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2000年3月10日(金)

◆八重洲定点観測。
「ラムの大通り」JRペシュラール(早川NV)300円
「ヘネシー怒りの日」Mフランクリン(講談社)300円
d「イーシャの舟」岩本隆雄(新潮文庫FN)100円
「SF Japan」(徳間書店)1000円
ああ、またわけの判らんものを買ってしまった。「ラムの大通り」はともかく
「ヘネシー怒りの日」はただのIRAものである。映画カバーに騙された。うう。
早速、古本落ちしていた「SF Japan」を買う。何故買ったかと問われれば、
エマノン1編のためである。鶴田謙二の描くエマノンがまたいいんだわ。それに
しても、日本SF大賞の選評で著名SF作家連の写真が載っているが、いやあ
皆さん老けたねえ。山田正紀や大原まり子なんぞには思わず絶句してしまった。
「イーシャ」もついつい拾ってしまう。これでまた「星虫」とペアで揃ったぞ。
◆MYSCONの朝市用の本を選んで箱詰め作業。楽しいのだが、果して持てる
のだろうか?ま、明日の来客に手伝ってもらおうかな。
鏑木さんに頼んだところ、快く「Gストリングのハニー」のフォトカバー書影
を貼ってくれました。うううむ、なるほどこういう写真だったのかあ。ナポソロ
の「空飛ぶスラッシュ」のフォトカバーが入手できた今(よしださん、ありがとう)
ワタクシ的には、これがポケミス最後の憑き物である(おそらく)。鏑木さん、
どもどもであります。

◆「死は熱いのがお好き」Eボックス(ポケミス)読了
才人ゴア・ヴィダルが別名で書いた、ハードボイルド風味の本格推理小説。ミステリ
プロパーでない作家が書いた推理小説というのは、あまり好きになれないという事は
以前にも書いたが、さすがにゴア・ヴィダル!これは面白い!これほど緻密な
本格推理をメイン・ストリームの作家に書かれてしまっては、本職たちは立つ瀬が
ない(どうでもいい話なのだが「ゴア・ヴィダル」もなぜか「ヴィダル」じゃなくて
「ゴア・ヴィダル」なんですなあ。これを「ゴア」とも「ヴィダル」とも呼ばない
のは何故なんだろう?)。こんな話。
元新聞記者で現在は企画屋を営むピータ・サージャントは、社交界デビューを
もくろむ金持ちの未亡人ヴィアリング夫人の別荘に招かれる。そこには、彼女の
姪ミルドリドとその夫である著名な画家ブレクストン、書評欄担当の女性寄稿家
メアリ、姪のかつての恋人フレッチャとその妹アリーといったメンバーが逗留して
いた。表面上はにこやかに休暇を過ごしていた彼等だが、ピータはそこにニューロ
イックな緊張感を感じていた。果して、ある日の海水浴で、一同が見守る中、ミルドリド
は底流に呑まれ溺死してしまう。一旦は単なる事故死と思われたが、彼女の死体から
睡眠薬が検出された事から警察の捜査が始まる。
夫に疑いをかける昔の恋人フレッチャ、しかしミルドリドが飲んだものと同じ睡眠薬
は彼の居室から発見されたのだ。事件の背景を追うピータであったが、なんと次に
襲われたのはピータだった!!息をつく間もなく今度はフレッチャが無惨な死体と
なって発見される。一体、一連の事件の動機は何なのか?事件の渦中に居合わせた
事で独占記事をものにしていたピータは思わぬ窮地に追い込まれる。果して、恋と
名誉をかけた素人探偵の一発逆転なるか?!
「色」と「欲」が縺れた複雑な人間関係を巧みに操り、思いもかけない論理的結末
をカモフラージュする作者のミステリセンスの良さに感服。完全に一本とられた。
探偵役は事件の最中にガールフレンドとホイホイよろしくやったりするのだが、
その実は古典的な名探偵である。このプロットの冴えは、クリスティーの佳作
レベルに達しているといって過言ではない。思わぬ拾い物をしました。お勧め。

◆MYSCON用の小ネタを考えていたら、こんなのを思いついたんだけど、長く
なりすぎたし、とはいえ「瑣末の研究」ってほどでもないので、ここに載せておく。

あんくる・あぶなー坂」(特に意味はない)

ぶっく○ふをこえたところに
わたしはすんでいる

みせからでてくるひとたちは
みんなにもつさげてる

「おまえのつけたねだんがやすい
このみをくるわせる」

やすいきゅうりょうで
はたらいたうさはらし

むだにだぶりかうのが
ここからはみえる


きょうもだれかおろかなおとこが
ほんをかいすぎる

わたしはすぐむかえにでかける
だんぼーるだいて

「おまえがそんなやさしくすると
いつまでたってもかえれない」

とおいじたくでは
あつめたほんのおもみに

いえがゆがんでるのが
ここからはみえる


ぶっく○ふをこえたところに
わたしはすんでいる

かいてんびはあさいちばんから
ぎょうれつができる

「きちょうなほんがほんとにやすい
ほんずきはたまらない」

かったそのあしで
じぶんのみせにもどって

たかいねふだはるのが
ここからはみえる

(うう、kashibaは寒いか?>がくしさん)


2000年3月9日(木)

◆平日にもかかわらず新京成沿線を攻めてみる。
「サタデーナイト・デッド」Rローゼン(早川ミステリ文庫)100円
d「SFX映画の世界2」中子真治(講談社X文庫)100円
d「六死人」SAステーマン(創元推理文庫)100円
「夢魔」戸川昌子(徳間文庫:帯)190円
「透明女」戸川昌子(徳間文庫:帯)170円
d「都筑道夫のミステリイ指南」都筑道夫(講談社文庫)120円
「小説パタリロ映画編」田波靖男(コバルト文庫:帯)40円
「ルパン三世カリオストロの城」山崎晴哉(コバルト文庫)40円
「いつまでもそばにいて」井上ほのか(講談社X文庫)40円
d「あなたに恋色(はあと)ミステリー」黒須まりあ(講談社X文庫)40円
「プリンセスへの鎮魂歌」RMアーサー(コバルト文庫)40円
「惑星ヒミコの貴婦人(上)」森奈津子(小学館キャンパス文庫)180円
「ソーダ水の殺人者」新井千裕(光文社)100円
「美土里くんの『ドライツェーン』」林美土里(日本文芸社)100円
「ホームズ少年探偵団:さらわれた少女たち」Rニューマン(佑学社)300円
d「ホラー映画ベスト10殺人事件」友成純一(扶桑社)100円
「パリの王様」ガイ・エンドア(東京創元社)600円
最後の2冊がまずまずの収穫であるが、全体的にぱっとしない。新規開拓の必要性を
痛切に感じる。MYSCONが終ったら、また少し遠くまで足を伸ばしてみよう。

