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2000年1月31日(月)

◆昨日の補足報告。結局、日記アップ後ブックオフへ。釣果は以下の通り。
「ジャッキー・チェンのポリス・ストーリー」吉岡平(講談社X文庫)100円
「白狼伝 赤い夕陽の快男児」樋口明雄(ログアウト冒険文庫)100円
「架空幻想都市(下)」めるへんめーかー編(ログアウト冒険文庫)250円
「素晴らしい犬の物語」ウッドハウス他(読売新書)100円
d「女怪」横溝正史(角川ミニ文庫:初版)100円
d「密輸人ケックの華麗な手口」RLフィッシュ(早川ミステリ文庫)100円
d「物体Xはわたしの夢を見るか?」大原まり子(ソノラマ文庫)100円
d「ハーヴァードの女探偵」Aクロス(三省堂)100円
「架空幻想都市」は、菅浩江クエストで上巻を捜しているのだが、縁がない。
とりあえず、土田幻想ブルドーザーの顰に習い、流れを作るべく下巻をゲット。
「素晴らしい犬の物語」は非ミステリの犬小説集なのだが、ウッドハウスとマックス・
ブランドの名があったので押さえる。
「女怪」は、所持本が重版だったので、初版クエストの一環。
アマンダ・クロスは、個人的には左程面白いとも思わないのだが、5年後には
今の「ディー判事」並の消え方必至の三省堂刊なので押さえておく。「いつまでも
あると思うな、アマンダ・クロス」である。
◆朝一番、掲示板に現在「萌え萌え」状態の菅浩江さん御本人に書き込み頂き、
常連の皆さんともども盛り上がる。これまでにもプロの方々には数多く書き込み
頂いているのに、何で皆こんなに盛り上がっているのだ?と一瞬不思議になった
のだが、そうか!「古本つながりで御本人を知ってから」という基本パターンから
外れていたからなのだ。納得納得。
◆喜国さんの小説推理連載のエッセイを立ち読み。凄絶なポケミス・ハントの
状況が大増頁で克明に描かれている。クライマックスに手に汗握る。で、おお!
石井女王様の名前が!!凄いぞ!と思っていたら自分の名前が出てきて腰抜かす。
ニフティのメルアド宛にお問い合わせ頂いたがために、届いている事に気づかず
何もお役に立てなかったのであるが、、ありがとうございます。
◆急遽飲み会が成立。仕事が片付いていないにも関わらずよくやるよ。それでも
古本屋だけは覗く奴。
d「マルタの鷹」Dハメット(河出書房新社:帯)100円
「イブを見た女」大沢久美子(現代文芸社)100円
「失踪の果て」松本清張(角川文庫:帯)50円
「イブを見た女」は自費出版。果してミステリなのだろうか?以前からT書店の
推理コーナーに並んでおり気になっていたのだが、見切り品になって均一棚に
出てきたところをゲット。我ながら悪食ですのう。
◆帰宅すると、えぐちさんから交換本が到着。
d「ブロンズの使者」鮎川哲也(徳間文庫)交換
「ファントマ」スーヴェストル&アラン(早川NV文庫)交換
鮎哲は以前に人に譲った文庫版を引き戻し。「ファントマ」は刊行時ノーチェック、
今になった地獄を見ていた探求書。表紙も含めて初見である。ふーん、こんな
本だったのね。えぐちさん、ありがとうございまする。


◆「空高く」Mギルバート(ポケミス)読了
印象の定まらないビッグ・ネームの一人。数少ない翻訳がバラバラの出版社(早川、
創元、文春、角川、集英社)から出されては絶版と化している事でも、わが国での
人気のなさが判ろうというものである。創元推理文庫の「ひらけ胡麻!」と今回の
作を含むポケミスの2冊はコアなマニアの探求書となっており、本国では、ペーパー
バックが版を重ねている作家なのだが、如何せん渋すぎる。この作品では英国の
片田舎で起こった退役軍人爆殺事件が扱われるが、IRAものとかではなくて
立派な本格推理小説である。こんな話。
別荘荒らしに悩まされる英国の片田舎。その聖歌隊メンバーである退役軍人が爆弾
で家毎吹き飛ばされる。戦後、村に流れてきた彼の素性を知る者は誰一人なく、
なんと被害者には爆死の直前に起きた教会の献金箱荒らしの疑いまで掛けられていた。
ひょんな事から事件直前に被害者宅を尋ねていた元特務隊員ティムは、彼から
「命を狙われている」事を打ち明けられていた。聖歌隊の隊長を務めるティムの
母親リズは見当はずれの警察の調べに業を煮やし、自らある写真を手掛りに被害者
の過去を追う。やがて判明する、被害者の意外な正体。一方、ティムは、被害者の
ポケットにあった手紙を手掛りに怪しい飲み屋に潜入するのだが、、、
道具立ては派手ながら、実は端正なつくりの英国ビレッジミステリ。子供に至る
まで丁寧に書き込まれたキャラクターたちの絡み合いを堪能する。また終盤の展開
も鮮やか。素人探偵チームの活躍がなんとも微笑ましい。異色たらんとする事が
逆に一層「英国ミステリ」らしさを引き立てる。なんとも伝統の厚みを感じさせる
冒険風味付けの正統派推理小説であった。なかなかない本ではあるが、一読の
価値はある。


2000年1月30日(日)

◆合宿2日目。鯨飲のツケでふらふらの半日。ようやく家に帰りついて、溜まった
メールにレス付けして、この日記をつけているところ。とても意外な人からメール
を頂戴して、舞い上がる。ああ、ホームページやっててよかったなああ。
誰だと思う?(ヒント:私の99年ベストの人)
御本人がその気になれば、そのうちに掲示板にも登場して頂けるかも。
ああ、感激でございまするるる。
◆昨日のうちに、ロビーさんからの交換本が届いていた模様)。
d「生者と死者」泡坂妻夫(新潮文庫:未開封!!)交換
ふっふっふ。さすがに未開封は古本屋では見かけないもんね。やったね。
しかし、文庫本1冊を佐川急便でお送り頂くとは、ロビーさん、凄いっすね。
溝口さんからは、森奈津子本を、キバヤシさんからは、ペンギンのペーパーバック
をお譲り頂ける由。嬉しいですのう。

