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2000年1月20日(木)

◆今日の浦和伊勢丹は掘り出し物がてんこ盛りだった模様。羨ましい事このうえ
なし。まあ、彩古さんに女王様に森さんだ。日本を代表する最強のトリオかも。
うーん、ゴジラ対モスラ対キングギドラって感じ?おーかわさんの日記に目撃談
がございます。早朝会議と就業後の動員出張という最低最悪のスケジュールの
ため、今回も参戦できず。あんぎゃーー(吠える、ガメラ?)
◆夕方出張の間隙をついて神保町スピードチェック。
「刑事スタスキー&ハッチ ボスが消えた日」Mフランクリン(三笠NV)500円
「刑事スタスキー&ハッチ マリファナ・デートの裏の裏」Mフランクリン(三笠NV)500円
「The Dead Man's Knock」J.D.Carr(Bantam)150円
「Night at the Vulcan」Ngaio Marsh(Signet)200円
スタ・ハチはこれまで縁遠かった三笠NV。よし!!この叢書はあと2冊の筈。
カーとマーシュはそれぞれカバーアートでフェル博士とアレイン警視をあしらって
いてご機嫌。ちょっとご機嫌ぶりを見ていただきましょう。こんな感じ。



◆帰宅すると橋詰さんの荷が届いていた。ワタクシ的には筑波耕一郎とロラックの

落選が残念、うーん。でもホルトンとレムがあったのは嬉しい。こんなところ。
d「真説 金田一耕助」横溝正史(角川文庫:初版:帯)500円
「日本SFこてん古典2」横田順彌(集英社文庫)600円
「生命への回帰」Rシルバーバーグ(日本文芸社)2000円
「怪奇の創造:城昌幸傑作集」星新一編(実業之日本社:帯)2000円
「宇宙船ピルクス物語」Sレム(早川海外SFNV)3000円
「悪霊に魅入られた女」JBバーテル(平安KK)500円
「時間をさかのぼって」Mラングル(サンリオ)1000円
「Death in the Stocks」G.Heyer(Pantyer)500円
「Green Thoughts」John Collier(Armed Service Ed)1000円
「Secret of the Doubting Saint」Leonard Holton(Dell)500円
「Swing Low,Swing Dead」F.Gruber(Belmont)500円
角川横溝初版クエスト本当に久しぶりに一歩前進。これまで定価以上の買い物は
なかったのだが、禁を破る。M6。さあ、後は金で解決していくかな。
「こてん古典」やっと文庫が揃った。レムも縁遠かった作品。このシリーズは
後は掲示板で話題の「プリズマテイカ」だけど、あれって3割は「エンパイア・
スター」だしなあ。浦和伊勢丹の「血風情報」がなければそれなりに満足な収穫
だが、うーむ、いかんいかん、上を見れば限りない。
◆せっせと本を荷造り。膳所さん、KIYOKA−CHAN、黒白さん、溝口さん、
明日送りますので、少々お待ちを。

◆「屍島」霞流一(ハルキ文庫)読了
奇蹟鑑定人ファイルの第2作。なんと文庫オリジナル。こういう出版形態は嬉しい
ところ。どうもハルキNVは文庫落ちが早すぎるのが嫌気だったのだが、そうか
そう来たか。内容は、前作の「馬」に続いて「鹿」をモチーフにしたカスミ流の
「獄門島」。馬と鹿の特徴を備えた「馬鹿」の目撃談に誘われ「鹿羽島」を訪れた
鑑定人ペアを奇矯な芸術家集団と観光振興に血道を上げる島民が待ち受ける。
「裏の四十七士」伝説が眠る島で、マッド・サイエンティストは百舌鳥の贄の如く
樹の天辺に串刺しにされ、郷土史家の娘は左腕と左脚を食いちぎられた死体となって
発見される。犬は酔っ払って海に落ち、鑑定人たちは島の料理に舌鼓を打つ。
ドタバタ劇の果てに彼等が見た真実とは?寒いジョークの連続が瀬戸内の島に
死を招く!!
今や日本バカミス界を理論と実践両面で支える斯界の重鎮、霞流一。この作品
でも、サービス精神旺盛に、奇人変人の群を創造し、不可能状況を演出してみ
せてくれる。謎の解体は、最後の殺人の演出を除いてはまずまず納得のいくもの。
例によって、食いしん坊万歳!な幕間劇も「食」に対する作者の執念を伝えていて
吉。「馬鹿」騒ぎの顛末も、論理的に説明したうえで、更に笑撃の結末を準備
していて、「さすが霞流一!」と唸らせる。
徒に重厚長大路線に走る作家の多い中で、この短さは却って「贅沢」である。
初期のペリー・メイスンの如き次回予告(次は屏風絵から抜け出し口から火を
はく鶏だそうである)も堂にいったものである。バカミス界のデファクト・
スタンダードの活躍に今後とも期待したい。ワタクシ的には佳作。乞、ご一読。


2000年1月19日(水)