◆「月の物語」井上雅彦監修(広済堂文庫)読了
異形コレクションの8冊目。以下、ミニコメ。
「月光荘」小気味よく怖いショートショート。オチは映像的にも怖い。
「プレイルーム」真っ当な学校の怪談。実際にこんな場所があったら相当不気味。
「死んでもごめん」まあ、このオチしかないよなあ、というオチ。
「銀の潮満ちて」全く普通の魔女モノ。新しさがない。
「月見れば」アイデアも語り口も素晴らしい。そして戦慄のラストも。傑作。
「月盈ちる夜を」エロティックな変身怪異譚。生臭さを感じさせる月というのもよい。
「ぶれた月」普通のドッペルゲンガーもの。いまさら何を?という印象。
「Killing Moon」世の中には私の知らない才人がまだまだいるものだ。上手い。
「月の上の小さな魔女」SF的設定と呪いのミスマッチが楽しい。話としてまとまっている
「地球食」この短さの中にSF倒叙サスペンス本格推理のすべてがある。凄い。
「六人目の貴公子」文章落語。少々冗長。この作者には月テーマの叙情編を期待したい。
「落葉舞」明治物のヨコジュンは紛れもなく大作家である。豪胆にして哀切。良い!
「月夢」悪夢ものだが、これは怖い。醒めない悪夢はいやだいやだいやだいやだ。
「シズカの海」<カプリコン1>で済ませられない貫禄がある。良い意味で「変」な話。
「蜜月の法」再読。やっぱり傑作。
「月光よ」達人の草書体。ふーん。
「穴」いかにも漫画。
「飛鏡の蠱」日野富子の魔性を良く書けました。多重構造も決まっている。
「月はオレンジ色」さすが異色作家。色の選び方で「勝ったも同然」である。
「影女」真面目に読んでいたら、ダジャレかい!!
「シャクティ」蘊蓄が楽しい。人間が書けている。怖くない。
「掬月」冗漫。この程度のアイデアはこの5分の1で語らなければ作家じゃない。
「石の碑文」小泉八雲のパスティーシュという発想が素晴らしい。中身は普通。
「欠損」この作品を突っ返す勇気を持ってくれ、井上雅彦!!
「知らないアラベスク」素材とテーマの繋ぎ方が強引に過ぎる。話し手のトリックは良い。


2000年3月8日(水)

◆飲み会終了後、西葛西で途中下車して一軒だけ覗く。
d「密室探究:第一集」鮎川哲也(講談社文庫)280円
「消せない女」多岐川恭(光文社文庫)270円
「仮面の花嫁」島田一男(春陽文庫)100円
d「遺跡の声」堀晃(ASPECT NV)100円
「過負荷都市」神林長平(徳間NV)100円
d「歌の降る惑星」菅浩江(角川文庫)100円
まあ、鮎哲と菅浩江が拾えたので良しとしましょう。
◆本屋でやっと今月のミステリマガジンをゲット。ブラウン管の名探偵特集号。
「テレビ探偵・刑事名鑑」なる記事には相当期待していたのだが、なぜかエイモス・
バークが入っておらん!!!ハニー・ウエストはどうした!!?署長マクミランも
名探偵ジョーンズもない!ドクター刑事クインシーもないぞ!!それに鬼警部
アイアンサイドがないなんて!!ネイム・オブ・ザ・ゲームとかも紹介してほし
かったのう。こんなもん、保存版とは認めんぞ!真面目に作らんかい!!
他はともかくとしても、リメイクもされた「バークにまかせろ!」と日米双方
でヒットした検屍官という異色の探偵であるクインシー、車椅子の鬼警部アイアン
サイドは絶対に外せないと思うのだがなあ。信じられない思いで一杯である。
あああ、小山正氏がついていながら、なんたるていたらく!!
◆もうひとつ文句をいえば、室戸晴氏によるハリントンのコロンボ・シリーズの
紹介文で、第1作が「血文字の罠」と紹介されていたのは大間違い。第1作は
JFK暗殺の真相に迫る「Grassy Knoll」である。んなもん、ちょっと
真面目に版元にあたれば判りそうなものだが、努力が足りん。一方、小鷹エッセイ
では、活字のコロンボファンはミステリ読者ではないような嘆きが綴られていたが、
一体何なのだろう?いや、通常のミステリマニアもしっかりコロンボのノベライズ
を買ってますぞ。何を被害者意識に悶々としておられるのか理解できない。
森さんによるジョナサン・クリークの紹介など読みどころも多いのではあるが
総じて欲求不満が溜まる作りであった。こういうヌルイ編集をしていると、ますます
本屋においてもらえなくなるぞおお!!しっかりせんかい、ミステリマガジン!!

◆「ニューヨーク編集者物語」DEウエストレイク(扶桑社文庫)読了
文章で身を立てたいと思った事があるだろうか?そこで、莫大な印税を手に入れ、
人からは「先生」と呼ばれ、素晴らしい伴侶と子供たちと豪邸に住んで、たまには
マスコミの取材を受ちゃったりなんかして、といった情景を思い浮かべているよう
では、一生文筆業には就けないであろう。才人ウエストレイクは、このユーモア
小説の主人公トムを通じて、文章を生業とする事の大変さ、しんどさ、辛さ、
いいかげんにしてくれさ、そして少々の楽しさを、我々に語りかけてくれる。
合わせて、ニューヨークという都会で生きていく事、それも二人の子供をなした
妻と別居して、これまた二人の子を連れた女性と同居する事の大変さ、しんどさ、
辛さ、いい加減にしてくれさ、そして少々の喜びも教えてくれる。主人公は、
キワモノ本や半端仕事で口に糊する売れない作家。その彼が馴染みの編集者に
究極のクリスマスブックの企画を持ち込むところから物語は始まる。企画を通し
自分に有利な契約を結ばせるための手練手管、及び、企画が通ってからの執筆者
との交渉と原稿集めの地獄を、実在の著名人たちを多数登場させながら語る才人
の筆は澱みない。しかも主人公は、複雑な恋愛関係と親子関係をこなしながら、
更には、次々と入れ替わる出版社側担当との人間関係に苦しみ(若干楽しみ)
ながら、この仕事に勤しむのである。さあ、果して究極のクリスマスブックは
完成するのであろうか?
この作品は推理小説ではない。これは、業界内幕ものであり、有名人ものであり、
爆笑小説であり、家族小説であり、そしてこれ自体が「クリスマス・ストーリー」
なのである。すべての本を愛する人は、この作品を読んで、出版界の現実を知ら
なければならない。すべての小説家を志す人は、この作品を熟読して、「それでも
作家になりたいのか?」を自分に問い掛けなければならない。
私の感想は、こうだ。