◆「妖奇切断譜」貫井徳郎(講談社NV)読了
作者の「明詞」シリーズ第2作。ぴっかぴかの新作である。ついでに言っとく
と「新本」である。古本ではない。エッヘン(>威張るな!)
「喜国雅彦氏絶賛!!<足フェチ>猟奇推理」という評判は目にしていたが、
その評判を裏切らない猟奇ぶりに感嘆。冒頭の死屍累々たる酸鼻な描写が作品
のトーンを支配している。猟奇の淵に落ちていく「道化」の精神崩壊を執拗に
描いていく作者の筆に新生面を見た。こんな話。
戊辰戦争の惨劇を封じ込めた帝都を跳梁するバラバラ殺人鬼。各所の稲荷にその
一部を奪った切断死体を残していく事から「八つ裂き狐」と異名を取る事となる。
シリアル・マーダーのミッシングリンクは、春永という絵師の描いた「今様美女
三十六歌仙」。公家の三男坊:九条惟親は同じく公家の旧友藤下の妹珠子がその
画集のモデルになった事から事件の渦に巻き込まれていく。しかし、九条や警察の
捜査を嘲笑うかのように、八つ裂き狐は珠子をその毒牙に掛ける。
一方、彰義隊を脱退し命拾いをしたものの不遇な日々を囲っていた幕臣:田村喜八郎
は、偶然目にした珠子の足の記憶が忘れられずおぞましい妄念の虜と成り果てていた。
明詞という文明の狭間で蠢く狂気の正体とは?病身の名探偵:朱防慶尚が立ち上がる
時、全ての謎は解体される!
フーダニット趣味を捨ててホワイダニット1本に絞った潔さが心地よい。狂言回し
を務める「喜八郎」はさしずめ江戸川乱歩が描いた「アレキサンダー・ボナパルト・
カスト」といったところか?
また、随所に張り巡らされた伏線も立派。ただ読んでいると「ああ、これが伏線だな」
と感じるのは、こちらがすれっからし故なのだろうか?もっとも、真相は相当に意外。
見事に一本とられました。「おお!ここまでやるか!?」というのが素直な感想。
動機や仕掛に先例がないわけではないが、見事に「明詞」という時代に消化せし
めており、拍手喝采。名探偵役の朱防慶尚のキャラクターも前作に比べて鮮明に
なってきており、ちゃっかりペリイ・メイスン流の次回予告(「死人起こし」?)も
あって期待は盛り上がる一方。どこか京極作品へのオマージュも感じさせる佳作で
あった。ごちそうさまでした。
「なんちゅうか、ほれエリンか、ダンセイニも真っ青」
「は?映倫が男性器で真っ青でっか?」
「何、聞いてんねやがな、人をくうた話やちゅとんねがな」

◆さあ、ブックオフでも覗きにいくかな?


2000年1月29日(土)

◆本日から合宿研修で山奥に篭る。休日を狩りの日にしているものにとっては
非常に辛い。金曜日の日記をアップしておいて、あわただしく出かける。途中
東京駅前から「ショパン」を葉山氏宛に投函。
◆で、古本ネタがないかというと、おっと金曜日にアップし忘れていた本がある
じゃないの?
d「ファイル7」WPマッギヴァーン(早川ミステリ文庫)50円
「ラブ・ストーリー」Eシーガル(角川書店)100円
「屋根裏のコイン」STシェハック(勉誠社)100円
ああ、やってしまった。角川海外ベストセラーズ!!なぜにこのようなものを
買う!?というわけで通し番号は2番でした>膳所さま
「屋根裏のコイン」は、あの「アップルビィ警部の事件簿」を突如発刊して、
マニアたちを驚かせた「勉誠社」から出ていた長篇ミステリらしい。うーん、
こんなもん知らんかったぞ!!97年8月の出版とのこと。

◆「キリンヤガ」Mレズニック(早川SF文庫)読了

昨年のベストSFの噂が高い話題作。レズニックといえば「ソウルイーターを
追え」や「暗殺者の惑星」といった新潮文庫から出ていたハードボイルドタッチ
の作品しか読んでいないので、一体何が評判になっておるのじゃ?と気に掛かって
いた。こういう長めの作品は長距離移動時に読むに限ると、研修のお供にカバンに
忍ばせた。
一読、そのSF離れした重厚さに驚愕。なるほどこれは巷間の好評もむべなるかな。
これは「SFは子供の読物なんかじゃねえぞ」というマニアが、SF嫌いに対して
「騙されたと思って読んでみろ」と薦めるのに最適の作品集である。「スター・
トレック」がSFの姿を借りて、アメリカという国の抱える様々な課題を提起し
ているのと同様に、この作品は「テラ・フォーム」された宇宙都市を舞台に、
西欧文明とアフリカの伝統的文化との相克を、様々な側面から描いている。
プロローグとエピローグを含めて10編からなる連作短編は、どれも「人間と
文明」の関わりについての問いかけに溢れた名編である。こんな話。
一切の西欧文明を否定し、隔離された閉空間の中にキクユ族のユートピアを打ち
立てるべく、一人の男が旅立つ。彼の名はコリバ。イギリスの一流大学で学び、
功なり名を遂げた老人は、ライオンもゾウも絶滅し西欧文明に毒された故国ケニア
を捨てて宇宙に旅立つ。キリンヤガで祈祷師(ムンドゥグム)を務めるために・・・
そこで、彼はキクユ族の伝統を守るために「生死についての西欧倫理」「文明に
憧れを持つ天才少女=智恵の実の禍」「マサイ族の狩人=均衡の破壊者」「女性観
の相克」「呪術と科学の呪縛」「形のみの文化の退廃」「智恵の実の禍再び」
「神の死」と相対することとなるのだ。
また、テーマは非常に重いものの小説としての面白さにも怠りなく、それぞれ
が独立したドラマとして見事に成立しているところも吉。作者後書きの「賞取り
自慢」などはさながらアシモフのノリで、なんとも微笑ましい。万人にお勧め。
「騙されたと思って読んでみろ」である。


2000年1月28日(金)

◆西大島、元八幡定点観測
「聖ベリアーズ騎士団!」霜島ケイ(集英社スーパーファンタジー文庫)270円
「鬼族狩り」霜島ケイ(小学館キャンパス文庫)250円
「修羅の降る刻」霜島ケイ(小学館キャンパス文庫)250円
「鳴弦の月」霜島ケイ(小学館キャンパス文庫)220円
「オートルート大爆破」Mルブラン(早川NV文庫)280円
「名古屋1997」高井信(徳間NV・MIO)100円
d「畸形の天女」江戸川乱歩他(春陽文庫)250円
d「占星王はくじけない!」梶尾真治(新潮文庫)160円
d「大鴉殺人事件」EDホック(ポケミス)300円
d「死の会議録」Pモイーズ(ポケミス)360円
d「若者よ、君は死ぬ」Jフレミング(ポケミス・帯)200円
霜島ケイ収集続行。ミッシェル・ルブランもこれで既訳分は揃ったのかな?
随分と分厚いので驚く。大体2冊で1冊分という印象がある作家なのだが、、
「畸形の天女」は何故か「騎形の天女」になっている春陽堂探偵双書版を持って
いるために1冊だけ買いそびれていたところ、ここ1ヶ月ほどの間に相次いで
古書店・展で「暴力価格」を見るものだからこっそり探究していた。無事半額で
落手できて一安心である。ポケミスは布教用。ちょっと高めだけどまあいいか。
徳間ノベルズ・ミオシリーズ(?)は22冊目。集めている人がいると聞くと
集めてみたくなるのは「性」か?3シリーズ(八犬伝・聖母・ネコ)以外が勝負
なんだろうなあ。ああ、「肉感春売人ニュース活人事件」とか探しまわるのは
厭ですのう。
◆らじ丼も10万アクセス突破されましたですね。おめでとうございます。
さあ、次はフクさんかな?あと、2週間ぐらいで行っちゃいそうですのう。
あ、しまった!小林文庫さんの10万アクセス記念放出が終わってしまった。
成田さんの方はまだ大丈夫だよね?
◆MYSCON申し込み、滑り込みセーフ!!って、一応、名ばかりのスタッフ
なので参加は確定なのだけどね。コミケのダミー・サークル状態だね、こりゃあ。
◆むっふっふ、安田ママさん(@銀河通信オンライン)から褒められたよん。
嬉しいっす。しかし、書店員と妻と母の3役をこなしながらHPを運営されて
いらっしゃるママさんの方が凄いと思うけどね。まあ、夜更かしはホドホドに。