◆本日からデパート古書市が3日連続で初日。一切参戦出来ず。まあ、皆さん
頑張って下さい。東急東横ぐらいは参戦したかったが、これもまた巡り合わせ
である。ネットに入るまでは、デパート古書市など「ああ、やってるなあ」程度
の存在だったのになあ。なんなのだ、この凄く損した気分は?
◆残業で小田急への落穂拾いもままならず。ちょっと、会社の近所を覗いて帰る。
d「真っ赤な子犬」日影丈吉(徳間文庫:帯)100円
d「片道切符」Gシムノン(集英社文庫)150円
「おぞけ」(祥伝社文庫)350円
「屍島」霞流一(ハルキ文庫)350円
うーん、病気でお祭に行けず、遠くの花火の音を寝床で聞いている、という収穫
じゃのう。
◆帰宅すると、お見舞い、じゃなくて交換本とか頂きものとかが若干到着。
早見網元から、
「修学旅行は終わらない」秋月達郎(ソノラマパンプキン文庫)交換
d「もののけウォーズが町に来る」あおい飛咲(ソノラマパンプキン文庫)交換
「魔少女の夏」内藤まこ(ケイブンシャ・コスモティーンズ)交換
「じゅーんぶらいど宣言」水月まりん(ケイブンシャ・コスモティーンズ)交換
Picaさんから
「小説 超人ロック<魔女の世紀>」聖悠紀・金春智子(少年画報社)頂きもの
ソノラマ・パンプキン文庫がサクサク進む。一旦、手に入り出すと勢いとは恐ろしい
ものである。おまけに「ユーレイ事務所〜」もさるお方から回してもらえそうなの
で残すところは、既にX文庫で復活している小野不由美の2冊のみ。「読めれば
いいやあ」派のワタクシ的には、もう終わったようなものである。金春本はそう言えば
昔、本屋で見た覚えがある。妙に懐かしい。というわけで、早見さん、Picaさん、
ありがとうございました。
◆えぐちさんに本を発送。GAKUさん、溝口さんから本代到着。

◆「真実の問題」Hブリーン(ポケミス)読了
掲示板で話題が盛り上がっているブリーンの作風一転の「意欲作」。レギュラー
探偵や不可能趣味から脱して、オー・ヘンリー的戯作の基本に帰ったプロットが
「小説読み」の心をくすぐる。警察小説であり、裁判小説であり、恋愛小説で
あり、アクション小説であり、成長小説であり、推理小説である。主人公は殉職
した父親のあとを継いで警察官になった新米刑事。彼が、最初に出くわした大きな
ヤマで人生を左右する決断を迫られる事になる。強盗殺人のホンボシと思われる
被疑者を前にして、引退間近のうだつのあがらない先輩刑事は主人公にある相談を
持ち掛ける。一躍ヒーローとなった彼等だが、主人公の心は晴れない。捜査の
過程で出会った二人の女性の間で揺れる心、愛はある惑いを打ち砕くが、それは
新たな魂の煉獄への入り口。「真実」の試しはやがて主人公にある決意を促す。
驚愕の真相と、ハートウォーミングな結末が読者の共感を呼ぶ問題作!
結論から言えば悪くない。低予算ながらもよく練った脚本で楽しませてくれる米映画
といった印象。解説にもある通り実話作家というブリーンの本職が生きた佳作と
いえよう。いかにも作り物めいた初期作とは打って変わって、「隣の警察官」の
心の有り様を書き込む作者の筆はさながら「水を得た魚」の如く澱みなく、読者
を作品世界に誘う。推理小説として見た場合も、それなりのツイストを利かせ、
律義な伏線もあり、心理的ミス・ディレクションもある。ただ、オーヘンリーならば、
同じプロットで30枚程度の短編に仕上げただろうな、と感じなくもない。その
意味では、カーの出来損ないといわれる初期作よりも「あざとい」と感じる読者も
いるかもしれない。人生の比較的若い時期に出会って恋愛小説として楽しむのが
最も幸せな作品なのかも。個人的には「生きている痕跡」のベスト・オブ・ハバート・
ブリーンという評価を覆すには至らなかった。


2000年1月18日(火)

◆新京成定点観測
「地底のエルドラド」Wスミス(創元推理文庫)250円
d「1ダースまであとひとつ」山田正紀(光風社)600円
「詐欺同盟」Lサンダース(早川書房:帯)100円
「赤外線男」海野十三(春陽文庫)350円
「青蜥蜴」横溝正史(双葉社:帯)1000円
「悪戯の楽しみ」Aアレー(出帆社:帯)400円
d「快男児押川春浪」横田順彌・会津信吾(徳間文庫)220円
d「鷺娘−京の闇舞」菅浩江(コバルト文庫)180円
というわけで、またしても山田正紀は探究おせっかい本。後はたいしたものなし。
「青蜥蜴」は出版当初は見向きもしなかったが、本屋でみかけなくなってくると
「やはり、押さえておいた方がいいかな?」という虫が騒ぎ出す。エッセイ程度
しか見るべきものがないような気がするのだが、さて?
◆帰宅すると、黒白さんの3000アクセス記念プレゼントが到着していた。
「読切倶楽部」昭和34年7月号(三世社)
「特集大衆小説」第8号(双葉社)
無茶苦茶渋い。妖しい事このうえなし。よくもこういった本を古本屋で見掛けて
買おうという気になるものだ。恐るべし、暗黒の鉄人!!ありがとうございます。