「くっそー、やっぱりオモシロそうじゃないかああ!!」

残念ながらこの傑作も既に本屋では見つける事ができない。というわけでMYSCON
朝市
にこっそり並べておきますね。はい。


2000年3月7日(火)

◆駅のワゴンで少々拾う。
d「ニューヨーク編集者物語」DEウエストレイク(扶桑社文庫)250円
d「中国梵鐘殺人事件」RVフーリック(三省堂)1000円
d「淫夢魔」友成純一(勁文社)370円
でもって、別途定点観測。
d「悪党パーカー/標的はイーグル」Rスターク(ポケミス:帯)500円
d「悪党パーカー/漆黒のダイヤ」Rスターク(ポケミス:帯)500円
d「悪党パーカー/裏切りのコイン」Rスターク(ポケミス:帯)500円
友成純一は、おーかわさん用捕獲。なるほど、言われてみればこの本もあんまり
みかけない。自分用以外では初めて出会う。スタークは、高いといえば高いが、
買いそびれたファンなら出す値段か。友成以外の5冊はMYSCON朝市送り。
◆大谷羊太郎の「殺意の演奏」を捜して本棚をかき回す。書庫には少なく見積もって
もスチールラック1本分の本が床置きになっており、なかなか手間がかかる。漸く
25年前に買った白背の講談社文庫を発見するが、解説に筆名の由来はなかった。
と思ったら、成田さんから掲示板に情報を寄せて頂いた。ほほう、左様でござい
ましたか。ありがとうございます。さすが「密室系」。「大谷袋」をお持ちとは。
◆かきまわしついでに、早川SF文庫の床置き分を固めてみる。やば。ソウヤーの
品切れ2冊買ってねえぞ。しまったなあ。早川SF文庫は800番台まではそこそこ
の収集率なのだが、900番台以降が400冊中100冊前後しかないのだ。少々
強化月間に入ろうか。これをやりだすと、当分「ボウズ」を引かなくて済むしなあ。
(それが動機かい!?)

◆「華やかな死体」佐賀潜(講談社文庫)読了
塔晶夫「虚無への供物」、天藤真「陽気な容疑者たち」を退けて、戸川昌子の
「大いなる幻影」とともに第8回江戸川乱歩賞に輝いた作品。ヤメ検の現役弁護士
という経歴が受賞に作用したのであろうか。戸川昌子も異色の経歴であり、その後
の二人の活躍ぶりを見るに選考委員の慧眼を高く評価するに吝かではないとはいえ、
受賞段階で、選外のカルト系二人との差は結局「経歴」ではなかったのではなかろ
うか?もしもこの4人が立場を逆にしていれば、どうなっていたか?と想像する
のは後代の我々の特権であろう。塔晶夫は、永遠に完結しない反推理小説を表し続け、
天藤真は今の赤川次郎並みの売れっ子になり著作が百冊を越える、佐賀潜は法律
入門書の作者としてベストセラー作家の仲間入りを果たし、戸川昌子は「候補作」
がマイナー出版社から出版されたのみで筆を折っていた、等など。
佐賀潜の作品は、集めるとはなしに集めており、時代ものも入れれば50冊弱を
所持しているが、読んだのは「黒幕」程度。この出世作もこれまで積読状態で
あった。「黒幕」の印象があまりにも大人のための経済陰謀小説であり、その
毒々しいまでの濃口の人間描写につい他の著作からも遠のいてしまっていたと
いうのが正直なところである。しかしながら、たまには骨太の法廷小説を思って
手にとったこの作品は、若き日の作者自らの分身ともいえる青年検事:城戸明を
主人公にした実に折り目正しい「推理小説」であった。
やり手で好色家の実業家の殺害を巡って、その初動捜査から結審までをドキュメン
タリータッチで綴ったこの作品は、それでいて検事という職業の現実と限界を
巧みに折り込んだ立派な「小説」でもある。早々に捜査線上に浮かぶ容疑者、
「色」と「欲」と両面からの証拠を固め、容疑者否認のまま公判に持ち込む城戸
であったが、老獪な弁護士の策謀か、証人たちは次々と証言を翻し、公判過程で
明らかにされる「新事実」の前に、捜査の綻びが晒されていく。曼珠沙華の赤と
菊の白に彩られた「華やかな死体」を巡り陰謀の輪は回る。栄転の切符をほぼ手中
にしていた城戸は、果して公判に勝利する事が出来るのか?
事件そのものは非常にシンプルであり、動機も「色」と「欲」という二大動機。
しかしそのカードを巧みに操る事で「騙し絵」の如きプロットを組み上げた作者
の腕前はさすがに後年あるを思わせる。読後感はエンタテイメントとしては、
いかがなものかとは思うが、これも社会派全盛の時代に照らし当然の帰結か。
今となっては、中井英夫・天藤真の人気に及ぶべくもない忘れられた人気作家の
忘れられてはいけない作品であろう。和久峻三を読むぐらいなら佐賀潜読みなさい。


2000年3月6日(月)

◆西大島、南砂町定点観測。
「モンティニーの狼男爵」佐藤亜紀(朝日新聞社)650円
「逃げ出した秘宝」DEウエストレイク(早川ミステリアスプレス)50円
「放浪の戦士」茅田砂胡(中公NV)100円
「スーパー推理クイズ大集合!!」田中文雄(ケイブンシャ)100円
d「夏街道[サマーロード]」早見裕司(徳間アニメージュ文庫)50円
d「クロックタワー2:ジェニファー編」牧野修(ASPECTノベルズ)100円
d「十角館の殺人」綾辻行人(講談社NV:初版・帯)100円
d「迷路館の殺人」綾辻行人(講談社NV:初版・帯)100円
佐藤亜紀はPicaさんの推薦に乗ってみる。とりあえず「見かけたら買い」モード
に入る。デルフィニア戦記も試しに第1巻を購入。ウエストレイクは珍しく原書で
読んだ本なので、ぐすぐすしている内に50均で見つけてしまう。綾辻の2冊は
勿論、MYSCON朝市用。初版・帯という理由のみで買う。もしかしたら、
若い人は若い人なりにこの辺りを探究しているのかもしれない、と思ったのだが、
帰宅してジグソーさんで確認すると、そう値のつく本でもなさそうである。ま、
いっか、100円だし。

