と唯一異なる」と教わったこの本をゲット。
d「白と黒」横溝正史(東都ミステリ:カバ欠)200円
まあ、カバ欠けだけど、アート文庫で200円の本なんて他にない。むふふ、
そのうちカバ付きがみつかったら入れ替えるもんね。
大急ぎで一通り見て回るが他には何もなし。ちい!誰か漁っていった後かな?
と諦めモードでもう一度トライし始めたところで嬉しい1冊に当たる。
d「ライオン・ルース」JHシュミッツ(青心社)500円
諦めの悪さが奏効してSF的ミニ血風。他にも青心社が落ちてないか目を皿に
して探るが、さすがに1冊のみ。ま、いっか、で引き上げる。
◆就業後、再度アタック。今度はじっくり見て回るが、さすがに大したものは
ない。拾ったのはこんなところ。
d「中国湖水殺人事件」RVフーリック(三省堂)800円
d「蒼いくちづけ」神林長平(光文社文庫:帯)100円
「蛙よ、木からおりてこい」水上勉(新潮少年文庫8:函・パラ)300円
「仮面舞踏会」Kウィリアムズ(角川書店:帯)600円
フーリックは膳所さんの探究本でしたっけね?まあ、それがだめでも引き取り手
には事欠かない本なので、とりあえず押える。水上勉は、あまりの美本につい
買ってしまう。パラパラ見た範囲ではミステリではなさそうである。「仮面舞踏会」
は翻訳ものの謎解き絵本。出版された時にはかなり話題になった本だが、買いそび
れていた。開封済みではあるが、帯もついてこの値段ならOK。
MYSCON朝市で大放出し終わった再充電初日としては上々の出来かな?
◆あ、そうそう、おーかわさんの日記で指摘があったので書いておこう。MYS
CONで友成の「淫夢魔」「ホラー映画ベスト10殺人事件」他と交換でゲット
した本はこれ。
「MES CHERIS DE HINAKO SAEKI」(光琳社)
佐伯日菜子のポストカード本である。
◆K文庫カタログ、ROM108号着。K文庫のねらい目はやはり同人誌と雑誌
なのかなあ。済みませんねえ、小林文庫オーナーさま。ROM108号ではROM
氏の嘆きはとうとう憤りの域に入ってきた。私はROM氏・誌の功績を高く評価し
尊敬もしている。又、人それぞれの信念があってよいとは思うが、ネットに嵌まって
いる者としては「なんだかなあ」という違和感を覚え始めた。少なくとも私にとっては
毎日が<編集会議>ではある。

◆「SAKURA 六方面喪失課」山田正紀(徳間NV)読了
さて、山田正紀の最新作である。既にいろいろな書評でも取り上げられている
ので改めて梗概を紹介する必要もないだろうが、5人の落ちこぼれ刑事たちの
1日の捜査記録をオムニバス形式で綴っていくと、その背景に伝説の天才的犯罪
者SAKURAの企む奇想天外な「犯罪計画」が浮かび上がり、プロローグで語られた
<街を丸ごと消す>という巨大な謎に連なる怒涛の最終章を迎えるという構成
の神業的傑作B級ミステリである。90年というバブル絶頂期を背景に描かれた
北綾瀬という街の記録であり、警察という組織の枠からはみ出した男達の再生の
物語でもある。「はみ出し者達の再生」というテーマは初期の傑作「火神を盗め」
を彷彿とさせ、なんとも心地よい。後書きで著者は、昨今のエンタテイメントの
事大主義に対する挑戦を高らかに宣言し、そして立派に勝利してみせている。
「山田正紀がいる限り、日本のミステリ界は、まだやれる」そんな気にさせて
くれる爽やかな作品。こんな話に下手な感想をつけるのは野暮の極致というもの
なので、まだ読んでない皆様におかれては、こんなコメントなんぞ読んでないで、
さっさと作品に取り掛かって頂きたい。一応、それぞれの章がミステリとして
成立しているので、以下ミニコメ。
「自転車泥棒」アニメおたくな刑事が平凡な自転車盗難事件を追ううちに別の
カードを引き当てる。おたくの描写が説明的だが、よく調べている。が、宮崎
事件の頃のおたく達の「反論」をもう一歩踏み込んで描いて欲しかった。
「ブルセラ刑事」行きがかり上ブルセラショップから盗まれた女子高生のパンティ
を追う女好きの刑事。なぜパンティは盗まれたのか、という謎の解法が実に鮮やか。
オチは、感動的でしかも笑える。
「デリバリー・サービス」失踪した宅配ピザ屋の謎を追う頑固一徹の老刑事。
犯行の動機が明らかになった時に、もう一つの謎が浮かび上がる構成が見事。
「夜も眠れない」究極の怠慢刑事が、最終電車のアリバイトリックに挑む。
おそらくこのトリックは前代未聞。長篇を支えられるネタではないものの、
思わず拍手喝采。