◆「死の逢びき」リー・ハワード(創元クライムクラブ)読了
意識的に「変わり種」を読んできた今週の流れで手に取ったのがこれ。一筋縄では
行かない作品の多いクライム・クラブの中でもひときわ異色の部類に属するであろう。
そもそも推理小説かどうかが疑わしい変化球である。実際、半ばあたり迄は、さながら
不条理な二人劇を見るかのような展開で、このまま「カサリンを待ちながら」で終わって
しまうのではないかとハラハラしながら読んだ。こういうサスペンスはご勘弁願いたい。
こんな話。
「カサリン」というニックネームの女性との不倫に走る一人の男。彼は指定された
彼女の「友人」の部屋に辿りつくのだが、鍵の掛かっていない部屋には誰もいない。
無聊を慰めつつ時間を潰していた彼は突然の警官の登場に驚かされる。素性を隠しつつ
押し問答を行う内に続々と刑事たちがやってくる。一体何がおこったのか?
担当警部の訊問を躱そうとする事が益々彼を不利な立場に追い込んでいく。
彼が漸く、その部屋の主が殺害された事に気が付いた時、「カサリン」からの電話が入る。
が、彼女は殺人があった事を知るや冷淡に電話を切ってしまうのであった。
しかも、検視官の見立てでは、被害者は、まさに彼が部屋についた頃に殺害された事が
判明する。果して、被害者の正体は?「カサリン」の正体は?そして彼は無事
身の証を立てる事ができるのであろうか?
事件を隠しながら訊問する警部と素性を隠しながらそれに対応する主人公のコンニャク
問答が全体の3分の1。行きがけの電車では、あまりの単調さに居眠りしてしまった。
主人公の身柄が警察署に移ってからは、カットバックで「カサリン」とのなれ初めが
紹介され、事件が回り出す。そして、「カサリン」の登場で一気にクライマックスに
向かうのだが、このあたりからのツイストの連続にはなかなか見るべきものがある。
ただ、ミステリとしては掟破りの結末を迎えてしまうために、「尻切れトンボ」感に
苛まれてしまうのだ。作者は確信犯的に推理小説の定石を覆そうとしたようであるが、
評価は分かれるところであろう。たとえて言えば「踊る大捜査線」を通常の刑事
ドラマと思ってみた時の「座り心地の悪さ」か。とりあえず、この不思議作品を
最後までメゲずに翻訳した訳者に敬意を表しておこう。


2000年1月27日(木)

◆見学会、宴会の2段攻撃。間隙をついて1軒だけ覗く。
「漂泊者」風間一輝(青樹社)100円
「ディフェンスをすり抜けろ」Rローゼン(早川ミステリ文庫)100円
d「プレイボーイ・スパイ1」Hチェイス(創元推理文庫)100円
ローゼンは第1作を買ったきりになっていたが、そろそろ揃えにかかろうか?
って、もう10年以上前の話ではないか!!創元のチェイスも気がつくとみかけ
なくなってきた。目録で見ると生き残っているのは3作のみ。一体誰がチェイス
に古書価がつく時代が来ようと思ったであろうか?ボアロー&ナルスジャックが
「猫」マークの代表選手なら、チェイスは「拳銃」マークの代表選手であった
(実は半分くらい「猫」マークなんだけどね)。どうしても創元推理文庫は「帽子
男」マーク中心で物事が動きがちだが、そのほかにも、「失って判る出版社の恩」
といった作品は多い。ポケミスのカーター・ブラウンのように、現役の時には
「いつでも買えるよね」と無視したばかりに後から泣くパターン。ジュニア文庫
に「捜し甲斐」を感じる前に、押さえておくべき本も多いと思うのだが。

◆「釣人荘殺人事件」林房雄(新潮社)読了
戦前にプロレタリア作家として立ち、戦後は中間小説の雄として人気を誇り、晩年
「大東亜戦争肯定論」で物議を醸した鎌倉文人・林房雄の残した長篇推理小説。
一昨日、昨日と渋いところを読んできた勢いで、手に取ってみた。新本格マニア
に説明するのであれば「ほら、北村薫の『謎のギャラリー最後の部屋』に「四つの
文字」っていうのが入ってたでしょ?あの作家でございますよ」といったところか?
草葉の陰で作者が苦笑している事であろう。
ジャンル外の作家の書いた推理小説というと坂口安吾「不連続殺人事件」にとどめ
をさすわけだが、個人的にはあまり好きではない。勿論、ミステリしか読んでこな
かった新・新本格作家の作品に比べれば、少なくとも文体は安定しているのだが、
「私だって推理小説ぐらいかけるのだ」という自負が見え隠れするところが辛い
のである。この作品は、作者自身を模した売れっ子小説家が語り手として登場
するために、その嫌味感は強い。こんな話。
小説家の私・小橋一夫は締切を片づけて5年ぶりに高原の湖畔の宿「釣人荘」を
訪れる。そこで「私」は、妖しい魅力を湛えた美女に出くわす。馴染みの偏屈な宿の
主人・河村についた発作的な嘘が切っ掛けとなって、謎の女性「沢アヤメ」と
湖上に出る「私」。彼女は、自分はこのホテルで人を待っており、その人間を殺すか、
殺されるかの決意を持っているのだと「私」に告げる。やがてホテルに、軍人あがり
の悪徳実業家・九鬼圭助が用心棒を伴って逗留にやってくる。一方、彼に財産と
恋人を奪われた小早川が現れ、不審な行動をとる。宿には、「私」の後輩である花田
警部もやってきて、部屋を代わるよう迫ってくる。ホテルの経営するロッジには、
青春真っ盛りの学生グループが宿泊し、「私」は学生たちの誘いに応じてキャンプ
ファイアーに参加する。女子学生・玉井ヒロ子の小妖精のような魅力に惹かれる「私」。
彼女の好奇心と行動力は陰気な哲学青年の兄・時夫とはまるで逆であった。
そして舞台と登場人物が揃ったところで、湖畔の宿で銃撃戦が始まる。撃たれて
湖に落ち姿を消す九鬼。だが、花田警部が逮捕したのは意外な人物であった。
高原のホテルで繰り広げられる怨念の殺人ゲームの果てに「私」は二つのシナリオ
を描くのであった、、
銃の扱いにつき法律的に杜撰なところが鼻につくが、それなりに意外性に満ちた
通俗推理。「なかなか、よいではないですか」というのが読後の印象。本格推理と
してのフェアプレイ精神を問われると辛いものがあるが、読者の興味を逸らさせない
運びは、さすが長年のキャリアを感じさせる。熟年の「私」が若い女性に抱く邪心を
微笑ましいとみるか、嫌らしいと捉えるかで随分と作品自体の評価が変わりそうで
ある。あと作中人物の口を借りて語られるミステリ談義はすれっからしの身には苦痛。
随分昔に「まあ、『殺人事件』とあるから推理小説だろう」と安易に拾った裸本
なので、希少性の程が判らないのだが、この頃(昭和34年)の推理小説が好きな方
は追っかけてみられては如何か。