◆「殺人者なき六つの殺人」Pボアロー(講談社文庫)読了
まだ作者がナルスジャックとコンビを組む前、ガチガチの本格推理作家であった頃
の1939年作品。まあ、たいした話ではあるまいと思っていたのだが、一読驚嘆。
まさに密室殺人オンパレード!最初の殺人はマンションの4階で実業家夫婦が銃で
撃たれたが、管理人たちが駆けつけた時には、内側から施錠されたフラットから犯人
は消え失せていたというもの。次は、廊下を警官が見張る中、誰もいなかった筈の
部屋からその家の女中が射殺されていたのが発見される。更に実業家の別荘では、
これも厳重に施錠された一室で女中の夫である召使いが射殺され、引き続き実業家
の友人である弁護士が毒殺未遂に会う。更に、事件を追う名探偵を嘲笑うかのように、
三ヶ所の入り口を夫々見張られていた館の中で、事件の鍵を握る脅迫者が同じ銃で
射殺された!勿論、探偵達が館に突入した時には、殺人者の姿はどこにもなかった
のである!!
チーム結成後の「技師は数字を愛しすぎた」に一脈通じる離れ業の連続に素直に
拍手を贈りたくなる逸品。最後まで不可能状況にこだわりつづける作者の執念に
は脱帽せざるを得ない。一つ一つのトリックそのものには、新味はないが、なぜ
密室状況にせざるを得なかったかという謎の解体は、まさに論理のアクロバット。
いかにも名探偵然とした主役アンドレ・ブリュネルの「それ故に」推理法と最後の
事件に至るまでの苦悩ぶりは、彼がホームズやクイーンの正嫡である事を証明する。
すれっからしのトリック至上主義者からはあまり高い評価は得られないかもしれ
ないが、読んで納得の行くプロットで6つの不可能犯罪を紡ぎあげた作者の力量は
さすがに後年あるを思わせる。フランスにも戦前までは、ガチガチの不可能ミステリ
があった事を確認するには最適の作品。本屋にはないものの、古本屋では比較的入手
しやすい部類の本なので、密室系の方々は是非ご一読を。


2000年1月17日(月)

◆会社にいってから夜の会合があった事に気が付く。しかも2次会にまで行って
しまい、どこにも寄れずじまい。とほほ。
◆K文庫のカタログが到着。うーむ、安い!思わず笑ってしまう。文生堂の値付け
に慣れた身からするとタダ同然である。今回から参戦しますので、皆さんヨロシク。
◆それにひきかえ、ヤフー・オークション。京極夏彦10冊12万円って何?
「この世には不思議な事などない」とは言えんですのう。憑き物落しの古本屋は
おらんのか?

◆「異次元カフェテラス」松尾由美(アルゴ文庫)読了
さて時代はアルゴ文庫である。光風社というマイナー出版社が4冊きり世に送って
休止してしまった幻の叢書で一番古書価がつきそうなのが、この才媛の処女長篇。
了子、エマ、和明の3人は、ロックのメロディが絶えず流れる喫茶店「EASY」
の常連。そのマスターは、日変りで劇的に曲想と服装をチェンジする物静かな人物
だが、客用の卵を茹でたまま半日失踪するといいた不思議なところもあったりする。
ある日、もと剣道の先生、草野球のキャッチャー、「紙一重的」雰囲気の科学者など
多彩な他の常連客に混じって、謎めいた美女レイチェルが現れ、学校一の美少女
であるエマに賭けを挑んでくる。レイチェルは、エマに「月の女神」を見たとし、
「かぐや姫」同様3つの欲しいものを持ってくれば自分の願いをかなえて欲しい
と言う。エマは大胆にもこの賭けを受け、「人気高校生ピッチャーのサイン色紙」
「閉店した喫茶店にあった人形」「しわもたるみも縫い目もない銀のサテンの手袋」
を注文する。絶対に無理だとタカをくくっていた了子と和明であったが、レイチェル
が、壊れて捨てられた筈の人形を探し出して来るに至ってパニックする。果して、
3つ目の「科学的に不可能な」願いも叶ってしまうのであろうか?
創生期から80年代に至るロックの名曲が至るところに引用されたノスタルジック
な不思議小説。「悪魔との契約」ネタをアレンジしたリーダビリティーの高さは
ヤング・アダルトとして及第点。物語の語り手である了子の普通ぶりが心地よい。
さすがに習作的な雰囲気は残るものの脇役のキャラ造形などはツボを押さえて
おり、安心して読めた。必死になって探す程の作品ではないものの、SF者なら
渉猟時には、ちょっと心の隅にとめておかれてはいかがか。
瑣末な話なのだが、イラストが湯田伸子だったのには驚く。かつてお茶漫の機関誌
「ばるぼら」は、ふーみんこと紫門ふみとユダちゃんこと湯田伸子が2枚看板だった
んだよね。つまり松尾由美は学校の先輩にイラストを描いてもらったんだなあ、
ふむふむ、と妙なところで納得してしまった次第。余談でした。


2000年1月16日(日)