「人形の身代金」賭け事に溺れた刑事が自分の過去と対面する時、少女は消える、
大きな人形とともに。最も作り物めいてはいるが、最も本格推理。ホックの最上作
を思わせる切れ味の良さに唸る。
「消えた町」やってくれました。とうとう町一つを丸ごと消してみせるB級の
魔術師。そしてそれぞれの刑事が関わった事件がまた新たな様相を見せるとき、
綾瀬署最大の事件が勃発する。刑事達の活躍にご期待下さい。
結論:いやああ、面白かった!!こういう作品をコンスタントに出して頂ける
のであれば、尻切れトンボになっているSFのシリーズの事は、とりあえず棚
の上にあげておいてよしとしましょう。


2000年3月11日(土)・12日(日)

◆MYSCON当日。昼過ぎに、須川さん、風々子さん、KIYOKA-CHANの保護者
一行に護られるようにして美夜さんが拙宅に。なんとまあ、可憐系のお嬢さま。
アルコールがだめ、チーズがだめ、生魚がだめ、キノコ系・貝系だめ、あああ、
一体貴方様は普段何を食されておられるのでショッカー?例によって、本棚見学、
私も含めみんなから山風や正史などの本をもらって御満悦の姫、「これで来た
理由の殆どがすんだ」んだそうな。うーん、それがために生まれて始めての上京
とは!?結局、当初予定通り宅配ピザで昼夜兼用の食事をすませ、4時過ぎに出発。
私はダンボール2箱と鞄1つ分の古本をキャスターに載せてがらがらと引き摺る。
階段などでは皆さんに手助けしてもらう。どもどもお世話になりましたです。
◆お茶の水からタクシーで鳳明館森川別館へ。本郷通りをそろそろと流していく
と角に松本楽志さん発見。おー、ここやここや。そこで政宗九さんにも出会う。
むむ、だんだん気分が盛り上がってきたぞおお。森川別館の玄関では受け付けの
真っ最中。私の荷物を見て、例によって驚きの声があがるも、今回は既に一人で
3箱の荷物を送り込んだ人がいるので(よしださん、貴方だ、あなた!)ショック
は少ない。「お疲れ様でーす。って本当にお疲れ様ですよね、この荷物」はい、
左様でございます。手渡された参加者一覧をみていると、結構、よくいくサイトに
「猟奇の鉄人」の名を挙げて頂いている方が多い。ありがとうございますありがとう
ございますありがとうございます。おーかわさんと私はスタップ欄のアイウエオ順で
丁度上下になっておりお互いに相手のサイト名を記入。彼氏曰く「これは、絶対
ユダヤの陰謀!!」はあ?私のサイトを挙げてくれている一人である松本真人さんにも、
よしださんの紹介でおめもじかなう。

◆ほぼ定刻通り、フクさんの開会宣言。直ちに井上夢人氏と大森望氏のトーク・
ライブ%「e−Novels」。井上氏は、能弁で間の取り方も上手く、大森氏の絶妙の
つっこみもほとんど必要ない程。電子出版にかける先駆者としての井上氏の熱い思い
がよく理解できた。と同時に、危機感のない大手出版社の社員、只管おのれの理屈
でしか動かない取り次ぎに対する絶望感や憤りも痛いほど判った。新作の紹介など
(「オルファクトグラム」は五感ミステリになる筈だった「あくむ」で果たし得な
かった嗅覚小説という宿題への答だった模様)もあって、楽しい1時間強はあっと
いう間に過ぎる。「こんなに新作を読んでくれている人の比率の高い場面にいきあわ
せた事は初めて!」とうるうるする井上氏が可愛い。
◆会場を模様替えして、10班に分かれての全体企画。推薦図書交換&推理クイズ
の時間。司会のINOさん&雪樹さんの進行でさくさくとイベントは進む。私は
<エルキュール・ポワロ>チーム、shakaさんの仕切りで自己紹介&推薦図書紹介。
一体、shakaさんのどこが寒いのだろう。ひろさんの説明では「劇の時のギャグが
とんでも寒い」のだそうな。ふむふむ。隣に座った大森せんせは「これで古本の
問題は大丈夫、安田ママがくれば新刊も大丈夫だな」とか言っているところへ
ママさん登場。夏来さんの交換本が連城三紀彦の初期作の初版・帯・サイン本で、
一同ぶっとぶ。欲しいと言い出しかねている若い衆を尻目に、「うーん、あまったの
なら、しょうがないなあ」とちゃっかりゲットする大森せんせであった。ちなみに
わたしはジャンケンに弱く、d「ステップ・ファーザー・ステップ」(宮部みゆき)。
クイズの「古本20冊の謎」はshakaさんとひろさんの若者組が仕切っていたので
ママさん相手に隅の方でこそこそ「こんなアイデアはどうでしょうねえ」とお話。
珍発表を終える頃には、既に時間は9時を回る。でもさあ、なんで「宇宙人」や