◆「わたしを深く埋めて」HQマスル(ポケミス)読了
「ニューヨークのペリー・メイスン」と呼ばれる弁護士スカット・ジョーダンもの
の第1作。といっても、法廷場面はなくて、どちらかといえば「ニューヨークの
南郷次郎」といった雰囲気の作品である。
マイアミでの休暇を予定より1週間早く切り上げてアパートに戻ってきたジョーダン
は、下着姿の見知らぬブロンド美女の歓迎に会う。唖然とするジョーダンに抱き着き
キスを求めたかと思うと、酔っ払って昏倒してしまう彼女。困惑しながらも、眠る
彼女にコートを着せタクシーに後を任せたジョーダンであったが、今度は続けざまに
三組の招かれざる客がやってくる。男女3人組、荒事に慣れた暴漢、そして最後に
警察。なんとタクシーの中で彼女は冷たくなってしまい、死因は酒に入った睡眠薬だ
というのだ!どうやら、この事件には、ジョーダンの友人キャンブローの離婚問題が
絡んでいるらしい。しかも、一方では死んだ女性は、ある遺産相続問題の重要な
証人だったという事が判明する。ある交通事故にいきあわせた彼女の証言によって、
その事故で亡くなった夫婦のいずれが先に死んだかが決まるのだ。その遺産を
巡って暴力のプロたちが動き出す。果してジョーダンは死地を脱して、事件の
真相に辿りつく事ができるのか?
お色気と暴力といきのいい啖呵に溢れたアメリカン通俗推理。それでいて、本格推理
趣味にも気を配った作品である。息をもつかせぬ事件の連続なのだが、読み終わって
みると、作者のミスディレクションの張り方に感心するという類いのお話である。
遺産がらみの民事事件も嫌がらずに引き受けるジョーダンは、メイスンや南郷次郎より
も商売優先でなかなか宜しい。ただ、日本での紹介の順序が逆になってしまった関係
で、少々辛い部分がある。ポケミスで番号の若い「霊柩車をもう一台」は後回しに
して、順番通り読んでいく事をお勧めする次第である。


2000年3月5日(日)

◆朝から新京成定点観測。北習志野のお気に入りの店が影も形もなくなっている
のを見てガッカリ。この世界も回転が速いですのう、と呟きながらいつもとは
違う道を辿って高根木戸方面に向かうと、その途中で1軒古本屋を発見。この
辺りのチェーン店なのだが、これまで全く気がつかなかった。ここで、ワタクシ
的古本マーフィー「最初の店で大荷物になる」に遭遇。こんなところ。
d「幽霊塔」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫20)270円
d「畸形の天女」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫30)300円
d「怪人二十面相/少年探偵団」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫31)320円
d「妖怪博士/青銅の魔神」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫32)320円
d「虎の牙/透明怪人」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫33)320円
d「怪奇四十面相/宇宙怪人」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫34)320円
d「鉄塔の怪人/海底の魔術師」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫35)320円
d「灰色の巨人/魔法博士」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫36)320円
d「黄金豹/妖人ゴング」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫37)320円
d「魔法人形/サーカスの怪人」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫38)320円
d「奇面城の秘密/夜光人間」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫39)320円
d「塔上の奇術師/鉄人Q」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫40)320円
d「仮面の恐怖王/電人M」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫41)330円
d「おれは二十面相だ/妖星人R」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫42)320円
d「超人ニコラ/大金塊」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫43)320円
d「新宝島」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫44)330円
つまり、子供向けが揃って出ていたのですな。あんまりあるこっちゃないので
発作買い。MYSCON朝市に「乱歩文庫・赤・揃い」で出しちゃうんだもんね。
ずばり4500円!どう?梅田古書倶楽部なら2冊も買えんぞ。むっふっふ。
高根木戸、高根公団と攻めてみるが、結局最初の店の当りが最高。後はこんな
ところ。
「奇妙な果実殺人事件」藤田宜永(新潮文庫)100円
「金沢ミステリー傑作選」五木寛之他(河出文庫)190円
「狩りの時刻」戸川昌子(徳間文庫)300円
「妖術先代萩」朝松健(KKベストセラーズ:帯)300円
「時空間の剣鬼」宮崎惇(双葉NV)100円
「縄文土偶殺人事件」中津文彦(双葉NV)100円
「言壷」神林長平(中央公論社)300円
d「13の判決」英国推理作家協会編(講談社文庫)180円
わっはっは、先週譲ったばかりの「縄文土偶」がまた100円で並んでいたので、
つい捕獲してしまう。なんでい、ちっとも珍しい本じゃないじゃん、葉山さん。
河出のご当地ミステリ・シリーズは「金沢」で完集!!「テーマ別」も既に収集
済みにつき、河出文庫のアンソロジーは本日をもってコンプリート!!いやあ、
結構苦しみました。後は読むだけ。「13の判決」も講談社文庫黒背BX系の
人気作で嬉しい。都合、めちゃ安という感じではないものの、まずまずの手応え。
とりあえず管理人の意地をみせたって所でしょうかね?
◆本日のテーマは、実は古本ではないのだ!というわけで、津田沼の新刊書店を
ウロウロ。目的は「大衆文学館」。「なるほど、ないもんだなあ」と上記の古本
を抱えて歩き回る(あほ)。結局、ここになければ諦めようと思った「丸善」で
げっとだぜ。
「銭形平次・青春編」野村胡堂(講談社大衆文学館:帯)757円
「ハイカラ右京探偵全集」日影丈吉(講談社大衆文学館:帯)1068円
「少年探偵手帳」串間努(光文社文庫:帯)495円
後は、新潮の事典で思い切り悩むが、荷物が大変なので先送り。とりあえず、
「出たら買い」の新刊2冊を捕獲。
「迷路」Pマクドナルド(ポケミス)900円
「SAKURA(六方面喪失課)」山田正紀(徳間NV)800円
それにしても新刊が異常に高く感じてしまう。僅か5冊でたちまち5千円弱だ
もんなあ。まるで古書だよ(私、何か変な事、言ってます?)。
ところで、津田沼の書店を4軒駆け回って結局みつからなかった本がある。
それは「ミステリマガジン」の最新号。以前から感じていたが、ここへ来て極端
に冷遇されている事を確信した。このミスの企画をそっくりパクった志の低い
SF本が平積みになっている一方で、「ミステリマガジン」は完全に忘れ去られて
いる。まあ、都内に出れば在るところは知っているが、それにしてもやるせない事
夥しい。これでは「EQ」の後継誌も、さぞや苦労する事であろう。とほほ。
頑張れ!!ミステリマガジン!!!