◆オフ会のレポートをまとめて、昼飯を食べに津田沼に向かい、そのままふらふらと
新京成定点観測の旅に出る。
五香ではさしたる収穫なし。
「世界怪談名作集(上)」岡本綺堂編(河出文庫)100円
「深海怪物の饗宴」戸川昌子(徳間文庫)100円
「ブラック・ハネムーン」戸川昌子(双葉文庫)100円
「あいつがフィアンセだ!」野原野枝実(MOE文庫)100円
引き続き、鎌ヶ谷大仏へ。ここでどっかーんとお買い物。
「マリアごろし異人館の字謎」多島斗志之(講談社)100円
d「ある詩人への挽歌」Mイネス(教養文庫)100円
d「バルタザールの風変わりな毎日」Mルブラン(創元推理文庫)100円
「お客様はエイリアン」大場惑(実業之日本社NV)100円
d「美しい蠍たち」山田正紀(徳間NV)100円
d「顔のない告発者」Bペルマン(創元推理文庫)100円
「ルームメイト薫くん2」野原野枝実(偕成社)100円
d「その子を殺すな」Nカレフ(創元推理文庫)100円
d「プラークの大学生」HHエーヴェルス(創元推理文庫)100円
「夏至の魔法」神宮輝夫編(講談社文庫)100円
d「13人の鬼あそび」Dホイートリー編(ソノラマ文庫海外)100円
d「神の遺書」Dホイートリー編(ソノラマ文庫海外)100円
「世界SF全集5」ワイリー、ライト(早川書房:函・帯・月報)100円
「世界SF全集11」ハミルトン、ラインスター(早川書房:函・帯・月報)100円
「世界SF全集24」ゴール、グロモワ、ストルガツキー(早川書房:函・帯・月報)100円
「世界SF全集25」バルジャベル、フリック、フランケ(早川書房:函・帯・月報)100円
「世界SF全集31/世界のSF(古典編)」(早川書房:函・月報)100円
「世界SF全集32/世界のSF(現代編)」(早川書房:函・帯・月報)100円
「世界SF全集33/世界のSF(ソ連・東欧編)」(早川書房:函・月報)100円
ぴかぴかの世界SF全集がズラリ。ううう、重い!!う、腕がちぎれそうだよう。
しかし、このコンディションの良さと安さには抗い難いものがある。買うしかない!!
あとは、久しぶりにソノラマ文庫海外が安値で入手できてハッピー・ラッキー。
通常ならこれで引き上げるところだが、波が来ている手応えに、もう少し頑張ってみる。
高根木戸下車。ここで、荷物をコインロッカーにぶち込んで、仕切り直し。
「幽霊屋敷の魔炎」樋口明雄(ソノラマ文庫)100円
「出てこい!ユーレイ三兄弟」霜島ケイ(ソノラマ・パンプキン文庫)100円
「もののけウォーズが町に来る」あおい飛咲(ソノラマ・パンプキン文庫)100円
「暗黒の火龍」田中文雄(広済堂NV)100円
d「エラリー・クイーンの世界」FMネヴィンズJr.(早川書房:Vカバー・帯)750円
d「中国梵鐘殺人事件」RVフーリック(三省堂)1000円
おお!あれほど縁のなかった、パンプキン文庫をまた自力救済!!来た、来た!
「エラリー・クイーンの世界」も久しぶりにゲット。ないんだよねえ、これ。
クイーン・マニア必携。翻訳にはやや難ありだけど、クイーンの書誌らしい書誌って
これしかないもんね。クリスティーに比べてなんと冷遇されている事か!
フーリックは高いけど、欲しい人は欲しがるでしょう。なかなかのミステリ的収穫で
嬉しいところ。止めにもう1軒覗く。
「大久保町は燃えているか?」田中哲弥(電撃文庫)230円
「さらば愛しき大久保町」田中哲弥(電撃文庫:帯)230円
「ルパン3世・エルドリア大脱出作戦」樋口明雄(双葉文庫:帯)170円
d「エレンディラ」Gマルケス(サンリオ文庫)130円
d「SFと神秘主義」Cウィルソン(サンリオ文庫)260円
d「この世の王国」Aカルペンティエール(サンリオ文庫)150円
d「ベンドシニスター」Vナボコフ(サンリオ文庫)210円
この期に及んで「大久保町」買うか、こいつは?!
サンリオ文庫もさして珍しいところではないが、この値段では拾わずにはいられない。
性よのう。
というわけで、物量的「血風」な半日であった。ちょっと満足。

◆「チャイナタウン」SJローザン(創元推理文庫)読了
「チャイナタウン」といえば、ジャック・ニコルソンが大時代な私立探偵を好演
したロマン・ポランスキー監督作品が思い浮かぶが、これは全く無関係。原題は
「CHINA TRADE」。直訳すれば「磁器の取り引き」という愛想のない
ものになるところを「チャイナタウン」といういかにもな題名にすり替えたのは、安直
ではあるものの編集部の功績か。内容は、テコンドーの達人である中国人女性探偵が
相棒である巨漢の白人探偵と、骨董的価値の高い磁器の盗難事件を追うというもの。
実業家の死に伴いその磁器のコレクションが、中国人社会の会議所が運営する
美術館に寄付された。しかし、警報装置に守られた地下倉庫から、そのコレクション
の一部が盗まれてしまう。会議所の顧問弁護士を務める兄のしぶしぶながらの
要請に応じて主役の女性私立探偵リディアは事件を追う。単なる窃盗事件と思われた
事件はやがて対立する中国人暴力団間の抗争を招く一方、食堂勤めの若者殺しや
美術館員の惨殺へと発展していく。そして、圧倒的な暴力はリディアにも襲いかかる。
果して、誰が何のために磁器のコレクションを盗んだのか?
中国人社会を裏と表から克明に描いたルポルタージュ的興味に溢れた私立探偵小説。
自立した女性を目指す主人公の突っ張りは少々辛いものの、彼女を取り巻く家族や
中国人社会の長老、友人である中国人女性刑事、そして勿論、相棒のビルとのやり取り
の妙で読まされる。事件の組み立ても、それなりに工夫されてはいるが、磁器に
まつわる謎の解法は、これしかないだろうな、というものであった。むしろ、
それ以外の小さな「謎」に、いかにも中国人社会を思わせる仕掛が施されており
そちらの方では、驚きがあった。暴力に対して女流作家らしい抑制が掛かっている
ところが食い足りないという向きもあろうが、その類いが読みたい方は最初から
そちらの系統に進まれた方がよかろう。マイノリティーの女性探偵ものとして
水準作。400頁は少し長すぎる気もするが、これも最近の流行か。


2000年1月15日(土)