「ヤギ」なわけえ?念のため、後のメンバーは須川さん、隼さん、七夜さん、
くぼみさん、山口から飛行機で飛んで着たてつおさんであった。
成田さんに本を渡し、おーかわさんと本の交換、日下さんにジグソー・パズル渡し、
川口さんにビデオを返却して、トイレで良知さんとご挨拶。雲をつく巨漢だったので
ビックリ。いや、どもどもこんなところで、はじめまして。スタッフの青木みやさん
から、MZT氏からの託され本を拝受。ありがとうございまする、MZTさん。
「二人がここにいる不思議」Rブラットベリ(新潮文庫)
◆小腹が減ったので、ビールと食料の調達に友野氏とコンビニへ。帰ってきて
廊下をウロウロしていると中橋さんと中村さんの強力タッグに捕まり、延々ホムペ
話で盛り上がる。で「古本バトラー」ですかあ、うーん、面白いような、血をみる
ような。中橋さんの軽快なノリのトークは関西人のワタクシ的には「懐かしい」
の一言。いやあ、よーしゃべりはるわ。好漢。ひょいと近くの部屋を覗くと、
よしださん、土田さん、川口さん、黒白さん以下古本系の皆さんが談笑している。
いかんいかん、ここに入ってしまうと、いつものパターンだ。折角のMYSCON、
いつものメンバーとは別の人と話しをせねば、と分科会の部屋を覗くと、ともさん
から、「これを是非に」と手渡されたものがある。わっはっは。「血風少女」の
プロマイドであった。いやいや、どーもです。
◆分科会企画前半は「ともさん&オーナーを囲む会」通称「老ミス」。とにかく
定刻時点では、聴衆はまばら、しかも女性はたった1名。真ん中の卓でお茶を
すするパネラーとコーディネータは、どうみても「養老院の昼下がり」といった
長閑さである。それが時間が経つにつれて、溢れんばかりに聴衆が増えていく。
らじ丼などは、牢名主よろしく寝具の上のどっかと腰を据える。途中から、なぜか
岡嶋一人さんの独演会状態、浅暮三文さんと「駄目サイトの現状と課題」という
方面の話題で盛り上がる。ともさんのレスはここでも的確で心をうつものであった。
普段は寡黙なオーナーも結構お話され、後で須川氏曰く「あれほど長く話すオー
ナーは初めて見た」とのこと。なぜか流れ弾で私にも話題が向けられる。はいはい、
命削って、掲示板にレスつけしておりますのが私です。これもあっという間の
1時間。実に有意義な企画であった。煙草部屋に行って一服つける。プロ揃い踏み
の無茶苦茶濃い面子につき碌に話もできず退散。
◆分科会企画後半は、楽志さん、INOさん、おがわさんの「大喜利」へ。
蔓葉さん、冴西さんから名刺を頂く。格好いいなあ。俺も作ろうと思っていたん
だけどなあ。大喜利はGAKUさんの進行で、爆笑の連続。始める前には喜国さん
からの「突っ込みに来たの?」という問いに「はい」と答えていたが、どうして
なかなかやりよるわい。特におがわさんのぼけ&つっこみ芸には感心する。最後が
少々だれたが、まずは合格点。面白うございました。では「大森望まない」って事で。
既に時刻は、0時40分を過ぎている。いよいよ私の出番である。
◆午前1時、マラソン古本オークションの開始である。「えー、カリスマ・オークショ
ニアのkashibaです。どこがカリスマかというと、『無資格』なところです。で、
どこがオークショニアかというと、『嘘吐き』なところです」。かくて3部構成の
血風が始まる。正直なところ自分が何を喋っていたのか既に記憶が曖昧である。
殆ど反射神経系での「売り口上」が続く。口開けのフクさんの提供本から結構な
値がつき(「連鎖反応」)盛り上がる。よしださんや喜国さんは売っても買っても
面白い。西の女王様は、売り物の値札ぐらい剥がしておくように。東の女王様は
10円単位の競り上げがいい味だしてました。もう他に買うもののない彩古さんが
最初に買ったのは友成の「獣界魔道」であった。勝負どころでの黒白さん、千街さん、
貫井さんの気合は実に素晴らしい。競り上げはかくありたい。中村さんも頑張るが、
大阪のお医者様の気合は既に参加するだけで相手にやる気をなくさせる。おそるべし、
てつおさん!!成田さん、日下さんも止めを刺しに来るタイミングが絶妙。勉強に
なります。川口さんのボソっという競り上げや、土田さんのクールな追いもさすが。
安田ママさんもダイジマン依頼分の競りに参加。ほほほ、それなりに任務は達成され
たのでは?若い衆も時々参加できる、バラエティーに富んだラインナップであったが、
フクさんが「連鎖反応」の稼ぎをぶち込み「現在忍者考」を取りに来た時は圧巻。
おお、お前も立派な血風者じゃい!!