2000年1月26日(水)

◆原木中山定点観測。何もなし。この古本屋は当分来なくていいな、という内容。
それでも何かしら買う奴。
「紅い瞳のシェスタ」霜島ケイ(集英社スーパーファンタジー文庫:帯)100円
「銀砂の覇者」霜島ケイ(集英社スーパーファンタジー文庫:帯)100円
「黒炎の貴公子」霜島ケイ(集英社スーパーファンタジー文庫:帯)100円
「紺青の怨鬼」霜島ケイ(小学館キャンパス文庫)100円
「耽美なわしら1」森奈津子(角川書店ASUKAノベルズ)300円
霜島ケイは思いっきり著作がありそうで怖い。とりあえずみかけたら買いという
ことで追っかけモード、オン!レモン文庫以外の森奈津子を久々に自力救済。
もはやどんな本であろうと買う時に恥ずかしい思いをすることはあるまい、と思って
いた私であるが、この本は、久々にとても恥ずかしかった。怖るべし、森奈津子!
えぐちさま、というわけですんで、押さえて頂かなくとも済みました。お心使い
ありがとうございまする。(私信)
◆成田さんの「密室系」の30000を踏む。う、嬉しい&おめでとうございます。
◆「悪者は地獄へ行け」Fダール(潮書房)読了
フレデリック・ダールの処女作。「絶体絶命(ピンチ)」と並んで入手困難な作品で、
通常であれば出ていた事すら知られていない筈なのだが、ZPやここの掲示板では
なぜかゲット報告が相次ぐ本である。ロベール・オッセン監督で映画化され、ダール
自身が脚本を担当したらしい。この翻訳本にもヒロインを務めたマリナ・ヴラディ
をあしらったスチル満載で、見ていて飽きない。映画公開に便乗して刊行された本
なのであろう。孤島に潜む二人の脱獄犯の元に一人の女が迷い込んで、、という
登場人物を極限にまで削ぎ落としたフランスミステリらしい作品。海辺に建つ監獄
の雑居房に拷問を受けた二人の囚人が入獄する。暴行殺人を犯したガソリンスタンド
経営者フランクと、酔った勢いで殺人犯したトラック運転手アル。しかし、彼等は
お互いを「密偵(イヌ)!」と罵り合う。夫々の打ち明け話とは別のいわくが
ありそうな二人だったが大喧嘩の挙句、地獄のような地下独居房に入れられた
事から不思議な友情が生まれる。そして脱獄を図る二人。看守を殺害し、モーター
ボートで海上に逃げおおせたものの、銃撃戦の結果、フランクは顔に重傷を負う。
そして、逃避行の果てで彼等は一人の女と出会うのだが、、
圧倒的なリーダビリティーを誇る脱獄サスペンス。スリルとサスペンスとショック
の配分が素晴らしい。まさに「映画」である。翻訳本だけの趣向だとは思うのだ
が、14章それぞれに物語の一文が引用されており、目次を読むだけでどのような
話なのかはおよそ想像がついてしまう。しかし、それでいてなおかつ面白い。
終章のツイストには唖然とした。さながら、アニメ版の初期ルパン3世の世界で
ある。処女作離れした完成度の高さに酔う佳作といえよう。うーん、フランス・
ミステリはこうでなくっちゃね。



2000年1月25日(火)

◆昼休みにHMM最新号を買い出しに行く。年間ベスト号なので分厚い。1400円。
うう、雑誌の値段じゃねえぞ。エリザベス・デイリーの長篇「予期せぬ夜」の
3分載が始まる。この後には、ティだのセイヤーズが控えているらしい。「迷路」の
広告は載っておらんが、どうなったのかな?とまれ、クラシック・ファンの夜明けで
ある。やんや、やんや。次号はテレビ探偵・刑事特集である。コロンボの短編も
訳出されるらしい。凄い!そんなものがあったんだ!!名鑑もつくらしく絶対
永久保存版!!でも、ミステリ・チャンネルでしかやってないような作品を紹介して
加入促進に貢献しようというんじゃないだろうな?ああ、書いているうちにそんな
気がしてきたぞおお。
◆HMMを買った本屋は各社の解説目録を山と積んで「御自由に御持ち下さい」を
やっているお店なので、ハヤカワ文庫の昨年7月付けや、コバルト文庫、富士見書房
などを頂いてくる。創元は入手済みの昨年1月のものだったのでパスしたのだが、
その後出ていないのだろうか?うーむ。コバルト文庫・スーパーファンタジー文庫の
解説目録は、オールカラーですべて表紙絵付きという贅沢なもの。とても得した気分
になってしまった。これを無料で配るか、集英社?!エライぞ!!
◆橋詰女史に本代発送。
◆船橋定点観測
d「呪われた絵」Sマーロウ(角川書店:帯)150円
d「エンブリオ」Lシャルボーノ(番町書房イフNV:帯)200円
d「悪霊島(下)」横溝正史(角川文庫:映画帯)100円
d「出てこい!ユーレイ三兄弟」霜島ケイ(パンプキン文庫)100円
d「細い線」Eアタイア(早川ミステリ文庫)100円
d「ガードナー傑作選」(番町書房イフNV)100円
「ああ玉杯に花うけて」佐藤紅緑(講談社少年倶楽部文庫)100円
「マイナス・ゼロ」広瀬正(集英社文庫)100円
「呪われた絵」は所持本が裸本だったので、一気に帯付きが安価で入手できて
ハッピー。「エンブリオ」も帯に反応してしまう。むむむ。それを言うなら「悪霊島」
も映画表紙・帯のためだけに買ったようなもの。昔買った上巻がたまたま帯付き
だったので下巻も帯を狙っていたのだ。我ながら外道である。パンプキン文庫
の流れが向いてきたぞお。あんなに見なかったのになあ。既に3巻でダブりが
発生している状態。「マイナス・ゼロ」はダブリかもしれないが、とりあえず
100円なら惜しくないと買い。帰宅して本棚をざっと点検した結果「ツイス」を
河出版で、「タイムマシンの作り方」を文庫で発見。後3冊もダブリ覚悟で買うん
だろうな。今週中にケリをつけてしまおう。でないと、また何を持っているのか
わからなくなってしまう。
◆アクセスカウンター成田さんのところが3万目前、らじ丼のところが10万目前。
さあ、うちはいつ3万いけるかな?
◆ロビーさん、森さん、膳所さん用の本を梱包。明日出します。