◆小林文庫さんのオフ会の日である。ひょっとしたら客があるかもしれないと
片付けに入るが、一向に進まない。居間に本がシャレにならないほど溜まっており、
少々うんざり。とりあえず書庫に放り込むが、美しくないこと夥しい。ああ、
どうしよう?本棚買うかなあ?
◆早川SF文庫のターザンの件で、調べものをして「銀河通信」さんに投稿。
なんか最近すっかりお気に入りページの一つになってしまった。安田ママさんの
元気ぶりが魅力であります。
◆さて、オフ会。もたもたしていたら集合時間に遅れてしまった。私が現地に
着いた頃には、既に15名がお揃いで、乾杯も終わっていた。うひゃあ、済みません。
メンバーは、小林文庫オーナーを筆頭に、永世幹事のフクさん、謎宮会の戸田さん、
若さのしょーじくん、友成系おーかわさん、幻想ブルドーザーの土田さん、
ダンディ須川さん、黒猫荘の無謀松さん、ご存知古本大魔王・彩古さん、
「島田一男」系のやよいさん、岩堀のおとっつあん、横溝系の風々子さん、
笑いの殿堂・喜国さん、人型記憶兵器・葉山響さん、東の古本アイドル石井女王様
少し遅れて、「燃える復刊魂!」日下三蔵さん、静かな宮澤さんがご入来。
今年の抱負を入れて自己紹介。「角川横溝完集を目指す」という「可愛い」もの
から「高い本は買わない」とか「本を読む」という、当たり前のようでいて切実な
テーマまでそれぞれ。「ミルトン・プロッパーを読む」とかいう渋い目標もあって、
さすがに濃ゆいよなあ。因みにオーナーは「まだまだ新興のサイトには負けないよう
頑張る」でしたっけ?今年は書影をガンガンいれて頂ける由。期待しましょう、皆さん。
なお、私の目標は「1年間はホームページを続ける」。
ご歓談タイムに入ると、オーナーを真ん中に、入り口側半分はドロドロのZPゾーン。
女王様と喜国さんが話題を引っ張ってひたすら濃ゆい古本話に突入。
奥の半分は、サラサラの新刊ゾーン。つい最近でたばかりの「ナイン・ブライト・
シャイナーズ」や、これから出るかもしれない「EQ」の後継誌や「山澤晴雄」
「天城一」の話だもんね。あああ、どこがサラサラやねん!!遅れていった私は
こっちの組。
驚いたのは葉山さん。まさに、人間百科事典!!聞けばなんでも答えてくれる。
須川さんと一緒に感心する事しきり。(あ、でも、マーシュの長篇作品は32でした。
すんまへん、戸田さん。)あと、土田さんの「1日140冊購入記」は圧巻。幾ら
発祥の地とはいえ、そこまでブックオフがあるものなのだあ。この人も、やたら
詳しい。目録買いで鍛えた相場感覚のなせる業か?
「謎宮会」の戸田・葉山両氏がいた関係で、山村美紗や西村京太郎の再評価も
話題になる。お二人からは、「1、2作しか書いていない作家は<猟奇の鉄人>
で取り上げてくれるな!」と陳情をうける。判りました、次は「白犬の柩」を取り
上げろという事ですね?(<違う!!)
全く両サイドに分断されていたかと思うと「永井荷風」で岩堀さんと女王様が意気
投合したりして、いやあ、賑やかな宴会だった。お料理もおいしゅうございました。
フクさん、名幹事、ありがとう!!それにしても、土曜の夜の赤坂のお店って、
あんなに空いてていいのか?地階は、ほぼ貸し切り状態。
2時間半で1次会は終了。場所をカラオケボックスに移動。お歌組みとお話組に
分かれて、私は日下さん、おーかわさん、岩堀さん、無謀松さんとお歌組。岩堀さん
が超然とド演歌を歌われたほかはアニソン縛りでエンドレス。日下さんはどんな歌
にも追随し、コーラスパートや台詞もきちんと押さえて、さすがプロの貫禄!
いやいや、堪能させて頂きました。ちょこちょことお話部屋にも顔を出して古本系
や島田一男・辻真先系の話題も楽しむ。
23時過ぎに解散。あっという間の5時間でした。拙宅に来る人を一応募るが
さすがにお酒が回り過ぎていて、次の機会という事に。これは、うちの3万アクセス
記念は、自宅オフかあ?
売った古本11冊。土田さんから以下の2冊を頂く。ありがとうございます。
またしても樋口明雄が2歩前進。
「ルパン三世:黄金のデッド・チェイス」樋口明雄(双葉文庫)
「ゼルダの伝説」樋口明雄(双葉文庫)
◆オフ会の時に話題になったのだが、このページで入手金額を表示する事の是非
について。安く買う場合はいいのだが、高値で「ま、いっか」と掴んだものを表示
するのは、市場価格に影響を与えるので宜しくない、らしい。まあ、このホーム
ページにそこまでの影響力あるとも思えないのだが、確かにヤフーのオークション
のようなケースもあるので、少々控える事にする。まあ、高い本を買わなきゃいい
んだけどね。さしずめ
「カンナ紅なり」北町一郎(北光書房)10000円
「矢柄頓兵衛戦場噺」横溝正史(八紘社杉山書店)12000円
なんていうのはよくないんだろうなあ?