私は時々、喜国さんの邪魔をする程度で、あまり「買い」には参加できず。まあ
ギャラリー受けで時々冷やかしを入れる程度。買ったのは、本に同情した「さよなら
は2Bの鉛筆」と、相場度外視の「髑髏検校」。専ら売る側に回ろうと思っていた事
もあって、微々たる戦果である。
全体的にはやはり、オーナー、彩古さん、日下さんの出品物が頭一つ抜けており、
地力の差を見せつける。とても私には、このレベルのダブリ本はない。
オークション後に仮眠をとって朝市に備えるという当初の予定はどこへやら、
掉尾を飾る「女怪」が無事本日最高値で喜国さんの手に落ちる時には、時刻は
既に4時45分。ああ、4時間弱、立ちつづけの喋り続けでふらふらの私は、
最後のイベント「朝市」に出陣するのであった。いっけーー!!
◆大広間に設えられたテーブルに170冊強の本を並べ、いよいよ朝市開始。
フクさんの仕切りで左程の混乱もなくスタート。最初に私の持ってきた目玉商品
「乱歩文庫:赤:揃い」を5名でジャンケン。一人ずつ抜けていく展開に盛り上がる
が、最後に14冊をゲットしたのは、MYSCON代表フクさんその人であった!
まあ、こんなものか。オークションに出さない分、こちらは粒を揃え、買値ご奉仕
だったので、おそらく朝市出品者の中では一番人気であったろう、小一時間が過ぎる
頃には、150冊以上が捌ける。いやあ、ちょいとホクホクである。別に儲かった
わけではないが、読みたい本が読みたい人のところに行くのは気持ちがいい。
お買い上げ頂いた皆様、ありがとうございます。少しはMYSCONの賑わしに
なりましたかね。なぜ、これが売れ残るのか?という本が、後から来た「目」の
ある人に拾われていくのを見るのも実によろしい。
◆朝市が一段落してぼんやりしていると、日下さんから、嬉しい本を頂戴する。
「殺人交叉点」Fカサック(創元クライムクラブ)
「日本版AHMM46号」(宝石社)
やったー!!!ヒッチコックマガジン、こんぷりーとおおおお!!!!!