◆「ショパンの告発」林芳輝(テクノス)読了
掲示板で話題沸騰の第27回江戸川乱歩賞最終候補作。この回の受賞作は長井彬
の『原子炉の蟹』。岡嶋二人の『あした天気にしておくれ』(傑作!!)が候補
に入っている。個人的には受賞作より岡嶋作品の方が好きなので、ひょっとする
とこの「音楽推理小説」もいい線行くかもしれないと思い期待しながら手にとった。
作者は「上野」出の作曲家。巻末の略歴に作曲目録が載っているのが「いかにも」
である。この作品は、作曲活動の合間に5年がかりで書き上げた作品だそうな。
こんなお話。
コンサートに現れなかったピアニスト宇留田は、翌朝、自宅で奇妙な死体となって
発見される。家は密室状態。身体の血を殆ど抜き取られたうえに千枚通しで心臓を
さされ、手にはシューマンのチェロの楽譜を掴んでいた。警察は、コンサートで
代役を務めた宇留賀の恋人松井露子が、その夜偶然ステージ衣装を持っていた事
から、彼女に疑惑の目を向ける。事件直後から姿を消した事から更に容疑は濃厚
となるのだが、そんな捜査陣を混乱させるかのように、殺された筈の宇留田が
現われ、「殺されたのは双子の弟である」と証言する。幼い頃に養子に出された
弟も宇留田同様ピアノの心得があったという。果して殺されたのは宇留田なのか?
弟なのか?更に、宇留田の家の家政婦が同じく失血死体で発見され、捜査は昏迷
を極める。宇留田の近所に住む音楽評論家:河田は、図らずも「過去の経験」を
見込まれて警察に協力する事となる。河田は関係者の過去を探る内に、その複雑
な人間関係に戦慄する。やがて、失踪していた露子が発見されるのだが、彼女の
証言は実に意外なものであった、、、
どうです、面白そうでしょ?
で、結論から申し上げます。「全然ダメ!」
プロットはぐちゃぐちゃ、密室トリックはお粗末なうえに必然性なし、ダイイング・
メッセージも「ご冗談でしょ」もの。探偵はそれなりに魅力なきにしもあらず
だけれど、変なところで勿体つけすぎ。どなたかがウェッブ上で書かれていたが、
よくぞ最終候補作に残ったものである、というのが素直な感想。作者の異色の
経歴とそれをもとにした音楽界の内幕が面白いと判断されたのであろうか?
確かに、楽典や作曲技法についての勉強にはなる。ショパンだの、シューマン
だのと言われてその楽曲が脳裏に浮かぶクラシックファンであれば、それなり
の楽しみようがあるのかもしれないが、ミステリマニアの朴念仁にとっては、
全編これトホホの連続。いやあ、落選してよかった。
どうぞ、葉山さん、お貸しします。送り先をご連絡下さい。


2000年1月24日(月)

◆うーむ、銀河通信のダイジマンさんに寝入りばなを叩き起こされてしまったら、
眠れなくなってしまった。仕方ないので夜更新だああ。
◆門前仲町・葛西定点観測
d「怪奇と幻想:第2巻」矢野浩三郎編(角川文庫)150円
d「影の姉妹」佐々木丸美(講談社)400円
「ダモクレス幻想」高井信(出版芸術社)300円
「パニックの手」Jキャロル(東京創元社)500円
「影の姉妹」は、探究おせっかい本。さあ、何冊拾える事やら。沿線の佐々木
丸美は大体刈り終わっているからなあ。「怪奇と幻想」は久しぶりに出会った。
殆どHMMに掲載されている筈だけど、なんとちゅうか表紙がオドロオドロしく
て、いいんだよね、このシリーズ。
◆帰宅するとぶこうさんから、本代が到着。おまけでぶこうさんの静物画の印刷
がついてきた。おお、やっぱりプロは上手いですのう。ちなみに今日ぶこうさん
が100円でゲットされたのは、「鉄路のオベリスト」CDキング(鮎川哲也訳)
でございましょう。やるねえ。

◆「煙の立つところ」Eマクベイン(ポケミス)読了
20年ものの積読本。アブリッジ版がHMMに掲載された時は、おお、マクベイン
の新たなシリーズが登場か!と色めきたったが、結局、この1作きりになって
しまった退職警部ベンジャミン・スモーク・シリーズ第1作。
20年以上勤め上げた警察を「退屈」の余り退職してしまったスモーク。年金
と父親の遺産で優雅に食いつなぎ、「不可能犯罪」に出くわす事を願っている彼の
元に馴染みの葬儀屋から事件が持ち込まれる。なんと、男の死体が盗まれたと
いうのだ。事件の珍妙さに惹かれたスモークが捜査に乗り出すと、その夜、街の
葬儀社が立て続けに押し入られた事が判明する。ところが翌朝になって、警察が
盗まれた死体を発見してしまい、一件落着。不完全燃焼のスモークであったが、
事件が解決してしまっては如何ともし難い。しかし女優志願の彼女と一夜をとも
にしている最中、今度は、別の葬儀社で従業員が殺害され、又しても死体が盗まれ
たという一報が昔の同僚から飛び込んでくる。現場の遺留品から、ある女性が
浮かび上がるが、彼女は自分をクレオパトラの生まれ変わりと信じていたので
あった。やがてスモークは、死体盗難の影に悪魔崇拝の儀式が関係している事
をつきとめるのだが、、、
1作で終わったのもむべなるかな、というお手軽はぐれ警部もの。解説では、
87分署を外から描いた作品と持ち上げていたが、この探偵では、読者の共感
は得られまい。「不可能犯罪」に憧れるあまり警察を退職し、私立探偵の真似事
をして優雅に暮す、というキャラクターに感情移入しろという方が無理である。
この主人公、退職記念にもらった警察バッジをフルに利用して聞き込みを行ったり、
昔の同僚のつてで殺人現場に乗り込んで、ちゃっかり情報をせしめたりする。これが
「富豪刑事」並みに常識を外れていれば、それなりに様になるのだが、そこまで
は行き着いておらず、さりとてミッチ・トビンのように影がある訳でもない。
探偵同様、ユーモアにも、シリアスにもなれなかった平凡作といえよう。
犯罪のプロットは、一工夫しており、当時流行のオカルトの味付けもあるのだが、
全編を覆うお手軽感を払拭するには至っていない。マクベインにも出来損ないは
ある、という意味で珍しい作品といえようか。


2000年1月23日(日)

◆朝から数通メールに返事。本の片付け。ぼんやり本を読んだり、K文庫さんへの
注文を書いたりしていると1日がとろりと過ぎていく。しかし久しぶりに手書き
でものを書くと実に可笑しい程間違える。間違っても後から直せばいいやあ、と
いうワープロの悪い癖が染み付いていて愕然とする。ごく普通の漢字も思い出せ
なかったりして、加速度的に頭が悪くなっていくのがしみじみとわかる。とほほ。
夕刻からは雨模様につき、食料の買い出し以外は外出せず「ジャイアント・ロボ」
など見て過ごす。昨日の日記に書いたら、らじ丼とよしださんからすかさず反応が
来たのには驚いた。少々設定が入り組んでいる割には派手なアクションと思わせ
ぶりの台詞で繋いでいくために、真剣に見てないと何が何だか判らなくなる。しかし
ここまで横山キャラを原作の味を残しつつしっかり動かしたアニメは始めて。
マーズとか鉄人28号(新作バージョン)とかは動いていたものの、横山キャラ
じゃなかったからね。呪われた動力源を持つジャイアント・ロボという設定も面白い。
さすが名作の誉れ高いアニメは違う。しかし、草間大作の声だけは、もっと達者な
女性声優に当ててほしかった。まあ、7話の内には上手くなるのかな?本当に久しぶり
にロボット・アニメを堪能致しました。これから1日1本見ていこうかな。