◆「ラッキー・シート」戸板康二(河出書房新社)読了
著者の作品集の中では、もっとも入手にてこずった1冊。7編中3編が雅楽もの
で、密室殺人も1作(「密室の鎧」)含まれている。雅楽ファンとしても、密室
マニアとしても外せない1冊であるが、文庫落ちもしておらず探究者泣かせの本
である。歌舞伎役者:中村雅楽の登場作品については「謎宮会」のバックナンバー
で沢田氏の労作が紹介されているのでご参考にされたい。ここに来てまた、雅楽
ものの入手が困難になってきており、纏まった形の出版が必要かと思うのだが、
如何でしょ、日下さん? 最初、乱歩に口説き落とされる形で推理小説に手を染めた
ために、無理矢理「推理小説の形」に嵌めたような作品が多かった作者ではあるが
この作品集あたりでは、随分と余裕が生まれてきているように思う。文章の上手さ
はいうまでもなく、情と機微に通じたストーリーテイリングにも酔える佳作揃い
の作品集。以下、ミニコメ。
「隣の老女」思いがけず老人ホームから助けられ、老女の話し相手を務める事
になる主人公。やがて、自分が選ばれた真の「理由」を知り、殺意が芽生えていく。
それが臨界点に達した時、今ひとつの殺意が交叉する。奇妙な人間関係が生み出す
憎悪の軌跡に凝然とする傑作。短い作品に複雑な人間模様を封じ込め、幕切れの
台詞に至るまで気を配った隙のない話。短編推理は、かくありたい。
「篤行の極致」傑物の死とそれに纏わる妾たちの葛藤が、篤行家である秘書を
軸に語られる作品。皮肉なオチに向けて周到に張られた伏線に驚く。
「スターの妹」作者の稚気溢れるチャレンジに拍手。この世界を知り尽くした
作者ならではの布石の巧みさよ。
「三号室の貫禄」小市民の小市民的な人生目標が達成された時、罠の口は閉じる。
題材はクライム・ストーリーなのだが、作者のトボけた筆致がよい。
「ラッキーシート」歌舞伎役者の悲恋が幽霊譚となって甦る時、雅楽の推理が
冴える。満席の中、一ヶ所だけ空席となる「ラッキー・シート」と喪服の麗人
の謎が歌舞伎の演目と過不足なく溶け合った作品。
「密室の鎧」これも演劇の世界を知り尽くした作者ならではの「密室殺人」もの。
楽屋と演芸場という二重の密室の中に転がる金貸しの刺殺死体。出演の合間を
縫って捜査と推理に勤しむ雅楽が魅力的。密室トリック自体は悪くないが、なぜ
密室なのか?という部分が今ひとつ弱い。伏線もきちんとはっており、フーダニット
興味は捨てて密室の解法一本に絞った潔さも心地よいだけに、惜しい。
「写真のすすめ」ある女性の「自殺」と行方不明の歌舞伎役者の謎に挑む雅楽。
行方をくらました役者が送ってきた写真を元に、名安楽椅子探偵ぶりを発揮して、
意外な結末に辿りつく。日常の些細な動作にまで目配る雅楽の観察力がよく描け
ている。
総括:充分、追っかける値打ちのある作品集。勿論、河出文庫で出版してもらう
のが最も幸せな結末なのだが。


2000年3月4日(土)

◆「逃げちゃ駄目だ」を3回唱えて、戦場に臨むと既に戦闘は終結した後でした。
というわけで、喜国さんありがとうございました(なんのこっちゃわからん人は、
小林文庫さんのゲストブック参照)。
◆MYSCONで朝市開催が正式に決定。個人的にはダンボール一箱分のダブリ
本を持ち込むつもり。なにせ朝の5時から開催というとんでも企画である。果して
本当に起きられるのだろうか?どきどき。まあ、せいぜい、おいしそうなところ
を持っていくので、MYSCON参加者の方は是非御立寄り下され。よしださーん、
頑張りましょうねえ。
◆もういっちょMYSCONネタ。交換本は、何の悩みもなしに決定済み。勿論
菅浩江さんの「鬼女の都」でございますよ。これを持っていかずに何を持っていけ
とおっしゃるのでしょうか?去年読んで一番面白かった本なんだもん。
◆爆睡の1日。昼過ぎに5人組で回った八千代方面へ土壌の回復ぶりを定点観測。
まあ、皆さん方の血風ぶりには及ぶべくもござんせんが、拾ったのはこんな所。
「あなたに恋色(はあと)ミステリー」黒須まりや(講談社X文庫)40円
「あなただけこんばんは」矢崎麗夜(講談社X文庫)40円
「雨を呼ぶ少女」矢崎麗夜(講談社X文庫:帯)40円
d「そこでそのまま恋をして」竹内志麻子(コバルト文庫)40円
d「青い月の恋人たち」竹内志麻子(コバルト文庫)40円
「それはキスからはじまった」井上ほのか(講談社X文庫)100円
「愛しているっていわせたい」井上ほのか(講談社X文庫)100円
「戦争の法」佐藤亜紀(新潮文庫:帯)210円
d「ビッグ・タウン」Cハワード(近代映画社)200円
「元禄百足盗」朝松健(光文社文庫:帯)230円
「碧い眼の封印」朝松健(中公NV)300円
「妖術太閤殺し」朝松健(講談社NV)300円
「屍美女軍団」朝松健(勁文社)300円
「遠野陶芸の里殺人事件」中津文彦(天山NV:帯)300円
「サイキック戦争」笠井潔(講談社文庫)100円
d「過去からの狙撃者」鷲尾三郎(光文社NV)100円
d「彗星王の陰謀」Eハミルトン(早川SF文庫)100円
d「脅威!不死密売団」Eハミルトン(早川SF文庫)100円
d「殺人四重奏」Mルブラン(創元推理文庫)100円
d「ふるさと遠く」Wテヴィス(早川SF文庫)100円
d「クイーンの色紙」鮎川哲也(光文社文庫)100円
「正義は勝つ」田村章(フジテレビ出版)100円
d「青春は再び来らず」デュ・モーリア(三笠書房:帯)100円
d「罪灯」佐々木丸美(講談社)350円
「ナポレオンの影」ACドイル(原書房)850円
d「殺人同盟」RLフィッシュ(リーダーズ・ダイジェスト:箱・帯)100円
「ハードボイルド傑作選1」中島河太郎編(ベストブック)500円
「SFワールド2」(双葉社)200円
「マンガ奇想天外:SFマンガ大全集・創刊号」(奇想天外社)450円
X文庫関係の課題書がサクサク集まって小市民的幸せに身を委ねつつ、ちょぼ
ちょぼ佐々木丸美やデュ・モーリアなど中級クラスのダブリ本を朝市用に拾って
いたが、最後から2軒目で1冊だけ個人的探求書に当たる。これ。
「コミックブック・キラー」RAルポフ(早川書房:帯)900円
SF作家ルポフの書いたコミックブック収集界を舞台にした推理小説。知らない
間に出版され、知らない間に消えていた本。実は原書のペーパーバックは所持
しており、こんなキワモノは絶対翻訳されないもんね、とタカを括っていたのだ。
いやあ、人間油断は禁物である。昨年になって翻訳出版されていた事を知って
愕然(翻訳出版は1990年)。以来かなり真面目に捜してきた本であった。
漫画大好き、SF大好き、ミステリ大好きの人間がこれを外していてはお天道様に
顔向けができない。やれやれ、よかった、よかった。
それにしても4週間前に焦土と化した割には、土壌の回復力があるのに感心する。
やっぱり田舎はええですのう。