ありがとうございますありがとうございますありがとうございます。
これで私のMYSCONは収支黒字である。むっふっふ。
◆朝市の売れ残りで、拾ったのは以下の通り。
「宝石盗難事件」キーン(金の星社)300円
「WHO's WHO in Horror & Fantasy Fiction」M.Ashley(ELM TREE BOOK)300円
◆朦朧とした状態のまま、河岸を替えつつ時間をつぶす。7時15分過ぎに睡魔
に耐え切れず座布団に寝転がるが、7時半には起こされる。いよいよフィナーレ。
昨日のクイズの表彰の後、スタッフ紹介があって、めでたく第1回MYSCON
は盛会裏のうちに終了。大成功といってよかろう。スタッフの皆さん、ほんとうに
本当に御苦労様でした。心から敬意を表します。
◆一応名ばかりのスタッフではあるので、片付けが終るまでうろうろし、挙句の果て
に、フクさんに載せられてビールを1本喇叭飲み。ほろ酔い機嫌で小雨の中を
本郷三丁目に向かう。乗り換えのたびに、はっと気がつき大慌てで飛び出す展開。
なんとか家に辿り着き、爆睡モードへ。
あ、しまった!!「仮面ライダークウガ」をセットするの忘れてたよお。

◆「あなたに恋色・ミステリー」黒須まりあ(講談社X文庫)読了
MYSCONでへろへろになったために軽目の読書でと、まずは早見網元ご推薦の
謎の合作作家の唯一の作品を手に取った。
主人公菜摘は、小学校時代を過ごした街に再び引越してくる。そこで、二人の美少年
美織純人と真田祐樹と再会を果たす。子供の時分から、祐樹の事が好きなのに、素直
そう言えない菜摘。なぜか祐樹と純人は同居していた。実は生物学者だった純人の
父が、数年前のある夜、彼を残して失踪していたのであった。彼等が通うのは純人の
父の友人が理事長を務める北ノ丸高校。転校早々、学園七不思議がらみの「いじめ」
から彼女を護る純人。七不思議はたわいもないものが殆どであったが、7番目の
「開かずの講堂」のみは、実際に幽霊が出没し、そこに入った者は必ず死ぬという
「事実」があった。「七つの呪い」を受けたと怖がる菜摘を安心させるために
「開かずの講堂」の謎を解こうと一人講堂に忍び込む純人。しかし、その翌日、
彼は倒れる、、果して、開かずの講堂の呪いは復活したのであろうか?そして、
祐樹と菜摘の運命は?てな、話。
怪奇現象や幾つもの謎が合理的に解かれるという前評判は、確かにその通りで
あった。また文章や二人の美少年と主人公の絡みという基本のプロットは実に少女
小説の王道を行く。が、立派にオトメチック・ストーリーしすぎているため、
硬質な謎解き部分に浮いた印象が付き纏う。例えて言えば、ショートケーキの上に
上ミノがトッピングされている感じ。それぞれのパートは悪くないのだが、全体
としてのバランスが変。後書きによれば、作者は辻真先が主催する劇画原作教室の
出身の合作作家との事だが、トリック考案者と文章の書き手を分担したのであろうか?
それぞれが基本の形に忠実であろうとしたために、どことなくぎくしゃくした
「習作」の域を出ない作品になってしまった。これ1作で消えてしまったとの事だが、
センスは悪くないので案外どこかで別名で活躍しているのかもしれない。

◆「狙撃者のメロディー」高原弘吉(春陽文庫)読了
同じくMYSCON明けでへらへらしていた時に、フクさんとおーかわさんから
「これ読め」攻撃にあったが故に手に取ってみた、お手軽なトンデモ・ハードボイ
ルド短編集。220頁の本に14作も詰まったお得用である。主人公は南条鉄也。
危険の香を漂わせた一匹狼の私立探偵。150馬力のエンジンを装備し至近弾
すら寄せつけぬ特殊装甲を誇る愛車「チャレンジャー」を駆って、拳銃撃つ撃つ、
女抱く抱く、悪党どもにほえずらかかせてやるぜバカ野郎!というノリのナイス・
ガイの活躍譚に、読者の開いた口はいつまでもふさがらない。その治外法権ぶり、
我侭勝手ぶり、やりたい放題ぶりたるや、全く出鱈目にも程があろうというもの
である。作中出てくる「阪神のカークランド」というような記述を見ると、70年
代前半の作品集なのであろうが、一体どこの国の話やねん!!?と突っ込みを
いれたくなるのは私だけではない筈。果してどのような読者層を対象に描かれた
作品なのだろうか?何話かで女子プロボーラーと宜しくやる件があったり、アホバカ
女子大生とスポーツ的セックスを楽しんだりしているところを見ると、そういう
妄想を抱くオヤヂ向けの作品なんだろうなあ。描かれる犯罪にも産業スパイネタ
があって、要は高度成長期のイケイケドンドンオヤヂが好んで読む質の宜しくない
中間小説誌で官能小説の間に挟まって、「巨匠登場!ハードボイルド巨編!!
孤独な狼の爆走、巨悪を撃つ!!!」などという「巨」きい煽りつきで供された
作品たちなんだろーなー。今の真面目なミステリ好きの目からみれば、全編これ
笑いどころの嵐。どの作品でもいい、徹夜明けの多幸症の頭で、ビールを引っか
けて音読して頂きたい。個人的には、文中のところどころに出てくる「○○せし
める」という妙に文語調の表現がツボである。あほらしゅうて、各作品ごとの
ミニコメなんぞやる気にもならんわい。このような作品を私に読ましめるとは
さすが、フクさん&おーかわさんだぜ。