◆「ハイスクール八犬伝1:夢魔の放課後」橋本治(徳間NV)読了
八犬伝をモチーフに採ったノンストップ・サイキック・アクション、しかも女の子
が一杯!「セーラームーン」もビックリのキャラ立ちぶりが魅力である。SFアドベンチャー
誌に連載され、8巻で中断後、既に10年近くが経過している由だが、とりあえず、
ブンガク作家のエンタテイメントが如何程のものかという興味で手にとってみた。
この巻は、「出版社を襲った謎の人間爆発」「宗教一家を襲った失踪と超自然的殺人」
「放課後の学校をパニックに巻き込む保健医の変身」といった変事が矢継ぎ早に起こり、
幾つもの謎が提示される。八剣士にみたてた伏見しのぶ、荘田礼子の日常が徐々に怪異に
包まれていく過程が描かれ、3人目の適格者:犬山将道が登場するところで第1巻は
幕となる。最後の一文はこれ。
「これが、すべての始まりである。」
つまり、この巻は200頁を費やしてプロローグを描いた訳である。従ってこの段階
では大河ドラマの「序章」としての感想を述べるに留めておく。
「序章」の役割は、映像作品でいえばタイトルが出てくるまでのアイキャッチで
あるが、その意味においては、充分合格点。八犬伝の希有壮大にして伝奇的な要素を
巧みに現代風俗に置換し、作中の世界観と主要登場人物の紹介を手際良く行っていく
作者の筆の澱みなさは、さすが源氏を見事に<現代語>に翻訳した「橋本治」である。
最初はマンガをネタにした他愛のない女子高生の会話に面食らうが、一度慣れて
しまえば、実に実に、十数年前の「今」がそこに描かれている事に驚く。ピッチも
チャパツもない時代の女子高生の日常は世紀末の今からみれば非常に平和。それで
いて「終末論」や「性」についての興味は、この世代共通のものなのであろう。
それがまた即ちこの大河ドラマの主題に繋がりそうなところが心憎いではないか。
異形の描き方も写実的で、絵で描けば瞬殺だが文章では表現が困難な状況を的確に
描き出してみせ、凡百のホラー作家との格の違いを見せ付ける。
とりあえず、次を読ませるだけの引きを心得た戯作の名品といってよかろう。


2000年1月14日(金)

◆西大島、南砂町定点観測。
d「灰色の部屋」Eフィルポッツ(創元推理文庫)50円
d「空洞地球」Rラッカー(ハヤカワSF文庫)50円
d「とっぴトッピング」横田順彌(アルゴ文庫:帯)50円
「二つの影」Cオコンネル(竹書房文庫:帯)340円
「スプラッタ・ラブ」高井信(勁文社文庫:帯)230円
「のぞいちゃいけない」園生義人(春陽文庫)80円
「スヌーピー全集4」CMシュルツ(角川書店:帯)450円
「スヌーピー全集6」CMシュルツ(角川書店:帯)450円
「スヌーピー全集7」CMシュルツ(角川書店:帯)450円
ああ、とうとう春陽文庫の明朗ユーモア長篇なんてものを買ってしまった!!
ハードカバーのスヌーピー全集が嬉しいところ。これまで全く縁がなかったもの
が、これで4冊目。あと6冊だあ!!道は遠いですのう。改めて拾い読みして
みると、どうもお話自体は新書サイズの方にも収録されているという感触(と
いうか、読んだ覚えがある話ばかり)。安心する反面、少し残念。「空洞地球」
は、さして珍しい作品ではないが、エドガー・アラン・ポーをフィーチャーした
作品なので、布教用に押さえる。だって50円なんだもん。

◆「妖かしの宴」水木しげる監修(PHP文庫)読了
「わらべ唄の呪い」という副題の通り、童謡をモチーフにとった書下ろしホラー
アンソロジー。いうなれば「異形コレクション番外編:わらべ唄」である。何度も
言っていることではあるが、異形コレクションの成功に刺激をうけたこういった
書下ろしホラーアンソロジーが編まれる事は大歓迎である。この作品集もどこかで
見たメンバーによる活きのいい競作ぶりが微笑ましくも心地よい。しかし、敢えて
文句をつけさせて頂きたいのが「水木しげる監修」という部分。なにせ、背表紙
には「水木しげる」の名前しかないのだが、一体水木先生は何をやったというので
あろうか?旧作の再録はあるものの、他に水木しげるの手になる部分は全く見受け
られない。はっきり言って「売らんかな」のための「名義貸し」以外の何物でも
ない。読者をなめるにも程があるぞ、PHP研究所!!
こういう本は古本で買ってやるう!成敗!!
以下、ミニコメ。
「郵便屋さん:タイムカプセル」20年後の自分への手紙というアイデアは良いが、
着地が今ひとつ。やろうとしている事は判るが、特に最後の一文は納得いかない。
「花いちもんめ:そして誰もいなくなる」はなはだアンフェア。ひねくりまわし
すぎて、前半部分の盛り上げを自分で壊してしまっている。
「たこ凧あがれ:とむらい凧」悪魔ネタだが、発想は面白い。最後の狂言まわし
の再登場は不要では?詰めが甘い。
「蛍こい:まぼろしの渓奇譚」太公望ぶりが微笑ましく、それが一転恐怖の情景
に落ちていく様が見事。オチもこれしかないであろうが、なかなかのもの。
「ひらいたひらいた:一番初めは」パチンコをよく勉強している。だが肝心の
恐怖部分がつまらない。ここまでの伏線を引きながら、惜しい。
「籠女:鳥の祝ぎ歌」上手い!!個人的にはこの作品集のベスト。女刑事のキャラ
クターが可笑しい。籠女の新解釈として許せる。うーん、どうやらこの作者も
<当り>かもしれない。ちょっとジュニアものでもおっかけてみるかな?
「今年の牡丹:花影」愛憎劇として完成している。これで京言葉を使えば、どこ
からみても「赤江瀑」。少々ブンガクしていて読みづらい。
「通りゃんせ:夏、訪れる者」非常に真っ当な恐怖小説。英国の幽霊譚の貫禄
があり、ツイストも決まっている。お見事!
「ずいずいずいっころぼし:茶壷」よく唄を研究しているのは分かるのだが、
作者なりの新解釈には無理がありすぎる。また、結末に配慮したために、プロット
自体が破綻してしまっている。堂々たる失敗作。
総括:わらべ唄に秘められた残酷さを引き出すという試みは魅力的であり、評価
できる。すべてが成功しているわけではないものの続編を期待したい。個人的な
ベスト3は「鳥の祝ぎ歌」(高瀬美恵)、「まぼろしの渓奇譚」(樋口明雄)、
「夏、訪れる者」(霜島ケイ)。