◆「恐怖のブロードウェイ」Dアレグザンダー(ポケミス)読了
前日の口直しに、ポケミス三百番台の隠れ傑作と森英俊氏もご推薦のこいつを
手に取ってみた。アレグザンダーは個人的に思い入れがある、といっても作品
の内容ではなく、ポケミス完集の最後の1冊がこの作者の「街を黒く塗りつぶせ」
たったのだ。まあ題名からしても、本格至上主義のガキが買う本ではない。おそ
らくは、何度も見逃した挙句に、アチラの方から嫌われて「最後の1冊」になって
しまったのであろう。この「恐怖のブロードウェイ」も中田耕治訳というところで
既にハードボイルド分類である。ところがどっこい、これがなんとサイコなシリ
アル・キラーものに本格のツイストを利かせた抜群に面白い作品なのだ。
競馬・演劇等の娯楽専門紙<ブロードウェイ・タイムズ>の主筆バートのもとに、
数年前ブロードウェイを恐怖のどん底に落とし込んだ連続殺人鬼ウォルドゥから
の殺人予告が届く。差出人は、過去ウォルドゥの手によらないと考えられていた
殺人についても自分の犯行を示唆していた。そして、実はまさにそれは警察と犯人
しか知り得ない事実だったのだ!たまたま、アル中の記者崩れと退職警官から
ウォルドゥ関係のネタを持ち込まれたバートは、特ダネの手応えを感じるが、友人
のロマノ警部から懐柔されペンを押さえる。しかし、変質者の魔手はバートの
ガールフレンドのストリッパー:アンジェールに迫っていたのだ!猟奇的な手口
で殺害されるアンジェール。バートは怒りに燃えて、この連続殺人鬼を追うこと
となるのであった!
まず、サイコな連続殺人という設定が極めて今日的である。ところどころに変質者
視点の描写が入るところも完璧にパターン。そして意外な犯人。作者はタイプ
ライターを手掛りにして、容疑者を極めて限定した範囲に絞り、読者に挑戦
してくる。そのうえで更に一ひねり大技を繰り出してくるのだから、昭和33年
当時の読者は随分と感心したのではなかろうか。更にこの作品のいいところは、
主人公が、自分の周りの落ちこぼれ達に優しいところ。忘れられた老優、背骨を
傷めた老プロレスラー、パンチドランカーの黒人ボクサーなどなど、社会の澱みに
沈む彼等に対し彼等の最後に僅かに残ったプライドを傷付けぬように付き合っている
バートの姿には心を打つものがある。活きのいい事件記者ものがお好きな方は
勿論、ハードボイルドのファンも、本格至上主義者も是非どうぞ。同じ「通俗」で
あっても前日の作品との「志」の差に驚く事請け合いの、ポケミス復刊候補の第一
水準に叙せられるべき隠れ傑作である。お勧め。


2000年3月3日(金)

◆「俺のこの手が光って唸る。お前を倒せと輝き叫ぶ!ひっさああーーーつ、
シャーイニング・フィンガーーッ!!!!」ああ、Gガンダムが面白い−っ!!!!!
で、らじ丼、どうしたの?鬱モード?
◆今日は気合が入らず古本屋に寄らずまっすぐ帰宅。くりさんの圧倒的な血風を
見ていると、気力もめげようというものである。こんな時は元気の出るアニメだ!
というわけで「Gガンダム」なんぞを鑑賞してしまう。(冒頭へ)
◆ミステリネットマニアの皆さんは既に「百も承知、二百も合点」であろうが、
大矢巨乳美人妻さんの「なまもの!」の33333アクセス突破記念企画である
「2000年の雪国」が最高に面白い!!ネットでここまで爆笑したのは呉さん
の「わが妻」以来。「ミステリネットの吉本興業」を目指す拙サイトとしては学ぶ
ところ大いに大であった。まだご覧になってない方は、必見!

◆「死体の指にダイヤ」和久峻三(角川文庫)読了
さあて、おまちかね(まだGガンを引き摺っている?)、今週の課題図書の登場
である。多くの方から「和久峻三を読むならコレ」という推薦を受ける一方で、
ワセミス・サークルノート史上最低の評価点を獲得した(森英俊氏情報@掲示板)
ともいう噂の作品である。
さあ、一体どのような作品なのか、と不安9割・期待1割で手にとってみた。
結論から言う。ずばり「70年代の<甲賀三郎>」である。それも獅子内俊次の
登場しない甲賀長篇である。といえば、このHPをご覧頂いている方々には凡そ
想像がつこう。こんな話。
1千万円を下らないダイヤの指輪をつけた和服モデルの死体がダンボールから発見
される。動き出す警察。更に、不倫アベックの載った車のトランクにいつの間に
か押し込まれる男の婚約者の死体にはグレコ・ローマン風の金のネックレスが下げ
られていた。アベックは死体を密かに山中に埋めるが、今度はその死体がアベックの
女の住まいの近くで発見される。一切抵抗のあとなく水死させられた美しき女たち。
果てして、犯行の手口とは?遂に捜査線上に容疑者が浮かぶ。しかし彼には鉄壁
のアリバイがあった。難航する捜査。しかし、犯人の次の標的は、なんと捜査を
担当する「音なし」警部補こと音川音次郎の娘:洋子だったのだ!!
手に汗握るサスペンス、そして白熱の法廷場面に驚愕のアリバイトリック!!
巻をおくあたわざる乱歩賞受賞作家の新聞連載小説の傑作ここに登場!!
実に実に「通俗」である。矢継ぎ早に起きる不可解な事件、多重視点による犯罪
小説的展開、現場に残される高価な宝石、華麗なる真犯人、怒りに燃える捜査陣、
そして掟破りのアリバイトリック、てな要素をぶちこんで、どうすればここまで
つまらん話が書けるのか、という通俗の見本市的作品である。ただリーダビリティ
の高さは素晴らしい。文庫で500頁を越える大長編だが、昨日読んだ「ぼっけえ、
きょうてえ」よりも短時間で読めた。
いずれにしてもマニアの琴線に触れる小説とは言いがたいであろう。
数十年の後に「新本格登場以前に日本の新聞連載通俗推理が甲賀長篇の高みに到達
した事を証明する里程標的作品」とでも再評価されてくれ。わしゃ、知らん。