◆「変化獅子」横溝正史(産報NV)読了
さてさて、私がニフティの「横溝島」で名乗っている「山城屋五兵衛」の登場
する時代長篇。お恥ずかしい事に実はまだ未読だったのだ。挿し絵もついている
ので、ぱらぱら拾い読みするだけでキャラの性格ぐらいは掴める。詳しい顛末を
知らぬまま「山城屋五兵衛」を選んだのではあるが、どうも最後まで読んでみると、
あまり長生き出来るキャラクターではなかったようである。当時、うちの掲示板に
も時々書き込んでくれる「仰天の騎士」さんから「主役の獅子王寺多門でも、準主役
の幻之丞でもなく山城屋五兵衛を選ぶとは、渋すぎる!」とお褒め頂き喜んでいた
が、成る程、こりゃあ本当に渋すぎましたか。
訳あって勤めを辞した旗本小普請組の獅子王寺多門、房州漫遊からの帰途、「天神丸」
なる荷役船で、女役者の阪東小万と乗り合わせる事となる。船が江戸に近づいた時、
漂流する囚人筏に出くわしたのが、八千石の旗本の御家騒動につながる物語の始まり。
なんとその筏には、言葉を喋れぬ美少年が括り付けられていたのである。筆談で
「幻之丞」と記したその美少年の肩には、曰くありげな舞鶴の刺青。そのまま
幻之丞を自分の屋敷に引き取った多門は、少年の聡明さに驚くとともに、事件の
背後に良からぬ陰謀がある事を予感する。果して、芝居見物の帰り、暴漢に連れ
去られる幻之丞。その背後には、影法師を名乗る謎の侍がいたのであった。政商
山城屋五兵衛、多門の義理の母:天松院、怪しげな術を使う祈祷師:白蓮坊など
怪人、毒婦入り乱れての幻之丞争奪戦の幕は切って落された!
「一発ネタの時代長篇」。大伝奇「神変稲妻車」あたりの波瀾万丈ぶりに比べると
少々パワー不足であり、ごくありきたりの時代劇といった印象の作品である。舞台
が江戸に限られており、登場人物も催眠術を使う程度。しかも映像ならば大いに
見せ場となる筈の活劇シーンとなると、作者は筆を惜しんでか、さっさと場面を
切り替えて、伝聞で顛末を語るものだから今ひとつ盛り上がりにも欠ける。ただ
ひとつ大仕掛けなトリックがあるものの、それも中盤でネタを割ってしまっており
構成としていかがなものかと首を傾げざるを得ない。横溝マニアとして、出だし
の漂流筏や幻之丞の設定に「仮面劇場」との相似をみたり、白蓮坊に「迷路の
花嫁」や「女王蜂」でお馴染みの<妖しい祈祷師>の影を楽しむ作品かもしれない。
マニアしか読まないであろうが、それでも無理して探し回るほどの本ではない。
ところで山城屋五兵衛であるが、全編に渡って大活躍!操るつもりが操られという
ところが何とも可愛い。「横溝島」の山城屋としては、満足満足でありました。


2000年1月22日(土)

◆新春落穂ツアー第2話「浦和伊勢丹枯野之落穂編」
さてさて、起きたら8時だよ。日記の更新とレスつけをサボって、のそのそと
浦和へゴー!!完全に浦和と川口を記憶違いしていて、あれれ?ここでよかったん
だっけ、と不安モード。おまけに古本市の垂れ幕もなし。ややや、と益々不安が
募るが、エスカレーターの途中に告知ポスターを見つけてほっと一息。
会場はさすがに空いていて、悠々と見て回れる。初日に黒い三連星が攫っていった
とおぼしき例の本屋の棚には残り香すらもない。何も知らなければ、知らないで
済んでしまうのだが、一旦知ると辛いものがありますのう。春陽文庫なんて欠片
も見当たらんではないか。とほほ。
膳所さんとよしださんが話題にしていた通り、早川NVは帯付きがお安い値段で
結構な品揃え。ポケミスは「真昼の翳」の映画カバーに一瞬心が動くが踏みとど
まる。HMMの美味しいところもあったが、荷物になるのでパス。文庫はそれなり
に充実しているが、如何せん高い値付けのものしか残っていない。さりとて高い
電車賃かけて来たんだし、と拾ったのはこの辺り。
「足のある死体/会議」別役実(三一書房)100円
「日本SF原点への招待2」(講談社)500円
「愛しのワンダーランド」野田昌宏(早川書房:帯)500円
「異聞霧隠才蔵」中田耕治(東都ミステリ)500円
「トパーズ」Lユリス(集英社:帯)300円
「努力して産業スパイに成功する法」Sミード(早川NV)300円
d「EQ 32号」(光文社)100円(「苦いパテ」収録)
「スクリーン 外国映画・テレビ大鑑」(近代映画社)1200円
ああ、これは詰まらん。詰まらんぞお!!溜まったフラストレーションが爆発
してしまい、会場の外で売っていた中古ビデオを発作買い。

「ジャイアント・ロボ Episode1−7」(バンダイ)6980円!!

あーあ、やっちまったぜ。自分を誤魔化すために、伊勢丹の書籍コーナーで
猛烈に読みたくなっていた、この本を買う

「だって、欲しいんだもん!」中村うさぎ(角川文庫)460円

オチがついたところで、天やで腹ごしらえして浦和脱出。往路で見つけた蕨駅前
の古本屋に寄る。おお、児童ものから、海外純文学まで、なんとも素敵な品揃え
ではないか。これは、とても安らぐ。自分の興味の対象外でも、きちんとした古本
屋はそれと判るものである。挨拶替わりに、昨日からの話題の叢書を1冊拾う。
「ラスト・タンゴはパリで」Rアーレイ(角川海外ベストセラーズ)400円
さあ、次は埼京線で新宿だあ!