2000年1月13日(木)

◆仕事上で超脱力モードの顛末あり。けったくそ悪いので、早目に会社を出て
石井さんに教わった蒲田の古本屋へ向かう。途上の田町のKIOSK古本屋で
d「風の証言」鮎川哲也(角川文庫)200円
「春の口笛は殺しを呼ぶ」島守透(徳間NV)300円
を拾う。氷雨そぼふる中、池上線をおりてとぼとぼと目的地へ向かう。「おお!
これが噂の!!」というわけで、まず百均棚で
d「青玉獅子香炉」陳舜臣(文藝春秋)100円
を確保。所持本が背痛みなので「カバーだけでもいいか」と買ってしまう。
それにしても安いなあ。乱丁でもあるのだろうか??
中に入ると、感嘆の連続!!むむむ、お値段は高いものの、立派な探偵小説群!
鷲尾三郎とかは、石井さんが全部攫っていったらしく、お目にかかれなかったが、
なんとも筋のいい品揃え。棚を眺めているだけで飽きない。結局買ったのは
こんなところ。
d「安吾捕物帳」坂口安吾(角川文庫:帯!!)200円
「きりの中の顔」島守俊夫(光文社:少女付録・見返し欠)2800円
「地獄横丁」渡辺啓助(桃源社:帯)3000円
「カンナ紅なり」北町一郎(北光書房)10000円
「矢柄頓兵衛戦場噺」横溝正史(八紘社杉山書店)12000円
ちょっと高めだけど、勢いというのは恐ろしいものである。昨日の鬱憤と今日の
脱力がここで爆発。ああ、こんな事で自己実現していいのでしょうか、カビラさん?

「いいんです!!」

我ながら良いお買い物だったのは「安吾捕物帳」の帯!!あの「新十郎捕物帖」

(快刀乱麻)のTVスチルが入っているのよね。うーん、嬉しいったらありゃ
しない。「快刀乱麻」は必殺シリーズの名プロデューサー山内氏の手がけた
時代推理の大傑作。なんと既に朝日放送にも最終回のフィルムしか残っていない
という「幻の作品」である。いつか、全話放映リスト作るのが私の目標。
てなわけで、今日は力ずくで「血風!」、かな?
◆さるさるさんから「Gストリング殺人事件」の代金到着。

◆「居合わせた女」Cライス(ポケミス)読了
ライスの暗黒面を代表する小品。とてもこれがあの陽気なマローン&ジャスタ
夫妻シリーズやビンゴ&ハンサムシリーズのライスとは思えない。作者名を隠されて
「素」で読まされれば絶対に作者を当てる事はできないであろう。
ロスの遊園地「波止場」の観覧車内で殺された賭博場経営者。警察は、その現場を
目撃していたかもしれない謎の美女を追う。聾唖の似顔絵描きが、観覧車の前で
ポーズをとる彼女を描いていたのだ。被害者と浅からぬ因縁のある前科者トニイも
警察とは別にこの「宿命の女」を追うこととなる。一方、抜け駆けを狙う悪徳警官は
謎の女の指紋を手に入れ、捜査主任に隠れて彼女を探す。このマンハントに、
更にニューヨークから来た殺し屋コンビが加わり、物語はメリーゴーランドの
如く回り始める。最後に笑うものは果して誰か?夜の街と遊園地を舞台に繰り広げ
られる裏切りと殺しのアラベスク!!というようなお話。
遊園地の人々をはじめとするはみだし者たちの描写が物悲しくも絶妙。謎の女は、
その可憐さで終始関わる男たちの心をかき乱す。遊園地の出し物を用いた緊迫感
溢れるクライマックスと衝撃の結末に唸る。とてもポケミスにして170頁の小品
とは思えない手応えのある作品であった。
マローン・シリーズも特に後期作はどことなく躁の向こうに「死」の匂いが濃厚
に立ち込めているのだが、それをここまで前面に押し立てた作品は珍しい。解説
では「カーター・ブラウンとチャンドラーを混ぜたような」と表現していたが、
どうもライスの暗黒は、そのような喩えを許さない深さがあるように感じられて
ならない。真犯人像に込められた人間不信は、カーター・ブラウンの肉人形や
チャンドラーのストイシズムとは別物であると思うのだが。
この作品は、どこまでも映画的で、そしてどこまでも人間劇である。佳作。


2000年1月12日(水)

◆本日多忙。珍しくも深夜残業。氷雨につきブックオフに足を運ぶ気にもなれず、
古本購入0冊。なるほど、これがフラストレーションというものか。これまで
なら自棄酒の一杯もひっかけて寝てしまうところ、野菜ジュースをがぶ飲みして
寝る。うーん、様になっとりませんのう。マット・スカダーって禁酒してから、
何飲んでたんだっけね?さて、15日の小林文庫10万アクセス突破記念オフ
までノン・アルコールを通せるだろうか?