2000年3月2日(木)

◆仕事の端境期につきひょこんと休みを入れてしまう。先週末、イベントに追わ
れていた身として嬉しいところ。朝からのんびりと日記をつけたり、不義理をして
いたリンクを3件つけたりして過ごす。前夜はキバヤシさんからの荷物を引き取れ
なかったので、朝一番で受け取りさっそく開梱。次々と出てくるペーパーバックに
ニタニタ笑いが止まらない。東京泰文社やドラゴンズ・エッグが相次いで閉店して
此の方、これだけのペンギンの大量捕獲は初めてである。昼過ぎに掲示板のレス
つけを終えて近所の古本屋を自転車で巡回。出掛けにコンビニでキバヤシさん宛
に交換本を発送。拾ったのはこんなところ。
「震える血」ゲルブ&フレンド編(祥伝社文庫:帯)280円
「死体の指にダイヤ」和久峻三(角川文庫)220円
「社会部記者<午前零時の出獄>」島田一男(春陽文庫)50円
「神々の砦」朝松健(ソノラマNV)100円
「妖変!函館拳銃無宿」朝松健(徳間NV)100円
「傷だらけの天使」市川森一(大和書房:帯)500円
d「ローリング・ロンドン」友成純一(扶桑社:帯)500円
d「十字路」江戸川乱歩(講談社乱歩文庫)200円
d「探偵小説四十年2」江戸川乱歩(講談社乱歩文庫)220円
「ゼルダの伝説<黒き影の伯爵>」樋口明雄(双葉社)100円
「ぼっけえ、きょうてえ」岩井志麻子(角川書店:帯)700円
島田の事件記者は巻末の春陽文庫目録欲しさに拾う。ううむ、昔は宇陀児だの
甲賀だの、鷲尾だのが出ていたんだなあ。「傷だらけの天使」が嬉しいところ。
全26話中市川脚本の8編がすべて収録されている。むっふっふ。それにしても
スチルの水谷豊やショーケンの若い事。
◆帰宅して2ヶ月分の積録ビデオを整理。会社の人にフィッツの19話を録画
し損ねたので貸して欲しい、と頼まれなければ、更に先延ばしになっていた事
であろう。これだけで3時間を費やしてしまう。むむむ。1月新番組は「京都
迷宮案内2」と「モナリザの微笑」しか録画していないので楽といえば楽な筈
なのだが。

◆「ぼっけえ、きょうてえ」岩井志麻子(角川書店)読了
さて、コバルトの緑背7巻も揃ったところでたまたまブックオフ落ちしていた
この出世作を捕獲即購読。いくら「素」で読もうと思ってもこれだけ世間で騒が
れると、あれこれ事前情報が聞こえてしまう。それでもなお、この作品集は凄い。
4つの短編からなる1段組の短編集なんぞ「あ」っという間に読めてしまうだろう、
と思ったら、これがとんでもなく手強い本だった。特にホラー大賞受賞作である
表題作は、全編がこれ方言で、とにかく読み飛ばしがきかない。では読みにくい
のかというとそうではない。女郎の寝物語として柔らかに語られる一語一語が揺る
がせにできないのだ。また全話に共通する発展途上国たる大日本帝国の貧困が
あまりにも痛い。これほど貧乏が身に沁みるエンタテイメントも珍しい。
恐怖の仕掛自体には図抜けた目新しさが在るわけではないが、時代と場所の設定が
鮮やかであり、あらゆる怪異が「さもありなん」と腑に落ちた上で冷たい固まりと
なって背筋を凍らせるのだ。都会派ホラー全盛の時代にあえて土俗と貧困と偏狭を
恐怖の背景に持ってきた作者の着想のよさに感心する。以下、ミニコメ。
「ぼっけえ、きょうてえ」生き地獄はいずこにあらん。妾の中にぞ地獄はあらん。
女郎の語る身の上は、呪わしい畜生腹のなれの果て。愛はおどろ、夢はうつつ、
生身の身体に因縁は宿る。かくも完成された作品に何が言えよう。紛れもなく
日本恐怖小説史上に輝く新しい古典である。結末については、少々やり過ぎの
感がなくもないが、個人的にはリドル・ストーリーにもっていき高踏趣味に走る
よりは、この判りやすさを評価したい。
「密告函」基本のプロットは阿刀田高の得意とする「夫と妻に捧げる犯罪」である。
しかしながら、そこに村役場とコレラと加持祈祷という要素を持ち込むことで
読者の興味を逸らさない作品に仕上げた。作者の小説の膨らませ方を知るうえで
入門編的な作品。ただこれでは大賞は狙えなかったであろう。
「あまぞわい」題名の音感がなんとも怖い。作者は我侭な男女の夢が崩れていく
様を残酷に暴き立てたうえで、いつか見た悪夢に回帰させていく。全編を覆う
生臭さの途切れる時、恐怖は足元にある。
「依って件の如し」これが最も一筋縄ではいかない話である。禁忌の場、人と牛
の血、予言、大量死の翳の個の死、キーワードは散りばめられているものの、今
なお自分が正しく作者の意図を読み取っているのか自信がない。さながら「罪」
のアラカルト。果してどの皿に盛られた肉を食べれば宜しいのでしょうか、さて?


2000年3月1日(水)