◆新春落穂ツアー第3話「新宿小田急焦土之落穂編」
いつ来ても人の多い街だね、と人込みに押されながら大荷物を抱えて小田急へ。
最初から「当たり」情報を聞いていなかったので、全く期待はしてなかったが、
これほど何もないと笑っちゃうね。ポケミスは3棚分くらいあったが、既に死に体。
何冊か別冊宝石のいいところ(フィルポッツ、ブレイク)などもあったが、千円
では、探究依頼でも受けていない事には手を出せない。別項にして起こすほどの
事はなかったかな。まあ、皆さんに聞くまでは開催されることすら知らなかった
のだから、こんなものでしょうね。拾ったのは次の2冊。
「ウイアード・テールズ:別巻」(国書刊行会)1200円
「『衝突する宇宙』以後」福島正実(大陸書房)1000円
ウイアード・テールズは、昨年末に落穂舎で買ったものが別巻欠けだったので
これでコンプリート。ふふふ、結構安く上がったぜ。定価の6掛け。昨日の東急
じゃあ、6巻セットで2万円だったもんね。
福島正実は、出ている事すら知らなかった本。全てSFM掲載のエッセイなので、
持っている筈は筈だが、やはり「福島正実の本」となると押さえたくなる。
それにしても、ここまでの本日の買い物を見て、一体どこがミステリサイトや
ねん!?って感じですのう。参ったね、こりゃあ。
そそくさと人でごった返す新宿を抜け出し、東西線で帰途につくため高田馬場へ
向かう。

◆定点観測「早稲田古書店街血風編」
でも、とりあえずブックオフは覗かないと、と大荷物のまま高田馬場北店へ。
入るなりチャイムが鳴って店員がすっ飛んで来る。どうやら「ジャイアント・
ロボ」の盗難防止シールに反応した模様。なるほど、持ち込んでも鳴るんだ。
先ず百円均一棚にチェックを入れると光風社の15年前の神津恭介シリーズが
ずらり。ああ、本当に欲しいのは「幽霊の血」収録の「罪なき罪人」だけなんだ
けどなあ、まあ百円じゃあしょうがない、とあるだけ買う。
d「悪魔の嘲笑」高木彬光(光風社)100円
d「白魔の歌」高木彬光(光風社)100円
d「魔弾の射手」高木彬光(光風社)100円
d「影なき女」高木彬光(光風社)100円
d「出獄」高木彬光(光風社)100円
d「幽霊の血」高木彬光(光風社)100円
店内を見て回るが、結局買い物はこれだけ。さあ、帰りましょうかと思って駅
に向かうが「久しぶりに明るい内に早稲田古書店街に行けるんだけどなあ」と
悪魔の囁き。既に、両手もリュックも一杯である。さあ、どうする、自分?
一瞬の葛藤、そして「強いぞ、悪魔」。コインロッカーに荷物を入れて、まあ
見て回るだけだからさあ、と2ヶ月ぶりの古書街探訪。釣果は以下の通り
d「愛しても、獣」山田正紀(双葉社:帯破れ)350円
「石の森」樹下太郎(東都ミステリ)400円
「あぶない学園大さわぎ」森奈津子(レモン文庫)150円
「東京ゲリラ戦線」藤本泉(三一書房)300円
「両惑星物語」Kラスヴィッツ(早川SFシリーズ)500円
「トム・スイフトの宇宙冒険2:木星の月」エイプルトン(サンリオ)500円
「明治巌窟王」村雨退二郎(講談社)1000円
「生きていた火星人」シルヴァーバーグ(あかね書房:函)100円
d「殺人者はへまをする」FWクロフツ(創元推理文庫)100円
d「ターザンの復讐」ERバローズ(早川SF文庫)100円
d「ターザンとアトランティスの秘宝」ERバローズ(早川SF文庫)100円
d「ターザンと蟻人間」ERバローズ(早川SF文庫)100円
d「ターザンの双生児」ERバローズ(早川SF文庫)100円
d「ターザンの狂人」ERバローズ(早川SF文庫)100円
「The Stone God Awakens」 P.J.Farmer(Granada)100円
「Lord Tyqer」 P.J.Farmer(Panther)100円
「Traitor to the Lying」P.J.Farmer(Panther)100円
「Time's Last Gift」P.J.Farmer(Berkley)100円
「Night of Light」P.J.Farmer(Signet)100円
「The Seven Sexes」William Tenn(Delrey)100円
「Starshine」Theodore Sturgeon(Pyramid)100円
「A Way Home」 Theodore Sturgeon(Pyramid)100円
わっはっは、また両手がふさがってしもうたわい。
山田正紀は、探究おせっかい本ふたたび。探究残り3冊中ではこれが一番手強い
と思っていたのだが、見つかる時には見つかるものだ。森奈津子1歩前進。
樹下太郎、藤本泉ともにこの値段だったら買いでしょう。「明治巌窟王」は題名に
惹かれて買ってしまう。以上、往路。
復路で異常にお買い得SFにぶつかる。ターザンは昨日、東急で「暴力価格」を
目の当たりにしていた反動。ああ、手が、手が勝手に、本を掴んでしまう。
とどめは、小型の書棚1本分のSFのペーパーバック。オール100円!!
まあ、既訳の作品も多かったのだが、とにかく安い。じっくり蹲踞の姿勢で顔を
横に倒して書名を確認していく。ファーマーを中心に、スタージョン、テンを
拾う。読めるのか、こんなもの?
というわけで、例の定理は本日も立証されてしまったのであった。
「たまの市より、こまめな定点観測」
以上、今日の買い物!!最早、私に「中村うさぎ」を笑う資格はない。

◆殺人的な荷物を持ってひいこら帰宅すると、おーかわさんと膳所さんからの
交換本が到着していた。
「ユーレイ事務所の鍵貸します」あおい飛咲(パンプキン文庫)交換
「ショパンの告発」林芳輝(テクノスNV)交換
おーかわさんはダブってもいない本を回してくれた。まあ、こちらの山の中から
好きな本を選んでくれい。とにかくこれで縁なきものと諦めていたソノラマ・
パンプキン文庫が、あれよあれよとM2。先日も書いた通り小野不由美の2冊は
既に加筆版がX文庫入りしているので、実質的にはこれで上がり。まこと流れ
とは恐ろしいものである。「ショパンの告発」は第27回乱歩賞最終候補作。
膳所さんが東北で掘り出してこられた地方出版社のノベルズ。先週、小林文庫の
オフ会で戸田・葉山の謎宮会コンビが話題にしていた作品。さて、どのような
話なのであろうか?「本格音楽推理小説」なのだそうだ。ワクワク。

◆「出てこい!ユーレイ三兄弟」霜島ケイ(パンプキン文庫)読了
パンプキン文庫初体験。何故にこの作品か?というと、番号が若いからである。
1番の小野不由美に続いて、この作品が整理番号「2」なのである。実に巡り
合わせというものは不思議なもので、第一印象が大切というのは何も獅子内俊次
を例に引くまでもなく、なべてこの世の真実の一つである。で、結論から申し上
げれば、私はパンプキン文庫と非常に幸運な出会いができた。この作品は良い!
霊能師の娘に生まれ自分自身も霊能力に恵まれた主人公の女子高生が、転校する
ところから物語は始まる。父親の商売柄、一所に落ち着けない宿命を背負わされ
た彼女は、転校の度に、今度こそは長居が出来ますようにと祈るのだが、、、
転校早々の遅刻、苛めっ子グループの遭遇、学校一のハンサムとのファースト・
エンカウント、そして、早速出来た友人たちは彼女の住まいを聞いて慌てる。
家に戻った彼女は、引越し以来感じていた何物かの存在を強烈に意識する事と
なる。やがて、その家が交通事故死した兄弟が化けてでる訳ありのお化け屋敷
である事が判明するのだが、したたかな父親は、3兄弟の幽霊に同居を持ち掛ける
のであった!!
思春期の乙女心の葛藤を軸として描かれるオカルティックな青春冒険ロマコメ。
しかも、この作品が偉いのは、タイプの異なる男の子の心もきちんと表現して
いるところである。沈着冷静な長男、偽悪的な次男、やんちゃだけど素直な三男、
ここまでならば、ステロタイプとの謗りを免れないところを、主人公が心を寄せる
学園のヒーローの成長を絡ませる事でキャラクターに厚みを持たせた。更に、
単なる恋愛ものに止めず、オカルト冒険ものとしてのプロットも骨太に展開して
みせる。大いに結構!!加えて、イラストの絵柄が無茶苦茶可愛い。先日読了した
野原某のお手軽「媚薬」ものとは志が違う。この作者の他の作品も追ってみようか
と思わせる出来栄えに拍手。少女字漫画として過不足なし。