◆「人魚とビスケット」JMスコット(東京創元社)読了
世界大ロマン全集の鬼子。異色の海洋ミステリ。いや、そもそもミステリなの
だろうか?謎の要素は幾つもあるが、その解法は一筋縄ではいかない。思わせぶり
の題名、新聞広告を舞台に展開する虚実がないまぜとなった発端、妖しい古城の一
室で百物語の如く語られる極限状況に置かれた三人の男と一人の女のサスペンス
フルな漂流劇、物語の終わりが新たな謎を呼び狂気と恐怖が錯綜するクライマッ
クス、そしてリドル・ストーリーの余韻を残した結末。読者は漂流に関わる「物語」
の結末を予め知らされているようでありながら、シンガポール陥落後のインド洋上
を漂流する「人魚」と「ビスケット」と「ブルドッグ」と「ナンバー・フォア」と
いう4人の男女のドラマに手に汗を握る事となる。「ストーリーテイリング」という
言葉がこれほどフィットする小説も珍しい。騙りの迷宮を構築するのには、何も
重厚長大なボリュームを必要としないという証明でもある。
しかしながら、時代を反映してかそこかしこに顔を出す人種差別的表現には少々
面食らう。漂流の最初に彼等が遭遇する事となる日本人の描かれ方は、まさに
「エキゾチック・ジャパン!」であり、日本が英国と闘ったことなんぞ忘却の
彼方にある我々に冷や水を浴びせ掛ける。この冷や水感は、「ターザンと外人
部隊」(ターザンが外人部隊に入って、スマトラのジャングルで侵略者たる日本
兵と闘う未訳作品)辺りに通じるものである。また、物語の中心人物となる片足
の黒人パーサー「ナンバー・フォア」の描写も人種的偏見に満ち溢れており、
一種の勧善懲悪的結末もその味悪感を払拭するには至らない。いろいろな点で
ほぼ復刊は望み得ない話ではあるが、さりとてこのまま埋もれさせてしまうには
惜しい作品である。あと人物紹介欄で、「人魚」の正体を割ってしまっている
のは、とんでもない凡ミスである。これは物語りに仕組まれた大きな「謎」の
ネタバレに他ならない。もしも幸運にもこの書を手に取る機会に恵まれた人は
人物紹介を見ないで作品に突入されますよう。


2000年1月11日(火)

◆会社の近所の古本屋に定点観測。
「新青年傑作選第二巻」(立風書房:帯)1200円
d「金魚の眼が光る」山田正紀(徳間書店:帯)450円
山田正紀は、またしても探究おせっかい本。即商談成立。
うーん、わしもこのHPで自分の探究本でも掲げておこうかしらん。噂では
どこかから小人が出てきて、枕元に置いていってくれるらしいのだが。
「新青年傑作選」はなぜか買いそびれていた巻。やっとこれで5冊揃った。
しかし、時代がずれまくっていて装丁がバラバラ、見た目の美しくない事ったら
ない。結局買い直すんだろうなあ。あほう。
帰りに行徳定点観測もかけるが、なあんにもなし。まあ、こんな日もあります。
それにしても、最近、やたら1店チェックするのにも時間がかかる。従来なら
ノーチェックであったジュニアだのマンガだの覗かにゃならんしなあ。いえ、
決して悪い事ではないんですけどね。メインでの大当たりがない、ってえのも
その理由ではあるもんで。
◆成田さんの「忌まわしい匣」評が凄い。文字通り入魂の評論。語られるべき
作家の語られるべき作品が語るべき人の手にかかるとこうなるのだ、という見本。
「作品評」というものを読んで久しぶりに感動を覚えた。ああ、かくありたい
ものである。絶対無理である。

◆「学園街の<幽霊>殺人」司凍季(講談社NV)読了
さて「新本格のこまったちゃん」司凍季の比較的新しい作品。特に一尺屋もの
の「こまった」ぶりは、毎回他の追随を許さないのだが、今回もその例に漏れず
凄かった。率直に申し上げてこのレベルの作品がよくぞ商業誌として上梓される
ものだ、と呆れるのだが、なんとなく読んでしまう。これはもう悪洒落の世界
としか言い様がない。こんな話。
一尺屋の高校時代、ある台風の夜に車3台が何物かに衝突し運転者3名が死亡
する事件が起きた。しかし何に衝突したのかが判らない。その際に上空では巨大
な爆発音が確認されており、あるものはUFOの仕業とし、またあるものは鬼首
神社の祠に封印された鬼首の呪いとする始末。被害者たちは、一尺屋とその友人
今御堂の通う美聖学園高校のPTAのメンバーであった。今御堂たちは、鬼首
神社の管理人に掛けられたあらぬ疑いを晴らすために事件解明に乗り出す。
学園の陰の理事長であり、管理人の孫に密かな恋心を抱いている今御堂にとって
は、それは当然の成り行きと言えた。彼等の探索の過程で、学園に伝わる13年
前に起こった<幽霊>伝説が浮かびあがる。それは、ある男子生徒を事故で水死
させた国語教師が、責任逃れのためにその死体を密かに埋めたところ、1週間
後にその死んだ筈の生徒が現れ、狂騒状態に陥った国語教師は窓から転落死した
という「学校の怪談」であった。なんと衝突事件の被害者たちは、なんらかの
形で、この幽霊事件に関わっていたのだ!そして、更に連続殺人が、、
中盤までは意外に悪くない。社会人としては奇矯振りが鼻に付く一尺屋も、学生
時代は比較的まともであり、「学校の怪談」が関係者の証言の度にその様相を
変えていくという趣向も楽しめる。しかしながら、真相は例によって凄まじい。
衝突事件のトリックも唖然なら、真犯人にも愕然である。事件を複雑にするため
にだけ配置された登場人物たちはただうろうろし、徒に読者を困惑させるものの
事件発生後15年目に一尺屋が辿り着いた真相は、それらをすべて無効化して
しまう。私は、推理小説の本質は「フェア・プレイ」にあるという幻想を信じて
いる方なので、ここまでその本質をはき違えた作品がシリーズとして存在する
事自体が驚きなのである。司凍季の「こまったちゃん」ぶりを確認したい方は
どうぞ。