◆「かしこまりました。ともさんのところのお嬢さまは私めが必ずや立派な血風
少女に育ててみせましょう。」ってこのセリフは怪しすぎますのう。
◆ビッグボックス定例市初日。就業後オチボ拾いモードで参加。何もないのだが、
やはりここは参加する事に意義を認めて数冊拾う。
「謎の日本誕生」推理史話会(新人物往来社:帯)300円
「謎の古代争乱」推理史話会(新人物往来社)300円
「現代犯罪百科(増刊週刊大衆S61.7.11)」(双葉社)200円
推理史話会は「謎の女王国」への流れをつけるために買い込む。「犯罪百科」は
島田荘司の「D坂の密室殺人」の初出誌という珍しさのみ。「新進」バイオレンス
対談として「菊地・夢枕対談」が載っているのが、いかにも時代。昭和は遠く
なりにけり。以降はブックオフ3軒をはしご(高田馬場北、高田馬場戸山口、
新大久保)、ちょぼちょぼ拾ったのはこんなところ。
「400年の遺言」柄刀一(角川書店:帯)850円
「ピカソ君の探偵帳」舟崎克彦(福音館)100円
「日本SF・原点への招待1」星新一他(講談社)100円
d「時空いちびり百景」かんべむさし・堀晃(毎日新聞社)100円
d「兄の殺人者」Dディヴァイン(教養文庫)100円
d「五番目のコード」Dディヴァイン(教養文庫)100円
d「鑢」Pマクドナルド(創元推理文庫)100円
かんべ・堀の競作ショートショート集とPマクが少し嬉しいか。まあ自力では
こんなところ。
◆帰宅するとキバヤシさんから一箱分の本が届いている。ひゃっほー!!!
中からは昔の装丁のペンギンブックスなどがズラリ21冊!!これは嬉しい。
ありがとうございますありがとうございますありがとうございます。
'The French Powder Mystery' Ellery Queen (Penguin Books)
'The Red Widow Murders' Carter Dickson (Penguin Books)
'The Blind Barber' J.D.Carr (Penguin Books)
'Fatal Venture' F.W.Crofts (Penguin Books)
'The Sea Mystery' F.W.Crofts (Penguin Books)
'The Groote Park Murders' F.W.Crofts (Penguin Books)
'Mystery in the Channel' F.W.Crofts (Penguin Books)
'Aphrodite Means Death' John Appleby (Penguin Books)
'Murder Mr Velfrage' Roy Vickers (Penguin Books)
ここまでが、例の白と緑のシンプルなデザイン。思わずうっとりである。クロフツ
なんて、英米でもそうはないに違いない。うっひっひ。
'The Spoilt Kill' Mary Kelly (Penguin Books)
'The Adventure of Ellery Queen' Ellery Queen (Penguin Books)
この2冊が中期の緑地に写真のペンギン・クライム装。
'The Pit-Prop Syndicate' F.W.Crofts (Penguin Books)
'The Night of the Twelfth' Michael Gilbert (Penguin Books)
d'Smallbone Deceased' Michael Gilbert (Penguin Books)
'End-Dame' Michael Gilbert (Penguin Books)
'In at the Kill' E.X.Ferrars (Penguin Books)
'Death of an Old Goat' Robert Barnard (Penguin Books)
'My Name Is Michael Sibley'John Bingham (Penguin Books)
'The Case Is Closed' Patoricia Wentworth (Warner Books)
d'The Judas Window' Carter Dickson (Pocket Book)
'The Scoop and Behind the Screen' (Gollancz Detection)
うーん、これが1冊100円?ああ、堪りませんのう。
最近、とんとミステリーのペーパーバックで当たりに恵まれていなかったので
ひたすら感涙。よよよ。誰の同意も得られないかもしれないが、これで今日は
「血風」だ!「血風」!!

銀河通信掲示板でともさんの「魔法飛行」の感想が受けまくっている。毛利衛
氏の二度目の宇宙飛行と自分のお嬢さんの事を絡めて語りかけるように書かれた
感想で、なるほど「じん」と来る。これはともさんにしか書けない感想。
テクニック以前に「心」と「環境」がどこまでもともさんなので嫉妬にならない。
例の「週刊小説」のとんでも発言に対する何より雄弁な反論であろう。喧嘩の仕方
が上手い、上手すぎる。
成田さんの本日付け「アメリカの叔父さん」考もナイス。これも教養の差を見せ付け
られる一編。勉強になります、はい。そのうえで、フランス人の好みに合いそうな
日本人作家となると誰になるのだろう?志水辰夫あたりかな?うーむ。

◆「幽霊鉄仮面」横溝正史(角川文庫)読了
無性に横溝正史が読みたくなる、そんなご経験はなかろうか?やはり中坊の頃に
「日本の本格推理斯く在りき」と刷り込まれた原体験は強烈である。実はパソコン
を購入して即ニフティに入り、最初にウロウロしていたのが早見裕司氏が網元を
務める「横溝島」というフォーラムであった。これが切っ掛けで長年積読となって
いた戦前ものの横溝正史をかたっぱしから読み漁り、ついには人形佐七にも手を
伸ばし、横溝熱が完全にぶり返した。角川文庫横溝コンプリートを早々に達成し
現在は初版コンプリートを追求中、これが終われば(終るのか?)次は異装画
収集に走るつもりである。このうえはDVDを買って、古谷一行版のテレビシリーズ
も集めねばなるまい。ではなぜ、そこまで正史に嵌まるのか?
答は簡単。面白いからである。
正史を読むと、何も苦労してマイナー作家のマイナー作を時間と金をかけて追っか
けなくてもいいじゃない、という気持ちになってしまう。探書家としては、とても
とても危険な作家なのだ。しかも翻訳もやり、都会派のコントから幽玄・耽美、
そして戦後の本格まで作風も実にバラエティーに富んでいる。映像化作品も多く
演じた金田一役者は20人(含む、田辺誠一)に及ぶ。まさに巨星である。さて
この「幽霊鉄仮面」は戦後の作ながら(昭和24年)、「探偵小僧」御子柴進が
初めて三津木俊助と出会うお話。作品の後半になって由利先生も登場するオール
スターキャストの贅沢な一編である。
かちかち山をモチーフにとった新聞広告による奇妙な殺人予告。その標的とされた
のは「宝石王」唐沢だった。新日報社の記者折井は、その広告主の謎に迫り過ぎた
ため、新日報社の重役室で殺害される。「テッカメン トハ ヒガシ─」という
ダイイングメッセージは何を告げるのか?果して唐沢のもとにも殺人のカウント
ダウンを告げる脅迫状が送り付けられていた。唐沢の招請をうけた名探偵矢田貝
博士は、三津木俊助とともに唐沢邸に乗り込むや、邸内に潜む密偵の正体を暴くが、
真の恐怖はそこから幕をあけるのであった。希代の悪党「幽霊鉄仮面」の動機は
何か?遥か大陸に隠された秘宝とは?レビューの花形、冒険家、幽霊鉄仮面の
毒牙は次々と新たな犠牲者を求め帝都を震撼させる。目くるめく不可能犯罪、
手に汗握る気球上の決闘、そして遂に舞台はモンゴルの秘窟に飛ぶのであった。
少年ものの全ての要素を盛り込んだ贅沢な作品。少年ものにしては異常なほど
長い。二転三転するプロットは、通常であれば3話分ぐらいのアイデアが詰め込ま
れていて大人も楽しめる作品に仕上がっている。なんと最後には秘境小説になる
というサービスぶりには正直唖然とした。ここまでやるか?と呆れる反面、もし
子供の頃にこれを読んでいれば、純粋培養の横溝正史主義者になっていたかも
しれないという思いに駆られた。勿論、大人の目からみれば「疵」はやたらと
あるのだが、それをあげつらう事こそ野暮というものである。個人的には「旧かな
づかいのアナグラム」に感動してしまった一編。とにかく正史ファンは、読むべし。
子供も読むべし。