2000年1月21日(金)

◆4冊の本を4人の方宛に発送。ふう、これで義理が果たせる。
◆新春落穂ツアー第1話「渋谷東急東横初日之落穂編」
ご接待する筈が空振り。これも巡り合わせと、諦めていたデパート展行きを決意。
初日なのでそれなりのブツが残されているかと思い3店の内から「渋谷東急」を
選んでみる。会場には、コート姿のサラリーマンが多い。のんびりと見て回ると
ほう、鷲尾三郎「地獄の罠」カバー付き2500円。うん、持ってなきゃ買い
ですがのう。絶版文庫コーナーにはそれなりのお値段の本が居並ぶ。目の前で抱え
きれない程のサンリオSFを攫っていった人がいる。残されたものの値段を確認
すると1冊千円。なるほどね、これなら買いでしょう。1ヶ月ぶりのデパート展
なので、空気を楽しんでしまう。ショーケースの中は、昨年末の新宿伊勢丹の物が
そのまま引っ越してきたような内容。創元推理コーナー1冊2000円にめげる。
東京創元社は、早く合本を出版して、こういう商売を成敗して頂きたい。
まあ、「折角来たのだから」と拾ったのは、こんなところ。
d「かりそめの死」(リーダーズ・ダイジェスト)1000円
「裸のランナー」Fクリフォード(早川NV)500円
「熱砂の渇き」西東登(講談社:帯)500円
d「誘拐作戦」都筑道夫(講談社)500円
「日がわり一話:第2集」眉村卓(出版芸術社:帯)500円
d「すりかわった女」ボワロー&ナルスジャック(ポケミス)300円
「消えた超人」高原弘吉(春陽文庫)500円
「秘密日記」Lハーディー(久保書店QTブックス)500円
「かりそめの死」には、昨年オカルト・ミステリマニアを喜ばせたギャリコの
「幽霊が多すぎる」の名探偵アレグザンダー・ヒーローものの第2作「メリーの
手型」が入っているのだ。さんざんここで宣伝したつもりでも、売れ残っている
ものだなあ。もう一度いいます。この本は、見つけたら「買い」です。
「誘拐作戦」は、絶版文庫の値段で初版が買えるのであれば、という事で拾う。
真鍋博の装丁が嬉しいところ。
「秘密日記」は、勢いで買ってしまう。叢書の珍しさだけで買った本って一体
いつ読むのだろうか?
閉店間際のキャッシャーは大行列。支払いをすませて、次回カタログの送付を
頼んで引き上げる。結局誰とも会わずじまい。

◆定点観測「南砂町微温湯之均一棚編」
「ううむ、少し食い足りないなあ」と、よしださんの顰にならい、途中下車して
馴染みの店を攻める。一点だけ、B級血風。
d「シナリオ獄門島」横溝正史・清水邦夫(角川文庫:帯)150円
「死のある風景」鮎川哲也(角川文庫)230円
「偽りの報酬」井上淳(角川書店:帯)1200円
「行き場のない女」Aフース(角川文庫)50円
d「五番目のコード」DMディヴァイン(教養文庫)50円
d「兄の殺人者」DMディヴァイン(教養文庫)50円
「シナリオ獄門島」の帯付きを安価で買ったのは初めてかな?間違っても再刊
されない本だけに、少し嬉しい。景品にでも使うべえ。
ディヴァインが均一棚にあると救済したくなる。あと10年後には、マニアが
このあたりのミステリボックスの効き目を求めて阿鼻叫喚の地獄になると思うの
だが、さて?
井上淳は大病後は、戦記ものでリハビリしていたようだが、やっとまとまった
仕事をしてくれたようだ。何故か、デビュー当時からこの人の話だけは真面目に
読んでいる。うーむ、去年の8月の出版だったのかあ。本屋で買わなくてゴメン
なさいまし。

◆「熱砂の渇き」西東登(講談社)読了
乱歩賞作家書下ろしシリーズ、と銘打って十冊近く出版された叢書の1冊。森村
誠一の初期代表作「密閉山脈」(傑作!)や、仁木悦子の後期作「冷え切った街」
(これも傑作!)、陳舜臣の「北京悠々館」(おお、これも名作じゃ)が並んで
おり大いに期待できそうである。と、いう訳で渋谷からの帰りに早速手に取ってみた。
プロローグ、アフリカを舞台にした商社マンの不安が描かれる。自分にそっくりの
日本人につけ狙われている事を悟った男は鞄に潜ませた護身用拳銃に思いを馳せる
のだが、、本編に入ると舞台は東京、平凡な商社部長の変死が語られる。広大な
敷地を誇る動物園の丘陵で、男の死体が発見される。死因は胸部の圧迫、だが
いかなる手段を用いたのかが判明しない。捜査は、身元の確認以降、被害者が
弁護士事務所を騙った偽の手紙で呼び出された事が判明した以外一切進展せず、
1ヶ月が過ぎようとしていた。
その頃、下品な企画記事で部数を伸ばしていた夕刊トーキョーに、アフリカ帰りの
奇人がとある企画を持ち込んでいた。ダチョウを用いた賭博レースを、大会場で
実施しようというのだ。既にそのためのダチョウ40羽が海路アフリカからの途上
にあるという。直近の企画で失態を演じていた編集長は周囲の心配を振りきりこの
企画に飛びつく。若手記者が、その編集長の過去と最近アフリカで起こった邦人
行方不明事件に接点を見出したとき、新たな殺人が、、
「奇想が封じられた時代の生んだ失敗作」、これに尽きる。「社会派にあらずんば
推理小説にあらず」という時代のテーゼと作者の生真面目な性格が、この作品を
なんとも珍妙な失敗作にしてしまった。この作品の解説を任された中島河太郎師は、
さぞや苦労された事であろう。登場する人物たちは、それなりに存在感があり、
動機も「現代風俗」のアレンジが施されている。しかし、犯罪部分の奇想との
落差はいかんともし難い。その不自然さのあまり、作者は物語の半ばを過ぎた
ところで犯人を明かしてしまう事となる。仮に後30年早いか遅いかすれば、
小味ながらも作者の趣味が活きた「とんでもミステリ」に化けたのではないか
と思うと残念でならない。忘れられた作家の忘れられた奇想に合掌。